IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東日本旅客鉄道株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図1
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図2
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図3
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図4
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図5
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図6
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図7
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図8
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図9
  • 特許-直流き電系統の電圧降下可視化装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】直流き電系統の電圧降下可視化装置
(51)【国際特許分類】
   B60M 3/02 20060101AFI20221003BHJP
   B60M 1/28 20060101ALI20221003BHJP
   B60M 3/06 20060101ALI20221003BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20221003BHJP
   H02J 1/00 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
B60M3/02 D
B60M1/28 R
B60M3/06 B
H02J7/00 P
H02J7/00 U
H02J1/00 301Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018226956
(22)【出願日】2018-12-04
(65)【公開番号】P2020090125
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公開行為:発行日 平成30年8月28日、刊行物 平成30年電気学会産業応用部門大会予稿集、(2)公開行為:開催日 平成30年8月29日、集会名・開催場所 平成30年電気学会産業応用部門大会・横浜国立大学(神奈川県横浜市保土ケ谷区常盤台79-1)
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松崎 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-052301(JP,A)
【文献】特開2017-081310(JP,A)
【文献】特開昭62-227828(JP,A)
【文献】特開2000-059991(JP,A)
【文献】特開2011-155716(JP,A)
【文献】実開昭51-160099(JP,U)
【文献】実公昭47-035280(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 3/02
B60M 1/28
B60M 3/06
H02J 7/00
H02J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電所からの電力を供給するため軌道に沿って敷設された直流き電線における電気車のパンタグラフの接触点の電圧変化を模擬するための直流き電系統の電圧降下可視化装置であって、
前面に電圧値を示す目盛りとなる複数の横線が記されたボードと、
前記ボードの両側部の所定高さ位置に設けられた変電所を模擬する一対の係止手段と、
前記一対の係止手段間に張架されたき電線を模擬する1または2以上の伸縮可能な弾性紐と、
前記弾性紐の任意の位置に吊架可能なフックを備え電気車の力行運転時の電流値に対応する重さを有する重りと、を備えることを特徴とする直流き電系統の電圧降下可視化装置。
【請求項2】
前記ボードの前面に左右方向移動可能に接合される可動プレートと、当該可動プレートの前面に回転自在に装着された滑車と、一方の端にフックが結合され他方の端に電気車の回生電流値に対応する重さを有する重りが結合された糸状体とを備え、前記糸状体が当該糸状体の一方の端のフックが前記弾性紐に掛止された状態にて前記滑車に巻回されることで回生運転の電気車を模擬可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の直流き電系統の電圧降下可視化装置。
【請求項3】
前記可動プレートは、上部に前記ボードの上端縁に係合可能な係合部を備え、前記係合部が前記ボードの上端縁に沿って摺動することで左右方向へ移動可能に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の直流き電系統の電圧降下可視化装置。
【請求項4】
上部に前記弾性紐が係合可能な凹部を有し前記ボードの前面に装着可能であって、前記弾性紐を下方から押し上げることで電力貯蔵装置または変電所を模擬可能な駒を備えていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の直流き電系統の電圧降下可視化装置。
【請求項5】
前記ボードの両側部には鉛直方向に沿って一対のスリットが形成され、前記一対の係止手段は前記一対のスリットに高さ位置調整可能に係合されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の直流き電系統の電圧降下可視化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気鉄道における直流き電系統の電圧降下を可視化する直流き電系統の電圧降下可視化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道においては、列車の運行頻度に応じて沿線に適当な距離をおいて変電所が設けられている。
また、電気鉄道においては、変電所から電力の供給を受けるき電線に接触する車両のパンタグラフの電圧(以下、パンタ点電圧)が低下すると加速力が低下してしまうため、パンタ点電圧の低下を補償したり、電気車の回生ブレーキによって発生した回生電力のうち余剰電力を回収したりするために、充電式電池を内蔵した電力回収装置や電力貯蔵装置を設けることが行われている。なお、電力回収装置に関する発明としては、例えば特許文献1に記載されているものがある。
【0003】
また、鉄道事業者においては、地震等の災害発生時のリスク回避のために複数の変電所の内1つが脱落した場合においても列車の運行に必要なパンタ点電圧を確保するよう予め変電所間隔を調整してあるが、列車を増発する場合、き電電圧低下の著しい箇所の把握が必要である。そして、き電電圧降下の著しい場合は、変電所や電力貯蔵装置等の設備の追加設置を行うことがある。また、列車遅延が発生し1つの直流き電系統に多数の電気車が存在する事態が生じた場合、全列車が同時に力行運転を行うとパンタ点電圧が低下して、電気車の故障を発生させることにより列車の再起動を必要とし安定運行を妨げるおそれがあるため、指令担当者は走行可能な列車数を速やかに把握する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-180078号公報
【文献】特開2014-27737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の電力回収装置における充放電制御は、パンタ点電圧の如何にかかわらず、単にき電線の電流や電圧を検出して行うものであるため、頻繁に充放電の切替えが発生し電池にダメージを与えてしまい、装置寿命が低下するという課題がある。そのため、電力回収装置の充放電制御においては、パンタ点電圧の把握は重要である。
また、直流き電系統における電圧低下を把握する場合、1つの直流き電系統に複数の電気車が走行していると、き電線における電圧降下は複数の電気車に流れる電流による電圧降下を合算したものとなるため、列車分布に応じて複雑な計算を実行する必要があり、結果が得られるまでに時間を要するという課題がある。また、鉄道電気に詳しくない、輸送指令員などにも、電圧降下を視覚的に提示したいというニーズがある。
【0006】
さらに、直流き電系統を走行する電気車は、パンタ点電圧が例えば1700Vのような変電所送出電圧(約1600V)よりも高い電圧を超えると、回生電流の絞り込みを開始するという特性を有するので、パンタ点電圧が1700Vを超えないようにき電電圧を抑えることが回生エネルギーを有効利用するという観点から重要であり、そのような制御を行う際にも複雑な計算を行う必要がある。
なお、送電線路の電圧降下の算出を行う発明として、特許文献2に記載されているものがあるが、この発明は、電気鉄道のき電系統に関するものでなく、網状に張り巡らされた
電力供給用の送電網における線路電圧降下補償器の整定値の算出方法であり、本発明とは適用対象が異なるとともに、さらに複雑な計算式を用いて電圧降下の算出を行うようにしている。
【0007】
本発明は上記のような背景の下になされたもので、複雑な計算を行うことなく、電気鉄道における直流き電系統の電圧降下の大小を、視覚から得られる情報によって直感的に把握することできる直流き電系統の電圧降下可視化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、
変電所からの電力を供給するため軌道に沿って敷設された直流き電線における電気車のパンタグラフの接触点の電圧変化を模擬するための直流き電系統の電圧降下可視化装置において、
前面に電圧値を示す目盛りとなる複数の横線が等間隔で記されたボードと、
前記ボードの両側部の所定高さ位置に設けられた変電所を模擬する一対の係止手段と、
前記一対の係止手段間に張架されたき電線を模擬する1または2以上の伸縮可能な弾性紐と、
前記弾性紐の任意の位置に吊架可能なフックを備え電気車の力行運転時の電流値に対応する重さを有する重りと、を備えるようにしたものである。
【0009】
上記のような手段によれば、弾性紐(ゴム紐)に吊下した重りの変位量が力行運転時に流れる電流によるパンタ点の電圧降下量に対応し、複数の電気車が走行する際にはそれぞれの重りの変位量を合算したものがパンタ点の電圧降下量に対応するため、ボードに記されている目盛りの数値を読み取ることで電気車の位置のパンタ点電圧を知ることができる。そのため、複雑な計算を行うことなく、電気鉄道における直流き電系統の電圧降下の大小を、視覚から得られる情報によって直感的に把握することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記ボードの前面に左右方向移動可能に接合される可動プレートと、当該可動プレートの前面に回転自在に装着された滑車と、一方の端にフックが結合され他方の端に電気車の回生電流値に対応する重さを有する重りが結合された糸状体とを備え、前記糸状体が当該糸状体の一方の端のフックが前記弾性紐に掛止された状態にて前記滑車に巻回されることで回生運転の電気車を模擬可能に構成する。
かかる構成によれば、回生運転を行う電気車が走行している場合における回生電流によるパンタ点の電圧上昇量を直感的に把握することができる。
【0011】
さらに、望ましくは、前記可動プレートは、上部に前記ボードの上端縁に係合可能な係合部を備え、前記係合部が前記ボードの上端縁に沿って摺動することで左右方向へ移動可能に構成する。
かかる構成によれば、比較的簡単な構成で回生運転を行う電気車を模擬する部品を、一対の係止手段(係止ピン)間すなわち変電所間の任意の位置に移動させることができるようにし、それによってき電線に生じる電圧変化を把握することができる。
【0012】
また、望ましくは、上部に前記弾性紐が係合可能な凹部を有し前記ボードの前面に装着可能であって、前記弾性紐を下方から押し上げることで電力貯蔵装置または変電所を模擬可能な駒を備えるように構成する。
かかる構成によれば、変電所間に新たに電力貯蔵装置や変電所を増設することを検討する際に、増設に伴うき電線の電圧変化を検証することができ、増設位置の決定作業を支援することができる。
【0013】
また、望ましくは、前記ボードの両側部には鉛直方向に沿って一対のスリットが形成さ
れ、前記一対の係止手段は前記一対のスリットに高さ位置調整可能に係合されているように構成する。
かかる構成によれば、変電所の送出電圧が異なる複数の路線または変電所の送出電圧を変更した場合における直流き電系統の電圧降下を検証することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複雑な計算を行うことなく、電気鉄道における直流き電系統の電圧降下の大小を、視覚から得られる情報によって直感的に把握することできる直流き電系統の電圧降下可視化装置を実現することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る直流き電系統の電圧降下可視化装置の第1の実施例を示す斜視図である。
図2】(A)は実施例の電圧降下可視化装置を構成するボードに止着されゴム紐を係止する係止ピンの形状を示す拡大図、(B)は回生電車を模擬する部品のボードへの取付け構造の具体例を示す拡大図である。
図3】(A)は直流き電系統の等価回路、(B)は実施例の電圧降下可視化装置をモデル化したものを示す説明図である。
図4】実施例の電圧降下可視化装置の使用方法を示すもので、(A)は3列車走行、電力貯蔵装置運休時の模擬状態を示す説明図、(B)は3列車走行時に電力貯蔵装置を放電動作させたときの模擬状態を示す説明図である。
図5】実施例の電圧降下可視化装置の他の使用方法を示すもので、(A)は2列車走行、電力貯蔵装置運休時に一つの列車が回生電流を流すときの模擬状態を示す説明図、(B)は回生電流が流れている時に電力貯蔵装置を充電動作させた場合の模擬状態を示す説明図である。
図6】本発明に係る直流き電系統の電圧降下可視化装置の第2の実施例を示す斜視図である。
図7】第1実施例および第2実施例の電圧降下可視化装置における付属部品としてのクリップとその使用状態を示す拡大斜視図および側面図である。
図8】第2実施例の電圧降下可視化装置の使用方法を示すもので1つのき電系統区間に多数の列車が走行している時もしくは中間変電所が運休した時の模擬状態を示す説明図である。
図9】第2実施例の電圧降下可視化装置の使用方法を示すもので既設の2つの変電所の中間地点に変電所を増設した場合の模擬状態を示す説明図である。
図10】第2実施例の電圧降下可視化装置の使用例を示すもので既設の2つの変電所の間に電力貯蔵装置と変電所を増設した場合の模擬状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る直流き電系統の電圧降下可視化装置の実施形態について説明する。図1は、本発明の電圧降下可視化装置の第1実施例の構成を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施例の直流き電系統の電圧降下可視化装置10は、例えばプラスチックのような軽量の材料で形成された長方形状のボード11と、該ボード11を垂直姿勢に支持するためのスチール製のスタンド12とを備える。スタンド12は、水平なプレート部12Aと、該プレート部12Aの上面から垂直に起立する横長のフランジ部12Bとを有し、該フランジ部12Bに上記ボード11の下端部が複数のビス13によって結合されている。ボード11の前面には、き電線に印加される電圧の大きさ(電位)を表わす目盛りとなる横線L1,L2,……Lnが等間隔で印刷され、その側部には電圧の値を示す1800V,1700V,……900Vのような数字が印字されている。
【0017】
上記ボード11の両側部の、変電所の送出電圧である1620Vの横線の高さ位置には変電所(より具体的には整流器・整流器用変圧器もしくは電力貯蔵装置)を模擬する係止ピン13A,13Bがそれぞれ止着されている。この係止ピン13A,13Bには、それぞれ所定の弾性係数を有し、既設のき電線を模擬する2本のゴム紐14A,14Bの両端が係止され、係止ピン13A,13B間にゴム紐14A,14Bが弛みのない状態で張架されている。ゴム紐14A,14Bは、検証対象のき電系統に使用されているき電線の種類(太さ、許容電流等)に応じて弾性係数および張力が決定される。
【0018】
既存の電気鉄道において使用されているき電線、トロリ線およびレールは、ほぼ種類が決まっているので予め使用するゴム紐の特性を決定しておくことができる。2本のゴム紐14A,14Bを張架しているのは、上り線と下り線の状況を同時に検証できるようにするためである。また、異なる種類のゴム紐を張架しておいて、き電線の種類が異なる路線のき電線を模擬できるようにしても良い。さらに、汎用性を持たせるため、想定されるき電線の種類に応じて、複数種類(3種類以上)の張力のゴム紐を用意しておくようにしても良い。
【0019】
本実施形態の電圧降下可視化装置は、ゴム紐14Aまたは14Bの任意の位置に、力行運転中の電気車を模擬する重り15Aを複数個備えている。重り15Aの重量は電気車のモータが力行運転時に消費する負荷電流の大きさに相当するもので、上部にフック15aを有するとともに本体部に空洞部(ポケット)15bを有し、1列車を編成する車両数や力行ノッチ段数が異なると負荷電流の大きさも異なるため、該空洞部15bに金属球を投入もしくは取り出すことで重量すなわち負荷電流の大きさを調整できるように構成されている。重り15Aの本体部の前面には、車両のイラストを印刷しておくことで、列車を模擬する部品であることを直感的に認識できるようにすると良い。
【0020】
係止ピン13A(13B)は、図2(A)に示すように、後端部に雄ネジが形成されたネジ部13a(13b)を有し、このネジ部13a(13b)をボード11に形成されている貫通孔11a(11b)に挿通し、ナットNを螺合して締め付けることで固定される。そして、係止ピン13A(13B)の前端側の外周には、2条のリング状の溝13cが形成されており、各溝13cにゴム紐14A,14Bの端部を周回させて結び目を設けることで係止されるように構成されている。なお、貫通孔11a,11bを鉛直方向の長穴とし、係止ピン13A,13Bを固定する位置(高さ)を調整可能にしてもよい。これは、変電所の送出電圧を調整できることを意味する。
【0021】
また、ボード11の係止ピン13Aと13Bとのほぼ中間位置には、鉛直方向のスリット11cが形成され、該スリット11cには、前面視で上向きの三角形をなす抑え駒16Aと、前面視で下向きの三角形をなす抑え駒16B(図示略)とが上下方向スライド可能に装着されている。抑え駒16A(16B)は、図2(B)に示すように、後端面に形成された雌ネジに螺合可能なローレットネジ16a(16b)を有し、ローレットネジ16a(16b)をボード11に形成されているスリット11cに挿通し、抑え駒16A(16B)の後端面の雌ネジに螺合させてツマミを回して締め付けることで固定される。
【0022】
そして、抑え駒16A(16B)の頂点には、溝16cが形成されており、この溝16cにゴム紐14Aまたは14Bが係合可能にされ、これによって抑え駒16A,16Bは、その固定高さ位置が適宜設定されることで、変電所を模擬可能な部品として機能するように構成されている。なお、溝16cは、2本のゴム紐14A、14Bを同時に係合させることができる幅を有するように形成しても良い。
【0023】
さらに、本実施形態の電圧降下可視化装置は、図1に示すように、ボード11の前面に接合された縦長の可動プレート17を備えている。この可動プレート17は、下端部にス
タンド12の水平プレート部12Aの上面に接合する折曲片17aを有するとともに、ボード11の上端に沿って水平方向に形成されたスリット11dに係合可能なローレットネジ17bを上端部に有しており、ボード11の前面に沿って左右方向に移動可能に構成されている。
【0024】
そして、可動プレート17の前面上部には滑車18が回転自在に装着されているとともに、該滑車18には一端にフック19aが止着され他端に電気車を模擬する重り15Bが止着されたワイヤ19が巻回されており、フック19aがゴム紐14Aまたは14Bに下方から掛止されることで、上向きの力をゴム紐に付与することができるように構成されている。ワイヤ19に止着された重り15Bもポケットを有しており、該ポケットには電気車の制動時に流れる回生電流の大きさに相当する重量の金属球が投入可能に構成されている。これにより、可動プレート17の前面の重り15Bは、回生中の電気車を模擬する部品として機能することができる。
【0025】
次に、ゴム紐14A,14Bと重り15A,15Bを利用した上記実施例の電圧降下可視化装置が、直流き電系統の電圧降下を機械的に模擬できる理由について、図3(A),(B)を用いて説明する。このうち、図3(A)は直流き電系統の等価回路を、(B)は実施例の電圧降下可視化装置をモデル化したものを示す。
図3(A),(B)に示されている記号のうち、E1,E2は変電所A,Bの送出電圧、Lは変電所A,B間距離、Vは変電所A,B間を走行する電気車のパンタ点電圧、xは変電所Aから電気車までの距離、Fは重りW(15A)の重量、h1,h2は重りW(15A)の垂直変位量、Tはゴム紐14A,14Bの張力を表わす。
図3(A)の等価回路における負荷電流Iは、次式(1)
【数1】
で表わされる。
【0026】
一方、図3(B)の機械モデルでは、一方の端と他方の端からの張力T’の合力の垂直成分が重りWの荷重を負担するので、以下の式(2)~(5)のような関係式が得られる。
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
ここで、kはゴム紐のバネ定数、L0はゴム紐の自然長、L1,L2はそれぞれ支点からのゴム紐の長さである。
【0027】
上記式(5)は変数hの関数であり、式(5)をhで微分すると、次式(6)
【数6】
が得られる。また、h1,h2<<x,h1,h2<<(L-x)の関係が成り立つ範囲では、式(6)は次式(7)
【数7】
のように、変形することができる。
【0028】
また、重りを吊るした後のゴム紐の張力T’は、変数hが充分に小さい範囲では、L’=L+(dL’)/dh×hの関係となることから、T’は式(4)と式(7)より、次式(8)
【数8】
で表わされる。ここで、式(8)を式(2)に代入し、近似式sinθ1≒tanθ1=h1/x,sinθ2≒tanθ2=h2/(L-x)を利用して式を変形すると、次式(9)のようになる。
【数9】
ここで、h2,h2,h12よりも高次の項を無視すると、次式(10)
が得られる。
【数10】
【0029】
上記式(10)と式(1)とを対比すると、図3(A)の等価回路における物理量と図3(B)の機械モデルにおける物理量は、表1に示すような対応関係にあることが分かる。
【表1】
【0030】
次に、上記実施例の電圧降下可視化装置の具体的な使用方法について、図4図5を用いて説明する。
図4(A)は、中間の電力貯蔵装置が作動していない状況で、変電所A,B(係止ピン13A,13B)間において、3台の列車が力行運転された場合を上記実施例の電圧降下
可視化装置で模擬した場合の一例を表わす。図4(A)においては、3台の列車のパンタ点電圧Vp1,Vp2,Vp3は変電所A側から順に、1260V,1140V,1260Vである。ここで、路線における規制電圧(維持すべき最低電圧)が例えば1200Vであったとすると、図4(A)では、中間の列車のパンタ点電圧Vp2が規定値(規制電圧)以下になってしまうので、この状態で変電所A,B間に在線している3台の列車を同時に走行(力行運転)させることはできない。
【0031】
そこで、放電電圧が例えば1300Vである電力貯蔵装置を作動させた場合を想定して、抑え駒16Bの上部の溝にゴム紐14Aまたは14Bを係合させると、図4(B)に示すように、抑え駒16Bによってゴム紐14Aまたは14Bが押し上げられて、パンタ点電圧Vp2が1200Vとなる。従って、電力貯蔵装置を放電させることで、変電所A,B間に在線している3台の列車を同時に走行(力行運転)させることが可能になることが分かる。
【0032】
一方、変電所A,B間に在線している列車が回生制動を実行すると、図5(A)に示すように、ゴム紐14Aまたは14Bが押し上げられる。ここで、変電所の送出電圧が1620Vである場合に、回生運転可能な電気車にはパンタ点電圧が1750Vを超えると、車両の過電圧保護のため回生電流の絞り込みが行われる。その場合、回収可能なエネルギー量が減少して無駄が発生することとなる。
このような場合でも、変電所A,B間に設けられている電力貯蔵装置に充電を実行させれば、図5(B)に示すように、変電所A,B間を走行している列車で回生運転を行なってもパンタ点電圧が1750Vを超えないようにすることができ、それによって回生電流の絞り込みが実施されるのを回避することができることが分かる。上記実施例の電圧降下可視化装置によれば、そのような状況を机上で容易に検証することができる。
【0033】
次に、本発明に係る電圧降下可視化装置の第2実施例について、図6図7を用いて説明する。図6は第2実施例の電圧降下可視化装置の構成を示す斜視図である。図6において、図1に示す第1実施例の電圧降下可視化装置と同一もしくは相当する部位には同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0034】
図6に示すように、第2実施例の電圧降下可視化装置10においては、可動プレート17の上部に、ボード11の上端縁に係合可能な断面コの字状をなす係合部17cが設けられており、この係合部17cをボード11の上端縁に係合させることによって、可動プレート17がボード11の前面に沿って左右方向に移動可能に構成されている。また、ボード11の左右両側部に、鉛直方向のスリット17e,17fが形成され、該スリット17e,17fに係止ピン13A,13Bの後端のネジ部13a,13b(図2)が挿通され、係止ピン13A,13Bを任意の高さ位置に固定できるように構成されている。これにより、変電所の送出電圧を調整することができ、送出電圧の異なる路線についても検証を行うことができる。
【0035】
また、本実施例の電圧降下可視化装置においては、既設の変電所A,B間に新たな変電所を設置した場合におけるき電系統の電圧降下を検証することができるようにするため、変電所を模擬する変電所模擬装置30が設けられている。この変電所模擬装置30は、ボード11の前面に接合するためのL字形の支持プレート31と、該支持プレート31の下端に一端(上端)が結合されたコイルバネ32と、コイルバネ32の他端(下端)に連結された上向きの三角形状をなす押し上げ駒33とを備える。押し上げ駒33の上部には、図2(A)の抑え駒16A(16B)と同様に、ゴム紐14A,14Bが係合可能な溝が形成されている。なお、押し上げ駒33は、ゴム紐14A,14Bとの干渉を防止するため、釣り糸の素材のような引っ張り強度の高い材質からなる糸34を使用して、コイルバネ32の下端より垂下されるように構成すると良い。
【0036】
また、支持プレート31には鉛直方向のスリット31aが形成されており,このスリット31aにローレットネジ35のネジ部が挿通され、ボード11に設けられている貫通孔(図示省略)を貫通して、先端にナットが螺合されることで着脱可能に構成されている。このように、支持プレート31にスリット31aを設けることで、押し上げ駒33の高さ位置を調整することができる。なお、ボード11に設けられているローレットネジ貫通孔の代わりに、図1に示すような水平方向のスリット(11d)を形成することで、中間の変電所の位置(変電所AまたはBからの距離)を変えられるように構成しても良い。
【0037】
本実施例の電圧降下可視化装置10において、上記のように、コイルバネ32を介してゴム紐を持ち上げるための押し上げ駒33を垂下している理由は、変電所の直流電圧は電力系統の内部インピーダンス、整流器用変圧器のインピーダンスおよびダイオードの電圧降下により、負荷に供給する電流の大きさにほぼ比例して低下するという現象があるので、その関係を可視化できるようにするためである。
【0038】
さらに、第2実施例の電圧降下可視化装置10においては、図7(A),(B)に示すように、2本のゴム紐14A,14Bを拘束可能なクリップ36が付属品として用意されている。変電所では、き電線が複数回線(典型的な例では4回線)あるが、それぞれの電圧は、通常は直流母線を経由して均圧化されている。そのため、上記のようなクリップ36を用意しておくことで、既設変電所の中間点に新たに変電所や電力貯蔵装置を設置する場合には、上り線と下り線を模擬するゴム紐14A,14Bの同じ位置にクリップ36を取り付けて両者を拘束することで、上下線間の電流融通を模擬した状態でのき電系統の電圧降下を検証することができる。このクリップ36は、前記第1実施例においても利用可能である。
【0039】
次に、第2実施例の電圧降下可視化装置10の具体的な使用方法について、図8図10を用いて説明する。
図8は、途中に既設の変電所A,B(係止ピン13A,13B)間において、5台の列車が力行運転された場合を上記実施例の電圧降下可視化装置で模擬した場合の一例を表わす。図8では、中央の列車のパンタ点電圧Vp3が規定値以下になってしまうので、図9のように変電所A,Bのほぼ中間位置に変電所Cを増設したとする。しかし、それでも例えば変電所A,C間に3台の列車が同時に走行(力行運転)したとすると、パンタ点電圧Vp2が規定値以下になってしまう。そこで、図10に示すように、変電所A,Bを3分割した位置に、電力貯蔵装置Dと変電所Cを増設したとすると、変電所A-電力貯蔵装置D間で3台の列車が同時に走行(力行運転)したとしてもいずれのパンタ点電圧も規定値以下になることはないことが分かる。第2実施例の電圧降下可視化装置を使用することで、上記のような検証を容易かつ短時間に行うことができる。
【0040】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、係止ピン13A,13B間に2本のゴム紐14A,14Bを張架した実施例について説明したが、単線区間を模擬するため1本のゴム紐を張架した構成とすることも可能である。紐14A,14Bはゴム製のものに限定されず、比較的伸び率の大きいものであれば、他の素材で形成されたものであっても良い。
また、前記実施形態では、重り15A,15Bの重量をポケット部に入れる金属球の数で調整すると説明したが、重り15A,15Bの重量を固定とし、下端にフックを係止可能な係止部を設けて複数の重りを連続して吊下できる構成としても良い。電力貯蔵装置を模擬する抑え駒16A,16Bおよびそれを装着するためのスリット11cを省略して簡易型の電圧降下可視化装置として構成することも可能である。
【0041】
また、前記実施形態では、可動プレート17の前面に滑車18を設けているが、図6の可動プレート17上端の係合部17cの上に回転軸がボード11と平行となるように滑車18を設けても良い。この場合、重り15Bはボード11の背部に垂下されることとなるが、例えばボード11を透明なアクリル板等で構成することで、重り15Bが前面側から見えるようにすることができる。また、実施例では、ボード11の前面に、電圧値を示す目盛りとなる複数の横線を等間隔で記しているが、等間隔でなくても良い。
【0042】
さらに、前記実施形態では、既設の変電所間に新たに変電所や電力貯蔵装置を増設した場合におけるき電系統の電圧降下を検証する例について説明したが、本発明に係る電圧降下可視化装置は既設の電力貯蔵装置を変電所に置き換えた場合におけるき電系統の電圧降下等を検証する際にも利用することができる。
また、本発明は、1つの変電所から電力を送出する片送りのき電区間について電圧降下を視覚化する場合にも利用することが可能である。具体的には、片送りのき電区間の場合、一方の変電所から着目する電気車までの距離xの2倍の距離の位置に仮想変電所を模擬する係止ピンを配置するとともに、電気車の負荷電流の2倍に相当する重りを吊り下げることで電圧降下を視覚化することができる。あるいは、可動プレート17に変電所を模擬する係止ピン(13Aまたは13Bに相当)を設けたものを使用して仮想変電所を模擬させて、電圧降下を視覚化させることも可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 電圧降下可視化装置
11 ボード
12 スタンド
13A,13B 係止ピン(変電所模擬部品)
14A,14B ゴム紐(き電線模擬部品)
15A,15B 重り(電気車模擬部品)
15a フック
16A,16B 抑え駒(電力貯蔵装置模擬部品)
17 可動プレート
18 滑車
30 変電所模擬装置
A,B 変電所
W 重り
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10