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特許7150570摩擦撹拌接合用ツール及び摩擦撹拌接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合用ツール及び摩擦撹拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20221003BHJP
【FI】
B23K20/12 344
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018213170
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2020078817
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 脩平
(72)【発明者】
【氏名】波多野 遼一
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-202647(JP,A)
【文献】特開2012-250277(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0248174(US,A1)
【文献】米国特許第05971247(US,A)
【文献】特開2003-260574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のワークの端部同士を突き合わせてなる第1突き合わせ部及び第2突き合わせ部を摩擦撹拌接合するためのツールであって、
撹拌軸と、
前記撹拌軸に相対回転不能に設けられ、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸と共に回転する第1ショルダ部と、
前記撹拌軸に相対回転不能に設けられ、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸と共に回転する第2ショルダ部と、
前記撹拌軸の周りにおける前記第1ショルダ部と前記第2ショルダ部との間の位置に取り付けられた第3ショルダ部とを備え、
前記第1ショルダ部と前記第3ショルダ部との間に前記第1突き合わせ部が挿入される第1隙間部が形成され、
前記第2ショルダ部と前記第3ショルダ部との間に前記第2突き合わせ部が挿入される第2隙間部が形成され、
前記第3ショルダ部は、前記摩擦撹拌接合時に、前記ワークに接触して前記ワークからの反力を受けることにより前記撹拌軸の傾きを阻止する傾き阻止部を有する、摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項2】
前記傾き阻止部は、前記第3ショルダ部における、前記第1隙間部で摩擦撹拌接合の行われる第1摩擦撹拌接合領域及び前記第2隙間部で摩擦撹拌接合の行われる第2摩擦撹拌接合領域よりも、前記第1突き合わせ部及び前記第2突き合わせ部の接合ラインに沿った方向の外側で、前記第3ショルダ部が前記ワークと接触する少なくとも1つの接触部を含む、請求項1に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項3】
前記少なくとも1つの接触部は、前記第3ショルダ部における第2ショルダ部側で前記ワークと接触する第2ショルダ部側接触部を含む、請求項2に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項4】
前記少なくとも1つの接触部は、前記第3ショルダ部における第1ショルダ部側で前記ワークと接触する第1ショルダ部側接触部を含む、請求項3に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項5】
前記接触部は、前記接合ラインに沿った方向に転がる転がり部である、請求項2から4のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項6】
前記転がり部は、円筒状のローラである、請求項5に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項7】
前記第3ショルダ部は、前記第1隙間部を介して前記第1ショルダ部と対向する第1対向部と、前記第2隙間部を介して前記第2ショルダ部と対向する第2対向部と、前記第1対向部と前記第2対向部との間に配置された弾性体と、を有し、
前記第1対向部と前記第2対向部とが、互いに相対的に前記撹拌軸の軸方向に移動可能に構成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項8】
前記第3ショルダ部は、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸の回転に伴った回転を行わないように、回り止めを行う回り止め部を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項9】
前記回り止め部は、前記ワークに当接して前記第3ショルダ部の回り止めを行う、請求項8に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項10】
前記回り止め部は、前記第3ショルダ部が前記第1突き合わせ部及び前記第2突き合わせ部の接合ラインに沿って移動する際に、前記接合ラインに沿った方向に転がる円筒状のローラである、請求項9に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項11】
前記撹拌軸と前記第3ショルダ部との間にラジアル軸受を更に備え、
前記ラジアル軸受を介して、前記第3ショルダ部が、前記撹拌軸の周りに取り付けられている、請求項1から10のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合用ツール。
【請求項12】
撹拌軸と、前記撹拌軸との間で相対回転不能に構成され、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸と共に回転する第1ショルダ部と、前記撹拌軸との間で相対回転不能に構成され、前記撹拌軸が回転したときに同様に回転する第2ショルダ部と、前記撹拌軸の周りにおける前記第1ショルダ部と前記第2ショルダ部との間の位置に取り付けられた第3ショルダ部とを備えた摩擦撹拌接合用ツールを用いて摩擦撹拌接合を行う摩擦撹拌接合方法であって、
前記第1ショルダ部と前記第3ショルダ部との間の第1隙間部に複数のワークの端部同士を互いに突き合わせてなる第1突き合わせ部を挟み込む第1挟み込み工程と、
前記第2ショルダ部と前記第3ショルダ部との間の第2隙間部に複数のワークの端部同士を互いに突き合わせてなる第2突き合わせ部を挟み込む第2挟み込み工程と、
前記第3ショルダ部が前記ワークに接触して前記ワークからの反力を受けることにより前記撹拌軸の傾きを阻止しつつ、摩擦撹拌接合を行う摩擦撹拌接合工程と
を備えた、摩擦撹拌接合方法。
【請求項13】
前記摩擦撹拌接合工程では、前記第3ショルダ部が、前記第1隙間部で摩擦撹拌接合の行われる第1摩擦撹拌接合領域及び前記第2隙間部で摩擦撹拌接合の行われる第2摩擦撹拌接合領域よりも、前記第1突き合わせ部及び前記第2突き合わせ部の接合ラインに沿った方向の外側で、前記第3ショルダ部が前記ワークと接触することにより、前記撹拌軸の傾きを阻止する、請求項12に記載の摩擦撹拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合によって板材同士の接合を行う際に用いられる摩擦撹拌接合用ツール及び摩擦撹拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板材の端部同士を突き合わせて接合するのに、摩擦撹拌接合が用いられることがある。摩擦撹拌接合においては、2つの板状の部材をリブ状の部材で連結させたダブルスキン材同士を、ボビン式のツールによって結合を行う技術が提案されている。そのような摩擦撹拌接合用ツールとして、特許文献1に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-260574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、撹拌軸と、撹拌軸の周りにおける上部に配置された上部ショルダと、撹拌軸の周りにおける下部に配置された下部ショルダと、撹拌軸の周りにおける上部ショルダと下部ショルダとの間に配置された中間ショルダとを有し、これらの上部ショルダ、下部ショルダ及び中間ショルダが一直線上に配置されると共に、全体が一体的に形成されたボビンツール式の摩擦撹拌接合用ツールについて開示されている。このような摩擦撹拌接合用ツールが用いられて摩擦撹拌接合が行われる際には、摩擦撹拌接合用ツールが、ワーク同士の突き合わせラインに沿って移動を行いながら、上部ショルダと中間ショルダとの間の位置及び中間ショルダと下部ショルダとの間の位置の2箇所で板材の接合が行われていく。従って、この摩擦撹拌接合用ツールでは、上下の2箇所の位置で同時に板材の接合が行われていく。
【0005】
その際、摩擦撹拌接合用ツールの撹拌軸には、摩擦撹拌接合が行われる際の移動方向とは逆方向への抵抗力が2箇所の位置でそれぞれ作用する。特に、摩擦撹拌接合用ツールの撹拌軸において、摩擦撹拌接合用ツールを保持する装置本体に取り付けられた側の位置では、抵抗力に加え、装置本体に取り付けられた側とは逆側の抵抗力による、比較的大きな回転モーメントも作用する。
【0006】
また、ダブルスキン材の厚み寸法が大きい場合には、上下の2つの隙間同士の間の長さが長くなる場合もある。その場合には、撹拌軸における、摩擦撹拌接合用ツールが本体に取り付けられた側の位置に、さらに大きな回転モーメントが作用し、これによって撹拌軸が屈曲し、ひいては摩擦撹拌接合用ツールの耐久性に影響が及ぶ可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、摩擦撹拌接合用ツールの接合のための移動に伴う抵抗力が撹拌軸に作用したとしても、それによる耐久性への影響が抑えられた摩擦撹拌接合用ツール及び摩擦撹拌接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の摩擦撹拌接合用ツールは、複数のワークの端部同士を突き合わせてなる第1突き合わせ部及び第2突き合わせ部を摩擦撹拌接合するためのツールであって、撹拌軸と、前記撹拌軸との間で相対回転不能に構成され、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸と共に回転する第1ショルダ部と、前記撹拌軸との間で相対回転不能に構成され、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸と共に回転する第2ショルダ部と、前記撹拌軸の周りにおける前記第1ショルダ部と前記第2ショルダ部との間の位置に取り付けられた第3ショルダ部とを備え、前記第1ショルダ部と前記第3ショルダ部との間に前記第1突き合わせ部が挿入される第1隙間部が形成され、前記第2ショルダ部と前記第3ショルダ部との間に前記第2突き合わせ部が挿入される第2隙間部が形成され、前記第3ショルダ部は、前記摩擦撹拌接合時に、前記ワークに接触して前記ワークからの反力を受けることにより前記撹拌軸の傾きを阻止する傾き阻止部を有する。
【0009】
上記構成の摩擦撹拌接合用ツールでは、傾き阻止部によって撹拌軸の傾きが阻止されるので、撹拌軸の屈曲を抑えることができる。従って、摩擦撹拌接合用ツール耐久性を向上させることができる。
【0010】
本発明の摩擦撹拌接合方法は、撹拌軸と、前記撹拌軸に相対回転不能に設けられ、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸と共に回転する第1ショルダ部と、前記撹拌軸に相対回転不能に設けられ、前記撹拌軸が回転したときに前記撹拌軸と共に回転する第2ショルダ部と、前記撹拌軸の周りにおける前記第1ショルダ部と前記第2ショルダ部との間の位置に取り付けられた第3ショルダ部とを備えた摩擦撹拌接合用ツールを用いて摩擦撹拌接合を行う摩擦撹拌接合方法であって、前記第1ショルダ部と前記第3ショルダ部との間の第1隙間部にワーク同士の互いに突き合わされる端部を挟み込む第1挟み込み工程と、前記第2ショルダ部と前記第3ショルダ部との間の第2隙間部にワーク同士の互いに突き合わされる端部を挟み込む第2挟み込み工程と、前記第3ショルダ部が前記ワークに接触して前記ワークからの反力を受けることにより前記撹拌軸の傾きを阻止しつつ、前記撹拌軸が回転しながら前記ワーク同士の接合ラインに沿って移動したときに、摩擦撹拌接合を行う摩擦撹拌接合工程とを備えている。
【0011】
上記構成の摩擦撹拌接合方法では、摩擦撹拌接合工程で、撹拌軸の傾きを阻止しつつ、摩擦撹拌接合が行われるので、撹拌軸の屈曲を抑えることができる。従って、摩擦撹拌接合用ツールの耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撹拌軸の傾きが阻止されるので、撹拌軸の屈曲を抑えることができ、摩擦撹拌接合用ツールの耐久性を向上させることができる。従って、長期間に亘って摩擦撹拌接合用ツールを使用することができ、摩擦撹拌接合を行う装置の運転コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツールについての斜視図であり、(a)は斜め上方から見たものであり、(b)は斜め下方から見たものである。
図2図1の摩擦撹拌接合用ツールの側面図である。
図3図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4図1の摩擦撹拌接合用ツールを用いて摩擦撹拌接合が行われる際の、摩擦撹拌接合用ツール及びワークについての部分的な断面を示した斜視図である。
図5図1の摩擦撹拌接合用ツールを用いて摩擦撹拌接合が行われる際に、摩擦撹拌接合用ツールに作用する反力及び回転モーメントについて説明するための説明図である。
図6図1の摩擦撹拌接合用ツールを用いて摩擦撹拌接合が行われる際のフローについて示したフローチャートである。
図7図1の摩擦撹拌接合用ツールの変形例についての摩擦撹拌接合用ツールについての側面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツールについての側面図であり、(a)は、ワークの上部の板材が上に凸となっている状態について示し、(b)は、ワークの上部の板材が下に凸となっている状態について示している。
図9】本発明の第3実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツールについての正面図である。
図10】本発明の第4実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツールについての正面図である。
図11】本発明の第5実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツールについての断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツールについて、添付図面を参照して説明する。図1(a)に、第1実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツール100について斜め上方から見た斜視図を示し、図1(b)に、第1実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツール100について斜め下方から見た斜視図を示す。図2に、摩擦撹拌接合用ツール100についての側面図を示す。図3に、摩擦撹拌接合用ツール100についての断面図を示す。図3は、図2におけるIII-III線に沿う断面図である。
【0015】
図1ないし図3に示されるように、本実施形態の摩擦撹拌接合用ツール100は、上部ショルダ(第1ショルダ部)10と、下部ショルダ(第2ショルダ部)20と、中間ショルダ(第3ショルダ部)30と、撹拌軸40とを備えている。中間ショルダ30は、上部ショルダ10と下部ショルダ20との間の位置に配置されている。
【0016】
撹拌軸40は、上部ショルダ10及び下部ショルダ20の内部を通されて配置されている。撹拌軸40は、軸方向に比較的長く形成された円柱形状を有している。上部ショルダ10及び下部ショルダ20は、撹拌軸40の周りに取り付けられている。
【0017】
上部ショルダ10及び下部ショルダ20は、撹拌軸40によって内部を通されて撹拌軸40の軸回りに固定されているので、撹拌軸40との間で、相対回転不能に構成されている。従って、摩擦撹拌接合用ツール100において、撹拌軸40が回転駆動されると、上部ショルダ10及び下部ショルダ20は撹拌軸40と共に回転する。
【0018】
中間ショルダ30は、軸受50を介して撹拌軸40に取り付けられている。撹拌軸40は、中間ショルダ30の内部を通って配置されている。本実施形態では、軸受50は、例えばラジアル軸受である。中間ショルダ30が軸受50を介して撹拌軸40の軸回りに回転自在に取り付けられているので、撹拌軸40が回転しても、中間ショルダ30は撹拌軸40と一体に回転することはない。つまり、撹拌軸40が回転したときに、中間ショルダ30は、撹拌軸40と同様の回転を行わないようにすることが可能に構成されている。なお、本実施形態では、軸受50はラジアル軸受であるが、軸受50は他の軸受であってもよく、例えばスラスト軸受であってもよい。また、軸受50は、ラジアル軸受とスラスト軸受としての機能の両方を備えていてもよい。
【0019】
上部ショルダ10は、端面10aと、側周面10bとを有している。端面10aは、中間ショルダ30に対向する面である。側周面10bは、撹拌軸40の軸線周りに形成された側面である。上部ショルダ10における、端面10aと、側周面10bとの間の角部10cは、面取りされていてもよい。また、下部ショルダ20は、端面20aと、側周面20bとを有している。端面20aは、中間ショルダ30に対向する面である。下部ショルダ20における側周面20bは、撹拌軸40の軸線周りに形成された側面である。下部ショルダ20における、端面20aと、側周面20bとの間の角部20cは、面取りされていてもよい。
【0020】
中間ショルダ30は、ワークの板材同士が接合される接合ラインに沿った方向(接合方向D1)の長さが、上部ショルダ10及び下部ショルダ20よりも大きくなるように構成されている。また、中間ショルダ30は、ワークの板材同士が接合の際に突き合わされる方向(突き合わせ方向D2)の長さが、上部ショルダ10及び下部ショルダ20よりも大きくなるように形成されている。本実施形態では特に、中間ショルダ30は、接合方向D1についての長さが長くなるように構成されており、突き合わせ方向D2に沿った長さよりも、接合方向D1に沿った長さの方が長く形成されている。
【0021】
中間ショルダ30は、接合方向に交差する方向に沿う断面が略長方形となるように構成されていてもよい。中間ショルダ30は、例えば、上部ショルダ10と対向する端面30aと、側周面30bと、下部ショルダ20と対向する端面30cとを有している。例えば、中間ショルダ30における、上部ショルダ10と対向する端面30aにおける径方向の外側の部分は、側周面30bに向かうにつれて上部ショルダから離れるように傾斜している。また、例えば、中間ショルダ30における、下部ショルダ20と対向する端面30cにおける径方向の外側の部分は、側周面30bに向かうにつれて下部ショルダ20から離れるように傾斜している。また、中間ショルダ30は、中間ショルダ本体部29を有している。
【0022】
中間ショルダ30は、支持部材32を有している(図2)。支持部材32は、中間ショルダ本体部29に取り付けられている。支持部材32は、中間ショルダ30の側周面30bに取り付けられている。本実施形態では、支持部材32は、中間ショルダ30において接合方向D1についての外側の部分の側周面30bに取り付けられている。2つの支持部材32のそれぞれに、車輪(転がり部)31が回転自在に取り付けられている。例えば、車輪31の中心には、突き合わせ方向D2に延びる軸が取り付けられている。車輪31は、例えば支持部材32によって軸を中心に回転可能に支持されている。従って、車輪31は、接合方向D1に向けて転がる。本実施形態では、例えば車輪31は、円筒状のローラである。車輪31は、円筒状のローラによって構成されているので、車輪31がワークに対して当接する領域が突き合わせ方向D2に延びる線状となる。従って、車輪31とワークとが線接触した状態で転がり、車輪31がワーク上を接合方向D1に安定して転がることができ、中間ショルダ30が安定して移動できる。本実施形態では、例えば、接合方向D1に沿って2箇所に配置された車輪31は、中間ショルダ30の中心位置を挟んで対称に配置されている。また、例えば、中間ショルダ30における突き合わせ方向D2に2箇所に配置された車輪31は、中間ショルダ30の中心位置を挟んで対称に配置されている。
【0023】
また、中間ショルダ30は、ワークに当接して回り止めを行う回り止め部33を有している。回り止め部33は、中間ショルダ30の支持部材32の上部に取り付けられている。回り止め部33は、車輪31の上方の位置に取り付けられている。本実施形態では、支持部材32における突き合わせ方向D2の外側の両方の端部に、回り止め部33がそれぞれ取り付けられている。回り止め部33は、それぞれの支持部材32に2つずつ取り付けられ、計4つが中間ショルダ30に取り付けられている。回り止め部33は、中間ショルダ30におけるワーク同士の突き合わせ方向の両方の端部に取り付けられている。回り止め部33は、例えば、円筒状のローラによって構成されてもよい。また、例えば、円筒状のローラは、回転軸34を中心に回転自在に取り付けられている。
【0024】
上部ショルダ10と中間ショルダ30との間には、隙間(第1隙間部)x1が形成されている。下部ショルダと中間ショルダとの間には、隙間(第2隙間部)x2が形成されている。
【0025】
ワークは、上下2箇所の突き合わせ位置で、摩擦撹拌接合による接合が行われる。本実施形態では、接合の行われるワークは、それぞれ上下2つの板材w1、w2同士が、梁部材w3によって接続された、いわゆるダブルスキン材として構成されている。
【0026】
上記のように構成された摩擦撹拌接合用ツール100を用いて摩擦撹拌接合が行われる。摩擦撹拌接合が行われる際には、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1にワークの端部同士を突き合わせてなる突き合わせ部(第1突き合わせ部)w4が挿入される。また、中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2にワークの端部同士を突き合わせてなる突き合わせ部(第2突き合わせ部)w5が挿入される。つまり、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1と、中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2とに、それぞれワークの突き合わせ部w4、w5が挿入される。
【0027】
図4は、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1及び中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2に、それぞれワークの突き合わせ部w4、w5が配置された状態のワークW及び摩擦撹拌接合用ツール100についての部分的な断面を示した斜視図である。
【0028】
図4に示されるように、摩擦撹拌接合は、接合方向D1に沿って行われる。接合方向D1に沿って摩擦撹拌接合が行われる際には、車輪31が接合方向D1に沿って転がりながら、摩擦撹拌接合用ツールが接合方向D1に沿って移動する。車輪31が転がりながら摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に移動するので、摩擦撹拌接合用ツール100が移動する際の中間ショルダ30とワークWとの間の摩擦を低減させることができる。
【0029】
このとき、回り止め部33がワークWに当接した状態で、摩擦撹拌接合が行われる。回り止め部33は、ワークWに当接した状態で回転軸34を中心に回転可能なので、摩擦撹拌接合を行うために摩擦撹拌接合用ツールが接合方向D1に沿って移動する際に、回り止め部33が接合方向D1に沿って転がりながら、回り止め部33とワークWとが当接した状態が維持される。
【0030】
回り止め部33が接合方向D1に沿って転がりながら摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に移動することにより摩擦撹拌接合が行われるので、回り止め部33とワークWとの間の摩擦が低減される。従って、摩擦撹拌接合用ツール100の移動が円滑に行われながら、回り止め部33がワークWに当接した状態を維持する。
【0031】
本実施形態では、摩擦撹拌接合用ツール及びワークWがセットされた際には、中間ショルダ30がそれぞれのワークWの梁部材w3によって挟み込まれ、中間ショルダ30がそれぞれの梁部材w3の両方に当接するように、摩擦撹拌接合用ツール100が構成されている。また、中間ショルダ30は、回り止め部33でワークWの梁部材w3と当接するように構成されている。
【0032】
摩擦撹拌接合の行われる前に、摩擦撹拌接合用ツールにおける上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1と、中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2と、に板材w1、w2が挟み込まれる。本実施形態では、隙間x1と、隙間x2と、に板材w1、w2を挟み込み、中間ショルダ30の回り止め部33を梁部材w3と当接させるように、摩擦撹拌接合用ツール100を配置する。回り止め部33がワークWに当接した状態で摩擦撹拌接合が行われるので、摩擦撹拌接合が行われる際には、中間ショルダ30がワークWによって支持される。従って、摩擦撹拌接合を行うために撹拌軸40が回転したときに、中間ショルダ30が撹拌軸40の回転と共に回転することを抑えることができる。つまり、回り止め部33は、撹拌軸40が回転したときに中間ショルダ30が撹拌軸40の回転に伴う回転を行わないように、回り止めを行う。本実施形態では、回り止め部33は、突き合わせ方向D2の両方の外側でワークWと当接する。そのため、撹拌軸40が回転したときには、回り止め部33は、突き合わせ方向D2の両方の外側で、中間ショルダ30が回転しないように回り止めを行っている。
【0033】
摩擦撹拌接合が行われる際には、撹拌軸40が軸回りに回転しながら、撹拌軸40の軸方向に交差しそれぞれの突き合わせ部w4、w5の接合ラインの延びる方向に沿って摩擦撹拌接合用ツール100が移動する。摩擦撹拌接合用ツール100が移動する際には、撹拌軸40が回転することによって上部ショルダ10が回転しながら、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間に配置された板材w1同士の突き合わせ部w4と上部ショルダ10とが当接する。その際、板材w1同士の突き合わせ部w4と上部ショルダ10とが当接した当接部分の裏側の位置で、板材w1の突き合わせ部w4と中間ショルダ30とが当接する。
【0034】
中間ショルダ30によって支持された状態で、回転する上部ショルダ10と、板材w1の突き合わせ部w4とが当接するので、上部ショルダ10と突き合わせ部w4との間で摩擦熱が生じる。このときに生じる摩擦熱によって板材w1における結合の行われる部分が塑性流動し軟化する。板材w1における接合の行われる部分が軟化した状態で撹拌軸40がその部分の撹拌を行うことにより、板材w1の突き合わせ部w4同士が撹拌されて接合が行われる。これにより、板材w1の突き合わせ部同士の摩擦撹拌接合が行われる。
【0035】
また、摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向への移動を行う際に、撹拌軸40が回転することによって下部ショルダ20が回転しながら、板材w2の突き合わせ部w5と下部ショルダ20とが当接する。その際、板材w2の突き合わせ部w5と下部ショルダ20とが当接した当接部分の裏側の位置で、突き合わせ部w5と中間ショルダ30とが当接する。
【0036】
中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2においても、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1と同様に、摩擦撹拌接合が行われる。中間ショルダ30によって板材w2の上側が支持された状態で、回転する下部ショルダ20と、板材w2同士の互いに突き合わされる端部とが当接するので、下部ショルダ20と板材w2の突き合わせ部w5との間で摩擦熱が生じる。このときに生じる摩擦熱によって、板材w2における結合の行われる部分が塑性流動し軟化する。板材w2における接合の行われる部分が軟化した状態で撹拌軸40がその部分の撹拌を行うことにより、板材w2の突き合わされた突き合わせ部w5同士が撹拌されて接合が行われる。これにより、板材w2における突き合わせ部w5同士の摩擦撹拌接合が行われる。
【0037】
このように、それぞれの板材w1、w2の突き合わせ部w4、w5を摩擦熱によって流動させると共に、それぞれの板材w1、w2の突き合わせ部w4、w5の流動された部分を撹拌軸40によって撹拌して摩擦撹拌接合が行われる。本実施形態では、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の上部隙間部x1と、中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の下部隙間部x2と、の両方で、同時に摩擦撹拌接合が行われる。そのため、1度に2つのワークWにおける互いに突き合わされる突き合わせ部について、摩擦撹拌接合によって接合を行うことができる。これにより、効率的に、ワークW同士の接合を行うことができる。
【0038】
また、本実施形態では、中間ショルダ30は、撹拌軸40との間で相対回転可能に構成されているので、撹拌軸40が軸回りに回転を行った際に、上部ショルダ10及び下部ショルダ20は撹拌軸40の回転に伴って回転を行うが、中間ショルダ30は撹拌軸40の回転に伴う回転を行わない状態で摩擦撹拌接合を行うことができる。従って、接合の行われる部分での熱の発生を少なく抑えることができる。
【0039】
仮に、撹拌軸40の軸回りの回転に伴って、上部ショルダ10及び下部ショルダ20と共に中間ショルダ30も同様の回転を行う場合には、摩擦撹拌接合が行われる際に、摩擦撹拌接合用ツールとワークWとの間で、比較的多くの熱が発生する。摩擦熱の発生が大きい場合には、ワークWが熱によって流動し易く、その分ワークWが軟らかい状態で摩擦撹拌接合が行われる。従って、その分バリが発生し易くなる。
【0040】
しかし、本実施形態では、摩擦撹拌接合が行われる際に、熱の発生量を少なく抑えることができるので、ワークWが比較的固い状態で摩擦撹拌接合を行われ、ワークWの表面に生じるバリの発生を少なく抑えることができる。これにより、摩擦撹拌接合の行われたワークWの見栄えを良好にすることができ、ワークWの意匠性を向上させることができる。
【0041】
また、ワークWの内部に配線等を通す場合には、ワークWの表面にバリがあると、バリが配線等と接触してしまい、配線等の配置の邪魔になってしまう可能性がある。本実施形態では、ワークWでバリの発生が少なく抑えられるので、配線等がバリによって邪魔されずにワークW内部に配置される。従って、ワークWの品質を向上させることができる。
【0042】
また、ワークWにバリが発生し、そのバリがワークWの内部で外れた場合には、ワークWの内部でバリが移動し、それによってバリと配線等が接触してしまう可能性がある。本実施形態ではバリの発生が抑えられるので、ワークWの内部でバリが外れることを抑えることができる。従って、ワークWの品質を向上させることができる。
【0043】
また、摩擦撹拌接合によってワークWにバリが生じると、ワークWを構造物として設置した際に、そこで応力集中が生じる可能性があり、ワークWの耐久性に影響を与える可能性がある。本実施形態では、バリの発生を少なく抑えることができるので、ワークW同士の接合部において耐久性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、例えば、車輪31は、4つのいずれについても、中間ショルダ30における摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも接合方向D1の外側の位置で、支持部材32に回転自在に取り付けられている。従って、車輪31は、中間ショルダ30における摩擦撹拌接合領域R1、摩擦撹拌接合領域R2よりも接合方向D1の外側の位置で、ワークWと接触する。ここで、摩擦撹拌接合領域R1、R2は、摩擦撹拌接合用ツール100において摩擦撹拌接合に寄与する面領域のことである。また、図に示される例では、車輪31は、接合方向D1について、上部ショルダ10及び下部ショルダ20よりも外側の位置に取り付けられている。
【0045】
中間ショルダ30において、接合方向D1について、上部の隙間x1で摩擦撹拌接合の行われる摩擦撹拌接合領域R1及び下部隙間部x2で摩擦撹拌接合の行われる摩擦撹拌接合領域R2よりも接合方向D1の外側で、中間ショルダ30がワークWと接触する部分のことを接触部(傾き阻止部)39というものとする。本実施形態では、接触部39は車輪31である。
【0046】
図5に、摩擦撹拌接合の行われている際の、摩擦撹拌接合用ツールの側面図を示す。摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に移動して摩擦撹拌接合が行われると、摩擦撹拌接合用ツール100の接合方向D1に対し逆方向の反力が摩擦撹拌接合用ツール100に作用する。また、摩擦撹拌接合用ツール100は、上部の位置で装置本体によって保持されている。その状態で摩擦撹拌接合用ツール100によって摩擦撹拌接合が行われる際には、装置本体によって保持された部分に、摩擦撹拌接合用ツール100を移動させるための力Faが作用する。
【0047】
本実施形態では、摩擦撹拌接合領域R1及び摩擦撹拌接合領域R2の両方で摩擦撹拌接合がそれぞれ行われるので、ワークWから摩擦撹拌接合用ツール100に作用する反力は、摩擦撹拌接合領域R1及び摩擦撹拌接合領域R2のそれぞれで作用する。
【0048】
図5に示されるように、上部の隙間x1の摩擦撹拌接合領域R1で作用する反力をF1とし、下部の隙間x2の摩擦撹拌接合領域R2で作用する反力をF2とする。また、撹拌軸の回転軸において、反力F2によって上部の隙間x1の位置に作用する回転モーメントをM1とする。また、上部の隙間x1と下部の隙間x2の距離をH1とする。回転モーメントM1は、反力F2と距離H1の積であり、撹拌軸40の下部を接合方向D1の逆方向に向けて移動させて撹拌軸40を傾斜させる方向に作用する。
【0049】
中間ショルダ30は、車輪31で下部のワークWと接触するので、車輪31がワークWと当接した部分で、摩擦撹拌接合用ツール100がワークWから反力を受ける。接合方向D1の前方に配置された車輪31でワークWから受ける反力をF3とする。また、反力F3によって撹拌軸の回転軸に作用する回転モーメントをM2とする。また、撹拌軸の回転軸と車輪31の距離をH2とする。回転モーメントM2は、反力F3と距離H2の積である。
【0050】
摩擦撹拌接合が行われる際に、摩擦撹拌接合用ツール100に作用する反力F2によって上部の隙間x1の位置で撹拌軸40に回転モーメントM1が作用すると、撹拌軸40が接合方向D1の前後方向に傾く。具体的には、中間ショルダ30の接合方向D1の前方部分が下方に向かい、接合方向D1の後方部分が上方に向かうように、撹拌軸40が傾く。
【0051】
このとき、接合方向D1の前方では、車輪31が摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも接合方向D1の外側の領域でワークWと当接している。回転モーメントM1によって撹拌軸40が傾こうとすると、下方に向かう接合方向D1の前方部分の車輪31の位置でのワークWからの反力F3が大きくなる。このとき、反力F3が大きくなるのに伴い、反力F3による回転モーメントM2も大きくなる。そのため、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントM1が、反力F3による回転モーメントM2によって打ち消され、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントの大きさを抑えることができる。
【0052】
また、車輪31は、中間ショルダ30における接合方向D1に関し前後のそれぞれの位置で、突き合わせ方向D2に関して2つ並べられて配置されている。従って、ワークWからの反力F3は、突き合わせ方向D2に関して2箇所で中間ショルダ30に作用する。そのため、反力F3が、突き合わせ方向D2に関して均等に作用する。また、反力F3による回転モーメントM2についても、突き合わせ方向D2に関して均等に作用する。そのため、中間ショルダ30に作用する反力F3及び回転モーメントM2を、突き合わせ方向D2に関してバランスさせることができる。従って、中間ショルダ30が、突き合わせ方向D2に関して、より安定した状態でワークW上に配置される。
【0053】
また、例えば、摩擦撹拌接合のための摩擦撹拌接合用ツール100の移動が折り返し、接合方向が図5に示されるD1方向とは逆方向になったときには、接合方向がD1方向であるときと比べて、撹拌軸40が傾こうとする方向が逆になる。摩擦撹拌接合用ツール100の移動方向の前方部分が下方に向かい、移動方向の後方部分が上方に向かうように、撹拌軸40が傾く。その場合、撹拌軸40が傾こうとすると、摩擦撹拌接合用ツール100の移動方向前方の車輪31の位置で、ワークWからの反力が大きくなる。このとき、ワークWからの反力が大きくなるのに伴い、ワークWからの反力による回転モーメント(M2とは逆方向)も大きくなる。そのため、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントが、ワークWからの反力による回転モーメントによって打ち消され、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントの大きさを抑えることができる。
【0054】
このように、中間ショルダ30の一部とワークWとが中間ショルダ30における接合方向D1の外側の位置で接触するので、摩擦撹拌接合の行われている部分R1、R2における撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントを打ち消すことができる。そのため、撹拌軸40の傾きを抑えることができる。これにより、撹拌軸40が屈曲することを抑えることができる。撹拌軸40の屈曲を抑えることができるので、摩擦撹拌接合用ツール100の耐久性を向上させることができる。
【0055】
また、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントが打ち消されるので、摩擦撹拌接合用ツール100に作用する負荷を高くしても、摩擦撹拌接合用ツール100がそれによって強度上の影響を受けることを抑えることができる。従って、摩擦撹拌接合を行う際の接合方向D1への移動速度を大きくすることができる。摩擦撹拌接合の際の移動速度を大きくすることができるので、摩擦撹拌接合をより効率的に行うことができる。
【0056】
また、本実施形態では、車輪31は、摩擦撹拌接合領域R1及び摩擦撹拌接合領域R2よりも撹拌軸40における径方向の外側の位置で、下部の隙間x2に配置されたワークWと接触する。中間ショルダ30が摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも外側の領域でワークWと接触するので、摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に沿って移動する際に、中間ショルダ30が、接合方向D1について安定支持された状態でワークW上に配置される。
【0057】
そのため、撹拌軸40における回転軸が安定した状態で摩擦撹拌接合用ツール100が移動し、撹拌軸40が傾斜して屈曲することを抑えることができる。これにより、摩擦撹拌接合用ツール100の耐久性を向上させることができる。
【0058】
また、車輪31は、中間ショルダ30における接合方向D1に関し前後のそれぞれの位置で、突き合わせ方向D2に関して2つ並べられて配置されているので、突き合わせ方向D2に関しても中間ショルダ30が摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも外側の領域でワークWと接触する。従って、摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に沿って移動する際に、中間ショルダ30が、突き合わせ方向D2についても安定した状態でワークW上に配置される。従って、突き合わせ方向D2について、撹拌軸40が屈曲することを抑えることができる。
【0059】
また、本実施形態では、車輪31は、摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも、突き合わせ方向D2の外側の領域でワークWと接触する。すなわち、中間ショルダ30が、摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも、突き合わせ方向D2の外側の領域でワークWと接触している。中間ショルダ30が、摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも、突き合わせ方向D2の外側の領域でワークWと接触しているので、突き合わせ方向D2についても撹拌軸40が傾斜して屈曲することを抑えることができる。これにより、摩擦撹拌接合用ツール100の耐久性をより向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態では、車輪31が接合方向D1に向かって転がりながら、摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に向かって移動するように構成されているので、車輪31は、中間ショルダ30における下部(第2接触部側)でワークWと接触する接触部(第2ショルダ部側接触部)として構成されている。車輪31が転がりながら中間ショルダ30が接合方向D1に移動するので、中間ショルダ30とワークWとの間で生じる摩擦を少なく抑えることができる。従って、中間ショルダ30を、接合方向D1に沿って円滑に移動させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、撹拌軸40の回転に伴った回転を行わない中間ショルダ30によってワークWが支持された状態で、上部ショルダ10及び下部ショルダ20がそれぞれ撹拌軸40の回転に伴う回転を行う。ワークWが中間ショルダ30によって支持された状態で摩擦撹拌接合が行われるので、ワークWの強度が低い場合であっても摩擦撹拌接合を円滑に行うことができる。従って、例えばワークWの板材w1、w2が薄い場合であっても、摩擦撹拌接合を良好に行うことができる。従って、ワークWについての摩擦撹拌接合の適用範囲を広げることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、円筒状のローラである車輪31が転がることにより中間ショルダ30が摩擦撹拌接合の行われる接合方向に沿って移動する形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、中間ショルダ30におけるワークWと接触する接触部39は、接合方向に転がる球状のボールであってもよい。ボールが転がることによって、摩擦撹拌接合の行われる際に、中間ショルダ30が接合方向D1に沿って移動するように構成されてもよい。
【0063】
また、中間ショルダ30における下部ショルダ側の位置でワークWに当接する部分に、ワークWとの間の摩擦を低減させる低摩擦材が設けられていてもよい。低摩擦材として、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)が用いられてもよい。中間ショルダ30における下部ショルダ側の位置でワークWに当接する部分に、DLCによってコーティングが行われることにより、中間ショルダ30における下部ショルダ側の位置でのワークWと当接する部分の摩擦係数を小さくすることができる。従って、摩擦撹拌接合を行うために摩擦撹拌接合用ツール100を接合方向D1に移動させる際に、中間ショルダ30をワークWに対し円滑に摺動させることができ、摩擦撹拌接合用ツール100の移動の際の抵抗を小さくすることができる。この場合のように、中間ショルダ30におけるワークWと接触する接触部39は、中間ショルダ本体部29であってもよい。なお、中間ショルダ30とワークWとの間の摩擦を少なくすることができるのであれば、他の低摩擦材が用いられてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、円筒状のローラである回り止め部33が、ワークWと当接して中間ショルダ30の回り止めを行う形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、ボール状に構成された回り止め部が、ワークWと当接して中間ショルダ30の回り止めを行ってもよい。ワークWと当接して回り止めを行うことが可能であれば、回り止め部33は、ローラ以外の他の形状を有していてもよい。その際、回り止め部33が、摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に沿って移動するときに、接合方向D1に沿って転がることが可能である形状を有していれば、回り止め部33とワークWとの間の摩擦を抑えることができるので好ましい。
【0065】
図6に、本実施形態における摩擦撹拌接合方法の行われる際のフローについてのフローチャートを示す。摩擦撹拌接合が行われる際には、まず、摩擦撹拌接合用ツール100及びワークWをセットする。本実施形態では、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1に、ワークWにおける接合の行われる板材の端部同士を互いに突き合わせてなる突き合わせ部w4(図4)が挟み込まれて挿入される(第1挟み込み工程)(S1)。また、中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2に、ワークWにおける接合の行われる板材の端部同士を互いに突き合わせてなる突き合わせ部w5(図4)が挟み込まれて挿入される(第2挟み込み工程)(S2)。摩擦撹拌接合用ツール100におけるそれぞれの隙間x1、x2にワークWの端部同士を互いに突き合わせてなる突き合わせ部w4、w5がセットされる際には、中間ショルダ30の一部が、ワークWと当接するように、ワークWがセットされる。本実施形態では、摩擦撹拌接合用ツール100におけるそれぞれの隙間x1、x2での摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも接合方向D1の外側で、中間ショルダ30に取り付けられた車輪31とワークWとが当接する(S3)。
【0066】
上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1にワークWにおける端部同士を互いに突き合わせてなる突き合わせ部w4を挟み込む工程と、中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2にワークWにおける端部同士を互いに突き合わせてなる突き合わせ部w5を挟み込む工程と、中間ショルダ30に取り付けられた車輪31とワークWとを当接させる工程と、の間では、いずれの工程が先に行われてもよい。これらの工程が同時に行われてもよい。結果的に、上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1及び中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2にワークWの突き合わせ部w4、w5が配置され、中間ショルダ30に取り付けられた車輪31とワークとが当接していれば、これらの工程はどのような順序で行われてもよい。
【0067】
摩擦撹拌接合用ツール100及びワークWがセットされると、撹拌軸40を回転させる(S4)。撹拌軸40を回転させた状態でワークWに突き当てると共に、摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に移動することにより、摩擦撹拌接合が行われる(S5)。撹拌軸40が回転した状態で撹拌軸とワークWとが当接すると、撹拌軸40とワークWとが当接している部分で摩擦熱が生じ、このときに生じる摩擦熱によってワークWの板材における結合の行われる部分が塑性流動し軟化する。このとき、撹拌軸40の傾きが阻止されながら、摩擦撹拌接合が行われる(摩擦撹拌接合工程)。
【0068】
摩擦撹拌接合は、ワークWにおける互いに突き合わされる端部の全体について、摩擦撹拌接合が終了するまで行われる(S6)。ワークWにおける突き合わせ部w4、w5の全体について摩擦撹拌接合が完了すると、摩擦撹拌接合を終了させる。
【0069】
なお、本実施形態では、摩擦撹拌接合用ツール100におけるそれぞれの隙間x1、x2での摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも、突き合わせ方向D2の外側で、中間ショルダ30がワークWと接触することにより、接合方向D2に関する撹拌軸40の傾きを抑えることのできる構成について説明した。しかしながら、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも、接合方向D1の外側で且つ突き合わせ方向D2の内側で、中間ショルダ30がワークWと接触するように構成されてもよい。中間ショルダ30が、摩擦撹拌接合領域R1、R2よりも接合方向D1の外側でワークWと接触していれば、突き合わせ方向D2について内側で接触していても、撹拌軸40の屈曲を抑えることができる。
【0070】
また、上記実施形態では、中間ショルダ30の下部にのみ車輪31が設けられる構成について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。中間ショルダ30は、下部だけでなく、上部(第1接触部)にも車輪31が設けられていてもよい。つまり、中間ショルダ30が、下部でワークWと接触する接触部39aだけでなく、上部(第1ショルダ部側)でワークWと接触する接触部(第1ショルダ部側接触部)39bを備えていてもよい。このように、中間ショルダ30は、上部の接触部39bと下部の接触部39aとの両方でワークWと接触する構成を備えていてもよい。
【0071】
図7に、中間ショルダ30における上部ショルダ側についてのワークWとの接触部39bと、下部ショルダ側についてのワークWとの接触部39aとが、車輪31である構成についての、摩擦撹拌接合用ツール100aについての側面図を示す。車輪31は、撹拌軸40の軸方向について、中間ショルダ30における上部ショルダ側の位置と、下部ショルダ側の位置とに設けられ、それぞれの位置で、接合方向D1についての前後にそれぞれ設けられている。また、車輪31は、それぞれの位置で、突き合わせ方向D2に沿って、2つ設けられている。
【0072】
このように、中間ショルダ30における上部ショルダ側の位置と、下部ショルダ側の位置とに、車輪31が設けられてもよい。こうすることにより、中間ショルダ30における下部ショルダ側の位置で摩擦を少なく抑えることができるだけでなく、上部ショルダ側の位置についても、摩擦を少なく抑えることができる。これにより、中間ショルダ30を、接合方向D1に沿ってより円滑に移動させることができる。
【0073】
また、中間ショルダ30は、上部ショルダ側においても、摩擦撹拌接合領域R1、R2の外側で、車輪31とワークWとを接触させている。従って、上側のワークWによっても中間ショルダ30が支持されるので、中間ショルダ30がさらに広い領域でワークWと接触する。これにより、摩擦撹拌接合用ツール100aが接合方向D1に沿って移動する際に、接合方向D1に関して中間ショルダ30がさらに安定してワークW上に配置される。
【0074】
また、車輪31は、中間ショルダ30における接合方向D1及び撹拌軸40の軸方向に関しそれぞれの位置で、突き合わせ方向D2に関して2つ並べられて配置されている。従って、上部ショルダ側と下部ショルダ側との両方で、突き合わせ方向D2に関しても中間ショルダ30が広い領域でワークWと接触する。そのため、摩擦撹拌接合用ツール100が接合方向D1に沿って移動する際に、中間ショルダ30が、突き合わせ方向D2についても安定した状態でワークW上に配置される。
【0075】
また、車輪31が上部ショルダ側でもワークWに接触しているので、車輪31とワークWとの間で生じる反力を、上部ショルダ側でもワークWが受けることができる。中間ショルダ30における下部ショルダ側に設けられた車輪31のうち、接合方向D1の前方の車輪31でワークから受ける反力をF4とし、中間ショルダ30における上部ショルダ側に設けられた車輪31のうち、接合方向D1の後方の車輪31でワークWから受ける反力をF5とする。
【0076】
図5を用いて述べたように、上部の隙間x1の摩擦撹拌接合領域R1で作用する反力をF1とし、下部の隙間x2の摩擦撹拌接合領域R2で作用する反力をF2としている。また、撹拌軸40の回転軸において、反力F2によって上部の隙間x1の位置に作用する回転モーメントをM1としている。さらに、反力F4によって撹拌軸の回転軸に作用する回転モーメントをM3とする。撹拌軸の回転軸と中間ショルダ30の下部における前方の車輪31の距離をH3とする。回転モーメントM3は、反力F4と距離H3との積である。また、反力F5によって撹拌軸の回転軸に作用する回転モーメントをM4とする。撹拌軸の回転軸と中間ショルダ30の上部における後方の車輪31の距離をH4とする。回転モーメントM4は、反力F5と距離H4の積である。
【0077】
図5の例と同様に、摩擦撹拌接合が行われる際に、摩擦撹拌接合用ツール100に作用する反力F2によって上部の隙間x1の位置で撹拌軸40に回転モーメントM1が作用すると、撹拌軸40が傾く。回転モーメントM1によって撹拌軸40が傾こうとすると、中間ショルダ30の下部における接合方向D1の前方部分の車輪31の位置でのワークWからの反力F4が大きくなる。このとき、反力F4が大きくなるのに伴い、反力F4による回転モーメントM3も大きくなる。さらに、回転モーメントM1によって撹拌軸40が傾こうとすると、中間ショルダ30の上部における接合方向D1の後方部分の車輪31の位置でのワークWからの反力F5が大きくなる。このとき、反力F5が大きくなるのに伴い、反力F5による回転モーメントM4も大きくなる。そのため、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントM1が、反力F4による回転モーメントM3及び反力F5による回転モーメントM4の両方によって打ち消され、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントの大きさをさらに抑えることができる。
【0078】
また、車輪31は、中間ショルダ30における接合方向D1及び撹拌軸40の軸方向に関しそれぞれの位置で、突き合わせ方向D2に関して2つ配置されている。従って、ワークWからの反力F4、F5は、ワークW同士の突き合わせ方向D2に関して2箇所で中間ショルダ30に作用する。そのため、反力F4、F5が、ワークW同士の突き合わされる方向D2に関して均等に作用する。また、反力F4、F5による回転モーメントM3、M4についても、突き合わせ方向D2に関して均等に作用する。そのため、中間ショルダ30に作用する反力F4、F5及び回転モーメントM3、M4を、突き合わせ方向D2に関してバランスさせることができる。従って、中間ショルダ30が、突き合わせ方向D2に関して、より安定した状態でワークW上に配置される。
【0079】
また、例えば、摩擦撹拌接合のための摩擦撹拌接合用ツール100aの移動が折り返し、接合方向が図7に示されるD1方向とは逆方向になったときには、接合方向がD1方向であるときと比べて、撹拌軸40が傾こうとする方向が逆になる。摩擦撹拌接合用ツール100の移動方向の前方部分が下方に向かい、移動方向の後方部分が上方に向かうように、撹拌軸40が傾く。その場合、撹拌軸40が傾こうとすると、ワークWからの反力が中間ショルダ30の上部と下部との両方で共に大きくなる。このとき、上部と下部との両方についてのワークWからの反力が大きくなるのに伴い、ワークWからの反力による回転モーメント(M3、4とは逆方向)も大きくなる。そのため、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントが、ワークWからの反力による2つの回転モーメントによって打ち消され、撹拌軸40を傾けようとする回転モーメントの大きさをさらに抑えることができる。
【0080】
なお、本実施形態では、回り止め部33をワークWに当接させて、中間ショルダ30の回り止めとして用いられている形態について説明した。しかしながら、本発明は上記実施形態に限定されない。中間ショルダ30の一部がワークW以外に当接することにより、中間ショルダ30の回転が抑えられてもよい。例えば、ワークWの板材w1、w2の間に治具が配置され、中間ショルダ30が治具と当接することにより、中間ショルダ30の回転が抑えられるように構成されていてもよい。
【0081】
また、本実施形態では、車輪31は、中間ショルダ30に4つあるいは8つ取り付けられる形態について説明した。しかしながら、本発明は上記実施形態に限定されない。車輪31は、他の個数が設けられてもよい。例えば、車輪31は、9つ以上であってもよいし、3つ以下、例えば2つであってもよい。車輪31は、摩擦撹拌接合の際に中間ショルダ30の接合方向D1への移動が円滑に行われるのであれば、いくつであってもよい。
【0082】
また、中間ショルダ30における摩擦撹拌接合領域R1、R2の径方向の外側において、中間ショルダ30の表面に、ワークWとの間の摩擦を低減させるために、ローラやボールが設けられてもよい。また、中間ショルダ30におけるワークWと当接する部分の表面に、低摩擦材によってコーティングが行われてもよい。例えば、DLCによるコーティングが行われてもよい。こうすることによって、摩擦撹拌接合が行われる際に、中間ショルダ30とワークWとの間の摩擦をさらに低減させることができる。従って、摩擦撹拌接合を円滑に行うことができる。
【0083】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツール100bについて説明する。なお、上記第1実施形態と同様に構成される部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0084】
第2実施形態では、中間ショルダ30における上部の隙間x1を介して上部ショルダ10と対向する対向部(第1対向部)35aと下部の隙間x2を介して下部ショルダ20と対向する対向部(第2対向部)35bとが、互いに相対的に撹拌軸40の軸方向に移動可能に構成され、対向部同士の間に弾性体が配置されている点で第1実施形態と異なる。
【0085】
図8に、第2実施形態における摩擦撹拌接合用ツール100bについての側面図を示す。図8(a)には、中間ショルダ30における、上部ショルダ10と対向する対向部35aと、下部ショルダ20と対向する対向部35bと、の間の距離が比較的離れた状態についての摩擦撹拌接合用ツール100bの側面図が示されている。また、図8(b)には、中間ショルダ30における、上部ショルダ10と対向する対向部35aと、下部ショルダ20と対向する対向部35bと、の間の距離が比較的近接した状態についての摩擦撹拌接合用ツール100bの側面図が示されている。
【0086】
図8(a)、(b)に示されるように、ワークWによっては、ワークWの全体に亘って品質が安定しているわけではないものもある。そのようなワークWにおいては、部位によっては寸法精度が高くない場合がある。例えば、板材がうねり、波打つように構成されている場合がある。その場合、図8(a)に示されるように、中間ショルダ30は、板材が上に凸となる位置で板材と当接することもあれば、図8(b)に示されるように、板材が下に凸となる位置で板材と当接することもある。
【0087】
このように板材が波打つように形成されている場合には、接合方向D1に沿った位置によっては、中間ショルダ30における上部ショルダ側で板材と接触する接触位置と、下部ショルダ側で板材と接触する接触位置との間の距離が異なる。そのような場合に、中間ショルダ30における上部ショルダ側で板材と接触する接触位置と、下部ショルダ側で板材と接触する接触位置と、の間の距離が一定であると、接合方向D1の一部で、中間ショルダ30と板材との間に隙間が生じた状態で摩擦撹拌接合が行われることになり、摩擦撹拌接合を精度良く行うことができない可能性がある。
【0088】
本実施形態の摩擦撹拌接合用ツール100bでは、中間ショルダ30における上部の隙間x1を介して上部ショルダ10と対向する対向部35aと下部の隙間x2を介して下部ショルダ20と対向する対向部35bとが、互いに相対的に撹拌軸40の軸方向に移動可能に構成されている。さらに、中間ショルダ30における上部ショルダ10と対向する対向部35aと、下部ショルダ20と対向する対向部35bと、の間の位置には、弾性体が配置されている。本実施形態では、例えば、弾性体として、バネ36が配置されている。
【0089】
中間ショルダ30における上部ショルダ10と対向する対向部35aと、下部ショルダ20と対向する対向部35bと、の間にバネ36が配置されているので、中間ショルダ30における上部ショルダ10と対向する対向部35aと、下部ショルダ20と対向する対向部35bと、を、それぞれ互いに離れる方向に向けて付勢させることができる。中間ショルダ30における上部ショルダ10と対向する対向部35aと、下部ショルダ20と対向する対向部35bと、を、それぞれ互いに離れる方向に向けて付勢させた状態で、中間ショルダ30が接合方向D1に沿って移動するので、板材が波打つように形成されている場合であっても、板材の形状の変化に追従して、中間ショルダ30が、上方の板材と下方の板材との両方に当接した状態で移動することができる。従って、中間ショルダ30における上部ショルダ10と対向する対向部35aと、下部ショルダ20と対向する対向部35bと、を、ワークWに確実に当接させた状態で、摩擦撹拌接合用ツール100bが、摩擦撹拌接合を行うことができる。これにより、摩擦撹拌接合を精度良く行うことができる。
【0090】
なお、本実施形態では、弾性体としてバネ36が用いられているが、本発明はこれに限定されない。弾性体は、バネ以外のものが用いられてもよい。例えば、ゴム等が用いられてもよい。
【0091】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツール100cについて説明する。なお、上記第1実施形態及び第2実施形態と同様に構成される部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0092】
第3実施形態においては、摩擦撹拌接合の行われるワークWのそれぞれの有する梁部材w3の位置が第1実施形態及び第2実施形態とは異なる。これに伴い、中間ショルダ30の正面から見たときの形状が第1実施形態及び第2実施形態とは異なる。
【0093】
図4に示されるように、第1実施形態及び第2実施形態においては、摩擦撹拌接合用ツールを正面から見たときに、中間ショルダ30は、突き合わせ方向D2に沿う断面が、D2方向に長い長方形となる例について説明した。これに対し、第3実施形態では、例えば、図9に示されるように、中間ショルダ30を正面から見たときに、中間ショルダ30は、上部ショルダ10と対向する部分が、上方に向かうにつれて先細となるように湾曲して構成されている。
【0094】
第3実施形態では、突き合わせの行われるワークWのそれぞれに設けられた梁部材w3同士の間の間隔が、第1実施形態及び第2実施形態に比べて小さく形成されている。梁部材w3同士の間の間隔を狭くした場合には、摩擦撹拌接合によって接合の行われたワークWの剛性を向上させることができる。従って、ワークWの剛性を向上させるために梁部材w3同士の間隔を狭くした場合にも、ワークWにおける梁部材w3同士の間の間隔に合わせて、それぞれの梁部材w3と当接するように、中間ショルダ30における突き合わせ方向D2への長さが小さく形成されている。また、それぞれの梁部材w3の形状に合わせ、中間ショルダ30の上部の形状が、上方に向かうにつれて突き合わせ方向D2への長さが小さくなるように、先細に形成されている。
【0095】
中間ショルダ30がこのように形成されることにより、ワークWにおける梁部材w3同士の間の間隔が狭い場合であっても、それぞれの梁部材w3に当接した状態で摩擦撹拌接合を行うことができる。そのため、梁部材w3によって、中間ショルダ30の位置決めを行うことができる。従って、摩擦撹拌接合を精度良く行うことができる。また、中間ショルダ30が梁部材w3に当接することにより、梁部材w3が中間ショルダ30の回り止めとして機能する。従って、撹拌軸40の回転に伴った回転を中間ショルダ30が行わないように、中間ショルダ30が梁部材w3によって押さえられた状態で摩擦撹拌接合を行うことができる。従って、中間ショルダ30が回転しない状態を維持したまま、摩擦撹拌接合を行うことができる。従って、摩擦撹拌接合を行う際に発生する熱を少なく抑えることができる。
【0096】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツール100dについて説明する。なお、上記第1実施形態ないし第3実施形態と同様に構成される部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0097】
上記第1ないし第3実施形態では、接合の行われるワークWのそれぞれが、上下に2枚が配置された板材w1、w2と、板材同士の間に配置された梁部材w3と、を備えた例について説明した。これに対し、第4実施形態では、例えば断面がU字状の形状を有するワークWが、上下の互いに突き合わされる端部で摩擦撹拌接合によって接合される形態について説明する。
【0098】
図10に示されるように、第4実施形態では、ワークw6、w7は、それぞれ内側に開口されたU字状に構成されている。内側に開口された部分の縁部同士が摩擦撹拌接合によって接合されることにより、突き合わせ方向D2に沿った断面が長方形となるように構成された閉断面を有する筒状のワークWが形成される。
【0099】
本実施形態では、摩擦撹拌接合用ツール100dにおける上部ショルダ10と中間ショルダ30との間の隙間x1及び中間ショルダ30と下部ショルダ20との間の隙間x2に、ワークWにおける開口された部分の縁部が配置される。
【0100】
また、摩擦撹拌接合が行われる際には、内側に開口されたU字状のワークw6、w7によって囲まれた領域の内側に中間ショルダ30が配置された状態で、撹拌軸40が回転しながら摩擦撹拌接合用ツール100dが接合方向に沿って移動することにより摩擦撹拌接合が行われる。
【0101】
また、第4実施形態では、ワークw6、w7の形状から、軸方向において隙間x1と隙間x2の間の領域において、ワークw6、w7における突き合わせ方向D2に沿って対向する部分同士の間の長さが比較的長くなるように構成されている。ワークw6、w7における突き合わせ方向D2に沿って対向する部分同士の間の長さが比較的長い場合であっても、中間ショルダ30がワークw6、w7に当接できるように、中間ショルダ30が、突き合わせ方向D2の外側に向かって突出した突出部37を有している。
【0102】
中間ショルダ30は、ローラ38を有している。ローラ38は、突出部37における突き合わせ方向D2の外側の端部に、回転自在に設けられている。また、ローラ38は、外周面38aの突き合わせ方向D2の外側の一部が突出部37から突き合わせ方向D2の外側に食み出すように、突出部37に設けられている。ローラ38は、回転軸38bが撹拌軸40の回転軸と平行となるように配置されている。2つのローラ38は、外周面38aにおける突出部37から外側に食み出した部分で、ワークw6、w7のそれぞれと当接している。
【0103】
中間ショルダ30が、突出部37及びローラ38を有し、突出部37のワーク突き合わせ方向D2の外側の先端部にローラ38が取り付けられているので、中間ショルダ30からワークまでのワーク突き合わせ方向D2についての距離が長くても、突出部37及びローラ38を介して、中間ショルダ30がワークw6、w7と当接することができる。
【0104】
ローラ38は、摩擦撹拌接合用ツール100dが接合方向D1に沿って移動する際に、接合方向D1に沿った方向に転がるので、中間ショルダ30とワークw6、w7との間で生じる摩擦を少なく抑えることができる。従って、中間ショルダ30を、接合方向D1に沿って円滑に移動させることができる。
【0105】
突出部37及びローラ38を介して、ワークw6、w7と中間ショルダ30が当接した状態で摩擦撹拌接合が行われるので、ワークw6、w7によって、中間ショルダ30の位置決めを行うことができる。
【0106】
また、突出部37及びローラ38を介して、ワークw6、w7と中間ショルダ30が当接した状態で摩擦撹拌接合が行われるので、中間ショルダ30がワークw6、w7によって支持された状態で摩擦撹拌接合を行うことができる。従って、ワークw6、w7が中間ショルダ30の回り止めとして機能することができる。これにより、撹拌軸40が回転したときに、撹拌軸40の回転に伴って中間ショルダ30が回転しないように、中間ショルダ30に対して回り止めが行われた状態で、摩擦撹拌接合を行うことができる。
【0107】
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツール100eについて説明する。なお、上記第1実施形態ないし第4実施形態と同様に構成される部分については説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。
【0108】
図11に、第5実施形態に係る摩擦撹拌接合用ツール100eについての断面図を示す。上記の第1ないし第4実施形態では、中間ショルダ30は、全体が軸受50を介して撹拌軸40の軸回りに配置されているので、撹拌軸40が回転したときに、中間ショルダ30の全体が、撹拌軸40と同様の回転を行わないようにすることが可能に構成されている。これに対し、第5実施形態の摩擦撹拌接合用ツール100eでは、中間ショルダ30が、上部ショルダ10と対向する第1対向部30dと、下部ショルダ20と対向する第2対向部30eと、車輪31及び回り止め部33を有する側方の周壁部30fとを備え、中間ショルダ30のうち周壁部30fが軸受50aを介して撹拌軸40の軸回りに配置されている。そのため、周壁部30fは、撹拌軸40に対し相対回転可能に取り付けられている。また、第1対向部30d及び第2対向部30eは、撹拌軸40によって内部を通されて撹拌軸40の軸回りに固定され、撹拌軸40との間で相対回転不能に構成されている。そのため、撹拌軸40が回転駆動されると、周壁部30fは回転しないが、第1対向部30d及び第2対向部30eは撹拌軸40の回転に伴って回転する。
【0109】
このように摩擦撹拌接合用ツール100eが構成されることにより、摩擦撹拌接合用ツール100eを用いて摩擦撹拌接合が行われる際に、第1対向部30d及び第2対向部30eが撹拌軸40の回転に伴った回転を行いながら摩擦撹拌接合を行うことができる。従って、摩擦撹拌接合用ツール100eと当接する上下のワークの両方について、ワークの表と裏との両方でワークに対し相対的に回転を行いながら摩擦撹拌接合を行うことができる。そのため、摩擦撹拌接合用ツール100eとワークとの間で大きな摩擦熱を発しながら摩擦撹拌接合を行うことができる。このように、中間ショルダ30のうちの第1対向部30d及び第2対向部30eが撹拌軸40の回転に伴う回転を行いながら、摩擦撹拌接合用ツール100eが摩擦撹拌接合を行うように構成されてもよい。
【0110】
この場合にも、周壁部30fは、撹拌軸40に対し相対回転可能に構成されているので、車輪31は、摩擦撹拌接合が行われる際に、ワーク上を接合方向D1に安定して転がることができる。従って、中間ショルダ30は、接合方向D1に移動することができる。また、その際、回り止め部33が接合方向D1に沿って転がりながら、回り止め部33がワークに当接した状態で、摩擦撹拌接合が行われる。そのため、回り止め部33は、撹拌軸40が回転したときに中間ショルダ30が撹拌軸40の回転に伴う回転を行わないように、中間ショルダ30の回り止めを行う。
【0111】
結果的に、中間ショルダ30における上部ショルダ10と対向する部分及び下部ショルダ20と対向する部分は、撹拌軸40の回転に伴う回転を行いながら摩擦撹拌接合を行ってもよいし、撹拌軸40の回転に伴う回転を行わずに摩擦撹拌接合を行ってもよい。
【符号の説明】
【0112】
10 上部ショルダ(第1ショルダ部)
20 下部ショルダ(第2ショルダ部)
30 中間ショルダ(第3ショルダ部)
31 車輪(転がり部)
33 回り止め部
35a 対向部(第1対向部)
35b 対向部(第2対向部)
36 バネ(弾性体)
39 接触部(傾き阻止部)
40 撹拌軸
50 軸受部(ラジアル軸受)
R1 摩擦撹拌接合領域(第1摩擦撹拌接合領域)
R2 摩擦撹拌接合領域(第2摩擦撹拌接合領域)
x1 隙間(第1隙間部)
x2 隙間(第2隙間部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11