(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】インダクタンス素子及び電子機器
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20221003BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F17/04 F
H01F27/28 K
H01F27/28 147
(21)【出願番号】P 2018224210
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2019-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】寺内 直也
(72)【発明者】
【氏名】新井 隆幸
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】清水 稔
【審判官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-164431(JP,A)
【文献】特開2003-272923(JP,A)
【文献】特開2005-129589(JP,A)
【文献】特開2000-068130(JP,A)
【文献】「SMD Beads and Chokes」、Application note、Extended range for EMI noise suppression、米国、FERROXCUBE、Date of release: October 2006、p.3-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F17/04, 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ寸法L、高さ寸法H、幅寸法Wで規定される直方体形状を有し、高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値が2以上である絶縁性の基体部と、
前記基体部に内蔵され、前記基体部の断面において、前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能な1本の内部導体と、
前記基体部の表面に、前記1本の内部導体が前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能となるように前記1本の内部導体の両端部にそれぞれ接続されて設けられる一対の外部電極と、を備え、
前記基体部は、前記1本の内部導体の周りを囲む領域の比透磁率が5以上であり、
前記基体部の前記断面において、前記1本の内部導体の高さ方向と幅方向で最も外側に位置する部分に接して前記1本の内部導体を囲む長方形の内部導体領域の高さ寸法をEh、幅寸法をEwとした場合に、前記内部導体領域の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値を前記基体部の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hで割った値(Ew/Eh)/(W/H)は3以上である、インダクタンス素子。
【請求項2】
長さ寸法L、高さ寸法H、幅寸法Wで規定される直方体形状を有し、高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値が1.5以上である絶縁性の基体部と、
前記基体部に内蔵され、前記基体部の高さ方向に並んで設けられ、前記基体部の断面において、前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能な複数の内部導体と、
前記基体部の表面に、前記複数の内部導体が前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能となるように前記複数の内部導体の両端部にそれぞれ接続されて設けられ、前記複数の内部導体各々の一端が共通に接続された一方の外部電極と他端が共通に接続された他方の外部電極とを有する一対の外部電極と、を備え、
前記基体部の前記断面において、前記複数の内部導体の高さ方向と幅方向で最も外側に位置する部分に接して前記複数の内部導体を囲む長方形の内部導体領域の高さ寸法をEh、幅寸法をEwとした場合に、前記内部導体領域の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値は、前記基体部の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値よりも大きい、インダクタンス素子。
【請求項3】
前記基体部の寸法は、長さ寸法L>幅寸法W>高さ寸法Hを満たす、請求項1
または2記載のインダクタンス素子。
【請求項4】
前記基体部は、磁性金属材料又はフェライト材料を含んで形成され、
前記内部導体は、銀、銅、若しくは銀又は銅の少なくとも一方を含む合金のどれか1種類以上を含んで形成される、請求項1から
3のいずれか一項記載のインダクタンス素子。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項記載のインダクタンス素子と、
前記インダクタンス素子が実装される回路基板と、を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタンス素子及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
基体部に直線状に伸びた内部導体が内蔵されたインダクタンス素子が知られている。このようなインダクタンス素子において、基体部の断面形状と内部導体の断面形状とを略相似形にすることで、高インダクタンスを有し、良好な直流重畳特性が得られることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器の小型化に伴うインダクタンス素子の低背化、及び、電子機器の高機能化に伴うインダクタンス素子の大電流化、が進んでいる。インダクタンス素子の低背化が進んで基体部の高さに対する幅の比が大きくなっていくと、特許文献1に記載のように基体部の断面形状と内部導体の断面形状とを略相似形にしても良好な直流重畳特性が得られないことが分かった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、部分的な磁束の集中を抑制し、直流重畳特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、長さ寸法L、高さ寸法H、幅寸法Wで規定される直方体形状を有し、高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値が2以上である絶縁性の基体部と、前記基体部に内蔵され、前記基体部の断面において、前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能な1本の内部導体と、前記基体部の表面に、前記1本の内部導体が前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能となるように前記1本の内部導体の両端部にそれぞれ接続されて設けられる一対の外部電極と、を備え、前記基体部は、前記1本の内部導体の周りを囲む領域の比透磁率が5以上であり、前記基体部の前記断面において、前記1本の内部導体の高さ方向と幅方向で最も外側に位置する部分に接して前記1本の内部導体を囲む長方形の内部導体領域の高さ寸法をEh、幅寸法をEwとした場合に、前記内部導体領域の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値を前記基体部の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hで割った値(Ew/Eh)/(W/H)は3以上である、インダクタンス素子である。
【0008】
本発明は、長さ寸法L、高さ寸法H、幅寸法Wで規定される直方体形状を有し、高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値が1.5以上である絶縁性の基体部と、前記基体部に内蔵され、前記基体部の高さ方向に並んで設けられ、前記基体部の断面において、前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能な複数の内部導体と、前記基体部の表面に、前記複数の内部導体が前記断面に垂直で同一の方向に電流を流すことが可能となるように前記複数の内部導体の両端部にそれぞれ接続されて設けられ、前記複数の内部導体各々の一端が共通に接続された一方の外部電極と他端が共通に接続された他方の外部電極とを有する一対の外部電極と、を備え、前記基体部の前記断面において、前記複数の内部導体の高さ方向と幅方向で最も外側に位置する部分に接して前記複数の内部導体を囲む長方形の内部導体領域の高さ寸法をEh、幅寸法をEwとした場合に、前記内部導体領域の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値は、前記基体部の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値よりも大きい、インダクタンス素子である。
【0009】
上記構成において、前記基体部の寸法は、長さ寸法L>幅寸法W>高さ寸法Hを満たす構成とすることができる。また、上記構成において、前記基体部は、磁性金属材料又はフェライト材料を含んで形成され、前記内部導体は、銀、銅、若しくは銀又は銅の少なくとも一方を含む合金のどれか1種類以上を含んで形成される構成とすることができる。
【0010】
本発明は、上記記載のインダクタンス素子と、前記インダクタンス素子が実装される回路基板と、を備える電子機器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、部分的な磁束の集中を抑制し、直流重畳特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係るインダクタンス素子の透視斜視図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A間の断面図である。
【
図2】
図2は、サンプル1~4の定格電流Isatのシミュレーション結果である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、サンプル2についての磁束密度分布のシミュレーション結果(その1)である。
【
図4】
図4は、サンプル2についての磁束密度分布のシミュレーション結果(その2)である。
【
図5】
図5は、実施例2に係るインダクタンス素子の断面図である。
【
図6】
図6は、実施例3に係るインダクタンス素子の断面図である。
【
図7】
図7(a)は、実施例4に係るインダクタンス素子の斜視図、
図7(b)は、
図7(a)のA-A間の断面図、
図7(c)は、
図7(a)のB-B間の断面図である。
【
図8】
図8は、実施例5に係る電子機器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0014】
図1(a)は、実施例1に係るインダクタンス素子の透視斜視図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A間の断面図である。
図1(a)及び
図1(b)のように、実施例1のインダクタンス素子100は、基体部10と、内部導体30と、外部電極50a及び50bと、を備える。
【0015】
基体部10は、上面12と、下面14と、1対の端面16a及び16bと、1対の側面18a及び18bと、を有する直方体形状をしている。下面14は実装面であり、上面12は下面14とは反対側の面である。端面16a及び16bは、上面12及び下面14の短辺に接続された面である。側面18a及び18bは、上面12及び下面14の長辺に接続された面である。端面16aと端面16bの間隔は、基体部10の長さ寸法Lである。上面12と下面14の間隔は、基体部10の高さ寸法Hである。側面18aと側面18bの間隔は、基体部10の幅寸法Wである。
【0016】
基体部10は、高さ寸法Hが幅寸法Wよりも短くなっている。すなわち、幅寸法W>高さ寸法Hの関係となっている。これにより、インダクタンス素子100は、高さ方向の寸法を小さくでき、実装時の薄型化に寄与できる。また、基体部10の長さ寸法Lは幅寸法Wよりも長くすることができる。すなわち、この場合では長さ寸法L>幅寸法W>高さ寸法Hの関係となっている。これにより、長さ寸法Lを大きくできることで、インダクタンス特性を確保し易くなる。
【0017】
なお、基体部10は、完全な直方体形状の場合に限られず、例えば各頂点が丸みを帯びている場合、各稜(各面の境界部)が丸みを帯びている場合、又は各面が曲面を有している場合などであってもよい。すなわち、直方体形状をした基体部10には、このような略直方体形状を有する基体部10も含まれるものである。
【0018】
基体部10は、絶縁性を有し、例えば磁性金属材料又はフェライト材料などの磁性材料を含んで形成されている。基体部10は、例えば磁性材料を主成分に含んで形成されている。主成分に含むとは、磁性材料を50wt%より多く含む場合であり、70wt%以上含む場合でもよいし、80wt%以上含む場合でもよいし、90wt%以上含む場合でもよい。基体部10は、磁性粒子を含有する樹脂で形成されていてもよいし、表面が絶縁被覆された磁性粒子で形成されていてもよい。磁性金属材料として、例えばFeSi系、FeSiCr系、FeSiAl系、FeSiCrAl系、FeSiAlBC系、Fe、又はNiなど、磁性金属、結晶性磁性金属、非晶質磁性金属、又はナノ結晶磁性金属が用いられる。フェライト材料として、例えばNiZn系フェライト又はMnZn系フェライトなどが用いられる。樹脂としては、例えばポリイミド樹脂又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いてもよいし、ポリエチレン樹脂又はポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を用いてもよい。磁性粒子の表面を被覆する絶縁膜としては、例えば磁性粒子自身の酸化物からなる絶縁膜でもよいし、酸化シリコンなどの無機絶縁物からなる絶縁膜でもよい。なお、基体部10の比透磁率は、5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上である。これにより、インダクタンス特性を確保し易くなる。また、基体部10の比抵抗は、106Ω・cm以上、好ましくは108Ω・cm以上である。これにより、基体部10としての絶縁性を確保することができる。
【0019】
内部導体30は、基体部10に内蔵されている。内部導体30は、基体部10の長さ方向の中央部分において、内部導体30の電気的な導通方向と垂直な断面が例えば長方形形状をしている。この断面は、言い換えると一対の端面16a及び16bの中間点において、端面16a及び16bと平行な面であり、基体部10の高さ方向と幅方向の2方向を含む面である。ここで、基体部10の長さ方向の中央部分での断面において、内部導体30の高さ方向及び幅方向(すなわち上下左右方向)で最も外側に位置する部分に接して内部導体30を囲む長方形の領域を内部導体領域32とする。実施例1では、長方形形状をした断面形状を有する内部導体30が1本設けられているため、内部導体領域32は内部導体30が存在する領域とほぼ一致する。内部導体領域32の高さ寸法をEhとし、幅寸法をEwとする。基体部10の高さ寸法Hが幅寸法Wより短くなっていることに伴い、内部導体領域32の高さ寸法Ehも幅寸法Ewより短くなっている。また、基体部10の長さ方向の中央部分での断面において、内部導体30は、基体部10の中央部に設けられていてもよいし、基体部10の中心に対して点対称の形状をしていてもよい。
【0020】
内部導体30は、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、銀、白金、又はパラジウムなどの金属材料、或いは、これらを含む合金材料で形成されている。内部導体30は、基体部10の端面16aと端面16bの間を直線状に延在していてもよい。内部導体30が直線状に延在することにより、インダクタンス素子100の直流抵抗値を小さくすることができる。内部導体30の両端は基体部10の表面から露出し、それぞれの露出部分を含む基体部10の表面に外部電極50a及び50bが形成されている。好適には、内部導体30の一端は基体部10の端面16aで基体部10から露出し、他端が基体部10の端面16bで基体部10から露出している。なお、外部電極50a及び50bは、基体部10の端面16a及び16b以外の表面にも形成されていてもよい。
【0021】
外部電極50a及び50bは、表面実装用の外部端子である。外部電極50a及び50bは、実施例1では、基体部10の下面14から端面16a又は16bを経由して上面12まで延在し且つ側面18a及び18bの一部を覆っている。すなわち、外部電極50a及び50bは、基体部10の5面を覆う5面電極である。この場合、内部導体30は、一端が基体部10の端面16aで外部電極50aに接続し、他端が基体部10の端面16bで外部電極50bに接続している。なお、外部電極50a及び50bは、基体部10の下面14から端面16a又は16bを経由して上面12まで延在する3面電極の場合でもよいし、基体部10の下面14から端面16a又は16bに延在する2面電極の場合でもよい。また、外部電極50a及び50bは、端面16a又は16b以外の基体部10の表面に内部導体30が露出している場合、露出部分を含む基体部10の表面の任意の部分に形成されていてもよい。
【0022】
外部電極50a及び50bは、例えば複数の金属層から形成されている。外部電極50a及び50bは、例えば銅、アルミニウム、ニッケル、銀、白金、又はパラジウムなどの金属材料、又はこれらを含む合金材料で形成された下層、銀又は銀を含む導電性樹脂で形成された中層、ニッケル及び/又は錫のめっき層である上層の複層構造をしている。各層の間に中間層がある場合又は上層の上に最上層がある場合など、外部電極50a及び50bの層構成は例示された層のみに限定されない。
【0023】
次に、実施例1のインダクタンス素子100の製造方法について説明する。インダクタンス素子100は、複数のグリーンシートを積層する工程を含んで形成される。グリーンシートは、基体部10を構成する絶縁性の前駆体であり、磁性材料を含むスラリーをドクターブレード法などによってフィルム上に塗布することで形成される。
【0024】
まず、複数のグリーンシートを準備する。複数のグリーンシートのうちの一部のグリーンシートに対して、例えば印刷法を用いて導電性材料を塗布することで、内部導体30の前駆体を形成する。次いで、複数のグリーンシートを所定の順序で積層して圧着する。圧着したグリーンシートをダイサー又は押し切りカットなどでチップ単位に切断した後、所定温度にて焼成を行う。内部導体30の前駆体は焼成されることで内部導体30となる。これにより、内部導体30が内蔵された基体部10が形成される。
【0025】
次いで、基体部10の表面に外部電極50a及び50bを形成する。外部電極50a及び50bは、ペースト印刷、めっき、又はスパッタリングなどの薄膜プロセスで用いられる方法によって形成される。
【0026】
ここで、発明者が行ったシミュレーションについて説明する。発明者は、
図1(a)及び
図1(b)で説明したインダクタンス素子100において、基体部10の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値を異ならせた4つのサンプル1~4を用いてシミュレーションを行った。また、サンプル1~4において、基体部10は軟磁性金属材料(FeSiCr系で比透磁率25)で形成され、内部導体30は銀で形成されているとした。
サンプル1は、高さ寸法Hと幅寸法Wを共に0.8mmとし、W/Hの値を1とした。
サンプル2は、高さ寸法Hを0.533mm、幅寸法Wを0.8mmとし、W/Hの値を1.5とした。
サンプル3は、高さ寸法Hを0.4mm、幅寸法Wを0.8mmとし、W/Hの値を2とした。
サンプル4は、高さ寸法Hを0.2mm、幅寸法Wを0.8mmとし、W/Hの値を4とした。
【0027】
サンプル1~4それぞれに対して、インダクタンスを一定に維持しつつ、内部導体30の厚み及び幅、すなわち、内部導体領域32の高さ寸法Eh及び幅寸法Ewを変化させたときの定格電流Isatを計算した。
図2は、サンプル1~4の定格電流Isatのシミュレーション結果である。
図2の横軸は、内部導体領域32の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値を、基体部10の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値で割った値(Ew/Eh)/(W/H)である。
図2の縦軸は、(Ew/Eh)/(W/H)の値が1のときの定格電流Isatで規格化した規格化定格電流Isatである。横軸の(Ew/Eh)/(W/H)が1のときは、基体部10の断面形状と内部導体領域32の形状とが相似形になっている場合に相当する。(Ew/Eh)/(W/H)の値が大きくなるほど、内部導体領域32の形状は基体部10の断面形状に対して横長となる。
【0028】
図2のように、サンプル1では、(Ew/Eh)/(W/H)の値が1のときに定格電流Isatが最も大きくなった。すなわち、サンプル1はW/Hの値が1であることから、基体部10の断面形状は正方形となっている。この場合では、内部導体領域32の形状を基体部10の断面形状と相似形にすることで定格電流Isatが最も大きくなった。
【0029】
これに対し、サンプル2~4では、(Ew/Eh)/(W/H)の値が1よりも大きくなった場合に定格電流Isatが大きくなった。すなわち、サンプル2~4はW/Hの値が1.5以上であることから、基体部10の断面形状は横長の長方形となっている。この場合では、Ew/Eh>W/Hの関係を満たす場合に定格電流Isatが大きくなった。この理由について以下に説明する。
【0030】
図3(a)及び
図3(b)は、サンプル2についての磁束密度分布のシミュレーション結果(その1)である。
図3(a)及び
図3(b)では、磁束密度の高低をハッチングの濃さで表していて、ハッチングが濃い領域ほど磁束密度が高い。
図3(a)は、内部導体30の幅を320μm、厚みを213.3μmとしたときの磁束密度分布のシミュレーション結果である。すなわち、内部導体領域32の幅寸法Ewが320μm、高さ寸法Ehが213.3μmで、Ew/Ehの値が1.5の場合であり、内部導体領域32の形状が基体部10の断面形状と相似している場合での磁束密度分布のシミュレーション結果である。
図3(b)は、内部導体30の幅を480μm、厚みを105.5μmとしたときの磁束密度分布のシミュレーション結果である。すなわち、内部導体領域32の幅寸法Ewが480μm、高さ寸法Ehが105.5μmで、Ew/Ehの値が4.6の場合であり、内部導体領域32の形状が基体部10の断面形状に比べて横長になっている場合での磁束密度分布のシミュレーション結果である。
【0031】
図3(a)のように、W/Hの値及びEw/Ehの値が共に1.5の場合では、磁束密度の高い領域が大きい一方で、磁束密度の低い領域も大きい。このことから、(Ew/Eh)/(W/H)の値が1の場合では、磁束が基体部10全体にわたって広く分布していない。
【0032】
一方、
図3(b)のように、W/Hの値が1.5で、Ew/Ehの値が4.6の場合では、磁束密度の高い領域と磁束密度の低い領域とが共に小さくなっている。その一方で、磁束密度が中間の大きさの領域が大きくなり、基体部10に広く分布している。このことから、Ew/Ehの値がW/Hの値よりも大きい場合では、磁束が基体部10の内部導体30の周囲に集中することなく分布するようになり、内部導体領域32上下での磁束の集中が抑制されるため、直流重畳特性が改善すると考えられる。
【0033】
したがって、基体部10の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値が1.5以上の場合では、Ew/Eh>W/Hの関係を満たすことで、磁束を基体部10の内部導体30の周囲に集中することなく分布させることができ、磁束の集中を抑制できると考えられる。よって、
図2において、W/Hの値が1.5以上であるサンプル2~4では、Ew/Eh>W/Hの関係を満たす場合に、直流重畳特性が改善して定格電流Isatが大きくなったと考えられる。なお、シミュレーションを行った材料に限定されずに、その他の磁性材料又は非磁性材料を用いた場合でも、上記の理由から同様の結果が得られると考えられる。
【0034】
以上のことから、実施例1では、高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値が1.5以上(W/H≧1.5)である絶縁性の基体部10を用いる。そして、内部導体領域32の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値を、基体部10の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値よりも大きくする。これにより、部分的な磁束の集中を抑制し、直流重畳特性を改善することができる。よって、定格電流Isatを大きくすることができ、大電流化に対応可能なインダクタンス素子を得ることができる。
【0035】
図2のように、直流重畳特性を改善する点から、(Ew/Eh)/(W/H)の値は、1.5以上の場合が好ましく、2以上の場合がより好ましく、3以上の場合が更に好ましい。例えば、W/Hの値が1.5以上且つ2未満では、(Ew/Eh)/(W/H)の値は2以上且つ4以下の場合が好ましい。(Ew/Eh)/(W/H)の値が4以上でも直流重畳特性は改善されるが、その改善効果が小さくなる。例えば、W/Hの値が2以上の場合では、(Ew/Eh)/(W/H)の値は、4以上の場合がより好ましく、5以上の場合が更に好ましい。ただし、(Ew/Eh)/(W/H)の値を過剰に大きくしても、直流重畳特性が大きく改善するものではない。
【0036】
図4は、サンプル2についての磁束密度分布のシミュレーション結果(その2)である。
図4では、磁束密度の高低をハッチングの濃さで表していて、ハッチングが濃い領域ほど磁束密度が高い。
図4では、内部導体30の幅を560μm、厚みを55μmとしたときの磁束密度分布のシミュレーション結果である。すなわち、内部導体領域32の幅寸法Ewが560μm、高さ寸法Ehが55μmで、Ew/Ehの値が10.2の場合での磁束密度分布のシミュレーション結果である。このときの(Ew/Eh)/(W/H)の値は6.8である。
図4のように、基体部10における磁束密度の高い領域が、内部導体領域32の側面から基体部10の側面にかけて分布している。これは、内部導体30の側面と基体部10の側面との間の基体部10の一部分である所謂サイドマージン部に磁束が集中している状態である。このため、
図2のように、サンプル2において、(Ew/Eh)/(W/H)の値が6.8の場合では、直流重畳特性の改善効果が小さくなり、定格電流Isatの改善効果が低下していると考えられる。
【0037】
図4は、基体部10の幅寸法Wが800μm、内部導体領域32の幅寸法Ewが560μmの場合でのシミュレーション結果である。すなわち、内部導体領域32の幅寸法Ewが基体部10の幅寸法Wの0.7倍の場合のシミュレーション結果である。この場合には、サイドマージン部に磁束が集中して定格電流Isatの改善効果が低下していることから、内部導体領域32の幅寸法Ewは、基体部10の幅寸法Wの0.7倍以下の場合が好ましい。また、内部導体領域32の基体部10の幅方向に垂直な一対の辺それぞれと、基体部10の基体部10の幅方向に垂直で前記一対の辺それぞれに近接する辺と、の間隔を
図4ではXで示すと、その間隔Xの寸法は、基体部10の幅寸法Wの0.15倍以上の場合が好ましい。なお、内部導体30の厚みは、製造の点から、10μm以上の場合が好ましく、12μm以上の場合がより好ましく、15μm以上の場合が更に好ましい。また、内部導体30は、基体部10の高さ方向、幅方向ともに必ずしも中央に配置されてなくともよく、例えば間隔Xの寸法を満足するような範囲にあればよい。これは、高さ方向においても同様である。
【0038】
基体部10は磁性金属材料又はフェライト材料を含んで形成され、内部導体30は銀、銅、若しくは銀又は銅の1種類以上を含む合金のいずれかを1種類以上含んで形成されている場合が好ましい。この場合、基体部10内の磁性体を有効に利用でき、磁束が基体部10全体にわたって効果的に広く分布するようになるため、磁束が集中することをより抑制できる。
【実施例2】
【0039】
図5は、実施例2に係るインダクタンス素子の断面図である。
図5のように、実施例2のインダクタンス素子200では、内部導体30aは楕円形状をした断面形状をしている。この場合でも、内部導体領域32は、内部導体30aの高さ方向及び幅方向(すなわち上下左右方向)で最も外側に位置する部分に接して内部導体30aを囲む長方形の領域となる。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0040】
実施例2のように、内部導体30aの断面形状が楕円形状である場合でも、内部導体領域32の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値を、基体部10の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値よりも大きくすることで、直流重畳特性が改善したインダクタンス素子を得ることができる。また、内部導体30aの断面形状は、楕円形状以外の、台形、平行四辺形、長丸四角形、角丸長方形などの場合であっても、内部導体領域32を同様に定義すれば、同様の効果を得ることができる。内部導体30aの断面形状は、製造プロセス、および生産性の都合により適宜選択される。
【実施例3】
【0041】
図6は、実施例3に係るインダクタンス素子の断面図である。
図6のように、実施例3のインダクタンス素子300では、複数本(ここでは3本)の内部導体30が基体部10の高さ方向に並んで設けられている。すなわち、複数の内部導体30は、外部電極50aと外部電極50bの間で互いに並列となって接続されている。つまり、複数の内部導体30が内部導体30の断面に垂直で同一の方向に電流を流すように接続されている。このような構造は、印刷法などで内部導体30の高さ方向の寸法を大きく作製することが困難な場合などに用いられ、並列に接続された内部導体30の合わせた断面積を大きくすることができる。隣接する内部導体30の間隔は、電気特性上の観点からが狭い方が好ましいが、内部導体30を各々分けて作製するためのハンドリングのために、1μmから10μm程度とすることができる。複数の内部導体30が設けられている場合、内部導体領域32は、複数の内部導体30の高さ方向及び幅方向(すなわち上下左右方向)で最も外側に位置する部分に接して複数の内部導体30をまとめて囲む長方形の領域となる。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0042】
実施例3のように、複数の内部導体30が設けられている場合でも、内部導体領域32の高さ寸法Ehに対する幅寸法Ewの比Ew/Ehの値を、基体部10の高さ寸法Hに対する幅寸法Wの比W/Hの値よりも大きくすることで、直流重畳特性が改善したインダクタンス素子を得ることができる。また、複数の内部導体30が基体部10の高さ方向に並んで設けられて互いに並列に接続されていることで、外部電極50aと外部電極50bの間を流れる電流の低抵抗化を図ることができる。
【実施例4】
【0043】
図7(a)は、実施例4に係るインダクタンス素子の斜視図、
図7(b)は、
図7(a)のA-A間の断面図、
図7(c)は、
図7(a)のB-B間の断面図である。
図7(a)から
図7(c)のように、実施例4のインダクタンス素子400では、内部導体30の両端が基体部10の下面14で基体部10から露出している。内部導体30は、一端が基体部10の下面14で外部電極50aに接続し、他端が基体部10の下面14で外部電極50bに接続している。このように、外部電極50a及び50bは、少なくとも基体部10の下面14に設けられている。
【0044】
実施例1から実施例3では、内部導体30は基体部10の端面16a及び16bで外部電極50a及び50bに接続する場合を例に示したが、実施例4のように、内部導体30は基体部10の下面14で外部電極50a及び50bに接続する場合でもよい。なお、図示は省略するが、内部導体30は基体部10のその他の面で外部電極50a及び50bに接続する場合でもよい。
【実施例5】
【0045】
図8は、実施例5に係る電子機器の断面図である。
図8のように、実施例5の電子機器500は、回路基板80と、回路基板80に実装された実施例1のインダクタンス素子100と、を備える。インダクタンス素子100は、外部電極50a及び50bが半田84によって回路基板80のランド電極82に接合されることで、回路基板80に実装されている。
【0046】
実施例5の電子機器500によれば、インダクタンス素子100が回路基板80に実装されている。これにより、直流重畳特性が改善されたインダクタンス素子100を有する電子機器500を得ることができる。なお、実施例5では、回路基板80に実施例1のインダクタンス素子100が実装されている場合を例に示したが、実施例2から実施例4のインダクタンス素子が実装されている場合でもよい。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 基体部
12 上面
14 下面
16a、16b 端面
18a、18b 側面
30、30a 内部導体
32 内部導体領域
50a、50b 外部電極
80 回路基板
82 ランド電極
84 半田
100、200、300、400 インダクタンス素子
500 電子機器