(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】グラウト組成物及びグラウト
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20221003BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20221003BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20221003BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20221003BHJP
C04B 111/70 20060101ALN20221003BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 A
C04B22/14 A
C04B24/22 B
C04B111:70
(21)【出願番号】P 2019063214
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内田 智
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193280(JP,A)
【文献】特開2010-150084(JP,A)
【文献】特開2013-136669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B7/00-32/02
C04B40/00-40/06
C04B103/00-111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、非晶質アルミノシリケートと、アルカリ金属硫酸塩と、細骨材と、減水剤とを含み、
前記アルカリ金属硫酸塩の含有量が、前記セメント100質量部に対して0.1~1質量部であり、
前記細骨材の含有量が、前記セメント100質量部に対して60~230質量部である、グラウト組成物。
【請求項2】
前記非晶質アルミノシリケートの含有量が、前記セメント100質量部に対して2~20質量部である、請求項1に記載のグラウト組成物。
【請求項3】
前記減水剤がナフタレンスルホン酸系減水剤を含む、請求項1又は2に記載のグラウト組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のグラウト組成物と、水とを含み、
前記水の含有量が、セメント100質量部に対して30~70質量部である、グラウト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラウト組成物及びグラウトに関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物、建築構造物等の建築・補修又は機械の設置等、土木工事又は建築工事において流動性の高いセメント系グラウトが使用される機会は多い。近年、このようなコンクリート構造物の高性能化のために、グラウト等のセメント系材料は高強度化・高耐久化が望まれている。
【0003】
グラウト、モルタル、コンクリート等を高強度化するためには、高性能減水剤等の薬剤を添加して水セメント比を低減させる方法や、メタカオリン等のポゾラン物質をセメント系材料に混和する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水セメント比による調製方法の場合、水セメント比を下げるために高性能減水剤を多量に添加すると硬化阻害が生じるおそれがあった。また、ポゾラン物質を混和する方法の場合、混和率の増加にともない強度増進は見込めるが、流動性の低下、練り混ぜ時間の増大等の施工性に課題が出ることもあった。さらにグラウト材は材料分離(ブリーディング)抵抗性が一般的に求められる。そのため、高強度でありながら流動性に優れ、材料分離が生じないセメント系材料が望まれている。
【0006】
したがって、本発明は、高強度でありながら流動性に優れ、材料分離抵抗性の高いグラウト組成物及びグラウトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題について鋭意検討した結果、非晶質アルミノシリケートを加え、更にアルカリ金属硫酸塩と細骨材の含有量を調整することで高強度且つ高流動性を備えるグラウト組成物及びグラウトが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[4]である。
[1]セメントと、非晶質アルミノシリケートと、アルカリ金属硫酸塩と、細骨材と、減水剤とを含み、アルカリ金属硫酸塩の含有量が、セメント100質量部に対して0.1~1質量部であり、細骨材の含有量が、セメント100質量部に対して60~230質量部である、グラウト組成物。
[2]非晶質アルミノシリケートの含有量が、セメント100質量部に対して2~20質量部である、[1]のグラウト組成物。
[3]減水剤がナフタレンスルホン酸系減水剤を含む、[1]又は[2]のグラウト組成物。
[4][1]~[3]のいずれかのグラウト組成物と、水とを含み、水の含有量が、セメント100質量部に対して30~70質量部である、グラウト。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高強度でありながら流動性に優れ、材料分離抵抗性の高いグラウト組成物及びグラウトを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
本実施形態のグラウト組成物は、セメントと、非晶質アルミノシリケートと、アルカリ金属硫酸塩と、細骨材と、減水剤とを含む。
【0012】
セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカフュームを含む混合セメント;エコセメント;速硬性セメント等が挙げられる。セメントとしては、初期の強度発現性が更に増加するという観点から、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントが好ましい。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0013】
非晶質アルミノシリケートは、粘土鉱物に由来し、非晶質部分を含むアルミノシリケートであれば特に限定されず、いずれも使用可能である。原料である粘土鉱物の例としては、カオリン鉱物、雲母粘土鉱物、スメクタイト型鉱物、及びこれらが混合生成した混合層鉱物が挙げられる。非晶質アルミノシリケートは、これらの結晶性アルミノシリケートを、例えば焼成・脱水して非晶質化することにより得られる。非晶質アルミノシリケートとしては、反応性に更に優れるという観点から、カオリナイト、ハロサイト、ディッカイト等のカオリン鉱物由来のものが好ましく、カオリナイトを焼成して得られるメタカオリンがより好ましい。非晶質アルミノシリケートは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
本明細書において「非晶質」とは、粉末X線回折装置による測定で、原料である粘土鉱物に由来するピークがほぼ見られなくなることをいう。本実施形態に係る非晶質アルミノシリケートは非晶質の割合が70質量%以上であればよく、好ましくは90質量%以上、より好ましくは100質量%、即ち粉末X線回折装置による測定でピークが全く見られないものが最も好ましい。非晶質の割合は標準添加法により求めた値である。非晶質の割合が高いアルミノシリケート、即ち結晶質の割合が低いアルミノシリケートは、非晶質の割合が低いアルミノシリケートに比べて、同じ混和量における強度発現性が更によい傾向にある。アルミノシリケートの非晶質化のための加熱としては、外熱キルン、内熱キルン、電気炉等による焼成、及び溶融炉を用いた溶融等が挙げられる。
【0014】
非晶質アルミノシリケートの含有量は、高強度を確保しつつ、良好な流動性を確保しやすいという観点から、セメント100質量部に対して2~20質量部であることが好ましく、3~18質量部であることがより好ましく、5~15質量部であることが更に好ましい。
【0015】
アルカリ金属硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム等が挙げられる。アルカリ金属硫酸塩としては、より良好な流動性が得られやすいという観点から、硫酸ナトリウムが好ましく、無水硫酸ナトリウムがより好ましい。アルカリ金属硫酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0016】
アルカリ金属硫酸塩の含有量は、セメント100質量部に対して0.1~1質量部である。アルカリ金属硫酸塩の含有量が上記範囲外であると、十分な流動性を確保できない。アルカリ金属硫酸塩の含有量は、より良好な流動性が得られやすいという観点から、セメント100質量部に対して0.2~0.8質量部であることが好ましく、0.3~0.7質量部であることがより好ましい。
【0017】
細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石砂等を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。細骨材は、通常用いられる粒径5mm以下のもの(5mmふるい通過分)を使用することが好ましく、粒径2.5mm以下のもの(2.5mmふるい通過分)が細骨材全質量の90質量%以上であるものを使用することがより好ましく、粒径2.5mm以下のもの(2.5mmふるい通過分)が細骨材全質量の95質量%以上であるものを使用することが更に好ましい。
【0018】
細骨材の含有量は、セメント100質量部に対して60~230質量部である。細骨材の含有量が上記範囲外であると、流動性の低下や材料分離が生じやすい。細骨材の含有量は、良好な流動性が得られやすく、材料分離抵抗性を確保しやすいという観点から、セメント100質量部に対して70~210質量部であることが好ましく、80~190質量部であることがより好ましい。
【0019】
減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、アクリル系減水剤が挙げられる。これらの中では、良好な流動性が得られやすいという観点から、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0020】
減水剤の含有量は、セメント100質量部に対し、0.2~5質量部であることが好ましく、0.5~3質量部であることがより好ましく、0.8~2質量部であることが更に好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、材料分離が起き難く、より良好な流動性が得られやすく、硬化時の圧縮強度もより向上しやすい。
【0021】
本実施形態のグラウト組成物は膨張材を含んでもよい。膨張材は、コンクリート用膨張材として一般に使用されているJIS適合の膨張材(JIS A 6202:2008)であれば、何れの膨張材でもかまわない。膨張材としては、例えば、遊離生石灰を主成分とする膨張材(生石灰系膨張材)、アーウィンを主成分とする膨張材(エトリンガイト系膨張材)、遊離生石灰とエトリンガイト生成物質の複合系膨張材が挙げられる。膨張材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。膨張材はブレーン比表面積が2000~6000cm2/gのものを使用することが好ましい。
【0022】
膨張材の含有量は、セメント成分100質量部に対して1~8質量部であることが好ましく、1.5~7質量部であることがより好ましく、2~6.5質量部であることが更に好ましい。膨張材の含有量が上記範囲内であれば、流動性を確保しつつ、硬化後に乾燥収縮によるひび割れを起こしにくい。
【0023】
本実施形態のグラウト組成物は発泡剤を含んでもよい。発泡剤は特に限定されず、例えば水と混練後に気体を発生する物質であればよい。発泡剤としては、アルミニウムや亜鉛等の両性金属の粉末、過炭酸ナトリウム等の過酸化物質等が挙げられる。発泡剤としては、効果的に発泡し、膨張作用をより一層発揮することができるという観点から、アルミニウム粉末が好ましい。発泡剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0024】
発泡剤の含有量は、セメント成分100質量部に対して0.0001~0.005質量部である。発泡剤の含有量が上記範囲内であれば、硬化時の初期膨張性に更に優れ、過度な膨張による強度低下を起こしにくい。発泡剤の含有量は、硬化時においてより適切な膨張性能を発揮しやすくするという観点から、セメント成分100質量部に対して0.0002~0.004質量部であることが好ましく、0.0003~0.003質量部であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態のグラウト組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、セメント用ポリマー、増粘剤、消泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維、高炉スラグ微粉末、石粉、土鉱物粉末、スラグ粉末、フライアッシュ、シリカフューム、無機質フィラー、火山灰等が挙げられる。
【0026】
本実施形態のグラウト組成物を製造する方法は、特に限定されず、例えば、V型混合機や可傾式コンクリートミキサー等の重力式ミキサー、ヘンシェル式ミキサー、噴射型ミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー等のミキサーにより混合することで製造することができる。
【0027】
本実施形態のグラウト組成物は、水と混合してグラウトとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、セメント100質量部に対して30~70質量部であることが好ましく、32~65質量部であることがより好ましく、35~60質量部であることが更に好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、より流動性を確保しやすく、材料分離の発生、硬化体の収縮の増加及び初期強度発現性の低下を抑制しやすい。
【0028】
本実施形態のグラウトの調製は、通常のグラウト組成物と同様の混練器具を使用することができ、特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、モルタルミキサー、グラウトミキサー、ハンドミキサー、傾胴ミキサー、二軸ミキサー等が挙げられる。
【0029】
本実施形態のグラウト組成物及びグラウトは、高強度でありながら流動性に優れ、材料分離抵抗性の高いものである。したがって、本実施形態のグラウト組成物及びグラウトは、狭い間隙や空洞等への補修・補強・充填材料としての間隙充填用グラウト、鉄筋入りコンクリート二次製品、トンネル、高速道路、橋梁等のコンクリート補修用グラウトとしても使用できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
セメント:
普通ポルトランドセメント
早強ポルトランドセメント
非晶質アルミノシリケート:メタカオリン
細骨材:珪砂(粒径2.5mm以下含有率95質量%以上)
膨張材:生石灰系膨張材
減水剤:ナフタレンスルホン酸系減水剤
硫酸ナトリウム:無水芒硝
発泡剤:アルミニウム粉末
【0032】
[モルタルの作製]
セメント100質量部に対して、各種材料を表1に示す割合として配合設計し、モルタル組成物を調製した。20℃環境下において、10Lの円筒容器に配合設計したモルタル組成物と水を添加し、ハンドミキサーで90秒混練してモルタルを作製した。
【0033】
[評価方法]
下記の評価方法にて、各種モルタルの評価を行った。各試験結果は表1に示す。
・J漏斗流下値の測定
土木学会基準JSCE-F 541-2013「充てんモルタルの流動性試験方法(案)」に準拠し、J14漏斗流下時間を測定した。
・圧縮強度
土木学会基準JSCE-G 505-2010「円柱供試体を用いたモルタル又はセメントペーストの圧縮強度試験方法(案)」に準じて、材齢28日におけるモルタル硬化体の圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。養生は各温度にて型枠のまま湿潤養生とした。
・不分離性試験
混練した速硬性モルタルを円筒容器の中で1分間静置し、そのときの状況を目視により確認して分離状況を評価した。円筒容器の底に骨材が沈下したものを×、材料分離(ブリーディング)が発生しなかったものを○として評価した。
【0034】