(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】放射線検出材料及び放射線検出装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/62 20060101AFI20221003BHJP
C09K 11/00 20060101ALI20221003BHJP
G01T 1/00 20060101ALI20221003BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20221003BHJP
G01T 1/202 20060101ALI20221003BHJP
G21K 4/00 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C09K11/62
C09K11/00 E
G01T1/00 B
G01T1/20 B
G01T1/202
G21K4/00 B
(21)【出願番号】P 2019239117
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118876
【氏名又は名称】鈴木 順生
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】福田 由美
(72)【発明者】
【氏名】アルベサール 恵子
(72)【発明者】
【氏名】越崎 健司
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】KHARISOVA, Anastasiia et al.,Journal of Economics and Social Science,2019年09月03日,no. 14,pp. 1-4,http://earchive.tpu.ru/handle/11683/55729
【文献】FUJIMOTO, Yutaka et al.,Thallium magnesium chloride: A high light yield, large effective atomic number, intrinsically activated crystalline scintillator for X-ray and gamma-ray detection,Japanese Journal of Applied Physics,2016年,55,90301,DOI: 10.7567/JJAP.55.090301
【文献】ARAI, Miki et al.,Luminescence and scintillation properties of TlMg(Cl1-xBrx)3 crystals,Materials Research Bulletin,2019年08月24日,120,110589,DOI: 10.1016/j.materresbull.2019.110589
【文献】YANAGIDA, Takayuki et al.,Comparative study of ceramic and single crystal Ce:GAGG scintillator,Optical Materials,35,2013年,2480-2485,DOI: 10.1016/j.optmat.20143.07.002
【文献】杉山 誠,新規無機シンチレータ材料の開発,2011年,39, 5,306-311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
G01T 1/00
G01T 1/20
G01T 1/202
G21K 4/00
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
TlM
1-x―yR
xX
3-z … (1)
(ここで、
MはCa、Sr、Ba及びMgよりなる群から選択された少なくとも1つの元素であり、
RはCe、Pr、Yb、Ndの中から選択された少なくとも一つの元素であり、
XはCl、Br及びFよりなる群から選択された少なくとも1つの元素であり、
0≦x≦0.5であり、
-0.1≦y≦0.1であり、
-0.5≦z≦1である)
で表される、多結晶放射線検出材料。
【請求項2】
x>0である、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
RがCeである、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
MがMgである、請求項1~3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
XがClのみである、請求項1~4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項6】
焼結体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の材料を含んでなる、イメージングプレート。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の材料を用いて放射線を検出する、放射線検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出材料及び放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線は医療分野における粒子線治療や、陽電子照射断層撮影(Positron Emission Tomography, PET) やX線コンピュータ断層撮影法(X-ray Computed Tomography,以下X線CT)などの画像診断、工業および農業分野における滅菌、高分子加工などに幅広く使用されている。放射線利用に必要不可欠なのが放射線検出器であり、特に上述したX線CTは、X線源と対向する弧状に配列された検出器の中央に検体を挿入し、X線源と検出器(あるいは検体)を回転(スキャン)させ、取得した透過画像をコンピュータ処理することで、検体の断面画像を得る手法である。このような方法によれば、検体を回転軸方向に移動させながら複数回のスキャンを行うことで三次元画像を取得することも可能である。この方法は、高い位置分解能を有するため、微小な病巣を早期に発見することができ、がんを中心とした多くの病巣診断法として使用されている。
【0003】
以上のように、放射線検出器は、医療分野における病巣診断、工業分野における非破壊検査など、広範に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fujimotoら、Jpn.J.Appl.Phys., 55, 090301 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このX線CTの最大の課題は、検査時間の長さに起因する高い被曝量である。X線CTによる被曝量は、放射線照射量が低いほど低くなるので、検出器に含まれる放射線検出材料(シンチレータ)の、放射線照射量に対する発光量が多いほど、被曝量は少なくなる。また、シンチレータの蛍光寿命が短いほど、被曝量は少なくなる。
したがって、シンチレータの発光量を増加させ、蛍光寿命を短くすることは、X線CTの低被曝化、ひいてはX線CTの受診機会増大による病巣の早期発見に有効である。
【0007】
本発明の実施形態は、発光量が高い放射線検出材料、及びそのような材料を含む放射線検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態による多結晶放射線検出材料は、下記一般式(1):
TlM1-x―yRxX3-z … (1)
(ここで、
MはCa、Sr、Ba及びMgよりなる群から選択された少なくとも1つの金属元素であり、
RはCe、Pr、Yb、Ndの中から選択された少なくとも一つの発光中心元素であり、
XはCl、Br及びFよりなる群から選択された少なくとも1つのハロゲン元素であり、
0≦x≦0.5であり、
-0.1≦y≦0.1であり、
-0.5≦z≦1である)
で表されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の材料のSEMによる観察像を例示する図である。。
【
図2】実施例1の材料の電子線励起における発光スペクトルを例示するグラフ。
【
図3】実施例3の材料の電子線励起における発光スペクトルを例示するグラフ。
【
図4】実施例4の材料の電子線励起における発光スペクトルを例示するグラフ。
【
図5】実施例5の材料の電子線励起における発光スペクトルを例示するグラフ。
【
図6】実施例6の材料の電子線励起における発光スペクトルを例示するグラフ。
【
図7】実施例7の材料の電子線励起における発光スペクトルを例示するグラフ。
【
図8】実施例11の材料のX線励起における発光スペクトルを例示するグラフ。
【
図9】実施例12に対応する放射線検出システムの一例の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚さと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0012】
本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
実施形態に係る放射線検出材料は、下記一般式(1)で表される組成を有する多結晶構造を有している。
TlM1-x―yRxX3-z … (1)
ここで、
0≦x≦0.5、
-0.1≦y≦0.1、
-0.5≦z≦1、
っであり、この結晶は一般的にペロブスカイト構造を有している。
【0014】
上記の式(1)において、Mは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)及びMg(マグネシウム)よりなる群から選択された少なくとも1つを含む。RはCe(セリウム)、Yb(イッテルビウム)、Pr(プラセオジウム)及びNd(ネオジウム)よりなる群から選択された少なくとも一つを含む。XはCl(塩素)、Br(臭素)及びF(フッ素)よりなる群から選択された少なくとも1つを含む以下、本明細書において。材料の組成に関する濃度は、特に断らない限りモル濃度を表すものとする。
【0015】
実施形態による材料は、Tl(タリウム)と、金属元素Mと、ハロゲン元素Xとからなる結晶構造を有している。そして、その結晶構造に対して、金属元素Mの一部が発光中心元素Rによって置き換えられていてもよい。
金属元素Mは、Mは、Ca、Sr、Ba及びMgよりなる群から選択された少なくとも1つを含むが、Mgを含むことが好ましく、MはMgのみであることがより好ましい。MがMgを含むことによって、高い発光量を達成でき、Mgのみのほうがより高い発光量を達成できる。
【0016】
発光中心元素Rは、存在する場合には放射線検出材料の発光中心として機能する。また、存在しない場合には、放射線検出材料は他のメカニズムにより発光する(詳細後述)。発光中心元素Rは、Ce、Yb、Pr及びNdよりなる群から選択された少なくとも一つを含むが、Ceであることがより好ましい。Yb、Pr及びNdも、Yb2+の発光過程が4f125d1→4f13のパリティ許容遷移であること、Pr3+の発光過程の中で3P0→3HJ、3FJ遷移がスピン許容遷移であること、Nd3+の発光過程が4f25d1→4f3のパリティ許容遷移であることより、発光寿命は短い。Ceでは、Ce3+を含む材料は、Ce3+の発光過程である5d1→4f1遷移がパリティ許容遷移である上、5d1と4f1状態が、ともにスピンニ重項状態であるためにスピン許容遷移でもあるため、さらに発光寿命(蛍光寿命)が短いので、放射線を精度よく検出でき、被曝量を抑制することができる。また、発光中心元素の種類によって、材料の発光スペクトルにおけるピーク波長は変化するので、発光を検出する検出器の感度などに応じて、発光中心元素を選択することができるが、一般的なシリコン半導体を含む検出器にはCeを含む材料の発光スペクトルが適切である。
【0017】
ハロゲン元素Xは、Tl、金属元素M、および発光中心Rに対するカウンターイオンである。ハロゲン元素Xは、XはCl、Br及びFよりなる群から選択された少なくとも1つを含む。Xは複数のハロゲン元素の組み合わせでもあってもよいが、一種類のハロゲン元素で構成されることが好ましく、Clのみであることが好ましい。
【0018】
xは、発光中心元素Rの量を示す、実施形態において、0≦x≦0.5を満たす。例えば、x=0、すなわちRを含まない場合は、自己束縛励起子により発光する。これは、材料に放射線が照射されると、多数の自己束縛励起子が生じ、その自己束縛励起子が再結合する際に光が放出されるためである。x>0、すなわちRを含む場合には、Rが発光中心元素となる。材料に放射線が照射されると、照射線エネルギーにより結晶内に多数の電子正孔対を生成し、多数の電子正孔対のエネルギーが、自己束縛励起子を経て、あるいは直接、Rイオンに移動して、Rイオンを励起し、その励起されたRイオンが基底状態に戻る際に光を放出する。たとえば、RがCeであり、かつx>0である場合には、入射した放射線のエネルギーにより結晶内に多数の電子正孔対を生成し、多数の電子正孔対のエネルギーが、Ce3+に移動し、Ce3+を励起、励起されたCe3+が基底状態に戻る際に発光する。Ce3+は蛍光寿命が短い発光が得られるという点で特に好ましく用いられる。
【0019】
実施形態による材料は、Tl、M、及びXを含む。そして前記したように、Rが含まれない場合(x=0)であっても十分な発光量を得ることができるが、Mの少なくとも0.1モル%がRで置換されていれば、より高い発光量を得ることができるので好ましい。Rは、Mの半量を置き換えてもよい(x=0.5)が、xが0.1以下の場合には、発光量の低下(濃度消光)を極力抑制することができる。したがって、xは0.001≦x≦0.1であることが好ましい。xが0.5より大きい場合は、Rイオンどうしの間の距離が短くなりすぎる。このため、エネルギーの回遊、つまり濃度消光が生じ、発光量が低下し易く、好ましくない。本実施形態による放射線検出材料が発光中心元素Rを含有する場合、放射線が照射されたときの発光スペクトルにおけるピーク波長が、シリコン半導体などに基づく検出器において高い感度が得られる波長に適合しやすい。実施形態による材料は、例えば、γ線などの放射線により励起されたときに発光する。その発光の発光スペクトルにおけるピーク波長は、例えば、蛍光発光の蛍光成分のピーク波長に対応する。検出器には、例えば、シリコン半導体などを含む、PD(Photodiode)や、Si-PM(Silicon photomultiplier)を含む。
【0020】
yは、化学量論的なMとRの総和量、すなわち1からの偏差を示し、-0.1≦y≦0.1を満たす。yがこの範囲内にあることで、例えば、異相生成が抑制され、これに伴い発光量が増加する。yは、無輻射遷移が抑制し易くなるので、-0.05≦y≦0.05を満たすことが好ましい。
【0021】
実施形態において、zは、-0.5≦z≦1である。zがこの範囲内にあることで、例えば、結晶性を向上させることができる。zがこの範囲内にない場合、例えば、アニオン欠陥やカチオン欠陥が増加し、結晶性の低下を引き起こす場合がある。zは、結晶性をさらに向上させることができるので、-0.05≦z≦0.1を満たすことが好ましい。
【0022】
なお、Rの10モル%以下程度であれば、不可避不純物的な他の元素が含有されていても所望の特性が損なわれることはない。このような他の元素として、Mnなどが挙げられる。
【0023】
実施形態に係る材料は、多結晶構造を有する。材料の結晶構造は走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy-SEM)により確認することができる。SEM観察は、例えば日本電子(株)製JSM-6510LAを用いて、材料をカーボンテープ上に固定し、走査電子ビームの加速電圧15kVの条件で行う。実施形態に係る材料は10ナノメートルから100マイクロメートルの粒径を有する多結晶の集合体である。
【0024】
実施形態に係る材料は、一般に高密度である。材料が高密度であることで放射線との相互作用の確率が高くなるため、材料が高密度であることが好ましい。さらに、放射線との相互作用の確率は、実効原子番号が高いほど高まることから、材料を構成する原子の原子番号が高いことが好ましい。Tl(タリウム)は原子番号が81と極めて高いことから、タリウムが構成元素として含まれる材料は、放射線との相互作用が極めて高い確率で生じ、高い検出感度が得られる。実施形態に係る材料は、高いエネルギー分解能をも有している。例えば、高密度、高発光量かつ高いエネルギー分解能を有する材料が得られる。
【0025】
実施形態において、材料を構成する結晶は、ペロブスカイト構造を有している。ここで材料の全体が、完全なペロブスカイト構造を有していなくても良い。例えば、歪んだペロブスカイト構造であり、Xの欠損、または、X過剰の歪んだペロブスカイト構造を有しても良い。例えば、Xの欠損の状態、または、X過剰の状態が生じている状態では、上記のyの値およびzの値が化学量論的な数値とならないことがある。また,Tlサイトの一部をMが、あるいはMサイトの一部をTlが占有していてもよく、この場合にも上記のyの値およびzの値が化学量論的な数値とならないことがある。結晶構造に歪みがあるか否かは、XRDプロファイルから知ることができる。
【0026】
このような放射線検出材料により、発光量が高く、発光寿命の短い放射線検出材料、及び検出特性に優れた放射線検出装置が得られる。
【0027】
本実施形態の組成物は、例えば次のように作製することができる。
【0028】
原料粉末としてタリウム化合物、Mを含む化合物、Rを含む化合物を目的の組成となるように秤量し、混合する。タリウム化合物は、タリウムのハロゲン化物が好ましい。Mを含む化合物は、Mのハロゲン化物が好ましい。Rを含む化合物は、Rのハロゲン化物が望ましい、混合は乾式でも湿式でもよい。このようにして作製した混合物を真空雰囲気中にて200℃以上1000℃以下で熱処理する。原料の分解および組成物の生成が不十分にならないように、かつ生成した組成物が分解、溶融または昇華しないように温度条件を決定する。温度条件に合わせて熱処理時間も変えられるが、好ましくは1時間以上150時間以下である。熱処理時の真空度は5×10-4Pa以上が好ましく、1×10-4Pa以上がより好ましい。
【0029】
このようにして得られた粉末を、例えば樹脂中に分散してシンチレータ材料として用いることもできる。あるいはその粉末を圧縮成形して、適宜熱処理を加えてもよい。成形体を得るためには、例えば冷間等方圧加圧法(CIP-Cold Isostatic Pressing)あるいはハンドプレス機を用いて所望の形状に成型後、さらに焼結する。他に通電プラズマ焼結法、ホットプレス法、熱間等方圧加圧法(HIP-Hot Isostatic Pressing)などを用いることもできる。通電プラズマ焼結法では、真空環境、アルゴン環境のどちらでも同様に製造することができる。
【0030】
以下、実施形態を諸例によって説明する。
【0031】
実施例1
原料粉末として、塩化タリウム(TlCl)粉末(99.9%)及び無水塩化マグネシウム(MgCl2)粉末(99.9%)を準備する。これらの原料粉末が、TlMgCl3の組成になるように混合する。
【0032】
原料粉末の混合物を、例えばタンタル(Ta)などの高融点金属の箔などで包み、石英管内に入れ、真空中にて300℃で6時間の条件で乾燥後、室温まで冷却し石英管を封じ切る。封入した際の石英管内の真空度は9.0×10-5Paであった。この真空封入された石英管を650℃から500℃まで30時間かけて冷却しながら熱処理する。これにより、TlMgCl3で表わされる組成を有する多結晶複合塩化物からなる放射線検出材料が得られる。室温まで冷却された石英管からこの複合塩化物を取り出し、乳鉢等で粉砕し、実施例1の試料粉末を合成した。
【0033】
実施例2
実施例1における塩化マグネシウムを塩化カルシウム(CaCl2)に変更し、それ以外は、実施例1と同様の処理を行い、実施例2の試料粉末を合成した。
【0034】
実施例3
実施例1における無水塩化マグネシウムを塩化ストロンチウム(SrCl2)に変更し、それ以外は、実施例1と同様の処理を行い、実施例3の試料粉末を合成した。
【0035】
実施例4
原料粉末として、塩化タリウム(TlCl)粉末、塩化セリウム(CeCl3)粉末、及び塩化マグネシウム(MgCl2)粉末を準備する。これらの原料粉末が、Tl(Mg0.99Ce0.01)Cl3になるように混合する。原料粉末の混合物を、実施例1と同様に乾燥、熱処理、粉砕し、実施例4の試料粉末を合成した。
【0036】
実施例5
仕込組成をTl(Mg0.98Ce0.02)Cl3になるように変更する以外は、実施例4と同様の処理を行い、実施例5の試料粉末を合成した。
【0037】
実施例6
仕込組成をTl(Mg0.98Ce0.03)Cl3になるように変更する以外は、実施例4と同様の処理を行い、実施例6の試料粉末を合成した。
【0038】
実施例7
仕込組成をTl(Mg0.95Ce0.05)Cl3になるように変更する以外は、実施例4と同様の処理を行い、実施例7の試料粉末を合成した。
【0039】
比較例
原料粉末として、塩化タリウム(TlCl)粉末、塩化ユウロピウム(EuCl2)粉末、及び塩化マグネシウム(MgCl2)粉末を準備する。これらの原料粉末が、Tl(Mg0.9Eu0.1)Cl3になるように混合する。原料粉末の混合物を、実施例1と同様に乾燥、熱処理、粉砕し、比較例の試料粉末を合成した。
【0040】
実施例8
実施例1の粉末試料を用いて、以下のようにして通電プラズマ焼結法により焼結体を作製した。直径10mmのカーボン製の円筒形ダイスとピンチからなる焼結型に、実施例1の粉末試料を0.8g測り取り充填した。この焼結型を住友石炭鉱業(株)製通電プラズマ焼結装置DR.SINTER SPS-511Sのチャンバー内に設置し、チャンバー内を8Paまで排気した。8Paの真空度において、3.6kN(45MPa)の圧力を印加しながら400℃10分間加熱した。室温まで冷却後、焼結型より焼結体を取り出し、表面を研磨した。
【0041】
実施例9
実施例4の粉末試料を用いた以外は、実施例8と同様の処理を行い、実施例9の焼結体を作製した。
【0042】
実施例10
焼結時の雰囲気を大気圧Arに変えた以外は、実施例9と同様の処理を行い、実施例10の焼結体を作製した。
【0043】
実施例11
原料粉末として、塩化タリウム(TlCl)粉末(99.9%)及び無水塩化マグネシウム(MgCl2)粉末(99.9%)を準備する。これらの混合原料粉末を用いた以外は実施例10と同様の処理を行い、実施例11の焼結体を作製した。
【0044】
実施例1、および4乃至7の試料について、組成分析を行った。金属イオンの分析には、酸による分解後、日立ハイテックサイエンス(株)製SPS-3520UVを用いたICP発光分光法により分析した。塩素の分析には、熱加水分解分離後、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製ICS-2000を用いたイオンクロマトグラフ法により分析した。分析の結果は以下である。
【0045】
実施例1の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.99であり、Clの組成比は2.7である。実施例1において、x=0、y=0.01、z=0.3である。
実施例2の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Caの組成比は0.95であり、Clの組成比は3.1である。実施例1において、x=0、y=0.05、z=-0.1である。
実施例1の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Srの組成比は1.02であり、Clの組成比は3.2である。実施例1において、x=0、y=0.01、z=-0.2である。
【0046】
実施例4の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.99であり、Ceの組成比は0.01であり、Clの組成比は2.9である。実施例4において、x=0.01、y=0.00、z=0.1である。
【0047】
実施例5の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.97であり、Ceの組成比は0.02であり、Clの組成比は2.8である。実施例5において、x=0.02、y=0.01、z=0.2である。
【0048】
実施例6の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.97であり、Ceの組成比は0.03であり、Clの組成比は2.7である。実施例6において、x=0.03、y=0.00、z=0.3である。
【0049】
実施例7の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.97であり、Ceの組成比は0.04であり、Clの組成比は2.6である。実施例7において、x=0.04、y=-0.01、z=0.4である。
実施例8の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.98であり、Clの組成比は2.4である。実施例1において、x=0、y=0.02、z=0.6である。
実施例9の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.96であり、Ceの組成比は0.01であり、Clの組成比は2.3である。実施例1において、x=0.01、y=0.03、z=0.7である。
実施例10の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は0.98であり、Ceの組成比は0.01であり、Clの組成比は2.9である。実施例1において、x=0.01、y=0.01、z=0.1である。
実施例11の試料において、Tlの濃度の和を1として規格化した場合、Mgの組成比は1.00であり、Clの組成比は2.9である。実施例1において、x=0、y=0.00、z=0.1である。
【0050】
図1に実施例1の多結晶粉末の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy-SEM)による観察像を示す。SEM観察は、日本電子(株)製JSM-6510LAを用いて、実施例1の多結晶粉末をカーボンテープ上に固定し、走査電子ビームの加速電圧15kVの条件で行った。
図1より実施例1は数十ナノメートルから数十マイクロメートルの粒径を有する多結晶の集合体であることがわかる。
【0051】
図2乃至13に、1つの例として、実施例1、3乃至7の電子線励起におけるCL(Cathodolumnescence)スペクトルを示す。CLスペクトルの測定は(株)トプコン製走査型電子顕微鏡SM-510を用い、加速電圧10kV、引き出し電流200nAで行った。各CLスペクトルは最大強度で規格化している。
図8に、実施例11のX線励起における発光スペクトルを示す。X線励起発光スペクトルは(株)リガク製X線源SA-HFM3のCuターゲットより40kV、40mAの条件で発生させたX線を試料に照射し、試料より発生する発光を、ファイバーマルチチャンネル分光器にて測定した。この結果より、実施例の粉末試料及び焼結体は放射線検出装置に適していることがわかる。
【0052】
実施例1乃至7の粉末試料および実施例8乃至11のシンチレーション特性の評価を行った。試料に照射される放射線として、Cs137コイン線源より生じる667keVのγ線を用い、γ線を試料に照射したときの発光量及び蛍光寿命を測定した。粉末試料は内法10mm角の石英セル内に充填し、焼結体はそのまま用いた。石英セルまたは焼結体を光電子増倍管浜松ホトニクス(株)製R7600U-200上に光学グリースを用いて接着し、それらをステンレス鋼の黒色ケース内に設置した。ケースの上にCs137コイン線源を配置する。Cs137コイン線源からのγ線を試料に照射し、生じる発光を光電子増倍管で検出した。得られる信号を増幅器で増幅した。発光量は、マルチチャンネルアナライザにより得られるパルス波高スペクトルにより評価し、光電子増倍管の量子効率で補正して算出した。蛍光寿命は、デジタルオシロスコープにより得られるシンチレーション減衰曲線により評価した。
【0053】
上述の方法で測定した実施例1乃至11のγ線励起における発光量を表1に、まとめて示す。
【表1】
【0054】
表2に、上述の方法で測定した実施例1乃至8および10のγ線励起における蛍光寿命をまとめて示す。
【表2】
【0055】
実施例12
図9は、実施例12に係る放射線検出装置を例示する模式図である。
【0056】
図9に示すように、放射線検出装置100は、放射線検出材料101及び検出器102を含む。放射線検出材料101は、実施例1乃至13に係る放射線検出材料及びその変形を含む。検出器102は、放射線検出材料101から出射した光Lを検出する。放射線検出材料101は、上記の式(1)で表されるものである。
【0057】
例えば、検査対象105から放射線108(例えばγ線)が出射する。放射線108が、放射線検出材料101に入射し、光Lが放出される。検出器102により光を検出することで、検査対象105に関する情報が得られる。
【0058】
放射線検出装置100は、例えば、X線CTシステムに含まれるものであってもよい。
【0059】
実施形態は、例えば、シンチレータ材料に関する。
シンチレータは、例えば、α線、β線、γ線及びX線等の放射線を吸収し、蛍光を発する。シンチレータと、蛍光を検出するフォトダイオードと、を組み合わせることによって、放射線を検出することができる。シンチレータは、例えば、X線CT装置、及び、PET装置、などの医療画像装置に用いられる。シンチレータは、例えば、非破壊検査などの工業分野で用いられる。シンチレータは、例えば、手荷物検査などのセキュリティ分野で用いられる。シンチレータは、例えば、資源探査分野、または、高エネルギー物理学などの学術分野等の多様な応用分野で用いられる。
【0060】
一般に、放射線検出装置は、シンチレータ(放射線検出材料)と、シンチレータ光を受光し電気信号等に変換する受光素子(検出器)と、を含む。
【0061】
例えば、X線CTでは、X線照射により検体の二次元透過像を取得しながら、検体周りに装置を360度回転させ、得られた連続撮影データからX線CT像を構築する。検体を通過したガンマ線が、シンチレータにより、低エネルギーの光子に変換される。その光子が、例えば、光検出器により電気信号に変換される。光検出器は、例えば、フォトダイオード(PD)、シリコンフォトマルチプライヤー(Si-PM)、または、光電子増倍管(PMT)などを含む。電気信号のデータが、コンピュータなどにより処理され、画像等の情報が得られ、病巣の有無、大きさ等を明らかにする。
【0062】
例えば、高エネルギー物理学における放射線検出器において、シンチレータが放射線を複数の低エネルギー光子に変換し、その光子が受光素子で電気信号に変換される。
【0063】
PD及びSi-PMは、放射線検出器及びイメージング機器において、広く用いられている。シリコン半導体を含むPD及びSi-PMにおいて、感度の高い波長は、例えば、450nm~700nmであり、600nm付近で最も感度が高くなる。シリコン半導体を含むPD及びSi-PMは、例えば、600nm付近に発光ピーク波長を有するシンチレータと組み合わせて使用される。
【0064】
放射線イメージングには、例えば、シンチレータアレイと、光検出器アレイと、を含む組み合わせが用いられる。光検出器として、例えば、位置敏感型PMTや、半導体光検出器のアレイが用いられる。半導体光検出器のアレイは、例えば、PDアレイ、アバランシェ・フォトダイオード・アレイ(APDアレイ)、または、ガイガーモードAPDアレイなどを含む。光検出器により、シンチレータアレイに含まれる、光を放出したシンチレータを決定する。これにより、放射線が入射した、シンチレータアレイの位置を知ることができる。
【0065】
放射線検出器に適するシンチレータには、例えば、検出効率の点から、密度が高く原子番号が大きいこと(光電吸収比が高いこと)が求められる。放射線検出器に適するシンチレータには、例えば、高速応答の必要性や高エネルギー分解能の点から、発光量が多く、蛍光寿命(蛍光減衰時間)が短いことが望まれる。例えば、シンチレータの発光波長が光検出器の検出感度の高い波長域と適合することが望まれる。
【0066】
シンチレータ材料は、高エネルギー物理学、医学イメージング、地質探査、または、国土安全保障を含む様々な用途において、高エネルギー光子及び粒子を検出するために光検出器と共に使用される。これらのシンチレータにおいて、例えば、高シンチレーション光収率、高速シンチレーション動態(減衰時間及び立上り時間の両方において)、良好なエネルギー解像度、高比例性、及び/または、外光の曝露に相対的に非感受であること、が望まれる。
【0067】
実施形態によれば、発光量が多く、蛍光寿命が短い放射線検出材料及び放射線検出装置が提供できる。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
100 放射線検出装置
101 放射線検出材料
102 検出器
105 検査対象
108 放射線
L 光