(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】正極添加剤、その製造方法、これを含む正極およびリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20221003BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2019566799
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 KR2018014725
(87)【国際公開番号】W WO2019103576
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2019-12-03
(31)【優先権主張番号】10-2017-0159731
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0147752
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ビョンチュン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジュンミン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ワン・モ・ジュン
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2006-0008568(KR,A)
【文献】特開2012-142156(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0118496(US,A1)
【文献】国際公開第2012/176903(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0026402(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体組成が下記の化学式1で表されるコア;および
前記コアの表面に位置し、リン(P)化合物を含むコーティング層;を含む正極添加剤であって、
前記コーティング層は、
前記正極添加剤の総量中、500~9000ppm含まれるものである、正極添加剤:
[化学式1]
{x(Li
2+aNi
bM
1-bO
2+c)}・{y(NiO)}・{z(Li
2O)}
前記化学式1において、
Mは、2価の陽イオンまたは3価の陽イオンを形成する金属元素のうちの1以上であり、
-0.2≦a≦0.2であり、0.5≦b≦1.0であり、-0.2≦c≦0.2であり、
0.7≦
x≦0.86であり、0.07≦y≦0.15であり、0.07≦z≦0.15であり、x+y+z=1である。
【請求項2】
前記リン(P)化合物は、
リン酸リチウム(lithium phosphate、Li
3PO
4)、第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH
4H
2PO
4)からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1に記載の正極添加剤。
【請求項3】
前記コアは、
下記の化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物、ニッケル酸化物(NiO)、およびリチウム酸化物(Li
2O)を含み、全体組成が前記化学式1で表されるものである、請求項1または2に記載の正極添加剤:
[化学式1-1]
Li
2+aNi
bM
1-bO
2+c
前記化学式1-1において、
M、a、b、およびcは、前記化学式1と同一である。
【請求項4】
y=zである、請求項1から3の何れか一項に記載の正極添加剤。
【請求項5】
前記コアは、
FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)測定時、
2θが30~35°の範囲、35~40°の範囲、および55~60°の範囲のうちの少なくとも1つ以上の範囲で、前記リチウム酸化物(Li
2O)によるピークが検出されるものである、請求項4に記載の正極添加剤。
【請求項6】
前記コアの総量(100重量%)中、前記リチウム酸化物(Li
2O)の含有量は、0重量%超過15重量%以下である、請求項4または5に記載の正極添加剤。
【請求項7】
前記コアは、
FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)測定時、
2θが35~40°の範囲、40~45°の範囲、および50~55°の範囲のうちの少なくとも1つ以上の範囲で、前記ニッケル酸化物(NiO)によるピークが検出されるものである、請求項4から6の何れか一項に記載の正極添加剤。
【請求項8】
前記コアの総量(100重量%)中、前記ニッケル酸化物(NiO)の含有量は、0重量%超過15重量%以下である、請求項4から7の何れか一項に記載の正極添加剤。
【請求項9】
下記の化学式3で表されるニッケル系酸化物を準備する段階;
前記ニッケル系酸化物およびリチウム酸化物(Li
2O)の混合物を熱処理して、全体組成が下記の化学式1で表されるコアを得る段階;および
前記コアおよび第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH
4H
2PO
4)の混合物を600~800℃で熱処理して、前記コアの表面にコーティング層を形成する段階;を含む、正極添加剤の製造方法:
[化学式3]
(Ni
dM
1-d)O
2
前記化学式3において、
Mは、2価の陽イオンまたは3価の陽イオンを形成する金属元素であり、
0.5≦d≦1.0であり、
[化学式1]
{x(Li
2+aNi
bM
1-bO
2+c)}・{y(NiO)}・{z(Li
2O)}
前記化学式1において、
Mは、2価の陽イオンまたは3価の陽イオンを形成する金属元素のうちの1以上であり、
-0.2≦a≦0.2であり、0.5≦b≦1.0であり、-0.2≦c≦0.2であり、
0.7≦x<1.0であり、0<y≦0.15であり、0<z≦0.15であり、x+y+z=1である。
【請求項10】
前記コアの表面にコーティング層を形成する段階;は、
不活性雰囲気で行われるものである、請求項9に記載の正極添加剤の製造方法。
【請求項11】
前記コアを得る段階;は、
不活性雰囲気で行われるものである、請求項9または10に記載の正極添加剤の製造方法。
【請求項12】
前記コアを得る段階;は、
600~800℃で行われるものである、請求項9から11の何れか一項に記載の正極添加剤の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の正極添加剤;および
正極活物質;を含む正極合剤。
【請求項14】
前記正極添加剤は、
前記正極合剤の総量(100重量%)中、1~30重量%含まれるものである、請求項13に記載の正極合剤。
【請求項15】
前記正極活物質は、
コバルト、マンガン、ニッケル、またはこれらの組み合わせの金属;およびリチウム;の複合酸化物のうちの1種以上を含むものである、請求項13または14に記載の正極合剤。
【請求項16】
導電材、バインダー、またはこれらの混合物;をさらに含むものである、請求項13から15の何れか一項に記載の正極合剤。
【請求項17】
請求項13に記載の正極合剤を含む正極;
電解質;および
負極;を含むリチウム二次電池。
【請求項18】
前記負極は、
炭素系負極活物質、リチウム金属、リチウム金属の合金、Si、SiO
x(0<x<2)、Si-C複合体、Si-Q合金(前記Qは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族~16族元素、遷移金属、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり、Siではない)、Sn、SnO
2、Sn-C複合体、およびSn-R(前記Rは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族~16族元素、遷移金属、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり、Snではない)を含む群より選択される少なくとも1種以上の負極活物質を含む、請求項17に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2017年11月27日付の韓国特許出願第10-2017-0159731号および2018年11月26日付の韓国特許出願第10-2018-0147752号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、正極添加剤、その製造方法およびこれを含む正極およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池は、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が可能な電極活物質を負極および正極にそれぞれ適用し、電解質を介してリチウムイオンの移動を実現し、各電極における酸化および還元反応によって電気的エネルギーを生成する。
【0004】
しかし、リチウム二次電池の初期充放電時(1ST cycle charge-discarge)、負極に挿入(電池充電)された後、脱離(電池放電)するリチウムイオン、および正極から脱離(電池充電)した後、再度回収(電池放電)できないリチウムイオンがそれぞれ必然的に発生する。これは、2つの電極の不可逆容量と連係される。
【0005】
2つの電極の不可逆容量の差が大きいほど、正極の初期効率が減少し、電池の駆動中のエネルギー密度が次第に減少して、電池寿命が減少することがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態では、2つの電極の不可逆容量のアンバランスを相殺させ、正極の初期充電容量を増加させながらも、電池内のガスの発生を抑制することができる、正極添加剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述する実施例を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は以下に開示される実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で実現可能であり、単に本実施例は本発明の開示が完全になるようにし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は請求項の範疇によってのみ定義される。
【0008】
以下、本発明で使用される技術用語および科学用語において別の定義がなければ、この発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解している意味を有する。また、従来と同一の技術的構成および作用に関する繰り返しの説明は省略する。
【0009】
本願明細書全体において、ある部分が他の部分と「連結」されているとする時、これは、「直接的に連結」されている場合のみならず、その中間に他の素子を挟んで「電気的に連結」されている場合も含む。
【0010】
本願明細書全体において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合のみならず、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0011】
本願明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0012】
本願明細書全体において使用される程度の用語「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造および物質の許容誤差が提示される時、その数値でまたはその数値に近接した意味で使用され、本願の理解のために正確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用するのを防止するために使用される。
【0013】
本願明細書全体において使用される程度の用語「~(する)段階」または「~の段階」は、「~のための段階」を意味しない。
【0014】
本願明細書全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれている「これらの組み合わせ(ら)」の用語は、マーカッシュ形式の表現に記載の構成要素からなる群より選択される1つ以上の混合または組み合わせを意味するものであって、前記構成要素からなる群より選択される1つ以上を含むものを意味する。
【0015】
本願明細書全体において、「Aおよび/またはB」の記載は、「AまたはB、またはAおよびB」を意味する。
【0016】
正極添加剤
本発明の一実施形態では、全体組成が下記の化学式1で表されるコア;および前記コアの表面に位置し、リン(P)化合物を含むコーティング層;を含む、正極添加剤を提供する:
[化学式1]
{x(Li2+aNibM1-bO2+c)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}
前記化学式1において、Mは、2価の陽イオンまたは3価の陽イオンを形成する金属元素のうちの1以上、例えば、Cu、Mg、Pt、およびAlを含む群より選択される1以上の金属元素であってもよく、-0.2≦a≦0.2であり、0.5≦b≦1.0であり、-0.2≦c≦0.2であり、0.7≦x<1.0であり、0<y≦0.15であり、0<z≦0.15である。
【0017】
一実施形態の正極添加剤において、前記コアは、リチウム1モル水準である通常の正極活物質に比べて過剰のリチウムを含み、電池の初期充放電時、リチウムを不可逆的に放出できるものである。
【0018】
一方、一実施形態の正極添加剤において、前記コーティング層は、前記コアの表面に残留するリチウム副産物(Li2CO3、LiOHなど)を除去して、電池の持続的な充放電工程においてガスの発生を抑制できるものである。
【0019】
したがって、一実施形態の正極添加剤は、正極活物質と共に正極に適用されて、電池の初期充放電時、2つの電極の不可逆容量のアンバランスを相殺させ、正極の初期充電容量を増加させながらも、電池内のガスの発生を抑制するのに寄与することができる。
【0020】
以下、一実施形態の正極添加剤に含まれるコアおよびコーティング層の各構成を詳しく説明する。
【0021】
コーティング層
一実施形態の正極添加剤において、前記コアは反応性が高くて、一般的な空気(air)雰囲気で二酸化炭素(CO2)、水分(H2O)などと反応して、その表面に炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)などのリチウム副産物を形成することができる。
【0022】
しかし、前記リチウム副産物は、電池内で電気化学的な反応に参加できないだけでなく、電池内に気体(Gas)を発生させて、電池の初期容量、初期充放電効率などを減少させる問題がある。
【0023】
そこで、前記リチウム副産物を除去して、電池の初期特性の低下を抑制する必要がある。ただし、前記コアを単純に洗浄(washing)する場合、前記コアにおいて重要な因子(Li2O)までも前記リチウム副産物と共に除去される恐れがあり、洗浄後の乾燥過程でむしろ再び副産物が増加する可能性もあり、洗浄後の再汚染などによって前記リチウム副産物が除去されるのに限界があったりもする。
【0024】
したがって、一実施形態の正極添加剤では、前記コアを単純に洗浄(washing)せず、その表面にコーティング層を形成することによって、前記コアにおいて重要な因子(Li2O)は保護するものの、前記コーティング層を形成する過程において前記リチウム副産物をガスの発生が不可能な他の化合物に転換させた。
【0025】
より詳しい内容は後述するが、前記コアと第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH4H2PO4)の混合物を熱処理することによって、前記コアの表面に前記コーティング層を形成することができる。
【0026】
前記コーティング層を形成する過程において、前記コアの表面に前記第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH4H2PO4)がコーティングされるだけでなく;前記第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH4H2PO4)と前記リチウム副産物、例えば、LiOHとの反応によって形成されたLi3PO4形態のコーティング層が形成される。
【0027】
前記コーティング層に含まれる化合物は、共通して、リン(P)を含み、電池内でガスの発生が不可能な化合物であってもよい。ただし、前記コーティング層に含まれるリン(P)化合物およびその原料は、前記コアにおいて重要な因子(Li2O)とは反応せず、むしろ電池内で前記コアと電解質との直接的な接触を防止して副反応を抑制することができる。
【0028】
一方、前記コーティング層は、前記正極添加剤の総量中、500~9000ppm含まれる。これは、前記コアおよび前記第1リン酸アンモニウムの混合物の総量に対して、前記第1リン酸アンモニウムの含有量を500~9000ppmに制御することによって、調節可能なものである。具体的には、前記コアおよび前記第1リン酸アンモニウムの混合物の総量に対して、前記第1リン酸アンモニウムの含有量を500~9000ppm、例えば、1000~8000ppm、1000~7000ppm、1000~6000ppm、1000~5000ppm、1000~4000ppm、1000~3000ppmなどに制御することによって、前記正極添加剤の総量中、前記コーティング層の含有量を500~9000ppm、例えば、1000~8000ppm、1000~7000ppm、1000~6000ppm、1000~5000ppm、1000~4000ppm、1000~3000ppmなどに容易に調節することができるのである。
【0029】
コア
一方、一実施形態の正極添加剤において、前記コアは、下記の化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物、ニッケル酸化物(NiO)、およびリチウム酸化物(Li2O)を含み、全体組成が前記化学式1で表されるものであってもよい。
【0030】
[化学式1-1]
Li2+aNibM1-bO2+c
前記化学式1-1において、M、a、b、およびcは、前記化学式1と同一である。
【0031】
これは、ニッケル系酸化物((NidM1-d)Ox、ここで、Mは、2価の陽イオンまたは3価の陽イオンを形成する金属元素、0.5≦d≦1.0、1.8≦x≦2.2)およびリチウム酸化物(Li2O)を原料として製造される。
【0032】
理論上では、前記ニッケル系酸化物((NidM1-d)Ox)および前記リチウム酸化物(Li2O)を化学量論的1:1のモル比で配合した後、熱処理する時、配合された全量が1:1のモル比で反応して、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物を形成することができ、未反応原料は残存しない。
【0033】
しかし、実際の工程では、前記ニッケル系酸化物((NidM1-d)Ox)および前記リチウム酸化物(Li2O)を1:1のモル比で配合した後、熱処理しても、配合された全量が1:1のモル比で反応できず、未反応原料が必然的に残存しうる。これに関連して、これまで知られた研究では、未反応原料を単純に不純物扱いしてこれを除去し、理論組成を有する物質(つまり、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物)だけを回収して正極添加剤としていたに過ぎない。
【0034】
しかし、本研究では、これまで知られた研究とは異なり、未反応原料を除去せず、理論組成を有する物質(つまり、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物)と共に回収して、前記コアとしたのである。このようなコアは、むしろその未反応原料、特にリチウム酸化物(Li2O)の存在により、余分のLiを正極に提供することができ、正極の初期充電容量をさらに高めることができるのである。
【0035】
具体的には、前記コアは、ニッケル系酸化物およびリチウム酸化物(Li2O)を1:1.02~1:0.98の化学量論的モル比で配合した後、熱処理し、未反応原料の除去工程なしに得られたものである。
【0036】
これによるコアにおいて、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物、前記ニッケル酸化物(NiO)、および前記リチウム酸化物(Li2O)はそれぞれ結晶質で、FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)で検出される。
【0037】
言い換えれば、FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)を用いて、前記コアを定性分析および定量分析すれば、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物、前記ニッケル酸化物(NiO)、および前記リチウム酸化物(Li2O)の各存在の有無はもちろん、各存在量が確認できる。
【0038】
具体的には、FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)測定時、2θが30~35°の範囲、35~40°の範囲、および55~60°の範囲のうちの少なくとも1つ以上の範囲でメインピーク(main peak)が現れるのは、前記リチウム酸化物(Li2O)によるものと考えられる。
【0039】
これは、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物のメインピーク強度(intensity)を100(Ref.)とした時、0超過15以下、具体的には0超過14以下、0超過13以下、例えば0超過12以下の強度(intensity)で現れる。これから、前記コアの総量(100重量%)中、リチウム酸化物(Li2O)の含有量が0重量%超過15重量%以下、具体的には0重量%超過14重量%以下、0重量%超過13重量%以下、例えば0重量%超過12重量%以下であることが分かる。
【0040】
また、FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)測定時、2θが35~40°の範囲、40~45°の範囲、および50~55°の範囲のうちの少なくとも1つ以上の範囲でメインピーク(main peak)が現れるのは、前記ニッケル酸化物(NiO)によるものと考えられる。
【0041】
これは、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物のメインピーク強度(intensity)を100(Ref.)とした時、0超過15以下、具体的には0超過14以下、0超過13以下、例えば0超過12以下の強度(intensity)で現れる。これから、前記コアの総量(100重量%)中、前記ニッケル酸化物(NiO)の含有量が0重量%超過15重量%以下、具体的には0重量%超過14重量%以下、0重量%超過13重量%以下、例えば0重量%超過12重量%以下であることが分かる。
【0042】
最後に、FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)測定時、2θが18~21°の範囲、24~27°の範囲、および43~46°の範囲のうちの少なくとも1つ以上の範囲でメインピーク(main peak)が現れる。このようなメインピークは、空間群(point group)がImmmの斜方晶系(Orthorhombic)の結晶構造によって現れ、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物によるものである。
【0043】
その含有量は、前記コアの総量(100重量%)から、前記リチウム酸化物(Li2O)の含有量と前記ニッケル酸化物(NiO)の含有量を除することによって求められる。
【0044】
このような定量分析および定性分析の結果を総合的に考慮すれば、前記コアには、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物、前記ニッケル酸化物(NiO)、および前記リチウム酸化物(Li2O)が含まれ、その全体組成が前記化学式1と同一であることが分かる。具体的には、前記化学式1において、x、y、zはそれぞれ、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物、前記ニッケル酸化物(NiO)、および前記リチウム酸化物(Li2O)の重量比と関係がある。
【0045】
例えば、前記化学式1において、0.7≦x<1.0であり、0<y≦0.15であり、0<z≦0.15であってもよく;0.72≦x<1.0であり、0<y≦0.14であり、0<z≦0.14であってもよく;0.74≦x≦1.0であり、0<y≦0.13であり、0<z≦0.13であってもよく;0.74≦x<1.0であり、0<y≦0.13であり、0<z≦0.13であってもよく;0.76≦x<1.0であり、0<y≦0.12であり、0<z≦0.12であってもよい。この範囲で各成分によるシナジー効果が現れるが、これは例示に過ぎず、これによって本発明が限るものではない。
【0046】
前記コアにおいて、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物、前記ニッケル酸化物(NiO)、および前記リチウム酸化物(Li2O)の存在形態は特に限定されない。例えば、前記ニッケル酸化物(NiO)粒子およびリチウム酸化物(Li2O)粒子が前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物粒子の表面に付着している複合体形態であるか、前記ニッケル酸化物(NiO)粒子およびリチウム酸化物(Li2O)粒子が前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物粒子に付着せず別途に存在する混合物形態であってもよい。ここで、「粒子」は、一次粒子、または一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。
【0047】
一方、前記コアは、電池の初期充電時の電圧、例えば2.5~4.25V(vs.Li/Li+)でリチウムイオンおよび酸素を不可逆的に放出し、その後、全体組成が下記の化学式2に転換される。
【0048】
[化学式2]
{x(Li1+aNibM1-bO2+c)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}
(前記化学式2において、M、a、b、c、x、y、およびzはそれぞれ、化学式1と同一であってもよい。)
【0049】
前記化学式2に転換されたコアにおいて、Li1+aNibM1-bO2+cは、通常の正極活物質と同様に、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が可能なものであってもよい。もちろん、前記化学式2に転換されたコアの表面には、依然として前記コーティング層が存在しうる。
【0050】
よって、一実施形態の正極添加剤は、負極の初期不可逆容量を補償する添加剤でかつ、リチウムの可逆的な挿入および脱離を可能にする活物質として活用できる。ただし、前記化学式2に転換されたコアは、Li含有量およびその構造的限界によって、通常の正極活物質に比べて小さい可逆容量を有することができ、具体的には300~350mAh/gの可逆容量を有することができる。よって、電池の初期性能を向上させると同時に、長期寿命特性を確保しようとする場合、目的の電池特性により、一実施形態の正極添加剤と共に正極活物質を適切な配合比で混合して使用することができる。
【0051】
正極添加剤の製造方法
本発明の他の実施形態では、下記の化学式3で表されるニッケル系酸化物を準備する段階;前記ニッケル系酸化物およびリチウム酸化物(Li2O)の混合物を熱処理して、コアを得る段階;および前記コアおよび第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH4H2PO4)の混合物を熱処理して、前記コアの表面にコーティング層を形成する段階;を含む、正極添加剤の製造方法を提供する。このような製造方法により、前述した正極添加剤が得られる。
【0052】
[化学式3]
(NidM1-d)O2
前記化学式3において、Mは、2価の陽イオンまたは3価の陽イオンを形成する金属元素であり、0.5≦d≦1.0である。
【0053】
一実施形態の製造方法において、前記化学式3で表されるニッケル系酸化物を準備する段階;は、ニッケル水酸化物(Ni(OH)2)単独;または、ニッケル水酸化物(Ni(OH)2)およびMを含む化合物の混合物;を熱処理する段階であってもよい。
【0054】
前記ニッケル水酸化物(Ni(OH)2)単独;または、ニッケル水酸化物(Ni(OH)2)およびMを含む化合物の混合物;の熱処理は、500~700℃の温度範囲で5~20時間不活性雰囲気で行われる。
【0055】
この段階において、前記ニッケル水酸化物(Ni(OH)2)を単独で熱処理する場合、前記化学式3においてd=1であるニッケル酸化物(NiOx)が形成される。これとは異なり、前記ニッケル水酸化物(Ni(OH)2)およびMを含む化合物の混合物を熱処理する場合、前記化学式のd=1でない、Mがドーピングされたニッケル系酸化物([NidM1-d]Ox)が形成される。
【0056】
一実施形態の製造方法において、前記ニッケル系酸化物およびリチウム酸化物(Li2O)の混合物を熱処理する段階は、前記ニッケル系酸化物および前記リチウム酸化物は1:1(±0.02)のモル比で混合し、600~800℃の温度範囲で10~20時間不活性雰囲気で熱処理するものであってもよい。
【0057】
前記ニッケル系酸化物およびリチウム酸化物(Li2O)の混合物を熱処理する時、配合された全量が1:1のモル比で反応できず、前記ニッケル系酸化物((NidM1-d)Ox)の一部と前記リチウム酸化物(Li2O)の一部とが反応して、前記化学式1-1で表されるリチウムニッケル酸化物を形成し、未反応原料が残存しうる。これによる収得物の全体組成とその効果に関する説明は、前述した通りである。
【0058】
一方、一実施形態の製造方法中、前記コアの表面にコーティング層を形成する段階;において、リン(P)化合物を含むコーティング層が形成される。具体的には、前記コアの表面に前記第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH4H2PO4)がコーティングされるだけでなく;前記第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH4H2PO4)と前記リチウム副産物、例えば、LiOHとの反応によって形成されたリン酸リチウム(lithium phosphate、Li3PO4)形態のコーティング層が形成される。
【0059】
ここで、配合された原料(つまり、前記コアおよび前記第1リン酸アンモニウム)の総量中、前記第1リン酸アンモニウムの量を500~9000ppmに調節することができる。これにより、得られる正極添加剤の総量中、コーティング層の含有量が500~9000ppmに調節可能である。
【0060】
この範囲で、前記コアの表面に残留するリチウム副産物(Li2CO3、LiOHなど)、特にLiOH形態の副産物を効果的に除去して、電池の持続的な充放電工程においてガスの発生を抑制することができる。ただし、この範囲は例示に過ぎず、これによって前記一実施形態の正極添加剤は限定されない。
【0061】
正極合剤
本発明のさらに他の実施形態では、前述した正極添加剤;および正極活物質;を含む正極合剤を提供する。
【0062】
前記一実施形態の正極合剤は、前述した正極添加剤を適用したものであるので、これを適用しない場合に比べて、負極の初期不可逆容量を減少させ、これにより、正極の初期効率を増加させることができる。
【0063】
前記一実施形態の正極合剤の総量(100重量%)において、前記正極添加剤は、1~30重量%で適用することができる。具体的には、前記正極添加剤が前記範囲で配合される時、電池の初期充放電で(つまり、1stサイクルで)前記正極添加剤として負極の初期不可逆容量を十分に減少させた後、後の充放電(つまり、2ndサイクル後)で前記正極活物質によってリチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が安定的に行われる。
【0064】
この他、前記一実施形態の正極合剤は、一般に当業界で知られた事項により実現することができる。以下、一般に当業界で知られた事項を簡単に提示するが、これは例示に過ぎず、これによって前記一実施形態の正極合剤は限定されない。
【0065】
前記正極活物質の場合、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が可能な物質であれば、特に限定されない。例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、またはこれらの組み合わせの金属;およびリチウム;の複合酸化物のうちの1種以上を含むものであってもよい。
【0066】
より具体的な例を挙げると、前記正極活物質として、下記の化学式のうちのいずれか1つで表現される化合物を使用することができる。LiaA1-bRbD2(上記式中、0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5である);LiaE1-bRbO2-cDc(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、および0≦c≦0.05である);LiE2-bRbO4-cDc(上記式中、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05である);LiaNi1-b-cCobRcDα(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α≦2である);LiaNi1-b-cCobRcO2-αZα(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である);LiaNi1-b-cCobRcO2-αZ2(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である);LiaNi1-b-cMnbRcDα(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α≦2である);LiaNi1-b-cMnbRcO2-αZα(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である);LiaNi1-b-cMnbRcO2-αZ2(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、0≦c≦0.05および0<α<2である);LiaNibEcGdO2(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5および0.001≦d≦0.1である。);LiaNibCocMndGeO2(上記式中、0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.9、0≦c≦0.5、0≦d≦0.5および0.001≦e≦0.1である。);LiaNiGbO2(上記式中、0.90≦a≦1.8および0.001≦b≦0.1である。);LiaCoGbO2(上記式中、0.90≦a≦1.8および0.001≦b≦0.1である。);LiaMnGbO2(上記式中、0.90≦a≦1.8および0.001≦b≦0.1である。);LiaMn2GbO4(上記式中、0.90≦a≦1.8および0.001≦b≦0.1である。);QO2;QS2;LiQS2;V2O5;LiV2O5;LiTO2;LiNiVO4;Li(3-f)J2(PO4)3(0≦f≦2);Li(3-f)Fe2(PO4)3(0≦f≦2);およびLiFePO4。
【0067】
前記化学式において、Aは、Ni、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり;Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり;Dは、O、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり;Eは、Co、Mn、またはこれらの組み合わせであり;Zは、F、S、P、またはこれらの組み合わせであり;Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはこれらの組み合わせであり;Qは、Ti、Mo、Mn、またはこれらの組み合わせであり;Tは、Cr、V、Fe、Sc、Y、またはこれらの組み合わせであり;Jは、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、またはこれらの組み合わせである。
【0068】
もちろん、この化合物の表面にコーティング層を有するものも使用することができ、または前記化合物とコーティング層を有する化合物とを混合して使用することもできる。前記コーティング層は、コーティング元素化合物であって、コーティング元素のオキシド、ヒドロキシド、コーティング元素のオキシヒドロキシド、コーティング元素のオキシカーボネート、またはコーティング元素のヒドロキシカーボネートを含むことができる。これらのコーティング層をなす化合物は、非晶質または結晶質であってもよい。前記コーティング層に含まれるコーティング元素としては、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zr、またはこれらの混合物を使用することができる。コーティング層形成工程は、前記化合物にこれらの元素を用いて正極活物質の物性に悪影響を及ぼさない方法(例えば、スプレーコーティング、浸漬法など)でコーティングできればいかなるコーティング方法を用いてもよいし、これについては、当該分野で従事する者によく理解できる内容であるので、詳しい説明は省略する。
【0069】
前記一実施形態の正極合剤は、導電材、バインダー、またはこれらの混合物;をさらに含んでもよい。前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電気伝導性材料であればいずれのものでも使用可能であり、その例として、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末、金属繊維などを使用することができ、また、ポリフェニレン誘導体などの導電性材料を1種または1種以上を混合して使用することができる。
【0070】
前記バインダーは、正極活物質粒子を互いによく付着させ、また、正極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たし、その代表例としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロライド、カルボキシル化されたポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ブタジエンラバー、アクリル化スチレン-ブタジエンラバー、エポキシ樹脂、ナイロンなどを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0071】
リチウム二次電池
本発明のさらに他の実施形態では、前述した正極合剤を含む正極;電解質;および負極;を含むリチウム二次電池を提供する。
【0072】
これは、前述した正極添加剤を正極活物質と共に正極に適用したリチウム二次電池であるので、負極の初期不可逆容量が減少し、正極の初期効率が増加し、駆動中のエネルギー密度の低下が抑制されて寿命特性が優れたものになる。
【0073】
前記一実施形態のリチウム二次電池において、前述した正極添加剤および正極合剤以外については、一般に当業界で知られた事項により実現することができる。
【0074】
以下、一般に当業界で知られた事項を簡単に提示するが、これは例示に過ぎず、これによって前記一実施形態の正極合剤は限定されない。
【0075】
前記正極は、正極集電体;および前記正極集電体上に位置し、前述した正極合剤を含む正極合剤層;を含むことができる。
【0076】
具体的には、前記正極は、正極集電体上に正極活物質、導電材、および/またはバインダーの混合物である電極合剤を塗布した後、乾燥して製造され、必要に応じては、前記混合物に充填剤をさらに添加してもよい。
【0077】
前記正極集電体は、一般に3~500μmの厚さにすれば良い。このような正極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発することなく高い導電性を有するものであれば特に限るものではなく、例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用できる。集電体は、その表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態が可能である。
【0078】
前記導電材は、通常、正極活物質を含む混合物の全体重量を基準として1~50重量%添加される。このような導電材は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に限るものではなく、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの導電性素材などが使用できる。
【0079】
一方、前記弾性を有する黒鉛系物質が導電材として使用可能であり、前記物質と共に使用されてもよい。
【0080】
前記バインダーは、活物質と導電材などの結合と集電体に対する結合に助力する成分であって、通常、正極活物質を含む混合物の全体重量を基準として1~50重量%添加される。このようなバインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、多様な共重合体などが挙げられる。
【0081】
前記充填剤は、正極の膨張を抑制する成分として選択的に使用され、当該電池に化学的変化を誘発することなく繊維状材料であれば特に限るものではなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系重合体;ガラス繊維、炭素繊維などの繊維状物質が使用される。
【0082】
前記負極は、集電体と、前記集電体上に形成された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含むことができる。
【0083】
前記負極活物質としては、炭素系負極活物質、リチウム金属、リチウム金属の合金、Si、SiOx(0<x<2)、Si-C複合体、Si-Q合金(前記Qは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族~16族元素、遷移金属、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり、Siではない)、Sn、SnO2、Sn-C複合体、およびSn-R(前記Rは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族~16族元素、遷移金属、希土類元素、またはこれらの組み合わせであり、Snではない)を含む群より選択される少なくとも1種以上の負極活物質を使用することができる。
【0084】
前記負極集電体は、一般に3~500μmの厚さにすれば良い。このような負極集電体は、当該電池に化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば特に限るものではなく、例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレススチールの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用できる。また、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成して負極活物質の結合力を強化させることもでき、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態で使用可能である。
【0085】
前記一実施形態のリチウム二次電池は、電解質の種類および/またはセパレータの種類によって、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、またはリチウムポリマー電池であってもよい。
【0086】
前記一実施形態のリチウム二次電池が液体電解質を適用したリチウムイオン電池の時、前記液体電解質を分離膜に含浸させて適用することができる。前記分離膜は、正極と負極との間に介在し、高いイオン透過度と機械的強度を有する絶縁性の薄い薄膜が使用される。分離膜の気孔径は、一般に0.01~10μmであり、厚さは、一般に5~300μmである。このような分離膜としては、例えば、耐薬品性および疎水性のポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー;ガラス繊維またはポリエチレンなどで作られたシートや不織布などが使用される。電解質としてポリマーなどの固体電解質が使用される場合には、固体電解質が分離膜を兼ねることもできる。
【0087】
前記液体電解質は、リチウム塩含有非水電解質であってもよい。前記リチウム塩含有非水電解質は、非水電解質とリチウムからなり、非水電解質としては、非水系有機溶媒、有機固体電解質、無機固体電解質などが使用されるが、これらにのみ限定されるものではない。
【0088】
前記非水系有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン(franc)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒が使用できる。
【0089】
前記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアジテーションリシン(agitation lysine)、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合剤などが使用できる。
【0090】
前記無機固体電解質としては、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N-LiI-LiOH、LiSiO4、LiSiO4-LiI-LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4-LiI-LiOH、Li3PO4-Li2S-SiS2などのLiの窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩などが使用できる。
【0091】
前記リチウム塩は、前記非水系電解質に溶解しやすい物質であって、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム、イミドなどが使用できる。
【0092】
また、前記リチウム塩含有非水電解質には、充放電特性、難燃性などの改善を目的として、例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グリム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが添加されてもよい。場合によっては、不燃性を付与するために、四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒をさらに含ませてもよく、高温保存特性を向上させるために二酸化炭酸ガスをさらに含ませてもよいし、フルオロエチレンカーボネート(FEC:Fluoro-Ethylene Carbonate)、プロペンスルトン(PRS:Propene sultone)などをさらに含ませてもよい。
【0093】
一つの具体例において、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiN(SO2CF3)2などのリチウム塩を、高誘電性溶媒のエチレンカーボネート(EC)またはプロピレンカーボネート(PC)の環状カーボネートと、低粘度溶媒のジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、またはエチルメチルカーボネート(EMC)の線状カーボネートとの混合溶媒に添加してリチウム塩含有非水系電解質を製造することができる。
【0094】
前記一実施形態のリチウム二次電池は、これを単位電池として含む電池モジュール、前記電池モジュールを含む電池パック、および前記電池パックを電源として含むデバイスで実現される。
【0095】
この時、前記デバイスの具体例としては、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、または電力貯蔵用システムであってもよいが、これに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0096】
前記一実施形態の正極添加剤を正極に適用したリチウム二次電池は、負極の初期不可逆容量が減少し、正極の初期容量および効率が効果的に増加し、駆動中のエネルギー密度の低下が抑制されて寿命特性が優れたものになる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図1】製造例1~3、および比較例1の各リチウム二次電池に対する初期充放電特性を示すグラフである。
【
図2】実施例1~6の各電池と、製造例1~3および比較例1の各電池に対して、充放電回数(1st~4th cycle)によるガスの発生量を測定して記録したグラフである。
【
図3】実施例1~6の各電池と、比較例1の各電池に対して、初期(1st)充放電特性を測定して記録したグラフである。
【
図4】比較例2~4、実施例7および8の各電池に対して、初期(1
st)充放電特性および長期充放電(~200
th)特性を測定して記録したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0098】
以下、発明の具体的な実施例を通じて発明の作用、効果をより具体的に説明する。ただし、これは発明の例として提示されたものであり、これによって発明の権利範囲がいかなる意味でも限定されるものではない。
【0099】
I.リチウムニッケル酸化物、ニッケル酸化物(NiO)、およびリチウム酸化物(Li2O)を含むコアの利点の確認
【0100】
<製造例1:{x(Li2NiO2)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}、x=0.86、y=0.07、z=0.07、ベア(Bare)>
(1)コアの製造
ニッケル水酸化物前駆体のNi(OH)2を600℃の不活性雰囲気で10時間熱処理して、ニッケル系酸化物NiOを得た。
【0101】
前記ニッケル系酸化物NiOをリチウム酸化物(Li2O)と1:1.1のモル比(NiO:Li2O)で混合し、680℃の(不活性雰囲気)で18時間熱処理した。この時、昇温および冷却速度は1分あたり5℃に固定した。
【0102】
前記熱処理終了後、{x(Li2NiO2)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}、x=0.86、y=0.07、z=0.07を最終的に得て、これを製造例1とした。
【0103】
前記化学式は、後述する実験例1から計算されたものである。
【0104】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
製造例1のコアを正極添加剤に適用して正極を製造し、前記製造された正極を含むリチウム二次電池を製造した。
【0105】
具体的には、製造例1のコア(正極添加剤)である{0.86(Li2NiO2)}・{0.07NiO}・{0.07Li2O}、導電材(Super-P、デンカブラック)、およびバインダー(PVdF)を85:10:5(正極添加剤:導電材:バインダー)の重量比で有機溶媒(NMP)内で混合してスラリー状の正極合剤に製造した後、前記正極合剤をアルミニウム集電体上に塗布して、120℃の真空オーブンで30分乾燥して正極を製造した。
【0106】
対極としてはリチウム金属(Li-metal)を用い、電解液としてはエチレンカーボネート(EC、Ethylene Carbonate):ジメチルカーボネート(DMC、Demethyl Carbonate)の体積比が1:2の混合溶媒にビニレンカーボネート(VC)2重量%を溶液に溶解させたものを使用した。
【0107】
前記各構成要素を用い、通常の製造方法により、2032半電池(half coin cell)を作製した。
【0108】
<製造例2:{x(Li2NiO2)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}、x=0.80、y=0.10、z=0.10、ベア(Bare)>
(1)コアの製造
前記ニッケル系酸化物NiOをリチウム酸化物(Li2O)と1:1.2のモル比で混合した点を除き、残りは製造例1と同様にして、{x(Li2NiO2)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}、x=0.80、y=0.10、z=0.10を得て、これを製造例2のコア(正極添加剤)とした。
【0109】
前記化学式は、後述する実験例1から計算されたものである。
【0110】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
製造例1のコア(正極添加剤)の代わりに製造例2のコア(正極添加剤)を用いた点を除き、残りは製造例1と同様にして、製造例2の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0111】
<製造例3:{x(Li2NiO2)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}、x=0.76、y=0.12、z=0.12、ベア(Bare)>
(1)コアの製造
前記ニッケル系酸化物NiOをリチウム酸化物(Li2O)と1:1.3のモル比で混合した点を除き、残りは製造例1と同様にして、{x(Li2NiO2)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}、x=0.76、y=0.12、z=0.12を得て、前記化学式は、後述する実験例1から計算されたものである。
【0112】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
製造例1のコア(正極添加剤)の代わりに製造例3のコア(正極添加剤)を用いた点を除き、残りは製造例1と同様にして、製造例3の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0113】
<比較例1:x(Li2NiO2)、x=0.86、ベア(Bare)>
(1)正極添加剤の製造
製造例1と同様に製造した正極添加剤を製造した後、未反応ニッケル系酸化物NiOおよびリチウム酸化物(Li2O)を400メッシュ(mesh)の篩(Sieve)を通してろ過して、空間群(point group)がImmmの斜方晶系(Orthorhombic)の結晶構造を有するx(Li2NiO2)、x=0.86を最終的に得て、これを比較例1の正極添加剤とした。
【0114】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
製造例1の正極添加剤の代わりに比較例1の正極添加剤を用いた点を除き、残りは製造例1と同様にして、比較例1の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0115】
<実験例1:コアのX線回折(XRD)分析>
製造例1~3および比較例1の各コア(正極添加剤)に対して、CuKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)分析を実施し、その結果を下記表1に記録した。
【0116】
具体的には、リチウムニッケル酸化物および前記ニッケル酸化物(NiO)は結晶質で、FeKαX線(X-rα)によるX線回折(XRD:X-Ray Diffraction)で検出される。
【0117】
特に、定量分析は、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)測定後、強度(intensity)の計算により得た。
【0118】
【0119】
比較例1は、空間群(point group)がImmmの斜方晶系(Orthorhombic)の結晶構造を有するものであることがすでに知られている。しかし、前記表1の構造分析の結果から、比較例1と、製造例1~3が同一の結晶構造を有することが分かる。したがって、製造例1~3も、Li2+aNibM1-bO2+cで表される化合物を含むことが分かる。
【0120】
前記表1の定量分析の結果から、比較例1は、Li2Oが検出されなかったことを確認することができる。しかし、製造例1~3は、総量(100重量%)中、7重量%(製造例1)、10重量%(製造例2)、および12重量%(製造例3)で、それぞれLi2Oが検出されたことを確認することができる。
【0121】
<実験例2:コアを正極添加剤に適用した電池の初期充放電特性評価>
製造例1~3および比較例1の各電池に対して、次の条件で初期充放電特性を評価した。その評価結果は
図1および下記表2に記録した。
【0122】
充電:0.1C、CC/CV、4.25V、0.05C カットオフ
放電:0.1C、CC、2.5V、カットオフ
【0123】
図1および下記表2によれば、比較例1に比べて、製造例1~3で負極の初期不可逆容量が減少し、正極の初期効率が増加したことを確認することができる。
【0124】
【0125】
製造例1~3では、一実施形態の正極添加剤においてコアによって電池の初期性能が向上する効果を確認するために、各正極添加剤を通常の正極活物質と同一の配合量にして正極合剤を製造し、正極とリチウム二次電池を製造した。
【0126】
先に説明したように、前記コアは、電池の初期充電時の電圧、例えば2.5~4.25V(vs.Li/Li+)でリチウムイオンおよび酸素を不可逆的に放出し、その後、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が可能な組成に転換される。したがって、製造例1~3のように、前記コアは、負極の初期不可逆容量を補償する添加剤でかつ、リチウムの可逆的な挿入および脱離を可能にする活物質として活用できる。
【0127】
ただし、Li含有量およびその構造的限界によって、通常の正極活物質に比べて小さい可逆容量を有することができるので、電池の初期性能を向上させると同時に、長期寿命特性を確保しようとする場合、目的の電池特性により、前記コアを含む一実施形態の正極添加剤と共に、正極活物質を適切な配合比で混合して使用することができる。
【0128】
II.リチウムニッケル酸化物、ニッケル酸化物(NiO)、およびリチウム酸化物(Li2O)を含むコアおよびリン化合物コーティング層を含む正極添加剤の利点の確認
<実施例1(コア:製造例1、コーティング量:2000ppm)>
(1)正極添加剤の製造
すべての工程を製造例1と同様にして、{x(Li2NiO2)}・{y(NiO)}・{z(Li2O)}、x=0.86、y=0.07、z=0.07を最終的に得て、これを実施例1のコアとした。
【0129】
前記実施例1のコアと第1リン酸アンモニウム(ammonium phosphate、NH4H2PO4)とを混合し、この混合物を700℃の不活性雰囲気で10時間熱処理して、実施例1の正極添加剤を得た。
【0130】
ただし、前記混合時、混合物の総量に対して、前記第1リン酸アンモニウムは2000ppmとなるようにした。
【0131】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
製造例1のコア(正極添加剤)の代わりに実施例1の正極添加剤を用いた点を除き、残りは製造例1と同様にして、実施例1の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0132】
<実施例2(コア:製造例1、コーティング量:500ppm)>
(1)正極添加剤の製造
前記実施例1のコアと第1リン酸アンモニウムとの混合時、混合物の総量に対して、前記第1リン酸アンモニウムは500ppmとなるようにした点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例2の正極添加剤を得た。
【0133】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
実施例1の正極添加剤の代わりに実施例2の正極添加剤を用いた点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例2の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0134】
<実施例3(コア:製造例1、コーティング量:4000ppm)>
(1)正極添加剤の製造
前記実施例1のコアと第1リン酸アンモニウムとの混合時、混合物の総量に対して、前記第1リン酸アンモニウムは4000ppmとなるようにした点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例3の正極添加剤を得た。
【0135】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
実施例1の正極添加剤の代わりに実施例3の正極添加剤を用いた点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例3の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0136】
<実施例4(コア:製造例1、コーティング量:8000ppm)>
(1)正極添加剤の製造
前記実施例1のコアと第1リン酸アンモニウムとの混合時、混合物の総量に対して、前記第1リン酸アンモニウムは8000ppmとなるようにした点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例4の正極添加剤を得た。
【0137】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
実施例1の正極添加剤の代わりに実施例4の正極添加剤を用いた点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例4の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0138】
<実施例5(コア:製造例2、コーティング量:2000ppm)>
(1)正極添加剤の製造
前記製造例1の代わりに前記製造例2のコアを用いた点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例5の正極添加剤を得た。
【0139】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
実施例1の正極添加剤の代わりに実施例5の正極添加剤を用いた点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例5の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0140】
<実施例6(コア:製造例3、コーティング量:2000ppm)>
(1)正極添加剤の製造
前記製造例1の代わりに前記製造例3のコアを用いた点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例6の正極添加剤を得た。
【0141】
(2)正極およびリチウム二次電池(コインハーフセル)の製造
実施例1の正極添加剤の代わりに実施例6の正極添加剤を用いた点を除き、残りは実施例1と同様にして、実施例6の正極およびリチウム二次電池を製造した。
【0142】
<実験例3:コーティング層形成の有無および構成成分の確認>
実施例1の正極添加剤に対して、XPS分析により、製造例1のコアの表面にコーティング層が形成されたか、形成されたならばその成分がどうかを確認するために、XPS分析を実施した。
【0143】
より具体的には、実施例1の正極添加剤に対して、XPS分析法での結合エネルギー(Binding Energy)の測定結果、約134eVでピーク(peak)が検出された。これは、当業界で広く知られたLi3PO4の結合エネルギー(Binding Energy)と一致するものである。
【0144】
したがって、実施例1の正極添加剤は、NH4H2PO4をコーティング原料とするコーティング層形成工程により、製造例1のコアの表面に存在するリチウム副産物のLiOHとNH4H2PO4とが反応して、前記コアの表面にLi3PO4を含むコーティング層が形成されたことが分かる。
【0145】
ここでは、実施例1の正極添加剤についてのみ確認したが、実施例1と同一の原料と工程を用いた実施例2~6も、各コアの表面に実施例1と同一の成分のコーティング層が形成され、ただし、そのコーティング量のみ異なると推論される。
【0146】
<実験例4:コーティング層の形成による、Li副産物の低減特性評価>
実施例1~6の各正極添加剤と、製造例1~3および比較例1の各コアに対して、初期pHおよび表面に残留するLi副産物の含有量を測定した。その測定結果は下記表3に記載した。
【0147】
ただし、その測定において、初期pHはpH滴定(titration)方法を利用し、各正極添加剤10gをH2O 100mlに入れて、5分間撹拌した(stirring)後、0.1N HCl滴定をした。pH滴定(titration)時に最初に生じる変曲点を基準として、塩基部分の量をLiOHの含有量で測定し、全体Li副産物の含有量をそれぞれ測定した後、全体Li副産物の含有量からLiOHの含有量を引いた値をLi2CO3の含有量として計算した。
【0148】
ここで、各含有量は、正極添加剤またはコアの総量(100重量%)を基準として、LiOHおよびLi2CO3の各含有量と、これらのリチウム副産物の総量を表したものである。
【0149】
【0150】
前記表3から、コア内のLi2O量が増加するほど、リチウム副産物の含有量も増加するが、実施例1~6の各正極添加剤のようにリン(P)化合物を形成することによって、リチウム副産物を低減させることが分かる。
【0151】
さらに、実施例1~6においても、リン(P)化合物のコーティング量が増加するほど、リチウム副産物がより効果的に低減されることが分かる。
【0152】
<実験例5:コーティング層の形成による、電池ガス発生の低減特性評価>
実施例1~6の各電池と、製造例1~3および比較例1の各電池に対して、次の条件で初期(1st cycle)充電時のガスの発生量と、充放電回数(1st~4th cycle)によるガスの発生量を測定した。具体的には、電気化学質量分析器(Differential electrochemical mass spectrometer、DEMS)を用いて、各電池の充電時に出るガス圧力をリアルタイムで測定した。
【0153】
充電:0.1C、CC/CV、4.25V、0.05C カットオフ
放電:0.1C、CC、2.5V、カットオフ
【0154】
【0155】
【0156】
<実験例6:コーティング層の形成による、電池の初期充放電の向上特性評価>
実施例1~6の各電池と、製造例1~3および比較例1の各電池に対して、次の条件で初期充放電特性を評価した。その評価結果は
図3および下記表5に記録した。
【0157】
充電:0.1C、CC/CV、4.25V、0.05C カットオフ
放電:0.1C、CC、2.5V、カットオフ
【0158】
下記表5によれば、比較例1に比べて、製造例1~3で負極の初期不可逆容量が減少し、正極の初期効率が増加したことを確認することができる。さらに、製造例1~3に比べて、実施例1~6で正極の初期効率がさらに増加したことを確認することができる。ただし、コーティング含有量が過度に多くなると、初期充電容量の減少の可能性があり、500~9000ppm内に制御する必要はある。
【0159】
【0160】
前記表5と共に、前記表3および4、
図2および3を総合的に検討すれば、前記製造例1~3のコアは、電池の初期充電時の電圧、例えば2.5~4.25V(vs.Li/Li
+)でリチウムイオンおよび酸素を不可逆的に放出することによって、比較例1に比べて、負極の初期不可逆容量を減少させ、正極の初期効率を増加させるが、リチウム副産物の存在によって正極の初期効率を増加させるのに限界があることが分かる。
【0161】
それに対し、実施例1~6において、前記製造例1~3のコアにコーティング層を形成することによって、正極の初期効率をさらに改善できることが分かる。これは、実施例1~6の各正極添加剤が、コアによる効果(つまり、負極の初期不可逆容量の減少、正極の初期効率の増加)をそのまま有しながらも、コーティング層によるリチウム副産物の除去、ガス発生抑制効果を有するので、電池の初期特性がさらに改善したと考えられる。
【0162】
一方、実施例1~6では、一実施形態の正極添加剤に電池の初期性能が向上する効果を確認するために、各正極添加剤を通常の正極活物質と同一の配合量にして正極合剤を製造し、正極とリチウム二次電池を製造した。ただし、電池の初期性能を向上させると同時に、長期寿命特性を確保しようとする場合、目的の電池特性により、一実施形態の正極添加剤と共に、正極活物質を適切な配合比で混合して使用することができる。
【0163】
III.リチウムニッケル酸化物、ニッケル酸化物(NiO)、およびリチウム酸化物(Li2O)を含むコアおよびリン化合物コーティング層を含む正極添加剤の実際の適用形態の例示
<実施例7および8:実施例1の正極添加剤および正極活物質の混合適用>
実施例1の正極添加剤を実際に適用する形態で、正極活物質と共に実施例1の正極添加剤を適用して正極を製造し、前記製造された正極を含むリチウム二次電池を製造した。
【0164】
具体的には、実施例1の正極添加剤(コア:製造例1、コーティング量:2000ppm)、正極活物質のNCM(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)、導電材(Super-P、デンカブラック)、およびバインダー(PVdF)を有機溶媒(NMP)内で混合してスラリー状の正極合剤に製造した後、前記正極合剤をアルミニウム集電体上に塗布して、120℃の真空オーブンで30分乾燥して、実施例7および8の各正極を製造した。
【0165】
ただし、実施例7および8において、実施例1の正極添加剤:正極活物質:導電材:バインダーの重量比はそれぞれ、4.825:91.675:1.5:2(実施例7)および9.65:86.85:1.5:2.0(実施例8)とした。
【0166】
実施例1の正極の代わりに実施例7および8の各正極を用いて、実施例1と同様の方法でそれぞれの2032半電池(half coin cell)を作製した。
【0167】
<比較例2:正極活物質の単独適用>
そのいずれの正極添加剤も用いず、実施例1の正極添加剤の代わりにそれと同量の正極活物質(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)を用いて、実施例1と同様の方法で正極を製造し、前記製造された正極を含むリチウム二次電池を製造した。
【0168】
<比較例3および4:製造例1の正極添加剤および正極活物質の混合適用>
製造例1の正極添加剤を実際に適用する形態で、正極活物質と共に製造例1の正極添加剤を適用して正極を製造し、前記製造された正極を含むリチウム二次電池を製造した。
【0169】
具体的には、製造例1の正極添加剤(コア:製造例1、Bare)、正極活物質のNCM(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)、導電材(Super-P、デンカブラック)、およびバインダー(PVdF)を有機溶媒(NMP)内で混合してスラリー状の正極合剤に製造した後、前記正極合剤をアルミニウム集電体上に塗布して、120℃の真空オーブンで30分乾燥して、比較例3および4の各正極を製造した。
【0170】
ただし、比較例3および4において、製造例1の正極添加剤:正極活物質:導電材:バインダーの重量比はそれぞれ、4.825:91.67:1.5:2(製造例3)および9.65:86.85:1.5:2.0(製造例4)とした。
【0171】
実施例1の正極の代わりに比較例3および4の各正極を用いて、実施例1と同様の方法でそれぞれの2032半電池(half coin cell)を作製した。
【0172】
<実験例7:正極添加剤の実際の適用形態評価(電池の初期容量および寿命特性評価)>
具体的には、25℃の常温で次の条件で、比較例2~4、実施例7および8の各電池の充放電を進行させた。その結果を
図4および下記表6に示した。
【0173】
充電:0.2C、CC/CV、4.25V、0.005C カットオフ
放電:0.2C、CC、2.5V、カットオフ
【0174】
図4および下記表6によれば、正極活物質だけを適用した場合(比較例2)に比べて、製造例1の正極添加剤または実施例1の正極添加剤を正極活物質と混合して適用した場合(比較例3および4、実施例7および8)、電池の初期充電容量および寿命特性がすべて改善されることが確認される。
【0175】
また、添加剤:活物質の重量比が同一の場合において、製造例1の正極添加剤よりは、実施例1の正極添加剤を適用する時、電池の初期充電容量および寿命特性がさらに改善されることが確認される。
【0176】
【0177】
上記の結果を実験例1~6と総合してみる時、比較例3および4、実施例7および8に共通して適用されたコア(リチウムニッケル酸化物、ニッケル酸化物(NiO)、およびリチウム酸化物(Li2O)を含むコア)は、電池の初期充電時の電圧で正極活物質よりも優先してリチウムイオンおよび酸素を不可逆的に放出することによって、負極の初期不可逆容量を補償し、正極の初期充電容量を増加させるという利点があることを確認することができる。
【0178】
ただし、前記コアをコーティングしない場合、リチウム副産物の存在によって正極の初期効率を増加させるのに限界があり、前記コアをリン化合物でコーティングした場合、コアによる効果(つまり、負極の初期不可逆容量の減少、正極の初期効率の増加)をそのまま有しながらも、コーティング層によるリチウム副産物の除去、ガス発生抑制効果を有するので、電池の初期特性がさらに改善されたと考えられる。
【0179】
さらに、
図4および前記表6によれば、電池のサイクル進行回数が同一の時、比較例2~4の容量保持率に比べて、
各比較例と対応する組成を有する実施例7
または8の容量保持率が
より高いことを確認することができる。
【0180】
このような容量保持率の差は、電池のサイクル進行回数が増加するほどさらに激しくなるが、特に、比較例2の100サイクル駆動後、初期容量に比べて92.8%の容量のみ維持され、200サイクル駆動後には89.5%の容量のみ維持されることを確認することができる。それに対し、実施例7および8の場合、それぞれの初期容量に比べて、100サイクル駆動後に94.8%以上の容量が維持され、200サイクル駆動後にも92.5%以上の容量が維持されることを確認することができる。これは、一実施形態の正極添加剤によって、正極の初期容量が増加した状態で電池サイクルが進行する場合、損失する容量が減少することを意味する。また、先に言及したように、電池の初期充電時の電圧で一実施形態の正極添加剤がリチウムイオンおよび酸素を不可逆的に放出した後、リチウムイオンの可逆的な挿入および脱離が可能な組成に転換されて、電池のサイクル進行中にも容量の実現に一部寄与することを意味したりもする。
【0181】
さらに、添加剤のコアの組成、添加剤および活物質の配合比が同一の条件で、添加剤表面のコーティングの有無により、電池の初期特性および長期駆動特性が異なることを確認することができる。具体的には、比較例3に比べて、実施例7の電池の初期特性および長期駆動特性が改善され、比較例4に比べて、実施例8の電池の初期特性および長期駆動特性が改善されたことが確認される。
【0182】
これは、添加剤のコアの組成、添加剤および活物質の配合比が同一の条件で、添加剤の表面がコーティングされた場合、そのコアの表面に残留するリチウム副産物(Li2CO3、LiOHなど)が除去されて、電池内のガスの発生が抑制されることによる効果と考えられる。
【0183】
一方、実施例7および8のうち、電池の初期充電容量および寿命特性がさらに改善されたのは、一実施形態の正極添加剤の含有量がより高い正極合剤を用いた、実施例8である。これは、一実施形態の正極添加剤の含有量が高い正極合剤を使用するほど、電池の初期充電容量をより向上させ、それによって電池の寿命をより効果的に改善できることを意味する。したがって、先に言及したように、電池の初期性能を向上させると同時に、長期寿命特性を確保しようとする場合、目的の電池特性により、一実施形態の正極添加剤と共に正極活物質を適切な配合比で混合して使用することができる。