IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックセミコンダクターソリューションズ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】窒化物系発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/024 20060101AFI20221003BHJP
   H01S 5/023 20210101ALI20221003BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01S5/024
H01S5/023
H01S5/343 610
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019515690
(86)(22)【出願日】2018-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2018015319
(87)【国際公開番号】W WO2018203466
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2017091238
(32)【優先日】2017-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】高山 徹
(72)【発明者】
【氏名】西川 透
(72)【発明者】
【氏名】中谷 東吾
(72)【発明者】
【氏名】左文字 克哉
(72)【発明者】
【氏名】狩野 隆司
(72)【発明者】
【氏名】植田 慎治
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-261376(JP,A)
【文献】特開2010-141242(JP,A)
【文献】国際公開第2013/175697(WO,A1)
【文献】特開2011-258883(JP,A)
【文献】特開2010-238954(JP,A)
【文献】特開2012-209352(JP,A)
【文献】特開2011-044669(JP,A)
【文献】特開2006-165453(JP,A)
【文献】特開2003-133648(JP,A)
【文献】国際公開第2012/127778(WO,A1)
【文献】特開2008-078340(JP,A)
【文献】特開2002-134822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaN基板の上に配置される多層構造を有する窒化物系半導体発光素子と、
前記窒化物系半導体発光素子が実装されるサブマウント基板とを備え、
前記多層構造は、前記GaN基板側から順に積層された第1導電型の第1クラッド層と、第1光ガイド層と、量子井戸活性層と、第2光ガイド層と、第2導電型の第2クラッド層とを有し、
前記窒化物系半導体発光素子は、前記多層構造と前記サブマウント基板とが対向するように前記サブマウント基板に実装されており、
前記サブマウント基板は、ダイヤモンドで形成されており、
前記第1光ガイド層及び前記第2光ガイド層の少なくとも一方はInを含み、
前記第1クラッド層は、Al組成が0.05以下のAlGaNからなり、
前記第2クラッド層は、Al組成が0.05以下のAlGaNからなり、
前記多層構造は、前記GaN基板に対して圧縮性の平均歪みを有し、
前記窒化物系半導体発光素子には、前記GaN基板側に凹型の反りが形成されている
窒化物系発光装置。
【請求項2】
前記第1光ガイド層及び前記第2光ガイド層のIn組成は各々6%以下である
請求項1記載の窒化物系発光装置。
【請求項3】
前記GaN基板と前記第1クラッド層との間に、前記GaN基板に対して圧縮性の平均歪みを有する窒化物半導体層を含むバッファ層をさらに備えている
請求項1又は2記載の窒化物系発光装置。
【請求項4】
前記バッファ層は、Inを含む
請求項3記載の窒化物系発光装置。
【請求項5】
前記バッファ層は、AlGaN層をさらに含む
請求項3又は4記載の窒化物系発光装置。
【請求項6】
前記量子井戸活性層は量子井戸層とバリア層とからなり、前記バリア層のIn組成は、前記第1光ガイド層及び前記第2光ガイド層のIn組成以上である
請求項1~5のいずれか1項記載の窒化物系発光装置。
【請求項7】
前記第2クラッド層にはリッジが形成されている
請求項1~6のいずれか1項記載の窒化物系発光装置。
【請求項8】
前記リッジの前記第2光ガイド層側にInを含む層、又は、GaNからなる層を備える
請求項7記載の窒化物系発光装置。
【請求項9】
前記リッジの側方には分離溝が形成されており、前記分離溝の幅は、6μm以上15μm以下である
請求項7又は8記載の窒化物系発光装置。
【請求項10】
前記GaN基板は無極性、又は半極性の面方位を有し、
前記多層構造におけるAl組成は1%以下である
請求項1~9のいずれか1項記載の窒化物系発光装置。
【請求項11】
前記多層構造と前記サブマウント基板との間に、前記第2クラッド層側から順に、第1バリア層、第1パッド電極層、第2バリア層、及び、接合層を備え、
前記第2バリア層の短辺方向の幅は、前記第1バリア層の短辺方向の幅より狭い
請求項1~10のいずれか1項記載の窒化物系発光装置。
【請求項12】
前記多層構造と前記サブマウント基板との間に、前記第2クラッド層側から、第1バリア層、第1パッド電極層、第2バリア層、及び、接合層を備え、
前記接合層は、前記第2バリア層と前記第1バリア層との間であって、前記第2バリア層の端部より内側に入りこんでいる
請求項1~10のいずれか1項記載の窒化物系発光装置。
【請求項13】
前記窒化物系半導体発光素子は、共振器を備え、
前記共振器の端面近傍に電流非注入窓領域を有する
請求項1~12のいずれか1項記載の窒化物系発光装置。
【請求項14】
GaN基板の上に配置される多層構造を有する窒化物系半導体発光素子と、
前記窒化物系半導体発光素子が実装されるサブマウント基板とを備え、
前記多層構造は、前記GaN基板側から順に積層された第1導電型の第1クラッド層と、第1光ガイド層と、量子井戸活性層と、第2光ガイド層と、第2導電型の第2クラッド層とを有し、
前記多層構造は、前記GaN基板に対して圧縮性の平均歪みを有し、
前記窒化物系半導体発光素子は、前記多層構造と前記サブマウント基板とが対向するように前記サブマウント基板に実装されており、
前記サブマウント基板は、ダイヤモンドで形成されており、
前記第1光ガイド層及び前記第2光ガイド層の少なくとも一方はInを含み、
前記第1クラッド層は、Al組成が0.05以下のAlGaNからなり、
前記第2クラッド層は、Al組成が0.05以下のAlGaNからなる
窒化物系発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物系発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車用のヘッドライト光源として、ハロゲンランプ、HID(高輝度放電)ヘッドランプ、LED(発光ダイオード)ランプが広く用いられている。
【0003】
ハロゲンランプは、電球内部に封入する窒素、アルゴンなどの不活性ガスに、ハロゲンガスを微量入れ、内部のフィラメントに通電して、白熱させた際の発光を利用しており、従前より、広く用いられている。HIDランプは、ハロゲンランプと異なり、フィラメントを持たず、電球が切れることがなく、放電できる限り発光する。HIDランプは、一般的に、ハロゲンランプと比較して高価ではあるが、低消費電力でありながら、高輝度、長寿命という利点がある。LEDランプは、寿命が長く、取替えの手間もバルブのみの交換で済み、消費電力は、HIDよりも低く、発熱量も低い。ただし、LEDランプの明るさはHIDと比較して劣るため、現状では、ヘッドライトとしては、主にHIDランプが用いられており、フォグランプ、車のドレスアップ光源などに、LEDランプが用いられている。
【0004】
また、昨今、LEDよりも発光強度の高い発光素子として、LD(レーザダイオード)を用いることによって発光強度を高めたレーザヘッドライト光源が注目されている。ヘッドライト光源に使用される発光素子としては、例えば、波長450nm帯において、85℃の高温状態でワット級の高出力動作を行っても数千時間以上の長期動作を行うことができる超高出力青色半導体レーザが要望されている。
【0005】
このような発光素子を実現するためには、レーザ発振動作中の発光素子の自己発熱による温度上昇を可能な限り抑制する必要がある。
【0006】
自己発熱による温度上昇を抑制するためには、半導体レーザ素子の熱抵抗を低減することが重要である。
【0007】
特許文献1に記載された半導体レーザ装置では、図53に示すように、半導体レーザ素子の熱抵抗を低減するために、熱伝導率の高いダイヤモンドサブマウント基板にジャンクションダウンで半導体レーザ素子を実装している(特許文献1参照)。
【0008】
また、素子の動作寿命を延ばすという観点から、図54に示すように、半導体レーザ素子が実装されるサブマウント基板に凹凸を形成し、半導体レーザ素子の基板側が凸となるように実装後の形状を制御する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2013/175697号
【文献】特開2003-31895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
波長450nm帯の青色レーザにおいては、この波長帯でのレーザ発振を得るために、発光層となる量子井戸層に用いられるInGaN層のIn組成を0.18(18%)程度まで大きくする必要が有る。
【0011】
一般的に、窒化物系半導体レーザに使用される窒化物材料は、InN、GaN及びAlNの少なくとも二つを混合して形成される混晶半導体から形成される。ここで、InN、GaN及びAlNの格子定数は、それぞれ、3.54Å、3.182Å及び3.11Åである。このとき、InNとGaNとを混合して形成するInGaNはGaNよりも格子定数が大きくなるため、GaNに対し格子不整が生じることになる。具体的には、青色レーザの発光層に使用されるIn組成0.19のInGaN量子井戸層とGaN基板との格子不整は、2.1%の大きな値となる。
【0012】
これに対し、Blu-ray(登録商標)用光ディスクシステム用途の、従来の波長405nm帯の青紫帯レーザでは、量子井戸に使用されるInGaNのIn組成は、0.07(7%)程度である。この場合、GaN基板との格子不整は0.74%の値である。このことから、波長450nm帯青色レーザにおいては、従来の波長405nm帯青紫色レーザと比較して量子井戸層に発生する応力は数倍大きくなる。応力の増大は格子欠陥の発生のみならず、窒化物材料のようなウルツァイト(WZ)型結晶構造の結晶においては、結晶内部におけるピエゾ効果による電界の発生の原因となる。このようなピエゾ効果による電界は、活性層への電流注入の妨げとなる。この結果、動作電圧の増大、発光効率の低下などの現象が発生し得る。
【0013】
高温高出力動作を実現するためには、発光層となる量子井戸活性層を、半導体レーザ素子が実装されるサブマウント基板に近い側に実装するジャンクションダウン実装を行うことにより、熱抵抗を低減し、半導体レーザ素子の温度上昇を抑制することが効果的である。この場合、量子井戸活性層と、サブマウントとの間の距離が近づくために、サブマウント材料と半導体レーザ素子との熱膨張係数の差に起因する量子井戸活性層に生じる応力は大きくなる。
【0014】
また、ワット級動作を行うための窒化物系半導体レーザ素子においては、共振器端面近傍領域の量子井戸活性層に電流非注入窓領域を形成し、共振器端面での非発光再結合により生じた発熱による活性層のバンドギャップエネルギーの縮小を抑制し、自らの光により共振器端面が破壊されるCOD(Catastrophic Optical Damage)の発生を抑制する必要がある。
【0015】
ここで、量子井戸活性層の応力により発生するピエゾ電界が、半導体レーザ素子に注入された電流が共振器端面方向に流れやすくなるような向きに発生した場合、上記の電流非注入窓領域には電流が漏れやすくなるため、非発光再結合が生じやすくなる。この結果、半導体レーザ素子のCODレベルの低下を招くことになる。
【0016】
したがって、波長450nm帯の半導体レーザ素子において、85℃の高温状態でワット級の高出力動作を行う場合に数千時間以上の長期動作保証を行うためには、熱抵抗の低減による、半導体レーザ素子の温度上昇の抑制だけでは必ずしも十分ではない。すなわち、半導体レーザ素子の温度上昇の抑制に加えて、発光層となる量子井戸活性層に生じる応力を制御することによって共振器端面近傍の電流非注入窓領域への電流の拡がりを抑制し、電流が注入される量子井戸活性層への電流注入効率向上を行う必要がある。
【0017】
そこで、本開示は、量子井戸活性層の温度上昇の低減、及び、量子井戸活性層への電流注入効率向上を同時に実現できる窒化物系発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本開示の一態様に係る窒化物系発光装置は、AlGa1-xN(0≦x≦1)基板の上に、前記AlGa1-xN基板側から順に第1導電型の第1クラッド層、第1光ガイド層、量子井戸活性層、第2光ガイド層、及び、第2導電型の第2クラッド層が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子と、前記窒化物系半導体発光素子が実装されるサブマウント基板とを備え、前記窒化物系半導体発光素子は、前記多層構造と前記サブマウント基板とが対向するように前記サブマウント基板に実装されており、前記サブマウント基板は、ダイヤモンドで形成されており、前記窒化物系半導体発光素子には、前記AlGa1-xN基板側に凹型の反りが形成されている。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、量子井戸活性層の温度上昇の低減、及び、量子井戸活性層への電流注入効率向上を同時に実現できる窒化物系発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A図1Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図1B図1Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
図1C図1Cは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の共振器端近傍の構成を示す模式的な断面図である。
図2図2は、量子井戸活性層のバンド構造を示す図である。
図3A図3Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の一例の外観を示す模式的な側面図である。
図3B図3Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の他の例の外観を示す模式的な側面図である。
図4図4は、サブマウント基板がダイヤモンドで形成される場合のせん断応力及びピエゾ電界の共振器長方向における分布を示すグラフである。
図5図5は、サブマウント基板がダイヤモンドで形成される場合のせん断応力及びピエゾ電界の共振器長方向における分布を示すグラフである。
図6図6は、サブマウント基板がAlN(窒化アルミニウム)で形成される場合のせん断応力及びピエゾ電界の共振器長方向における分布を示すグラフである。
図7A図7Aは、反りΔRの定義を説明する概略図である。
図7B図7Bは、多層構造の平均歪みと反りΔRとの関係を示すグラフである。
図8A図8Aは、実施の形態1に係る多層構造における格子不整(歪み)の膜厚方向における分布の一例を示すグラフである。
図8B図8Bは、図8Aにおける量子井戸活性層部分の拡大図である。
図8C図8Cは、実施の形態1に係る多層構造の成長層方向における平均歪みεtaveの分布の一例を示すグラフである。
図9A図9Aは、ピエゾ効果を考慮した場合の量子井戸活性層で得られる利得の波長及びキャリア濃度依存性の計算結果を示すグラフである。
図9B図9Bは、ピエゾ効果を考慮しない場合の量子井戸活性層で得られる利得の波長及びキャリア濃度依存性の計算結果を示すグラフである。
図9C図9Cは、利得の量子井戸活性層に注入されたキャリア濃度依存性の計算結果を示すグラフである。
図10図10は、量子井戸層に発生するピエゾ電界のバリア層のIn組成依存性を示すグラフである。
図11図11は、半導体レーザ素子の100mA動作時における動作電圧のバリア層のIn組成依存性を計算した結果を示すグラフである。
図12図12は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子のピエゾ電界と利得との関係を示す図である。
図13図13は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の利得のキャリア濃度依存性を示すグラフである。
図14A図14Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層106近傍領域のフェルミ準位(フェルミエネルギー)と伝導帯エネルギーとの関係を示すグラフである。
図14B図14Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層106近傍領域のフェルミ準位と価電子帯エネルギーとの関係を示すグラフである。
図14C図14Cは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層106近傍領域のフェルミ準位と伝導帯エネルギーとの関係から決まる電子及びホールの濃度分布を示すグラフである。
図15図15は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の各光ガイド層におけるキャリア濃度とバリア層及び各光ガイド層のIn組成との関係を示す図である。
図16A図16Aは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図16B図16Bは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
図16C図16Cは、実施の形態2の変形例に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図16D図16Dは、実施の形態1の変形例に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図17A図17Aは、実施の形態1に係る多層構造における格子不整(歪み)の膜厚方向における分布の他の例を示すグラフである。
図17B図17Bは、実施の形態1に係る多層構造の成長層方向における平均歪みの分布の他の例を示すグラフである。
図18A図18Aは、実施の形態2に係る多層構造における格子不整(歪み)の膜厚方向における分布の他の例を示すグラフである。
図18B図18Bは、実施の形態2に係る多層構造の成長層方向における平均歪みの分布の他の例を示すグラフである。
図19A図19Aは、比較例に係る多層構造の平均歪みεtaveと第1光ガイド層及び第2光ガイド層の合計厚との関係を示すグラフである。
図19B図19Bは、実施の形態2に係る多層構造の平均歪みεtaveと第1光ガイド層及び第2光ガイド層の合計厚との関係の一例を示すグラフである。
図19C図19Cは、実施の形態2に係る多層構造の平均歪みεtaveと第1光ガイド層及び第2光ガイド層の合計厚との関係の他の例を示すグラフである。
図20図20は、実施の形態2に係る多層構造全体の平均歪みεtaveとバッファ層102を構成するInGaN層及びAlGaN層の各膜厚との関係を示すグラフである。
図21A図21Aは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層における、25℃でのx軸方向のせん断応力分布を示す図である。
図21B図21Bは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層における、25℃でのx軸方向のピエゾ電界分布を示す図である。
図21C図21Cは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層における、25℃でのx軸方向のピエゾ電位分布を示す図である。
図22A図22Aは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層における、25℃でのx軸方向のせん断応力分布を示す図である。
図22B図22Bは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層における、25℃でのx軸方向のピエゾ電界分布を示す図である。
図22C図22Cは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層における、25℃でのx軸方向のピエゾ電位分布を示す図である。
図23A図23Aは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層における、150℃でのx軸方向のせん断応力分布を示す図である。
図23B図23Bは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層における、150℃でのx軸方向のピエゾ電界分布を示す図である。
図23C図23Cは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層における、150℃でのx軸方向のピエゾ電位分布を示す図である。
図24A図24Aは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層における、150℃でのx軸方向のせん断応力分布を示す図である。
図24B図24Bは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層における、150℃でのx軸方向のピエゾ電界分布を示す図である。
図24C図24Cは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層における、150℃でのx軸方向のピエゾ電位分布を示す図である。
図25A図25Aは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をダイヤモンドで形成されたサブマウント基板に実装した場合の25℃及び85℃での電流-光出力特性の測定結果を示すグラフである。
図25B図25Bは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をSiCで形成されたサブマウント基板に実装した場合の25℃及び85℃での電流-光出力特性の測定結果を示すグラフである。
図26A図26Aは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図26B図26Bは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
図27A図27Aは、第3光ガイド層のIn組成を0%と変化させた場合の量子井戸活性層における量子井戸層での、25℃におけるせん断応力のx軸方向分布を示すグラフである。
図27B図27Bは、第3光ガイド層のIn組成を1%と変化させた場合の量子井戸活性層における量子井戸層での、25℃におけるせん断応力のx軸方向分布を示すグラフである。
図27C図27Cは、第3光ガイド層のIn組成を2%と変化させた場合の量子井戸活性層における量子井戸層での、25℃におけるせん断応力のx軸方向分布を示すグラフである。
図28図28は、実施の形態3に係る量子井戸活性層に生じるピエゾ電位とx軸方向位置との関係を示すグラフである。
図29A図29Aは、実施の形態4に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図29B図29Bは、実施の形態4に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層の構成を示す模式的な断面図である。
図30A図30Aは、実施の形態5に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図30B図30Bは、実施の形態5に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層の構成を示す模式的な断面図である。
図31A図31Aは、実施の形態6に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図31B図31Bは、実施の形態6に係る半導体レーザ素子における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
図32A図32Aは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の25℃における量子井戸層に生じるせん断応力の計算結果を示す図である。
図32B図32Bは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の25℃における量子井戸層に生じるピエゾ電界の計算結果を示す図である。
図32C図32Cは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の25℃における量子井戸層に生じるピエゾ電位の計算結果を示す図である。
図33A図33Aは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の150℃における量子井戸層に生じるせん断応力の計算結果を示す図である。
図33B図33Bは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の150℃における量子井戸層に生じるピエゾ電界の計算結果を示す図である。
図33C図33Cは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の150℃における量子井戸層に生じるピエゾ電位の計算結果を示す図である。
図34図34は、実施の形態7に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図35図35は、実施の形態7の変形例に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図36図36は、実施の形態8に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図37図37は、実施の形態8の変形例に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図38A図38Aは、主面がC面であるGaN基板に、Al組成が0である第1クラッド層及び第2クラッド層を備える多層構造を形成した場合における量子井戸活性層近傍のバンド構造を示す図である。
図38B図38Bは、主面が半極性面であるGaN基板に、Al組成が0である第1クラッド層及び第2クラッド層を備える多層構造を形成した場合における量子井戸活性層近傍のバンド構造を示す図である。
図38C図38Cは、主面が無極性面であるGaN基板に、Al組成が0である第1クラッド層及び第2クラッド層を備える多層構造を形成した場合における量子井戸活性層近傍のバンド構造を示す図である。
図39A図39Aは、C面上に多層構造を形成した半導体レーザ素子における100mA動作時の動作電圧の各クラッド層のAl組成依存性を示すグラフである。
図39B図39Bは、半極性面上に多層構造を形成した半導体レーザ素子における100mA動作時の動作電圧の各クラッド層のAl組成依存性を示すグラフである。
図39C図39Cは、無極性面上に多層構造を形成した半導体レーザ素子における100mA動作時の動作電圧の各クラッド層のAl組成依存性を示すグラフである。
図40図40は、多層構造の平均歪みεtaveの各クラッド層のAl組成依存性を示すグラフである。
図41図41は、レーザ素子の中央部近傍の側壁に形成される半田材料のはみ出しを示す図である。
図42図42は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装する直前の状態を示す模式的な断面図である。
図43図43は、実施の形態9に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装する直前の状態を示す模式的な断面図である。
図44図44は、実施の形態9に係る半導体レーザ装置の構造を示す模式的な断面図である。
図45A図45Aは、実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子の構成を示す模式的な断面図である。
図45B図45Bは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のP側多層電極の基板法線方向視における形状の一例を示す模式的な平面図である。
図45C図45Cは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のP側多層電極の基板法線方向視における形状の他の一例を示す模式的な平面図である。
図45D図45Dは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のP側多層電極の基板法線方向視における形状のさらに他の一例を示す模式的な平面図である。
図45E図45Eは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のN側電極の基板法線方向視における形状の一例を示す模式的な平面図である。
図45F図45Fは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のN側電極の基板法線方向視における形状の他の一例を示す模式的な平面図である。
図45G図45Gは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のN側電極の基板法線方向視における形状のさらに他の一例を示す模式的な平面図である。
図46図46は、実施の形態10に係るサブマウント基板の形状を示す斜視図である。
図47図47は、実施の形態10に係るサブマウント基板に形成される電極の構造を示す図である。
図48A図48Aは、傾斜部に接合層が形成されていないサブマウント基板に半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置の構造を示す模式的な断面図である。
図48B図48Bは、傾斜部に接合層が形成されたサブマウント基板に半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置の構造を示す模式的な断面図である。
図49A図49Aは、傾斜部に接合層が形成されていないサブマウント基板に、電流非注入窓領域が形成された半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置の構造を示す模式的な断面図である。
図49B図49Bは、傾斜部に接合層が形成されたサブマウント基板に、電流非注入窓領域が形成された半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置の構造を示す模式的な断面図である。
図50図50は、実施の形態11に係る光モジュールの一例の構造を示す図である。
図51図51は、実施の形態12に係る光モジュールの一例の構造を示す断面図である。
図52図52は、実施の形態13に係る光源の構成の一例を示す断面図である。
図53図53は、従来の半導体発光装置の構成の一例を示す断面図である。
図54図54は、従来の半導体発光装置の構成の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施の形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見について説明する。
【0022】
上述のとおり、ヘッドライトの光源に使用される発光素子として、波長450nm帯において、85℃の高温でワット級の高出力動作を行う場合においても、数千時間以上の長期動作可能な超高出力の青色半導体レーザ装置が要望されている。このような超高出力の青色半導体レーザで蛍光体を励起し、黄色光を得ることができれば、照射光全体として白色の超高出力光源を得ることが可能となる。
【0023】
このような高信頼性の超高出力の青色半導体レーザ装置を実現するためには、レーザ発振動作中の半導体レーザ素子の温度上昇を可能な限り抑制する必要がある。このためには、高放熱性のサブマウントに半導体レーザ素子をジャンクションダウンで実装し、半導体レーザ素子の熱抵抗を小さくすることが非常に効果的である。以下、従来の半導体発光装置の構成について図面を用いて説明する。図53は、従来の半導体発光装置の構成の一例を示す断面図である。図54は、従来の半導体発光装置の構成の他の例を示す断面図である。図53及び図54は、それぞれ、特許文献1及び特許文献2に開示された半導体発光装置の構成を示している。
【0024】
例えば、特許文献1に係る半導体発光装置300では、図53に示すように、窒化物発光素子310をダイヤモンドからなるサブマウント基板311上にジャンクションダウンで実装し、素子の熱抵抗を低減する方法が開示されている。ダイヤモンドは熱伝導率が1000W/m・K程度以上と、他のサブマウントに使用されている材料例えばSiC(熱伝導率200W/m・K程度)、AlN(熱伝導率150W/m・K程度)などと比較して非常に大きく、高放熱性を実現するために適している。
【0025】
しかしながら、GaN結晶の(0001)面(C面)を主面とするGaN基板を用いる場合、GaNはウルツァイト(WZ)型結晶構造であるため、その原子配列に起因して、物性として圧電性(ピエゾ効果)を有することが知られている。この場合、結晶に応力が印加されるとその応力に応じた分極によるピエゾ電界が結晶中に生じることになる。
【0026】
また、前述のように、ワット級動作を行うための窒化物系半導体レーザ素子においては、共振器端面近傍領域の量子井戸活性層に電流非注入窓領域を形成することによって、共振器端面での非発光再結合により生じた発熱による量子井戸活性層のバンドギャップエネルギーの縮小を抑制する必要がある。これによりCODの発生を抑制し得る。
【0027】
ところが、量子井戸活性層の応力により発生するピエゾ電界が、半導体レーザ素子に注入された電流が共振器端面方向に流れやすくなるような向きに発生する場合があり得る。この場合、上記の電流非注入窓領域には電流が漏れやすくなるため、非発光再結合が生じやすくなる。この結果、発熱を生じ、半導体レーザ素子のCODレベルの低下を招くことになる。
【0028】
85℃の高温状態でワット級の高出力動作中の半導体レーザ素子では、電流注入の大きさは数A以上となるため、量子井戸活性層に生じるピエゾ電界の向きを、半導体レーザ素子に注入された電流が共振器端面方向に流れにくい向きに制御する必要がある。これにより共振器端面方向への漏れ電流の発生を極力抑制しなければ、共振器端面付近に電流非注入窓領域を形成したとしても、CODレベルの低下に伴い半導体レーザ素子が劣化し得る。
【0029】
ピエゾ電界の向きを、半導体レーザ素子に注入された電流が共振器端面方向に流れにくい向きに制御する方法については、特許文献1にはなんら開示されていない。
【0030】
また、特許文献2に係る半導体発光装置400では、図54に示すように、GaN基板401上の発光素子402を、凸状の形状のサブマウント基板410上に、素子のGaN基板401側が凸形状となるようにジャンクションダウンで実装する構成が開示されている。これにより、活性層に生じる応力を制御し、活性層の劣化を抑制しようとしている。
【0031】
しかしながら、共振器方向の応力を制御し、活性層に生じるピエゾ電界の向きを、素子に注入された電流が共振器端面方向に流れにくい向きに制御する方法については、特許文献2にはなんら開示されていない。
【0032】
さらに、ダイヤモンドをサブマウント基板として使用する場合、ダイヤモンドは非常に硬いため、特許文献2に開示されたような凸状のなめらかな湾曲形状をダイヤモンドサブマウントに形成することは、加工上非常に困難であり、コストの増大を招く。さらに、サブマウントへの素子の実装位置を高精度に制御しなければ、発光面が傾くといった課題が生じてしまう。
【0033】
以上のように、ワット級の半導体レーザ装置において劣化の主原因となるCODレベルの低下を抑制するためには、共振器端面近傍領域に電流が注入されない電流非注入窓領域を形成することが効果的である。この場合、電流が注入される領域から電流非注入窓領域への電流の漏れを小さくするためには、動作中の素子温度を可能な限り低減し、動作電流そのものの増大を抑制するだけでなく、活性層に生じているピエゾ電界の向きを電流が共振器端面方向に流れにくい方向に制御する必要がある。
【0034】
そこで、本開示においては、85℃の高温動作においても、半導体レーザ素子の温度上昇が小さく、電流非注入窓領域への漏れ電流の少ない、長期高出力動作可能な低消費電力のワット級超高出力半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【0035】
本開示の一態様に係る窒化物系発光装置は、AlGa1-xN(0≦x≦1)基板の上に、前記AlGa1-xN基板側から順に第1導電型の第1クラッド層、第1光ガイド層、量子井戸活性層、第2光ガイド層、及び、第2導電型の第2クラッド層が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子と、前記窒化物系半導体発光素子が実装されるサブマウント基板とを備え、前記窒化物系半導体発光素子は、前記多層構造と前記サブマウント基板とが対向するように前記サブマウント基板に実装されており、前記サブマウント基板は、ダイヤモンドで形成されており、前記窒化物系半導体発光素子には、前記AlGa1-xN基板側に凹型の反りが形成されている。
【0036】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記AlGa1-xN基板は、GaN基板であってもよい。
【0037】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記多層構造は、前記AlGa1-xN基板に対して圧縮性の平均歪みを有してもよい。
【0038】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記第1光ガイド層及び前記第2光ガイド層の少なくとも一方はInを含んでもよい。
【0039】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記第1光ガイド層及び第2光ガイド層のIn組成は各々6%以下であってもよい。
【0040】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記AlGa1-xN基板と前記第1クラッド層との間に、前記AlGa1-xN基板に対して圧縮性の平均歪みを有する窒化物半導体層を含むバッファ層をさらに備えていてもよい。
【0041】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記バッファ層は、Inを含んでもよい。
【0042】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記バッファ層は、AlGaN層をさらに含んでもよい。
【0043】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記量子井戸活性層は量子井戸層とバリア層とからなり、前記バリア層のIn組成は、前記第1光ガイド層及び前記第2光ガイド層のIn組成以上であってもよい。
【0044】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記第2クラッド層にはリッジが形成されていてもよい。
【0045】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記リッジの前記第2光ガイド層側にInを含む層、又は、GaNからなる層を備えてもよい。
【0046】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記GaN基板は無極性、又は半極性の面方位を有し、前記多層構造におけるAl組成は1%以下であってもよい。
【0047】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記多層構造は、Alを含まなくてもよい。
【0048】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記多層構造と前記サブマウント基板との間に、前記第2クラッド層側から順に、第1バリア層、第1パッド電極層、第2バリア層、及び、接合層を備え、前記第2バリア層の短辺方向の幅は、前記第1バリア層の短辺方向の幅より狭くてもよい。
【0049】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置において、前記多層構造と前記サブマウント基板の間に、前記第2クラッド層側から、第1バリア層、第1パッド電極層、第2バリア層、及び、接合層を備え、前記接合層は、前記第2バリア層と前記第1バリア層との間であって、前記第2バリア層の端部より内側に入りこんでいてもよい。
【0050】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置は、AlGa1-xN基板の上に、前記AlGa1-xN基板側から順に第1導電型の第1クラッド層、第1光ガイド層、量子井戸活性層、第2光ガイド層、及び、第2導電型の第2クラッド層が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子と、前記窒化物系半導体発光素子が実装されるサブマウント基板とを備え、前記多層構造は、前記AlGa1-xN基板に対して圧縮性の平均歪みを有し、前記窒化物系半導体発光素子は、前記多層構造と前記サブマウント基板とが対向するように前記サブマウント基板に実装されており、前記サブマウント基板は、ダイヤモンドで形成されている。
【0051】
また、本開示の一態様に係る窒化物系発光装置は、AlGa1-xN基板の上に、前記AlGa1-xN基板側から順に第1導電型の第一クラッド層、第1光ガイド層、量子井戸活性層、第2光ガイド層、及び、第2導電型の第2クラッド層が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子と、前記窒化物系半導体発光素子が実装されるサブマウント基板とを備え、前記多層構造は、前記AlGa1-xN基板に対して5.2×10-4以下の引っ張り性、又は、圧縮性の平均歪みを有し、前記AlGa1-xN基板の厚さは75μm以上、95μm以下であって、前記窒化物系半導体発光素子は、前記多層構造と前記サブマウント基板とが対向するように前記サブマウント基板に実装されており、前記サブマウント基板は、ダイヤモンドで形成されている。
【0052】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら、説明を行う。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、並びに、工程及び工程の順序などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0053】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0054】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しながら、説明を行う。
【0055】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る窒化物系発光装置について説明する。まず、実施の形態1に係る窒化物系発光装置において用いられる窒化物系半導体発光素子の一例である半導体レーザ素子11について、図面を用いて説明する。
【0056】
図1Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11の構成を示す模式的な断面図である。図1Aは、半導体レーザ素子11の共振器長方向に対して垂直な断面を示している。図1Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。図1Cは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11の共振器端近傍の構成を示す模式的な断面図である。図1Cにおいては、電流非注入窓領域が形成された部分における断面が示されている。
【0057】
図1Aに示すように、半導体レーザ素子11は、GaN基板101の上に、GaN基板101側から順に第1導電型の第1クラッド層103、第1光ガイド層105、量子井戸活性層106、第2光ガイド層107、及び、第2導電型の第2クラッド層109が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子である。実施の形態1では、半導体レーザ素子11は、さらに、N型GaN層104と、電子障壁層108と、コンタクト層110と、電流ブロック層112と、P側オーミック電極113と、P側第1密着層114と、第1バリア層115と、パッド電極116と、N側電極117とを備える。
【0058】
GaN基板101は、半導体レーザ素子11の基体となるAlGa1-xN(0≦x≦1)基板の一例である。
【0059】
第1クラッド層103は、GaN基板101の上方に配置される第1導電型のクラッド層である。本実施の形態では、第1クラッド層103は、N型AlGaNで形成されている。第1クラッド層103の膜厚は、特に限定されないが、実施の形態1では1.2μmである。
【0060】
N型GaN層104は、第1クラッド層103の上方に配置され、量子井戸活性層106で発生した光をガイドする第1導電型の光ガイド層の一例である。本実施の形態では、N型GaN層104は、N型GaNで形成される。N型GaN層104の膜厚は、特に限定されないが、実施の形態1では100nmである。
【0061】
第1光ガイド層105は、第1クラッド層103と量子井戸活性層106との間に配置され、量子井戸活性層106において発生した光をガイドする層である。本実施の形態では、第1光ガイド層105は、アンドープのInGaNで形成される。第1光ガイド層105の膜厚は、特に限定されないが、実施の形態1では200nmである。
【0062】
量子井戸活性層106は、半導体レーザ素子11において光を発生するアンドープの多重量子井戸活性層である。量子井戸活性層106の構造については後述する。
【0063】
第2光ガイド層107は、第2クラッド層109と量子井戸活性層106との間に配置され、量子井戸活性層106において発生した光をガイドする層である。本実施の形態では、第2光ガイド層107は、アンドープのInGaNで形成される。第2光ガイド層107の膜厚は、特に限定されないが、実施の形態1では180nmである。
【0064】
電子障壁層108は、量子井戸活性層106に注入された電子が漏れ出すことを抑制するための層である。電子障壁層108は、量子井戸活性層106に注入された電子が第2クラッド層109に熱的に励起されて漏れ出すキャリアオーバーフローを抑制し、温度特性の向上を実現している。電子障壁層108の構成は、本実施の形態では、Al組成が0.3(30%)、膜厚5nmのAlGaNからなる。
【0065】
第2クラッド層109は、量子井戸活性層106の上方に配置される第2導電型のクラッド層である。本実施の形態では、第2クラッド層109は、P型AlGaNで形成されている。第2クラッド層109の膜厚は、特に限定されないが、実施の形態1では660nmである。
【0066】
コンタクト層110は、オーミックコンタクトを形成する層である。本実施の形態では、コンタクト層110は、P型GaNで形成される。コンタクト層110の膜厚は、特に限定されないが、実施の形態1では0.1μmである。
【0067】
電流ブロック層112は、電流の経路を制限する層である。電流ブロック層112は、光分布に対して透明な、つまり、量子井戸活性層106において発生した光に対して実質的に吸収のない透明な材料で形成される。実施の形態1では、電流ブロック層112は、SiOで形成される。電流ブロック層112の膜厚は、特に限定されないが、実施の形態1では0.2μmである。
【0068】
P側オーミック電極113は、オーミックコンタクトを形成する層である。P側オーミック電極113は、例えば、膜厚40nmのPd層と膜厚35nmのPt層とを有する。
【0069】
P側第1密着層114は、P側オーミック電極113と第1バリア層115との間に配置される層である。P側第1密着層114は、例えば、膜厚10nmのTiで形成される。
【0070】
第1バリア層115は、P側第1密着層114とパッド電極116との間に配置される層である。第1バリア層115は、例えば、膜厚10nmのPtで形成される。
【0071】
パッド電極116は、第1バリア層115の上方に配置されるパッド状の電極である。パッド電極116は、例えば、膜厚0.6μmのAuと、膜厚35nmのPtと、膜厚1μmのAuとで形成される。
【0072】
N側電極117は、GaN基板101の下面、つまり、第1クラッド層103が形成された主面と反対側の面に形成された電極である。N側電極117は、例えば、膜厚10nmのTiと、膜厚35nmのPtと、膜厚2μmのAuとで形成される。
【0073】
また、図1Aに示すように、半導体レーザ素子11の第2クラッド層109には、幅Wのリッジが形成されている。リッジの幅Wは、特に限定されないが、実施の形態1では30μmである。
【0074】
このとき、リッジ下端部と量子井戸活性層106との距離dpを0.2μmとしている。
【0075】
85℃以上の環境温度での高温動作時であっても数ワットの光出力を得るために、半導体レーザ素子11の共振器長は1200μmとしている。また、図1Cに示すように、共振器前後面の共振器端面近傍のリッジ部のP型GaNコンタクト層110の上にはSiOからなる絶縁膜(厚さ0.2μm)を共振器端からの距離30μm以下の領域に対して形成し、電流非注入窓領域を形成している。半導体レーザ素子11が電流非注入窓領域を備えない場合には、量子井戸活性層106の動作キャリア密度が増大すると、非発光再結合による発熱が生じ、バンドギャップエネルギーが小さくなる。このとき、光吸収も増大し、益々、光出力が低下し、半導体レーザ素子の発熱が増大してしまい、ついには共振器端面が破壊されてしまうCODが生じてしまう。一方、半導体レーザ素子11の共振器端面近傍に電流非注入窓領域を形成することで、電流がレーザ共振器端面に注入されることを抑制できるため、端面近傍での量子井戸活性層での動作キャリア密度が増大することを抑制できる。したがって、半導体レーザ素子11の量子井戸活性層での温度上昇を抑制しCODの発生を抑制することができる。
【0076】
ここで、N型AlGaNからなる第1クラッド層103及びP型AlGaNからなる第2クラッド層109のAl組成を大きくすると、量子井戸活性層106と各クラッド層との間の屈折率差を大きくすることができる。これにより、量子井戸活性層に垂直方向(基板法線方向)に光を強く閉じ込めることが可能となるため、発振しきい電流値を小さくすることが可能となる。しかしながらAlGaN層からなる各クラッド層とGaN基板101との熱膨張係数の差のために、AlGaNからなる各クラッド層のAl組成を大きくしすぎると格子欠陥、クラックなどが生じ信頼性の低下につながる。
【0077】
また、AlGaNからなる各クラッド層のバンドギャップエネルギーはAl組成の増大と共に大きくなるため、Al組成を高めると、動作電圧の増大をもたらす。したがって、AlGaNからなる各クラッド層のAl組成は0.05(5%)以下として、半導体レーザ素子11を作製する必要がある。
【0078】
実施の形態1においては、垂直方向の活性層への光閉じ込め係数を増大しつつ、格子欠陥及びクラック発生の低減、動作電圧の抑制を実現するためAlGaNからなる各クラッド層のAl組成を3.5%としている。
【0079】
また、実施の形態1における量子井戸活性層106は、波長450nmのレーザ発振を得るために、DQW(Double Quantum Well)構造を有する。以下、量子井戸活性層106の構造について図1Bを用いて説明する。図1Bに示すように、量子井戸活性層106は、厚さ30Å、In組成0.18(18%)のInGaNからなる量子井戸層106b及び106dを2層備えたDQW構造を有する。量子井戸活性層106は、さらに、InGaNからなるバリア層106a、106c及び106eを備える。バリア層106a、106c及び106eの厚さは、それぞれ、例えば、3nm、7nm及び3nmである。量子井戸層106b及び106d間のバリア層106cの厚さが厚くなるほど、量子井戸層106b及び106d同士の波動関数の結合が抑制される。波動関数の結合をある程度抑制するためには、量子井戸層間のバリア層の膜厚が5nm以上であればよく、バリア層106a、106c及び106eの厚さの組み合わせは、例えば、それぞれ7nm、7nm及び5nmでも、5nm、5nm及び3nmでも、5nm、7nm及び5nmでも、10nm、10nm及び8nmでも、15nm、15nm及び13nmなどであってもよい。
【0080】
図2は、量子井戸活性層のバンド構造を示す図である。図2には、量子井戸層のIn組成が0.145(14.5%)、バリア層のIn組成が0.008(0.8%)である場合のバンド構造を示している。図2のグラフ(a)は、ピエゾ効果を無視した場合の伝導帯のバンド構造と量子井戸層に閉じ込められる電子の波動関数とを示し、図2のグラフ(b)は、ピエゾ効果を無視した場合の価電子帯のバンド構造と量子井戸層に閉じ込められるホールの波動関数とを示している。また、図2のグラフ(c)は、ピエゾ効果考慮した場合の伝導帯のバンド構造と量子井戸層に閉じ込められる電子の波動関数とを示し、図2のグラフ(d)は、ピエゾ効果考慮した場合の価電子帯のバンド構造と量子井戸層に閉じ込められるホールの波動関数とを示している。
【0081】
量子井戸層には、ピエゾ効果によりピエゾ電界が生じ、量子井戸層106b、106dのバンド構造は、P型AlGaNからなる第2クラッド層109側の電位が低くなるような傾きが生じる。この場合、電子の波動関数は、P型AlGaNからなる第2クラッド層109側に拡がる形状となる。逆に、ホールの波動関数は、N型AlGaNからなる第1クラッド層103側に偏って拡がる形状となる。
【0082】
この結果、電子の波動関数とホールの波動関数との分布の重なり積分が小さくなり、電子とホールとの相互作用の低下を招き、量子井戸の利得が小さくなるため発振しきい値が増大する。
【0083】
電子の波動関数のP型AlGaNからなる第2クラッド層109側への拡がりを抑制するためには、第2光ガイド層107のバンドギャップエネルギーが、バリア層106eよりもバンドギャップエネルギーの大きい場合、バリア層106eの厚さを薄くし、第2光ガイド層107を量子井戸活性層に近づければよい。このようにすることで、電子の量子準位のエネルギーと第2光ガイド層107の伝導帯エネルギーとの差が大きくなるため、電子の波動関数のP型AlGaNからなる第2クラッド層109側への減衰が大きくなる。
【0084】
また、N型AlGaN層からなる第1クラッド層103に最も近いバリア層106aの領域では、ホールの波動関数が第1クラッド層103側に拡がりやすく、電子の波動関数とホールの波動関数の分布の重なり積分の低下につながる。ホールの波動関数の第1クラッド層103側への拡がりを抑制するためには、第1光ガイド層105のバンドギャップエネルギーが、バリア層106aよりも大きい場合、バリア層106aの厚さを薄くし、第1光ガイド層105を量子井戸活性層に近づければよい。
【0085】
ここで、量子井戸層106b、106dでのヘビーホール及びライトホールの有効質量は、電子の有効質量と比較してそれぞれ8倍及び1.6倍程度大きいため、ヘビーホールの波動関数の第1クラッド層103側への拡がりは、バリア層106eでの電子の波動関数の第2クラッド層側への拡がりと比較して小さい。
【0086】
また、量子井戸層間のバリア層106cでは、量子井戸層106bからP型AlGaNからなる第2クラッド層109側へ拡がる電子波動関数と、量子井戸層106dからN型AlGaNからなる第1クラッド層103側へ拡がるヘビーホール及びライトホールの波動関数が存在する。この結果、量子井戸層間のバリア層106cでの電子とホールとの相互作用の低下は抑制される。
【0087】
従って、量子井戸層間の波動関数の結合の影響の有無にかかわらず、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のバンドギャップエネルギーが、バリア層106a及びバリア層106eのバンドギャップエネルギーよりも大きい場合、少なくともP型AlGaNからなる第2クラッド層109に最も近いバリア層の厚さを、量子井戸層間のバリア層の厚さよりも薄くすれば、電子とホールの波動関数の相互作用の低下による量子井戸の利得低下を抑制し、発振しきい値を低減することができる。さらに、N型AlGaNからなる第1クラッド層103に最も近いバリア層の厚さを、量子井戸層間のバリア層の厚さよりも薄くすれば、電子とホールの波動関数の相互作用の低下による量子井戸の利得低下をさらに抑制し、発振しきい値を低減することができる。
【0088】
量子井戸層間のバリア層の厚さが5nm以下の場合、量子井戸層間の波動関数の結合の影響が大きくなる。この場合、前述のように、量子井戸層間の領域では、第2クラッド層109側へ拡がる電子波動関数と、量子井戸層106dから第1クラッド層103側へ拡がるヘビーホール及びライトホールの波動関数が存在し、量子井戸層間のバリア層106cでの電子とホールの相互作用の低下は抑制される。従って、量子井戸層間のバリア層の厚さが5nm以下の場合であっても、バリア層106a、106c及び、106eの厚さの組み合わせを、例えば、3nm、3nm及び、1nmあるいは、5nm、5nm及び、3nmとすれば、第2クラッド層109側への電子の波動関数の拡がりが小さくなり、量子井戸間の結合による利得低下に伴う発振しきい値の増大を低減することができる。
【0089】
さらに、バリア層106a、106c及び、106eの厚さの組み合わせを、例えば、1nm、3nm及び、1nm、あるいは、3nm、5nm及び、3nmとすれば、第1クラッド層103側へのホールの波動関数の拡がりと、第2クラッド層109への電子の波動関数の拡がりを抑制することができる。この結果、量子井戸間の結合による利得低下に伴う発振しきい値の増大をさらに低減することができる。
【0090】
量子井戸層が3層以上ある場合でも、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のバンドギャップエネルギーが、バリア層よりも大きい場合、少なくともP型AlGaNからなる第2クラッド層109に最も近いバリア層の厚さを、量子井戸層間のバリア層の厚さよりも薄くすれば、電子とホールの波動関数の相互作用の低下による量子井戸の利得低下を抑制し、発振しきい値を低減することができる。さらに、N型AlGaNからなる第1クラッド層103に最も近いバリア層の厚さを、量子井戸層間のバリア層の厚さよりも薄くすれば電子とホールの波動関数の相互作用の低下による量子井戸の利得低下をさらに抑制し、発振しきい値を低減することができる。
【0091】
量子井戸層のIn組成は、450nm帯のレーザ発振光を得るために、15%程度である必要がある。この場合、GaNとの格子不整が1.7%以上となり、その膜厚を厚くしすぎると、格子欠陥が生じてしまう。逆に、薄くしすぎると、量子井戸層への垂直方向の光閉じ込め係数が小さくなり、発振しきい値や動作キャリア密度が高くなるため、高温動作時の漏れ電流の増大につながる。したがって、格子欠陥の発生を抑制しつつ、量子井戸層への垂直方向(積層方向、つまり、図1Aのy軸方向)の光閉じ込め係数を十分に大きくするために、量子井戸層の膜厚は27Å以上、33Å以下の範囲であってもよい。実施の形態1では量子井戸層の膜厚を30Åとしている。
【0092】
また、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が小さいと、量子井戸活性層106への垂直方向の光閉じ込めが小さくなり、発振しきい値及び動作キャリア密度が高くなる。この結果、高温動作時の漏れ電流が増大する。したがって、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107の少なくとも一方は、Inを含んでもよい。これにより、漏れ電流を抑制できる。
【0093】
また、逆に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が大きいと、GaNとの格子不整の増大により、格子欠陥が生じやすくなる。このため、格子欠陥が生じずに、量子井戸層への垂直方向の光閉じ込め係数を増大させるために、第1光ガイド層105、第2光ガイド層107のIn組成は0.025(2.5%)以上、0.07(7%)以下で作製してもよい。実施の形態1においては、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を0.03(3%)として、格子欠陥の発生の抑制と、量子井戸層への垂直方向の光閉じ込め係数の増大とを両立させている。
【0094】
また、図1Aに示すように、半導体レーザ素子11のリッジ側面上に、SiOからなる誘電体の電流ブロック層112が形成されている。この構造において、P型GaNからなるコンタクト層110から注入された電流は電流ブロック層112によりリッジ部のみに狭窄され、リッジ底部下方に位置する量子井戸活性層106に集中して注入される。これにより、レーザ発振に必要なキャリアの反転分布状態は百mA程度の注入電流により実現される。量子井戸活性層106へ注入された電子と正孔とからなるキャリアの再結合により発光した光は、量子井戸活性層106と垂直な方向(図1Aのy軸方向)においては、第1光ガイド層105、第2光ガイド層107、第1クラッド層103及び第2クラッド層109により閉じ込められる。一方、量子井戸活性層106と平行な方向(図1Aのy軸に垂直な方向。以下、水平方向という。)においては、電流ブロック層112が各クラッド層よりも屈折率が低いため、光が閉じ込められる。また、電流ブロック層112はレーザ発振光に対して透明であるため光吸収がなく、低損失の導波路を実現することができる。また、導波路を伝播する光分布は電流ブロック層に大きくしみ出すことができるため、高出力動作に適した1×10-3のオーダのΔN(リッジ内外の垂直方向実効屈折率の差)を容易に得ることができ、さらにその大きさを、電流ブロック層112と量子井戸活性層106との間の距離dpの大きさを調整することで、同じく10-3のオーダで精密に制御することができる。このため、光分布を精密に制御しつつ、低動作電流の高出力な半導体レーザ素子11を得ることができる。実施の形態1においては、ΔNを5×10-3とすることによって、水平方向の光の閉じ込めを行っている。
【0095】
また、上述した半導体レーザ素子11の構造において、第1光ガイド層105、第2光ガイド層107、バリア層106a、106c及び106eのIn組成を変化させることで、GaN基板101上に形成した多層構造全体に生じる応力の平均値を制御し、結晶成長後におけるGaN基板101の反りの向きを制御することが可能となる。
【0096】
具体的には、例えば、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を高めると、InGaN層の格子定数はGaN基板101よりも大きいために、多層構造の格子定数の平均値は、GaN基板101の格子定数より大きくなる。したがって、多層構造は、全体で平均すると、GaN基板101によって圧縮される。つまり、多層構造は、GaN基板101によって圧縮性の応力を受ける。さらに言い換えると、多層構造は、GaN基板101に対して圧縮性の平均歪みを有する。この結果、結晶成長後にGaN基板101に生じる反りについて、図面を用いて説明する。
【0097】
図3A及び図3Bは、それぞれ、実施の形態1に係る半導体レーザ装置51a及び51bの外観を示す模式的な側面図である。
【0098】
図3Aに示す半導体レーザ装置51aは、窒化物系半導体発光素子と、窒化物系半導体発光素子が実装されるサブマウント基板122とを備える窒化物系発光装置の一例である。半導体レーザ装置51aは、窒化物系半導体発光素子として、半導体レーザ素子11を備える。半導体レーザ装置51aにおいて、半導体レーザ素子11は、多層構造とサブマウント基板122とが対向するようにサブマウント基板122に実装されている。また、サブマウント基板122は、ダイヤモンドで形成されている。なお、実施の形態1では、半導体レーザ素子11は、AuSn半田などからなる接合層121を介してサブマウント基板122に実装されている。ここで、半導体レーザ素子11の多層構造がGaN基板101に対して圧縮性の平均歪みを有する。一方、図3Bに示す半導体レーザ装置51bは、半導体レーザ素子11の多層構造がGaN基板101に対して引っ張り性の平均歪みを有する点において、図3Aに示す半導体レーザ装置51aと相違し、その他の点において一致する。
【0099】
半導体レーザ素子11の多層構造がGaN基板101に対して圧縮性の平均歪みを有する場合には、図3Aに示すように、半導体レーザ素子11には、GaN基板101側に凹型の反りが形成される。図3Aにおいては、図1Aに示す半導体レーザ素子11が、共振器方向(z軸方向)に対してGaN基板101の上面(外側面)側が凹形状となるようにジャンクションダウンでサブマウント基板に実装されている状態を示している。ここで、半導体レーザ素子11の共振器方向中央部でのそりの大きさ(距離)をΔRで示す。GaN基板101の上側面が凹型となる場合のΔRは負の値とし、凸型となる場合のΔRを正の値とする。
【0100】
逆に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を小さくすると、N型AlGaNからなる第1クラッド層103及びP型AlGaNからなる第2クラッド層109の格子定数は、GaN基板101よりも小さいため、多層構造は、GaN基板101に対して引っ張り性の平均歪みを有する。この結果、結晶成長後におけるGaN基板101の反りは、図3Bに示すようにGaN基板101を上にして凸型となる。ここで、図3B図1Aに示す半導体レーザ素子11が、共振器方向に対してGaN基板101側が凸形状となるようにジャンクションダウンでサブマウント基板に実装されている状態を示している。
【0101】
GaN基板101のC面上に窒化物層を形成した場合、格子不整に伴って生じる歪みにより、格子不整を生じる界面でピエゾ分極電荷が発生する。その結果、GaN基板101の法線方向(図3A及び図3Bのy軸方向)にピエゾ電界が生じ、成長層方向のバンド構造が変化してしまう。さらに、素子構造に回転(ねじれ)の応力であるせん断応力が生じた場合、せん断応力(図3A及び図3Bのzy面内での回転の応力)により、成長層に平行な方向(図3A及び図3B中のz方向)にもピエゾ電界が発生する。このせん断応力による成長層に平行な方向(z方向)のピエゾ電界が、z軸方向のバンド構造を変化させるため、共振器方向に対する電流の注入のしやすさの分布に影響を与える。
【0102】
ここで、半導体レーザ素子11の共振器方向にせん断応力が発生した場合、半導体レーザ素子11には反りが発生し、半導体レーザ素子11の共振器方向の反りと、せん断応力には互いに比例するような密接な関係がある。
【0103】
そこで、図1Aに示す構造の素子に対して、種々のサブマウント基板材料に対し、ジャンクションダウンで実装し、そりの大きさ(ΔR)を-1μmから1μmまで0.5μm間隔で変化させた場合に、量子井戸活性層106の量子井戸層106b、106dに生じるせん断応力の大きさをシミュレーションによって見積もった。その結果について図面を用いて説明する。
【0104】
図4図5及び図6は、それぞれ、サブマウント基板122がダイヤモンド、SiC(炭化シリコン)及びAlN(窒化アルミニウム)で形成される場合のせん断応力及びピエゾ電界の共振器長方向における分布を示すグラフである。SiC及びAlNは半導体レーザ素子の実装時において、放熱性が高く、熱伝導率の高いサブマウント基板材料として、広く用いられている。
【0105】
図4図6のグラフ(a)、(b)及び(c)には、それぞれ、温度25℃の場合の共振器方向に対するせん断応力、ピエゾ電界、ピエゾ電界により生じるピエゾ電位(ピエゾ電圧)の大きさの分布が示されている。半導体レーザ素子11の共振器長は1200μmとし、共振器方向中央部の位置の座標を0μmとしている。
【0106】
同様に、図4図6のグラフ(d)、(e)及び(f)には、それぞれ、温度150℃の場合の共振器方向に対するせん断応力、ピエゾ電界、ピエゾ電界により生じるピエゾ電位の大きさの分布が示されている。
【0107】
同様に、図4図6のグラフ(g)、(h)及び(i)には、それぞれ、温度200℃の場合の共振器方向に対するせん断応力、ピエゾ電界、ピエゾ電界により生じるピエゾ電位の大きさの分布が示されている。
【0108】
ピエゾ電位の大きさは共振器方向中央部におけるピエゾ電位を0Vとしている。窒化物系材料からなるワット級の超高出力半導体レーザ装置において、例えば3W動作する場合、共振器端面での量子井戸活性層における光密度は、数十MW/cmと、非常に大きな値となる。このため、端面でのCODの発生を防止するために、端面に電流非注入窓領域を形成し、端面近傍領域での非発光再結合を抑制し、CODレベルの低下を抑制しようとしている。そのため、電流非注入窓領域への注入電流の漏れを抑制する必要がある。しかしながら、共振器方向のピエゾ電位分布において、共振器端面近傍領域の方が共振器方向中央部より低くなり得る。この場合、電流非注入窓領域には電流が漏れやすくなり、非発光再結合が生じやすくなる結果、発熱を生じ、CODレベルの低下を招くことになる。
【0109】
したがって、85℃の高温状態でワット級の高出力動作中の半導体レーザ素子では、電流注入の大きさは数A以上の大電流となる。このため、量子井戸活性層に生じるピエゾ電界の向きを、半導体レーザ素子に注入された電流が共振器端面方向に流れにくい向きに制御することによって、共振器端面方向への漏れ電流の発生を極力抑制しなければ、共振器端面に電流非注入窓領域を形成したとしても、CODレベルの低下により、素子の劣化を生じてしまうことになる。
【0110】
また、環境温度85℃で半導体レーザ素子を動作させた場合、半導体レーザ素子の量子井戸活性層の温度は、半導体レーザ素子の電力消費に伴う発熱により150℃程度の高温状態にまで上昇している。したがって、室温のみならず、150℃以上の高温状態においても、電流非注入窓領域に電流が漏れないようにピエゾ電位を形成しなければならない。
【0111】
ここで、ダイヤモンドをサブマウント基板122に使用した場合、図4に示すように、共振器端面近傍のピエゾ電位の方が、共振器方向中央部のピエゾ電位よりも高く形成さていることがわかる。一方、SiC及びAlNをサブマウントに使用した場合、図5及び図6にそれぞれ示すように、共振器端面近傍のピエゾ電位の方が、共振器方向中央部のピエゾ電位よりも低く形成されている。
【0112】
これは、SiCの熱膨張係数は6.6×10-6、AlNの熱膨張係数は4.15×10-6であるのに対して、ダイヤモンドの熱膨張係数は1.1×10-6であり、GaNの熱膨張係数5.59×10-6と比較しても相対的に小さいことに起因すると考えられる。このように熱膨張係数が小さいダイヤモンドで形成されたサブマウント基板122に半導体レーザ素子11を実装する場合に生じる熱残留応力について説明する。
【0113】
接合層121としてAuSn半田を使用し、300℃程度の高温状態でサブマウント基板122に半導体レーザ素子11を実装する際、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板122と半導体レーザ素子11との熱膨張係数の差による熱残留応力の影響が、SiC又はAlNで形成されたサブマウント基板を用いる場合と比較して大きくなる。このため、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板122に半導体レーザ素子11を実装した場合、半導体レーザ素子11の共振器方向(z軸方向)における引っ張り性の応力が、SiC又はAlNで形成されたサブマウント基板に半導体レーザ素子11を実装する場合と比較して大きくなる。このとき、yz面内のせん断応力は、共振器端面の方が共振器方向中央部より相対的にピエゾ電位が高くなる方向に形成される。これにより、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板122を用いる場合、25℃から150℃の高温状態まで、共振器端面近傍領域のピエゾ電位を共振器方向中央部に対して高める効果が最も高くなる。特に、この効果は、半導体レーザ素子11のGaN基板101を多層構造に対して上にした状態で、共振器方向の反りを凹型の形状にした場合に大きくなることが発明者らの解析により判明した。また、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板122を用いた場合、GaN基板101の反りΔRが0.5μm以下であれば、200℃の高温状態においても、共振器端面近傍領域のピエゾ電位を共振器方向中央部に対して高める効果がある。
【0114】
したがって、ダイヤモンドをサブマウント基板122に使用し、かつ、GaN基板101を上にしてΔRが0.5μm以下となるように半導体レーザ素子11を実装すれば、共振器端面近傍領域のピエゾ電位を共振器方向中央部に対して高めることができる。さらに、ダイヤモンドをサブマウント基板122に使用し、かつ、GaN基板101を上にしてΔRが0μm未満(凹形状)となるように半導体レーザ素子11を実装すれば、共振器端面近傍領域のピエゾ電位を共振器方向中央部に対してより一層高めることができる。
【0115】
一方、SiCをサブマウント基板に使用すると、図5のグラフ(c)、(f)及び(i)に示すように共振器端面近傍領域のピエゾ電位を共振器方向中央部に対して高めることは困難であることがわかる。
【0116】
また、AlNをサブマウント基板に使用すると、図6のグラフ(c)、(f)及び(i)に示すように共振器端面近傍領域のピエゾ電位を共振器方向中央部に対して高めるためには、ΔRを-1μm以下の範囲に制御する必要があることがわかる。
【0117】
共振器長1200μmの素子に対し、半導体レーザ素子11の反りΔRを-1μm以下の形状に制御するためには、半導体レーザ素子の多層構造に使用されるInGaN層(例えば第1光ガイド層105、第2光ガイド層107)におけるIn組成を非常に大きくするか、又は、その膜厚を非常に厚くすることが必要となる。この場合、第1光ガイド層105、第2光ガイド層107で、格子不整による格子欠陥が発生しやすくなるため、反りΔRをマイナス方向に必要以上に小さくすることは半導体レーザ素子11の信頼性の観点から好ましくない。
【0118】
また、ダイヤモンドの熱伝導率は、1000W/m・K程度であり、SiCの熱伝導率(200W/m・K程度)、AlNの熱伝導率(150W/m・K程度)などと比較して非常に大きい。このように、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板122にジャンクションダウンの状態で、ΔRが0.5μm以下、好ましくは0μm以下となるように実装した場合に、高放熱性と、共振器端面近傍領域のピエゾ電位を共振器方向中央部に対して高めることとを実現できる。このような実装形態は、高温高出力動作の状態で長期信頼性を保証できる窒化物系青色半導体レーザ素子の実装形態として非常に適していると考えられる。
【0119】
次に、上記のように、ΔRを0.5μm以下、好ましくは負の状態(GaN基板101を上にして凹形状)となるようにする方法について説明する。
【0120】
InNはGaNよりも格子定数が大きいため、InGaN層においてIn組成を高めると圧縮性の歪みが大きくなる。このため、例えば、図1Aに示す構造においてInGaNからなる第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を高くすると、GaN基板101上に形成した多層構造の平均的な歪みは圧縮性の歪みが高まり、基板を上にすると凹形状になる傾向を持つことになる。したがって、Inを含む層のIn組成を可能な限り高めれば、ΔRを小さくし、負の状態にすることができる。
【0121】
ここで、平均歪み(εave)は、下記の式1で定義される。
【0122】
【数1】
【0123】
ここで、ε(y)は、成長層方向(位置y)の各層のGaN基板101に対する格子不整(歪み)の大きさ、TはGaN基板101上に形成した多層構造における、GaN基板101から成長層方向への距離(すなわち、多層構造の膜厚)である。また、格子不整はGaNの格子定数をLとし、成長層方向の各位置での格子定数をLとすると、下記の式2で与えられる。
【0124】
(Ls-Ly)/L 式2
【0125】
このとき、εave(T)は、GaN基板101上の多層構造において、GaN基板101からの膜厚Tの位置までの平均的な歪みの大きさを示している。したがって、Tが多層構造全体の膜厚の場合、εave(T)は、多層構造全体の平均的な格子不整の大きさ(多層構造全体の平均歪み:εtave)を意味する。また、式2によれば、圧縮性の歪みを受ける層では、歪みは負の値をとる。
【0126】
ここで、反りΔRと平均歪みεtaveとの関係について図面を用いて説明する。図7Aは、反りΔRの定義を説明する概略図である。図7Bは、多層構造の平均歪みと反りΔRとの関係を示すグラフである。図7Bには、GaN基板101の厚さを65μmから105μmまで10μm間隔で変化させた場合の、反りΔRの多層構造全体の平均歪み依存性の計算結果が示されている。
【0127】
図7Aに示すように、GaN基板101を、多層構造を構成する結晶成長層に対して上に配置する際に、GaN基板101の上面が凹状態である場合に、反りΔRが負であると定義する。
【0128】
図7Bに示すように、半導体レーザ素子11の反りΔRは、GaN基板101の厚さにほぼ依存せず、多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.5×10-4以下まで圧縮性とした場合に、負の値(GaN基板101を上にして凹形状)となることがわかる。また、GaN基板101の厚さが薄い方が、平均歪みεtaveに対する反りの変化の度合いは大きくなることがわかる。これは、GaN基板101の厚さが薄い方が、半導体レーザ素子11全体の反りが多層構造の平均歪みεtaveの影響を受けやすいためである。ここで、GaN基板101の厚さが薄い場合には、結晶成長後のウェハ状態での加工プロセス時に割れやすくなる。逆に厚くなりすぎると、レーザ素子の共振器端面を作製するためのウェハの劈開が困難となる。そこで、劈開の容易にし、その他の半導体レーザ素子11加工プロセス時のウェハの破損を防止するため、GaN基板101の厚さは75μm以上95μm以下、好ましくは85μm±5μmの範囲であるとよい。この場合、多層構造全体の平均歪みεtaveを圧縮性となるように0以下の大きさに制御すれば、ΔRも0.1μm以下の値となる。また、平均歪みεtaveを-1.5×10-4以下とした場合には、ΔRは負の値(GaN基板101側を上のして凹形状)となることがわかる。ΔRが0.1μm以下であれば、図4に示した結果から、量子井戸活性層106が200℃以上の高温状態となっても、共振器端部のピエゾ電位は、共振器方向中央部のピエゾ電位に対し安定して高くなり、電流非注入窓領域への電流の漏れを低減することができる。
【0129】
ここで、図1Aに示す実施の形態1に係る多層構造の平均歪みεtaveについて図面を用いて説明する。図8Aは、実施の形態1に係る多層構造における格子不整(歪み)の膜厚方向における分布の一例を示すグラフである。図8Bは、図8Aにおける量子井戸活性層106部分の拡大図である。図8Cは、実施の形態1に係る多層構造の成長層方向における平均歪みεtaveの分布の一例を示すグラフである。図8A図8Cにおいては、多層構造におけるバリア層106a、106c及び106eのIn組成を0.8%とし、InGaNからなる第1光ガイド層105、及び、InGaNからなる第2光ガイド層107の膜厚をそれぞれ185nm及び100nmとし、In組成を0.03(3%)とした場合の歪みを示している。この多層構造の場合、全体での平均歪みεtaveの大きさは1.9×10-4となり、引っ張り性の平均歪みとなっていることがわかる。したがって、この多層構造の構成では、層全体の平均歪みは引っ張り性となり、結晶成長後の素子の反りΔRは正となる。したがって、多層構造全体の平均歪みを圧縮性にするためには、In組成を含む層のIn組成を高めるか、その膜厚を厚くする必要がある。ここで、図1Aに示す構造において、Inを含む層として、そのIn組成の検討を行う対象となるのは、第1光ガイド層105、第2光ガイド層107、バリア層106a、106c及び106eである。
【0130】
しかしながら、Inを含む層のIn組成を高めると、GaN基板101との格子不整が大きくなるため、格子欠陥が生じやすくなる。さらに、ヘテロ界面でのピエゾ分極電荷が大きくなるため、バンド構造が変化し、それに伴い動作電圧が高くなるといった問題が生じる。そのため、In組成の設定には注意が必要である。以下に、その詳細について図2を用いて説明する。
【0131】
図2に示すように、ピエゾ効果により波動関数が量子井戸層の端へ偏る。量子井戸層に注入された電子とホールとの相互作用は、電子及びホールの波動関数の重なり積分が大きいほど大きくなる。したがって、電子及びホールの波動関数に偏りが生じると相互作用が小さくなるため、同じ注入電流に対して得られる量子井戸活性層106での増幅利得(以下、「利得」という)が低下する。これに伴い発振しきい電流値が増大する。
【0132】
続いて、量子井戸活性層で得られる利得について図面を用いて説明する。図9Aは、ピエゾ効果を考慮した場合の量子井戸活性層で得られる利得の波長及びキャリア濃度依存性の計算結果を示すグラフである。図9Bは、ピエゾ効果を考慮しない場合の量子井戸活性層で得られる利得の波長及びキャリア濃度依存性の計算結果を示すグラフである。図9Cは、利得の量子井戸活性層に注入されたキャリア濃度依存性の計算結果を示すグラフである。図9Cには、ピエゾ効果を考慮した場合(ピエゾ電界有)、及び、考慮しない場合(ピエゾ電界無)の利得がそれぞれ示されている。図9A図9Cに示すように、ピエゾ効果により利得が小さくなっていることがわかる。
【0133】
この原因は、図2のグラフ(c)に示すように、ピエゾ効果により量子井戸層のバンド構造が傾き、波動関数が量子井戸層内で偏りを生じるためである。したがって、この波動関数の偏りを抑制するためには、量子井戸層に生じるピエゾ電界の絶対値を小さくすればよい。
【0134】
ここで、量子井戸層におけるピエゾ電界とバリア層のIn組成との関係について図面を用いて説明する。図10は、量子井戸層に発生するピエゾ電界のバリア層のIn組成依存性を示すグラフである。図10には、2%~7%のIn組成を有する第1光ガイド層及び第2光ガイド層を用いる複数の場合においてピエゾ電界のバリア層のIn組成依存性を計算した結果が示されている。
【0135】
図10に示すように、量子井戸層に生じるピエゾ電界は、InGaNからなる各光ガイド層のIn組成には依存しないことがわかる。一方、バリア層のIn組成を大きくすると、量子井戸層に生じるピエゾ電界の絶対値が小さくなることがわかる。したがって、ピエゾ効果による活性層の利得の低下を抑制するためには、バリア層のIn組成を大きくした方がよいことがわかる。
【0136】
しかしながら、バリア層のIn組成を高めると、光ガイド層との界面で発生するピエゾ分極電荷が大きくなり動作電圧の増大を招いてしまう。図11は、半導体レーザ素子の100mA動作時における動作電圧のバリア層のIn組成依存性を計算した結果を示すグラフである。図11には、2%~7%のIn組成の第1光ガイド層及び第2光ガイド層を用いる複数の場合において動作電圧のバリア層のIn組成依存性を計算した結果が示されている。図11に示す結果から、InGaNからなる各光ガイド層のIn組成を0.06(6%)以上にすると動作電圧が増大し、バリア層のIn組成を0.06(6%)以上とすると動作電圧の増大が顕著となることがわかる。このことから、動作電圧の増大を抑制するためには、各光ガイド層のIn組成を0.06(6%)以下、さらに好ましくは0.05(5%)以下とし、バリア層のIn組成を0.06(6%)以下とすればよいことがわかる。また、バリア層のIn組成を0.01(1%)以上とすると、ガイド層のIn組成が0.03(3%)の場合に動作電圧が最も小さくなることがわかる。動作電圧の増大は、半導体レーザ素子の動作中における自己発熱の増大につながるため、動作電圧は可能な限り小さくする必要がある。
【0137】
続いて、ピエゾ電界と、利得との関係について図面を用いて説明する。
【0138】
図12は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11のピエゾ電界と利得との関係を示す図である。図12のグラフ(a)及び(b)には、それぞれバリア層のIn組成を0.8%及び4%とした場合の伝導帯のバンド構造をそれぞれ示されている。なお、図12のグラフ(a)及び(b)には、電子波動関数及びエネルギー準位も併せて示されている。また、図12のグラフ(c)及び(d)には、バリア層のIn組成を0.8%及び4%とした場合における利得の波長依存性がそれぞれ示されている。図12のグラフ(c)及び(d)には、量子井戸活性層への注入キャリア密度をパラメータとして変化させた複数の場合における利得の波長依存性が示されている。バリア層のIn組成を4%とした場合の方が、量子井戸層に生じているピエゾ電界が小さく、同じ注入キャリアに対する利得も大きいことがわかる。この結果、発振しきい電流値を小さくすることができるため、半導体レーザ素子の消費電力を低減できる。
【0139】
続いて、利得のキャリア濃度依存性について図面を用いて説明する。図13は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11の利得のキャリア濃度依存性を示すグラフである。図13には、バリア層のIn組成を0%、3%、6%とした場合における、波長450nmに対する利得の計算結果を示している。実施の形態1においては、共振器長は1200μmであり、前端面及び後端面には、反射率が、それぞれ16%及び95%となるように端面にコーティングが施されている。この場合の共振器のミラー損失は7.8cm-1であり、導波路損失約5cm-1を加えると共振器の全損失が約12.8cm-1となる。実施の形態1に係る半導体レーザ素子においては、量子井戸活性層厚が30Å程度と非常に薄いため、DQW活性層への光閉じ込め係数は、通常1%から2%程度の小さい値である。この場合、レーザ発振に必要な利得は640cm-1から1280cm-1である。なお、図13では、レーザ発振に必要な利得を800cm-1として点線で示している。
【0140】
図13に示すように、レーザ発振に必要な量子井戸活性層の利得が640cm-1から1280cm-1程度において、バリア層のIn組成を0%から6%へ高める方が、小さい注入キャリア密度でレーザ発振を得ることが可能であることがわかる。しかしながら、前述のように、バリア層のIn組成を大きくすると動作電圧が増大する傾向がある。したがって、動作電圧の大きな増大を招くことなく、発振しきい値の低減を行い、かつ、多層構造の平均歪みεtaveの圧縮性を高めるために、実施の形態1では、バリア層のIn組成を4%としている。
【0141】
次に、InGaNからなる第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が、導波路損失に与える影響について図面を用いて説明する。図14Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11における量子井戸活性層106近傍領域のフェルミ準位(フェルミエネルギー)と伝導帯エネルギーとの関係を示すグラフである。図14Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11における量子井戸活性層106近傍領域のフェルミ準位と価電子帯エネルギーとの関係を示すグラフである。図14Cは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11における量子井戸活性層106近傍領域のフェルミ準位と伝導帯エネルギーとの関係から決まる電子及びホールの濃度分布を示すグラフである。
【0142】
図14A図14Cにおいては、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を3%とし、バリア層のIn組成を5%とした場合の、100mA動作時における成長層方向での各分布の計算結果が示されている。図14AのΔEc、及び、図14BのΔEvは、それぞれ、伝導帯エネルギーとフェルミエネルギーとの差(伝導帯のエネルギー - フェルミエネルギー)、価電子帯エネルギーとフェルミエネルギーとの差(フェルミエネルギー - 価電子帯のエネルギー)を示している。ΔEcが小さいと、伝導帯には平均して高いエネルギーの電子が存在することを示し、伝導帯に存在する電子濃度が多いことを示している。同様に、ΔEvが小さいと伝導帯に存在可能なホール濃度が増えことになる。
【0143】
上述のとおり各光ガイド層のIn組成が増大すると、多層構造の平均歪みεtaveにおける圧縮性が高まり、ΔRを負の方向に制御することができる。しかしながら、各光ガイド層のIn組成が増大すると、そのバンドギャップエネルギーが小さくなり、半導体レーザ素子の動作中に、各光ガイド層に発生する電子及びホールのフリーキャリアが増大するため、導波路損失の増大につながる。
【0144】
図14Cに示す状態では、第1光ガイド層105には平均して1.2×1017cm-3の電子と6×1016cm-3のホールとが存在し、第2光ガイド層107には平均して、9×1016cm-3のホールと1.8×1017cm-3の電子とが存在していることを示している。この動作状態では、このキャリア濃度に相当するフリーキャリア損失が発生することになる。各光ガイド層に存在する電子及びホールの濃度は、各光ガイド層及びバリア層のバンドギャップの影響を受けるため、光ガイド層及びバリア層のバンドギャップの設定、つまり、In組成の設定には注意が必要である。
【0145】
ここで、各光ガイド層におけるキャリア濃度とバリア層及び各光ガイド層のIn組成との関係について図面を用いて説明する。図15は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子の各光ガイド層におけるキャリア濃度とバリア層及び各光ガイド層のIn組成との関係を示す図である。図15のグラフ(a)及び(b)には、それぞれ、100mA動作時において、第1光ガイド層105に存在する電子濃度及びホール濃度のバリア層のIn組成依存性が示されている。図15のグラフ(c)及び(d)には、それぞれ100mA動作時において、第2光ガイド層107に存在する電子濃度及びホール濃度のバリア層のIn組成依存性が示されている。各グラフには、各光ガイド層のIn組成を変化させた複数の場合について、計算したキャリア濃度のバリア層のIn組成依存性が示されている。また、第1光ガイド層105と第2光ガイド層107のIn組成は同一としている。
【0146】
また、図15の各グラフには、各光ガイド層に存在する電子及びホール濃度の平均値が示されている。
【0147】
図15に示すように、各光ガイド層のIn組成を大きくすると、各光ガイド層に存在する電子及びホールの濃度が増大することがわかる。これは、In組成の増大に伴って、各光ガイド層のバンドギャップエネルギーが小さくなることによって、ΔEcやΔEvが小さくなるためと考えられる。特に、各光ガイド層のIn組成を6%以上とすると、光ガイド層に存在する電子及びホール濃度は1×1018cm-3近くとなり、フリーキャリア損失として、光ガイド層のIn組成2%以上の状態と比較して、0.5cm-1程度増大してしまう。このため、電流-光出力特性におけるスロープ効率(ΔP/ΔI)の低下がもたらされる。ここで、ΔPは光出力の変化、ΔIは注入電流量の変化である。したがって、各光ガイド層に存在する電子及びホール濃度を1×1018cm-3以下で制御するためには、各光ガイド層のIn組成を6%以下、さらに好ましくは5%以下に設定する必要がある。各光ガイド層のIn組成を5%以下とすれば、より安定して各光ガイド層に存在する電子及びホール濃度を1×1018cm-3以下に抑制することが可能となる。
【0148】
また、図15に示す計算結果から、バリア層のIn組成が増大すると各光ガイド層に存在する電子及びホール濃度が減少することがわかる。これは、バリア層のIn組成を高くすると、各光ガイド層と量子井戸層との間に発生するピエゾ分極電荷が、各光ガイド層とバリア層との界面、及び、バリア層と量子井戸層との界面に分散されやすくなるため、図12のグラフ(a)及び(b)並びに図14Aに示すように、各光ガイド層と量子井戸層との間にあるバリア層106a及び106eの界面で発生するピエゾ電界が小さくなることに起因する。この結果、バリア層のIn組成増大に伴って、ΔEc及びΔEvが増大するため、各光ガイド層に存在する電子及びホールの濃度が減少すると考えられる。
【0149】
したがって、(1)光ガイド層に発生するフリーキャリア損失発生を抑制すること、(2)動作電圧の増大を招かないこと、及び、(3)量子井戸活性層に発生するピエゾ電界を抑制し、量子井戸層の利得を増大させ発振しきい値を低減させることの三つ課題を、同時に実現するためには、光ガイド層及びバリア層のIn組成を6%以下、さらに好ましくは5%以下とし、かつ、バリア層のIn組成を光ガイド層のIn組成以上とすればよいことがわかる。また、光分布の垂直方向の閉じ込め係数を増大させるためには、各光ガイド層のIn組成は2.5%以上である必要がある。さらに、各光ガイド層のIn組成を3%以上とすれば高温高出力動作時においてもキャリアオーバーフローの発生を抑制することができる。
【0150】
そこで、図1Aに示す実施の形態1に係る多層構造においては、第1光ガイド層のIn組成を3%、膜厚を200nm、第2光ガイド層のIn組成を3%、膜厚を180nmとし、バリア層106a、106c及び106eのIn組成を4%としている。これにより多層構造全体の平均歪みεtaveを-1×10-5と圧縮性としている。
【0151】
この場合において、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板を用いるとΔRは0.1μm以下となり、図4に示した結果から、量子井戸活性層106が200℃以上の高温状態となっても、共振器端部のピエゾ電位は、共振器方向中央部のピエゾ電位に対し安定して高くなり、電流非注入窓領域への電流の漏れを防ぐことができる。
【0152】
また、第1光ガイド層のIn組成を3%、膜厚を175nm、第2光ガイド層のIn組成を3%、膜厚を98nmとし、バリア層106a、106c及び106eのIn組成を4%とすると、多層構造全体の平均歪みεtaveは、2.5×10-4となる。
【0153】
図4のグラフ(i)に示した結果から、量子井戸活性層106が200℃の高温状態となった場合、ΔRが0.5μm以上の状態で共振器方向の量子井戸活性層でのピエゾ電位分布がほぼ一定となり、電流非注入窓領域への電流の漏れ防止効果がなくなる。従って、ΔRを0.25μm以下とすれば、200℃の高温状態まで、電流非注入窓領域への電流の漏れ防止を保つことができる。
【0154】
この場合、図7Bに示した結果より、GaN基板101の厚さが105μmの場合は、多層構造全体の平均歪みεtaveを6.2×10-4以下、GaN基板101の厚さが95μmの場合は、多層構造全体の平均歪みεtaveを5.2×10-4以下、GaN基板101の厚さが85μmの場合は、多層構造全体の平均歪みεtaveを4.2×10-4以下、GaN基板101の厚さが75μmの場合は、多層構造全体の平均歪みεtaveを3.2×10-4以下、GaN基板101の厚さが65μmの場合は、多層構造全体の平均歪みεtaveを2.2×10-4以下とすれば、それぞれΔRを0.25μm以下とすることができる。
【0155】
従って、GaN基板101の厚さが95μm以下の場合、多層構造全体の平均歪みεtaveを5.2×10-4以下とすれば200℃以上の高温となっても、電流非注入窓領域への電流の漏れ防止を保つことができる。
【0156】
また、図4のグラフ(i)に示す結果より、ΔRが0.25μm以下の場合、200℃の高温状態でも、共振器方向の量子井戸活性層106でのピエゾ電位の形成は、共振器方向の中心位置からの距離300μmの距離において共振器中央部よりも高い電位が徐々に形成されはじめることがわかる。共振器方向の電位差は、共振器方向に形成されるピエゾ電界を共振器方向に対して積分した大きさであるので、共振器方向の距離が長いほど、共振器方向に形成されるピエゾ電界の影響が大きくなる。
【0157】
従って、共振器長が600μm以上、GaN基板101の厚さが95μm以下の場合、多層構造全体の平均歪みεtaveを5.2×10-4以下とすれば、200℃以上の高温となった場合においても、共振器中央部よりも電流非注入窓領域のピエゾ電位を高めることができ、電流非注入窓領域への電流の漏れ防止効果を保つことができる。
【0158】
ここで、半導体レーザ素子を高出力動作させると、共振器端面での光密度が高まり、共振器端面が、半導体レーザ素子自らのレーザ光で破壊されるCOD(Catastrophic Optical Damage)が発生しやすくなり、半導体レーザ素子の信頼性が低下する。
【0159】
これに対し、本実施の形態によれば、長共振器化により、半導体レーザ素子の熱抵抗の低減のみならず、電流非注入領域への漏れ電流防止効果が増大する。この結果、半導体レーザ素子の光出力を増大させても、CODの発生をより抑制することができる。
【0160】
従って、本実施の形態に示す構造において、共振器長を長くすることは、放熱性の向上のみならず、CODの発生を抑制する効果を高めることが可能となる。
【0161】
一方、長共振器長化すれば、半導体レーザ素子の大型化を招き、作製コストの増大を招くため、共振器長は所望の高出力に対し、できるだけ短い方がよい。
【0162】
例えば、共振器長を1200μm、1500μm及び2000μmとすれば、それぞれ、85℃において3W以上、3.5W以上4W以下、及び、4W以上4.5W以下の高出力動作において長期信頼性動作可能な半導体レーザ素子を得ることが可能となる。共振器長を2000μm以上とすれば、85℃において4.5W以上の高出力動作において長期信頼性動作可能な半導体レーザ素子を得ることが可能となる。
【0163】
ここで、実施の形態1に係る構造では、電子障壁層108の構成をAl組成0.3(30%)、膜厚5nmのAlGaN層としているが、Al組成を高めるとバンドギャップエネルギーが大きくなるため伝導帯での電子に対するエネルギー障壁が大きくなり、漏れ電流の発生を抑制することが可能となる。しかしながら、あまりに電子障壁層108のAl組成を高めたり、その膜厚を厚くしすぎたりすると、多層構造全体の平均歪において、引っ張り性の歪みが大きくなり、εtaveが増大する。従って、電子に対するエネルギー障壁を大きくしつつ、引っ張り性の歪みの増大を抑制するためには、電子障壁層108において、最大Al組成が30%以上となり、最大Al組成を与える電子障壁層108の成長膜厚方向の位置Xから±1nm以内の領域では、そのAl組成が、最大Al組成とほぼ同一となり、その外側の領域では、位置Xから遠ざかるにつれてAl組成を減少させた構造としてもよい。また、電子障壁層108の厚さを、7nm以下としてもよい。
【0164】
電子障壁層108の構造は、具体的には、厚さ2nm、Al組成0.02(2%)の第1領域を形成し、Al組成0.02(2%)からAl組成0.36(36%)へAl組成が増大する厚さ3nmの第2領域、厚さ0nmから2nmであって、Al組成0.36(36%)組成一定の第3領域が順次形成されていてもよい。この構成により、Al組成0.36(36%)の最大Al組成による電子に対する電位障壁を形成しつつ、電子障壁層108の平均Al組成を低減し、引っ張り性の歪みの増大を抑制することが可能となる。
【0165】
電子障壁層108の構成において相対的に低Al組成の組成一定の第1領域を形成することで、その後に形成する電子障壁層の第2領域でのAl組成分布の制御性が向上する。つまり、第1領域を形成することによって、第2領域におけるAl組成分布を所望の分布に制御し易くなる。
【0166】
また、電子障壁層108の構成において、最大Al組成は0.3(30%)以上であれば同様の効果を得ることができる。しかしながら、最大Al組成を0.4(40%)以上とするとホールに対する電位障壁も大きくなり動作電圧の増大を招くことになる。したがって、電子障壁層の最大Al組成は0.3(30%)以上、0.4(40%)以下であることが好ましい。
【0167】
また、第1領域のAl組成を高くすると、電子障壁層108全体での平均Al組成が大きくなるが、第1領域のAl組成が0.1(10%)以下であれば、電子障壁層の平均Al組成を最大Al組成の約半分以下に低減することができる。
【0168】
この場合において、ΔRは0.2μm以下となり、図4に示した結果から、量子井戸活性層106が200℃以上の高温状態となっても、共振器端部のピエゾ電位は、共振器方向中央部のピエゾ電位に対し安定して高くなり、電流非注入窓領域への電流の漏れを防ぐことができる。
【0169】
また、さらに、多層構造全体の平均歪みεtaveの圧縮性を高めたければ、例えば、第1光ガイド層のIn組成を4%、膜厚を200nm、第2光ガイド層のIn組成を4%、膜厚を180nmとし、バリア層106a、106c及び106eのIn組成を5%とすればよい。これにより多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.8×10-4とすることができるため、ΔRが負となるように圧縮性を高めることができる。
【0170】
また、GaN基板101に代えてAlGaN基板を用いることで、基板の格子定数を小さくすることができる。このため、基板上に積層する多層構造の平均格子歪みの圧縮性を高めることが可能となる。この結果、GaN基板上に多層構造を形成した場合と比較して、ΔRを0.25μm以下の範囲により小さく制御することが容易となり、電流非注入窓領域への電流の漏れ防止効果を増大することが可能となる。
【0171】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る半導体レーザ素子について説明する。実施の形態2に係る半導体レーザ素子は、GaN基板101と第1クラッド層103との間にバッファ層を備える点において、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と相違し、その他の点において一致する。以下、実施の形態2に係る半導体レーザ素子について、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11との相違点を中心に図面を用いて説明する。
【0172】
図16Aは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子12の構成を示す模式的な断面図である。図16Aは、半導体レーザ素子12の共振器長方向に対して垂直な断面を示している。図16Bは、実施の形態2に係る半導体レーザ素子12における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
【0173】
図16Aに示すように、実施の形態2に係る半導体レーザ素子12は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と同様に、GaN基板101の上に、GaN基板101側から順に第1導電型の第1クラッド層103、第1光ガイド層105、量子井戸活性層106、第2光ガイド層107、及び、第2導電型の第2クラッド層109が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子である。また、図16Bに示すように、量子井戸活性層106は、実施の形態1に係る量子井戸活性層106と同様に、量子井戸層106b及び106dと、バリア層106a、106c及び106eを備える。
【0174】
半導体レーザ素子12は、さらに、GaN基板101上に、バッファ層102を備える。つまり、半導体レーザ素子12は、GaN基板101と第1クラッド層103との間にバッファ層102を備える。
【0175】
半導体レーザ素子12は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と同様に、さらに、N型GaN層104と、電子障壁層108と、コンタクト層110と、電流ブロック層112と、P側オーミック電極113と、P側第1密着層114と、第1バリア層115と、パッド電極116と、N側電極117とを備える。
【0176】
本実施の形態では、第1クラッド層103の膜厚は1.5μmである。また、N側電極117は、膜厚40nmのPdと、膜厚35nmのPtと、膜厚1μmのAuとで形成され、パッド電極116は、膜厚1μmのAuで形成される。リッジの幅Wは、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と同様に30μmであり、リッジ下端部と量子井戸活性層106との距離dpを0.2μmとしている。
【0177】
半導体レーザ素子12の共振器長は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と同様に1200μmとし、共振器前後面の共振器端面近傍に電流非注入窓領域を形成している。
【0178】
実施の形態2においても、実施の形態1と同様に垂直方向の活性層への光閉じ込め係数を増大しつつ、格子欠陥、クラック発生の防止、動作電圧増大の防止を実現するためAlGaNからなる各クラッド層のAl組成3.5%としている。
【0179】
また、実施の形態2における量子井戸活性層106は、実施の形態1と同様に、図16Bに示すように、厚さ30Å、In組成0.18(18%)のInGaNからなる量子井戸層106b、106dを2層備えたDQW構造としている。量子井戸活性層106は、さらに、InGaNからなるバリア層106a、106c及び106eを備える。バリア層106a、106c及び106eの厚さは、それぞれ、3nm、7nm及び3nmである。
【0180】
また、実施の形態1と同様に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成は3%、バリア層106a、106c及び106eのIn組成は4%とすることで、光分布の垂直方向の閉じ込め係数の増大、光ガイド層に発生するフリーキャリア損失発生の抑制、動作電圧の増大抑制、量子井戸活性層に発生するピエゾ電界の抑制、量子井戸活性層における利得の増大を同時に実現している。
【0181】
上述したように、実施の形態2に係る半導体レーザ素子12では、GaN基板101と、第1クラッド層との間にバッファ層102を備えている。バッファ層102は、GaN基板101に対して圧縮性の歪みを有する窒化物半導体層を含む歪み制御層である。半導体レーザ素子12は、バッファ層102を備えることにより、GaN基板101上に成長した多層構造全体の平均歪みをより圧縮性とし、GaN基板101の反りを、GaN基板101を上にした場合に凹形状(ΔR<0)となるように制御することが可能となる。バッファ層102の構成は、圧縮性の歪みを有すれば、特に限定されない。バッファ層102は、Inを含んでもよい。これにより、バッファ層102は、GaN基板101に対して圧縮性の歪みを有する。また、バッファ層102は、AlGaN層をさらに含んでもよい。実施の形態2では、バッファ層102は、Al組成1%で膜厚300nmのAlGaN層300nmと、In組成4%で膜厚200nmのInGaN層200nmとが順次形成された積層膜である。
【0182】
また、実施の形態2に係る半導体レーザ素子12において、電極構造は、図16Aに示す構造に限定されない。以下、実施の形態2に係る半導体レーザ素子の電極構成の変形例について図面を用いて説明する。
【0183】
図16Cは、実施の形態2の変形例に係る半導体レーザ素子12aの構成を示す模式的な断面図である。図16Dは、実施の形態1の変形例に係る半導体レーザ素子11aの構成を示す模式的な断面図である。
【0184】
電極の構成として、図16Cに示ように、TiからなるP側第1密着層114がリッジ上部に形成されていなくてもよい。このような構成とすることで、半導体レーザ素子12aの抵抗を小さくすることが可能となり、さらに低電圧動作の半導体レーザ素子12aを得ることができる。また、図16Cに示す電極構成は、図16Dに示す半導体レーザ素子11aのように、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11に適用してもよい。これにより、半導体レーザ素子12aと同様に、半導体レーザ素子11よりさらに低電圧動作の半導体レーザ素子11aを得ることができる。
【0185】
ここで、実施の形態2に係る多層構造の平均歪みについて図面を用いて説明する。実施の形態2に係る多層構造の平均歪みに先立って、まず、実施の形態1に係る多層構造の平均歪みの他の例について図面を用いて説明する。
【0186】
図17Aは、実施の形態1に係る多層構造における格子不整(歪み)の膜厚方向における分布の他の例を示すグラフである。図17Bは、実施の形態1に係る多層構造の成長層方向における平均歪みの分布の他の例を示すグラフである。図17A及び図17Bには、図1Aに示す多層構造において、多層構造全体の平均歪みεtaveを見積もるための一例として、バリア層のIn組成を4%とし、第1光ガイド層105、第2光ガイド層の膜厚をともに200nmとし、In組成を0.05(5%)とした場合の歪み及び平均歪みが示されている。この場合、多層構造全体での平均歪みεtaveの大きさは-2.4×10-4となり、圧縮性の平均歪みとなっていることがわかる。したがって、この多層構造により、素子の反りの方向はΔRが負となる方向になる。
【0187】
続いて、実施の形態2に係る多層構造の平均歪みについて図面を用いて説明する。図18Aは、実施の形態2に係る多層構造における格子不整(歪み)の膜厚方向における分布の他の例を示すグラフである。図18Bは、実施の形態2に係る多層構造の成長層方向における平均歪みの分布の他の例を示すグラフである。図18A及び図18Bに示す多層構造は、具体的には、図17A及び図17Bの計算において用いた多層構造に、さらに、バッファ層102を追加した構成を有する。バッファ層102は、GaN基板101側から順に、Al組成1%で膜厚300nmのAlGaN層102bと、In組成4%で膜厚200nmのInGaN層102aとを備える。バッファ層102は、図16Aに示すように、GaN基板101と第1クラッド層103との間に配置されている。バッファ層102を、GaN基板101と第1クラッド層103との間に配置することによって、バッファ層102と量子井戸活性層106との間の距離を大きくすることができるため、バッファ層102における光強度に十分抑制できる。このため、バッファ層102が、光分布に与える影響を十分に抑制できる。また、バッファ層102をこのように配置することによって、多層構造全体の平均歪みを圧縮性に制御することができる。
【0188】
ここでは、バッファ層102が二つの層から形成された例を示しているが、バッファ層102は、GaN基板101と第1クラッド層103との間に配置された、平均歪みが圧縮性の層であればよく、3層以上の多層、又は、単層で構成されていてもよい。
【0189】
図18Aに示すように、バッファ層102の特にInGaN層102aが、圧縮性の歪みを有する。このため、図18Bに示すように、多層構造全体での平均歪みεtaveの大きさは-4.6×10-4となり、図18Bに示す例では、平均歪みεtave図17Bに示した例よりも圧縮性に強められていることがわかる。したがって、バッファ層102を備えることにより、半導体レーザ素子の反りの方向を、ΔRがより小さく負となる方向に制御できる。
【0190】
さらに、バッファ層102を用いることで、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が3%程度の値でも、多層構造全体の平均歪みεtaveを圧縮性、好ましくは-1.5×10-4以下とすることで、半導体レーザ素子の反りをGaN基板101側が凹となるように制御することが可能となる。この場合、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を3%程度とすることで、各光ガイド層での格子欠陥の発生、及び、フリーキャリア損失の発生をより抑制することが可能となる。
【0191】
続いて、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107の合計膜厚(以下、合計厚ともいう。)、並びに、各光ガイド層のIn組成と、平均歪みとの関係について図面を用いて説明する。
【0192】
図19Aは、比較例に係る多層構造の平均歪みεtaveと第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107の合計厚との関係を示すグラフである。図19Aにおいては、図16Aに示す実施の形態2に係る半導体レーザ素子12の多層構造からバッファ層102を除去した構成の多層構造における平均歪みεtaveの計算結果が示されている。
【0193】
図19Bは、実施の形態2に係る多層構造の平均歪みεtaveと第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107の合計厚との関係の一例を示すグラフである。図19Bにおいては、図16Aに示す実施の形態2に係る半導体レーザ素子12の多層構造において、バッファ層102としてAl組成1%で膜厚300nmのAlGaN層102b上にIn組成4%で膜厚200nmのInGaN層102aを形成した場合における計算結果が示されている。
【0194】
このように引っ張り性と圧縮性の層が交互に形成された歪み補償型のバッファ層102では、隣り合う二つの層において転位が発生しやすい向きが逆であるため格子欠陥の発生を抑制することが可能となる。
【0195】
図19Cは、実施の形態2に係る多層構造の平均歪みεtaveと第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107の合計厚との関係の他の例を示すグラフである。図19Cにおいては、図16Aに示す実施の形態2に係る半導体レーザ素子12の多層構造において、バッファ層102としてIn組成4%で膜厚200nmのInGaN層を形成した場合における平均歪みεtaveの計算結果が示されている。
【0196】
また、図19A図19Cにおいて、各光ガイド層のIn組成を1%~7%まで変化させた複数の場合における平均歪みεtaveが示されている。
【0197】
図19Aに示すように、バッファ層102を備えない多層構造において、多層構造全体の平均歪みεtaveを0以下、又は、-1.5×10-4以下とするためには、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が3%の場合、各光ガイド層の合計厚は、それぞれ、460nm(4600Å)以上又は610nm(6100Å)以上必要であることがわかる。同様に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が4%の場合、それらの合計厚として、それぞれ、350nm(3500Å)以上又は460nm(4600Å)以上必要であることがわかる。また同様に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が5%の場合、その合計厚として、それぞれ、280nm(2800Å)以上又は360nm(3600Å)以上必要であることがわかる。
【0198】
ここで各光ガイド層において用いられるInGaN層のIn組成を3%以上として合計500nm以上成長させると、結晶成長中に格子欠陥又はピットが発生しやすくなり半導体レーザ素子の特性の劣化原因となる可能性がある。これに対し、図19Bに示す例では、多層構造全体の平均歪みεtaveを0以下、又は、-1.5×10-4以下とするためには、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が3%の場合、それらの合計厚は、それぞれ、220nm(2200Å)以上又は380nm(3300Å)以上であればよいことがわかる。同様に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が4%の場合、それらの合計厚は、それぞれ、200nm(2000Å)以上又は280nm(2800Å)以上であればよいことがわかる。また同様に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が5%の場合、その合計厚として、それぞれ、130nm(1300Å)以上又は220nm(2200Å)以上であればよいことがわかる。
【0199】
この結果、In組成3%以上の第1光ガイド層及び第2光ガイド層を使用しても、必要な各光ガイド層の合計厚を小さくできるため、格子欠陥及びピットの低減された良好な結晶を安定して得ることが可能となる。
【0200】
これに対し、図19Cに示す例では、多層構造全体の平均歪みεtaveを0以下、又は、-1.5×10-4以下とするためには、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が3%の場合、それらの合計厚は、それぞれ、200nm(2000Å)以上又は340nm(3400Å)以上であればよいことがわかる。この結果、In組成3%の光ガイド層においても、良好な結晶を安定して得ることが可能となる。同様に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が4%の場合、それらの合計厚は、それぞれ、160nm(1600Å)以上又は250nm(2500Å)以上であればよいことがわかる。また同様に、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成が5%の場合、それらの合計厚は、それぞれ、120nm(1200Å)以上又は200nm(2000Å)以上必要であればよいことがわかる。
【0201】
これらの結果から、バッファ層102を用いれば、In組成3%以上の光ガイド層を使用した場合において必要な光ガイド層の合計厚を小さくできるため良好な結晶を安定して得ることが可能となる。
【0202】
以上のように、圧縮性の歪み制御層であるバッファ層102を用いれば、平均歪みεtaveを0以下、又は-1.5×1 -4以下とするために必要な各光ガイド層の膜厚を低減することが可能となり、結晶成長中の格子欠陥及びピットの発生を抑制することが可能となる。
【0203】
次に第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を共に3%とし、それらの合計厚を250nmとした場合に、平均歪みεtaveを0以下、又は-1.5×10-4以下とするために必要なバッファ層102の構成について検討を行った。
【0204】
良好な温度特性を得るために、量子井戸活性層の光閉じ込め係数は1.2%以上必要であり、これを達成する導波路構造として、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を共に3%以上、それらの合計厚を250nm以上とする必要がある。これよりも各光ガイド層のIn組成、又は、合計厚を増大させれば、量子井戸活性層への光閉じ込め係数を増大させることが可能となる。また、In組成が増大させることで各光ガイド層の圧縮性が高まるために、圧縮性の歪みも増大させることができる。
【0205】
上述のとおり、図19Bなどに示す例では、Al組成1%のAlGaN層102b上にInGaN層102aを形成した歪み補償型のバッファ層102を採用している。AlGaN層102b及びInGaN層102aの組成及び膜厚を、この2層の平均歪みが圧縮性となるように設定することで、圧縮性のバッファ層102を形成している。Al組成が小さすぎる場合には歪み補償効果が小さくなり、逆に大きくしすぎるとGaN基板101との格子不整のために格子欠陥が生じやすくなる。実施の形態2に係る多層構造では、AlGaN層102bのAl組成を0.5%以上1%以下とすることで、歪み補償効果と格子欠陥の抑制とを両立できる。実施の形態2に係る多層構造ではバッファ層102におけるAlGaN層102bのAl組成を1%としている。Al組成1%以下のAlGaN層の場合、膜厚2μm程度に成長させる場合においても、格子欠陥の発生を抑制できる。
【0206】
続いて、バッファ層102を構成する各層の膜厚と平均歪みεtaveとの関係について図面を用いて説明する。図20は、実施の形態2に係る多層構造全体の平均歪みεtaveとバッファ層102を構成するInGaN層102a及びAlGaN層102bの各膜厚との関係を示すグラフである。図20のグラフ(a)、(b)、(c)及び(d)には、それぞれ、バッファ層102を構成するInGaN層102aのIn組成を2%、3%、4%及び5%とし、多層構造全体の平均歪みεtaveのInGaN層厚依存性を、種々のAlGaN層厚に対して計算した結果が示されている。図20の各グラフには、AlGaN層厚を0nmから200nmまで50nm毎に変化させた各場合の計算結果が示されている。
【0207】
図20のグラフ(a)に示すように、In組成が2%のInGaN層102aを備える多層構造全体の平均歪みεtaveを0以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合(つまり、AlGaN層がない場合)は、InGaN層厚は320nm以上である必要がある。同様に、AlGaN層厚が500nmの場合は、InGaN層厚は350nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1000nmの場合は、InGaN層厚は420nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1500nmの場合は、InGaN層厚は480nm以上である必要があり、AlGaN層厚が2000nmの場合は、InGaN層厚は500nm以上である必要があるであることがわかる。
【0208】
また、多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.5×10-4以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合においても、InGaN層厚は500nm以上必要であることがわかる。
【0209】
図20のグラフ(b)に示すように、In組成が3%のInGaN層102aを備える多層構造全体の平均歪みεtaveを0以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合は、InGaN層厚は220nm以上である必要がある。同様に、AlGaN層厚が500nmの場合は、InGaN層厚は260nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1000nmの場合は、InGaN層厚は280nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1500nmの場合は、InGaN層厚は320nm以上である必要があり、AlGaN層厚が2000nmの場合は、InGaN層厚は340nm以上である必要があることがわかる。
【0210】
また、多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.5×10-4以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合は、InGaN層厚は370nm以上である必要があり、AlGaN層厚が500nmの場合は、InGaN層厚は430nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1000nmの場合は、InGaN層厚は490nm以上である必要があることがわかる。
【0211】
図20のグラフ(c)に示すように、In組成が4%のInGaN層102aを備える多層構造全体の平均歪みεtaveを0以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合は、InGaN層厚は160nm以上である必要がある。同様に、AlGaN層厚が500nmの場合は、InGaN層厚は180nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1000nmの場合は、InGaN層厚は200nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1500nmの場合は、InGaN層厚は230nm以上である必要があり、AlGaN層厚が2000nmの場合は、InGaN層厚は260nm以上である必要があることがわかる。
【0212】
また、多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.5×10-4以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合は、InGaN層厚は260nm以上である必要がある。同様に、AlGaN層厚が500nmの場合は、InGaN層厚は300nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1000nmの場合は、InGaN層厚は350nm以上である必要があることがわかる。AlGaN層厚が1500nmの場合は、InGaN層厚は395nm以上、AlGaN層厚が2000nmの場合は、InGaN層厚は440nm以上必要であることがわかる。
【0213】
図20のグラフ(d)に示すように、多層構造全体の平均歪みεtaveを0以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合は、InGaN層厚は130nm以上である必要がある。同様に、AlGaN層厚が500nmの場合は、InGaN層厚は160nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1000nmの場合は、InGaN層厚は180nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1500nmの場合は、InGaN層厚は195nm以上である必要があり、AlGaN層厚が2000nmの場合は、InGaN層厚は210nm以上である必要があることがわかる。
【0214】
また、多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.5×10-4以下にするためには、AlGaN層厚が0nmの場合は、InGaN層厚は220nm以上である必要がある。同様に、AlGaN層厚が500nmの場合は、InGaN層厚は260nm以上である必要があり、AlGaN層厚が1000nmの場合は、InGaN層厚は300nm以上である必要があることがわかる。また、AlGaN層厚が1500nmの場合は、InGaN層厚は330nm以上である必要があり、AlGaN層厚が2000nmの場合は、InGaN層厚は360nm以上である必要があることがわかる。
【0215】
図20の各グラフに示したそれぞれの計算結果においてInGaN層厚を500nm以下とすることで、InGaN層におけるピット及び格子欠陥の発生を抑制できる。InGaN層厚を400nm以下とすれば、格子欠陥及びピットの発生をさらに抑制できる。
【0216】
また、AlGaN層の膜厚を1μm以下、Al組成を1%以下とし、かつ、InGaN層の膜厚を490nm以下、In組成を3%以上5%以下とすれば、多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.5×10-4以下とすることができる。
【0217】
図16Aに示す実施の形態2の多層構造では、第1光ガイド層105のIn組成を3%、膜厚を185nmとし、第2光ガイド層107のIn組成を3%、膜厚を100nmとし、バリア層のIn組成を4%とし、さらに、バッファ層102を、Al組成1%、膜厚1000nmのAlGaN層上に、In組成4%で膜厚350nmのInGaN層を形成する構成とすることで、多層構造全体の平均歪みεtaveを-1.8×10-4としている。
【0218】
この多層構造において、各光ガイド層でのIn組成が3%であるため、(1)光ガイド層に発生するフリーキャリア損失発生を抑制すること、(2)動作電圧の増大を招かないこと、(3)量子井戸活性層に発生するピエゾ電界を抑制し、量子井戸活性層における利得を増大させること、(4)垂直方向の光閉じ込め係数を1.2%以上にすること、(5)発振しきい値を小さくすること、及び、(6)共振器方向におけるピエゾ電界によるピエゾ電位の影響により共振器端面の電流非注入窓領域への電流の漏れを抑制し、CODレベルの低下を抑制することの六つの課題全てを実現することができる。
【0219】
また、バッファ層102でのAlGaN層102b及びInGaN層102aは、これらの合計厚が上記計算結果から得られた好適な合計厚となるように、それぞれ多層構造に分割し、多層構造、又は、超格子構造を形成してもよい。例えば、Al組成1%、膜厚1000nmのAlGaN層上にIn組成4%で、膜厚350nmのInGaN層を形成したバッファ層の圧縮性の歪みは、AlGaN層100nm及びInGaN層35nmからなるペアを10周期積層した多層構造からなるバッファ層の圧縮性の歪みと同等である。
【0220】
また、図16Aに示す実施の形態2の多層構造において、第1光ガイド層105のIn組成を3%、膜厚を175nmとし、第2光ガイド層107のIn組成を3%、膜厚を98nmとし、バリア層のIn組成を4%とし、さらに、バッファ層102を、Al組成1%、膜厚400nmのAlGaN層上に、In組成3%で膜厚100nmのInGaN層を形成する構成とすることで、多層構造全体の平均歪みεtaveを、1.3×10-4とすることができる。
【0221】
この場合において、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板を用いるとΔRは0.2μm以下となり、図4に示した結果から、量子井戸活性層106が200℃以上の高温状態となっても、共振器端部のピエゾ電位は、共振器方向中央部のピエゾ電位に対し安定して高くなり、電流非注入窓領域への電流の漏れを抑制することができる。
【0222】
以上では共振器方向に対するピエゾ電界によるピエゾ電位の影響により共振器端面の電流非注入窓領域への電流の漏れを抑制する方法について説明を行ってきた。ピエゾ効果によるピエゾ電位の形成は共振器方向のみならず、水平方向(図16A中のx方向)にも存在する。これは、図1A図16Aに示す構造において、第2クラッド層109にリッジが形成されており、リッジ上にはGaN系材料よりも大きい熱膨張係数4.2×10-6を有するAuが存在する。このため、半導体レーザ素子をジャンクションダウンでサブマウント基板に実装した場合、AuとGaN材料との熱膨張係数の差によりx方向にも応力が発生し、共振器方向に垂直な平面内(xy面内)にせん断応力が発生する。
【0223】
このxy面内のせん断応力は、x方向のピエゾ電界と、ピエゾ電位とを発生させ、量子井戸活性層106のx軸方向におけるバンド構造に影響を与える。以下、実施の形態2に係る半導体レーザ装置の共振器方向に垂直な平面内において発生するせん断応力などについて図面を用いて説明する。
【0224】
図21A図21B及び図21Cは、それぞれ、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層106b及び106dにおける、25℃でのx軸方向のせん断応力分布、ピエゾ電界分布及びピエゾ電位分布を示す図である。
【0225】
図22A図22B及び図22Cは、それぞれ、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層106b及び106dにおける、25℃でのx軸方向のせん断応力分布、ピエゾ電界分布及びピエゾ電位分布を示す図である。
【0226】
図23A図23B及び図23Cは、それぞれ、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した場合の、量子井戸層106b及び106dにおける、150℃でのx軸方向のせん断応力分布、ピエゾ電界分布及びピエゾ電位分布である。
【0227】
図24A図24B及び図24Cは、それぞれ、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をサブマウント基板にジャンクションアップで実装した場合の、量子井戸層106b及び106dにおける、150℃でのx軸方向のせん断応力分布、ピエゾ電界分布及びピエゾ電位分布である。
【0228】
図21A図24Cの各図においては、ダイヤモンド、AlN及びSiCで形成されたサブマウント基板の各々を用いた場合における計算結果が示されている。また、リッジのx軸方向における中央部を距離0μmの中心としている。
【0229】
図21A及び図23Aに示すように、ジャンクションダウンで実装した場合、ダイヤモンドサブマウントに実装した場合と、AlN、SiCサブマウント基板に実装した場合では、x方向のせん断応力や、それに基づくx方向のピエゾ電界の向きが逆向きとなっている。これは、前述したように、SiCの熱膨張係数は6.6×10-6、AlNの熱膨張係数は4.15×10-6であるのに対して、ダイヤモンドの熱膨張係数は1.1×10-6であり、GaNの熱膨張係数5.59×10-6と比較しても相対的に小さいことに起因すると考えられる。この場合、接合層121としてAuSn半田を使用し、300℃程度の高温状態でサブマウント基板に実装する際、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板の熱膨張係数が小さいため、25℃に温度を低下させた場合、半導体レーザ素子との熱膨張係数の差による熱残留応力の影響が、SiC又はAlNで形成されたサブマウント基板を用いる場合と比較して大きくなる。このため、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板に半導体レーザ素子を実装した場合、半導体レーザ素子のx軸方向における引っ張り性の応力が、SiCやAlNで形成されたサブマウント基板に半導体レーザ素子を実装する場合と比較して大きくなる。このとき、xy面内のせん断応力は、リッジの外側の方がリッジ部と比較して相対的にピエゾ電位が高くなる方向に形成される。これにより、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板を用いた場合、25℃から150℃の高温状態まで、図21C及び図23Cに示すように、リッジ外にピエゾ効果による電位障壁が形成され、リッジ外への電流の漏れを抑制する効果があることがわかった。SiC又はAlNをサブマウント基板に用いた場合、半導体レーザ素子が150℃の高温状態となると、注入した電流がリッジ外へ漏れることを抑制するピエゾ電位がほとんどなくなり、ダイヤモンドサブマウント基板を用いた場合と比較して、漏れ電流の増大を招くことがわかる。半導体レーザ素子を85℃の環境温度で使用した場合、半導体レーザ素子の量子井戸活性層を含む導波路は自己発熱の影響により150℃以上の高温状態となっている。このため150℃以上の高温状態でも、リッジ外への電流の漏れを抑制するためのピエゾ電位を形成することによって、動作電流値の増大及び光出力の熱飽和を抑制するのみならず、動作電流そのものを低減することもできるため、共振器端面近傍の電流非注入窓領域への電流の漏れを低減することもできる。
【0230】
このリッジ外への電流の漏れを抑制するピエゾ電位の形成は、図22C及び図24Cに示すように、ダイヤモンドをサブマウント基板に用いたとしても、ジャンクションアップ実装では見られない。これは、ジャンクションアップ実装では、量子井戸活性層106とサブマウント基板との間隔が大きく、サブマウント基板材料との熱膨張係数の差が出にくいためと考えられる。
【0231】
このように、リッジ型の半導体レーザ素子をジャンクションダウンで実装した場合、リッジ外への電流の漏れを抑制する効果が新たに加わり、SiC及びAlNと比較して熱伝導率が高いことによる高放熱性の効果以上の低動作電流化の効果を得ることができることがわかった。
【0232】
また、リッジ外への電流の漏れを抑制するピエゾ電位の形成は、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板と半導体レーザ素子の構成材料である窒化物材料、主にAuからなる電極材料との熱膨張係数の差から形成されるため、電流ブロック層112の材料はSiOに限らず、レーザ発振光に対して透明である絶縁物、例えば、ZrO、Al、Ta、TiO、SiNなどの材料や、AlNのような半導体材料であってもよい。AlNの熱伝導率は、150W/m・K程度であり、ダイヤモンドの熱伝導率よりは小さいが、例えばSiO(熱伝導率1.38W/m・K程度)、ZrO2(熱伝導率4W/m・K程度)、Al(熱伝導率20W/m・K程度)などの酸化物材料、及び、窒化珪素(SiN;熱伝導率20W/m・K程度)の熱伝導率と比較して高い。このため、高放熱性を得るためにはAlNからなる電流ブロック層112を用いることは有効である。
【0233】
ここで、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板を用いる効果について図面を用いて説明する。図25A及び図25Bは、それぞれ、実施の形態2に係る半導体レーザ素子をダイヤモンド、及び、SiCで形成されたサブマウント基板に実装した場合の25℃及び85℃での電流-光出力特性の測定結果を示すグラフである。
【0234】
図25A及び図25Bより、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板を用いる場合の方が、SiCで形成されたサブマウント基板を用いる場合より、発振しきい電流が低く、スロープ効率が高いことがわかる。特に、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板を用いる場合、85℃の高温状態においても3Aの大電流を注入しても電流-光出力特性に熱飽和の傾向がほとんど生じていないことがわかる。これは、前述のように、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板による高放熱性の効果と、リッジ外への電流も漏れを抑制するようにピエゾ電位が形成されることに伴う無効電流の発生抑制効果とに起因すると考えられる。
【0235】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る半導体レーザ素子について説明する。実施の形態3に係る半導体レーザ素子は、第3光ガイド層および第3クラッド層を備える点において、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と相違し、その他の点において一致する。以下、実施の形態3に係る半導体レーザ素子について、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11との相違点を中心に図面を用いて説明する。
【0236】
図26Aは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13の構成を示す模式的な断面図である。図26Aは、半導体レーザ素子13の共振器長方向に対して垂直な断面を示している。図26Bは、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
【0237】
図26Aに示すように、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と同様に、GaN基板101の上に、GaN基板101側から順に第1導電型の第1クラッド層103、第1光ガイド層105、量子井戸活性層106、第2光ガイド層107、及び、第2導電型の第2クラッド層109が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子である。また、図26Bに示すように、量子井戸活性層106は、実施の形態1に係る量子井戸活性層106と同様に、量子井戸層106b及び106dと、バリア層106a、106c及び106eを備える。
【0238】
半導体レーザ素子13は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と同様に、さらに、N型GaN層104と、電子障壁層108と、コンタクト層110と、電流ブロック層112と、P側オーミック電極113と、P側第1密着層114と、第1バリア層115と、パッド電極116と、N側電極117とを備える。
【0239】
半導体レーザ素子13は、図26Aに示すように、さらに、第2クラッド層109の上に第3光ガイド層130及び第3クラッド層131を備える。半導体レーザ素子13においては、第2クラッド層109は、P型AlGaNで形成され、膜厚は0.2μmである。
【0240】
第3光ガイド層130は、P型のInGaNで形成された膜厚0.2μmの層である。
【0241】
第3クラッド層131は、P型のAlGaNで形成された膜厚0.2μmの層である。第3クラッド層131のAl組成は、第2クラッド層109と同様に0.035(3.5)である。
【0242】
半導体レーザ素子13においても、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と同様に、リッジが形成されているが、半導体レーザ素子13においては、図26Aに示すように、リッジは、第3光ガイド層130及び第3クラッド層131に形成されている。リッジの下端部が第2クラッド層109の上面に配置されている。
【0243】
半導体レーザ素子13においては、第3光ガイド層130を備えることで、活性層に水平な方向(図26A中のx方向)の量子井戸活性層106におけるせん断応力が大きくなるように制御することができる。InGaNはGaNよりも格子定数が大きいため、第3光ガイド層130は、リッジ部を水平方向に伸長させる向きの応力を、リッジ近傍領域に付加することになる。この結果、量子井戸活性層106のせん断応力分布が影響を受け、当該せん断応力を大きくすることができる。ここで、量子井戸活性層106におけるせん断応力について、図面を用いて説明する。
【0244】
図27A図27B及び図27Cは、それぞれ、第3光ガイド層130のIn組成を0%(つまり、第3光ガイド層130がGaNで形成される)、1%及び2%と変化させた場合の量子井戸活性層106における量子井戸層106b及び106dでの、25℃におけるせん断応力のx軸方向分布を示すグラフである。距離0μmとなる位置は、リッジのx軸方向における中央部としている。図27A図27B及び図27Cに示すように第3光ガイド層130のIn組成を0%、1%及び2%と大きくすると、せん断応力のピーク値の絶対値が大きくなり、せん断応力が強まっていることがわかる。これは、In組成を大きくすると、第3光ガイド層130の格子不整が大きくなり、リッジ下端部をリッジ外側の方向へ水平方向に広がる向きの応力が大きくなることに起因している。この結果、量子井戸活性層106に生じる応力において、xy面内での回転性の応力成分が強まり、せん断応力のピーク値の絶対値が大きくなる。このせん断応力により、量子井戸活性層106に生じるピエゾ電位について図面を用いて説明する。
【0245】
図28は、実施の形態3に係る量子井戸活性層106に生じるピエゾ電位とx軸方向位置との関係を示すグラフである。図28には、第3光ガイド層130のIn組成を0%、1%及び2%と変化させた場合の各ピエゾ電位が示されている。図28に示すように、リッジ内外のピエゾ電位による電位障壁は、In組成の増大に伴って大きくなり、注入電流のリッジ外への漏れ発生の抑制効果を増大することができる。この結果、高温高出力動作にさらに優れた半導体レーザ素子13を得ることができる。
【0246】
リッジ外への電流の漏れを抑制するためのピエゾ電位を形成することによって、動作電流値の増大及び光出力の熱飽和を抑制するのみならず、動作電流そのものを低減することもできるため、共振器端面近傍の電流非注入窓領域への電流の漏れを低減することもできる。
【0247】
ここで、リッジ導波路に発生するせん断応力は、熱膨張係数又は格子定数の異なる材料の境界で発生する。このため、リッジ下端部の電流ブロック層112の近傍領域(図26A中の領域A1及び領域A2)において、せん断応力は最も大きくなる。したがって、第3光ガイド層130は、リッジ下端部に形成し、この領域にInGaN層の格子不整によって生じる応力を付加することで、せん断応力をより強めることが可能となる。一方、第3光ガイド層130の膜厚を厚くしすぎると、第3光ガイド層130の屈折率が第2クラッド層109及び第3クラッド層131と比較して高いため、光分布の量子井戸活性層106への垂直方向の閉じ込め効果が低下し、光閉じ込め係数の低下を招いてしまう。実施の形態3に係る半導体レーザ素子では、第3光ガイド層130の膜厚は0.1μm以上、0.2μm以下とすることで、ピエゾ電位の増大効果と、光閉じ込め効果とを両立できる。
【0248】
また、第3光ガイド層130をGaNとしても、この領域がAlGaN層である場合に対して生じる引っ張り性の応力と比較して、引っ張り性の応力が小さくなるため、ピエゾ電位を高める効果を有している。したがって、第3光ガイド層130のIn組成を0%から2%とすれば、リッジ部のP型層をすべてAlGaN層で形成する場合よりも、注入電流のリッジ外への漏れ発生の抑制効果を高めることができる。実施の形態3では、第3光ガイド層130のIn組成を1%。膜厚を0.2μmとしている。
【0249】
(実施の形態4)
実施の形態4に係る半導体レーザ素子について説明する。実施の形態4に係る半導体レーザ素子は、リッジの下端部が第3光ガイド層の成長膜厚方向内に配置されている点において、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13と相違し、その他の点において一致する。以下、実施の形態4に係る半導体レーザ素子について、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13との相違点を中心に図面を用いて説明する。
【0250】
図29Aは、実施の形態4に係る半導体レーザ素子14の構成を示す模式的な断面図である。図29Aは、半導体レーザ素子14の共振器長方向に対して垂直な断面を示している。図29Bは、実施の形態4に係る半導体レーザ素子14における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
【0251】
図29Aに示すように、実施の形態4に係る半導体レーザ素子14は、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13と同様に、GaN基板101の上に、GaN基板101側から順に第1導電型の第1クラッド層103、第1光ガイド層105、量子井戸活性層106、第2光ガイド層107、及び、第2導電型の第2クラッド層109が積層された多層構造を有する窒化物系半導体発光素子である。また、図29Bに示すように、量子井戸活性層106は、実施の形態1に係る量子井戸活性層106と同様に、量子井戸層106b及び106dと、バリア層106a、106c及び106eを備える。
【0252】
半導体レーザ素子14は、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13と同様に、さらに、N型GaN層104と、電子障壁層108と、コンタクト層110と、電流ブロック層112と、P側オーミック電極113と、P側第1密着層114と、第1バリア層115と、パッド電極116と、N側電極117とを備える。
【0253】
半導体レーザ素子14は、さらに、第2クラッド層109の上に第3光ガイド層130及び第3クラッド層131を備える。
【0254】
実施の形態4に係る多層構造は、図29Aに示すように、図26Aに示す実施の形態3に係る多層構造において、リッジ下端部が、膜厚0.2μmのP型InGaNからなる第3光ガイド層130の成長膜厚方向内に配置されている。つまり、リッジ下端部は、第3光ガイド層130の膜厚方向(図29Aのy軸方向)の両端の間に配置されている。実施の形態に係る多層構造のその他の構成は、実施の形態3に係る多層構造と同一である。
【0255】
このような半導体レーザ素子14においても、リッジ下端部のリッジ内領域に存在する第3光ガイド層130の膜厚が0.1μm以上、0.2μm以下であれば、実施の形態3に示した半導体レーザ素子13と同様の効果を得ることが可能である。
【0256】
(実施の形態5)
実施の形態5に係る半導体レーザ素子について説明する。実施の形態5に係る半導体レーザ素子は、バッファ層を備える点において、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13と相違し、その他の点において一致する。以下、実施の形態5に係る半導体レーザ素子について、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13との相違点を中心に図面を用いて説明する。
【0257】
図30Aは、実施の形態5に係る半導体レーザ素子15の構成を示す模式的な断面図である。図30Aは、半導体レーザ素子15の共振器長方向に対して垂直な断面を示している。図30Bは、実施の形態5に係る半導体レーザ素子15における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
【0258】
図30Aに示すように、実施の形態5に係る半導体レーザ素子15は、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13に加えて、さらに、バッファ層102を備える。また、図30Bに示すように、半導体レーザ素子15の量子井戸活性層106は、半導体レーザ素子13と同様に、量子井戸層106b及び106dと、バリア層106a、106c及び106eを備える。
【0259】
この構成においても、第3光ガイド層130の膜厚が0.1μm以上、0.2μm以下であれば、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13と同様の効果を得ることが可能である。また、実施の形態2に係る半導体レーザ素子12と同様の効果も得ることが可能である。
【0260】
(実施の形態6)
実施の形態6に係る半導体レーザ素子について説明する。実施の形態6に係る半導体レーザ素子は、バッファ層を備える点において、実施の形態4に係る半導体レーザ素子14と相違し、その他の点において一致する。以下、実施の形態6に係る半導体レーザ素子について、実施の形態4に係る半導体レーザ素子14との相違点を中心に図面を用いて説明する。
【0261】
図31Aは、実施の形態6に係る半導体レーザ素子16の構成を示す模式的な断面図である。図31Aは、半導体レーザ素子16の共振器長方向に対して垂直な断面を示している。図31Bは、実施の形態6に係る半導体レーザ素子16における量子井戸活性層106の構成を示す模式的な断面図である。
【0262】
図31Aに示すように、実施の形態6に係る半導体レーザ素子16は、実施の形態4に係る半導体レーザ素子14に加えて、さらに、バッファ層102を備える。また、図31Bに示すように、半導体レーザ素子16の量子井戸活性層106は、半導体レーザ素子13と同様に、量子井戸層106b及び106dと、バリア層106a、106c及び106eを備える。
【0263】
この構成においても、第3光ガイド層130の膜厚が0.1μm以上、0.2μm以下であれば、実施の形態4に係る半導体レーザ素子14と同様の効果を得ることが可能である。また、実施の形態2に係る半導体レーザ素子12と同様の効果も得ることが可能である。
【0264】
以上で述べた実施の形態3~6に係る半導体レーザ素子において、前述のように、リッジ導波路に発生するせん断応力は、熱膨張係数又は格子定数の異なる材料の境界で発生する。このため、リッジ下端部の電流ブロック層112の近傍領域(図26A中の領域A1及び領域A2)において、せん断応力は最も大きくなる。
【0265】
リッジ型のレーザの場合、せん断応力は図26A中の領域B1及びB2でも発生し、量子井戸活性層106でのx方向せん断応力分布にも影響を与える。領域B1で発生するせん断応力と領域A1で発生するせん断応力は互いにせん断応力の回転の向きが逆である。また、領域B2で発生するせん断応力と領域A2で発生するせん断応力も、互いにせん断応力の回転の向きが逆である。このため、リッジ両側の分離溝幅D(図26A参照)が狭いと、領域B1及びB2のせん断応力が領域A1及びA2のせん断応力を打ち消してしまい、量子井戸活性層に生じるせん断応力の絶対値が小さくなる。この結果、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板に半導体レーザ素子をジャンクションダウン実装した場合にx軸方向に形成されるピエゾ電位が小さくなってしまう。
【0266】
ここで、せん断応力と分離溝幅Dとの関係について図面を用いて説明する。図32A図32B及び図32Cは、それぞれ、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の25℃における量子井戸層106b及び106dに生じるせん断応力、ピエゾ電界及びピエゾ電位の計算結果を示す図である。なお、図32Cには、分離溝領域がチップの両端まで到達している場合、つまり、分離溝幅が最大である場合のピエゾ電位を点線で示している。図32Cに示すように、分離溝幅Dが小さいとピエゾ電位が小さくなり、6μm以上で、リッジの端部(図32Cの距離―15μm及び+15μmの位置)におけるピエゾ電位の大きさがほぼ一定になることがわかる。また、分離溝内に形成される電位障壁の幅は、分離溝幅の減少と共に狭くなるため、5μm以上の電位障壁幅を形成するために分離溝幅は6μm以上としている。
【0267】
図33A図33B及び図33Cは、それぞれ、実施の形態3に係る半導体レーザ素子13の分離溝幅Dを2μmから24μmまで変えた場合の150℃における量子井戸層106b及び106dに生じるせん断応力、ピエゾ電界及びピエゾ電位の計算結果を示す図である。25℃の場合と同様に、分離溝幅Dが小さいとピエゾ電位が小さくなり、6μm以上で、リッジの端部(図33Cの距離―15μm及び+15μmの位置)におけるピエゾ電位の大きさがほぼ一定になることがわかる。また、分離溝内に形成される電位障壁の幅は、分離溝幅の減少と共に狭くなるため、5μm以上の電位障壁幅を形成するために分離溝幅は6μm以上としている。
【0268】
この結果から、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板に半導体レーザ素子をジャンクションダウンで実装する場合、分離溝幅を6μm以上で形成しなければ、x軸方向に形成されるピエゾ電位が小さくなり、リッジに注入された電流のリッジ外への漏れ抑制効果が小さくなる。
【0269】
また、分離溝幅Dが広くなりすぎると、ジャンクションダウン実装時に実装の荷重がリッジ部に集中しリッジ領域が破損する可能性がある。また、リッジ直下の量子井戸活性層に格子欠陥が発生する可能性がある。実施の形態3~6に係る半導体レーザ素子では、分離溝幅Dを15μm以内とすることで、このようなリッジの破損を低減することができる。
【0270】
したがって、分離溝幅Dを6μm以上、15μm以下とすることによって、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板に半導体レーザ素子をジャンクションダウン実装する際のリッジの破損やリッジ領域の格子欠陥発生を抑制しつつ、リッジに注入された電流のリッジ外への漏れ抑制効果を得ることができる。
【0271】
本開示における各実施の形態においては、いずれも、分離溝幅Dを7μmとすることで、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板にジャンクションダウン実装時のリッジの破損及びリッジ領域の格子欠陥発生を抑制しつつ、リッジに注入された電流のリッジ外への漏れ抑制効果を得ている。
【0272】
(実施の形態7)
実施の形態7に係る半導体レーザ素子について説明する。以上で説明した各実施の形態に係る半導体レーザ素子においては、(0001)C面のGaN基板上に多層構造を作製した構成を採用している。このようにC面上に窒化物層を形成した場合、格子不整の存在するヘテロ界面にはピエゾ分極電荷が発生し、GaN基板の主面に対する法線方向に、例えば図2のグラフ(c)に示すようにC軸方向((0001)方向)のピエゾ電界が発生し動作電圧の増大をもたらす。このようなC軸方向のピエゾ電界の発生を抑制し、動作電圧の低減を図るために、実施の形態7に係る半導体レーザ素子は、GaN{11-22}面からなる半極性面上に多層構造を作製している。以下、実施の形態7に係る半導体レーザ素子について図面を用いて説明する。
【0273】
図34は、実施の形態7に係る半導体レーザ素子17の構成を示す模式的な断面図である。
【0274】
実施の形態7に係る半導体レーザ素子17は、図34に示すように、GaN基板140において、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と相違し、その他の点において一致する。実施の形態7に係るGaN基板140の主面は、上述のとおり、{11-22}面からなる半極性面である。
【0275】
ここで、上記各実施の形態のGaN基板101が有するC面は極性面と呼ばれ、最もピエゾ分極の影響が大きくなる面である。しかし、C面に垂直な{10-10}面(M面)、{11-20}(A面)などの面は、分極が発生せず、無極性面と呼ばれる。このような面を有するGaN基板を用いることで、半導体レーザ素子におけるピエゾ分極に起因する発光効率の低下を抑制できる可能性がある。また、C面以外の面で無極性面から傾いた面、例えば、{20-21}面や{11-22}面などは、半極性面と呼ばれ、ピエゾ分極を小さくすることができる。
【0276】
GaN基板140上に形成される多層構造は、実施の形態1に示した多層構造と、第1クラッド層163、電子障壁層168及び第2クラッド層169において相違し、その他の点において一致する。
【0277】
半導体レーザ素子17は、電子障壁層168を備えるが、必ずしも備えなくてもよい。また、N型AlGaNからなる第1クラッド層163、及び、P型AlGaNからなる第2クラッド層169のAl組成は、1%程度以下又は0%(GaN)であってもよい。つまり、多層構造におけるAl組成は1%以下であってもよい。その理由については実施の形態8において述べる。
【0278】
また、実施の形態7に係る半導体レーザ素子17は、圧縮性のバッファ層102をさらに備えてもよい。図35は、実施の形態7の変形例に係る半導体レーザ素子17aの構成を示す模式的な断面図である。図35に示すように半導体レーザ素子17aは、圧縮性のバッファ層102を備える。
【0279】
(実施の形態8)
実施の形態8に係る半導体レーザ素子について説明する。実施の形態7において述べたようなC軸方向のピエゾ電界の発生を抑制し、動作電圧の低減を図るために、実施の形態8に係る半導体レーザ素子は、GaN{10-10}面(M面)からなる無極性面上に多層構造を作製している点において、上記の各実施の形態に係る半導体レーザ素子と相違する。以下、実施の形態8に係る半導体レーザ素子について、上記各実施の形態に係る半導体レーザ素子との相違点を中心に、図面を用いて説明する。
【0280】
図36は、実施の形態8に係る半導体レーザ素子18の構成を示す模式的な断面図である。図37は、実施の形態8の変形例に係る半導体レーザ素子18aの構成を示す模式的な断面図である。
【0281】
実施の形態8に係る半導体レーザ素子18は、図36に示すように、主面が{10-10}面(M面)であるGaN基板141を備える。GaN基板141上に形成される多層構造は、実施の形態1に示した多層構造と、第1クラッド層163、電子障壁層168及び第2クラッド層169において相違し、その他の点において一致する。
【0282】
また、半導体レーザ素子18は、圧縮性のバッファ層102を備えてもよい。図37に示すように、実施の形態8の変形例に係る半導体レーザ素子18aは、バッファ層102を備える。
【0283】
半導体レーザ素子18は、電子障壁層168を備えるが、必ずしも備えなくてもよい。また、第1クラッド層163及び第2クラッド層169のAl組成は、1%程度以下又は0%(GaN)であってもよい。つまり、多層構造におけるAl組成は1%以下であってもよい。その理由については後述する。
【0284】
半極性面又は無極性のGaN基板上に多層構造を形成することで、GaN基板に対する法線方向に発生するピエゾ電界の発生を低減、又は、無くすことができ、動作電圧を低減することが可能となる。これは、AlGaN及びInGaNはGaNとは格子定数が異なるため、格子不整によりピエゾ分極電荷がヘテロ界面に発生していたが、その発生が抑制、又は、防止される。このため、C面上に形成した場合に発生していたバンド構造のGaN基板に対する法線方向の変形が抑制され低電圧化を実現することができる。したがって、量子井戸活性層に発生していた図2のグラフ(c)に示すようなC軸方向((0001)方向)のピエゾ電界が抑制され、又は、無くなるため、バンド構造が図2のグラフ(a)に示す状態となる。その結果、量子井戸活性層において、図9Bに示すように、少ない注入キャリア密度で高い利得を得ることが可能となり、発振しきい電流値、及び、動作中の動作キャリア密度を低減することが可能となる。このため、高温高出力動作中の動作キャリア密度が小さくなり、熱的に励起されたキャリアが量子井戸活性層から各クラッド層へ漏れるキャリアオーバーフローの発生が抑制される。その結果、各クラッド層にAlGaNを用いて量子井戸活性層への光閉じ込めを増大する必要性、及び、電子障壁層168を用いてキャリアオーバーフローの発生を抑制する必要性がなくなる。したがって、上述したように、半導体レーザ素子18は、電子障壁層168を備えなくてもよく、第1クラッド層163及び第2クラッド層169のAl組成は、1%程度以下又は0%(GaN)であってもよい。つまり、多層構造におけるAl組成は1%以下であってもよい。
【0285】
また、半極性あるいは無極性のGaN基板を用いると、量子井戸層とバリア層との界面で生じるピエゾ分極電荷が小さくなる、あるいは無くなるため、量子井戸活性層の量子井戸層の層数をDQW構造から例えば4層に増やしても動作電圧の増大を招くことなく、量子井戸層全体への垂直方向光閉じ込め係数を大きくすることができる。
【0286】
その結果、量子井戸層の層数を増やせば、量子井戸層での動作キャリア密度が小さくなり、キャリアオーバーフローの発生をさらに抑制することができる。
【0287】
このようにAlGaN層を多層構造に使用すると、AlGaN層はGaN基板に対して引っ張り性の歪みを生じるため、多層構造全体の平均歪みεtaveにおいて引っ張り性を強める方向に働く。その結果、半導体レーザ素子の反りは基板を上にして凸形状(ΔR>0)となる方向に働くことになる。このため、半導体レーザ素子の反りはGaN基板を上にして凹形状(ΔR<0)となる方向の形状とするためには、Alを含む層のAl組成を低くするか、使用しない方がよい。
【0288】
ここで、多層構造におけるバンド構造と、GaN基板の主面の極性との関係について図面を用いて説明する。図38Aは、主面がC面であるGaN基板に、Al組成が0である第1クラッド層163及び第2クラッド層169を備える多層構造を形成した場合における量子井戸活性層166近傍のバンド構造を示す図である。
【0289】
また、図38Bは、主面が半極性面であるGaN基板に、Al組成が0である第1クラッド層163及び第2クラッド層169を備える多層構造を形成した場合における量子井戸活性層166近傍のバンド構造を示す図である。
【0290】
また、図38Cは、主面が無極性面であるGaN基板に、Al組成が0である第1クラッド層163及び第2クラッド層169を備える多層構造を形成した場合における量子井戸活性層166近傍のバンド構造を示す図である。
【0291】
ここで、量子井戸活性層166の量子井戸層の層数は4層としている。各量子井戸層のIn組成は18%で、膜厚は30Åである。また、各バリア層の膜厚は端から順に、3nm、7nm、7nm、7nm及び3nmである。また、電子障壁層168も、Al組成が0である(つまりGaNである)。
【0292】
図38Aに示すように、C面上に多層構造を形成すると、量子井戸活性層166の量子井戸層にはピエゾ電界が大きく発生している。これにより、動作電圧の増大、及び、波動関数の偏りによる利得低下が発生する。
【0293】
これに対し、図38Bに示すように、半極性面上に多層構造を形成すると、量子井戸活性層166の量子井戸層に生じるピエゾ電界はその大きさが小さくなっている。これにより、動作電圧の増大、及び、波動関数の偏りによる利得低下が抑制される。
【0294】
また、図38Cに示すように、無極性面上に多層構造を形成すると、量子井戸活性層の量子井戸層に生じるピエゾ電界は無くなっている。これにより、動作電圧の増大が抑制され、波動関数の偏りにより利得低下が防止される。
【0295】
これらのことから、主面が半極性面又は無極性面であるGaN基板上に多層構造を形成すれば、少ない注入電流で高い利得を各量子井戸層から得ることができるため、低電圧で、低動作電流の半導体レーザ素子を得ることが可能となる。
【0296】
また、GaN基板を上にして凹形状の半導体レーザ素子を、ジャンクションダウンでサブマウント基板に接合層としてAuSn半田を用いて実装する場合、300℃程度の高温状態で実装することになる。その状態から25℃へ温度を下げると半田層及びP側の電極は熱膨張係数に応じて縮む。このため半導体レーザ素子の凹形状を表すΔRは、実装前より小さくなる。
【0297】
逆に、GaN基板を上にして凸形状のレーザ素子を、ジャンクションダウンでサブマウント基板にAuSn半田を用いて実装する場合も同様に、300℃程度の高温状態で実装することになる。その状態から25℃へ温度を下げると半田層やP型層側の電極は熱膨張係数に応じて縮むため、素子の凸形状を表すΔRは、実装前より大きくなる。
【0298】
ここで、量子井戸活性層に生じている図3A及び図3Bのz軸方向の圧縮性の歪みは、凹形状の方が、量子井戸活性層がより引き伸ばされるため、圧縮性の歪みが小さくなる。そのため、GaN基板を上にして凹形状の方が、量子井戸活性層に生じる圧縮性の応力が小さくなる傾向があり、格子欠陥の発生抑制に有利である。
【0299】
半極性基板又は無極性基板を用いるとAlGaN層を使用しなくても、少ない注入電流で高い利得を各量子井戸層から得ることができるため、低電圧で、低動作電流のレーザ素子を得ることが可能となる。さらに、多層構造においては、AlGaNクラッド層にAlを使用しなければ、多層構造全体の平均歪みεtaveは、多層構造において圧縮性のバッファ層を使用せずとも容易に圧縮性となり、GaN基板を上にして凹形状(ΔR<0)とすることができる。この場合、量子井戸活性層の量子井戸層の層数を増やせば、その効果は大きくなる。したがって、多層構造の平均歪みεtaveを圧縮性とすると同時に、量子井戸に生じている圧縮歪みを低減することができ、格子欠陥の発生を抑制できる。このため、長期動作に適した信頼性の高い半導体レーザ素子を実現することが可能となる。
【0300】
ここで、半導体レーザ素子の動作電圧と各クラッド層のAl組成及び量子井戸層数との関係について図面を用いて説明する。
【0301】
図39A図39B及び図39Cは、それぞれ、C面上、半極性面上、及び、無極性面上に多層構造を形成した半導体レーザ素子における100mA動作時の動作電圧の各クラッド層のAl組成依存性を示すグラフである。図39A図39Cにおいては、図34に示す半導体レーザ素子と同様の構造を有する半導体レーザ素子の動作電圧が示されている。また、図39A図39Cにおいては、量子井戸層数を2層から4層まで変えた場合の計算結果が示されている。電子障壁層のAl組成は、各計算において、各クラッド層のAl組成と同一としている。量子井戸層数が3層の場合のバリア層の膜厚は、GaN基板側から順に3nm、7nm、7nm及び3nmとしている。
【0302】
図39Aに示すように、C面上に多層構造を形成する場合、量子井戸層数を増やすと基板法線方向のピエゾ電界のために動作電圧が比較的大きく増大することがわかる。
【0303】
これに対し、図39B及び図39Cに示すように、半極性又は無極性基板上に多層構造を形成する場合、量子井戸層数を増やしても、動作電圧の増大が抑制されることがわかる。特に、量子井戸層数を2層から3層に増やしても動作電圧の増大は、ほぼ抑制されていることがわかる。量子井戸層数が3層の場合、量子井戸活性層への垂直方向の閉じ込め係数を、量子井戸層数が3層の場合と比較してほぼ1.5倍に増大することができるので、量子井戸活性層での動作キャリア密度を低減できる。
【0304】
また、半極性又は無極性基板を使用すると、各クラッド層のAl組成を1%まで増やしても、動作電圧の増大が抑制されていることがわかる。したがって、半極性又は無極性基板では、各クラッド層のAl組成を0%(GaN)以上、1%以下としても、動作電圧がほとんど増大しないことがわかる。
【0305】
続いて、多層構造の平均歪みεtaveと、各クラッド層のAl組成及び量子井戸層数との関係について図面を用いて説明する。図40は、多層構造の平均歪みεtaveの各クラッド層のAl組成依存性を示すグラフである。図40においては、図34に示す構造でバリア層のIn組成を4%とし、第1光ガイド層105及び第2光ガイド層107のIn組成を3%とし、第1光ガイド層105と第2光ガイド層107との合計厚を300nmとした場合の、多層構造全体の平均歪みεtaveの計算結果が示されている。図40においては、1層~5層の量子井戸層数について計算を行った結果が示されている。計算では、AlGaNからなる第1クラッド層163及び第2クラッド層169のAl組成と電子障壁層168のAl組成と同一としている。
【0306】
図40に示すように、量子井戸層数を1層から5層へと増加すると平均歪みεtaveの圧縮性が高まることがわかる。特にAl組成1%以下では、平均歪みεtaveが-2×10-4以下となりΔRが負の状態が得られることがわかる。
【0307】
したがって、半極性基板又は無極性基板を用いるとAl組成1%以下のクラッド層を使用するか、又は、Alを含まない層を使用しても、少ない注入電流量で高い利得を各量子井戸層から得ることができる。このため、低電圧で、低動作電流のレーザ素子を得ることが可能となる。さらに、多層構造においては、各クラッド層のAl組成1%以下とすれば、圧縮性のバッファ層を使用することなしに、多層構造全体の平均歪みεtaveを圧縮性とすることができるため、GaN基板を上にして凹形状(ΔR<0)とすることができる。この場合、量子井戸活性層の量子井戸層数を増やせば、その効果は大きくなる。したがって、多層構造の平均歪みεtaveを圧縮性とすると同時に、量子井戸層に生じている圧縮歪みを低減することができ、格子欠陥に発生を抑制できる。このため、長期動作に適した信頼性の高いレーザ素子を実現することが可能となる。
【0308】
(実施の形態9)
実施の形態9について説明する。実施の形態9では、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11をサブマウント基板122に実装する形態について説明する。
【0309】
半導体レーザ素子11を、基板側を上にして凹形状となる素子をジャンクションダウンでサブマウント基板に実装した場合、共振器方向中央部が凹形状であるため、多層構造のサブマウント基板側端部は、共振器方向中央部において凸形状である。したがって、実装時にサブマウント基板のうち、共振器方向中央部近傍に対応する部分に最初に荷重が集中する。このため、図41に示すように、レーザ素子の中央部近傍の側壁には接合層を形成する半田のはみ出しが生じやすくなる。
【0310】
この状態について図面を用いて詳細に説明する。図42は、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11をサブマウント基板122にジャンクションダウンで実装する直前の状態を示す模式的な断面図である。図42には、半導体レーザ素子11の共振器方向に垂直な断面が示されている。また図42には、の実施の形態1に係る半導体レーザ素子11の断面図を実装時の状態に合わせて示しており、図42に示す半導体レーザ素子11の断面図は、図1Aに示す断面図に対して上下方向に反転されている。
【0311】
図42に示すように、半導体レーザ素子11の第1バリア層115上に形成されているパッド電極116は、膜厚0.6μmのAuからなる第1パッド電極201と、膜厚35nmのPtからなる第2バリア層202と、膜厚1.0μmのAuからなる第2パッド電極203とを備える。また、P側第1密着層114、第1バリア層115、第1パッド電極201、第2バリア層202及び第2パッド電極203がP側多層電極118を形成する。
【0312】
また、図42には、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板122とその上に形成された接合層121などの構成を示している。また、サブマウント基板122の下には、Ti、Pt及びAuからなる下部密着金属層207が形成されている。
【0313】
サブマウント基板122の上には、サブマウント基板122側から順に、Ti、Pt及びAuからなる上部密着金属層206と、Ptからなるサブマウントバリア層205と、AuSnからなる接合層121とが形成される。
【0314】
この状態で、AuSnからなる接合層121の溶融温度である300℃の高温状態とし、半導体レーザ素子11に荷重をかけて半導体レーザ素子11とサブマウント基板122とを密着させる。このように半導体レーザ素子11をサブマウント基板122に実装する。
【0315】
実装後の状態では、Auからなる第2パッド電極203は、AuSnからなる接合層121と化学反応を起こし、実質的に第2パッド電極203全体がAuSn層化している。また、Ptからなる第2バリア層202は、Auからなる第1パッド電極201とAuSnからなる接合層121とが化学反応を生じさせないようにする障壁として機能し、第1パッド電極201は実装後もAuの状態で存在している。
【0316】
このとき、前述のように半導体レーザ素子11を、GaN基板101側を上にして凹形状となる素子をジャンクションダウンでサブマウント基板に実装した場合、共振器方向中央部が凹形状であるため、実装時にサブマウント基板には、共振器方向中央部近傍に最初に荷重が集中する。このため、共振器方向中央部のAuSnからなる接合層121を形成する材料が、半導体レーザ素子11の側壁に沿ってはみ出し、側壁を覆う場合が生じやすくなる。この場合、AuSnにより第1クラッド層103と、第2クラッド層109とが短絡するため、半導体レーザ素子11に通電すると半導体レーザ素子11のPN接合を介さないリーク電流が発生してしまう。このようなリーク電流が生じると発振しきい電流値及び動作電流値の増大といった課題が生じる。
【0317】
そこで、このようにAuSnが半導体レーザ素子11の側壁を覆うことを抑制するため半導体レーザ素子の構成について図面を用いて説明する。図43は、実施の形態9に係る半導体レーザ素子11aをサブマウント基板122にジャンクションダウンで実装する直前の状態を示す模式的な断面図である。図43には、半導体レーザ素子11aの共振器方向に垂直な断面が示されている。
【0318】
図43に示すように、実施の形態9に係る半導体レーザ素子11aは、パッド電極116aの第2バリア層202aの構成において、実施の形態1に係る半導体レーザ素子11と相違し、その他の点において一致する。第2バリア層202aの短辺方向の幅は、第1バリア層115の短辺方向の幅より狭い。つまり、第2バリア層202aは、第1バリア層115より、共振器方向及び積層方向に垂直な方向の幅が小さい。このような半導体レーザ素子11aをサブマウント基板122に、ジャンクションダウンで実装を行った場合に形成される半導体レーザ装置の構造について図面を用いて説明する。
【0319】
図44は、実施の形態9に係る半導体レーザ装置59の構造を示す模式的な断面図である。図44においては、半導体レーザ装置59の共振器方向と垂直な断面が示されている。
【0320】
図44に示す半導体レーザ装置59は、半導体レーザ素子11aとサブマウント基板122とを備える窒化物系発光装置の一例である。半導体レーザ装置59において、半導体レーザ素子11aは、多層構造とサブマウント基板122とが対向するようにサブマウント基板122に実装されている。
【0321】
図44に示すようにAuSnからなる接合層121と、第2バリア層202aに覆われていない領域の第1パッド電極201とが化学反応を起こし、第1パッド電極201の一部がAuSn化し、AuSnはレーザ素子の中心(つまり、図44の水平方向の中心)に向かって広がる。この結果、接合層121と、第1パッド電極201との接合部の接合層表面は、第1パッド電極201外縁部において中心側に湾曲して入りこんでいる形状となる。つまり、接合層121は、第2バリア層202aと第1バリア層との間であって、第2バリア層202aの端部より内側に入りこんでいる。さらに言い換えると、接合層121の一部は、第2バリア層202aと第1バリア層115との間であって、第2バリア層202aの端部より内側に配置される。
【0322】
このため、接合層121が、半導体レーザ素子11aの側壁に広がることが抑制され、側壁における短絡によるリーク電流の発生を抑制することが可能となる。
【0323】
また、半導体レーザ素子の電極の構成は、図43などに示される構成に限定されない。以下、半導体レーザ素子の電極の構成の変形例について図面を用いて説明する。図45Aは、実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子11bの構成を示す模式的な断面図である。図45Aに示すように、本変形例に係る半導体レーザ素子11bは、電極におけるP側第1密着層114aの構成において、半導体レーザ素子11aと相違し、その他の点において一致する。図45Aに示すように、TiからなるP側第1密着層114aは、リッジ上部には形成されていない。このような構成により、半導体レーザ素子11bの抵抗を小さくすることが可能となり、さらに低電圧動作の半導体レーザ素子を得ることができる。
【0324】
また、実施の形態9に係る半導体レーザ装置59においては、パッド電極116膜厚0.6μmのAuからなる第1パッド電極201、及び、膜厚35nmのPtからなる第2バリア層202a、膜厚1.0μmのAuからなる第2パッド電極203との合計厚は約1.6μmとし、AuSnからなる接合層121の厚さを1.6μmとしている。これらの合計厚が厚くなりすぎると、サブマウント基板122と半導体レーザ素子11aとの距離が大きくなるため、サブマウント基板122が、窒化物系発光素子、及び、Auなどの金属材料と比較して熱膨張係数が小さいことに起因するピエゾ電位の形成が抑制される。また、当該合計厚が薄くなりすぎると、半導体レーザ素子11aとサブマウント基板122との接着強度が弱まってしまう。このため、第1パッド電極201、第2バリア層202a及び第2パッド電極203と、接合層121との合計厚は3μm以上5μm以下としてもよい。さらに、第1パッド電極201、第2バリア層202a及び第2パッド電極203の合計厚と、接合層121の厚さとは、ほぼ同等であってもよい。これは、第1パッド電極201、第2バリア層202a及び第2パッド電極203と、接合層121との合計厚を3μm以上5μm以下とした場合、接合層121が厚くなりすぎると、実装時に半導体レーザ素子11aの側壁部への接合層材料のはみ出しが生じやすくなり、逆に接合層121が薄いと接着強度が低下するためである。このため、実施の形態9では、接合層121の厚さは1.6μmとしている。
【0325】
このように、第1パッド電極201、第2バリア層202a及び第2パッド電極203の合計厚、並びに、接合層121の厚さは、共に1.5μm以上、2.5μm以下としてもよい。これにより、接着強度の低下抑制、接合層の素子側壁へのはみ出し抑制、ダイヤモンドサブマウント基板にジャンクションダウン実装することによる、共振器端面近傍の電流非注入窓領域へ漏れ電流抑制、及び、リッジ外への漏れ電流抑制のためのピエゾ電界の形成を同時に実現することができる。
【0326】
以上の効果は、これまで説明を行ってきた実施の形態1及び実施の形態9に係る半導体レーザ素子だけでなく、実施の形態2~8に係る半導体レーザ素子においても得ることができる。
【0327】
また、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板は熱伝導率が高いので、実装時に熱が伝わりやすく接合層材料であるAuSnからなる半田が短時間で溶けて側壁方向にはみ出し易い。この結果、SiC又はAlNで形成されるサブマウント基板を使用した場合と比較して、GaN基板側を上にして平坦あるいは凸形状の半導体レーザ素子、又は、多層構造全体の平均歪みεtaveが0、若しくは、引っ張り性の半導体レーザ素子であっても、実装時に半導体レーザ素子の側壁に沿って半田がはみ出しやすくなる。この場合、上述のとおり、半田が半導体レーザ素子の側壁を覆い、リーク電流が発生し得る。この課題を解決するためには、実施に形態9に係る半導体レーザ素子11aが備える第2バリア層の構成を用いることが有効である。
【0328】
また、電流ブロック層112上には、GaN基板101から量子井戸活性層106の方向を上方向とすると、図45Aに示すようにP側第1密着層114a、第1パッド電極201、第2バリア層202a及び第2パッド電極203からなるP側多層電極118aが形成されている。
【0329】
ここで、P側多層電極118及び118aの形状について図面を用いて説明する。図45B図45Dは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のP側多層電極118の基板法線方向視における形状の例を示す模式的な平面図である。なお、図45B図45DにはP側多層電極118が示されているが、P側多層電極118aも同様の形状を有する。
【0330】
図45Bに示すように、P側多層電極118が長方形である場合、P側多層電極118の隅部Ra~隅部Rdには応力が集中しやすく、電極はがれの起点と成りやすい。P側多層電極118の各隅部がはがれると、電流の均一注入が阻害されるのみならず、放熱性の低下を招くため、半導体レーザ装置の動作特性及び信頼性の低下を招いてしまう。
【0331】
そこで、電極はがれの発生を抑制するために、図45C及び図45Dに示すP側多層電極118は、長方形の四つの角部を欠いた形状を有する。言い換えると、P側多層電極118の隅部Ra~隅部Rdにおいて、P側多層電極118の外周は、P側多層電極118の共振器に平行な辺の延長線と、共振器端面に平行な辺の延長線との交点よりも内側に位置するように形成されている。本実施の形態においては、P側多層電極118の共振器方向に平行な辺とその延長線(長辺)と、共振器端面に平行な辺とその延長線(短辺)とで形成される長方形の頂点から、長辺方向及び短辺方向の各々に10μm以上30μm以下程度の距離において、電極が形成されない隅部Re~隅部Rhが設けられている。
【0332】
この結果、P側多層電極118で応力が集中する領域の形成が抑制され、電極はがれの発生を抑制することができる。図45C及び図45Dに示すP側多層電極118では、上記長方形の頂点から、共振器方向及び半導体レーザ素子の幅方向にそれぞれ20μmの距離において電極が形成されていない。言い換えると、P側多層電極118は、長方形状の電極から、四つの隅部Re~隅部Rhにおいて、三角形状の領域が切り欠かれたような形状を有する。
【0333】
共振器端面側のP側多層電極118端の位置は、図45Cに示すように共振器端面と同一であってもよいが、共振器形成時のへき開精度との関係から、図45Dのように、共振器端面と離間する位置となるように配置してもよい。言い換えると、P側多層電極118端と、共振器端面との間には間隙を形成してもよい。
【0334】
この間隙があまりに小さいとP側多層電極118の影響を受けずにへき開することが、へき開工程の加工精度上困難となる。へき開位置に、P側多層電極118端の一部が含まれ得る。この場合、P側多層電極118端がへき開の方向に影響を与え得る。つまり、へき開方向が、へき開工程の途中で、所望の方向からずれてしまう場合が発生することとなる。逆に、上記間隙があまりに大きいと共振器端面近傍領域での放熱性が低下するため、共振器端面とP側多層電極118端との間には1μm以上20μm以下程度の間隙を形成するとよい。図45Dに示す例では、10μmの間隙を形成している。
【0335】
また、N側電極117を基板法線方向から見た形状に対しても、P側多層電極118と同様のことが言える。図45E図45Gは、実施の形態1、実施の形態9、又は実施の形態9の変形例に係る半導体レーザ素子のN側電極117の基板法線方向視における形状の例を示す模式的な平面図である。
【0336】
図45Eに示すように、N側電極117の形状を長方形とした場合、隅部Ra~隅部Rdには応力が集中しやすく、電極はがれの起点と成りやすい。N側電極117の各隅部がはがれると、電流の均一注入が阻害されるのみならず、放熱性の低下を招くため、半導体レーザ装置の動作特性及び信頼性の低下を招いてしまう。
【0337】
そこで、電極はがれの発生を抑制するために、図45F図45Gに示すN側電極117は、長方形の四つの角部を欠いた形状を有する。言い換えると、N側電極117の隅部Ra~隅部Rdにおいて、N側電極117の外周は、N側電極117の共振器に平行な辺の延長線と、共振器端面に平行な辺の延長線との交点よりも内側に位置するように形成されている。本実施の形態においては、N側電極117の共振器方向に平行な辺とその延長線(長辺)と、共振器端面に平行な辺とその延長線(短辺)とで形成される長方形の頂点から、長辺方向、短辺方向の各々に10μm以上30μm以下程度の距離において、電極が形成されない隅部Re~隅部Rhが設けられている。図45F及び図45Gに示すN側電極117では、上記長方形の頂点から共振器方向及び半導体レーザ素子の幅方向にそれぞれ20μmの距離において電極が形成されていない。言い換えると、N側電極117は、長方形状の電極から、四つの隅部Re~隅部Rhにおいて、三角形状の領域が切り欠かれたような形状を有する。
【0338】
この結果、N側電極117で応力が集中する領域の形成が抑制され、電極はがれの発生を抑制することができる。
【0339】
共振器端面でのN側電極117端の位置は、図45Fに示すように共振器端面と同一であってもよいが、共振器形成時のへき開精度との関係から、図45Gのように、共振器端面と離間する位置となるように配置してもよい。言い換えると、N側電極117端と、共振器端面との間には間隙を形成してもよい。
【0340】
この間隙があまりに小さいとN側電極117の影響を受けずにへき開することが、へき開工程の加工精度上困難となる。へき開位置に、N側電極117端の一部が含まれ得る。この場合、N側電極117端がへき開の方向に影響を与え得る。つまり、へき開方向が、へき開工程の途中で、所望の方向からずれてしまう場合が発生することとなる。逆に、上記間隙があまりに大きいと共振器端面近傍領域での放熱性が低下するため、共振器端面とN側電極117端との間には1μm以上20μm以下程度の間隙を形成するとよい。図45Gに示す例では、10μmの間隙を形成している。
【0341】
また、図45F及び図45Gに示す構造では、N側電極117は、半導体レーザ素子の幅方向に対しても、半導体レーザ素子端部よりも内側の領域に形成している。これは、半導体レーザ装置を共振器方向に分離する素子分離工程において、分離を容易にするためである。この場合、半導体レーザ素子の幅方向の、N側電極117と半導体レーザ素子端部との間隔は1μm以上20μm以下であればよい。図45F及び図45Gに示す例では、10μmの間隙を形成している。
【0342】
また、ジャンクションダウンで実装する場合、P側多層電極118には、サブマウント材料との熱膨張係数の差による熱残留応力が付加される。このため、P側多層電極118の実装時の応力に起因する電極はがれの発生を防止するためには、図45C及び図45Dに示すような、応力が集中しやすい電極の角部を欠いた形状の電極パターンとすることは有効である。
【0343】
(実施の形態10)
実施の形態10に係る半導体レーザ装置について説明する。
【0344】
まず、上述のダイヤモンドで形成されたサブマウント基板の形状について説明する。サブマウント基板はそれ自身が硬いために、ダイヤモンドのウェハを割って分離することが困難である。このため、サブマウント基板を形成するためには、ウェハ状に形成されたダイヤモンドにレーザ光を照射することで溶融させる必要がある。この場合、比較的強いレーザ光をウェハの上面から照射し、ウェハの下面付近までレーザ光で溶融させてしまうと、ウェハを割りやすくなる。しかしながら、ウェハの溶融された部分は導電性のカーボンに変質するため、溶融された部分をサブマウント基板の側壁に用いると、サブマウント基板の絶縁性を保てなくなる。したがって、ウェハにレーザ光を照射して溶融させる場合、その膜厚の半分程度の深さまで溶融させる。これにより、ウェハの分割面のうち、カーボン化された部分を、膜厚の半分程度に抑制できる。
【0345】
レーザ光をウェハに照射する場合、レーザ光の強度はレーザ光の中心部分の方が強いため、ウェハのうち、レーザ光の中心部分が照射される部分は、深く溶融され、レーザ光の外縁付近が照射される部分は、浅く溶融される。したがって、上述のような方法で形成されたサブマウント基板の側壁は、厚さ方向の半分程度の深さまで傾斜している。
【0346】
以上のように、サブマウント基板を形成することにより、ウェハ状態からのサブマウント基板の分離性と、サブマウント基板の絶縁性とを両立させることが可能となる。以下、サブマウント基板の形状などについて図面を用いて説明する。
【0347】
図46は、実施の形態10に係るサブマウント基板122の形状を示す斜視図である。図46に示すように、実施の形態10に係るサブマウント基板122の形状は、図46に示すように直方体ではなく、側壁(主面以外の面)において、厚さH1の傾斜部と厚さH2の垂直部とを有する。側壁の傾斜部は、サブマウント基板122の主面の法線に対して角度θだけ傾斜した面で構成される部分であり、側壁の垂直部は、当該法線に平行な面で形成された部分である。
【0348】
傾斜部の厚さH1は、サブマウント基板の厚さの半分程度であってよく、例えば、サブマウント基板全体の厚さの半分から±50μmの範囲であればよい。
【0349】
また、側壁の傾斜角度θは8°を中心に、2.5°以上15°以下の範囲としてもよい。傾斜角度θは、大きすぎると、サブマウント基板122の放熱経路が小さくなりすぎ、逆に傾斜角度θが小さすぎると、後述するように、側壁の傾斜部に電極を形成することが困難となるためである。
【0350】
続いて、サブマウント基板122に形成される電極について図面を用いて説明する。図47は、実施の形態10に係るサブマウント基板122に形成される電極の構造を示す図である。図47には、電極が形成されたサブマウント基板122の断面図(a)及び(c)並びに上面図(b)が示されている。断面図(a)及び(c)は、それぞれ上面図(b)に示されるA-A断面及びC-C断面を示している。
【0351】
図47の断面図(c)に示すように、サブマウント基板122の上面には、側壁の傾斜部を覆うように上部密着金属層206、サブマウントバリア層205及び接合層121が形成されている。また、図47の上面図(b)に示すように、上部密着金属層206よりも内側の領域にサブマウントバリア層205が形成され、さらにその若干内側に接合層121が形成されている。このようにパターン化することで半導体レーザ素子の実装時に、実装位置の認識を行うことができる。また、接合層121がサブマウントバリア層205外へ大きく広がることを抑制することができる。
【0352】
また、ジャンクションダウンで実装した場合、サブマウント基板から前端面側にはみ出たAuSnなどの接合層材料により、半導体レーザ素子における前端面(共振器の出射側端面)からの出射光の出射パターンが乱れ得る。このようなレーザ光の出射パターンの乱れを抑制するためには、半導体レーザ素子の前端面がサブマウント基板の端部から突き出た状態で半導体レーザ素子を実装することが有効である。
【0353】
図47の断面図(c)に示すようにサブマウント基板122の傾斜部にも上部密着金属層206及び接合層121を形成することで、レーザの前端面をサブマウント基板の端部から突き出した状態で実装した場合に、突き出した部分のパッド電極を覆うように接合層121を固着形成することができる。これにより、突き出した部分の放熱性を高めることが可能となる。以下、このような実装形態について図面を用いて説明する。
【0354】
図48Aは、傾斜部に接合層121が形成されていないサブマウント基板122に半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置60aの構造を示す模式的な断面図である。図48Bは、傾斜部に接合層121が形成されたサブマウント基板122に半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置60bの構造を示す模式的な断面図である。なお、図48A及び図48Bには、半導体レーザ装置の共振器方向及び多層構造の積層方向に平行な断面が示されている。
【0355】
図48Aに示すように、サブマウント基板122の側壁にサブマウントバリア層205、上部密着金属層206及び、接合層121を形成しない場合には、パッド電極116のうち前端面側(図48Aの左側)の突き出た部分は、接合層121によって覆われない。
【0356】
一方、図48Bに示すように、サブマウント基板122の側壁にサブマウントバリア層205、上部密着金属層206及び、接合層121を形成することで、パッド電極116のうち前端面側(図48Bの左側)の突き出た部分を覆うように接合層121を固着させることができる。これにより、半導体レーザ素子の前端面部の放熱性を高めることができる。半導体レーザ素子の前端面部は光密度が非常に高く、発熱が最も起こりやすいため、図48Bに示すように接合層121をパッド電極116に固着させることはCODレベルの低下防止に非常に効果がある。
【0357】
特に、この効果は、共振器端面近傍に電流非注入窓領域を形成した場合に、CODレベルの低下防止により一層の効果を得ることができる。以下、この電流非注入窓領域を備える半導体レーザ素子について図面を用いて説明する。
【0358】
図49Aは、傾斜部に接合層121が形成されていないサブマウント基板122に、電流非注入窓領域210が形成された半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置60cの構造を示す模式的な断面図である。図49Bは、傾斜部に接合層121が形成されたサブマウント基板122に、電流非注入窓領域210が形成された半導体レーザ素子を実装した半導体レーザ装置60cの構造を示す模式的な断面図である。
【0359】
電流非注入窓領域210は、半導体レーザ素子の共振器端面近傍のコンタクト層上に、電流を非注入にするためのSiOからなる絶縁膜が形成された領域である。このような電流非注入窓領域210を有することで、半導体レーザ素子の端面近傍の量子井戸活性層106での動作キャリア密度を低減し、オージェ非発光再結合による発熱を抑制している。この状態において、図49Bに示す半導体レーザ装置60dのように、半導体レーザ素子のパッド電極116の前端面側(図49Bの左側)の突き出た部分を覆うように接合層を固着させることで、電流非注入窓領域210での放熱性をさらに高めることができる。このため半導体レーザ装置60dのCODレベルの低下を抑制できる。
【0360】
また、GaN基板101側を上にして平坦又は凸形状の半導体レーザ装置、又は、多層構造全体の平均歪みεtaveが0、若しくは、引っ張り性のレーザ装置であっても、実施に形態10に示した構成を用いることで、半導体レーザ装置の前端面部の放熱性を高めることができる。この結果、半導体レーザ装置のCODレベルの低下を抑制できる。
【0361】
(実施の形態11)
実施の形態11に係る光モジュールについて説明する。
【0362】
以上で述べた本開示に係る半導体レーザ素子は、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板上に実装されることにより、電流非注入窓領域への漏れ電流抑制効果を奏し、さらに、リッジ型レーザの場合は、リッジ外への電流のもれを抑制する効果を奏する。また、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板の熱膨張係数が窒化物材料及びAuなどの金属材料より小さいことから、図4図21C及び図23Cに示すように、150℃の高温よりも25℃の室温の環境で用いた方が、これらの効果は高まることを示した。
【0363】
したがって、半導体レーザ素子を室温状態に近い環境条件で使用すれば、半導体レーザ素子の劣化の抑制効果及び動作電流値の抑制効果を、SiC又はAlNなどで形成されたサブマウント基板上に実装した半導体レーザ素子よりも高めることが可能となる。
【0364】
以下、本開示に係る半導体レーザ素子の効果を高めることができる実施の形態について図面を用いて説明する。
【0365】
図50は、実施の形態11に係る光モジュール240の一例の構造を示す図である。図50には、実施の形態11に係る光モジュール240の背面図(a)、正面図(b)及び断面図(c)が示されている。背面図(a)は、光モジュール240の光出射側の裏側の外観を示している。正面図(b)は、光モジュール240の光出射側の外観を示している。断面図(c)は、光モジュール240の光軸を通る断面を示している。
【0366】
光モジュール240は、上記各実施の形態に係る半導体レーザ素子及びサブマウント基板を実装したCANパッケージ221と、水冷機構を内蔵した金属基台220とを備える。
【0367】
金属基台220には、金属基台220を冷却するための冷媒を循環させるための管224が内蔵されている。この構成により、金属基台220を、室温環境下と同等、ないしは、近い状態の温度に保つことが可能となる。この結果、半導体レーザ装置を室温状態に近い環境条件で動作させることが可能となり、半導体レーザ素子の劣化の抑制効果及び動作電流値の抑制効果を、SiC又はAlNなどで形成されたサブマウント基板上に実装した半導体レーザ素子よりも高めることが可能となる。
【0368】
(実施の形態12)
実施の形態12に係る光モジュールについて説明する。実施の形態12に係る光モジュールは、光ファイバーを備える点において、実施の形態11に係る光モジュール240と相違し、その他の点において一致する。以下、実施の形態12に係る光モジュールについて図面を用いて説明する。
【0369】
図51は、実施の形態12に係る光モジュールの一例の構造を示す断面図である。図51においては、実施の形態12に係る光モジュールの光軸を通る断面が示されている。
【0370】
実施の形態12に係る光モジュールは、実施の形態11に係る光モジュール240にさらに光ファイバー226が集積化されている。この構成とすることで、半導体レーザ素子を実施の形態11と同様に室温に近い環境で動作させつつ、ワット級の450nm帯青色レーザ光を、そのレーザ光が必要とされる位置まで、容易に伝達させることが可能となる。実施の形態12に係る光モジュールは、例えば加工用レーザ光源として使用することが可能となる。
【0371】
また、光ファイバー226の出射部近傍に、例えば、黄色光を発生する蛍光体、あるいは、赤色、緑色を発光する蛍光体を配置することにより、白色光源を実現することが可能となる。
【0372】
(実施の形態13)
実施の形態13に係る光源について説明する。実施の形態13に係る光源は、半導体レーザ素子から出射される青色レーザ光を白色光に変換して出射する光源である。以下、実施の形態13に係る光源について、図面を用いて説明する。
【0373】
図52は、実施の形態13に係る光源250の構成の一例を示す断面図である。
【0374】
図52に示すように、実施の形態13に係る光源250は、実施の形態11に係る光モジュール240のCANパッケージ221及び金属基台220を備える。光源250は、さらに、レンズ227と、反射ミラー228と、台座229と、蛍光体230とを備える。光源250では、これらの構成要素が集積化されている。この構成とすることで、光源250の半導体レーザ素子を室温に近い環境で動作させ、かつ、ワット級の450nm帯青色レーザ光をレンズ227によって、蛍光体230に集光することが可能となる。
【0375】
この構成において、450nm帯の青色レーザ光を蛍光体に照射することで蛍光体を励起することができる。したがって、蛍光体によって黄色光、又は、赤色光及び緑色光を発生させることで、全体として白色光を出射する光源として使用することが可能となる。
【0376】
この場合、ダイヤモンドで形成されたサブマウント基板にジャンクションダウンで実装した半導体レーザ素子を使用していることによる劣化抑制効果のみならず、蛍光体も室温に近い環境温度で使用されるため発熱による蛍光体の劣化を抑制することが可能となる。したがって、長期信頼性に優れた、白色光源を実現することが可能となる。
【0377】
以上、本開示に係る窒化物系発光装置について、各実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記の各実施の形態に限定されるものではない。
【0378】
例えば、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態及び変形例における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0379】
各実施の形態では、半導体レーザ素子を作製する基板として、基板の主面が(0001)C面、半極性面及び無極性面である例を示したが、基板の主面が(0001)C面から傾いたオフ基板であってもよい。オフ基板を使用することで、量子井戸活性層に生じるC軸方向のピエゾ効果を低減することができるため、動作電圧を低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0380】
本開示の窒化物系発光装置は、例えば、85℃の環境下で、3ワット以上の超高出力動作時においても、優れた温度特性及び長期信頼性を有する車載ヘッドライト用光源として利用可能である。
【符号の説明】
【0381】
11、11a、11b、12、12a、13、14、15、16、17、17a、18、18a 半導体レーザ素子
51a、51b、59、60a、60b、60c、60d 半導体レーザ装置
101、140、141、401 GaN基板
102 バッファ層
102a InGaN層
102b AlGaN層
103、163 第1クラッド層
104 N型GaN層
105 第1光ガイド層
106、166 量子井戸活性層
106a、106c、106e バリア層
106b、106d 量子井戸層
107 第2光ガイド層
108、168 電子障壁層
109、169 第2クラッド層
110 コンタクト層
112 電流ブロック層
113 P側オーミック電極
114、114a P側第1密着層
115 第1バリア層
116、116a パッド電極
117 N側電極
118、118a P側多層電極
121 接合層
122、311、410 サブマウント基板
130 第3光ガイド層
131 第3クラッド層
201 第1パッド電極
202、202a 第2バリア層
203 第2パッド電極
205 サブマウントバリア層
206 上部密着金属層
207 下部密着金属層
210 電流非注入窓領域
220 金属基台
221 CANパッケージ
224 管
226 光ファイバー
227 レンズ
228 反射ミラー
229 台座
230 蛍光体
240 光モジュール
250 光源
300、400 半導体発光装置
310 窒化物発光素子
402 発光素子
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15
図16A
図16B
図16C
図16D
図17A
図17B
図18A
図18B
図19A
図19B
図19C
図20
図21A
図21B
図21C
図22A
図22B
図22C
図23A
図23B
図23C
図24A
図24B
図24C
図25A
図25B
図26A
図26B
図27A
図27B
図27C
図28
図29A
図29B
図30A
図30B
図31A
図31B
図32A
図32B
図32C
図33A
図33B
図33C
図34
図35
図36
図37
図38A
図38B
図38C
図39A
図39B
図39C
図40
図41
図42
図43
図44
図45A
図45B
図45C
図45D
図45E
図45F
図45G
図46
図47
図48A
図48B
図49A
図49B
図50
図51
図52
図53
図54