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特許7150448リチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20221003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221003BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221003BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20221003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221003BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20221003BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20221003BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20221003BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20221003BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20221003BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20221003BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20221003BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/058
H01M10/052
H01M50/46
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/451
H01M50/446
H01M50/403 D
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018040055
(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公開番号】P2019153557
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】小関 和徳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 寛大
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104782(WO,A1)
【文献】特開2017-157515(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018436(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを備えるリチウムイオン二次電池に使用されるリチウムイオン二次電池用電極であって、
前記セパレータがエチレン系多孔質フィルムであり、
前記リチウムイオン二次電池用電極は、電極活物質層と、前記電極活物質層の表面上に設けられる保護層とを備える正極であり
前記保護層が、フィラーと、保護層用バインダーとを含み、
電極活物質と導電助剤とを含む活物質層成分が前記保護層に混入され、
前記保護層の表面を観察して算出した、前記保護層の表面における、前記電極活物質と、前記導電助剤の合計占有面積により算出される、前記活物質層成分の占有面積が、10~25%であるリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記電極活物質層が、電極活物質と、導電助剤と、電極活物質用バインダーとを含む請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記電極活物質層における前記導電助剤の含有量が、3質量%以上である請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
前記導電助剤が、粒子状である請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項5】
前記保護層表面を観察して算出した前記保護層表面における、前記粒子状の導電助剤の平均径が、10~200nmである請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項6】
前記電極活物質層が、正極活物質層である請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項7】
前記導電助剤が、炭素質材料である請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項8】
前記フィラーが、絶縁性微粒子である請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項9】
前記電極活物質層の空隙率が、20~50%である請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極と、セパレータとを備え、
前記セパレータがエチレン系多孔質フィルムであるリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
正極と、負極と、前記正極及び負極の間に配置されるセパレータとを備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極が、前記セパレータ側の表面に前記保護層が設けられた前記リチウムイオン二次電池用電極である、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
電極活物質層の表面上に、保護層形成用組成物を塗布して保護層を形成する工程を備えるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法であって、
前記リチウムイオン二次電池用電極が、セパレータとしてエチレン系多孔質フィルムを備えるリチウムイオン二次電池に、正極として使用され、
前記保護層形成用組成物が、フィラーと、保護層用バインダーと、溶媒とを含み、
前記電極活物質層が、電極活物質と、導電助剤と、電極活物質用バインダーとを含む活物質層成分からなり、
前記保護層形成用組成物の塗布により、前記電極活物質用バインダーの少なくとも一部が前記溶媒により溶解されることで、前記活物質層成分が遊離して前記保護層に混入される、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項13】
前記電極活物質用バインダーが、前記溶媒のSP値との差が10MPa1/2以下である第1のバインダーを含む、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項14】
前記電極活物質層における前記導電助剤の含有量が、3質量%以上である請求項12又は13に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層を備えるリチウムイオン二次電池用電極、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、電力貯蔵用の大型定置用電源、電気自動車用等の電源として利用されており、近年では電池の小型化及び薄型化の研究が進展している。リチウムイオン二次電池は、金属箔の表面に電極活物質層を形成した両電極と、両電極の間に配置されるセパレータを備えるものが一般的である。セパレータは、両電極間の短絡防止や電解液を保持する役割を果たす。セパレータは、従来、電極との接触面において酸化劣化することが知られており、特に、正極側において劣化が顕著になる傾向にある。
【0003】
また、従来、リチウムイオン二次電池には、電極活物質層の表面に多孔質の絶縁層が設けられることがある(例えば、特許文献1参照)。絶縁層は、例えば絶縁性微粒子とバインダーとが配合された絶縁層用スラリーを電極活物質層の上に塗布することで形成される。
絶縁層は、一般的には、セパレータの代わりに電極間の絶縁性を確保するために、あるいは、セパレータと併用されてセパレータが収縮したときなどでも、良好な短絡抑制機能を持たせるために設けられる。また、絶縁層は、セパレータと併用される場合には、電極活物質層とセパレータを隔離するので、それにより、電極の酸化劣化が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2016/104782号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の絶縁層は、セパレータを電極活物質層から隔離することで、セパレータの酸化劣化を防止できるものの、電極表面の抵抗値を高くする傾向にあるため、電池の性能を低下させることがある。絶縁層を形成するための絶縁層用スラリーに導電助剤を配合して、抵抗値を低くすることも考えられるが、導電助剤を絶縁層用スラリーに配合すると、導電助剤と絶縁性微粒子が凝集してしまい、均一なスラリーが得られない。
【0006】
そこで、本発明は、電極の抵抗値を低く維持しつつ、セパレータの酸化劣化を防止できるリチウムイオン二次電池用電極、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、保護層に電極活物質層を形成するための活物質成分を所定の割合で混入させることで上記課題が解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。本発明の要旨は、以下の[1]~[14]である。
[1]電極活物質層と、前記電極活物質層の表面上に設けられる保護層とを備え、
前記保護層が、フィラーと、保護層用バインダーとを含み、
電極活物質と導電助剤とを含む活物質層成分が前記保護層に混入され、
前記保護層の表面を観察して算出した前記保護層の表面における前記活物質層成分の占有面積が、10~25%であるリチウムイオン二次電池用電極。
[2]前記電極活物質層が、電極活物質と、導電助剤と、電極活物質用バインダーとを含む上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[3]前記電極活物質層における前記導電助剤の含有量が、3質量%以上である上記[2]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[4]前記導電助剤が、粒子状である上記[1]~[3]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[5]前記保護層表面を観察して算出した前記保護層表面における、前記粒子状の導電助剤の平均径が、10~200nmである上記[4]に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[6]前記保護層に混入された活物質層成分が、前記電極活物質層由来である上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[7]前記電極活物質層が、正極活物質層である上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[8]前記導電助剤が、炭素質材料である上記[1]~[7]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[9]前記フィラーが、絶縁性微粒子である上記[1]~[8]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
[10]上記[1]~[9]のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を備えるリチウムイオン二次電池。
[11]正極と、負極と、前記正極及び負極の間に配置されるセパレータとを備えるリチウムイオン二次電池であって、
前記正極及び負極の少なくとも一方の電極が、前記セパレータ側の表面に前記保護層が設けられた前記リチウムイオン二次電池用電極である、上記[10]に記載のリチウムイオン二次電池。
[12]電極活物質層の表面上に、保護層形成用組成物を塗布して保護層を形成する工程を備えるリチウムイオン二次電池用電極の製造方法であって、
前記保護層形成用組成物が、フィラーと、保護層用バインダーと、溶媒とを含み、
前記電極活物質層が、電極活物質と、導電助剤と、電極活物質用バインダーとを含む活物質層成分からなり、
前記保護層形成用組成物の塗布により、前記電極活物質用バインダーの少なくとも一部が前記溶媒により溶解されることで、前記活物質層成分が遊離して前記保護層に混入される、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
[13]前記電極活物質用バインダーが、前記溶媒のSP値との差が10MPa1/2以下である第1のバインダーを含む、上記[12]に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
[14]前記電極活物質層における前記導電助剤の含有量が、3質量%以上である上記[12]又は[13]に記載のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極の抵抗値を低くしつつ、セパレータの酸化劣化を防止できるリチウムイオン二次電池用電極を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池用電極の一実施形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<リチウムイオン二次電池用電極>
以下、本発明のリチウムイオン二次電池用電極について詳細に説明する。
図1に示すように、リチウムイオン二次電池用電極10は、電極活物質層11と、電極活物質層11の表面上に設けられる保護層12とを備える。また、リチウムイオン二次電池用電極10において、電極活物質層11は、通常、電極集電体13の上に積層される。
電極活物質層11は、電極集電体13の両表面に積層されてもよく、その場合、保護層12は各電極活物質層11の表面上に設けられるとよい。
本発明において、リチウムイオン二次電池用電極10は、負極又は陽極のいずれでもよいが、正極であることが好ましい。以下、リチウムイオン二次電池用電極10が正極である場合の構成を以下詳細に説明する。
【0011】
[電極活物質層]
電極活物質層11は、典型的には、電極活物質と、導電助剤と、電極活物質用バインダーとを含む。電極が正極である場合、電極活物質が正極活物質となり、電極活物質層11が正極活物質層となる。
【0012】
(電極活物質)
正極活物質層に使用される正極活物質としては、金属酸リチウム化合物が挙げられる。金属酸リチウム化合物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)等が例示できる。また、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)などであってもよい。さらに、リチウム以外の金属を複数使用したものでもよく、三元系と呼ばれるNCM(ニッケルコバルトマンガン)系酸化物、NCA(ニッケルコバルトアルミニウム系)系酸化物などを使用してもよい。これら中では、NCAが好ましい。
電極活物質層11における電極活物質の含有量は、電極活物質層全量基準で、50~98.5質量%が好ましく、70~98質量%がより好ましく、85~96質量%がさらに好ましい。
【0013】
電極活物質は、粒子状であることが好ましい。粒子状の電極活物質は、後述する製造方法において、保護層に混入されやすくなる。電極活物質は、特に限定されないが、その平均粒子径が0.5~50μmであることが好ましく、1~30μmであることがより好ましい。なお、電極活物質及び後述する絶縁性微粒子(フィラー)の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた絶縁性微粒子の粒度分布において、体積積算が50%での粒径(D50)を意味する。
【0014】
(導電助剤)
電極活物質層に使用する導電助剤は、例えば、上記電極活物質よりも導電性が高い材料が使用され、具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;カーボンナノチューブ;カーボンナノホーン;グラフェン;フラーレン等の炭素質材料などが挙げられる。導電助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
導電助剤は、粒子状の導電助剤であることが好ましい。粒子状の導電助剤を使用することで、導電助剤は、保護層を形成するときに、保護層に混入されやすくなり、後述するように、保護層表面における活物質層成分の占有面積を所定の範囲に調整しやすくなる。
【0015】
電極活物質層に含有される粒子状の導電助剤は、平均径が10~200nmであることが好ましく、15~180nmがより好ましく、20~100nmがさらに好ましい。平均径を下限値以上とすることで、分散性が低下し、電極における抵抗値が上昇するのを防止する。一方、上限値以下とすることで導電パスが減少することで抵抗値が上昇するのを防止する。また、上限値以下とすることで、保護層を形成する際、電極活物質層から保護層に導電助剤が混入しやすくなる。そのため、保護層表面における活物質層成分の占有面積を後述する所定の範囲に調整しやすくなる。
なお、導電助剤の平均径とは、一次粒子径を意味し、走査型電子顕微鏡で観察して、求めたものである。具体的には、まず、電極10において、断面試料作製機(クロスセクションポリッシャー)を用いて、電極活物質層の断面を露出させる。
次いで、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S4800」)で電極活物質層断面の厚み方向の中心部を10万倍に拡大した画像を3枚取得した。導電助剤を1画像当たり10個ランダムに選択し、画像解析ソフト(Image J)を使用して各粒子の最大径の計測を行った。計測した全ての最大径の平均値を、導電助剤の平均径とした。
【0016】
電極活物質層における導電助剤の含有量は、電極活物質層全量基準で、3質量%以上が好ましい。3質量%以上とすることで、後述する製造方法により保護層を形成する場合に、保護層12に比較的多くの導電助剤が混入され、電極の抵抗を低減させやすくなる。さらには、保護層12の表面12Aにおける活物質層成分の占有面積も大きくしやすくなる。
導電助剤の上記含有量は、3.3~7質量%がより好ましく、3.7~5質量%がさらに好ましい。導電助剤の含有量をこれら下限値以上とすることで、電極の抵抗をより低減させやすくなり、上記占有面積もより大きくしやすくなる。また、これら上限値以下とすることで、後述する製造方法により保護層を形成する場合、保護層12に混入される導電助剤が適度な量に抑制され、保護層によって適切に酸化劣化を抑制できる。
【0017】
(電極活物質用バインダー)
電極活物質層11は、電極活物質及び導電助剤が電極活物質用バインダーによって結着されて構成される。電極活物質用バインダーの具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有樹脂、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアクリロニトリル(PAN)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びポリビニルアルコール等が挙げられる。これらバインダーは、1種単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、カルボキシメチルセルロースなどは、ナトリウム塩などの塩の態様にて使用されていてもよい。
【0018】
電極活物質層11における電極活物質用バインダーの含有量は、電極活物質層全量基準で、1~40質量%であることが好ましく、2~20質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましく、3~7質量%が特に好ましい。電極活物質用バインダーの含有量をこれら下限値以上とすることで、電極活物質及び導電助剤が、バインダーによって適切に保持される。また、電極活物質用バインダーの含有量を調整することで、保護層表面における活物質層成分の占有面積を調整でき、例えば、上記上限値以下とすることで占有面積を大きくしやすくなる。
【0019】
電極活物質用バインダーは、後述する製造方法で詳述するように、特定のバインダー(以下、「第1のバインダー」ともいう)を含むことが好ましい。第1のバインダーは、後述するように、保護層用組成物に含有される溶媒とのSP値の差が小さいバインダーである。電極活物質層は、そのような第1のバインダーを含むことで、後述する製造方法で保護層を形成するときに、電極活物質層を構成する活物質層成分が遊離して、保護層に混入される。
【0020】
第1のバインダーのSP値は、具体的には、15~25MPa1/2が好ましく、16~24MPa1/2がより好ましく、17~23MPa1/2がさらに好ましい。
第1のバインダーとしては、上記電極活物質用バインダーのうち、ポリフッ化ビニリデン、アクリル樹脂、及びアクリロニトリル・ブタジエンゴムから選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では、ポリフッ化ビニリデン、アクリル樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。
【0021】
なお、SP値は、溶解度パラメータ値であり、Fedors法により、下記の式に基づいて求められた値δである。なお、ナトリウム塩などの金属塩の場合、塩となる前の化合物のSP値を意味する。
Fedorsの式:δ=(ΣE/ΣV)1/2
(なお、ΣEは凝集エネルギー、ΣVはモル分子容である。)
【0022】
電極活物質用バインダーは、上記第1のバインダーのみからなるものでもよいし、第1のバインダーとその他のバインダーからなるものでもよい。第1のバインダーの含有量は、電極活物質層に含まれるバインダー(すなわち、電極活物質用バインダー)全量基準で、50質量%以上が好ましく、75質量%以上が好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0023】
また、電極活物質層11の空隙率は、好ましくは20~50%、より好ましくは25~55%である。空隙率を上記範囲内とすることで、電池性能を向上させやすくなる。また、空隙率を調整することで、後述する製造方法において、電極活物質層から遊離する活物質層成分の量を適宜調整できる。例えば、空隙率を高めることで、活物質層成分が遊離しやすくなる。そして、電極活物質層11の空隙率を上記範囲内とすることで、後述する保護層12の表面12Aにおける活物質層成分の占有面積を所定の範囲内に調整しやすくなる。なお、空隙率は、実施例に記載の方法で測定可能である。
【0024】
電極活物質層11は、本発明の効果を損なわない範囲内において、電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダー以外の他の任意成分を含んでもよい。ただし、電極活物質層の総質量のうち、電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーの総含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
電極活物質層11の厚さは、特に限定されないが、電極集電体13の片面当たり10~100μmが好ましく、20~80μmがより好ましい。
【0025】
[保護層]
保護層12は、フィラーと、保護層用バインダーとを含む。保護層12は、フィラーが保護層用バインダーによって結着されて構成される層であり、多孔質構造を有する。本発明では、保護層12に活物質層成分が混入される。活物質層成分は、電極活物質層を構成するための成分であり、電極活物質と導電助剤とを含む。
【0026】
活物質層成分は、保護層12全体に混入されてもよいが、少なくとも保護層12の表面12Aに混入されるとよい。電極活物質層成分は、表面12Aに混入されることで、電極10の抵抗値を低くしやすくなる。
ここで、活物質層成分は、上記したフィラーと、保護層用バインダーとを含む保護層成分の中に、ある程度集合した状態で混入される。集合した状態で混入された活物質層成分は、表面12Aにおいて、例えば、斑点状に分布している。
【0027】
表面12Aにおいて混入された活物質層成分は、例えば走査型電子顕微鏡で観察することで、保護層成分とは区別して視認される。本発明では、保護層12の表面12Aを観察して算出した保護層12の表面12Aにおける活物質層成分の占有面積が、10~25%となる。占有面積が10%未満となると、電極10の抵抗値が高くなり、電池性能が低下する。占有面積が25%を超えると、セパレータの酸化劣化を防止しにくくなる。上記占有面積は、好ましくは12~22%、より好ましくは15~18%である。
保護層12の厚さは、例えば、1~10μm、好ましくは1.5~8.5μm、より好ましく3~7μmである。
また、保護層12は、上記のように、多孔質構造を有するが、その空隙率は、50~90%が好ましく、60~85%がより好ましく、70~80%がさらに好ましい。
【0028】
<保護層成分>
(フィラー)
保護層に含有されるフィラーは、絶縁性微粒子であることが好ましい。絶縁性微粒子は、絶縁性であれば特に限定されず、有機粒子、無機粒子の何れであってもよい。具体的な有機粒子としては、例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋スチレン-アクリル酸共重合体、架橋アクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸リチウム)、ポリアセタール樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等の有機化合物から構成される粒子が挙げられる。無機粒子としては二酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ベーマイト、チタニア、ジルコニア、窒化ホウ素、酸化亜鉛、二酸化スズ、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、フッ化カリウム、フッ化リチウム、クレイ、ゼオライト、炭酸カルシウム等の無機化合物から構成される粒子が挙げられる。また、無機粒子は、ニオブ-タンタル複合酸化物、マグネシウム-タンタル複合酸化物等の公知の複合酸化物から構成される粒子であってもよい。
絶縁性微粒子は、上記した各材料が1種単独で使用される粒子であってもよいし、2種以上が併用される粒子であってもよい。また、絶縁性微粒子は、無機化合物と有機化合物の両方を含む微粒子であってもよい。例えば、有機化合物からなる粒子の表面に無機酸化物をコーティングした無機有機複合粒子であってもよい。
これらの中では、無機粒子が好ましく、中でもアルミナ粒子、ベーマイト粒子が好ましく、アルミナ粒子がより好ましい。
【0029】
フィラーの平均粒子径は、保護層の厚さよりも小さければ特に限定されず、例えば0.001~1μm、好ましくは0.05~0.8μm、より好ましくは0.1~0.6μmである。フィラーの平均粒子径をこれら範囲内にすることで、空隙率を適度な範囲にしてセパレータの酸化劣化を防止しやすくなる。
また、絶縁性微粒子は、平均粒子径が上記範囲内の1種が単独で使用されてもよいし、平均粒子径の異なる2種の絶縁性微粒子が混合されて使用されてもよい。
【0030】
保護層12に含有されるフィラーの含有量は、保護層成分全量基準で、30~96質量%が好ましく、より好ましくは45~94質量%、さらに好ましくは65~93質量%である。絶縁性微粒子の含有量が上記範囲内であると、保護層12は、均一な多孔質構造を形成でき、セパレータの酸化劣化を防止しやすくなる。
【0031】
(保護層用バインダー)
保護層用バインダーの具体例は、電極活物質用バインダーで使用可能な化合物として例示された化合物が挙げられる。保護層に使用されるバインダーは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
保護層用バインダーは、後述する製造方法で詳述するように、特定のバインダー(以下、「第2のバインダー」ともいう)を含むことが好ましい。第2のバインダーは、後述するように、保護層用組成物に含有される溶媒とのSP値の差が小さいバインダーである。保護層は、そのような第2のバインダーを含有することで、均一な膜厚を有することが可能である。
第2のバインダーのSP値は、具体的には、15~25MPa1/2が好ましく、16~24MPa1/2がより好ましく、17~23MPa1/2がさらに好ましい。
第2のバインダーとしては、上記保護層用バインダーのうち、ポリフッ化ビニリデン、アクリル樹脂、及びアクリロニトリル・ブタジエンゴムから選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では、ポリフッ化ビニリデン、アクリル樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。また、第2のバインダーは、上記した第1のバインダーと同一の種類のバインダーであってもよいし、異なる種類のバインダーであってもよい。
【0032】
保護層用バインダーは、上記第2のバインダーのみからなるものでもよいし、第2のバインダーとその他のバインダーからなるものでもよい。第2のバインダーの含有量は、保護層に含まれるバインダー(すなわち、保護層用バインダー)全量基準で、50質量%以上が好ましく、75質量%以上が好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0033】
保護層12に含有される保護層用バインダーの含有量は、保護層成分全量基準で、4~55質量%が好ましく、より好ましくは6~45質量%、さらに好ましくは7~35質量%である。上記範囲内であると、保護層には、均一な多孔質構造を形成でき、かつセパレータの酸化を適切に抑制できるようになる。
保護層成分は、本発明の効果を損なわない範囲内において、絶縁性微粒子及び保護層用バインダー以外の他の任意成分を含んでもよい。ただし、保護層の総質量のうち、絶縁性微粒子及び保護層用バインダーの総含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0034】
<活物質層成分>
本発明の保護層12には、上記した保護層成分に、活物質層成分が混入される。活物質層成分は、上記したように電極活物質層を形成するための成分である。したがって、電極10が正極ならば、正極活物質層を形成するための成分である。
保護層成分に混入される活物質層成分は、電極活物質と、導電助剤とを含む。また、典型的には、電極活物質用バインダーが保護層成分にさらに混入されるが、電極活物質用バインダーは保護層用バインダーと渾然一体となる。したがって、上記した画像観察では、占有面積には算入されず、上記占有面積は、電極活物質と、導電助剤の合計占有面積により算出される。
ここで、保護層12に混入される電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーは、上記で説明した電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーそれぞれと同様であり、その詳細な説明は省略する。
【0035】
保護層12に混入される活物質層成分は、後述する製造方法で詳述するように、電極活物質層11由来であることが好ましい。すなわち、保護層に混入された電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーは、それぞれ、電極活物質層11を構成する電極活物質、導電助剤、電極活物質用バインダーそれぞれと同一の材料であることが好ましい。
また、保護層12に混入された電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーの混入された活物質層成分基準の含有割合それぞれは、電極活物質層11を構成する電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーの電極活物質層11基準の含有割合それぞれと実質的に同じになってもよい。また、混入されるときに電極活物質用バインダーが溶解などすることもあるため、保護層12に混入された電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーの上記含有割合は、それぞれ、電極活物質層11を構成する電極活物質、導電助剤、及び電極活物質用バインダーそれぞれの上記含有割合と異なることもある。
【0036】
導電助剤は上記のように粒子状であることが好ましく、したがって、保護層12の表面12Aにおける導電助剤も粒子状であることが好ましい。導電助剤は、保護層12の表面12Aを観察して算出した場合も、その平均径は、電極活物質層11に含有される導電助剤と同様である。すなわち、表面12Aを観察して算出した導電助剤の平均径は、10~200nmであることが好ましく、15~180nmがより好ましく、20~100nmがさらに好ましい。
なお、表面12Aを観察して算出した平均径とは、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「S4800」)で保護層表面を10万倍に拡大した画像を3枚取得した。活物質層成分が確認できる部分において、導電助剤を画像当たり10個ランダムに選択し、画像解析ソフト(Image J)を使用し、各導電助剤の最大径の計測を行った。計測した最大径の全ての平均値を導電助剤の平均径とした。
【0037】
(電極集電体)
電極が正極である場合、電極集電体13は正極集電体となる。正極集電体(電極集電体)を構成する材料としては、例えば、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が挙げられ、これらの中ではアルミニウム又は銅が好ましく、アルミニウムがより好ましい。電極集電体13は、一般的に金属箔からなり、その厚さは、特に限定されないが、1~50μmが好ましい。
【0038】
<リチウムイオン二次電池用電極の製造方法>
次に、リチウムイオン二次電池用電極の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。本発明のリチウムイオン二次電池用電極の製造方法では、まず、電極活物質と、導電助剤と電極活物質用バインダーとを含む活物質層成分からなる電極活物質層を形成する。次いで、その電極活物質層の表面上に、保護層用組成物を塗布して保護層を形成する。なお、以下の説明においては、電極活物質層が正極活物質層である場合について説明する。
【0039】
(電極活物質層の形成)
電極活物質層の形成においては、まず、電極活物質(正極活物質)と、導電助剤と、電極活物質用バインダーと、溶媒とを含む電極活物質層用組成物を用意する。電極活物質層用組成物は、電極活物質用バインダーとして上記した第1のバインダーを含むことが好ましいが、電極活物質用バインダーとして第1のバインダーに加えて、第1のバインダー以外のバインダーを含んでいてもよい。また、電極活物質層用組成物は、必要に応じて配合されるその他成分を含んでもよい。電極活物質層用組成物は、スラリーとなる。電極活物質層用組成物における正極活物質、第1のバインダー、その他のバインダー、導電助剤などは上記で説明したとおりである。
【0040】
電極活物質層用組成物における溶媒としては、水、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドなどを使用する。水を使用する場合、上記した第1のバインダーなどは、水にエマルションの形態で配合させるとよい。
電極活物質層用組成物の固形分濃度は、好ましくは5~75質量%、より好ましくは20~65質量%である。
【0041】
電極活物質層は、上記電極活物質層用組成物を使用して公知の方法で形成すればよく、例えば、上記電極活物質層用組成物を電極集電体の上に塗布し、乾燥することによって形成することができる。
また、電極活物質層は、電極活物質層用組成物を、電極集電体以外の基材上に塗布し、乾燥することにより形成してもよい。電極集電体以外の基材としては、公知の剥離シートが挙げられる。基材の上に形成した電極活物質層は、好ましくは保護層を形成した後、基材から電極活物質層を剥がして電極集電体の上に転写すればよい。
電極集電体又は基材の上に形成した電極活物質層は、好ましくは加圧プレスする。加圧プレスすることで、電極密度を高めることが可能になる。加圧プレスは、ロールプレスなどにより行えばよい。
なお、保護層が形成される前の電極活物質層における各成分の含有量は、実質的に上記した保護層形成後の各成分の含有量と同じであり、したがって、保護層が形成される前の電極活物質層における各成分の含有量の範囲は上記したとおりである。
【0042】
(保護層の形成)
保護層の形成に使用する保護層用組成物は、フィラーと、保護層用バインダーと、溶媒とを含む。保護層用組成物は、保護層用バインダーとして上記した第2のバインダーを含むことが好ましいが、第2のバインダーに加えて、第2のバインダー以外のバインダーを含んでいてもよい。また、保護層用組成物は、必要に応じて配合されるその他の任意成分を含んでいてもよい。保護層用組成物はスラリーとなる。
【0043】
フィラー、保護層用バインダーなどの詳細は上記で説明したとおりである。また、各成分の含有量も保護層における各成分の含有量と実質的に同じである。したがって、フィラーの含有量は、保護層用組成物の固形分全量基準で、30~96質量%が好ましく、より好ましくは45~94質量%、さらに好ましくは65~93質量%である。また、保護層用バインダーの含有量は、保護層用組成物の固形分全量基準で、4~55質量%が好ましく、より好ましくは6~45質量%、さらに好ましくは7~35質量%である。さらに、保護層用組成物の全固形分のうち、絶縁性微粒子及び保護層用バインダーの総含有量は、85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0044】
保護層は、保護層用組成物を、電極活物質層の上に塗布して、必要に応じて乾燥することで形成できる。保護層用組成物を電極活物質層の表面に塗布する方法は特に限定されず、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、バーコート法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等が挙げられる。これらの中では、保護層を均一に塗布する観点から、バーコート法又はグラビアコート法が好ましい。
また、保護層形成時の乾燥温度は、例えば50~120℃、好ましくは55~90℃である。乾燥時間は、特に限定されないが、例えば、30秒~10分間である。
【0045】
本製造方法では、上記保護層用組成物の塗布により、電極活物質層中の電極活物質用バインダーが溶媒により少なくとも一部が溶解することで、活物質層成分が電極活物質層より遊離する。遊離した活物質層成分は、保護層形成時に保護層に混入され、保護層の表面などに分布される。このように、本製造方法では、導電性の高い活物質層成分を容易に保護層に混入させることが可能になる。
【0046】
電極活物質層は、上記したように、電極活物質用バインダーとして第1のバインダーを含むことが好ましい。第1のバインダーは、保護層用組成物における溶媒とのSP値との差が10MPa1/2以下である。このように、本製造方法では、電極活物質用バインダーに含まれる第1のバインダーと、保護層用組成物における溶媒のSP値との差を小さくすることで、溶媒の第1のバインダーに対する親和性が高くなる。そのため、保護層形成時に、電極活物質層中の第1のバインダーが溶媒により部分的に溶解して、それにより、活物質層成分が電極活物質層から遊離しやすくなる。
【0047】
保護層用組成物における溶媒と第1のバインダーのSP値の差は、8MPa1/2以下が好ましい。また、保護層用組成物における溶媒と第1のバインダーのSP値の差は、3MPa1/2以上が好ましく、4MPa1/2以上がより好ましい。このように、溶媒と第1のバインダーのSP値の差を一定値以上とすることで、保護層に活物質層成分が大量に混入することが防止され、保護層表面における活物質層成分の占有面積が上記した所定の範囲内に調整しやすくなる。
【0048】
また、保護層用組成物は、上記したように保護層用バインダーとして第2のバインダーを含むことが好ましい。第2のバインダーは、保護層用組成物における溶媒とのSP値の差が10MPa1/2以下である。本製方法では、第1のバインダーに加えて、保護層用バインダーに含まれる第2のバインダーも、保護層用組成物における溶媒とのSP値の差を小さくすることで、保護層を均一に形成しつつ、活物質層成分が適度に保護層に混入されるので、保護層表面における活物質層成分の占有面積が所定の範囲内に調整しやすくなる。
【0049】
保護層用組成物における溶媒と第2のバインダーのSP値の差は、8MPa1/2以下がより好ましい。また、保護層用組成物における溶媒と第2のバインダーのSP値の差は、3MPa1/2以上が好ましく、4MPa1/2以上がより好ましい。溶媒と第2のバインダーのSP値の差をこのように調整することで、保護層表面における活物質層成分の占有面積を所定の範囲内に調整しやすくなる。
【0050】
保護層用組成物における溶媒のSP値は、好ましくは20~30MPa1/2である。SP値がこの範囲内の溶媒を使用することで、第1及び第2のバインダーとのSP値の差を上記範囲内に調整しやすくなる。保護層用組成物における溶媒のSP値は、好ましく21~28MPa1/2、より好ましくは22~25MPa1/2である。
また、保護層用組成物における溶媒の具体例としては、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミドから選択される1種又は2種以上が挙げられる。これらの中では、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドが好ましく、N-メチルピロリドンがより好ましい。
【0051】
保護層用組成物の固形分濃度は、好ましくは5~75質量%、より好ましくは15~50質量%である。
また、保護層用組成物の粘度は、好ましくは1000~3000mPa・s、より好ましくは1700~2300mPa・sである。なお、粘度とは、B型粘度計で60rpm、25℃の条件で測定した粘度である。
【0052】
本製造方法では、保護層表面における活物質層成分の占有面積は、上記のように、溶媒とバインダーのSP値の差により調整できるが、それ以外の様々ファクターによっても調整される。例えば、導電助剤を粒子状にし、かつ粒径を比較的小さくしたり、電極活物質層における導電助剤の含有量を多くしたりすることで、導電助剤が遊離しやすくなり、保護層表面における活物質層成分の占有面積を大きくしやすくなる。
また、保護層形成時の乾燥温度を上記下限値以上とすることで、活物質層成分が保護層の表面に分布した状態で固定されやすくなると推定され、それにより、上記した保護層表面における活物質層成分の占有面積を大きくしやすくなる。
また、電極活物質層の空隙率を高くしたり、電極活物質層における電極活物質用バインダーの含有量を少なくしたりすることで、活物質層成分は正極層から遊離しやすくなるので、活物質層成分の占有面積を大きくしやすくなる。
【0053】
以上の説明では、本発明のリチウムイオン二次電池用電極が正極である場合の例を説明したが、リチウムイオン二次電池用電極は負極であってもよい。負極である場合、電極活物質層は、負極活物質層となり、電極活物質が負極活物質となる。
負極活物質層に使用される負極活物質としては、グラファイト、ハードカーボンなどの炭素材料、スズ化合物とシリコンと炭素の複合体、リチウムなどが挙げられるが、これら中では炭素材料が好ましく、グラファイトがより好ましい。負極活物質は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、電極集電体は負極集電体となる。正極集電体となる材料は、上記負極集電体に使用される化合物と同様であるが、好ましくはアルミニウム又は銅、より好ましくは銅が使用される。
リチウムイオン二次電池用電極が負極である場合のその他の構成は、正極である場合と同様であるのでその他の構成の説明は省略する。
【0054】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記した保護層を有するリチウムイオン二次電池用電極を有する。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に配置されるセパレータとを備え、正極及び負極の少なくとも一方の電極が、上記した本発明のリチウムイオン二次電池用電極となり、その電極にはセパレータ側の表面に保護層が設けられる。
【0055】
セパレータとしては、多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が挙げられ、これらの中では多孔性の高分子膜が好ましい。多孔性の高分子膜としては、オレフィン系多孔質フィルムが例示される。オレフィン系多孔質フィルムは、エチレン系多孔質フィルムが好ましい。
【0056】
本発明のリチウムイオン二次電池は、セパレータが設けられることで、正極及び負極の間の短絡が防止される。また、セパレータは、後述する電解質を保持してもよい。正極又は負極に設けられる保護層は、セパレータに接触していてもよいし、接触していなくてもよいが、接触することが好ましい。
本発明では、上記した保護層が設けられることで、セパレータの表面の酸化劣化が防止される。特に、セパレータの正極に対向する面は酸化劣化しやすいので、正極として、上記した保護層を有するリチウムイオン二次電池用電極を使用することで、セパレータの酸化劣化をより有効に防止できる。また、保護層は、上記したように、活物質層成分が混入され、かつ表面における活物質層成分の占有面積が所定の範囲となることで、電極の抵抗値を低くしつつ、セパレータの酸化劣化を防止できる。
【0057】
リチウムイオン二次電池は、陰極、正極がそれぞれ複数積層された多層構造であってもよい。この場合、陰極及び正極は、積層方向に沿って交互に設けられればよい。また、セパレータが使用される場合、セパレータは各陰極と各正極の間に配置されればよい。多層構造とする場合も、正極が、上記した保護層を有するリチウムイオン二次電池用電極を使用することが好ましいが、他層構造の場合においては、正極は、正極集電体の両面に正極活物質層が形成され、両面それぞれの正極活物質層の上に保護層が形成されることが好ましい。このように、正極の両面に保護層が設けられると、セパレータ表面の酸化劣化がより有効に防止される。
【0058】
もちろん、負極が上記した保護層を有するリチウムイオン二次電池用電極であってもよい。その場合、負極の両面に上記保護層が設けられることが好ましい。すなわち、負極は、負極集電体の両面に負極活物質層が形成され、両面それぞれの負極活物質層の上に保護層が形成されることが好ましい。
リチウムイオン二次電池において、上記した陰極及び正極、又は陰極、正極、及びセパレータは、バッテリーセル内に収納される。バッテリーセルは、角型、円筒型、ラミネート型などのいずれでもよい。
【0059】
リチウムイオン二次電池は、電解質を備える。電解質は特に限定されず、リチウムイオン二次電池で使用される公知の電解質を使用すればよい。電解質としては例えば電解液を使用する。
電解液としては、有機溶媒と、電解質塩を含む電解液が例示できる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトロヒドラフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルアセテートなどの極性溶媒、又はこれら溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。電解質塩としては、LiClO、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCF、LiCFCO、LiPFSO、LiN(SOCF、Li(SOCFCF、LiN(COCF及びLiN(COCFCF、リチウムビスオキサレートボラート(LiB(C等のリチウムを含む塩が挙げられる。また、有機酸リチウム塩-三フッ化ホウ素錯体、LiBH等の錯体水素化物等の錯体が挙げられる。これらの塩又は錯体は、1種単独で使用してもよいが、2種以上の混合物であってもよい。
また、電解質は、上記電解液に更に高分子化合物を含むゲル状電解質であってもよい。高分子化合物としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸メチル等のポリアクリル系ポリマーが挙げられる。なお、ゲル状電解質は、セパレータとして使用されてもよい。
電解質は、陰極及び正極間に配置されればよく、例えば、電解質は、上記した陰極及び正極、又は陰極、正極、及びセパレータが内部に収納されたバッテリーセル内に充填される。また、電解質は、例えば、陰極又は正極上に塗布されて陰極及び正極間に配置されてもよい。
【実施例
【0060】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
得られたリチウムイオン二次電池用電極は、以下の評価方法により評価した。
(酸化劣化)
実施例、比較例で作製したセルを8A、4.2Vの定電流の後、0.8Aの電流値となるまで定電圧充電で充電を行った。その後温度制御可能な恒温槽に入れ、60℃に設定した。60℃に到達後は1週間静置した。1週間経過後、2.5Vまで放電したセルを開封し、セパレータを単離した。セパレータの外観を観察し、黒色に変化している面積を計算し、以下の評価基準で評価した。
A:黒色変化面積が1%未満
B:黒色変化面積が1%以上3%未満
C:黒色変化面積が3%以上10%未満
D:黒色変化面積が10%以上
【0062】
(抵抗測定)
各実施例、比較例で作成した保護層を有する正極の体積抵抗率を測定し、以下の評価基準で評価した。測定条件は、以下のとおりであった。
測定装置:日置電機株式会社製、超絶縁計「SM7120」
電流条件:20nA
測定項目:抵抗値
<評価基準>
A:1000TΩ/cm以上
B:100TΩ/cm以上1000TΩ/cm未満
C:10TΩ/cm以上100TΩ/cm未満
D:100TΩ/cm未満
【0063】
(保護層表面における活物質層成分の占有面積)
保護層表面における活物質層成分の占有面積は、保護層の表面を走査型電子顕微鏡で50倍に拡大して、2mm×4mmの領域を観察した。2mm×4mmの領域において、電極活物質及び導電助剤が占有する面積の合計を測定して、観察領域の面積に対する、電極活物質及び導電助剤の合計占有面積の割合より占有面積を算出した。
【0064】
(保護層の厚さ)
保護層の厚さは、保護層の塗布量と空隙率から計算して算出する。実施例、比較例によって得られた保護層形成前の電極と、保護層形成後の電極を用意した。保護層形成前後の電極を5cm×5cmの大きさに切り出し、天秤を使用して重量を測定した。その後、下記計算によって、塗布量を計算した。
塗布量[g/m2]=(保護層形成後の電極重量[g]-保護層形成前の電極重量[g])÷(25/10000[m2])
別途算出した保護層の密度を用い、下記の式によって厚みを計算した。
厚み[μm]= 保護層塗布量[g/m2] ÷密度[g/cm3
なお、保護層の密度の算出方法は、以下のとおりである。
厚さ15μmのアルミニウム箔上に、厚さ4μmになるように塗工した以外は、各実施例、比較例と同様の条件で保護層用組成物を塗工し乾燥して、保護層つきアルミ箔を得た。厚み計(商品名「デジマイクロ MF-501」、株式会社ニコン製)で厚みを測定し保護層の厚みを算出した。100cm2の大きさに切り出した保護層つきアルミ箔の重量を測定し、同面積のアルミ箔の重量を引くことで保護層の単位面積当たりの重量を算出した。保護層の単位面積当たりの重量を保護層の厚みで除することで、保護層の密度を算出した。
【0065】
(電極活物質層の厚さ)
電極活物質層の厚さは、株式会社ニコン製「MF-101」を使用して測定した。
(電極活物質層の空隙率)
電極作成に使用した電極集電体(正極集電体)を16mmφに打ち抜き、打ち抜いた電極集電体の厚み(A[μm])を厚み計を用いて0.1μmの精度で測定するとともに、電極集電体の重量(B[g])を天秤を用いて10mgの精度で計測した。同様に、各実施例、比較例と同様に、絶縁層形成前の電極(正極)を用意し、電極集電体と同様に、16mmφに打ち抜き、厚み(a[μm])、及び重量(b[g])を測定した。
得られた厚み、及び重量の測定値から以下の計算式を用いて、電極密度を計算した。なお、厚み計は、株式会社ニコン製、製品名「デジマイクロ」、型番「MF-501」を使用した。また、天秤としては、ザルトリウス社製、製品「MSA-225」を使用した。
電極密度[g/cc] =(b-B)÷{(a-A)÷5000}
下記の計算式を用いて、空隙率とした。なお、以下の式において、Cは電極活物質層を構成する材料の密度[g/cc]の加重平均値であり、本実施例、比較例では、4.9g/ccであった。
(空隙率[%])=100-{(電極密度)÷C}×100
【0066】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質としてNCA系酸化物(〔Li(Ni-Co-Al)O2〕、平均粒子径10μm)を92質量部と、導電助剤として一次粒子径30nmのケッチェンブラック4質量部と、第1のバインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF,SP値:19.1MPa1/2)4質量部と、溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP、SP値:23.1MPa1/2)とを混合し、固形分濃度60質量%に調整した正極活物質層用スラリーを得た。この正極活物質層用スラリーを正極集電体としての厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。その後、両面に正極活物質層用スラリーを塗布した正極集電体を、400kN/mの線圧でローラにより加圧プレスし、更に電極寸法の100mm×200mm角に打ち抜いて、両面に正極活物質層を有する正極とした。該寸法のうち、正極活物質が塗布された面積は100mm×180mmであった。なお、両面に形成された正極活物質層の厚さは、片面あたり50μmであった。
【0067】
(負極の作製)
負極活物質としてグラファイト(平均粒子径10μm)100質量部と、電極活物質用バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR、SP値:19.1MPa1/2)1.5質量部、及びカルボキシメチルセルロース(CMC,SP値:35.3MPa1/2)のナトリウム塩を1.5質量部と、溶媒として水とを混合し、固形分50質量%に調整した負極活物質層用スラリーを得た。この負極活物質層用スラリーを、負極集電体としての厚さ12μmの銅箔の両面に塗布して100℃で真空乾燥した。その後、両面に負極活物質層用スラリーを塗布した負極集電体を、300kN/mの線圧でローラにより加圧プレスし、更に電極寸法の110mm×210mm角に打ち抜いて、両面に負極活物質層を有する負極とした。該寸法のうち、負極活物質が塗布された面積は110mm×190mmであった。なお、両面に形成された負極活物質層の厚さは、片面あたり50μmであった。
【0068】
(電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の体積比(EC:DEC)で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPFを1モル/リットルとなるように溶解して、電解液を調製した。
【0069】
(保護層の形成)
ポリフッ化ビニリデン溶液(株式会社クレハ製、製品名:L#1710、10質量%溶液、溶媒:NMP)に、絶縁性微粒子としてアルミナ粒子(日本軽金属社製、製品名:AHP200、平均粒子径0.4μm)を加えながら、固形分基準で、アルミナ粒子100質量部、ポリフッ化ビニリデン(第2のバインダー、SP値:19.1MPa1/2)10質量部となるように混合して分散させてスラリーを得た。
このスラリーにNMP(SP値:23.1MPa1/2)を、固形分濃度が30質量%となるようにさらに加え、撹拌機で30分間穏やかに撹拌し、目開き80μmのフィルターでろ過して保護層用スラリーを得た。保護層用スラリーの粘度は1800mPa・sであった。なお、粘度は、B型粘度計で60rpm、25℃の条件で測定したものである。
保護層用スラリーを、バーコーターで、正極の正極活物質層の表面に塗布した。その塗膜を60℃で10分間乾燥することによって、各正極活物質層の表面に保護層を形成し、次いで反対側を同様に塗工し両面に保護層を有する正極を得た。保護層の厚みを測定したところ4μmであった。その他の物性は表1に記載されるとおりである。
【0070】
得られた保護層の表面を上記評価方法に従って走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察画像中に、比較的大きな黒色の斑点が20個ほど見られた。その斑点の中には、白色の小さな点が複数見られた。また、その斑点の間に多数の黒色及び白色の小さな点が見られた。白色は正極活物質が混入された領域であり、黒色は導電助剤が混入された領域であり、これら白色及び黒色の領域を活物質層成分に占有された領域とした。以下の各実施例でも、同様に、比較的大きな斑点が複数個見られ、黒色及び白色の小さな点が多数見られた。
【0071】
(電池の製造)
上記で得た負極10枚と、保護層を有する正極9枚と、セパレータ18枚を積層して積層体を得た。ここで、負極と正極は交互に配置して、各負極と正極の間にセパレータを配置した。また、セパレータとしては、ポリエチレン系多孔質フィルムを用いた。
各正極の正極集電体の露出部の端部を纏めて超音波融着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。同様に、各負極の負極集電体の露出部の端部を纏めて超音波融着で接合するとともに、外部に突出する端子用タブを接合した。
次いで、アルミラミネートフィルムで上記積層体を挟み、端子用タブを外部に突出させ、三辺をラミネート加工によって封止した。封止せずに残した一辺から、上記で得た電解液を注入し、真空封止することによってラミネート型のセルを製造した。
【0072】
[実施例2]
正極活物質層用スラリーの調製において、正極活物質を89質量部、導電助剤を6質量部、第1のバインダーを5質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0073】
[実施例3]
正極活物質層用スラリーの調製において、正極活物質を94質量部、導電助剤を3質量部、第1のバインダーを3質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
【0074】
[実施例4]
保護層用スラリーの溶媒を、ジメチルアセトアミド(SP値22.1MPa1/2)に変更し、保護層用スラリーが、固形分基準で、アルミナ粒子100質量部、ポリフッ化ビニリデン10質量部からなり、固形分濃度30質量%となるようにした点を除いて実施例1と同様に実施した。なお、保護層用スラリーの粘度は1700mPa・sであった。
【0075】
[実施例5]
保護層用バインダー(第2のバインダー)をポリメタクリル酸メチル(PMMA,SP値:21.1MPa1/2)に変更し、固形分基準で、アルミナ粒子100質量部、ポリメタクリル酸メチル9質量部からなり、かつ固形分濃度が30質量%となるようにNMPを溶媒として含有するように調整して得たスラリーを、保護層用スラリーとして使用した点以外は、実施例1と同様に実施した。保護層用スラリーの粘度は1900mPa・sであった。
【0076】
[比較例1]
正極活物質層用スラリーの調製において、正極活物質を97質量部、導電助剤を1質量部、第1のバインダーを2質量部に変更した点を除いて実施例1と同様に実施した。
得られた保護層の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察画像中に、多数の黒色及び白色の小さな点が見られたが、大きな斑点は見られなかった。これら白色及び黒色の領域を活物質層成分に占有された領域とした。
【0077】
[比較例2]
保護層用スラリーを以下のようにして調製した点を除いて実施例1と同様に実施した。保護層用バインダーの溶媒を水(SP値:48MPa1/2)に変更し、保護層用バインダーをアクリル樹脂粒子(SP値:9MPa1/2)のエマルジョンとカルボキシメチルセルロース(SP値:35.3MPa1/2)を保護層用スラリーに配合した。比較例2の保護層用スラリーでは、アルミナ粒子(日本軽金属社製、製品名:AHP200、平均粒子径0.4μm)100質量部、アクリル樹脂粒子9質量部となるように固形分濃度が30質量%となるように調製した。
得られた保護層の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察画像中に、多数の黒色及び白色の小さな点が見られたが、大きな斑点は見られなかった。これら白色及び黒色の領域を活物質層成分に占有された領域とした。
【0078】
[比較例3]
(保護層用スラリーの作製)
ポリフッ化ビニリデン溶液(株式会社クレハ製、製品名:L#1710、10質量%溶液、溶媒:NMP)に、絶縁性微粒子としてアルミナ粒子(日本軽金属社製、製品名:AHP200、平均粒子径0.4μm)を加えながら、固形分基準で、アルミナ粒子100質量部、ポリフッ化ビニリデン(第2のバインダー、SP値:19.1MPa1/2)10質量部となるように混合して分散させてスラリーを得た。このスラリーにNMP(SP値:23.1MPa1/2)を、固形分濃度が30質量%となるようにさらに加え、撹拌機で30分間穏やかに撹拌した。次いで、スラリーに、導電助剤として一次粒子径30nmのケッチェンブラック2質量部を配合して、目開き80μmのフィルターでろ過したところ、固体凝集物が分取され、均一なスラリーが得られなかった。
【0079】
【表1】
【0080】
以上の実施例1~5に示すように、活物質層成分を、絶縁層の表面において所定の占有面積となるように保護層に混入させることで、電極の抵抗値を低く維持しつつ、セパレータの酸化劣化を防止できた。それに対して、比較例1,2では、絶縁層の表面における活物質層成分の占有面積が小さいので、電極の抵抗値を低くできなかった。また、比較例3に示すように、保護層用スラリーに導電助剤を配合すると凝集が生じて、保護層を形成することができなかった。
【符号の説明】
【0081】
10 リチウムイオン二次電池用電極
11 電極活物質層
12 保護層
12A 保護層の表面
13 電極集電体
図1