(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】ヒドロホルミル化反応方法
(51)【国際特許分類】
C07C 45/50 20060101AFI20221003BHJP
C07C 47/02 20060101ALI20221003BHJP
B01F 25/21 20220101ALN20221003BHJP
B01F 25/50 20220101ALN20221003BHJP
B01F 27/90 20220101ALN20221003BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221003BHJP
【FI】
C07C45/50
C07C47/02
B01F25/21
B01F25/50
B01F27/90
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019568094
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 US2018038216
(87)【国際公開番号】W WO2018236823
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】201741022124
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】508168701
【氏名又は名称】ダウ テクノロジー インベストメンツ リミティド ライアビリティー カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー、ミッシェル シー.
(72)【発明者】
【氏名】キャンベル、ドナルド エル.
(72)【発明者】
【氏名】コックス、アーヴィン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】ダス、シャンカディープ
(72)【発明者】
【氏名】クマール、スシェードリ
(72)【発明者】
【氏名】ミラー、グレン エー.
(72)【発明者】
【氏名】パルマ―、ニーレシュ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス、ジョージ アール.
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-522518(JP,A)
【文献】実開昭61-64331(JP,U)
【文献】米国特許第2804478(US,A)
【文献】特開2001-316321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/50
C07C 47/02
B01F 25/21
B01F 25/50
B01F 27/90
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロホルミル化反応方法であって、
垂直型の円筒型反応器内において均一系触媒の存在下でオレフィン、水素、及び一酸化炭素を接触させて反応流体を提供することと、
前記円筒型反応器から前記反応流体の一部を除去することと、
前記除去された反応流体の少なくとも一部を前記円筒型反応器に戻すことと、を含み、
前記円筒型反応器の高さは一定の高さであり、少なくとも0.5kW/m
3の総混合エネルギーが前記円筒型反応器内の前記流体に伝達され、前記戻される反応流体は、前記一定の高さの80%未満の高さに配置される少なくとも2つの戻り位置に導入され、前記少なくとも2つの戻り位置は、前記反応器内の、水素と一酸化炭素が導入される位置の上方に配置され、前記混合エネルギーの少なくとも15%が前記戻される反応流体によって提供される、方法。
【請求項2】
少なくとも2つの戻り位置は、前記円筒型反応器の半径の10%以上50%以下の距離だけ前記円筒型反応器内に突き出て、前記戻される反応流体の流れを方向付ける1つ以上のノズルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記戻される反応流体の流れは、各戻り位置に配置された分流器によって方向付けられ、各分流器は、前記戻される反応流体の流れを水平又は垂直に方向付け請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記戻される反応流体の流れは、前記分流器によって方向付けられ、前記円筒型反応器の前記中心縦軸の周りの前記流体の旋回流の誘発を防止する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記戻される反応流体の流れは、前記円筒型反応器の中心縦軸に向かず、前記中心縦軸に垂直でない複数の方向に分割されて方向付けられる、請求項2~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記分流器の流れ面積と前記戻される反応流体の流量との組み合わせは、前記円筒型反応器の内側に運動量を与えるとともに前記円筒型反応器内のバルク流体の混合を引き起こす流体ジェットを形成し、前記戻される反応流体は、複数の方向に分割されて方向付けられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
水素と一酸化炭素は、前記円筒型反応器に前記反応器の前記一定の高さの20%未満の高さで導入され、前記戻り位置は前記一定の高さの80%未満の高さに配置される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
水素と一酸化炭素は、合成ガスとして提供され、前記合成ガスは、前記円筒型反応器に直径の15mm未満のサイズ範囲の離散気泡を形成するように導入される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記円筒型反応器内に配置される撹拌器をさらに備え、前記撹拌器と前記戻される反応流体が、前記円筒型反応器内に前記混合エネルギーを提供する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記円筒型反応器内に配置される撹拌器をさらに備え、前記撹拌器は動作せず、前記戻される反応流体のみが前記円筒型反応器内に前記混合エネルギーを提供する、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ヒドロホルミル化反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロホルミル化とは、有機リン配位子で修飾された均一ロジウム触媒の存在下でのオレフィンとH2及びCOとの反応であって、下記の式に従ってアルデヒドを生成する。
【0003】
【化1】
典型的には、ヒドロホルミル化反応は、合成ガス(H
2とCOのガス混合物)が液体オレフィン、生成物アルデヒド、重質物、及び均一ロジウム/配位子触媒を含む反応流体に散布される液相で行われる。
【0004】
反応を起こすためには、H2とCOを反応流体に溶解する必要があるため、効果的な気液混合がヒドロホルミル化反応の開始と維持の両方において重要である。
【0005】
さらに、発熱性ヒドロホルミル化反応により発生する熱を除去し、反応器の温度を所望の反応条件に制御する必要がある。これは、典型的には、内部冷却コイルにより、又は、外部の熱交換器を介して反応流体を再循環し、冷却された反応流体を反応器に戻すことにより、実現される。
【0006】
さらに、上記のヒドロホルミル化反応と同じ条件下で、得られたアルデヒドがさらに反応し、その場で水素化されて対応するアルコールが得られてもよい。そして、アミノ化条件下でのヒドロホルミル化は、ヒドロホルミル化反応の変種とみなされ得る。
【0007】
いくつかのヒドロホルミル化触媒の別の二次触媒活性は、二重結合(例えば、内部二重結合を有するオレフィン)の飽和炭化水素又はα-オレフィンへの水素化又は異性化、及びその逆である。反応器内の特定のヒドロホルミル化反応条件を確立し且つ維持するためには、これらのヒドロホルミル化触媒の二次反応を回避することが重要である。プロセスパラメーターからのわずかな偏差でさえ、望ましくない二次生成物のかなりの量の形成につながる可能性があり、したがって、ヒドロホルミル化反応器内の反応液全体の体積にわたって実質的に同一のプロセスパラメーターを維持することは非常に重要であり得る。一般に、有機リン配位子で修飾された均一ロジウム触媒によるオレフィンのヒドロホルミル化においては、液体反応媒体に溶解した水素と一酸化炭素の最適な濃度を確立することが有利である。
【0008】
反応液中の溶存一酸化炭素(CO)の濃度は特に重要であり、ヒドロホルミル化反応器の重要な制御変数である。反応液中の溶存CO濃度を直接測定することはできないが、典型的には、オンライン分析装置を使用して監視及び近似させ、反応液相と平衡状態にあると推定される反応器の蒸気空間のCO分圧を測定する。この近似は、反応器内の反応流体がより均一に混合されてCSTRモデルにより近似する場合に改善される。
【0009】
炭化水素(パラフィン)形成反応、アルデヒドの高沸点縮合物(すなわち、高沸点物)の形成、及び有機リン-Rh系触媒の分解速度は、反応温度の影響を受ける。反応温度と反応器内に存在する反応液の体積内の溶存COの濃度に関して勾配の形成を避けることが重要であり、言い換えれば、液体容量全体にわたってほぼ同一の動作条件を確立して且つ維持することが重要である。したがって、反応ゾーン内での試薬と温度の不均一な分布を避ける必要がある。
【0010】
したがって、反応器内で高度に分散され且つ均一な合成ガス及び温度分布を提供し、許容可能なエネルギー使用量を提供しながら反応器の温度制御を維持するヒドロホルミル化反応器の設計を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、一般的に、一酸化炭素及び水素ガスを液相中でオレフィンと反応させることにより、アルデヒド及び/又はアルコールを製造する方法に関し、50℃以上145℃以下の高温及び1以上100bar以下の圧力で触媒の存在下にこれらのガスの一部は反応液中でガス気泡の形で分散され、他の一部は反応液に溶解している。本発明の実施形態は、機械的撹拌器を使用することなく、又は一部の実施形態では機械的撹拌器に加えて、反応器内での反応流体の完全な気液混合を有利に提供する。
【0012】
高速流体流を利用して反応器の中央から底部において、方向付けられた液体ジェットの形で内部流を形成し、一部の実施形態では、反応液に運動量とせん断力を与えて、反応器の内容物を混合するだけでなく、従来のガススパージャーによって生成された合成ガスの気泡を分散できることが見出された。従来のベンチュリ気液混合反応器の設計のように反応器の上部に位置していないにもかかわらず、本発明の設計の一部の実施形態では、全体の反応器の流体は、反応器内のより高くより均一なガス分率又はガス負荷、及び一定の温度によって証明されるように、著しく均一な温度と気液混合を達成することができる。
【0013】
一実施形態では、ヒドロホルミル化反応方法は、垂直型の円筒型反応器内において均一系触媒の存在下でオレフィン、水素、及び一酸化炭素を接触させて反応流体を提供することと、前記円筒型反応器から前記反応流体の一部を除去することと、前記除去された反応流体の少なくとも一部を前記円筒型反応器に戻すこととを含み、前記円筒型反応器の高さは一定の高さであり、少なくとも0.5kW/m3の総混合エネルギーが前記円筒型反応器内の前記流体に伝達され、前記戻される反応流体は、前記一定の高さの80%未満の高さに配置される少なくとも2つの戻り位置に導入され、前記少なくとも2つの戻り位置は、前記反応器内の、水素と一酸化炭素が導入される位置の上方に配置され、前記混合エネルギーの少なくとも15%が前記戻される反応流体によって提供される。
【0014】
これら及び他の実施形態は、発明を実施するための形態においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るヒドロホルミル化反応方法を実行するためのシステムを示すフローシートである。
【
図2】本発明の一部の実施形態で使用することができる円筒型反応器を示す上面断面図である。
【
図3】本発明の一部の実施形態で使用することができる別の円筒型反応器を示す上面断面図である。
【
図4】本発明の一部の実施形態で使用することができる分流器の一実施形態の相対的な配置を示す図である。
【
図5】本発明の一部の実施形態に係る実施例でシミュレートされる反応器の設計の概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るヒドロホルミル化反応方法を実行するためのシステムを示す上面概略図である。
【
図7】本発明の一部の実施形態で使用することができる分流器の一実施形態を示す図である。
【
図8】実施例1及び比較例AのCFDモデリングに基づくガス分率分布を示す図である。
【
図9】実施例2及び3のCFDモデリングに基づくガス分率分布を示す図である。
【
図10】実施例4のCFDモデリングに基づくガス分率分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ヒドロホルミル化方法は、通常、成分として遷移金属及び有機リン配位子を含む触媒の存在下で、少なくとも1種のアルデヒド生成物を形成するのに十分なヒドロホルミル化条件下で、CO及びH2と少なくとも1種のオレフィンを接触させることを含む。任意の方法成分には、アミン及び/又は水が含まれる。
【0017】
元素の周期表及びその中の様々なグループに対する言及は全て、CRC Handbook of Chemistry and Physics,72nd Ed.(1991-1992)CRC Press,at page I-10に掲載されているバージョンに対するものである。
【0018】
反対のことが記述されていない限り、又は文脈から暗黙的でない限り、全ての部及び百分率は重量に基づくものであり、全ての試験方法は本出願の出願日現在のものである。本明細書中で使用されるとき、用語「ppmw」は重量百万分率を意味する。米国特許実務を目的として、参照される特許、特許出願、又は刊行物の内容は必ず、それらの全体が、特に定義の開示、及び当該技術分野における一般的な知識に関して(本開示において具体的に提供されるいかなる定義にも矛盾しない程度に)、参照により本明細書に組み込まれる(又は、刊行物の相当する米国特許出願が同様に参照により組み込まれる)。
【0019】
本明細書で使用される場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つ」、及び「1つ以上」は互換的に使用される。用語「備える(comprise)」、「含む(include)」、及びそれらの変形は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲に現れる場合に限定的な意味を有しない。したがって、例えば、疎水性ポリマー(「a」 hydrophobic polymer)の粒子を含む水性組成物は、組成物が「1つ以上の」疎水性ポリマーの粒子を含むことを意味すると解釈することができる。
【0020】
また、本明細書において、端点による数値範囲の列挙は、その範囲に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。本発明の目的のために、当業者が理解するであろうことと一致して、数値範囲は、その範囲に含まれる可能性のある全ての部分範囲を含み、維持することを意図すると理解されるべきである。例えば、1~100の範囲は、1.01~100、1~99.99まで、1.01~99.99まで、40~60まで、1~55までなどを伝達することを意図している。
【0021】
本明細書で使用されるとき、用語「ヒドロホルミル化」は、限定されるものではないが、1つ以上の置換もしくは非置換オレフィン系化合物又は1つ以上の置換もしくは非置換オレフィン系化合物を含む反応混合物を、1つ以上の置換又は非置換アルデヒド又は1つ以上の置換もしくは非置換アルデヒドを含む反応混合物に転化することを含む、全ての許容される非対称及び非対称でないヒドロホルミル化方法を含むことが意図される。
【0022】
本明細書において、用語「反応流体」、「反応媒体」、及び「触媒溶液」は互換的に使用され、(a)金属-有機リン配位子錯体触媒、(b)遊離有機リン配位子、(c)反応において形成されるアルデヒド生成物、(d)未反応の反応物(例えば、水素、一酸化炭素、オレフィン)、(e)前述の金属-有機リン配位子錯体触媒及び前述の遊離有機リン配位子のための溶媒、並びに、任意に、(f)反応において形成される1種以上のリン酸性化合物(均一又は不均一であってもよく、これらの化合物は、プロセス機器の表面に付着したものを含む)を含み得るがこれらに限定されない。反応流体はガスと液体の混合物であり得ることを理解すべきである。例えば、反応流体は、液体内に同伴される気泡(例えば、水素及び/又はCO及び/又は不活性物質)又は液体に溶解したガス(例えば、水素及び/又はCO及び/又は不活性物質)を含み得る。反応流体は、限定されないが、(a)反応ゾーン内の流体、(b)分離ゾーンへ向かう途中の流体流、(c)分離ゾーン内の流体、(d)リサイクル流、(e)反応ゾーン又は分離ゾーンから引き出された流体、(f)緩衝水溶液で処理された引き出された流体、(g)反応ゾーン又は分離ゾーンに戻された処理された流体、(h)外部冷却器内へ向かう途中の流体、(i)外部冷却器内の流体、(j)外部冷却器から反応ゾーンに戻される流体、並びに(k)配位子分解生成物及びそれらの塩、を含むことができる。
【0023】
溶媒は、有利には、ヒドロホルミル化方法の実施形態に採用される。ヒドロホルミル化方法を過度に妨害しない任意の好適な溶媒が使用され得る。実例として、ロジウムで触媒作用が及ぼされるヒドロホルミル化方法に好適な溶媒には、例えば、米国特許第3,527,809号、同第4,148,830号、同第5,312,996号、及び同第5,929,289号に開示されているものが含まれる。好適な溶媒の非限定的な例には、飽和炭化水素(アルカン)、芳香族炭化水素、水、エーテル、アルデヒド、ケトン、ニトリル、アルコール、エステル、及びアルデヒド縮合生成物が含まれる。溶媒の具体的な例には、テトラグライム、ペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、キシレン、トルエン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ブチルアルデヒド、及びベンゾニトリルが含まれる。有機溶媒はまた、飽和限界まで溶解水を含有してもよい。例示的な好ましい溶媒には、ケトン(例えば、アセトン及びメチルエチルケトン)、エステル(例えば、酢酸エチル、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート)、炭化水素(例えば、トルエン)、ニトロ炭化水素(例えば、ニトロベンゼン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン(THF))、及びスルホランが含まれる。ロジウムで触媒作用が及ぼされるヒドロホルミル化方法では、例えば、米国特許第4,148,830及び同第4,247,486号に記載されているように、生成されることが所望されるアルデヒド生成物、及び/又は、例えば、ヒドロホルミル化方法中にその場で生成され得る高沸点アルデヒド液体縮合副生成物に対応するアルデヒド化合物を主な溶媒として採用することが望ましい場合がある。一次溶媒は、通常は最終的に、連続方法の性質上、アルデヒド生成物と高沸点アルデヒド液体縮合副生成物(「重質物」)の両方を含む。溶媒の量は特に重要なものではなく、反応媒体に所望の量の遷移金属濃度を提供するのに十分であればよい。典型的には、溶媒の量は、反応流体の総重量を基準として、約5重量パーセント~約95重量パーセントの範囲である。溶媒の混合物を用いてもよい。
【0024】
水素及び一酸化炭素は、石油分解及び精製作業を含む任意の好適な供給源から取得してもよい。合成ガス混合物は、水素及びCOの好ましい供給源である。合成ガス(syngas)(合成ガス(synthesis gas))は、様々な量のCO及びH2を含有するガス混合物に与えられる名称である。生成方法は、よく知られている。水素及びCOは、典型的には、合成ガスの主成分であるが、合成ガスは、CO2、並びにN2及びArなどの不活性ガスを含有し得る。H2のCOに対するモル比は大きく変動し得るが、一般に1:100~100:1、通常は1:10~10:1の範囲である。合成ガスは、商業的に入手可能であり、しばしば、燃料源として、又は他の化学物質の生成のための中間体として使用される。化学生成のためのH2:COモル比は、多くの場合、3:1~1:3であり、通常、ほとんどのヒドロホルミル化用途のためには約1:2~2:1が目標とされる。
【0025】
本発明の実施形態は、遊離有機リン配位子の存在下で行われる、アルデヒドを製造するための従来の連続混合気相/液相CSTRロジウム-リン錯体触媒ヒドロホルミル化方法の改善に適用可能である。そのようなヒドロホルミル化方法(「オキソ」方法とも称する)及びその条件は、例えば、米国特許第4,148,830号の連続液体再循環方法、米国特許第4,599,206号及び同第4,668,651号の亜リン酸塩ベースの方法によって例示されるように、当技術分野で周知である。また、米国特許第5,932,772号及び同第5,952,530号に記載されているような方法も含まれる。そのようなヒドロホルミル化方法は、一般に、可溶性ロジウム-有機リン錯体触媒、遊離有機リン配位子、及び高沸点アルデヒド縮合副生成物を含む液体反応媒体中で、オレフィン化合物を水素及び一酸化炭素ガスと反応させることによるアルデヒドの生成を伴う。一般的に、遊離金属として算出される、約10重量ppmから約1000重量ppmの範囲のロジウム金属濃度は、ほとんどのヒドロホルミル化方法において十分である。いくつかの方法では、遊離金属として算出される約10~700重量ppmのロジウム、多くの場合、25~500重量ppmのロジウムが使用される。
【0026】
したがって、ロジウム-有機リン錯体触媒の場合のように、任意の従来の有機リン配位子を遊離配位子として使用することができ、そのような配位子、及びそれらの製造方法は当技術分野で周知である。本発明では、多種多様な有機リン配位子を使用できる。ホスフィン、ホスファイト、ホスフィノホスファイト、ビスホスファイト、ホスホナイト、ビスホスホナイト、ホスフィナイト、ホスホラミダイト、ホスフィノホスホアミダイト、ビスホスホラミダイト、フルオロホスファイトなどが例に含まれるが、これらに限定されない。配位子はキレート構造を含んでもよく、及び/又はポリホスファイト、ポリホスホラミダイトなどの複数のP(III)部分、及びホスファイト-ホスホラミダイト、フルロホスファイト-ホスファイトなどの混合P(III)部分を含んでもよい。もちろん、必要に応じて、そのような配位子の混合物も使用できる。したがって、本発明のヒドロホルミル化方法は、任意の過剰量の遊離リン配位子、例えば、反応媒体中に存在するロジウム金属の1モル当たり少なくとも0.01モルの遊離リン配位子で実施することができる。一般に、使用される遊離有機リン配位子の量は、所望のアルデヒド生成物、並びに使用されるオレフィン及び錯体触媒のみに依存する。したがって、反応媒体中に存在する遊離リン配位子の量が、(遊離金属として測定される)存在するロジウム1モル当たり約0.01~約300以上の範囲であることがほとんどの目的に適している。例えば、一般に、満足のいく触媒活性及び/又は触媒安定化を達成するために、ロジウム1モル当たり50モル超、場合によっては100モル超の遊離配位子といった、トリフェニルホスフィンなどの大量の遊離トリアリールホスフィン配位子が使用されてきたその一方で、他のリン配位子、例えばアルキルアリールホスフィン及びシクロアルキルアリールホスフィンは、反応媒体に存在する遊離配位子の量が、存在するロジウム1モル当たりわずか1~100、及び、場合によっては、15~60モルの場合でも、特定のオレフィンのアルデヒドへの変換率を過度に遅らせることなく、許容できる触媒の安定性と反応性を提供するのに役立ち得る。さらに、他のリン配位子(例えば、ホスフィン、スルホン化ホスフィン、亜リン酸塩、二有機亜リン酸塩、ビス亜リン酸塩、ホスホルアミダイト、ホスホナイト、フルオロ亜リン酸塩)は、反応媒体に存在する遊離配位子の量が、存在するロジウム1モル当たりわずか0.01~100、及び、場合によっては、0.01~4モルの場合でも、特定のオレフィンのアルデヒドへの変換率を過度に遅らせることなく、許容できる触媒安定性と反応性を提供するのに役立ち得る。
【0027】
より具体的には、例示的なロジウム‐リン錯体触媒及び例示的な遊離リン配位子には、例えば、米国特許第3,527,809号、同第4,148,830号、同第4,247,486号、同第4,283,562号、同第4,400,548号、同第4,482,749号、欧州特許出願公開第96,986号、同第96,987号、及び同第96,988号(全て1983年12月28日公開)、PCT特許出願公開番号WO80/01690(1980年8月21日公開)、米国特許出願第581,352号(1984年2月17日出願)及び同第685,025号(1984年12月28日出願)に開示されているものが含まれる。例示し得るより好ましい配位子及び錯体触媒の中には、例えば、米国特許第3,527,809号、同第4,148,830号、及び同第4,247,486号のトリフェニルホスフィン配位子及びロジウム-トリフェニルホスフィン錯体触媒、米国特許第4,283,562号のアルキルフェニルホスフィン及びシクロアルキルフェニルホスフィン配位子、及びロジウム-アルキルフェニルホスフィン及びロジウム-シクロアルキルフェニルホスフィン錯体触媒、並びに米国特許第4,599,206号及び同第4,668,651号の二有機亜リン酸塩配位子及びロジウム-二有機亜リン酸塩錯体触媒がある。
【0028】
上記でさらに述べたように、ヒドロホルミル化反応は、典型的には、高沸点アルデヒド縮合副生成物の存在下で実施される。本明細書で使用できる連続ヒドロホルミル化反応の性質は、例えば、米国特許第4,148,830号及び同第4,247,486号でより完全に説明されているるように、ヒドロホルミル化方法中にそのような高沸点アルデヒド副生成物(例えば、二量体、三量体及び四量体)をその場で生成するものである。そのようなアルデヒド副生成物は、液体触媒リサイクル方法のための優れた担体を提供する。例えば、最初に、ヒドロホルミル化反応は、ロジウム錯体触媒の溶媒として少量の高沸点アルデヒド縮合副生成物の非存在下、又は、存在下で行うことができ、又は、反応は、液体反応媒体全体に基づいて、70重量パーセント以上、さらには90重量パーセント、さらに多くのそのような縮合副生成物の存在下で実施することができる。一般に、重量で約0.5:1から約20:1の範囲内のアルデヒドと高沸点アルデヒド縮合副生成物の比は、ほとんどの目的において十分な物である。そのうえ、必要に応じて、少量の他の従来の有機共溶媒が存在し得ることを理解されたい。
【0029】
上記のように、ヒドロホルミル化反応条件は広い範囲で変化する可能性があるが、一般に、好ましくは水素、一酸化炭素、及びオレフィン不飽和出発化合物の合計ガス圧約3100キロパスカル(kPa)未満で、より好ましくは約2415kPa未満で方法を実施することが望ましい。反応物の最小全圧は特に重要ではなく、主に所望の反応速度を得るために必要な反応物の量によってのみ制限される。より具体的には、本発明のヒドロホルミル化反応方法の一酸化炭素分圧は約1~830kPa、場合によっては約20~620kPaであることができ、一方、水素分圧は約30~1100kPa、場合によっては約65~700kPaであることができる。一般に、ガス状水素と一酸化炭素のH2:COのモル比は、約1:10~100:1以上、場合によっては約1:1.4~約50:1の範囲であってもよい。
【0030】
さらに、上記のように、本発明のヒドロホルミル化反応方法は、約50℃~約145℃の反応温度で実施することができる。しかしながら、一般に、約60℃~約120℃、又は約65℃~約115℃の反応温度でのヒドロホルミル化反応が典型的である。
【0031】
もちろん、ヒドロホルミル化反応が実施される特定の方法及び使用される特定のヒドロホルミル化反応条件は、本発明にとって厳密に重要なものではなく、個々のニーズに合わせて広く変更及び調整して特定の望ましいアルデヒド生成物を生成し得ることを理解されたい。
【0032】
内部冷却コイルだけでは十分な熱除去能力が不足することが多いため(コイル体積当たりの限られた熱伝達面積)、外部冷却ループ(外部熱交換器(冷却器)を介した反応器内容物のポンプ循環)は、典型的には、低炭素オレフィン(C2からC5)などの高発熱性ヒドロホルミル化反応に使用される。さらに、内部冷却コイルは内部の反応器の容積を変位させ、所定の生産率に対して反応器のサイズを大きくする。しかしながら、一部の実施形態では、少なくとも1つの内部冷却コイルが反応器の内側に配置される。一部の実施形態では、そのような内部冷却コイルを、外部冷却ループに追加することができる。
【0033】
本発明で使用されるオレフィンの好ましい例には、エチレン、プロピレン、ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、2-ブテン、2-メチルプロペン、2-ペンテン、2-ヘキセン、2-ヘプテン、2-エチルヘキセン、2-オクテン、スチレン、3-フェニル-1-プロペン、1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、3-シクロヘキシル-1-ブテン、酢酸アリル、酪酸アリル、メタクリル酸メチル、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、アリルエチルエーテル、n-プロピル-7-オクテノエート、3-ブテンニトリル、5-ヘキセンアミド、4-メチルスチレン、4-イソプロピルスチレンなどが含まれる。異性体の混合物(例えば、ブテンラフィネート)も使用できる。得られたアルデヒド生成物は、水素化され、溶媒として、又は可塑剤の調製に使用さ得る対応するアルコールに変換されるか、又はより高いアルデヒドへのアルドール縮合、対応する酸への酸化、又は対応する酢酸、プロピオン酸、又はアクリル酸エステルを生成するためのエステル化などの他の後続の反応が施され得る。
【0034】
オレフィン出発物質は、ガス(任意で、入ってくる合成ガス供給物とともに)、反応器内の液体、又は反応器に入る前の再循環ループの一部として、便利な技術によって反応器に導入される。1つの特に有用な方法は、合成ガススパージャーの隣又は下方に別個のオレフィンスパージャー(後述)を使用して、オレフィンと合成ガスの供給物を互いに近接して導入することである。
【0035】
水素と一酸化炭素(例えば、合成ガス)を導入できる位置の状況を提供するために、
図1に示す反応器1を参照する(
図1については以下で詳しく説明する)。
図1に示す反応器1は、反応流体を含む円筒形の反応容器である。反応器1は、反応器の底部と反応器の上部との間の距離である一定の高さ(h)を有する。本発明の方法の実施形態における特徴の位置は、反応容器の一定の高さに対して設けられ得る。本明細書で使用される場合、「一定の高さ」という用語は、反応容器の底部と反応容器の上部との間の距離を指し、特定の反応器について容易に確認することができる。反応容器の一定の高さの20%にある場所は、反応容器の底部から測定した場合、その位置が一定の高さの20%であることを意味する(一定の高さの0%の位置は反応容器の底部にあり、一定の高さの100%の位置は反応容器の上部にある)。
【0036】
一定の高さの20%以下の高さ(例えば、反応容器の下部20%に)で反応容器に配置される従来のガススパージャーによって、合成ガスが反応に導入される。一部の実施形態では、合成ガススパージャーは、反応容器の底部に近接する位置など、一定の高さの10%以下の高さで反応容器に配置される。合成ガススパージャーは、多くの場合、プレート、リング、又は一連の同心リングであり、そのようなガススパージャーの設計は当技術分野で周知である。一般に、そのような合成ガススパージャーは、適切なサイズの気泡を導入し、オレフィン流量として考えられる所望の合成ガスフローを提供するように設計する必要がある。一部の実施形態において、本発明のヒドロホルミル化反応方法で使用するための合成ガススパージャーは、直径15mm未満の別個の気泡を形成するように合成ガスを導入する。一部の実施形態では、本発明のヒドロホルミル化反応方法で使用するための合成ガススパージャーは、直径10mm未満の別個の気泡を形成するように合成ガスを導入する。リング、同心リング、及びプレートの使用並びにその他の設計は、適切な気泡サイズを送達することを除いて、本発明にとって重要なものではない。1つのスパージャーの使用が適切な場合においても、複数の合成ガススパージャーを用いることができる。
【0037】
また、適切な気泡サイズを生成して及び維持するために重要なのは、反応流体に十分な乱流を与えて、気泡が合体するのを防ぎ、せん断を導入してより小さな気泡を生成することである。これは、従来、反応流体を従来の撹拌器で混合することで達成されていたが、流体、好ましくは触媒含有反応流体の定方向流(ジェット)が同様に効果的であることを発見した。さらに、撹拌器と再循環ポンプによって単位体積当たりに供給される電力の合計が0.5kW/m3を超える限り、これら2つの方法の組み合わせが効果的であることが分かった。上記が存在しない場合、反応流体の乱流が低い(又はゼロ)ため、浮力の増加と液体からの離脱により、気泡がガス/液体界面へ急速に上昇してガス気泡のサイズが大きくなり、反応器内のガスの停滞減少につながる。小さな気泡を生成して維持することは、より良い気液混合、ガスの停滞、及びより再現性のある反応器性能を提供する均一な反応流体を生成するために重要である。気泡が小さいほど、最大のガスの停滞が得られ、気泡と合成ガスを溶解する液体との間の質量移動面積が最大化される(最適化されたガス体積/表面比)。
【0038】
反応器の底部又は側面にある再循環ループ出口ノズルに対する合成ガススパージャーの位置は、ポンプ、配管、外部冷却器(後述)を通じて最少量の合成ガスの気泡が外部再循環ループへ導入されるようにするが、これは、ポンプの動作(キャビテーション、振動、スラッギング)に悪影響を与え、熱交換器の性能の変動を起こし、これにより反応器の温度制御を引き起こす可能性がある。反応器の再循環出口ノズルからの直接の流線を妨げてそらす出口隔壁又は他のデバイスを使用することは好ましい選択肢である。
【0039】
反応器の内壁に取り付けられた垂直の隔壁は、容器の壁から半径方向の流線をせん断して持ち上げることにより、さらなる混合と最小限の回転流を提供する。
【0040】
理論にとらわれることなく、液体速度と、本発明の実施形態によって提供される小さい初期の気泡サイズ(<15mm)の完全な混合とは、合成ガスの気泡合体を最小限にし、せん断による気泡サイズの縮小を促進し、ガス/液体の分布と反応器全体の温度を均一にする。液体界面から反応器の蒸気空間への自然な浮力による小さな合成ガスの気泡の動きは、液体の粘性と液体塊の乱流によって相殺される。過度に大きな気泡は急速に上昇するため、ガスの停滞が低くなり、分布が不均一になる。反応器本体の上部に位置していないにもかかわらず、本発明の一部の実施形態で使用されるノズル又は分流器は、下向きの向流を提供して気泡の自然な浮力を相殺し、反応器全体に循環する液体の中で気泡の巻き込みを維持する液体ジェットを生成し、液相全体に合成ガスの気泡のより均一な分布をもたらす。合成ガスが溶解して反応すると、気泡が収縮し、それが液相内での分布の維持と液相への良好なガス質量移動の促進に役立つ。
【0041】
一実施形態において、本発明は、垂直型の円筒型反応器内において均一系触媒の存在下でオレフィン、水素、及び一酸化炭素を接触させて反応流体を提供することと、前記円筒型反応器から前記反応流体の一部を除去することと、前記除去された反応流体の少なくとも一部を前記円筒型反応器に戻すこととを含み、前記円筒型反応器の高さは一定の高さであり、少なくとも0.5kW/m3の総混合エネルギーが前記円筒型反応器内の前記流体に伝達され、前記戻される反応流体は、前記一定の高さの80%未満の高さに配置される少なくとも2つの戻り位置に導入され、前記少なくとも2つの戻り位置は、前記反応器内の、水素と一酸化炭素が導入される位置の上方に配置され、前記混合エネルギーの少なくとも15%が前記戻される反応流体によって提供される、ヒドロホルミル化反応方法を提供する。一部の実施形態において、少なくとも2つの戻り位置は、円筒型反応器の半径の10%以上50%以下の距離だけ円筒型反応器内に突き出て、戻される反応流体の流れを方向付ける1つ以上のノズルを含む。
【0042】
一部の実施形態において、戻される反応流体の流れは、各戻り位置に配置された分流器によって方向付けられる。一部の実施形態において、少なくとも1つの分流器は、戻される反応流体の流れを水平に方向付ける。一部の実施形態において、少なくとも1つの分流器は、戻される反応流体の流れを垂直に方向付ける。一部の実施形態において、少なくとも1つの分流器は、戻される反応流体の流れを水平に方向付け、戻される反応流体の流れを垂直に方向付ける。
【0043】
一部の実施形態において、戻される反応流体の流れは、分流器によって方向付けられ、円筒型反応器の中心縦軸の周りの流体の旋回流の誘発を防止する。一部の実施形態において、戻される反応流体の流れは、円筒型反応器の中心縦軸に向かず、中心縦軸に垂直でない複数の方向に分割されて方向付けられる。
【0044】
一部の実施形態において、分流器の流れ面積と前記戻される反応流体の流量との組み合わせは、前記円筒型反応器の内側に、運動量を与えるとともに前記円筒型反応器内のバルク流体の混合を引き起こす流体ジェットを形成し、前記戻される反応流体は、複数の方向に分割されて方向付けられる。
【0045】
一部の実施形態において、水素と一酸化炭素は、円筒型反応器に反応器の一定の高さの20%未満の高さで導入され、戻り位置は反応器の一定の高さの80%未満の高さに配置される。
【0046】
一部の実施形態において、水素と一酸化炭素は、合成ガスとして提供され、合成ガスは、円筒型反応器内に直径の15mm未満のサイズ範囲の離散気泡を形成するように導入される。
【0047】
本明細書でさらに説明するように、一部の実施形態では、複数の隔壁(水平及び/又は垂直)は、円筒型反応器の内側に配置されている。
【0048】
一部の実施形態において、撹拌器が円筒型反応器に配置される。一部の実施形態では、撹拌器が円筒型反応器内に配置され、撹拌器と戻される反応流体が、円筒型反応器内に混合エネルギーを提供する。一部の実施形態では、撹拌器が円筒型反応器内に配置され、撹拌器は動作せず、戻される反応流体のみが円筒型反応器内の混合エネルギーを提供する。
【0049】
本発明の様々な実施形態は、添付の図面を参照することにより、より容易に理解され得る。
【0050】
図1は、本発明の一実施形態に係るヒドロホルミル化反応方法を実行するためのシステムを示すフローシートである。
図1は、上部、底部、及び一定の高さ(h)を有する円筒型反応器又は反応容器1を示す。反応流体のレベルとガス/液体界面を含む反応器1が示されている。
図1に示すように、反応流体2の流れは、ポンプ3を介して反応器1の底部近くから引き出される。この流れは、熱交換器4及び/又はバイパスライン10を通過した後に戻りノズル5に送られる。
図1の実施形態に、ラジアルフローディスクブレードガス分散及び液体ポンプインペラの両方を備えた撹拌器14が示されているが、本明細書に記載されるように、撹拌器は本発明の全ての実施形態に必要なものではない。さらに、撹拌器が存在する実施形態においてさえ、撹拌器は、一部の実施形態では動作し、他の実施形態では動作しない場合がある。撹拌器が存在する場合は、典型的には、
図1に示すように反応器1の垂直中心線に配置される。
【0051】
反応器1の底部から除去された反応流体2は、2つ以上のノズル5を介して反応器に戻される。一部の実施形態において、2つ以上のノズル5は、対称的な対、対称的な三連構造、又は他の対称的な配置に方向付けることができる。これらのノズルを出てバルク反応器の流体に入る再循環流は、バルク反応器の流体に運動量を与えるとともにガス/液体混合を引き起こす戻される反応流体の1つ又は複数の液体ジェットを形成する。
図2~
図4に関連してさらに議論されるように、ノズル5は、液体ジェットを下方向又は上方向に向けるように方向付けられることができる。一部の実施形態において、ノズルは、液体ジェットが反応器1の中心縦軸に向けられないように(例えば、反応器1の中心軸に向かないように、又は、
図1の反応器撹拌器シャフト及びインペラ14に向かうように)方向付けられ得る。液体ジェットは、厳密な水平方向又は厳密な垂直方向に、又は撹拌器の縦軸又は中心に直接、又は反応器の撹拌器シャフト又はインペラに向かわないことが好ましい(すなわち、以下で説明するα及びアルβはともに0より大きい)。一部の実施形態において、対称ノズルの複数のセットは、反応器1内の異なるノズル配向(半径方向位置)及び/又は異なる高さに配置させることができる。
【0052】
合成ガスは、合成ガススパージャーを備えた流れ6を介して反応器1に導入される。同様に、オレフィンは流れ7を介して導入される。オレフィンは、一部の実施形態ではスパージャー装置を介して導入することもできる。一部の実施形態において、オレフィンは、反応器1に導入する前の合成ガス又は流れ11と混合されることができる。
図1に示す実施形態では、同伴ガスがライン2に入るのを最小限にするために出口隔壁8が使用されるが、他の実施形態では出口隔壁は使用されない。
【0053】
反応器の底部から除去された反応流体流2に関して、粗生成物及び触媒混合物は、流れ9で表されるように、流れ2から除去することができる。
図1では、粗生成物/触媒混合物の流れ9は再循環流れ2から分離されているように示されているが、他の実施形態では、反応流体の流れを反応器1の異なる位置から引き出して処理して粗生成物/触媒混合物の流れを分離することができる。いずれにしても、粗生成物及び触媒混合物の流れは、一部の実施形態では別の反応器に、又は他の実施形態では触媒/生成物分離ゾーンに送ることができる(複数の反応器を使用する実施形態では、触媒/生成物分離ゾーンも下流の反応器に続くことができる)。
図1に示す実施形態では、触媒/生成物分離ゾーンからのリサイクル触媒は、リサイクル触媒流11とバイパス流10を介して反応器1に戻される反応流体の流れと組み合わされることによってリサイクル触媒流11を介して、及び/又は、熱交換器を出る流れ4を介して反応器1に戻される。他の実施形態では、流れ2は必ずしも流れ15及び16に等しくなる必要がなく、再循環流の一部は、他の処理のために除去されるか(流れ9)、又は他の処理される流れ(流れ11)によって追加されてもよい。
【0054】
図1に示すように、複数の反応器が直列に配置されている実施形態では、反応器からの任意のガスパージ流12は、排出され、広がり、又はプラント燃料ガスヘッダー又は別の反応器に送られることができる。このパージ流12の分析は、反応制御のために反応器1内のCO分圧を測定する便利な手段を提供することができる。
図1には示されていないが、システムには、バルブ、温度センサー、圧力センサーなど、当業者が容易に認識して実装できる他の標準機器も含まれている。
【0055】
反応器1に戻される反応流体は、少なくとも2つの対称的に対向する戻り位置(
図1のノズル5で表される)に導入されることができる。少なくとも2つの戻り位置は、反応器の一定の高さの80%未満であり、反応器内の、水素と一酸化炭素が反応器に導入される位置よりも上の高さに配置される(例えば、
図1に示す実施形態の場合は、合成ガススパージャー6より上)。一部の実施形態において、少なくとも2つの戻り位置は、反応器の一定の高さの60%未満であり、反応器内の、水素及び一酸化炭素が反応器に導入される位置よりも上の高さに位置する。一部の実施形態において、少なくとも2つの戻り位置は、反応器の一定の高さの50%未満であり、反応器内の、水素及び一酸化炭素が反応器に導入される位置よりも上の高さに位置する。
【0056】
戻される反応流体は、反応器内の総混合エネルギーの少なくとも15%を提供できる。様々な実施形態において、戻される反応流体は、総混合エネルギーの少なくとも25%、総混合エネルギーの少なくとも30%、総混合エネルギーの少なくとも40%、総混合エネルギーの少なくとも50%、総混合エネルギーの少なくとも60%、総混合エネルギーの少なくとも70%、総混合エネルギーの少なくとも75%、総混合エネルギーの少なくとも80%、総混合エネルギーの少なくとも85%、総混合エネルギーの少なくとも90%、又は総混合エネルギーの少なくとも95%を提供する。一部の実施形態では、戻される反応流体は、総混合エネルギーの実質的に全て又は100%を反応器に提供することができる。総混合エネルギーは、動作中の撹拌器(存在する場合)、戻される反応流体によって生成される液体ジェット、又はその他の混合エネルギー源によって提供される混合エネルギーを含むが、合成ガス、オレフィン、又はその他の反応物を反応器に導入することによって得られる最小混合エネルギーは含まれないことを理解されたい。戻される反応流体によって生成される液体ジェットが混合エネルギーの実質的に全て又は100%を提供する実施形態では、反応器は撹拌器を含まないか、又は動作していない撹拌器を含む。戻される反応流体によって生成される液体ジェットが混合エネルギーの100%を提供しない一部の実施形態では、反応器内の動作中の撹拌器が混合エネルギーのバランスを提供することができる。
【0057】
本明細書で使用されるように、反応器に提供される総混合エネルギーは、撹拌器によって与えられる混合エネルギーと戻される反応流体によって与えられる混合エネルギーを算出することにより測定される。撹拌器と戻される反応流体によって与えられる混合エネルギーは、電圧及び撹拌器及び再循環ポンプモータの電流を測定することによって算出される(例えば、
図1の撹拌器14及びポンプ3)。
【0058】
反応流体が戻される方法は、提供される混合エネルギーの有効性に影響する。一部の実施形態において、反応流体は、
図4に示すとともに以下でさらに説明するように、反応器の再循環戻りノズルを通して挿入されて取り付けられる、配管18の末端部に設置される1つ以上の分流板17を有する配管を使用して戻すことができる。一部の実施形態において、反応流体は、以下でさらに説明するように、配管の末端部に配置されたノズル又はフローオリフィスを使用して戻され、反応器の再循環戻りノズルを通して挿入されて取り付けられるそれぞれの場合において、得られた液体ジェットの速度は、ノズル又はオリフィスの流れ面積、又は分流板17と配管18の内壁との間に作られる流れ面積、及び戻される反応流体の質量流量と密度の関数である。流動面積と流速の組み合わせにより、反応器内の反応流体のジェットが生じ、それが運動量を与え、反応器内のバルク流体のガス/液体及び液体/液体の混合を引き起こす。さらに、戻される反応流体は分割され、複数の方向に向けられる。
【0059】
「分流器」という用語は、本明細書では、反応器再循環戻り管内に配置されたノズルと分流器プレートの両方を包含する。いずれの場合でも、分流器は戻される反応流体の流れを方向付ける。以下でさらに説明するように、一部の実施形態において、分流器は戻される反応流体の流れを水平に方向付ける。一部の実施形態において、分流器は、戻される反応流体の流れを垂直に方向付ける。一部の実施形態において、分流器は、戻される反応流体の流れを水平及び垂直の両方に方向付ける。
【0060】
一部の実施形態において、分流器は、戻される反応流体の流れを方向付け、反応器の中心縦軸の周りの旋回流の誘発を防止する(例えば、
図1に示す撹拌器14のシャフトに対応する軸)。
【0061】
一部の実施形態において、戻される反応流体の流れがある反応器の中心縦軸に向かず、中心縦軸に垂直でない複数の方向に分割されて方向付けられる。この特徴は、反応器が撹拌器(動作中又は非動作中の両方)を含む一部の実施形態において重要であり得る。例えば、再循環戻り流を撹拌器のシャフトに向かって方向付けると、振動が発生し、撹拌器、撹拌器シール、又は安定したベアリングが損傷する可能性がある。
【0062】
図2は、本発明の一実施形態に係る反応器内の2つの分流器5の配置を示す上部断面図である。
図3は、本発明の別の実施形態に係る3つの分流器5の配置を示す上部断面図である。
図2及び
図3は、それぞれ、分流器が再循環戻り流によって形成された液体ジェットをどのように方向付けるかを示す。分流器の他の配置を選択することもできる(例えば、4つ以上の分流器及び/又は分流器の異なる位置)。一部の実施形態において、分流器は、反応器の円筒壁の周囲に等間隔で配置される。
【0063】
図2~
図4は、反応器再循環流体が分流器5から出るときに、反応器再循環流体によって生成される液体ジェットのオフセット角を示す。図示されている実施形態において、分流器5は、各配管を出る流れを2つの液体ジェットに分割する分流板(例えば、
図4の上面図に示される実施形態)と、α角だけ回転して上向きの1つの液体ジェットと下向きの1つの液体ジェットを生成する分流器を有する配管である。
【0064】
分流器を利用する実施形態では、配管内の分流器の方向及び液体ジェットを提供するために戻される反応流体に与えられる角度が重要となり得る。
図4は、このような方向の例と、戻される反応流体の液体ジェットの流れの方向の決定を示す。
【0065】
図4によると、分流器を出る流れから生じる液体ジェットの垂直方向成分は、角度β(ベータ)によって定義された水平面(H)に対して定義できるものであって、ここで、
角度β1は、
図4に示すように、分流器が挿入されて取り付けられた反応器ノズルの中心線に位置する基準水平面(H)上の分流器から出る液体ジェットの角度として定義され、
角度β2は、
図4に示すように、分流器が挿入されて取り付けられた反応器ノズルの中心線に位置する基準水平面(H)下の分流器から出る液体ジェットの角度として定義される。
【0066】
同様に、分流器から出る反応流体から生じる液体ジェットの水平方向成分も、角度α(アルファ)によって定義された垂直面(V)に対して定義できるものであって、ここで、
角度α1は、
図4に示すように分流器が挿入されて取り付けられた反応器ノズルの中心線に位置する基準垂直面(V)の一面上の分流器から出る液体ジェットの角度として定義され、
角度α2は、
図4に示すように、分流器が挿入されて取り付けられた反応器ノズルの中心線に位置する基準垂直面(V)の対向面上の分流器から出る液体ジェットの角度として定義される。
【0067】
角度αはまた、分流器が挿入されて取り付けられるノズルの中心線に位置する垂直面からの分流器の回転度を表す。
【0068】
水平面(β)及び垂直面(α)に対する分流器からの液体ジェットの流れの方向は、本発明の一部の実施形態の重要な特徴である。一部の実施形態において、分流器は、0°~90°範囲のβ1及びβ2(すなわち、分流器に対して上方及び/又は下方へのオフセット)と、0°~90°範囲のα1及びα2(すなわち、分流器に対して左向き及び/又は右向きへのオフセット)と、α1、α2、β1、及びβ2は必ずしも同じではなく(しかし、同じであり得る)それらが全て0°を超えるという条件とともに戻される反応流体を提供するように構成される。一部の実施形態において、分流器は、20°~60°の角度α1、α2と20°~60°の角度β1、β2を提供するように構成される。一部の実施形態において、分流器は、25°~50°の角度α1、α2と25°~50°の角度β1、β2を提供するように構成される。一部の実施形態において、戻される流体の流れは単一ラインではないが、単一の分流器において、反応器に戻る流れの大部分は、α値とβ値の比較的狭い範囲内にあることを理解されたい。本出願の目的のために、「垂直」及び「水平」という用語が流体分流器での戻される反応流体の流れに関連して使用される場合、それらの用語はそれぞれ角度α及びβを使用して理解され得る。すなわち、「垂直流れ」又は「垂直ジェット」は、0を超えるβ、本質的に0のαで上向き及び/又は下向きに方向付けられる。「水平流れ」又は「水平ジェット」は、本質的に0のβ、0を超えるαで左向き及び/又は右向きに方向付けられる。「方向性流れ」という用語は一般に、αとβの両方が0を超える流れを指す。
【0069】
一部の実施形態において、
図1に示すように同じ又は異なる高さで、又は異なる角度(α及び/又はβ)で分流器の追加のセットを提供することができる。
図3に示すように、一部の実施形態において、分流器の出口は、反応器壁から距離(δ)だけ反応器本体に挿入することができる。一部の実施形態において、δは円筒型反応器の半径の50%以下である。一部の実施形態において、δは、円筒型反応器の半径の少なくとも10%である。一部の実施形態において、δは、円筒型反応器の半径の10%~45%である。一部の実施形態において、分流器の端部は、δが円筒型反応器の半径の約0%となるように、反応器壁とほぼ同一平面にすることができる。
【0070】
一部の実施形態において、反応器は垂直の隔壁を含むことができる。
図2及び
図3に示すように、垂直の隔壁13は、反応器1の壁に結合され得る。一部の実施形態において、垂直の隔壁を有利に使用して、混合を促進し、及び/又は全体的な循環流を防止することができる。
【0071】
本発明の実施形態で使用する分流器は、いくつかの形態を有することができる。一部の実施形態において、分流板は、反応流体を反応器に戻す配管の端部に近接して配置される。
図4は、90°回転した場合に、戻り配管18を出る反応流体の流れを垂直(上下)又は水平(左右)に分割するように設計された分流板17の一実施形態を示す。分流板の特定の設計は、本発明にとって重要なものではない。
図4に示すように、分流板は角度を形成する単純な金属片にすることができる。あるいは、反応器に入る戻り管の端で単純な「T」又は「Y」の形を採用するか、反応器内に分流板を取り付けて流れをそらすことができる。さらに、
図4に示すように、配管リデューサー、ノズル、テーパー付き端部、又はオリフィス付きの配管キャップを戻り管の端部に取り付けて、分流板(又は分流器)の代わりに方向性液体ジェットを作製することができる。本出願の目的のために、分流器という用語は「ノズル」、「ジェットノズル」、及び「分流板」を含み、これらの用語は一般に、それらのうちの1つのみが議論されていることが文脈から明確でない限り交換可能に使用される。
【0072】
本発明は、活性撹拌器(撹拌器14が
図1に示されている)とともに使用することができ、(α)、特に(β)に基づく液体ジェット流が、撹拌ブレード又はシャフトを妨害しないか直接的に影響を与えないようにすべきであるが、これにより、撹拌器に許容できないトルク又は振動が発生する可能性がある。一部の実施形態において、撹拌器14は、反応器1内に配置されてもよいが、利用されなくても(すなわち、動作していなくても)よい。一部の実施形態において、撹拌器は存在しない。
【0073】
分流板が戻り管に配置されている実施形態の場合、戻りライン内に分流板を配置すると、管の断面の流れ面積が減少し、流体の速度が増加することを理解されたい。速度の制限と増加により、一般に、散逸することなく長距離を移動できる周囲の媒体(バルク反応器の流体)に注入される流体の流れとして説明される液体ジェットが生成される。液体ジェットの形状、方向、及び長さは、分流器での速度、バルク及びジェット流の流体粘度、流体質量と運動量、分流器の形状と方向、遮るもののないジェット経路長など、多くの要因の関数である。液体ジェット流の流体運動量は、せん断力によってバルク反応器の流体に混合エネルギーを与える。分流器の様々な構成(例えば、分流板、ノズルなど)が、戻る反応器の流体からバルク反応器の流体内の液体ジェットを作り出すことを理解されたい。一般的に、このような実施形態において、分流器の流れ面積と戻される反応流体の流量との組み合わせは、円筒型反応器の内側に、運動量を与えるとともにて円筒型反応器内のバルク流体のガス/液体及び液体/液体混合を引き起こす流体ジェットが形成されることを理解されたい。
【0074】
分流器が戻される反応流体にジェット流を提供する実施形態では、分流器は、反応器内の実質的なジェット経路長を最大化又は提供するように方向付けられて混合エネルギーを提供することができる。実質的なジェット経路長を提供することによって(すなわち、反応器内のバルク流体内の戻される反応流体の浸透を増加させることによって)、戻される反応流体は、さらなる運動量とともにバルク流体の混合エネルギーを与えるためにさらなる反応器内のバルク流体と接触する。分流器の向きは、例えば、ジェットの自然消散の前に反応器壁に接触することを避けるように、戻される反応流体を方向付けることにより、ジェット経路長を最大化することができる。
【0075】
分流器から生じる増加した速度、反応器で必要な混合を生成し、ボトルネック解消アップグレードなどの実質的な設備投資なしに既存の反応器の簡単な改造を可能にする。
【0076】
驚くべきことに、本明細書に記載の分流器を使用することにより、バルク反応器の流体の同レベルのガス/液体及び液体/液体混合を提供しながら、撹拌器を動作させることなく反応器の動作が可能になることが分かった。戻される反応流体の流量を増やすと、撹拌器を動作させなくても安定した運転が可能になる。増加された再循環流量と分流器を介した追加の圧力降下を促進するためには、従来の方法(単一再循環ポンプ)を使用して反応流体を冷却して反応器に戻すシステムと比較して、より大きなポンプ、より大きなポンプインペラ、より大きなポンプモータ又は複数のポンプが必要になる場合がある。撹拌器を使用せずに反応器内で適切な混合を提供することにより、本発明の実施形態は、撹拌器モータ、撹拌器シール、撹拌器シャフト/インペラ、定常軸受又は同様の撹拌器関連の問題がある場合、ユニットをシャットダウンして修理を行うことができるようになるまで、反応器の連続運転を有利に可能にすることができ、計画外の生産損失を回避できる。
【0077】
反応器内で良好な混合を行うために、反応器内のバルク流体を撹拌するのに費やされるエネルギー量は、従来の撹拌器ベースの設計から大きくは変化しないが、混合エネルギーは新しい方法で導入される。混合量は従来の設計から周知であるため、本発明の実施形態において十分な流量を生成するためにポンプから必要なエネルギーを算出することは容易である。一部の実施形態において、少なくとも0.5kW/m3の総混合エネルギーが反応器内の反応流体に送達される。一部の実施形態において、少なくとも0.7kW/m3の総混合エネルギーが反応器内の反応流体に送達される。一部の実施形態において、少なくとも0.9kW/m3の総混合エネルギーが反応器内の反応流体に送達される。上述したように、一部の実施形態によれば、戻される反応流体は、反応器内の総混合エネルギーの少なくとも15%(及び一部の実施形態では100%まで)を提供することができる。撹拌器が動作してからオフになるか、その回転速度が低下する実施形態では、ポンプに供給される電力を増やすか、予備ポンプを使用するか、より大きなポンプを動作させるか、又は同様の手法により、戻される反応流体によって供給される混合エネルギーを増加させることができる。
【0078】
外部熱交換器を介して反応熱を除去するのに十分な再循環流は、熱交換器が適切に動作するためにかなりの流量を有する。一般に、過剰な流れは熱交換器の動作に有害ではないが、反応器内で十分な混合を行うために必要な場合がある。熱交換器の周りの任意のバイパスライン10を使用して、熱交換器の制限に対処できる。反応器の内容物を混合するのに十分な運動量を与えるように再循環流を設計することは、上述の再循環ラインの末端に非常に単純な分流器を使用することを除いて、従来の設計からの大きな変化はない。
【0079】
新しい反応器の場合、本発明の一部の実施形態は、撹拌器のコスト、並びにメンテナンス/交換を必要とする撹拌器シール及び安定したベアリングの必要性を有利に排除でき、シール漏れを排除できる。
【0080】
図2及び
図3に示すように、本発明の一部の実施形態では、反応器内に垂直の隔壁を設けることができる。他の実施形態では、水平の隔壁を反応器に設けて、本体内に複数の反応ゾーンを生成することができる。そのような水平な隔壁は、例えば、米国特許第5,728,893号に記載されている。そのような実施形態では、反応流体を戻すための別個の戻りライン及び分流器を各反応ゾーンで使用することができる。一部の実施形態において、反応器は水平及び垂直の隔壁の両方を含むことができ、他の実施形態では、水平の隔壁のみ又は垂直の隔壁のみが提供される。
【0081】
本発明の一部の実施形態を、以下の実施例において詳細に説明する。
【実施例】
【0082】
実施例1及び比較例A
従来のCSTRヒドロホルミル化反応器の混合効率を確立するために、算出流体力学(CFD)モデリング研究が行われた。反応システムの概略図を
図5~6に示す。
図5~6は、反応器の概略図と特定のデバイスの位置を示す。様々な成分の寸法と位置を表1に示す。動作圧力は約16bargである。この圧力で、液体プロピレンの密度は約737kg/m
3(約46lb/ft
3)であり、合成ガスの密度は約21.5kg/m
3(1.35lb/ft
3)である。全ての例の合成ガスと液体プロピレンの供給流量も表1に示す。液体プロピレンの粘度は0.0003Pa.s、合成ガスの粘度は1.8e
-5Pa.sとする。合成ガスと液体プロピレンの間の気液表面張力は、同様の有機物の典型的な値に合わせて、18ダイン/cm(0.018N/m)とする。合成ガスは、反応器の下接線に近接して配置されたリングスパージャーで導入される。スパージャーの直径は102cmで、直径がそれぞれ7.9mmの69個の穴があり、15mmの間隔で配置される。CFD反応器モデルには、反応器の底部近くにある単一の標準52インチの直径ガス分配タービンと、85rpm以下で動作する反応器の中央と上部近くにある直径60インチの2つのピッチドブレード液体混合撹拌器とが含まれる。
【0083】
CFDモデリングの目標は、液体中のガスの負荷又は停滞と、ガスの分布の均一性を評価することであって、ガスの負荷又は停滞は、反応流体内のガスの体積%で定義され、反応器内のガスの体積%と液体の体積%との合計が全体反応気流体の体積に等しい。反応流体に分散及び溶解されている合成ガスのみが反応できるため、反応器に導入された合成ガスは、気泡として蒸気/液体界面に上昇する代わりに迅速に分散及び溶解され、反応器の蒸気空間から外れて入り、反応に使用できなくなる。さらに、合成ガスが分散又は溶解されていない反応器内の容積は、反応物が欠乏しているため、反応器の反応又は生産性に寄与しない。多くの加水分解可能な触媒は、反応温度で合成ガスの非在下で触媒の劣化を示し、低分散又は溶解された合成ガスの領域は、触媒性能の低下に寄与する。あるいは、多くのロジウムホスフィン触媒は高CO環境で分解を示すため、過度に溶解された合成ガス濃度の領域も避ける必要がある。したがって、高度に分散された(高いガスの停滞又はガス分率)且つ均一なガス混合が最も望ましい結果である。
【0084】
本発明の混合特性を評価するためには、CFDモデリングからガス分布を調べて、ガス分布の均一性とガス負荷の範囲の両方を識別することが便利である。十分に撹拌されたCSTR反応器を用いた商業上の経験では、ガス負荷値は5~12%の範囲であり、8%を超えることが好ましい。
【0085】
CFDモデリングプログラムを使用して、反応器全体の全体又は平均のガス負荷値を予測できるが、これにより、ガス負荷が高い又は低い領域と滞留時間が短い領域の局所的な影響が強調されない場合がある(例えば、配管の入口/出口、近くの撹拌器インペラなど)。
【0086】
評価対象の特定のケースに対する得られたガス分布の変動又は均一性をより良く評価するためには、全体の反応器の体積におけるガス分布結果のパターンを視覚的に評価する(すなわち色分けされたガス分率又は密度)だけでなく、より定量的に、下接線(BTL)から一様な間隔で反応器の体積の少数の水平スライスを使用し、より小さい体積のガス分率を算出し、各部分から算出されたガス分布値の標準偏差と全体ガス分率とを比較することが便利であり、これにより、複数の設計ケースについてCFDモデリング結果を直接比較することができる。標準偏差の値が小さいほど、変動が少ないか、ガス分布がより均一であり、ガス/液体の混合が良好であることを示す。標準偏差の値が大きいほど、変動が大きいか、ガス分布が均一でなく、ガス/液体混合が少ないを示す。
【0087】
分流器を使用する場合と使用しない場合の典型的な商業規模のヒドロホルミル化反応器のCFDモデリングの結果を以下で説明する。これらの例では、分流器を使用する場合(実施例1)、分流器は、
図1、6、及び7に示すように、戻りラインの端に近接して配置された分流板である。
【0088】
【0089】
上記の反応器のシステムを使用して、CFDモデリング算出を実行した。100秒後の結果(定常状態として取得)を以下で比較する。反応は想定されておらず、ガス/液体の密度(ガス分率で表される)は単純化のためにモデル化された。底部の接線から1メートルごとに取られた水平スライスは、反応器の混合特性を評価するために使用される。実施例1は、
図6及び7に示すように、α1=90°及びβ1=β2=45°の分流板を使用した。比較例Aは、分流板を使用しなかった。比較例Bは、撹拌器が作動していなかったことを除いて、実施例1と同様であった。従来の複数の撹拌器インペラの設計による商業運転では、平均ガス分布が5vol%ガス超、好ましくは6vol%ガス超、より好ましくは8vol%ガス超の場合に、安定した動作(良好な混合と反応器の温度の制御)が観察された。これらの条件が満たされない場合は、不安定な動作を示した(不十分な混合と温度制御)。
【0090】
結果を表2に示し、
図8に視覚的に示す。
図8(及び
図9~10)において、反応器の図の右側に示されている値は、下接線から1メートル間隔の水平スライスのガス分率のパーセンテージである。左端のグレースケールは、体積ガスの小数単位(例えば、中間値は0.0075又は7.5%)であり、スケール上で均一に高い数値が好ましい。
図8では、実施例1のガス分率分布を左側に、比較例Aの分布を右側に示す。実施例1の反応流体中の全体のガス分率は、全体のガス分率が5.3%の比較例Aと比較して、8.3%である。水平スライスの平均は、実施例1では6.4%である(比較例Aでは4.6%である)。スライスの標準偏差によって評価されるガス/液体混合の均一性は、比較例Aの2.8と比較して、実施例1では2.0である。ガス分率は、比較例A(分流器無し)と比較して、実施例1(分流器有り)においてより明らかに高く、均等に分散している。
実施例2及び3
【0091】
動作中の2つの再循環ポンプをモデル化する、戻される反応流体の再循環流が1.73倍増加された追加の比較CFDモデリング実験を実行した。実施例2では、撹拌器が作動しており、2つの再循環ポンプ(1.73x実施例1の流量=1.73x)が作動中である。実施例3では、撹拌器は動作しておらず、2つの再循環ポンプ(1.73x流量)が動作中である。結果を
図9及び表2に示す。
図9では、実施例2(撹拌器がオン)のガス分率分布を左側に示し、実施例3(撹拌器がオフ)の分布を右側に示す。上記の結果とは対照的に、実施例3で撹拌器をオフにすると、再循環ループへの巻き込みは実質的になく、反応器の底部の合成ガスの「ホットスポット」が減少した。実施例3では、動作する従来の撹拌器が欠如しているにもかかわらず、著しく均一で良好に混合された反応流体が観察される。さらに、2つのポンプを使用しているにも関わらず、撹拌器が作動していないことにより、他の実施例と比較して、実施例3で必要な総エネルギーが少なくなる。
実施例4
【0092】
入口ジェットがα=30°及びβ1=β2=45°のデュアルノズルを備えた対称的でバランスの取れた戻りの対として方向付けられていることを除いて、上記の実施例2と全く同様に別のモデリング実験を実行した。ジェットは、垂直から30°下方に回転した、単純な「V」字型のプレート(β1=β2=45°)を使用して作製された(α=30°)。実施例4では、撹拌器は動作せず、2つの再循環ポンプが動作している(再循環流1.73x)。結果を
図10及び表2に示す。再循環ループへの巻き込みが実質的になかったため、底部の合成ガスの「ホットスポット」が減少し、非常に均一なガス分布が得られた。動作する従来の撹拌器が反応器内に欠如しているにもかかわらず、著しく均一で良好に混合されたガス/液体反応流体が観察される。
【0093】
【0094】
上記のモデリング結果は、既存の設備で有効であった(比較例B)。設備は、実施例1(1x)に記載されているように動作されたが、撹拌器は作動していなかった。この配置は、不安定な反応器の動作を示した(反応器内のガス/液体の混合不良、反応器の温度/分圧制御の不良)。実施例2及び3で説明したように再循環流量を1.73xに増加させた場合、撹拌器を動作させなくても、非常に安定した反応器の動作(反応器内での良好なガス/液体混合、良好な反応器の温度/分圧制御)が観察された(実施例3)。これにより、最小電力/体積は10.5kW/50m3=0.21kW/m3を超える必要があることが確認された。最小電力/体積は、0.5kW/m3であり、一部の実施形態では0.7kW/m3を超え、一部の実施形態では0.8kW/m3を超える必要がある。
【0095】
これらの結果は、従来の再循環ループの修正を使用して適切に設計された反応流体戻りシステムが、撹拌器を必要とせず、利用しなかったり除去したりすることができるように、十分に混合された反応流体をもたらすことができることを示す。これは、プラントの稼働中に機械的な問題により撹拌器をシャットダウンする必要がある状況において特に重要である。後者の場合、追加の混合エネルギーは、例えば、予備のポンプを使用することによって分流器を通る流れを増加させることにより供給することができる。
実施例5
【0096】
気泡サイズとリサイクル流量の影響を評価するために、2つの再循環流量(それぞれ、1x=0.32m3/s(シングルポンプ)及び1.73x=0.49m3/s(2つのポンプ))、一連の固定の気泡サイズ、及び撹拌器なしの条件下で一連のモデリング実験を行った。いずれの場合も、リサイクル流量と再循環戻りノズルの数とサイズによってノズル速度が決定される。結果を表3に示す。この場合、表1に記載されている装置では、流量0.32m3/s及び1mmの気泡サイズの結果は、上記の実施例3とほぼ等しく、良好なプラント試験を再現してCFDモデリング結果が確認される。
【0097】
【0098】
実施例5は、気泡のサイズを小さくするか、再循環ループ内の流量を増やすことにより、得られたガス/液体混合物のガス分率と均一性を高めることができることを示している。