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特許7150744ポリマー基材に結合されたヒドロゲル組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】ポリマー基材に結合されたヒドロゲル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 291/00 20060101AFI20221003BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20221003BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C08F291/00
C08J7/04 U CER
C08J7/04 CEZ
C08F2/50
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019552999
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 US2018023914
(87)【国際公開番号】W WO2018183098
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】62/478,210
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ヤング,アレクシ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ラスムセン,ジェラルド ケー.
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-508776(JP,A)
【文献】特表2018-536728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08J7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフト化ヒドロゲルを製造する方法であって、
(a)引抜き可能な原子を有するポリマー基材を得る工程と、
(b)前記ポリマー基材をII型光開始剤でコーティングして、乾燥したコーティングされた基材を形成する工程と、
(c)水性組成物を塗布して、水性コーティングされた基材を形成する工程であって、前記水性組成物が、(i)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、及びこれらの組み合わせを含む親水性モノマー、(ii)前記水性組成物の全重量に対して2重量%~20重量%の水膨潤性粘土、並びに(iii)水溶性I型光開始剤、並びに(iv)塩又は酸、を含む工程と、
(d)前記水性コーティングされた基材を硬化する工程と、をこの順序で含む、方法。
【請求項2】
前記ポリマー基材が、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、及びポリエステルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマー基材が、水不溶性II型光開始剤でコーティングされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)が、前記II型光開始剤及び溶媒を含む液体を前記ポリマー基材上にコーティングし、続いて前記溶媒を除去して、前記乾燥したコーティングされた基材を形成することによって実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記水性組成物が、前記乾燥したコーティングされた基材に密接に接触する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記水性組成物が、5超かつ9.5未満のpHを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水性組成物のヒドロゲルコーティングが、少なくとも2mmの厚さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(i)引抜き可能な原子を含むポリマー基材と、
(ii)その上のヒドロゲルコーティングであって、少なくとも10重量%の含水量を有し、かつ前記ポリマー基材に共有結合している、ヒドロゲルコーティングと、
を含むヒドロゲル物品であって、前記ヒドロゲルコーティングが、水性組成物であって、
(a)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、及びこれらの組み合わせを含む親水性モノマー、
(b)前記水性組成物の全重量に対して少なくとも2重量%の水膨潤性粘土、
(c)水溶性I型光開始剤、並びに
(d)酸又は塩、
を含む水性組成物に由来し、
水不溶性II型光開始剤が、前記ヒドロゲルコーティングと前記ポリマー基材との間の界面に局在化している、ヒドロゲル物品。
【請求項9】
前記水不溶性II型光開始剤が、前記ポリマー基材の第1の主表面から50ナノメートル以内にある、請求項8に記載のヒドロゲル物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリマー基材に結合されたヒドロゲル組成物が開示される。
【背景技術】
【0002】
創傷又は病変により、典型的には、発生後及び治癒過程の間に液体物質が滲出する。包帯を選択するとき、創傷からの滲出液を取り除きたいという希望と、創傷が乾燥しすぎたり、湿りすぎたりするのを防止するために創傷内及びその周りの流体の適切なレベルでの維持とを、うまく両立させる必要がある。
【0003】
ヒドロゲルは、水を吸収し、創傷を適切な湿潤状態に保つことにより、治癒を促進するその能力のために、創傷ケアにおいてますます使用されるようになっている。
【0004】
ヒドロゲルは、その親水性(すなわち、創傷滲出液等の多量の流体を吸収する能力)及び水不溶性(すなわち、その形状を概ね保ちながら水中で膨潤できる)によって特徴付けられる親水性ポリマーである。親水性は、一般に、基[とりわけ、ヒドロキシル、カルボキシ、カルボキサミド、及びエステル等]によるものである。水と接触すると、ヒドロゲルは、水和した鎖に作用する分散力と、ポリマー網状組織への水の浸透を妨げない凝集力との間のバランスから生じる、膨潤した水和状態をとる。凝集力は、ほとんどの場合、共有結合性架橋の結果であるが、これに加えて、静電的、疎水性、又は双極子相互作用に起因する場合もある。
【0005】
創傷ケアに使用されるほとんどのヒドロゲルは非接着性であり、したがって、ヒドロゲルをバッキング層上に固定して付着させるための接着剤によって、かつ/又は米国特許公開第2006/0148352号(Munroら)に開示されているように創傷とヒドロゲルとの間に配置されたネットの使用を通じて、バッキング層内に固定しなければならない。創傷滲出液又は他の水性溶液と接触した後ではあるが、接着性ヒドロゲルを使用することができ、ヒドロゲルは水を吸収する。このことにより、ヒドロゲルの粘着性を低下させることができ、したがって、ヒドロゲルとバッキング層との間の接着性を減少又は排除することができる。
【発明の概要】
【0006】
ヒドロゲルをしっかりとポリマー基材上に接着させる代替手段を見つけることが望まれている。
【0007】
一態様では、グラフト化ヒドロゲルを製造する方法が記載される。本方法は、
(a)引抜き可能な原子を有するポリマー基材を得る工程と、
(b)ポリマー基材をII型光開始剤でコーティングして、乾燥したコーティングされた基材を形成する工程と、
(c)水性組成物を塗布して、水性コーティングされた基材を形成する工程であって、水性組成物が、(i)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、及びこれらの組み合わせを含む親水性モノマー、(ii)2重量%~20重量%の水膨潤性粘土、並びに(iii)水溶性I型光開始剤、並びに(iv)塩又は酸、を含む工程と、
(d)水性コーティングされた基材を硬化する工程と、をこの順序で含む。
【0008】
別の態様では、
(i)引抜き可能な原子を含むポリマー基材と、
(ii)その上のヒドロゲルコーティングであって、少なくとも10重量%の含水量を有し、かつポリマー基材に共有結合している、ヒドロゲルコーティングと、
を含む多層物品であって、このヒドロゲルコーティングが、
(a)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、及びこれらの組み合わせを含む親水性モノマー、
(b)少なくとも2重量%の水膨潤性粘土、
(c)水溶性I型光開始剤、並びに
(d)酸又は塩、
を含む水性組成物に由来し、
水不溶性II型光開始剤が、ヒドロゲルコーティングとポリマー基材との間の界面に局在化している、多層物品が開示される。
【0009】
上記の発明の概要は、各実施形態について説明することを意図するものではない。本発明における1つ以上の実施形態の詳細は、下記の説明にも記載されている。他の特徴、目的、及び利点は、本明細書及び特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で用いる場合、用語
「a」、「an」、及び「the」という用語は、互換的に使用され、1以上を意味し、
「及び/又は」は、述べられた事例の一方又は両方が起こり得ることを示すために使用され、例えば、A及び/又はBは、(A及びB)並びに(A又はB)を含み、
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート若しくはメタクリレート構造又はこれらの組み合わせのいずれかを含有する化合物を指し、
「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド若しくはメタクリルアミド構造又はこれらの組み合わせのいずれかを含有する化合物を指し、
「モノマー」は、重合を経てその後ポリマーの基本的構造の部分を形成することができる分子である。
【0011】
また、本明細書において、端点による範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~10は、1.4、1.9、2.33、5.75、9.98等を含む)。
【0012】
また、本明細書において、「少なくとも1つ」の記載は、1以上の全ての数(例えば、少なくとも2、少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも50、少なくとも100等)を含む。
【0013】
ヒドロゲルは、水性媒体中に分散した親水性ポリマー鎖の網状組織である。水で膨潤したポリマー網状組織は、ポリマー鎖間の相互作用(例えば、架橋)により不溶性となる。この親水性ポリマーの網状組織が水性溶液中に入ると、これらの系は、多くの場合、平衡膨潤点に達するまで水を吸収する。この時点で、混合エンタルピーは、ポリマー鎖を一緒に保持する相互作用(例えば、鎖間の共有結合、又は鎖間の非共有結合性相互作用(水素結合、静電気、ファンデルワールス))によって課される制限に等しい。
【0014】
ヒドロゲルは、24時間で滲出液又は他の流体(例えば、水)それ自体の重量の何倍も、(例えば、少なくとも約2.5、5、10、又は更には50倍、潜在的には最高約250倍)吸収する能力を有する。
【0015】
典型的には、基材上へのヒドロゲルの共有結合による付着は、ガラス基材を用いて説明され、ガラスとアルコキシシリル含有反応性モノマーとの間に形成された結合が利用される。モノマーのアルコキシシリル基がガラス基材と反応して結合を形成すると、モノマーの反応性ペンダント基を利用して網状組織のヒドロゲルの重合を開始させることができる。この付着方法は、ガラス基材の固有の反応性に依存する。ポリオレフィン、ポリウレタン、及びポリエステルをベースとしたフィルムのようなポリマー基材の場合、基材表面は、容易に改質するために必要とされる本来の反応性を有していない。本開示は、ポリマー基材及びそれから形成した物品上へのヒドロゲル組成物の耐久性のある付着(例えば、共有結合)のための方法に関する。
【0016】
本開示では、II型光開始剤をポリマー基材上に塗布し、続いて水性組成物でコーティングする。次いで、水性コーティング組成物を硬化させて、ポリマー基材への耐久性のある付着を有するヒドロゲルを形成する。
【0017】
本開示の基材は、有機ポリマー基材、より具体的には、引抜き可能な原子、典型的には水素原子を含むポリマー基材である。
【0018】
例示的なポリマー基材としては、ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリプロピレン等のポリオレフィン、及びポリウレタンが挙げられる。
【0019】
一実施形態では、ポリマー基材は可撓性であり、これは、ポリマー基材は、ポリマー基材の主表面に平行な平面から少なくとも5、10、又は更には15度曲がることができることを意味する。一実施形態では、ポリマー基材は、曲面にぴったり一致する。
【0020】
一実施形態では、ポリマー基材は、光開始剤との接触前に洗浄又は処理されてもよい。このような方法は、当該技術分野において公知であり、溶媒洗浄、プラズマ処理、コロナ処理等が挙げられる。
【0021】
ラジカル重合のための光開始剤は、当該技術分野において、開裂(I型)開始剤及び水素引抜き(II型)開始剤に分類される。I型開始剤は、光を吸収すると、自然に「α開裂」し、開始ラジカルを直ちに生成する。II型開始剤は、化学線によって活性化されると、第2の(水素供与体)化合物からの水素引抜きによってフリーラジカルを形成し、実際の開始フリーラジカルを生成する、光開始剤である。この第2の化合物は重合相乗剤又は共開始剤と呼ばれる。
【0022】
本開示において、II型光開始剤は、モノマーの非存在下で、ポリマー基材の少なくとも第1の主表面に最初に塗布される。換言すれば、重合することができるオレフィン化合物は、II型光開始剤と共に塗布されない。理論に束縛されるものではないが、本開示では、化学線で活性化されると、II型光開始剤は、ポリマー基材から水素を引き抜き、ラジカル部位を残すことができ、その後、続いて塗布される水性組成物中のモノマーと反応して、ヒドロゲルをポリマー基材に共有結合させることができると考えられる。基材表面上のII型光開始剤のコーティングは、ポリマー基材からの水素引抜きの頻度を増加させ、したがって、ポリマー基材へのヒドロゲルの接着性を増加させる。
【0023】
一実施形態では、II型光開始剤は液体として適用され、II型光開始剤は、本明細書でII型光開始剤組成物と称される溶媒中に溶解及び/又は分散される。一実施形態では、II型光開始剤組成物はII型光開始剤から本質的になり、これは、II型光開始剤組成物がモノマーを実質的に含まない(すなわち、0.1、0.01、又は更には0.001重量%未満、又は更にはモノマーなし)が、ヒドロゲルコーティングをポリマー基材に付着させない溶媒又は他の材料を含んでもよいことを意味する。II型光開始剤組成物の溶媒は、特に限定されない。例示的な溶媒としては、アルコール(プロパノール、メタノール、及びエタノール等)、脂肪族若しくは芳香族炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ペンタン、及びトルエン等)、エステル、ケトン(アセトン等)、及び/又はエーテルが挙げられる。一実施形態では、II型光開始剤組成物は、II型光開始剤の少なくとも0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、又は更に5wt(重量)%、かつ最大で8、10、12、15、又は更には20重量%を構成する。液体として適用される場合、II型光開始剤組成物は、典型的には、ポリマー基材上に直接溶媒中の希釈溶液として適用され、次いで、溶媒を除去するために実質的に乾燥されて、これにより乾燥したII型光開始剤の層がポリマー基材の表面上に存在する。実質的に乾燥させるとは、乾燥したコーティングの約5、4、2、1、又は更には0.5重量%未満が残留溶媒であることを意味する。II型光開始剤組成物は、水性組成物の塗布前に乾燥させて、水性組成物の後続コーティング中に、ポリマー基材の表面から離れるII型光開始剤の拡散を最小限にする。
【0024】
あるいは、II型光開始剤は、当該技術分野において既知のように、例えば、熱蒸発によって、又はスパッタリングによって、ポリマー基材の表面上に真空蒸着によりコーティングすること等によって、無溶媒形態で塗布されてもよい。
【0025】
一実施形態では、II型光開始剤は水不溶性である。水不溶性とは、脱イオン水中に溶解する光開始剤の量が0.5重量%以下であることを指す。
【0026】
一実施形態では、II型光開始剤は、II型光開始剤中のフェニル環の2、3位及び/又は4位、好ましくはフェニル環の3位及び/又は4位上の置換基を含む。置換基の例は、ヒドロキシ、無水物、酸、エステル、エーテル、アミド及びアミノ官能基を含む置換基である。II型光開始剤の例としては、ベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸、3-ベンゾイル安息香酸、4-ベンゾイル安息香酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ミヒラーケトン、ベンジル、アントラキノン、5,12-ナフタセンキノン、アセアントラセンキノン、ベンズ(A)アントラセン-7,12-ジオン、1,4-クリセンキノン、6,13-ペンタセンキノン、5,7,12,14-ペンタセンテトロン、9-フルオレノン、アントロン、キサントン、チオキサントン、アクリドン、ジベンゾスベロン、アセトフェノン、及びクロモンが挙げられる。
【0027】
次いで、II型光開始剤の乾燥した層を含むポリマー基材を水性溶液でコーティングし、これを硬化させてヒドロゲルコーティングを形成する。
【0028】
本開示のヒドロゲルコーティングは、少なくとも10、15、20、30、40、又は更には50重量%の含水量を有する。ヒドロゲルコーティングは、少なくとも1つの親水性モノマー、水膨潤性粘土、水溶性光開始剤、並びに酸及び/又は塩を含む水性組成物から誘導される。本開示の一実施形態では、滲出液又は他の流体を吸収した後に、本明細書で開示されるヒドロゲルコーティングは、ポリマー基材に付着したままである。
【0029】
親水性モノマーは、水溶性であり、かつ/又は水を主成分とする水混和性の有機溶媒を含む混合溶液に可溶性であるモノマーである。一実施形態では、モノマーは20以下の親油性指数を有する。本明細書で使用されるとき、用語「親油性指数」又は「LI」は、モノマーの疎水性又は親水性を特徴付けるための指標を指す。親油性指数は、等体積(1:1)の非極性溶媒(例えば、ヘキサン)と極性溶媒(例えば、75:25のアセトニトリル-水の溶液)の中にモノマーを分配することにより、測定される。親油性指数は、分配後に非極性相に残るモノマーの重量%に等しい。より疎水性のモノマーはより高い親油性指数を有する傾向があり、同様に、より親水性のモノマーはより低い親油性指数を有する傾向がある。親油性指数の測定は、Drtina et al.,Macromolecules,29、4486~4489(1996)に更に記載されている。十分に低い親油性指数を有するノニオン性モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(例えば、LIが1)、及び3-ヒドロキシプロピルメタクリレート(例えば、LIが2)等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、アクリルアミド(例えば、LIが1未満)及びメタクリルアミド(LIが1未満)、グリセロールモノメタクリレート及びグリセロールモノアクリレート、N-メチルアクリルアミド(例えば、LIが1未満)、N,N-ジメチルアクリルアミド(例えば、LIが1未満)、N-メチルメタクリルアミド、及びN,N-ジメチルメタクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド類、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、及びN-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド類、2-アセトキシエチルアクリレート及び2-アセトキシエチルメタクリレート(例えば、LIが9)等のアセトキシアルキル(メタ)アクリレート類、グリシジルアクリレート及びグリシジルメタクリレート(例えば、LIが11)等のグリシジル(メタ)アクリレート類、並びにビニルジメチルアズラクトン(例えば、LIが15)等のビニルアルキルアズラクトン類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
親水性モノマーは当該技術分野において公知であり、(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリルアミド等のビニルモノマーが挙げられる。
【0031】
例示的な(メタ)アクリレートモノマーとしては、アクリル酸(3-スルホプロピル)エステル(SPA)及びその塩、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート及びその塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキサイド、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロライド、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0032】
例示的な(メタ)アクリルアミドモノマーとしては、以下が挙げられる:N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、シクロプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、シクロプロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)及びそれらの塩等のN置換(メタ)アクリルアミド誘導体、並びにN,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-エチルアクリルアミド、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のN,N’ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体。N-アクリロイルピロリジン、N-アクリロイルピペリジン、N-アクリロイル-N’-メチルホモピペリジン、及びN-アクリロイル-N’-メチルピペリジン、N-アクリロイルモルホリン、又はそれらの置換誘導体、及びN,Nジメチルアミノプロピルメタクリルアミド。
【0033】
他の有用な水溶性モノマーとしては、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルピロリジノン等のビニルアミド、及びビニルピリジンが挙げられる。
【0034】
一実施形態では、ビニルモノマーは、酸性基又はイオン性基(例えば、酸性基又は第三級アンモニウム基の塩であってよい)で置換される。そのような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、セシウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、若しくはアンモニウム塩、又はそれらの混合物を挙げることができる。一実施形態では、ビニルモノマーは、ペンダントスルホン酸基及び/又はカルボン酸基を含む。
【0035】
親水性モノマーは、所望により、必要な機械的安定性を提供するために、及び所望によりヒドロゲルの接着特性を制御し、及び/又はヒドロゲルの弾性率を調整するために好適に使用される従来の架橋剤(すなわち、ポリマー鎖を一緒に共有結合する化合物)を含む。必要とされる架橋剤の量は、水性組成物の約0.01、0.05、又は更には0.08重量%から、約0.5、0.4、又は更には0.3重量%まで等であり、当業者には容易に明らかであろう。典型的な架橋剤は、少なくとも2つの重合性二重結合を含み、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(ポリエチレングリコール(PEG)、分子量が約100~約4000、例えば、PEG400又はPEG600)及びメチレンビスアクリルアミド(MBA)が挙げられる。一実施形態では、組成物は、当該技術分野で公知であり、例えばHaraguchi et al.,Macromolecules v.36(2003)p.5732~5741に開示されているように、従来の架橋剤を実質的に含まない(すなわち、0.01、又は更には0.001重量%未満)。
【0036】
本開示の親水性モノマーは、重合時に、水膨潤性粘土と相互作用可能であることが好ましい。好ましくは、親水性モノマーのいくつかは、水素結合、イオン結合、配位結合、及び水膨潤性粘土との共有結合を形成できる、官能基を有する。このような官能基の例としては、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、テトラメチルアンモニウム基、シラノール基、及びエポキシ基が挙げられる。
【0037】
粘土は、典型的には、ヒドロゲル組成物に添加され、多量の水を含む複合体における機械的特性を向上させる。本開示の水膨潤性粘土は、水中又は水と有機溶媒との混合溶媒中で膨潤して均等に分散できる、粘土鉱物である。一実施形態では、水膨潤性粘土は、水中で分子形態(単層)又はそれに近いレベルで均等に分散することができる、無機粘土鉱物である。より具体的には、水膨潤性粘土は、層間イオンとしてナトリウムを含有していてもよい。例示的な水膨潤性粘土としては、合成ヘクトライト[Na0.3(Mg,Li)Si10(OH)]、サポナイト[Ca0.25(Mg,Fe)((Si,Al)10)(OH)・n(HO)]、モンモリロナイト[(Na,Ca)0.33(Al,Mg)(Si10)(OH)・nHO]、ラポナイト[Na+.07[(SiMg5.5Li0.3)O20(OH)-.07]、モニトライト(monitrite)及び合成雲母が挙げられる。
【0038】
本開示の水性組成物は、水性組成物の全重量に対して少なくとも2重量%の水膨潤性粘土を含む。一実施形態では、水性組成物中の水膨潤性粘土の量は、水性組成物の全重量に対して、2、4、又は更には5重量%超、かつ10、15、又は更には20重量%未満である。
【0039】
本開示の水性組成物は、I型光開始剤、及び任意選択的にII型光開始剤を含む。
【0040】
本開示では、I型光開始剤は水溶性であり、これは周囲条件(例えば、23℃)において、光開始剤が脱イオン水中で少なくとも0.01、0.1、0.25、0.5、1、2、5、又は更には8重量%の溶解度を有することを意味する。水中での光開始剤の溶解度が低すぎる場合、光開始剤は効率的なラジカル発生に利用できなくなる。
【0041】
市販のI型及びII型光開始剤は、本開示の水性ヒドロゲル組成物に使用するのに十分な水溶性を有さない場合がある。光開始剤の可溶性を向上させるために、当該技術分野で公知であるように、光開始剤を(より多くの)親水性基で誘導体化することができ、対イオンを調整して、化合物の水溶性を向上させることができ、及び/又は共溶媒を使用して、水性組成物中の光開始剤の溶解を補助できる。
【0042】
I型光開始剤の例は、ベンゾイン誘導体、メチロールベンゾイン、及び4-ベンゾイル-1,3-ジオキソラン誘導体、ベンジルケタール、α、α-ジアルコキシアセトフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、α-アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイド、ビスアシルホスフィンオキサイド、アシルホスフィンサルファイド、ハロゲン化アセトフェノン誘導体等である。例示的な水溶性I型光開始剤としては、4-[2-(4-モルホリノ)ベンゾイル-2-ジメチルアミノ]-ブチルベンゼンスルホネート塩、及びフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィネート塩が挙げられる。適切な塩としては、例えば、ナトリウム及びリチウムのカチオンが挙げられる。適切な水溶性I型光開始剤の市販の例は、商品名「IRGACURE2959」(2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン)としてBASF SE(Ludwigshafen,Germany)から入手可能である。
【0043】
II型光開始剤の例は、変性ベンゾフェノン、ベンジル及びチオキサントンである。
【0044】
例示的なII型光開始剤としては、以下の構造
【化1】
[式中、mは0又は1であり、nは1、2、3又は4であり、pは0又は1であり、Lは、1~4個の炭素原子を含み、ヒドロキシル基を有するアルキレン基である。]のものが挙げられる。一実施形態では、Lは-CH(OH)CH-である。例示的な光開始剤としては、
【化2】
が挙げられる。
【0045】
II型光開始剤の例としては、以下の
【化3】
[式中、nは1、2、3又は4であり、Xは、-N(CHSOCH、及び-CH(OH)-(CH-N(CHCl(式中、pは1、2、3又は4である)である。]の構造のものが挙げられる。式(II)の例示的な光開始剤としては、以下の
【化4】
【0046】
II型光開始剤の例としては、以下の
【化5】
[式中、Rは、1、2、3若しくは4個の炭素原子を含むアルキルスルホネート(例えばCHSONa)、又は3、4、5、6若しくは更には7個の炭素原子を含む第三級アミン塩(例えば-CHN(CHCl)である。]の構造のものが挙げられる。
【0047】
II型光開始剤の例としては、以下の
【化6】
[式中、Rは、カルボン酸又は第三級アミン及びそれらの塩を含む。]の構造のものが挙げられる。例示的なR基としては、-COOH又は-CH(OH)CHN(CHClが挙げられる。
【0048】
II型光開始剤の例としては、この構造のものが挙げられる。
【化7】
【0049】
例示的な水溶性II型光開始剤としては、4-(3-スルホプロピルオキシ)ベンゾフェノン、2-(3-スルホプロピルオキシ)チオキサンテン-9-オン、並びに2-、3-及び4-カルボキシベンゾフェノンが挙げられる。
【0050】
一実施形態では、水性組成物は、水性組成物の全重量に基づいて、少なくとも0.01、0.05、0.1、又は更には0.5重量%、かつ最大1、2、4、又は更には5重量%のI型開始剤を含む。
【0051】
一実施形態では、水性組成物は、II型光開始剤を実質的に含まず、これは水性組成物が0.1、又は更には0.01重量%未満のII型光開始剤を含むことを意味する。
【0052】
II型開始剤が水性組成物中で使用される場合、一実施形態では、水性組成物は、水性組成物の全重量に基づいて、少なくとも0.01、0.05、0.1、0.2、又は更には0.5重量%、かつ最大1、2、4、又は更には5重量%のI型開始剤を含む。
【0053】
親水性モノマー、水膨潤性粘土、及び水溶性I型光開始剤に加えて、水性組成物は、塩及び/又は酸を更に含む。塩及び/又は酸のイオンを使用して、水性組成物の粘度を変更してもよい。一実施形態では、これらの塩及び/又は酸は、上記のように酸又はイオン基で置換された親水性モノマーである。一実施形態では、酸が水性組成物に添加される。例示的な酸としては、鉱酸(塩酸、硝酸、及び硫酸等)又は有機酸(クエン酸、アスコルビン酸、酢酸、プロパン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、及び安息香酸等)が挙げられる。一実施形態では、塩が水性組成物に添加される。例示的な塩としては、アルカリ金属(例えば、Na又はK)、アルカリ土類金属(例えば、Mg又はCa)、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、又はアンモニウムイオンを含むものが挙げられる。例示的な塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の前述の酸の塩が挙げられる。代表的な塩としては、過硫酸アンモニウム及び過硫酸ナトリウムも挙げられてもよい。一実施形態では、水性組成物は、少なくとも0.001、0.01、0.1、又は更には1重量%の酸及び/又は塩を含む。
【0054】
pHは、ヒドロゲルを生物学的用途とより適合性にするように、及び/又はヒドロゲルコーティングとポリマー基材との間の結合の耐久性を改善するために調整することができる。一実施形態では、水性組成物のpHは、少なくとも5、5.5、6、又は更には6.5、かつ最大で7.5、8、8.5、9、又は更には9.5のpHで維持される。
【0055】
本開示の水性組成物は、得られるヒドロゲルコーティングの外観及び/又は性能に影響を与えるために、水性組成物の硬化(すなわち、重合、グラフト化及び/又は架橋)前、又は硬化後に添加することができる1種以上の追加の成分を含んでもよい。ヒドロゲルの最終成分の実質的に全てが水性組成物中に存在することが一般的に好ましく、軽い従来のコンディショニング又は場合によっては滅菌手順によって引き起こされるその後の改質は別として、重合反応の完了後にヒドロゲルの実質的な化学修飾は実質的に起こらない。
【0056】
このような追加の成分は、例えば、水、有機可塑剤、界面活性剤、(タンパク質、酵素、天然ポリマー及びガムを含む本質的に疎水性又は親水性の)ポリマー材料、ペンダントカルボン酸を含む又は含まない合成ポリマー、電解質、オスモライト、pH調節剤、着色剤、クロライド源、生物活性化合物、並びにこれらの混合物を含む当該技術分野において公知の添加剤から選択される。いくつかの実施形態では、追加の成分は2つ以上の目的に役立ち得る。例えば、グリセロールは、有機可塑剤及びオスモライトとして役立ち得る。
【0057】
一実施形態では、追加のポリマーを添加してもよい。ポリマーは、天然ポリマー(例えば、キサンタンガム)、合成ポリマー(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロックコポリマー又はポリ(メチルビニルエーテルアルトマレイン酸無水物))、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。一実施形態では、レオロジー改質ポリマーは、典型的には、全重合反応混合物の最大約10重量%、例えば、約0.2重量%~約10重量%の濃度で水性組成物中に組み込むことができる。このようなポリマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリ-NaAMPS、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)又はカルボキシメチルセルロースを挙げることができる。
【0058】
一実施形態では、生物活性化合物を添加してもよい。用語「生物活性化合物」は、生体系が細菌若しくは他の微生物であるか、又は患者等の高等動物であるかにかかわらず、生体系に及ぼす何らかの影響のための、ヒドロゲル中に含まれる任意の化合物又は混合物を意味するために使用される。名を挙げることができる生物活性化合物としては、例えば、医薬活性化合物、抗菌剤、防腐剤、抗生物質及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。ヒドロゲルは、抗菌剤、例えば黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のような生物に対して活性なものを組み込むことができる。抗菌剤としては、例えば、酸素源及び/又はヨウ素源(例えば、過酸化水素若しくは過酸化水素源及び/又はカリウムアイオダイド等のアイオダイド塩)、例えば、銀含有抗菌剤(例えば、コロイド銀、銀オキサイド、銀ナイトレート、銀チオサルフェート、スルファジアジン銀、又はそれらの任意の組み合わせ)、次亜塩素酸等の、抗菌性金属、金属イオン及び塩、あるいはそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0059】
一実施形態では、創傷の治癒を刺激するため、及び/又は瘢痕を抑制若しくは防止するための薬剤をヒドロゲル中に組み込んでもよい。このような薬剤の例としては、TGF(トランスホーミング増殖因子)、PDGF(血小板由来増殖因子)、KGF(ケラチノサイト増殖因子、例えばKGF-1又はKGF-2)、VEGF(血管内皮増殖因子)、IGF(所望によりIGF結合タンパク質及びビトロネクチンのうちの1つ以上に関連するインスリン増殖因子)等の増殖因子、細胞栄養素、グルコース、インスリン、トリヨードサイロニン、チロキシン若しくはそれらの任意の組み合わせ等のアナボリックホルモン若しくはホルモン混合物、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0060】
一実施形態では、水性組成物は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-co-ポリプロピレンオキサイドコポリマー、部分的に加水分解されたポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、グリセロール又はグリセロール誘導体、メチルセルロース又は他のセルロース誘導体、ポリオキサゾリン、及び天然ゴム等の湿潤剤を更に含む。添加される湿潤剤の量は、使用する種類に基づいて変更し得る。例えば、典型的には、30%、40%、50%、又は更には60重量%以下のグリセロールを添加してもよい。
【0061】
一実施形態では、1種以上の可塑剤、好ましくは1種以上の有機可塑剤が添加される。1種以上の有機可塑剤は、存在する場合、少なくとも1種の多価アルコール(グリセロール、ポリエチレングリコール、又はソルビトール等)、それから誘導される少なくとも1種のエステル、少なくとも1種のポリマーアルコール(ポリエチレンオキサイド等)、及び/又は多価アルコール若しくはポリマーアルコールの少なくとも1種のモノアルキル化誘導体若しくはポリアルキル化誘導体(アルキル化ポリエチレングリコール等)のいずれかを、単独で又は組み合わせて適切に含んでもよい。グリセロールは好ましい可塑剤である。代替的な好ましい可塑剤は、ホウ酸及びグリセロールから誘導されるエステルである。存在する場合、有機可塑剤は、ヒドロゲル組成物の最大約45重量%、例えば、最大約35重量%、例えば、最大約25重量%、例えば、最大約15重量%を構成していてもよい。
【0062】
一実施形態では、水性組成物は相溶性界面活性剤を含む。界面活性剤は、重合前の混合物の表面張力を低下させることができ、それにより加工を助ける。界面活性剤(1種又は複数種)は、ノニオン性、アニオン性、双性イオン性、又はカチオン性の、単独のもの、又は任意の混合物若しくは組み合わせであってもよい。界面活性剤はそれ自体が反応性であってもよく、すなわち、ヒドロゲル形成反応に関与することができる。存在する場合、界面活性剤の総量は、適切には水性組成物の最大約10重量%、好ましくは、約0.05重量%~約4重量%である。界面活性剤は、例えば、BASF PLCによってPluronic P65又はL64の商品名で供給されるもの等の、少なくとも1種のプロピレンオキサイド/エチレンオキサイドブロックコポリマーを含んでもよい。
【0063】
追加のオスモライトは、ヒドロゲルのオスモル濃度を変えるために含まれてもよい。オスモライトは、イオン性であってもよい(例えば、電解質、例えば、ヒドロゲルの水相に容易に溶解することができ、選択されたカチオン又はアニオンのイオン強度、したがって、ヒドロゲルのオスモル濃度を増加させる塩)。イオン性オスモライト中に存在するイオンを選択することにより、特に、ヒドロゲルのモノマー中のカチオン性対イオンに対応するか又は対応しないようにカチオンを選択することにより、特定のアニオン(例えば、クロライド)のイオン強度は、既にモノマーの対イオンとして非常に多量に存在するカチオンのイオン強度を実質的に変化させることなく、細かく制御しながら変化させることができる。オスモライトは有機物(ノニオン性)、例えば、ヒドロゲルの水相に溶解又はよく混合して、水相中のノニオン種に由来するヒドロゲルのオスモル濃度を増加させる有機分子であってもよい。このような有機オスモライトとしては、例えば、水溶性糖(例えば、グルコース、フルクトース、及び他の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース、及び他の二糖類、又は単糖類及び二糖類の任意の組み合わせ)、多価アルコール(例えば、グリセロール及び他のポリヒドロキシル化アルカノール)が挙げられる。
【0064】
一実施形態では、水に加えて、水混和性有機溶媒を使用してもよい。このような有機溶媒の例としては、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、及びテトラヒドロフランが挙げられる。水対有機溶媒の混合比は、水膨潤性粘土を均質に分散させることができるが、コーティングされたII型開始材が、水性組成物中に再溶解しない範囲内で任意に選択することができる。
【0065】
一実施形態では、水性組成物は、水混和性溶媒を実質的に含まず、換言すれば、水性組成物は、水性組成物の重量に対して、5%、1%又は更には0.5%未満の有機溶媒を含む。
【0066】
一実施形態では、水性組成物は、C1~C5アルコールを実質的に含まない。換言すれば、水性組成物は、5%、2%、1%、0.5、又は更には0.1%未満の、1、2、3、4、又は5個の炭素原子を含むアルコールを含む。
【0067】
水性組成物は、当該技術分野で公知の技術を用いて調製することができる。要約すると、モノマー、粘土、水、開始剤、及び任意の追加の成分を一緒に添加してよい。
【0068】
ヒドロゲルは、ポリマー基材上、in situで形成されてもよい。所望の物品、例えば創傷包帯を形成するために、ヒドロゲルコーティング及びポリマー基材の構造に追加の層を加えてもよい。
【0069】
モノマー、好ましくは架橋剤、水、光開始剤、酸並びに/若しくは塩、及び所望により他の追加の成分を含有する、水性組成物は、まず、ポリマー基材上に置かれる。ヒドロゲル組成物がシート形態で調製される場合、ポリマー基材はシートとなる。それは、好適には、バッキング層、又は剥離層とヒドロゲル組成物との間に挿入されても、若しくはヒドロゲル組成物内に埋め込まれてもよい任意の所望のシート支持部材を、完成した包帯内に含めることができる。このようにして、水性組成物は、好ましくは最終的な包帯の他の成分の全て又は実質的に全てが適所にある状態で、in situで重合することができる。
【0070】
水性組成物は、当該技術分野で公知の技術を用いてポリマー基材上にコーティングすることができる。例示的なコーティング方法としては、ナイフコーティング、バーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング等が挙げられる。
【0071】
化学線を使用して、ポリマー基材の表面に位置するII型光開始剤の反応を開始し、水性組成物を硬化させることができる。これらの反応は、同時に又は連続して行われてもよく、II型光開始剤は最初に反応して、ポリマー基材の表面上にラジカルを生成し、その後、水性組成物でコーティングし、その後硬化してヒドロゲルを形成する。化学線は、例えば、可視光又はUVを含む。これらの中でも、装置の簡素化及び取り扱いの容易さを考慮すると、紫外線が好ましい。水性組成物を硬化させてヒドロゲルを形成するために、紫外線の照射強度は、1~500mW/cmであることが好ましく、照射時間は、通常、0.1~2000秒である。
【0072】
照射された光の一部が光開始剤又は光開始剤系によって吸収され得る限り、任意の紫外線源が、高圧又は低圧水銀ランプ、冷陰極管、ブラックライト、紫外線発光ダイオード、紫外線レーザ、及びフラッシュ光(flash light)等の線源として利用されてよい。これらの中でも好ましい線源は、300~400nmの主波長を有する比較的長波長のUV寄与(contribution)を示すものである。特にUV-A光源は、それによる光散乱が減少し、より有効な内部硬化を生ずるため、好ましい。UV線は一般に、UV-A、UV-B、及びUV-Cとして、UV-Aが400nm~320nm、UV-Bが320nm~290nm、及びUV-Cが290nm~100nmのように分類される。
【0073】
得られるコーティング層の厚さは、用途に応じて変化し得る。例えば、in vivo用途(例えば、ステント)では、コーティング層の厚さは、少なくとも10nm又は更には100nmから、最大1μm、10μm、又は更には100μmまでの範囲であり得る。例えば、創傷ケア用途では、コーティング層の厚さは、少なくとも0.1mm、0.25mm、0.5mm、1mm、又は更には2mmから、最大3mm、5mm、又は更には10mmまでの範囲であり得る。
【0074】
本開示のヒドロゲル物品は、水性組成物の前に、最初にII型光開始剤をポリマー基材の表面に塗布することによって製造されるため、得られるヒドロゲル物品は、ポリマー基材に直接接触するヒドロゲルコーティングを含む。一実施形態では、ヒドロゲルコーティングとポリマー基材との間の界面に存在するII型光開始剤がある。II型光開始剤は、この界面にわたって不連続である。水不溶性II型光開始剤を使用して、乾燥したコーティングされた基材を作製する場合、水性組成物中のII型光開始剤の溶解度の欠如のために、水不溶性II型光開始剤は、ヒドロゲルコーティングとポリマー基材との界面付近に位置付けられてもよい。換言すれば、水不溶性II型光開始剤は、ポリマー基材の第1の主表面から20、15、10、又は更には5ナノメートル以内にある。水溶性II型光開始剤を使用して乾燥したコーティングされた基材を作製する場合、水溶性II型光開始剤は、光開始剤及びヒドロゲルの架橋に応じて、硬化後にヒドロゲルコーティングのバルク内に拡散し得る。
【0075】
本開示の一実施形態では、ヒドロゲルコーティングは、ポリマー基材に固定的に付着される。この付着は、実施例の項に記載されるように、剥離試験を使用することによって定量化されてもよく、10mmの距離でポリマー基材からヒドロゲルコーティングを剥離する力の量は、少なくとも2g、5g、10g、又は更には15gである。一実施形態では、30mmの距離でポリマー基材からヒドロゲルコーティングを剥離する力は、少なくとも10g、15g、20g、25g、50g、又は更には60gである。
【0076】
重合の完了後、ヒドロゲル含有多層物品は、好ましくは従来の方法で滅菌される。滅菌複合体は直ちに使用して、例えば、物品に皮膚接着層を設けても、又は複合体の貯蔵及び輸送のために複合体に上部剥離層を適用してもよい。
【0077】
一実施形態では、本開示の多層物品は透明である。
【0078】
得られたヒドロゲルによって吸収される含水量は、使用されるモノマー、例えば、HEMA及びビニルピロリドンの関数であり得、グリセロールメタクリレート及びアクリルアミドモノマーは、含水量の多いヒドロゲルに使用されている。酸含有モノマー、例えば、(メタ)アクリル酸及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸は、4より高いpHでイオン特性をもたらし、多量の吸水に寄与する。
【0079】
ヒドロゲルシートは、更なるヒドロゲル及び/又は他のポリマー及び/又は他のシート支持部材等の更なる層を含む、多層複合体の一部であってもよい。例えば、所望であれば発泡体として存在してもよい、(例えば、ポリウレタンの)通気性(透気性及び/又は透湿性)ポリマーフィルムは、使用中に病変から遠く、シート又は複合体の主面上のヒドロゲルシート又は複合体の上に重なってもよい。通気性ポリマーフィルムは、バッキング層であっても、又はバッキング層の一部を構成してもよい。
【0080】
ヒドロゲル組成物及び所望の他のシート部品は、好ましくは、使用前にシートの一方又は両方の主面を保護するために、(例えば、シリコーン処理された紙又はプラスチック等の非粘着性紙又はプラスチックの)剥離層を備えてもよい。
【0081】
その高い含水量のために、ヒドロゲルは、多くの場合、本質的に生体適合性である。したがって、これらの物品は、創傷包帯、又は生物組織との接触を目的とするデバイス/物品に使用することができる。
【0082】
本開示の例示的な実施形態及び例示的な実施形態の組み合わせの非限定的なリストを以下に開示する。
【0083】
実施形態1:グラフト化ヒドロゲルを製造する方法であって、
(a)引抜き可能な原子を有するポリマー基材を得る工程と、
(b)ポリマー基材をII型光開始剤でコーティングして、乾燥したコーティングされた基材を形成する工程と、
(c)水性組成物を塗布して、水性コーティングされた基材を形成する工程であって、水性組成物が、(i)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、及びこれらの組み合わせを含む親水性モノマー、(ii)2重量%~20重量%の水膨潤性粘土、並びに(iii)水溶性I型光開始剤、並びに(iv)塩又は酸、を含む工程と、
(d)水性コーティングされた基材を硬化する工程と、をこの順序で含む、方法。
【0084】
実施形態2:ポリマー基材が、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、及びポリエステルのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1に記載の方法。
【0085】
実施形態3:ポリマー基材が、可撓性である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0086】
実施形態4:ポリマー基材が、水不溶性II型光開始剤でコーティングされる、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0087】
実施形態5:水不溶性II型光開始剤が、ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、ミヒラーケトン、ベンジル、及びアントラキノンのうちの少なくとも1つを含む、実施形態4に記載の方法。
【0088】
実施形態6:工程(b)が、II型光開始剤及び溶媒を含む液体をポリマー基材上にコーティングし、続いて溶媒を除去して、乾燥したコーティングされた基材を形成することによって実施される、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
実施形態7:溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ペンタン、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、及びトルエンのうちの少なくとも1つを含む、実施形態6に記載の方法。
【0090】
実施形態8:液体が、少なくとも0.1重量%の水不溶性II型光開始剤を含む、実施形態6又は7に記載の方法。
【0091】
実施形態9:液体が、II型光開始剤及び溶媒から本質的になる、実施形態6~8のいずれか1つに記載の方法。
【0092】
実施形態10:水性溶液が、少なくとも20%の固形分を含む、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0093】
実施形態11:水性組成物が、乾燥したコーティングされた基材に密接に接触する、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0094】
実施形態12:水性組成物が、0.001重量%~5重量%の水溶性I型光開始剤を含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
実施形態13:水溶性I型光開始剤が、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンである、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
【0096】
実施形態14:水性組成物が、C1~C5アルコールを実質的に含まない、実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
【0097】
実施形態15:水性組成物が、II型開始剤を実質的に含まない、実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
【0098】
実施形態16:水性組成物が、5超かつ9.5未満のpHを有する、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
【0099】
実施形態17:水性組成物のヒドロゲルコーティングが、少なくとも0.1mmの厚さを有する、実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
【0100】
実施形態18:水性組成物のヒドロゲルコーティングが、少なくとも2mmの厚さを有する、実施形態1~17のいずれか1つに記載の方法。
【0101】
実施形態19:水性組成物が、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-co-ポリプロピレンオキサイドコポリマー、部分的に加水分解されたポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、グリセロール又はグリセロール誘導体、メチルセルロース又は他のセルロース誘導体、ポリオキサゾリン及び天然ゴムのうちの少なくとも1つから選択される添加剤を更に含む、実施形態1~18のいずれか1つに記載の方法。
【0102】
実施形態20:水性組成物が、抗菌剤を更に含む、実施形態1~19のいずれか1つに記載の方法。
【0103】
実施形態21:水性組成物が、架橋剤を更に含む、実施形態1~20のいずれか1つに記載の方法。
【0104】
実施形態22:架橋剤が、メチレンビスアクリルアミドである、実施形態21に記載の方法。
【0105】
実施形態23:水膨潤性粘土が、ラポナイト、合成ヘクトライト、及びモンモリロナイトのうちの少なくとも1つから選択される、実施形態1~22のいずれか1つに記載の方法。
【0106】
実施形態24:酸が、クエン酸、アスコルビン酸、酢酸、プロパン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、塩酸、硫酸、安息香酸、及び鉱酸からなる群から選択される、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0107】
実施形態25:塩が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、塩化物塩、及びアンモニウム塩からなる群から選択される、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
【0108】
実施形態26:水性組成物を塗布する前に、乾燥したコーティングされた基材を化学線に曝露することを更に含む、実施形態1~25のいずれか1つに記載の方法。
【0109】
実施形態27:硬化が、紫外線による、実施形態1~26のいずれか1つに記載の方法。
【0110】
実施形態28:
(i)引抜き可能な原子を含むポリマー基材と、
(ii)その上のヒドロゲルコーティングであって、少なくとも10重量%の含水量を有し、かつポリマー基材に共有結合している、ヒドロゲルコーティングと、
を含むヒドロゲル物品であって、ヒドロゲルコーティングが、
(a)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、及びこれらの組み合わせを含む親水性モノマー、
(b)少なくとも2重量%の水膨潤性粘土、
(c)水溶性I型光開始剤、並びに
(d)酸又は塩、
を含む水性組成物に由来し、
水不溶性II型光開始剤が、ヒドロゲルコーティングとポリマー基材との間の界面に局在化している、ヒドロゲル物品。
【0111】
実施形態29:ポリマー基材が、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、及びポリエステルのうちの少なくとも1つを含む、実施形態28に記載のヒドロゲル物品。
【0112】
実施形態30:ポリマー基材が、可撓性である、実施形態28又は29に記載のヒドロゲル物品。
【0113】
実施形態31:水不溶性II型光開始剤が、ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、ミヒラーケトン、ベンジル、及びアントラキノンのうちの少なくとも1つを含む、実施形態28~30のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0114】
実施形態32:水性溶液が、少なくとも20%の固形分を含む、実施形態28~31のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0115】
実施形態33:ヒドロゲルコーティングが、ポリマー基材と密接に接触する、実施形態28~32のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0116】
実施形態34:水溶性I型光開始剤が、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンである、実施形態28~33のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0117】
実施形態35:水性組成物が、C1~C5アルコールを実質的に含まない、実施形態28~34のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0118】
実施形態36:水性組成物が、II型開始剤を実質的に含まない、実施形態28~35のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0119】
実施形態37:ヒドロゲルコーティングが、5超かつ9.5未満のpHを有する、実施形態28~36のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0120】
実施形態38:ヒドロゲルコーティングが、少なくとも0.1mmの厚さを有する、実施形態28~37のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0121】
実施形態39:水性組成物が、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール-co-ポリプロピレンオキサイドコポリマー、部分的に加水分解されたポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、グリセロール又はグリセロール誘導体、メチルセルロース又は他のセルロース誘導体、ポリオキサゾリン及び天然ゴムのうちの少なくとも1つから選択される添加剤を更に含む、実施形態28~38のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0122】
実施形態40:水性組成物が、抗菌剤を更に含む、実施形態28~39のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0123】
実施形態41:水性組成物が、架橋剤を更に含む、実施形態28~37のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0124】
実施形態42:架橋剤が、メチレンビスアクリルアミドである、実施形態41に記載のヒドロゲル物品。
【0125】
実施形態43:水膨潤性粘土が、ラポナイト、合成ヘクトライト、及びモンモリロナイトのうちの少なくとも1つから選択される、実施形態28~42のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【0126】
実施形態44:水不溶性II型光開始剤が、ポリマー基材の第1の主表面から50ナノメートル以内にある、実施形態28~43のいずれか1つに記載のヒドロゲル物品。
【実施例
【0127】
特に明記しない限り、実施例及び本明細書の他の部分における全ての部、百分率、比率等は、重量によるものであり、実施例において使用された全ての試薬は、例えば、Sigma-Aldrich Company,Saint Louis,Missouri等の、一般の化学物質製造業者から入手した、若しくは入手可能なものであるか、又は従来の方法によって合成できるものである。
【0128】
本明細書において、これらの略語が使用される。g=グラム、mg=ミリグラム、mm=ミリメートル、cm=センチメートル、nm=ナノメートル、mL=ミリリットル、L=リットル、rpm=毎分回転数、min=分、℃=摂氏温度、wt=重量、及びmW=ミリワット。
【表1】
【0129】
別途注記のない限り、全ての水性組成物は、浄水システム(EMD Millipore(Billerica,MA)から商品名「Milli-Q」で入手可能)からの18MΩの水を用いて調製した。
【0130】
8157BNC Ross Ultra pH/ATCトライオード電極(Thermo Scientific,Waltham,MA)を備えたOrion 3 Star pH計を使用して、pHを測定した。pH計は、pH4、7、及び10での較正標準を用いた供給業者提供の手順(BDH,Dubai,UAE)に従った3点較正を用いて較正した。
【0131】
水性組成物I
【0132】
ガラスジャー(0.95L)には、60cmの半堀形状のインペラを有するオーバーヘッド撹拌機(VOS PC Overhead Stirrer、VWR International,Radnor,PAから入手可能)を装備した。ジャーに水(522mL)を入れ、オーバーヘッド撹拌機を400rpmに設定した。ラポナイトXLG粘土(18g)をゆっくりと添加し、混合物を30分間撹拌した。得られた透明な溶液に、N,N-ジメチルアクリルアミド(62.4mL)に溶解したIRGACURE 2959(300mg)を含有する溶液を充填した。メチレンビスアクリルアミドの水性溶液(3mL、2重量%)を次に添加し、反応物を30分間撹拌した。次いで、過硫酸アンモニウムの水性溶液(6mL、10重量%)を添加し、反応物を5分間撹拌した。混合を停止し、配合物の粘度を構築するために、得られた水性組成物を約60分間維持した。水性組成物IのpHは、9.1であった。
【0133】
実施例2及び比較例2
【0134】
片面に白色紙キャリアバッキング(厚さ130ミクロン)を有する半透明ポリウレタンフィルム(厚さ20ミクロン)のシート(24.1cm×17.8cm)(3M Corporation,St.Paul,MNから商品名「3M 9832F Film on White Paper Carrier」で入手可能)を、仮想線を用いて2つの12.05cm×8.9cmの切片で分割して、第1及び第2のセクションを画定した。第1のセクションのポリウレタンフィルム表面を、#14のMayerロッドを使用して、ヘキサン中の1重量%のベンゾフェノン溶液2mLでコーティングした。コーティングされたセクションの縁部に蓄積したいかなる余分な溶液も注意深く回収し、ペーパータオルを使用して除去した。コーティングは、周囲条件で溶媒を蒸発させることによって乾燥させた。第2のセクションのポリウレタンフィルム表面は、ベンゾフェノン溶液でコーティングされなかった。次いで、上記からの水性組成物I(60mL)を、ノッチ付きバーアプリケータ(2mmのギャップ設定)を使用して、ポリウレタンフィルムの両セクションに塗布し、これにまた、シリコーン剥離コーティングでコーティングされた透明PET剥離ライナー(厚さ51ミクロン、Dupont Teijin Films,Dupont Company,Wilmington,DEから入手)をカバーシートとして適用した。カバーシートを、シリコーン剥離コーティングが水性組成物Iに面するように位置付けた。紫外線(UV)開始グラフト化を、紫外線スタンド(Classic Manufacturing,Inc.,Oakdale,MN)を用いてコーティングされたシートを20分間照射することによって行った。このスタンドは、シートの上に一列に位置付けた8本のライトチューブ、及びシートの下に一列に位置付けられた8本のチューブを有する16本の40ワット、350nmブラックライトチューブ[Sylvania RG2 F40/350BL/ECOチューブ(長さ117cm)]を備え付けていた。各列のライトチューブを、中心で5.1cm離間させ、シートの表面から3.8cmに位置付けた。乾燥したベンゾフェノンコーティングを含むシートの第1のセクションは、実施例2として機能した。第2のセクション(乾燥したベンゾフェノンコーティングを含有しなかった)は、比較例2として機能した。
【0135】
実施例3及び比較例3
【0136】
ポリウレタンフィルムを、ヘキサン中のベンゾフェノンの1重量%溶液の代わりに、ヘキサン中のベンゾフェノンの2重量%溶液でコーティングしたことを除いて、実施例2及び比較例2に報告されたものと同じ手順に従った。
【0137】
実施例4及び比較例4
【0138】
ポリウレタンフィルムを、ヘキサン中のベンゾフェノンの1重量%溶液の代わりに、ヘキサン中のベンゾフェノンの5重量%溶液でコーティングしたことを除いて、実施例2及び比較例2に報告されたものと同じ手順に従った。
【0139】
実施例5及び比較例5
【0140】
ポリウレタンフィルムを、ヘキサン中のベンゾフェノンの1重量%溶液の代わりに、ヘキサン中のベンゾフェノンの10重量%溶液でコーティングしたことを除いて、実施例2及び比較例2に報告されたものと同じ手順に従った。
【0141】
実施例6及び比較例6
【0142】
ポリウレタンフィルムを、ヘキサン中のベンゾフェノンの1重量%溶液の代わりに、ヘプタン中のベンゾフェノンの1重量%溶液でコーティングしたことを除いて、実施例2及び比較例2に報告されたものと同じ手順に従った。
【0143】
実施例7及び比較例7
【0144】
ポリウレタンフィルムを、ヘキサン中のベンゾフェノンの1重量%溶液の代わりに、アセトン中のベンゾフェノンの1重量%溶液でコーティングしたことを除いて、実施例2及び比較例2に報告されたものと同じ手順に従った。
【0145】
実施例8及び比較例8
【0146】
ポリウレタンフィルムを透明PETフィルム(厚さ96.5ミクロン)と置き換えたことを除いて、実施例5及び比較例5に報告されたものと同じ手順に従った。
【0147】
水性組成物II
【0148】
電磁撹拌棒を備えたガラスジャー(0.95L)に水(426mL)を入れ、約550rpmで撹拌した。ラポナイトXLG粘土(15g)をゆっくりと添加し、混合物を30分間撹拌した。得られた透明な溶液に、N,N-ジメチルアクリルアミド(50mL)、続いてメチレンビスアクリルアミドの水性溶液(6.25mL、2重量%)を充填し、溶液が透明になるまで撹拌した。IRGACURE 2959(250mg)を加え、反応物を10分間撹拌した。次いで、クエン酸溶液(1.9mL、10重量%)を添加し、反応物を5分間撹拌した。混合を停止し、配合物の粘度を構築するために、得られた水性組成物を60分間維持した。水性組成物IIのpHは、8.5であった。
【0149】
実施例9
【0150】
片面に白色紙キャリアバッキング(厚さ130ミクロン)を有する半透明ポリウレタンフィルム(厚さ20ミクロン)のシート(30.5cm×61cm)(3M Corporationから商品名「3M 9832F Film on White Paper Carrier」で入手可能)を、#14のMayerロッドを用いて、ヘキサン中1重量%のベンゾフェノン溶液3mLをポリウレタンフィルム表面にコーティングした。コーティングされたセクションの縁部に蓄積したいかなる余分な溶液も注意深く回収し、ペーパータオルを使用して除去した。コーティングは、周囲条件で溶媒を蒸発させることによって乾燥させた。次いで、水性組成物IIを、ノッチ付きバーアプリケータ(4mmのギャップ設定)を使用して、ポリウレタンに塗布し、これにまた、シリコーン剥離コーティングでコーティングされた透明PET剥離ライナー(厚さ51ミクロン、Dupont Teijin Filmsから入手)をカバーシートとして適用した。カバーシートを、シリコーン剥離コーティングがヒドロゲル組成物に面するように位置付けた。紫外線(UV)開始グラフト化を、紫外線スタンド(Classic Manufacturing,Inc.)を使用して、コーティングされたシートを20分間照射することによって実施した。このスタンドは、シートの上に一列に位置付けた8本のライトチューブと、シートの下に一列に位置付けられた8本のチューブとを有する16本の40ワット、350nmブラックライトチューブ[Sylvania RG2 F40/350BL/ECOチューブ(長さ117cm)]を備え付けていた。各列のライトチューブを、中心で5.1cm離間させ、シートの表面から3.8cmに位置付けた。
【0151】
実施例10
【0152】
4mmのギャップの設定の代わりに、6mmのギャップの設定を有するノッチ付きバーアプリケータを使用して、水性組成物IIをポリウレタンフィルムに塗布したことを除き、実施例9に報告したものと同じ手順に従った。
【0153】
剥離試験
【0154】
TA-XT Plus Texture Analyzer(Texture Technologies Corporation(Hamilton,MA))を使用して、実施例2~5のヒドロゲル結合ポリウレタンフィルムについて剥離試験(T型剥離)を行った。試験試料(長さ5.1cm×幅1.27cm)を、長さ方向が第1のセクションから約2.55cmかつ第2の部分から約2.55cmを含有するように、各シートから切り取った。紙バッキング及びPETカバーシートは、両方とも試料から取り除いた。各試料について、第1のセクションのヒドロゲルはポリウレタンフィルムに接着されたが、一方第2のセクションのヒドロゲルは、ヒドロゲルコーティングがポリウレタンフィルムから手で容易に分離され得るように、ポリウレタンフィルムに非常に不十分に接着された。その結果、第2のセクションからのポリウレタンフィルム及びヒドロゲルは、第1のセクションを器具に取り付けるためのリードとして使用された。第2のセクションからの未付着のヒドロゲルを器具の下部グリップに固定し、第2のセクションからの対応するポリウレタンフィルム部分を器具の上部グリップに固定した。次いで、試料を、50mm/分の分離速度で張力下に置いた。この構成により、試料の第1のセクションに対する剥離接着性の決定が可能になる。各実施例について測定した力(g)及び移動距離(mm)を、Exponent Software(Stable MicroSystems,Ltd.(Hamilton,MA))を用いて記録した。実施例2の第2のセクション(すなわち、比較例2)から完全に採取した、長さ5.1cm×幅1.27cmの試料を使用して、同じ剥離試験を行った。結果を表1に示す。
【表2】
【0155】
本発明の範囲及び趣旨を逸脱することのない、本発明の予見可能な改変及び変更が当業者には明らかであろう。本発明は、例示目的のために本出願に記載されている実施形態に限定されるものではない。