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特許7150393多孔体の処理方法、多孔体の処理方法により作製された吸着材、および多孔体
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  • 特許-多孔体の処理方法、多孔体の処理方法により作製された吸着材、および多孔体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】多孔体の処理方法、多孔体の処理方法により作製された吸着材、および多孔体
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20221003BHJP
   C01B 32/306 20170101ALI20221003BHJP
   C01B 32/372 20170101ALI20221003BHJP
   C01B 32/348 20170101ALI20221003BHJP
【FI】
B01J20/30
C01B32/306
C01B32/372
C01B32/348
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018108694
(22)【出願日】2018-06-06
(65)【公開番号】P2019209278
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年12月6日、桐生市市民文化会館にて開催の「第44回炭素材料学会年会」でのポスター発表および要旨集での発表。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】マレリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 仁
(72)【発明者】
【氏名】兪 瑶
(72)【発明者】
【氏名】尹 聖昊
(72)【発明者】
【氏名】中林 康治
(72)【発明者】
【氏名】前多 信之介
(72)【発明者】
【氏名】河井 秀介
(72)【発明者】
【氏名】丸山 智弘
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-513200(JP,A)
【文献】特開昭61-287444(JP,A)
【文献】特表平08-502534(JP,A)
【文献】特開昭63-163273(JP,A)
【文献】米国特許第05522994(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
C01B 32/00-32/991
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔径に分布のある多孔体に、前記細孔に物理吸着する材料を飽和吸着させたのち、前記多孔体からの前記材料の脱着条件の調整により、前記多孔体における所定の細孔径範囲の細孔をマスクし、残りの細孔範囲の細孔から前記材料を脱着するマスクステップと、
前記マスクステップを経た前記多孔体に対して、表面改質処理を行う表面改質ステップと、
前記表面改質ステップを経た前記多孔体から、前記マスクを除去するマスク除去ステップと、を有する、ことを特徴とする多孔体の処理方法。
【請求項2】
前記マスクステップでは、前記材料を飽和吸着させた前記多孔体を、減圧下で所定温度未満で加熱して、前記所定の細孔径範囲に含まれない細孔から、前記材料を脱着させて、前記所定の細孔径範囲に含まれる細孔を前記材料でマスクすることを特徴とする請求項1に記載の多孔体の処理方法。
【請求項3】
前記マスク除去ステップでは、前記表面改質ステップを経た前記多孔体を、減圧下で前記所定温度以上で加熱して、前記所定の細孔径範囲に含まれる細孔に吸着した前記材料を脱着させることを特徴とする請求項2に記載の多孔体の処理方法。
【請求項4】
前記材料の脱着条件は、前記材料が飽和吸着した前記多孔体の真空引きの真空度、温度、時間であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
【請求項5】
前記表面改質処理は、表面親水化処理であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
【請求項6】
前記表面改質処理は、オゾン酸化処理による表面親水化処理であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
【請求項7】
前記表面改質処理は、表面疎水化処理であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
【請求項8】
前記表面改質処理は、表面親水化処理であり、
前記表面改質ステップでは、前記マスクステップにおいて前記材料が脱着した細孔に対して、前記表面親水化処理が実施されることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
【請求項9】
前記多孔体は、複数の細孔を有する吸着材であり、
前記所定の細孔径範囲の細孔に対して物理吸着する材料は、前記所定の細孔径範囲の細孔に対して物理吸着する主要部が直鎖状の炭化水素であること特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
【請求項10】
前記多孔体は、複数の細孔を有する吸着材であり、
前記所定の細孔径範囲の細孔に対して物理吸着する材料は、フラーレン類であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
【請求項11】
前記多孔体は、複数の細孔を有する吸着材であり、
前記所定の細孔径範囲の細孔に対して物理吸着する材料は、直鎖状の炭化水素であり、
前記直鎖状の炭化水素は、下記式(1)で特定されるものであることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の多孔体の処理方法。
CnH2n+2・・・・(1)
ここで、nは、6~12のうちの任意の整数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔体の処理方法、多孔体の処理方法により作製された吸着材、および多孔体に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1、2には、n-ノナンを飽和吸着させた活性炭(多孔体)に真空加熱処理を行うと、真空加熱処理を行う際の温度条件により、n-ノナンの脱着をコントロールできることが開示されている。
【0003】
近年、多孔体の一例である活性炭に目的とする吸着特性を持たせるために、活性炭の表面改質を行う方法が種々提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】P.J.MCARROTT et al, Desorption of n-nonane from microporous carbons, Colloids and Surfaces, 37 (1989), p.1 - p.13
【文献】P.J.MCARROTT et al, Use of n-nonane pre-adsorption for the determination of micropore volume of activated carbon aerogels, Carbon 45 (2007), p.1310 - p.1313
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、表面改質の処理では、活性炭の表面全体が処理される。そのため、表面改質された領域と表面改質されていない領域とが所望のバランスとなるように、表面改質を行うことが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
細孔径に分布のある多孔体に、前記細孔に物理吸着する材料を飽和吸着させたのち、前記多孔体からの前記材料の脱着条件の調整により、前記多孔体における所定の細孔径範囲の細孔をマスクし、残りの細孔範囲の細孔から前記材料を脱着するマスクステップと、
前記マスクステップを経た前記多孔体に対して、表面改質処理を行う表面改質ステップ
と、
前記表面改質ステップを経た前記多孔体から、前記マスクを除去するマスク除去ステッ
プと、を有する構成の多孔体の処理方法とした。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定の細孔径範囲の細孔をマスクしたのちに、細孔径に分布のある多孔体の表面改質処理を行うことで、表面改質処理が施された細孔と、表面改質処理が施されていない細孔とが共存する多孔体を得ることができる。
所定の細孔径範囲の細孔と所定の細孔径範囲外の細孔との比率が所望の比率となるように、細孔径の分布を調整した多孔体を用意することで、表面改質された領域と表面改質されていない領域を所望のバランスで有する多孔体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態にかかる多孔体の処理方法のフローチャートである。
図2】活性炭の表面状態を説明する図である。
図3】活性炭の表面の変化を説明する図である。
図4】表面処理の有無による窒素吸着量に対する影響の有無を説明する図である。
図5】表面処理の有無による細孔径分布に対する影響の有無を説明する図である。
図6】表面処理の有無による表面親水性に対する影響の有無を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態にかかる多孔体の処理方法を説明するフローチャートである。
【0010】
本実施形態にかかる多孔体の処理方法は、細孔径に分布のある多孔体に対して、表面状態が異なる領域を所望のバランスで形成するのに適した処理方法である。
【0011】
多孔体の処理方法は、
細孔径に分布のある多孔体において、所定の細孔径範囲の細孔をマスクするステップ(マスクステップ:ステップS101)と、
マスクステップを経た多孔体であって、マスクされた領域とマスクされていない領域を持つ多孔体に対して、表面改質処理を行うステップ(表面改質ステップ:S102)と、
表面改質ステップを経た多孔体から、マスクを除去するステップ(マスク除去ステップ:S103)と、を有している。
【0012】
[多孔体]
本実施形態にかかる処理方法で処理される多孔体は、細孔径に分布のある多孔体である。
ここで、用語「細孔径に分布がある」とは、多孔体が持つ細孔の径が、ある特定の範囲にのみ揃ったものではないという意味である。
【0013】
本実施形態では、多孔体として、活性炭、ゼオライト、シリカゲルなどが例示される。
活性炭の場合、当該活性炭が持つ細孔には、以下のものがある。直径が20Å以下のミクロ孔、直径が20Å~500Åのメソ孔、直径が500Å以上であるマクロ孔がある。
多孔体が活性炭である場合には、用語「細孔径に分布がある」とは、例えば、ミクロ孔とメソ孔を所定の割合(比率)で持つ活性炭という意味である。
【0014】
また、前記したマスクステップ(S101)では、所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料で、所定の細孔径範囲の細孔がマスクされる。
例えば、多孔体が活性炭であり、活性炭がミクロ孔とメソ孔を所定の割合で持つ活性炭である場合には、「所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する」とは、ミクロ孔とメソ孔のうちの一方の細孔に対して選択的に物理吸着するという意味である。
【0015】
このような特性の材料として、鎖状の炭化水素であって、下記式(1)で特定されるものが例示される。
n2n+2・・・・(1)
なお、炭素数nは、6~12のうちの任意の整数であることが好ましい。
具体的には、n-ヘキサン(炭素数:6)、n-ヘプタン(炭素数:7)、n-オクタン(炭素数:8)、n-ノナン(炭素数:9)、n-デカン(炭素数:10)、n-ウンデカン(炭素数:11)、n-ドデカン(炭素数:12)である。
【0016】
ここに挙げた炭化水素は、直鎖状の炭化水素であるが、細孔のマスクに関与する主要部が直鎖状であれば、枝分かれした炭化水素、ベンゼン環などの置換基がついた炭化水素であっても良い。
【0017】
以下、多孔体が活性炭Cであり、所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料としてn-ノナン(C920)を用いた場合を例に挙げて、表面親水化処理が施された領域と、表面疎水化処理が施された領域の両方を持つ活性炭を提供する方法を説明する。
【0018】
[活性炭C]
始めに、本実施の形態で用いられる活性炭Cを説明する。
図2は、活性炭Cの表面状態を説明する図であって、活性炭Cの表面を模式的に示した図である。
【0019】
本実施形態にかかる活性炭Cは、以下の手順を経て作成される。
(A-1)窒素雰囲気中で、球状フェノール樹脂を600℃で1時間加熱して、球状フェノールの炭化物を調製する。
(A-2)得られた球状フェノール炭化物に、KOH(水酸化カリウム)を加えて、窒素雰囲気中で、1000℃で1時間加熱して、活性炭を賦活する。
(A-3)賦活した活性炭の水素雰囲気中加熱処理(水素処理)を行って、活性炭表面を疎水化させる。
【0020】
上記(A-2)では、球状フェノール炭化物に対するKOHの混合量は、球状フェノール炭化物とKOHとの重量比が、1:9となるようにする。
得られる活性炭Cにおける細孔の分布は、KOHの混合量、加熱温度、加熱時間により変化する。なお、加熱温度を低くする、および/またはKOHの混合量を少なくすることで、狭い細孔Saのほうが、広い細孔Waよりも多い活性炭Cが調製される(図2参照)。
【0021】
ここで、狭い細孔Saと広い細孔Waにおける「狭い」「広い」は、比較する細孔の間での相対的な広い狭いを意味しており、広い細孔Waは、狭い細孔Saよりも広いことを意味している。
【0022】
本実施形態では、上記条件で賦活することで、得られた活性炭の細孔半幅が、5~10Åと、10~25Åの間に、それぞれピークがある活性炭(細孔径に分布のある多孔体)を調製した(図5参照)。
【0023】
上記(A-2)のKOH処理の直後では、処理の過程で生じた酸素含有物質(極性基)が、活性炭の表面に分布している。
酸素分子は、極性が大きく、水との親和性が高いため、酸素含有物質が表面に分布していると、得られた活性炭では、水との親和性(親水性)が高くなる。
【0024】
そのため、本実施形態では、上記(A-3)の活性炭の水素処理を実施して、活性炭の表面(細孔の表面)の酸素含有物質(極性基)を、非極性の水素原子で置換(水素置換)している。
【0025】
上記(A-3)では、賦活後の活性炭を、水素とアルゴンを1:4で混合した混合ガス雰囲気中で、600℃で24時間加熱して、活性炭の表面の酸素含有物質を水素置換する。
【0026】
ここで、水素と共有結合した炭素は、非極性であるので、表面の極性基が水素原子で置換された活性炭は、水との親和性が低い疎水化された活性炭となる。
【0027】
図2に示すように、活性炭の表面には、広い細孔Waと狭い細孔Saとが混在している。この活性炭に対して水素処理を実施すると、表面(広い細孔Waの表面と、狭い細孔Saの表面)に水素原子が並んだ疎水性表面が形成される。
【0028】
[マスクステップ]
マスクステップでは、疎水化した活性炭において、所定の細孔径範囲の細孔をマスクする。具体的には、所定の細孔径範囲の細孔について対して選択的に物理吸着する材料(n-ノナン)で、所定の細孔径範囲の細孔をマスクする。
【0029】
図3は、活性炭の表面の変化を説明する模式図である。この図3では、説明の便宜上、疎水性表面や親水性表面の厚みを誇張して示している。
図3の(a)は、マスクステップ(S101)における処理に用いられる活性炭の表面状態を示す図である。図3の(a)では、水素処理により疎水化された活性炭の表面状態(A:全細孔疎水性)が示されている。
図3の(b)、(c)は、マスキングステップにおける活性炭の表面状態の変化を示す図である。図3の(b)は、活性炭にn-ノナンを飽和吸着させた状態を示しており、図3の(c)は、広い細孔Wa内のn-ノナンを除去して、狭い細孔Saをn-ノナンでマスキングした状態を示している。
図3の(d)は、狭い細孔Saがn-ノナンでマスキングされた活性炭に対する親水化処理により、広い細孔Waの疎水性表面が、親水性表面に改質された状態を示している。
図3の(e)は、広い細孔Waを親水性表面に改質したのちに、活性炭からn-ノナンを除去した状態を示している。
図3の(f)は、疎水性表面を持つ活性炭を、親水性表面を持つ活性炭に改質した状態を示している。
図3の(g)は、マスキングに用いたn-ノナンを、活性炭から除去した状態を示している。
【0030】
マスクステップでは、はじめに、(B-1)疎水化した活性炭(図3の(a)参照)を、減圧下で液体状態のn-ノナンから発生させた飽和蒸気に暴露して、n-ノナンを活性炭に飽和吸着させる(図3の(b)参照)。
n-ノナンの飽和吸着は、例えば、疎水化した活性炭を、n-ノナンの蒸気に30℃で19時間暴露したのち、-196℃で40分間保持することで実施する。
これにより、活性炭の表面では、広い細孔Waの表面と、狭い細孔Saの表面の両方にn-ノナンが吸着された状態になる。
【0031】
(B-2)活性炭に飽和吸着されたn-ノナンの一部を脱着させる。
本実施形態では、n-ノナンの一部の脱着は、n-ノナンを飽和吸着した活性炭を、室温で90分間、真空引きすることで実施する。
【0032】
ここで、真空引きを実施すると、広い細孔Wa内のn-ノナンのほうが、狭い細孔Sa内のn-ノナンよりも先に脱着する。
活性炭の表面(細孔)に物理吸着したn-ノナンは、当該n-ノナンの分子サイズと整合する細孔内のn-ノナンのほうが、n-ノナンの分子サイズよりも大きい細孔内のn-ノナンよりも脱着されにくい傾向があるからである。
【0033】
ここで、n-ノナンを飽和吸着した活性炭の真空引きの真空度、温度、時間により、n-ノナンの脱着量が変化する。
本実施形態では、上記条件で脱着することで、全細孔容量の大凡60%に、n-ノナンが吸着されたままの活性炭が調製される(図3の(c)参照)。
この図3の(c)では、広い細孔Wa内のn-ノナンが脱着し、狭い細孔Sa内のn-ノナンが吸着されたままであることを示している。
【0034】
n-ノナンが脱着された広い細孔Waでは、活性炭の表面が露出している。そのため、この露出した表面は、有機物などの吸着が可能であると共に、表面改質が可能な状態となっている。
一方、n-ノナンが吸着されたままの狭い細孔Saは、活性炭の表面が露出していない。そのため、このn-ノナンが吸着されたままの狭い細孔Saには、有機物などの吸着や、表面改質ができない状態となっている。
よって、マスクステップを経て得られた活性炭では、n-ノナンが吸着されたままの領域(狭い細孔Saの領域)がマスクされた領域となり、n-ノナンが脱着した領域(広い細孔Waの領域)がマスクされていない領域となる。
【0035】
[表面改質ステップ]
表面改質ステップでは、マスクステップを経た活性炭に対して、表面親水化処理を実施する。
具体的には、(C-1)マスクステップを経た活性炭を、オゾン雰囲気下で、室温で一時間暴露する。
【0036】
この表面親水化処理により、活性炭の表面の炭素が、酸素を含有する置換基に置換される。酸素を含有する置換基は極性を有しているので、水などの極性溶媒との親和性が高くなる。
前記したように、マスクステップを経た活性炭では、n-ノナンでマスクされている領域(狭い細孔Saの領域)と、マスクされていない領域(広い細孔Waの領域)が混在する。n-ノナンでマスクされた領域は、活性炭の細孔の表面がn-ノナンで覆われているので、マスクされていない領域のみが、表面親水化処理される。
【0037】
これにより、活性炭におけるn-ノナンでマスクされていない領域の表面が、疎水性表面から親水性表面に改質される(図3の(d)参照)。
【0038】
[マスク除去ステップ]
マスク除去ステップでは、表面改質ステップを経た活性炭に対して、マスク除去処理を実施する。
具体的には、(D-1)表面改質ステップを経た活性炭を、190℃で24時間真空引きすることで実施する。
【0039】
これにより、活性炭の細孔に吸着していたn-ノナンの総てが、活性炭から脱着する。すなわち、表面改質ステップの段階でn-ノナンを吸着していた領域(狭い細孔Saの領域)からn-ノナンが脱着して、狭い細孔Saの領域の表面が露出する。
【0040】
ここで、n-ノナンでマスクされていた領域(狭い細孔Saの領域)には、表面親水化処理が施されていない。そのため、マスク除去ステップを経た活性炭では、n-ノナンでマスクされていなかった領域(広い細孔Waの領域)が親水性表面を持つと共に、n-ノナンでマスクされていた領域(狭い細孔Saの領域)が疎水性表面を持つことになる(図3の(e)参照)。
【0041】
このように、所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料として、n-ノナン(C920)を用いて活性炭を処理すると、親水性処理が施された領域と、疎水性処理が施された領域の両方を持つ活性炭を得ることができる。
【0042】
ここで、本実施形態の処理方法で得られた活性炭を含む以下のサンプルA~Dについて、特性を確認した結果を説明する。
サンプルA~Dは、以下の4種類である。
【0043】
[サンプルA]
サンプルAは、上記した(A-1)~(A-3)の手順を経て作成した活性炭である。
サンプルAでは、活性炭の表面(広い細孔Waの表面と、狭い細孔Saの表面の両方)に全面に亘って疎水性表面が形成されている(図3の(a)参照)。
【0044】
[サンプルB]
サンプルBは、上記した(A-1)~(A-3)の手順を経て作成した活性炭に対して、表面親水化処理を実施した活性炭である。なお、表面親水化処理は、上記した(C-1)の手順にて実施した。
このサンプルBでは、活性炭の表面(広い細孔Waの表面と、狭い細孔Saの表面の両方)に全面に亘って親水性表面が形成されている(図3の(f)参照)。
【0045】
[サンプルC]
サンプルCは、上記した(A-1)~(A-3)の手順を経て作成した活性炭に対して、マスク処理を施して、狭い細孔Saの領域をn-ノナンでマスクした状態で、広い細孔Waの領域に表面親水化処理を施した活性炭である。
なお、マスク処理は、上記した(B-1)、(B-2)の手順にて実施した。表面親水化処理は、上記した(C-1)の手順にて実施した、マスク除去処理は、上記した(D-1)の手順で実施した。
このサンプルCでは、活性炭の表面のうち、広い細孔Waの領域が親水性表面を持つと共に、狭い細孔Saの領域が疎水性表面を持っている(図3の(e)参照)。
【0046】
[サンプルD]
サンプルDは、上記した(A-1)~(A-3)の手順を経て作成した活性炭に対して、マスク処理とマスク除去処理を施した活性炭である。
なお、マスク処理は、上記した(B-1)、(B-2)の手順にて実施した。マスク除去処理は、上記した(D-1)の手順で実施した。
このサンプルDでは、活性炭の表面(広い細孔Waの表面と、狭い細孔Saの表面の両方)に全面に亘って疎水性表面が形成されている(図3の(g)参照)。
このサンプルDは、マスク処理とマスク除去処理が、活性炭の表面に及ぼす影響を確認するためのものである。
【0047】
図4は、サンプルA~サンプルDの窒素吸脱着等温線を示した図である。
図4では、横軸に相対圧(P/P0)、縦軸に窒素吸着量[cm3/g]を設定している。各サンプルA~サンプルDに対応する記号のうち、塗りつぶした記号は、吸着時の特性を示し、白抜きの記号は、脱着時の特性を示している。
【0048】
図4に示すように、サンプルAからサンプルDの何れにおいても、窒素の吸着量と、窒素の脱着量が略同じ傾向で変化している。よって、サンプルAの活性炭に対して、上記のマスク処理、マスク除去処理、表面親水化処理を施しても、窒素の吸脱着の特性に大きな影響を与えないことが確認できた。
【0049】
図5は、サンプルA~サンプルDの細孔径分布を示した図である。
図5では、横軸に細孔半幅r[Å]、縦軸に、差分細孔容積分布(dV/dr)を示している。
【0050】
図5に示すように、サンプルBからサンプルDの何れにおいても、サンプルAの活性炭と略同じ細孔径分布となっている。よって、サンプルAの活性炭に対して、上記のマスク処理、マスク除去処理、表面親水化処理を施しても、活性炭の表面の状態(広い細孔Waの表面の割合、狭い細孔Saの表面の割合)に大きな影響を与えないことが確認できた。
【0051】
図6は、サンプルA~サンプルDに対する水蒸気の吸脱着等温線を示した図である。
図6では、横軸に相対圧(P/P0)、縦軸に水蒸気吸着量[cm3/g]を設定している。各サンプルA~サンプルDに対応する記号のうち、塗りつぶした記号は、吸着時の特性を示し、白抜きの記号は、脱着時の特性を示している。
【0052】
図6から判るサンプルA~サンプルDの吸脱着挙動は、以下の通りである。
(a)活性炭の表面に全面に亘って疎水性表面が形成されているサンプルAは、他のサンプルB、Cよりも高い相対圧から水蒸気の吸着量が増加する。サンプルAは、相対圧0.9付近まで水蒸気の吸着量が限定的である。
(b)活性炭の表面に全面に亘って親水性表面が形成されているサンプルBは、他のサンプルA、C、Dよりも低い相対圧から水蒸気の吸着量が増加する。サンプルBは、相対圧0.6付近から水蒸気が顕著に吸着する。
【0053】
(c)広い細孔Waの領域が親水性表面を持つと共に、狭い細孔Saの領域が疎水性表面を持つサンプルCは、サンプルAに似た傾向で水蒸気の吸着量が変化するが、サンプルAよりも低い相対圧から水蒸気の吸着量が増加する。サンプルCは、狭い細孔Saが疎水性であるため、相対圧が0.7までは水蒸気がほとんど吸着されない。親水性である広い細孔Waには、相対圧0.8付近から水蒸気の吸着が始まる。
(d)サンプルAにマスク処理とマスク除去処理を施したサンプルDは、サンプルAと同じ特性をしており、水蒸気の吸着に対するマスク処理、マスク除去処理の影響はない。サンプルDは、サンプルAと略同じ水蒸気の吸着挙動を持つ。
【0054】
(e)サンプルA、Dは、相対圧が0.7まで速やかに水蒸気を脱着させており、似たような水蒸気の脱着挙動を持つ。
(f)サンプルCは、サンプルA、Dよりも低い相対圧まで、大凡相対圧0.6まで水蒸気を脱着させる。
(g)サンプルBは、サンプルCよりも更に低い相対圧まで、大凡相対圧0.4まで水蒸気を脱着させる。
(h)サンプルA、B、C、Dの挙動から、相対圧が大凡0.6よりも低い領域では、親水性表面を持つ狭い細孔Saの領域に吸着していた水蒸気が脱着され、大凡相対圧0.6~0.7では、親水性表面を持つ広い細孔Waの領域に吸着していた水蒸気が脱着され、大凡相対圧0.7より高い領域では、疎水性表面を持つ広い細孔Waの領域に吸着していた水蒸気が脱着される。
【0055】
前記したように、活性炭は、前記した(A-1)~(A-3)の手順を経て作成される。そして、得られる活性炭における細孔の分布は、(A-2)におけるKOHの混合量、加熱温度、加熱時間や、(A-3)による賦活時間に応じて変化する。
よって、狭い細孔Saと広い細孔Waの比率をコントロールできるので、本実施形態に係る処理方法で作成した活性炭は、活性炭の使用環境などに応じて、吸脱着の挙動を適宜設定することができる。
【0056】
以上の通り、本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(1)活性炭(多孔体)の処理方法は、以下のステップを有する。
細孔径に分布のある活性炭(多孔体)において、所定の細孔径範囲の細孔をマスクするマスクステップ(図1:ステップS101)。
マスクステップを経た活性炭に対して、表面改質処理を行う表面改質ステップ(図1:ステップS102)、
表面改質ステップを経た活性炭から、マスクを除去するマスク除去ステップ(図1:ステップS103)。
【0057】
このように構成すると、所定の細孔範囲外の細孔はマスクされないので、所定の細孔範囲外の細孔の表面に対して、選択的に表面改質処理を施すことができる。これにより、表面改質後にマスクを除去することで、表面改質処理が施された領域と、施されていない領域とが混在する活性炭を得ることができる。
【0058】
特に、マスク処理が施される前の活性炭における細孔の分布(狭い細孔と、広い細孔の分布)は、活性炭を作成する際の処理条件により調整できるので、表面改質処理が施された領域と施されていない領域とが所望の比率で混在する活性炭を好適に得ることができる。
【0059】
なお、(2)マスクステップでは、細孔径に分布のある活性炭であって表面疎水化処理後の活性炭に対してマスク処理することが好ましい。
【0060】
前記した(A-1)、(A-2)の処理により得られた活性炭では、処理の過程で生じた酸素含有物質(極性基)が表面にランダムに分布している。
極性基が表面に存在すると、この極性基が吸着対象物などと化学的に結合する場合がある。活性炭の表面への物理吸着は分子間力による保持であるので、化学結合よりも、吸着対象物の吸着力(保持力)が弱い。
そのため、化学結合により吸着した吸着対象物は、物理吸着した吸着対象物よりも、活性炭から脱着し難い傾向があり、活性炭からの吸着対象物の脱着特性に影響を及ぼすことがある。
【0061】
そのため、上記した(A-3)の活性炭の水素処理(表面疎水化処理)を実施して、活性炭の表面(細孔の表面)の酸素含有物質(極性基)を、非極性の水素原子で置換(水素置換)することで、活性炭の脱着特性に影響を及ぶことを好適に防止できる。
【0062】
本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(3)マスクステップでは、所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料で、所定の細孔径範囲の細孔をマスクする。
【0063】
所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料を用いることで、吸脱着の前後で、所定の細孔径範囲の細孔や、所定の細孔径範囲外の細孔の表面に、表面改質が生じない。
また、表面に化学的に吸着する材料(表面に結合するにあたり分子結合の切断などを伴う材料)の場合には、吸脱着の前後で活性炭の表面が変化して、吸脱着の特性が変化する場合がある。物理吸着する材料を用いることで、活性炭の吸脱着の特性が変化することがない。
【0064】
本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(4)表面改質処理は、表面親水化処理である。
表面親水化処理は、活性炭をオゾン雰囲気下で、室温で一時間暴露して、活性炭の表面に酸素を含む置換基を導入する処理である。
【0065】
この親水化処理により、活性炭の表面の炭素が、酸素を含有する置換基に置換される。酸素を含有する置換基は極性が高いので、活性炭の表面における表面親水化処理された領域に水などの吸着対象物を適切に吸着して保持することができる。
【0066】
本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(5)多孔体の一例である活性炭は、複数の細孔を有する吸着材である。
所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料は、主要部が直鎖状の炭化水素である。
【0067】
直鎖状の炭化水素は、炭素-炭素の間で相対的に回転できるので、少なくとも主要部が直鎖状であれば、目的とする細孔に進入して、目的とする細孔をマスクできる。
【0068】
本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(6)多孔体の一例である活性炭は、複数の細孔を有する吸着材である。
所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料は、下記式(1)で特定される直鎖状の炭化水素である。
n2n+2・・・・(1)
ここで、nは、6~12のうちの任意の整数
【0069】
例えば、n-ノナン(C920)は、当該n-ノナンの分子サイズと整合する細孔内のn-ノナンのほうが、n-ノナンの分子サイズよりも大きい細孔内のn-ノナンよりも脱着されにくい傾向がある。
そのため、n-ノナンは、活性炭の表面の細孔(広い細孔Wa、狭い細孔Sa)のうち、狭い細孔Saでの保持力のほうが広い細孔Waでの保持力よりも高い。
そのため、n-ノナンを用いることで、狭い細孔Saを適切にマスクすることができる。
【0070】
また、前記したように、活性炭の細孔の分布は、活性炭の作成過程(A-1)から(A-3)での条件を変更することで、コントロールできる。そのため、作成した活性炭におけるマスクしたい細孔の大きさに応じて、上記式(1)の直鎖状炭化水素における炭素数nを設定することで、所望の細孔をマスクすることができる。
【0071】
本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(7)マスクステップでは、直鎖状の炭化水素を飽和吸着させた活性炭(吸着材)を、減圧下で所定温度未満で加熱して、所定の細孔径範囲に含まれない細孔から、直鎖状の炭化水素を脱着させて、所定の細孔径範囲に含まれる細孔を直鎖状の炭化水素でマスクする。
【0072】
例えば、n-ノナンを活性炭に飽和吸着させたのち、室温で90分間、真空引きを実施すると、広い細孔Wa内のn-ノナンの方が、狭い細孔Sa内のn-ノナンよりも先に脱着する。
活性炭の表面(細孔)に物理吸着したn-ノナンは、当該n-ノナンの分子サイズと整合する細孔内のn-ノナンのほうが、n-ノナンの分子サイズよりも大きい細孔内のn-ノナンよりも脱着されにくい傾向があるからである。
【0073】
ここで、n-ノナンを飽和吸着した活性炭の真空引きの真空度、温度、時間により、n-ノナンの脱着量が変化する。
よって、上記条件を調整することで、活性炭の細孔のうち、n-ノナンでマスクされた細孔と、マスクされていない細孔の割合を適切に調節できる。
【0074】
本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(8)表面改質処理は、表面親水化処理である。
表面改質ステップでは、マスクステップにおいてn-ノナン(直鎖状炭化水素)が脱着した細孔に対して、表面親水化処理が実施される。
【0075】
このように構成すると、活性炭のうち、直鎖状炭化水素でマスクされていない細孔を、選択的に表面親水化処理することができる。
【0076】
本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有している。
(9)マスク除去ステップでは、表面改質ステップを経た活性炭(吸着材)を、減圧下で所定温度以上で加熱して、所定の細孔径範囲に含まれる細孔に吸着したn-ノナン(直鎖状炭化水素)を脱着させる。
【0077】
このように構成すると、活性炭の表面を損なうことなく、n-ノナンを除去してマスクを外すことができる。
【0078】
(10)上記した処理方法を適用可能な吸着材には、活性炭の他に、ゼオライト、シリカなどの多孔質材料も含まれる。
【0079】
これにより、表面改質処理が施された領域と、表面改質処理が施されていない領域とが混在するゼロライト、シリカゲル、その他の多孔質材料を簡単に作成できる。
【0080】
(11)上記した処理方法を用いると、細孔径に分布のある多孔体(活性炭)であって、
表面親水化処理された細孔と、表面疎水化処理がされた細孔とが混在した多孔体が得られる。
この多孔体では、所定の細孔径範囲の細孔が表面親水化処理された細孔であり、所定の細孔径範囲外の細孔が表面疎水化処理された細孔である。
【0081】
このような多孔体(活性炭)は、表面親水化処理された細孔と、表面疎水化処理がされた細孔との割合を調整することで、水蒸気の吸脱着等温線における吸着および脱着が開始される相対圧(湿度)を、所望の相対圧(湿度)にすることができる。
これにより、多孔体(活性炭)の使用環境等に応じて、吸着と脱着の特性を最適化した多孔体(活性炭)を提供できる。
【0082】
[変形例1]
前記した実施形態では、処理対象の吸着材が、疎水性表面を持つ活性炭である場合を例示した。そのため、表面改質処理が、表面親水化処理である場合を例示した。
本件発明に係る多孔体の処理方法は、ゼオライトやシリカゲルのような活性炭以外の多孔体も処理対象として含んでいる。
そのため、マスクされていない表面の改質処理は、前記した表面親水化処理のみに限定されない。
【0083】
よって、本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有していても良い。
(12)マスク後の多孔体の表面改質処理は、表面疎水化処理である。
【0084】
このようにすることによっても、表面改質処理により表面が疎水化された領域と、表面が疎水化されていない領域を含む多孔体を簡単に作製できる。
【0085】
[変形例2]
前記した実施形態では、活性炭が持つ細孔(広い細孔Wa、狭い細孔Sa)のうち、狭い細孔のみを選択的にn-ノナンでマスクする場合を例示したが、広い細孔Waのみをマスクするようにしても良い。
【0086】
この場合には、広い細孔Waに対して選択的に物理吸着する材料として、フラーレン類が例示される。フラーレン類(C60、C70、C96など)は、n-ノナンが吸着される狭い細孔Saに進入することができずに、広い細孔Wa内に留まる。
そのため、直鎖状の炭化水素に変えてフラーレン類を用いると、広い細孔Waの方を選択的にマスクできる。
【0087】
この場合には、フラーレン類を分散させた溶媒に活性炭を浸漬することで、フラーレン類を、広い細孔Wa内にのみ物理吸着させて、広い細孔Waをマスクできる。
なお、マスクの除去は、例えばソックスレー抽出により、溶媒中のフラーレン類の濃度を下げ続けることで行える。
【0088】
よって、本実施形態で説明した多孔体の処理方法は、以下の構成を有していても良い。
(13)所定の細孔径範囲の細孔に対して選択的に物理吸着する材料は、フラーレン類である。
【0089】
このように構成すると、活性炭が持つ細孔(広い細孔Wa、狭い細孔Sa)のうち、広い細孔Waのみを選択的にマスクすることができる。
【0090】
[変形例3]
前記した実施形態及び変形例では、広い細孔Waと狭い細孔Saの一方をマスクする場合を例示した。
ここで、n-ノナンを除去する際の条件を調整することで、マスクの除去を複数回に分けて行うことが可能になる。
【0091】
例えば、n-ノナンによるマスクを3回に分けて除去する場合、所定の細孔径範囲は、最小の細孔径範囲、中間の細孔径範囲、最大の細孔径範囲の3つになる。
この場合、以下の工程を経ることで、3つの異なる表面状態を持つ活性炭を得ることができる。
(工程a)最大の細孔径範囲の細孔に吸着したn-ノナン(マスク)を除去して表面改質処理を実施する。(工程b)中間の細孔径範囲の細孔に吸着したn-ノナン(マスク)を除去して、最大の細孔径範囲の細孔をフラーレン類でマスクする。(工程c)中間の細孔径範囲の細孔の表面改質処理を実施する。(工程d)マスク(n-ノナン、フラーレン類)を除去する。
【0092】
よって、所定の細孔径範囲に細孔に対して選択的に物理吸着する材料は、直鎖状の炭化水素のみに限定されない。
例えば、枝分かれのある炭化水素や、ベンゼンなどの置換基を持つ炭化水素などを適宜選択することで、目的の細孔径範囲の細孔のみを順番にマスクして、表面改質処理を行うことも可能である。
【0093】
以上、本発明の実施形態及び変形例を説明したが、本発明はこれらのもののみに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0094】
C 活性炭
Sa 狭い細孔
Wa 広い細孔
r 細孔半幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6