(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】EGRバルブ
(51)【国際特許分類】
F02M 26/74 20160101AFI20221003BHJP
F02M 26/11 20160101ALI20221003BHJP
F02M 26/67 20160101ALI20221003BHJP
F02M 26/68 20160101ALI20221003BHJP
【FI】
F02M26/74 311
F02M26/11 311B
F02M26/67
F02M26/68 311
(21)【出願番号】P 2019006427
(22)【出願日】2019-01-17
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 光一
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-173784(JP,A)
【文献】特開2007-303434(JP,A)
【文献】特開2016-133207(JP,A)
【文献】特開2017-223292(JP,A)
【文献】特開2018-080584(JP,A)
【文献】国際公開第2008/081622(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/11
F02M 26/65
F16K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガスを吸気系に再循環するEGR管に接続され、吸気系に供給する排気ガス量を調整するEGRバルブであって、
排気ガスが通過する再循環通路と、
再循環通路の内面に圧入されている弁座と、
弁座に対して着座可能な弁体と、
再循環通路の内外を貫通しており、弁体に固定されているとともに弁体を弁座に対して移動させるシャフトと、を備えており、
再循環通路内において、弁座の外周面と接触する面には耐腐食性コーティングが形成されておらず、弁座の圧入方向端面と接触する面に耐腐食性コーティングが形成されているEGRバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のEGRバルブであって、
弁座は、再循環通路の内面に圧入される第1部分と、第1部分よりも外面の周方向長さが長い第2部分を備えており、
再循環通路は、第1部分の圧入方向端面である第1端面と接触する第1接触面と、第2部分の圧入方向端面である第2端面と接触する第2接触面を備えており、
第1接触面と第2接触面の少なくとも一方に、耐腐食性コーティングが形成されているEGRバルブ。
【請求項3】
請求項2に記載のEGRバルブであって、
第1接触面と第2接触面の双方に耐腐食性コーティングが形成されており、
第1端面と第1接触面の間に介在する耐腐食性コーティングと、第2端面と第2接触面の間に介在する耐腐食性コーティングの少なくとも一方が、他の部分の耐腐食性コーティングの厚みより薄いEGRバルブ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のEGRバルブであって、
再循環通路と連通しており、再循環通路外でシャフトを支持しているハウジングと、
ハウジングに圧入されており、シャフトとハウジングの隙間をシールしているシール材と、備えており、
ハウジング内において、再循環通路側の端部からハウジングとシール材の接触部分を超える範囲に、耐腐食性コーティングが形成されているEGRバルブ。
【請求項5】
請求項
4に記載のEGRバルブであって、
シール材は、環状の金属部材と、金属部材を被覆しているとともにハウジングより弾性率が高い被覆部と、を備えているEGRバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、EGRバルブに関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、EGR(Exhaust Gas Recirculation)バルブが開示されている。EGRバルブは、内燃機関の排気ガスを吸気系に供給する(排気ガスを吸気管側に再循環させる)EGR管に接続されている。EGRバルブには、排気ガスが通過する再循環通路が設けられている。特許文献1では、再循環通路内の一部(例えば排気ガスの流速が速い部分)または再循環通路内の全面に、耐腐食性コーティングを形成している。また、特許文献1では、EGRバルブの弁体を駆動するシャフト(バルブロッド)にも耐腐食性コーティングを形成している。再循環通路内に耐腐食性コーティングを形成することにより、再循環通路の劣化(腐食)を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、特許文献1のEGRバルブは、再循環通路内に耐腐食性コーティングを形成し、再循環通路の腐食を抑制している。しかしながら、単に再循環通路内の腐食しやすい部位、あるいは、再循環通路内全体に耐腐食性コーティングを形成するだけでは、再循環通路の腐食を十分に抑制することができなかったり、腐食以外の新たな問題が生じることがある。そのため、EGRバルブにおいては、再循環通路内における耐腐食性コーティングの形成位置、形成方法について更なる検討が必要とされている。本明細書は、耐腐食性に優れた新たなEGRバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で開示する第1技術は、内燃機関の排気ガスを吸気系に再循環するEGR管に接続され、吸気系に供給する排気ガス量を調整するEGRバルブである。EGRバルブは、排気ガスが通過する再循環通路と、再循環通路の内面に圧入されている弁座と、弁座に対して着座可能な弁体と、再循環通路の内外を貫通しており、弁体に固定されているとともに弁体を弁座に対して移動させるシャフトを備えていてよい。また、再循環通路内において、弁座の外周面と接触する面には耐腐食性コーティングが形成されておらず、弁座の圧入方向端面と接触する面に耐腐食性コーティングが形成されていてよい。
【0006】
本明細書で開示する第2技術は、上記第1技術のEGRバルブであって、弁座は、再循環通路の内面に圧入される第1部分と、第1部分よりも外面の周方向長さが長い第2部分を備えていてよい。また、再循環通路は、第1部分の圧入方向端面である第1端面と接触する第1接触面と、第2部分の圧入方向端面である第2端面と接触する第2接触面を備えており、第1接触面と第2接触面の少なくとも一方に、耐腐食性コーティングが形成されていてよい。
【0007】
本明細書で開示する第3技術は、上記第2技術のEGRバルブであって、第1接触面と第2接触面の双方に耐腐食性コーティングが形成されており、第1端面と第1接触面の間に介在する耐腐食性コーティングと、第2端面と第2接触面の間に介在する耐腐食性コーティングの少なくとも一方が、他の部分の耐腐食性コーティングの厚みより薄くてよい。
【0008】
本明細書で開示する第4技術は、上記第1から第3技術のいずれかのEGRバルブであって、再循環通路と連通しており、再循環通路外でシャフトを支持しているハウジングと、ハウジングに圧入されており、シャフトとハウジングの隙間をシールしているシール材を備えていてよい。また、ハウジング内において、再循環通路側の端部からハウジングとシール材の接触部分を超える範囲に、耐腐食性コーティングが形成されていてよい。
【0009】
本明細書で開示する第5技術は、内燃機関の排気ガスを吸気系に再循環するEGR管に接続され、吸気系に供給する排気ガス量を調整するEGRバルブである。EGRバルブは、排気ガスが通過する再循環通路と、再循環通路の内面に圧入されている弁座と、弁座に対して着座可能な弁体と、再循環通路の内外を貫通しており、弁体に固定されているとともに弁体を弁座に対して移動させるシャフトと、再循環通路と連通しており、再循環通路外でシャフトを支持しているハウジングと、ハウジングに圧入されており、シャフトとハウジングの隙間をシールしているシール材を備えていてよい。また、ハウジング内において、再循環通路側の端部からハウジングとシール材の接触部分を超える範囲に、耐腐食性コーティングが形成されていてよい。
【0010】
本明細書で開示する第6技術は、上記第4または第5技術のEGRバルブであって、シール材は、環状の金属部材と、金属部材を被覆しているとともにハウジングより弾性率が高い被覆部を備えていてよい。
【発明の効果】
【0011】
第1技術によると、再循環通路内の弁座と接する部分(弁座取付部)を原因として、EGRバルブ内に不具合が生じることを抑制することができる。具体的には、再循環通路内の弁座の外周と接触する面、すなわち、弁座が圧入される圧入面に耐腐食性コーティングが形成されていないので、弁座を圧入する際、耐腐食性コーティングが再循環通路の内面から剥がれることを防止することができる。耐腐食性コーティングが再循環通路の内面から剥がれると、剥がれた耐腐食性コーティングによってEGRバルブの機能が損なわれることがある。例えば、剥がれた耐腐食性コーティングが弁座,弁体に付着すると、弁座と弁体のシール性が損なわれる。あるいは、剥がれた耐腐食性コーティングがシャフトに付着すると、シャフト表面の平滑性が損なわれ、シャフトが正常に動作することを妨げることがある。第1技術によると、上記した不具合の発生を防止することができる。なお、再循環通路内の圧入面は、弁座と密着しているので、排気ガスと接触することはない。そのため、圧入面は、排気ガスによって腐食することはない。
【0012】
また、第1技術によると、再循環通路内の弁座と接触する部分と弁座と接触しない部分の境界、すなわち、弁座取付部と弁座取付部以外の部分の境界を起点として、再循環通路が腐食することを防止することができる。例えば、弁座の圧入に伴って耐腐食性コーティングが剥がれることを防止するために弁座取付部に耐腐食性コーティングを形成しない場合、耐腐食性コーティングを形成する際の製造公差により、弁座取付部以外の部分に耐腐食性コーティングが形成されないことがある。その結果、再循環通路内面(耐腐食性コーティングが形成されなかった部分)が腐食してしまう。第1技術によると、再循環通路内の弁座の圧入方向端面と接触する面(合わせ面)に耐腐食性コーティングが形成されているので、弁座取付部以外の部分、及び、弁座取付部と弁座取付部以外の部分の境界に確実に耐腐食性コーティングが形成される。なお、合わせ面に形成されている耐腐食性コーティングは、弁座を圧入する際に圧縮されるだけなので、再循環通路の内面(合わせ面)から剥がれることはない。
【0013】
第1技術は、再循環通路内の全面に耐腐食性コーティングを形成する形態に対しては、合わせ面から耐腐食性コーティングが剥がれることを防止することができるという利点を有している。また、第1技術は、耐腐食性コーティングの剥がれに対策して弁座取付部に耐腐食性コーティングを形成しない形態に対しては、再循環通路の腐食をより確実に防止することができるという利点を有している。なお、耐腐食性コーティングとして、フッ素樹脂、アルマイト、ポリイミド、変性エポキシ、NiP、めっき、あるいは、セラミック等を利用することができる。
【0014】
第2技術によると、2つの合わせ面(第1接触面と第2接触面)によって圧入面(第1部分の外周面と接する面)が囲まれる。合わせ面と圧入面の境界部分が再循環通路内に露出しないので、より確実に再循環通路の腐食を防止することができる。
【0015】
第3技術によると、弁座取付部において、第1端面と第1接触面、及び、第2端面と第2接触面と、耐腐食性コーティングを介して確実に接触させることができる。例えば、圧入方向において第1端面と第2端面の距離が第1接触面と第2接触面の距離より長い場合、弁座を弁座取付部に圧入すると、第1端面と第1接触面は接触するが、第2端面と第2接触面は接触しない。しかしながら、第3技術によると、例えば、第1端面と第2端面の距離が第1接触面と第2接触面の距離より長くても、弁体を圧入する際に第1端面と第1接触面の間に介在している耐腐食性コーティングが圧縮され、厚みが薄くなる。その結果、第2端面と第2接触面が、耐腐食性コーティングを介して接触することができるようになる。すなわち、第3技術によると、弁座取付部の形状、及び/又は、弁座の形状が設計値からずれていても、第1端面と第1接触面、及び、第2端面と第2接触面の双方を、耐腐食性コーティングを介して接触させることができる。
【0016】
第4技術によると、シャフトを支持しているハウジング内の腐食も防止することができる。なお、シャフトとハウジングの間に設けられるシール材は、一般的に、排気ガスに起因する凝結水がシャフトを駆動するアクチュエータ等に移動することを防止する目的で配置する。シール材は、ハウジングに圧入される。そのため、ハウジング内面に耐腐食性コーティングを形成する場合、シール材の圧入面から耐腐食性コーティングが剥がれることを避けるため、シール材の圧入面に耐腐食性コーティングを形成しない。すなわち、通常、ハウジング内面に耐腐食性コーティングを形成する場合、シール材の圧入面よりも再循環通路側に耐腐食性コーティングを形成する。上記したように、シャフトとハウジングの間に設けられるシール材は、アクチュエータ等を防水する目的で配置される。このような機能を有するシール材は、一般的に弾性体で形成されている。そのため、耐腐食性コーティングが形成されたハウジング内面にシール材を圧入しても(シール材の圧入面に耐腐食性コーティングを形成しても)、圧入面から耐腐食性コーティングが剥がれることはない。第4技術は、シャフトとハウジングの間に設けられるシール材の材質(弾性体)に着目し、敢えてシール材の圧入面に耐腐食性コーティングを形成し、ハウジング内の腐食を防止するものである。
【0017】
第5技術によると、第4技術と同様に、シャフトを支持しているハウジング内の腐食を防止することができる。
【0018】
第6技術によると、シール材を圧入する際に圧入面から耐腐食性コーティングが剥がれることを確実に防止しながら、シャフトとハウジングの間のシール性(ハウジングとシール材の密着性)を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】内燃機関を通過するガスの流れを説明する概略図を示す。
【
図9】従来のEGRバルブについて、
図2の囲み部IVに相当する部位を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(エンジン周囲の構造)
図1を参照し、エンジン(内燃機関)4の周囲の構造について説明する。エンジン4には大気を導入するための吸気管2が接続されている。吸気管2から導入された大気は、燃料タンク(図示省略)から供給される燃料と混合され、混合気としてエンジン4の燃焼室に供給される。なお、吸気管2は、車両の吸気系を構成する部品の1つであり、吸気系は、吸気管2の他、吸気管2に接続されているエアクリーナ(図示省略)、吸気管2の開度を制御するスロットルバルブ(図示省略)等によって構成されている。エンジン4内で燃焼した混合気は、排気ガスとして排気管6に供給される。排気ガスは、触媒8によって有害物質が除去(分解)された後、大気に放出される。
【0021】
吸気管2と排気管6の間に、EGR管14が接続されている。EGR管14は、排気ガスの一部を吸気管2に再循環させるために設けられている。排気ガスの一部を吸気管2に再循環させることにより、排気ガス中の有害物質をエンジン4内で燃焼し、有害物質を低減することができる。EGR管14には、冷却器12とEGRバルブ10が接続されている。EGR管14内の排気ガスは、冷却器12で冷却され、EGRバルブ10で流量(供給量)が調整された後、吸気管2に供給される。そのため、EGRバルブ10内を、排気ガスに含まれる硫酸化合物、硝酸化合物といった金属を腐食させる有害成分が通過する。詳細は後述するが、EGRバルブ10は、排気ガスが通過する再循環通路内に耐腐食性コーティングを形成し、再循環通路の腐食を防止している。
【0022】
(EGRバルブ)
図2及び
図3を参照し、EGRバルブ10の構造について説明する。EGRバルブ10は、排気ガスが通過する再循環通路34と、再循環通路34の内面に圧入されている弁座28と、弁座28に対して着座可能な弁体30と、弁体30に固定されているシャフト26と、再循環通路34外でシャフト26を支持している第1ハウジング部20aと、シャフト26と第1ハウジング部20aの隙間をシールしているシール材22を備えている。
【0023】
再循環通路34は、第2ハウジング部20bに形成した孔によって構成されている。第2ハウジング部20bは、ハウジング20の一部であり、第1ハウジング部20aと一体成型されている。すなわち、ハウジング20のうち、第1ハウジング部20aはシャフト26を支持し、第2ハウジング部20bは排気ガスが通過する再循環通路34を構成している。ハウジング20は、アルミニウム製である。なお、第1ハウジング部20a内と第2ハウジング部20b内は、連通孔25によって連通している。シャフト26は、連通孔25を通じて、第1ハウジング部20a内から第2ハウジング部20b内(再循環通路34内)に伸びている。すなわち、シャフト26は、再循環通路34の内外を貫通して伸びている。
【0024】
また、ハウジング20は、EGRバルブ10をEGR管14(
図1を参照)に固定するためのフランジ32を備えている。フランジ32は、第2ハウジング部20bに対して第1ハウジング部20aの反対側で、第2ハウジング部20bの端部に設けられている。すなわち、フランジ32は、再循環通路34の端部に設けられている。フランジ32の接合面32aをEGR管14に設けられたフランジ(図示省略)の接合面に接触させた状態でフランジ32をEGR管14に固定することにより、EGR管14内の排気ガス流路と再循環通路34が連通する。なお、
図2には、再循環通路34の上流側のみが示されている。すなわち、EGR管14からEGRバルブ10に排気ガスが流入する入口部分のみが示されている。図示は省略しているが、EGRバルブ10は、EGRバルブ10からEGR管14に排気ガスが流出する出口部分(再循環通路34の下流側)にも、EGRバルブ10をEGR管14に固定するためのフランジが設けられている。
【0025】
再循環通路34の壁面(第2ハウジング部20bの内壁)には、弁座28を取り付けるための弁座取付部40が形成されている。弁座28は、円形のリングである。弁座取付部40に弁座28を圧入することにより、弁座28が再循環通路34内に固定される。弁体30が弁座28に着座(接触)すると、再循環通路34内の排気ガス流路が遮断される(
図2の状態)。一方、弁体30が弁座28から離れると、再循環通路34内を排気ガスが矢印46のように流れ(
図3の状態)、排気ガスが吸気管2に供給される(
図1も参照)。弁体30と弁座28の距離(弁体30と弁座28の隙間)を調整することにより、吸気管2に供給する排気ガス量が調整される。弁体30は、シャフト26の動作に伴って弁座28との距離を変化させる。すなわち、シャフト26は、弁体30に固定されており、弁体30を弁座28に対して移動させる。
【0026】
シャフト26は、軸受(図示省略)によって第1ハウジング部20aに支持されている。また、シャフト26の動作は、スプリング38とアクチュエータ(図示省略)によって制御される。具体的には、シャフト26に第1スプリングホルダ42が固定されており、第1ハウジング部20aの内壁24に第2スプリングホルダ36が固定されており、スプリング38が第1スプリングホルダ42と第2スプリングホルダ36の間に配置されている。この場合、アクチュエータからシャフト26に力が加えられていないときはスプリング38の付勢力によって弁体30が弁座28に着座し(
図2の状態)、アクチュエータからシャフト26に力が加えられるとスプリング38が圧縮されて弁体30が弁座28から離れる(
図3の状態)。なお、アクチュエータは、シャフト26の端部(弁体30とは反対側の端部)に配置されている。
【0027】
シール材22は、第1ハウジング部20aの内壁24に圧入されている。シール材22は、円形のリングである。シール材22の内部を、シャフト26が通過している。シール材22は、シャフト26と第1ハウジング部20aの内壁24の隙間をシールしており、排気ガスに由来する凝結水がアクチュエータ側に移動することを防止している。なお、シール材22は、金属と樹脂(弾性体)で構成されている。シール材22の詳細については後述する。
【0028】
EGRバルブ10では、排気ガスによってハウジング20が腐食することを防止するため、弁座取付部40の一部を除き、再循環通路34の全面に、フッ素樹脂製のコーティング層が形成されている。フッ素樹脂製のコーティング層は、耐腐食性コーティングの一例である。また、第1ハウジング20a内においては、再循環通路34側の端部から内壁24とシール材22の接触部分(シール材22の圧入面)を超える範囲まで、コーティング層が形成されている。なお、コーティング層は、連通孔25内にも形成されている。さらに、EGRバルブ10では、フランジ32の接合面32aにもコーティング層が形成されている。なお、上記したように、EGRバルブ10は、フランジ32の他、再循環通路34の下流側にもフランジ(図示省略)が設けられている。コーティング層は、再循環通路34の下流側のフランジの接合面にも形成されている。以下、弁座取付部40におけるコーティング層の形成位置、及び、第1ハウジング20a内におけるコーティング層の形成位置について説明する。
【0029】
(弁座取付部におけるコーティング層の形成位置)
図4に示すように、弁座取付部40には、弁座28が圧入されている。弁座28は、弁座取付部40に圧入される第1部分28aと、外径が第1部分28aより大きい第2部分28bを備えている。すなわち、第2部分28bの外面の周方向長さは、第1部分28aの外面の周方向長さより長い。弁座取付部40は、第1部分28aの圧入方向端面である第1端面29aが接触する第1合わせ面40aと、第2部分28bの圧入方向端面である第2端面29bが接触する第2合わせ面40bと、弁座28(第1部分28a)が圧入される圧入面40cを備えている。第1合わせ面40aは第1接触面の一例であり、第2合わせ面40bは第2接触面の一例である。
【0030】
また、弁座取付部40の表面の一部に、コーティング層60が形成されている。具体的には、コーティング層60は、第1合わせ面40aと第2合わせ面40bの全面に形成されており、圧入面40cには形成されていない。なお、
図4では、弁座取付部40におけるコーティング層60の状態を説明するために、実際よりもコーティング層60の厚みを厚く示している。なお、コーティング層60の厚みは、例えば、80μm以上に調整される。この場合、弁座取付部40の第1合わせ面40aから第2合わせ面40bまでの距離の公差と、弁座28の第1端面29aから第2端面29bまでの距離の公差との合計が、80μm以下になるように、弁座取付部40及び弁座28を製造する。これにより、第1端面29aと第2端面29bの双方が、コーティング層60に確実に接触する。
【0031】
弁座28を弁座取付部40に圧入すると、第1端面29aがコーティング層60を介して第1合わせ面40aに接触し、第2端面29bがコーティング層60を介して第2合わせ面40bに接触し、第1部分28aの外周面29cは直接圧入面40cに接触する。そのため、再循環通路34を構成しているハウジング20の表面(内面)が、排気ガスと接触することが防止される。
【0032】
弁座取付部40におけるコーティング層60の形成位置をまとめると、弁座28の外周面(第1部分28aの外周面29c)と接触する面(圧入面40c)にはコーティング層60が形成されておらず、弁座28の圧入方向端面(端面29a,29b)と接触する面(合わせ面40a、40b)にはコーティング層60が形成されている。上記したように、合わせ面40a,40bは、弁座28の端面29a,29bと接触する。そのため、本来は、合わせ面40a,40bにコーティング層60を形成する必要はない。しかしながら、合わせ面40a,40bにコーティング層60を形成しない場合、弁座28と接触する部分(弁座取付部40)と弁座28と接触しない部分(弁座取付部40以外の部分)の境界(囲み部50,52)が、再循環通路34に露出することがある。例えば、ハウジング20(第2ハウジング部20b)内にコーティング層60を形成する際の製造公差により、囲み部50,52近傍にコーティング層60が形成されないことが起こり得る。この場合、ハウジング20(第2ハウジング部20b)が再循環通路34に露出し、排気ガスの影響を受けて腐食することがある。
【0033】
EGRバルブ10では、本来はコーティング層60を必要としない合わせ面40a、40bにコーティング層60を形成することにより、上記境界部分(囲み部50,52)をコーティング層60によって確実に覆い、ハウジング20(第2ハウジング部20b)が再循環通路34に露出することを防止している。なお、ハウジングの全面(弁座取付部を含む再循環通路の内面の全面)にコーティング層を形成すれば、結果として、上記境界部分に相当する部分もコーティング層で覆われる。しかしながら、この場合、弁座取付部の圧入面にもコーティング層が形成され、弁座を弁座取付部に圧入する際、圧入面に形成されたコーティング層が剥がれてしまう。再循環通路内に異物(剥がれたコーティング層)が混入し、EGRバルブの構成部品を劣化させたり、吸気管(あるいは、エンジン)に異物が混入することが起こり得る。EGRバルブ10は、再循環通路34内に異物が混入することを防止しながら、ハウジング20(第2ハウジング部20b)の腐食を防止することができる。
【0034】
また、
図4に示すように、第2端面29bと第2合わせ面40bの間に介在するコーティング層60の厚みは、他の部分のコーティング層60の厚みより薄い。これは、第2端面29bと第2合わせ面40bの間だけコーティング層60を薄く形成したのではない。弁座28を弁座取付部40に圧入する際にコーティング層60が圧縮され、弁座28を弁座取付部40に圧入される前の状態と比較してコーティング層60の厚みが薄くなったものである。コーティング層60の厚みが圧入前より薄くなるように弁座28を弁座取付部40に圧入することにより、端面29a,29bの双方を、より確実に合わせ面40a,40bに接触させることができる。例えば、弁座取付部40、及び/又は、弁座28の製造公差によって、圧入方向における端面29a,29b間の距離と合わせ面40a,40b間の距離がずれていても、端面29a,29bの双方を(コーティング層60を介して)合わせ面40a,40bに接触させることができる。なお、第1端面29aと第1合わせ面40aの間のコーティング層60の厚みが他の部分のコーティング層60の厚みより薄くてもよいし、第1端面29aと第1合わせ面40aの間、及び、第2端面29bと第2合わせ面40bの間のコーティング層60の厚みが他の部分のコーティング層60の厚みより薄くてもよい。
【0035】
(コーティング層の形成位置の変形例)
上記したように、EGRバルブ10は、圧入面40cにはコーティング層60を形成しないで、弁座取付部40と弁座取付部40以外の部分の境界が再循環通路34に露出することを防止するために合わせ面40a、40bにコーティング層60を形成したものである。そのため、上記境界が再循環通路34に露出することを防止できる形態であれば、必ずしも合わせ面40a、40bの全面にコーティング層60する必要はない。以下、
図5から
図8を参照し、コーティング層60を形成する位置の変形例について説明する。
【0036】
図5に示すように、コーティング層60は、合わせ面40a、40bの一部に形成されていてよい。より正確には、コーティング層60は、弁座28とハウジング20が接触しない位置(弁座取付部40以外の部分)から、弁座取付部40以外の部分と弁座取付部40の境界(囲み部50,52)を超えて、合わせ面40a、40bの一部に形成されていてよい。このような形態であっても、上記境界が再循環通路34に露出することを防止することができる。
【0037】
また、
図6に示すように、コーティング層60は、第1合わせ面40aには形成され、圧入面40c及び第2合わせ面40bに形成されていなくてもよい。この場合であっても、合わせ面40a、40bの双方にコーティング層60を設けない形態と比較して、囲み部52の腐食が防止される分、ハウジング20の腐食を抑制する効果が得られる。なお、
図6では、コーティング層60が第1合わせ面40aの一部に形成されているが、第1合わせ面40aの全面にコーティング層60を形成してもよい。
【0038】
また、
図7に示すように、コーティング層60は、第2合わせ面40bには形成され、圧入面40c及び第1合わせ面40aに形成されていなくてもよい。この場合であっても、合わせ面40a、40bの双方にコーティング層60を設けない形態と比較して、囲み部50の腐食が防止される分、ハウジング20の腐食を抑制する効果が得られる。なお、
図7では、コーティング層60が第2合わせ面40bの一部に形成されているが、第2合わせ面40bの全面にコーティング層60を形成してもよい。
【0039】
図8に示す形態では、弁座128の外径が、圧入方向の一端から他端に亘って一定である。そのため、弁座128は、圧入方向において、一つの面(第1端面29a)で弁座取付部40に接触する。この場合も、弁座128の外周面29cと接触する面(圧入面40c)にはコーティング層60が形成されておらず、弁座128の圧入方向端面(第1端面29a)と接触する面(第1合わせ面40a)にはコーティング層60が形成されている。第1合わせ面40aにコーティング層60を形成することにより、例えば、
図9に示す第1合わせ面40aにコーティング層60が形成されていない形態と比較して、囲み部52の近傍における腐食を抑制することができる。
【0040】
(第1ハウジング内におけるコーティング層の形成位置)
図10に示すように、第1ハウジング20a内(内壁24の表面)にもコーティング層60が形成されている。具体的には、コーティング層60は、再循環通路34側の端部から内壁24とシール材22の接触部分(圧入面)を超える範囲まで形成されている。これにより、連通孔25を通じて排気ガスが第1ハウジング20a内に移動しても、第1ハウジング20aが腐食することを防止することができる。なお、シール材22は、排気ガスに由来する凝固水がアクチュエータ(図示省略)側に移動することを防止している。
【0041】
シール材22は、円形のリングである。シール材22は、環状の金属部材70と、金属部材70を被覆しているゴム部72を備えている。すなわち、金属部材70及びゴム部72は、シャフト26の周囲を一巡している。ゴム部72は、被覆部の一例である。ゴム部72の材料はフッ素ゴムであり、第1ハウジング20aより弾性率が高く(すなわち、第1ハウジング20aより柔らかい)、耐腐食性に優れている。金属部材70は、シール材22の形状を維持、すなわち、第1ハウジング20a(内壁24)とシャフト26の間のシール性を保持する機能を有している。また、ゴム部72は、第1ハウジング20aとシャフト26の間をシールするとともに、シール材22を圧入する際にコーティング層60が第1ハウジング20aから剥がれることを防止する機能を有している。そのため、第1ハウジング20a内にシール材22を圧入しても、圧入面(内壁24)のコーティング層60は剥がれない。なお、ゴム部72の材料として、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等のゴム材料、あるいは、第1ハウジング20aより弾性率が高く、耐腐食性に優れた樹脂等を用いることもできる。
【0042】
上記したように、EGRバルブ10では、第1ハウジング20a内にシール材22を圧入し、第1ハウジング20aとシャフト26の隙間をシールしている。そのため、連通孔25を通じて第1ハウジング20a内に排気ガスが侵入しても、排気ガスは、シール材22を越えて、シール材22に対して再循環通路34とは反対側の空間には移動しない。そのため、スプリング38、アクチュエータ等、シャフト26の動作を制御する部品、及び、第1ハウジング20a内のシール材22に対して再循環通路34とは反対側の部位は腐食しない。また、再循環通路34側の端部から内壁24とシール材22の接触部分を超える範囲までコーティング層60が形成されているので、シール材22よりも再循環通路34側、及び、シール材22との接触部分(圧入面)が腐食することも防止することができる。
【0043】
上記したように、例えば弁座28の場合、弁座28を圧入する際にコーティング層60が剥がれることを防止するため、圧入面40cにはコーティング層60を形成しない。従来は、シャフトとハウジングの間をシールするシール材についても、シール材を圧入する際にコーティング層が剥がれることを防止するため、シール材の圧入面にはコーティング層を形成しないことが技術常識であった。そのため、シール材とハウジングの接触部分よりも再循環経路側において、ハウジングの表面にコーティング層で覆われていない部分が生じていた。しかしながら、樹脂等の弾性材で形成されたシール材の場合、圧入の際にシール材自体が変形し、コーティング層が剥がれることはない。EGRバルブ10は、その点に着目し、従来の技術常識に反してシール材22の圧入面にもコーティング層60を形成し、第1ハウジング20a内の腐食を確実に防止することに成功した。
【0044】
(他の実施形態)
上記実施例では、再循環通路内において、弁座の外周面と接触する面には耐腐食性コーティングが形成されておらず、弁座の圧入方向端面と接触する面に耐腐食性コーティングが形成されている特徴(特徴1)と、シャフトを支持しているハウジング内において、再循環通路側の端部からハウジングとシール材の接触部分を超える範囲まで耐腐食性コーティングが形成されている特徴(特徴2)という2つの特徴を備えたEGRバルブについて説明した。しかしながら、EGRバルブは、特徴1のみ、あるいは、特徴2のみを備えていてもよい。いずれの場合も、従来のEGRバルブよりも耐腐食性を向上さえることができる。
【0045】
また、シール材の外面、弁座の外面は、円形でなくてもよく、例えば、多角形、あるいは楕円形であってもよい。シール材、弁座の外面は、ハウジングの形状に合わせて適宜変更することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0047】
2:吸気管(吸気系)
4:内燃機関
10:EGRバルブ
14:EGR管
20:ハウジング
22:シール材
26:シャフト
28:弁座
30:弁体
34:再循環通路
60:耐腐食性コーティング