(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】インピーダンス低下を推定しながらカテーテル安定性を有する心臓電気生理学的機器
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20221003BHJP
A61B 5/0538 20210101ALI20221003BHJP
A61B 5/33 20210101ALI20221003BHJP
【FI】
A61B18/12
A61B5/0538
A61B5/33 100
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018103346
(22)【出願日】2018-05-30
【審査請求日】2021-03-18
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アブラム・ダン・モンタグ
(72)【発明者】
【氏名】メイル・バル-タル
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-279699(JP,A)
【文献】特開2013-233436(JP,A)
【文献】特開2007-289707(JP,A)
【文献】特開2014-180536(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0021104(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
A61B 5/053
A61B 5/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に行われる医療手技の間のインピーダンスを測定するための装置であって、
前記医療手技で使用することが可能な電極と、
前記患者の体表面上に機能可能に配置された複数のパッチと、
前記電極と前記複数のパッチの少なくとも1つとの間の信号を測定するためのセンサと、を有し、
前記信号は、
前記信号から第1のフィルタ結果を生成する第1のフィルタ及び
前記信号から第2のフィルタ結果を生成する第2のフィルタを使用するプロセッサを使用し、前記第1のフィルタ
結果及び前記第2のフィル
タ結果を
、前記電極の速度に基づく重み付け
フィルタを適用し、合成することにより処理されて前記インピーダンスの測定値を与え、前記インピーダンスが前記医療手技の終了を示す、装置。
【請求項2】
前記第1のフィルタが最小二乗フィルタである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2のフィルタがメディアンフィルタである、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記重み付け
フィルタがシグモイドフィルタを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1のフィルタは、前記医療手技が進行中となった後、前記インピーダンスのより正確な評価を与える、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第2のフィルタが、前記医療手技の開始時において前記インピーダンスのより正確な評価を与える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記電極がカテーテルである、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記医療手技がアブレーションである、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記重みづけフィルタが、
前記電極の速度が大きくなるほど前記第1のフィルタの重みが大きくなり、かつ、前記第2のフィルタの重みが小さくなり、
前記電極の速度が小さくなるほど前記第1のフィルタの重みが小さくなり、かつ、前記第2のフィルタの重みが大きくなる、
ように構成される、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
最小二乗フィルタとメディアンフィルタとの間での重み付けされた選択に基づいたインピーダンス低下の推定を行うことを含む心臓電気生理学的機器が開示される。これら2つのフィルタのそれぞれからの結果を合成する際の相対的な重みは、カテーテル速度に基づいたものである。一実施形態では、重み付けは、50%閾値が1mm/秒のカテーテル速度に設定された論理シグモイドフィルタに基づいたものである。これは、呼吸及び心拍による見かけ上の周期的インピーダンス変化を補償する、より正確な方法である。他の重み付け及びフィルタを使用することもできる。
【0002】
心臓電気生理学的機器は、患者に行われる医療手技の間のインピーダンスを測定することを含む。機器は、医療手技で使用することが可能な電極と、患者の体表面上に機能可能に配置された複数のパッチと、前記電極と前記複数のパッチの少なくとも1つとの間の信号を測定するためのセンサと、を有し、前記信号は、第1のフィルタと第2のフィルタとを別々に適用するプロセッサを使用し、前記第1のフィルタの出力と前記第2のフィルタの出力の結果を重み付けを用いて合成することにより処理されてインピーダンスの出力を与え、前記インピーダンスが前記医療手技の終了を示す。
【0003】
機器は、医療手技が進行中となった後のインピーダンスのより正確な評価を与えるようにバイアスされた第1のフィルタを含むことができる。機器は、第1のフィルタを最小二乗フィルタとして含むことができる。
【0004】
機器は、医療手技の開始時におけるインピーダンスのより正確な評価を与えるようにバイアスされた第2のフィルタを含むことができる。システム及び方法は、第2のフィルタをメディアンフィルタとして含むことができる。機器は、前記重み付けを、カテーテル速度に基づいて第1及び第2のフィルタに適用されるシグモイドフィルタとして含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
より詳細な理解は、添付の図面と併せて実例として示される下記の説明文より得ることができる。
【
図1】カテーテルの安定性及び速度を利用してインピーダンス低下を推定する装置のブロック図である。
【
図2】概ね挙動が良好であったアブレーション手技の時間(秒)に対するインピーダンス(Ω)のグラフを示す。
【
図3】相関する呼吸の変動を示す、時間(秒)に対するインピーダンス(Ω)のグラフを示す。
【
図4】アブレーション手技の開始時点においてインピーダンスの大きな飛び値を示す、時間(秒)に対するインピーダンス(Ω)のグラフを示す。
【
図5】カテーテルの速度に対する最小二乗フィルタの重みのプロットに示される最小二乗フィルタの結果に適用される重みとして適用するためのシグモイドフィルタを示す。
【
図6】カテーテルの速度に対するメディアンフィルタの重みのプロットに示されるメディアンフィルタの結果に適用される重みとして適用するためのシグモイドフィルタを示す。
【
図7】患者に行われる医療手技の間のインピーダンスを測定する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、本明細書ではECGと呼ばれ、EKGと呼ばれる場合もある心電図検査に関するものである。より詳細には、本発明は、カテーテルの安定性を与える一方で、測定及び手技の間のインピーダンス低下を推定するためのシステム及び方法に関する。
【0007】
心臓電気生理学は、心臓の電気的活動を解明、診断、及び治療する科学である。この領域で使用される医療システムの1つにCARTOシステムがある。特定の手技では、心臓電気生理学を用いて、望ましくない拍動の発生源となっているか又は望ましくない信号を伝導する心臓の周囲の組織を焼灼(アブレーション)することによって不整脈を治療することができる。治療後、アブレーションは組織の変性をもたらし、組織が望ましくない信号又は拍動を伝導することを妨げる。アブレーションの物理的特性の1つとして、組織に接触する焼灼電極と患者の身体上の接地パッチとの間の電気的インピーダンスが低下することがある。手技の間にこのインピーダンスを監視することでアブレーション手技の効果の指標が与えられる。インピーダンスは、アブレーション手技が完全である場合の指標を与える。したがって、インピーダンスの測定は、アブレーション手技の重要かつ不可欠な部分であり、インピーダンスを正確に測定する性能の改善は極めて重要である。
【0008】
インピーダンス低下を推定するための本発明の機器は、最小二乗フィルタとメディアンフィルタとの重み付けされた組み合わせに基づいたものとすることができる。これら2つのフィルタの出力を組み合わせるうえでの相対的な重みは、カテーテル速度に基づいたものとすることができる。特定の実現形態では、2つのフィルタの出力間の重み付けは、論理シグモイドフィルタに基づいたものでよく、そのようなフィルタは50%閾値を1mm/秒のカテーテル速度に設定することができる。重み付けを用いて組み合わされた2つのフィルタの使用は、呼吸及び心拍による周期的なインピーダンス変化、並びにアブレーション手技の開始時に生じ得るインピーダンスのスパイクを補償するうえで向上した精度を与える。本明細書で理解されるように、他の重み付け及びフィルタを用いることもできる。
【0009】
患者に行われる医療手技の間のインピーダンスを測定するための機器が開示される。機器は、医療手技で使用することが可能な電極と、患者の体表面上に機能可能に配置された複数のパッチと、前記電極と前記複数のパッチの少なくとも1つとの間の信号を測定するためのセンサと、を有し、前記信号は、第1のフィルタと第2のフィルタとを別々に適用するプロセッサを使用し、前記第1のフィルタの出力と前記第2のフィルタの出力の結果を重み付けを用いて合成することにより処理されてインピーダンスの出力を与え、前記インピーダンスが前記医療手技の終了を示す。
【0010】
機器は、進行中の医療手技の間におけるインピーダンスのより正確な評価を与えるようにバイアスされた第1のフィルタを含むことができる。機器は、第1のフィルタを最小二乗フィルタとして含むことができる。
【0011】
機器は、医療手技の開始時におけるインピーダンスのより正確な評価を与えるようにバイアスされた第2のフィルタを含むことができる。機器は、第2のフィルタをメディアンフィルタとして含むことができる。機器は、前記重み付けを、カテーテル速度に基づいて第1及び第2のフィルタに適用されるシグモイドフィルタとして含むことができる。
【0012】
本明細書でECGと呼ばれ、EKGと呼ばれる場合もある心電図検査は、皮膚上に配置された電極を使用して所定時間にわたった心臓の電気的活動を、又は特殊なカテーテルを使用して心臓内部の電気的活動(すなわち心内ECG)を記録するプロセスである。これらの電極は、各心拍の間の心筋の脱分極の電気生理理学的パターンから生じるわずかな電気的変化を検出する。ECGは、心臓検査で一般的又は日常的に行われている。検査で使用される機器は心電計であり、初期出力は心電図である。説明を簡単にする目的で、心電図検査、心電計、及び心電図を、本明細書ではいずれもECGと呼び、EKGと呼ぶ場合もある。
【0013】
心内電位図(ICEG)は、何本かの心内誘導が追加された(すなわち心臓内に)ECGである。このようなICEGを、従来の12誘導ECGと組み合わせて、又はこれに代わるものとして用いることができる。従来の12誘導ECGでは、患者の四肢及び胸部の表面に10個の電極が配置される。次に、心臓の電位の全体の大きさが12個の異なる角度(「誘導」)から測定され、所定時間にわたって記録される。この手技の時間の長さは数十分~数時間で異なり得る。各手技では、通常、数十回のアブレーションセッションが行われ、そのそれぞれは例えば、数秒間~約1分持続し得る。例として、従来の12誘導ECGは例えば10秒間といった所定の時間にわたって行うことができる。このようにして、心臓の電気的脱分極の全体の大きさ及び方向が心周期の全体を通じた各瞬間に捕捉される。この医療手技によって得られる時間に対する電圧のグラフは心電図と呼ばれる。
【0014】
各心拍の間、健康な心臓は通常の脱分極の進行過程を有する。この通常の脱分極のパターンは、特徴的なECGトレーシングを生じる。訓練された医師には、ECGは、心臓の構造及びその電気的伝導システムの機能についての大量の情報を伝えるものである。とりわけ、ECGは、心拍の速度及びリズム、心腔の大きさ及び位置、心臓の筋細胞又は伝導システムの損傷の存在、心臓病の薬剤の作用、並びに移植されたペースメーカーの機能を測定するために使用することができる。ECGの解釈は、基本的には心臓の電気的伝導システムを理解することに関する。通常の伝導は、予測可能なパターンで開始及び伝播し、このパターンからの逸脱は通常の変動であるか又は病的なものであり得る。
【0015】
上記に述べたように、心臓電気生理学は、数ある方法の中でもとりわけ、ECGを用いて心臓の電気的活動を診断及び治療する科学である。この用語は、自然活動の侵襲性(心内)カテーテルの記録によるこうした現象の検討、及びプログラムされた電気的刺激(PES)に対する心応答の検討を記述するために用いられる。これらの検討は、複雑な不整脈を評価し、症状を解明し、異常な心電図を評価し、将来的に不整脈を発症するリスクを評価し、治療を設計するために行われる。治療法としてはアブレーションが挙げられる。アブレーションとは、一般的に、通常は手術により収縮パターンを変化させることなどを目的として、生物学的組織を除去、死滅、又は瘢痕化させることを指し、低侵襲性手技によって身体の内部から異常組織を焼灼する方法を含み得る。心臓電気生理学的手技では、350~500kHzの範囲の高周波の交流電流から発生する熱を用いて機能不全組織を焼灼することができる。アブレーション手技の一環として、組織の焼灼に使用されるアブレーション電極を、患者の身体上のパッチと比較してインピーダンスについて監視することで、手技の進行状態及び手技が完了した時点を調べることができる。しかしながら、手技が完了した時点を示すインピーダンス低下を監視するには、インピーダンス測定値に対する他の影響を説明する必要が生じ得る。これらの他の影響としては、患者の呼吸、カテーテルの安定性、温度、カテーテルの力、カテーテルの位置の安定性、及びシステムのノイズなどが挙げられる。
【0016】
図1は、カテーテルの安定性及び速度を利用してインピーダンス低下を推定する装置100のブロック図を示している。装置100はECGの形態とすることができる。装置100は、単一の多重化入力115にまとめられた複数の誘導110を有している。複数の誘導110は、ヒト被験者105の体表に配置することができる。複数の誘導110に含まれてもよく、又は(図に示されるように)これとは別とすることができる更なる誘導107を、心内誘導107とすることができる。
【0017】
心内誘導107は、患者105の心臓126内の電位をマッピングするためなど、診断又は治療処置に使用することができる。また、心内誘導107は、必要な変更を加えて心臓又は他の体内の臓器において他の治療及び/又は診断目的で使用することもできる。
【0018】
心内誘導107は、患者105の脈管系内に挿入され、心内誘導107の遠位端132が患者の心臓126の心腔内に入ってもよい。
図1は単一の位置センサを有する単一の誘導107を示しているが、本発明の実施形態は、複数の位置センサを有するプローブを利用してもよい。
【0019】
複数の誘導110からの信号は、入力マルチプレクサ120を介してアナログフロントエンド125に入力される。アナログフロントエンド125は、プロセッサ130につながっており、プロセッサ130によって制御される。図に示されるように、プロセッサ130は、ビデオコントローラ135、デジタル信号プロセッサ140、マイクロプロセッサ145、及びマイクロコントローラ150を含むことができる。プロセッサ130は、データ格納部155に接続されている。データポート及びプリンタ160をプロセッサ130に接続することができる。他の入力/出力装置165もプロセッサ130に接続することができる。ディスプレイ170を用いてECGの信号の出力を与えることができる。電力/電池管理システム175を用いて装置100が動作するための電力を供給することができる。
【0020】
複数の誘導110は、電極及び誘導の一般的に使用されている形態を含む。複数の誘導110の1以上がアブレーション電極を含んでもよい。複数の誘導110は、心電計と電気回路を形成する身体105と接触した導電性パッドを有することができる。標準的な12誘導ECGでは、10本の誘導110のみがある。複数の誘導110は、四肢、増高肢、及び前胸部の3群に分類され得る。一般に、12誘導ECGは、冠状面(垂直面)内で車輪のスポークのように配置された合計3つの肢誘導及び3つの増高肢誘導、並びに垂直な横断面(水平面)上にある6個の胸部誘導を有する。
【0021】
アナログフロントエンド125は、複数の誘導110からの信号を受信し、信号のフィルタリングなどのアナログ処理を行う。
【0022】
データ格納部155は情報を記録する任意の装置である。データ格納部は、装置100に含まれる信号の記憶媒体及び格納されるプロセッサ130の計算用の場所を与え得る。
【0023】
マイクロプロセッサ145は、コンピュータの中央演算装置(CPU)の機能を1個の集積回路(IC)又は数個の集積回路上に組み込んだコンピュータプロセッサとすることができる。マイクロプロセッサ145は、汎用型のクロック駆動式レジスタベースのプログラム可能な電子デバイスとすることができ、デジタル又はバイナリデータを入力として受信し、これをメモリ又はデータ格納部155に格納された命令にしたがって処理し、結果を出力として与える。マイクロプロセッサ145は、組み合わせ論理及び順序デジタル論理の両方を含んでいる。
【0024】
マイクロコントローラ150は、1個の集積回路上の1以上の小型コンピュータとすることができる。マイクロコントローラ150は、1以上のCPUとともにメモリ及びプログラム可能な入力/出力周辺機器を有することができる。強誘電性のRAM、NORフラッシュ、又はOPT ROMの形態のプログラムメモリ、及び小量のRAMもチップ上にしばしば含まれる。マイクロコントローラは、パーソナルコンピュータ又は異なる個別のチップで構成された他の汎用用途で使用されるマイクロプロセッサと異なり、組み込み型用途に合わせた設計を有する。
【0025】
デジタル信号プロセッサ(DSP)140は、デジタル信号処理を行って様々な信号処理動作を実行することができる。このようにして処理された信号は、時間、空間、又は周波数などのドメイン内の連続変数のサンプルを表す一連の数値である。デジタル信号処理は、線形又は非線形動作を含み得る。非線形信号処理は、非線形システム識別と密接に関連しており、時間、周波数、及び空間-時間ドメイン内で実行することができる。デジタルコンピューテーションの信号処理への応用は、送信のエラー検出及び補正、並びにデータ圧縮などの多くの用途でアナログ処理と比較して多くの利点を与えるものである。DSPは、ストリーミングデータ及びスタティック(格納)データの両方に適用することができる。
【0026】
図1のシステムは、アブレーション手技の間のインピーダンス低下を計算又は測定することができる。計算されたインピーダンスは、アブレーションが完了しているか否かを判定するための入力として機能し得る。インピーダンス低下を推定するためのシステムは、最小二乗フィルタとメディアンフィルタとの間での重み付けされた選択に基づいたものとすることができる。これら2つのフィルタのそれぞれからの結果を合成する際の相対的な重みは、カテーテル速度に基づいたものである。一実施形態では、重み付けは、50%閾値が1mm/秒のカテーテル速度に設定された論理シグモイドフィルタに基づいたものである。この重み付けは、呼吸及び心拍による見かけ上の周期的インピーダンス変化を補償する、より正確な方法を与えることができる。他の重み付け及びフィルタを使用することもできる。
【0027】
患者に対する医療手技の間のインピーダンスを測定するためのシステム及び方法が開示される。このシステム及び方法は、医療手技で使用することが可能な電極110と、患者の体表面上に機能可能に配置された複数のパッチ(
図1には示されていない)と、前記電極110と前記複数のパッチの少なくとも1つとの間の信号を測定するためのセンサと、を有し、前記信号は、第1のフィルタ及び第2のフィルタを適用するプロセッサ130を使用し、前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタの結果を前記各フィルタの重み付けを用いて合成することにより処理されてインピーダンスの測定値を与え、前記インピーダンスが前記医療手技の終了を示す。
【0028】
第1の当てはめ法又はフィルタを第2の方法又はフィルタと組み合わせるために用いることができる。第1のフィルタは、検査が進行中となった後のインピーダンスのより正確な評価を与えるように設計することができる。第1のフィルタは最小二乗フィルタを用いることができる。一般的に、最小二乗フィルタは、残渣が実測値と、モデルによって与えられる当てはめ値との差であるものとして、残渣の平方和を最小化する。
【0029】
最小フィルタ長さを設定することができる。一実施形態によれば、最小フィルタ長さは5秒である。各インピーダンスサンプルがタイムスタンプを有する所定の時間間隔について、アルゴリズムは、Y=aX+bの形の線形方程式を与える(式中、Xはタイムスタンプを表し、Yは予測されたフィルタリングされたインピーダンス値を表す)。変数bは、所定の時間スパンにおけるインピーダンス値である。変数midは、bに関連付けられた位置指数を表し、
【0030】
【数1】
である。ある数のCeilingはある数よりも大きい、最も近い整数である。変数t
midは、指数midに関連付けられたタイムスタンプを表し、所定のサンプルiについて、Δt
i=t
i-t
midである。すると、特定のサンプルiについてΔy
i=y
i-bである。aが式1にしたがって定義される場合、
【0031】
【0032】
タイムスタンプtpを有する任意のインピーダンスが与えられたとして、その予測されるインピーダンス値ypは、式2にしたがって求めることができる。すなわち、
yp=a・Δtp+b(式中、Δtp=tp-tmid) 式2
【0033】
この方法は、アブレーションの最初の5秒間によって複雑化される。最初の5秒間では、間隔窓は移動しない。その結果、フィルタリングされたインピーダンスは、時間に対して単純な直線であり、この線は第1のサンプルと5秒におけるサンプルとの間に引かれる。すなわち、その窓内に考慮すべき他のデータポイントが充分に存在しないため、各ポイントは基礎となるデータポイントに過ぎない。
【0034】
第2の当てはめ法又はフィルタを用いることでこの複雑さを解消することができる。第2のフィルタは、検査の開始時におけるインピーダンスのより正確な評価を与えるように設計することができる。第2のフィルタはメディアンフィルタを用いることができる。
【0035】
一般的に、メディアンフィルタは、ノイズを除去するために用いることができる非線形法を与える。メディアンフィルタを適用してデータを前処理することでアブレーションの結果を改善することができる。メディアンフィルタの主な目的は、信号をデータポイントごとに取って各データポイントを隣接するデータポイントのメディアンで置き換えることにある。特定のメディアンについて計算に用いられる隣接するデータポイントの数は、その窓によって決まる。この窓は、幾つかのデータポイント分の幅(すなわち200個)を有するものとして定義することができ、数秒間(すなわち10秒間)持続し得る。
【0036】
本システムは、2つのフィルタのそれぞれがいつ用いられるかを示すための方法を更に提供することができる。これは、本明細書ではフィルタの重み付けとして述べられる。例えば、システムは、検査の間の所定の時間、例えば5秒まで一方のフィルタを使用した後、他方のフィルタに切り替えることができる。また、第1のフィルタを検査開始から所定の時間まで使用し、その時点から2つのフィルタの出力をその後のある時間まで平均し、その後のある時間において第2のフィルタを単独で使用することができる。一般的に、フィルタの重み付けは、各フィルタの出力を用いて単一の出力を与えるための方法を提供することができる。第1のフィルタを所定の時間、使用した後、一定の時間にわたってフェーズアウトさせつつ第2のフィルタをフェーズインさせることができる。フィルタの重み付けではシグモイドフィルタを用いてフィルタのそれぞれの出力を単一の出力に合成することができる。
【0037】
シグモイドフィルタは、S字状曲線(シグモイド曲線)を有する数学的関数によって与えることができる。シグモイドフィルタとは、
【0038】
【0039】
シグモイドフィルタは、第1及び第2のフィルタの結果を合成しつつ、インピーダンスの結果が医療手技の開始時には第2のフィルタにより大きく依存し、その後、医療手技が進行中となった後には第1のフィルタに依存するような方法を与えることができる。
【0040】
多くの医療手技において、インピーダンス低下は、
図2に示されるような比較的滑らかな曲線となり得る。
図2は、概ね挙動が良好であったアブレーション手技の時間(秒)に対するインピーダンス(Ω)のグラフ200を示している。線205は測定されたインピーダンスを表し、線210はインピーダンス低下の最小二乗当てはめであり、線215はメディアンフィルタを用いたインピーダンス低下の当てはめである。
【0041】
線215は、インピーダンス低下を測定するためのメディアンフィルタに基づいた当てはめである。
図2に見られるように、線215は、0秒よりも前の時間からプロットの時間枠の全体を通じて比較的正確なインピーダンスのトラッキングを示している。
【0042】
線205は測定されたインピーダンスを示している。線205の振動は一般的に患者の呼吸及び心周期に起因するものである。これらは、大部分がカテーテルと組織との接触状態の変化によって生じるアーティファクトである。すなわち、インピーダンスはこれらの飛び値を普通は含まない。
【0043】
線210は、インピーダンス低下を測定するために最小二乗フィルタを用いた当てはめである。線210のこの当てはめは、最初の5秒間の直線的減少によって特徴付けられる最小二乗当てはめに基づいたものである。メディアンフィルタのデータとの使用は線215として示される。線210及び線215に示されるいずれの方法も、比較的挙動の良好な関数では予想されるように比較的よくデータをトラッキングしている。
【0044】
図3は、相関する呼吸の変動のためにインピーダンス低下が過剰に推定された場合の時間(秒)に対するインピーダンス(Ω)のグラフ300を示している。線305は測定されたインピーダンスを表し、線310は最小二乗フィルタを用いたインピーダンス低下の直線当てはめであり、線315はメディアンフィルタを用いたインピーダンス低下の当てはめである。線320は、時間(秒)の関数としてプロットされたカテーテル速度(mm/秒)を示す。グラフ300では、時間は、アブレーション手技が時間t=0秒で開始するよりも前に始まっている。
【0045】
線305は測定されたインピーダンスを示している。線305の振動は患者の呼吸周期に起因するものである。上記に述べたように、振動は組織とカテーテルの圧力変化によって生じるアーティファクトである。
【0046】
線310は、最小二乗フィルタによってインピーダンス低下を測定するために用いた当てはめである。線310のこの当てはめは、最初の5秒間の直線的減少によって特徴付けられる最小二乗当てはめに基づいたものである。アブレーションの開始点は、呼吸周期に相関したインピーダンスアーティファクトのピークに一致している。その結果、初期インピーダンス、したがって結果として生じるインピーダンス低下が過剰に推定される。
【0047】
線315は、インピーダンス低下を測定するためのメディアンフィルタに基づいた当てはめである。
図3に見られるように、線315は、測定されたインピーダンスとして線305と比較することにより、
図3に示される他のどの当てはめよりも良好なインピーダンスの推定を示している。
【0048】
カテーテルの位置安定性を説明するため、線320として示される呼吸について補償されたカテーテル速度を考える。線320を検討すると、カテーテル速度はセッションの大部分において、特に最初の10秒間では0.5mm/秒よりも低く、安定したカテーテルを示している。安定したカテーテルでは、メディアンフィルタが最良の経路を与えることができる。
図3に示されるように、線315は、最小二乗当てはめの線310と比較してより良好なインピーダンスの推定を表している。これは、各測定値と各フィルタとの間でポイントごとの差の平方和を用いることによるか、又はグラフの傾向を調べることなどによって、当てはめの品質チェックを行うことにより証明することができる。
【0049】
図4は、アブレーション手技の開始時点においてインピーダンスの大きな飛び値を示す、時間(秒)に対するインピーダンス(Ω)のグラフ400を示している。線405は測定されたインピーダンスを表し、線410はインピーダンス低下の最小二乗フィルタであり、線415はインピーダンス低下のメディアンフィルタである。線420は、時間(秒)の関数としてプロットされた、呼吸について補償されたカテーテル速度(mm/秒)を示す。カテーテル速度の急な変化は、カテーテルの不安定性を示している。線425は、インピーダンス低下のメディアンフィルタと最小二乗フィルタとの合成を示す。メディアンフィルタと最小二乗フィルタとは、上記に述べたようなフィルタの重み付けを用いて合成することができる。
図4の線425では、重み付けは上記に述べたシグモイドフィルタを用いている。グラフ400では、時間は、アブレーション手技が時間t=0秒で開始するよりも前に始まっている。
【0050】
線405と線420との比較に見られるように、インピーダンスの飛び値は急激なカテーテルの運動と相関している。メディアンフィルタはアブレーションの開始よりも前の低い値によって影響されることから、アブレーションの開始時の最大ポイントに注目した線410に示される線形フィルタ法は、メディアンフィルタよりも測定値によく一致している。425に示される2つの方法の重み付けされた組み合わせは、2つのフィルタリング方法の間を効果的に内挿する。この場合、重み付け係数は、2つのフィルタリングされた結果を合成するために用いられる、
図5及び6に関して下記に述べるシグモイドフィルタである。グラフ400に示されるように、合成線425は、メディアンフィルタ又は最小二乗フィルタいずれか単独よりも良好なインピーダンスに対する当てはめを与える。これは、残差の平方和を用いて上記に述べた当てはめの品質によって示すことができる。
【0051】
図5は、カテーテルの速度に対する最小二乗フィルタの重みのプロット500に示される最小二乗フィルタの結果に適用される重み付け係数として適用するためのシグモイドフィルタを示している。カテーテル速度の関数として最小二乗フィルタに適用される重みが、曲線510によって示されている。曲線510は、グラフの部分505のような、カテーテル速度と比較して小さい最小二乗フィルタに適用される重みで開始するシグモイドフィルタを示している。速度が1.0mm/秒に近づくのにしたがって、最小二乗フィルタに適用される重みはポイント525では0.5となっている。ポイント525及び曲線510は、任意の数の特性に基づいて設定することができる。図に示されるように、0.5における曲線510上の中間点を1mm/秒に設定することができる。1.0mm/秒の速度は、手技の間に用いられた公称又は平均の速度を表し得る。曲線510は、グラフの部分515のような、より高いカテーテル速度と比較して大きい最小二乗フィルタに適用される重みで終了するシグモイドフィルタを示している。
【0052】
図6は、カテーテルの速度に対するメディアンフィルタの重みのプロット600に示されるメディアンフィルタの結果に適用される重み付け係数として適用するためのシグモイドフィルタを示している。カテーテル速度の関数としてメディアンフィルタに適用される重みが、曲線610によって示されている。曲線610は、グラフの部分615のような、カテーテル速度と比較して大きいメディアンフィルタに適用される重みで開始するシグモイドフィルタを示している。速度が1.0mm/秒に近づくのにしたがって、メディアンフィルタに適用される重みはポイント625では0.5となっている。ポイント625及び曲線610は、任意の数の特性に基づいて設定することができる。図に示されるように、0.5における曲線610上の中間点を1mm/秒のカテーテル速度に設定することができる。1.0mm/秒の速度は、手技の間に用いられた公称又は平均の速度を表し得る。曲線610は、グラフの部分605のような、より高いカテーテル速度と比較して小さいメディアンフィルタに適用される重みで終了するシグモイドフィルタを示している。
【0053】
図7は、患者に行われる医療手技の間のインピーダンスを測定する方法700を示している。方法700は、ステップ710において、少なくとも1つの検査又は医療手技に関連したインピーダンスを測定することを含む。ステップ720において、方法700は、検査又は医療手技が進行中となった後、改善された結果を与えるように概ねバイアスされた第1のフィルタを用いて測定されたインピーダンスをフィルタリングすることを含む。ステップ730において、方法700は、検査又は医療手技の開始時において改善された結果を与えるように概ねバイアスされた第2のフィルタを用いて測定されたインピーダンスをフィルタリングすることを含む。ステップ740において、前記第1及び第2のフィルタリングされた測定インピーダンスの結果に重み付けし、合成することによって出力インピーダンスが与えられる。
【0054】
本方法は、汎用コンピュータ、プロセッサ、又はプロセッサコアにおいて実装することができる。好適なプロセッサとしては、例として、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、従来型プロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、複数のマイクロプロセッサ、DSPコアと関連する1つ以上のマイクロプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、特定用途向け集積回路(ASIC)、書替え可能ゲートアレイ(FPGA)回路、任意のその他の種類の集積回路(IC)、及び/又は状態機械が挙げられる。このようなプロセッサは、処理されたハードウェア記述言語(HDL)命令及びネットリスト等その他の中間データ(このような命令は、コンピュータ可読媒体に記憶することが可能である)の結果を用いて製造プロセスを構成することにより、製造することが可能である。このような処理の結果はマスクワークであり得、このマスクワークをその後半導体製造プロセスにおいて用いて、本開示の特徴を実装するプロセッサを製造する。
【0055】
本明細書に提供される方法又はフローチャートは、汎用コンピュータ又はプロセッサによる実行のために持続性コンピュータ可読記憶媒体に組み込まれるコンピュータプログラム、ソフトウェア、又はファームウェアにおいて実装することができる。持続性コンピュータ可読記憶媒体の例としては、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、レジスタ、キャッシュメモリ、半導体メモリデバイス、磁気媒体、例えば内蔵ハードディスク及びリムーバブルディスク、磁気光学媒体、並びに光学媒体、例えば、CD-ROMディスク及びデジタル多用途ディスク(DVD)が挙げられる。
【0056】
〔実施の態様〕
(1) 患者に行われる医療手技の間のインピーダンスを測定するための装置であって、
前記医療手技で使用することが可能な電極と、
前記患者の体表面上に機能可能に配置された複数のパッチと、
前記電極と前記複数のパッチの少なくとも1つとの間の信号を測定するためのセンサと、を有し、
前記信号は、第1のフィルタ及び第2のフィルタを使用するプロセッサを使用し、前記第1のフィルタ及び前記第2のフィルタの結果を前記フィルタの重み付けを用いて合成することにより処理されて前記インピーダンスの測定値を与え、前記インピーダンスが前記医療手技の終了を示す、装置。
(2) 前記第1のフィルタが最小二乗フィルタである、実施態様1に記載の装置。
(3) 前記第2のフィルタがメディアンフィルタである、実施態様1に記載の装置。
(4) フィルタの前記重み付けがシグモイドフィルタ(sigmoid filter)を含む、実施態様1に記載の装置。
(5) 前記フィルタの前記重み付けが、前記電極の温度に基づいたものである、実施態様1に記載の装置。
【0057】
(6) 前記フィルタの前記重み付けが、前記電極の速度に基づいたものである、実施態様1に記載の装置。
(7) 前記第1のフィルタは、前記医療手技が進行中となった後、前記インピーダンスのより正確な評価を与える、実施態様1に記載の装置。
(8) 前記第2のフィルタが、前記医療手技の開始時において前記インピーダンスのより正確な評価を与える、実施態様1に記載の装置。
(9) 前記電極がカテーテルである、実施態様1に記載の装置。
(10) 前記医療手技がアブレーションである、実施態様1に記載の装置。
【0058】
(11) 患者に行われる医療手技の間に装置を使用して前記インピーダンスを測定するための方法であって、
電極と複数のパッチの少なくとも1つとの間の信号を測定することが可能なセンサを使用して前記医療手技に関連した前記インピーダンスを測定することと、
第1のフィルタを使用して前記測定されたインピーダンスをフィルタリングして第1のインピーダンス結果を生成することと、
第2のフィルタを使用して前記測定されたインピーダンスをフィルタリングして第2のインピーダンス結果を生成することと、
前記第1のインピーダンス結果を前記第2のインピーダンス結果と合成することにより、出力インピーダンスを与えることと、を含む、方法。
(12) 前記第1のフィルタが最小二乗フィルタである、実施態様11に記載の方法。
(13) 前記第1のフィルタは、前記医療手技が進行中となった後、前記インピーダンスのより正確な評価を与える、実施態様11に記載の方法。
(14) 前記第2のフィルタがメディアンフィルタである、実施態様11に記載の方法。
(15) 前記第2のフィルタが、前記医療手技の開始時において前記インピーダンスのより正確な評価を与える、実施態様11に記載の方法。
【0059】
(16) 前記合成することが、第1及び第2のインピーダンス結果の重み付けを用いて行われる、実施態様11に記載の方法。
(17) 前記重み付けがシグモイドフィルタを含む、実施態様16に記載の方法。
(18) 前記重み付けが、前記医療手技で使用される電極の温度に基づいたものである、実施態様17に記載の方法。
(19) 前記重み付けが、前記医療手技で使用される電極の速度に基づいたものである、実施態様17に記載の方法。
(20) 前記電極がカテーテルであり、前記医療手技がアブレーションである、実施態様11に記載の方法。