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特許7150376冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C11D 1/72 20060101AFI20221003BHJP
   C11D 1/74 20060101ALI20221003BHJP
   C11D 3/30 20060101ALI20221003BHJP
   C11D 1/88 20060101ALI20221003BHJP
   C11D 1/62 20060101ALI20221003BHJP
   C11D 1/40 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C11D1/72
C11D1/74
C11D3/30
C11D1/88
C11D1/62
C11D1/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022030148
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2022-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207399
【氏名又は名称】大同化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 訓
(72)【発明者】
【氏名】石井 辰明
(72)【発明者】
【氏名】王 大明
(72)【発明者】
【氏名】武内 邦浩
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-180088(JP,A)
【文献】特開平07-310193(JP,A)
【文献】特開2002-179643(JP,A)
【文献】特開2016-094596(JP,A)
【文献】特開2005-146004(JP,A)
【文献】特開2011-132302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
C23G 1/00-5/06
B08B 3/00-3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) ポリオキシエチレンジアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸トリエステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸テトラエステル、ポリエチレングリコールジオレート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種のノニオン乳化剤と、
(B) シクロヘキシルアミンEO付加物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも一種のアミン化合物と、
(C) ラウリルアミノプロピオン酸、コカミノプロピオン酸、ラウリルアミノジプロピオン酸、ペトロン A-96(竹本油脂株式会社の商品名)からなる群から選択される少なくとも一種のアルキルアミノカルボン酸型両性イオン化合物と、
(D) 水
を含有し、
ノニオン乳化剤 (A)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、10~40重量%であり、
両性イオン化合物(C)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、10~40重量%であることを特徴とする冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【請求項2】
アミン化合物 (B)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、5~20重量%である請求項1に記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【請求項3】
水(D)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、10重量%以上である請求項1又は2に記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【請求項4】
さらに、(E)アルキルピリジニウムクロリド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、ポリアルキレンオキサイドを有する4級アンモニウム塩、N,N-ジアルキルアミノアルキレン誘導体、ポリオキシエチレン-N-アルキル-ジアミノプロパン、ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン、脂肪酸アミドアミンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオン分散剤又は乳化剤を含有する請求項1~3のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【請求項5】
カチオン分散剤又は乳化剤(E)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、2.5~20重量%である請求項1~4のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【請求項6】
冷間圧延機、クーラントタンクおよび配管内の洗浄時に、請求項1~5のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物を希釈濃度1~容量%で使用する方法。
【請求項7】
冷間圧延機、クーラントタンクおよび配管内の洗浄時に、請求項1~5のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物を常温~40℃で使用する使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間圧延機、クーラントタンクおよび配管内を洗浄できるスカム溶解剤に関する技術である。本発明の溶解剤は、冷間圧延を行う際に配管内に付着・堆積したスカムの洗浄作業において用いられる。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延油組成中の油脂や合成エステルは熱や鉄粉が冷間圧延工程で触媒となって加水分解が起き、脂肪酸を生成する。この脂肪酸と圧延時に生成される鉄粉とが反応し、鉄石鹸を生成する。圧延機、クーラントタンクおよび配管内に堆積する堆積物はスカムといい、スカムは、鉄分、水分、油分、鉄石鹸、等で構成される。
【0003】
被圧延材料の表面品質や生産効率の改善のため、圧延機、クーラントタンク内や配管内に付着・堆積したスカムを定期的に清掃している。清掃作業には物理的に清掃を行う(例 物干しさおのような長い棒を配管内に突き刺して配管内のスカムを洗浄)ほか化学的手法として洗浄剤を用いた清掃方法がある。これまで洗浄剤として、ケロシンやガソリンといった石油系溶剤を用いた洗浄剤(特許文献1)、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを主成分としたアルカリ性洗浄剤(特許文献2)、石油系溶剤を界面活性剤により水に乳化させたエマルション型洗浄剤(特許文献3)を用いられてきた。
【0004】
石油系溶剤を用いた洗浄剤は、油性物質に対する洗浄力が高く、作業を容易にかつ効率的に洗浄を行える利点がある一方、低引火点の溶剤を用いていることから火災の危険性がある。アルカリ性洗浄剤の場合、保護具を着用する必要があるなど使用する際の危険性高い。また、アルカリ性洗浄剤を水中で用いたとき、水のpHが上昇するため、アルカリを構成する金属分の析出が起こる。その結果、洗浄時に析出物が堆積し、堆積物(スカム)となる。
【0005】
上記の各洗浄剤の問題点を解消するためにエマルション型洗浄剤が提案されている。エマルション型洗浄剤は、水を用いていることから、火災の危険性が低減される。しかし、洗浄性能が十分でないという問題点がある。そのため、所定の能力を満たすためには石油系溶剤を併用する必要があり、火災の危険性は解消されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-63800号公報
【文献】特開2007-56053号公報
【文献】特開2011-132302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、ケロシンやガソリン、ミネラルスピリットといった石油系溶剤を洗浄剤として用いられており、石油系溶剤を用いた場合、低引火点の溶剤を用いていることから、火災の危険性という問題点がある。特許文献2では、アルカリを主成分とした洗浄剤であるため、保護具を着用する必要があり、作業時の危険性が高いという問題点を有する。また、アルカリ性洗浄剤を水中で用いたとき、水のpHが上昇するため、アルカリを構成する金属分の析出が起こる。その結果、洗浄時に析出物が堆積し、堆積物(スカム)となる。特許文献3では、特許文献1および2の問題点を解決するために、石油系溶剤を界面活性剤によって水に乳化させたエマルション型洗浄剤を用いている。特許文献3のエマルション型洗浄剤を使用することで、火災の危険性や作業安全性については改善されている。しかし、石油系溶剤と水を併用していることから、火災の危険性が解消されたわけではない点、および、エマルション型洗浄剤は、石油系溶剤のみを洗浄剤として用いた場合と比較してスカムなどの油性物質に対する洗浄効果は低いという問題点がある。現状、石油系溶剤を用いず、これ以上のスカムに対する洗浄能力をもつ圧延機用洗浄剤の開発は行われてない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の問題点を踏まえて、石油系溶剤を用いないスカム溶解剤組成物を提供し、スカムを溶解することを目的とし、以下に示す本発明を関するに至った。
1.(A)ポリオキシエチレンジアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸トリエステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸テトラエステル、ポリオキシエチレングリコールジオレート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種のノニオン乳化剤と、
(B)シクロヘキシルアミンEO付加物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドからなる群から選択される少なくとも一種のアミン化合物と、
(C)アルキルアミノカルボン酸型両性イオン化合物と、
(D)水 を含有することを特徴とする冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【0009】
2.ノニオン乳化剤 (A)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、5~40重量%である項1に記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【0010】
3.アミン化合物 (B)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、5~20重量%である項1または2に記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【0011】
4.アルキルアミノカルボン酸型両性イオン化合物(C)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、2.5~40重量%である項1~3のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【0012】
5.水(D)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、10重量%以上である項1~4のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【0013】
6.さらに、(E)アルキルピリジニウムクロリド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、ポリアルキレンオキサイドを有する4級アンモニウム塩、N,N-ジアルキルアミノアルキレン誘導体、ポリオキシエチレン-N-アルキル-ジアミノプロパン、ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン、脂肪酸アミドアミンからなる群から選択される少なくとも一種のカチオン分散剤又は乳化剤を含有する項1~5のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【0014】
7.カチオン分散剤又は乳化剤(E)の添加量が、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、2.5~20重量%である項1~6のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物。
【0015】
8.冷間圧延機、クーラントタンクおよび配管内の洗浄時に、項1~7のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物を希釈濃度1~10容量%で使用する方法。
【0016】
9.冷間圧延機、クーラントタンクおよび配管内の洗浄時に、項1~7のいずれかに記載の冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物を常温~60℃で使用する使用方法。
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスカム溶解剤組成物は、石油系溶剤を用いていないため引火点を検出しない。石油系溶剤を用いなくとも製鉄所内で圧延時に生成され、圧延機、クーラントタンクおよび配管内に蓄積されたスカムを溶解・洗浄する能力をもつ。また、製鉄所内のクーラントタンクに本発明の洗浄剤組成物を用いることで、上記で述べた人手を用いた物理的に行う洗浄を行う負担が大幅に改善される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
スカム溶解剤組成物
本発明のスカム溶解剤組成物は、
(A) ポリオキシエチレンジアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸トリエステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸テトラエステル、ポリエチレングリコールジオレート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種のノニオン乳化剤と、
(B) シクロヘキシルアミンEO付加物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンからなる群から選択されるアルカリ化合物を水に溶解したとき、本発明のスカム溶解剤組成物のpHが8.0以上となる少なくとも一種のアミン化合物と、
(C) アルキルアミノカルボン酸型の両性イオン化合物を併用して、配合していることによって、特徴付けられる。
本発明のスカム溶解剤組成物は、成分(A)から成分(C)、成分(E)および成分(F)を所定量で含有し、成分(D)に溶解する。
【0020】
成分(A)
成分(A)は、ノニオン乳化剤が用いられる。成分(A)は、本発明のスカム溶解剤組成物の原液安定性の向上とスカム中の油分を水に溶解させ乳化させる役割をもつ。本発明者は、スカム中の油分を水に溶解させ乳化させるために、ノニオン乳化剤の1種以上を用いる。また、後述する成分(B)にかかるアミン化合物を併用することで本発明のスカム溶解剤組成物の原液安定性を向上させる。
【0021】
成分(A)は、ポリオキシエチレンジアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸トリエステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸テトラエステル、ポリエチレングリコールジオレート、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルである。
【0022】
成分(A)の添加量は、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、好ましくは5~40重量%程度であり、鉄粉分散性の点からさらに好ましくは10~25重量%程度である。
【0023】
成分(B)
成分(B)はアミン化合物が用いられる。成分(B)は、本発明のスカム溶解剤組成物の原液安定性の向上とスカム中に含まれる鉄分の分散性に寄与する。本発明者は、スカム溶解剤組成物の原液安定性の向上とスカム中の鉄分を分散させるために、アルカリ化合物の1種以上を用いることを見出した。
【0024】
成分(B)は、シクロヘキシルアミンEO付加物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドといったアミン化合物類である。
【0025】
成分(B)の添加量は、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、好ましくは5~20重量%程度であり、鉄粉分散性の点では、5~10重量%程度がより好ましく、乳化性とのバランスという点では、10重量%程度がさらに好ましい。
【0026】
成分(C)
成分(C)はアルキルアミノカルボン酸型両性イオン化合物である。成分(C)はラウリルアミノプロピオン酸、コカミノプロピオン酸、ラウリルアミノジプロピオン酸といったアルキルアミノカルボン酸であり、市販品としてはペトロン A-96(竹本油脂株式会社の商品名)が挙げられる。この両性イオン化合物は、スカム中に含まれる鉄分の分散性に寄与する。スカム中の鉄分の分散性の向上のため、少なくとも両性イオン化合物1種以上を用いる。
【0027】
成分(C)の添加量は、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、好ましくは2.5~40重量%程度であり、原液安定性の点では、10~20重量%程度がより好ましく、鉄粉分散性の点では、20重量%程度がさらに好ましい。
【0028】
成分(D)
成分(D)は水である。成分(D)は、成分(A)~(C)、成分(E)および成分(F)の各成分を可溶化させ、引火点を持たせない役割をもつ。
【0029】
成分(D)は、従来からこの種のスカム溶解剤組成物に使用されてきたものを、いずれも使用できる。具体的には、イオン交換水、蒸留水、井戸水、水道水である。
成分(D)の添加量は、引火点が発生しないという点で、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、10重量%以上が好ましい。
【0030】
成分(E)
成分(E)は、カチオン分散剤又は乳化剤である。成分(E)は、スカム中に含まれる鉄分の分散性に寄与する。本発明者は、スカム中の鉄分の分散性の向上のため、カチオン分散剤又は乳化剤の1種以上で用いる。
【0031】
成分(E)は、アルキルピリジニウムクロリド、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド、ポリアルキレンオキサイドを有する4級アンモニウム塩、N,N-ジアルキルアミノアルキレン誘導体、ポリオキシエチレン-N-アルキル-ジアミノプロパン、脂肪酸アミドアミンといったアミン類である。
【0032】
成分(E)の添加量は、スカム溶解剤組成物100重量%に対して、2.5~20重量%程度が好ましく、鉄粉分散性の点では、10~20重量%程度がより好ましい。
【0033】
成分(F)
本発明のスカム溶解剤組成物には、ノニオン乳化剤、アルカリ化合物、両性イオン化合物、カチオン分散剤又は乳化剤、水に加えて、必要に応じて成分(F)として消泡剤を添加することができる。成分(F)は、本発明のスカム溶解剤組成物を製造する際の消泡に寄与する。また、本発明のスカム溶解剤組成物は消泡剤をさらに含有することが好ましい。
【0034】
スカム溶解剤組成物のpH範囲
本発明のスカム溶解剤組成物は、成分(B)を含有し、かつ成分(A)および成分(C)から成分(F)の各成分を前記所定量で含有し、pHが8.0以上に調整される。本発明のスカム溶解剤組成物のpHを制御することは、当該スカム溶解剤組成物の原液安定性の点で好ましい。前記スカム溶解剤組成物のpHは8.0以上が好ましい。
【0035】
スカム溶解剤組成物の使用濃度
本発明のスカム溶解剤組成物は、水に希釈させて、濃度50容量%以上のスカム溶解剤組成物水溶液を調製し、クーラント容量に対して、濃度0.5%~10容量%の範囲で使用する。鉄粉分散性という点で、濃度0.5~5容量%程度がより好ましい。希釈に使用する水は、イオン交換水、蒸留水、水道水、井戸水等のいずれでもよい。
【0036】
スカム溶解剤組成物の使用方法
本発明のスカム溶解剤組成物により、冷間圧延機廻り、クーラントタンク及び配管内のスカムを効率よく洗浄除去することができる。本発明のスカム溶解剤組成物を使用するに際しては、被洗浄物である冷間圧延機廻り等 に対して、クーラントタンク内でスカム溶解剤組成物を水で希釈し、循環することでスカムを洗浄除去する。希釈濃度については、上記 スカム溶解剤組成物の使用濃度のとおりである。循環後の液は廃棄したのち、加温した水および圧延時に使用するクーラントによる共洗いを行う。
【0037】
・スカム溶解剤の評価について
本実施形態において、スカム溶解剤の評価として、(I)原液安定性、(II)乳化性、(III)鉄粉分散性の3項目を挙げる。スカム溶解剤は、スカム中の油分を水に溶解させることで乳化分散させる。また、スカム溶解剤により、スカム中の鉄粉を液面に浮上させることで、鉄粉分散させる。
【0038】
(I)原液安定性は、スカム溶解剤組成物を作製した直後と静置したときの組成物の状態変化について観察する。このとき、原液に変化がない場合、原液安定性が高いものとする。
【0039】
(II)乳化性は、蒸留水にスカム及びスカム溶解剤組成物を添加し、攪拌・静置したときの液の変化について観察する。このとき、液が白く乳化したのは、スカム中の油分が蒸留水に溶解したことに起因するので、乳化性に優れているものとする。すなわち、スカム分散性に優れているといえる。
【0040】
(III)鉄粉分散性は、(II)の操作を行ったとき、液面のスカムの分散形状の変化について観察する。このとき、スカムの形状が塊状から粉末状に変化したものを鉄粉分散性が高いものとする。すなわち、スカム分散性に優れているといえる。
【実施例
【0041】
以下に、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されない。
【0042】
本実施例にあたり、使用したスカムの組成を次に示す。なお、本スカムは、冷間圧延しているクーラントの配管内から採取している。
・水分(28.2%)
・油分(58.1%)
うち、油分中の鉄分(0.07%)
・鉄分(1.2%)
・その他(12.3%)
【0043】
スカム溶解剤組成物については、上記で述べたように、ノニオン乳化剤、両性イオン化合物、アミン化合物、カチオン分散剤または乳化剤、消泡剤、水により構成されている。各添加剤の種類や配合量を組み合わせることで、スカム溶解剤組成物(実施例1~3、5、6、9~16、参考例4、7、8)を作製する。
【0044】
スカム溶解剤組成物を作製したのち、組成物のpHを株式会社 堀場製作所製のpHメータ F-54を用いて測定する。その後、24時間静置する。このとき、作製直後と静置後の原液の変化について観察する。((I)原液安定性の評価)。次に、スカム溶解剤組成物のスカム溶解能の評価を行う。常温下において、蒸留水500mLにスカム5g添加しガラス棒で攪拌・静置する。さらに、スカム溶解剤組成物5g(蒸留水に対して1%のスカム溶解剤組成物)加え、同様に攪拌し2h静置する。このとき、スカム溶解剤組成物の添加前後でのビーカー内の液((II)乳化性の評価)およびスカムの形状の変化((III)鉄粉分散性の評価)について観察する。
【0045】
同様の実験を、常温下だけではなく、40℃及び60℃においても行い、スカム溶解剤組成物の温度依存性について評価する。また、スカム溶解剤組成物の蒸留水に対しての添加濃度を、1%以外にも0%、0.5%、3%、5%、10%でそれぞれ同様の実験を行い、濃度依存性についても評価する。
【0046】
表1および表2に示す実施例1~3、5、6、9~16、参考例4、7、8について、(I)原液安定性、(II)乳化性、(III)鉄粉分散性、の評価を行った。評価試験の結果もまた表1および表2に示す。
【0047】
評価試験の結果については、目視により、各項目5点満点、総合15点満点とする。〇を5点、〇~△を4.5点、△を4点、△△を3点、×を2点、××を1点、とし、評点をつける。後述する比較例1および2と比べて、実施例の評点が12点以上と高い場合、比較例以上のスカム溶解能を有するスカム溶解剤組成物であるといえる。
【0048】
・実施例15
(II)乳化性/(III)鉄粉分散性の温度および濃度に対する影響
実施例15の(II)乳化性および(III)鉄粉分散性によるスカム溶解能の評価に関して、常温下のほか、40℃および60℃においても、(I)原液安定性、(II)乳化性、(III)鉄粉分散性の評価を行った。結果を表3に示す。また、常温下において、実施例 15の濃度を1%のほか、0%、0.5%、3%、5%、10%においても、(I)原液安定性、(II)乳化性、(III)鉄粉分散性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0049】
評価試験の結果については、上記と同様の方法により評点をつける。
【0050】
実施例15では、(I)原液安定性、(II)乳化性、(III)鉄粉分散性の3点について優れた結果が見出された。また、実施例15を用いて、スカム添加したものに溶解剤を添加するときの蒸留水の温度がスカム溶解性に影響を及ぼす温度について評価したところ、常温、40℃、60℃と高温になるにしたがって鉄粉分散性が低下することが見いだされた。さらに、スカム溶解剤の希釈濃度依存性を評価したところ、0.5%と5%が同等の分散性を示した。その後、5%、10%と濃度を上げていくと、鉄粉分散性は低下する傾向がみられた。0.5%から5%の使用が最も好ましい。
【0051】
表5に示す比較例1および2について、(I)原液安定性、(II)乳化性、(III)鉄粉分散性、の評価を行った。なお、比較例2については、原液をイオン交換水で3%に希釈した液を用いて評価した。評価試験の結果もまた表5に示す。表6に示すスカム溶解剤組成物を作製した。作製した組成物については、比較例1および2と同様に(I)原液安定性、(II)乳化性、(III)鉄粉分散性の評価を行った。評価試験の結果もまた表6に示す。
【0052】
比較例1は大同化学株式会社製の水系洗浄剤、比較例2は大同化学製の油系洗浄剤をそれぞれ用いた。
【0053】
評価試験の結果については、目視により、各項目5点満点、総合15点満点とする。〇を5点、〇~△を4.5点、△を4点、△△を3点、×を2点、××を1点、とし、評点をつける。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
なお、表1、表2、及び表6のカチオン分散剤と乳化剤、ノニオン乳化剤、両性イオン化合物、アミン化合物、消泡剤は次のものを意味する。なお、EOはエチレンオキサイド基を示す。
【0061】
・カチオン分散剤と乳化剤
カチオンA・・・N,N-ジアルキルアミノアルキレン誘導体
カチオンB・・・ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン
【0062】
・ノニオン乳化剤
ノニオンA・・・ポリエチレングリコールジオレート
ノニオンB・・・ポリオキシアルキレンアルキルエーテル
【0063】
・両性イオン化合物
化合物A・・・・竹本油脂株式会社 ペトロンA-96
【0064】
・アミン化合物
アミン系A・・・シクロヘキシルアミン(EO 2モル)
【0065】
・消泡剤
消泡剤A・・・サンノプコ株式会社製 ノプコ NDW
【0066】
なお、表5のノニオン乳化剤、アミン化合物、エーテル化合物、鉱物油、キレート化剤、消泡剤は次のものを意味する。
【0067】
・ノニオン乳化剤
ノニオンC・・・ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO約10モル)
ノニオンD・・・ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO約6モル)
ノニオンE・・・ポリオキシエチレンアルキルエーテル
ノニオンF・・・ポリオキシアルキレンデシルエーテル
【0068】
・アミン化合物
アミン系B・・・ポリオキシエチレンステアリルアミン
アミン系C・・・ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド
【0069】
・エーテル化合物
エーテルA・・・ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル
【0070】
・鉱物油
鉱物油A・・・ENEOS株式会社製 クレンゾルHS
鉱物油B・・・出光興産株式会社製 出光灯油
【0071】
・キレート化剤
キレートA・・・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水塩
【0072】
・消泡剤
消泡剤B・・・東レ・ダウコーニング株式会社製 DOW CORNING TORAY FS ANTIFOAM 544 COMPOUND
【0073】
表5の比較例のスカム溶解剤組成物は、組成物に含有される成分やその添加量が不満足であるため、乳化性および鉄粉分散性が著しく低下した。その結果、スカムに対する洗浄能力が低下した。一方、表1・2および6の結果より、実施例において作製したスカム溶解剤組成物は、評点が12点以上であり、原液安定性、乳化性、および鉄粉分散性に優れていることを見出した。よって、本発明のスカム溶解剤組成物は、圧延機、クーラントタンクおよび配管内に堆積するスカムを洗浄する能力をもつ。
【要約】      (修正有)
【課題】製鉄所内で圧延時に生成され、圧延機、クーラントタンクおよび配管内に蓄積されたスカムを石油系溶剤を用いなくとも溶解・洗浄する能力をもつ冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤及びその使用方法を提供すること。
【解決手段】(A)特定のノニオン乳化剤と、(B)シクロヘキシルアミンEO付加物、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミドからなる群から選択される少なくとも一種のアミン化合物と、(C)アルキルアミノカルボン酸型両性イオン化合物と、(D)水を含有することを特徴とする冷間圧延機洗浄用スカム溶解剤組成物及びその使用方法。
【選択図】なし