(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】インピーダンス調整方法、および、インピーダンス調整プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 1/04 20060101AFI20221003BHJP
【FI】
H04B1/04 B
(21)【出願番号】P 2018172052
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯田 守
(72)【発明者】
【氏名】片山 誠記
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 祐紀
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-092803(JP,A)
【文献】特開2015-027001(JP,A)
【文献】特開2017-118461(JP,A)
【文献】特開2006-166153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置におけるインピーダンス調整方法であって、
前記アンテナのインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態を監視する状態監視ステップと、
所定の時間が経過した後のある時点において、前記所定の状態が変化した場合に、所定の基準と比較して当該変化が急激でないときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、
前記所定の基準と比較して当該変化が急激であるときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わないインピーダンス調整制御ステップと
、を備え
、
前記状態監視ステップは、前記アンテナのインピーダンスの変化に間接的に関係する前記所定の状態として、前記信号を出力する信号出力部の電圧を監視し、
前記所定の基準として、前記電圧に関する第3閾値が設定されており、
前記インピーダンス調整制御ステップは、前記電圧が変化した場合に、前記電圧が前記第3閾値以上のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記電圧が前記第3閾値未満のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わない、インピーダンス調整方法。
【請求項2】
空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置におけるインピーダンス調整方法であって、
前記アンテナのインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態を監視する状態監視ステップと、
所定の時間が経過した後のある時点において、前記所定の状態が変化した場合に、所定の基準と比較して当該変化が急激でないときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、
前記所定の基準と比較して当該変化が急激であるときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わないインピーダンス調整制御ステップと
、を備え
、
前記状態監視ステップは、前記アンテナのインピーダンスの変化に間接的に関係する前記所定の状態として、前記信号を出力する信号出力部の電流を監視し、
前記所定の基準として、前記電流に関する第4閾値が設定されており、
前記インピーダンス調整制御ステップは、前記電流が変化した場合に、前記電流が前記第4閾値未満のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記電流が前記第4閾値以上のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わない、インピーダンス調整方法。
【請求項3】
空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置におけるインピーダンス調整方法であって、
前記アンテナのインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態を監視する状態監視ステップと、
所定の時間が経過した後のある時点において、前記所定の状態が変化した場合に、所定の基準と比較して当該変化が急激でないときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、
前記所定の基準と比較して当該変化が急激であるときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わないインピーダンス調整制御ステップと
、を備え
、
前記状態監視ステップは、前記アンテナのインピーダンスの変化に間接的に関係する前記所定の状態として、前記アンテナを含む領域の撮影画像を監視し、
前記所定の基準として、前記アンテナへの落雷を判定するための所定の画像用基準値が設定されており、
前記インピーダンス調整制御ステップは、前記撮影画像が変化した場合に、前記所定の画像用基準値に基いて前記アンテナへの落雷があったと判定されたときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わない、インピーダンス調整方法。
【請求項4】
空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置に実行させるためのインピーダンス調整プログラムであって、
前記送信装置に、
前記アンテナのインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態を監視する状態監視ステップと、
所定の時間が経過した後のある時点において、前記所定の状態が変化した場合に、所定の基準と比較して当該変化が急激でないときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記所定の基準と比較して当該変化が急激であるときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わないインピーダンス調整制御ステップと
、を実行させ
、
前記状態監視ステップは、前記アンテナのインピーダンスの変化に間接的に関係する前記所定の状態として、前記信号を出力する信号出力部の電圧を監視し、
前記所定の基準として、前記電圧に関する第3閾値が設定されており、
前記インピーダンス調整制御ステップは、前記電圧が変化した場合に、前記電圧が前記第3閾値以上のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記電圧が前記第3閾値未満のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わない、インピーダンス調整プログラム。
【請求項5】
空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置に実行させるためのインピーダンス調整プログラムであって、
前記送信装置に、
前記アンテナのインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態を監視する状態監視ステップと、
所定の時間が経過した後のある時点において、前記所定の状態が変化した場合に、所定の基準と比較して当該変化が急激でないときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記所定の基準と比較して当該変化が急激であるときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わないインピーダンス調整制御ステップと
、を実行させ
、
前記状態監視ステップは、前記アンテナのインピーダンスの変化に間接的に関係する前記所定の状態として、前記信号を出力する信号出力部の電流を監視し、
前記所定の基準として、前記電流に関する第4閾値が設定されており、
前記インピーダンス調整制御ステップは、前記電流が変化した場合に、前記電流が前記第4閾値未満のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記電流が前記第4閾値以上のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わない、インピーダンス調整プログラム。
【請求項6】
空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置に実行させるためのインピーダンス調整プログラムであって、
前記送信装置に、
前記アンテナのインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態を監視する状態監視ステップと、
所定の時間が経過した後のある時点において、前記所定の状態が変化した場合に、所定の基準と比較して当該変化が急激でないときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記所定の基準と比較して当該変化が急激であるときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わないインピーダンス調整制御ステップと
、を実行させ
、
前記状態監視ステップは、前記アンテナのインピーダンスの変化に間接的に関係する前記所定の状態として、前記アンテナを含む領域の撮影画像を監視し、
前記所定の基準として、前記アンテナへの落雷を判定するための所定の画像用基準値が設定されており、
前記インピーダンス調整制御ステップは、前記撮影画像が変化した場合に、前記所定の画像用基準値に基いて前記アンテナへの落雷があったと判定されたときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わない、インピーダンス調整プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、アンテナから空間に信号を放射するとともに、アンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置におけるインピーダンス調整方法、および、インピーダンス調整プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アンテナから空間に信号(高周波信号等)を放射する送信装置(例えば、中波放送用の送信装置)は、一般的に、アンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部(インピーダンス調整回路等)を備える。そのような送信装置では、例えば、アンテナへの着雪や着氷等によってアンテナのインピーダンスが変化した場合に、インピーダンス調整部によってインピーダンスを自動調整し、動作の安定性を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-44780号公報
【文献】特開平10-112625号公報
【文献】特開2011-9862号公報
【文献】特開2016-5137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、インピーダンスの変化速度に関係なくインピーダンスを自動調整する上述の従来技術には、改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、送信装置においてインピーダンスの変化速度を踏まえて適切にインピーダンスを調整することができるインピーダンス調整方法、および、インピーダンス調整プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のインピーダンス調整方法は、空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置におけるインピーダンス調整方法であって、前記アンテナのインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態を監視する状態監視ステップと、所定の時間が経過した後のある時点において、前記所定の状態が変化した場合に、所定の基準と比較して当該変化が急激でないときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記所定の基準と比較して当該変化が急激であるときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わないインピーダンス調整制御ステップと、を備える。前記状態監視ステップは、前記アンテナのインピーダンスの変化に間接的に関係する前記所定の状態として、前記信号を出力する信号出力部の電圧を監視し、前記所定の基準として、前記電圧に関する第3閾値が設定されており、前記インピーダンス調整制御ステップは、前記電圧が変化した場合に、前記電圧が前記第3閾値以上のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行い、前記電圧が前記第3閾値未満のときは前記インピーダンス調整部を用いた前記アンテナのインピーダンスとの整合を行わない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の送信装置のブロック構成図である。
【
図2】
図2は、実施形態のインピーダンス調整回路を示す回路図である。
【
図3】
図3は、実施形態の第1のインピーダンス調整処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態の第2のインピーダンス調整処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、好適な実施形態について、図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して、実施形態の送信装置1の構成について説明する。
図1は、実施形態の送信装置1のブロック構成図である。送信装置1は、中波放送用(AM(Amplitude Modulation)ラジオ放送用)の送信装置であって、信号出力部2と、電圧電流検出部3と、制御部4と、インピーダンス調整回路5と、送信アンテナ6(アンテナ)と、を備える。
【0009】
信号出力部2は、不図示の各部品によって変調や増幅等の処理を行った中波放送用の高周波信号を出力する。電圧電流検出部3は、信号出力部2から出力される高周波信号の電圧(電圧値)と電流(電流値)を検出する。
【0010】
制御部4は、例えばIC(Integrated Circuit)等によって実現され、機能構成として記憶部41と、状態監視部42と、制御信号送出部43と、演算部44と、を備える。各部41~44については後述する。
【0011】
インピーダンス調整回路5は、可変素子(例えば機械的に磁束を遮る構造を有するコイルやモータ付真空可変コンデンサ等で構成された素子)を備える整合回路51と、その可変素子のインダクタンス値やキャパシタンス値を変更する制御を行う可変素子制御部52と、を備え、信号出力部2のインピーダンスと送信アンテナ6のインピーダンスとを整合させる機能を有する。言い換えれば、インピーダンス調整回路5は、送信アンテナ6のインピーダンス(インピーダンス調整回路5の出力インピーダンス)を信号出力部2のインピーダンス(インピーダンス調整回路5の入力インピーダンス)に合わせるために、構成する素子の容量を調整する機能を有する。一般的に、信号出力部2とインピーダンス調整回路5は特性インピーダンスが50Ωや75Ωの同軸ケーブルで接続するため、例えば、インピーダンス調整回路5の入力インピーダンスは50Ωとなる。
【0012】
送信アンテナ6は、信号出力部2から送信され、整合回路51を経由した高周波信号(信号)を空間に放射する。
【0013】
なお、送信アンテナ6のインピーダンスは、送信アンテナ6への着雪、着氷などの外乱や、送信アンテナ6への落雷等により変化する。その場合、送信アンテナ6での反射波が増大することに起因する送信装置1の故障や、送信アンテナ6への進行波が減少することによる放送可能エリアの減少などを避けるため、インピーダンス調整回路5によってインピーダンスを調整することで整合状態を維持する送信装置が知られている。
【0014】
このような送信装置における従来のインピーダンスの調整方法としては、例えば、放送休止中に整合回路を切り離して整合回路を構成する素子を交換し、整合を実施する方法や、本実施形態のインピーダンス調整回路5のような可変素子を用いたインピーダンス自動調整技術を使用する方法が知られている。
【0015】
後者のインピーダンス自動調整技術としては、例えば、変化する前のインピーダンス調整回路の入力インピーダンス(初期インピーダンス)と変化した後のインピーダンス調整回路の入力インピーダンスとのVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)を小さくするように自動調整する方法や、送信アンテナのインピーダンスに相当する高周波電源の負荷インピーダンスを算出し、反射係数を用いて、インピーダンス調整回路の入力インピーダンスを自動調整する方法が知られている。
【0016】
このようなインピーダンス自動整合技術では、例えば、VSWRや反射係数が基準値より小さくなるように自動調整を行っており、例えば、反射係数(Γ)やVSWRは以下の式で算出される。
Γ=(Za-Zb)/(Za+Zb)
VSWR=(1+|Γ|)/(1-|Γ|)
【0017】
ここで、Zaは、変化する前のインピーダンス調整回路の入力インピーダンス(初期インピーダンス)[Ω]である。Zbは、送信アンテナのインピーダンスが変化した場合のインピーダンス調整回路の入力インピーダンス[Ω]である。|Γ|はΓの絶対値である。
【0018】
なお、VSWRはスカラー値であり、反射係数はベクトル値であるため、VSWRを小さくするように調整するだけでは、反射電力が大きくなる場合があり、反射係数を用いて、インピーダンスを自動調整する方法が望ましい。上述の特許文献1(特開2001-44780号公報)の技術においては、負荷インピーダンスとインピーダンス調整回路の入力インピーダンスを用いて、自動調整時の反射係数を算出し、反射電力が大きくならないようにインピーダンスの自動調整を実施している。
【0019】
また、本実施形態の送信装置1には、送信アンテナ6に落雷が発生した際などに送信アンテナ6の基部を短絡状態にすることで雷のエネルギーを逃がすための仕組みが設けられている。その理由は、中波放送用の送信装置1に使用する送信アンテナ6は、その物理的特性から100m級の大きさになることが多く、送信アンテナ6に落雷が発生する可能性が非常に高いためである。つまり、中波放送用のアンテナ等は、落雷時には、アンテナ基部が短絡状態となるため、送信アンテナ6のインピーダンスが瞬間的(急激)に変化する。
【0020】
しかし、従来技術では、落雷時のような瞬間的(急激)なインピーダンス変化と、送信アンテナへの着雪、着氷のような緩やかなインピーダンス変化とを区別せず一律にインピーダンスの自動調整を行っていた。つまり、変化が発生した場合のインピーダンス調整回路の入力インピーダンス値を、整合状態、言い換えれば、変化が発生する前のある時点におけるインピーダンス調整回路の入力インピーダンス値となるような自動調整(インピーダンス調整回路を用いた送信アンテナのインピーダンスとの整合)を実施してしまっていた。そして、可変素子の自動調整(定数変更)速度は落雷等による瞬間的(急激)な送信アンテナのインピーダンス変化速度に対して非常に遅い。したがって、落雷等による瞬間的(急激)な送信アンテナのインピーダンス変化に対し、可変素子の自動調整で信号出力部等の保護を行っても保護の実効性は無く、かえって、送信装置1の動作の不安定さが増すというデメリットだけが発生してしまう場合がある。そこで、本実施形態の送信装置1では、インピーダンスの自動調整を行う場合に、落雷等による瞬間的(急激)なインピーダンス変化についてはインピーダンスの自動調整の動作から除外する。以下、具体的に説明する。
【0021】
制御部4の記憶部41は、変化が発生する前のある時点におけるインピーダンス調整回路5の入力インピーダンス(初期インピーダンス値)や初期電圧値、初期電流値、電圧電流検出部3によって検出された電圧値、電流値や、それらの電圧値、電流値等に基いて算出されたインピーダンス(変化が発生した場合のインピーダンス調整回路5の入力インピーダンス値)や、演算部44が動作するためのプログラム(インピーダンス調整プログラム等)や、各種閾値(後述の第1閾値等)等を記憶する。
【0022】
状態監視部42は、送信アンテナ6のインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する所定の状態(詳細は後述)を監視する。制御信号送出部43は、演算部44からの指示に基いて、可変素子制御部52に制御信号を送出する。ここで、制御信号とは、可変素子のインダクタンス値やキャパシタンス値を変更するための信号である。
【0023】
演算部44は、記憶部41に記憶されたプログラムに基いて各種処理を実行する。また、整合状態(変化が発生する前のある時点)でのインピーダンス調整回路5のインピーダンス値や整合状態(変化が発生する前のある時点)において電圧電流検出部3によって検出された電圧値・電流値を初期インピーダンス値、初期電圧値、初期電流値として記憶部41に記憶させる機能を有する。演算部44は、例えば、変化が発生した場合に電圧電流検出部3によって検出された電圧値、電流値と、初期インピーダンス値、初期電圧値、初期電流値を用いて、変化が発生した場合のインピーダンス調整回路5の入力インピーダンス値を算出する。また、演算部44は、状態監視部42に監視された所定の状態が変化した場合に、所定の基準(詳細は後述)と比較して当該変化が急激でないときは制御信号送出部43から制御信号を送出させることでインピーダンス調整回路5(インピーダンス調整部)を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行い、所定の基準と比較して当該変化が急激であるときはインピーダンス調整回路5(インピーダンス調整部)を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行わない。
【0024】
ここで、上述の送信アンテナ6のインピーダンスの変化に直接的に関係する所定の状態とは、インピーダンスに関する指標である、例えば、初期インピーダンス値と変化が生じた場合のインピーダンス値の値そのものや、その差のノルムやVSWR、もしくは、反射係数や、その絶対値である。また、記憶部41には、所定の基準として、インピーダンスに関する指標に対応した第1閾値が設定されている。第1閾値は、例えば、初期インピーダンス値と送信アンテナ6に落雷が発生したときに想定される変化が生じた場合のインピーダンス値との差のノルムより少しだけ小さい値である。
【0025】
そして、演算部44は、状態監視部42に監視された所定の状態が変化した場合に、当該変化が第1閾値未満のときは制御信号送出部43から制御信号を送出させることでインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行い、当該変化が第1閾値以上のときはインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行わない。
【0026】
次に、
図2を参照して、インピーダンス調整回路5について説明する。
図2は、実施形態のインピーダンス調整回路5を示す回路図である。
図2のインピーダンス調整回路5では、インダクタとして機能するコイルLと、キャパシタとして機能するコンデンサC1、C2(可変コンデンサ)と、が図示のように接続されている。
【0027】
また、コンデンサC1、C2(以下、区別しないときは「コンデンサC」ともいう。)のそれぞれに対して、可変素子制御部52が設けられている。可変素子制御部52は、例えば、コンデンサCの電極間距離を変えるためのモータである。可変素子制御部52は、例えばモータである場合、制御信号送出部43(
図1)からの制御信号に基いて、コンデンサCの電極間距離を変え、キャパシタンス値を変更することで、信号出力部2のインピーダンスと送信アンテナ6のインピーダンスとを整合させる。
【0028】
なお、この
図2では、整合回路51を、コイルLとコンデンサC1、C2を備えたΠ型回路としたが、これに限定されず、例えば、コイル2個、コンデンサ1個のT型回路としてもよい。また、整合回路51におけるコイルの個数、コンデンサの個数、回路構成は、信号出力部2のインピーダンスと送信アンテナ6のインピーダンスとを整合させる回路構成であれば自由に設定可能である。
【0029】
次に、
図3を参照して、第1のインピーダンス調整処理について説明する。
図3は、実施形態の第1のインピーダンス調整処理を示すフローチャートである。
【0030】
まず、ステップS1において、送信装置1の制御部4の演算部44は、インピーダンスの整合状態の時(変化が発生する前のある時点)の電流値Ia、電圧値Va、インピーダンス調整回路5の入力インピーダンス値Zaを記憶部41に記憶させる。具体的には、演算部44は、電圧電流検出部3から取得した電流値Ia、電圧値Vaと、変化が発生する前のある時点のインピーダンス調整回路5の入力インピーダンス値Zaを、例えば、その値を直接入力する方法や電流値Ia・電圧値Vaを用いて算出する方法などによって、記憶部41に記憶させる。
【0031】
次に、送信装置1が、信号出力部2から出力され、整合回路51を経由した高周波信号を送信アンテナ6から空間に放射する動作を行っており、そして、所定の時間が経過した後のある時点、例えば、整合状態(変化が発生する前のある時点)から1秒が経過したタイミングに、ステップS2において、演算部44は、電圧電流検出部3から電流値Ib、電圧値Vbを取得する。
【0032】
次に、ステップS3において、演算部44は、ステップS2で取得した電流値Ib、電圧値Vbと、記憶部41に記憶された電流値Ia、電圧値Va、インピーダンス値Zaを用いて、インピーダンス値Zbを算出する。具体的には、例えば、演算部44は、インピーダンス値Zaと、電流値Ia、電圧値Vaから電流値Ib、電圧値Vbへと変化した変化量に基いてインピーダンス値Zbを算出する。
【0033】
次に、ステップS4において、演算部44は、インピーダンスは変化したか、つまり、Zb≠Zaであるか否かを判定し、Yesの場合はステップS5に進み、Noの場合はステップS2に戻る。ただし、ノイズの影響を考慮すると、厳密にZb=Zaとなる確率は小さくなるので、ZbとZaが異なっていてもある程度近い場合はZb=Zaと判定してもよい。また、インピーダンスを例としたが、例えば、VSWRや電圧値を使用することも可能であり、その判定は各種閾値(第1閾値等)とは異なる送信アンテナ6のインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する指標に基づいて実施することも可能である。例えば、ノイズによる誤差を考慮して、VSWRが1.1以下の場合はステップS4でNoと判定するようにしてもよい。
【0034】
ステップS5において、演算部44は、例えば、|Zb-Za|≧第1閾値であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS2に戻り、Noの場合はステップS6に進む。なお、|Zb-Za|はZbとZaの差のノルムである。
【0035】
ステップS6において、演算部44は、ZbをZaに整合するための可変素子の定数を算出する。具体的には、例えば、|Zb-Za|がゼロとなるような定数を算出する。なお、その算出は、例えば、VSWRを使用するなど、所定の状態や各種閾値(第1閾値等)とは異なる送信アンテナ6のインピーダンスの変化に直接的または間接的に関係する指標に基づいて実施することも可能である。
【0036】
次に、ステップS7において、制御信号送出部43は、演算部44からの指示に基いて、ステップS6で算出された定数に基く制御信号を可変素子制御部52に送出する。これを受けて、インピーダンス調整回路5は、信号出力部2のインピーダンスと送信アンテナ6のインピーダンスとを整合させる。そして、ステップS7の後、ステップS2に戻る。なお、その場合は、所定の時間が経過した後のある時点とは、例えば、前回の実施のタイミングから1秒が経過したタイミングとなる。また、所定の時間は一定の間隔である必要はなく、例えば、監視する回数に比例するようにしてもよいし、天気などの外部情報と関連させることも可能であり、もちろん、その値を変更させる機能を設け、設備の環境などの状況に応じて、設備の管理者が任意に変更することも可能である。
【0037】
このようにして、本実施形態の送信装置1によれば、送信アンテナ6のインピーダンスの変化速度を踏まえて適切にインピーダンスを調整することができる。例えば、送信アンテナ6に落雷が発生したときは、インピーダンスの変化が急激で、
図3のフローチャートのステップS5で|Zb-Za|≧第1閾値を満たしてステップS6ではなくステップS2に移行することで、インピーダンスの自動調整を行わない。したがって、落雷時にインピーダンスの自動調整を行って送信装置1の動作の不安定さが増すことになる事態を回避することができる。
【0038】
また、送信アンテナのインピーダンスの変化に直接的に関係する所定の状態を監視することで、送信アンテナ6のインピーダンスの急激な変化を直接的に高精度で判定できる。
【0039】
また、送信装置1と同様のハードウェア構成の従来の送信装置に対して、プログラムをアップデートするだけで本実施形態の送信装置1の動作を行わせることができる。
【0040】
次に、
図4を参照して、第2のインピーダンス調整処理について説明する。
図4は、実施形態の第2のインピーダンス調整処理を示すフローチャートである。
図4の第2のインピーダンス調整処理は、
図3の第1のインピーダンス調整処理と比較して、ステップS41が追加されている点でのみ異なっており、その異なっている点以外の説明は省略する。
【0041】
なお、制御部4の記憶部41は、インピーダンスに関して、第1閾値よりも小さい第2閾値を記憶している。第2閾値は、例えば、送信アンテナ6に着雪や着氷があったときに想定されるインピーダンス値と初期インピーダンス値とのノルムより少しだけ小さい値である。
【0042】
また、演算部44は、状態監視部42によってインピーダンスが変化したと判定された場合に、当該変化が第2閾値未満のときはインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行わず、当該変化が第2閾値以上で第1閾値未満のときは制御信号送出部43から制御信号を送出させることでインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行い、当該変化が第1閾値以上のときはインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行わない。
【0043】
図4のステップS4でYesの後、ステップS41において、演算部44は、|Zb-Za|≧第2閾値であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS5に進み、Noの場合はステップS2に戻る。
【0044】
このようにして、第2のインピーダンス調整処理によれば、インピーダンスに変化があった場合(ステップS4でYes)でも、|Zb-Za|≧第2閾値を満たしていなければ(ステップS41でNo)インピーダンスの調整を行わないことで、インピーダンスの調整が頻繁に行われる状況を回避できる。なお、例えば、第2閾値は、送信アンテナ6に着雪や着氷があったときに想定されるインピーダンス値と初期インピーダンス値とのノルムより少しだけ小さい値を想定したが、送信アンテナ6での反射波が増大することに起因する送信装置1の故障が発生する場合より少しだけ小さい値にすることや、送信アンテナ6への進行波が減少することによる放送可能エリアの減少を少しだけ許容するような値にすることにより、同様にインピーダンスの調整が頻繁に行われる状況を回避できる。
【0045】
(変形例その1)
次に、送信装置1の変形例について説明する。上述の実施形態では、状態監視部42が監視する所定の状態として、送信アンテナ6のインピーダンスの変化に直接的に関係する場合を例にとった。その代わりに、送信アンテナ6のインピーダンスの変化に関接的に関係する所定の状態として信号出力部2の電圧を採用してもよい。上述したように、送信装置1には、落雷対策として、送信アンテナ6に落雷が発生した際に送信アンテナ6の基部を短絡状態にすることで雷のエネルギーを逃がすための仕組みが設けられている。したがって、落雷時には、信号出力部2の電圧がほぼゼロとなる。そこで、記憶部41に、所定の基準として、電圧に関する第3閾値を記憶させておく。第3閾値は、例えば、送信アンテナ6に落雷が発生したときに想定される信号出力部2の電圧より少しだけ大きい値である。
【0046】
そして、演算部44は、電圧電流検出部3によって検出される信号出力部2の電圧が変化したと状態監視部42によって判定された場合に、その電圧が第3閾値以上のときは制御信号送出部43から制御信号を送出させることでインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行い、その電圧が第3閾値未満のときはインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行わない。
【0047】
これにより、インピーダンスの代わりに信号出力部2の電圧に基いて、送信アンテナ6に落雷が発生したときにインピーダンスの自動調整を行わないようにすることができる。
【0048】
(変形例その2)
同様に、送信アンテナ6のインピーダンスの変化に関接的に関係する所定の状態として、信号出力部2の電流を採用してもよい。上述したように、送信装置1には、落雷対策として、送信アンテナ6に落雷が発生した際に送信アンテナ6の基部を短絡状態にすることで雷のエネルギーを逃がすための仕組みが設けられている。したがって、落雷時には、信号出力部2の電流が非常に大きな値となる。そこで、記憶部41に、所定の基準として、電流に関する第4閾値を記憶させておく。第4閾値は、例えば、送信アンテナ6に落雷が発生したときに想定される信号出力部2の電流より少しだけ小さい値である。
【0049】
そして、演算部44は、電圧電流検出部3によって検出される信号出力部2の電流が変化したと状態監視部42によって判定された場合に、その電圧が第4閾値未満のときは制御信号送出部43から制御信号を送出させることでインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行い、その電流が第4閾値以上のときはインピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行わない。
【0050】
これにより、インピーダンスの代わりに信号出力部2の電流に基いて、送信アンテナ6に落雷が発生したときにインピーダンスの自動調整を行わないようにすることができる。
【0051】
(変形例その3)
さらに、送信装置1の他の変形例について説明する。落雷の発生を、インピーダンスや信号出力部2の電圧や電流ではなく、送信アンテナ6のインピーダンスの変化に関接的に関係する所定の状態として、送信アンテナ6の基部を含む領域の撮影画像に基いて判定する方法を採用してもよい。その場合、状態監視部42は、送信アンテナ6の基部を含む領域の撮影画像を監視する。上述したように、送信装置1には、落雷対策として、送信アンテナ6に落雷が発生した際に送信アンテナ6の基部を短絡状態にすることで雷のエネルギーを逃がすための仕組みが設けられている。したがって、落雷時には、送信アンテナ6の基部に誘導雷サージ等で発生するエネルギーによる発光等が確認できる。そこで、記憶部41には、所定の基準として、送信アンテナ6への落雷を判定するための所定の画像用基準値が設定されている。
【0052】
そして、所定の画像用基準値に基いて送信アンテナ6への落雷があったと状態監視部42によって判定されたときは、演算部44は、インピーダンス調整回路5を用いた送信アンテナ6のインピーダンスとの整合を行わない。
【0053】
これにより、インピーダンスや信号出力部2の電圧や電流の代わりに送信アンテナ6の基部を含む領域の撮影画像に基いて、送信アンテナ6に落雷が発生したときにインピーダンスの自動調整を行わないようにすることができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0055】
例えば、実施形態と変形例その3を組み合わせたシステムにより、より高い確度で、瞬間的(急激)なインピーダンス変化についてはインピーダンスの自動調整の動作から除外することが可能となる。
【0056】
また、本発明は、中波放送用の送信装置だけでなく、空間に信号を放射するアンテナのインピーダンスとの整合を行うインピーダンス調整部を備える送信装置全般に適用可能である。
【0057】
また、インピーダンスが急激に変化する場合として、落雷時を例にとったが、これに限定されず、地震時や、鳥等の飛行物体の送信アンテナ6への衝突時等の別のケースも考えられ、本発明はその別のケースの対策ともなりえる。
【0058】
また、本実施形態の送信装置1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータ装置で読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができる。また、本実施形態の送信装置1で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…送信装置、2…信号出力部、3…電圧電流検出部、4…制御部、41…記憶部、42…状態監視部、43…制御信号送出部、44…演算部、5…インピーダンス調整回路、51…整合回路、52…可変素子制御部、6…送信アンテナ。