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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】焼チーズ風味付与剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20221003BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20221003BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L27/10 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018153516
(22)【出願日】2018-08-17
(65)【公開番号】P2020025526
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】312017444
【氏名又は名称】ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】金森 有香
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/199897(WO,A1)
【文献】特開昭57-146546(JP,A)
【文献】特開2019-118263(JP,A)
【文献】国際公開第2018/43632(WO,A1)
【文献】トルラ酵母調味料「アロマウェイ」の開発と展開,月刊フードケミカル,2018年11月01日,34(11),43-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21
A23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チーズ風味を有するスープに、酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を0.07重量%以上になるように添加する焼チーズ風味付与方法。
【請求項2】
酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末の量がスープ中0.7重量%以下となるように添加する請求項1に記載の焼チーズ風味付与方法。
【請求項3】
前記酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末は、酵母分解物である請求項1又は2に記載の焼チーズ風味付与方法。
【請求項4】
前記酵母分解物は酵母を直接分解したものである請求項3に記載の焼チーズ風味付与方法。
【請求項5】
前記酵母がトルラ酵母である請求項1~4のいずれかに記載の焼チーズ風味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼チーズ風味付与剤及び焼チーズ風味付与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズ風味を有する飲食品のチーズ感(こくや濃厚さ)を向上させるために、食用植物油脂と酵母エキス粉末の混合物を粉末状態で加熱して調製されるミート様フレーバーを有する粉末調味料と、細胞壁を含有しない酵母エキスを配合したことによる、チーズ風味及び/又は乳感を増強する方法(特許文献1)が開示されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、チーズ感を付与することはできるものの、グラタンやピザ等のようにチーズを焼いたときの(香ばしい)風味(焼チーズ風味)を付けることはできなかった。
【0004】
また、特許文献2に記載の方法は、チーズに乾燥酵母(細胞壁は分解されていない)とリパーゼを加えて作用させてチーズ用フレーバーを得る方法であり、特許文献3にはチーズに酵母(細胞壁は分解されていない)を添加した状態で加熱溶融をすることにより乳化されたチーズを得ることが記載され、特許文献4にはゴーダチーズに対してマグネシウム酵母(細胞壁は分解されていない)を混合して加熱溶融することにより原料チーズの味覚的特徴を維持して酵母由来の香味とミネラル分の補給を併せ持つチーズにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-261385号公報
【文献】特開昭62-096039号公報
【文献】特開平09-275898号公報
【文献】特開2000-125811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者は、酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を添加することで、チーズ風味を有する飲食品に焼いたチーズの風味を付与可能であることを見出し、本発明に至った。本発明の課題は、チーズ風味を有する飲食品組成物に焼チーズ風味を付与する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記の焼チーズ風味付与剤、焼チーズ風味付与方法及び下記の焼チーズ風味付与剤を含有する飲食品組成物に到達した。
1.チーズ風味を有する飲食品組成物に、酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を添加する焼チーズ風味付与方法。
2.酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末の量が飲食品組成物中0.7重量%以下となるように添加する1に記載の焼チーズ風味付与方法。
3.前記酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末は、酵母分解物である1又は2に記載の焼チーズ風味付与方法。
4.前記酵母分解物は酵母を直接分解したものである3に記載の焼チーズ風味付与方法。
5.前記酵母がトルラ酵母である1~4のいずれかに記載の焼チーズ風味付与方法。
6.酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を含有する焼チーズ風味付与用の風味付与剤。
7.チーズ風味組成物を含有する6に記載の焼チーズ風味付与用の風味付与剤。
8.6又は7に記載の風味付与剤を含有する飲食品組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の焼チーズ風味付与方法及び風味付与剤によれば、他の風味や呈味を損なわずに、少量の添加によって、優れた焼チーズの風味を付与した飲食品組成物を得ることができる。そのため、飲食品の調理にてチーズを焼くことにより得ていた焼チーズの風味を、チーズを焼くことなく、手間を掛けずに実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を飲食品に添加することにより、単なるチーズの風味を付与するのではなく、焼チーズの風味を付与することができる。
【0010】
(酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末)
本発明における酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末は、少なくとも細胞壁が分解されて、かつ固体として含有されている成分である。細胞壁が分解された細胞壁を含有する組成物を蒸留、抽出されてなるものは本発明でいう酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末ではない。
このような酵母の細胞壁が分解された固体は、酵母や酵母の細胞壁が例えば機械的に、あるいは酵素により直接分解されてなるものでもよい。
また、加熱などにより酵母を単に失活したのみのものも、本発明における細胞壁由来成分を含有するとはいえない。
本発明における細胞壁分解物とは、細胞壁を分解し、抽出して得た抽出液に基づくものではなく、細胞壁が直接分解(破壊)されたものを含有するものである。
さらに酵母としてはトルラ酵母、ビール酵母、およびパン酵母等の各種の酵母を使用できるが、トルラ酵母が優れた焼チーズ風味を得る上で好ましい。
なお、酵母の細胞中の細胞壁は、6~27重量%とされており、本発明における細胞壁由来成分はこの6~27重量%の分である。
【0011】
(風味付与剤)
本発明の風味付与剤は、上記酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末のみでも良く、さらに酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末と、チーズ、チーズを含む風味組成物、澱粉、各種調味料等の食品として使用される公知の各成分、さらに水等を含有し得る。
含有し得るチーズは特に限定されるものではなく、カッテージチーズ、クリームチーズ、マスカルポーネ、モッツァレラ等のフレッシュタイプ、カマンベール等の白カビタイプ、カンボゾラ、ゴルゴンゾーラ等の青カビタイプ、エポワス、タレッジオ等のウォッシュタイプ、ヴァランセ等のシェーブルタイプ、ゴーダ、カンタル、サムソー、マリボー等のセミハードタイプ、アボンダンス、エダム、エメンタール、チェダー、パルミジャーノレジャーノ、ミモレット、ラクレット等のハードタイプ、さらにプロセスチーズ等の公知のチーズを採用できる。
また、各種調味料としては、ホワイトソース、レッドソース、ブラウンソース、ペストソース、バターソース、マスタードソース、ウスターソース、マヨネーズ、チリソース、オイスターソース、トマトソース、サルサソース、トマトケチャップ、カレーソース等の公知のソース、砂糖、塩、酢、醤油、味噌、みりん、マスタード、ラー油、香辛料、カレー粉等の調味料を採用できる。
また、澱粉、小麦粉、米粉等の穀物等の粉、野菜、果物、魚、肉のペースト等の加工食材等も配合することができる。
本発明の風味付与剤は、液体状や固体状のいずれでも良い。分解された酵母の細胞壁である酵母の細胞壁由来成分に配合される上記の公知の各成分等によって任意に決められる。
【0012】
(飲食品組成物)
本発明における飲食品組成物は、焼チーズの風味を付与できるものであれば、料理、菓子、飲料等特に限定されるものではない。
グラタン、ドリア、ピザ、ピザトースト、チーズ風味のスナック菓子、ムニエル、チーズケーキ、カレー、タルト等、焼いたチーズの風味を必要とし得る料理や、菓子、パン等が特に好ましい。
その他のチーズ味やチーズ風味を有する飲食品組成物に対して、焼チーズの風味を付けることができるものであれば良い。
【0013】
また本発明の飲食品は元々チーズを含有してもよく、チーズフレーバーを含有しても良い。元々チーズやチーズフレーバーを含有するときには、そのチーズの味や風味に対して、風味付与剤を添加することにより、焼いたチーズの風味を添加することができる。このとき、焼かないチーズ自体の風味や香味が強くなるものではない。チーズやチーズフレーバーは飲食品組成物全体の風香味としてチーズ感を感じる程度に、飲食品に含有される。
【0014】
(焼チーズ風味付与方法)
本発明の風味付与剤を使用して飲食品組成物に焼チーズ風味を付与する方法としては、任意の方法を採用できる。例えば、飲食品組成物の材料(野菜、肉、魚、スープ、調味料等)に予め添加し、これを用いて調理しても良く、調理の途中に本発明の風味付与剤を添加することもできる。また粉末スープに予め添加しておき、これにお湯等を注いで、スープやシチュー等とすることもできる。また調理後の飲食品組成物に対して振りかけるようにして添加してもよい。このとき、調理のいずれかの時点においてチーズ又はチーズフレーバーを使用することが必要である。また、任意のチーズと本発明の酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を含有する風味付与剤、または飲食品として使用することもできる。
またチーズを含有する飲食品組成物に対して本発明の風味付与剤をさらに添加し、これを焼いて、チーズが焼けたことによる風味と、本発明の風味付与剤による風味を合わせて、より強い焼チーズ風味を付与しても良い。
飲食品組成物中の、酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末の適切な含有量の範囲は、使用されるチーズの種類、及び量、さらに飲食品全体の風香味や味によって影響を受ける。添加する酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末の量の上限が、飲食品組成物中0.7重量%以下とすることが好ましく、中でも好ましくは0.3重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下である。
また下限としては、0.02重量%以上が好ましく、中でも好ましくは0.03重量%以上であり、より好ましくは0.07重量%以上である。
【実施例
【0015】
(実施例1)チェダーチーズと共に、酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を含有する飲食品が、焼チーズの風味を有することを示す実施例
スープを作成して本発明による効果を確認した。
酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末として下記表1の酵母原料2及び3を、対照例として酵母原料1を採用した。
【0016】
【表1】
【0017】
上記の酵母原料1~3を使用して、さらに下記表2の飲食品組成物となるようにし、これをそれぞれ200mlの熱湯に溶解してスープを作成した。
完成したスープについて訓練された官能評価パネル10名による官能試験を行い、焼チーズ風味の強度を測定した。酵母原料1を用いた例1―1を基準(焼チーズ風味を全く感じない:0)とし、焼チーズ風味を非常に強く感じるを5とした以下の6段階で評価した。
0:焼チーズ風味を全く感じない
1:焼チーズ風味を非常に弱く感じる
2:焼チーズ風味を弱く感じる
3:焼チーズ風味を感じる
4:焼チーズ風味を強く感じる
5:焼チーズ風味を非常に強く感じる
【0018】
その結果、酵母原料1を用いた例1-1、例2-1、例3―1、例4―1、例5-1では酵母原料1の濃度に関わらず、どの添加量でも焼チーズ風味は0であり付与されなかった。これらの例は比較例に相当する。また、これらの例では酵母原料1の濃度が高くなるにつれて好ましくない酵母の匂い(酵母臭)が強くなるので、添加量に許容できる上限が存在した。
【0019】
これに対して酵母原料2又は3を用いた例1-2、3、例2-2、3、例3-2、3、例4-2、3、例5-2、3によれば、実施例として、強い焼チーズ風味を得ることができた。
但し、例4-2と例5-2、及び例5-3では、好ましくない酵母臭が強くなり、スープ全体の美味しさを損ねる可能性がある。
【0020】
【表2】
【0021】
(実施例2)チーズと共に、酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を含有する飲食品の焼チーズの風味が、実際の焼チーズと同質の風味であることを示す実施例
チェダーチーズパウダーを70℃で10分間焼成し、焼風味を持つ焼成チーズパウダーを作成した。
焼成チェダーチーズパウダーを用い、酵母エキスおよびチェダーチーズパウダーのいずれも用いていないスープを「焼チーズ風味」の品質を示すコントロールサンプルとした(例6-1)。
焼成していないチェダーチーズパウダーと酵母原料1(細胞壁なし)を用いた比較例(例6-2)、チェダーチーズパウダーと酵母原料2(分解された細胞壁あり)を用いた実施例(例6-3)を用意した。それぞれお湯で溶解してスープを調製した。
訓練された官能評価パネル4名に3サンプルを同時に提示し、比較例と実施例のうち、コントロールと同質の「焼チーズ風味」を持つ方を選択させた。結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
上記の試験によれば、例6-1である焼成チェダーチーズと同質の焼チーズ風味を感じたパネルは例6-2では4人中1人、例6-3では4人中3人であった。この結果によれば、チーズに加えて、酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を含有させた飲食品は、焼成されたチーズと同質の風味を有することがわかる。
【0024】
(実施例3)酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を含有する飲食品が、含有するチーズの種類が異なっていても、焼チーズの風味を有することを示す実施例
上記例6―3と同じ例として、チェダーチーズパウダーと酵母原料2を添加したスープベースを熱湯で溶解してスープを調製した。官能評価パネルに提示しこのときの「焼チーズ風味」の強度の点を6段階中の2.7とした。この例6-3をコントロールとした。
チーズパウダーの種類を、「パルメザンチーズパウダー」、「ゴーダチーズパウダー」に変更したそれぞれのスープベースを、それぞれ官能評価パネルに提示し、「焼チーズ風味」の強度を6段階で評価した。なお、「焼チーズ風味」が感じられない場合は0を、選択するように指示した。尚、官能評価は訓練された4名のパネルを用いた。
【0025】
【表4】
【0026】
これらの結果によれば、チーズパウダーをパルメザンチーズやゴーダチーズに変更しても、依然として、焼チーズ風味を発揮できることがわかる。
【0027】
(実施例4)飲食品がチーズパウダーを含有せず、代わりにチーズフレーバーを含有する場合でも、本発明によれば焼チーズ風味を感じることを示す実施例
上記例6―3と同じ例として、チェダーチーズパウダーと酵母原料2を添加したスープベースを熱湯で溶解してスープを調製した。実施例3と同様に官能評価パネル4名に提示し「焼チーズ風味」評点を2.7とした。この例6-3をコントロールとした。チェダーチーズパウダーの替わりに、チーズフレーバーを用いたサンプルも同様に提示し、「焼チーズ風味」の強度を6段階で評価した。なお、「焼チーズ風味」が感じられない場合は0を選択するように指示した。尚、官能評価は訓練された4名のパネルを用いた。
【0028】
【表5】
【0029】
この結果によれば、本発明の焼チーズ風味付与用の風味付与剤は、チーズを含有する飲食品はもちろん、チーズを含有しない飲食品であっても、チーズフレーバー等を含有する飲食品に対して添加することにより、その飲食品に焼チーズの風香味を付与することができる。
【0030】
(実施例5)本発明の焼チーズ風味付与用の風味付与剤は、細胞壁が破壊された酵母を含有することが必要であり、細胞壁が破壊されていない酵母を含むときには本発明の効果を発揮できないことを示す実施例
市販のプロセスチーズ20gを電子レンジにて溶解したチーズと、同チーズ20gにドライイースト1gを添加混合したサンプルを訓練された官能評価パネル3名に提供した。チーズのみのサンプルを「焼チーズ風味」の無いコントロールとし、ドライイーストを添加したサンプルの「焼チーズ風味」の強度を上記と同様に6段階で評価した。なお「焼チーズ風味」が感じられない場合は0、非常に強く感じられる場合は5とした。
その結果として何れの場合も焼チーズ風味の強度は0であった。
この結果によれば、チーズに対して、焼チーズの風味を付与するには、細胞壁が分解されていない酵母ではなく、細胞壁が分解された酵母を含有する酵母の細胞壁分解物を含む酵母粉末を選択することが必要であることがわかる。