(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1393 20100101AFI20221003BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221003BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20221003BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221003BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01M4/1393
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/36 D
(21)【出願番号】P 2020184992
(22)【出願日】2020-11-05
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 和宏
(72)【発明者】
【氏名】石川 香織
(72)【発明者】
【氏名】松尾 雄太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】内田 直樹
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530873(JP,A)
【文献】特開2020-035682(JP,A)
【文献】特表2022-530082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極基材の表面に第1負極スラリーを塗布することにより、第1層を形成すること、
前記第1層の表面に第2負極スラリーを塗布することにより、第2層を形成すること、
および、
前記第1層および前記第2層を圧縮することにより、負極板を製造すること、
を含み、
前記第1負極スラリーは第1負極合材を含み、
前記第2負極スラリーは第2負極合材を含み、
前記第1負極合材および前記第2負極合材の各々は、負極活物質とセルロース系結着材とを含み、
前記負極活物質は、第1黒鉛粉末と第2黒鉛粉末とを含み、
前記第1黒鉛粉末は、0.94以上の円形度を有し、
前記第1黒鉛粉末のD50に対する前記第2黒鉛粉末のD50の分率は、29%から54%であり、
前記第1負極合材および前記第2負極合材の各々において、
前記第1黒鉛粉末は、88.1%から93.6%の質量分率を有し、
前記第2黒鉛粉末は、5%から10%の質量分率を有し、
前記第1負極合材は、第1質量分率で前記セルロース系結着材を含み、
前記第2負極合材は、第2質量分率で前記セルロース系結着材を含み、
前記第2質量分率に対する前記第1質量分率の比は、0.40から0.56である、
非水電解質二次電池用負極板の製造方法。
【請求項2】
前記第1黒鉛粉末は、13μmから19μmのD50を有する、
請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用負極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2014/024473号(特許文献1)は、人造黒鉛からなる黒鉛と、天然黒鉛を球塊状に加工してなる黒鉛とを含有する混合黒鉛材を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以下、本明細書においては「非水電解質二次電池用負極板」が「負極板」と略記され得る。また「非水電解質二次電池」が「電池」と略記され得る。
【0005】
電池の高エネルギー密度化を図るため、高密度の負極板が求められている。しかし高密度の負極板においては、空隙量の確保が困難である。負極板内の空隙量が減少すると、反応面積が減少し、出力特性が低下する傾向がある。
【0006】
負極板は負極活物質として黒鉛粉末(黒鉛粒子の集合体)を含む。例えば、球状化された黒鉛粒子(以下「球状粒子」とも記される。)を使用することが考えられる。球状粒子同士の間には空隙が形成されやすい。よって高密度の負極板においても、所望の空隙量が確保されることが期待される。
【0007】
しかし黒鉛粒子は、本来、柔らかく潰れやすい傾向がある。負極板が圧縮される際に、負極板の表層において球状粒子が潰され、局所的に空隙量が減少する。その結果、負極板の厚さ方向において、空隙分布にばらつきが生じることになる。空隙分布のばらつきにより、サイクル容量維持率が低下する可能性がある。
【0008】
本開示の目的は、サイクル容量維持率の向上にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本開示の技術的構成および作用効果が説明される。ただし本開示の作用メカニズムは、推定を含んでいる。作用メカニズムの正否は、特許請求の範囲を限定しない。
【0010】
〔1〕 非水電解質二次電池用負極板の製造方法は、下記(A)から(C)を含む。
(A)負極基材の表面に第1負極スラリーを塗布することにより、第1層を形成する。
(B)第1層の表面に第2負極スラリーを塗布することにより、第2層を形成する。
(C)第1層および第2層を圧縮することにより、負極板を製造する。
第1負極スラリーは第1負極合材を含む。第2負極スラリーは第2負極合材を含む。第1負極合材および第2負極合材の各々は、負極活物質とセルロース系結着材とを含む。
負極活物質は、第1黒鉛粉末と第2黒鉛粉末とを含む。第1黒鉛粉末は0.94以上の円形度を有する。第1黒鉛粉末のD50に対する第2黒鉛粉末のD50の分率は29%から54%である。第1負極合材および第2負極合材の各々において、第1黒鉛粉末は88.1%から93.6%の質量分率を有し、かつ第2黒鉛粉末は5%から10%の質量分率を有する。
第1負極合材は、第1質量分率でセルロース系結着材を含む。第2負極合材は、第2質量分率でセルロース系結着材を含む。第2質量分率に対する第1質量分率の比は、0.40から0.56である。
【0011】
本開示においては、高度に球状化された黒鉛粒子(以下「高度球状粒子」とも記される。)が使用される。すなわち第1黒鉛粉末は、0.94以上の円形度を有する。高度球状粒子の使用により、空隙量の増加が期待される。ただし負極板の表層においては、高度球状粒子が潰れ、空隙量が局所的に減少する可能性がある。
【0012】
本開示においては、セルロース系結着材により、高度球状粒子の潰れが軽減され得る。すなわち第1層(下層)に比して、第2層(上層)におけるセルロース系結着材の質量分率が高く設定されている。上層のセルロース系結着材は、圧縮時に緩衝材として働き、高度球状粒子の潰れを軽減すると考えられる。これにより、負極板の厚さ方向において、空隙分布のばらつきが軽減されることが期待される。
【0013】
ただし、第2質量分率に対する第1質量分率の比は、0.40から0.56である。第1質量分率は、第1層(下層)におけるセルロース系結着材の質量分率を示す。第2質量分率は、第2層(上層)におけるセルロース系結着材の質量分率を示す。第2質量分率に対する第1質量分率の比が0.56を超えると、空隙分布のばらつきが大きくなる傾向がある。第2質量分率に対する第1質量分率の比が0.40未満になると、第1負極スラリーの分散安定性が過度に低下する可能性がある。また第1層の剥離強度が過度に低下する可能性もある。
【0014】
上記のように、高度球状粒子同士の間には空隙が形成されやすい。その半面、高度球状粒子同士の接点は少ないと考えられる。充放電サイクルに伴って、高度球状粒子は、膨張し収縮する。高度球状粒子の体積変化が相俟って、充放電サイクル中に高度球状粒子同士の接点が失われる可能性がある。高度球状粒子同士の接点が失われると、電子伝導パスが途切れると考えられる。その結果、サイクル容量維持率が低下する可能性がある。
【0015】
本開示においては、第1黒鉛粉末(高度球状粒子)に加えて、第2黒鉛粉末(小粒子)が使用される。小粒子は、高度球状粒子同士の隙間に入り込み、電子伝導パスを形成することが期待される。なお、いわゆる導電材(カーボンブラック)により電子伝導パスを形成することも考えられる。しかしながら導電材は、実質的に容量を有しない。よって導電材が使用される場合は、エネルギー密度が低下することになる。
【0016】
第1黒鉛粉末のD50に対する第2黒鉛粉末のD50の分率は29%から54%である。以下、当該分率が「D50分率」とも記される。D50分率が54%を超えると、サイクル容量維持率が低下する傾向がある。小粒子が高度球状粒子同士の隙間に入り込み難いため、所望の電子伝導パスが形成されないと考えられる。
【0017】
さらに第1負極合材および第2負極合材の各々において、第2黒鉛粉末は、5%から10%の質量分率を有する。第2黒鉛粉末の質量分率が5%未満になると、サイクル容量維持率が低下する傾向がある。電子伝導パスが不足するためと考えられる。第2黒鉛粉末の質量分率が10%を超えても、サイクル容量維持率が低下する傾向がある。空隙量が不足するためと考えられる。
【0018】
以上の作用の相乗により、本開示においてはサイクル容量維持率の向上が期待される。
【0019】
〔2〕 第1黒鉛粉末は、例えば13μmから19μmのD50を有していてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態における負極板の製造方法の概略フローチャートである。
【
図2】
図2は、本実施例における試験電池の製造フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0022】
本明細書において、「含む」、「有する」およびこれらの変形(例えば「備える」、「から構成される」、「包含する」、「含有する」等)の記載は、オープンエンド形式である。すなわち、ある構成を含むが、当該構成のみを含むことに限定されないことを示す。「からなる」との記載はクローズド形式である。「実質的に・・・からなる」との記載はセミクローズド形式である。すなわち「実質的に・・・からなる」との記載は、本開示の目的を阻害しない範囲で、必須成分に加えて、追加の成分が含まれ得ることを示す。例えば、当該技術分野において通常想定される成分(例えば不可避不純物等)が、追加の成分として含まれていてもよい。
【0023】
本明細書において、方法に含まれる2個以上のステップ、動作および操作は、特に断りのない限り、その記載された順序に限定されない。
【0024】
本明細書において、例えば「29%から54%」等の数値範囲は、特に断りのない限り、上限値および下限値を含む。例えば「29%から54%」は、「29%以上54%以下」の数値範囲を示す。また、数値範囲内から任意に選択された数値が、新たな上限値および下限値とされてもよい。例えば、数値範囲内の数値と、本明細書中の別の部分に記載された数値とが任意に組み合わされることにより、新たな数値範囲が設定されてもよい。
【0025】
本明細書において、例えば「LiCoO2」等の化学量論的組成式によって化合物が表現されている場合、該化学量論的組成式は、代表例に過ぎない。組成比は非化学量論的であってもよい。例えば、コバルト酸リチウムが「LiCoO2」と表現されている時、特に断りのない限り、コバルト酸リチウムは「Li/Co/O=1/1/2」の組成比に限定されず、任意の組成比でLi、CoおよびOを含み得る。
【0026】
各図中の寸法関係は、実際の寸法関係と一致しない場合がある。本開示の理解を助けるために、各図中の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)が変更されている場合がある。さらに一部の構成が省略されている場合もある。
【0027】
<負極板の製造方法>
本実施形態における負極板は、非水電解質二次電池用である。非水電解質二次電池は、任意の用途に使用され得る。非水電解質二次電池は、例えば、電動車両において、主電源または動力アシスト用電源として使用されてもよい。複数個の非水電解質二次電池(単電池)が連結されることにより、電池モジュールまたは組電池が形成されてもよい。
【0028】
図1は、本実施形態における負極板の製造方法の概略フローチャートである。
本実施形態における負極板の製造方法は、「(A)第1負極スラリーの塗布」、「(B)第2負極スラリーの塗布」および「(C)圧縮」を含む。
【0029】
以下「第1負極スラリー」および「第2負極スラリー」が「負極スラリー」と総称され得る。また「第1負極合材」および「第2負極合材」が「負極合材」と総称され得る。
【0030】
《(A)第1負極スラリーの塗布、(B)第2負極スラリーの塗布》
本実施形態における負極板の製造方法は、負極基材の表面に第1負極スラリーを塗布することにより、第1層を形成することを含む。さらに本実施形態の負極板の製造方法は、第1層の表面に第2負極スラリーを塗布することにより、第2層を形成することを含む。
【0031】
第1層および第2層は負極活物質層を形成する。負極活物質層は、負極基材の片面のみに形成されてもよいし、負極基材の表裏両面に形成されてもよい。負極活物質層は、第1層および第2層を含む限り、その他の層をさらに含むように形成されてもよい。第1層と第2層との質量比は、例えば「第1層/第2層=1/9」から「第1層/第2層=9/1」であってもよいし、「第1層/第2層=3/7」から「第1層/第2層=7/3」であってもよい。
【0032】
負極スラリーは負極合材および分散媒を含む。分散媒は、例えばセルロース系結着材に対して親和性を示す材料であり得る。分散媒は、例えば水(イオン交換水)等を含んでいてもよい。分散媒は、例えば実質的に水からなっていてもよい。分散媒は、水に加えて、例えばアルコール、ケトン、エーテル等をさらに含んでいてもよい。
【0033】
予め負極合材が調製された後、負極合材が分散媒中に分散されてもよい。分散媒中で、材料が混合されることにより負極合材が調製されてもよい。本実施形態においては、任意の攪拌装置、混合装置、分散装置等が使用され得る。例えば、攪拌装置の攪拌槽において、所定配合で、負極活物質と結着材とが混合されることにより負極合材が調製され得る。次いで攪拌槽内に分散媒が投入され、混合物が攪拌される。これにより負極スラリーが調製され得る。攪拌条件(攪拌時間、攪拌速度等)は、適宜調整される。材料の投入順序は任意である。全材料が同時に投入されてもよいし、個々の材料が順次投入されてもよい。分散媒の使用量は任意である。分散媒の使用量は、塗布装置等に応じて適宜調整され得る。
【0034】
負極基材は導電性のシートである。負極基材は、例えば銅(Cu)箔等を含んでいてもよい。負極基材は、例えば5μmから50μmの厚さを有していてもよい。例えば負極基材の表面に被覆層が形成されていてもよい。被覆層は例えばカーボンブラック等を含んでいてもよい。
【0035】
本実施形態においては、任意の塗布装置が使用され得る。例えば、スロットダイコータ、ロールコータ等が使用されてもよい。塗布装置は、同時多層塗布が可能な装置であってもよい。第1負極スラリーと第2負極スラリーとは、順次塗布されてもよいし、実質的に同時に塗布されてもよい。
【0036】
本実施形態においては、任意の乾燥装置が使用され得る。例えば、熱風乾燥機、赤外線乾燥機等が使用されてもよい。第1スラリーの乾燥後に、第2負極スラリーが塗布されてもよいし、第1負極スラリーが乾燥する前に、第2負極スラリーが塗布されてもよい。
【0037】
(負極合材)
負極合材は負極活物質およびセルロース系結着材を含む。負極合材は、実質的に負極活物質およびセルロース系結着材からなっていてもよい。負極合材は、例えば導電材等をさらに含んでいてもよい。導電材は任意の成分を含み得る。導電材は、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、およびグラフェンフレークからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。導電材は、負極合材に対して、例えば0%から10%の質量分率を有していてもよい。また負極合材は、セルロース系結着材に加えて、例えば、その他の結着材(後述)をさらに含んでいてもよい。
【0038】
(負極活物質)
負極活物質は、負極合材に対して、例えば90%から99%の質量分率を有していてもよい。負極活物質は、電気化学反応によりリチウムイオンを吸蔵し、放出する。本実施形態の負極活物質は、第1黒鉛粉末と第2黒鉛粉末とを含む。第1黒鉛粉末は高度球状粒子の集合体である。第1黒鉛粉末は、負極活物質層において空隙の形成に寄与し得ると考えられる。第2黒鉛粉末は小粒子の集合体である。第2黒鉛粉末は、高度球状粒子間の電子伝導パスになり得ると考えられる。
【0039】
(第1黒鉛粉末の質量分率)
第1負極合材および第2負極合材の各々において、第1黒鉛粉末は88.1%から93.6%の質量分率を有する。第1負極合材において、第1黒鉛粉末は、例えば88.5%から93.6%の質量分率を有していてもよい。第2負極合材において、第1黒鉛粉末は、例えば88.1%から93.1%の質量分率を有していてもよい。
【0040】
(第2黒鉛粉末の質量分率)
第1負極合材および第2負極合材の各々において、第2黒鉛粉末は5%から10%の質量分率を有する。第2黒鉛粉末の質量分率が5%未満になると、サイクル容量維持率が低下する傾向がある。電子伝導パスが不足するためと考えられる。第2黒鉛粉末の質量分率が10%を超えても、サイクル容量維持率が低下する傾向がある。空隙量が不足するためと考えられる。
【0041】
(粒度分布)
本実施形態における粒度分布は体積基準である。粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積の10%になる粒子径が「D10」と定義され、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積の50%になる粒子径が「D50」と定義され、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積の90%になる粒子径が「D90」と定義される。本実施形態におけるD10、D50、D90は、整数部のみ有効である。小数点以下は四捨五入される。
【0042】
粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定される。試料粉末および分散剤が分散媒(イオン交換水)に分散されることにより、懸濁液が調製される。分散剤は、例えば「TRITON(登録商標) X-100」等であってもよい。該懸濁液が測定装置に投入されることにより、粒度分布が測定される。
【0043】
(第1黒鉛粉末のD50)
第1黒鉛粉末は、例えば13μmから19μmのD50を有していてもよい。第1黒鉛粉末は、例えば13μmから17μmのD50を有していてもよい。第1黒鉛粉末は、例えば17μmから19μmのD50を有していてもよい。
【0044】
(第2黒鉛粉末のD50)
第2黒鉛粉末は、例えば5μmから9μmのD50を有していてもよい。第2黒鉛粉末は、例えば5μmから7μmのD50を有していてもよい。第2黒鉛粉末は、例えば7μmから9μmのD50を有していてもよい。
【0045】
(D50分率)
本実施形態において、第1黒鉛粉末のD50に対する第2黒鉛粉末のD50の分率(D50分率)が、29%から54%である。D50分率が54%を超えると、サイクル容量維持率が低下する傾向がある。小粒子が高度球状粒子同士の隙間に入り込み難いため、所望の電子伝導パスが形成されないと考えられる。D50分率は、例えば53%以下であってもよいし、41%以下であってもよい。D50分率は、例えば37%以上であってもよいし、41%以上であってもよい。D50分率は、第2黒鉛粉末のD50が第1黒鉛粉末のD50で除された値の百分率である。D50分率は整数部のみ有効である。小数点以下は四捨五入される。
【0046】
(スパン値)
負極活物質(第1黒鉛粉末と第2黒鉛粉末との混合粉末)は、例えば1.08から1.18のスパン値を有していてもよいし、1.1から1.15のスパン値を有していてもよい。「スパン値」は、粒度分布の広がりの指標である。スパン値が大きい程、粒度分布の広がりが大きいと評価される。
【0047】
スパン値は下記式(1)により算出される。
(スパン値)=(D90-D10)/D50 (1)
式中、「D90」は、負極活物質のD90を示し、
「D10」は、負極活物質のD10を示し、
「D50」は、負極活物質のD50を示す。
【0048】
(円形度)
第1黒鉛粉末(高度球状粒子の集合体)は、0.94以上の円形度を有する。本実施形態における「円形度」は、フロー式粒子画像分析装置により測定される。例えば、シスメックス社製の湿式フロー式粒子径・形状分析装置「型式:FPIA-3000」等、またはこれと同等装置が使用されてもよい。試料粉末を含む懸濁液が調製される。懸濁液がフローセルに供給される。フローセルを通過する懸濁液が、ストロボおよび光学顕微鏡により撮像される。画像に含まれる個々の粒子像が解析される。検出範囲は0.25μmから100μmである。
【0049】
個々の粒子の円形度は、下記式(2)により算出される。
(円形度)=L0/L (2)
式中「L0」は、粒子像と同じ面積を有する円の円周の長さを示し、
「L」は、粒子像の周囲長を示す。
【0050】
本実施形態においては、100個以上の粒子の算術平均が、試料粉末の円形度とみなされる。円形度は理想的には1である。第1黒鉛粉末は、例えば0.94から1の円形度を有していてもよい。
【0051】
なお、第2黒鉛粉末(小粒子)は任意の形状を有し得る。小粒子は、例えば球状、塊状、鱗片状等であってもよい。第2黒鉛粉末は、例えば0.94未満の円形度を有していてもよい。第2黒鉛粉末は、例えば0.85から0.90の円形度を有していてもよい。
【0052】
(タップ密度)
負極活物質(第1黒鉛粉末と第2黒鉛粉末との混合粉末)は、例えば0.9g/cm3から1.2g/cm3のタップ密度を有していてもよい。負極活物質は、例えば1.0g/cm3から1.1g/cm3のタップ密度を有していてもよい。
【0053】
本実施形態におけるタップ密度は、次の手順で測定される。メスシリンダーに50gの試料粉末が静かに充填される。メスシリンダーが1000回タッピングされる。1000回タッピング後、メスシリンダーの目盛から試料粉末の見かけ体積が測定される。試料粉末の質量(50g)が見かけ体積で除されることにより、タップ密度が算出される。タップ密度は3回以上測定される。3回以上の算術平均が、測定対象のタップ密度とみなされる。
【0054】
(セルロース系結着材)
負極合材はセルロース系結着材を含む。本実施形態においては、第1負極合材と第2負極合材とで、セルロース系結着材の質量分率が異なる。すなわち第1負極合材は、第1質量分率でセルロース系結着材を含む。第2負極合材は、第2質量分率でセルロース系結着材を含む。第2質量分率に対する第1質量分率の比が小さい程、セルロース系結着材が第2層(上層)に偏在していることを示す。セルロース系結着材は、負極活物質層の圧縮時に緩衝材として働くことが期待される。上層がセルロース系結着材を相対的に多く含むことにより、上層における高度球状粒子の潰れが軽減されることが期待される。本実施形態においては、第2質量分率に対する第1質量分率の比が0.40から0.56である。第2質量分率に対する第1質量分率の比が0.56を超えると、空隙分布のばらつきが大きくなる傾向がある。第2質量分率に対する第1質量分率の比が0.40未満になると、第1負極スラリーの分散安定性が過度に低下する可能性がある。また第1層の剥離強度が過度に低下する可能性もある。
【0055】
第1質量分率は、例えば0.4%から0.5%であってもよい。第2質量分率は、例えば0.9%から1%であってもよい。なお、第2質量分率に対する第1質量分率の比は、小数第2位まで有効である。小数第3位以下は四捨五入される。
【0056】
セルロース系結着材は、セルロースおよびその誘導体を含む。セルロース系結着材は、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えばセルロース系結着材は、実質的にCMCからなっていてもよい。
【0057】
セルロース系結着材は、酸型であってもよいし、塩型であってもよい。例えばCMCは、酸型CMC(CMC-H)であってもよい。例えばCMCは、ナトリウム塩型(CMC-Na)、リチウム塩型(CMC-Li)、アンモニウム塩型(CMC-NH4)等であってもよい。塩型は、水に対する親和性が高い傾向がある。
【0058】
セルロース系結着材は、例えば10万から100万の質量平均分子量を有していてもよい。質量平均分子量は、GPC法(gel permeation chromatography)によって測定される。標準試料の較正曲線と、セルロース系結着材の溶出時間とから、セルロース系結着材の質量平均分子量が求められる。標準試料はプルランであり得る。質量平均分子量は3回以上測定される。3回以上の算術平均が、測定対象の質量平均分子量とみなされる。
【0059】
(その他の結着材)
負極合材は、セルロース系結着材に加えて、その他の結着材をさらに含んでいてもよい。負極合材は、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)等をさらに含んでいてもよい。したがって例えば、第1負極合材は実質的に、質量分率で88.5%から93.6%の第1黒鉛粉末と、5%から10%の第2黒鉛粉末と、0.4%から0.5%のセルロース系結着材と、残部のSBRとからなっていてもよい。例えば、第2負極合材は実質的に、質量分率で88.1%から93.1%の第1黒鉛粉末と、5%から10%の第2黒鉛粉末と、0.9%から1%のセルロース系結着材と、残部のSBRとからなっていてもよい。
【0060】
《(C)圧縮》
本実施形態の負極板の製造方法は、第1層および第2層(すなわち負極活物質層)を圧縮することにより、負極板を製造することを含む。本実施形態においては、任意の圧縮装置が使用され得る。例えば、圧延機(ローラー)等が使用されてもよい。負極活物質層が圧縮されることにより、負極板が完成する。圧縮後の負極活物質層は、例えば10μmから200μmの厚さを有していてもよい。圧縮後の負極活物質層は、例えば0.8g/cm3から1.6g/cm3の密度を有していてもよい。
【0061】
負極板は、電池の仕様に応じて、所定の平面形状に切断され得る。負極板は、例えば帯状の平面形状を有するように切断されてもよい。負極板は、例えば矩形状の平面形状を有するように切断されてもよい。
【実施例】
【0062】
以下、本開示の実施例(以下「本実施例」とも記される。)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0063】
<負極板の製造>
《No.1》
下記材料が準備された。
第1黒鉛粉末:黒鉛粉末A(円形度=0.94、D50=17μm)
第2黒鉛粉末:黒鉛粉末B(D50=7μm)
セルロース系結着材:CMC-Na(以下「CMC」と略記され得る。)
その他の結着材:SBR
分散媒:水
負極基材:Cu箔
【0064】
第1黒鉛粉末と第2黒鉛粉末とが混合されることにより、負極活物質が調製された。混合比は「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末=93.5/5(質量比)」であった。負極活物質は、1.13のスパン値と、1.03g/cm3のタップ密度とを有していた。負極活物質とCMCとSBRとが混合されることにより、第1負極合材が調製された。混合比は「負極活物質/CMC/SBR=98.5/0.5/1(質量比)」であった。第1負極合材が分散媒に分散されることにより、第1負極スラリーが調製された。
【0065】
第1黒鉛粉末と第2黒鉛粉末とが混合されることにより、負極活物質が調製された。混合比は、「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末=93.1/5(質量比)」であった。負極活物質とCMCとSBRとが混合されることにより、第2負極合材が調製された。混合比は「負極活物質/CMC/SBR=98.1/0.9/1(質量比)」であった。第1負極合材が分散媒に分散されることにより、第2負極スラリーが調製された。
【0066】
第1負極スラリーが負極基材の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥されることにより、第1層が形成された。第2負極スラリーが第1層の表面に塗布され、乾燥されることにより、第2層が形成された。第1層と第2層との質量比は「第1層/第2層=5/5」であった。これにより、第1層と第2層とを含む負極活物質層が形成された。圧延機により、負極活物質層が圧縮された。以上より負極板が製造された。負極板が所定の平面形状に切断された。
【0067】
<電池の製造>
《正極板の製造》
下記材料が準備された。
正極活物質:Li(NiCoMn)O2
導電材:アセチレンブラック
結着材:ポリフッ化ビニリデン
分散媒:N-メチル-2-ピロリドン
正極基材:アルミニウム箔
【0068】
正極活物質と導電材と結着材とが混合されることにより正極合材が調製された。混合比は「正極活物質/導電材/結着材=97.5/1/1.5(質量比)」であった。正極合材が分散媒に分散されることにより、正極スラリーが調製された。正極スラリーが正極基材の表面(表裏両面)に塗布され、乾燥されることにより、正極活物質層が形成された。圧延機により正極活物質層が圧縮された。以上より正極板が製造された。正極板が所定の平面形状に切断された。
【0069】
《組み立て》
図2は、本実施例における試験電池の製造フロー図である。
正極板10の平面形状は帯状であった。正極板10は正極基材11と正極活物質層12とを含んでいた。正極基材11に正極リードタブ13が接合された。
【0070】
負極板20の平面形状は帯状であった。負極板20は負極基材21と負極活物質層22とを含んでいた。負極基材21に負極リードタブ23が接合された。
【0071】
セパレータ(不図示)が準備された。セパレータは単層構造を有していた。セパレータは多孔質ポリプロピレン層からなっていた。正極板10、セパレータおよび負極板20がこの順序で積層され、さらに渦巻状に巻回されることにより、電極体50が形成された。電極体50において正極リードタブ13および負極リードタブ23は外周に配置されていた。巻回後、電極体50が扁平状に成形された。
【0072】
外装体90が準備された。外装体90はアルミニウムラミネートフィルム製であった。外装体90に電極体50が挿入された。挿入後、ワーク(外装体90および電極体50)がドライボックス内に移された。ワークが真空乾燥された。乾燥温度は105℃であった。乾燥時間は2.5時間であった。
【0073】
電解液が準備された。電解液は下記成分からなっていた。
溶媒:「EC/EMC=3/7(体積比)」
支持電解質:LiPF6(濃度=1.0mоl/L)
添加剤:VC〔添加量=2%(溶媒に対する体積分率)〕
【0074】
なお「EC」はエチレンカーボネートを示す。「EMC」はエチルメチルカーボネートを示す。「VC」はビニレンカーボネートを示す。
【0075】
真空乾燥後、外装体90に電解液が注入された。電解液の注入後、外装体90が密封された。以上より、試験電池100(非水電解質二次電池)が製造された。
【0076】
《No.2》
黒鉛粉末B(D50=7μm)に代えて、黒鉛粉末D(D50=5μm)が使用されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0077】
《No.3》
黒鉛粉末B(D50=7μm)に代えて、黒鉛粉末E(D50=9μm)が使用されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0078】
《No.4》
第1負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=88.5/10/0.5/1(質量比)」に変更され、かつ第2負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=88.1/10/0.9/1(質量比)」に変更されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0079】
《No.5》
第1負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=93.6/5/0.4/1(質量比)」に変更され、かつ第2負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=93/5/1/1(質量比)」に変更されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0080】
《No.6》
黒鉛粉末A(円形度=0.94、D50=17μm)に代えて、黒鉛粉末G(円形度=0.94、D50=19μm)が使用されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0081】
《No.7》
黒鉛粉末A(円形度=0.94、D50=17μm)に代えて、黒鉛粉末H(円形度=0.94、D50=13μm)が使用されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0082】
《No.8》
黒鉛粉末A(円形度=0.94、D50=17μm)に代えて、黒鉛粉末C(円形度=0.91、D50=17μm)が使用されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0083】
《No.9》
黒鉛粉末B(D50=7μm)に代えて、黒鉛粉末F(D50=12μm)が使用されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0084】
《No.10》
第1負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=96/2.5/0.5/1(質量比)」に変更され、かつ第2負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=95.6/2.5/0.9/1(質量比)」に変更されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0085】
《No.11》
第1負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=86/12.5/0.5/1(質量比)」に変更され、かつ第2負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=85.6/12.5/0.9/1(質量比)」に変更されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0086】
《No.12》
第1負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=93.3/5/0.7/1(質量比)」に変更され、かつ第2負極合材の混合比が「第1黒鉛粉末/第2黒鉛粉末/CMC/SBR=93.3/5/0.7/1(質量比)」に変更されることを除いては、No.1と同様に、負極板および試験電池が製造された。
【0087】
<サイクル試験>
25deg.Cの温度環境下において、試験電池の充放電サイクルが500サイクル実施された。1サイクルは下記「CCCV充電→CC放電」の一巡を示す。500サイクル目の放電容量が1サイクル目の放電容量で除されることにより、容量維持率が算出された。
【0088】
CCCV充電:CC電流=1/3It、CV電圧=4.25V、カットオフ電流=1/20It
CC放電:CC電流=1/3It、カットオフ電圧=3.0V
【0089】
なお、「CCCV(constant current, constant voltage)」は定電流-定電圧方式を示す。「CC(constant current)電流」は、CC方式充電(または放電)時の電流を示す。「CV(constant voltage)電圧」は、CV方式充電時の電圧を示す。「カットオフ電流」まで、電流が減衰した際にCV充電が終了される。「カットオフ電圧」に電圧が到達した際に、CC放電が終了される。「It」は、電流の時間率を示す記号である。1Itの電流によれば、電池の設計容量が1時間で放電される。
【0090】
【0091】
<結果>
上記表1において、下記条件が全て満たされる場合に、サイクル試験における容量維持率(すなわち「サイクル容量維持率」)が向上する傾向がみられる。
【0092】
・第1黒鉛粉末が0.94以上の円形度を有する。
・D50分率が29%から54%である。
・第1負極合材および第2負極合材の各々において、第2黒鉛粉末が5%から10%の質量分率を有する。
・第2負極合材におけるCMCの質量分率に対する、第1負極合材におけるCMCの質量分率の比(表1中の「CMC質量分率比」)が0.40から0.56である。
【0093】
<付記>
本明細書は「非水電解質二次電池の製造方法」も開示している。「非水電解質二次電池の製造方法」は、本実施形態における「負極板の製造方法」を含む。
【0094】
本実施形態および本実施例は、全ての点で例示である。本実施形態および本実施例は、制限的なものではない。例えば、本実施形態および本実施例から、任意の構成が抽出され、それらが任意に組み合わされることも、当初から予定されている。
【0095】
特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の意味における全ての変更を包含する。さらに、特許請求の範囲の記載に基づいて定められる技術的範囲は、特許請求の範囲の記載と均等の範囲内における全ての変更も包含する。
【符号の説明】
【0096】
10 正極板、11 正極基材、12 正極活物質層、13 正極リードタブ、20 負極板、21 負極基材、22 負極活物質層、23 負極リードタブ、50 電極体、90 外装体、100 試験電池(非水電解質二次電池)。