(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性材料、全固体二次電池および固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20221003BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221003BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221003BHJP
H01M 4/485 20100101ALN20221003BHJP
H01M 4/505 20100101ALN20221003BHJP
H01M 4/525 20100101ALN20221003BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
(21)【出願番号】P 2019054767
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】八木 援
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-528655(JP,A)
【文献】国際公開第2018/088522(WO,A1)
【文献】特表2008-504662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M 4/00- 4/62
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性材料であって、
組成式が、Li
a(OH)
bF
cCl
dBr
1-d(ただし、1.8≦a≦2.3、b=a-c-1、0<c≦0.30、0<d<1)であり、逆ペロブスカイト型の結晶相を含む。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン伝導性材料であって、
0.02≦c≦0.20、および、0.25≦d≦0.95
をさらに満たす。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性材料であって、
LiFの結晶相をさらに含む。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載のリチウムイオン伝導性材料であって、
溶融固化した固体である。
【請求項5】
全固体二次電池であって、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に位置し、請求項1ないし4いずれか1つに記載のリチウムイオン伝導性材料を含むリチウムイオン伝導性材料層と、
を備える。
【請求項6】
請求項5に記載の全固体二次電池であって、
前記正極は、リチウム複合酸化物を含み、
前記負極は、Tiを含み、かつ、Li/Li
+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離可能である材料を含む。
【請求項7】
請求項6に記載の全固体二次電池であって、
前記リチウム複合酸化物が、層状岩塩構造もしくはスピネル構造を有する。
【請求項8】
固体電解質の製造方法であって、
Arガス雰囲気下で、LiOHと、LiFと、LiClと、LiBrとを、モル比1:X:Y:Z(ただし、0.03≦X≦0.3,0.2≦Y<1.1,0<Z<1)にて攪拌しつつ、250℃以上600℃以下にて0.1時間以上加熱する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性材料に関連し、リチウムイオン伝導性材料は、例えば、全固体二次電池に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来より、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器には、リチウム電池が用いられている。これらの用途のリチウム電池では、イオンを移動させる媒体として、リチウム塩を可燃性の有機溶媒に溶解させた液体の電解質、すなわち、電解液が使用されている。電解液を用いる電池では、電解液の漏液、発火、爆発等を防止するために、様々な対策を講じる必要がある。一方、近年、容易に安全性を確保することができる固体のリチウムイオン伝導性材料を使用した全固体リチウム電池が注目されている。全固体リチウム電池では、要素の全てが固体であるため、安全対策が容易であり、漏液や腐食による性能の劣化の問題も生じ難い。
【0003】
リチウムイオン伝導性材料の研究として、例えば、非特許文献1がある。非特許文献1では、逆ペロブスカイト型構造を有するリチウムイオン伝導材料である様々なLi3-n(OHn)Cl(0.83≦n≦2)およびLi3-n(OHn)Br(1≦n≦2)に関して実験が行われており、これらの材料の温度とイオン伝導率との関係について報告されている。
【0004】
特許文献1では、Li3OCl、Li3OBr等の逆ペロブスカイト型のリチウムイオン伝導性材料について記載されている。非特許文献2では、逆ペロブスカイト型のLi2(OH)0.9F0.1ClとLi2OHBrとに関して、温度とリチウムイオン伝導率との関係について報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2013/0202971号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Georg Schwering、他3名、"High Lithium Ionic Conductivity in the Lithium Halide Hydrates Li3-n(OHn)Cl (0.83≦n≦2) and Li3-n(OHn)B r(1≦n≦2) at Ambient Temperatures"、CHEMPHYSCHEM、2003年4月、343-348 、WILEY-VCH発行
【文献】Yutao Li、他10名、"Fluorine-Doped Antiperovskite Electrolyte for All-Solid-State Lithium-Ion Batteries"、Angewandte Chemie International Edition、2016年、55、9965-9968、WILEY-VCH発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、リチウムイオン伝導率が高いリチウムイオン伝導性材料に関して、様々な材料の研究が行われているが、電池に求められる様々な特性に応じた材料の選択肢を広げるために、リチウムイオン伝導率が比較的高い多くの種類の材料の提案が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るリチウムイオン伝導性材料は、組成式が、Lia(OH)bFcCldBr1-d(ただし、1.8≦a≦2.3、b=a-c-1、0<c≦0.30、0<d<1)であり、逆ペロブスカイト型の結晶相を含む。さらに好ましくは、0.02≦c≦0.20、および、0.25≦<d≦0.95である。リチウムイオン伝導性材料は、低温においても比較的高いリチウムイオン伝導率を有する。リチウムイオン伝導性材料は、LiFの結晶相をさらに含む場合がある。低温でも高い伝導度を有するのは、結晶相の安定性が高く低温での相転移がないためである。また、温度による相転移がないことは、デバイスとしても電解質の体積変化がなく電極界面での剥離やクラックが抑えられるため有利な側面もある。好ましい形態では、リチウムイオン伝導性材料は溶融固化した固体である。
【0009】
本発明は、上記リチウムイオン伝導性材料を含む全固体二次電池にも向けられている。好ましい形態では、全固体二次電池の正極は、リチウム複合酸化物を含み、負極は、Tiを含み、かつ、Li/Li+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離が可能である材料を含む。
【0010】
前記リチウム複合酸化物は、好ましくは、層状岩塩構造もしくはスピネル型構造を有する。
【0011】
本発明は、固体電解質の製造方法にも向けられている。固体電解質の製造方法では、Arガス雰囲気下で、LiOHと、LiFと、LiClと、LiBrとを、モル比1:X:Y:Z(ただし、0.03≦X≦0.3,0.2≦Y<1.1,0<Z<1)にて攪拌しつつ、250℃以上600℃以下にて0.1時間以上加熱する。
【0012】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウムイオン伝導率が高い新規なリチウムイオン伝導性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実験例2(比較例)に係るリチウムイオン伝導性材料のX線回折スペクトルの例を示す図である。
【
図3】実験例5に係るリチウムイオン伝導性材料のX線回折スペクトルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の好ましい一の実施の形態に係る全固体二次電池1を示す縦断面図である。全固体二次電池1は、上から順に、正極11と、固体電解質である、または、固体電解質を含むリチウムイオン伝導性材料層13と、負極12とを順に有する。すなわち、リチウムイオン伝導性材料層13は、正極11と負極12との間に位置する。リチウムイオン伝導性材料層13を形成するリチウムイオン伝導性材料は、好ましくは、溶融固化した固体である。正極11は、集電体111と、正極層112とを含む。正極層112は、正極活物質を含む。負極12は、集電体121と、負極層122とを含む。負極層122は、負極活物質を含む。
【0016】
正極層112の正極活物質は、好ましくは、リチウム複合酸化物を含む。リチウム複合酸化物とは、LixMO2(0.05<x<1.30であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にはCo、Ni、MnおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種を含む。)で表される酸化物である。リチウム複合酸化物は好ましくは層状岩塩構造またはスピネル型構造を有する。また、リチウム複合酸化物は、好ましくは焼結体である。
【0017】
層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物の例としては、LixCoO2(コバルト酸リチウム)、LixNiO2(ニッケル酸リチウム)、LixMnO2(マンガン酸リチウム)、LixNiMnO2(ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixNiCoO2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LixCoNiMnO2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixCoMnO2(コバルト・マンガン酸リチウム)、Li2MnO3、および、上記化合物との固溶物等が挙げられる。特に好ましくは、LixCoNiMnO2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixCoO2(コバルト酸リチウム、典型的にはLiCoO2)である。スピネル構造を有するリチウム複合酸化物の例としては、LiMn2O4系材料やLiNi0.5Mn1.5O4系材料等が挙げられる。
【0018】
リチウム複合酸化物には、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y,Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、BiおよびWから選択される1種以上の元素が含まれていてもよい。また、オリビン構造を持つLiMPO4(式中、MはFe、Co、MnおよびNiから選択される少なくとも1種である)等も好適に用いることができる。
【0019】
負極層122は、Tiを含み、かつ、Li/Li+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離可能である材料を含む。換言すれば、Li/Li+平衡電位から0.4V以上高い電位でリチウムイオンの挿入および脱離が可能である。負極活物質は、好ましくは、上記Tiを含み、より好ましくは、Tiを含む酸化物である。そのような負極活物質の好ましい例としては、Li4Ti5O12(チタン酸リチウム、以下、LTO)、Nb2TiO7(ニオブチタン複合酸化物)、TiO2(酸化チタン)が挙げられ、より好ましくはLTOおよびNb2TiO7、さらに好ましくはLTOである。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLi4Ti5O12(スピネル構造)とLi7Ti5O12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。また、Tiを含む酸化物は、好ましくは焼結体である。
【0020】
全固体二次電池1の正極11および負極12の構成および材料は、上述のものには限定されず、他の様々な構成および材料が採用可能である。
【0021】
全固体二次電池1の製造の一例では、正極層112上に集電体111を形成した正極11と、負極層122上に集電体121を形成した負極12とが準備される。そして、正極層112および負極層122をリチウムイオン伝導性材料に対向させつつリチウムイオン伝導性材料を正極11と負極12との間に挟んで加圧や加熱等により、リチウムイオン伝導性材料がリチウムイオン伝導性材料層13となって全固体二次電池1が製造される。正極11、リチウムイオン伝導性材料層13および負極12は、他の手法により結合されてもよい。また、リチウムイオン伝導性材料に他の材料が加えられてリチウムイオン伝導性材料層13が形成されてもよい。すなわち、リチウムイオン伝導性材料層13はリチウムイオン伝導性材料を含む層である。
【0022】
正極層、負極層の構造としては、一般に合材電極と呼ばれる、正負極活物質、電子伝導助剤、リチウムイオン伝導性材料及びバインダー等とを混合し成形した形態でもよく、正極、負極原料粉末を焼結した焼結板の形態であってもよい。焼結板は緻密体でも多孔体でもよく、その多孔内にはリチウムイオン伝導性材料を含んでもよい。
【0023】
次に、リチウムイオン伝導性材料の実験例について説明する。
【0024】
(実験例1)
原料として、市販のLiBr(純度99.9%以上)、LiOH(純度98.0%以上)およびLiF(純度99.9%以上)を用意した。露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にて、それぞれの原料をLiBr:LiOH:LiFが1.0:0.9:0.1(モル比)となるように秤量し混合した。得られた混合粉末をアルミナ製のるつぼ(純度99.7%)に投入し、さらに石英管へ入れ、フランジで密閉した。
【0025】
この石英管を管状炉へセットし、フランジのガス導入口から露点-50℃以下のArガスを流してガス排出口から排出させながら、かつ、混合粉末を攪拌しながら、350℃で30分間の熱処理を行った。冷却後、再び露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にてるつぼを取り出した。るつぼ内から合成物を取り出し、乳鉢で粉砕してリチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0026】
なお、Arガス雰囲気下での加熱温度および加熱時間は適宜変更可能であり、一般的には、加熱温度は250℃以上600℃以下であり、加熱時間は0.1時間以上であればよい。
【0027】
(実験例2)
原料として、市販のLiCl(純度99.9%以上)、LiOH(純度98.0%以上)およびLiF(純度99.9%以上)LiOH(純度98.0%以上)を用意した。LiCl:LiOH:LiFが1.0:0.9:0.1(モル比)となるように秤量し、実験例1と同様の処理を行ってリチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0028】
(実験例3)
原料として、市販のLiCl(純度99.9%以上)、LiBr(純度99.9%以上)、LiOH(純度98.0%以上)およびLiF(純度99.9%以上)LiOH(純度98.0%以上)を用意した。LiCl:LiBr:LiOH:LiFが0.25:0.75:0.9:0.1(モル比)となるように秤量し、実験例1と同様の処理を行ってリチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0029】
(実験例4)
LiCl:LiBr:LiOH:LiFを0.50:0.50:0.9:0.1(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例1と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0030】
(実験例5)
LiCl:LiBr:LiOH:LiFを0.75:0.25:0.9:0.1(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例1と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0031】
(実験例6)
LiCl:LiBr:LiOH:LiFを0.90:0.10:0.9:0.1(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例1と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0032】
(実験例7)
LiCl:LiBr:LiOH:LiFを0.75:0.25:0.8:0.2(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例1と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0033】
(実験例8)
LiCl:LiBr:LiOH:LiFを0.75:0.25:0.7:0.3(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例1と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0034】
(実験例9)
LiCl:LiBr:LiOH:LiFを0.75:0.25:0.95:0.05(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例1と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0035】
上記実験例における原料比および合成条件を表1に示す。表1において、「*」を付す実験例3ないし7および9は本発明の実施例であり、実験例1、2および8は比較例である。
【0036】
【0037】
<組成分析>
上記各実験例で得られたリチウムイオン伝導性材料の粉末に対して、組成分析を行った。ハロゲンのFとClとBrはイオンクロマトグラフィー(IC)にて、LiはICP発光分光分析法(ICP-AES)にて、検量線法で定量分析を行った。直接分析できないOH基に関しては、F、Cl、Br、Liの分析値からモル量を算出し、Fは-1価、Clは-1価、Brは-1価、Liは+1価として分析値から算出した小数点二桁のモル数を乗じ、OHを-1価として、F、Cl、Br、Li、OHの電荷×モル数の合計が0.00となるようにOHのモル数を算出した。
【0038】
<リチウムイオン伝導率の測定>
上記各実験例で得られたリチウムイオン伝導性材料のリチウムイオン伝導率を測定するために、SUSセルを作製した。まず、リチウムイオン伝導性材料の粉末1gにセラミックスペーサを0.05g混合し、乳鉢で軽く混合した。得られたセラミックスペーサ入りリチウムイオン伝導性材料の粉末0.02gを、500オングストローム(Å)のAuスパッタを施した直径15.5mm、厚さ0.3mmのステンレス鋼板の上全体に広がるように敷き詰めた。さらにリチウムイオン伝導性材料の粉末上に、500オングストロームのAuスパッタを施した直径15.5mm、厚さ0.3mmのステンレス鋼板を、Auスパッタ面がリチウムイオン伝導性材料の粉末と接するように載せて積層体とし、その上に重しを載せた。
【0039】
積層体をグローブボックス内にある電気炉へ入れ、400℃で45分間熱処理を行ってリチウムイオン伝導性材料の粉末を溶融させた後、溶融されたリチウムイオン伝導性材料を100℃/hで冷却してリチウムイオン伝導性材料層を形成し、SUSセルを得た。リチウムイオン伝導性材料層は、溶融固化した固体のリチウムイオン伝導性材料により形成される。SUSセルの厚さを測定し、上下の0.3mmのステンレス鋼板とAuスパッタ厚さの合計をSUSセルの厚さから引いたところ、各実験例のリチウムイオン伝導性材料層の厚さは30μmと算出された。
【0040】
SUSセルのリチウムイオン伝導率を0.3MHzから0.1Hzの範囲で交流インピーダンス測定により行った。交流インピーダンス測定は、2枚のSUS板のリチウムイオン伝導性材料層とは反対側の面にそれぞれ測定端子を接続して行った。上記測定を25℃および0℃において行った。ただし、0℃における測定は一部の実験例のみにおいて行った。
【0041】
<結晶構造解析>
上記各実験例で得られたリチウムイオン伝導性材料の粉末に対して、結晶構造解析を行った。結晶構造解析には、デバイ・シェラー型回折計のBL5S2(粉末回折ビームライン)を用いた。X線の波長は、0.7オングストローム、検出器は、二次元半導体検出器(PILATUS 100K)4連装、試料は、不活性雰囲気のグローブボックス内でキャピラリに封入した。
【0042】
低温での測定は、25℃→0℃→-20℃→-50℃→0℃→25℃と変化させつつ各温度で行った。各温度に到達後5分保持した上で測定を行った。高温での測定は、25℃→50℃→100℃→150℃→200℃→100℃→25℃と変化させつつ各温度で行った。各温度に到達後5分保持した上で測定を行った。
【0043】
<評価>
表2は、各実験例における組成分析、リチウムイオン伝導率測定、および、結晶構造解析の結果を示す。なお、リチウムイオン伝導率は、実験例1(比較例)のリチウムイオン伝導率を1.0とした場合の相対値を示す。全ての実験例は、同一作業者による同一条件下にて行われ、人または場所の違いによる影響を可能な限り排除している。
【0044】
【0045】
ここで、リチウムイオン伝導性材料の組成式をLia(OH)bFcCldBr1-dと表現する。b=a-c-1であり、秤量や分析過程のばらつきにより、aの値は1.8以上2.3以下である。
【0046】
表2において、0℃におけるリチウムイオン伝導率の測定は、実験例1、2、5のみでしか実施していないが、リチウムイオン伝導率は、逆ペロブスカイト型の立方晶である場合に高く、斜方晶(直方晶)である場合に低いことが判っている。実験例3、4、6ないし9では0℃における結晶相が立方晶であることから、これらの実験例においても実験例5と同様に、0℃においてリチウムイオン伝導率が高いと考えられる。なお、「逆ペロブスカイト型の」という表現は、「逆ペロブスカイト型の結晶構造を有する」と同義である。リチウムイオン伝導性材料としては、逆ペロブスカイト型の結晶相のみである必要は無く、逆ペロブスカイト型の結晶相を含めばよい。
【0047】
参考までに、
図2に実験例2の各温度におけるX線回折スペクトルを示し、
図3に実験例5の各温度におけるX線回折スペクトルを示す。
図2および
図5では、温度によってスペクトルのベースラインをずらしている。
図2の25℃では立方晶であるが、0℃以下では相転移が生じて斜方晶となる。
図3では-50℃であっても立方晶が維持される。
【0048】
ここで、組成分析の結果、Clが存在しない実験例1(比較例)と、実験例3ないし7および9とを比較することにより、実験例1のBrに代えてClが少しでも存在すればリチウムイオン伝導率が向上するといえる。一方、Brが存在しない実験例2(比較例)では、25℃におけるリチウムイオン伝導率は高いが、0℃では斜方晶となってリチウムイオン伝導率は低い。したがって、ClとBrとが存在することにより、比較的高いリチウムイオン伝導率が25℃および0℃の双方で確保できるといえる。特に、BrとClのmol比が1:9(d=0.91)である実験例6から、Brが僅かに含まれるのみで上記効果が得られることが分かる。また、実験例3でも高いリチウムイオン伝導率が得られることから、上記組成式において、0<d<1であることが好ましいといえる。より好ましくは、実験例3ないし7および9の結果から、0.5≦d≦0.95であり、さらに好ましくは、0.75≦d≦0.91である。
【0049】
cの値は、0<c≦0.30であると好ましいと考えられ、さらに好ましくは、0.02≦c≦0.20であり、実験例3ないし7および9より、0.05≦c≦0.20であることがより好ましい。a,b,c,dが上記条件を満たすことにより、常温のみならず低温においても比較的高いリチウムイオン伝導率を有する新規なリチウムイオン伝導性材料を得ることが実現される。
【0050】
また、上記実験例から、原料のLiClと、LiBrと、LiOHと、LiFのモル比を1:X:Y:Zとして、0.03≦X≦0.3,0.2≦Y<1.1,0<Z<1とすることにより、常温のみならず低温においても比較的高いリチウムイオン伝導率を有する新規なリチウムイオン伝導性材料が得られると考えられる。少しでもLiBrを原料に含めることにより、結晶相の温度安定性が高まり低温での相転移による低伝導化を防ぐことができる。なお、表2の最後の欄に示すように、原料の混合比によっては余剰のLiFが残留するが、リチウムイオン伝導率には大きな影響は与えない。この場合、リチウムイオン伝導性材料は、LiFの結晶相を含む。
【0051】
上記リチウムイオン伝導性材料および全固体二次電池、並びに、これらの製造方法は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。
【0052】
例えば、リチウムイオン伝導性材料は、全固体二次電池以外の用途に用いられてもよい。リチウムイオン伝導性材料の製造条件は適宜変更されてよい。また、リチウムイオン伝導性材料の製造に用いられる原料には他の材料が含められてもよい。
【0053】
既述のように、全固体二次電池1の構造および製造方法は適宜変更されてよい。上記正極11および負極12は一例に過ぎない。全固体二次電池1は、正極11および負極12を個別に先に製造するのではなく、集電体111、正極層112、リチウムイオン伝導性材料、負極層122、集電体121が重ねられた状態で加熱および加圧が行われてもよい。
【0054】
上記SUSセルの製造において、一方のステンレス鋼板に代えて正極層の板、例えば、コバルト酸リチウムの焼結板を用い、他方のステンレス鋼板に代えて負極層の板、例えば、Tiを含み、かつ、Li/Li+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離可能な焼結板を用いて、加圧処理を行っても全固体二次電池を製造することが可能であり、実際に前述のような作製方法にてセルを作製し、正極及び負極板いずれもリチウムイオン伝導性材料層と反対側の面に集電層を形成し、150℃下にて静置してから充放電操作を行ったところ、電池動作することを確認できた。
【0055】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0056】
発明を詳細に描写して説明したが、上述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0057】
1 全固体二次電池
11 正極
12 負極
13 リチウムイオン伝導性材料層