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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用負極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20221003BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221003BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20221003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221003BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20221003BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221003BHJP
   C01B 33/02 20060101ALN20221003BHJP
   C01B 32/05 20170101ALN20221003BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/48
H01M4/13
C01B33/02 Z
C01B32/05
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018528362
(86)(22)【出願日】2018-04-26
(86)【国際出願番号】 JP2018017085
(87)【国際公開番号】W WO2018199265
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-03-05
(31)【優先権主張番号】P 2017090769
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】孫 仁徳
(72)【発明者】
【氏名】野里 省二
(72)【発明者】
【氏名】中壽賀 章
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-131324(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052407(WO,A1)
【文献】特開2017-059398(JP,A)
【文献】特開2014-183043(JP,A)
【文献】特開2006-221830(JP,A)
【文献】特開2013-219023(JP,A)
【文献】特開2012-254899(JP,A)
【文献】特表2016-526262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
C01B 33/02
C01B 32/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質の表面に、アモルファスカーボンを含む被覆層を有するリチウムイオン電池用負極活物質であり、
前記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、13C固体NMRで測定されるsp2成分に由来するピークと、sp3成分に由来するピークとの比が1以上であり、
水酸基と結合を有する芳香族炭素に由来するピークと、sp2成分に由来するピークとの比が0.2以下であり、
被覆層は、窒素含有量が0~5重量%(但し、0重量%は除く)である
ことを特徴とするリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項2】
ゼータ電位が0~-60mVであることを特徴する請求項1記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項3】
被覆層を構成するアモルファスカーボンは、オキサジン樹脂が含有するカーボンに由来するものであることを特徴する請求項1又は2記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項4】
オキサジン樹脂は、ナフトオキサジン樹脂であることを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項5】
被覆層を構成するアモルファスカーボンは、ラマン分光で測定した場合のGバンドとDバンドのピーク強度比が1.0以上であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項6】
被覆層は、窒素含有量が0.05~5重量%であることを特徴する請求項1、2、3、4又は5記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項7】
被覆層は、平均膜厚が0.5nm~1.0μmであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項8】
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって被覆層を測定した場合、ベンゼン環に由来する質量スペクトル、及び、ナフタレン環に由来する質量スペクトルのうち少なくとも1つが検出されることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項9】
X線回折法によって被覆層を測定した場合、2θが26.4°の位置にピークが検出されないことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項10】
X線回折法によって被覆層を測定した場合、2θが36°の位置にピークが検出されないことを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項11】
負極活物質は、ケイ素含有化合物であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項12】
負極活物質は、平均粒子径が10~200nmの粒子形状であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又は11記載のリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項13】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載のリチウムイオン電池用負極活物質と、炭素材料と、導電助剤と、バインダーとを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項14】
バインダーは、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、アクリル樹脂及びブチラール樹脂からなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項13記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項15】
請求項13又は14記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項16】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載のリチウムイオン電池用負極活物質を製造する方法であって、
ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンを含有する混合溶液を調製する工程と、負極活物質を前記混合溶液に添加し、反応させる工程と、熱処理する工程とを有することを特徴とするリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法。
【請求項17】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11又は12記載のリチウムイオン電池用負極活物質を製造する方法であって、
トリアジン及びジヒドロキシナフタレンを含有する混合溶液を調製する工程と、負極活物質を前記混合溶液に添加し、反応させる工程と、熱処理する工程とを有することを特徴とするリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電時の体積膨張や収縮に対する負極活物質への密着性及び追随性が高く、導電助剤、バインダー及び集電体との接触性及び密着性に優れるとともに、電解液の分解抑制効果が高いことから、優れたサイクル特性及びレート特性に加えて高いクーロン効率を実現することが可能なリチウムイオン電池用負極活物質に関する。また、当該リチウムイオン電池用負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、並びに、リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯型電子機器をはじめ様々な電子・電気機器に利用されている。リチウムイオン二次電池は、正極集電体/正極/セパレータ/負極/負極集電体の基本構造を有し、正極と負極はリチウムをインターカレーションし得る材料が使用されている。
負極材料の活物質としては、炭素材料、特に黒鉛(理論容量:372mAh/g)が一般的に利用されている。しかし、電子機器の更なる小型化や電気自動車およびエネルギー貯蔵システムへ応用するためには、理論容量のより高い負極材料が必要になる。
【0003】
黒鉛より理論容量の高い負極活物質としては、Al、Sn、Sb、Si等のLiと合金化可能な金属及びその合金系の材料が知られている。この中でも、Siが、リチウム貯蔵容量が特に大きく、その理論容量が4200mAh/gに達することが報告されている。
しかし、シリコンを負極活物質として用いる場合に、リチウムの挿入と脱離に伴う体積膨張及び収縮が大きいため(>300%)、充放電の繰返しにより活物質が崩壊し、電池のサイクル安定性が非常に悪いことが知られている。
【0004】
また、非特許文献1には、上記シリコンの崩壊は、従来のマイクロメートルオーダーの大きいシリコン粒子の代りに、150nm以下のナノ粒子を用いることにより回避できると報告されているが、充放電時の体積膨張および収縮は依然として存在するため、根本的な解決に至っていない。充放電時の体積膨張および収縮は非弾性変形であるため、シリコンナノ粒子を用いても、充放電の繰返しによって、シリコン粒子同士の接触や導電助剤との接触が不良になり、サイクル特性が悪くなる。
シリコン負極のサイクル特性を高める対策の一つとして、シリコン粒子への炭素被覆が有効であることが報告されている。例えば、特許文献1には、炭素被膜とシリコン粒子との界面に少なくとも一部に炭化シリコン層を形成された炭素被覆シリコン粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-75325号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Xiao Hua Liuら、“Size-Dependent Fracture of Silicon Nanoparticles During Lithiation”、VOL. 6 、NO. 2 、1522-1531 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示した炭化シリコン中間層を有する炭素被覆シリコン粒子は、炭化シリコンが硬くて脆いため、表面被覆炭素層の密着性の低下を引き起こす恐れがあることに加え、炭化シリコンが絶縁性であるため、内部抵抗の増加にもつながるという課題があった。その結果、電池特性の改善効果は限定的であった。
更に、リチウムイオン電池では、充放電(特に初期の充放電)する際に、活物質の表面付近で電解液が分解して、LiO、LiCO及びLiF等の不溶性の塩が活物質の表面に析出する。その結果、活物質の表面にSolid Electrolyte Interphase(SEI)膜が形成されることがあった。
このようなSEI膜は電気的に絶縁性であるため、負極表面の活性サイトが不活性化(パシベーション、Passivation)され、電解液の更なる分解が抑制される。リチウムイオン電池では、適度なSEI膜の形成は安定な電池特性の確保に重要な役割を働いているが、不均一な析出や過度な析出は電池特性の低下を引き起こすという問題があった。
特に、負極は正極に比べて電位が低く、電解液の分解が更に起こりやすいという課題があるため、このような課題を解決可能な負極活物質が求められていた。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、充放電時の体積膨張や収縮に対する負極活物質への密着性及び追随性が高く、導電助剤、バインダー及び集電体との接触性及び密着性に優れ、電解液の分解抑制効果が高いことから、優れたサイクル特性及びレート特性に加えて高いクーロン効率を実現可能なリチウムイオン電池用負極活物質を提供することを目的とする。また、当該リチウムイオン電池用負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、並びに、リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、負極活物質の表面に、アモルファスカーボンを含む被覆層を有するリチウムイオン電池用負極活物質であり、前記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、13C固体NMRで測定されるsp2成分に由来するピークと、sp3成分に由来するピークとの比が1以上であり、水酸基と結合を有する芳香族炭素に由来するピークと、sp2成分に由来するピークとの比が0.2以下であるリチウムイオン電池用負極活物質である。
以下、本発明を詳述する。
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、負極活物質の表面に所定の樹脂由来のカーボンからなり、所定の物性を有する被覆層を形成することで、充放電時の体積膨張や収縮に対する負極活物質への密着性及び追随性が高く、導電助剤、バインダー及び集電体との接触性及び密着性に優れたリチウムイオン電池用負極活物質となることを見出した。更に、電解液の分解抑制効果が高いことから、優れたサイクル特性及びレート特性に加えて高いクーロン効率を実現することが可能なリチウムイオン電池用負極活物質とすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質は、負極活物質の表面に、アモルファスカーボンを含む被覆層を有する。
【0012】
上記負極活物質としては、リチウムイオンを挿入・脱離することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、ケイ素、ケイ素含有化合物、ケイ素含有合金、スズ、スズ含有合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、グラファイト等の炭素系材料を挙げることができる。
【0013】
上記負極活物質は、Li/Liに対して、0.0V以上、2.0V未満でリチウムイオンの挿入・脱離反応が進行するものであることが好ましい。
上記「リチウムイオンの挿入反応が0.0V(vs.Li/Li)以上、2.0V(vs.Li/Li)未満で進行する」とは、負極活物質へのリチウムイオン挿入が2.0V(vs.Li/Li)未満で開始し、0.0V(vs.Li/Li)以上で終了することを意味する。
また、「リチウムイオンの脱離反応が、0.0V(vs.Li/Li)以上、2.0V(vs.Li/Li)未満で進行する」とは、負極活物質からのリチウムイオン脱離が0.0V(vs.Li/Li)以上で開始し、2.0V(vs.Li/Li)未満で終了することを意味する。
【0014】
リチウムイオンの挿入・脱離反応が、0.0V(vs.Li/Li)以上、2.0V(vs.Li/Li)未満で進行する負極活物質としては、例えば、金属、金属化合物、有機物が挙げられる。
上記金属としては、リチウムイオンと反応し、合金化できるものであれば限定されず、Li、Mg、Ca、Al、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Ti等が挙げられる。なかでも、体積エネルギー密度及び重量エネルギー密度の観点から、Li、Al、Si、Ge、Sn、Ti、Pbが好ましく、Li、Si、Sn、Tiがより好ましい。また、リチウムイオンとの反応性がより一層高いことから、Si又はSnがさらに好ましい。上記金属は、単独で用いてもよいし、上記金属が2種類以上含まれる合金でもよい。また、2種類以上の金属を混合したものでもよい。また、安定性をより一層向上させるために、上記金属以外の金属を含む合金や、PやBなどの非金属元素がドープされたものでもよい。
【0015】
上記金属化合物としては、金属酸化物、金属窒化物又は金属硫化物が例示される。安定性をより一層高める観点から、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、リチウムイオンとの反応性がより一層高いことから、シリコン酸化物、スズ酸化物、チタン酸化物、タングステン酸化物、ニオブ酸化物、又はモリブデン酸化物が好ましい。
上記金属酸化物は、単独で用いてもよいし、2種類以上の金属で構成される合金の酸化物であってもよい。2種類以上の金属酸化物を混合したものであってもよい。さらに、安定性をより一層向上させるために、異種金属や、PやBなどの非金属元素がドープされていてもよい。
上記チタン酸化物の場合は、チタン酸リチウム、HTi1225も含まれる。
また、上記負極活物質としては、ケイ素含有化合物が好ましい。上記ケイ素含有化合物としては、Si、シリコン含有合金、シリコン酸化物等が挙げられる。
【0016】
上記負極活物質の形状としては、例えば、粒子状、薄片状、繊維状、管状、板状、多孔質状等が挙げられるが、粒子状、薄片状であることが好ましい。
また、上記負極活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は好ましい下限が0.001μm(1nm)、より好ましい下限が0.005μm(5nm)、更に好ましい下限が0.01μm(10nm)、好ましい上限が40μm、より好ましい上限が10μm、更に好ましい上限が1μm、特に好ましい上限が0.2μm(200nm)である。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質は、アモルファスカーボンを含む被覆層を有する。このような被覆層を有することで、充放電時の体積膨張や収縮に対する負極活物質への密着性及び追随性が高いことから、負極活物質の形状変化に対する安定化効果を発揮し、導電助剤やバインダーとの接着性及び密着性に優れたものとなる。その結果、充放電時に集電体との間にクラックや剥離が生じにくく、良好な充放電サイクル安定性を実現することができる。
また、負極活物質表面の活性サイトが被覆によって不活性化されることで、電解液の分解が抑えられるため、リチウムイオン電池用負極活物質の表面における不溶性塩の析出量を大幅に低減し、過度なSEI膜の形成に伴う電池特性の低下を防止することができる。
加えて、上記被覆層は、高温焼成プロセスを必要とせず、簡易なプロセスで作製することができる。
【0018】
上記被覆層は、負極活物質の表面の少なくとも一部に形成されていてもよく、負極活物質の表面全体を被覆するように形成されていてもよい。被覆効果をより一層発揮するためには、上記被覆層は、負極活物質の表面全体を連続で、均一に被覆するように形成されていることが好ましい。
【0019】
上記被覆層は、緻密性が高いことがより好ましい。本発明では、緻密性の高い被覆層が形成されることで、充放電時に電解液の分解を引き起こす表面活性サイトを効率よく不活性化させることができる。
なお、緻密な被覆層としての“緻密性”の厳密な定義はないが、本発明では、高解像度の透過電子顕微鏡を用いて一個一個のナノ粒子を観察した時に、図1のように、粒子表面の被覆層がはっきり観察され、かつ、被覆層が連続に形成されていることを“緻密”と定義する。
上記被覆層は、負極活物質の表面全体を連続で、均一に形成されると同時に、被覆膜中に分子レベルの細孔(細孔径が1nm以下)を有することが好ましい。このような分子レベルの細孔を有することにより、充放電時にリチウムイオンが被覆膜を自由に通すことができる。
【0020】
上記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、13C固体NMRで測定されるsp2成分に由来するピークと、sp3成分に由来するピークとの比(sp2成分に由来するピーク/sp3成分に由来するピーク)が1以上である。
上記アモルファスカーボンを13C固体NMRで測定した場合、sp2成分に由来するピーク(100~140ppm)、sp3成分に由来するピーク(0~100ppm)、水酸基と結合を有する芳香族炭素に由来するピーク(140~160ppm)が明確に観察される。本発明では、特にsp2成分に由来するピークと、sp3成分に由来するピークとの比が1以上であることで、被覆層が適度な柔軟性を有し、負極活物質への密着性と追従性が優れることとなる。
上記ピークの比は1.2以上であることが好ましく、100以下であることが好ましい。
なお、上記芳香族炭素とは、「芳香環を構成する炭素」であることを意味する。
【0021】
また、上記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、13C固体NMRで測定される水酸基と結合を有する炭素に由来するピークと、sp2成分に由来するピークとの比(水酸基と結合を有する芳香族炭素に由来するピーク/sp2成分に由来するピーク)が0.2以下である。
本発明では、特に水酸基と結合を有する芳香族炭素に由来するピークと、sp2成分に由来するピークとの比が0.2以下であることで、高い炭化率を有する被覆層が得られることとなる。
上記ピークの比は0.15以下であることが好ましい。上記ピークの比の下限は特に限定されないが0.0001である。
【0022】
上記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、sp2結合とsp3結合が混在したアモルファス構造を有し、炭素からなるものであるが、ラマンスペクトルを測定した場合のGバンドとDバンドのピーク強度比が1.0以上であることが好ましい。
上記アモルファスカーボンをラマン分光で測定した場合、sp2結合に対応したGバンド(1580cm-1付近)及びsp3結合に対応したDバンド(1360cm-1付近)の2つのピークが明確に観察される。なお、炭素材料が結晶性の場合には、上記の2バンドのうち、何れかのバンドが極小化してゆく。例えば、単結晶ダイヤモンドの場合は1580cm-1付近のGバンドが殆ど観察されない。一方、高純度グラファイト構造の場合は、1360cm-1付近のDバンドが殆ど現れない。
本発明では、特にGバンドとDバンドのピーク強度比(Gバンドでのピーク強度/Dバンドでのピーク強度)が1.0以上であることで、形成されたアモルファスカーボン膜の柔軟性が優れることとなる。
上記ピーク強度比が1.0未満であると、膜の柔軟性が不十分であることだけではなく、膜の密着性及び膜強度も低下することとなる。
上記ピーク強度比は1.2以上であることがより好ましく、10以下であることが好ましい。
上記被覆層は、カーボン以外の元素を含有しても良い。カーボン以外の元素としては、例えば、窒素、水素、酸素等が挙げられる。このような元素の含有量は、カーボンとカーボン以外の元素との合計に対して、10原子%以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質は、ゼータ電位(表面電位)が0~-60mVであることが好ましい。
上記範囲内とすることで、電極作製時の分散性が優れることに加え、導電助剤、バインダー及び集電体との密着性をより一層向上させることが可能となる。
なお、上記ゼータ電位は、例えば、市販の顕微鏡電気泳動式ゼータ電位計(日本ルフト社製、M502)を用いて測定することができる。
【0024】
上記被覆層を構成するアモルファスカーボンは、オキサジン樹脂が含有するカーボンに由来するものであることが好ましい。上記オキサジン樹脂は低温で炭化が可能であることから、コストを低減することが可能となる。
上記オキサジン樹脂は、一般にフェノール樹脂に分類される樹脂であるが、フェノール類とホルムアルデヒドに加えて、さらにアミン類を加えて反応させることで得られる熱硬化樹脂である。なお、フェノール類において、フェノール環にさらにアミノ基があるようなタイプ、例えば、パラアミノフェノールのようなフェノールを用いる場合には、上記反応でアミン類を加える必要はなく、炭化もしやすい傾向にある。炭化のしやすさでは、ベンゼン環ではなく、ナフタレン環を用いることで、さらに炭化がしやすくなる。
【0025】
上記オキサジン樹脂としては、ベンゾオキサジン樹脂、ナフトオキサジン樹脂があり、このうち、ナフトオキサジン樹脂は、最も低温で炭化しやすいため好適である。以下にオキサジン樹脂の構造の一部として、ベンゾオキサジン樹脂の部分構造を式(1)に、ナフトオキサジン樹脂の部分構造を式(2)に示す。
このように、オキサジン樹脂とは、ベンゼン環又はナフタレン環に付加した6員環をもつ樹脂のことをさし、その6員環には、酸素と窒素が含まれ、これが名前の由来となっている。
【0026】
【化1】
【0027】
上記オキサジン樹脂を用いることにより、エポキシ樹脂等の他の樹脂に比べてかなり低温でアモルファスカーボンの皮膜を得ることが可能となる。具体的には200℃以下の温度で炭化が可能である。特に、ナフトオキサジン樹脂を用いることで、より低温で炭化させることができる。
このように、オキサジン樹脂を用いて、より低温で炭化させることにより、アモルファスカーボンを有し、緻密性の高い被覆層を形成することができる。
アモルファスカーボンを有し、緻密性の高い被覆層を形成できる理由については明らかではないが、例えば、オキサジン樹脂としてナフトオキサジン樹脂を使用した場合、樹脂中のナフタレン構造が低温加熱によって局部的に繋がり、分子レベルで層状構造が形成されるためであると考えられる。上記層状構造は、高温処理されていないため、グラファイトのような長距離の周期構造までは進展しないため、結晶性は示さない。
得られたカーボンが、グラファイトのような構造であるか、アモルファス構造であるかは、後述するX線回折法によって、2θが26.4°の位置にピークが検出されるか否かにより確認することができる。
【0028】
上記ナフトオキサジン樹脂の原料として用いられるのは、フェノール類であるジヒドロキシナフタレンと、ホルムアルデヒドと、アミン類とである。なお、これらについては後に詳述する。
【0029】
上記アモルファスカーボンは、上記オキサジン樹脂を150~350℃の温度で熱処理することにより得られるものであることが好ましい。本発明では、低温で炭化が可能なナフトオキサジン樹脂を用いていることで、比較的低温でアモルファスカーボンとすることが可能となる。
このように低温で得られることで、従来より低コスト、且つ簡便なプロセスで作製できるという利点がある。
上記熱処理の温度は170~300℃であることがより好ましい。
なお、上記熱処理温度は、目的によって、更に、350~800℃の温度で処理しても良い。
【0030】
上記被覆層は、窒素含有量が0~5重量%であることが好ましい。窒素含有量を上記範囲内とすることで、純粋なカーボン膜よりも優れる物性を有する被覆層を得ることができる。
【0031】
上記被覆層は、平均膜厚が0.5nm~1.0μmであることが好ましい。1.0nm~100nmがより好ましく、2.0nm~50nmが特に好ましい。上記被覆層の平均膜厚が上記範囲内であることで、負極活物質表面の活性点を効率よく抑えることができる。その結果、充放電時の電解液の分解も効率よく抑制され、良好な初期クーロン効率と長期的なサイクル特性を得ることができる。
【0032】
上記被覆層の膜厚の変動係数(CV値)は、10%以下であることが好ましい。上記被覆層の膜厚のCV値が10%以下であると、被覆層の膜厚が均一でバラツキが少ないことから、薄い膜でも所望の機能(イオン溶出と結晶性保持)を付与することができる。上記被覆層の膜厚のCV値の好ましい上限は8.0%である。なお、下限については特に限定されないが0.5%が好ましい。
膜厚のCV値(%)とは、標準偏差を平均膜厚で割った値を百分率で表したものであり、下記式により求められる数値のことである。CV値が小さいほど膜厚のばらつきが小さいことを意味する。
膜厚のCV値(%)=(膜厚の標準偏差/平均膜厚)×100
平均膜厚及び標準偏差は、例えば、FE-TEMを用いて測定することができる。
【0033】
上記被覆層は、負極活物質との間に良好な密着性を有することが好ましい。密着性に関する明確な定義はないが、リチウムイオン電池用負極活物質と、樹脂と、可塑剤と分散剤とを含有した混合物をビーズミルで処理しても、被覆層が剥離しないことが好ましい。
【0034】
本発明では、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって被覆層を測定した場合、ベンゼン環に由来する質量スペクトル、及び、ナフタレン環に由来する質量スペクトルのうち少なくとも1つが検出されることが好ましい。
このようなベンゼン環、ナフタレン環に由来する質量スペクトルが検出されることで、オキサジン樹脂が含有するカーボンに由来するものであることを確認できる。
本願発明において、ベンゼン環に由来する質量スペクトルとは、77.12付近の質量スペクトルをいい、ナフタレン環に由来する質量スペクトルとは、127.27付近の質量スペクトルをいう。
なお、上記測定は、例えば、TOF-SIMS装置(ION-TOF社製)等を用いて行うことができる。
【0035】
本発明では、X線回折法によって被覆層を測定した場合、2θが26.4°の位置にピークが検出されないことが好ましい。
上記2θが26.4°の位置のピークは、グラファイトの結晶ピークであり、このような位置にピークが検出されないことで、被覆層を形成するカーボンがアモルファス構造であるということができる。また、2θが36°の位置にピークが検出されないことが好ましい。上記2θが36°の位置のピークは、SiC由来のピークである。
なお、上記測定は、例えば、X線回折装置(SmartLab Multipurpose、リガク社製)等を用いて行うことができる。
【0036】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質を製造する方法の一形態としては、ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンを含有する混合溶液を調製する工程と、負極活物質を前記混合溶液に添加し、所定温度で反応させる工程と、反応後の負極活物質を熱処理する工程を有する方法を用いることができる。
【0037】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法では、ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンを含有する混合溶液を調製する工程を行う。
上記ホルムアルデヒドは不安定であるので、ホルムアルデヒド溶液であるホルマリンを用いることが好ましい。ホルマリンは、通常、ホルムアルデヒド及び水に加えて、安定剤として少量のメタノールが含有されている。本発明で用いられるホルムアルデヒドは、ホルムアルデヒド含量が明確なものであれば、ホルマリンであっても構わない。
また、ホルムアルデヒドには、その重合形態としてパラホルムアルデヒドがあり、こちらの方も原料として使用可能であるが、反応性が劣るため、好ましくは上記したホルマリンが用いられる。
【0038】
上記脂肪族アミンは一般式R-NHで表され、Rは炭素数5以下のアルキル基であることが好ましい。炭素数5以下のアルキル基としては制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、n-ペンチル基、シクロペンチル基、シクロプロピルエチル基、シクロブチルメチル基等が挙げられる。
分子量を小さくする方が好ましいので、置換基Rは、メチル基、エチル基、プロピル基などが好ましく、実際の化合物名としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン等が好ましく使用できる。最も好ましいものは、分子量が一番小さなメチルアミンである。
【0039】
上記ジヒドロキシナフタレンとしては、多くの異性体がある。例えば、1,3-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレンが挙げられる。
このうち、反応性の高さから、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレンが好ましい。さらに1,5-ジヒドロキシナフタレンが最も反応性が高いので好ましい。
【0040】
上記混合溶液中におけるジヒドロキシナフタレン、脂肪族アミン、ホルムアルデヒドの3成分の比率については、ジヒドロキシナフタレン1モルに対して、脂肪族アミンを1モル、ホルムアルデヒドを2モル配合することが最も好ましい。
反応条件によっては、反応中に揮発などにより原料を失うので、最適な配合比は正確に上記比率とは限らないが、ジヒドロキシナフタレン1モルに対して、脂肪族アミンを0.8~1.2モル、ホルムアルデヒドを1.6~2.4モルの配合比の範囲で配合することが好ましい。
上記脂肪族アミンを0.8モル以上とすることにより、オキサジン環を十分に形成することができ、重合を好適に進めることができる。また1.2モル以下とすることにより、反応に必要なホルムアルデヒドを余計に消費することがないため、反応が順調に進み、所望のナフトオキサジンを得ることができる。同様に、ホルムアルデヒドを1.6モル以上とすることで、オキサジン環を充分に形成することができ、重合を好適に進めることができる。
また2.4モル以下とすることで、副反応の発生を低減できるため好ましい。
【0041】
上記混合溶液は、上記3原料を溶解し、反応させるための溶媒を含有することが好ましい。
上記溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の通常樹脂を溶解するために用いられる溶媒が挙げられる。
上記混合溶液中の溶媒の添加量は特に限定されないが、ジヒドロキシナフタレン、脂肪族アミン及びホルムアルデヒドを含む原料を100質量部とした場合は、通常300~20000質量部で配合することが好ましい。300質量部以上とすることで、溶質を充分に溶解することができるため、皮膜を形成した際に均一な皮膜とすることができ、20000質量部以下とすることで、被覆層の形成に必要な濃度を確保することができる。
【0042】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法では、負極活物質を上記混合溶液に添加し、反応させる工程を行う。反応を進行させることにより、上記負極活物質の表面にナフトオキサジン樹脂からなる層を形成することができる。
上記反応は常温でも進行するが、反応時間を短縮することができるため、40℃以上に加温することが好ましい。加温を続けることで、作製されたオキサジン環が開き、重合が起こると分子量が増加し、いわゆるポリナフトオキサジン樹脂となる。反応が進みすぎると溶液の粘度が増し被覆に適さないため注意を要する。
【0043】
また、例えば、ホルムアルデヒド、脂肪族アミン及びジヒドロキシナフタレンの混合液を一定時間反応させて後に負極活物質を添加する方法を用いてもよい。
また、粒子への被覆を均一に行うためには、被覆反応時に粒子が分散された状態が好ましい。分散方法としては、撹拌、超音波、回転など公知の方法が利用できる。また、分散状態を改善するために、適当な分散剤を添加しても良い。
更に、反応工程を行った後に、熱風等により溶媒を乾燥除去することにより、樹脂を負極活物質表面に均一に被覆してもよい。加熱乾燥方法についても特に制限はない。
【0044】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質の製造方法では、次いで、熱処理する工程を行う。これにより、前工程で被覆した樹脂が炭化されてアモルファスカーボンを含む被覆層とすることができる。上記熱処理は、150~350℃の温度で行うことが好ましい。更に、350~800℃の温度で熱処理しても良い。
【0045】
上記熱処理の方法としては、特に限定されず、加熱オーブンや電気炉等を用いる方法等が挙げられる。
上記熱処理における温度は、150~350℃である。本発明では、低温で炭化が可能なナフトオキサジン樹脂を用いていることから、更に低温でアモルファスカーボンとすることが可能となる。この場合の加熱温度の好ましい上限は250℃である。
上記加熱処理は、空気中で行っても良いし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で行っても良い。熱処理温度が250℃以上の場合は、不活性ガス雰囲気の方がより好ましい。
【0046】
また、本発明のリチウムイオン電池用負極活物質を製造する方法のもう一つの形態としては、前記ホルムアルデヒドと脂肪族アミンの代りに、トリアジンを含有する混合溶液を反応液として用いることもできる。具体的には、トリアジンとジヒドロキシナフタレンを含有する混合液を調製する工程と、負極活物質を前記混合溶液に添加し、反応させる工程と、熱処理する工程を含む方法で作製することができる。
【0047】
上記トリアジンとしては、下記式(3)に示すものを用いることが好ましい。
下記式(3)中、Rは脂肪族アルキル基、又は、芳香族を含む有機基を表す。
上記Rが、脂肪族アルキル基の場合、カーボンの数が1~20のアルキル基であることが好ましい。
上記トリアジンとしては、炭化率と膜の緻密性の観点から、Rがメチル基である1,3,5-トリメチルヘキサヒドロ-1、3、5-トリアジンを用いることがより好ましい。
【0048】
【化2】
【0049】
特に、本発明のリチウムイオン電池用負極活物質を製造する際には、反応時に超音波を印加しながら同時に撹拌を行うことが好ましい。また、このように超音波の印加と撹拌との同時に行う時間については1~10時間であることが好ましい。更に、反応時の加熱温度は30℃~150℃が好ましい。更に、反応後に洗浄した粒子を乾燥させる温度については、50~150℃が好ましい。
【0050】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質は、産業用、民生用、自動車等のリチウムイオン電池等の用途に有用である。
【0051】
本発明のリチウムイオン電池用負極活物質と、炭素材料と、導電助剤と、バインダーとを含むリチウムイオン二次電池用負極も本発明の1つである。
上記バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、アクリル樹脂及びブチラール樹脂からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
更に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極を備えるリチウムイオン二次電池もまた本発明の1つである。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、充放電時の体積膨張や収縮に対する負極活物質への密着性及び追随性が高く、導電助剤、バインダー及び集電体との接触性及び密着性に優れ、電解液の分解抑制効果が高いことから、優れたサイクル特性及びレート特性に加えて高いクーロン効率を実現することが可能なリチウムイオン電池用負極活物質を提供することができる。また、当該リチウムイオン電池用負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、並びに、リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、実施例1で得られたカーボン被覆シリコン粒子を撮影した写真である。
図2】後述する「(6)充放電特性」で作製したリチウムイオン電池の分解模式図である。
図3】実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池の充放電試験結果である。
図4】実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池で、充放電サイクルを繰り返す時のクーロン効率を示したものである。
図5】充放電を繰返し30回行った後の負極の断面写真である。
図6】実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池について、異なる充放電レートで放電容量を測定した充放電曲線である。
図7】実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池について、異なる充放電レートでクーロン効率を測定した充放電曲線である。
図8】実施例2で得られた粒子を負極活物質として作製した電池のサイクル特性である。
図9】比較例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池の充放電試験結果である。
図10】比較例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池のクーロン効率を示したものである。
図11】充放電1回後と30回後のセルのインピーダンス測定結果(Cole-Cole Plot)である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0055】
(実施例1)
(被覆層の形成)
1,5-ジヒドロキシナフタレン(以降1,5-DHNと略す、東京化成社製)、40%メチルアミン水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)、37%ホルムアルデヒド水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)の三者を出発原料として用い、三者の混合エタノール溶液400mlをフラスコに調製した。なお、1,5-DHNとメチルアミンとホルムアルデヒドのモル比は1:1:2とし、1,5-DHNの濃度は0.02mol/Lとした。
次に、得られた混合エタノール溶液に、シリコン原料粒子(Si粒子、シグマ・アルドリッチ社製、平均粒径100nm)6gを添加した。その後、溶液の温度を50℃に保持しながら、超音波と撹拌を同時に印加しながら5時間反応させた。反応後に、溶液を濾過し、粒子をエタノールで3回洗浄した。洗浄した粒子を110で℃一晩真空乾燥することにより、ナフトオキサン樹脂で被覆処理したシリコン粒子を得た。
続いて、上記被覆処理したシリコン粒子を200℃で20時間真空加熱することにより、粒子表面のナフトオキサジン樹脂が炭化し、カーボン被覆シリコン粒子を得た。なお、得られたカーボン被覆シリコン粒子をエネルギー分散型(EDS)検出器付き透過電子顕微鏡で観察し、撮影した写真を図1に示す。図1から、シリコン粒子の周りにカーボン被覆層が形成されていることが確認された。
【0056】
(ラマン分光測定)
得られたカーボン被覆シリコン粒子を顕微レーザラマン Nicolet Almega XR(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてラマン分光で測定したところ、GバンドとDバンドで共にピークが観察され、ナフトオキサジン樹脂はアモルファスカーボンへと変化していると判断できた。
また、GバンドとDバンドのピーク強度比は1.2であった。なお、レーザー光は530nmとした。
【0057】
13C固体NMRの測定)
13C固体NMRの測定」については、上記実施例で得られたカーボン被覆シリコン粒子を用いて「13C固体NMRの測定」を行うことができる。
本実施例では、アモルファスカーボン被覆シリコン粒子表面でのアモルファスカーボン被覆層の膜厚が薄いため、被覆反応に用いた条件と同じの反応液を用いて、アモルファスカーボン単体の粉末を作製し、そのアモルファスカーボン単体粉末を200℃で熱処理した後に、「13C固体NMRの測定」を行った。なお、カーボン被覆シリコン粒子を用いた場合と、アモルファスカーボン単体粉末を用いた場合とで、13C固体NMRの測定の結果は異なるものではない。
具体的には、アモルファスカーボン単体粉末を固体NMR用8mm ローターに充填し、single Pulse(DD MAS)法を用いて、7kHzのMAS回転数で測定を行った(装置:JNM-ECX400、Jeol Resonounce社製)。Single Pulse(DD MAS)を用いた際のパルス幅が6.32μ秒であり、スキャン回数が8025回であった。
測定した13C固体NMRのスペクトルから、sp2成分に由来するピーク(100~140ppm)とsp3成分に由来するピーク(0~100ppm)の比[sp2/sp3]が3.3であり、水酸基と結合を有する芳香族炭素に由来するピーク(140~160ppm)とsp2成分との比[OH結合C/sp2]が0.1であることが分かった。
【0058】
(実施例2)
シリコン原料粒子(シグマ・アルドリッチ社製、平均粒径100nm)6gとエタノール160gを含有するシリコン粒子含有溶液を添加した500mlのフラスコを50℃で恒温した超音波槽にセットした。シリコン粒子含有溶液に超音波と撹拌を同時に印加しながら、0.225mol/Lの1,3,5-トリメチルヘキサヒドロ-1、3、5-トリアジン(東京化成社製)のエタノール溶液40gと濃度0.225mol/Lの1,5-DHNのエタノール溶液40gを1分間5gの速度で同時に上記フラスコに添加した。添加終了後に、混合液を更に4時間反応させた。
反応後に、溶液を濾過し、粒子をエタノールで3回洗浄した。洗浄した粒子を110℃で一晩真空乾燥することにより、ナフトオキサン樹脂で被覆処理したシリコン粒子を得た。
続いて、上記被覆処理したシリコン粒子を400℃で10時間真空加熱することにより、粒子表面のナフトオキサジン樹脂が炭化したカーボン被覆シリコン粒子を得た。
なお、得られたカーボン被覆シリコン粒子をラマンスペクトル測定したところ、ナフトオキサジン樹脂はアモルファスカーボンへと変化していると判断できた。
また、GバンドとDバンドのピーク強度比は1.5であることが分かった。
【0059】
(実施例3)
シリコン原料粒子(シグマ・アルドリッチ社製、平均粒径100nm)3gとエタノール160gを含有するシリコン粒子含有溶液を添加した500mlのフラスコを70℃で恒温した超音波槽にセットした。シリコン粒子含有溶液に超音波と撹拌を同時に印加しながら、0.09mol/Lの1,3,5-トリメチルヘキサヒドロ-1、3、5-トリアジン(東京化成社製)のエタノール溶液40gを添加し、30分間攪拌した。その後、0.09mol/Lの1,5-DHNのエタノール溶液40gを1分間10gの速度でフラスコに添加した。添加終了後に、混合液を更に7時間反応させた。
反応後に、溶液を濾過し、粒子をエタノールで3回洗浄した。洗浄した粒子を110℃で一晩真空乾燥することにより、ナフトオキサン樹脂で被覆処理したシリコン粒子を得た。続いて、上記被覆処理したシリコン粒子を窒素雰囲気で200℃で10時間加熱した後に、更に600℃で2時間加熱した。これにより、粒子表面のナフトオキサジン樹脂が炭化したカーボン被覆シリコン粒子を得た。
なお、得られたカーボン被覆シリコン粒子をラマンスペクトル測定したところ、ナフトオキサジン樹脂はアモルファスカーボンへと変化していると判断できた。
また、GバンドとDバンドのピーク強度比は2.1であることが分かった。
【0060】
(比較例1)
実施例1で使用した「シリコン原料粒子(シグマ・アルドリッチ社製」について、「(被覆層の形成)」を行わずにそのまま使用した。
【0061】
(比較例2)
1.0gのグルコースを溶解した300mlの水に、シリコン粒子(シグマ・アルドリッチ社製、平均粒径100nm)1.5gを添加し、超音波と撹拌を同時に印加しながら1時間反応させた。その後、分散液をテフロン(登録商標)内筒付のステンレス耐圧容器に移し、170℃で10時間熱処理した。反応後、室温まで冷却し、遠心分離、洗浄工程を経て、カーボン被覆シリコン粒子を得た。
【0062】
(評価方法)
【0063】
(1)被覆層膜厚測定(平均膜厚及びCV値)
被覆層の平均膜厚及びCV値を、透過顕微鏡(FE-TEM)を用いて評価した。
具体的には、FE-TEMにより任意の20個の粒子について被覆層の断面写真を撮影した後、得られた断面写真から、各粒子の異なる10箇所の膜厚をランダムに測定し、平均膜厚、標準偏差を算出した。得られた数値から膜厚の変動係数を算出した。
なお、表面被覆したカーボンと中の負極活物質(シリコン等)とは原子量の差が大きいため、TEM像のコントラストの差から被覆層(カーボン層)の膜厚を見積もることができる。
【0064】
(2)TOF-SIMS測定
得られた粒子の被覆層について、飛行時間型二次イオン質量分析法(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry,TOF-SIMS)によるベンゼン環に由来する質量スペクトル(77.12付近)、及び、ナフタレン環に由来する質量スペクトル(127.27付近)の確認を行った。
なお、TOF-SIMS測定は、TOF-SIMS 5型装置(ION-TOF社製)を用い、下記のような条件で行った。また、空気中や保管ケースに由来するコンタミをできるだけ避けるために、サンプル作製後に、シリコンウェハー保管用クリーンケースにて保管した。
一次イオン:209Bi+1
イオン電圧:25kV
イオン電流:1pA
質量範囲:1~300mass
分析エリア:500×500μm
チャージ防止:電子照射中和
ランダムラスタスキャン
【0065】
(3)X線回折
X線回折装置(SmartLab Multipurpose、リガク社製)を用い、以下の測定条件で回折データを得た。X線波長:CuKα1.54A、測定範囲:2θ=10~70°、スキャン速度:4°/min、ステップ:0.02°
得られた回折データについて、グラファイト由来のピーク(2θ=26.5°付近)が検出されるか否かを確認した。
また、得られた回折データについて、SiC由来のピーク(2θ=36°付近)が検出されるか否かをも確認した。
なお、一連の解析は、解析ソフト(PDXL2)を用いて行った。
【0066】
(4)ゼータ電位
実施例及び比較例の粒子について、顕微鏡電気泳動式ゼータ電位計(日本ルフト社製、M502)を用いてゼータ電位を測定した。具体的には、リチウムイオン電池用負極活物質を0.01mol/Lの塩化カリウム(KCl)の水溶液に超音波で分散し、その溶液を測定用セルに注入した。その後、顕微鏡で粒子の動きを観察しながら電圧をかけ、粒子が泳動しなくなった(静止した)時の電位を測定することによって、ゼータ電位を求めた。
【0067】
(5)窒素含有量測定
被覆処理後の負極活物質の窒素含有量は下記の方法により測定した。負極活物質の元素組成をX線光電子分光法(装置:アルバック・ファイ社製、多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)、PHI 5000 VersaProbe III)によって分析し、検出された全元素の総量を100%とし、全元素中における窒素の占有率(%)を窒素含有量とした。
【0068】
(6)充放電特性
(負極の作製)
実施例、比較例で得られた粒子と、黒鉛(大阪ガスケミカル社製、OMAC-R)とアセチレンブラック(デンカ社製、Li-400)と、ポリアミック酸(宇部興産社製、U-ワニス-A)を重量比12.75:72.25:5:10の比で混合した。その後、適量の溶媒(N-メチルピロリドン(NMP))を添加し、錬太郎(AR-100)で均一なペーストまで混練した。粘度は必要に応じて溶媒の加減により調整した。
次に、上記調製したペーストをアプリケータ(PI-1210、テスター産業社製)で膜厚が60μmになるように、厚み20μmの銅箔の表面に塗布した。塗布した膜は、100℃で1時間真空乾燥した後に、更に250℃で15時間熱処理した。
【0069】
(リチウムイオン電池の作製)
電池セルの組み立てプロセスはすべてアルゴンガス置換の真空グローブボックス中で行った。セルとしては、図2のような構造を有するコイン型セル(HSセル)を用いた。作用極1と対極2との間に、対極2側から順に、金属リチウム片3(Φ10mm、厚み0.2mmのLi箔)、セパレータ4(積水化学社製エスフィノ(25μm))、負極シート5(Φ10mm、上記250℃で熱処理したもの)、樹脂からなる固定治具6、集電極7及びばね8を積層した。正極は、上記金属リチウム片3である。電解液は、1モル/LのLiPF/EC:DMC(1:2v/v%)溶液(キシダ化学社製)を用いた。
【0070】
(充放電試験)
上記のようにして組み立てたコイン型電池において、電圧が1.5-0.02Vの範囲で、レートが0.2Cの条件で充放電テストを行った。具体的には、まずは1.5Vから0.02VまでCCCVのモードで充電(シリコンへリチウムを挿入過程)した。充電後は1分間休止した。次に、CCのモードで0.02Vから1.5Vまで放電した。次に1分間休止した。
上記充電及び放電からなるサイクルを繰り返した。実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池の充放電試験結果を図3に示す。図3では、横軸は充放電のサイクル数を示し、縦軸は容量(mAh/g)すなわち充放電特性を示す。なお、比較例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池の充放電試験結果を図9に示す。
図3図9から、実施例1で得られた粒子を用いて得られた電池は、未被覆のシリコン粒子(比較例1)と比較して、充放電を繰り返しても、充放電特性の劣化が少ないことが明らかである。
【0071】
また、図4は、実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池で、充放電サイクルを繰り返す時のクーロン効率を示したものである。なお、比較例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池のクーロン効率を図10に示す。
図4図10から、実施例1で得られた粒子を用いて得られた電池は、未被覆のシリコン粒子(比較例1)と比較して、初回充放電だけではなく、2回目以降の場合もクーロン効率が高いことがわかる。
【0072】
図5は、充放電を繰返し30回行った後の負極の断面写真である。図5(b)は実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した負極であり、図5(a)は比較例1で得られた粒子を負極活物質として作製した負極である。
図5(a)では、電極の表面から、多数の白い粒子状析出物が観察されるが、図5(b)では、このような粒子状物が殆ど観察されなかった。
また、EDSによる元素組成分析およびXPSによる元素の化学結合状態分析から、上記白い粒子状析出物は、充放電時に電解液の分解に起因する生成物であるLiO、LiCOおよびLiFの可能性が高いこと示唆された。このことから、実施例1で得られた粒子に形成された被覆層は、電池のサイクル特性の低下の原因の一つである電解液の分解を抑制する効果があることが分かった。
【0073】
図6は、実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池について、異なる充放電レートで放電容量を測定した充放電曲線である。図6から分かるように、充放電レートを従来の0.2Cから1.0Cまで上げても高いサイクル安定性を示した。未被覆シリコン粒子の場合は、充放電レートを上げるとサイクル特性が急劇に悪くなるので、アモルファスカーボン被覆によるレート特性の改善効果が非常に高いことが分かった。
図7は、実施例1で得られた粒子を負極活物質として作製した電池について、異なる充放電レートでクーロン効率を測定した充放電曲線である。図7から分かるように、充放電レートを0.2Cから1.0Cまで上げても、クーロン効率の低下が見られなかった。
また、図8は、実施例2で得られた粒子を負極活物質として作製した電池のサイクル特性である。
【0074】
なお、表1には、充放電レートを0.2Cとした場合における、初期放電容量比[(第2回サイクル後の放電容量/第1回サイクル後の放電容量)×100]を算出し、記載した。
また、第1回サイクル後の放電容量と第15回サイクル後の放電容量とから、放電容量維持率(%)を算出し、記載した。
更に、充放電レートを0.2Cとした場合における、初期クーロン効率[(1回目サイクルの放電容量/1回サイクルの充電容量)×100]を算出し、記載した。
加えて、充放電レートを0.2Cとした場合の放電容量維持率(%)と、1.0Cとした場合の放電容量維持率(%)の比[(1.0Cでの放電容量維持率/0.2Cでの放電容量維持率)×100]を算出し、記載した。
【0075】
(7)充放電前後の電極膜断面の酸素含有量比の測定
充放電試験前(初期)の電極膜と充放電30回後の電極膜の断面(充放電レート:0.2C)を、電界放出型走査電子顕微鏡S-4300SE(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、その断面の元素組成を装置に付属したエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いて分析した。電極膜断面の酸素含有量は、検出された全元素(C、O、Si、F、P)の量の合計を100とし、その酸素の比率を酸素含有量(重量%)とした。
また、同一の電極膜において、充放電30回後の酸素含有量と初期の酸素含有量の比(充放電30回後の酸素含有量/初期の酸素含有量)を充放電前後の電極膜断面の酸素含有量比とした。
実施例1と比較例1について、充放電前後の電極膜断面の酸素含有量比を比較したところ、比較例1の酸素含有量比が20であるのに対し、実施例1の酸素含有量比は約四分の一の5.6であった。これは、比較例1(未被覆シリコン粒子)に比べ、実施例1(アモルファスカーボン被覆したシリコン粒子)の電極膜が充放電後に酸素の増加が少ないことを意味する。前述したように、充放電試験後の電極膜表面の酸素含有量の増加は主に電解液の分解生成物であるLiOやLiCOなどに由来するため、上記結果は、実施例1で得られた粒子に形成されたアモルファスカーボン被覆層は、充放電時の電解液の分解を抑制する効果があることを示唆している。
【0076】
(8)インピーダンス測定
実施例および比較例で作製したコイン型電池について、VMP3 マルチチャンネル電気化学測定システム(フランスBio-Logic社製)を用いて、周波数10mHz~100kHzの範囲内でインピーダンス測定を行った。
図11は、実施例1(図11(b))と比較例1(図11(a))で得られた電極膜から作製したセルが充放電1回後および30回後のインピーダンス測定の結果(Cole-Cole Plot)である。
Cole-Cole Plotでの半円弧は電池の内部抵抗に対応しており、半円弧の直径が抵抗値に相当する。つまり、半円弧が大きいほど抵抗が高く、電池としては好ましくない。図11から、実施例1(図11(b))の場合は、充放電1回後と30回後に半円弧の大きさがそれほど大きく変わっていないのに対し、比較例1(図11(a))の場合は、30回充放電後の半円弧、特に右側の半円弧が著しく大きくなっていた(詳しくは述べないが、この半円弧は界面の電荷移動抵抗に相当する)。
また、インピーダンス測定装置に内蔵されている解析ソフトを用いて、各スペクトルの右側の半円弧の直径を測定し、サイクル30回後の値と1回後の値の比を求めたところ、比較例1(図11(a))が8倍であるのに対して、実施例1(図11(b))は1.2倍であった。これにより、実施例1のように、負極活物質に所定のアモルファスカーボン被覆層を形成した場合、30回充放電後の抵抗の増加倍率が8倍から1.2倍まで低減できることが分かる。
【0077】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、優れたサイクル特性及びレート特性に加えて高いクーロン効率を実現することが可能なリチウムイオン電池用負極活物質、及び、当該リチウムイオン電池用負極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、並びに、リチウムイオン電池用負極活物質の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 作用極
2 対極
3 金属リチウム片
4 セパレータ
5 負極シート
6 固定治具
7 集電極
8 ばね

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11