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特許7150388アレーアンテナおよびアレーアンテナの信号処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】アレーアンテナおよびアレーアンテナの信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20221003BHJP
   H01Q 3/30 20060101ALI20221003BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20221003BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
G01S7/02 218
H01Q3/30
H01Q21/08
H04B7/08 680
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017196193
(22)【出願日】2017-10-06
(65)【公開番号】P2019070558
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】時枝 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】西山 拓真
(72)【発明者】
【氏名】小田 康明
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090229(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0116582(US,A1)
【文献】Ma, Wing-Kin et al.,DOA Estimation of Quasi-Stationary Signals With Less Sensors Than Sources and Unknown Spatial Noise Covariance: A KhatriRao Subspace Approach,IEEE Transactions on Signal Processing,米国,IEEE,2009年10月20日,Volume: 58, Issue: 4,2168-2180
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95,
H01Q 3/30,21/08,
H04B 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準点からある方向に仮想的に規定間隔で設けられた格子において、
充填されない状態で配置された複数の実在アンテナ素子に対し、
前記方向に斜め方向から到来する信号によって生じる前記実在アンテナ素子間の位相差を利用して、前記実在アンテナ素子が配置されていない格子点の仮想アンテナ素子の受信信号を求め、前記方向に前記規定間隔ごとにアンテナ素子が連続配置された仮想アレーアンテナを形成し、
前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する数値を最上行として並べるとともに前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する前記数値を符号反転した数値を最左列として並べてこれらの数値を縦横加算してマトリクス状に配列された数値が、前記仮想アレーアンテナにおける各配設位置に相当し、且つ連番であり、
前記マトリクス状に配列された数値について、前記仮想アレーアンテナにおける或る配設位置に相当する数値の個数が、前記或る配設位置よりも前記基準点から遠い配設位置に相当する数値の個数以上となるように前記実在アンテナ素子が配置される、
ことを特徴とするアレーアンテナ。
【請求項2】
前記基準点から他の実在アンテナ素子の相対位置によって決まる位相差を、他の実在アンテナ素子の信号から逆転させることによって、仮想アンテナ素子の信号を生成する演算規則に基づき、任意の格子点における仮想アンテナ素子の信号を生成するためのアンテナ素子間の対応関係を保持し、前記保持した対応関係に基づき、連続した格子点に対応する仮想アンテナ素子の信号を生成する、ことを特徴とする請求項1に記載のアレーアンテナ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアレーアンテナの受信信号を処理する信号処理装置であって、
前記実在アンテナ素子間の位相差を利用して前記実在アンテナ素子が配置されていない格子点の前記仮想アンテナ素子の受信信号を補間するに際し、前記仮想アレーアンテナにおける配設位置に相当する前記数値の個数が複数である場合には複数求まる位相差を利用して同じ独立成分の指数ごとに平均化し、または重み付けする、
ことを特徴とするアレーアンテナの信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子が規則的に配設されたアレーアンテナと、アレーアンテナの受信信号を処理する信号処理装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダーのアレーアンテナ装置において、分解能を高めるにはアンテナの開口長を大きくすることが有効である。しかしながら、多くのアンテナ素子を配設すると、コストが嵩むばかりでなく、回路規模や演算規模が大きくなり実用化が困難になるおそれがある。一方、少ないアンテナ素子を長い開口に配設すると、グレーティングローブが発生し、測角できる角度範囲が狭くなって、真の方位を推定できなくなる。
【0003】
このため、少ないアンテナ素子で大開口と同等の性能を得るための手法として、共分散行列を利用したKhatri-Rao積(以下、「KR積」という)拡張アレーが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。詳細は後述するが、このKR積拡張アレーは、所定の間隔で直線状に配設されるべき実在アンテナ素子のうち、所定の条件を満たす一部の位置に仮想アンテナ素子を配設する(実在アンテナ素子を配設しない)ことで、あたかもすべての位置に実在アンテナ素子が配設されたとみなせるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】W.K.Ma,et al., IEEE Transactions on Signal Processing, vol.58,no.4,pp.2168-2180, April 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したKR積拡張アレーについて実験をした結果、単一のターゲットでは、従来の実在アンテナ素子のみで構成したアレーアンテナと同等の検知性能が得られるものの、複数ターゲットでは、検知性能が大幅に低下することが分かった。図10は、従来のアレーアンテナと、KR積拡張アレーによって2つのターゲットを検知した際の受信信号を示している。破線で示す従来のアレーアンテナでは、2つのターゲットを表すメインローブがきれいに現れている。しかしながら、実線で示すKR積拡張アレーでは、2つのターゲットを表すメインローブの間に、メインローブよりも大きな信号が発生し、さらに大きなサイドローブが多数発生している。これは、KR積拡張アレーでは、いわゆるターゲット間干渉が発生しているためと考えられる。なお、上記特許文献1には、複数のターゲットの検知に関する技術は開示されていない。
【0006】
そこで本発明は、仮想アンテナ素子を含むアレーアンテナで複数のターゲットを精度よく検知するとともに、このアレーアンテナの信号処理装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、基準点からある方向に仮想的に規定間隔で設けられた格子において、充填されない状態で配置された複数の実在アンテナ素子に対し、前記方向に斜め方向から到来する信号によって生じる前記実在アンテナ素子間の位相差を利用して、前記実在アンテナ素子が配置されていない格子点の仮想アンテナ素子の受信信号を求め、前記方向に前記規定間隔ごとにアンテナ素子が連続配置された仮想アレーアンテナを形成前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する数値を最上行として並べるとともに前記実在アンテナ素子の配設位置に対応する前記数値を符号反転した数値を最左列として並べてこれらの数値を縦横加算してマトリクス状に配列された数値が、前記仮想アレーアンテナにおける各配設位置に相当し、且つ連番であり、前記マトリクス状に配列された数値について、前記仮想アレーアンテナにおける或る配設位置に相当する数値の個数が、前記或る配設位置よりも前記基準点から遠い配設位置に相当する数値の個数以上となるように前記実在アンテナ素子が配置される、ことを特徴とするアレーアンテナである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のアレーアンテナであって、前記基準点から他の実在アンテナ素子の相対位置によって決まる位相差を、他の実在アンテナ素子の信号から逆転させることによって、仮想アンテナ素子の信号を生成する演算規則に基づき、任意の格子点における仮想アンテナ素子の信号を生成するためのアンテナ素子間の対応関係を保持し、前記保持した対応関係に基づき、連続した格子点に対応する仮想アンテナ素子の信号を生成する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のアレーアンテナの受信信号を処理する信号処理装置であって、前記実在アンテナ素子間の位相差を利用して前記実在アンテナ素子が配置されていない格子点の前記仮想アンテナ素子の受信信号を補間するに際し、前記仮想アレーアンテナにおける配設位置に相当する前記数値の個数が複数である場合には複数求まる位相差を利用して同じ独立成分の指数ごとに平均化し、または重み付けする、ことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載のアレーアンテナにおいて、実在アンテナ素子間の位相差を利用して実在アンテナ素子が配置されていない格子点の仮想アンテナ素子の受信信号を補間する際に、その格子点が基準点に近く、位相差が複数の実在アンテナ素子から求められて冗長性が高い場合に、その複数求められた位相差を平均化し、または重み付けする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、実在アンテナ素子間の位相差を利用して、実在アンテナ素子が配置されていない格子点の受信信号を求め、ある方向に連続配置した仮想アンテナ素子を形成するとともに、基準点に近い格子点ほど、位相差が複数の実在アンテナ素子から求められて冗長性が高くなるように実在アンテナ素子が配置されているので、基準点に近いアンテナ素子の受信信号を多数サンプルとして利用して、ターゲット間干渉を抑圧することが可能となる。したがって、このアレーアンテナをレーダーに利用すれば、複数ターゲットを検知する際のターゲット間干渉を抑圧することが可能である。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、所定の演算規則に基づき、任意の格子点における仮想アンテナ素子の信号を生成するためのアンテナ素子間の対応関係を保持し、保持した対応関係に基づき、連続した格子点に対応する仮想アンテナ素子の信号を生成するので、少ない実在アンテナ素子でより多くの仮想アンテナ素子の信号を生成することが可能となる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、受信信号が補間される格子点が基準点に近く、位相差が複数の実在アンテナ素子から求められて冗長性が高い場合に、その複数求められた位相差を平均化し、または重み付けするようにしたので、基準点に近いアンテナ素子の受信信号を多数サンプルとして平均化または重み付けして、ターゲット間干渉を抑圧することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施の形態に係るレーダー装置を示す概略構成図である。
図2】この発明の実施の形態におけるKR積拡張アレーを説明するための共分散行列を示す図であり、すべてのアレーが存在する場合の図である。
図3図2の共分散行列において、一部のアレーが欠落する場合を示す図である。
図4】この発明の実施の形態におけるKR積拡張アレーを説明するためのアンテナ素子の補間状態例を示す図である。
図5図4の場合の共分散行列の独立成分の指数のみを示す図である。
図6図5に示す独立成分の指数ごとの個数を示す表である。
図7図4に示すKR積拡張アレーの各アンテナ素子と仮想アレー信号との関係を示すグラフである。
図8図1に示すレーダー装置によるターゲット検知の手順を示したフローチャートである。
図9図1に示すレーダー装置で複数のターゲットを検知した場合の受信信号を示すグラフである。
図10】従来のKR積拡張アレーを利用したレーダー装置で複数のターゲットを検知した場合の受信信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0016】
図1図9は、この発明の実施の形態を示し、図1は、この実施の形態に係るアンテナ装置2と信号処理部5とを備えたレーダー装置1を示す概略構成図である。このレーダー装置1は、送信アンテナ3と受信アンテナ(アレーアンテナ、仮想アレーアンテナ)4が上下に配置されたアンテナ装置2と、受信信号をデジタルビームフォーミング等によって信号処理してレーダー映像に変換する信号処理装置5と、を備える。
【0017】
ここで、まず、KR積拡張アレーについて説明する。所定の間隔で直線状に実在アンテナ素子が配設されている場合、例えば図2に示すように、アンテナの受信信号と受信信号の複素共役との共分散行列は、その独立成分の指数が連続(連番)となる。また、実在アンテナ素子が配設されるべき位置に実在アンテナ素子が配設されていない場合、すなわち、例えば図3に示すように、共分散行列の成分に冗長性があれば受信信号と受信信号の複素共役とに欠落がある場合であっても、共分散行列における独立成分の指数が連続となる場合がある。このように、所定の条件を満たす一部の位置に、実在アンテナ素子を配設しないで仮想アンテナ素子(欠落)を配設しても、すべての位置に実在アンテナ素子が配設されているとみなせる場合がある。つまり、信号の欠落をKR積で補間できる場合がある。
【0018】
具体的には、例えば図4に示すように、配設位置Pを基準点としてある方向(右側の水平方向)に規定間隔dごとに複数の配設位置(格子、格子点)P~P(0~7は配設位置の位置番号)が設けられ、この配設位置P~Pのうち一部の配設位置P、P、P、P、Pに実在アンテナ素子F、F、F、F、Fが配設され、他の配設位置P、P、Pには実在アンテナ素子が配設されない仮想アンテナ素子V、V、Vが配設されている状態、すなわち、充填されない状態で配置された複数の実在アンテナ素子とする。この場合、仮想アンテナ素子V、V、Vの信号を、間隔dを利用して実在アンテナ素子F、F、F、F、Fの信号で補間することができる。
【0019】
すなわち、仮想アンテナ素子Vは、実在アンテナ素子Fから間隔4dだけ離れているため、実在アンテナ素子の配列方向に対し斜め方向から到来する信号によって生じる実在アンテナ素子F、F間の信号差(位相差)S4を利用して補間する。同様に、仮想アンテナ素子Vは、実在アンテナ素子Fから間隔2dだけ離れているため、実在アンテナ素子F、F間の信号差S2を利用して補間する。また、仮想アンテナ素子Vは、実在アンテナ素子Fから間隔dだけ離れているため、実在アンテナ素子F、F間の信号差S1を利用して補間する。
【0020】
さらに、基準点から他の実在アンテナ素子の相対位置によって決まる位相差を、他の実在アンテナ素子の信号から逆転させることによって、仮想アンテナ素子の信号を生成する演算規則に基づき、任意の格子点における仮想アンテナ素子の信号を生成するためのアンテナ素子間の対応関係を保持し、前記保持した対応関係に基づき、連続した格子点に対応する仮想アンテナ素子の信号を生成する。これにより、実在アンテナ素子Fを基準点とする反対方向の配設位置P-1~P-7に、複素共役の仮想アンテナ素子V-1~V-7を配設することができる。このように、5つの実在アンテナ素子F、F、F、F、Fで、15のアンテナ素子を配設したのと等価のアンテナを構成することが可能となる。
【0021】
そして、このようなKR積拡張アレーが成立するには、共分散行列における独立成分が連続となる必要がある。すなわち、共分散行列einα(n:0、±1、±2・・・)における独立成分の指数のみを見た場合、図4に示すアレーでは、図5に示すような行列となり、-7~7まで連番が得られ、KR積拡張アレーが成立することになる。換言すると、このように独立成分の指数が連続となるように、実在アンテナ素子つまり仮想アンテナ素子を配設する必要がある。ここで、図5は、図中最上行に実在アンテナ素子F、F、F、F、Fの配設位置に対応する数値(0、1、2、4、7)が記載され、図中最左列に実在アンテナ素子F、F、F、F、Fの配設位置に対応する複素共役の数値(指数:-0、-1、-2、-4、-7)が記載され、これらの数値を縦横加算した数値がマトリクス状に記載されているものに相当する。そして、これらのマトリクス状に配列された数値(指数)は、仮想アレーアンテナにおける各配設位置に相当する。
【0022】
図4に示すKR積拡張アレーで複数のターゲットを検知しようとすると、図10に実線で示すようなターゲット間干渉が発生する。本実施の形態では、このようなKR積拡張アレーにおけるターゲット間干渉を抑圧するため、基準点に近い格子点ほど位相差が複数の実在アンテナ素子から求められて冗長性が高くなるように実在アンテナ素子を配設している。言い換えれば、所定の間隔ごとに複数の配設位置が設けられ、前記配設位置のうち一部の配設位置に実在アンテナ素子が配設され、他の配設位置には前記実在アンテナ素子が配設されていないアレーアンテナであって、前記実在アンテナ素子は、前記実在アンテナ素子の配設位置に付された位置番号について共分散行列を求めた場合に、前記共分散行列の独立成分が連続し、かつ前記独立成分の指数が若い独立成分ほど冗長性が高くなるように配設されている。
【0023】
図4に示すKR積拡張アレーを例に説明すれば、図5に示す共分散行列には、-7~7まで連番の独立成分が生成されるが、各独立成分の個数(冗長性)は異なっている。すなわち、図6の表に示すように、独立成分0の個数は5個、独立成分1~3の個数はそれぞれ2個、独立成分4~7の個数はそれぞれ1個となっており、より具体的に言えば、基準点である配設位置Pに近い配設位置ほど独立成分の個数が多くなる。同様に、これらの独立成分を回転させた独立成分-1~-3の個数はそれぞれ2個、独立成分-4~-7の個数はそれぞれ1個となっている。
【0024】
図7は、図4に示すKR積拡張アレーの実在アンテナ素子および仮想アンテナ素子と、このKR積拡張アレーから得られる信号(仮想アレー信号)との関係を示すグラフである。このグラフから分かるように、指数の値が若い独立成分、すなわち基準点に近い独立成分-3~3は、受信信号のメインローブに対応し、それ以外の番号の独立成分4~7および-4~-7は、受信信号のサイドローブに対応する。このように、共分散行列の指数が連続した独立成分のうち、指数の値が若い独立成分ほど冗長性が高くなるように実在アンテナ素子を配設すれば、メインローブに対応した受信信号の多数サンプルの平均がとりやすくなるので、ターゲット間干渉を効果的に抑圧することが可能となる。
【0025】
次に、信号処理装置5について説明する。信号処理装置5は、演算部6と、仮想アンテナ生成部7と、アレー信号処理部8とを備えている。
【0026】
演算部6は、実在アンテナ素子F、F、F、F、Fの配設位置の位置番号について共分散行列を求める。仮想アンテナ生成部7は、演算部6で求めた共分散行列の独立成分に基づいて、実在アンテナ素子F、F、F、F、Fが配設されていない配設位置に仮想アンテナ素子V、V、V6、-1~V-7が配設されたものと仮定して、図4に示すような仮想アレーアンテナを生成する。また、仮想アンテナ生成部7は、実在アンテナ素子F、F、F、F、F間の信号差(位相差)を利用して、仮想アンテナ素子V、V、V6、-1~V-7の受信信号を補間し、実在アンテナ素子F、F、F、F、Fおよび仮想アンテナ素子V-1~V-7の受信信号を、同じ独立成分の指数ごとに平均化して置き替えて仮想アレー信号を生成する。すなわち、前記位置番号の共分散行列で得られた独立成分に基づいて、前記実在アンテナ素子が配設されていない配設位置に仮想アンテナ素子が配設された仮想アレーアンテナを生成し、前記実在アンテナ素子間の信号差を利用して前記仮想アンテナ素子の受信信号を補間し、前記実在アンテナ素子および前記仮想アンテナ素子の受信信号を同じ独立成分の指数ごとに平均化して置き替え、仮想アレー信号を生成する。言い換えれば、受信信号が補間される配設位置が基準点に近く、位相差が複数の実在アンテナ素子から求められて冗長性が高い場合に、その複数求められた位相差を平均化する。
【0027】
アレー信号処理部8は、仮想アレー信号に対し、サイドローブを抑圧するために窓関数を乗算する窓関数処理を行った後、高速フーリエ変換(FFT)によりターゲットの位置を検知する。図7に示すように、この窓関数処理では、仮想アレー信号Vsのメインローブに対応する部分、すなわち冗長製を高くした独立成分-3~3に相当する範囲を有限区間として処理を行うので、独立成分の冗長性が高められた有限区間の信号を残し、ターゲットの検知には不要なサイドローブ部分を抑圧することができるので、ターゲット間干渉の抑圧を可能にしながら、高速フーリエ変換にかかる処理負荷を抑えることが可能となる。
【0028】
次に上記の実施の形態の作用について、図8のフローチャートを参照しながら説明する。アンテナ装置2は、送信アンテナ3からターゲットに向けて送信波を送信し、ターゲットで反射した反射波を受信アンテナ4で受信する。受信アンテナ4は、実在アンテナ素子F、F、F、F、Fにより反射波に基づく受信信号を生成して信号処理装置5に出力する。
【0029】
演算部6は、実在アンテナ素子F、F、F、F、Fの配設位置の位置番号について共分散行列を求める(ステップS1)。仮想アンテナ生成部7は、演算部6で求めた共分散行列の独立成分に基づいて、実在アンテナ素子F、F、F、F、Fが配設されていない配設位置に仮想アンテナ素子V、V、V6、-1~V-7が配設されたものと仮定して、図4に示すような仮想アレーアンテナを生成する(ステップS2)。また、仮想アンテナ生成部7は、実在アンテナ素子F、F、F、F、F間の信号差を利用して、仮想アンテナ素子V、V、V6、-1~V-7の受信信号を補間する(ステップS3)。次いで、実在アンテナ素子F、F、F、F、Fおよび仮想アンテナ素子V、V、V6、-1~V-7の受信信号を、同じ独立成分の指数ごとに平均化して置き替えて仮想アレー信号Vsを生成する(ステップS4)。
【0030】
アレー信号処理部8は、仮想アレー信号Vsに対し、サイドローブを抑圧するために窓関数を乗算する窓関数処理を行う(ステップS5)。この窓関数処理では、仮想アレー信号Vsのメインローブに対応する部分、すなわち冗長製を高くした独立成分-3~3に相当する範囲を有限区間として処理を行うので、独立成分の冗長性が高められた有限区間の信号を残し、ターゲットの検知には不要なサイドローブ部分を抑圧することができる。次いで、アレー信号処理部8は、高速フーリエ変換(FFT)によりターゲットの位置を検知する(ステップS6)。
【0031】
図9は、上記の手順で2つのターゲットを検知した場合の受信信号を示し、図中実線で示すように、ターゲット間干渉が抑圧されているので、従来のアレーアンテナと同様に、2つのターゲットを表すメインローブが明確に現れている。
【0032】
以上のように、本実施の形態の受信アンテナ4によれば、共分散行列の指数が連続した独立成分のうち、指数が若い独立成分ほど冗長性が高くなるように実在アンテナ素子を配設するようにしたので、指数が若い独立成分に対応する配設位置に配設された実在アンテナ素子および仮想アンテナ素子を多数サンプルとして利用して、ターゲット間干渉を抑圧することが可能となる。したがって、この受信アンテナ4をレーダーに利用すれば、複数ターゲットを検知する際のターゲット間干渉を抑圧することが可能である。
【0033】
また、所定の演算規則に基づき、任意の配設位置における仮想アンテナ素子の信号を生成するためのアンテナ素子間の対応関係を保持し、保持した対応関係に基づき、連続した配設位置に対応する仮想アンテナ素子の信号を生成するので、少ない実在アンテナ素子でより多くの仮想アンテナ素子の信号を生成することが可能となる。
【0034】
また、本実施の形態の信号処理装置5によれば、受信アンテナ4のアンテナ素子の配設位置の位置番号の共分散行列で得られた独立成分から仮想アレーアンテナを生成し、実在アンテナ素子間の信号差を利用して仮想アンテナ素子の受信信号を補間し、実在アンテナ素子および仮想アンテナ素子の受信信号を、同じ独立成分の指数ごとに平均化して置き替えて仮想アレー信号を生成するようにしたので、指数が若い独立成分に対応する配設位置に配設された実在アンテナ素子および仮想アンテナ素子を多数サンプルとして平均化し、ターゲット間干渉を抑圧することが可能である。
【0035】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、演算部6で実在アンテナ素子の配設位置の位置番号について共分散行列を求め、仮想アンテナ生成部7で共分散行列の独立成分に基づいて仮想アレーアンテナを生成しているが、実在アンテナ素子の配置に基づく仮想アレーアンテナの構成をメモリなどに予め記憶しておき、この仮想アレーアンテナの構成を読み出すようにしてもよい。
【0036】
また、複数求められた位相差を平均化する際に、同じ独立成分の指数ごとに平均化するようにしたが、単純に加算して平均化してもよいし、重み付け加算をしてもよい。さらに、基本的な構成のKR積拡張アレー、すなわち、SIMO(Single Input Multi Output)アンテナの受信アンテナに本発明を適用した例について説明したが、本出願人による特願2017-196161号の明細書に記載したように、MIMO(Multi Input Multi Output)アンテナにもKR積拡張アレーが適用可能である。したがって、本発明を特願2017-196161号の技術に適用し、複数ターゲットを検出する際のターゲット間干渉を抑圧できるようにしてもよい。
【0037】
1 レーダー装置
2 アンテナ装置
3 送信アンテナ
4 受信アンテナ(アレーアンテナ、仮想アレーアンテナ)
5 信号処理装置
6 演算部
7 仮想アンテナ生成部
8 アレー信号処理部
F 実在アンテナ素子
V 仮想アンテナ素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10