(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221003BHJP
【FI】
H02M7/48 E
(21)【出願番号】P 2019191970
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】神宮 勲
(72)【発明者】
【氏名】吉野 輝雄
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-130746(JP,A)
【文献】特開2012-100398(JP,A)
【文献】特開2015-200535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変換器を含む電力変換器と、
前記複数の変換器とループ状にデイジーチェーン接続されて、前記複数の変換器の制御のためのパケットデータを相互に伝送する制御装置と、
を備え、
前記パケットデータは、
前記複数の変換器を制御するための複数の制御データを格納する第1領域と、
前記複数の変換器を識別する識別データを格納する第2領域と、
前記複数の変換器のうち、前記識別データを有する変換器の変換器データを格納する第3領域と、
を含み、
前記第2領域に格納される前記識別データの個数は、1以上であり、前記複数の変換器の台数よりも少ない電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記第1領域に前記複数の制御データを格納し、
前記第2領域に前記識別データを格納し、
前記複数の制御データおよび前記識別データを有する第1パケットデータを前記複数の変換器のうちの1つである第1変換器に送信し、
前記第1変換器は、
前記識別データが自己を識別するデータの場合には、自己の変換器データを前記第1パケットデータの前記第3領域に書き込み、
前記識別データが自己を識別するデータではない場合には、データを書き込むことなく前記第1パケットデータを前記複数の変換器のうちの残りの変換器の1つに送信する請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記残りの変換器のうちの他の1つである第2変換器は、前記パケットデータを前記制御装置に送信し、
前記制御装置は、
前記第1パケットデータを受信して、前記変換器データを取得し、
前記複数の変換器のすべての前記変換器データにもとづいて、新たに複数の制御データを生成する請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記複数の変換器のそれぞれは、自己の状態を計測してディジタルデータに変換するアナログ-ディジタル変換器を含み、
前記制御装置が前記第1パケットデータを前記第1変換器に送信してから前記第2変換器から受信するまでの期間は、前記アナログ-ディジタル変換器のサンプリング周期にもとづいて設定され、
前記期間は、前記サンプリング周期よりも短く設定された請求項3記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第2領域に格納する前記識別データの個数は1である請求項1~4のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第2領域に格納する前記識別データの個数は前記台数の1/2である請求項1~4のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電力変換器は、モジュラーマルチレベルコンバータを含む請求項1~6のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流-直流間を電力変換する電力変換装置がある。電力系統や鉄道等の社会インフラ、工場設備等に設置される電力変換装置では、複数の電力変換器を多重化することによって、扱う電力を大容量化を図る場合がある。
【0003】
多重化された電力変換器に制御指令を送信し、電力変換器からその状態を受信するために制御装置と電力変換器との間にこれらのデータを送受信する通信路が設けられる。多重化された電力変換器では、変換器ごとに通信路を設けると、変換器数に応じて通信路を設けることとなり、コストやスペース等の観点からこれらを削減する必要がある。
【0004】
制御装置と各電力変換器との間の通信路をデイジーチェーン接続で構成することによって、複数の電力変換器間の通信路を1つにまとめることができる。デイジーチェーン接続された通信路を用いた電力変換装置では、伝送するデータは、制御装置から各変換器に順次転送されるため、通信路のループを一巡する期間によって、電力変換装置の動作が制約される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、デイジーチェーン接続された通信路を有していても、動作の制約が少ない電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る電力変換装置は、複数の変換器を含む電力変換器と、前記パケットデータは、前記複数の変換器を制御するための複数の制御データを格納する第1領域と、前記複数の変換器を識別する識別データを格納する第2領域と、前記複数の変換器のうち、前記識別データを有する変換器の変換器データを格納する第3領域と、を含む。前記第2領域に格納される前記識別データの個数は、1以上であり、前記複数の変換器の台数よりも少ない。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態では、デイジーチェーン接続された通信路を有していても、動作の制約が少ない電力変換装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】
図1の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】
図1の電力変換装置内で伝送されるパケットデータを例示する模式図である。
【
図4】実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式図である。
【
図5】実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
【
図6】比較例の電力変換装置内で伝送されるパケットデータを例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の電力変換装置10は、電力変換器20と、制御装置50と、を備える。電力変換装置10は、交流端子21a~21cを介して、交流系統1に接続される。この例のように、電力変換装置10は、変圧器2を介して交流系統1に接続されてもよい。たとえば、交流系統1は、三相または単相の50Hz若しくは60Hzの電源、負荷および交流送電線を備える構成とすることができる。電力変換装置10は、直流系統3に接続される。直流系統3は、たとえば直流送電線等を含む。
【0012】
電力変換装置10は、交流系統1と直流系統3との間に接続されて、双方向の電力変換を行うことができる。
【0013】
電力変換器20は、三相交流の各相に対応した単位アーム22を含む。単位アーム22は、直流端子21d,21e間で直列に接続されレグを形成する。単位アーム22は、高電位側のUP相、VP相、WP相および低電位側のUN相、VN相、WN相に対応して設けられている。
【0014】
直流端子21d,21e間で直列に接続される単位アーム22には、変圧器24がそれぞれ直列に接続されている。変圧器24に代えてバッファリアクトルを接続してもよい。
【0015】
単位アーム22は、カスケードに接続された単位変換器(セル)30を含む。セル30は、単位アーム22当たり1個以上あればよいが、以下では、C個直列接続されているものとする(Cは2以上の整数)。
【0016】
ここでは、多重化制御方式のうち複数の単位変換器がカスケードに接続されたモジュラーマルチレベルコンバータ(Modular Multilevel Converter、MMC)の例について説明するが、以下説明する通信方式は、MMCに限らずその他の多重化制御方式の電力変換装置に適用することができる。たとえば、適用する電力変換装置は、並列接続された電力変換器を備えるものであってもよい。
【0017】
制御装置50は、制御回路52を含む。制御回路52は、通信路60を介して電力変換器20と接続されている。この例では、通信路60は、単位アーム22ごとに設けられている。図では、煩雑さを避けるために、UN相に対応する単位アーム22に対応する通信路61についてセル30との相互の接続が示されている。その他の単位アーム22に対しては、UP相では、制御装置50側の“a”とセル30側の“a”が相互に接続されていることを示している。同様に、VP相では、制御装置50側の“b”とセル30側の“b”が相互に接続され、WP相では、制御装置50側の“c”とセル30側の“c”が相互に接続されている。低電位側の各相についても同様であり、VN相では、制御装置50側の“d”とセル30側の“d”が相互に接続され、WN相では、制御装置50側の“e”とセル30側の“e”が相互に接続されている。
【0018】
各通信路60,61では、単位アーム22ごとに、それぞれ同様に、制御装置50側の制御回路52とセル30側の制御回路とをデイジーチェーン接続によってループ状に接続している。以下では、UN相および通信路61について説明するが、他の相および通信路60についても同様である。
【0019】
UN相の通信路61では、制御装置50側の制御回路52は、もっとも高電位側のセル30(
図1ではセル1と表記)の制御回路36に接続されている。もっとも高電位側のセル30の制御回路36は、このセル30(セル1)にカスケード接続されているセル30(
図1ではセル2と表記)の制御回路36に接続されている。同様に低電位側に向かって、セル30同士が通信路61によって接続されている。もっとも低電位側のセル30(
図1ではセルCと表記)の制御回路36は、制御装置50側に制御回路52に接続されている。つまり、制御装置50→セル1→セル2→…→セルC→制御装置50の順に通信路61のループが形成されることによって、これらは、デイジーチェーン接続されている。
【0020】
1つのデイジーチェーン接続に含まれるセル30の台数は、上述では単位アーム22の台数としたが、適切な台数を任意に設定することができる。たとえば、1つのループをUP相およびUN相のセル30を含むようにしてもよいし、すべてのセル30を1つのループ内でデイジーチェーン接続する等してもよい。あるいは、1つの相を複数のループに分割してもよい。
【0021】
各通信路60,61には、通信路60,61に応じたパケットデータが伝送される。パケットデータは、後に詳述するが、セル30の動作を制御するためのデータ、セル30を識別するためのデータおよびセル30の状態を示すデータを含んでいる。
【0022】
図2は、
図1の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図2に示すように、セル30は、端子31a,31bを含む。セル30は、端子31a,31bによって、他のセル30等と接続される。セル30は、主回路32と、主回路給電部34と、制御回路36と、ゲート駆動回路35と、を含む。主回路給電部34は、主回路32に接続されており、主回路32から給電されて制御回路36およびゲート駆動回路35等の電源を生成する。制御回路36およびゲート駆動回路35は、主回路給電部34からの電力供給によって動作する。制御回路36は、通信路61を伝送されてくるパケットデータから、自己の制御データを取得して、取得した制御データにもとづいて、ゲート駆動信号を生成する。
【0023】
主回路32は、スイッチング素子32aと、ダイオード32bと、コンデンサ32cと、を含む。スイッチング素子32aは、自己消弧型の半導体素子である。スイッチング素子32aは、直列に2個接続されている。
【0024】
ダイオード32bは、還流ダイオードである。2個のダイオード32bは、直列に接続されているスイッチング素子32aにそれぞれ逆並列に接続されている。
【0025】
コンデンサ32cは、直列に接続された2個のスイッチング素子32aに並列に接続されている。
【0026】
なお、図示しないが、各セル30は、コンデンサ32cの両端のセル電圧や端子31a,31b間の電圧を検出する電圧検出器や入出力する電流を検出する電流検出器を有しており、電圧検出器や電流検出器によって検出された電圧や電流は、制御装置50に供給される。
【0027】
この例では、ハーフブリッジ構成のセル30を用いたMMCであるが、セルをフルブリッジ構成とし、すべてのセルをフルブリッジ構成に置き換えてももちろんよい。また、この例では、各セル30が主回路給電部34を有し、コンデンサ32cのエネルギの一部を利用して、自らの制御回路等に電力を供給する方式であるが、セルの外部から各セルに電力を供給する方式であってももちろんかまわない。
【0028】
制御装置50の制御回路52では、上位制御システム(図示せず)や制御装置50の他の部分から取得されたデータ、各セル30から取得したデータを処理して、各セル30のための制御データを生成する。制御データは、各セル30の動作を制御するためのデータである。制御データは、各セル30において、スイッチング素子を駆動するためのゲート駆動パルス等の制御指令に関するデータを含んでいる。
【0029】
上位制御システムから取得されるデータとは、たとえば直流電力の指令値等である。制御装置50の他の部分から取得されるデータとは、たとえば電力変換装置10が連系されている系統の電圧や電流のデータを含んでおり、地絡等の異常に関するデータを含む場合もある。
【0030】
制御回路52は、カウンタ設定値を生成する。カウンタ設定値は、セル30を識別するためのデータであり、デイジーチェーン接続されたループを巡回するパケットデータにセル30が自己のデータを書き込むか否かを判定するのに用いられる。各セル30は、カウンタ設定値を見て、自己のデータをパケットデータに書き込むか否かを判断する。
【0031】
各セル30の制御回路36は、制御装置50から受信したパケットデータから自己の制御データを取得する。各制御回路36は、取得された制御データにもとづいて、たとえば主回路32の動作を設定する。
【0032】
各セル30の制御回路36は、カウンタ設定値を確認して、その値にもとづいて自己のデータをパケットデータに書き込むべきか否かを判定する。
【0033】
各セル30の制御回路36は、カウンタ設定値が自己のデータをパケットデータに書き込むべき値の場合には、パケットデータに自己のデータを書き込んだ後に更新されたパケットデータを次のセル30に伝送する。制御回路36は、カウンタ設定値が自己のデータを書き込む必要がない値の場合には、何もせずそのままパケットデータを次のセル30に伝送する。
【0034】
各セル30および制御装置50は、互いに絶縁されている。そのため、各相の通信路60,61は、好ましくは光ファイバケーブルによって構成されている。通信路60,61が光ファイバによって構成されている場合には、制御回路52,36は、それぞれ光電変換回路を含んでおり、光電変換回路を介して、データの送受信を行う。
【0035】
図3は、
図1の電力変換装置内で伝送されるパケットデータを例示する模式図である。
図3に示すように、パケットデータ100は、制御データを含む領域(第1領域)102、カウンタ設定値を含む領域(第2領域)104および変換器データを含む領域(第3領域)106の各領域を含んでいる。制御データは、上述したように、各セル30のためのゲート駆動パルスのデータを含む制御指令である。もっとも高電位側のセル30(
図1、3ではセル1)のための制御データ1が対応する領域に格納されている。そのセル30の低電位側のセル(
図1、3ではセル2)のための制御データ2が対応する領域に格納されている。他のセル30についても同様であり、もっとも低電位側のセル30(
図1、3ではセルC)のための制御データCも対応する領域に格納されている。
【0036】
カウンタ設定値の領域104には、この例では、1~Cの整数が格納される。
図3では、1~Cの整数が入る変数iが設定されている。変数iは、制御回路52で初期値が設定され、制御回路52がパケットデータ100を送信するごとにインクリメント(たとえば1を加算)される。初期値によっては、デクリメント(たとえば1を減算)されるようにしてもよい。
【0037】
カウンタ設定値の領域104には、この例のように、1つの変数(設定値)を格納する場合に限らず、複数の設定値を格納するようにしてもよい。この例では、後述するように、制御回路52がパケットデータ100を送信ごとに1つずつ設定値をインクリメントするが、2つの設定値をパケットデータの送信ごとに1つずつ設定値をインクメントする等してもよい。
【0038】
変換器データの領域106には、カウンタ設定値で設定された値で識別されるセル30の変換器データを格納することができる。
【0039】
実施形態の電力変換装置10の動作について説明する。
図4は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式図である。
図4に示すように、制御回路52は、すべてのセル30のための制御データをパケットデータ100に格納し、いずれのセル30からの変換器データを取得するかを表すカウンタ設定値を設定して格納する。制御回路52は、すべての制御データおよびカウンタ設定値をパケットデータ100に格納して、通信路61を介して最初のセル30(
図4ではセル1)に送信する。各セル30は、自己のための制御データをパケットデータ100から取得して、パケットデータ100を次のセル30へ転送する。
【0040】
パケットデータ100には、いずれかのセル30の変換器データを取得するためにカウンタ設定値が設定されている。対象のセル30は、自ら判定して、自己の変換器データをパケットデータ100に書き込む。データが更新されたパケットデータ100aは、セル30間の転送が終了すると、制御回路52に転送される。
【0041】
制御回路52では、書き込まれた変換器データを取得する。制御回路52は、別のセル30の変換器データを取得するために、転送されたパケットデータ100aを再度セル30に伝送する。
【0042】
上述の動作を繰り返して、制御回路52は、すべてのセル30の変換器データを取得し、これらにもとづいて、新たな制御データを生成する。
【0043】
上述の一連の動作について、フローチャートを用いて説明する。
図5は、実施形態の電力変換装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
図5では、制御装置50における処理、1番目のセル30(セル1)における処理、2番目のセル30(セル2)における処理が示されており、以降同様の処理が行われるものとして示されている。C番目のセル(セルC)における処理も合わせて示されている。これらセル1、セル2、…、セルCは、たとえば
図1、3、4のセル1、セル2、…、セルCに対応する。つまり、パケットデータは、制御装置50→セル1→セル2→…→セルC→制御装置の順に転送される。
【0044】
ここで、セルN(N=1,2,…,C)をセル番号(
図5ではセルNo.と表記)と呼び、あらかじめ各セル30に割り当てられているものとする。
【0045】
図5に示すように、制御装置50では、ステップS1から処理が開始される。ステップS1において、制御装置50の制御回路52は、各セル30のための制御データを設定する。
【0046】
ステップS2において、制御回路52は、カウンタ設定値iを初期値である1に設定する。
【0047】
ステップS3において、制御回路52は、制御データおよびカウンタ設定値iが格納されたパケットデータ100を1番目のセル1に送信する。
【0048】
セル1では、ステップS11から処理が開始される。ステップS11において、セル1の制御回路36は、転送されてきたパケットデータ100を受信する。
【0049】
ステップS12において、セル1の制御回路36は、受信したパケットデータから自己の制御データを取得し、設定する。
【0050】
ステップS13において、セル1の制御回路36は、カウンタ設定値iが自己のセル番号に一致するか否かを判定する。この例では、カウンタ設定値iは“1”に設定されているので、処理を次のステップS14に遷移させる。
【0051】
ステップS14において、セル1の制御回路36は、パケットデータ100に自己の変換器データを書き込む。
【0052】
ステップS13で、カウンタ設定値iが自己のセル番号と異なる場合には、ステップS14の処理を行うことなく、次のステップS15に処理を遷移させる。
【0053】
ステップS15において、セル1の制御回路36は、パケットデータを次のセル2に送信する。この例では、セル1の変換器データが更新されているので、送信されるのは更新後のパケットデータ100aである。
【0054】
セル2では、ステップS21において、セル2の制御回路36は、転送されてきたパケットデータを受信する。この例では、受信するのは、セル1の変換器データが更新されたパケットデータ100aである。
【0055】
ステップS22において、セル2の制御回路36は、受信したパケットデータから自己の制御データを取得し、設定する。
【0056】
ステップS23において、セル2の制御回路36は、カウンタ設定値iが自己のセル番号に一致するか否かを判定する。この例では、カウンタ設定値iは“1”に設定されているので、ステップS24の処理を行うことなく、処理をステップS25に遷移させる。
【0057】
なお、ステップS23でカウンタ設定値iが自己のセル番号に一致する場合には、処理はステップS24に遷移される。ステップS24では、セル2の制御回路36は、パケットデータに自己の変換器データを書き込む。
【0058】
ステップS25において、セル2の制御回路36は、パケットデータを次のセル3(図示せず)に送信する。
【0059】
以降、図示しないが、セル3~セル(C-1)のそれぞれにおいて、各セルの制御回路36が上述のセル1、2と同様の処理を行う。この例では、カウンタ設定値iが“1”に設定されているので、2番目以降のセルは、転送されてきたパケットデータ100aに、自己の変換器データを書き込むことなく、そのまま次のセルにパケットデータ100aを転送する。
【0060】
セルCでは、ステップSC1において、セル2の制御回路36は、転送されてきたパケットデータを受信する。この例では、受信するのは、セル1の変換器データが更新されたパケットデータ100aである。
【0061】
ステップSC2において、セルCの制御回路36は、受信したパケットデータから自己の制御データを取得し、設定する。
【0062】
ステップSC3において、セルCの制御回路36は、カウンタ設定値iが自己のセル番号に一致するか否かを判定する。この例では、カウンタ設定値iは“1”に設定されているので、ステップSC4の処理を行うことなく、処理をステップSC5に遷移させる。
【0063】
なお、ステップSC3でカウンタ設定値iが自己のセル番号に一致する場合には、処理はステップSC4に遷移される。ステップSC4では、セル2の制御回路36は、パケットデータに自己の変換器データを書き込む。
【0064】
ステップSC5において、セルCの制御回路36は、パケットデータを制御装置50の制御回路52に送信する。
【0065】
処理は、再び制御装置50の制御回路52に移り、ステップS4において、制御装置50の制御回路52は、セルCから転送されてきたパケットデータを受信する。この例では、制御回路52は、セル1の変換器データで更新されたパケットデータ100aを受信する。
【0066】
ステップS5において、制御装置50の制御回路52は、パケットデータから変換器データを取得する。この例では、セル1の変換器データを取得する。
【0067】
ステップS6において、制御装置50の制御回路52は、受信したパケットデータのカウンタ設定値iがセルの台数Cよりも小さいか否かを確認する。カウンタ設定値iがセルの台数Cよりも小さい場合には、次のステップS7に処理を遷移させる。カウンタ設定値iがセルの台数C以上の場合には、処理を終了する。処理を終了した後には、制御装置50の制御回路52は、処理を最初のステップS1に戻して、上述の動作を繰り返す。
【0068】
ステップS7において、制御装置50の制御回路52は、カウンタ設定値iをインクリメントして、処理をステップS3に遷移させる。制御装置50の制御回路52および各セル30の制御回路36は、ステップS3以降の処理を上述と同様に繰り返す。
【0069】
この例では、制御装置50の制御回路52は、カウンタ設定値iが“1”に設定され、セル1の変換器データで更新されたパケットデータ100aを受信するので、新たなカウンタ設定値iは、“2”に設定される。カウンタ設定値iが“C”に設定されるまで、上述の動作が繰り返される。上述の動作を“C”回繰り返すことによって、制御装置50の制御回路52は、すべてのセル30の変換器データを取得することができる。
【0070】
上述では、カウンタ設定値を1つ設定し、セル30の台数C分、パケットデータの伝送を繰り返すことによって、すべてのセル30の変換器データを取得するものであるが、任意のカウンタ設定値を設定してももちろんよい。
【0071】
たとえば、カウンタ設定値を[i,i+2,i+4,…]のように設定することによって、奇数のセル番号のセル30の変換器データを取得した後に、偶数のセル番号のセル30の変換器データを取得するようにできる。巡回後に加算する値も1に限らず、任意に設定してよい。たとえば、カウンタ設定値を[i,i+1]のように設定した場合には、巡回するごとに2ずつ加算することによって、隣接するセルの変換器データを順次取得するようにすることができる。
【0072】
実施形態の電力変換装置の効果について説明する。
図6は、比較例の電力変換装置内で伝送されるパケットデータを例示する模式図である。
図6に示すように、比較例の電力変換装置では、デイジーチェーン接続のループを転送されるパケットデータ200は、制御データの領域202および変換器データの領域206を含んでいる。制御データは、実施形態の場合と同様に、各セル30のためのゲート駆動パルスのデータを含む制御指令である。
【0073】
パケットデータ100,200では、各データの領域に必要なワード数が割り当てられている。たとえば各制御データのワード数は、比較例の場合および実施形態の場合のいずれもA[ワード]であり、等しいワード数とすることができる。
【0074】
比較例の場合には、パケットデータ200は、セルごとの変換器データのための領域を含んでおり、変換器データのワード数は、B[ワード]である。したがって、比較例の場合には、パケットデータ200の長さは、A[ワード]×C[台]+B[ワード]×C[台]とされている。
【0075】
比較例の電力変換装置では、各セル30がパケットデータ200を受信するごとに変換器データを計測し、計測された変換器データをパケットデータ200に書き込む。そのため、パケットデータ200を受信してから次のセル30または制御装置50に転送するのに要する時間は、変換器データの取得のための時間と変換器データをパケットデータ200に書き込むための時間との和となる。パケットデータ200がデイジーチェーン接続されたセル30のループを一巡して制御装置50に戻ってくるまでの時間には、このような各セル30における変換器データの処理のための時間の総和が含まれることになる。
【0076】
実施形態の場合には、
図3~
図5の例のように、1つのセル30の変換器データが含まれており、パケットデータ100には、A[ワード]×C[台]+B[ワード]×1[台]+K[ワード]分の領域が設定されている。K[ワード]は、カウンタ設定値iのための領域であり、たとえばK=1である。
【0077】
このように、実施形態の電力変換装置10では、デイジーチェーン接続のループを巡回させるパケットデータ100の長さを抑制することができる。
【0078】
実施形態では、変換器データの処理のための時間を短縮することができる。
図3~
図5の例では、パケットデータ100がループを一巡するごとに1つの変換器データを処理するので、比較例の場合に比べて、変換器データの処理時間を1/Cとすることができる。実施形態では、変換器データの処理時間を削減することによって、比較例の場合に比べて、パケットデータが通信路を巡回する時間を短縮することができる。
【0079】
一般に、各セル30が取得する電流や電圧等は、フィードバックのために用いられ、これらの変動は、ゲート駆動パルスを含む制御データの設定周期に比べて十分遅い。そのため、各セル30に対するゲート駆動パルスの設定周期に応じて、パケットデータの伝送速度が決定される。
【0080】
また、各セル30が取得する電流や電圧等のアナログデータは、アナログ-ディジタル変換器(A/D変換器)によってディジタルデータに変換されて、各制御回路52,36等で処理される。A/D変換器は、所定のサンプリング周期によって、データの変換速度が決定される。このサンプリング周期は、通常、制御データの設定周期よりも十分長いので、制御データを高速に設定し、制御データの設定周期で変換器データを収集しても、収集した変換器データは、多数の冗長なデータを含んでいる場合がある。
【0081】
換言すれば、変換器データを取得する周期は、A/D変換器のサンプリングレートにもとづいて決定することができ、A/D変換器のサンプリング周期よりも短ければよい。たとえば、変換器データを取得する周期は、A/D変換器のサンプリング周期のばらつき等を考慮して、サンプリング周期の最小値(もっとも短い周期)よりも若干短くなるように設定されるのが好ましい。
【0082】
実施形態の電力変換装置10では、比較例の電力変換装置に対して、パケットデータ100のワード数を少なくすることができるので、比較例の場合よりもループを巡回するパケットデータ100の伝送速度を速くすることができる。そのため、ゲート駆動パルスを含む制御指令の設定周期を速くすることができるので、事故等の異常発生時に高速に電力変換装置10を停止等の安全動作をさせることができ、安全性を向上させることが可能になる。また、制御指令の設定周期を速くすることによって、電力変換装置10の運用性を向上させることができる。
【0083】
パケットデータ100の伝送速度をより速く設定することによって、1ループ当たりのセル30の台数を増加させることができる。1ループ当たりのセル30の台数を増加させることによって、電力変換装置10の全体の通信路60,61である光ファイバケーブルの本数を減らすことができ、コストの低減や電力変換装置10の設置スペースを削減することが可能になる。
【0084】
また、制御装置50の制御回路52は、通信路60,61の数に応じた回路規模となる。そのため、全体の通信路60,61の数を減らすことによって、制御回路52の回路規模を低減することができ、コストの低減や設置スペースの抑制に貢献することができる。
【0085】
変換器データを取得する周期を各セル30のA/D変換器のサンプリング周期にもとづいて、適切な値に設定することによって、制御装置50は、冗長な変換器データを取得することがない。そのため制御装置50の制御回路52の演算量を抑制することができる。
【0086】
以上説明した実施形態によれば、デイジーチェーン接続された通信路を有していても、動作の制約が少ない電力変換装置を実現することができる。
【0087】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 交流系統、2 変圧器、3 直流系統、10 電力変換装置、20 電力変換器、22 単位アーム、24 変圧器、30 単位変換器(セル)、36 制御回路、50 制御装置、52 制御回路、60,61 通信路、100,100a パケットデータ