IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エドワーズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図1
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図2
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図3
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図4
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図5
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図6
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図7
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図8
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図9
  • 特許-真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び、真空ポンプ構成部品
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20221003BHJP
【FI】
F04D19/04 D
F04D19/04 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018205003
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020070749
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-254284(JP,A)
【文献】特開平03-199699(JP,A)
【文献】特開2015-190404(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122215(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0253903(US,A1)
【文献】実開平6-12794(JP,U)
【文献】特開2015-86856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの吸気部と排気部を有するケーシングと、
静翼や回転翼が形成されたポンプ機構部と、
前記ポンプ機構部の下流側に設けられたネジ溝排気機構部と、
前記ポンプ機構部から導出された前記ガスを冷却して前記ネジ溝排気機構部の側へ流出させる冷却トラップ部と、
前記ポンプ機構部から導出された前記ガスを前記冷却トラップ部に誘導する隔壁部と、を備え、
前記隔壁部が、前記ケーシング内に設置された円板状部材であることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記隔壁部が、前記回転翼と一体に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記隔壁部の下流に前記ネジ溝排気機構部を備えることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記冷却トラップ部におけるトラップ温度が、ガス成分の少なくとも1つの昇華温度を下回ることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記冷却トラップ部の取付部が断熱構造となっていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記冷却トラップ部における堆積物の除去機能を備えることを特徴する請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記冷却トラップ部に、前記ガスの流入出口である第1流入出口と、洗浄液の流入出口である第2流入出口を備えることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記冷却トラップ部における堆積物が析出し得る箇所に非粘着コーティングが施されていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記ケーシングが、前記冷却トラップ部と、所定のケーシング部材を組み合せて構成されており、これらのうちの前記冷却トラップ部のみを着脱可能としていることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプやその構成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電によりロータ翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガスの気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、冷却トラップ部(「冷却部」や「トラップ部」などともいう)を備え、冷却トラップ部でガス中の堆積成分を積極的に昇華(ここでは固体化の意味である)させるタイプものがある。
【0003】
そして、このタイプのターボ分子ポンプとしては、冷却トラップ部を、排気流路の途中に配置したもの(特許文献1)や、排気流路の外に配置して一部のガスを分流させるもの(特許文献2、特許文献3)などがある。ここで、特許文献2や特許文献3では、排気流路を流れるガスが符号Gで示され、冷却トラップ部に分流するガスが符号gにより示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-254284号公報
【文献】特許第4211320号公報
【文献】特許第4916655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような各種のターボ分子ポンプのうち、特許文献1に示されたタイプのものにおいては、冷却トラップ部が排気流路の途中に設置され、冷却トラップ部が排気流路に面している。このため、特許文献1に示されたタイプのターボ分子ポンプは、特許文献2や特許文献3に示されたタイプのものと比べて、多量のガスを冷却トラップ部に接触させることができ、ガス中の堆積成分を効率よく昇華させることが可能である。
【0006】
しかし、排気流路中に堆積物が析出するため、堆積物が増えるにつれて、徐々に排気流路が閉塞され、排気性能が低下してしまう。そして、冷却トラップをケーシング内に設置したままで堆積物を除去することは困難であり、堆積物を除去して排気流路の大きさ(流路面積)を元に戻すためには、冷却トラップを取り外し、冷却トラップに対して、オーバーホールによるメンテナンスを行う必要がある。
【0007】
これに対して、特許文献2や特許文献3に示されているように、ガスの一部を排気流路から冷却トラップ部の側へ分流させるタイプのものにおいては、冷却トラップ部を排気流路から分離することができ、排気経路に堆積物が生じ難い。しかし、排気流路のガスの一部を導くための流路(符号gのガス流路)を、排気流路に連通させて両者を空間的に繋げるだけでは、期待するようなガスの分流が生じるとは限らない。このため、特許文献2や特許文献3に示されたタイプのターボ分子ポンプは、冷却トラップ部を有効に活用することが困難である。
【0008】
特に、冷却トラップ部の前段で圧縮されたガスに関しては、分子の平均自由行程が0.5mm程度になると考えられ、理論上、ガス中の分子を排気流路から外れた位置へ移動させることは難しい。したがって、特許文献2や特許文献3に示されているようにガスを分流させるタイプのものにおいては、冷却トラップ部によって、ガス中の堆積成分を効率よく昇華させることは困難である。
【0009】
本発明の目的とするところは、ガスを効率よく冷却できるとともにメンテナンス頻度が少ない真空ポンプ、及び、真空ポンプの構成部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために本発明は、ガスの吸気部と排気部を有するケーシングと、
静翼や回転翼が形成されたポンプ機構部と、
前記ポンプ機構部の下流側に設けられたネジ溝排気機構部と、
前記ポンプ機構部から導出された前記ガスを冷却して前記ネジ溝排気機構部の側へ流出させる冷却トラップ部と、
前記ポンプ機構部から導出された前記ガスを前記冷却トラップ部に誘導する隔壁部と、を備え、
前記隔壁部が、前記ケーシング内に設置された円板状部材であることを特徴とする真空ポンプにある。
)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記隔壁部が、前記回転翼と一体に設けられていることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記隔壁部の下流に前記ネジ溝排気機構部を備えることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記冷却トラップ部におけるトラップ温度が、ガス成分の少なくとも1つの昇華温度を下回ることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
)また、上記目的を達成するために他の本発明は、前記冷却トラップ部の取付部が断熱構造となっていることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
)上記目的を達成するために他の本発明は、前記冷却トラップ部における堆積物の除去機能を備えることを特徴する(1)に記載の真空ポンプにある。
)上記目的を達成するために他の本発明は、前記冷却トラップ部に、前記ガスの流入出口である第1流入出口と、洗浄液の流入出口である第2流入出口を備えることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
)上記目的を達成するために他の本発明は、前記冷却トラップ部における堆積物が析出し得る箇所に非粘着コーティングが施されていることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプにある。
)上記目的を達成するために他の本発明は、前記ケーシングが、前記冷却トラップ部と、所定のケーシング部材を組み合せて構成されており、これらのうちの前記冷却トラップ部のみを着脱可能としていることを特徴とする(1)に記載の真空ポンプ。
【発明の効果】
【0011】
上記発明によれば、ガスを効率よく冷却できるとともにメンテナンス頻度が少ない真空ポンプ、及び、真空ポンプの構成部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図2】(a)は第1実施形態に係るターボ分子ポンプの一部を拡大して示す縦断面、(b)は第2実施形態に係るターボ分子ポンプの一部を拡大して示す縦断面である。
図3】(a)は冷却トラップ部を設けない場合のガスの状態変化を蒸気圧線図上に示すグラフ、(b)は冷却トラップ部を設けた場合のガスの状態変化を蒸気圧線図上に示すグラフである。
図4】本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図5】本発明の第3実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図6】本発明の第4実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図7】本発明の第5実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図8】本発明の第6実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図9】本発明の第7実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
図10】本発明の第8実施形態に係るターボ分子ポンプの縦断面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。
本発明の第1実施形態に係るターボ分子ポンプ10について、図1及び図2に基づき説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ10を縦断して概略的に示している。このターボ分子ポンプ10は、例えば、半導体製造装置、電子顕微鏡、質量分析装置などといった対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0014】
ターボ分子ポンプ10は、円筒状のポンプ本体11と、箱状の電装ケース(図示略)とを一体に備えている。これらのうちのポンプ本体11は、図1中の上側が対象機器の側に繋がる吸気部12となっており、下側が補助ポンプ等に繋がる排気部13となっている。そして、ターボ分子ポンプ10は、図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0015】
電装ケース(図示略)には、ポンプ本体11に電力供給を行うための電源回路部や、ポンプ本体11を制御するための制御回路部が収容されているが、ここでは、これらについての詳しい説明は省略する。
【0016】
ポンプ本体11は、略円筒状の本体ケーシング14を備えている。本体ケーシング14内には、排気機構部15と回転駆動部(以下では「モータ」と称する)16とが設けられている。これらのうち、排気機構部15は、ポンプ機構部としてのターボ分子ポンプ機構部17と、ネジ溝排気機構部としてのネジ溝ポンプ機構部18とにより構成された複合型のものとなっている。
【0017】
ターボ分子ポンプ機構部17とネジ溝ポンプ機構部18は、ポンプ本体11の軸方向に連続するよう配置されており、図1においては、図1中の上側にターボ分子ポンプ機構部17が配置され、図1中の下側にネジ溝ポンプ機構部18が配置されている。以下に、ターボ分子ポンプ機構部17やネジ溝ポンプ機構部18の基本構造について概略的に説明する。
【0018】
図1中の上側に配置されたターボ分子ポンプ機構部17は、多数のタービンブレードによりガスの移送を行うものであり、所定の傾斜や曲面を有し放射状に形成された固定翼(以下では「ステータ翼」と称する)19と回転翼(以下では「ロータ翼」と称する)20とを備えている。ターボ分子ポンプ機構部17において、ステータ翼19とロータ翼20は十段程度に亘って交互に並ぶよう配置されている。
【0019】
ステータ翼19は、本体ケーシング14に一体的に設けられており、上下のステータ翼19の間に、ロータ翼20が入り込んでいる。ロータ翼20は、真空ポンプ構成部品としての、筒状のロータ28に一体化されており、ロータ28はロータ軸21に、ロータ軸21の外側を覆うよう同心的に固定されている。ロータ軸21の回転に伴い、ロータ軸21及びロータ28と同じ方向に回転する。
【0020】
ここで、ポンプ本体11は、主だった部品の材質としてアルミニウムが採用されているものであり、後述する排気側ケーシング14b、ステータ翼19、ロータ28などの材質もアルミニウムである。また、図1では、図面が煩雑になるのを避けるため、ポンプ本体11における部品の断面を示すハッチングの記載を省略している。
【0021】
ロータ28のロータ円筒部23には、隔壁部としての隔壁29が環状に形成されている。この隔壁29は、ロータ28における軸方向の途中の部位に一体に形成されており、図1中におけるロータ翼20の下部において、径方向に突出している。そして、隔壁29の、ロータ28からの突出量は、全周に亘り均一となるよう設定されている。
【0022】
さらに、隔壁29は、後述する冷却トラップ部41へガスを誘導するようになっている。また、隔壁29の材質もロータ28等と同じくアルミニウムである。そして、隔壁29は、ロータ28の回転に伴い、ロータ28と一体に回転し、回転円板として機能しながら、径方向外側(遠心方向)へのガスの誘導を行うようになっている。
【0023】
ロータ軸21は、段付きの円柱状に加工されており、ターボ分子ポンプ機構部17から下側のネジ溝ポンプ機構部18に達している。さらに、ロータ軸21における軸方向の中央部には、モータ16が配置されている。このモータ16については後述する。
【0024】
ネジ溝ポンプ機構部18は、ロータ円筒部23とネジステータ24を備えている。 ロータ円筒部23やネジステータ24の詳細については後述する。ネジ溝ポンプ機構部18の後段には排気パイプに接続する為の排気口25が配置されており、排気口25の内部とネジ溝ポンプ機構部18が空間的に繋がっている。
【0025】
さらに、ネジ溝ポンプ機構部18の外周部には、冷却トラップ部41(後述する)が設けられている。ネジ溝ポンプ機構部18のロータ円筒部23は、ロータ28に一体に形成されている。さらに、ロータ円筒部23は、図1中におけるロータ28の下端部から、径方向に同心的に拡がって形成されている。
【0026】
図2(a)に拡大した断面を示すが、ネジステータ24は、筒状に形成され、ロータ円筒部23の外側を全周に亘り覆っている。ネジステータ24の内周面には、曲がり歯状の複数のスパイラル壁部26が、軸方向へ(図1の上側から下側へ)、所定のねじれ角度で形成されている。さらに、各スパイラル壁部26の間には、各スパイラル壁部26により区切られたネジ溝部27が形成されている。
【0027】
ネジステータ24においては、スパイラル壁部26の間隔が、図1および図2(a)中の上方から下方へいくにつれて、徐々に狭くなるように変化している。このため、ネジ溝部27の幅も、図1中の上方から下方へいくにつれて、徐々に狭くなるように変化している。ネジステータ24は、スパイラル壁部26の先端やネジ溝部27をロータ円筒部23に向けた状態で、スパイラル壁部26をロータ円筒部23に接触させないよう、排気側ケーシング14bに固定されている。
【0028】
ここで、ネジステータ24としては、ホルベックとして知られる一般的なものを採用可能である。また、図2(a)では、スパイラル壁部26については、図示が煩雑にならないよう、ハッチングを省略して断面を示している。また、ネジステータ24の材質として、アルミニウムが採用されている。
【0029】
前述のモータ16は、ロータ軸21の外周に固定された回転子(符号省略)と、回転子を取り囲むように配置された固定子(符号省略)とを有している。モータ16を作動させるための電力の供給は、前述の電装ケース(図示略)に収容された電源回路部や制御回路部により行われる。
【0030】
ロータ軸21の支持には、磁気浮上による非接触式の軸受である磁気軸受が用いられている。磁気軸受としては、モータ16の上下に配置された2組のラジアル磁気軸受(径方向磁気軸受)30と、ロータ軸21の下部に配置された1組のアキシャル磁気軸受(軸方向磁気軸受)31とが用いられている。
【0031】
これらのうち各ラジアル磁気軸受30は、ロータ軸21に形成されたラジアル電磁石ターゲット30A、これに対向する複数(例えば2つ)のラジアル電磁石30B、およびラジアル方向変位センサ30Cなどにより構成されている。ラジアル方向変位センサ30Cはロータ軸21の径方向変位を検出する。そして、ラジアル方向変位センサ30Cの出力に基づいて、ラジアル電磁石30Bの励磁電流が制御され、ロータ軸21が、径方向の所定位置で軸心周りに回転できるよう浮上支持される。
【0032】
アキシャル磁気軸受31は、ロータ軸21の下端側の部位に取り付けられた円盤形状のアーマチュアディスク31Aと、アーマチュアディスク31Aを挟んで上下に対向するアキシャル電磁石31Bと、ロータ軸21の下端面から少し離れた位置に設置したアキシャル方向変位センサ31Cなどにより構成されている。アキシャル方向変位センサ31Cはロータ軸21の軸方向変位を検出する。そして、アキシャル方向変位センサ31Cの出力に基づいて、上下のアキシャル電磁石31Bの励磁電流が制御され、ロータ軸21が、軸方向の所定位置で軸心周りに回転できるよう浮上支持される。
【0033】
そして、これらのラジアル磁気軸受30やアキシャル磁気軸受31を用いることにより、ロータ軸21(及びロータ翼20)が高速回転を行うにあたって摩耗がなく、寿命が長く、且つ、潤滑油を不要とした環境が実現されている。また、本実施形態においては、ラジアル方向変位センサ30Cやアキシャル方向変位センサ31Cを用いることにより、ロータ軸21について、軸方向(Z方向)周りの回転の方向(θz)のみ自由とし、その他の5軸方向であるX、Y、Z、θx、θyの方向についての位置制御が行われている。
【0034】
さらに、ロータ軸21の上部及び下部の周囲には、所定間隔をおいて半径方向の保護ベアリング(「保護軸受」、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などともいう)32、33が配置されている。これらの保護ベアリング32、33により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸21の位置や姿勢を大きく変化させず、ロータ翼20やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0035】
次に、前述の冷却トラップ部41について説明する。冷却トラップ部41は、外胴部42、内胴部43、及び、冷却板44などを組み合わせ、ネジ溝ポンプ機構部18の外周を覆うよう環状に形成されている。これらの外胴部42、内胴部43、及び、冷却板44の材質として、アルミニウムが採用されている。
【0036】
外胴部42は、本体ケーシング14の一部(軸方向の中間部分)を構成しており、内胴部43は、ネジ溝ポンプ機構部18のネジステータ24の外周に面している。つまり、本実施形態においては、本体ケーシング14は、図1中の上部に位置する吸気側ケーシング14a、冷却トラップ部41の外胴部42、及び、図1中の下側に位置する排気側ケーシング14bを直列的に並べて構成されている。さらに、冷却トラップ部41は、後述するように本体ケーシング14の内部で、ガスの冷却を行うようになっている。
【0037】
さらに、外胴部42の内部には、冷却水を循環させるための冷却水流路46が環状に形成されており、冷却水流路46には、冷却水配管47を介して冷却水(図示略)が導入される。そして、冷却水流路46に導入された冷却水により、外胴部42や、外胴部42に熱伝達可能に接触した各部品(内胴部43、冷却板44など)の熱が奪われ、冷却トラップ部41が冷却される。ここで、図1では、冷却水を導出する冷却水配管(図示略)は、本体ケーシング14の背後に隠れている。
【0038】
冷却板44は、その板面を本体ケーシング14の径方向における外側と内側に向けた状態で、立てて設けられている。冷却板44の基端部(図1及び図2(a)中の下方の部位)は、断面L字状に加工されており、外胴部42と内胴部43に挟まれた状態で固定されている。冷却板44の上端部(図1及び図2(a)中の上方の部位)は、前述の隔壁29と同程度の位置に達しており、隔壁29に接触せず、且つ、ガス漏れが防止される程度の僅かな隙間を介して隔壁29に面している。
【0039】
冷却板44の基端側においては、流通孔部45が冷却板44を厚み方向に貫通するよう設けられており、冷却板44の外側と内側の空間は、ガスが流通できるよう繋がっている。そして、冷却トラップ部41の内部には、隔壁29の上面側の空間から、冷却板44の外側、流通孔部45、及び、冷却板44の内側を経て、隔壁29の下面側の空間に至るトラップ流路51が形成されている。
【0040】
トラップ流路51において、隔壁29の上面側の部位は、トラップ流路51の、環状に形成されたトラップ流入口52(第1流入出口のうちの第1流入口)となっている。また、隔壁29の下面側の部位は、トラップ流路51の、同じく環状に形成されたトラップ流出口53(第1流入出口のうちの第1流出口)となっている。そして、ターボ分子ポンプ機構部17から導出されたガスが、隔壁29により誘導されてトラップ流入口52へ流入する。
【0041】
さらに、トラップ流入口52へ流入したガスは、トラップ流路51において冷却板44の外側と内側を通り、トラップ流入口52からネジ溝ポンプ機構部18へ向って流出する。ここで、トラップ流入口52やトラップ流出口53は、全周に亘り連続して開口しているものであってもよく、或いは、断続的に開口しているものであってもよい。
【0042】
冷却トラップ部41には、図1中の左側に示すように(図2(a)に拡大した断面を示す)、洗浄液流入管55(第2流入出口のうちの第2流入口)を構成する部材と洗浄液流出管56(第2流入出口のうちの第2流出口)が接続されている。洗浄液流入管55と洗浄液流出管56は、通常は洗浄液の流通がないよう、バルブ等を介して閉じられている。しかし、冷却トラップ部41内を洗浄する場合には、ターボ分子ポンプ10の運転を停止した状態において、洗浄液流入管55を介して、トラップ流路51内に洗浄液(図示略)が導入される。
【0043】
洗浄液流入管55と洗浄液流出管56の配置は、ターボ分子ポンプ10を図1に示す状態(吸気部12上にして垂直)に設置した場合に、洗浄液流入管55の位置が、洗浄液流出管56よりも低くなるように設定されている。また、洗浄液流入管55と洗浄液流出管56には、規格化された配管や継手が用いられている。
【0044】
洗浄液流出管56の配置は、図1に示すように、洗浄液流出管56の位置が隔壁29よりも低くなるよう設定されている。そして、洗浄液流入管55を介して冷却トラップ部41に供給され、トラップ流路51内で流通する洗浄液は、トラップ流路51内に溜り、洗浄液流出管56を介して、ターボ分子ポンプ10の外部に排出される。そして、洗浄液は、トラップ流路51とターボ分子ポンプ10の外部との間で循環する。
【0045】
このように、洗浄液をトラップ流路51内に供給し循環させることで、洗浄液流入管55や洗浄液流出管56、及び、これらに繋がる洗浄液流路が洗浄部(堆積物の除去機能を発揮する堆積物除去部)として機能する。そして、冷却トラップ部41を、本体ケーシング14から取り外すことなく、洗浄することが可能となる。さらに、冷却トラップ部41の内部には、冷却板44が設けられており、ガスと冷却トラップ部41との接触面積が大きく確保されているが、洗浄液による洗浄を行うことで、冷却トラップ部41内の広い面積(堆積物付着可能面積)に対して効率よく洗浄を行うことができる。
【0046】
また、洗浄液流入管55と洗浄液流出管56のうち、上方に位置する洗浄液流出管56を隔壁29よりも低く配置しているので、洗浄液の液面が、隔壁29やその上部に到達するのを防止できる。そして、洗浄液の液面が隔壁29よりも上に達し、洗浄液が隔壁29よりも上に溢れるのを防止できる。
【0047】
冷却トラップ部41において、接続されている前述の冷却水配管47、洗浄液流入管55、及び、洗浄液流出管56は、いずれも本体ケーシング14の径方向外側(遠心方向)を向いて突出している。また、冷却トラップ部41の下方には、排気口25やパージポート57が設けられており、これらも本体ケーシング14の径方向外側(遠心方向)を向いて突出している。
【0048】
パージポート57は、パージガス(ここではN2ガス)の流路を構成している。パージポート57を介して導入されたパージガスは、ラジアル電磁石ターゲット30Aと、ラジアル電磁石30Bの間の空間に、上向き流れを形成している。そして、パージガスの流れによって、堆積成分を含むガスが排出され、留まろうとする堆積成分が押し流されるようになっている。
【0049】
冷却トラップ部41の、隣接する部品(ここでは吸気側ケーシング14a及び排気側ケーシング14b)に対する固定は、六角穴付きボルト58、59を用いて行われている。つまり、図1及び図2(a)中に示すように、相対的に大径な六角穴付きボルト58により、吸気側ケーシング14aのフランジ部61と冷却トラップ部41(外胴部42)との連結が行われている。また、相対的に小径な六角穴付きボルト59により、排気側ケーシング14bのフランジ部62と冷却トラップ部41(同じく外胴部42)との連結が行われている。
【0050】
また、大径な六角穴付きボルト58を緩めて冷却トラップ部41から離脱させることにより、吸気側ケーシング14aと冷却トラップ部41の分離が可能となる。さらに、小径な六角穴付きボルト59を緩めて冷却トラップ部41から離脱させることにより、排気側ケーシング14bと冷却トラップ部41の分離が可能となる。
【0051】
そして、洗浄液による洗浄では足りない程、冷却トラップ部41内に堆積物が蓄積していることが想定される場合などに、冷却トラップ部41を取り外し、冷却トラップ部41の分解や洗浄を行えるようになっている。また、冷却トラップ部41を取り外すことで、冷却トラップ部41により覆い隠されていたネジ溝ポンプ機構部18が露出する。このため、ネジ溝ポンプ機構部18のネジステータ24に堆積物が付着している場合には、この堆積物を除去する作業が可能となる。
【0052】
このような構造のターボ分子ポンプ10の運転時には、前述のモータ16が駆動され、ロータ翼20が回転する。そして、ロータ翼20の回転に伴い、図1中の上側に示す吸気部12からガスが吸引され、ステータ翼19とロータ翼20とに気体分子を衝突させながら、ネジ溝ポンプ機構部18の側へガスの移送が行われる。
【0053】
ターボ分子ポンプ機構部17からネジ溝ポンプ機構部18の側へ導出されたガスは、図1における隔壁29の上面29a(上流側ガス誘導面)により水平方向の外側(回転中心側から遠心方向側)へ誘導される。そして、回転する隔壁29の上面29aにより誘導されたガスは、トラップ流入口52に導かれ、冷却トラップ部41のトラップ流路51に流入する。
【0054】
このようなガスの移送は連続的に行われており、トラップ流路51に流入したガスは、冷却板44の外周面44aの側や、流通孔部45を経て、内周面44bの側に到達する。そして、トラップ流路51内のガスは、冷却トラップ部41の各壁面との間の熱伝達により冷却され、トラップ流路51からトラップ流出口53を経て、隔壁29に向かって流出する。そして、冷却されたガスは、隔壁29の下面29b(下流側ガス誘導面)に沿って流れ、前述のネジ溝部27に吸い込まれ、ネジ溝ポンプ機構部18により圧縮される。
【0055】
ネジ溝部27内のガスは、排気部13から排気口25へ進入し、排気口25を介してポンプ本体11から排出される。なお、ロータ軸21や、ロータ軸21と一体的に回転するロータ翼20、ロータ円筒部23、及び、モータ16の回転子(符号省略)等を、例えば「ロータ部」、或は「回転部」等と総称することが可能である。
【0056】
次に、冷却トラップ部41の機能について、図3(a)、(b)の蒸気圧曲線を用いて説明する。これらのうち、図3(a)は、ターボ分子ポンプ機構部(図1の符号17参照)と、ネジ溝ポンプ機構部(図1の符号18参照)との間に冷却トラップ部41を設けない場合の状態変化を例示しており、図3(b)は、冷却トラップ部41を設けた場合の状態変化を例示している。
【0057】
さらに、各図中の縦軸はガス中における堆積成分の分圧Pを表しており、横軸はガスの温度Tを表している。ここでは、部品の表面に接したガスは、部品の温度まで冷却されるので、流路を構成する部品の温度を、便宜上「ガスの温度」として扱っている。また、各図中において蒸気圧曲線Lは、ガスの温度Tが上昇するにつれて堆積成分の分圧Pが、上方に凸な形状で滑らかに上昇するものとなっている。そして、蒸気圧曲線Lの上側の領域は、図中に文字表記により示すように、堆積成分が固体である領域(固体領域)となっている。さらに、蒸気圧曲線Lの下側の領域は、同じく図中に文字表記により示すように、堆積成分が気体である領域(気体領域)となっている。
【0058】
図3(a)において、点S1~S3は、ターボ分子ポンプ内で移送されるガスや、ガス中における堆積成分の状態を示している。これらのうちS1(T=T1、P=P1)は、ターボ分子ポンプ機構部の入口(以下、「タービン入口」と称する)におけるガスの状態に対応している。このS1は、蒸気圧曲線Lよりも下側に位置しており、タービン入口における堆積成分の状態は気体領域にある。
【0059】
続いて、S2(T2、P2)は、ターボ分子ポンプ機構部の出口(以下では「タービン出口」と称する)におけるガスの状態に対応している。ターボ分子ポンプ機構部では、ガスが移送に伴い圧縮される。このため、タービン出口では、タービン入口(S1)と比べて、ガスの温度と堆積成分の分圧とが、ともに上昇している。
【0060】
図3(a)の例では、タービン出口のガスに対して冷却トラップ(図1における符号41が該当)が用いられていないことから、タービン出口から、ネジ溝部(図2(a)中の符号27が該当)の入口(以下では「ネジ溝入口」と称する)におけるガスの温度は同じになると考えることができる。つまり、タービン出口とネジ溝入口との間に冷却トラップを設けない場合には、ガスの温度、及び、堆積成分の分圧に関して、タービン出口=ネジ溝入口の関係が成立すると考えることができる。
【0061】
そして、ガスがネジ溝部内で移送されると、ガスの温度と堆積成分の圧力が上昇し、ガスの状態はS3となる場合がある。このS3は、ネジ溝部の出口(以下では「ネジ溝出口」と称する)におけるガスの状態に対応している。さらに、S3(T2、P2)は、蒸気圧曲線Lよりも上側に位置しており、タービン出口では、堆積成分の状態は固体領域に属している。このため、ネジ溝部出口や、ネジ溝出口よりも下流側の部位では、堆積成分の体積(析出)があると考えられる。そして、堆積物が多く溜まったと想定される場合には、ターボ分子ポンプを分解し、堆積物の除去のためのクリーニングを行うことが必要となる。
【0062】
一方、図3(b)に示すように冷却トラップ(図1における符号41が該当)を用いた場合には、タービン出口に達したガス(S2)を冷却トラップに導くことで、ガスの温度を下げることができる。そして、S4(T4、P4)やS5(T5、P5)で示すように、ガスの状態を蒸気圧曲線Lよりも低温側の固体領域に移行させ、堆積成分を析出させて、ネジ溝入口(S6)に送られるガスについて、堆積成分の分圧を下げておくことができる。
【0063】
つまり、図3(b)中のS4は、冷却トラップの入口(以下では「トラップ入口」と称する)におけるガスの状態に対応しており、S5は、冷却トラップの出口(以下では「トラップ出口」と称する)におけるガスの状態に対応している。また、S6は、ネジ溝入口におけるガスの状態に対応しており、S7は、ネジ溝出口におけるガスの状態に対応している。
【0064】
タービン出口のガスを冷却トラップに導くことにより、ガスの温度が低下し、ガスの状態はS3からS4へ移行する。さらに、ガスが冷却トラップ内のトラップ流路(図1における符号51が該当)を流通する間に、冷却トラップ内で堆積成分の析出が生じ、堆積成分の分圧がP4からP5へ下がる。ここで、図3(b)では、説明が煩雑にならないよう、ガスの温度がトラップ入口でT4に下がり、T4=T5になるものとしている。前述したように部品の表面に接したガスは、部品の温度まで冷却されるので、流路を構成する部品の温度を、便宜上「ガスの温度」としているが、更に、冷却トラップ入口S4と冷却トラップ出口S5が同じ温度である為、T4=T5としている。なお、ガスの温度低下の態様は、図3(b)の例に限られるものではない。
【0065】
冷却トラップ出口に達したガスは、冷却トラップ部から流出し、ネジ溝入口に導かれる。そして、ガスの温度は、T5からT6へ上昇する。このとき堆積成分は、冷却トラップ部で固体化しており、堆積成分の分圧P6は、図3(a)に示す場合(冷却トラップ部を設けない場合)のネジ溝入口における分圧(P2)に比べて低くなっている。
【0066】
このため、ガスが、図3(a)に示す場合と同じようにネジ溝ポンプ機構部(図1における符号18が該当)で圧縮されても、ネジ溝出口では、堆積成分の分圧P7は、P3よりも低くなる。この結果、ネジ溝出口や、その下流の部位に堆積物が発生するのを防止できる。そして、堆積物の除去のためのクリーニングを不要としたり、クリーニングの頻度を低下させたりすることが可能となる。
【0067】
さらに、冷却トラップ部の温度(トラップ温度)を、ガス中の少なくとも1つの堆積成分の昇華温度よりも低くすることによって、より冷却トラップ部以外の部分に堆積物が析出するのを防止できる。ここで、ガスとしては、例えば、塩化アルミニウムが析出するものや、相対的に昇華温度が高い塩化インジウムが析出するようなもの等を例示することができる。
【0068】
以上説明したような第1実施形態のターボ分子ポンプ10(図1)によれば、冷却トラップ部41の前段に隔壁29を設けていることから、隔壁29によってガスを冷却トラップ部41へ積極的に誘導することができる。そして、隔壁29により、ガスをトラップ流入口52に誘導し、更に冷却トラップ部41を経由してトラップ流出口53から流出したガスを下流側へ案内することができる。このため、例えば前述の特許文献2や特許文献3に示されたタイプのものと比べて、ガスを分流させることなく、ガスの全体を、隔壁29と冷却トラップ部41との相互作用によって、効率よく冷却することができる。
【0069】
また、隔壁29によってガスを冷却トラップ部41へ誘導していることから、排気流路を、一直線の態様ではなく、一旦折れ曲がる方向(逸れる方向)へ進み、冷却トラップ部41を経由して、ネジ溝ポンプ機構部18の上流へ戻る態様で形成することができる。そして、トラップ流入口52、トラップ流出口53、冷却トラップ部41、冷却トラップ部41内のトラップ流路51といった、ネジ溝ポンプ機構部18の前段のガス流路は、圧縮の機能を求められる部位ではないことから、大きさの制約を受け難いものとなっている。このため、ネジ溝ポンプ機構部18の前段のガス流路を十分な大きさとすることにより、前述の特許文献1に示されたタイプのものと比べて、排気流路が堆積物により閉塞されるのを防止できる。そして、冷却トラップ部41のメンテナンス頻度を少なくすることが可能となる。
【0070】
また、トラップ流入口52とトラップ流出口53が、隔壁29の上下に位置しており、トラップ流入口52とトラップ流出口53が、隔壁29によって仕切られている。このため、流入するガスと流出するガスとの衝突を防止でき、ガスを円滑に流通させることができる。そして、冷却トラップ部41にガスを確実に供給することが可能となる。
【0071】
さらに、ターボ分子ポンプ機構部17とネジ溝ポンプ機構部18との間に隔壁29を設けていることから、例えば、ターボ分子ポンプ機構部17から導出されたガス中に何らかのゴミが含まれていたとしても、このゴミがネジ溝ポンプ機構部18の側へ侵入するのを隔壁29によって防ぐことが可能である。
【0072】
また、冷却トラップ部41に冷却板44を設けていることから、ガスと冷却トラップ部41との接触面積を大きく確保することができる。そして、このことによっても効率よくガスの冷却を行うことが可能である。
【0073】
また、一般的に、ターボ分子ポンプ10内のガスの温度は、大気温度より高くなっているが、冷却トラップ部41の外胴部42が大気側に面していることで、外胴部42を通じて大気側に放熱が行われる。このため、効率よくガスの冷却を行うことが可能である。
【0074】
また、冷却トラップ部41が、ネジ溝ポンプ機構部18のネジステータ24の外周に面するよう延びており、前述の特許文献1に示されたタイプのものと比べて、ポンプ内部からの熱の影響を受け難い位置に配されている。このため、効率よくガスの冷却を行うことが可能である。そして、例えば、冷却トラップ部41中の冷やされたガスが、ポンプ内部から熱の影響を受けて再度温められるようなことが起こり難い。
【0075】
より具体的には、第1実施形態の冷却トラップ部41によれば、冷却トラップ部41自体を効率よく低温化することができる。これは、水冷される冷却トラップ部41におけるケーシング(外胴部42など)でより多くの放熱を行うことができたり、冷却トラップ部41が取付けられるポンプケーシング(吸気側ケーシング14aや排気側ケーシングなど)が高温になりにくく、これらのポンプケーシングからの伝熱が少なかったりするためである。
【0076】
また、第1実施形態の冷却トラップ部41によれば、ガスを効率よく冷やすことができる。これは、ポンプ内部の高温部(モータ16など発熱部材や、ネジ溝ポンプ機構部18などの高温側部材など)から離れている為、熱の影響を受け難くなっているためである。
【0077】
さらに、この第1実施形態のターボ分子ポンプ10によれば、図3(b)に示したように、冷却トラップ部41において、ガスの状態を固体領域に導き、ガスの温度を迅速に堆積成分の昇華温度(固体化温度)以下に下げることが可能となる。そして、ガス中の堆積成分(堆積物)を、冷却トラップ部41で捕捉し、ガスの分圧を低下させることができる。
【0078】
このため、図3(b)に示すように、トラップ出口から流出したガスの温度が上昇しても(T5→T6→T7)、ネジ溝出口でのガスの状態(S4)を、気体領域内に止めることが可能となる。そして、ネジ溝出口や、その下流の部位に堆積物の発生及び増えるのを抑制できる。そして、このことによっても、冷却トラップ部41のメンテナンス頻度を少なくすることが可能となる。
【0079】
次に、本発明の第2実施形態に係るターボ分子ポンプ80について、図4及び図2(b)に基づき説明する。なお、第1実施形態と同様の部分については同一符号を付し、その説明は適宜省略する。図4(及び図2(b))に例示する第2実施形態においては、ネジ溝ポンプ機構部18の外側を排気側ケーシング84bが覆っており、冷却トラップ部81が、本体ケーシング84(吸気側ケーシング84a及び排気側ケーシング84b)の外側に突出している。
【0080】
冷却トラップ部81は、いずれもアルミニウム製の外胴部82と内胴部83とを組み合わせて結合し、環状に形成されている。さらに、冷却トラップ部81はユニット化されており、隣接する部品(ここでは吸気側ケーシング84a及び排気側ケーシング84b)に対する固定は、複数(2つのみ図示)の六角穴付きボルト89を用いて行われている。
【0081】
これらの六角穴付きボルト89は、吸気側ケーシング84aのフランジ部87に差し込まれるとともに、冷却トラップ部81にねじ込まれている。各六角穴付きボルト89を締め付けることによって、冷却トラップ部81が引き上げられる。冷却トラップ部81は、排気側ケーシング84bに面した状態で、吸気側ケーシング84a及び排気側ケーシング84bに固定されている。さらに、冷却トラップ部81は、内胴部83の内側に形成された凸部83a(図2(b))を排気側ケーシング84bに接し、排気側ケーシング84bとの間に、空気層となる僅かな隙間88を介在させている。
【0082】
冷却トラップ部81と排気側ケーシング84bとの間では、例えば六角穴付きボルトのようなねじ止め具による連結は行われていない。このため、吸気側ケーシング84aと冷却トラップ部81を連結している六角穴付きボルト89を全て緩めることのみにより、冷却トラップ部81を、ユニットごと、本体ケーシング84から単体で取り外すことが可能となっている。そして、吸気側ケーシング84aや排気側ケーシング84bの取り外しを伴うことなく、冷却トラップ部81の着脱が可能となっている。
【0083】
また、内胴部83には、冷却水を循環させるための冷却水流路46が環状に形成されており、この冷却水流路46に、冷却水配管47を介して冷却水が導入される。そして、冷却水により、内胴部83、及び、内胴部83に熱伝達可能に接触した各部品の熱が奪われ、冷却トラップ部81が冷却される。ここで、図1では、冷却水を導出する冷却水配管は、本体ケーシング84の背後に隠れている。
【0084】
冷却トラップ部81には、アルミニウム製の冷却板85が、その板面を本体ケーシング84の径方向における外側と内側に向け、下向きに吊り下げた状態で設けられている。冷却板85の上端部は、冷却トラップ部81内で区画部90に固定されている。冷却板85の下端部と、内胴部83の底部との間には、ガスの流路となる流通部86が形成されている。
【0085】
図4中における区画部90の上下の部位には、トラップ流入口92(第1流入出口のうちの第1流入口)と、トラップ流出口93(第1流入出口のうちの第1流出口)が開口している。さらに、区画部90と隔壁29は、図1における同じ高さの位置に配置されている。トラップ流入口92とトラップ流出口93は、排気側ケーシング84bの壁部と、冷却トラップ部81の内胴部83とに跨って貫通している。そして、冷却トラップ部81の内部には、トラップ流入口92から、冷却板85の外側、流通部86、及び、冷却板85の内側を経て、トラップ流出口93に至るトラップ流路96が形成されている。
【0086】
上述のトラップ流入口92は、図4における隔壁29の上面側の部位に面しており、トラップ流出口93は、隔壁29の下面側の部位に面している。そして、ターボ分子ポンプ機構部17から導出されたガスが、隔壁29により誘導され、トラップ流入口92から冷却トラップ部81内に進入する。そして、冷却トラップ部81内のガスは、トラップ流出口93から本体ケーシング84内に戻るようになっている。
【0087】
図4及び図2(b)における隔壁29の下部には、ネジステータ94が設けられている。この第2実施形態のネジステータ94は、第1実施形態のネジステータ24(図1)と同様に、筒状に形成され、ロータ円筒部23の外側を全周に亘り覆っている。そして、ネジステータ94の内周面には、曲がり歯状の複数のスパイラル壁部26が、周方向へ、所定のねじれ角度で形成されている。さらに、各スパイラル壁部26の間には、各スパイラル壁部26により区切られたネジ溝部27が形成されている。
【0088】
ネジステータ24は、図4中の上部が、前述のトラップ流出口93に面するよう配置されている。そして、ネジステータ24は、トラップ流出口93から流出した冷却後のガスをネジ溝部27(図2(b))内に取り込み、ロータ円筒部23の回転に伴い圧縮しながら下方に導くようになっている。ロータ円筒部23とネジステータ24の圧縮作用は、第1実施形態と同様である。
【0089】
また、この第2実施形態においては、排気口25やパージポート57が、軸方向(図4中の下側)を向いて本体ケーシング84の、排気側ケーシング84bから下向きに突出している。そして、ネジ溝部27内のガスは、排気部13から排気口25へ進入し、排気口25を介してポンプ本体11から排出される。
【0090】
以上説明したような第2実施形態のターボ分子ポンプ80によれば、冷却トラップ部81が本体ケーシング84の外側に装着されており、冷却トラップ部81が、排気側ケーシング84bの外側に位置している。さらに、冷却トラップ部81は、吸気側ケーシング84aとの連結を行っている六角穴付きボルト89を緩めるだけで、吸気側ケーシング84a及び排気側ケーシング84bの両方との分離を行えるようになっている。さらに、吸気側ケーシング84aや排気側ケーシング84bの取り外しを行うことなく、冷却トラップ部81の取り外しを行えるようになっている。
【0091】
したがって、冷却トラップ部81の取り外しや取り付けが容易である。また、ネジ溝ポンプ機構部18の外側を排気側ケーシング84bが覆っており、冷却トラップ部81を取り外しても、ネジ溝ポンプ機構部18が第1実施形態のような形態のものと比べて大きく露出するのを防止できる。そして、これらのことから、ターボ分子ポンプ80の以下のような運用が可能となる。
【0092】
例えば、冷却トラップ部81の洗浄を行う際に、ターボ分子ポンプ80の運転停止し、ターボ分子ポンプ機構部17が静止した状態とする。さらに、冷却トラップ部81を、新たな冷却トラップ部81と交換する。そして、ターボ分子ポンプ80の運転を再開し、その一方で、取り外された冷却トラップ部81を洗浄して、次回の冷却トラップ部81の交換に備える。
【0093】
また、本体ケーシング84の排気側ケーシング84bと、冷却トラップ部81の内胴部83とを対向させており、冷却トラップ部81との接続部分の大きさは、概ねトラップ流入口92とトラップ流出口93を足し合わせた程度の面積に抑えられる。このため、第1実施形態のように、吸気側ケーシング14a、冷却トラップ部41の外胴部42、排気側ケーシング14bを軸方向に直列的に並べたものに比べて、冷却トラップ部81を取り外した際の開口部の大きさを小さくすることができる。そして、本体ケーシング84を大きく開放することなく、冷却トラップ部81の取り外しを行うことができる。
【0094】
また、第2実施形態のターボ分子ポンプ80によれば、冷却トラップ部81と排気側ケーシング84bとの間に隙間88(図2(b))を形成しているので、冷却トラップ部81と排気側ケーシング84bとの接触面積が過度に多くなるのを防止できる。そして、ネジ溝ポンプ機構部18や冷却トラップ部81の温度を良好に保つことが可能となる。そして、ネジ溝ポンプ機構部18で堆積物が析出したり、冷却トラップ部81における冷却が不足したりすることを防止できる。
【0095】
また、冷却トラップ部81を排気側ケーシング84bの外側に配置している為、外胴部82などの部品から、大気側へより多くの放熱が行われ、かつ、ターボ分子ポンプ80から(周辺の部分から)の熱の影響を受け難く、これらのことから効率よくガスの冷却を行うことができる。
【0096】
さらに、第2実施形態のターボ分子ポンプ80によれば、排気口25やパージポート57が、本体ケーシング84の軸方向(図1中の下側)を向いていることから、環状の冷却トラップ部81を本体ケーシング84から取り外す際や、本体ケーシング84に取り付ける際に、排気口25やパージポート57が、冷却トラップ部81に干渉するのを防止できる。そして、冷却トラップ部81の着脱の作業を、容易に行うことが可能である。
【0097】
次に、本発明の第3実施形態に係るターボ分子ポンプ100~第8実施形態に係るターボ分子ポンプ150について、図5図10に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態や第2実施形態と同様の部分については同一符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0098】
先ず、第1実施形態や第2実施形態においては、隔壁29(図1図2(a)、図2(b)、図4)が、ロータ円筒部23に一体加工されていた。これに対し、図5に例示する第3実施形態においては、隔壁部(及び真空ポンプ構成部品)としての隔壁109が、ロータ円筒部23とは別な部品として環状に加工され、排気側ケーシング84bに対して、ねじ止め(ボルト止め)等の手段(図示略)によって、同心状に固定されている。
【0099】
そして、隔壁109の内周縁部とロータ円筒部23との間には、ガスのショートカットを可能な限り防止できる程度の僅かな隙間101が存在している。隔壁109は、回転せず、静止したまま固定円板として機能し、冷却トラップ部81へのガスの誘導を行う。このようにすることで、ロータ円筒部23の加工が容易になる。なお、冷却トラップ部81としては、第2実施形態と同様のものが採用されている。
【0100】
図6は、本発明の第4実施形態に係るターボ分子ポンプ110を示している。この第4実施形態のターボ分子ポンプ110においては、隔壁29が、第2実施形態(図4図2(b))と同様に、ロータ円筒部23に一体加工されている。さらに、この第4実施形態においては、ロータ円筒部23が、軸方向に関して、第2実施形態よりも短く形成されている。
【0101】
また、この第4実施形態では、第2実施形態のネジステータ24に代えて、円板状のネジステータ111(「シグバーン」、「ジグバーン」、「シーグバーン」、或いは「ジーグバーン」などと呼ばれるタイプのもの)が採用されている。このネジステータ111においては、スパイラル壁部112や、スパイラル壁部112に仕切られたネジ溝部113が、円周方向に複数形成されている。
【0102】
図6において、ネジステータ111は、排気側ケーシング84bに固定されている。さらに、ネジステータ111は、隔壁29の下方に配置されており、スパイラル壁部112やネジ溝部113を、隔壁29の側(図6中の上方)に向けている。そして、ネジステータ111は、冷却トラップ部81のトラップ流出口93に、外周端側を接近させた状態で(図1における略同じ高さの位置で)対向させている。
【0103】
ネジステータ111は、トラップ流出口93から流出した冷却後のガスをネジ溝部113内に取り込み、回転する隔壁29との間で圧縮しながら、求心方向(回転中心の方向)へ導くようになっている。そして、ネジ溝部113の出口(ネジ溝出口)は、ネジステータ111の内周部に位置しており、ネジ溝ポンプ機構部114で圧縮されたガスが、ロータ円筒部23の側へ導出される。ここで、ネジステータ111としては、シグバーン(又はジーグバーン)として知られる一般的なものを採用可能である。
【0104】
このような第4実施形態のターボ分子ポンプ110によれば、ネジステータ111とトラップ流出口93の高さを合わせることや、ネジ溝部113の入口(ネジ溝入口)とトラップ流出口93を接近させることが容易である。さらに、トラップ流出口93からのガスの流出方向と、ネジステータ111によるガスの圧縮方向(移送方向)とを一致させること(ともに求心方向とすること)が可能である。このため、トラップ流出口93からネジステータ111へのガスの供給を、方向を変えず、少ない排気抵抗で、円滑に行うことができる。
【0105】
図7は、本発明の第5実施形態に係るターボ分子ポンプ120を示している。この第5実施形態のターボ分子ポンプ120においては、ネジステータ121以外の構成は、第2実施形態(図4図2(b))と同様としている。ネジステータ121は、軸方向にスパイラル壁部26とネジ溝部27を形成したホルベックと、径方向にスパイラル壁部112とネジ溝部113を形成したシグバーンとの両方の構造を併せ持ったタイプのものとなっている。
【0106】
そして、ネジステータ121は、冷却トラップ部81のトラップ流出口93から流出したガスを、隔壁29の側を向いたネジ溝部103に取り込み、求心方向へ圧縮しながら移送する。さらに、ネジステータ121は、内周部に達したガスを、ロータ円筒部23の側を向いたネジ溝部27に取り込み、図7における軸方向の下向きに圧縮しながら移送する。
【0107】
このようなタイプのネジステータ121を備えることにより、トラップ流出口93から流出したガスを、ネジ溝部113に円滑に取り込むとともに、多段階(ここでは求心方向と軸方向下側の2段階)で圧縮することが可能となる。
【0108】
図8は、本発明の第6実施形態に係るターボ分子ポンプ130を示している。この第6実施形態のターボ分子ポンプ130においては、第4実施形態(図6)に係るターボ分子ポンプ110と同様のネジステータ111(シグバーン)を備えるとともに、隔壁29の上部に他のネジステータ131を備えている。以下では、第4実施形態と同様のネジステータを第1ネジステータ111と称し、他方のネジステータを第2ネジステータ131と称し、両者を区別する。
【0109】
これらのうち、第2ネジステータ131は、第1ネジステータ111と同様のシグバーンであり、スパイラル壁部132や、スパイラル壁部132に仕切られたネジ溝部133が、円周方向に複数形成されている。図8において、第2ネジステータ131は、隔壁29の上方に配置されており、スパイラル壁部132やネジ溝部133を、隔壁29の側(図8中の下方)に向けて、吸気側ケーシング84aに固定されている。さらに、第2ネジステータ131は、冷却トラップ部81のトラップ流入口92に、外周端側を接近した状態で対向させている。
【0110】
第2ネジステータ131は、ターボ分子ポンプ機構部17の出口(タービン出口)から導出されたガスを、回転中心側、且つ、隔壁29の側へガスを導けるよう傾斜した案内部134を有している。さらに、第2ネジステータ131は、案内部134により案内されたガスを、回転中心側においてネジ溝部133内に取り込み、回転する隔壁29との間で圧縮しながら、遠心方向へ導くようになっている。そして、ネジ溝部133の出口は、トラップ流入口92に面しており、第2ネジステータ131は、ターボ分子ポンプ機構部17から導出されたガスを、更に圧縮して冷却トラップ部81に送り込む。
【0111】
このような第6実施形態のターボ分子ポンプ130によれば、1つの隔壁29を回転させることで、第1ネジステータ111によるガスの圧縮のみでなく、第2ネジステータ131によるガスの圧縮を行うことができる。そして、ターボ分子ポンプ機構部17から導出されたガスを、スムーズにトラップ流入口92に送り込むとともに、多段階(ここでは2段階)で圧縮することができる。
【0112】
図9は、本発明の第7実施形態に係るターボ分子ポンプ140を示している。この第7実施形態のターボ分子ポンプ140においては、第4実施形態に係るターボ分子ポンプ110と同様の構成が採用されているとともに、冷却トラップ部81と、吸気側ケーシング84aのフランジ部87との間に、冷却トラップ部81の取付部において断熱構造を構成する複数の断熱環141が挟み込まれている。
【0113】
この断熱環141は、例えばステンレス製のワッシャ(座金)を利用することが可能なものであり、断熱環141には、冷却トラップ部81を固定する六角穴付きボルト89のボルト軸が差し込まれている。そして、断熱環141は、冷却トラップ部81とフランジ部87との間に、空気層となる空間部142を形成している。
【0114】
このような第7実施形態のターボ分子ポンプ140によれば、冷却トラップ部81との上面と、吸気側ケーシング84aのフランジ部87との間で、空間部142による断熱を行うことが可能である。このため、冷却トラップ部81と吸気側ケーシング84aとの接触面積が過度に多くなるのを防止できる。そして、ターボ分子ポンプ機構部17の出口(タービン出口)における温度を適度に保つことが可能となる。さらに、冷却トラップ部81の中に集約的に堆積物を発生させることができ、冷却トラップ部81以外の部分(ターボ分子ポンプ機構部17など)で堆積物が析出するのを防止できるようになる。
【0115】
また、前述した冷却トラップ部81と排気側ケーシング84bとの間の隙間88(ここでは第2実施形態と同様であるため図2(b)を援用する)と、上述の空間部142とを併せて断熱を行うことができ、冷却トラップ部81や、その周辺部の温度を適度に保つことが容易となる。さらに、断熱環141の材質として、アルミニウムに比べて熱伝導性が劣るステンレスを採用していることから、断熱環141を挟む吸気側ケーシング84aと冷却トラップ部81の間の断熱性を、断熱環141自体によっても高めることができる。
【0116】
図10は、本発明の第8実施形態に係るターボ分子ポンプ150を示している。この第8実施形態のターボ分子ポンプ150においては、第1実施形態(図1図2(a))に係るターボ分子ポンプ10と同様の構成が採用されているとともに、冷却トラップ部41と、排気側ケーシング14bのフランジ部62との間に、複数の断熱環141が挟み込まれている。
【0117】
この断熱環141は、第7実施形態の断熱環141と同様に、例えばステンレス製のワッシャ(座金)を利用することが可能なものである。そして、断熱環141には、冷却トラップ部41を固定する六角穴付きボルト59のボルト軸が差し込まれている。そして、断熱環141は、冷却トラップ部41とフランジ部62との間に、空気層となる空間部142を形成している。
【0118】
このような第8実施形態のターボ分子ポンプ150によれば、冷却トラップ部41における外胴部42の下面と、排気側ケーシング14bのフランジ部62との間で、空間部142による断熱を行うことが可能である。このため、冷却トラップ部41と排気側ケーシング14bとの接触面積が過度に多くなるのを防止できる。そして、ネジ溝ポンプ機構部18の温度を適度に保つことが可能となる。さらに、ネジ溝ポンプ機構部18で堆積物が析出したり、冷却トラップ部81における冷却が不足したりすることを防止できる。
【0119】
なお、図示は省略するが、冷却トラップ部41における外胴部42の上面と、吸気側ケーシング14aのフランジ部61との間に断熱環を挟み込み、形成された空間部による断熱を行うことも可能である。さらに、これらの断熱を併用し、冷却トラップ部41における外胴部42の上下で断熱を行うことも可能である。
【0120】
なお、冷却については、水冷式とすること(例えば第1実施形態~第8実施形態)、冷凍機を設置すること、及び、ペルチェ式とすること(ペルチェ素子を用いること)が考えられる。また、表面積の確保については、冷却トラップ部内にフィン(冷却板)を設置すること(例えば第1実施形態~第8実施形態)が考えられる。
【0121】
続いて、堆積物を除去する機能に関しては、水洗いによること(例えば第1実施形態~第8実施形態)や、振動で落とすこと、物理的に掻き出すこと、及び、冷却トラップ部毎交換すること(例えば第1実施形態~第8実施形態)が考えられる。これらのうち、水洗いは、超音波(振動)を加えながら行うことなどが考えられる。また、この水洗いについては、洗浄液の出入口を設置し、洗浄液の出口をガスの出口より下に向けること(例えば第1実施形態~第8実施形態)が考えられる。
【0122】
また、振動で落とすことについては、堆積成分が析出し得る箇所に非粘着コーティングを施し、堆積物と部品との結合力を弱めて、振動や衝撃により堆積物をふるい落とし易くすることが考えられる。非粘着コーティングとしては、テフロン(登録商標)加工により形成した膜によるコーティング等を例示できる。
【0123】
続いて、配管抵抗を削減する機能に関しては、回転円板で送り込むこと(例えば第3実施形態以外の実施形態)や、シグバーンの入り口と繋ぐこと(例えば図6図9に示す第4実施形態~第7実施形態)が考えられる。
【0124】
なお、本発明の実施形態および各変形例は、必要に応じて各々を組み合わせる構成にしてもよい。また、本発明は、上述の実施形態や各変形例に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能なものである。
【符号の説明】
【0125】
10 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
11 ポンプ本体
12 吸気部
13 排気部
14 ケーシング本体(ケーシング)
14a 吸気側ケーシング(所定のケーシング部材)
14b 排気側ケーシング(所定のケーシング部材)
17 ターボ分子ポンプ機構部(ポンプ機構部)
18 ネジ溝ポンプ機構部(ネジ溝排気機構部)
19 ステータ翼(静翼)
20 ロータ翼(回転翼)
24 ネジステータ(隔壁部の下流に備えられたネジ溝排気機構部の一部)
28 ロータ(真空ポンプ構成部品)
29 隔壁(隔壁部)
29a 隔壁の上面(上流側ガス誘導面)
29b 隔壁の下面(下流側ガス誘導面)
41、81 冷却トラップ部
52 トラップ流入口(第1流入出口のうちの第1流入口)
53 トラップ流出口(第1流入出口のうちの第1流出口)
55 洗浄液流入管(堆積物の除去機能を発揮する部分の一部、第2流入出口のうちの第2入口を構成する部材)
56 洗浄液流出管(堆積物の除去機能を発揮する部分の一部、第2流入出口のうちの第2出口を構成する部材)
87 吸気側ケーシングのフランジ部(冷却トラップ部の取付部)
92 トラップ流入口(第1入出口のうちの第1入口)
93 トラップ流出口(第1入出口のうちの第1出口)
94 ネジステータ(隔壁部の下流に備えられたネジ溝排気機構部の一部)
109 隔壁(隔壁部、円板状部材、真空ポンプ構成部品)
111 第1ネジステータ(隔壁部の下流に備えられたネジ溝排気機構部の一部)
131 第2ネジステータ(隔壁部の上流に備えられたネジ溝排気機構部)
141 断熱環(冷却トラップ部の取付部を断熱構造とする部材)
80、100、110、120、130、140、150 ターボ分子ポンプ(真空ポンプ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10