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特許7150696健康な女性の微生物叢を維持する及び/又は健康な女性の微生物叢へと回復させるための膣調剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】健康な女性の微生物叢を維持する及び/又は健康な女性の微生物叢へと回復させるための膣調剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20221003BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20221003BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221003BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20221003BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20221003BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20221003BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20221003BHJP
   A61K 9/46 20060101ALI20221003BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221003BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20221003BHJP
【FI】
A61K35/747 ZNA
A61P15/02
A61P31/04
C12N1/20 E
A61K9/06
A61K9/10
A61K9/02
A61K9/46
A61K9/08
C12N15/11 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019501752
(86)(22)【出願日】2017-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2017056691
(87)【国際公開番号】W WO2017162669
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】2016/5201
(32)【優先日】2016-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
【微生物の受託番号】BCCM  LMG P-29455
【微生物の受託番号】BCCM  LMG P-29456
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510214573
【氏名又は名称】ユニフェルシテイト アントウェルペン
【氏名又は名称原語表記】Universiteit Antwerpen
【住所又は居所原語表記】Prinsstraat 13,Antwerpen,BELGIUM
(73)【特許権者】
【識別番号】518338345
【氏名又は名称】ユン エンヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】レベール,サラ
(72)【発明者】
【氏名】クラエス,イングマール
(72)【発明者】
【氏名】ウルレマンス,エリーネ
(72)【発明者】
【氏名】ファン デン ブルク,マリアンヌ
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-505298(JP,A)
【文献】国際公開第2015/022297(WO,A1)
【文献】Drug Design, Development and Therapy,2015年,Vol.9,pp.5345-5354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 -35/768
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生きたラクトバチルス種を含む局所膣組成物であって、該ラクトバチルス種が、16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列同一性を有するL.ペントサス株及び16S rRNA遺伝子において配列番号4と少なくとも97%の配列同一性を有するL.プランタラム株である、局所膣組成物。
【請求項2】
健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持する局所膣組成物の作製における生きたラクトバチルス種の使用であって、該ラクトバチルス種が、16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列同一性を有するL.ペントサス株及び16S rRNA遺伝子において配列番号4と少なくとも97%の配列同一性を有するL.プランタラム株である、使用。
【請求項3】
康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持する局所膣組成物であって、該組成物は生きたラクトバチルス種を含み、該ラクトバチルス種が、L.ペントサス及びL.プランタラムであり、該L.ペントサスが、16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列同一性を有するL.ペントサス株であり、該L.プランタラムが、16S rRNA遺伝子において配列番号4と少なくとも97%の配列同一性を有するL.プランタラム株である、局所膣組成物
【請求項4】
アクセッション番号LMG P-29455で寄託されたラクトバチルス株L.ペントサスYUN-V1.0、及びアクセッション番号LMG P-29456で寄託されたラクトバチルス株L.プランタラムYUN-V2.0を含む組成物。
【請求項5】
局所膣組成物である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、ゲル、クリーム、膣坐剤、坐剤形、フォーム、ローション、又は軟膏の形態の局所膣組成物である、請求項1、3、4若しくは5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、ゲル、クリーム、膣坐剤、坐剤形、フォーム、ローション、又は軟膏の形態の局所膣組成物である、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
前記組成物が、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持する局所膣組成物である、請求項4又は5に記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康な膣微生物叢を維持するとともに、膣微生物叢の不均衡を回復させるのを助けるのに、有益細菌又はプロバイオティクス細菌を膣の窪み(vaginal niche)に直接的に局所適用することに関する。この健康な微生物叢への回復は、微生物による細菌叢異常(dysbiosis:腸内菌共生バランス失調)が発生する部位への健康な微生物叢へと回復させるのに有益な微生物又はプロバイオティクスの使用と定義される「プロバイオセラピー(probiotherapy)」という用語に含まれる。本出願は、一般的な膣病原体に対する抗病原体剤として選択されたラクトバチルス株、特にL.ペントサス(L. pentosus)及び/又はL.プランタラム(L. plantarum)の使用を基礎としており、ここでは、乳酸等の産生酸が重要な抗微生物因子である。
【背景技術】
【0002】
胃腸管の微生物叢とは異なり、泌尿生殖器の微生物叢の組成はそれほど複雑ではない。この微生物叢は、出生後に発生し、母親の膣微生物叢、環境、並びに皮膚及び下部胃腸管から移る微生物叢に由来する。膣微生物叢は、その宿主と相利共生で生存し、健康及び疾患において重要な役割を果たしている。健康な女性における微生物の組成は異なることもあるが、健常者にて一般的に見られる4種のラクトバチルス種(L.クリスパタス(L. crispatus)、L.イナース(L. iners)、L.ガセリ(L.gasseri)、L.ジェンセニイ(L. jensenii))の1種で占められているのが通例である。しかしながら、ラクトバチルスが殆ど存在せずに、微生物叢が幾つかの通性嫌気性乳酸菌で占められていることもある。したがって、特定の細菌種ではなく、微生物叢の成員の機能的能力、その中でも特に乳酸の産生が健康状態の維持に重要な役割を果たす。
【0003】
幾つかの膣の不快感は、微生物の組成の乱れによるものである。カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)による感染症、細菌性膣症(BV)、及び好気性菌膣炎(AV)が最もよく見られる問題である。これらの疾患/感染症/不均衡は、ラクトバチルスの総量の減少、並びにそれぞれ酵母(カンジダ症(candidose)、通性嫌気性細菌(BV)及び好気性グラム陰性細菌(AV)の異常増殖を特徴とする。正常な状況下では、真菌であるカンジダ・アルビカンスは、胃腸管及び尿生殖路において片利共生生物として生存している。しかしながら、正常な微生物叢が乱されるか、上皮性関門が破られるか、又は免疫系が機能不全を起こすと、カンジダ・アルビカンスが片利共生生物から病原体へと変わることがある。これにより、皮膚、粘膜及び全身の感染症を含む広範な疾患が引き起こされ得る。ここ数年、この生物は院内感染症の最もよく見られる原因の一つとなっている。これらの感染症の多くがインプラント等の医療機器の表面上でのバイオフィルムの形成によって引き起こされる。カンジダのバイオフィルム細胞の最も重要な特性は、顕著な抗真菌薬耐性である。多くの場合、インプラントの機械的な除去が唯一の解決策であるが、これは手術死亡率(procedural morbidity)及び医療費の増加を伴う。そのため、これらの感染症を治療するのに、現行の抗菌剤に加えて、新たな抗真菌剤の開発に大きな関心が集まっている。
【0004】
低pHの保持に併せた乳酸の産生により、上述の感染症及び細菌叢異常状態に対する保護が得られると考えられており、乳酸が細菌、真菌、及び更にはウイルス病原体に有効であると考えられている。この理由から、ラクトバチルスが動的な膣生態系の恒常性に重要であるとみなされている。ラクトバチルスの潜在的な健康増進機構は、i)主に乳酸の産生による低い膣pH(4.5未満)の保持、ii)抗微生物化合物の産生、及び病原体の競合的排除、iii)免疫応答の調節、並びにiv)上皮性関門の強化である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、膣内の異常な微生物均衡による膣の不快感に苦しむ対象に解決策を与えることであった。さらに、L.ペントサス種の局所的な膣への使用が、膣内の健康な微生物叢への回復及び/又は健康な微生物叢の維持に非常に効果的であり、そのため、膣の不快感の軽減を必要とする対象において膣の不快感を軽減するのに非常に適していることが認められた。
【0006】
これまで、ラクトバチルス株を含む経口製剤は、膣障害の治療、又は膣内の健康な微生物叢への回復及び/又は健康な微生物叢の維持に使用されてきた。しかしながら、経口投与及び直接的な局所投与は異なる投与経路であり、それぞれ全く異なる基礎機構を有している。経口投与では、特に免疫刺激を介した全身の健康に対する有益な効果を目的とするのに対し、膣への直接投与では、「不所望な」微生物との競合が起こる。
【0007】
生きたラクトバチルス株を含む組成物の膣への局所投与は、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5に言及されるように、膣感染症の治療に有用であることが認められた。しかしながら、これらの文献では、健康な膣微生物叢への回復及び/又は健康な膣微生物叢の維持における該組成物の使用には取り組んでいない。
【0008】
ごく最近のTomusiak et al.による刊行物には、本発明に関連した内容(relevance)が示されている(非特許文献1)。特に、Tomusiak et al.は、ラクトバチルス株の膣への投与が健康な膣微生物叢へと持続的に回復させることを見出した。さらに、L.フェルメンタム(L. fermentum)、L.プランタラム、及びL.ガセリ種に基づいたTomusiakの所見に対して、本発明者らはL.ペントサスが本発明において特に適していることを見出している。また、Tomusiakが、ラクトバチルス種を製剤化するのに膣内カプセルを使用したのに対し、本発明者らは、膣上皮細胞に亘るより良好な拡散能に起因して、非固形組成の製剤がより効果的であることを見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2012101550号
【文献】国際公開第15022297号
【文献】国際公開第03033681号
【文献】国際公開第0113956号
【文献】国際公開第20040350726号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Tomusiak et al., 2015
【発明の概要】
【0011】
第1の態様では、本発明は、1種以上の生きたラクトバチルス種を含む局所膣組成物であって、該ラクトバチルス種の少なくとも1種が、L.ペントサス、更に特には16SrRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、局所膣組成物を提供する。
【0012】
更なる態様では、本発明は、局所膣経路により、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持するのに使用される生きたラクトバチルス種であって、該ラクトバチルス種が、L.ペントサス、更に特には16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、生きたラクトバチルス種を提供する。
【0013】
また更なる態様では、本発明は、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持する局所膣組成物の作製における1種以上の生きたラクトバチルス種の使用であって、該ラクトバチルス種の少なくとも1種が、L.ペントサス、更に特には16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、使用を提供する。
【0014】
また、本発明は、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持する方法であって、該方法が、局所膣経路により、個体に有効量の1種以上の生きたラクトバチルス種を投与する少なくとも1つの工程を含み、該ラクトバチルス種の少なくとも1種が、L.ペントサス、更に特には16SrRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、方法を提供する。
【0015】
更に別の態様では、本発明は、局所膣経路により、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持するのに使用される、1種以上の生きたラクトバチルス種を含む組成物であって、該ラクトバチルス種が、L.ペントサス及びL.プランタラム、特にL.ペントサス、更に特には16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株、及び16S rRNA遺伝子において配列番号4と少なくとも97%の配列類似性を有するL.プランタラム株を含むリストから選択される、組成物を提供する。
【0016】
本発明は更に、アクセッション番号LMG P-29455で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.ペントサスYUN-V1.0、及びアクセッション番号LMG P-29456で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.プランタラムYUN-V2.0を含むリストから選択されたラクトバチルス株を提供する。
【0017】
特定の態様では、本発明は、1種以上の本明細書の上記に規定のラクトバチルス株を含む組成物を提供する。
【0018】
特定の実施の形態では、本発明の組成物は、局所膣組成物、更に特にはゲル、クリーム、フォーム、ローション、又は軟膏の形態の局所膣組成物である。
【0019】
別の特定の実施の形態では、本発明は、局所膣経路により、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持するのに使用される、本明細書の上記に規定のラクトバチルス株又は本明細書の上記に規定の組成物を提供する。
【0020】
特定の態様では、本発明は、プロバイオセラピーにおける1種以上の生きたラクトバチルス種の膣への局所使用であって、該ラクトバチルス種が、L.ペントサス及びL.プランタラムを含むリストから選択される、膣への局所使用を提供し、更に特には、上記(said)プロバイオセラピーが、健康な女性の微生物叢への回復、及び/又は健康な女性の微生物叢の維持を、それを必要とする対象において行うことからなる。
【0021】
別の特定の実施の形態では、本明細書に開示される(膣への局所)使用、方法及び組成物における上記ラクトバチルス種は、アクセッション番号LMG P-29455で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.ペントサスYUN-V1.0、及びアクセッション番号LMG P-29456で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.プランタラムYUN-V2.0を含むリストから選択されるラクトバチルス株である。
【0022】
これより図面を具体的に参照するが、示される項目は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】増殖、D-乳酸及びL-乳酸(LA)の産生、並びに培地のpHの低下についてのラクトバチルスの特性を示す図である。
図2A】分光光度法(OD 600)によって測定した場合の陰性対照(pH4のMRS)と比較したラクトバチルスのSCSが補充されたYPD培地中の24時間のカンジダの比例増殖を示す図である。
図2B】同上
図2C】同上
図3】ラクトバチルスへの曝露後のVK2/E6E7細胞におけるインターロイキン8の発現レベルの変化を示す図である。
図4】A)概念実証の臨床試験に登録された膣カンジダ症の患者の細菌のマイクロバイオームプロファイルを示す図である。B)プロバイオティクスクリームを使用した場合の2回目及び3回目の訪問時の外から(exogenously)加えたラクトバチルス株の検出を示す図である。
図5】A)概念実証の臨床試験に登録された膣カンジダ症の患者の細菌のマイクロバイオームプロファイルを示す図である。B)プロバイオティクスクリームを使用した場合の2回目及び3回目の訪問時の外から加えたラクトバチルス株の検出を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ガンジダ・アルビカンス、並びに細菌性膣症及び好気性菌膣炎に関連する細菌の増殖と競合し得る特異的なラクトバチルス株の発見を基礎としている。これらの選択株は、本明細書では総じて「YUN」株と呼ばれ、膣病原体と競合することにより、健康な膣微生物叢へと回復させることが可能である。この健康な微生物叢への回復は、微生物による細菌叢異常が起こる部位への健康な微生物叢へと回復させるのに有益な微生物又はプロバイオティクスの使用と定義される「プロバイオセラピー」という用語に含まれる。
【0025】
したがって、第1の態様では、本発明は、1種以上の生きたラクトバチルス種を含む局所膣組成物であって、該ラクトバチルス種の少なくとも1種が、L.ペントサス、更に特には16SrRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、局所膣組成物を提供する。
【0026】
本発明による上記組成物は、例えば、L.プランタラム、L.ガセリ、L.クリスパタス、L.アシドフィルス、L.ジェンセニイ、L.フェルメンタム、L.ラムノサス(L.rhamnosus)を含む非限定的なリストから選択されるような更なるラクトバチルス種を含み得る。
【0027】
本発明について、「局所」という用語は、特定の身体部位での局所送達、特に身体上の又は身体内の特定の場所への適用を意味する。特に、この用語は、クリーム、フォーム、ゲル、ローション、又は軟膏等の非固形製剤を介した粘膜への適用を包含する。「局所」という用語は、カプセル、錠剤等の固形調剤の形態での送達を包含しないことを意味する。
【0028】
したがって、「膣への局所、局所膣(topical vaginal)」という用語は、非固形製剤を用いた、身体の膣管(vaginal tract)への直接的な局所送達を包含することを意味する。本発明による組成物は、最も効果的にするには、膣粘膜の大部分に適用するのが好ましい。
【0029】
本発明について、「生きたラクトバチルス種」という用語は、ラクトバチルス種の生菌(viable)を意味し、そのフラグメント、培養上清、又は死滅形態を意味しない。
【0030】
更なる態様では、本発明は、局所膣経路によりプロバイオセラピーに使用される生きたラクトバチルス種であって、該ラクトバチルス種が、L.ペントサス、更に特には16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、生きたラクトバチルス種を提供する。本明細書の上記で既に規定したように、上記プロバイオセラピーは、健康な女性の微生物叢への回復、及び/又は健康な女性の微生物叢の維持を、それを必要とする対象において行うことを意味する。
【0031】
かかるプロバイオセラピーから利益を受け得る対象は、例えば可能性として膣の酵母感染症、細菌性膣症、好気性菌膣炎、及び/又はラクトバチルス以外の微生物の過剰増殖により引き起こされる任意の細菌叢異常により膣微生物叢が乱れた女性患者である。
【0032】
したがって、更なる態様では、本発明は、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持する局所膣組成物の作製における1種以上の生きたラクトバチルス種の使用であって、該ラクトバチルス種の少なくとも1種が、L.ペントサス、更に特には16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、使用を提供する。
【0033】
また、本発明は、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持する方法であって、該方法が、局所膣経路により、個体に有効量の1種以上の生きたラクトバチルス種を投与する少なくとも1つの工程を含み、該ラクトバチルス種の少なくとも1種が、L.ペントサス、更に特には16SrRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株である、方法を提供する。
【0034】
更に別の態様では、本発明は、局所膣経路により、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持するのに使用される、1種以上の生きたラクトバチルス種を含む組成物であって、該ラクトバチルス種が、L.ペントサス及びL.プランタラム、特にL.ペントサス、更に特には16S rRNA遺伝子において配列番号1と少なくとも97%の配列類似性を有するL.ペントサス株、及び16S rRNA遺伝子において配列番号4と少なくとも97%の配列類似性を有するL.プランタラム株を含むリストから選択される、組成物を提供する。
【0035】
本発明は更に、アクセッション番号LMG P-29455で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.ペントサスYUN-V1.0、及びアクセッション番号LMG P-29456で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.プランタラムYUN-V2.0を含むリストから選択されたラクトバチルス株を提供する。
【0036】
本明細書で言及された微生物寄託は、連絡先住所:Laboratorium voor Microbiologie,Universiteit Gent, K.L. Ledeganckstraat 35 - 9000 Gent, BelgiumのBCCM/LMG Bacteria collection(「ベルギー微生物株保存機関(Belgianco-ordinated collections of micro-organism)」)にて為されている。
【0037】
ラクトバチルス・ペントサスYUN-V1.0は、健康な女性の膣単離株を元にした株の継代培養後に研究所にて得られた単一コロニー単離株である。L.ペントサスYUN-V1.0株についての16S rRNA遺伝子配列(配列番号1)を、プライマー8F(5'-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3'-配列番号2)及び1525R(5'-AAGGAGGTGATCCAGCCGCA-3'-配列番号3)を用いたPCRにより決定した。
【0038】
YUN-V2.0及びYUN-V3.0は、それぞれヒトの唾液及びトウモロコシサイレージを元に単離されたラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)株の継代培養後に研究所にて得られた単一コロニー単離株である。L.プランタラムYUN-V2.0株についての16S rRNA遺伝子配列(配列番号4)は、プライマー8F(5'-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3'-配列番号2)及び1525R(5'-AAGGAGGTGATCCAGCCGCA-3'-配列番号3)を用いたPCRにより決定した。
【0039】
これらの特定の「YUN」株は、それ自体を使用することができ、又はかかる株を含む組成物へと製剤化するのが好ましい。上記組成物は、局所膣組成物、更に特にはクリーム、フォーム、ゲル、ローション、又は軟膏等の非固形製剤の形態の局所膣組成物である。
【0040】
特に、本発明は、プロバイオセラピーに、すなわち局所膣経路により、健康な女性の微生物叢へと回復させる、及び/又は健康な女性の微生物叢を維持するのに使用される上記で規定された「YUN」株を提供する。
【0041】
また更なる態様では、本発明は、プロバイオセラピーにおける1種以上の生きたラクトバチルス種の膣への局所使用であって、該ラクトバチルス種が、L.ペントサス及びL.プランタラムを含むリストから選択される、膣への局所使用を提供し、更に特には、上記プロバイオセラピーが、健康な女性の微生物叢への回復、及び/又は健康な女性の微生物叢の維持を、それを必要とする対象において行うことからなる。
【0042】
特定の実施の形態では、本明細書に開示される(膣への局所)使用、方法及び組成物における上記ラクトバチルス種は、アクセッション番号LMG P-29455で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.ペントサスYUN-V1.0、及びアクセッション番号LMG P-29456で寄託された(2016年3月9日付けでBCCMにて寄託された)L.プランタラムYUN-V2.0を含むリストから選択されるラクトバチルス株である。
【実施例
【0043】
材料及び方法
細菌株及び増殖条件
ラクトバチルス株(表1)をMRS(de Man, Rogosa and Sharpe)培地(Carl Roth)にて37℃で増殖させた。全ての細菌を非振盪条件にて増殖させ、グリセロールストック(-80℃)から接種した。固体培地は、1.5%(w/v)の寒天を含むものとした。
【0044】
表1:この研究で使用された細菌株
【表1-1】
【表1-2】
【0045】
選択株の使用済み培養上清(spent culture supernatant)(SCS)の調製
分泌された活性抗微生物生成物を含有する使用済み培養上清(SCS)を得るために、それぞれの種に特異的な増殖培地を前培養物から接種し、24時間インキュベートした。SCSを6797×g(8000 rpm)、4℃で30分間の遠心分離により得た。その後、SCSを滅菌濾過した(0.20 μmの酢酸セルロース、VWR)。
【0046】
カンジダ、BV指示株及びAV指示株に対する生きたラクトバチルスの共培養物についての抗微生物活性のアッセイ
選択細菌の抗微生物活性を、若干の変更を加え標準抗微生物試験により調べた。画線接種アッセイ(streakinoculation assay)のために、ラクトバチルスを、試験プレート(病原体の培地)上にあるスタータープレート(starter plate)(MRS)上のコロニーから画線接種し、37℃で54時間インキュベートした。次いで、病原体を、試験プレート上にあるスタータープレート上のコロニーから3反復で画線接種した。プレートを37℃で24時間インキュベートし、阻止帯を先に記載のように(Huett etal. 2006)測定した。加えて、選択細菌の抗微生物活性をスポットアッセイ(Schillinger andLuecke 1989)により調べた。簡潔には、1 μL~3 μLの各培養物を寒天プレート上にスポットした。これらのプレートを株に応じて24時間から最大72時間までインキュベートした。次に、病原体の一晩培養物を病原体の培地の軟寒天7 mLにて希釈して、選択株のスポットのあるプレート上に注いだ。プレートを37℃で一晩インキュベートし、その後、阻止帯を測定した。ミコナゾール及び/又は0.1%ヘキセチジンのスポットを陽性対照としてスポットプレートに添加してから、軟寒天を注いだ。
【0047】
ラクトバチルスのSCSの放射拡散試験
加えて、使用済み培養上清(SCS)の抗微生物活性を、ラクトバチルスと胃腸病原体との競合アッセイについて先に記載されたプロトコル(Coconnier et al. 1997)を用いて研究した。ミコナゾールを陽性対照として使用した。滅菌増殖培地を陰性対照として使用した。
【0048】
カンジダ、BV指示株及びAV指示株に対する選択株のSCSの抗微生物活性の時間経過分析
時間経過分析を、若干の変更を加え先に記載のように(De Keersmaecker et al. 2006)行った。簡潔には、C.アルビカンス、ガードネレラ・バギナリス(Gardnerella vaginalis)(BV)又はストレプトコッカス・アガラクチエ(Streptococcusagalactiae)(AV)の一晩培養物を、ラクトバチルスの50%~5%のSCSが補充された50%~80%の適切な培地を入れたマイクロプレートのウェルに添加した。pH 4.3のMRS及びミコナゾール(0.02 μg/mlの最終濃度)をそれぞれ、陰性対照及び陽性対照として使用した。細菌を増殖させ、光学密度(OD)を、Synergy HTXマルチモードリーダー(Biotek)を用いて3日間、各30分間、590 nmで測定した。各試験は少なくとも3反復で測定を行い、平均ODを算出した。抗微生物活性は、陰性対照と比較した、24時間後(静止期)に達する相対光学密度として表された。
【0049】
in vitro細胞培養物を用いたプロバイオセラピーの安全性評価
安全性の第1の指標として、不死化膣上皮細胞株であるVK2/E6E7細胞株においてインターロイキン8の上方調節という形での炎症促進性応答を誘起するラクトバチルス株の能力を試験した。VK2/E6E7細胞をコンフルエントな単層になるまで増殖させ、1.5×107CFU又はミコナゾール(0.2 μg/mlの最終濃度)におよそ90分間曝し、その後、RNAを抽出した。RT-qPCRを用いて、参照遺伝子アクチンβ(ACTb)及びグリセルアルデヒド3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)のIL8の発現レベルと比較してIL8の相対発現レベルを求めた。
【0050】
膣カンジダ症の患者におけるヒトの概念実証の臨床試験
概念実証の臨床試験を20名の膣カンジダ症の患者にて行った。患者は、18歳~45歳であり、重度の炎症(膣炎)を患っていた。この概念実証試験の目的は、膣微生物叢及びカンジダ感染症に対する10%プロバイオティクス粉末を含むシリコンベースの膣用ゲル(目的にかなった(fit-for-purpose)膣無水システム:2 ml~2.5 mlの無水システムの1回の適用当たり、L.ペントサスYUN-V1.0を±10コロニー形成単位(CFU)~11 CFU、及びL.プランタラムYUN-V2.0を±10 CFU~11 CFU含有する)の影響を評価することであった。製剤は、細菌粉末をシリコンベースのゲル中に真空下でブレンドすることにより作製し、30 ml容のアルミニウムコートチューブに入れた。患者には、10日間毎日、塗布器を用いてクリームを膣内に塗布してもらった。婦人科医によって0日目(治療法前)、1日目、5日目、及び10日目に患者の観察を行った。膣洗浄試料を訪問毎に採取した。市販のMoBioPowersoilキット(Human Microbiome Projectを参照のこと)によって、これらの試料から細菌DNAを単離した。単離したDNAを、Illumina社のMiSeqを用いた16S rRNAアンプリコンシークエンシングによって分析し、バイオインフォマティクス分析を行った。同じ洗浄試料を、選択的寒天平板培養法(サブローデキストロース寒天又はそれに類するもの)によるカンジダ・アルビカンス数の判定にも使用した。さらに、訪問毎に臨床評点(scoring)を行った。
【0051】
抗生物質感受性
抗生物質感受性を、Kirby-Bauerディスク拡散試験を用いて評価した。要するに、抗生物質をペーパーディスク上にスポットし、寒天板上の細菌阻止帯を測定した。試験した抗生物質は、適当な濃度のエリスロマイシン、ノルモシン(normocin)、テトラサイクリン、アンピシリン、及びクリンダマイシンであった。
【0052】
結果
増殖特性及び乳酸塩産生
考え得る有益株又はプロバイオティクス株を、増殖特性、乳酸塩産生(D-乳酸及びL-乳酸の産生に基づく)、及び培地pHの低下能について特性評価した。これらの特性は、健康な膣微生物叢の維持及び/又は健康な膣微生物叢への回復に重要であると予測される。これらのデータから、ラクトバチルス・ペントサスYUN-V1.0並びにL.プランタラムYUN-V2.0及びYUN-V3.0が、特にD-乳酸産生の大幅な増大により、最大量の乳酸を産生することが示される(図1を参照されたい)。
【0053】
抗病原体アッセイ
次の段階にて、有益細菌又はプロバイオティクス細菌を、カンジダ・アルビカンスに対する抗病原体効果についてスクリーニングした。放射拡散試験の結果を表2に示す。L.ペントサスYUN-V1.0由来の使用済み培養上清が、カンジダ・アルビカンス増殖の阻害においてより優れていることが実証された。L.プランタラムYUN-V2.0及びYUN-V3.0は、程度は小さいが、依然として他のラクトバチルス株の殆どよりも良好な又は同等の阻害を示した。
【0054】
表2:カンジダ・アルビカンスの増殖阻害にラクトバチルス由来の使用済み培養上清(SCS)を用いた放射拡散試験
【表2】
【0055】
さらに、スポットベースの(spot-based)抗病原体アッセイを行い、カンジダ・アルビカンスに対する選択された生きたラクトバチルス種の抗病原体活性を調べた。選択された株は全て、カンジダの増殖を或る程度阻害したが、最も有効な株は、L.プランタラムYUN-V2.0及びL.プランタラムYUN-V3.0であった(表3を参照されたい)。
【0056】
表3:カンジダ・アルビカンスのオーバーレイ(overlay:重層)を用いた種々のラクトバチルス株のスポットアッセイ
【表3】
【0057】
第3に、時間経過実験を行い、カンジダに対する選択された株のSCSの抗微生物活性を分析した。ここでも、全ての試験株のSCSが、カンジダの増殖を或る程度阻害したが、最も有効な株は、L.プランタラムYUN-V1.0、L.プランタラムYUN-V2.0、及びL.プランタラムYUN-V3.0であった(図2を参照されたい)。
【0058】
in vitro細胞培養物を用いたプロバイオセラピーの安全性評価
安全性の指標として、炎症誘発性ケモカインであるインターロイキン8を誘導する株の能力を分析した。幾つかの株は、比較的小さい発現の増大を示したが、所望のように強いインターロイキン8応答を誘起した試験株はなかった。しかしながら、L.ロイテリRC-14については、明らかなIL-8上方制御が観察された(図3)。本明細書において、ミコナゾールのデータが、細胞生存率に対するミコナゾール処理の効果による影響を受け得ることに留意することが重要である。
【0059】
陰性対照に比べてより多くの細胞が処理中に死滅したことが顕微鏡検査により観察された。
【0060】
膣カンジダ症の患者における概念実証のヒト臨床試験の事例研究
概念実証の臨床試験における急性膣カンジダ症の患者の膣マイクロバイオームを種々の時点で分析した。概して、試験開始時に、i)内因性膣ラクトバチルスが依然存在しているが、これらのラクトバチルスは酵母感染症から保護することができなかった1つの患者群、及びii)細菌のマイクロバイオームが乱され、ラクトバチルスの喪失が観察されている第2の患者群という2つの異なる群を観察することができた。これらの患者では、酵母感染症に加えて、他の非ラクトバチルス、例えばアトポビウム属の一種及びガードネレラ属の一種が現れている。
【0061】
以下で、研究に登録され、L.ペントサスYUN-V1.0とL.プランタラムYUN-V2.0とを含む膣プロバイオティクスゲルを用いることにより治癒された患者の2つの事例研究に注目した。
【0062】
事例研究1:
図4のAでは、1回目の訪問時に、患者(P7)は、急性カンジダ症と診断された。添付の細菌のマイクロバイオームプロファイルは、ラクトバチルスで占められており、このことから、体内に存在するラクトバチルスが酵母感染症を防ぐことができなかったことが分かる。しかしながら、特別に選択されたラクトバチルス株L.ペントサスYUN-V1.0及びL.プランタラムYUN-V2.0を含むプロバイオティクス膣クリームを使用した後、3回目の訪問時に患者には症状及びカンジダがなく、膣内プロバイオティクス処理を止めて1週後の4回目の訪問でも無症状のままであった。図4のBから分かるように、YUNプロバイオティクスクリームの膣内使用の2週後の2回目の訪問時のL.ペントサスYUN-V1.0株と100%の同一性を有するOTU(操作的分類単位)が強調表示されており、これは2回目の訪問時の試料に見ることができる。この患者は、膣プロバイオティクスクリームを用いることで治癒した。
【0063】
事例研究2:
図5のAでは、1回目の訪問時に、この患者は、急性カンジダ症と診断された。マイクロバイオームプロファイルに基づき、この患者は、健康な膣菌叢(flora)で通例見られるラクトバチルスで占められていないことを観察することができ、細菌性膣症に結び付くことが多い細菌、すなわちガードネレラ属の一種及びアトポビウム(Atopobium)属の一種が観察された。興味深いことに、或る特定の操作的分類単位(OTU)のラクトバチルスが1回目の訪問時に依然として存在し、属レベルで「ラクトバチルス」と特定され、配列に基づき下記の種「アシドフィルス/カゼイ/クリスパタス/ガリナラム/ヘルベチカス/キタサトニス」のいずれか1種とすることができた。このことから、このOTUは、カンジダ属の一種と共存することができたが、カンジダ症を予防するのに十分強くはなかったことが示唆される。図5のBに示されるようにYUNプロバイオティクスクリームの膣内使用の2週後の2回目の訪問時のL.ペントサスYUN-V1.0株と100%の同一性を有するOTUが強調表示されており、これは試料に見ることができる。これらの2週間後、この患者は、無症状であり、膣マイクロバイオームはラクトバチルスで完全に占められていた。YUN膣プロバイオティクスクリームは、ラクトバチルスで占められた健康な膣微生物叢への再調整を助けるものだった。
【0064】
抗生物質感受性
選択された細菌を、抗生物質耐性遺伝子の伝播の予防に関する抗生物質感受性についても試験した。テトラサイクリンに感受性であったL.プランタラム5057を除く全てのラクトバチルスが、エリスロマイシン、ノルモシン、テトラサイクリン、アンピシリン、及びクリンダマイシンに感受性であった。このため、L.プランタラム5057株は、プロバイオセラピーのための株として使用するのに適していないことが分かった。
【0065】
参考文献
Chan, R.C. et al., 1985. Competitive exclusion ofuropathogens from human uroepithelial cells by Lactobacillus whole cells andcell wall fragments. Infection and immunity, 47(1), pp.84-9.
Chan, R.C., Bruce, A.W. & Reid, G., 1984.Adherence of cervical, vaginal and distal urethral normal microbial flora tohuman uroepithelial cells and the inhibition of adherence of gram-negativeuropathogens by competitive exclusion. The Journal of urology, 131(3), pp.596-601.
Coconnier, M.H. et al., 1997. Antibacterial effectof the adhering human Lactobacillus acidophilus strain LB. Antimicrobial agentsand chemotherapy, 41(5), pp.1046-52.
Doron, S., Snydman, D.R. & Gorbach, S.L., 2005.Lactobacillus GG: bacteriology and clinical applications. Gastroenterologyclinics of North America, 34(3), pp.483-98, ix.
Huett, P. et al.,2006. Antagonistic activity of probiotic lactobacilli and bifidobacteriaagainst entero- and uropathogens. Journal of applied microbiology, 100(6),pp.1324-32.
De Keersmaecker, S.C.J. et al., 2006. Strongantimicrobial activity of Lactobacillus rhamnosus GG against Salmonellatyphimurium is due to accumulation of lactic acid. FEMS microbiology letters,259(1), pp.89-96.
Reid, G., 1999. The scientific basis for probioticstrains of Lactobacillus. Applied and environmental microbiology, 65(9),pp.3763-6.
Reid, G. & Bruce, A.W., 2001. Selection oflactobacillus strains for urogenital probiotic applications. The Journal ofinfectious diseases, 183 Suppl, pp.S77-80.
Schillinger, U. & Luecke, F.K., 1989.Antibacterial activity of Lactobacillus sake isolated from meat. Applied andenvironmental microbiology, 55(8), pp.1901-6.
Tomusiak, A. et al., 2015. Efficacy and safety of avaginal medicinal product containing three strains of probiotic bacteria: amulticenter, randomized, double-blind, and placebo-controlled trial. Drugdesign, development and therapy, 9, pp.5345-54.
【符号の説明】
【0066】
図1
Lactobacilli characteristics ラクトバチルス特性
concLA LA濃度
mean vmax 平均vmax

図2A
Growth of Candida after 24h compared to control(%) 対照と比較した24時間後のカンジダの増殖(%)
Candida albicans カンジダ・アルビカンス
L. pentosus L.ペントサス
L. plantarum L.プランタルム
L. rhamnosus L.ラムノサス

図2B
Growth of Candida after 24h compared to control(%) 対照と比較した24時間後のカンジダの増殖(%)
Candida albicans カンジダ・アルビカンス
L. pentosus L.ペントサス
L. plantarum L.プランタルム
L. rhamnosus L.ラムノサス

図2C
Candida albicans カンジダ・アルビカンス
L. pentosus L.ペントサス
L. plantarum L.プランタルム
L. rhamnosus L.ラムノサス

図3
Keratinocyt ケラチノサイト
L. reuteri L.ロイテリ
Miconazole ミコナゾール
L. plantarum L.プランタルム
L. pentosus L.ペントサス

図4
Lactobacillus ラクトバチルス
Atopobium アトポビウム
Streptococcus ストレプトコッカス
Gardnerella ガードネレラ
Halomonas ハロモナス
Sneathia スネシア
Prevotella プレボテラ
Shewanella シェワネラ
Dialister ジアリスタ
Bifidobacterium ビフィドバクテリウム
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
【配列表】
0007150696000001.app