(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】TMPRSS6遺伝子の発現を阻害する組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20221003BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20221003BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20221003BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C12N15/113 130Z
A61K31/713
A61P3/00
A61P7/06
(21)【出願番号】P 2020136560
(22)【出願日】2020-08-13
(62)【分割の表示】P 2018187854の分割
【原出願日】2012-03-28
【審査請求日】2020-09-11
(32)【優先日】2011-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2011-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505369158
【氏名又は名称】アルナイラム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ALNYLAM PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】バンクロット、デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ベッテンコート、ブライアン
(72)【発明者】
【氏名】トウジャースカ、イヴァンカ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0192104(US,A1)
【文献】特表2011-505425(JP,A)
【文献】国際公開第2009/134487(WO,A2)
【文献】国際公開第2010/148013(WO,A2)
【文献】LAKHAL S. et al.,J. Biol. Chem.,2011年02月,286(6),p.4090-4097
【文献】MAXSON J.E. et al.,J. Biol. Chem.,2010年,285(50),p.39021-39028
【文献】FINBERG K. et al.,Tmprss6, An Inhibitor of Hepatic Bmp/Smad Signaling, Is Required for Hepcidin Suppression and Iron L,Blood,2010年,116(21),p.164,Abstract 164
【文献】PARK T. J. et al.,Mol. Cells,2005年,19(2),p.223-227
【文献】程 久美子 他,RNAi実験なるほどQ&A,株式会社 羊土社,2006年,p.52-53, 88-96
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
A61K 31/33-33/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞中のTMPRSS6発現を阻害するための二本鎖RNAi剤であって、
二本鎖領域を形成するセンス鎖およびアンチセンス鎖を含み、
前記アンチセンス鎖が、ヌクレオチド配列AGAAUGAACCAGAAGAAGC(配列番号110)と3ヌクレオチド以下で異なる少なくとも15個の連続ヌクレオチドを含み、
各鎖が、独立して15~30ヌクレオチド長であり、
前記センス鎖
の全てのヌクレオチドおよび前記アンチセンス鎖
の全てのヌクレオチドが修飾ヌクレオチドであり、
少なくとも1本の鎖がリガンドに結合している、二本鎖RNAi剤。
【請求項2】
細胞中のTMPRSS6発現を阻害するための二本鎖RNAi剤であって、
二本鎖領域を形成するセンス鎖およびアンチセンス鎖を含み、
前記アンチセンス鎖が、ヌクレオチド配列AGAAUGAACCAGAAGAAGC(配列番号110)と3ヌクレオチド以下で異なる少なくとも16個の連続ヌクレオチドを含み、
各鎖が、独立して
16~30ヌクレオチド長であり、
前記センス鎖
の全てのヌクレオチドおよび前記アンチセンス鎖
の全てのヌクレオチドが修飾ヌクレオチドであり、
少なくとも1本の鎖がリガンドに結合している、二本鎖RNAi剤。
【請求項3】
各鎖が、独立して15~25ヌクレオチド長である、請求項
1に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項4】
各鎖が、独立して19~24ヌクレオチド長である、請求項1または2に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項5】
各鎖が、独立して19~21ヌクレオチド長である、請求項1または2に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項6】
各鎖が、30ヌクレオチド長である、請求項1または2に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項7】
各鎖が、独立して16~25ヌクレオチド長である、請求項
2に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項8】
前記修飾ヌクレオチドの少なくとも1つが、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、5’-ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、コレステリル誘導体またはドデカン酸ビスデシルアミド基に連結する末端ヌクレオチド、ロックされたヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロ修飾ヌクレオチド、2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、2’-アミノ修飾ヌクレオチド、2’-アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミダート、および非天然塩基包含ヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1または2に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項9】
前記修飾ヌクレオチドの少なくとも1つが、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、5’-ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、および2’-アミノ修飾ヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1または2に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項10】
少なくとも1本の鎖が、少なくとも1ヌクレオチドのオーバーハングを含む、請求項1に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項11】
前記剤が、少なくとも1つのホスホロチオエートヌクレオチド間結合をさらに含む、請求項1に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項12】
前記リガンドが、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)誘導体である、請求項1に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項13】
前記リガンドが、下記構造:
【化1】
を含む炭水化物複合体を含む、請求項1に記載の二本鎖RNAi剤。
【請求項14】
請求項1に記載の剤を含む、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害するための医薬組成物。
【請求項15】
請求項2に記載の剤を含む、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害するための医薬組成物。
【請求項16】
TMPRSS6発現によって媒介される障害を有するヒト対象を治療する方法に使用するための、請求項1もしくは2に記載の二本鎖RNAi剤、または請求項14もしくは15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記ヒトが、ヘモクロマトーシスと関連する障害を有する、請求項16に記載の二本鎖RNAi剤または医薬組成物。
【請求項18】
前記ヒトが、βサラセミアを有する、請求項16に記載の二本鎖RNAi剤または医薬組成物。
【請求項19】
前記ヒトが、中間型βサラセミアを有する、請求項16に記載の二本鎖RNAi剤または医薬組成物。
【請求項20】
前記二本鎖RNAi剤が、皮下または静脈内投与される、請求項16に記載の二本鎖RNAi剤または医薬組成物。
【請求項21】
細胞中のTMPRSS6発現を阻害する方法に使用するための二本鎖RNAi剤または医薬組成物であって、前記方法が、
(a)請求項1に記載の二本鎖RNA(dsRNA)を細胞に導入するステップと;
(b)ステップ(a)で生成された細胞をTMPRSS6遺伝子のmRNA転写物の分解を得るのに十分な時間維持し、それによって細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するステップとを含む、
請求項1もしくは2に記載の二本鎖RNAi剤、または請求項14もしくは15に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記TMPRSS6の発現が、少なくとも30%阻害される、請求項21に記載の二本鎖RNAi剤または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
2011年3月29日に出願された米国仮特許出願第61/468,830号明細書、および2011年12月9日に出願された米国仮特許出願第61/568,942号明細書の本出願。これらの先行出願は、その内容全体を参照によって本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、TMPRSS6遺伝子の発現の特異的な阻害に関する。
【背景技術】
【0003】
TMPRSS6(膜貫通プロテアーゼ、セリン6)は、II型セリンプロテアーゼをコードし、主に肝臓中で発現される。TMPRSS6は、ヘプシジン活性化因子およびBMP共受容体HJV(ヘモジュベリン(hemojuvelin))への結合とタンパク分解性分解とによって、ヘプシジンレベルの下方制御を引き起こすことで、肝臓中の鉄レベルに影響を及ぼす。
【0004】
TMPRSS6は、短いN末端細胞質内テールと、II型膜貫通ドメインと、2つの細胞外CUB(補体因子C1s/C1r、ウニ胚性成長因子およびBMP(骨形成タンパク質))ドメインから構成されるステム領域、3つのLDLR(低密度リポタンパク質受容体クラスA)ドメインと、C末端トリプシン様セリンプロテアーゼドメインとからなる。また細胞外ドメイン中にはN-グリコシル化のコンセンサス部位があり、細胞質内テール領域中には潜在的リン酸化部位もある。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】ヒトTMPRSS6 mRNA(参照配列NM_153609.2、GI:56682967、記録日2011年1月23日、配列番号1)の配列である。
【
図2A】マウス初代培養肝細胞中のTMPRSS6遺伝子発現の低下に対する、2つの化学修飾されたTMPRSS6標的化siRNAの効力を描写する。
【
図2B】マウス初代培養肝細胞中のTMPRSS6遺伝子発現の低下に対する、2つの化学修飾されたTMPRSS6標的化siRNAの効力を描写する。
【
図3A】それぞれWT C57BL/6マウスにおけるTMPRSS6およびHAMP1遺伝子発現に対する、LNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)およびLNP-TMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)の効果を描写する。
【
図3B】それぞれWT C57BL/6マウスにおけるTMPRSS6およびHAMP1遺伝子発現に対する、LNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)およびLNP-TMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)の効果を描写する。
【
図4】WT C57BL/6マウスにおけるTMPRSS6遺伝子発現、HAMP1遺伝子発現、および血清鉄レベルに対する、TMPRSS6 siRNA媒介効果の持続時間を描写する。
【
図5】WT C57BL/6マウスにおけるHAMP1遺伝子発現と血清鉄レベルに対する、TMPRSS6 siRNA媒介効果を維持するのに必要な、TMPRSS6 siRNA媒介TMPRSS6サイレンシングのレベルを描写する。
【
図6A】WT C57BL/6マウスにおける血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図6Aは、WT C57BL/6マウスにおける、投与の6時間、24時間、48時間、72時間、7日、および14日後のヘモグロビン(HBG:hemoglobin)に対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
【
図6B】WT C57BL/6マウスにおける血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図6Bは、投与の6時間、24時間、48時間、72時間、7日、および14日後のWT C57BL/6マウスにおける、ヘマトクリットに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
【
図7】サラセミアのマウス(Th3/+)における、血清鉄レベル、不飽和鉄結合能(UIBC:unsaturated iron binding capacity)レベル、およびトランスフェリン飽和レベルをはじめとする血清鉄パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
【
図8A】サラセミアのマウス(Th3/+)における、網状赤血球および赤血球パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図8Aは、網状赤血球数に対する効果(%)を描写する。
【
図8B】サラセミアのマウス(Th3/+)における、網状赤血球および赤血球パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図8Bは、網状赤血球(CHr:hemoglobin content of reticulocytes)のヘモグロビン含量に対する効果を描写する。
【
図8C】サラセミアのマウス(Th3/+)における、網状赤血球および赤血球パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図8Cは、成熟赤血球数に対する果を描写する。
【
図9A】サラセミアのマウス(Th3/+)における、血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図9Aは、ヘマトクリット(HCT:hematocrit)レベルに対する効果を描写する。
【
図9B】サラセミアのマウス(Th3/+)における、血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図9Bは、ヘモグロビン(HGB:hemoglobin)に対する効果を描写する。
【
図9C】サラセミアのマウス(Th3/+)における、血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図9Cは、赤血球(RBC:red blood cell)分布幅(RDW:red blood cell distribution width)に対する効果を描写する。
【
図9D】サラセミアのマウス(Th3/+)における、血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図9Dは、平均赤血球容積(mean corpuscle value)(MCV:mean corpuscle value)に対する効果を描写する。
【
図10A】サラセミアのマウス(Th3/+)における、脾臓および肝臓鉄含量に対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図10Aは、総脾臓鉄含量に対する効果を描写する。
【
図10B】サラセミアのマウス(Th3/+)における、脾臓および肝臓鉄含量に対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図10Bは、脾臓重量に対する効果を描写する。
【
図10C】サラセミアのマウス(Th3/+)における、脾臓および肝臓鉄含量に対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を描写する。
図10Cは、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの肝臓中の鉄濃度に対する効果を描写する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書では、細胞または哺乳類などにおいて、TMPRSS6遺伝子のRNA転写物のRNA誘導サイレンシング複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)媒介切断をもたらす、組成物および方法が記載される。鉄過剰によって特徴付けられる障害(例えば中間型βサラセミアまたはαサラセミアなどのサラセミア)など、TMPRSS6遺伝子の発現によって引き起こされる、病的状態および疾患を治療するための組成物および方法もまた記載される。鉄の吸収または可動化を低下させあるいは妨げて、その結果、特定の病的状態における鉄過負荷を改善する、組成物および方法もまた記載される。本明細書に記載される方法および組成物は、一般にヘモクロマトーシス(体内鉄蓄積)の治療に有用である。
【0007】
本明細書の用法では、「iRNA」という用語は、本明細書で定義されるRNAを含有し、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)経路を通じてRNA転写物の標的切断を媒介する、作用物質を指す。一実施形態では、本明細書に記載されるiRNAは、細胞または哺乳類におけるTMPRSS6の発現を阻害する。代案としては、別の実施形態では、iRNAは、細胞または哺乳類におけるTMPRSS6の発現を上方制御する。
【0008】
本明細書で取り上げる組成物に含まれるiRNAは、TMPRSS6遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部と実質的に相補的である、30ヌクレオチド以下、一般に19~24ヌクレオチド長の領域を有する、RNA鎖(アンチセンス鎖)を有する、二本鎖RNA(dsRNA:double-stranded ribonucleic acid)を包含する。一実施形態では、dsRNAは、少なくとも15個の連続ヌクレオチドの領域を含んでなる。
【0009】
一実施形態では、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害するiRNAは、少なくとも2つの互いに相補的な配列を含む。iRNAは、第1の配列を有するセンス鎖と、第2の配列を有するアンチセンス鎖とを含む。アンチセンス鎖は、TMPRSS6をコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的なヌクレオチド配列を含み、相補性領域は、30ヌクレオチド以下、および少なくとも15ヌクレオチド長である。一般にiRNAは、例えば19~21など、19~24のヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、iRNAは約15~約25ヌクレオチド長であり、別の実施形態では、iRNAは約25~約30ヌクレオチド長である。iRNAは、本明細書に記載される方法などでアッセイすると、TMPRSS6を発現する細胞との接触時に、TMPRSS6遺伝子の発現を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、または少なくとも40%以上阻害する。一実施形態では、TMPRSS6 iRNAは、安定した核酸脂質粒子(SNALP:stable nucleic acid lipid particle)に調合される。
【0010】
一実施形態では、本明細書で取り上げるiRNAは、テーブル2、3または4のセンス配列からなる群から選択されるdsRNAの第1の配列と、テーブル2、3または4のアンチセンスセンス配列からなる群から選択される第2の配列とを含む。本明細書で取り上げるiRNA分子は、天然ヌクレオチドを含み得て、または2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、5’-ホスホロチオエート基を有するヌクレオチド、およびコレステリル誘導体に連結する末端ヌクレオチドをはじめとするが、これに限定されるものではない、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含み得る。代案としては、修飾ヌクレオチドは、2’-デオキシ-2’-フルオロ修飾ヌクレオチド、2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、ロックされたヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’-アミノ修飾ヌクレオチド、2’-アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミダート、および非天然塩基包含ヌクレオチド群から選択されてもよい。一般に、このような修飾配列は、テーブル2、3または4のセンス配列からなる群から選択される前記iRNAの第1の配列と、テーブル2、3または4のアンチセンス配列からなる群から選択される第2の配列とをベースとする。
【0011】
一実施形態では、本明細書で取り上げるiRNAは、配列番号111、配列番号455、配列番号109、配列番号524、配列番号89、配列番号494、配列番号445、配列番号592、配列番号47、および配列番号540からなる群から選択される配列を有する、TMPRSS6 dsRNAのセンス鎖;および配列番号112、配列番号456、配列番号110、配列番号525、配列番号90、配列番号495、配列番号446、配列番号593、配列番号48、および配列番号541からなる群から選択される配列からなる、アンチセンス鎖を含む。
【0012】
別の実施形態では、例えば肝臓鉄レベル上昇などの鉄レベル上昇を有する対象に、TMPRSS6標的化dsRNAを含有する組成物が投与される。鉄レベルの上昇を有する対象は、(例えば350μg/dLを超え、500μg/dLを超え、または1000μg/dLを超える)血清鉄レベルの上昇、血清フェリチンレベルの上昇、または40%を超え、45%を超え、50%を超え、60%を超えるトランスフェリン飽和レベルを有する対象として、同定され得る。
【0013】
軽度から中等度の鉄過負荷が、300~2500μg/Lの血清フェリチンレベルによって示唆される一方、2500μg/Lを超えるレベルは、心疾患リスクの増大と関連付けられている。1000μg/Lを超える血清フェリチンは、原発性および二次性鉄過負荷の双方で、有害転帰と関連付けられている。閉経前の女性における200μg/Lを超える、男性および閉経後の女性における300μg/Lを超える血清フェリチンレベルは、ヘモクロマトーシスに起因する原発性鉄過負荷を示唆し、1000μg/Lを超えるフェリチンレベルは、典型的に、鉄過負荷に起因する肝障害を示唆する。300μg/L、500μg/L、1000μg/L、1500μg/L、2000μg/L、または2500μg/Lを超える血清フェリチンレベルを有する対象は、TMPRSS6標的化dsRNAによる治療の候補である。
【0014】
別の実施形態では、例えば400mg/dLを超え、500mg/dLを超え、1000mg/dLを超える、トランスフェリンレベルなどの)トランスフェリンレベルの上昇を有する対象に、TMPRSS6標的化dsRNAを含有する組成物が投与される。
【0015】
鉄レベルはまた、TIBC(総鉄結合能(Total Iron Binding Capacity))検査によっても測定し得る。TIBC検査は、トランスフェリンが完全に飽和された場合に、血液が輸送する鉄の量を測定する。トランスフェリンは肝臓によって産生されるので、TIBCを使用して、肝機能および栄養をモニターし得る。400μg/dLを超え、500μg/dLを超え、または1000μg/dLを超えるTIBC値を有する対象は、TMPRSS6標的化dsRNAによる治療の候補である。
【0016】
一実施形態では、dsRNAの投与は、例えば肝臓中または血清中の鉄レベルを例えば少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%、またはそれ以上など、少なくとも5%低下させる。いくつかの実施形態では、血清フェリチンレベル、血清トランスフェリンレベル、トランスフェリン飽和レベル、またはTIBC値の1つまたは複数が、治療前のレベルと比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%以上低下する。別の実施形態では、鉄レベル低下、血清フェリチンレベル低下、トランスフェリンまたはトランスフェリン飽和レベル低下、またはTIBC値低下は、少なくとも5、10、20、30、または40日間またはより長期間維持される。
【0017】
一実施形態では、対象は、少なくともある程度は、鉄レベル低下の必要性に基づいて選択される(たまたまそれを必要とする患者を単に選択するのとは対照的に)。
一実施形態では、本明細書に記載されるiRNAは野生型TMPRSS6 RNA転写物を標的とし、別の実施形態では、iRNAは変異転写物(例えば対立遺伝子変異体を保有するTMPRSS6 RNA)を標的とする。例えば本発明で取り上げるiRNAは、TMPRSS6の一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)などの多型変異体を標的とし得る。別の実施形態では、iRNAは、野生型および変異TMPRSS6転写物の双方を標的とする。さらに別の実施形態では、iRNAは、TMPRSS6の転写変異体を標的とする。
【0018】
一実施形態では、本発明で取り上げるiRNAは、5’または3’非翻訳領域など、TMPRSS6 RNA転写物の非コード領域を標的とする。
一実施形態では、本発明で取り上げるiRNAは、例えば肝臓の肝実質細胞など、または例えば肥大性クッパー細胞などのクッパー細胞など、肝臓に送達される。
【0019】
一態様では、本発明で取り上げる実施形態は、本発明で取り上げる少なくとも1つのiRNAを含有する細胞を提供する。細胞は、一般にヒト細胞などの哺乳類細胞である。
別の態様では、本発明で取り上げる実施形態は、一般にヒト対象である生物中で、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害する医薬組成物を提供する。組成物は、典型的に、本明細書に記載されるiRNAの1つまたは複数、および薬学的に許容できる担体または送達ビヒクルを含む。一実施形態では、組成物は、例えばヘモクロマトーシスなどの鉄レベル増大を引き起こす障害を治療するのに使用される。例えば組成物は、中間型βサラセミアなどのサラセミアを治療するのに有用である。
【0020】
別の実施形態では、医薬組成物は、例えば2ヶ月に1回以下、1ヶ月に1回以下、1ヶ月に2回以下、4週間に1回以下、3週間に1回以下、2週間に1回以下、または1週間に1回以下などの本明細書に記載される投薬計画実施のために調合される。別の実施形態では、医薬組成物の投与は、例えば、1、2、3、または6ヶ月、または1年間、または5年間、または10年間、またはより長期に対象の寿命の残りなど、1ヶ月間以上継続し得る。
【0021】
別の実施形態では、例えばTMPRSS6標的化dsRNAなどの本明細書に記載されるiRNAを含有する組成物は、ヘモクロマトーシス、またはサラセミアなどのヘモクロマトーシスを引き起こす障害を治療することが知られている作用物質などの非iRNA治療薬と共に、投与される。例えば本発明で取り上げるiRNAは、中間型βサラセミアなどのβサラセミア、または鉄レベル増大に関連する別の障害を治療するための作用物質と共に、投与し得る。
【0022】
別の実施形態では、TMPRSS6 iRNAが患者に投与され、次に非iRNA剤が患者に投与される(またはその逆)。別の実施形態では、TMPRSS6 iRNAおよび非iRNA治療薬が同時に投与される。一実施形態では、作用物質は、例えば鉄キレート化剤(例えばデスフェリオキサミン)、または葉酸などの鉄レベルに影響を及ぼす作用物質である。
【0023】
別の態様では、以下のステップを実施することで、細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を阻害する方法が本明細書で提供される:
(a)互いに相補的な少なくとも2つの配列を含む、二本鎖リボ核酸(dsRNA)を細胞に導入するステップ。dsRNAは、第1の配列を有するセンス鎖と、第2の配列を有するアンチセンス鎖とを含み;アンチセンス鎖は、TMPRSS6をコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的な相補性領域を有し、相補性領域は30ヌクレオチド以下、すなわち15~30ヌクレオチド長、一般に19~24ヌクレオチド長であり、dsRNAはTMPRSS6を発現する細胞との接触時に、TMPRSS6遺伝子の発現を少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%以上阻害するステップ;および
(b)ステップ(a)で生成された細胞をTMPRSS6遺伝子のmRNA転写物の分解を得るのに十分な時間維持し、それによって細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するステップ。
【0024】
別の態様では、本発明は、細胞または哺乳類におけるTMPRSS6遺伝子の発現の活性化に有用な方法および組成物を提供する。
別の態様では、本明細書は、以下のステップを実施することで、細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を調節する方法を提供する:
(a)互いに相補的な少なくとも2つの配列を含む、二本鎖リボ核酸(dsRNA)を細胞に導入するステップ。dsRNAは、第1の配列を有するセンス鎖と、第2の配列を有するアンチセンス鎖とを含み;アンチセンス鎖は、TMPRSS6をコードするmRNAの少なくとも一部と実質的に相補的な相補性領域を有し、相補性領域は30ヌクレオチド以下、すなわち15~30ヌクレオチド長、一般に19~24ヌクレオチド長であり、dsRNAはTMPRSS6を発現する細胞との接触時に、TMPRSS6遺伝子の発現を少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%以上調節するステップ;および
(b)ステップ(a)で生成された細胞をTMPRSS6遺伝子のmRNA転写物の分解および保護を得るのに十分な時間維持し、それによって細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を調節するステップ。
【0025】
一実施形態では、方法は、肝実質細胞、またはクッパー細胞などの肝細胞中の遺伝子発現を阻害するためのものである。別の実施形態では、方法は、肝細胞中の遺伝子発現を活性化するためのものである。
【0026】
その他の態様では、本発明は、ヘモクロマトーシス関連障害などのTMPRSS6発現によって媒介される病理過程を治療し、予防し、回復し、または管理する方法を提供する。一実施形態では、方法は、本発明で取り上げるiRNAの1つまたは複数の治療的または予防的有効量をこのような治療、予防、回復、または管理を必要とする患者に投与するステップを含む。一実施形態では、患者は、中間型βサラセミアなどのサラセミアを有する。別の実施形態では、TMPRSS6標的化iRNAの投与は、例えば関節痛、腹痛、または脱力感などの鉄過負荷関連症状など、患者のTMPRSS6媒介障害の少なくとも1つの症状の重症度を緩和し、または軽減する。
【0027】
一態様では、本発明は、細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するためのベクターを提供する。一実施形態では、ベクターは、本明細書に記載されるiRNAの少なくとも1本の鎖をコードするヌクレオチド配列と作動可能に連結する、少なくとも1つの制御配列を含む。
【0028】
別の態様では、本発明は、細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するためのベクターを含有する細胞を提供する。ベクターは、本明細書に記載されるiRNAの1つの少なくとも1本の鎖をコードするヌクレオチド配列と作動可能に連結する、制御配列を含む。
【0029】
さらに別の態様では、本発明は、病理的疾病に関与する、第2の遺伝子を標的化する第2のiRNAと組み合わされた、TMPRSS6iRNAを含有して、例えばβサラセミアなどの疾患を治療するのに有用な組成物を提供する。例えば第2のiRNAは、例えばHIF-1aまたはHIF-2aなどの低酸素誘導因子;GDF15;またはTWSG1など、ヘプシジンの負の制御因子を標的化し得る。一実施形態では、第2のiRNAは、βサラセミアに起因する第2の障害に関与する遺伝子を標的とする。例えば第2のiRNAは、糖尿病、血栓症または骨減少症に関与する遺伝子を標的化し得る。
【0030】
本発明の様々な実施形態の詳細は、以下の説明に記載される。本発明のその他の特性、目的、および利点は、説明と図面から、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【0031】
本明細書では、iRNAと、細胞または哺乳類におけるTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するためにそれらを使用する方法とが記載され、その中でiRNAはTMPRSS6遺伝子を標的とする。鉄レベル上昇関連病状などの、TMPRSS6遺伝子発現によって引き起こされる病的状態および疾患を治療するための組成物および方法もまた、提供される。iRNAは、RNA干渉(RNAi:RNA interface)として知られている過程を通じて、mRNAの配列特異的分解を誘発する。代案の実施形態では、iRNAは、細胞または哺乳類におけるTMPRSS6遺伝子の発現を活性化し、その中でiRNAはTMPRSS6遺伝子を標的とする。
【0032】
TMPRSS6は、HAMP遺伝子発現の阻害物質として、鉄恒常性において重要な役割を果たす。HAMP遺伝子は、鉄恒常性の中心的な調節物質である、肝臓ホルモン、ヘプシジンをコードする。ヘプシジンは、吸収腸細胞、肝実質細胞、およびマクロファージに主に局在する、鉄搬出タンパク質フェロポーチン(FPN1:iron exporter protein ferroportin)に結合する。フェロポーチンの細胞外ドメインへのヘプシジン結合は、フェロポーチンの内部移行と分解をもたらし、したがって腸管からの食餌性鉄吸収、およびマクロファージと肝実質細胞からの鉄放出を低下させる。HAMP遺伝子発現は、BMP共受容体ヘモジュベリン(HJV)によって媒介される、骨形成タンパク質(BMP:Bone Morphogenetic Protein)/Sons of Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)依存性情報伝達カスケードを通じて、鉄に応答して刺激され得る。HAMP調節におけるTMPRSS6の重要な役割は、BMP媒介HAMP上方制御の阻害である。TMPRSS6は、BMP媒介HAMP上方制御に必須であるBMP共受容体HJVを切断し;したがってBMPシグナル伝達、核へのSMAD移行、およびHAMP転写活性化を妨げることで、BMP媒介HAMP上方制御を阻害する。
【0033】
いくつかのヒトおよびマウスでの研究が、HAMP調節および鉄恒常性における、TMPRSS6の役割を確認している(デュ(Du)ら著、サイエンス(Science)、2008年、第320巻、p.1088~1092;フォルゲラス(Folgueras)ら著、ブラッド(Blood)、2008年、第112巻、p.2539~45)。研究は、TMPRSS6中の機能喪失変異が、ヘプシジン発現の上方制御をもたらして、ヘプシジンレベル上昇、低色性小球性貧血、低平均赤血球容積(MCV:mean corpuscular volume)、低トランスフェリン飽和、芳しくない経口鉄吸収、および非経口鉄への不完全な応答によって特徴付けられる、鉄不応性鉄欠乏性貧血(IRIDA:iron refractory iron deviciency anemia)(フィンバーグ(Finberg)著、血液学についてのセミナー(Seminars in Hematology)、2009年、第46巻、p.378~86)と称される、遺伝性鉄欠乏性貧血を引き起こし得ることを示している。しかしHAMPの陽性調節因子(例えばBMP1、BMP4、およびHFE)の機能喪失変異は、ヘプシジン発現を下方制御して、鉄過負荷障害を引き起こすことが示されている(ミレット(Milet)ら著、アメリカンジャーナルオブヒューマンジェネティクス(Am J Hum Gen)、2007年、第81巻、p.799~807;フィンバーグ(Finberg)ら著、ブラッド(Blood)、2011年、第117巻、p.4590~9)。集合的に遺伝性ヘモクロマトーシス(HH:hereditary hemochromatosis)と称される原発性鉄過負荷障害、大量の無効造血によって特徴付けられる貧血、および中間型βサラセミア(TI:thalassemia intermedia)などの鉄過負荷(二次性ヘモクロマトーシス)においては、血清鉄濃度および鉄貯蔵の上昇にもかかわらず、ヘプシジンレベルは低い。中間型βサラセミアのマウスモデルは、TMPRSS6発現の喪失が、ヘプシジンレベル上昇をもたらすことを実証している(フィンバーグ(Finberg)著、2010年、口頭発表、「肝BMP/のSmadシグナル伝達の阻害剤であるTMPRSS6は、β-サラセミアのマウスモデルにおけるヘプシジン抑制と鉄負荷に必要とされる(TMPRSS6,an inhibitor of Hepatic BMP/Smad Signaling,is required for Hepcidin Supression and Iron Loading in a Mouse Model of β-Thalassemia)」、米国血液学会年次総会(American Society of Hematology Annual Meeting)、2010年、抄録第164号)。
【0034】
本発明は、TMPRSS6遺伝子発現を調節するための、方法およびiRNA組成物を記載する。特定の実施形態では、TMPRSS6特異的iRNAを使用して、TMPRSS6発現を低下させまたは阻害し、それによってHAMP発現増大および血清鉄レベル減少をもたらす。したがって本発明で取り上げるiRNA組成物を使用した、TMPRSS6遺伝子の発現または活性の阻害は、対象における鉄レベルの低下を目的とする治療法の有用なアプローチであり得る。このような阻害は、ヘモクロマトーシスまたは例えばβサラセミアなどのサラセミアなど、鉄レベル上昇と関連する障害の治療に有用たり得る。
【0035】
本明細書に記載される組成物のiRNAは、30ヌクレオチド長以下、すなわち15~30ヌクレオチド長、一般に19~24ヌクレオチド長で、TMPRSS6遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部と実質的に相補的である領域を有する、RNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。これらのiRNAの使用は、哺乳類におけるTMPRSS6発現と関連する病態に関係があるとされる、遺伝子のmRNAの標的化分解を可能にする。特に、非常に低投与量のTMPRSS6 iRNAは、特異的かつ効率的にRNAiを媒介し得て、TMPRSS6遺伝子の発現の著しい阻害がもたらされる。本発明者らは、細胞ベースのアッセイを使用して、TMPRSS6標的化iRNAが、特異的かつ効率的にRNAiを媒介し得て、TMPRSS6遺伝子発現の著しい阻害がもたらされることを実証した。したがってこれらのiRNAを含む方法および組成物は、例えばヘモクロマトーシス、または例えば中間型βサラセミアなどのβサラセミアなど、鉄レベル上昇を引き起こす障害の治療など、TMPRSS6の下方制御によって媒介され得る、病理過程を治療するのに有用である。以下の詳細な説明は、iRNA含有組成物をどのように製造し使用してTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するか、ならびにこの遺伝子の発現によって引き起こされる、疾患および障害を治療するための組成物および方法を開示する。
【0036】
本明細書で取り上げる医薬組成物の実施形態はまた、薬学的に許容できる担体と共に、30ヌクレオチド長以下、一般に19~24ヌクレオチド長で、TMPRSS6遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部と実質的に相補的である領域を含んでなる、アンチセンス鎖を有するiRNAも含む。本発明で取り上げる組成物の実施形態はまた、30ヌクレオチド長以下、一般に19~24ヌクレオチド長で、TMPRSS6遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部と実質的に相補的である相補性領域を有する、アンチセンス鎖を有するiRNAも含む。
【0037】
したがっていくつかの態様では、TMPRSS6 iRNAと薬学的に許容できる担体とを含有する医薬組成物、組成物を使用してTMPRSS6遺伝子の発現を阻害する方法、および医薬組成物を使用してTMPRSS6遺伝子の発現によって引き起こされる疾患を治療する方法が、本発明で取り上げられる。
【0038】
I.定義
便宜のため、明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で使用される、特定の用語と語句の意味を以下に提供する。本明細書の他の部分における用法と、本節で提供されるその定義との間に明白な矛盾がある場合、本節の定義が優先されるものとする。
【0039】
「G」、「C」、「A」、「T」、および「U」は、通常、それぞれ塩基としてグアニン、シトシン、アデニン、チミジン、およびウラシルを含有するヌクレオチドをそれぞれ表す。しかし「リボヌクレオチド」または「ヌクレオチド」という用語はまた、以下でさらに詳述されるような修飾ヌクレオチドにも、または代替置換部分にも言及し得るものと理解される。当業者は、グアニン、シトシン、アデニン、およびウラシルが、このような置換部分を有するヌクレオチドを含んでなるオリゴヌクレオチの塩基対形成特性を実質的に変更することなしに、その他の部分によって置き換えられてもよいことを十分承知している。制限を意図しない例として、その塩基としてイノシンを含んでなるヌクレオチドは、アデニン、シトシン、またはウラシルを含有するヌクレオチドと塩基対形成してもよい。したがってウラシル、グアニン、またはアデニンを含有するヌクレオチドは、本明細書で取り上げるdsRNAのヌクレオチド配列中で、例えばイノシンを含有するヌクレオチドで置き換え得る。別の実施例では、アデニンおよびシトシンは、オリゴヌクレオチドのどこでも、それぞれグアニンおよびウラシルで置換され得て、標的mRNAとG-Uゆらぎ塩基対を形成する。このような置換部分を含有する配列は、本明細書に記載される組成物および方法に適する。
【0040】
本明細書の用法では、「膜貫通プロテアーゼ、セリン6」(「TMPSSR6(Transmembrane Protease, Serine 6)」)は、細胞中で発現される特定のポリペプチドを指す。TMPRSS6は、マトリプターゼ-2、IRIDA(鉄不応性鉄欠乏性貧血(iron refractory iron-deficiency anemia))、膜貫通プロテアーゼセリン6、II型膜貫通セリンプロテアーゼ6、および膜結合モザイクセリンプロテイナーゼマトリプターゼ-2としてもまた知られている。TMPRSS6は、ほぼ899アミノ酸長のセリンプロテアーゼII型膜貫通タンパク質である。TMPRSS6は、例えば、短い内部領域、膜貫通ドメイン、ウニ精子タンパク質/エンテロペプチダーゼドメイン/アグリン(SEA:sea urchin sperm protein/enteropeptidase domain/agrin)ドメイン、2つの補体因子/ウニ胚性成長因子/BMPドメイン(CUB:complement factor/urchin embryonic growth factor/BMP domain)、3つのLDL-Rクラスaドメイン(LDLa:LDL-R class a domain)、および保存的His-Asp-Ser三つ組(HDS:His-Asp-Ser triad)があるトリプシン様セリンプロテアーゼドメインなどの複数ドメインを含有する。ヒトTMPRSS6 mRNA転写物の配列は、NM_153609.2(配列番号1)(
図1)にある。
【0041】
本明細書の用法では、「iRNA」という用語は、本明細書で定義されるRNAを含有し、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)経路を通じて、RNA転写物の標的切断を媒介する作用物質を指す。一実施形態では、本明細書に記載されるiRNAは、TMPRSS6発現の阻害をもたらす。代案としては、別の実施形態では、本明細書に記載されるiRNAは、TMPRSS6発現を活性化する。
【0042】
本明細書の用法では、「標的配列」は、一次転写産物のRNAプロセシングの産物であるメッセンジャーRNA(mRNA)をはじめとする、TMPRSS6遺伝子の転写中に形成されるmRNA分子のヌクレオチド配列の連続した部分を指す。配列の標的部分は、その部分またはその近辺における、iRNA指向切断のための基質としての役割を果たすのに、少なくとも十分長い。例えば標的配列は、例えば15~30ヌクレオチド長など、一般に9~36ヌクレオチド長であり、その間の部分的な範囲を全て含む。非限定的例として、標的配列は、15~30ヌクレオチド、15~26ヌクレオチド、15~23ヌクレオチド、15~22ヌクレオチド、15~21ヌクレオチド、15~20ヌクレオチド、15~19ヌクレオチド、15~18ヌクレオチド、15~17ヌクレオチド、18~30ヌクレオチド、18~26ヌクレオチド、18~23ヌクレオチド、18~22ヌクレオチド、18~21ヌクレオチド、18~20ヌクレオチド、19~30ヌクレオチド、19~26ヌクレオチド、19~23ヌクレオチド、19~22ヌクレオチド、19~21ヌクレオチド、19~20ヌクレオチド、20~30ヌクレオチド、20~26ヌクレオチド、20~25ヌクレオチド、20~24ヌクレオチド、20~23ヌクレオチド、20~22ヌクレオチド、20~21ヌクレオチド、21~30ヌクレオチド、21~26ヌクレオチド、21~25ヌクレオチド、21~24ヌクレオチド、21~23ヌクレオチド、または21~22ヌクレオチドであり得る。
【0043】
本明細書の用法では、「配列を含んでなる鎖」という用語は、標準ヌクレオチド命名法を使用して言及される配列によって記載される、ヌクレオチド鎖を含んでなるオリゴヌクレオチドを指す。
【0044】
本明細書の用法では、特に断りのない限り、「相補的」という用語は、当業者には理解されるであろうように、第2のヌクレオチド配列との関連で第1のヌクレオチド配列を記述するのに使用される場合、第1のヌクレオチド配列を含んでなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、特定条件下で、第2のヌクレオチド配列を含んでなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとハイブリダイズして、二本鎖構造を形成する能力を指す。このような条件は、例えば、400mMのNaCl、40mMのPIPES、pH6.4、1mMのEDTA、50℃または70℃で12~16時間と、それに続く洗浄を含んでもよい、ストリンジェントな条件であり得る。生物中で遭遇し得る生理学的に妥当な条件などのその他の条件が、適用され得る。当業者は、ハイブリダイズしたヌクレオチドの最終用途に従って、2つの配列の相補性試験に最適な条件のセットを判定することができる。
【0045】
例えば本明細書に記載されるdsRNA内などのiRNA内の相補性配列としては、第1のヌクレオチド配列を含んでなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと、第2のヌクレオチド配列を含んでなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとの、片方または双方のヌクレオチド配列全長にわたる、塩基対合が挙げられる。このような配列は、本明細書で互いに「完全に相補的」と称し得る。しかし本明細書で、第1の配列が第2の配列に対して「実質的に相補的」と称される場合、2つの配列は完全に相補的であり得て、またはそれらは例えばRISC経路を通じた遺伝子発現阻害など、それらの究極的用途に最も妥当な条件下でハイブリダイズする能力を保持しながら、最高30塩基対(bp:base pair)の二本鎖のハイブリダイゼーションに際して、1つまたは複数の、しかし一般的には5、4、3または2つ以下のミスマッチ塩基対を形成し得る。しかしハイブリダイゼーションに際して、1つまたは複数の一本鎖オーバーハングを形成するように、2つのオリゴヌクレオチドがデザインされる場合、このようなオーバーハングは、相補性の判定に関してミスマッチと見なされないものとする。例えば21ヌクレオチド長の1つのオリゴヌクレオチドと、23ヌクレオチド長の別のオリゴヌクレオチドとを含んでなるdsRNAがあって、より長いオリゴヌクレオチドが、より短いオリゴヌクレオチドと完全に相補的な21ヌクレオチドの配列を含んでなる場合、それは本明細書に記載される目的で、なおも「完全に相補的」と称されてもよい。
【0046】
「相補的」配列は、本明細書の用法では、それらのハイブリダイズ能力に関する上の要件が満たされる限りは、非ワトソン・クリック塩基対および/または非天然および修飾ヌクレオチドから生成される塩基対もまた含み、またはそれから完全に形成され得る。このような非ワトソン・クリック塩基対としては、G:Uゆらぎ塩基対またはフーグスティーン型塩基対が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0047】
「相補的」、「完全に相補的」、および「実質的に相補的」という用語は、本明細書において、それらの使用状況から理解されるであろうように、dsRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖間で、またはiRNA剤のアンチセンス鎖と標的配列間で、マッチする塩基について使用され得る。
【0048】
本明細書の用法では、メッセンジャーRNA(mRNA)の「少なくとも一部と実質的に相補的な」ポリヌクレオチドは、対象mRNA(例えばTMPRSS6をコードするmRNA)の連続部分と実質的に相補的なポリヌクレオチドを指す。例えばポリヌクレオチドは、配列が、TMPRSS6をコードするmRNAの非中断部分と実質的に相補的であれば、TMPRSS6 mRNAの少なくとも一部に相補的である。
【0049】
「二本鎖RNA」または「dsRNA」という用語は、本明細書の用法では、標的RNAに関して「センス」および「アンチセンス」配向を有するとされる、2本の逆平行および実質的に相補的な核酸鎖を含んでなる、ハイブリダイズ二本鎖領域を有する、RNA分子または分子複合体を含むiRNAを指す。二本鎖領域は、RISC経路を通じた、所望の標的RNAの特異的分解を可能にするあらゆる長さであり得るが、例えば15~30塩基対の長さなどの典型的に9~36塩基対の長さの範囲である。9~36塩基対の間の二本鎖を考察すると、二本鎖は、例えば9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、または36などのこの範囲内のあらゆる長さ、および15~30塩基対、15~26塩基対、15~23塩基対、15~22塩基対、15~21塩基対、15~20塩基対、15~19塩基対、15~18塩基対、15~17塩基対、18~30塩基対、18~26塩基対、18~23塩基対、18~22塩基対、18~21塩基対、18~20塩基対、19~30塩基対、19~26塩基対、19~23塩基対、19~22塩基対、19~21塩基対、19~20塩基対、20~30塩基対、20~26塩基対、20~25塩基対、20~24塩基対、20~23塩基対、20~22塩基対、20~21塩基対、21~30塩基対、21~26塩基対、21~25塩基対、21~24塩基対、21~23塩基対、または21~22塩基対をはじめとするが、これに限定されるものではない、その間のあらゆる部分的範囲であり得る。ダイサーおよび類似酵素を用いたプロセッシングによって、細胞中で作成されるdsRNAは、一般に19~22塩基対の範囲の長さである。dsDNAの二本鎖領域の1本の鎖は、標的RNAの領域と実質的に相補的な配列を含んでなる。二本鎖構造を形成する2本の鎖は、少なくとも1つの自己相補的領域を有する単一RNA分子に由来し得て、または2つ以上の別個のRNA分子から生成され得る。二本鎖領域が、単一分子の2本の鎖から生成される場合、分子は、二本鎖構造を形成する1本の鎖の3’末端とそれぞれのその他の鎖の5’末端との間のヌクレオチドの一本鎖(本明細書で「ヘアピンループ」と称される)によって隔てられる、二本鎖領域を有し得る。ヘアピンループは、少なくとも1つの不対ヌクレオチドを含んでなり得て;いくつかの実施形態では、ヘアピンループは、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも23以上の不対ヌクレオチドを含んでなり得る。dsRNAの2本の実質的に相補的な鎖が別のRNA分子によって構成されている場合、これらの分子は、必ずしもそうである必要はないが、共有結合的に連結され得る。2本の鎖が、ヘアピンループ以外の手段によって共有結合的に連結される場合、結合構造は「リンカー」と称される。「siRNA」という用語はまた、上述したようなdsRNAに言及するために、本明細書で使用される。
【0050】
当業者は、「RNA分子」または「リボ核酸分子」という用語が、天然に発現されまたは見られるRNA分子だけでなく、本明細書に記載されまたは当該技術分野で公知の、1つまたは複数のリボヌクレオチド/リボヌクレオシド類似体または誘導体を含んでなる、RNAの類似体および誘導体もまた包含することを認識する。厳密に言えば「リボヌクレオシド」は、ヌクレオシド塩基とリボース糖を含み、「リボヌクレオチド」は、1、2または3個のリン酸塩部分があるリボヌクレオシドである。しかし「リボヌクレオシド」および「リボヌクレオチド」という用語は、本明細書の用法では同等物と見なし得る。RNAは、例えば本明細書で以下に記載されるように、核酸塩基構造中で、またはリボースリン酸主鎖構造中で修飾され得る。しかしリボヌクレオシド類似体または誘導体を含んでなる分子は、二本鎖を形成する能力を保たなくてはならない。非限定的実施例として、RNA分子はまた、2’-O-メチル修飾ヌクレオシド、5’ホスホロチオエート基を含んでなるヌクレオシド、コレステリル誘導体またはドデカン酸ビスデシルアミド基に連結する末端ヌクレオシド、ロックドヌクレオシド、脱塩基ヌクレオシド、2’-デオキシ-2’-フルオロ修飾ヌクレオシド、2’-アミノ修飾ヌクレオシド、2’-アルキル修飾ヌクレオシド、モルホリノヌクレオシド、ホスホロアミダートまたは非天然塩基包含ヌクレオシド、またはそのあらゆる組み合わせをはじめとするが、これに限定されるものではない、少なくとも1つの修飾リボヌクレオシドを含み得る。代案としては、RNA分子は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20以上の、最高でdsRNA分子の全長の修飾リボヌクレオシドを含んでなり得る。修飾は、RNA分子中のこのような複数の各修飾リボヌクレオシドで同じでなくてもよい。一実施形態では、本明細書に記載される方法および組成物中での使用が検討される修飾RNAは、ペプチド核酸(PNA:peptide nucleic acid)であり、それは必要な二本鎖構造を形成する能力を有し、RISC経路を通じた標的RNAの特異的分解を可能にし、またはそれを媒介する。
【0051】
一態様では、修飾リボヌクレオシドはデオキシリボヌクレオシドを含む。このような場合、iRNA剤は、例えばデオキシヌクレオシドオーバーハング、またはdsRNAの二本鎖部分内の1つまたは複数のデオキシヌクレオシドをはじめとする、1つまたは複数のデオキシヌクレオシドを含んでなり得る。しかしいかなる状況下でも、二本鎖DNA分子が「iRNA」という用語に包含されないことは、自明である。
【0052】
一態様では、RNA干渉剤は、標的RNA配列と相互作用して、標的RNAの切断を誘導する、一本鎖RNAを含む。理論による拘束は望まないが、植物および無脊椎動物細胞に導入された長い二本鎖RNAは、ダイサーとして知られているIII型エンドヌクレアーゼによって、siRNAに分解される(シャープ(Sharp)ら著、ジーンズアンドデベロップメント(Genes Dev.)、2001年、第15巻、p.485)。リボヌクレアーゼ-III様酵素であるダイサーは、dsRNAをプロセスして、特徴的な2塩基3’オーバーハングがある19~23塩基対の短い干渉RNAにする(バーンシュタイン(Bernstein)ら著、2001年、ネイチャー(Nature)、第409巻、p.363)。次にsiRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)に組み込まれ、1つまたは複数のヘリカーゼがsiRNA二本鎖を巻き戻し、相補的アンチセンス鎖が、標的認識を誘導できるようにする(ニカネン(Nykanen)ら著、2001年、セル(Cell)、第107巻、p.309)。適切な標的mRNAとの結合に際して、RISC内の1つまたは複数のエンドヌクレアーゼが標的を切断し、サイレンシングを誘発する(エルバシャー(Elbashir)ら著、2001年、ジーンズアンドデベロップメント(Genes Dev.)、第15巻、p.188)。したがって一態様では、本発明は、RISC複合体形成を促進して、標的遺伝子のサイレンシングをもたらす、一本鎖RNAに関する。
【0053】
本明細書の用法では、「ヌクレオチドオーバーハング」という用語は、例えばdsRNAなどのiRNAの二本鎖構造から突出する、少なくとも1つの不対ヌクレオチドを指す。例えばdsRNAの1本の鎖の3’末端がその他の鎖の5’末端を越えて伸び、またはその逆の場合、ヌクレオチドオーバーハングがある。dsRNAは、少なくとも1つのヌクレオチドのオーバーハングを含んでなり得て;代案としては、オーバーハングは、少なくとも2つのヌクレオチド、少なくとも3つのヌクレオチド、少なくとも4つのヌクレオチド、少なくとも5つ以上のヌクレオチドを含んでなり得る。ヌクレオチドオーバーハングは、デオキシリボヌクレオチド/ヌクレオシドをはじめとする、ヌクレオチド/ヌクレオシド類似体を含んでなり得て、またはそれからなる。オーバーハングは、センス鎖、アンチセンス鎖、またはそのあらゆる組み合わせの上にあってもよい。さらにオーバーハングのヌクレオチドは、dsRNAのアンチセンスまたはセンス鎖のいずれかの5’末端、3’末端、または双方の末端上に存在し得る。
【0054】
一実施形態では、dsRNAのアンチセンス鎖は、3’末端および/または5’末端に、1~10ヌクレオチドのオーバーハングを有する。一実施形態では、dsRNAのセンス鎖は、3’末端および/または5’末端に、1~10ヌクレオチドのオーバーハングを有する。別の実施形態では、オーバーハング中の1つまたは複数のヌクレオチドは、チオリン酸ヌクレオシドで置換されている。
【0055】
本明細書でdsRNAに関して用いられる「平滑化された」または「平滑末端化された」という用語は、dsRNAの所与の末端に不対ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体がない、すなわちヌクレオチドオーバーハングがないことを意味する。dsRNA末端の片方または双方が、平滑化され得る。dsRNAの双方の末端が平滑化されている場合、dsRNAは平滑末端化されたと言われる。明確化のために言うと、「平滑末端化された」dsRNAは、双方の末端が平滑化されたdsRNAであり、すなわち分子のいずれの末端にもヌクレオチドオーバーハングがない。ほとんどの場合、このような分子は、その全長にわたって二本鎖である。
【0056】
「アンチセンス鎖」または「ガイド鎖」という用語は、例えば標的配列と実質的に相補的な領域を含む、dsRNAなどのiRNA鎖を指す。本明細書の用法では、「領域相補性」という用語は、例えば本明細書で定義される標的配列などの配列と、実質的に相補的なアンチセンス鎖上の領域を指す。相補性領域が標的配列と完全に相補的でない場合、分子の内部または末端領域にミスマッチがあってもよい。一般に、最も耐容されるミスマッチは、例えば5’および/または3’末端の5、4、3、または2ヌクレオチド内などの末端領域にある。
【0057】
「センス鎖」または「パッセンジャー鎖」という用語は、本明細書の用法では、本明細書で定義されるアンチセンス鎖の領域と、実質的に相補的な領域を含むiRNA鎖を指す。
【0058】
本明細書の用法では、一実施形態では、「SNALP」という用語は、安定した核酸-脂質粒子を指す。SNALPは、iRNAなどの核酸またはそれからiRNAが転写されるプラスミドを含んでなる還元性水性内部を覆う、脂質の小胞を意味する。SNALPは、例えば米国特許出願公開第20060240093号明細書、米国特許出願公開第20070135372号明細書、および国際公開第2009082817号パンフレットに記載される。「SNALP」製剤の例は、本明細書の他の箇所に記載される。
【0059】
「細胞に導入する」は、iRNAに関する場合は、当業者には理解されるように、細胞中への取り込みまたは吸収を容易にし、またはもたらすことを意味する。iRNAの吸収または取り込みは、助力を受けない拡散性または活性細胞過程を通じて、または助剤または装置によって生じ得る。この用語の意味は、生体外(in vitro)の細胞に限定されず;iRNAはまた、細胞が生きている生物の一部である場合にも、「細胞に導入され」得る。このような場合、細胞への導入は、生物への送達を含む。例えば生体内(in
vivo)送達のために、iRNAを組織部位に注射し、または全身投与し得る。生体内送達はまた、その内容全体を参照によって本明細書に援用する、米国特許第5,032,401号明細書および米国特許第5,607,677号明細書、および米国特許公開第2005/0281781号明細書に記載されるものなどのβ-グルカン送達系によることもできる。細胞への生体外導入は、電気穿孔およびリポフェクションなどの当該技術分野で公知の方法を含む。さらなるアプローチは、本明細書で以下に記載され、または当該技術分野で公知である。
【0060】
本明細書の用法では、「~の発現を調節する」という用語は、未処理細胞中のTMPRSS6発現と比較して、本明細書に記載されるiRNA組成物で処理された細胞中のTMPRSS6遺伝子発現の少なくとも部分的「阻害」または部分的「活性化」を指す。
【0061】
「活性化する」、「高める」、「~の発現を上方制御する」、「~の発現を増大させる」などの用語は、TMPRSS6遺伝子に言及する限りにおいて、TMPRSS6遺伝子の発現が増大するように処理されており、その中でTMPRSS6遺伝子が転写される第1の細胞または細胞群から単離されまたはその中で検出され得るTMPRSS6 mRNA量が、第1の細胞または細胞群と実質的に同一であるが、TMPRSS6遺伝子の発現が増大するように処理されていない、第2の細胞または細胞群(対照細胞)と比較して、増大することで顕在化される、TMPRSS6遺伝子発現の少なくとも部分的活性化を本明細書では指す。
【0062】
一実施形態では、TMPRSS6遺伝子の発現は、本明細書に記載されるiRNAの投与によって、少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%活性化される。いくつかの実施形態では、TMPRSS6遺伝子は、本発明で取り上げるiRNAの投与によって、少なくとも約60%、70%、または80%活性化される。いくつかの実施形態では、TMPRSS6遺伝子の発現は、本明細書に記載されるiRNAの投与によって、少なくとも約85%、90%、または95%以上活性化される。いくつかの実施形態では、TMPRSS6遺伝子発現は、未処理細胞中の発現と比較して、本明細書に記載されるiRNAで処理された細胞中で、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍以上増大する。小型dsRNAによる発現の活性化は、例えばそのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、リー(Li)ら著、2006年、米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)、第103巻、p.17337~42、および米国特許第20070111963号明細書および米国特許第2005226848号明細書に記載される。
【0063】
「発現停止する」、「~の発現を阻害する」、「~の発現を下方制御する」、「~の発現を抑制する」などの用語は、TMPRSS6遺伝子に言及する限りにおいて、TMPRSS6遺伝子の発現が阻害されるように処理されており、その中でTMPRSS6遺伝子が転写される第1の細胞または細胞群から、単離されまたはその中で検出され得るTMPRSS6 mRNA量が、第1の細胞または細胞群と実質的に同一であるが、TMPRSS6遺伝子の発現が阻害されるように処理されていない、第2の細胞または細胞群(対照細胞)と比較して、低下することで顕在化される、TMPRSS6遺伝子発現の少なくとも部分的抑制を本明細書では指す。阻害程度は、通常、
【0064】
【0065】
代案としては、阻害の程度は、例えばTMPRSS6遺伝子によってコードされるタンパク質量などのTMPRSS6遺伝子発現と機能的に連結するパラメータの低下、または例えば鉄レベルまたは鉄吸収の低下などの一定の表現型を提示する細胞数などの観点から示し得る。原則として、TMPRSS6遺伝子サイレンシングは、構成的に、またはゲノム工学によって、およびあらゆる適切なアッセイによってのいずれかで、TMPRSS6を発現するあらゆる細胞中で判定し得る。
【0066】
例えば場合によっては、TMPRSS6遺伝子の発現は、本発明で取り上げるiRNAの投与によって、少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、または50%抑制される。いくつかの実施形態では、TMPRSS6遺伝子は、本発明に記載されるiRNAの投与によって、少なくとも約60%、70%、または80%抑制される。いくつかの実施形態では、TMPRSS6遺伝子は、本明細書に記載されるiRNAの投与によって、少なくとも約85%、90%、95%、98%、99%以上抑制される。
【0067】
本明細書の用法では、TMPRSS6発現の文脈で、「治療する」、「治療」などという用語は、TMPRSS6発現によって媒介される病理過程の軽減または緩和を指す。本発明の文脈で、本明細書で以下に列挙されるその他の病状(TMPRSS6発現によって媒介される病理過程以外の)のいずれかに関する限りにおいて、「治療する」、「治療」などという用語は、このような病状と関連する少なくとも1つの症状を軽減または緩和し、またはサラセミアなどのヘモクロマトーシス進行の遅延など、このような病状の進行または予期される進行を遅延させまたは逆転させることを意味する。
【0068】
「低下させる」とは、疾病マーカまたは症状の文脈で、このようなレベルの統計的に有意な低下を意味する。低下は、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%以上であり得て、好ましくは、このような障害がある個人にとって、正常範囲と認められるレベルまで低下する。
【0069】
本明細書の用法では、「治療有効量」および「予防有効量」という語句は、TMPRSS6発現によって媒介される病理過程、またはTMPRSS6発現によって媒介される病理過程の顕性症状の治療、予防、または管理において、治療的有用性を提供する量を指す。治療的に有効な特定量は、通常の開業医によって容易に判定され得て、例えばTMPRSS6発現によって媒介される病理過程のタイプ、患者の病歴と年齢、TMPRSS6発現によって媒介される病理過程段階、およびTMPRSS6発現によって媒介される病理過程を抑制するその他の作用物質の投与などの当該技術分野で公知の要素に応じて、変動し得る。
【0070】
本明細書の用法では、「医薬組成物」は、薬理学的有効量のiRNAと薬学的に許容できる担体とを含んでなる本明細書の用法では、「薬理学的有効量」、「治療有効量」または単に「有効量」とは、意図される薬理学的、治療的または予防的結果を生じるのに効果的なiRNAの量を指す。例えば疾患または障害と関連する測定可能パラメータに少なくとも10%の低下があれば、所与の臨床治療が効果的と見なされる場合、その疾患または障害の治療のための薬剤の治療有効量は、パラメータに少なくとも10%の低下をもたらすのに必要な量である。例えばTMPRSS6標的化iRNAの治療有効量は、TMPRSS6タンパク質のレベルを少なくとも10%低下し得る。
【0071】
本明細書の用法では、「サラセミア」という用語は、劣性遺伝性血液障害を指す。機能喪失型変異は、ヘモグロビンを構成するグロビン鎖の1つの合成速度低下または無合成をもたらし、正常なグロビンタンパク質の欠乏を引き起こす。サラセミア患者は、αグロビン(αサラセミアと称される)、βグロビン(βサラセミアと称される)または、稀にはδグロビンのいずれかの欠乏を生じる。αサラセミアでは、過剰なβ鎖が、異常な酸素解離曲線を有する、不安定な四量体を形成する。βサラセミアは、軽症型、重症型または中間型であり得る。
【0072】
βグロビン鎖は、HBB(ヘモグロビン、β)遺伝子と称される単一遺伝子によってコードされる。軽症型βサラセミアは、1つの変異βサラセミア対立遺伝子と、1つの野生型対立遺伝子とを保有する患者において生じる。この病状は血中鉄レベルに影響を及ぼさず、患者は治療を必要としない。重症型βサラセミアは、患者が2つのノックアウト変異βサラセミア対立遺伝子を保有する場合にもたらされる。これらの患者では過剰な鉄が蓄積し、過剰な鉄は主に肥大性クッパー細胞中に貯蔵される。重症型βサラセミアがある患者は、典型的に、慢性輸血治療法、鉄キレート化、脾臓摘出、および同種異系造血細胞移植によって治療される。中間型βサラセミアは、患者がβサラセミア遺伝子の1つのノックアウト対立遺伝子と、1つの部分的機能喪失型対立遺伝子とを保有する場合にもたらされる。これらの患者では過剰な鉄が蓄積し、過剰な鉄は主に肝実質細胞中に貯蔵される。重症型サラセミアおよび中間型サラセミアがある患者は、貧血(低酸素症)を有し、EPO(エリスロポエチン(erythropoietin))増大と、ひいては劇的な代償性の無効造血(骨髄中の幹細胞による赤血球細胞の生産)がもたらされる。中間型サラセミアの患者は、時に肝脾腫大、黄疸、骨減少症、血栓性事象、下肢の潰瘍、肺性低血圧、うっ血性心不全、糖尿病、成長ホルモン欠乏、甲状腺機能低下、副甲状腺機能低下、性腺機能低下、および顔面奇形を発症する。
【0073】
本明細書の用法では、「ヘモクロマトーシス」という用語は、胃腸管からの過剰な鉄の吸収をもたらす障害を指す。ヘモクロマトーシスは、原発性および二次性の2つの形態で生じる。米国で最も頻度の高い(米国人およそ200~300人あたり1人に影響を及ぼす)遺伝障害である原発性ヘモクロマトーシスは、過剰な鉄吸収を引き起こす特定の遺伝的問題によって、通常引き起こされる。二次性または獲得ヘモクロマトーシスは、サラセミアまたは鉄芽球性貧血などの疾患によって引き起こされ得る。二次性ヘモクロマトーシスは、時に溶血性貧血および慢性アルコール依存症の患者に発症する。ヘモクロマトーシスの症状としては、腹痛、関節痛、疲労、エネルギーの欠如、脱力感、皮膚の暗色化(「ブロンズ光沢」と称されることが多い)、および体毛喪失が挙げられる。
【0074】
「薬学的に許容できる担体」という用語は、治療薬投与のための担体を指す。このような担体としては、生理食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定されるものではない。用語は、細胞培養培地を明確に除外する。経口的に投与される薬剤では、薬学的に許容可能な担体としては、薬学的に許容可能な賦形剤などの不活性希釈剤、崩壊剤、結合剤、平滑剤、甘味剤、着香剤、着色剤および保存料が挙げられるが、これに限定されるものではない。適切な不活性希釈剤としては、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸カルシウム、および乳糖が挙げられる一方で、コーンスターチおよびアルギン酸が適切な崩壊剤である。結合剤としては、デンプンおよびゼラチンが挙げられる一方で、存在する場合、平滑剤は、一般にステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸または滑石である。所望ならば、錠剤をモノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの材料でコーティングして、胃腸管内の吸収を遅延させてもよい。製剤に含まれる作用物質については、本明細書で以下にさらに詳しく説明する。
【0075】
本明細書の用法では、「対象」は、例えばイヌ、ウマ、ネコ、およびその他の非ヒト霊長類などの哺乳類である。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
本明細書の用法では、「LNPXX」(式中、「XX」は数字である)という用語は、本明細書で「AFXX」とも称される。例えばLNP09はAF09とも称され、LNP12はAF12としてもまた知られており、またそのように言及される。
【0076】
本明細書の用法では、「含んでなる(comprising)」または「含んでなる(comprises)」という用語は、本発明に必須の組成物、方法、およびそのそれぞれの成分に関して使用されるが、本質的であるか否かに関わらず、不特定の要素の包含をなおも受け入れる。
【0077】
本明細書の用法では、「~から本質的になる」という用語は、所与の実施形態に必須の要素を指す。用語は、本発明で取り上げる実施形態の基本的および新規または機能特性に、実質的に影響を及ぼさない要素の存在を容認する。
【0078】
「~からなる」という用語は、本明細書に記載される組成物、方法、およびそのそれぞれの成分を指し、それは実施形態のその記述に列挙されないあらゆる要素に対して、排他的である。
【0079】
II.二本鎖リボ核酸(dsRNA)
本明細書には、TMPRSS6遺伝子の発現を調節するiRNA剤が記載される。一実施形態では、iRNA剤は、例えばβサラセミアまたはヘマクロマトーシス(hemachromatosis)がある患者などの鉄レベル上昇を有するヒトなど、細胞または哺乳類において、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害するための、二本鎖リボ核酸(dsRNA)分子を含む。dsRNAは、TMPRSS6遺伝子の発現中に形成されるmRNAの少なくとも一部に相補的である、相補性領域を有するアンチセンス鎖を含む。相補性領域は、30ヌクレオチド長以下、一般に19~24ヌクレオチド長であり、dsRNAは、TMPRSS6遺伝子を発現する細胞との接触時に、例えばPCRまたは分枝DNA(bDNA)ベースの方法、またはウエスタンブロットなどのタンパク質ベースの方法によるアッセイで、TMPRSS6遺伝子の発現を少なくとも10%阻害する。一実施形態ではiRNA剤は、細胞または哺乳類中で、TMPRSS6遺伝子の発現を活性化する。COS細胞、HeLa細胞、初代培養肝細胞、HepG2細胞、初代培養細胞などの細胞培養物中の、または対象からの生物学的サンプル中のTMPRSS6遺伝子の発現は、bDNAまたはTaqMan(登録商標)アッセイなどによるTMPRSS6 mRNAレベルの測定によって、または例えばウエスタンブロット法またはフローサイトメトリー技術を使用した免疫蛍光分析などによるタンパク質レベルの測定によって、アッセイし得る。
【0080】
dsRNAは2本のRNA鎖を含み、それは相補的であり、その中でdsRNAが使用される条件下でハイブリダイズして二本鎖構造を形成する。dsRNAの1本の鎖(アンチセンス鎖)は、標的配列と実質的に相補的であり、一般に完全に相補的である、相補性領域を含む。標的配列は、TMPRSS6遺伝子の発現中に形成されるmRNAの配列に由来し得る。他の鎖(センス鎖)は、適切な条件下で組み合わせると、2本の鎖がハイブリダイズして二本鎖構造を形成するように、アンチセンス鎖に相補的な領域を含む。一般に二本鎖構造は、15~30、より一般的には18~25、なおもより一般的には19~24、最も一般的には19~21塩基対の長さである。同様に、標的配列との相補性領域は、15~30、より一般的には18~25、なおもより一般的には19~24、最も一般的には19~21ヌクレオチド長である。いくつかの実施形態では、dsRNAは、15~20ヌクレオチド長であり、別の実施形態では、dsRNAは25~30ヌクレオチド長である。当業者は認識するであろうように、切断標的とされるRNAの標的領域は、ほとんどの場合、より大型のRNA分子の一部であり、それはmRNA分子であることが多い。該当する場合、mRNA標的の「部分」は、RNAi指向切断(すなわちRISC経路を通じた切断)の基質として十分長い、mRNA標的の連続配列である。9塩基対程度に短い二本鎖を有するdsRNAは、状況によっては、RNAi指向RNA切断を媒介し得る。ほとんどの場合、標的は、少なくとも15ヌクレオチド長、好ましくは15~30ヌクレオチド長である。
【0081】
当業者はまた、二本鎖領域が、例えば15~30塩基対など、例えば9~36塩基対の二本鎖領域などのdsRNAの主要機能部分であることを認識するであろう。したがって一実施形態では、それがプロセッシングされて、例えば所望のRNAを切断標的とする15~30塩基対などの機能的二本鎖になる限りでは、30塩基対を超える二本鎖領域を有するRNA分子またはRNA分子複合体は、dsRNAである。したがって当業者は、一実施形態では、miRNAがdsRNAであることを認識するであろう。別の実施形態では、dsRNAは天然miRNAでない。別の実施形態では、TMPRSS6発現を標的化するのに有用なiRNA剤は、より大型のdsRNAの切断によって標的細胞中で生じない。
【0082】
本明細書に記載されるdsRNAは、1つまたは複数の一本鎖ヌクレオチドオーバーハングをさらに含み得る。dsRNAは、例えばバイオサーチ(Biosearch),アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems,Inc.)から市販されるものなどの自動化DNA合成機の使用によって、以下でさらに考察されるように、当該技術分野で公知の標準法によって合成し得る。一実施形態では、TMPRSS6遺伝子は、ヒトTMPRSS6遺伝子である。別の実施形態では、TMPRSS6遺伝子は、マウスまたはラットTMPRSS6遺伝子である。マウスTMPRSS6 mRNAの配列は、GenBank受入番号NM_027902(GI:125656151、2010年12月28日に記録)にある。ラットTMPRSS6 mRNAの配列は、GenBank受入番号NM_001130556.1(GI:194474097、2011年1月17日に記録)にある。特定の実施形態では、第1の配列はテーブル2、3または4のセンス配列を含むdsRNAのセンス鎖であり、第2の配列は、テーブル2、3または4のアンチセンス配列を含むdsRNAのアンチセンス鎖である。テーブル2、3または4で提供される標的配列中の他の箇所を標的とする代案のdsRNA剤は、標的配列と側面に位置するTMPRSS6配列とを使用して、容易に判定し得る。
【0083】
一態様では、dsRNAは、センスおよびアンチセンス配列の少なくとも2つのヌクレオチド配列を含み、センス鎖は、テーブル2、3または4で提供される配列群から選択される。この態様では、2配列の一方は2配列の他方に相補的であり、配列の1つは、TMPRSS6遺伝子の発現中に生じるmRNA配列と実質的に相補的である。したがってこの態様では、dsRNAは2つのオリゴヌクレオチドを含み、1つのオリゴヌクレオチドは、テーブル2、3または4でセンス鎖と記載され、第2のオリゴヌクレオチドは、テーブル2、3または4からのセンス鎖に対応するアンチセンス鎖と記載される。本明細書の他の箇所に記載されるように、そして当該技術分野で公知のように、dsRNAの相補配列はまた、別個のオリゴヌクレオチド上にあるものとは対照的に、単一核酸分子の自己相補領域として含有され得る。
【0084】
当業者は、20~23塩基対、特に21塩基対の二本鎖構造を有するdsRNAが、RNA干渉を誘発する上で特に効果的であるとして支持されていることを十分承知している(エルバシャー(Elbashir)ら著、欧州分子生物学機構(EMBO)、2001年、第20巻、p.6877~6888)。しかし他の当業者らは、より短いまたはより長いRNA二本鎖構造が、同様に効果的であり得ることを見出している。上で説明した実施形態では、テーブル2、3または4に提供されるオリゴヌクレオチド配列の性質のおかげで、本明細書に記載されるdsRNAは、最低21nt長さの少なくとも1本の鎖を含み得る。片方または双方の末端の数個のヌクレオチドのみが抜けている、テーブル2、3または4の配列の1つを有するより短い二本鎖が、上で説明したdsRNAと比較して同様に効果的であってもよいことは、合理的に予想され得る。したがってテーブル2、3または4の配列の1つからの少なくとも15、16、17、18、19、20以上の連続ヌクレオチドの部分配列を有し、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害するそれらの能力が、完全長配列を含んでなるdsRNAからの阻害と、5、10、15、20、25、または30%以下異なるdsRNAが、本発明に従って検討される。
【0085】
これに加えて、テーブル2、3または4に提供されるRNAは、RISC媒介切断を受けやすい、TMPRSS6転写物中の部位を同定する。したがって本発明は、このような配列の1つ内を標的とするiRNAをさらに特徴とする。本明細書の用法では、iRNAが、特定部位内のどこかで転写物の切断を促進する場合、iRNAはRNA転写物のその特定の部位内を標的化すると言われる。このようなiRNAは、TMPRSS6遺伝子中の選択された配列に隣接する領域から取り込まれた追加的なヌクレオチド配列と連結している、テーブル2、3または4に提供される配列の1つからの少なくとも15個の連続ヌクレオチドを一般に含む。
【0086】
標的配列は、一般に15~30ヌクレオチド長であるが、この範囲内の特定の配列が、あらゆる所与の標的RNAの切断を誘導する適合性には、幅広い多様性がある。本明細書で提示される様々なソフトウェアパッケージおよびガイドラインは、あらゆる所与の遺伝子標的の最適標的配列を同定するためのガイダンスを提供するが、標的RNA配列に、所与のサイズの「ウィンドウ」または「マスク」(非限定的例として21個のヌクレオチド)を実際にまたは比喩的に(例えばコンピュータシミュレーションによるものをはじめとする)配置させて、標的配列の役割を果たしてもよいサイズ範囲の配列を同定する、経験的アプローチもまた取り得る。配列「ウィンドウ」を最初の標的配列位置の1ヌクレオチド上流または下流に連続的に移動することで、選択されたあらゆる所与の標的サイズについて完全な可能な配列の組が同定されるまで、次の潜在的標的配列が同定され得る。このプロセスは、同定された配列の系統的合成、および(本明細書に記載されまたは当該技術分野で公知のアッセイを使用した)至適に機能する配列を同定する試験と相まって、iRNA剤で標的化した場合に、標的遺伝子発現の最良の阻害を媒介するRNA配列を同定し得る。したがって例えばテーブル2、3または4中で同定される配列が、効果的な標的配列を表す一方で、所与の配列の1ヌクレオチド上流または下流に、連続的に「ウィンドウを歩行させる」ことにより、同等またはより良い阻害特性がある配列を同定することで、阻害効率のさらなる最適化を達成し得ることが検討される。
【0087】
さらにヌクレオチドを体系的に付加または除去して、より長いまたはより短い配列を作成し、その位置から、標的RNAよりも長いまたはより短いサイズのウィンドウを歩行させることで、これらの作成された配列を試験することにより、例えばテーブル2、3または4中で同定される、あらゆる配列のさらなる最適化を達成し得ることが検討される。この場合もやはり、この新しい標的候補を作成するアプローチと、当該技術分野で公知のまたは本明細書に記載される阻害アッセイにおける、これらの標的配列に基づくiRNAの有効性の試験とを組み合わせることにより、阻害効率にさらなる改善をもたらし得る。なおもさらに、例えば本明細書に記載されまたは当該技術分野で公知の修飾ヌクレオチドの導入、オーバーハングの付加またはその変更、または当該技術分野で公知のおよび/または本明細書で考察されるその他の修飾によって、発現阻害物質として分子をさらに最適化する(例えば血清安定性または循環半減期増大、熱安定増大、膜貫通送達促進、特定位置または細胞型の標的化、サイレンシング経路酵素との相互作用増大、エンドソームからの放出増大など)ことで、このような最適化配列を調節し得る。
【0088】
本明細書に記載されるiRNAは、標的配列との1つまたは複数のミスマッチを含有し得る。一実施形態では、本明細書に記載されるiRNAは、3個以下のミスマッチを含有する。iRNAのアンチセンス鎖が、標的配列とのミスマッチを含有する場合、ミスマッチの範囲は、相補性領域の中心に位置しないことが好ましい。iRNAのアンチセンス鎖が標的配列とのミスマッチを含有する場合、ミスマッチは、相補性領域の5’または3’末端のいずれかから、最後の5ヌクレオチド内に限定されることが好ましい。例えばTMPRSS6遺伝子領域に相補的な23ヌクレオチドiRNA剤RNA鎖では、RNA鎖は、一般に、中心的な13ヌクレオチド内にいかなるミスマッチも含有しない。本明細書に記載される方法または当該技術分野で公知の方法を使用して、標的配列とのミスマッチを含有するiRNAが、TMPRSS6遺伝子の発現の阻害に効果的かどうかを判定し得る。TMPRSS6遺伝子の発現の阻害における、ミスマッチがあるiRNAの有効性の検討は、特にTMPRSS6遺伝子の特定の相補性領域が、集団内で多型配列バリエーションを有することが知られている場合に、重要である。
【0089】
一実施形態では、dsRNAの少なくとも一端は、1~4ヌクレオチドの、一般に1または2ヌクレオチドの一本鎖ヌクレオチドオーバーハングを有する。少なくとも1つのヌクレオチドオーバーハングを有する、このようなdsRNAは、それらの平滑末端対応物と比較して、意外にも優れた阻害特性を有する。さらに別の実施形態では、例えばdsRNAなどのiRNAのRNAを化学的に修飾して、安定性またはその他の有益な特性を高める。本発明で取り上げる核酸は、参照によって本明細書に援用する、「核酸化学の現行のプロトコル(Current protocols in nucleic acid
chemistry)」、ボーケージ(Beaucage),S.L.ら編、ジョンワイリーアンドサンズ(John Wiley & Sons,Inc.)、米国ニューヨーク州ニューヨークなどに記載されるものなどの当該技術分野で確立された方法によって合成および/または修飾されてもよい。修飾としては、例えば(a)例えば5’末端修飾(リン酸化、共役結合、逆転結合)および3’末端修飾(共役結合、DNAヌクレオチド、逆転結合など)などの末端修飾;(b)例えば安定化塩基での、不安定化塩基での、または拡大パートナーのレパートリーと塩基対形成する塩基での置換、塩基除去(脱塩基ヌクレオチド)、または共役結合塩基などの塩基修飾;(C)糖の修飾(例えば2’位または4’位における)または糖の置換;ならびに(d)リン酸ジエステル結合の修飾または置換をはじめとする主鎖修飾が挙げられる。本明細書に記載される実施形態で有用なRNA化合物の特定の例としては、修飾主鎖を含有するRNA、または天然ヌクレオシド間結合を含有しないRNAが挙げられるが、これに限定されるものではない。修飾主鎖を有するRNAとしては、特に主鎖中にリン原子を有しないものが挙げられる。本明細書の目的では、そして当該技術分野で時に言及されるように、それらのヌクレオシド間主鎖中にリン原子を有しない修飾RNAもまた、オリゴヌクレオシドであると見なされる。特定の実施形態では、修飾RNAは、そのヌクレオシド間主鎖中にリン原子を有する。
【0090】
修飾RNA主鎖としては、例えばホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’-アルキレンホスホネートおよびキラルホスホネートをはじめとするメチルおよびその他のアルキルホスホネート、ホスフィネート、3’-アミノホスホロアミダートおよびアミノアルキルホスホルアミダートをはじめとするホスホロアミダート、チオノホスホルアミダート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、およびノルマル3’-5’結合、それらの2’-5’連結アナログを有するボラノホスフェート、および隣接するヌクレオシド単位対が3’-5’から5’-3’、または2’-5’から5’-2’に連結する、逆転極性を有するボラノホスフェート)が挙げられる。様々な塩、混合塩、および遊離酸形態もまた挙げられる。
【0091】
上記リン含有結合の調製を教示する、代表的な米国特許としては、そのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、米国特許第3,687,808号明細書;米国特許第4,469,863号明細書;米国特許第4,476,301号明細書;米国特許第5,023,243号明細書;米国特許第5,177,195号明細書;米国特許第5,188,897号明細書;米国特許第5,264,423号明細書;米国特許第5,276,019号明細書;米国特許第5,278,302号明細書;米国特許第5,286,717号明細書;米国特許第5,321,131号明細書;米国特許第5,399,676号明細書;米国特許第5,405,939号明細書;米国特許第5,453,496号明細書;米国特許第5,455,233号明細書;米国特許第5,466,677号明細書;米国特許第5,476,925号明細書;米国特許第5,519,126号明細書;米国特許第5,536,821号明細書;米国特許第5,541,316号明細書;米国特許第5,550,111号明細書;米国特許第5,563,253号明細書;米国特許第5,571,799号明細書;米国特許第5,587,361号明細書;米国特許第5,625,050号明細書;米国特許第6,028,188号明細書;米国特許第6,124,445号明細書;米国特許第6,160,109号明細書;米国特許第6,169,170号明細書;米国特許第6,172,209号明細書;米国特許第6、239,265号明細書;米国特許第6,277,603号明細書;米国特許第6,326,199号明細書;米国特許第6,346,614号明細書;米国特許第6,444,423号明細書;米国特許第6,531,590号明細書;米国特許第6,534,639号明細書;米国特許第6,608,035号明細書;米国特許第6,683,167号明細書;米国特許第6,858,715号明細書;米国特許第6,867,294号明細書;米国特許第6,878,805号明細書;米国特許第7,015,315号明細書;米国特許第7,041,816号明細書;米国特許第7,273,933号明細書;米国特許第7,321,029号明細書;および米国特許第RE39464号明細書が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0092】
その中にリン原子を含まない修飾RNA主鎖は、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または1つまたは複数の短鎖ヘテロ原子または複素環式ヌクレオシド間結合によって形成された主鎖を有する。これらとしては、モルホリノ結合(一部はヌクレオシドの糖部分から形成される);シロキサン主鎖;スルフィド、スルホキシドおよびスルホン主鎖;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル主鎖;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル主鎖;アルケン含有主鎖;スルファメート主鎖;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ主鎖;スルホネートおよびスルホンアミド主鎖;アミド主鎖を有するもの;および混合N、O、S、およびCH2構成成分を有するその他のものが挙げられる。
【0093】
上記オリゴヌクレオシドの調製を教示する、代表的な米国特許としては、そのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、米国特許第5,034,506号明細書;米国特許第5,166,315;5,185,444号明細書;米国特許第5,214,134号明細書;米国特許第5,216,141号明細書;米国特許第5,235,033号明細書;米国特許第5,64,562号明細書;米国特許第5,264,564号明細書;米国特許第5,405,938号明細書;米国特許第5,434,257号明細書;米国特許第5,466,677号明細書;米国特許第5,470,967号明細書;米国特許第5,489,677号明細書;米国特許第5,541,307号明細書;米国特許第5,561,225号明細書;米国特許第5,596,086号明細書;米国特許第5,602,240号明細書;米国特許第5,608,046号明細書;米国特許第5,610,289号明細書;米国特許第5,618,704号明細書;米国特許第5,623,070号明細書;米国特許第5,663,312号明細書;米国特許第5,633,360号明細書;米国特許第5,677,437号明細書;および米国特許第5,677,439号明細書が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0094】
iRNA中で使用することが適切でありまたは検討されるその他のRNA模倣体中では、ヌクレオチド単位の主鎖である、糖およびヌクレオシド間連結の双方が、新規の基で置換されている。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。このような1つのオリゴマー化合物であり、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているRNA模倣体は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物では、RNAの糖主鎖は、アミド含有主鎖、特にアミノエチルグリシン主鎖で置換されている。核酸塩基は保持されて、主鎖のアミド部分のアザ窒素原子と直接または間接的に結合する。PNA化合物の調製を教示する、代表的な米国特許としては、そのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、米国特許第5,539,082号明細書;米国特許第5,714,331号明細書;および米国特許第5,719,262号明細書が挙げられるが、これに限定されるものではない。PNA化合物のさらなる教示は、ニールセン(Nielsen)ら著、サイエンス(Science)、1991年、第254巻、p.1497~1500にある。
【0095】
本発明で取り上げるいくつかの実施形態は、ホスホロチオエート主鎖があるRNA、および特に先述の米国特許第5,489,677号明細書の-CH2-NH-CH2-、-CH2-N(CH3)-O-CH2-[メチレン(メチルイミノ)またはMMI主鎖として知られている]、-CH2-O-N(CH3)-CH2-、-CH2-N(CH3)-N(CH3)-CH2-、および-N(CH3)-CH2-CH2-[天然リン酸ジエステル主鎖は-O-P-O-CH2-として表される]であるヘテロ原子主鎖がある、および先述の米国特許第5,602,240号明細書のアミド主鎖がある、オリゴヌクレオシドとを含む。いくつかの実施形態では、本明細書で取り上げるRNAは、先述の米国特許第5,034,506号明細書のモルホリノ主鎖構造を有する。
【0096】
修飾RNAはまた、1つまたは複数の置換糖部分を含有し得る。例えば本明細書で取り上げるdsRNAなどのiRNAは、2’位に、OH;F;O-、S-、またはN-アルキル;O-、S-、またはN-アルケニル;O-、S-、またはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキルの1つを含み得て、アルキル、アルケニル、およびアルキニルは、置換または非置換C1~C10アルキル、またはC2~C10アルケニルおよびアルキニルであってもよい。例示的な適切な修飾としては、O[(CH2)nO]mCH3、O(CH2).nOCH3、O(CH2)nNH2、O(CH2)nCH3、O(CH2)nONH2、およびO(CH2)nON[(CH2)nCH3)]2(式中、nおよびmは1~約10である)が挙げられる。別の実施形態では、dsRNAは、2’位に以下の1つを含む:C1~C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルカリール、アラルキル、O-アルカリールまたはO-アラルキル、SH、SCH3、OCN、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2CH3、ONO2、NO2、N3、NH2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカアリール、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、介入物、iRNAの薬物動態特性を改善する基、またはiRNAの薬力学的特性を改善する基、および同様の特性を有するその他の置換基。いくつかの実施形態では、修飾は、2’-メトキシエトキシ(2’-O-CH2CH2OCH3、2’-O-(2-メトキシエチル)または2’-MOEとしてもまた知られている)(マーティン(Martin)ら著、ヘルベチカ キミカ アクタ(Helv.Chim.Acta)、1995年、第78巻、p.486~504)、すなわちアルコキシ-アルコキシ基を含む。別の例示的な修飾は、以下に本明細書の実施例で記載されるように、2’-DMAOEとしてもまた知られている、2’-ジメチルアミノオキシエトキシ、すなわちO(CH2)2ON(CH3)2基、およびこれもまた以下に本明細書の実施例で記載されるように、2’-ジメチルアミノエトキシエトキシ(当該技術分野で2’-O-ジメチルアミノエトキシエチルまたは2’-DMAEOEとしても公知である)、すなわち2’-O-CH2-O-CH2-N(CH2)2である。
【0097】
その他の修飾としては、2’-メトキシ(2’-OCH3)、2’-アミノプロポキシ(2’-OCH2CH2CH2NH2)、および2’-フルオロ(2’-F)が挙げられる。同様の修飾はまた、具体的には3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位、または2’-5’結合dsRNA中、および5’末端ヌクレオチドの5’位など、iRNAのRNA上のその他の位置でも行い得る。iRNAはまた、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分などの糖模倣体を有してもよい。上記修飾糖構造の調製を教示する、代表的な米国特許としては、そのそれぞれを参照によって本明細書に援用し、特定のものは本出願と所有者が共通である、米国特許第4,981,957号明細書;米国特許第5,118,800号明細書;米国特許第5,319,080号明細書;米国特許第5,359,044号明細書;米国特許第5,393,878号明細書;米国特許第5,446,137号明細書;米国特許第5,466,786号明細書;米国特許第5,514,785号明細書;米国特許第5,519,134号明細書;米国特許第5,567,811号明細書;米国特許第5,576,427号明細書;米国特許第5,591,722号明細書;米国特許第5,597,909号明細書;米国特許第5,610,300号明細書;米国特許第5,627,053号明細書;米国特許第5,639,873号明細書;米国特許第5,646,265号明細書;米国特許第5,658,873号明細書;米国特許第5,670,633号明細書;および米国特許第5,700,920号明細書が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0098】
iRNAはまた、核酸塩基(当該技術分野では単に「塩基」と称されることが多い)修飾または置換を含み得る。本明細書の用法では、「未修飾」または「天然」核酸塩基としては、プリン塩基アデニン(A)およびグアニン(G)、およびピリミジン塩基チミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)が挙げられる。修飾核酸塩基としては、5-メチルシトシン(5-me-C);5-ヒドロキシメチルシトシン;キサンチン;ヒポキサンチン;2-アミノアデニン;アデニンおよびグアニンの6-メチルおよびその他のアルキル誘導体;アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよびその他のアルキル誘導体;2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン;5-ハロウラシルおよびシトシン;5-プロピニルウラシルおよびシトシン;6-アゾウラシル、シトシン、およびチミン;5-ウラシル(プソイドウラシル);4-チオウラシル;8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルおよびその他の8置換アデニンおよびグアニン;5-ハロ、具体的には5-ブロモ、5-トリフルオロメチル、およびその他の5置換ウラシルおよびシトシン;7-メチルグアニンおよび7-メチルアデニン;8-アザグアニンおよび8-アザアデニン;7-デアザグアニンおよび7-ダアザアデニン(daazaadenine);および3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンなどのその他の合成および天然核酸塩基が挙げられる。さらに核酸塩基としては、米国特許第3,687,808号明細書で開示されるもの、「生化学、バイオテクノロジー、および医学における修飾ヌクレオシド(Modified Nucleosides in Biochemistry,Biotechnology and Medicine)」、ヘルデヴィン(Herdewijn),P.編、ウィリーVCH(Wiley-VCH)、2008年で開示されるもの;「高分子科学と工学のコンサイス百科事典(The
Concise Encyclopedia Of Polymer Science
And Engineering)」、p.858~859、クルシュヴィッツ(Kroschwitz),J.L編、ジョンワイリーアンドサンズ(John Wiley & Sons)、1990年で開示されるもの、エングリッシュ(Englisch)ら著、アンゲヴァンテ ケミー(Angewandte Chemie),国際版(International Edition)、1991年、第30巻、p.613によって開示されるもの、およびサングヴィ(Sanghvi),Y S.著、第15章、「dsRNAの研究および応用(dsRNA Research and Aplications)」、p.289~302、クルック(Crooke),S.T.およびルブルー(Lebleu),B.編、CRCプレス(CRC Press)、1993年によって開示されるものが挙げられる。これらの核酸塩基のいくつかは、本発明で取り上げるオリゴマー化合物の結合親和性を増大させるのに特に有用である。これらとしては、2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシル、および5-プロピニルシトシンをはじめとする、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、およびN-2、N-6および0-6置換プリンが挙げられる。5-メチルシトシン置換は、核酸二重鎖安定性を0.6~1.2℃増大させることが示されており(サングヴィ(Sanghvi),Y.S.著、クルック(Crooke),S.T.およびルブルー(Lebleu),B.編、「dsRNAの研究および応用(dsRNA Research and Aplications)」、CRCプレス(CRC Press)、ボカラトン(Boca Raton)、1993年、p.276~278)、模範的な塩基置換であり、なおもより特に、2’-O-メトキシエチル糖修飾と組み合わされた場合にそうである。
【0099】
上記の特定の修飾核酸塩基ならびにその他の修飾核酸塩基の調製を教示する、代表的な米国特許としては、上記の米国特許第3,687,808号明細書、ならびにそのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、米国特許第4,845,205号明細書;米国特許第5,130,30号明細書;米国特許第5,134,066号明細書;米国特許第5,175,273号明細書;米国特許第5,367,066号明細書;米国特許第5,432,272号明細書;米国特許第5,457,187号明細書;米国特許第5,459,255号明細書;米国特許第5,484,908号明細書;米国特許第5,502,177号明細書;米国特許第5,525,711号明細書;米国特許第5,552,540号明細書;米国特許第5,587,469号明細書;米国特許第5,594,121、5,596,091号明細書;米国特許第5,614,617号明細書;米国特許第5,681,941号明細書;米国特許第6,015,886号明細書;米国特許第6,147,200号明細書;米国特許第6,166,197号明細書;米国特許第6,222,025号明細書;米国特許第6,235,887号明細書;米国特許第6,380,368号明細書;米国特許第6,528,640号明細書;米国特許第6,639,062号明細書;米国特許第6,617,438号明細書;米国特許第7,045,610号明細書;米国特許第7,427,672号明細書;および米国特許第7,495,088号明細書、およびこれもまた参照によって本明細書に援用する、米国特許第5,750,692号明細書が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0100】
iRNAのRNAはまた、1つまたは複数のロックド核酸(LNA:locked nucleic acid)を含むように修飾され得る。ロックド核酸は、修飾リボース部分を有するヌクレオチドであり、その中でリボース部分は、2’および4’炭素を結合する追加の架橋を含んでなる。この構造は、リボースを3’-エンド立体構造内に効果的に「ロック」する。siRNAへのロックド核酸の追加は、血清中のsiRNA安定性を増大させ、非特異的効果を低下させることが示されている(エルメン(Elmen),J.ら著、2005年、ニュークレイックアシッドリサーチ(Nucleic Acids Research)、第33巻、第1号、p.439~447;モーク(Mook),OR.ら著、2007年、モレキュラーキャンサーセラピューティックス(Mol Canc Ther)、第6巻、第3号、p.833~843;グルンベラー(Grunweller),A.ら著、2003年、ニュークレイックアシッドリサーチ(Nucleic
Acids Research)、第31巻、第12号、p.3185~3193)。
【0101】
ロックド核酸ヌクレオチドの調製を教示する、代表的な米国特許としては、以下が挙げられるが、これに限定されるものではない:そのそれぞれの内容全体を参照によって本明細書に援用する、米国特許第6,268,490号明細書;米国特許第6,670,461号明細書;米国特許第6,794,499号明細書;米国特許第6,998,484号明細書;米国特許第7,053,207号明細書;米国特許第7,084,125号明細書;および米国特許第7,399,845号明細書。
【0102】
本発明で取り上げるiRNAのRNAの別の修飾は、iRNAの活性、細胞分布、薬物動態学的特性、または細胞内取り込みを高める、1つまたは複数のリガンド、部分または複合体を、RNAに化学的に連結することを伴う。このような部分としては、コレステロール部分(レッツンガー(Letsinger)ら著、米国科学アカデミー紀要、1989年、第86巻、p.6553~6556)などの脂質部分;コール酸(マノハラン(Manoharan)ら著、バイオオーガニック メディカルケミストリー レターズ(Biorg.Med.Chem.Let.)、1994年、第4巻、p.1053~1060);例えばベリル-S-トリチルチオール(マノハラン(Manoharan)ら著、ニューヨークアカデミーオブサイエンス紀要(Ann.N.Y.Acad.Sci.)、1992年、第660巻、p.306~309;マノハラン(Manoharan)ら著、バイオオーガニック メディカルケミストリー レターズ(Biorg.Med.Chem.Let.)、1993年、第3巻、p.2765~2770)、チオコレステロール(オーバーハウザー(Oberhauser)ら著、ニュークレイックアシッドリサーチ(Nucl.Acids Res.)、1992年、第20巻、p.533~538)などのチオエーテル;例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基(セゾン-ベーモアラス(Saison-Behmoaras)ら著、欧州分子生物学機構ジャーナル(EMBO J)、1991年、第10巻、p.1111~1118;カバノフ(Kabanov)ら著、FEBSレターズ(FEBS Lett.)、1990年、第259巻、p.327~330;スビナルチャク(Svinarchuk)ら著、ビオシミ(Biochimie)、1993年、第75巻、p.49~54)などの脂肪族鎖;例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチル-アンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-ホスホネート(マノハラン(Manoharan)ら著、テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Lett.)、1995年、第36巻、p.3651~3654;シア(Shea)ら著、ニュークレイックアシッドリサーチ(Nucl.Acids Res.)、1990年、第18巻、p.3777~3783)などのリン脂質;ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(マノハラン(Manoharan)ら著、ヌクレオシド&ヌクレオチド(Nucleosides &
Nucleotides)、1995年、第14巻、p.969~973);またはアダマンタン酢酸(マノハラン(Manoharan)ら著、テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Lett.)、1995年、第36巻、p.3651~3654);パルミチル部分(ミシュラ(Mishra)ら著、ビオキミカ ビオフィジカ アクタ(Biochim.Biophys.Acta)、1995年、第1264巻、p.229~237);またはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ-カルボニルオキシコレステロール部分(クルック(Crooke)ら著、ジャーナル オブ ファーマコロジ エクスペリメンタル セラピューティクス(J.Pharmacol.Exp.Ther.)、1996年、第277巻、p.923~937)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0103】
一実施形態では、リガンドは、それが組み込まれたiRNA剤の分布、標的化または寿命を変化させる。好ましい実施形態では、リガンドは、例えばこのようなリガンドが不在である化学種と比較して、例えば分子、細胞または細胞型(例えば肝実質細胞などの肝細胞)、例えば細胞内または器官内区画などの区画、身体の組織または器官または領域などの選択された標的に対する、改善された親和性を提供する。好ましいリガンドは、二重鎖化核酸中の二本鎖対合形成に加わらない。
【0104】
リガンドは、タンパク質(例えばヒト血清アルブミン(HSA:human serum albumin)、低密度リポタンパク質(LDL:low-density lipoprotein)、またはグロブリン);炭水化物(例えばデキストラン、プルラン、キチン、キトサン、イヌリン、シクロデキストリンまたはヒアルロン酸);または脂質などの天然物質を含み得る。リガンドはまた、例えば合成ポリアミノ酸などの合成ポリマーなど、組換えまたは合成分子であってもよい。ポリアミノ酸の例はポリアミノ酸を含み、ポリリジン(PLL)、ポリL-アスパラギン酸、ポリL-グルタミン酸、スチレン-マレイン酸無水物共重合体、ポリ(L-ラクチド-コ-グリコリド)共重合体、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体、N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド共重合体(HMPA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン、ポリ(2-エチルアクリル酸)、N-イソプロピルアクリルアミドポリマー、またはポリホスファジンが挙げられる。ポリアミンの例としては、ポリエチレンイミン、ポリリジン(PLL)、スペルミン、スペルミジン、ポリアミン、擬ペプチド-ポリアミン、ペプチド模倣ポリアミン、デンドリマーポリアミン、アルギニン、アミジン、プロタミン、カチオン性脂質、カチオン性ポルフィリン、ポリアミン四級塩、またはαらせんペプチドである。
【0105】
リガンドはまた、例えばレクチン、糖タンパク質、脂質またはタンパク質など、例えば腎細胞などの特定細胞型に結合する抗体である、細胞または組織標的化剤などの標的化基を含み得る。標的化基は、甲状腺刺激ホルモン、メラノトロピン、レクチン、糖タンパク質、界面活性剤プロテインA、ムチン炭水化物、多価乳糖、多価ガラクトース、N-アセチル-ガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン多価マンノース、多価フコース、グリコシル化ポリアミノ酸、多価ガラクトース、トランスフェリン、ビスホスホネート、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、脂質、コレステロール、ステロイド、胆汁酸、葉酸、ビタミンB12、ビタミンA、ビオチン、またはRGDペプチドまたはRGDペプチド模倣体であり得る。
【0106】
リガンドのその他の例としては、染料、挿入剤(例えばアクリジン)、架橋剤(例えばソラレン(psoralene)、マイトマイシンC)、ポルフィリン(TPPC4、テキサフィリン、サフィリン)、多環式芳香族炭化水素(例えばフェナジン、ジヒドロフェナジン)、人工エンドヌクレアーゼ(例えばEDTA)、例えばコレステロールなどの親油性分子、コール酸、アダマンタン酢酸、1-ピレン酪酸、ジヒドロテストステロン、1,3-ビス-O(ヘキサデシル)グリセロール、ゲラニルオキシヘキシル基、ヘキサデシルグリセロール、ボルネオール、メントール、1,3-プロパンジオール、ヘプタデシル基、パルミチン酸、ミリスチン酸、O3-(オレオイル)リトコール酸、O3-(オレオイル)コレン酸、ジメトキシトリチル、またはフェノキサジン)およびペプチド複合体(例えばアンテナペディアペプチド、Tatペプチド)、アルキル化剤、ホスフェート、アミノ、メルカプト、PEG(例えばPEG-40K)、MPEG、[MPEG]2、ポリアミノ、アルキル、置換アルキル、放射性標識マーカ、酵素、ハプテン(例えばビオチン)、輸送/吸収促進薬(例えばアスピリン、ビタミンE、葉酸)、合成リボヌクレアーゼ(例えばイミダゾール、ビスイミダゾール、ヒスタミン、イミダゾールクラスター、アクリジン-イミダゾール複合体、テトラアザ大環状化合物のEu3+複合体)、ジニトロフェニル、HRP、またはAPが挙げられる。
【0107】
リガンドは、例えば糖タンパク質などのタンパク質;または例えば共リガンドに特異的親和性を有する分子などのペプチド;または例えばがん細胞、内皮細胞、または骨細胞などの指定された細胞型に結合する抗体などの抗体であり得る。リガンドはまた、ホルモンおよびホルモン受容体を含んでもよい。それらはまた、脂質、レクチン、炭水化物、ビタミン、補助因子、多価乳糖、多価ガラクトース、N-アセチル-ガラクトサミン、N-アセチル-グルコサミン多価マンノース、または多価フコースなどの非ペプチド化学種を含み得る。リガンドは、例えばリポ多糖、p38 MAPキナーゼ活性化因子、またはNF-κB活性化因子であり得る。
【0108】
リガンドは、例えば細胞の微小管、微小繊維、および/または中間径フィラメントを破壊することで、例えば細胞の細胞骨格を破壊することにより、細胞へのiRNA剤の取り込みを増大させ得る薬剤などの物質であり得る。薬剤は、例えばタキソン(taxon)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、サイトカラシン、ノコダゾール、ジャプラキノリド(japlakinolide)、ラトランクリンA、ファロイジン、スウィンホリドA、インダノシン、またはミオセルビンであり得る。
【0109】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるiRNAに付着するリガンドは、PK調節因子の機能を果たす。本明細書の用法では、「PK調節因子」とは、薬物動態調節因子を指す。PK調節因子としては、親油性物質、胆汁酸、ステロイド、リン脂質類似体、ペプチド、タンパク質結合剤、PEG、ビタミンなどが挙げられる。例示的なPK調節因子としては、コレステロール、脂肪酸、コール酸、リトコール酸、ジアルキルグリセリド、ジアシルグリセリド、リン脂質、スフィンゴ脂質、ナプロキセン、イブプロフェン、ビタミンE、ビオチンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。いくつかのホスホロチオエート結合を含んでなるオリゴヌクレオチドもまた、血清タンパク質に結合することが、知られており、したがって例えば、主鎖(backbaone)中に複数のホスホロチオエート結合を含んでなる、約5塩基、10塩基、15塩基、または20塩基オリゴヌクレオチドなどの短鎖オリゴヌクレオチドもまた、リガンドとして(例えばPK調節リガンドとして)本発明に適している。これに加えて、血清成分(例えば血清タンパク質)に結合するアプタマーもまた、本明細書に記載される実施形態中で、PK調節リガンドとして使用するのに適する。
【0110】
二分子層膜を容易に通過し得ない巨大分子薬剤および親水性薬剤分子では、細胞のエンドソーム/リソソーム区画内の封入が、それらの作用部位への効果的送達に対する最大のハードルと考えられる。近年、この問題に対処するために、いくつかのアプローチとストラテジーが考案されている。リポソーム製剤では、製剤中の融合性脂質の使用が、最も一般的なアプローチである(シン(Singh),R.S.、ゴンカルベス(Goncalves),C.ら著、2004年、「エンドソームプロトン化を介したpH応答性カチオン性脂質の遺伝子送達効率:化学生物学的研究(On the Gene Delivery Efficacies of pH-Sensitive Cationic Lipids via Endosomal Protonation.A Chemical Biology Investigation)」、ケミストリー&バイオロジー(Chem.Biol.)、第11巻、p.713~723)。プロトン付加および/またはpH誘導性立体構造変化を通じてpH感受性エンドソーム溶解活性を示すその他の成分としては、荷電ポリマーおよびペプチドが挙げられる。例は、ホフマン(Hoffman),A.S.、ステイトン(Stayton),P.S.ら著、2002年、「細胞内薬物送達を誘導し得る『スマート』ポリマーの設計(Design of 「smart」 polymers that can direct intracellular
drug delivery)」、ポリマーズ フォー アドバンストテクノロジー(Polymers Adv.Technol.)、第13巻、p.992~999;カクド(Kakudo)、チャキ(Chaki)T.,S.ら著、2004年、「pH応答性融合ペプチドを備えたトランスフェリン修飾リポソーム:人工的ウイルス様送達系(Transferrin-Modified Liposomes Equipped with a pH-Sensitive Fusogenic Peptide:An Artificial Viral-like Delivery System)」、バイオケミストリー(Biochemistry)、第436巻、5618-5628;イェシン(Yessine),M.A.およびルロー(Leroux),J.C.著、2004年、「膜不安定化ポリアニオン:脂質二重層と生体高分子との相互作用およびエンドソーム漏出(Membrane-destabilizing polyanions:interaction with lipid bilayers and endosomal escape of biomacromolecules)」、アドバンスト ドラッグ デリバリー レビュー(Adv.Drug Deliv.Rev.)、第56巻、p.999~1021;オリベラ(Oliveira),S.、ヴァンローイ(van Rooy),I.ら著、2007年、「融合ペプチドはエンドソーム漏出を促進して、発がん遺伝子のiRNA誘導サイレンシングを改善する(Fusogenic peptides enhance endosomal escape improving iRNA-induced silencing of oncogenes)」、インターナショナルジャーナル オブ ファーマシ(Int.J.Pharm.)、第331巻、p.211~4にある。それらは、一般に、リポソームまたはリポプレックスなどの薬物送達システムの文脈で使用されている。例えばリポソーム製剤を使用する葉酸受容体媒介送達では、リポソームにpH感受性融合性ペプチドが組み込まれており、取り込み過程における薬剤の解放の改善を通じて、活性を高めることが示されている(ターク(Turk),M.J.、レディ(Reddy),J.A.ら著、2002年)。ビオキミカ ビオフィジカ アクタ(Biochim.Biophys.Acta)、第1559巻、p.56~68には、エンドソームpHで葉酸を標的とするリポソームから放出される薬剤の放出を促す新規なpH感受性ペプチドの特徴が記載されている。。
【0111】
特定の実施形態では、本発明のエンドソーム溶解成分は、pH依存性膜活性および/または融合性を示す、ポリアニオン系ペプチドまたはペプチド模倣薬であり得る。ペプチド模倣薬は、ペプチドを模倣するようにデザインされた小型タンパク質様鎖であり得る。ペプチド模倣薬は、分子の特性を変更するための既存のペプチドの修飾、または非天然アミノ酸またはそれらの類似体を使用したペプチド様分子の合成から生じ得る。特定の実施形態では、それらはペプチドと比較して、改善された安定性および/または生物学的活性を有する。特定の実施形態では、エンドソーム溶解成分は、エンドソームpH(例えばpH5~6)で、その活性立体配座を取る。「活性」立体配座は、エンドソーム溶解成分が、エンドソームの溶解を促進し、および/またはエンドソームから細胞質への本発明で取り上げるモジュラー組成物またはその成分のそのいずれか(例えば核酸)の輸送を促進する、立体配座である。
【0112】
溶血アッセイを使用して、中性pHと対比したエンドソームpHにおける差次的膜活性について、化合物ライブラリーをスクリーニングし得る。この方法によって単離される有望な候補は、本発明で取り上げるモジュラー組成物の成分として使用されてもよい。本発明の組成物および方法で使用するためのエンドソーム溶解成分を同定する方法は、化合物ライブラリーを提供するステップと;血液細胞をライブラリー構成員に接触させて、その中で接触が起きる培地のpHが制御されるステップと;化合物が、中性pH(例えば約pH7~8)と対比して、低pH(例えば約pH5~6)において、血液細胞の差次的溶解を誘発するかどうかを判定するステップとを含んでなってもよい。
【0113】
例示的なエンドソーム溶解成分としては、GALAペプチド(スバラオ(Subbarao)ら著、バイオケミストリー(Biochemistry)、1987年、第26巻、p.2964~2972)、EALAペプチド(フォーゲル(Vogelら)著、ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティ(J.Am.Chem.Soc.)、1996年、第118巻、p.1581~1586)、およびそれらの誘導体(ターク(Turk)ら著、ビオキミカ ビオフィジカ アクタ(Biochem.Biophys.Acta)、2002年、第1559巻、p.56~68)が挙げられる。特定の実施形態では、エンドソーム溶解成分は、pH変化に応えて、電荷またはプロトン付加が変化する化学基(例えばアミノ酸)を含有し得る。エンドソーム溶解成分は、直鎖または分枝鎖であってもよい。エンドソーム溶解成分の例示的な一次配列としては、H2N-(AALEALAEALEALAEALEALAEAAAAGGC)-CO2H(配列番号2);H2N-(AALAEALAEALAEALAEALAEALAAAAGGC)-CO2H(配列番号3);およびH2N-(ALEALAEALEALAEA)-CONH2(配列番号4)が挙げられる。
【0114】
特定の実施形態では、2つ以上のエンドソーム溶解成分を本発明で取り上げるiRNA剤に組み込み得る。いくつかの実施形態では、これは2つ以上の同一エンドソーム溶解成分をiRNA剤に組み込むことを必然的に伴う。別の実施形態では、これは2つ以上の異なるエンドソーム溶解成分をiRNA剤に組み込むことを必然的に伴う。
【0115】
これらのエンドソーム溶解成分は、例えばエンドソームpHにおける立体配座を変化させることで、エンドソーム漏出を媒介し得る。特定の実施形態では、エンドソーム溶解成分は、中性pHにおいてランダムコイル立体配座で存在して、エンドソームpHにおいて両親媒性らせんに再配列し得る。この立体配座遷移の結果として、これらのペプチドがエンドソームの脂質膜に挿入されて、エンドソーム内容物の細胞質への漏出を引き起こしてもよい。立体配座遷移はpH依存性であるので、エンドソーム溶解成分は、血中(pH約7.4)循環中には、融合活性をほとんど示さない。「融合活性」は、本明細書の用法では、エンドソーム溶解成分によって脂質膜中断をもたらす活性と定義される。融合活性の一例は、エンドソームの溶解または漏出、およびエンドソームから細胞質への本発明で取り上げるモジュラー組成物の1つまたは複数の成分(例えば核酸)の輸送をもたらす、エンドソーム溶解成分によるエンドソームの膜の中断である。
【0116】
本明細書に記載される溶血アッセイに加えて、当業者はその他の方法を使用して、適切なエンドソーム溶解成分を試験し同定し得る。例えば化合物が、pH環境に応じた電荷の変化などに応答する能力は、例えば細胞アッセイにおいて、通例の方法によって試験し得る。特定の実施形態では、試験化合物を細胞と組み合わせまたは接触させて、細胞が、例えばエンドサイトーシスによって、試験化合物を内部に取り入れるようにする。次に接触細胞からエンドソーム調製品を作成し、そのエンドソーム調製品と対照細胞からのエンドソーム調製品とを比較し得る。例えば対照細胞と対比した接触細胞のエンドソーム画分の低下などの変化は、試験化合物が融合誘導因子として機能し得ることを示唆する。代案としては、接触細胞と対照細胞を、例えば光学または電子顕微鏡法などの顕微鏡検査によって評価して、細胞中のエンドソーム集団の差を判定し得る。試験化合物および/またはエンドソームを標識して、例えばエンドソーム漏出を定量化し得る。
【0117】
別のタイプのアッセイでは、1つまたは複数の試験または推定融合誘導因子を使用して、本明細書に記載されるiRNA剤が構築される。iRNA剤は、容易な可視化のために標識し得る。ひとたびiRNA剤が細胞に取り込まれると、エンドソーム溶解成分がエンドソーム漏出を促進する能力は、例えばエンドソーム調製品の調製によって、または細胞質中の標識iRNA剤を可視化する顕微鏡検査技術によって、評価し得る。特定のその他の実施形態では、遺伝子発現の阻害、またはあらゆるその他の生理学的パラメータをエンドソーム漏出の代理マーカとして使用してもよい。
【0118】
別の実施形態では、円二色性分光法を使用して、pH依存性構造転移を示す化合物を同定し得る。
第1のアッセイがpH変化に応答する試験化合物単独の能力を評価し、第2のアッセイがpH変化に応答する試験化合物を含むモジュラー組成物の能力を評価する、二段階アッセイもまた実施し得る。
【0119】
脂質複合体
1つのリガンド中では、リガンドまたは複合体は、脂質または脂質ベースの分子である。このような脂質または脂質ベースの分子は、好ましくは、例えばヒト血清アルブミン(HSA)などの血清タンパク質と結合する。HSA結合リガンドは、例えば身体の非腎臓標的組織などの標的組織への複合体の分布を可能にする。例えば標的組織は、肝臓の実質細胞をはじめとする肝臓であり得る。HSAに結合し得るその他の分子もまた、リガンドとして使用し得る。例えばネプロキシンまたはアスピリンを使用し得る。脂質または脂質ベースのリガンドは、(a)複合体の分解耐性を増大させ得て、(b)標的細胞または細胞膜の標的化またはそれへの輸送を増大させ得て、および/または(c)例えばHSAなどの血清タンパク質の結合を調節するのに使用し得る。
【0120】
例えば複合体の標的組織への結合を制御するなど、調節のために、脂質ベースのリガンドを使用し得る。例えばより強力にHSAに結合する脂質または脂質ベースのリガンドは、腎臓に標的化される可能性がより低く、したがって身体から除去される可能性がより低い。より弱くHSAに結合する脂質または脂質ベースのリガンドは、複合体を腎臓に標的化するのに使用し得る。
【0121】
好ましい実施形態では、脂質ベースのリガンドはHSAに結合する。好ましくは、それは、複合体が好ましくは非腎臓組織に分布するように、十分な親和性でHSAと結合する。しかし親和性は、HSAリガンド結合が逆転され得ない程度にまで、強力ではないことが好ましい。
【0122】
別の好ましい実施形態では、複合体が好ましくは腎臓に分布するように、脂質ベースのリガンドはHSAと弱く結合し、または全く結合しない。腎細胞を標的とするその他の部分もまた、脂質ベースのリガンドに代えて、またはそれに加えて使用し得る。
【0123】
別の態様では、リガンドは、例えば増殖細胞などの標的細胞に取り込まれる、ビタミンなどの部分である。これらは、例えばがん細胞などの悪性または非悪性型などの望まれない細胞増殖によって特徴付けられる障害を治療するのに、特に有用である。例示的なビタミンとしては、ビタミンA、E、およびKが挙げられる。その他の例示的なビタミンとしては、例えば葉酸、B12、リボフラビン、ビオチン、ピリドキサールなどのBビタミン、またはがん細胞に取り込まれるその他のビタミンまたは栄養素が挙げられる。またHSAおよび低密度リポタンパク質(LDL)も挙げられる。
【0124】
別の態様では、リガンドは細胞透過剤であり、好ましくはらせん細胞透過剤である。好ましくは、細胞透過剤は両親媒性である。例示的な細胞透過剤は、tatまたはアンテノペディア(antennopedia)などのペプチドである。細胞透過剤がペプチドである場合、それはペプチジル模倣薬、逆転異性体、非ペプチドまたは偽ペプチド結合、およびD-アミノ酸使用をはじめとする、修飾を受け得る。らせん剤は、好ましくは親油性および疎油性相を有するα-らせん剤である。
【0125】
細胞透過ペプチド
本発明で使用するのに適するペプチドは、例えばtatまたはアンテナペディアペプチドなどの天然ペプチド、合成ペプチド、またはペプチド模倣薬であり得る。さらにペプチドは修飾ペプチドであり得て、例えばペプチドは、非ペプチドまたは偽ペプチド結合、およびD-アミノ酸を含んでなり得る。ペプチド模倣薬(本明細書においてオリゴペプチド模倣薬とも称される)は、天然ペプチドに類似した、定義された三次元構造に折り畳み可能な分子である。ペプチドおよびペプチド模倣薬のiRNA剤への付加は、細胞認識と吸収の促進などにより、iRNAの薬物動態分布に影響を及ぼし得る。ペプチドまたはペプチド模倣薬部分は、例えば約5、10、15、20、25、30、35、40、45、または50アミノ酸長など、約5~50アミノ酸長であり得る。
【0126】
ペプチドまたはペプチド模倣薬は、例えば細胞透過ペプチド、カチオン性ペプチド、両親媒性ペプチド、または疎水性ペプチド(例えば主にTyr、TrpまたはPheからなる)であり得る。ペプチド部分は、デンドリマーペプチド、束縛ペプチドまたは架橋ペプチドであり得る。別の代案では、ペプチド部分は疎水性膜移行配列(MTS:membrane translocation sequence)を含み得る。例示的な疎水性MTS含有ペプチドは、アミノ酸配列AAVALLPAVLLALLAP(配列番号5)を有するRFGFである。疎水性MTSを含有するRFGF類似体(例えばアミノ酸配列AALLPVLLAAP(配列番号6))もまた、標的部分であり得る。ペプチド部分は、細胞膜を越えて、ペプチド、オリゴヌクレオチド、およびタンパク質をはじめとする、多数の極性分子を輸送し得る「送達」ペプチドであり得る。例えばHIV Tatタンパク質(GRKKRRQRRRPPQ(配列番号7))およびショウジョウバエ(Drosophila)アンテナペディアタンパク質(RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号8))からの配列は、送達ペプチドとして機能できることが分かっている。ペプチドまたはペプチド模倣薬は、ファージ-ディスプレイライブラリー、または1ビーズ1化合物(OBOC:one-bead-one-compound)コンビナトリアルライブラリーから同定されるペプチドなど、DNAのランダム配列によってコードされ得る(ラム(Lam)ら著、ネイチャー(Nature)、第354巻、p.82~84、1991年)。好ましくは脂質に係留されるペプチドまたはペプチド模倣薬は、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD:arginine-glycine-aspartic acid)-ペプチド、またはRGD模倣薬などの細胞標的化ペプチドである。ペプチド部分は、約5アミノ酸~約40アミノ酸長に及び得る。ペプチド部分は、安定性を増大させ、または立体構造特性を誘導するような、構造修飾を有し得る。下述の構造修飾のいずれかを利用し得る。
【0127】
RGDペプチド部分を使用して、内皮腫瘍細胞または乳癌腫瘍細胞などの腫瘍細胞を標的化し得る(ツィッツマン(Zitzmann)ら著、キャンサー リサーチ(Cancer Res.)、第62巻、p.5139~43、2002年)。RGDペプチドは、肺、腎臓、脾臓、または肝臓をはじめとする、多様なその他の組織の腫瘍へのdsRNA剤の標的化を容易にし得る(アオキ(Aoki)ら著、キャンサー ジーン セラピー(Cancer Gene Therapy)、第8巻、p.783~787、2001年)。好ましくはRGDペプチドは、腎臓へのiRNA剤の標的化を容易にする。RGDペプチドは、直鎖または環状であり得て、例えばグリコシル化またはメチル化によって修飾されて、特定組織の標的化を容易にし得る。例えばグリコシル化RGDペプチドは、αvβ3を発現する腫瘍細胞に、iRNA剤を送達し得る(ハウブナー(Haubner)ら著、ジャーナル オブ ニュークリア メディスン(Jour.Nucl.Med.)、第42巻、p.326~336、2001年)。
【0128】
増殖細胞中に豊富なマーカを標的とするペプチドを使用し得る。例えばRGD含有ペプチドおよびペプチド模倣薬は、がん細胞、特にαvβ3インテグリンを呈示する細胞を標的化し得る。したがってRGDペプチド、RGD含有環状ペプチド、D-アミノ酸を含むRGDペプチド、ならびに合成RGD模倣薬を使用し得る。RGDに加えて、インテグリンリガンドを標的化するその他の部分を使用し得る。一般にこのようなリガンドを使用して、増殖細胞と血管新生(angiogeneis)を制御し得る。
【0129】
「細胞透過ペプチド」は、例えば細菌または真菌細胞などの微生物細胞、またはヒト細胞などの哺乳類細胞などの細胞に浸透できる。微生物細胞透過ペプチドは、例えばα-らせん直鎖ペプチド(例えばLL-37またはセロピン(Ceropin)P1)、ジスルフィド結合含有ペプチド(例えばα-デフェンシン、β-デフェンシンまたはバクテネシン)、または1つまたは2つの主要アミノ酸のみを含有するペプチド(例えばPR-39またはインドリシジン)であり得る。細胞透過ペプチドはまた、核局在化シグナル(NLS:nuclear localization signal)を含み得る。例えば細胞透過ペプチドは、HIV-1 gp41の融合ペプチドドメインおよびSV40大型T抗原のNLSに由来する、MPGなどの二分両親媒性ペプチドであり得る(シメオニ(Simeoni)ら著、ニュークレイックアシッドリサーチ(Nucl.Acids Res.)、第31巻、p.2717~2724、2003年)。
【0130】
炭水化物複合体
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるiRNAオリゴヌクレオチドは、炭水化物複合体をさらに含んでなる。炭水化物複合体は、本明細書に記載されるような、核酸ならびに生体内治療用途に適する組成物の生体内送達に、有利である。本明細書の用法では、「炭水化物」は、以下のいずれかの化合物を指す:各炭素原子に結合する酸素、窒素またはイオウ原子がある、少なくとも6個の炭素原子を有する(直鎖、分枝または環状であってもよい)1つまたは複数の単糖単位で構成される炭水化物それ自体;または各炭素原子に結合する酸素、窒素またはイオウ原子がある、それぞれ少なくとも6個の炭素原子を有する(直鎖、分枝または環状であってもよい)1つまたは複数の単糖単位で構成される炭水化物部分をその一部として有する化合物。代表的炭水化物としては、糖類(単糖類、二糖類、三糖類、および約4~9個の単糖単位を含有するオリゴ糖類)、およびデンプン、グリコーゲン、セルロース、および多糖類ガムなどの多糖類が挙げられる。特定の単糖類としては、C5以上の(好ましくはC5~C8)糖類;2または3個の単糖単位(好ましくはC5~C8)を有する糖類をはじめとする、二糖類および三糖類が挙げられる。
【0131】
一実施形態では、炭水化物複合体は、以下、すなわち、式II~式XXIIからなる群から選択される:
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【化5】
本明細書に記載される実施形態で使用するために別の代表的炭水化物複合体としては、
【0137】
【化6】
(式中、XまたはYの一方はオリゴヌクレオチドであり、他方は水素である)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0138】
いくつかの実施形態では、炭水化物複合体は、PK調節因子、エンドソーム溶解リガンド、および細胞透過ペプチドなどであるが、これに限定されるものではない、その他のリガンドをさらに含んでなる。
【0139】
リンカー
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される複合体は、切断可能または切断不能であり得る、様々なリンカーによって、iRNAオリゴヌクレオチドに付着し得る。
【0140】
「リンカー」または「連結基」という用語は、化合物の2つの部分を結合する有機部分を意味する。リンカーは、典型的に、直接結合、または酸素またはイオウなどの原子、NR8、C(O)、C(O)NH、SO、SO2、SO2NHなどの単位、または置換または非置換アルキル、置換または非置換アルケニル、置換または非置換アルキニル、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、ヘテロアリールアルキル、ヘテロアリールアルケニル、ヘテロアリールアルキニル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロシクリルアルケニル、ヘテロシクリルアルキニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクリル、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルキルアリールアルキル、アルキルアリールアルケニル、アルキルアリールアルキニル、アルケニルアリールアルキル、アルケニルアリールアルケニル、アルケニルアリールアルキニル、アルキニルアリールアルキル、アルキニルアリールアルケニル、アルキニルアリールアルキニル、アルキルヘテロアリールアルキル、アルキルヘテロアリールアルケニル、アルキルヘテロアリールアルキニル、アルケニルヘテロアリールアルキル、アルケニルヘテロアリールアルケニル、アルケニルヘテロアリールアルキニル、アルキニルヘテロアリールアルキル、アルキニルヘテロアリールアルケニル、アルキニルヘテロアリールアルキニル、アルキルヘテロシクリルアルキル、アルキルヘテロシクリルアルケニル、アルキルヘレロシクリルアルキニル(alkylhererocyclylalkynyl)、アルケニルヘテロシクリルアルキル、アルケニルヘテロシクリルアルケニル、アルケニルヘテロシクリルアルキニル、アルキニルヘテロシクリルアルキル、アルキニルヘテロシクリルアルケニル、アルキニルヘテロシクリルアルキニル、アルキルアリール、アルケニルアリール、アルキニルアリール、アルキルヘテロアリール、アルケニルヘテロアリール、アルキニルヘレロアリール(alkynylhereroaryl)などであるが、これに限定されるものではない原子鎖を含んでなり、その1つまたは複数のメチレンは、O、S、S(O)、SO2、N(R8)、C(O)、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、置換または非置換複素環(式中、R8は水素、アシル、脂肪族または置換脂肪族である)によって中断されまたは終結され得る。一実施形態では、リンカーは、1~24個の原子、好ましくは4~24個の原子、好ましくは6~18個の原子、より好ましくは8~18個の原子、および最も好ましくは8~16個の原子である。
【0141】
切断可能連結基は、細胞外で十分に安定しているが、標的細胞への侵入時に切断されて、リンカーがつなぎ止めている2つの部分を放出するものである。好ましい実施形態では、切断可能連結基は、標的細胞中で、または第1の標準状態下(例えば細胞内条件を模倣し、またはそれに相当するように選択し得る)で、対象の血中において、または第2の標準状態下(例えば血中または血清に見られる条件を模倣し、またはそれに相当するように選択し得る)よりも、少なくとも10倍以上、好ましくは少なくとも100倍より迅速に切断される。
【0142】
切断可能連結基は、例えばpH、酸化還元電位または分解性分子の存在などの切断作用物質の影響を受けやすい。一般に切断作用物質は、血清または血液中よりも細胞中でより一般的であり、またはより高いレベルまたは活性で見られる。このような分解性作用物質の例としては、例えば還元によって酸化還元切断可能連結基を分解し得る、細胞中に存在する、酸化または還元酵素またはメルカプタンなどの還元剤をはじめとする、特定の基質のために選択された、または基質特異性がない酸化還元剤;エステラーゼ;エンドソームまたは例えば5以下のpHをもたらすものなどの酸性環境をもたらし得る作用物質;一般酸、ペプチダーゼ(基質特異性であり得る)、およびホスファターゼとして作用することで、酸切断可能連結基を加水分解または分解し得る酵素が挙げられる。
【0143】
ジスルフィド結合などの切断可能連結基は、pHに対する感受性が高くあり得る。ヒト血清のpHが7.4であるのに対し、細胞内平均pHはわずかにより低く、約7.1~7.3の範囲にわたる。エンドソームは、5.5~6.0の範囲のより酸性のpHを有し、リソソームは、約5.0のさらにより酸性のpHを有する。いくつかのリンカーは、好ましいpHで切断される切断可能連結基を有し、それによって細胞中のリガンドから、または細胞の所望の区画へ、カチオン性脂質が放出される。
【0144】
リンカーは、特定の酵素によって切断可能な切断可能連結基を含み得る。リンカーに組み込まれる切断可能連結基のタイプは、標的とされる細胞に左右され得る。例えば肝臓を標的化するリガンドは、エステル基を含むリンカーを通じてカチオン性脂質に連結し得る。肝細胞はエステラーゼに富み、したがってリンカーは、エステラーゼが豊富でない細胞型よりも、肝細胞中でより効率的に切断される。エステラーゼに富むその他の細胞型としては、肺、腎皮質、および精巣の細胞が挙げられる。
【0145】
ペプチド結合を含有するリンカーは、肝細胞および滑膜細胞などのペプチダーゼに富んだ細胞型を標的化する際に使用し得る。
一般に切断可能連結基の候補の適合性は、候補連結基を切断する分解性作用物質(条件)の能力を検査することで評価し得る。切断可能連結基の候補は、血中において、またはその他の非標的組織との接触時に、切断に抵抗する能力についてもまた検査することもまた望ましい。したがって第1の条件が標的細胞中での切断を示すように選択され、第2の条件がその他の組織または例えば血液または血清などの生体液中での切断を示すように選択される、第1および第2の条件間の切断の相対的感受性を判定し得る。評価は、無細胞系中、細胞中、細胞培養中、臓器または組織培養中、または全身の動物中で実施し得る。無細胞または培養条件で最初の評価を行い、全身の動物中でのさらなる評価によって確認することが有用なこともある。好ましい実施形態では、有用な候補化合物は、血液または血清(または細胞外条件を模倣するように選択された生体外条件下)と比較して、細胞中(または細胞内条件を模倣するように選択された生体外条件下)で、少なくとも2、4、10または100倍より迅速に切断される。
【0146】
酸化還元切断可能連結基
切断可能連結基の1つのクラスは、還元または酸化に際して切断される酸化還元切断可能連結基である。還元的切断可能連結基の一例は、ジスルフィド連結基(-S-S-)である。切断可能連結基候補が、適切な「還元的切断可能連結基」か、または例えば特定のiRNA部分および特定の標的作用物質と共に使用するのに適するかどうかを判定するために、本明細書に記載される方法に頼ることができる。例えば候補は、例えば標的細胞などの細胞中で観察される切断速度を模倣する、当該技術分野で公知の試薬を使用して、ジチオスレイトール(DTT)、またはその他の還元剤とのインキュベーションによって評価し得る。候補はまた、血液または血清条件を模倣するように選択される条件下で評価し得る。好ましい実施形態では、候補化合物は、血中で最大で10%切断される。好ましい実施形態では、有用な候補化合物は、血液(または細胞外条件を模倣するように選択された生体外条件下)と比較して、細胞中(または細胞内条件を模倣するように選択された生体外条件下)で、少なくとも2、4、10または100倍より迅速に分解される。候補化合物の切断速度は、細胞内媒体を模倣するように選択された条件下で標準酵素動態アッセイを使用して、細胞外媒体を模倣するように選択された条件と比較して判定し得る。
【0147】
リン酸ベースの切断可能連結基
リン酸ベースの切断可能連結基は、リン酸基を分解または加水分解する作用物質によって切断し得る。細胞中でリン酸基を切断する作用物質の一例は、細胞中のホスファターゼなどの酵素である。リン酸ベースの連結基の例は、-O-P(O)(ORk)-O-、-O-P(S)(ORk)-O-、-O-P(S)(SRk)-O-、-S-P(O)(ORk)-O-、-O-P(O)(ORk)-S-、-S-P(O)(ORk)-S-、-O-P(S)(ORk)-S-、-S-P(S)(ORk)-O-、-O-P(O)(Rk)-O-、-O-P(S)(Rk)-O-、-S-P(O)(Rk)-O-、-S-P(S)(Rk)-O-、-S-P(O)(Rk)-S-、-O-P(S)(Rk)-S-である。好ましい実施形態は、-O-P(O)(OH)-O-、-O-P(S)(OH)-O-、-O-P(S)(SH)-O-、-S-P(O)(OH)-O-、-O-P(O)(OH)-S-、-S-P(O)(OH)-S-、-O-P(S)(OH)-S-、-S-P(S)(OH)-O-、-O-P(O)(H)-O-、-O-P(S)(H)-O-、-S-P(O)(H)-O-、-S-P(S)(H)-O-、-S-P(O)(H)-S-、-O-P(S)(H)-S-である。好ましい実施形態は、-O-P(O)(OH)-O-である。これらの候補は、上述したものと類似の方法を使用して評価し得る。
【0148】
酸切断可能連結基
酸切断可能連結基は、酸性条件下で切断される連結基である。好ましい実施形態では、酸切断可能連結基は、pH約6.5以下(例えば約6.0、5.5、5.0以下)の酸性環境内において、または一般酸として作用し得る酵素などの作用物質によって切断される。細胞中では、エンドソームおよびリソソームなどの特定の低pH細胞小器官が、酸切断可能連結基の切断環境を提供し得る。酸切断可能連結基の例としては、ヒドラゾン、エステル、およびアミノ酸エステルが挙げられるが、これに限定されるものではない。酸切断可能基は、一般式-C=NN-、C(O)O、または-OC(O)を有し得る。好ましい実施形態は、炭素がエステルの酸素に付着する(アルコキシ基)場合は、アリール基;置換アルキル基;またはジメチルペンチルまたはt-ブチルなどの三級アルキル基である。これらの候補は、上述したものと類似の方法を使用して評価し得る。
【0149】
エステルベースの連結基
エステルベースの切断可能連結基は、細胞中でエステラーゼおよびアミダーゼなどの酵素によって切断される。エステルベースの切断可能連結基の例としては、アルキレン、アルケニレン、およびアルキニレン基のエステルが挙げられるが、これに限定されるものではない。エステル切断可能連結基は、一般式-C(O)O-、または-OC(O)-を有する。これらの候補は、上述したものと類似の方法を使用して評価し得る。
【0150】
ペプチドベースの切断基
ペプチドベースの切断可能連結基は、細胞中でペプチダーゼおよびプロテアーゼなどの酵素によって切断される。ペプチドベースの切断可能連結基は、アミノ酸間に形成されて、オリゴペプチド(例えばジペプチド、トリペプチドなど)およびポリペプチドを生じる、ペプチド結合である。ペプチドベースの切断可能基には、アミド基(-C(O)NH-)は含まれない。アミド基は、あらゆるアルキレン、アルケニレンまたはアルキネレン(alkynelene)間に形成され得る。ペプチド結合は、アミノ酸の間に形成されて、ペプチドおよびタンパク質をもたらす特殊なタイプのアミド結合である。ペプチドベースの切断基は、一般にアミノ酸の間に形成されて、ペプチドおよびタンパク質をもたらすペプチド結合(すなわちアミド結合)に限定され、アミド官能基全体は含まれない。ペプチドベースの切断可能連結基は、一般式-NHCHRAC(O)NHCHRBC(O)-(式中、RAおよびRBは、2つの隣接するアミノ酸のR基である)を有する。これらの候補は、上述したものと類似の方法を使用して評価し得る。
【0151】
リンカーと結合する代表的炭水化物複合体としては、
【0152】
【0153】
【0154】
【化9】
(式中、XまたはYの一方はオリゴヌクレオチドであり、他方は水素である)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0155】
RNA複合体の調製を教示する、代表的な米国特許としては、そのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、米国特許第4,828,979号明細書;米国特許第4,948,882号明細書;米国特許第5,218,105号明細書;米国特許第5,525,465号明細書;米国特許第5,541,313号明細書;米国特許第5,545,730号明細書;米国特許第5,552,538号明細書;米国特許第5,578,717、5,580,731号明細書;米国特許第5,591,584号明細書;米国特許第5,109,124号明細書;米国特許第5,118,802号明細書;米国特許第5,138,045号明細書;米国特許第5,414,077号明細書;米国特許第5,486,603号明細書;米国特許第5,512,439号明細書;米国特許第5,578,718号明細書;米国特許第5,608,046号明細書;米国特許第4,587,044号明細書;米国特許第4,605,735号明細書;米国特許第4,667,025号明細書;米国特許第4,762,779号明細書;米国特許第4,789,737号明細書;米国特許第4,824,941号明細書;米国特許第4,835,263号明細書;米国特許第4,876,335号明細書;米国特許第4,904,582号明細書;米国特許第4,958,013号明細書;米国特許第5,082,830号明細書;米国特許第5,112,963号明細書;米国特許第5,214,136号明細書;米国特許第5,082,830号明細書;米国特許第5,112,963号明細書;米国特許第5,214,136号明細書;米国特許第5,245,022号明細書;米国特許第5,254,469号明細書;米国特許第5,258,506号明細書;米国特許第5,262,536号明細書;米国特許第5,272,250号明細書;米国特許第5,292,873号明細書;米国特許第5,317,098号明細書;米国特許第5,371,241、5,391,723号明細書;米国特許第5,416,203、5,451,463号明細書;米国特許第5,510,475号明細書;米国特許第5,512,667号明細書;米国特許第5,514,785号明細書;米国特許第5,565,552号明細書;米国特許第5,567,810号明細書;米国特許第5,574,142号明細書;米国特許第5,585,481号明細書;米国特許第5,587,371号明細書;米国特許第5,595,726号明細書;米国特許第5,597,696号明細書;米国特許第5,599,923号明細書;米国特許第5,599,928and5,688,941号明細書;米国特許第6,294,664号明細書;米国特許第6,320,017号明細書;米国特許第6,576,752号明細書;米国特許第6,783,931号明細書;米国特許第6,900,297号明細書;米国特許第7,037,646号明細書が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0156】
所与の化合物中の全ての位置が一様に修飾される必要はなく、事実上、前述の修飾の2つ以上が、単一化合物中に、またはiRNA内の単一ヌクレオシド中にさえ、組み込まれ得る。本発明は、キメラ化合物であるiRNA化合物もまた含む。「キメラ(chimeric)」iRNA化合物または「キメラ(chimeras)」は、本発明の文脈で、それぞれ少なくとも1つのモノマー単位から、すなわちdsRNA化合物の場合はヌクレオチドから構成される、2つ以上の化学的に異なる領域を含有するiRNA化合物、好ましくはdsRNAである。これらのiRNAは、典型的に、iRNAに、ヌクレアーゼ分解に対する耐性の増大、細胞内取り込みの増大、および/または標的核酸に対する結合親和性の増大を与えるように、RNAが修飾される少なくとも1つの領域を含有する。iRNAの追加的な領域が、RNA:DNAまたはRNA:RNAハイブリッドを切断できる、酵素基質の役割を果たしてもよい。一例として、RNase Hは、RNA:DNA二本鎖のRNA鎖を切断する細胞エンドヌクレアーゼである。したがってRNase Hの活性化はRNA標的の切断をもたらし、それによって遺伝子発現のiRNA阻害効率を大幅に高める。その結果、同一標的領域とハイブリダイズするホスホロチオエートデオキシdsRNAと比較して、キメラdsRNAが使用される場合、より短いiRNAによって、比較できる結果が得られることが多い。RNA標的の切断は、ゲル電気泳動、そして必要ならば当該技術分野で公知の関連核酸ハイブリダイゼーション技術によって、慣例的に検出し得る。
【0157】
場合によっては、iRNAのRNAは、非リガンド基によって修飾し得る。iRNAの活性、細胞分布または細胞内取り込みを高めるために、いくつかの非リガンド分子がiRNAに共役結合されており、このような共役結合を実施する手順は、学術文献で入手できる。このような非リガンド部分は、コレステロールなどの脂質部分(クボ(Kubo),T.ら著、バイオケミカル&バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Comm.)、2007年、第365巻、第1号、p.54~61;レッツンガー(Letsinger)ら著、米国科学アカデミー紀要1989年、第86巻、p.6553)、コール酸(マノハラン(Manoharan)ら著、バイオオーガニック メディカルケミストリー レターズ(Bioorg.Med.Chem.Let.)、1994年、第4巻、p.1053)、例えばヘキシル-S-トリチルチオールなどのチオエーテル(マノハラン(Manoharan)ら著、ニューヨークアカデミーオブサイエンス紀要(Ann.N.Y.Acad.Sci.)、1992年、第660巻、p.306;マノハラン(Manoharan)ら著、バイオオーガニック メディカルケミストリー レターズ(Bioorg.Med.Chem.Let.)、1993年、第3巻、p.2765)、チオコレステロール(オーバーハウザー(Oberhauser)ら著、ニュークレイックアシッドリサーチ(Nucl.Acids Res.)、1992年、第20巻、p.533)、例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基などの脂肪族鎖(セゾン-ベーモアラス(Saison-Behmoaras)ら著、欧州分子生物学機構ジャーナル(EMBO J).、1991年、第10巻、p.111;カバノフ(Kabanov)ら著、FEBSレターズ(FEBS Lett.)、1990年、第259巻、p.327;スビナルチャク(Svinarchuk)ら著、ビオシミ(Biochimie)、1993年、第75巻、p.49)、例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチルアンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホネートなどのリン脂質(マノハラン(Manoharan)ら著、テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Lett.)、1995年、第36巻、p.3651;シア(Shea)ら著、ニュークレイックアシッドリサーチ(Nucl.Acids Res.)、1990年、第18巻、p.3777)、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(マノハラン(Manoharan)ら著、ヌクレオシド&ヌクレオチド(Nucleosides & Nucleotides)、1995年、第14巻、p.969)、またはアダマンタン酢酸(マノハラン(Manoharan)ら著、テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Lett.)、1995年、第36巻、p.3651)、パルミチル部分(ミシュラ(Mishra)ら著、ビオキミカ ビオフィジカ アクタ(Biochim.Biophys.Acta)、1995年、第1264巻、p.229)、またはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分(クルック(Crooke)ら著、ジャーナル オブ ファーマコロジ エクスペリメンタル セラピューティクス(J.Pharmacol.Exp.Ther.)、1996年、第277巻、p.923)を含む。このようなRNA複合体の調製を教示する代表的な米国特許は、上に列挙した。典型的な共役結合プロトコルは、配列の1つまたは複数の位置にアミノリンカーを有するRNAの合成を伴う。次に適切なカップリングまたは活性化試薬を使用して、アミノ基を共役結合する分子と反応させる。共役結合反応は、溶液相中で、RNAが固体支持体になおも結合する間に、またはRNA切断に続いて実施してもよい。HPLCによるRNA複合体精製は、典型的に純粋な複合体を与える。
【0158】
iRNA送達
それを必要とする対象へのiRNAの送達は、いくつかの異なる方法で達成し得る。生体内送達は、例えばdsRNAなどのiRNAを含んでなる組成物を対象に投与することで直接実施し得る。代案としては、送達は、iRNAをコードして発現を誘導する、1つまたは複数のベクターを投与することで、間接的に実施し得る。
【0159】
iRNA組成物の直接送達
一般に、核酸分子のあらゆる送達方法をiRNAで使用するために、適応させ得る(例えばその内容全体を参照によって本明細書に援用する、アクタール(Akhtar)S.およびジュリアン(Julian)RL.著、1992年、トレンズ イン セルバイオロジー(Trends Cell.Biol.)、第2巻、第5号、p.139~144および国際公開第94/02595号パンフレットを参照されたい)。しかしiRNA分子を生体内に成功裏に送達するために検討することが重要な、3つの要素がある:(a)送達される分子の生物学的安定性、(2)非特異的効果の防止、および(3)送達される分子の標的組織内蓄積。iRNAの非特異的効果は、例えば組織(非限定的例として腫瘍)中への直接注射または移植などの局所投与によって、または調製品を局所的に投与にすることで、最小化し得る。治療部位への局所投与は、作用物質の局所濃度を最大化し、そうしなければ作用物質によって害を被ることもある、または作用物質を分解することもある、全身組織の作用物質への曝露を限定し、iRNA分子のより低い総用量での投与を可能にする。いくつかの研究は、iRNAが局所的に投与された場合に、成功裏の遺伝子産物ノックダウン示している。例えばカニクイザルにおける硝子体内注射による(トレンティーノ(Tolentino),MJ.ら著、2004年、レティーナ(Retina)、第24巻、p.132~138)、およびマウスにおける網膜下注射による(ライヒ(Reich),SJ.ら著、2003年、モレキュラービジョン(Mol.Vis.)、第9巻、p.210~216)、VEGF dsRNAの眼内送達は、どちらも加齢黄斑変性の実験モデルで新血管形成を防止することを示した。これに加えて、マウスにおけるdsRNAの直接腫瘍内注射は、腫瘍体積を低下させ(ピル(Pille),J.ら著、2005年、モレキュラー セラピー(Mol.Ther.)、第11巻、p.267~274)、腫瘍を有するマウスの生存期間を延長し得た(キム(Kim),WJ.ら著、2006年、モレキュラー セラピー(Mol.Ther.)、第14巻、p.343~350;リー(Li),S.ら著、2007年、モレキュラー セラピー(Mol.Ther.)第15巻、p.515~523)。RNA干渉は、直接注射によるCNSへの(ドーン(Dorn),G.ら著、2004、ニュークレイック アシッズ(Nucleic Acids) 32:e49;タン(Tan),PH.ら著、2005年、ジーン セラピー(Gene Ther.)、第12巻、p.59~66;マキムラ(Makimura),H.ら著、2002年、BMCニューロサイエンス(BMC Neurosci.)、第3巻、p.18;シシュキナ(Shishkina),GT.ら著、2004年、ニューロサイエンス(Neuroscience)、第129巻、p.521~528;タッカー(Thakker),ER.ら著、2004年、米国科学アカデミー紀要、第101巻、p.17270~17275;アカネヤ(Akaneya),Y.ら著、2005年、ジャーナル オブ ニューロフィジオロジ(J.Neurophysiol.)、第93巻、p.594~602)、および鼻腔内投与による肺への(ハワード(Howard),KA.ら著、2006年、モレキュラー セラピー(Mol.Ther.)、第14巻、p.476~484;チャン(Zhang),X.ら著、2004年、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー(J.Biol.Chem.)、第279巻、p.10677~10684;ビトコ(Bitko),V.ら著、2005年、ネイチャー メディスン(Nat.Med.)、第11巻、p.50~55)局所性送達の成功が示されている。疾患を治療するために、iRNAを全身的に投与するために、RNAは修飾され、または代案としては薬物送達系を使用して送達され得て;どちらの方法も、生体内エンド-およびエキソ-ヌクレアーゼによるdsRNAの迅速な分解を防止するように作用する。RNAまたは薬学的担体の修飾はまた、標的組織へのiRNA組成物の標的化も可能にし得て、望ましくない非特異的効果が回避される。コレステロールなどの親油性基の化学的結合によってiRNA分子を修飾し、細胞内取り込みを高め分解を防止し得る。例えば親油性コレステロール部分に共役結合されたApoBに対抗するiRNAがマウスに全身注射され、肝臓および空腸の双方でapoB mRNAノックダウンがもたらされた(サウチェック(Soutschek),J.ら著、2004年、ネイチャー(Nature)、第432巻、p.173~178)。iRNAのアプタマーへの共役結合は、前立腺がんのマウスモデルにおいて腫瘍増殖を抑制し、腫瘍退縮を媒介することが示されている。(マクナマラ(McNamara),JO.ら著、2006年、ネイチャー バイオテクノロジー(Nat.Biotechnol.)、第24巻、p.1005~1015)。代案の実施形態では、iRNAは、ナノ粒子、デンドリマー、ポリマー、リポソーム、またはカチオン性送達系などの薬物送達システムを使用して送達され得る。正に帯電したカチオン性送達系は、iRNA分子(負に帯電)の結合を容易にして、負に帯電した細胞膜における相互作用もまた高めて、細胞によるiRNAの効率的な取り込みを可能にする。カチオン性脂質、デンドリマー、またはポリマーは、iRNAに結合され、またはiRNAを包む小胞またはミセルを形成するように誘導され得る(例えばキム(Kim)SH.ら著、2008年、ジャーナル オブ コントロールド リリース(Journal of Controlled Release)、第129巻、第2号、p.107~116を参照されたい)。小胞またはミセルの形成は、全身投与した際にiRNAの分解をさらに防止する。カチオン性iRNA複合体を作成して投与する方法は、十分に当業者の能力の範囲内である(例えばその内容全体を参照によって本明細書に援用する、ソレンセン(Sorensen),DR.ら著、2003年、ジャーナル オブ モレキュラー バイオトrジー(J.Mol.Biol)、第327巻、p.761~766;フェルマ(Verma),UN.ら著、2003年、クリニカル キャンサー リサーチ(Clin.Cancer Res.)、第9巻、p.1291~1300;ア-ノルド(Arnold),ASら著、2007年、ジャーナル オブ ハイパーテンション(J.Hypertens.)、第25巻、p.197~205を参照されたい)。iRNAの全身性送達に有用な薬物送達系のいくつかのの非限定的例としては、DOTAP(ソレンセン(Sorensen),DR.ら著、2003年,前出;フェルマ(Verma),UN.ら著、2003年,前出),オリゴフェクトアミン(Oligofectamine),“安定な核酸ー脂質粒子(solid nucleicacid lipidparticles)”(ツィマーマン(Zimmermann),TS.ら著、2006年、ネイチャー(Nature)、第441巻、p.111~114)、カルジオリピン(チェン(Chien),PY.ら著、2005年、キャンサー ジーン セラピー(Cancer Gene Ther.)、第12巻、p.321~328;パル(Pal),A.ら著、2005年、インターナショナル ジャーナル オブ オンコロジー(Int J.Oncol.)、第26巻、p.1087~1091)、ポリエチレンイミン(ボネ(Bonnet)ME.ら著、2008年、ファーマスーティカル リサーチ(Pharm.Res.)、8月16日オンライン先行発表;アイグナー(Aigner),A.著、2006年、ジャーナル オブ バイオメディスン&バイオテクノロジー(J.Biomed.Biotechnol.)、p.71659)、Arg-Gly-Asp(RGD)ペプチド(リュ-(Liu),S.著、2006年、モレキュラー ファーマコロジ(Mol.Pharm.)、第3巻、p.472~487)、およびポリアミドアミン(トナリア(Tomalia),DA.ら著、2007年、バイオケミカル ソサエティ トランザクション(Biochem.Soc.Trans.)、第35巻、p.61~67;ヨー(Yoo),H.ら著、1999年、ファーマスーティカル リサーチ(Pharm.Res.)、第16巻、p.1799~1804)が挙げられる。いくつかの実施形態では、全身投与のために、iRNAはシクロデキストリンと複合体を形成する。iRNAおよびシクロデキストリンの投与方法および医薬組成物は、その内容全体を参照によって本明細書に援用する米国特許第7,427,605号明細書にある。
【0160】
iRNAをコードするベクター
別の態様では、TMPRSS6遺伝子標的化iRNAは、DNAまたはRNAベクターに挿入された転写単位から発現され得る(例えばクチュール(Couture),Aら著、TIG.、1996年、第12巻、p.5~10;スキラーン(Skillern),A.,ら著に付与された国際公開第00/22113号パンフレット;コンラッド(Conrad)に付与された国際公開第00/22114号パンフレット;およびコンラッド(Conrad)に付与された米国特許第6,054,299号明細書を参照されたい)。発現は、使用される特定のコンストラクトおよび標的組織または細胞型次第で、一過性(数時間から数週間程度)または持続性(数週間から数ヶ月以上)であり得る。これらの導入遺伝子は、組み込み型または非組み込み型ベクターであり得る、直鎖コンストラクト、環状プラスミド、またはウイルスベクターとして導入し得る。導入遺伝子はまた、それが染色体外プラスミドとして遺伝するのを可能にするよう構築し得る(ガスマン(Gassmann)ら著、米国科学アカデミー紀要1995年、第92巻、p.1292)。
【0161】
個々のiRNA鎖または鎖群は、発現ベクター上のプロモータから転写され得る。2つの別個の鎖を発現させて、例えばdsRNAを生成させる場合、(例えば形質移入または感染によって)2つの別個の発現ベクターを標的細胞に同時導入し得る。代案としては、そのどちらも同一発現プラスミド上に位置するプロモータによって、dsRNAの個々の鎖を転写し得る。一実施形態では、dsRNA鎖は、dsRNAがステムループ構造を有するように、リンカーポリヌクレオチド配列によって連結する逆位反復ポリヌクレオチドとして発現される。
【0162】
iRNA発現ベクターは、一般にDNAプラスミドまたはウイルスベクターである。真核生物細胞に適合し、好ましくは脊椎動物細胞に適合する発現ベクターを使用して、本明細書に記載されるiRNA発現のための組換えコンストラクトを生成し得る。真核細胞発現ベクターは当該技術分野で周知であり、いくつかの商業的供給元から入手できる。典型的にこのようなベクターは、所望の核酸断片を挿入するための都合良い制限酵素認識部位を含有させて、提供される。iRNA発現ベクターの送達は、静脈内または筋肉内投与などによる全身投与、患者から外植された標的細胞への投与とそれに続く患者への再導入、または所望の標的細胞に導入できるようにするあらゆる別の手段などであり得る。
【0163】
iRNA発現プラスミドは、カチオン性脂質担体(例えばオリゴフェクトアミン)または非カチオン性脂質ベースの担体(例えばTransit-TKO(商標))との複合体として、標的細胞に形質移入し得る。1週間以上の期間にわたって標的RNAの異なる領域を標的化する、iRNA媒介ノックダウンのための複数脂質形質移入もまた、本発明により検討される。ベクターの宿主細胞への成功裏の導入は、様々な既知の方法を使用してモニターし得る。例えば一過性形質移入は、緑色蛍光タンパク質(GFP)などの蛍光性マーカなど、レポーターによって示し得る。生体外における細胞への安定した形質移入は、形質移入細胞に、ハイグロマイシンB耐性などの特定環境要素(例えば抗生物質および薬剤)耐性を提供するマーカを使用して、確実にし得る。
【0164】
本明細書に記載される方法および組成物と共に利用し得るウイルスベクターシステムとしては、(a)アデノウイルスベクター;(b)レンチウイルスベクター、モロニーマウス白血病ウイルスなどをはじめとするが、これに限定されるものではないレトロウイルスベクター;(c)アデノ随伴ウイルスベクター;(d)単純ヘルペスウイルスベクター;(e)SV40ベクター;(f)ポリオーマウイルスベクター;(g)乳頭腫ウイルスベクター;(h)ピコルナウィルスベクター;(i)例えばワクシニアウイルスベクターなどのオルソポックス、または例えばカナリア痘または鶏痘などのアビポックスなどのポックスウイルスベクター;および(j)ヘルパー依存性またはガットレスアデノウイルスが挙げられるが、これに限定されるものではない。複製欠陥ウイルスもまた、有利であり得る。異なるベクターは、細胞のゲノムに組み込まれ、または組み込まれない。コンストラクトは、所望ならば、形質移入のためのウイルス配列を含み得る。代案としては、コンストラクトは、例えばEPVおよびEBVベクターなどのエピソーム複製ができるベクターに組み込まれてもよい。iRNAの組換え発現のためのコンストラクトは、一般に、標的細胞中のiRNA発現を確実にするための、例えばプロモータ、エンハンサーなどの調節因子を必要とする。ベクターおよびコンストラクトについて検討されるその他の態様は、以下にさらに詳しく記載する。
【0165】
iRNAを送達するのに有用なベクターは、所望の標的細胞または組織中のiRNAの発現に十分な調節因子(プロモータ、エンハンサーなど)を含む。調節因子は、構成的または調節/誘導性発現のいずれかを提供するように選択し得る。
【0166】
iRNAの発現は、例えば循環グルコースレベル、またはホルモンなどの特定の生理学的制御因子に感受性の誘導性制御配列を使用して、正確に調節し得る(ドチェルティ(Docherty)ら著、1994年、FASEBジャーナル、第8巻、p.20~24)。細胞または哺乳類におけるdsRNA発現の制御に適するこのような誘導性発現系としては、例えばエクジソン、エストロゲン、プロゲステロン、テトラサイクリン、二量体化の化学誘導物質、およびイソプロピル-β-D1-チオガラクトピラノシド(IPTG)による調節が挙げられる。当業者は、iRNA導入遺伝子の意図される用途に基づいて、適切な調節/プロモータ配列を選択できる。
【0167】
特定の実施形態では、iRNAをコードする核酸配列を含有するウイルスベクターを使用し得る。例えばレトロウイルスベクターを使用し得る(ミラー(Miller)ら著、メソッズ イン エンザイモロジー(Meth.Enzymol.)、第217巻、p.581~599、1993年を参照されたい)。これらのレトロウイルスベクターは、ウイルスゲノムの正しいパッケージングと宿主細胞DNAへの組み込みに必要な成分を含有する。iRNAをコードする核酸配列は、患者への核酸の送達を容易にする、1つまたは複数のベクターにクローン化される。レトロウイルスベクターに関してより詳しくは、例えば化学療法により高い耐性を示す幹細胞を生成するために、mdr1遺伝子を造血幹細胞に送達するレトロウイルスベクターの使用を記載する、ボーゼン(Boesen)ら著、バイオセラピー(Biotherapy)、第6巻、p.291~302、1994年にある。遺伝子療法におけるレトロウイルスベクターの使用を例証するその他の参考文献は、クラウス(Clowes)ら著、ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(J.Clin.Invest.)、第93巻、p.644~651、1994年;キエム(Kiem)ら著、ブラッド(Blood)、第83巻、p.1467~1473、1994年;サルモンズ(Salmons)およびグンズバーグ(Gunzberg)著、ヒューマン ジーン セラピー(Human Gene Therapy)、第4巻、p.129~141、1993年;およびグロスマン(Grossman)およびウィルソン(Wilson)著、カレント オピニオン イン ジェネティクス&ディベロップメント(Curr.Opin.in Genetics and Devel.)、第3巻、p.110~114、1993年である。使用が検討されるレンチウイルスベクターとしては、例えば参照によって本明細書に援用する、米国特許第6,143,520号明細書;米国特許第5,665,557号明細書;および米国特許第5,981,276号明細書に記載されるHIVベースのベクターが挙げられる。
【0168】
アデノウイルもまた、iRNAの送達で使用するために検討される。アデノウイルは、例えば気道上皮に遺伝子を送達するために、特に魅力的なビヒクルである。アデノウイルは気道上皮に天然で感染して、軽症の疾患を引き起こす。アデノウイルスベースの送達系その他の標的は、肝臓、中枢神経系、内皮細胞、および筋肉である。アデノウイルは、非分裂細胞に感染できる利点を有する。コザルスキー(Kozarsky)およびウィルソン(Wilson)、カレント オピニオン イン ジェネティクス&ディベロップメント(Current Opinion in Genetics and Development)第3巻、p.499~503、1993年は、アデノウイルスベースの遺伝子療法のレビューを提示する。バウト(Bout)ら著、ヒューマン ジーン セラピー(Human Gene Therapy)、第5巻、p.3~10、1994年は、遺伝子をアカゲザルの気道上皮に移入するための、アデノウイルスベクターの使用を実証した。遺伝子療法におけるアデノウイルの使用のその他の事例は、ローゼンフェルド(Rosenfeld)ら著、サイエンス(Science)、第252巻、p.431~434、1991年;ローゼンフェルド(Rosenfeld)ら著、セル(Cell)、第68巻、p.143~155、1992年;マストランジェリ(Mastrangeli)ら著、ジャーナル オブ クリニカル インベスティゲーション(J.Clin.Invest.)、第91巻、p.225~234、1993年;国際公開第94/12649号パンフレット;およびワン(Wang)ら著、ジーン セラピー(Gene Therapy)、第2巻、p.775~783、1995年にある。本発明で取り上げるiRNAを発現するための適切なAVベクター、組換えAVベクターを構築する方法、およびベクターを標的細胞に送達する方法は、シァ(Xia)Hら著、2002年、ネイチャー
バイオテクノロジー(Nat.Biotech.)、第20巻、p.1006~1010に記載される。
【0169】
アデノ随伴ウイルス(AAV:Adeno-associated virus)ベクターの使用もまた、検討される(ワルシュ(Walsh)ら著、ソサエティ フォー エクスペリメンタル バイオロジー&メディスン論文集(Proc.Soc.Exp.Biol.Med.)、第204巻、p.289~300、1993年;米国特許第5,436,146号明細書)。一実施形態では、iRNAは、例えば、U6またはH1 RNAプロモータ、またはサイトメガロウイルス(CMV)プロモータのいずれかを有する、組換えAAVベクターからの2つの別個の相補的一本鎖RNA分子として発現され得る。本発明で取り上げるdsRNAを発現するのに適切なAAVベクター、組換えAVベクターを構築する方法、およびベクターを標的細胞に送達する方法は、その開示全体を参照によって本明細書に援用する、サムルスキー(Samulski)Rら著、1987年、ジャーナル オブ ヴァイロロジー(J.Virol.)、第61巻、p.3096~3101;フィッシャー(Fisher)K Jら著、1996年、ジャーナル オブ ヴァイロロジー(J.Virol)、第70巻、p.520~532;サムルスキー(Samulski)Rら著、1989年、ジャーナル オブ ヴァイロロジー(J.Virol.)、第63巻、p.3822~3826;米国特許第5,252,479号明細書;米国特許第5,139,941号明細書;国際公開第94/13788号パンフレット;および国際公開第93/24641号パンフレットに記載される。
【0170】
別の好ましいウイルスベクターは、例えば、修飾ウイルスアンカラ(MVA)またはNYVACなどの弱毒化ワクシニアなどのワクシニアウイルス、鶏痘またはカナリア痘などのアビポックスなどのポックスウイルスである。
【0171】
ウイルスベクターの親和性は、必要に応じて、その他のウイルスからの外被タンパク質またはその他の表面抗原でベクターをシュードタイピングすることで、または異なるウイルスからのカプシドタンパク質で置換することで、修飾し得る。例えば水疱性口内炎ウイルス(VSV:vesicular stomatitis virus)、狂犬病、エボラ、モコラなどからの表面タンパク質によって、レンチウイルスベクターをシュードタイピングし得る。AAVベクターは、ベクターを遺伝子操作して、異なるカプシドタンパク質血清型を発現させることで、異なる細胞を標的化するようにできる;例えばその開示全体を参照によって本明細書に援用する、ラビノビッツ(Rabinowitz)J Eら著、2002年、ジャーナル オブ ヴァイロロジー(J Virol)、第76巻、p.791~801を参照されたい。
【0172】
ベクターの医薬品は、許容される希釈剤中のベクターを含み得て、またはその中に遺伝子送達ビヒクルが包埋される徐放マトリックスを含み得る。代案としては、例えばレトロウイルスベクターなどの完全な遺伝子送達ベクターが、組換え細胞から無傷で生成され得る場合、医薬品は遺伝子送達系を生成する1つまたは複数の細胞を含み得る。
【0173】
III.iRNA含有医薬組成物
一実施形態では、iRNAと薬学的に許容できる担体とを含有する医薬組成物が、本明細書で提供される。iRNAを含有する医薬組成物は、TMPRSS6の発現によって媒介される病理過程など、TMPRSS6遺伝子の発現または活性と関連する、疾患または障害を治療するのに有用である。このような医薬組成物は、送達様式に基づいて調合される。一実施例は、例えば静脈内(IV)送達による、非経口送達を通じた、全身投与のために調合される組成物である。
【0174】
本明細書で取り上げる医薬組成物は、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害するのに十分な用量で投与される。一般にiRNAの適切な用量は、1日あたり受容者の体重1キログラムあたり0.01~200.0ミリグラムの範囲、一般に1日あたり体重あたりキログラム1~50mgの範囲である。例えばdsRNAは、単回投与あたり、0.05mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、1.5mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kg、40mg/kg、または50mg/kgで投与し得る。医薬組成物は、毎日1回、または毎週1回、または毎月1回、または2ヶ月に1回投与されてもよい。代案としては、組成物は、週に2回または月に2回、または2、3または4週間毎に1回投与し得る。いくつかの実施形態ではiRNAは、一日を通して適切な間隔で、2、3以上の部分用量で、または持続注入または放出制御製剤を通じた送達さえ使用して、投与される。その場合、各部分用量に含有されるiRNAは、1日あたり総用量を達成するために、対応してより少量でなくてはならない。投薬単位はまた、例えば数日間にわたってiRNAの徐放を提供する、従来型の徐放性製剤を使用して、数日間にわたる送達のために配合し得る。徐放性製剤は当該技術分野で周知であり、特に、本発明の作用物質で使用し得る、特定部位への作用物質送達のために有用である。この実施形態では、投薬単位は、相当する複数の1日量を含有する。
【0175】
TMPRSS6レベルに対する単回投与の効果は、引き続く用量が、3、4、または5日間以下の間隔で、または1、2、3、または4週間以下の間隔で投与されるように、長期にわたり得る。
【0176】
当業者は、疾患または障害の重症度、以前の治療、対象の総体的な健康および/または年齢、および存在するその他の疾患をはじめとするが、これに限定されるものではない、特定の要素が、対象を効果的に治療するのに必要な投与量とタイミングに、影響を及ぼすことがあることを理解するであろう。さらに組成物の治療有効量による対象の治療は、単回治療または一連の治療を含み得る。本発明に包含される個々のiRNAの有効投与量および生体内半減期は、従来の手順を使用して、または本明細書の他の箇所に記載されるように、適切な動物モデルを使用した生体内試験に基づいて推定し得る。
【0177】
マウス遺伝学における進歩は、TMPRSS6発現によって媒介される病理過程など、様々なヒト疾患を研究するためのいくつかのマウスモデルを作り出している。このようなモデルは、iRNAの生体内試験のために、ならびに治療有効用量を判定するために、使用し得る。適切なマウスモデルは、例えばヒトTMPRSS6を発現する導入遺伝子を含有するマウスである。
【0178】
本発明は、本発明で取り上げるiRNA化合物を含む、医薬組成物および製剤もまた含む。本発明の医薬組成物は、局所性または全身性の治療が所望されるかどうかに応じて、そして治療領域次第で、いくつかの方法で投与されてもよい。投与は、局所(例えば経皮パッチによる)、例えば粉末の吸入または吹送またはネブライザーをはじめとする煙霧剤による経肺;気管内、鼻腔内、経表皮および経皮、経口または非経口であってもよい。非経口投与としては、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内または筋肉内注射または輸液;例えば埋め込みデバイスを通じた、真皮下投与;または例えば脳実質内、クモ膜下腔内または脳室内などの頭蓋内投与が挙げられる。
【0179】
iRNAは、肝臓(例えば肝臓の実質細胞)などの特定組織を標的化する様式で、送達され得る。
局所投与のための医薬組成物および製剤としては、経皮パッチ、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、ドロップ、坐薬、スプレー、液体、および粉末が挙げられる。従来の薬学的担体、水性、粉末または油性基剤、増粘剤などが、必要でありまたは望ましいこともある。被覆コンドーム、手袋などもまた、有用なこともある。適切な局所製剤としては、その中で、本発明で取り上げるiRNAが、脂質、リポソーム、脂肪酸、脂肪酸エステル、ステロイド、キレート化作用物質、および界面活性剤などの局所送達作用物質との混和材料中にあるものが挙げられる。適切な脂質およびリポソームとしては、中性(例えばジオレオイルホスファチジルDOPEエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルコリンDMPC、ジステアロリホスファチジル(distearolyphosphatidyl)コリン)、陰性(例えばジミリストイルホスファチジルグリセロールDMPG)およびカチオン性(例えばジオレオイルテトラメチルアミノプロピルDOTAPおよびジオレオイルホスファチジルエタノールアミンDOTMA)が挙げられる。本発明で取り上げるiRNAは、リポソーム内にカプセル化されてもよく、またはそれと、特にカチオン性リポソームと、複合体形成してもよい。代案としては、iRNAは、脂質、特にカチオン性脂質と複合体形成してもよい。適切な脂肪酸およびエステルとしては、アラキドン酸、オレイン酸、エイコサン酸、ラウリン酸、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、モノオレイン、ジラウリン、グリセリル1-モノカプレート、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、アシルカルニチン、アシルコリン、またはC1~20アルキルエステル(例えばイソプロピルミリスチン酸IPM)、モノグリセリド、ジグリセリド、または薬学的に許容可能なその塩が挙げられるが、これに限定されるものではない。局所製剤は、参照によって本明細書に援用する、米国特許第6,747,014号明細書に詳述される。
【0180】
リポソーム製剤
薬物の調合のために研究され使用されているマイクロエマルション以外にも、多数の組織化界面活性剤の構造が存在する。これらとしては、単層、ミセル、二重層、および小胞が挙げられる。リポソームなどの小胞は、薬物送達の観点から、それらの特異性とそれらが提供する作用持続時間のために、高い注目を集めている。本発明での用法では、「リポソーム」という用語は、球状二重層または二重層群に配列された両親媒性脂質から構成される、小胞を意味する。
【0181】
リポソームは、親油性材料と水性内部から形成される膜を有する、単層のまたは多重膜小胞である。水性部分は、送達される組成物を含有する。カチオン性リポソームは、細胞壁に融合できる利点を有する。非カチオン性リポソームは、細胞壁と効率的に融合できないが、生体内でマクロファージに取り込まれる。
【0182】
無傷の哺乳類皮膚を越えるために、脂質小胞は、適切な経皮勾配の影響下で、それぞれ直径が50nm未満の一連の細孔を通過しなくてはならない。したがって高度に変形可能でこのような細孔を通過できる、リポソームを使用することが望ましい。
【0183】
リポソームのさらなる利点としては、以下が挙げられる;天然リン脂質から得られるリポソームは、生体適合性かつ生分解性であり;リポソームは、幅広い水および脂質可溶性薬剤を組み込み得て;リポソームは、それらの内部区画にカプセル化した薬剤を代謝および分解から保護し得る(ロゾフ(Rosoff)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.245)。リポソーム製剤の調製における重要な考察は、リポソームの脂質表面電荷、小胞サイズ、および水性容量である。
【0184】
リポソームは、作用部位への活性成分の移行および送達のために有用である。リポソーム膜は生体膜と構造的に類似しているので、リポソームが組織に適用されると、リポソームは細胞膜と一体化し始めて、リポソームと細胞の融合が進むにつれて、リポソーム内容物は、そこで活性薬剤が作用してもよい細胞中に出される。
【0185】
リポソーム製剤は、多数の薬剤の送達様式として、大規模な研究の焦点である。局所投与において、リポソームがその他の製剤に優るいくつかの利点を提示する証拠が、上がってきている。このような利点としては、投与薬剤の高い全身性吸収と結びつく副作用の低下、所望の標的における投与薬剤の蓄積増大、および親水性および疎水性双方の多種多様な薬剤を皮膚内投与する能力が挙げられる。
【0186】
いくつかの報告は、リポソームが、皮膚内に高分子量DNAをはじめとする作用物質を送達する能力を詳述している。鎮痛剤、抗体、ホルモン、および高分子量DNAをはじめとする化合物が、皮膚に投与されている。用途の大部分は、表皮上層の標的化をもたらした。
【0187】
リポソームは、2つの広範なクラスに分類される。カチオン性リポソームは、負に帯電したDNA分子と相互作用して安定した複合体を形成する、正に帯電したリポソームである。正に帯電したDNA/リポソーム複合体は、負に帯電した細胞表面に結合してエンドソーム内部に取り入れられる。エンドソーム内の酸性pHのためにリポソームは破裂して、それらの内容物を細胞質内へ放出する(ワン(Wang)ら著、バイオケミカル&バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochem.Biophys.Res.Commun.)、1987年、第147巻、p.980~985)。
【0188】
pH感受性または負電荷のリポソームは、核酸と複合体を形成せず、むしろそれを封入する。DNAと脂質は、どちらも同様の荷電を持つため、複合体形成でなく反発が起きる。それでもなおいくらかのDNAは、これらのリポソームの水性内部に封入される。pH感受性リポソームは、培養中で細胞単層に、チミジンキナーゼ遺伝子をコードする核酸を送達するのに使用されている。外来性遺伝子の発現は、標的細胞中で検出された(チョウ(Zhou)ら著、ジャーナル オブ コントロールド リリース(Journal of Controlled Release)、1992年、第19巻、p.269~274)。
【0189】
1つの主要タイプのリポソーム組成物は、天然由来ホスファチジルコリン以外に、リン脂質を含む。例えば中性リポソーム組成物は、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)またはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)から生成され得る。アニオン性リポソーム組成物が、一般にジミリストイルホスファチジルグリセロールから生成されるのに対し、アニオン性融合性リポソームは、主にジオレオイルスファチジルエタノールアミン(DOPE)から形成される。別のタイプのリポソーム組成物は、例えばダイズPC、および卵PCなどのホスファチジルコリン(PC)から生成される。別のタイプは、リン脂質および/またはホスファチジルコリンおよび/またはコレステロールの混合物から生成される。
【0190】
いくつかの研究が、皮膚へのリポソーム製剤の局所送達を評価している。インターフェロン含有リポソームのモルモット皮膚への塗布が、皮膚ヘルペスによる傷の減少をもたらしたのに対し、別の手段によるインターフェロン送達(例えば溶液としてまたはエマルションとしての)は無効であった(ワイナー(Weiner)ら著、ジャーナル オブ ドラッグ ターゲンティング(Journal of Drug Targeting)、1992年、第2巻、p.405~410)。さらに追加的な研究が、水性系を使用したインターフェロン投与と比較して、リポソーム製剤の一部としてのインターフェロン投与の有効性を試験し、リポソーム製剤は水性投与よりも優れていると結論付けた(デュプレシ(du Plessis)ら著、アンチバイラル リサーチ(Antiviral Research)、1992年、第18巻、p.259~265)。
【0191】
非イオン性リポソーム系、特に非イオン性界面活性剤とコレステロールを含んでなる系が研究され、皮膚への薬剤送達におけるそれらの効用が判定されている。Novasome(商標)I(ジラウリン酸グリセリル/コレステロール/ポリオキシエチレン-10-ステアリルエーテル)およびNovasome(商標)II(ジステアリン酸グリセリル/コレステロール/ポリオキシエチレン-10-ステアリルエーテル)を含んでなる非イオン性リポソーム製剤を使用して、マウス皮膚真皮内へシクロスポリンAが送達された。結果は、このような非イオン性リポソーム系が、皮膚の異なる層内へのシクロスポリンAの沈着を容易にする上で、効果的であることを示唆した(フー(Hu)ら著、S.T.P.ファーマ サイエンス(Pharma.Sci.)、1994年、第4巻、第6号、p.466)。
【0192】
リポソームはまた、「立体的安定化」リポソームを含み、この用語は本明細書の用法では、1つまたは複数の特殊化された脂質を含んでなるリポソームを指し、それは、リポソーム中に組み込まれると、このような特殊化された脂質を欠くリポソームと比較して、改善された循環寿命をもたらす。立体的安定化リポソームの例は、その中で、リポソームの小胞形成脂質部分の一部が、(A)モノシアロガングリオシドGM1などの1つまたは複数の糖脂質を含んでなり、または(B)ポリエチレングリコール(PEG)部分などの1つまたは複数の親水性ポリマーで誘導体化されているものである。いかなる特定の理論による拘束も望まないが、当該技術分野では、少なくともガングリオシド、スフィンゴミエリン、またはPEG誘導体化脂質を含有する立体的安定化リポソームでは、これらの立体的安定化リポソームの循環半減期の改善は、細網内皮系(RES:reticuloendothelial system)細胞への取り込み低下に由来するものと考えられる(アレン(Allen)ら著、FEBSレターズ(Letters),1987年、第223巻、p.42;ウー(Wu)ら著、キャンサー リサーチ(Cancer Research)、1993年、第53巻、p.3765)。
【0193】
1つまたは複数の糖脂質を含んでなる様々なリポソームが、当該技術分野で公知である。パパハジョポロス(Papahadjopoulos)ら著、ニューヨークアカデミーオブサイエンス紀要(Ann.N.Y.Acad.Sci.)、1987年、第507巻、p.64)は、モノシアロガングリオシドGM1、ガラクトセレブロシドサルフェートおよびホスファチジルイノシトールが、リポソームの血液半減期を改善する能力を報告した。これらの知見は、ギャビゾン(Gabizon)ら著、米国科学アカデミー紀要、1988年、第85巻、p.6949によって詳しく説明された。どちらもアレン(Allen)らに付与された、米国特許第4,837,028号明細書および国際公開第88/04924号パンフレットは、(1)スフィンゴミエリンと、(2)ガングリオシドGM1またはガラクトセレブロシド硫酸エステルとを含んでなる、リポソームを開示する。米国特許第5,543,152号明細書(ウェブ(Webb)ら)は、スフィンゴミエリンを含んでなるリポソームを開示する。1,2-sn-ジミリストイルホスファチジルコリンを含んでなるリポソームは、国際公開第97/13499(リム(Lim)ら)号パンフレットで開示される。
【0194】
1つまたは複数の親水性ポリマーで誘導体化された脂質を含んでなる多数のリポソーム、およびそれらの調製法は、当該技術分野で公知である。スナモト(Sunamoto)ら(日本化学会欧文誌(Bull.Chem.Soc.Jpn.)、1980年、第53巻、p.2778)は、PEG部分を含有する非イオン系洗剤2C1215Gを含んでなる、リポソームについて記載した。イルム(Illum)ら著、FEBSレターズ(FEBS Lett.)、1984年、第167巻、p.79は、ポリマーグリコールによるポリスチレン粒子の親水性コーティングが、顕著に改善された血液半減期をもたらすことを記述した。ポリアルキレングリコール(例えばPEG)のカルボン酸基の付加によって修飾された合成リン脂質は、シアーズ(Sears)(米国特許第4,426,330号明細書および米国特許第4,534,899号明細書)によって記載される。クリバノフ(Klibanov)ら(FEBSレターズ(FEBS Lett.)、1990年、第268巻、p.235)は、PEGまたはPEGステアリン酸塩によって誘導体化されたホスファチジルエタノールアミン(PE)を含んでなるリポソームが、血液循環半減期に著しい増大を有することを実証する実験を記載した。ブルム(Blume)ら(バイオキミカ エ バイオフィジカ アクタ(Biochimica et Biophysica Acta)、1990年、第1029巻、p.91)は、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)とPEGの組み合わせから生成される、例えばDSPE-PEGなどのその他のPEG-誘導体化リン脂質に、このような観察を広げた。共有結合したPEG部分を外面に有するリポソームは、フィッシャー(Fisher)に付与された欧州特許第0445131B1号明細書および国際公開第90/04384号パンフレットに記載される。1~20モルパーセントのPEG誘導体化PEを含有するリポソーム組成物、およびその使用方法は、ウードル(Woodle)ら(米国特許第5,013,556号明細書および米国特許第5,356,633号明細書)、およびマーティン(Martin)ら(米国特許第5,213,804号明細書および欧州特許第0496813B1号明細書)によって記載される。いくつかのその他の脂質-ポリマー複合体を含んでなるリポソームは、(どちらもマーティン(Martin)らに付与された)国際公開第91/05545号パンフレットおよび米国特許第5,225,212号明細書、および国際公開第94/20073号パンフレット(ザリプスキー(Zalipsky)ら)で開示される。PEG修飾セラミド脂質を含んでなるリポソームは、国際公開第96/10391号パンフレット(チョイ(Choi)ら)に記載される。米国特許第5,540,935号明細書(ミヤザキ(Miyazaki)ら)および米国特許第5,556,948号明細書(タガワ(Tagawa)ら)は、それらの表面を機能的部分でさらに誘導体化し得る、PEG含有リポソームを記載する。
【0195】
核酸を含んでなるいくつかのリポソームは、当該技術分野で公知である。ティエリ(Thierry)らに付与された国際公開第96/40062号パンフレットは、高分子量核酸をリポソーム中にカプセル化する方法を開示する。タガワ(Tagawa)らに付与された米国特許第5,264,221号明細書は、タンパク質結合リポソームを開示し、このようなリポソームの内容物がdsRNAを含んでもよいと主張する。ラーマン(Rahman)らに付与された米国特許第5,665,710号明細書は、リポソーム中にオリゴデオキシヌクレオチドをカプセル化する特定の方法を記載する。ラブ(Love)らに付与された国際公開第97/04787号パンフレットは、raf遺伝子標的化dsRNAを含んでなるリポソームを開示する。
【0196】
トランスファーソームはなおも別のタイプのリポソームであり、薬物送達ビヒクルのための魅力的な候補である、高度に変形可能な脂質凝集体である。トランスファーソームは、非常に高度に変形可能であるために、小滴よりも小さい孔を通じて容易に浸透できる脂肪滴と説明されてもよい。トランスファーソームは、それらが使用される環境に適応でき、例えばそれらは自己最適化し(皮膚孔形状に適応する)、自己修復し、しばしば断片化することなくそれらの標的に到達し、自己装填することが多い。トランスファーソームを作成するために、通常は界面活性剤である表面縁活性化剤を標準リポソーム組成物に添加することができる。トランスファーソームは、血清アルブミンを皮膚に送達するのに使用されている。血清アルブミンのトランスファーソーム媒介送達は、血清アルブミンを含有する溶液の皮下注射と同程度に、効果的であることが示されている。
【0197】
界面活性剤には、(マイクロエマルションをはじめとする)エマルションおよびリポソームなどの製剤における、幅広い応用がある。天然および合成双方の多数の異なる界面活性剤型の特性の分類および格付けの最も一般的な方法は、親水性/親油性バランス(HLB:hydrophile/lipophile balance)の使用による。親水性基(「ヘッド」としてもまた知られている)の性質は、製剤中で使用される異なる界面活性剤を分類する、最も有用な手段を提供する(リーガ(Rieger)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、1988年、p.285。
【0198】
界面活性剤分子がイオン化されない場合、それは非イオン性界面活性剤に分類される。非イオン性界面活性剤には、医薬および美容製品における幅広い用途があり、広いpH価範囲にわたって使用できる。一般にそれらのHLB値は、それらの構造に応じて2~約18の範囲である。非イオン性界面活性剤としては、エチレングリコールエステル、プロピレングリコールエステル、グリセリルエステル、ポリグリセリルエステル、ソルビタンエステル、スクロースエステル、およびエトキシル化エステルなどの非イオン性エステルが挙げられる。脂肪アルコールエトキシレート、プロポキシル化アルコールおよびエトキシル化/プロポキシル化ブロックポリマーなどの非イオン性アルカノールアミドおよびエーテルもまた、このクラスに含まれる。ポリオキシエチレン界面活性剤は、非イオン性界面活性剤クラスの最も良く見られる構成員である。
【0199】
界面活性剤分子が、水への溶解または分散時に負電荷を保有する場合、界面活性剤はアニオン性に分類される。アニオン性界面活性剤としては、石鹸などのカルボン酸塩、ラクチル酸アシル、アミノ酸のアシルアミド、硫酸アルキルおよびエトキシル化硫酸アルキルなどの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホネートなどのスルホネート、イセチオン酸アシル、タウリン酸アシルおよびスルホコハク酸アシル、およびリン酸アシルが挙げられる。アニオン性界面活性剤クラスの最も重要な構成員は、硫酸アルキルおよび石鹸である。
【0200】
界面活性剤分子が、水への溶解または分散時に正電荷を保有する場合、界面活性剤はカチオン性に分類される。カチオン性界面活性剤としては、四級アンモニウム塩およびエトキシル化アミンが挙げられる。四級アンモニウム塩が、このクラスで最も良く使用される構成員である。
【0201】
界面活性剤分子が、陽性または陰性電荷のいずれかを有する能力を有する場合、界面活性剤は両性に分類される。両性界面活性剤としては、アクリル酸誘導体、置換アルキルアミド、N-アルキルベタイン、およびリン脂質が挙げられる。
【0202】
医薬品、製剤中およびエマルション中の界面活性剤の使用については、概説されている(リーガ(Rieger)、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage
Forms)」より、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、1988年、p.285)。
【0203】
核酸脂質粒子
一実施形態では、本発明で取り上げるTMPRSS6 dsRNAは、脂質製剤中に完全にカプセル化されて、例えばSPLP、pSPLP、SNALP、またはその他の核酸-脂質粒子を形成する。本明細書の用法では、「SNALP」という用語は、SPLPをはじめとする、安定核酸-脂質粒子を指す。本明細書の用法では、「SPLP」という用語は、脂質小胞内にカプセル化されたプラスミドDNAを含んでなる核酸-脂質粒子を指す。SNALPおよびSPLPは、典型的に、カチオン性脂質、非カチオン性脂質、および粒子の凝集を妨げる脂質(例えばPEG脂質複合体)を含有する。SNALPおよびSPLPは、静脈内(i.v.)注射に続いて長期循環寿命を示し、遠位部位(例えば部位投与から物理的に離れた部位)に蓄積するので、全身的用途のために極めて有用である。SPLPとしては、国際公開第00/03683号パンフレットに記載のカプセル化縮合剤-核酸複合体を含む「pSPLP」が挙げられる。本発明の粒子は、典型的に約50nm~約150nm、より典型的に約60nm~約130nm、より典型的に約70nm~約110nm、最も典型的に約70nm~約90nmの平均径を有して、実質的に無毒である。これに加えて、本発明の核酸-脂質粒子中に存在する場合、核酸は、水溶液中でヌクレアーゼ分解耐性である。核酸-脂質粒子、およびそれらを調製する方法は、例えば米国特許第5,976,567号明細書;米国特許第5,981,501号明細書;米国特許第6,534,484号明細書;米国特許第6,586,410号明細書;米国特許第6,815,432号明細書;および国際公開第96/40964号パンフレットで開示される。
【0204】
一実施形態では脂質と薬剤の比率(質量/質量比)(例えば脂質対dsRNA比)は、約1:1~約50:1、約1:1~約25:1、約3:1~約15:1、約4:1~約10:1、約5:1~約9:1、または約6:1~約9:1の範囲である。
【0205】
カチオン性脂質は、例えばN,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウム塩化物(DODAC)、N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウム臭化物(DDAB)、N-(I-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩化物(DOTAP)、N-(I-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウム塩化物(DOTMA)、N,N-ジメチル-2,3-ジオレイルオキシ)プロピルアミン(DODMA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、1,2-ジリノレイルカルバモイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-C-DAP)、1,2-ジリノレイオキシ(Dilinoleyoxy)-3-(ジメチルアミノ)アセトキシプロパン(DLin-DAC)、1,2-ジリノレイオキシ(Dilinoleyoxy)-3-モルホリノプロパン(DLin-MA)、1,2-ジリノレオイル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinDAP)、1,2-ジリノレイルチオ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-S-DMA)、1-リノレオイル-2-リノレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-2-DMAP)、1,2-ジリノレイルオキシ-3-トリメチルアミノプロパン塩化物塩(DLin-TMA.Cl)、1,2-ジリノレオイル-3-トリメチルアミノプロパン塩化物塩(DLin-TAP.Cl)、1,2-ジリノレイルオキシ-3-(N-メチルピペラジノ)プロパン(DLin-MPZ)、または3-(N,N-ジリノレイルアミノ)-1,2-プロパンジオール(DLinAP)、3-(N,N-ジオレイルアミノ)-1,2-プロパンジオ(propanedio)(DOAP)、1,2-ジリノレイルオキソ-3-(2-N,N-ジメチルアミノ)エトキシプロパン(DLin-EG-DMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)またはそのアナログ、(3aR,5s,6aS)-N,N-ジメチル-2,2-ジ((9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエニル)テトラヒドロ-3aH-シクロペンタ[d][1,3]ジオキソール-5-アミン(ALN100)、(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタン酸(MC3)、1,1’-(2-(4-(2-((2-(ビス(2-ヒドロキシドデシル)アミノ)エチル)(2-ヒドロキシドデシル)アミノ)エチル)ピペラジン-1-イル)エチルアザンジイル)ジドデカン-2-オール(Tech G1)、またはその混合物であり得る。カチオン性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約20モル%~約50モル%または約40モル%を構成してもよい。
【0206】
別の実施形態では、化合物2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソランを使用して、脂質-siRNAナノ粒子を作成し得る。2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソランの合成は、参照によって本明細書に援用する、2008年10月23日に出願された米国仮特許出願第61/107,998号明細書に記載される。
【0207】
一実施形態では、脂質-siRNA粒子は、40%の2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソラン:10%のDSPC:40%のコレステロール:10%のPEG-C-DOMG(モル百分率)を含み、粒度63.0±20nmのおよびsiRNA/脂質比0.027である。
【0208】
非カチオン性脂質は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセリン(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセリン(DPPG)、ジオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)、ジオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン-4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボン酸(DOPE-mal)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE),ジステアロイル-ホスファチジル-エタノールアミン(DSPE)、16-O-モノメチルPE、16-O-ジメチルPE、18-1-transPE、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジエタノールアミン(SOPE)、コレステロール、またはその混合物をはじめとするが、これに限定されるものではない、アニオン性脂質または中性脂質であってもよい。コレステロールが含まれる場合、非カチオン性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約5モル%~約90モル%、約10モル%、または約58モル%であってもよい。
【0209】
粒子凝集を阻害する共役結合脂質は、例えば制限なしに、PEG-ジアシルグリセロール(DAG)、PEG-ジアルキルオキシプロピル(DAA)、PEG-リン脂質、PEG-セラミド(Cer)をはじめとする、ポリエチレングリコール(PEG)-脂質、またはその混合物であってもよい。PEG-DAA複合体は、例えばPEG-ジラウリルオキシプロピル(Ci2)、PEG-ジミリスチルオキシプロピル(Ci4)、PEG-ジパルミチルオキシプロピル(Ci6)、またはPEG-ジステアリルオキシプロピル(C]8)であってもよい。粒子凝集を妨げる共役結合脂質は、粒子中に存在する総脂質の0モル%~約20モル%または約2モル%であってもよい。
【0210】
いくつかの実施形態では、核酸-脂質粒子は、例えば、粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約60モル%または約48モル%のコレステロールをさらに含む。
LNP01
一実施形態では、リピドイドND98・4HCl(MW 1487)(その内容全体を参照によって本明細書に援用する、2008年3月26日に出願された米国特許出願第12/056,230号明細書を参照されたい)、コレステロール(シグマ-アルドリッチ(Sigma-Aldrich))、およびPEG-セラミドC16(アヴァンティ ポーラ リピッズ(Avanti Polar Lipids))を使用して、脂質-dsRNAナノ粒子(すなわちLNP01粒子)を作成し得る。エタノール中の各原液は、次のように調製し得る:ND98、133mg/ml;コレステロール、25mg/ml;PEG-セラミドC16、100mg/ml。次にND98、コレステロール、およびPEG-セラミドC16の原液を例えば42:48:10のモル比で合わせ得る。合わせた脂質溶液は、最終エタノール濃度が約35~45%で最終酢酸ナトリウム濃度が約100~300mMになるように、(例えばpH5の酢酸ナトリウム中で)水性dsRNAと混合し得る。脂質-dsRNAナノ粒子は、典型的に、混合に際して自然発生的に形成する。所望の粒度分布次第で、結果として生じるナノ粒子混合物は、例えばLipex Extruder(ノーザンリピッズ(Northern Lipids,Inc))などのサーモバレル押出機を使用して、ポリカーボネートメンブラン(例えば100nmカットオフ)を通じて押出し得る。場合によっては、押出ステップは省き得る。エタノール除去および同時緩衝液交換は、例えば透析または接線流濾過によって達成し得る。緩衝液は、例えば約pH6.9、約pH7.0、約pH7.1、約pH7.2、約pH7.3、または約pH7.4など、約pH7のリン酸緩衝食塩水(PBS:phosphate buffered saline)で交換し得る、
【0211】
【化10】
LNP01製剤は、例えば参照によって本明細書に援用する、国際公開第2008/042973号パンフレットに記載される。
【0212】
追加的な例示的な脂質-dsRNA製剤は、次のとおりである:
【0213】
【0214】
【表2】
DSPC:ジステアロイルホスファチジルコリン
DPPC:ジパルミトイルホスファチジルコリン
PEG-DMG:PEG-ジジミリストイルグリセロール(C14-PEG、またはPEG-C14)(平均分子量2000のPEG)
PEG-DSG:PEG-ジスチリルグリセロール(C18-PEG、またはPEG-C18)(平均分子量2000のPEG)
PEG-cDMA:PEG-カルバモイル-1,2-ジミリスチルオキシプロピルアミン(平均分子量2000のPEG)
SNALP(1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA))を含んでなる調合物は、参照によって本明細書に援用する、2009年4月15日に出願された、国際公開第2009/127060号パンフレットに記載される。
【0215】
XTC含有製剤は、例えば参照によって本明細書に援用する、2009年1月29日に出願された米国仮特許出願第61/148,366号明細書;2009年3月2日に出願された米国仮特許出願第61/156,851号明細書;2009年6月10日に出願された米国仮特許出願第号明細書;2009年7月24日に出願された米国仮特許出願第61/228,373号明細書;2009年9月3日に出願された米国仮特許出願第61/239,686号明細書;および2010年1月29日に出願された国際出願PCT/US第2010/022614号明細書に記載される。
【0216】
MC3含有製剤は、例えば参照によって本明細書に援用する、2009年9月22日に出願された米国仮特許出願第61/244,834号明細書、2009年6月10日に出願された米国仮特許出願第61/185,800号明細書、および2010年6月10日に出願された国際出願PCT/US第10/28224号明細書に記載される。
【0217】
ALNY-100含有製剤は、例えば参照によって本明細書に援用する、2009年11月10日に出願された、国際出願PCT/US第09/63933号明細書に記載される。
【0218】
C12-200含有製剤は、参照によって本明細書に援用する、2009年5月5日に出願された米国仮特許出願第61/175,770号明細書、および2010年5月5日に出願された国際出願PCT/US第10/33777号明細書に記載される。
【0219】
本明細書の用法では、「LNPXX」(式中、「XX」は数字である)という用語は、本明細書で「AFXX」とも称される。例えばLNP09はAF09とも称され、LNP12はAF12としてもまた知られており、またはそのように称される。
【0220】
カチオン性脂質の合成
例えば本発明で取り上げる核酸-脂質粒子で使用されるカチオン性脂質などの化合物のいずれもが、実施例でより詳細に記載される方法をはじめとする、既知の有機合成技術によって調製され得る。特に断りのない限り、全ての置換基は、以下に定義するとおりである。
【0221】
「アルキル」は、1~24個の炭素原子を含有する、直鎖または分枝、非環式または環式、飽和脂肪族炭化水素を意味する。代表的飽和直鎖アルキルとしては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどが挙げられ;他方、飽和分枝アルキルとしては、イソプロピル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、イソペンチルなどが挙げられる。代表的飽和環式アルキルとしては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられ;他方、不飽和環式アルキルとしては、シクロペンテニルおよびシクロヘキセニルなどが挙げられる。
【0222】
アルケニルは、隣接する炭素原子間に少なくとも1つの二重結合を含有する、上で定義されるようなアルキルを意味する。アルケニルには、cisおよびtransの双方の異性体が含まれる。代表的な直鎖および分枝アルケニルとしては、エチレニル、プロピレニル、1-ブテニル、2-ブテニル、イソブチレニル、1-ペンテニル、2-ペンテニル、3-メチル-1-ブテニル、2-メチル-2-ブテニル、2,3-ジメチル-2-ブテニルなどが挙げられる。
【0223】
「アルキニル」は、隣接する炭素間に少なくとも1つの三重結合をさらに含有する、上で定義されるようなあらゆるアルキルまたはアルケニルを意味する。代表的な直鎖および分枝アルキニルとしては、アセチレニル、プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、1-ペンチニル、2-ペンチニル、3-メチル-1ブチニルなどが挙げられる。
【0224】
「アシル」は、以下に定義するとおり、炭素が結合点でオキソ基によって置換される、あらゆるアルキル、アルケニル、またはアルキニルを意味する。例えば-C(=O)アルキル、-C(=O)アルケニル、および-C(=O)アルキニルが、アシル基である。
【0225】
「複素環」は、下の複素環のいずれかがベンゼン環に融合する二環をはじめとする、窒素、酸素、およびイオウから独立して選択される1または2個のヘテロ原子を含有する、飽和、不飽和、または芳香族のいずれかの5~7員環単環、または7~10員環二環、複素環を意味し、窒素およびイオウヘテロ原子は酸化されていてもいなくてもよく、窒素ヘテロ原子は四級化されていてもいなくてもよい。複素環は、あらゆるヘテロ原子または炭素原子を介して付着し得る。複素環としては、以下に定義されるヘテロアリールが挙げられる。複素環としては、モルホリニル、ピロリジノニル、ピロリジニル、ピペリジニル(piperidinyl)、ピペリジニル(piperizynyl)、ヒダントイニル、バレロラクタミル、オキシラニル、オキセタニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロピリジニル、テトラヒドロプルイミジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニル、テトラヒドロピリミジニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラヒドロチオピラニルなどが挙げられる。
【0226】
「置換されていてもいなくてもよいアルキル」、「置換されていてもいなくてもよいアルケニル」、「置換されていてもいなくてもよいアルキニル」、「置換されていてもいなくてもよいアシル」、および「置換されていてもいなくてもよい複素環」という用語は、置換される場合、少なくとも1つの水素原子が置換基で置換されていることを意味する。オキソ置換基(=O)の場合、2つの水素原子が置き換えられる。この点において、置換基としては、オキソ、ハロゲン、複素環、-CN、-ORx、-NRxRy、-NRxC(=O)Ry
,-NRxSO2Ry、-C(=O)Rx、-C(=O)ORx、-C(=O)NRxRy、-SOnRx、および-SOnNRxRyが挙げられ、nは0、1または2であり、RxおよびRyは同一であるかまたは異なり、独立して水素、アルキルまたは複素環であり、前記アルキルおよび複素環置換基のそれぞれは、1つまたは複数のオキソ、ハロゲン、-OH、-CN、アルキル、-ORx、複素環、-NRxRy、-NRxC(=O)Ry
,-NRxSO2Ry、-C(=O)Rx、-C(=O)ORx、-C(=O)NRxRy、-SOnRx、および-SOnNRxRyによってさらに置換されていてもよい。
【0227】
「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを意味する。
いくつかの実施形態では、本発明で取り上げる方法は、保護基の使用を要し得る。保護基の手順は、当業者に良く知られている(例えば「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」、グリーン(Green),T.W.ら著、Wiley-Interscience、ニューヨーク州ニューヨーク、1999年を参照されたい)。簡単に述べると、本発明の文脈では、保護基は、官能基の望まれない反応性を低下させまたは排除する、あらゆる基である。保護基は官能基に付加されて、特定の反応中にその反応性をマスクし、次に除去されて元の官能基を曝露し得る。いくつかの実施形態では、「アルコール保護基」が使用される。「アルコール保護基」は、アルコール官能基の望まれない反応性を低下させまたは排除する、あらゆる基である。保護基は、当該技術分野で周知の技術を使用して、付加して除去し得る。
【0228】
式Aの合成
いくつかの実施形態では、本発明で取り上げる核酸脂質粒子は、式A、
【0229】
【化11】
(式中、R1およびR2は、独立してそれぞれ置換されていてもいなくてもよい、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、R3およびR4は、独立して低級アルキルであり、またはR3およびR4は、一緒になって置換されていてもいなくてもよい複素環を形成し得る)のカチオン性脂質を使用して調合される。いくつかの実施形態では、カチオン性脂質は、XTC(2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソラン)である。一般に、上の式Aの脂質は、特に断りのない限り全ての置換基が上で定義されるとおりである、以下の反応スキーム1または2によって作成されてもよい。
【0230】
【化12】
R
1およびR
2が独立して、それぞれ置換されていてもいなくてもよい、アルキル、アルケニルまたはアルキニルであり、R
3およびR
4が独立して低級アルキルであり、またはR
3およびR
4が一緒になって、置換されていてもいなくてもよい複素環を形成し得る、脂質Aは、スキーム1に従って調製され得る。ケトン1および臭化物2は購入され、または当業者に知られている方法に従って調製され得る。1と2の反応は、ケタール3をもたらす。ケタール3をアミン4で処理して、式Aの脂質を得る。式Aの脂質は、式5(式中、Xは、ハロゲン、水酸化物、リン酸塩、硫酸塩などから選択されるアニオン対イオンであるの有機塩によって、対応するアンモニウム塩に変換し得る。
【0231】
【化13】
代案としては、ケトン1出発原料は、スキーム2に従って調製され得る。グリニャール試薬6およびシアン化物7は購入され、または当業者に知られている方法に従って調製され得る。6と7の反応は、ケトン1をもたらす。ケトン1の対応する式Aの脂質への変換は、スキーム1に記載されるとおりである。
【0232】
MC3の合成
DLin-M-C3-DMA(すなわち(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタン酸)の調製は、次のとおりであった。ジクロロメタン(5mL)中の(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-オール(0.53g)、4-N,N-ジメチルアミノ酪酸塩酸塩(0.51g)、4-N,N-ジメチルアミノピリジン(0.61g)、および1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(0.53g)溶液を室温で一晩撹拌した。溶液を希塩酸で、続いて希釈水性炭酸水素ナトリウムで洗浄した。無水硫酸マグネシウム上で有機画分を乾燥させ、濾過して、回転蒸発器上で溶媒を除去した。1~5%のメタノール/ジクロロメタン溶出勾配を使用して、残留物をシリカゲルカラム(20g)に通過させた。精製産物を含有する画分を合わせて溶媒を除去し、無色の油(0.54g)を得た。
【0233】
ALNY-100の合成
以下のスキーム3を使用して、ケタール519[ALNY-100]の合成を実施した。
【0234】
【化14】
515の合成
ニ頚RBF(1L)内の撹拌される200mlの無水THF中のLiAlH4(3.74g、0.09852モル)懸濁液に、70mLのTHF中の514(10g、0.04926モル)の溶液を0 0Cにおいて窒素雰囲気下で緩慢に添加した。添加完了後、反応混合物を室温に加温し、次に加熱して4時間還流した、反応の進捗は、TLCによってモニターした。反応完了(TLCによる)後、混合物を0 0Cに冷却し、飽和Na2SO4溶液の注意深い添加によってクエンチした。反応混合物を室温で4時間撹拌し、濾過した。残留物をTHFで良く洗浄した。濾液および洗浄液を混合し、400mLのジオキサンおよび26mLの濃HClで希釈して、室温で20分間撹拌した。揮発度(volatilities)を真空下で揮散して、515の塩酸塩を白色固体として得た。収量:7.12g 1H-NMR(DMSO,400MHz):δ=9.34(broad,2H),5.68(s,2H),3.74(m,1H),2.66-2.60(m,2H),2.50-2.45(m,5H). 516の合成
250mLニ頚RBF内の100mLの乾燥DCM中の化合物515の撹拌される溶液に、NEt3(37.2mL、0.2669モル)を添加して、窒素雰囲気下で0 0Cに冷却した。50mLの乾燥DCM中のN-(ベンジルオキシ-カルボニルオキシ)-スクシンイミド(20g、0.08007モル)の緩慢な添加後、反応混合物が室温に暖まるまで放置した。反応完了後(TLCによる2~3時間)、混合物を1NのHCl溶液(1×100mL)および飽和NaHCO3溶液(1×50mL)で連続的に洗浄した。次に無水Na2SO4上で有機層を乾燥し、溶媒を蒸発させて粗製物を得て、それをシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、516を粘着性塊として得た。収量:11g(89%).1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=7.36-7.27(m,5H),5.69(s,2H),5.12(s,2H),4.96(br.,1H)2.74(s,3H),2.60(m,2H),2.30-2.25(m,2H).LC-MS [M+H]-232.3(96.94%).
517Aおよび517Bの合成
室温において、500mL一頚RBF内で、シクロペンテン516(5g、0.02164モル)を220mLアセトンと水(10:1)の溶液中に溶解し、それにN-メチルモルホリン-N-オキシド(7.6g、0.06492モル)を添加し、tert-ブタノール中の4.2mLの7.6%OsO4(0.275g、0.00108モル)溶液がそれに続いた。反応完了後(約3時間)、固体Na2SO3の添加によって混合物をクエンチし、得られた混合物を室温で1.5時間撹拌した。反応混合物をDCM(300mL)で希釈して、水(2×100mL)で洗浄し、飽和NaHCO3(1×50mL)溶液、水(1×30mL)、最後に鹹水(1×50mL)が続いた。有機相を無水Na2SO4上で乾燥させて、真空中で溶媒を除去した。粗製物のシリカゲルカラムクロマトグラフィー精製からジアステレオマー混合物を得て、それを予備HPLCによって分離した。
収量:-6g粗製
517A-ピーク-1(白色固体)、5.13g(96%).1H-NMR(DMSO,400MHz):δ=7.39-7.31(m,5H),5.04(s,2H),4.78-4.73(m,1H),4.48-4.47(d,2H),3.94-3.93(m,2H),2.71(s,3H),1.72-1.67(m,4H).LC-MS-[M+H]-266.3,[M+NH4+]-283.5存在,HPLC-97.86%.立体化学はX線によって確認された。
【0235】
518の合成
化合物505の合成について記載されるものと類似の手順を使用して、化合物518を無色の油として得た(1.2g、41%)。1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=7.35-7.33(m,4H),7.30-7.27(m,1H),5.37-5.27(m,8H),5.12(s,2H),4.75(m,1H),4.58-4.57(m,2H),2.78-2.74(m,7H),2.06-2.00(m,8H),1.96-1.91(m,2H),1.62(m,4H),1.48(m,2H),1.37-1.25(br m,36H),0.87(m,6H).HPLC-98.65%.
化合物519の合成の基本手順
ヘキサン(15mL)中の化合物518(1eq)溶液をTHF中のLAH(1M,2eq)氷冷溶液に、滴下して添加した。添加完了後、混合物を40℃で0.5時間加熱し、次に氷浴上で再度冷却した。混合物を飽和水性Na2SO4によって注意深く加水分解し、次にセライトを通して濾過して油に濃縮した。カラムクロマトグラフィーから、純粋な519を無色の油として得た(1.3g、68%)。13C NMR=130.2,130.1(x2),127.9(x3),112.3,79.3,64.4,44.7,38.3,35.4,31.5,29.9(x2),29.7,29.6(x2),29.5(x3),29.3(x2),27.2(x3),25.6,24.5,23.3,226,14.1;エレクトロスプレーMS(+ve):C44H80NO2(M+H)+の分子量、 計算値654.6、測定値654.6.
標準法または押出のない方法のいずれかによって調製された製剤は、同様の様式で特性解析し得る。例えば製剤は、典型的に外観検査によって特徴付けられる。それらは凝集体または沈降物を含まない、白みがかった半透明溶液であるべきである。脂質-ナノ粒子の粒度および粒度分布は、例えばMalvern Zetasizer Nano ZS(マルバーン(Malvern),米国)を使用して、光散乱によって測定し得る。粒度は、40~100nmなど、約20~300nmであるべきである。粒度分布は、単峰型分布であるべきである。製剤ならびに封入画分中の総dsRNA濃度は、色素排除アッセイを使用して推定された。調合されたdsRNAのサンプルを例えば0.5%Triton-X100などの配合破壊性界面活性剤の存在または不在下で、Ribogreen(Molecular Probes)などのRNA結合色素と共にインキュベートし得る。製剤中の総dsRNAは、標準曲線と比較して、界面活性剤含有サンプルからのシグナルによって判定し得る。封入画分は、総dsRNA含量から、「遊離」dsRNA含量(界面活性剤不在下のシグナルにより測定される)を減じて求められる。封入dsRNA百分率は、典型的に>85%である。SNALP製剤では、粒度は、少なくとも30nm、少なくとも40nm、少なくとも50nm、少なくとも60nm、少なくとも70nm、少なくとも80nm、少なくとも90nm、少なくとも100nm、少なくとも110nm、および少なくとも120nmである。適切な範囲は、典型的に、少なくとも約50nmから少なくとも約110nm、少なくとも約60nmから少なくとも約100nm、または少なくとも約80nmから少なくとも約90nmである。
【0236】
経口投与のための組成物および製剤としては、粉末または顆粒、微小粒子、ナノ微粒子、水または非水性媒体中の懸濁液または溶液、カプセル、ゲルカプセル、サッシェ剤、錠剤またはミニ錠剤が挙げられる。増粘剤、着香剤、希釈剤、乳化剤、分散助剤またはバインダーが望ましいことがある。いくつかの実施形態では、経口製剤は、その中で本発明で取り上げるDsRNAが、1つまたは複数の浸透促進界面活性剤およびキレート化剤と併せて投与されるものである。適切な界面活性剤としては、脂肪酸および/またはエステルまたはそれらの塩、胆汁酸および/またはそれらの塩が挙げられる。適切な胆汁酸/塩としては、ケノデオキシコール酸(CDCA:chenodeoxycholic acid)およびウルソデオキシケノデオキシコール酸(UDCA:ursodeoxychenodeoxycholic acid)、コール酸、デヒドロコール酸、デオキシコール酸、グルコール酸、グリコール酸、グリコデオキシコール酸、タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、タウロ-24,25-ジヒドロ-フシジン酸ナトリウム、およびグリコジヒドロフシジン酸ナトリウムが挙げられる。適切な脂肪酸としては、アラキドン酸、ウンデカン酸、オレイン酸、ラウリン酸、カプリル酸、カプリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、モノオレイン、ジラウリン、グリセリル1-モノカプレート、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、アシルカルニチン、アシルコリン、またはモノグリセリド、ジグリセリド、または薬学的に許容可能なその塩(例えばナトリウム)が挙げられる。いくつかの実施形態では、例えば胆汁酸/塩と組み合わされた脂肪酸/塩などの浸透促進剤の組み合わせが使用される。1つの例示的組み合わせは、ラウリン酸、カプリン酸、およびUDCAのナトリウム塩である。浸透促進剤としては、さらにポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン-20-セチルエーテルが挙げられる。本発明で取り上げるDsRNAは、噴霧乾燥粒子をはじめとする顆粒形態で、経口的に送達されてもよく、または複合体化してマイクロまたはナノ粒子を形成してもよい。DsRNA複合化剤としては、ポリアミノ酸;ポリイミン;ポリアクリレート;アクリル酸ポリアルキル、ポリオキセタン、ポリアルキルシアノアクリル酸;カチオン化ゼラチン、アルブミン、デンプン、アクリレート、ポリエチレングリコール(PEG)およびデンプン;ポリアルキルシアノアクリル酸;DEAE誘導体化ポリイミン、プルラン(pollulans)、セルロースおよびデンプンが挙げられる。適切な複合化剤としては、キトサン、N-トリメチルキトサン、ポリ-L-リジン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリスペルミン、プロタミン、ポリビニルピリジン、ポリチオジエチルアミノメチルエチレンP(TDAE)、ポリアミノスチレン(例えばp-アミノ)、ポリ(メチルシアノアクリル酸)、ポリ(エチルシアノアクリル酸)、ポリ(ブチルシアノアクリル酸)、ポリ(イソブチルシアノアクリル酸)、ポリ(イソヘキシルシナオアクリル酸(isohexylcynaoacrylate))、DEAE-メタクリレート、DEAE-ヘキシルアクリレート、DEAE-アクリルアミド、DEAE-アルブミンおよびDEAE-デキストラン、ポリアクリル酸メチル、ポリヘキシルアクリレート、ポリ(D,L-乳酸)、ポリ(DL-乳酸‐コ‐グリコール酸(PLGA)、アルギン酸塩、およびポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。dsRNAの経口製剤およびそれらの調製は、そのそれぞれを参照によって本明細書に援用する、米国特許第6,887,906号明細書、米国特許公開第20030027780号明細書、および米国特許第6,747,014号明細書詳細に記載される。
【0237】
非経口、脳実質内(脳内)、クモ膜下腔内、脳室内または肝臓内投与のための組成物および製剤は無菌水溶液を含んでもよく、それはまた、緩衝液と、希釈剤と、浸透促進剤、担体化合物、およびその他の薬学的に許容可能な担体または賦形剤などをはじめとするが、これに限定されるものではないその他の適切な添加剤とを含有してもよい。
【0238】
本発明の医薬組成物としては、溶液、エマルション、およびリポソーム含有製剤.が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの組成物は、既製液体、自己乳化固体および自己乳化半固体をはじめとするが、これに限定されるものではない、多様な成分から生成されてもよい。肝臓がんなどの肝臓の障害を治療する場合、特に好ましいのは、肝臓を標的とする製剤である。
【0239】
好都合には単位剤形で提示されてもよい、本発明の医薬製剤は、製薬産業で周知の従来の技術に従って調製されてもよい。このような技術は、活性成分を薬学的担体または賦形剤に組み合わせるステップを含む。一般に、製剤は、活性成分を液体担体または超微粒子固体担体またはその双方と一様に密接に組み合わせ、次に、必要ならば生成物を整形することで調製される。
【0240】
本発明の組成物は、錠剤、カプセル、ゲルカプセル、液体シロップ、軟質ゲル、坐薬、および浣腸などであるが、これに限定されるものではない、多数の可能な剤形のいずれかに調合されてもよい。本発明の組成物は、また、水性、非水性または混合媒体中の懸濁液として調合されてもよい。水性懸濁液は、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールおよび/またはデキストランをはじめとする、懸濁液の粘度を増大させる物質をさらに含有してもよい。懸濁液は、安定剤もまた含有してもよい。
【0241】
追加的な製剤
エマルション
本発明の組成物は、エマルションとして調製し調合し得る。エマルションは、典型的に、通常、直径が0.1μmを超える小滴形態で、別の液体中に分散する1つの液体の不均一系である(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク;イドソン(Idson)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.199;ロソフ(Rosoff)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.245;ブロック(Block)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第2巻、p.335;ヒグチ(Higuchi)ら著、「レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」、マック パブリッシング(Mack Publishing Co.)、ペンシルベニア州イートン(Easton,Pa.)、1985年、p.301を参照されたい)。エマルションは、密接に混合して互いに分散する、2つの不混和性液体相を含んでなる、二相性システムであることが多い。一般にエマルションは、油中水型(w/o)または水中油型(o/w)のいずれかであってもよい。水性相がバルク油性相中に微細分散して、微小滴として分散される場合、得られた組成物は、油中水型(w/o)エマルションと称される。代案としては、油性相がバルク水性相中に微細分散して、微小滴として分散される場合、得られた組成物は、水中油型(o/w)エマルションと称される。エマルションは、分散相と、水性相および油性相いずれかの中の溶液として、またはそれ自体が別個の相として存在してもよい、活性薬剤とに加えて、追加的な成分を含有してもよい。乳化剤、安定剤、染料、および抗酸化物質などの医薬品賦形剤はまた、必要に応じてエマルション中に存在してもよい。医薬品エマルションはまた、例えば油中水中油(o/w/o)および水中油中水型(w/o/w)エマルションなどの場合、2つを超える相を含んでなる複数エマルションであってもよい。このような複合体製剤は、単純な二成分エマルションが提供しない、特定の利点を提供することが多い。その中でo/wエマルションの個々の油滴が小さな水滴を囲い込む複数エマルションは、w/o/wエマルションを構成する。同様に、水の小球中に封入されて、油性連続相内で安定化される油滴システムは、o/w/oエマルションを提供する。
【0242】
エマルションは、熱力学的安定性がわずかまたは皆無であることによって、特徴付けられる。頻繁に、エマルションの分散または不連続相は、外部または連続相内に良く分散し、乳化剤または製剤粘度の手段を通じて、この形態に保たれる。エマルション様式の軟膏基剤およびクリームの場合のように、エマルション相のいずれかが、半固体または固体であってもよい。エマルションを安定化する別の手段は、エマルション相のいずれかに組み込まれてもよい、乳化剤の使用を伴う。乳化剤は、広義に4つのカテゴリー分類されてもよい:合成界面活性剤、天然乳化剤、吸収基剤、および微細分散固体(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク;イドソン(Idson)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker),Inc.、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.199を参照されたい)。
【0243】
表面活性剤としてもまた知られている合成界面活性剤は、エマルション製剤において幅広い用途があり、文献で概説されている(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク;リーガ(Rieger)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.285;イドソン(Idson)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.199を参照されたい)。界面活性剤は典型的に両親媒性であり、親水性および疎水性部分を含んでなる。親水性と疎水性の比率は、界面活性剤の親水性/親油性バランス(HLB)と称され、製剤の調製において界面活性剤を分類し選択する上での有益な手段である。界面活性剤は、親水性基の性質に基づいて、異なるクラスに分類されてもよい:非イオン性、アニオン性、カチオン性、および両性(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク,リーガ(Rieger)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.285を参照されたい)。
【0244】
エマルション製剤で使用される天然乳化剤としては、ラノリン、蜜蝋、リン脂質、レシチン、およびアカシアが挙げられる。無水ラノリンおよび親水性ペトロラタムなどの、水を吸い上げてw/oエマルションを形成し得るような親水特性を有する吸収基剤は、なおもそれらの半固体粘稠度を維持する。微細分散固体はまた、優れた乳化剤として、特に界面活性剤と組み合わされて、粘稠な調製品中で使用されている。これらとしては、重金属水酸化物などの極性無機固体、ベントナイトなどの非膨張性粘土、アタパルガイト、ヘクトライト、カオリン、モンモリロナイト、ケイ酸アルミニウムのコロイドおよびケイ酸アルミニウムマグネシウムのコロイド、顔料、および炭素またはトリステアリン酸グリセリルなどの非極性固形分が挙げられる。
【0245】
多岐にわたる非乳化材料もまたエマルション製剤に含まれて、エマルションの特性に寄与する。これらとしては、脂肪、油、ワックス、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、湿潤剤、親水性コロイド、保存料、および抗酸化剤が挙げられる(ブロック(Block)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.335;イドソン(Idson)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.199)。
【0246】
親水性コロイドまたは親水コロイドとしては、多糖類(例えばアカシア、寒天、アルギン酸、カラゲナン、グアーガム、カラヤガム、およびトラガカント)、セルロース誘導体(例えばカルボキシメチルセルロースおよびカルボキシプロピルセルロース)、および合成ポリマー(例えばカルボマー、セルロースエーテル、およびカルボキシビニルポリマー)などの天然ガムおよび合成ポリマーが挙げられる。これらは水中に分散しまたは水中で膨張して、分散相小滴周囲に強力な界面膜を形成することで、および外部相の粘度を増大させることで、エマルションを安定化するコロイド溶液を形成する。
【0247】
エマルションは、微生物の増殖を容易に支持してもよい、炭水化物、タンパク質、ステロール、およびリン脂質などのいくつかの成分を含有することが多いので、これらの製剤には保存料が組み込まれることが多い。エマルション製剤に含まれる一般に使用される保存料としては、メチルパラベン、プロピルパラベン、四級アンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、p-ヒドロキシ安息香酸のエステル、およびホウ酸が挙げられる。抗酸化剤もまた、一般にエマルション製剤に添加されて、製剤の劣化を防止する。使用される抗酸化剤は、トコフェロール、没食子酸アルキル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエンなどのフリーラジカルスカベンジャー;またはアスコルビン酸およびメタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤;およびクエン酸、酒石酸、およびレシチンなどの抗酸化剤共力剤であってもよい。
【0248】
皮膚、経口、および非経口経路を通じたエマルション製剤の適用と、それらを製造する方法については、文献で概説されている。(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク;イドソン(Idson)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.199を参照されたい)。経口送達のためのエマルション製剤は、調合の容易さ、ならびに吸収および生物学的利用能の観点からの効率のために、非常に広く使用されている(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク;ロソフ(Rosoff)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.245;イドソン(Idson)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.199を参照されたい)。鉱物油ベースの緩下剤、油溶性ビタミン、および高脂肪栄養剤は、一般にo/wエマルションとして経口投与されている材料の一つである。
【0249】
本発明の一実施形態では、iRNAと核酸の組成物は、マイクロエマルションとして調合される。マイクロエマルションは、単一の光学的に等方性で熱力学的に安定している溶液である、水、油、および両親媒性物質のシステムと定義されてもよい(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.編、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク;ロソフ(Rosoff)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.245を参照されたい)。典型的に、マイクロエマルションは、最初に油を水性界面活性剤溶液に分散して、次に一般に中間鎖長のアルコールである、十分な量の第4の成分を添加し、透明なシステムを形成することで、調製されるシステムである。したがって、マイクロエマルションは、界面活性分子の界面膜によって安定化された、2つの不混和性液体の熱力学的に安定した等方的に透明な分散体として記述されている(レング(Leung)および(シャー)著、「薬剤の制御放出:ポリマーおよび凝集体系(Controlled Release of Drugs:Polymers and Aggregate Systems)」、ロソフ(Rosoff),M.編、1989年、VCHパブリッシャーズ(Publishers)、ニューヨーク、p.185~215)。マイクロエマルションは、通常、油、水、界面活性剤、共界面活性剤、および電解質をはじめとする、3~5成分の組み合わせを通じて調製される。マイクロエマルションが、油中水型(w/o)または水中油型(o/w)であるかどうかは、使用される油および界面活性剤の特性と、界面活性剤分子の極性頭部および炭化水素尾部の構造および幾何学的充填とに左右される(ショット(Schott)著、「レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」、マック パブリッシング(Mack Publishing Co.)、ペンシルベニア州イートン(Easton,Pa.)、1985年、p.271)。
【0250】
状態図を利用した現象学的アプローチは、広範に研究されており、マイクロエマルションの調合法に関する包括的知識が、当業者にもたらされている(例えば「アンセルの医薬剤形と薬剤送達系(Ansel’s Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems)」、アレン(Allen),LV.、ポポビッチ(Popovich)NG.、およびアンセル(Ansel)HC.、2004年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams & Wilkins)(第8版)、ニューヨーク州ニューヨーク;ロソフ(Rosoff)著、「医薬剤形(Pharmaceutical
Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.245;ブロック(Block)著、「医薬剤形(Pharmaceutical Dosage Forms)」より、リーバーマン(Lieberman)、リーガ(Rieger)およびバンカー(Banker)編、1988年、マルセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)、ニューヨーク州ニューヨーク、第1巻、p.335を参照されたい)。従来のエマルションと比較して、マイクロエマルションは、水不溶性薬剤を自然発生的に形成される熱力学的に安定した小滴の配合物に可溶化する利点を提供する。
【0251】
マイクロエマルションの調製で使用される界面活性剤としては、単独のまたは共界面活性剤と組み合わされた、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、Brij 96、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリグリセロール脂肪酸エステル、テトラグリセロールモノラウレート(ML310)、テトラグリセロールモノオレアート(MO310)、ヘキサグリセロールモノオレアート(PO310)、ヘキサグリセロールペンタオレアート(PO500)、デカグリセロールモノカプレート(MCA750)、デカグリセロールモノオレエート(MO750)、デカグリセロールセキオレアート(sequioleate)(SO750)、デカグリセロールデカオレアート(DAO750)が挙げられるが、これに限定されるものではない。通常、エタノール、1-プロパノール、および1-ブタノールなどの短鎖アルコールである共界面活性剤は、界面活性剤塗膜に浸透することにより界面流動性を増大させるのに役立ち、その結果、界面活性剤分子間に生じる隙間に起因する不規則塗膜を作り出す。しかしマイクロエマルションは、共界面活性剤の使用なしに調製されてもよく、アルコール非含有自己乳化マイクロエマルション系は、当該技術分野で公知である。水性相は、典型的に、水、薬剤水溶液、グリセロール、PEG300、PEG400、ポリグリセロール、プロピレングリコール、およびエチレングリコール誘導体であってもよいが、これに限定されるものではない。油相としては、Captex 300、Captex 355、Capmul MCM、脂肪酸エステル、中鎖(C8~C12)モノ、ジ、およびトリ-グリセリド、ポリオキシエチル化グリセリル脂肪酸エステル、脂肪アルコール、ポリグリコール化(polyglycolized)グリセリド、飽和ポリグリコール化(polyglycolized)C8-C10グリセリド、植物油、およびシリコーン油などの材料が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0252】
マイクロエマルションは、薬剤可溶化と薬剤吸収改善の観点から、特に興味深い。脂質ベースのマイクロエマルション(o/wおよびw/oの双方)が、ペプチドをはじめとする薬剤の経口バイオアベイラビリティを高めるために、提案されている(例えば米国特許第6,191,105号明細書;米国特許第7,063,860号明細書;米国特許第7,070,802号明細書;米国特許第7,157,099号明細書;コンスタンティニディス(Constantinides)ら著、ファーマスーティカル リサーチ(Pharmaceutical Research)、1994年、第11巻、p.1385~1390;リチェル(Ritschel)著、メソッズ&ファインディングス イン エクスペリメンタル&クリニカル ファーマコロジ(Meth.Find.Exp.Clin.Pharmacol.)、1993年、第13巻、p.205を参照されたい)。マイクロエマルションは、薬剤可溶化改善、酵素加水分解からの薬剤保護、界面活性剤が誘発する膜の流動性と透過度の変化に起因する予想される薬剤吸収増強、調製の容易さ、固体剤形に比べた経口投与の容易さ、臨床効力改善、および毒性低下の利点をもたらす(例えば米国特許第6,191,105号明細書;米国特許第7,063,860号明細書;米国特許第7,070,802号明細書;米国特許第 7,157,099号明細書;コンスタンティニディス(Constantinides)ら著、ファーマスーティカル
リサーチ(Pharmaceutical Research)、1994年、第11巻、p.1385;ホー(Ho)ら著、ジャーナル オブ ファーマスーティカル サイエンス(J.Pharm.Sci.)、1996年、第85巻、p.138~143を参照されたい)。マイクロエマルションは、それらの成分を周囲温度で一緒に合わせた場合に、自然発生的に形成することが多い。これは、熱不安定性薬剤、ペプチドまたはiRNAを調合する場合に、特に有利なこともある。マイクロエマルションは、美容および医薬用途の双方で、活性成分の経皮送達に効果的であった。本発明のマイクロエマルション組成物および製剤は、iRNAおよび核酸の胃腸管からの全身性吸収の増大を容易にし、ならびにiRNAおよび核酸の局所性細胞内取り込みを改善することが期待される。
【0253】
本発明のマイクロエマルションは、ソルビタンモノステアレート(Grill 3)、Labrasol、および浸透促進剤などの追加的な成分および添加剤もまた含有して、製剤の特性を改善し、本発明のiRNAおよび核酸の吸収を高めてもよい。本発明のマイクロエマルション中で使用される浸透促進剤は、界面活性剤、脂肪酸、胆汁酸塩、キレート化剤、および非キレート化非界面活性剤の5つの広義のカテゴリーの1つに属すると分類されてもよい。(リー(Lee)ら著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1991年、p.92)。これらの各クラスについては、上で論じた。
【0254】
浸透促進剤
一実施形態では、本発明は、様々な浸透促進剤を用いて、核酸、特にiRNAの動物皮膚への効率的な送達をもたらす。ほとんどの薬剤は、イオン化および非イオン化形態の双方で、溶液中に存在する。しかし通常、脂質可溶性または親油性薬剤のみが、細胞膜を容易に通過する。通過する膜が浸透促進剤で処理されれば、非親油性薬剤でさえも細胞膜を通過することがあることが発見されている。細胞膜横切る非親油性薬剤の拡散を助けるのに加えて、浸透促進剤はまた、親油性薬剤の透過性を高める。
【0255】
浸透促進剤は、5つの広義のカテゴリー、すなわち界面活性剤、脂肪酸、胆汁酸塩、キレート化作用物質、および非キレート化非界面活性剤の1つに属すると、分類されてもよい(例えばマルムステン(Malmsten),M.著、「薬物送達における界面活性剤およびポリマー(Surfactants and polymers in drug
delivery)」、Informa Health Care、ニューヨーク州ニューヨーク、2002年;リー(Lee)ら著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1991年、p.92を参照されたい)。前述の浸透促進剤の各クラスについては、以下でより詳しく説明される。
【0256】
界面活性剤:本発明との関連で、界面活性剤(または「表面活性剤」)は、水溶液に溶解すると、溶液の表面張力、または水溶液と別の液体との界面張力を低下させて、粘膜を通じたiRNA吸収の改善をもたらす、化学物質である。胆汁塩と脂肪酸に加えて、これらの浸透促進剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、およびポリオキシエチレン-20-セチルエーテル)(例えばマルムステン(Malmsten),M.著、「薬物送達における界面活性剤およびポリマー(Surfactants and polymers in drug delivery)」、Informa Health Care、ニューヨーク州ニューヨーク、2002年;リー(Lee)ら著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1991年、p.92を参照されたい);およびFC-43などのペルフルオロ化合物エマルションタカハシ(Takahashi)ら著、ジャーナル オブ ファーマシ&ファーマコロジ(J.Pharm.Pharmacol.)、1988年、第40巻、p.252)が挙げられる。
【0257】
脂肪酸:浸透促進剤として作用する様々な脂肪酸およびそれらの誘導体としては、例えばオレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸(n-デカン酸)、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、ジカプレート、トリカプレート、モノオレイン(1-モノオレオイル-rac-グリセロール)、ジラウリン、カプリル酸、アラキドン酸、グリセロール1-モノカプレート、1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、アシルカルニチン、アシルコリン、そのC1~20アルキルエステル(例えばメチル、イソプロピル、およびt-ブチル)、およびそのモノ-およびジ-グリセリド(すなわちオレアート、ラウレート、カプレート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、リノレアートなど)が挙げられる。(例えばトィトゥ(Touitou),E.ら著、「薬送達の増強(Enhancement in Drug Delivery)」、CRCプレス(CRC Press)、マサチューセッツ州、ダンバース(Danvers,MA)、2006年;リー(Lee)ら著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier
Systems)、1991年、p.92;ムラニシ(Muranishi)著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1990年、第7巻、p.1~33;エルハリリ(El Hariri)ら著、ジャーナル オブ ファーマシ&ファーマコロジ(J.Pharm.Pharmacol.)、1992年、第44巻、p.651~654を参照されたい)。
【0258】
胆汁酸塩:胆汁の生理学的役割としては、脂質および脂溶性ビタミンの分散および吸収の促進が挙げられる(例えばマルムステン(Malmsten),M.著、「薬物送達における界面活性剤およびポリマー(Surfactants and polymers
in drug delivery)」、Informa Health Care、ニューヨーク州ニューヨーク、2002年,ブラントン(Brunton)著、第38章、「グッドマン&ギルマンの治療学の薬理学的基礎(Goodman & Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics)」、第9版より、ハードマン(Hardman)ら編、マグロウヒル(McGraw-Hill)、ニューヨーク、1996年、p.934~935を参照されたい)。様々な天然胆汁酸塩、およびそれらの合成誘導体が、浸透促進剤として作用する。したがって「胆汁酸塩」という用語は、胆汁の天然成分のいずれかならびにそれらの合成誘導体のいずれかを含む。適切な胆汁酸塩としては、例えばコール酸(またはその薬学的に許容可能なナトリウム塩、コール酸ナトリウム)、デヒドロコール酸(デヒドロコール酸ナトリウム)、デオキシコール酸(デオキシコール酸ナトリウム)、グルコール酸(グルコール酸ナトリウム)、グリコール酸(グリココール酸ナトリウム)、グリコデオキシコール酸(グリコデオキシコール酸ナトリウム)、タウロコール酸(タウロコール酸ナトリウム)、タウロデオキシコール酸(タウロデオキシコール酸ナトリウム)、ケノデオキシコール酸(ケノデオキシコール酸ナトリウム)、ウルソデオキシコール酸(UDCA)、タウロ-24,25-ジヒドロ-フシジン酸ナトリウム(STDHF:sodium tauro-24,25-dihydrofusidate)、グリコジヒドロフシジン酸ナトリウム、およびポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル(POE)が挙げられる。(例えばマルムステン(Malmsten),M.著、「薬物送達における界面活性剤およびポリマー(Surfactants and polymers in drug delivery)」、インフォルマ ヘルスケア(Informa Health Care)、ニューヨーク州ニューヨーク、2002年;リー(Lee)ら著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1991年、p.92;スウィンヤード(Swinyard)著、第39章、「レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)」、第18版より、ジェンナロ(Gennaro)編、マック パブリッシング(Mack Publishing
Co.)、ペンシルベニア州イートン(Easton,Pa.)、1990年、p.782~783;ムラニシ(Muranishi)著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1990年、第7巻、p.1~33;ヤマモト(Yamamoto)ら著、ジャーナル オブ エクスペリメンタル セラピューティックス(J.Pharm.Exp.Ther.)、1992年、第263巻、p.25;ヤマシタ(Yamashita)ら著、ジャーナル オブ ファーマスーティカル サイエンス(J.Pharm.Sci.)、1990年、第79巻、p.579~583を参照されたい)。
【0259】
キレート化剤:本発明との関連で使用されるキレート化剤は、金属イオンと複合体を形成することによって、それを溶液から除去して、粘膜を通したiRNA吸収の改善をもたらす化合物と定義され得る。本発明における浸透促進剤としてのそれらの使用に関して、ほとんどのDNAヌクレアーゼは、触媒作用のために二価の金属イオンを要し、キレート化剤によって阻害されるので、キレート化作用物質は、デオキシリボヌクレアーゼ阻害物質の役割も果たすという追加的利点を有する(ジャレット(Jarrett),J.著、クロマトグラフィー(Chromatogr.)、1993年、第618巻、p.315~339)。適切なキレート化作用物質としては、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA:ethylenediaminetetraacetate)、クエン酸、サリチル酸塩(例えばサリチル酸ナトリウム、5-メトキシサリチル酸、およびホモバニレート(homovanilate))、コラーゲンのN-アシル誘導体、ラウレス-9、およびβ-ジケトン(エナミン)のN-アミノアシル誘導体が挙げられるが、これに限定されるものではない。(例えばカダレ(Katdare),A.ら著、「製薬、バイオテクノロジー、および薬物送達のための賦形剤の開発(Excipient development for pharmaceutical,biotechnology,and drug delivery)」、CRCプレス(CRC Press)、マサチューセッツ州ダンバース(Danvers,MA)、2006年;リー(Lee)ら著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1991年、p.92;ムラニシ(Muranishi)、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1990年、第7巻、p.1~33;ブール(Buur)ら著、ジャーナル オブ コントロールド リリース(J.Control Rel.)、1990年、第14巻、43~51を参照されたい)。
【0260】
非キレート化非界面活性剤:本明細書の用法では、非キレート化非界面活性剤浸透促進化合物は、キレート化作用物質としてまたは界面活性剤として有意でない活性を実証するが、それでもなお消化器粘膜を通じてiRNAの吸収を高める化合物と定義し得る(例えばムラニシ(Muranishi)、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1990年、第7巻、p.1~33を参照されたい)。このクラスの浸透促進剤としては、例えば不飽和環式尿素、1-アルキル-および1-アルケニルアザシクロ-アルカノン誘導体(リー(Lee)ら著、治療薬剤送達システムの批判的な批評(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems)、1991年、p.92);およびジクロフェナクナトリウム、インドメタシンおよびフェニルブタゾンなどの非ステロイド性抗炎症剤(ヤマシタ(Yamashita)ら著、ジャーナル オブ ファーマシ&ファーマコロジ(J.Pharm.Pharmacol.)、1987年、第39巻、p.621~626)が挙げられる。
【0261】
細胞レベルのiRNA取り込みを高める作用物質もまた、本発明医薬およびその他の組成物に添加してもよい。例えばリポフェクチンなどのカチオン性脂質(ジュンイチ(Junichi)らに付与された米国特許第5,705,188号明細書)、カチオン性グリセロール誘導体、およびポリリジンなどのポリカチオン性分子(ロロ(Lollo)らに付与された国際公開第97/30731号パンフレット)もまた、dsRNAの細胞内取り込みを高めることが知られている。市販される形質移入試薬の例としては、例えば特に、Lipofectamine(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、Lipofectamine 2000(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、293fectin(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、Cellfectin(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、DMRIE-C(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、FreeStyle(商標)MAX(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、Lipofectamine(商標)2000 CD(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、Lipofectamine(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、RNAiMAX(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、Oligofectamine(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、Optifect(商標)(インビトロジェン(Invitrogen);カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))、X-tremeGENE Q2 Transfection Reagent(ロシュ(Roche);スイス、グレンツァヒャー通り(Grenzacherstrasse,Switzerland))、DOTAP Liposomal Transfection Reagent(スイス、グレンツァヒャー通り(Grenzacherstrasse,Switzerland))、DOSPER Liposomal Transfection Reagent(スイス、グレンツァヒャー通り(Grenzacherstrasse,Switzerland))、またはFugene(スイス、グレンツァヒャー通り(Grenzacherstrasse,Switzerland))、Transfectam(登録商標)Reagent(プロメガ(Promega);ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))、TransFast(商標)Transfection Reagent(プロメガ(Promega);ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))、Tfx(商標)-20 Reagent(プロメガ(Promega);ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))、Tfx(商標)-50 Reagent(プロメガ(Promega);ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))、DreamFect(商標)(オズバイオサイエンス(OZ Biosciences);フランス,マルセイユ(Marseille,France))、EcoTransfect(オズバイオサイエンス(OZ Biosciences);フランス,マルセイユ(Marseille,France))、TransPassa D1 Transfection Reagent(ニューイングランドバイオラボ(New England Biolabs);米国マサチューセッツ州イプスウィッチ(Ipswich,MA,USA))、LyoVec(商標)/LipoGen(商標)(インビボゲン(Invivogen);米国カリフォルニア州サンディエゴ(米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA)))、PerFectin Transfection Reagent(ゲンランティス(Genlantis);米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA))、NeuroPORTER Transfection Reagent(ゲンランティス(Genlantis);米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA))、GenePORTER Transfection Reagent(ゲンランティス(Genlantis);米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA))、GenePORTER 2 Transfection reagent(ゲンランティス(Genlantis);米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA))、Cytofectin Transfection Reagent(ゲンランティス(Genlantis);米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA))、BaculoPORTER Transfection Reagent(ゲンランティス(Genlantis);米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA))、TroganPORTER(商標)transfection Reagent(ゲンランティス(Genlantis);米国カリフォルニア州サンディエゴ(San Diego,CA,USA))、RiboFect(ビオライン(Bioline);米国マサチューセッツ州タウントン(Taunton,MA,USA))、PlasFect(ビオライン(Bioline);米国マサチューセッツ州タウントン(Taunton,MA,USA))、UniFECTOR(Bブリッジインターナショナル(B-Bridge International);米国カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View,CA,USA))、SureFECTOR(Bブリッジインターナショナル(B-Bridge International);米国カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View,CA,USA))、またはHiFect(商標)(Bブリッジインターナショナル(B-Bridge International),米国カリフォルニア州マウンテンビュー(Mountain View,CA,USA))が挙げられる。
【0262】
エチレングリコールおよびプロピレングリコールなどのグリコール;2-ピロールなどのピロール;アゾン;およびリモネンおよびメントンなどのテルペンをはじめとするその他の作用物質が、投与された核酸の浸透を高めるのに利用されてもよい。
【0263】
担体
本発明の特定の組成物は、また配合中に担体化合物が組み込まれる。本明細書の用法では、「担体化合物」または「担体」は、不活性(すなわちそれ自体は生物学的活性を有しない)であるが、例えば生物学的に活性の核酸を分解し、またはその循環からの除去を促進することで、生物学的活性を有する核酸の生物学的利用能を低下させる、生体内過程によって、核酸と認識される、核酸、またはその類似体を指し得る。核酸および担体化合物の、典型的に後者の物質の過剰量での同時投与は、恐らく通常の受容体に対する担体化合物と核酸間の競合のために、肝臓、腎臓またはその他の循環外貯蔵所で回収される核酸量の実質的低下をもたらし得る。例えば肝臓組織内の部分的ホスホロチオエートdsRNAの回収は、それが、ポリイノシン酸、硫酸デキストラン、ポリシチジック(polycytidic)または4-アセトアミド-4’-イソチオシアノ-スチルベン-2,2’-ジスルホン酸と同時投与された場合に、低下し得る(ミヤオ(Miyao)ら著、DsRNAリサーチ&ディベロップメント(Res.Dev.)、1995年、第5巻、p.115~121;タカムラ(Takakura)ら著、DsRNA&ニュークレイック アシッド ドラッグ ディベロップメント(DsRNA & Nucl.Acid Drug Dev.)、1996年、第6巻、p.177~183。
【0264】
賦形剤
担体化合物とは対照的に、「薬学的担体」または「賦形剤」は、1つまたは複数の核酸を動物に送達するための、薬学的に許容可能な溶媒、懸濁剤またはあらゆるその他の薬理学的に不活性なビヒクルである。賦形剤は液体または固体であってもよく、核酸および所与の医薬組成物のその他の成分と組み合わせた際に、所望の嵩、粘稠度などを提供するように、計画される投与様式を念頭に置いて選択される。典型的な薬学的担体としては、結合剤(例えばα化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど);増量剤(例えば乳糖およびその他の糖類、微結晶セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリレートまたはリン酸水素カルシウムなど);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、滑石、シリカ、二酸化ケイ素のコロイド、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、水素化植物油、コーンスターチ、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなど);崩壊剤(例えばデンプン、デンプングリコール酸ナトリウムなど);および湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウムなど)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0265】
核酸と有害反応しない、経口投与に適する、薬学的に許容可能な有機または無機賦形剤を使用して、本発明の組成物を調合し得る。適切な薬学的に許容可能な担体としては、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ケイ酸、粘性パラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0266】
核酸の局所投与のための製剤は、無菌および非無菌水性溶液、アルコールなどの共通溶剤中の非水性溶液、または液体または固体油基剤中の核酸溶液を含んでもよい。溶液はまた、緩衝液、希釈剤、およびその他の適切な添加剤も含有してもよい。核酸有害反応しない、経口投与に適する、薬学的に許容可能な有機または無機賦形剤を使用し得る。
【0267】
適切な薬学的に許容可能な賦形剤としては、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、滑石、ケイ酸、粘稠なパラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0268】
その他の成分
本発明の組成物は、医薬組成物中に従来法で見られるその他の補助剤成分を、技術分野で確立されたそれらの使用レベルで、さらに含有してもよい。したがって例えば組成物は、例えば、止痒剤、渋味剤、局所麻酔薬または抗炎症剤などの追加的な適合性薬理的活性材料を含有してもよく、または染料、着香剤、保存料、抗酸化剤、乳白剤、増粘剤、および安定剤などの本発明の組成物の様々な剤形を物理的に調合する上で有用な追加的材料を含有してもよい。しかしこのような材料は、添加した場合に、本発明の組成物の成分の生物学的活性に過度に干渉すべきでない。製剤は滅菌され得て、所望ならば、製剤の核酸と有害に相互作用しない、例えば、潤滑剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧圧力に影響を及ぼす塩、緩衝液、着色料、着香料および/または芳香族物質などなどの助剤と混合される。
【0269】
水性懸濁液は、例えばナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールおよび/またはデキストランをはじめとする、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有し得る。懸濁液は、安定剤もまた含有してもよい。
【0270】
いくつかの実施形態では、本発明で取り上げる医薬組成物は、(a)1つまたは複数のiRNA化合物、および(b)非RNAi機序によって機能する1つまたは複数の抗サイトカイン生物剤を含む。このような生物製剤の例としては、IL1β(例えばアナキンラ)、IL6(例えばトシリズマブ)、またはTNF(例えばエタネルセプト、インフリキシマブ、アドリムマブ(adlimumab)、またはセルトリズマブ)を標的とする生物製剤が挙げられる。
【0271】
このような化合物の毒性および治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に致命的な用量)およびED50(集団の50%に効果的な用量)を判定するための細胞培養または実験的動物における標準薬学的手順によって判定し得る。毒性および治療効果間の用量比が療指数であり、それはLD50/ED50比として表し得る。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
【0272】
細胞培養アッセイと動物実験から得られるデータは、ヒトで使用するための一連の投与量を調合するのに使用し得る。本明細書で取り上げる組成物の投与量は、一般に、毒性がわずかまたは皆無であるED50をはじめとする、循環濃度の範囲内にある。投与量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。本発明で取り上げる方法で使用されるあらゆる化合物について、治療有効用量は、最初に細胞培養アッセイから推定し得る。用量は、動物モデル中で、細胞培養中で判定されるようなIC50(すなわち症状の最大半量阻害を達成する試験化合物濃度)をはじめとする、化合物の、または適切な場合は標的配列のポリペプチド産物の循環血漿濃度範囲を達成する(例えばポリペプチド濃度の低下を達成する)ように調合し得る。このような情報を使用して、ヒトにおける有用な用量をより正確に判定し得る。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーによって測定してもよい。
【0273】
上で考察したようなそれらの投与に加えて、本明細書に記載されるiRNAは、TMPRSS6発現によって媒介される病理過程の治療に効果的なその他の既知の作用物質と組み合わせて投与し得る。いずれにしても処置を行う医師は、当該技術分野で公知のまたは本明細書に記載される、有効性の標準的手段を使用して観察された結果に基づいて、iRNA投与の量およびタイミングを調節し得る。
【0274】
TMPRSS6遺伝子発現によって引き起こされる疾患を治療する方法
本発明は、TMPRSS6媒介障害または疾患を治療するための、TMPRSS6標的化iRNA、およびこのような少なくとも1つのiRNAを含有する組成物の使用に特に関する。例えばサラセミア、(例えば中間型βサラセミアまたはαサラセミア)、原発性ヘモクロマトーシス、二次性ヘモクロマトーシス、重度若年型ヘモクロマトーシス、鉄芽球性貧血、溶血性貧血、異常造血性貧血、または鎌状赤血球貧血などの鉄レベル上昇と関連する障害を治療するために、TMPRSS6遺伝子標的化iRNAを含有する組成物が使用される。一実施形態では、TMPRSS6 iRNAを使用して異常ヘモグロビン症を治療する。本発明で取り上げるTMPRSS6 iRNAはまた、慢性アルコール依存症などのその他の病状に起因する、鉄レベル上昇を治療するのに使用される。
【0275】
サラセミアでは、骨髄が、不十分な量のヘモグロビン鎖を合成し;続いてこれは赤血球の産生を低下させて、貧血を引き起こす。αまたはβ鎖のいずれが影響を被ってもよいが、βサラセミアがより一般的であり;新生児は、身体がβ鎖を有しないHbFをなおも産生するために、健康であり;生後数ヶ月間に、骨髄はHbAを産生するように切り替わり、症状が出現し始める。
【0276】
β-サラセミアは、HBB遺伝子の非発現(β0)または低発現(β+)対立遺伝子のいずれかの変異に起因する。β-サラセミアは、遺伝子型に応じて重症度が変動し、軽症型/形質型β-サラセミア(β/β0またはβ/β+)、中間型β-サラセミア(β0/β+)、および重症型β-サラセミア(β0/β0またはβ+/β+)を含む。
【0277】
中間型サラセミア(TI)が典型的にわずかな溶血を提示する一方、重症型βサラセミア(TM:major β-thalassemia)には、典型的に例えば貧血と脾腫を引き起こす大量の溶血が付随し;骨髄駆動(骨の変化、骨減少症(oteopenia))、エリスロポエチン合成増大、肝脾腫大症、造血薬消費(巨赤芽球性(megablastic)貧血)、および血中高尿酸症を引き起こす高度の無効造血。例えばTMPRSS6 iRNAなどの本発明で取り上げるiRNAは、典型的に、よりTI様であるサラセミアに伴う鉄過負荷の治療(例えばaβ0/β+、β/β0またはβ/β+遺伝子型を有する個人の治療)によりふさわしい。
【0278】
βサラセミアの症状としてはまた、例えば内分泌障害、肝臓線維症、および心臓線維症を引き起こす、鉄過負荷などの治療法に起因する合併症が挙げられる。TMPRSS6を標的とするiRNA剤の投与は、これらの症状の1つまたは複数を治療するのに効果的であり得る。
【0279】
αサラセミアは、HBA1またはHBA2遺伝子の非発現(α0)または低発現(α+)対立遺伝子のいずれかの変異に起因する。α-サラセミアは、遺伝子型に応じて重症度が変動し、形質型サラセミア(-α/αα)、Hb Bartおよび胎児水腫(α0/α0)、およびαサラセミア軽症型(--/αα)、(-α/-α)、およびHbH疾患(--/-α)を含む。より少ないα-グロビン鎖が生成されて、成人では過剰なβ鎖、新生児では過剰なγ鎖がもたらされる。過剰なβ鎖は不安定な四量体(4本のβ鎖のヘモグロビンHまたはHbHと称される)を形成し、それは異常な酸素解離曲線を有する。TMPRSS6を標的とするiRNA剤の投与は、αサラセミアを有する対象において、鉄過負荷を治療するのに効果的であり得る。
【0280】
ヘモクロマトーシスの症状としては、例えば腹痛、関節痛、疲労、エネルギーの欠如、脱力感、皮膚の暗色化(「ブロンズ光沢」と称されることが多い)、および体毛喪失が挙げられる。TMPRSS6を標的とするiRNA剤の投与は、これらの症状の1つまたは複数を治療するのに効果的であり得る。
【0281】
鉄過負荷と関連するその他の症状としては、肝臓疾患(硬変、がん)リスクの増大、心臓麻痺または心不全、糖尿病、骨関節炎、骨粗鬆症、代謝症候群、甲状腺機能低下、性腺機能低下、および場合によっては時期尚早の死が挙げられる。過負荷をもたらす鉄の不適切な管理はまた、アルツハイマー病、早発性パーキンソン病、ハンチントン病、てんかん、および多発性硬化症などの神経変性疾患を加速し得る。例えばテーブル2、3または4に記載されるiRNAなどのTMPRSS6を標的とするiRNAの投与は、これらの症状の1つまたは複数を治療し、または鉄レベル増大によって悪化する(aggrevated)疾患または障害の発症または進行を予防し得る。
【0282】
本発明は、例えば鉄レベル上昇と関連する障害を治療するための、例えばこれらの障害の治療のために目下用いられているものなどの、例えば既知の医薬品および/または既知の治療法などの、その他の医薬品および/またはその他の治療法と組み合わされた、iRNAまたはその医薬組成物の使用にさらに関する。例えば特定の実施形態では、例えば鉄キレート化剤(例えばデスフェロキサミン)、葉酸、輸血、瀉血、潰瘍管理薬、胎児ヘモグロビンレベル上昇薬(例えばヒドロキシ尿素)、感染抑制剤(例えば抗生物質および抗ウイルス剤)、血栓状態治療薬、または幹細胞または骨髄移植と組み合わせて、TMPRSS6標的化iRNAが投与される。幹細胞移植は、例えば兄弟姉妹などの血縁者の臍帯からの幹細胞を利用し得る。例示的な鉄キレート化剤としては、デスフェロキサミン、Deferasirox(Exjade)、デフェロプロン(deferoprone)、ビタミンE、コムギ胚芽油、トコフェルソラン、およびインジカキサンチンが挙げられる。
【0283】
iRNAおよび追加的な治療薬は、例えば非経口的に、同一組成物中で投与し得て、または追加的な治療薬は、別個の組成物の一部として、または本明細書に記載される別の方法によって投与し得る。TMPRSS6 iRNAおよび追加的な治療薬の投与は、同時、または異なる時点、および任意順であり得る。
【0284】
本発明は、鉄レベル上昇と関連する障害などのTMPRSS6発現によって媒介される疾患または障害を有する患者に、TMPRSS6標的化iRNA剤を投与する方法を特徴とする。dsRNAの投与は、鉄レベルを低下させ、フェリチンレベルを低下させ、および/またはトランスフェリン飽和レベルを低下させ得る。例えばdsRNAの投与は、血清鉄レベルを低下させおよび/または血清フェリチンレベルを低下させ得る。トランスフェリン飽和レベルは、5%、10%、15%、20%、25%以上低下させ得る。トランスフェリン飽和レベルは、50%未満、45%未満、40%未満、35%未満、35%未満に低下させ得る。トランスフェリン飽和は、鉄に結合する血清トランスフェリン量の尺度であり、血清鉄と総鉄結合能との比率に相当する。
【0285】
「低下させる」とは、この文脈で、このようなレベルの統計的に有意な低下を意味する。低下は、例えば少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%以上であり得て、好ましくは、このような障害がある個人の正常な範囲内と認められたレベルまで低下する。
【0286】
疾患治療または予防の有効性は、例えば疾患進行、疾患寛解、症状重症度、疼痛減少、生活の質、治療効果の維持に要する薬剤用量、疾患マーカのレベル、または治療または予防対象の所与の疾患にふさわしいあらゆるその他の測定可能パラメータのレベルを測定することで、評価し得る。このようなパラメータのいずれか1つ、またはパラメータの任意の組み合わせを測定することで、治療または予防有効性をモニターすることは、十分に当業者の能力の範囲内である。例えば所与の治療計画の有効性について、トランスフェリン飽和または血清フェリチンのレベルをモニターし得る。
【0287】
鉄レベル検査は、典型的に患者の血液サンプルで実施される。鉄レベル検査は、タンパク質トラスフェリン(trasferrin)によって運ばれる血清鉄量を測定する。TIBC(総鉄結合能:Total iron-binding capacity)検査は、トランスフェリンが完全飽和した場合に、血液が輸送する鉄の量を測定する。トランスフェリンは肝臓によって生成されるので、TIBCを使用して、肝機能と栄養をモニターし得る。トランスフェリン検査は、血中トランスフェリン(シデロフィリンとも称される)レベルの直接測定である。トランスフェリンの飽和レベルは、血清鉄レベルをTIBCで除算することで計算し得る。フェリチン検査は、身体による後の使用のために鉄を貯蔵する、血中タンパク質のレベルを測定する。
【0288】
本明細書に記載されるiRNA治療を使用して、例えば350μg/dLを超え、500μg/dLを超え、1000μg/dLを超えると測定される鉄レベルなどの血清鉄レベルによって示されてもよい、鉄レベル上昇を有する個人を治療し得る。一実施形態では、血清鉄の上昇レベルは、例えば15、20、25、または30mg/g乾燥重量を超える。
【0289】
本明細書に記載されるiRNA治療を使用して、例えば300μg/Lを超え、500μg/Lを超え、1000μg/Lを超え、1500μg/Lを超え、2000μg/Lを超え、2500μg/Lを超え、または3000μg/L以上と測定されるフェリチンレベルなどの血清フェリチンレベル上昇などによって示されてもよい、鉄レベル上昇を有する個人を治療し得る。
【0290】
本明細書に記載されるiRNA治療を使用して、例えば400mg/dLを超え、500mg/Lを超え、1000mg/dLを超えると測定されるトランスフェリンレベルなどの血清トランスフェリンレベル上昇によって示されてもよい、鉄レベル上昇を有する個人を治療し得る。
【0291】
本明細書に記載されるiRNA治療を使用して、例えば40%、45%、または50%以上の飽和レベルなどのトランスフェリン飽和レベルの中程度の上昇によって示されてもよい、中程度の鉄レベル上昇がある個人を治療し得る。これに加えて、本明細書に記載される治療を使用して、トランスフェリン飽和の軽微な上昇のみがある個人における、鉄レベル上昇を妨げてもよい。当業者は、本明細書に記載されるようなiRNAでの治療を受けた被験者におけるトランスフェリン飽和レベルを容易にモニターし、トランスフェリン飽和レベルの少なくとも5%または10%の低下について、アッセイし得る。
【0292】
本明細書に記載されるiRNA治療を使用して、400μg/dLを超え、500μg/dLを超え、または1000μg/dLを超えるTIBC値によって示されてもよい、鉄レベル上昇がある個体を治療し得る。
【0293】
いくつかの実施形態では、TMPRSS6 siRNAでの治療を必要とする個人は、ヘマトクリットレベル低下、ヘモグロビンレベル低下、赤血球分布幅増大、網状赤血球増加、成熟赤血球細胞数減少、不飽和鉄結合能増大、無効造血低下、髄外(extradedullary)造血低下、および/またはHAMP1発現レベル低下を有する。
【0294】
患者は、血糖(グルコース)レベルまたはαフェトプロテインレベルのアッセイ、心エコー図(例えば心臓機能を調べる)、心電図(ECG)(例えば心臓の電気的活動を見る)、画像検査(CTスキャン、MRI、および超音波など)、および肝機能検査によって、さらにモニターし得る。過剰な鉄染色または鉄濃度は、肝臓生検サンプルで、または例えば肝臓疾患の段階などの肝障害の程度を確認するために、測定し得る。
【0295】
病態の1つまたは複数のパラメータに統計的に有意な改善がある場合、またはそうでなければ予期される症状悪化または発症の欠如によって、治療または予防効果は明らかである。一例として、疾患の測定可能なパラメータの少なくとも10%の、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%以上の好ましい変化は、効果的な治療を示唆し得る。所与のiRNA薬剤またはその薬剤の配合物の有効性はまた、当該技術分野で公知の所与の疾患のための実験動物モデルを使用して、判定し得る。実験動物モデルを使用する場合、治療の有効性は、マーカまたは症状の統計的に有意な低下が観察される場合に、証明される。
【0296】
代案としては、有効性は、臨床的に認められている疾患重症度の評価尺度に基づく診断の当業者による測定で、疾患重症度の低下によって測定し得る。
患者には、0.01mg/kg、0.05mg/kg、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、または2.5mg/kgのdsRNAなどの治療量のiRNAを投与し得る。iRNAは、5分間、10分間、15分間、20分間、または25分間などを超える時間にわたる、静脈輸液によって投与し得る。投与は、例えば1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月以上などにわたり隔週(すなわち2週毎)で、定期的に繰り返される。最初の治療計画の後に、治療はより低い頻度で行い得る。例えば3ヶ月にわたる隔週の投与後、6ヶ月または1年以上にわたり月に1回投与を反復し得る。iRNA投与は、例えば患者の細胞、組織、血液、尿またはその他の区画中のTMPRSS6レベルを少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%以上低下させ得る。
【0297】
iRNAの総用量の投与前に、5%輸液反応などのより少ない用量を患者に投与して、アレルギー反応または症状悪化などの悪影響についてモニターし得る。別の実施例では、サイトカイン(例えばTNF-αまたはINF-α)レベル増大などの望まれない免疫賦活性効果について、患者をモニターし得る。
【0298】
鉄レベル上昇と関連する多数の障害は、遺伝性である。したがってTMPRSS6 iRNAを必要とする患者は、家族歴の聴取によって同定してもよい。TMPRSS6 dsRNAを処方しまたは投与する前に、医師、看護師などの保健医療提供者、または家族の一員が、家族歴を聴取し得る。DNA検査もまた患者に実施して、患者にTMPRSS6 dsRNAを投与する前に、TMPRSS6遺伝子の変異を同定してもよい。例えば遺伝性のヘモクロマトーシスの診断は、GenBank受入番号CAB07442.1(GI:1890180、2008年10月23日に記録)に記載の2つのHFE(ヘモクロマトーシス)遺伝子変異C282YおよびH63Dを同定することで、確認し得る。
【0299】
TMPRSS6発現に対する阻害効果のために、本発明に従った組成物またはそれから調製される医薬組成物は、生活の質を高め得る。
TMPRSS6遺伝子の発現を調節する方法
さらに別の態様では、本発明は、哺乳類においてTMPRSS6遺伝子の発現を調節(例えば阻害または活性化)する方法を提供する。
【0300】
一実施形態では、方法は、例えば1週間、2週間、3週間、または4週間以上など、例えば少なくとも2、3、4日間以上などの長期間にわたり、標的TMPRSS6遺伝子の発現が低下するように、本発明で取り上げる組成物を哺乳類に投与するステップを含む。標的TMPRSS6遺伝子低下の効果は、好ましくは体内の鉄吸収および/または可動化の低下をもたらす。鉄吸収または可動化低下は、血清フェリチンレベル、血清または肝臓鉄レベル、および/または血清トランスフェリン飽和レベルに観察される低下によって、顕在化し得る。いくつかの実施形態では、治療前レベルと比較して、血清フェリチンレベル、血清または肝臓鉄レベル、または血清トランスフェリン飽和レベル1のつまたは複数が、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%以上低下する。いくつかの実施形態では、血清フェリチンレベルは、治療前レベルと比較して、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%以上低下する。
【0301】
別の実施形態では、方法は、標的TMPRSS6遺伝子の発現が、未治療動物と比較して、例えば少なくとも10%増大するように、本明細書に記載される組成物を哺乳類に投与するステップを含む。いくつかの実施形態では、TMPRSS6の活性化は、例えば1週間、2週間、3週間、4週間以上など、例えば少なくとも2、3、4日間以上の長期間にわたって起きる。理論による拘束は望まないが、iRNAは、TMPRSS6 mRNA転写物を安定化し、ゲノム中のプロモータと相互作用し、および/またはTMPRSS6発現の阻害物質を阻害することで、TMPRSS6発現を活性化し得る。
【0302】
本発明で取り上げる方法および組成物に有用なiRNAは、標的TMPRSS6遺伝子のRNA(一次またはプロセシングされた)を特異的に標的化する。iRNAを使用して、これらのTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するための組成物および方法は、本明細書の他の箇所に記載されるように作成し実施し得る。
【0303】
一実施形態では、方法は、iRNAを含有する組成物を投与するステップを含み、iRNAは、治療される哺乳類のTMPRSS6遺伝子RNA転写物の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド配列を含む。治療される生物が、哺乳類などのヒトである場合、組成物は、頭蓋内(例えば脳室内、脳実質内、およびクモ膜下腔内)、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道内(煙霧剤)、鼻孔内、直腸内、および局所(バッカルおよび舌下をはじめとする)投与をはじめとする、経口、腹腔内、または非経口経路をはじめとするが、これに限定されるものではない、当該技術分野で公知の任意の手段によって投与してもよい。特定の実施形態では、組成物は静脈輸液または注射によって投与される。
【0304】
特に断りのない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似したまたは同等の方法および材料を、本発明で取り上げるiRNAおよび方法の実施または試験で使用し得るが、適切な方法および材料は下述のとおりである。本明細書で言及される、全ての刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その内容全体を参照によって援用する。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先される。これに加えて、材料、方法、および実施例は、例証のみを意図し、制限は意図されない。
【0305】
(実施例)
実施例1.干渉RNA(iRNA)合成
試薬の供給元
試薬の供給元が本明細書で具体的に示さない場合、このような試薬は、分子生物学用途の品質/純度規格の分子生物学用試薬のあらゆる供給業者から得られてもよい。
【0306】
オリゴヌクレオチド合成
出願人らは、いくつかの異なる方法を使用して、本明細書に記載されるiRNA分子を作成した。本実施例は、使用した1つのアプローチを記載する。当業者は、当該技術分野で公知のあらゆる方法を使用して、本明細書に記載されるようなiRNAを調製し得る。
【0307】
オリゴヌクレオチドは、AKTA oligopilot合成機上で合成される。市販される制御孔ガラス固体支持体(dT-CPG、50Å、プライムシンセシス(Prime Synthesis))および標準保護基があるRNA亜ホスホルアミド酸、5’-O-ジメトキシトリチル-N6-ベンゾイル-2’-t-ブチルジメチルシリル-アデノシン-3’-O-N,N’-ジイソプロピル-2-シアノエチル亜ホスホルアミド酸、5’-O-ジメトキシトリチル-N4-アセチル-2’-t-ブチルジメチルシリル-シチジン-3’-O-N,N’-ジイソプロピル-2-シアノエチル亜ホスホルアミド酸、5’-O-ジメトキシトリチル-N2-イソブトリル-2’-t-ブチルジメチルシリル-グアノシン-3’-O-N,N’-ジイソプロピル-2-シアノエチル亜ホスホルアミド酸、および5’-O-ジメトキシトリチル-2’-t-ブチルジメチルシリル-ウリジン-3’-O-N,N’-ジイソプロピル-2-シアノエチル亜ホスホルアミド酸(ピアス
ニュークレイックアシッド テクノロジーズ(Pierce Nucleic Acids Technologies))をオリゴヌクレオチド合成のために使用した。2’-Fホスホラミダイト、5’-O-ジメトキシトリチル-N4-アセチル-2’-フルロ-シチジン-3’-O-N,N’-ジイソプロピル-2-シアノエチル-ホスホラミダイト、および5’-O-ジメトキシトリチル-2’-フルロ-ウリジン-3’-O-N,N’-ジイソプロピル-2-シアノエチル-ホスホラミダイトは、(プロメガ(Promega))から購入された。グアノシンが10%THF/ANC(v/v)中で0.2Mの濃度で使用される以外は、全てのホスホラミダイトは、アセトニトリル(CH3CN)中で0.2Mの濃度で使用される。16分間のカップリング/リサイクル時間が、使用される。活性化剤は、5-エチルチオテトラゾール(0.75M、アメリカン インターナショナル ケミカルズ(American International Chemicals))であり;PO-酸化ではヨウ素/水/ピリジンが使用され、PS-酸化ではPADS(2%)in2,6-ルチジン/ACN(1:1v/v)が使用される。
【0308】
3’-リガンド共役結合鎖は、対応するリガンドを含有する固体支持体を使用して合成される。例えばヒドロキシプロリノール-コレステロールホスホラミダイトから、配列中へのコレステロール単位の導入が実施される。コレステロールは、6-アミノヘキサノエート結合を介してtrans-4-ヒドロキシプロリノールに係留されて、ヒドロキシプロリノール-コレステロール部分が得られる。5’-末端Cy-3およびCy-5.5(フルオロフォア)標識iRNAは、バイオサーチ テクノロジーズ(Biosearch
Technologies)から購入された、対応するQuasar-570(Cy-3)ホスホラミダイトから合成される。5’末端および/または内部位置へのリガンドの共役結合は、適切に保護されたリガンド-ホスホラミダイト基本単位を使用することで得られる。5-(エチルチオ)-1H-テトラゾール活性化剤存在下で、無水CH3CN中の0.1Mホスホラミダイト溶液を、固体支持体結合オリゴヌクレオチドに、15分間の長時間にわたりカップリングさせる。ヌクレオチド間亜リン酸エステルのリン酸エステルへの酸化は、報告される(1)標準的なヨウ素-水を使用して、またはtert-ブチルヒドロペルオキシド/アセトニトリル/水(10:87:3)を用いて、10分間の酸化待機時間で、共役結合オリゴヌクレオチドを処理して、行われる。ホスホロチオエートは、DDTT(AMケミカルズ(AM Chemicals)から購入)、PADSおよびまたはビューケージ(Beaucage)試薬などのイオウ転移試薬を使用して、亜リン酸エステルをホスホロチオエートに酸化することでに導入される。コレステロールホスホラミダイトは施設内で合成され、ジクロロメタン中の0.1Mの濃度で使用される。コレステロールホスホラミダイトのカップリング時間は、16分間である。
【0309】
脱保護I(核酸塩基脱保護)
合成完了後、支持体を100mLガラスボトル(VWR)に移す。80mLのエタノール性アンモニア[アンモニア:エタノール(3:1)]混合物を55℃で6.5時間用いて、塩基とリン酸基の同時脱保護により、オリゴヌクレオチドを支持体から切断する。氷上でボトルを短時間冷却し、次にエタノール性アンモニア混合物を新しい250mLボトル内に濾過する。CPGを2×40mL量のエタノール/水(1:1v/v)で洗浄する。次に混合物の体積をroto-vapで約30mLに減少させる。次に混合物をドライアイス上で凍結し、speed vac上で真空乾燥する。
【0310】
脱保護II(2’-TBDMS基の除去)
乾燥残渣を26mLのトリエチルアミン、トリエチルアミン三フッ化水素酸塩(TEA・3HF)またはピリジン-HFおよびDMSO(3:4:6)に再懸濁し、60℃で90分間加熱して、2’位置のブチルジメチルシリル(TBDMS)基を除去する。次に反応を50mLの20mM酢酸ナトリウムでクエンチし、pHを6.5に調節する。オリゴヌクレオチドは、精製まで冷凍庫で保存する。
【0311】
分析
オリゴヌクレオチドは、精製に先だって高速液体クロマトグラフィー(HPLC:high-performance liquid chromatography)によって分析され、緩衝液およびカラムの選択は、配列および/または結合リガンドの性質に左右される。
【0312】
HPLC精製
リガンド結合オリゴヌクレオチドは、逆相分取HPLCによって精製される。非結合オリゴヌクレオチドは、施設内で充填されたTSKゲルカラム上のアニオン交換HPLCによって精製される。緩衝液は、10%CH3CN中の20mMリン酸ナトリウム(pH8.5)(緩衝液A)、および10%CH3CN、1M NaBr中の20mMリン酸ナトリウム(pH8.5)(緩衝液B)である。完全長オリゴヌクレオチド含有画分をプールして脱塩し、凍結乾燥する。ほぼ0.15 ODの脱塩したオリゴヌクレオチドを水で150μLに希釈し、次にCGEおよびLC/MS分析のための特殊バイアル内にピペットで移す。次に化合物をLC-ESMSおよびCGEによって分析する。
【0313】
iRNA調製
iRNAの一般的調製のために、等モル量のセンスおよびアンチセンス鎖を1×PBS中で5分間95℃に加熱し、室温に緩慢に冷却する。二本鎖の完全性はHPLC分析によって確認される。
【0314】
核酸配列は、標準命名法、特にテーブル1の略号を使用して、以下に示される。
テーブル1:核酸配列の表現で使用されるヌクレオチドモノマー略号。これらのモノマーは、オリゴヌクレオチド中に存在する場合、5’-3’-リン酸ジエステル結合によって相互に連結するものと理解される。
【0315】
【表3】
実施例2.TMPRSS6 siRNAデザイン
転写物
TMPRSS6標的化siRNAをデザインして合成した。デザインは、NCBI Refseqコレクションからのヒト転写物NM_153609.2(配列番号1、
図1)を使用した。
【0316】
siRNA二本鎖をTMPRSS6遺伝子との100%同一性でデザインした。
合計655本のセンス、および655本のアンチセンスヒトTMPRSS6由来siRNAオリゴをデザインした。オリゴは、テーブル2に提示される。追加的なセンスおよびアンチセンスヒトTMPRSS6由来siRNAオリゴは、テーブル3に提示される。修飾されたセンスおよびアンチセンスヒトTMPRSS6由来siRNAオリゴは、テーブル4に提示される。
【0317】
テーブル2.ヒトTMPRSS6dsRNAのセンスおよびアンチセンス鎖配列
【0318】
【0319】
【0320】
【0321】
【0322】
【表8】
テーブル3.ヒトTMPRSS6 dsRNAの未修飾センスおよびアンチセンス鎖配列
【0323】
【0324】
【0325】
【表11】
テーブル4.ヒトTMPRSS6 dsRNAの修飾センスおよびアンチセンス鎖配列
【0326】
【0327】
【0328】
【表14】
TMPRSS6配列の合成
TMPRSS6 iRNA配列は、MerMade 192合成機上で、1μモル規模で合成し得る。
【0329】
以下に詳述されるように、エンドライト(endolight)化学を適用し得る
センス鎖中の全てのピリミジン(シトシンおよびウリジン)は、2’-O-メチル塩基(2’O-メチルCおよび2’-O-メチルU)を含有した。
【0330】
アンチセンス鎖中で、(5’位置に向けて)リボAヌクレオシドに隣接するピリミジンは、それらの対応する2-O-メチルヌクレオシドで置換し得る。
センスおよびアンチセンス配列の双方の3’末端に、2塩基dTsdT伸長を導入し得る。
【0331】
配列ファイルをテキストファイルに変換して、それをMerMade 192合成ソフトウェアへのロードに適合させ得る。
合成、切断、および脱保護
TMPRSS6配列の合成は、ホスホラミダイト化学を使用する、固体支持体オリゴヌクレオチド合成を使用した。
【0332】
上の配列の合成は、96ウェルプレート内で、1μm規模で実施し得る。アミダイト溶液は0.1M濃度で調製し得て、エチルチオテトラゾール(アセトニトリル中0.6M)を活性化剤として使用し得る。
【0333】
合成配列は、最初のステップではメチルアミン、第2のステップではフッ化物試薬を使用して、96ウェルプレート内で切断して脱保護し得る。粗製配列は、アセトン:エタノール(80:20)混合物を使用して沈殿させ、ペレットを0.02Mナトリウム酢酸緩衝液に再懸濁し得る。各配列からのサンプルをLC-MSによって分析して同一性を確認し、UVによって定量化し得る。選択されたサンプルセットはまた、IEXクロマトグラフィーによって分析して、純度を判定し得る。
【0334】
精製および脱塩
全ての配列は、Source 15Qカラムを使用して、AKTA explorer精製システム上で精製し得る。サンプル注入および収集は、96ウェル(1.8mL深型ウェル)プレート内で実施し得る。完全長配列に対応する単一ピークを溶出剤中に収集し得る。精製配列は、AKTA purifierを使用してSephadex G25カラム上で脱塩し得る。脱塩したTMPRSS6配列は、濃度(A260でのUV測定による)および純度(イオン交換HPLCによる)について分析し得る。次に一本鎖をアニーリングで使用し得る。
【0335】
実施例3.TMPRSS6ノックダウン活性についてのTMPRSS6 siRNA二本鎖の生体外スクリーニング
生体外でTMPRSS6発現をノックダウンする能力について、TMPRSS6 siRNA二本鎖をスクリーニングした。単回投与スクリーニング、用量応答スクリーニング、および宿主細胞生存度を評価した。
【0336】
生体外スクリーニング:
単回投与および用量応答研究のための細胞培養および形質移入:
5%CO2雰囲気内で37℃において、10%FBS、ストレプトマイシン、およびグルタミン(ATCC)を添加したX(ATCC)中で、HeLaまたはHep3B細胞(ATCC,バージニア州マナサス(Manassas,VA))をコンフルエンス近くに培養してから、トリプシン処理によってプレートから遊離させた。96ウェルプレート内で、ウェルあたり5μlのsiRNA二本鎖に、ウェルあたり14.8μlのOpti-MEM+0.2μlのLipofectamine RNAiMax(インビトロジェン(Invitrogen),カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad CA);カタログ番号13778-150)を添加して室温で15分間インキュベートし、形質移入を実施した。次に約2×104個のHeLaまたはHep3B細胞を含有する、抗生物質を含まない80μlの完全増殖培地をsiRNA混合物に添加した。RNA精製に先だって、細胞を24または120時間のいずれかにわたり培養した。単回投与実験を10nMおよび0.1nMの最終二本鎖濃度で実施し、用量応答実験を10、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.0001、0.00005、0.00001nMの最終二本鎖濃度で実施した。
【0337】
DYNABEADS(登録商標)mRNA単離キット(インビトロジェン(Invitrogen)、パーツ番号:610-12)を使用した全RNA単離:
細胞を収集して150μlの溶解/結合緩衝液溶解し、次にEppendorf(登録商標)Thermomixerを使用して、850rpmで5分間混合した(混合速度は、処理全体にわたり同一であった)。10マイクロリットルの磁性ビーズと80μlの溶解/結合緩衝液混合物を丸底プレートに入れて、1分間混合した。磁性スタンドを使用して磁性ビーズを捕捉し、ビーズをかき乱すことなく上清を除去した。上清を除去した後、溶解細胞を残留ビーズに入れて、5分間混合した。上清を除去した後、磁性ビーズを150μlの洗浄緩衝液Aで2回洗浄し、1分間混合した。ビーズを再度捕捉して、上清を除去した。次にビーズを150μlの洗浄緩衝液Bで洗浄し、捕捉して上清を除去した。次にビーズを150μlの溶出緩衝液で洗浄し、捕捉して上清を除去した。次にビーズを2分間乾燥させた。乾燥後、50μlの溶出緩衝液を添加して、70℃で5分間混合した。ビーズを磁石上で5分間捕捉した。40μlの上清を除去して、別の96ウェルプレートに入れた。
【0338】
ABI高容量cDNA逆転写キットを使用したcDNA合成(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems),カリフォルニア州フォスターシティ(Foster City,CA)、カタログ番号4368813):
反応あたり、2μlの10×緩衝液、0.8μlの25×dNTP、2μlのランダムプライマー、1μlの逆転写酵素、1μlのRNase阻害剤、および3.2μlのH2Oのマスターミックスを10μlの全RNAに添加した。cDNAは、以下のステップを通じて、Bio-RadC-1000またはS-1000サーマルサイクラー(カリフォルニア州ハーキュリーズ(Hercules,CA))を使用して作成した:25℃で10分間、37℃で120分間、85℃で5秒間、4℃で保持。
【0339】
リアルタイムPCR:
50枚の384ウェルプレート内で、ウェルあたり0.5μlのGAPDH TaqMan Probe(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems);カタログ番号4326317E)、0.5μlのTMPRSS6 TaqMan Probe(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems);カタログ番号Hs00542184_m1)、および5μlのLightcycler 480 Probeマスターミックス(ロシュ(Roche);カタログ番号04887301001)(ロシュ(Roche);カタログ番号04887301001)を含有するマスターミックスに、2μlのcDNAを添加した。ΔΔCt(RQ)アッセイを使用して、ABI7900HTリアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems))内で、リアルタイムPCRを実施した。各二本鎖は、2つの独立した形質移入で試験され、要約表で特に断りのない限り、各形質移入は複製でアッセイされた。
【0340】
相対的倍数変化を計算するために、ΔΔCt法を使用してリアルタイムデータを分析し、10nMのAD-1955で形質移入された細胞または模擬形質移入細胞で実施したアッセイに、正規化した。XLFitを使用した4パラメータ適合モデルを使用して、IC50を計算し、同一投与範囲にわたって、AD-1955で形質移入された細胞に、またはそれ自身の最低用量に正規化した。
【0341】
生存度スクリーニング。5%CO2雰囲気内で37℃において、10%FBS、ストレプトマイシン、およびグルタミン(ATCC)を添加したX(ATCC)中で、HeLaまたはHep3B細胞(ATCC、バージニア州マナサス(Manassas、VA))をコンフルエンス近くに培養してから、トリプシン処理によってプレートから遊離させた。100、10、1、0.1、0.01、および0.0001nMのsiRNAでの形質移入に続いて、HeLaおよびHep3B細胞中で3および5日目に細胞生存度を測定した。96ウェルプレート内で、ウェルあたり2.5×103~5×103細胞の密度に、細胞を播種した。各siRNAを三連でアッセイし、データを平均化した。PLK1およびAD-19200標的化siRNAを生存度低下に対する陽性対照として、そしてAD-1955を陰性対照として、含めた。PLK1およびAD-19200は、生存度の用量依存性低下をもたらす。生存度を測定するために、3および5日後に、20ulのCellTiter Blue(プロメガ(Promega))を96ウェルプレートの各ウェルに添加して、37℃で2時間インキュベートした。次に560Ex/590Emで、分光光度計(モレキュラーデバイス(Molecular Devices))内でプレートを読み取った。生存度は、3つの複製形質移入からの光単位の平均値+/-標準偏差として表された。
【0342】
TMPRSS6 siRNA二本鎖によるTMPRSS6発現の生体外ノックダウン
テーブル5は、TMPRSS6標的化siRNAで形質移入されたHep3B細胞中のTMPRSS6ノックダウンを示すデータを提示する。データは、陰性対照siRNA、AD-1955で形質移入された細胞と比較した、TMPRSS6標的化siRNAで形質移入された細胞中に残存するTMPRSS6メッセージの割合として表される。未処理細胞(「未感作」細胞)が、第2の陰性対照の役割を果たした。全てのsiRNAは少なくとも2回試験して、qPCR反応もまた複製で実施した。単回投与実験は、10nMおよび0.1nMの最終siRNA二本鎖濃度で実施した。
【0343】
テーブル5.生体外単回投与スクリーニングにおけるTMPRSS6発現
【0344】
【0345】
【0346】
【表17】
生体外用量応答スクリーニングにおける選択TMPRSS6 siRNA二本鎖のIC
50
テーブル6は、生体外用量応答スクリーニングから判定された、選択TMPRSS6 siRNA二本鎖のIC
50値を提示する。Hep3B細胞中の形質移入に続く1および5日目の用量応答におけるTMPRSS6ノックダウン活性について、10nMおよび0.1nM単回投与スクリーニングで有効なTMPRSS6 siRNA二本鎖(テーブル5)を試験した。用量応答実験は、10、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.0001、0.00005、0.00001nMの最終siRNA二本鎖濃度で実施した。正規化のために、非標的化対照AD-1955と、または試験した各二本鎖の最低siRNA濃度で得られる値と比較して、TMPRSS6のノックダウンを測定した。
【0347】
テーブル6.生体外用量応答スクリーニングにおける選択TMPRSS6 siRNA二本鎖のIC50
【0348】
【表18】
TMPRSS6 siRNA二本鎖で形質移入されたHeLaおよびHEP3B細胞系の生体外生存度スクリーニング
テーブル7は、TMPRSS6 siRNA二本鎖で形質移入されたHeLaおよびHEP3B細胞系の生存度データを提示する。生存度データは、平均生蛍光単位として表され、そこではより小さな値は、生存度の低下を表す。誤差は、3つの複製形質移入からの標準偏差として表される。
【0349】
テーブル7.TMPRSS6 siRNA二本鎖で形質移入されたHeLaおよびHEP3B細胞系の生存度
【0350】
【0351】
【0352】
【0353】
【表22】
実施例4.TMPRSS6 siRNA二本鎖手動選択
さらなる生体内実験で使用するための特定のTMPRSS6 siRNAを選択するために、化学修飾siRNAをHEP3Bヒト肝腫瘍細胞に形質移入し、TMPRSS6遺伝子サイレンシング活性についてスクリーニングした。予測されるオフターゲット可能性が最小で、ヒト カニクイザル、ラット、およびマウスをはじめとする多種反応性がある、2つの高度に強力なsiRNAを生体内評価のために選択した。2つの選択されたTMPRSS6 siRNAの効力はまた、マウス初代培養肝細胞中でも確認され、TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)およびTMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)は、どちらも強力なTMPRSS6遺伝子サイレンシング活性を実証し、TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)は、70pMのIC
50を示し(
図2A)、TMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)は、140pMのIC
50を示した(
図2B)。
【0354】
実施例5.WT C57BL/6マウスにおけるTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシング効果
WT C57BL/6マウスにおけるTMPRSS6およびHAMP1 mRNA発現に対するTMPRSS6 siRNAの効果
生体内におけるLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)およびLNP-TMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)の効果を評価するために、8週齢のメスWT C57BL/6マウスに、尾静脈IV注射を通じて、1mg/kgのLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)またはLNP-TMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)またはLNP-AD-19551(非哺乳類遺伝子ルシフェラーゼ標的化siRNA)を投与した。TMPRSS6 siRNAはLNP11(MC3)と配合された。投与の24時後にマウスを殺処分して肝臓を取り出し、急速冷凍して粉末に粉砕した。少量(約20mg)の肝臓粉末を溶解緩衝液中で破壊して、TaqMan(登録商標)によるmRNA分析のために使用した。群あたり合計5匹のマウスを使用した。データは、β-アクチンmRNAと比較した、標的TMPRSS6 mRNAのLNP-Luc対照比の百分率として表される。
図3Aに示されるように、LNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)およびLNP-TMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)による、肝臓TMPRSS6 mRNA発現の特異的かつ強力な用量依存的阻害があり(データは平均値+/-標準偏差を表す)、それぞれ0.035mg/kgのED
50、および0.18mg/kgのED
50があった。
図3Bで示されるように、LNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)およびLNP-TMPRSS6 siRNA-2(AD-46286)による、肝臓HAMP1 mRNA発現の用量依存的阻害もあった。
【0355】
WT C57BL/6マウスにおけるTMPRSS6およびHAMP1遺伝子発現のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの持続期間
TMPRSS6およびHAMP1遺伝子発現のTMPRSS6 siRNA媒介ノックダウンの持続期間を評価するために、8週齢のWT C57BL/6マウスに、尾静脈IV注射を通じて、単回1mg/kg用量のLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照(LNP-AD-1955)、またはPBSを投与し;全てのsiRNA剤は、LNP11製剤として送達された。マウスを6時間、24時間、48時間、3日、7日、および14日目に殺処分した。TaqMan(登録商標)アッセイを使用して、肝臓におけるTMPRSS6およびHAMP1のmRNA発現レベルを分析し、β-アクチンに正規化した。群あたり5匹のマウスを使用して、データは平均値+/-標準偏差として
図4に表される。
図4に示されるように、LNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)の1mg/kg単回投与は、早くも投与後6時間目にTMPRSS6 mRNA発現をノックダウンし、2週間の期間中、TMPRSS6 mRNA発現をLNP-Luc対照またはPBS対照のほぼ90%に低下させた。HAMP1遺伝子の発現は、投与後24時間に始まって増大し、2週間の期間中維持され、投与後14日目に最大の対照の200%に増大した(
図4)。これに加えて、Olympus AU 400を使用して、血清鉄レベルをトランスフェリン(Tf)飽和の百分率としてアッセイした。トランスフェリン飽和のレベルは、血清鉄と総鉄結合能(TIBC)の比率として計算され、トランスフェリン飽和の百分率として表される。トランスフェリン飽和百分率は、投与後24時間に始まってほぼ50%に低下し、2週間の期間にわたって維持され、血清中の循環鉄レベルが低下したことが示唆された(
図4)。WT C57BL/6マウスにおけるHAMP1遺伝子発現と血清鉄レベルに対する、TMPRSS6 siRNA媒介効果を維持するのに必要な、TMPRSS6 siRNA媒介TMPRSS6サイレンシングのレベル。
【0356】
WT C57BL/6マウスにおけるHAMP1遺伝子発現と血清鉄レベルに対する、TMPRSS6 siRNA媒介効果を維持するのに必要な、TMPRSS6 siRNA媒介TMPRSS6サイレンシングのレベルを評価するために;C57BL/6マウスに、0.3mg/kgのLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照、またはPBSを投与し;全てのsiRNA剤はLNP11製剤として送達した。投与後5時間、24時間、48時間、3日、7日、14日、21、日、および28日目に、マウスを殺処分した。TaqMan(登録商標)アッセイを使用して、TMPRSS6およびHAMP1のmRNA発現レベルを分析し、β-アクチンに正規化した。群あたり5匹のマウスを使用して、データは平均値+/-標準偏差として
図5に表される。
図5に示されるように、TMPRSS6遺伝子発現の最大の低下90%は、投与後24時間目に達成されて、投与後3日目まで維持された。投与後7日目には、TMPRSS6遺伝子の発現は、ほぼ85%低下し;HAMP1遺伝子の発現は、対照のほぼ250%に誘導されて;トランスフェリン飽和(%)は、ほぼ50%低下した(
図5)。投与後21日目には、TMPRSS6遺伝子の発現はほぼ40%低下し;HAMP1遺伝子の発現は正常化され;血清鉄レベルは、トランスフェリン飽和(%)による測定で正常レベルに戻り始めた(
図5)。要約すれば、TMPRSS6 mRNA発現の最大のノックダウンは、投与後24時間目に達成され、投与後3週間目に正常発現レベルのほぼ50%に戻り;ヘプシジンmRNAレベルは、早くも24時間目に増大し、投与後最高7日間維持され;ヘプシジンレベルは、投与後14日目に対照レベルに戻り;循環鉄レベル指標としてのトランスフェリン飽和は、投与後早くも24時間目に投与後の照レベルの50%に低下し、4週間目に向かけて正常化した。したがって
図5に提示されるデータは、HAMP1遺伝子の発現と血清鉄レベルに対するLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)媒介効果を維持するために、50%を超えるTMPRSS6サイレンシングが必要であることを示す。
【0357】
WT C57BL/6マウスにおける血液学的パラメータに対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
ヘモグロビン(HGB)およびヘマトクリットをはじめとする血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を評価するために;WT C57BL/6マウスに、1mg/kg単回投与のTMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照、またはPBSを投与し;引き続いて、最高2週間の投与後の異なる時点で殺処分した。Advia 120分析器を使用して、ヘモグロビン(HGB)、ヘマトクリット、平均赤血球容積(MCV:mean corpuscular volume)、平均赤血球ヘモグロビン(MCH:mean corpuscular hemoglobin)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC:mean corpuscular hemoglobin concentration)、および網状赤血球ヘモグロビン含量(Chr)をはじめとする、血液学的パラメータをアッセイした。
図6Aおよび6Bに示されるように、Th3/+マウス中のTMPRSS6のサイレンシングは、WT C57BL/6マウスにおいてHGB低下(
図6A)、およびヘマトクリット低下(
図6B)をもたらした。平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、および網状赤血球ヘモグロビン含量(Chr)に対しても同様の効果があった。
【0358】
実施例6.サラセミアのマウス(Th3/+)におけるTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
サラセミアのマウス(Th3/+)における血清鉄パラメータに対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
サラセミアのマウス(Th3/+)における、鉄レベル、不飽和鉄結合能(UIBC:unsaturated iron-binding capacity)、およびTf飽和をはじめとする血清鉄パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を評価するために、6週齢のTh3/+マウスに、尾静脈注射を通じて、1mg/kgのLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照、またはPBSを投与し、投与後2週間目にマウスを殺処分した。群あたり5匹のマウスを使用して、データは平均値+/-標準偏差として
図7に表され、
**はp値<0.01および
***はp値<0.001を示す。
図7に示されるように、Th3/+マウスにおけるTMPRSS6のサイレンシングは、対照PBS群と比較して、血清鉄、UIBC、およびTf飽和に有意な低下をもたらした。
【0359】
サラセミアのマウス(Th3/+)における、網状赤血球および赤血球(erthyrocyte)パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
サラセミアのマウス(Th3/+)における網状赤血球数、網状赤血球ヘモグロビン含量(CHr)、および赤血球数(RBC:red blood cell)をはじめとする、網状赤血球および赤血球パラメータに対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を評価するために;6週齢のTh3/+マウスに、尾静脈注射を通じて、1mg/kgのLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照、またはPBSを投与し、投与後2週間目にマウスを殺処分した。Advia 120分析器を使用して網状赤血球数、網状赤血球ヘモグロビン含量(CHr)、および赤血球数(RBC)をはじめとする、網状赤血球および赤血球パラメータをアッセイした。群あたり5匹のマウスを使用して、データは平均値+/-標準偏差として
図8A~8Cに表され、
**はp値<0.01および
***はp値<0.001を示す。それぞれ
図8Aおよび8Bに示されるように、Th3/+マウスにおけるTMPRSS6のサイレンシングは、網状赤血球数ならびに網状赤血球(Chr)のヘモグロビン含量の有意な低下をもたらした。これに加えて、Th3/+マウスにおけるTMPRSS6のサイレンシングは、成熟赤血球(RBC)数の有意な増大をもたらし(
図8C)、無効造血、髄外造血、および赤血球産生の有意な改善を実証した。
【0360】
サラセミアのマウス(Th3/+)における血液学的パラメータに対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
サラセミアのマウス(Th3/+)における、ヘマトクリット(HCT)、ヘモグロビン(HGB)、赤血球分布幅(RDW)、および平均赤血球容積(mean corpuscle value)(MCV)をはじめとする血液学的パラメータに対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を評価するために;6週齢のTh3/+マウスに、尾静脈注射を通じて、1mg/kgのLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照、またはPBSを投与し、投与後2週間目にマウスを殺処分した。Advia 120分析器を使用して、ヘマトクリット(HCT)、ヘモグロビン(HGB)、赤血球分布幅(RDW)、および平均赤血球容積(mean corpuscle value)(MCV)をはじめとする、血液学的パラメータ(paramters)をアッセイした。群あたり5匹のマウスを使用して、データは平均値+/-標準偏差として
図9に表され、
**はp値<0.01および
***はp値<0.001を示す。Th3/+マウスにおけるTMPRSS6のサイレンシングは、HCT(
図9A)の有意な増大、HGBの有意な増大(
図9B)、RDWの有意な低下(
図9C)、およびMCVの有意な低下(
図9D)をもたらした。
図9に提示されるデータは、これらの血液学的パラメータにおける、LNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)投与後のβサラセミア表現型の正常化を示す。
【0361】
サラセミアのマウス(Th3/+)における末梢血形態学に対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
サラセミアのマウス(Th3/+)における、末梢血形態学に対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を評価するために;6週齢のTh3/+マウスに、尾静脈注射を通じて、1mg/kgのLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)またはLNP-Luc対照を投与して、投与後2週間目にマウスを殺処分した。10×倍率でのメイ・グリュンワルド/ギムザ(Gimsa)染色は、対照と比較して、TMPRSS6 siRNAで処置されたTh3/+マウスにおける多染性の著しい低下を示し、これは網状赤血球数の低下、ならびに成熟赤血球形態学の正常化に向けた全体的傾向を代表する。10×倍率でのメイ・グリュンワルド/ギムザ(Gimsa)染色はまた、WT対照動物と比較して、WTTMPRSS6 siRNA動物によって誘発される、軽微な赤血球大小不同症も示した。
【0362】
サラセミアのマウス(Th3/+)における脾臓構造に対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
サラセミアのマウス(Th3/+)における、脾臓構造に対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を評価するために;6週齢のTh3/+マウスに、尾静脈注射を通じて、1mg/kgのLNP-TMPRSS6 siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照、またはPBSを投与して、投与後2週間目にマウスを殺処分した。10×倍率でのヘマトキシリン・エオジン(H & E)染色は、対照と比較して、TMPRSS6 siRNAで処置されたTh3/+マウスが、類洞髄外造血の低下および白髄小節の再出現をはじめとする、脾臓構造の正常化を有したことを示した。
【0363】
サラセミアのマウス(Th3/+)における、脾臓および肝臓鉄含量に対する、TMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果
サラセミアのマウス(Th3/+)における、脾臓および肝臓鉄含量に対するTMPRSS6のTMPRSS6 siRNA媒介サイレンシングの効果を評価するために;6週齢のTh3/+マウスに、尾静脈注射を通じて、1mg/kgのLNP-TMPRSS6
siRNA-1(AD-46273)、またはLNP-Luc対照、またはPBSを投与して、投与後2週間目にマウスを殺処分した。群あたり5匹のマウスを使用して、データは平均値+/-標準偏差として
図10A~10Cに表され、
**はp値<0.01および
***はp値<0.001を示す。Th3/+マウスにおけるTMPRSS6のサイレンシングは、脾臓鉄含量および脾臓重量の有意な低下をもたらし(それぞれ
図10Aおよび
図10B)、髄外造血の正常化が示唆された。肝臓鉄含量の低下に向かう傾向もまた観察されたが、統計的に有意でなかった(
図10C)。
【0364】
上の結果は、調合されたsiRNAの全身投与によるTMPRSS6のサイレンシングが、中間型βサラセミアのマウスモデルにおける表現型を改善するのに十分なレベルに、HAMP発現を増大させることを実証する。したがってLNP-TMPRSS6-siRNAは、異常に低いヘプシジンレベルによって特徴付けられる、先天性鉄過負荷障害(例えば中間型βサラセミアおよび遺伝性ヘモクロマトーシス)のために開発されている。
【0365】
均等物
当業者は、通例の実験法をのみ使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態の多くの均等物を認識または見極めることができるであろう。このような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されることが意図される。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、記載する。
(項目1)
TMPRSS6発現を阻害するための二本鎖リボ核酸(dsRNA)であって、
センス鎖およびアンチセンス鎖を含み、前記アンチセンス鎖は、テーブル2、3または4に列挙されたアンチセンス配列の1つと3ヌクレオチド以下で異なる少なくとも15個の連続ヌクレオチドを含んだ、TMPRSS6転写物との相補性領域を含む、二本鎖リボ核酸(dsRNA)。
(項目2)
前記dsRNAが、少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、項目1に記載のdsRNA。
(項目3)
前記修飾ヌクレオチドの少なくとも1つが、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、5’-ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、および、コレステリル誘導体またはドデカン酸ビスデシルアミド基に連結する末端ヌクレオチドからなる群から選択される、項目2に記載のdsRNA。
(項目4)
前記修飾ヌクレオチドが、2’-デオキシ-2’-フルオロ修飾ヌクレオチド、2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、ロックされたヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’-アミノ修飾ヌクレオチド、2’-アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミダート、および非天然塩基包含ヌクレオチドからなる群から選択される、項目2に記載のdsRNA。
(項目5)
前記相補性領域が、少なくとも17ヌクレオチド長である、項目1に記載のdsRNA。(項目6)
前記相補性領域が、19~21ヌクレオチド長である、項目1に記載のdsRNA。
(項目7)
前記相補性領域が、19ヌクレオチド長である、項目1に記載のdsRNA。
(項目8)
各鎖が30ヌクレオチド長以下である、項目1に記載のdsRNA。
(項目9)
少なくとも1本の鎖が、少なくとも1ヌクレオチドの3’オーバーハングを含む、項目1に記載のdsRNA。
(項目10)
少なくとも1本の鎖が、少なくとも2ヌクレオチドの3’オーバーハングを含む、項目1に記載のdsRNA。
(項目11)
リガンドをさらに含む、項目1に記載のdsRNA。
(項目12)
前記リガンドが、前記dsRNAの前記センス鎖の3’末端に結合する、項目11に記載のdsRNA。
(項目13)
前記相補性領域が、テーブル2、3または4のアンチセンス配列の1つからなる、項目1に記載のdsRNA。
(項目14)
前記dsRNAが、テーブル2、3または4から選択されるセンス鎖配列からなるセンス鎖と、テーブル2、3または4から選択されるアンチセンス配列からなるアンチセンス鎖とを含む、項目1に記載のdsRNA。
(項目15)
項目1に記載のdsRNAを含有する細胞。
(項目16)
項目1に記載のdsRNAを含む、TMPRSS6遺伝子の発現を阻害するための医薬組成物。
(項目17)
脂質製剤をさらに含む、項目16に記載の医薬組成物。
(項目18)
前記脂質製剤が、SNALP、またはXTC調合物である、項目17に記載の医薬組成物。
(項目19)
(a)項目1に記載のdsRNAを細胞に導入するステップと;
(b)ステップ(a)で生成された細胞をTMPRSS6遺伝子のmRNA転写物の分解を得るのに十分な時間維持し、それによって細胞中のTMPRSS6遺伝子の発現を阻害するステップと
を含む、細胞中でTMPRSS6発現を阻害する方法。
(項目20)
前記TMPRSS6の発現が、少なくとも30%阻害される、項目19に記載の方法。
(項目21)
項目1に記載のdsRNAまたは項目16~18のいずれか一項に記載の医薬組成物の治療有効量をこのような治療を必要とするヒトに投与するステップを含む、TMPRSS6発現によって媒介される障害を治療する方法。
(項目22)
前記ヒトが、ヘモクロマトーシスと関連する障害を有する、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記ヒトが、βサラセミアを有する、項目21に記載の方法。
(項目24)
前記ヒトが、中間型βサラセミアを有する、項目21に記載の方法。
(項目25)
前記対象への前記dsRNAの投与が、前記対象の血清中鉄の少なくとも10%の低下を引き起こす、項目23に記載の方法。
(項目26)
前記dsRNAが、0.01mg/kg~5mg/kg対象体重の濃度で投与される、項目21に記載の方法。
(項目27)
dsRNAの少なくとも1本の鎖をコードするベクターであって、前記dsRNAがTMPRSS6をコードするmRNAの少なくとも一部との相補性領域を含み、前記dsRNAが30塩基対以下の長さであり、前記dsRNAが前記mRNAを切断標的とする、ベクター。
(項目28)
前記相補性領域が、少なくとも15ヌクレオチド長である、項目27に記載のベクター。(項目29)
前記相補性領域が、19~21ヌクレオチド長である、項目27に記載のベクター。
(項目30)
項目27に記載のベクターを含む細胞。
(項目31)
配列番号111、配列番号455、配列番号109、配列番号524、配列番号89、配列番号494、配列番号445、配列番号592、配列番号47、および配列番号540からなる群から選択される配列からなる、センス鎖と;配列番号112、配列番号456、配列番号110、配列番号525、配列番号90、配列番号495、配列番号446、配列番号593、配列番号48、および配列番号541からなる群から選択される配列からなる、アンチセンス鎖とを含む、項目1に記載のdsRNA。
【配列表】