(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】乳酸菌発酵物
(51)【国際特許分類】
C12P 33/00 20060101AFI20221003BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20221003BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20221003BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20221003BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20221003BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20221003BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20221003BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221003BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20221003BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221003BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20221003BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221003BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221003BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20221003BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20221003BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20221003BHJP
A61K 31/58 20060101ALI20221003BHJP
C12R 1/225 20060101ALN20221003BHJP
【FI】
C12P33/00
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A61K36/258
A61K35/747
A61P1/16
A61P3/06
A61P3/04
A61P3/10
A61P17/14
A61P9/00
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P21/00
A61P25/28
A61P25/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P37/04
A61P29/00
A61P19/00
A61P39/06
A61P7/04
A61P7/02
A61K31/58
C12R1:225
(21)【出願番号】P 2018062512
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2020-09-23
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02662
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-02663
(73)【特許権者】
【識別番号】517298378
【氏名又は名称】株式会社ナガセビューティケァ
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】下条 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】位上 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】野渕 翠
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 寿次
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久富
【審査官】上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0140899(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0002552(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0067076(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0066071(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0029955(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0121287(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 33/00
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo-ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)により発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法。
【請求項2】
発酵物がジンセノシドF2(F2)を含有してなる、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
発酵物における、ジンセノシドF2(F2)とジンセノシドRe(Re)の含有量比(F2/Re)が0.001以上である、請求項
1又は
2記載の方法。
【請求項4】
発酵物が、抗腫瘍、抗肥満、育毛、抗健忘症、肝保護作用、抗動脈硬化、老化防止、抗高脂血症、抗血栓、血圧降下作用、免疫機能改善、血糖値低下作用、鎮痛作用、強心作用、抗炎症作用、末梢血流改善作用、止血作用、抗酸化作用、抗筋委縮作用、骨量増加作用及び抗ストレス用から選択された少なくとも1種の用途に使用するためのものである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)。
【請求項6】
ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌発酵物に関する。より詳しくは、本発明は、乳酸菌発酵物、該発酵物を含有する組成物及び該発酵物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オタネニンジン(Panax ginseng, C.A. Meyer)は中国、朝鮮半島、日本を中心に古来より生薬として利用されてきた。その有用成分はジンセノシド(ginsenoside)と呼ばれるダマラン骨格を有したサポニン類(ニンジンサポニン)と言われ、抗酸化や、抗糖尿病、抗肥満、高血圧、抗がんなど様々な生理作用が研究により見出されている(非特許文献1)。
【0003】
ジンセノシドRb1、Rb2、Rc、Rdのようなプロトパナキサジオール型のニンジンサポニンは腸内細菌によって、様々な代謝物に代謝変換された後に腸管壁を通過して血中へ移行するとされ、20S-protopanaxadiol 20-O-beta-D-glucopyranoside(別名:M1、compound K)がこれまでニンジンサポニンによる生理作用の中心的な活性成分と考えられている。
【0004】
一方で、「M1」への代謝の一つ前の産物である「ジンセノシドF2」と呼ばれる成分には「M1」と同様に抗腫瘍活性や抗肥満効果だけでなく(非特許文献2、3)、インスリン抵抗性を緩和する効果(特許文献1)や育毛効果についても報告されており(非特許文献4)、血中へもマウス実験により「ジンセノシドF2」の形のまま移行が報告されている(非特許文献5)ことからも「M1」とは異なる作用機序並びに健康維持に関する生理活性を発揮する可能性も期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of Ginseng Research 37, 261-268(2013)
【文献】J Enzyme Inhib Med Chem. 30,9-14 (2015)
【文献】Phytomedicine. 21, 515-22 (2014)
【文献】Biol Pharm Bull. 37, 755-63. (2014)
【文献】Pharm Res. 30, 836-46 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乳酸菌によりジンセノシドに働きかけ、生理活性上中心的な代謝物である「M1」を高含有する発酵オタネニンジンについての先行技術文献はいくつか報告されている。しかしながら代謝において「M1」のひとつ前の段階の成分である「ジンセノシドF2」までの代謝を示し、高含有化に繋がる製造方法は代謝の制御上困難であった。これは一般的に乳酸菌を含め微生物は株が異なれば代謝活性の有無、その強さも異なり、望まれた活性を有する特定の株の取得が必要となり多数の検体を評価しなければならない事にも起因する。
【0008】
本発明は、新規発酵物、該発酵物を含有する組成物及び該発酵物の製造方法等に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決せんと鋭意検討した結果、一般的に豊富に含まれる「ジンセノシドRb1」から「M1」への代謝の過程で、「ジンセノシドF2」の段階で代謝を停止・もしくは抑制しうる乳酸菌株を独自に自然界から入手する事に成功し、さらなる検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記〔1〕~〔11〕に関する。
〔1〕 オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo-ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンの、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)による発酵物。
〔2〕 発酵物がジンセノシドF2(F2)を含有してなる、前記〔1〕記載の発酵物。
〔3〕 ジンセノシドF2(F2)とジンセノシドRe(Re)の含有量比(F2/Re)が0.001以上である、発酵物。
〔4〕 前記〔1〕又は〔2〕記載の発酵物である、前記〔3〕記載の発酵物。
〔5〕 前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の発酵物を含有してなる、組成物。
〔6〕 抗腫瘍、抗肥満、育毛、抗健忘症、肝保護作用、抗動脈硬化、老化防止、抗高脂血症、抗血栓、血圧降下作用、免疫機能改善、血糖値低下作用、鎮痛作用、強心作用、抗炎症作用、末梢血流改善作用、止血作用、抗酸化作用、抗筋委縮作用、骨量増加作用及び抗ストレス用から選択された少なくとも1種の用途に使用するための、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の発酵物又は組成物。
〔7〕 オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo-ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種のウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)により発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法。
〔8〕 発酵物がジンセノシドF2(F2)を含有してなる、前記〔7〕記載の方法。
〔9〕 発酵物における、ジンセノシドF2(F2)とジンセノシドRe(Re)の含有量比(F2/Re)が0.001以上である、前記〔7〕又は〔8〕記載の方法。
〔10〕 ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)。
〔11〕 ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、新規な発酵物を提供できる。このような本発明の発酵物は、通常、「ジンセノシドF2」を豊富に含むという優れた効果を奏するものである。また、「ジンセノシドF2」を豊富に含むことから、「M1」の製造原料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、薄層クロマトグラフィーによる発酵培地の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の発酵物は、ウコギ科薬用ニンジンの、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)による発酵物であることを特徴とする。なお、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及びラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:郵便番号292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、平成30年(2018年)3月6日(受託日)に、受託番号NITE P-02662、受託番号NITE P-02663としてそれぞれ寄託されている。
【0014】
ウコギ科薬用ニンジンは、発酵により「ジンセノシドF2」を生成可能なニンジンであってもよい。
ウコギ科薬用ニンジンとしては、例えば、オタネニンジン(高麗人参;Korean ginseng:Panax C.A.Meyer)、三七ニンジン(Panax notoginseng Burk.)、アメリカニンジン(Panax quinquefolium L.)、竹節ニンジン(Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤニンジン(Panax Pseudo-ginseng Qall.Subsp.Himalaicus Hara)及びベトナムニンジン(Panax Vuetnamensis Ha et Grushv.)からなる群より選択される少なくとも1種などが挙げられる。本発明の効果が損なわれない範囲内であれば、その他の薬用ニンジンが含まれていてもよい。
【0015】
上記薬用ニンジンとしては、天然品もその加工品も使用することができる。加工品としては、例えば、薬用ニンジンの乾燥物、裁断物、粉砕物、抽出物、ペースト等が挙げられる。前記乾燥方法、裁断方法、粉砕方法、抽出方法、ペースト状化方法は、従来公知の方法を使用することができる。その大きさは、特に限定されないが、例えば、平均長径が0.2mm以下に裁断、粉砕、抽出、ペースト状化されることが好ましい。薬用ニンジンとしては、前記した処理を行って調製したものであっても、市販品であってもよい。
【0016】
本発明において使用される薬用ニンジンの部位は、特に限定されず、どの部位でも使用することができる。例えば、根、茎、葉、花蕾、果実、全草等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を使用することができる。好ましくは根等であり、より好ましくは、側根、主根等である。
【0017】
薬用ニンジンの発酵物は、前記ニンジンを、微生物を用いて発酵させることにより得られる生産物である。発酵方法は、従来十分に確立されており(例えば、特許3678362号公報に記載の方法)、本発明もそれに従ってよい。前記発酵は、例えば、薬用ニンジンを含有する培地を常法により減菌処理した後、該培地に微生物を接種し、発酵する方法が好ましく挙げられる。
【0018】
本発明において使用される培地は、特に限定されないが、例えば、微生物の培養に通常使用される炭素源、窒素源、ミネラル源等を含むもの等を使用することができ、天然培地又は合成培地等を用いることができる。好ましくは、液体培地を用いる。
【0019】
培地に添加する窒素源としては、特に限定されないが、無機態窒素源としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩等が挙げられ、有機態窒素源としては、例えば、ペプトン、ポリペプトン、尿素、アミノ酸、タンパク質、大豆ペプチド等のペプチド類等が挙げられる。窒素源は、好ましくは、ペプトン、ポリペプトン、ペプチド等である。また、ミネラル源としては、特に限定されないが、酵母エキスや肉エキスの他、K、P、Mg、S等を含む、例えば、リン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。これらの窒素源、ミネラル源は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。培地中の窒素源の濃度は、微生物が生育できる通常の濃度であればよく、特に限定されない。培養開始時の窒素源の濃度は、通常は、約0.05~10重量%が好ましく、約0.1~5重量%がより好ましい。
【0020】
前記培地は、前記の窒素源、ミネラル源に加えて、さらに、炭素源、無機質、pH緩衝剤等を添加しても良い。無機質としては、特に限定されないが、例えば、硫酸アンモニウム、リン酸カリウム、塩化マグネシウム、食塩、鉄、マンガン、モリブデン、各種ビタミン類等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。pH緩衝剤としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム等が好ましく挙げられる。
【0021】
薬用ニンジンの使用量は、特に限定されず、その種類、形状、乾燥状態、及び培養条件等に応じて適宜選択され得る。薬用ニンジンと培地全量の重量比(薬用ニンジン/培地全量)としては、好ましくは1/100~50/100であり、より好ましくは5/100~20/100であり、更に好ましくは10/100~15/100である。本発明において、薬用ニンジンの重量は、内温約100~180℃で約1~6時間乾燥させた薬用人参に換算したものであることが好ましい。前記培地は、上述した薬用ニンジン以外の成分や添加剤を含んでも良い。
【0022】
前記培地のpHは、例えば約3~7とすることが好ましく、約5~6.5とすることがより好ましい。pHを制御してもよく、酸又はアルカリを用いてpHの調整を行うことができる。
【0023】
前記培地に前記薬用ニンジンを添加することにより薬用ニンジン含有培地が得られる。該培地を常法により滅菌した後、該培地に微生物を接種して発酵することにより、薬用ニンジンの発酵物が得られる。滅菌方法としては、例えば、加熱滅菌、高圧蒸気滅菌、ろ過滅菌等が挙げられ、これらに限定されることなく従来公知の方法を使用することができる。
【0024】
本発明で用いられる微生物は、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)である。なお、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、その他の公知の乳酸菌を用いてもよい。
【0025】
ラクトバチルス属菌の使用量は、前記の特定菌体を用いるのであれば特に限定はなく、当業者によって適宜設定され得る。
【0026】
かかるラクトバチルス属菌を用いて薬用ニンジンを発酵させる。
【0027】
具体的には、例えば、前記した薬用ニンジン含有培地に、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)を添加し、好ましくは25~37℃、より好ましくは28~33℃で発酵させる。発酵時間は、仕込み液の組成、植菌量、発酵温度などに応じて適切に設定することが可能であり、例えば、2~21日、7~14日などが例示される。なお、前記菌体を双方使用する場合は、別々に培地に添加して発酵させても、同一の培地に組み合わせて添加して発酵させてもよい。
【0028】
以上のようにして得られた発酵物には、ジンセノシドF2(F2)が多く含まれている。このような発酵物は、ジンセノシドF2(F2)含有発酵物と称することができる。
そのため、本発明には、ジンセノシドF2を含有する発酵物(発酵組成物)も包含する。
このような発酵物は、その製造方法において特に限定されないが、上記の特定の微生物を用いることにより、効率良く製造しうる。
【0029】
発酵物中、ジンセノシドF2(F2)とジンセノシドRe(Re)の含有量比(F2/Re)は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.1以上、更に好ましくは1以上である。
【0030】
得られた発酵物に対しては、所望により、ろ過、遠心分離、濃縮、限外ろ過、凍結乾燥、粉末化、分画等の処理を公知の方法に従って行ってもよく、目的物(例えば、F2を含む画分)そのものを単離して又は培地を含むものをそのまま製剤化したり、飲食品(健康食品)等の原材料に用いることが可能な形態に調製したりしてもよい。よって、本発明の発酵物の一態様として前記処理物が含まれる。
【0031】
本発明はまた、前記発酵物を含有してなる組成物を提供する。かかる発酵物又は組成物は、例えば、抗腫瘍、抗肥満、育毛、抗健忘症、肝保護作用、抗動脈硬化、老化防止、抗高脂血症、抗血栓、血圧降下作用、免疫機能改善、血糖値低下作用、鎮痛作用、強心作用、抗炎症作用、末梢血流改善作用、止血作用、抗酸化作用、抗筋委縮作用、骨量増加作用及び抗ストレス用から選ばれる少なくとも1種の作用の発揮を期待して好適に使用することができる。
【0032】
本発明の発酵物又は組成物は、ジンセノシドF2(F2)やジンセノシドRe(Re)以外に、ジンセノシドRb1、ジンセノシドRb2、ジンセノシドRc、ジンセノシドRd、ジンセノシドRg1、ジぺノシドXVIIなどを含有してもよい。それらの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に限定されない。
【0033】
本発明の組成物は、本発明の発酵物を体内に摂取できるのであれば、その形態は限定されない。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、乳剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の経口製剤又は非経口製剤として製剤化することができる。
【0034】
本発明の発酵物又は組成物の投与条件は、その形態や投与目的、当該組成物の投与対象の種類、年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。例えば、F2の有効ヒト投与量として、一日当たり、好ましくは0.01~100mg/kg程度、より好ましくは1~50mg/kg程度となるよう設定することができる。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。
【0035】
本発明の発酵物又は組成物の投与対象としては、好ましくは抗腫瘍、抗肥満、育毛、抗健忘症、肝保護作用、抗動脈硬化、老化防止、抗高脂血症、抗血栓、血圧降下作用、免疫機能改善、血糖値低下作用、鎮痛作用、強心作用、抗炎症作用、末梢血流改善作用、止血作用、抗酸化作用、抗筋委縮作用、骨量増加作用及び抗ストレス用から選ばれる少なくとも1種の作用の発揮を必要とするヒトであるが、ウシ、ウマ、ヤギ等の家畜動物、イヌ、ネコ、ウサギ等のペット動物、又は、マウス、ラット、モルモット、サル等の実験動物であってもよい。
【0036】
上記形態を有する本発明の組成物は、本発明の発酵物を含有するものであれば、常法に従って、製剤分野等において通常使用される担体、基剤、及び/又は添加剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合して調製することができる。具体的には、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、及び必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤、抗酸化剤等を使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を、本発明の効果を損なわない範囲内で適量配合して常法により製剤化される。本発明の発酵物の含有量は、剤型、投与方法、担体等により異なるが、本発明の組成物中、通常0.01~100重量%、好ましくは0.1~95重量%である。
【0037】
また、本発明は、ウコギ科薬用ニンジンを、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及び/又はラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)により発酵させることを特徴とする、発酵物の製造方法を提供する。ここで、原料の薬用ニンジンや使用する微生物、その発酵方法としては、本発明の発酵物を参照して設定することができる。このような方法によれば、前記のように、ジンセノシドF2を含有する発酵物を効率よく得やすい。ジンセノシドF2の含有割合等もまた、前記と同様であってもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
試験例1
(1) 1gのオタネニンジン末に0.2gの炭酸カルシウムを加え、先ずミリQ10mLに懸濁して121℃15分加熱滅菌を実施した。
(2) その後滅菌ミリQ10mLを更に加え、計20mLとした。
(3) そこへ乳酸菌を予め一般乳酸菌培地(日水)5mLで3日間培養した菌体を500μL加えて、良く混ぜ、37℃にて静置して発酵を開始した。
(4) 開始後9日目と19日目の時点でピペットでよく懸濁したもの500μLを取り、等量のエタノールを加えてボルテクスを5秒行い15000rpmで5分遠心を実施した。
(5) その上清より7μLとり、TLCプレートにスポットして、展開を実施した。展開液は酢酸エチル:メタノール:水=14:5:4(v/v/v)を使用した。その後検出液を噴霧して各成分の検出を実施した。バニリン3gをエタノール30mLに溶解したものに3mol/Lの硫酸を100mL添加したものを検出液として使用した。なお、ジンセノシド標品の発酵処理は市販されているジンセノシドRb1標品を発酵基質として各種菌体ペレットに加えて同様の操作を行った。
(6) また、発酵開始後19日目の時点でTLCへ供した上清をHPLCへ供し定量分析を実施した。分析条件としては、カラム(YMC-Pack ODS-A 250×4.6mm)、カラムオーブン40℃、A液:水、B液:アセトニトリル、流速:1mL/分、検出:203nm、で実施し、ジンセノシドF2の分析ではB液50%、ジンセノシドReの分析ではB液20%のイソクラチック条件下で実施した。
【0040】
図1に示すように、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及びラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)を用いて発酵することで、F2の生成量が飛躍的に増加した。
【0041】
表1~2に示すように、ラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1887株(受託番号NITE P-02662)及びラクトバチルス・パラカゼイ DNBL1888株(受託番号NITE P-02663)は効率よくジンセノシドF2への代謝が進んでおり、それぞれ原末乾燥固形物重量で1.68%、1.36%の含有量となった。一方、比較で用いたラクトバチルス・プランタラムは全くジンセノシドF2を生産しなかった。
【0042】
【0043】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明では新規な発酵物を提供できる。このような発酵物は、通常、ジンセノシドF2(F2)が多く含まれており、例えば、抗腫瘍、抗肥満、育毛、抗健忘症、肝保護作用、抗動脈硬化、老化防止、抗高脂血症、抗血栓、血圧降下作用、免疫機能改善、血糖値低下作用、鎮痛作用、強心作用、抗炎症作用、末梢血流改善作用、止血作用、抗酸化作用、抗筋委縮作用、骨量増加作用及び抗ストレス用から選ばれる少なくとも1種の作用の発揮を期待する疾患に好適に用いることができる。