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特許7150811ガス混合物を分離するための多層芳香族ポリアミド薄膜複合膜
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】ガス混合物を分離するための多層芳香族ポリアミド薄膜複合膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20221003BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20221003BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20221003BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20221003BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20221003BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20221003BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20221003BHJP
   C08L 77/10 20060101ALI20221003BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
B01D71/56
B01D53/22
B01D69/02
B01D69/10
B01D69/12
B32B5/18
B32B27/34
C08L77/10
C08L101/12
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020500653
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018040864
(87)【国際公開番号】W WO2019010269
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】15/644,005
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506018363
【氏名又は名称】サウジ アラビアン オイル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100097320
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 貞二
(74)【代理人】
【識別番号】100155192
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 美代子
(74)【代理人】
【識別番号】100131820
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 俊幸
(74)【代理人】
【識別番号】100215049
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100100398
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,スン-ハク
(72)【発明者】
【氏名】アル-カフタニ,ムハンマド エス.
(72)【発明者】
【氏名】ガーセム,イヤド エー.
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-011293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0050250(US,A1)
【文献】特表2013-530820(JP,A)
【文献】特公平05-029490(JP,B2)
【文献】特開昭59-199001(JP,A)
【文献】特開昭52-021021(JP,A)
【文献】特公平07-083825(JP,B2)
【文献】特開昭62-186922(JP,A)
【文献】Gas and liquid permeation properties of modified interfacial composite reverse osmosis membranes,Journal of Membrane Science,2008年09月16日,p.793-800
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F1/44
B32B1/00-43/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
B29C71/04
C08J7/00-7/18
C08J9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜を備えるガス分離膜であって:
前記中空糸膜は:
多孔質支持層と;
界面重合を介して前記多孔質支持層上に形成される芳香族ポリアミド層と;
前記芳香族ポリアミド層上に形成され、前記芳香族ポリアミド層の欠陥を塞ぐ、ガラス状ポリマを備えるコーティングであって、前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は50℃を超え、前記ガラス状ポリマはポリ(フェニレンオキシド)又はスルホン化ポリ(テト ラフルオロエチレン)又はこれらの組み合わせ若しくは共重合体を備える、前記コーティングと;を備える、
ガス分離膜。
【請求項2】
前記ポリ(フェニレンオキシド)、又は前記スルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン )、又はこれらの組み合わせ若しくは共重合体に加え、前記ガラス状ポリマは、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ニトロセルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フェニレンサルファイド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルトリメチルシラン、ポリトリメチルシリルプロピン(polytrimethylsilylpropyne)、ポリ(エーテルイミド)、ポリ(エーテルスルホン)、ポリオキサジアゾール、ポリ(フェニレンオキシド)、又は、これらの組み合わせ若しくは共重合体、を備える、
請求項1に記載の膜。
【請求項10】
前記膜のヘリウム透過率は、作動供給圧50psiaにて、5と150GPU(10 cm(STP)/cm/sec/cmHg)との間である、
請求項1に記載の膜。
【請求項11】
ガス分離用中空糸膜の形成方法であって:
溶液を得るためにガラス状ポリマを溶媒中に溶解させるステップであって、前記ガラス 状ポリマはポリ(フェニレンオキシド)又はスルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン) 又はこれらの組み合わせ若しくは共重合体を備える、前記溶解させるステップと;
前記ガラス状ポリマを備える前記溶液を、複合膜の芳香族ポリアミド層と接触させるステップと;
前記芳香族ポリアミド層の欠陥を塞ぎ、ガス分離用前記中空糸膜を提供するように、前記複合膜の前記芳香族ポリアミド層上に前記ガラス状ポリマのコーティングを形成するために、前記溶液を乾燥させるステップと;を備え、
前記芳香族ポリアミド層は、界面重合によって形成され、
前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は、50℃よりも高い、
中空糸膜の形成方法。
【請求項12】
前記ガラス状ポリマは、ポリ(フェニレンオキシド)を備える、
請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリ(フェニレンオキシド)、又は前記スルホン化ポリ(テトラフルオロエチレン )、又はこれらの組み合わせ若しくは共重合体に加え、前記ガラス状ポリマは、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ニトロセルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フェニレンサルファイド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルトリメチルシラン、ポリトリメチルシリルプロピン(polytrimethylsilylpropyne)、ポリ(エーテルイミド)、ポリ(エーテルスルホン)、ポリオキサジアゾール、ポリ(フェニレンオキシド)、又は、これらの共重合体、を備える、
請求項11に記載の方法。
【請求項16】
ガス分離方法であって:
透過物流及び廃棄流を得るために、二酸化炭素と、ヘリウム及び水素のうちの少なくとも一方とを備えるガス供給流を、中空糸膜を備えるガス分離膜と接触させるステップ;を備え、
前記透過物流中のヘリウム又は水素の濃度は、前記ガス供給流中のヘリウム又は水素の濃度のそれぞれよりも高く、
前記ガス分離膜は:
多孔質支持層と;
界面重合によって前記多孔質支持層上に形成される芳香族ポリアミド層と;
前記芳香族ポリアミド層上に形成され、前記芳香族ポリアミド層の欠陥を塞ぐ、ガラス状ポリマを備えるコーティングであって、前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は50℃よりも高前記ガラス状ポリマはポリ(フェニレンオキシド)又はスルホン化ポリ( テトラフルオロエチレン)又はこれらの組み合わせ若しくは共重合体を備える、前記コーティングと;を備える、
ガス分離方法。
【請求項20】
前記透過物流は、少なくとも85vol%のヘリウム、少なくとも85vol%の水素、又は少なくとも85vol%のヘリウムと水素の組み合わせを備える、
請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権の主張]
本願は、2017年7月7日に出願された米国特許出願第15/644,005号の優先権を主張し、その内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ガス混合物の選択的分離のための、特に二酸化炭素を含むガス混合物からの水素及びヘリウムの選択的分離のための薄膜複合膜の形態の多層選択透過性バリアに関する。
【背景技術】
【0003】
逆透過(RO)膜及びナノ濾過(NF)膜は、海水又は淡塩水から塩や他の物質を除去するために用いられることが多い。この膜技術濾過方法では、選択性膜への供給溶液に圧力をかけることで、溶媒が膜の低圧側へ通過するとともに、膜の被加圧側には大きな分子及びイオンが保持される。一般にRO膜及びNF膜に用いられる芳香族ポリアミド薄膜複合膜は、界面重合によってメソ多孔質ポリマ支持体上に形成された薄いポリアミド膜を含む。市販のRO膜及びNF膜は欠陥や細孔を普通に含んでおり、クヌーセン(Knudsen)拡散により、この欠陥又は細孔を通ってガスが流出してしまうので、二酸化炭素を含有するガス混合物からヘリウム又は水素を乾燥状態で分離するには適していない。
【発明の概要】
【0004】
第1の一般的な態様では、ガス分離膜は、多孔質支持層と、界面重合を介して前記多孔質支持層上に形成される芳香族ポリアミド層と、前記芳香族ポリアミド層上に形成されるガラス状ポリマを含むコーティングを含む。前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は50℃を超える。
【0005】
第2の一般的な態様では、ガス分離膜の形成は、ガラス状ポリマを含む溶液を、複合膜の芳香族ポリアミド層と接触させるステップと、前記複合膜の前記芳香族ポリアミド層上に前記ガラス状ポリマのコーティングを形成するために前記溶液を乾燥させるステップとを含む。前記芳香族ポリアミド層は、界面重合によって形成され、前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は50℃を超える。
【0006】
第3の一般的な態様では、ガス分離方法は、透過物流及び廃棄流を得るために、二酸化炭素と、ヘリウム及び水素のうちの少なくとも一方とを含むガス供給流を、ガス分離膜と接触させるステップを含む。前記透過物流中のヘリウム又は水素の濃度は、前記ガス供給流中の前記ヘリウム又は水素の濃度のそれぞれよりも高い。前記ガス分離膜は、多孔質支持層と、界面重合によって前記多孔質支持層上に形成される芳香族ポリアミド層と、前記芳香族ポリアミド層上に形成されるガラス状ポリマを含むコーティングを含む。前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は50℃を超える。
【0007】
第1、第2、及び第3の一般的な態様の実施は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含み得る。
【0008】
ガラス状ポリマは、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ニトロセルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フェニレンサルファイド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルトリメチルシラン、ポリトリメチルシリルプロピン(polytrimethylsilylpropyne)、ポリ(エーテルイミド)、ポリ(エーテルスルホン)、ポリオキサジアゾール、ポリ(フェニレンオキシド)、又は、これらの組み合わせ若しくは共重合体を含んでもよい。
【0009】
前記膜のヘリウム/二酸化炭素の理想的選択性は、典型的には20から70である。前記膜のヘリウム/窒素の理想的選択性は、典型的には70よりも高い。前記膜のヘリウム/メタンの理想的選択性は、典型的には70よりも高い。前記膜のヘリウム透過率は、典型的には、作動供給圧50psiaにて、5と150GPU(10-6cm(STP)/cm/sec/cmHg)との間である。
【0010】
第2の一般的な態様の実施は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含み得る。
【0011】
第2の一般的な態様は、溶液を得るために前記ガラス状ポリマを溶媒中に溶解させるステップを含んでもよい。溶媒は、クロロホルム、n‐ヘキサン、シクロヘキサン、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。溶液を芳香族ポリアミド層と接触させるステップは、芳香族ポリアミド層上に溶液をスロットダイコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、又は、スプレーコーティングすることを含んでもよい。
【0012】
第3の一般的な態様の実施は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含み得る。
【0013】
ガス供給流は、少なくとも100vol ppmのヘリウム、水素、又は、これらの組み合わせを含んでもよい。前記ガス供給流は、最大で90vol%のヘリウム、水素、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。透過物流は、ガス混合物中に少なくとも90vol%のヘリウム、前記ガス混合物中に少なくとも90vol%のヘリウム、又は、その両方を含んでもよい。生成物流は、少なくとも85vol%のヘリウム、少なくとも85vol%の水素、又は少なくとも85vol%のヘリウムと水素の組み合わせを含んでもよい。
【0014】
ここで述べる膜により、回収するヘリウム及び水素の純度が高まり、動力消費を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】多層芳香族ポリアミド薄膜複合フラットシート膜を示す。
図1B図1Aの膜の断面図である。
【0016】
図2A】多層芳香族ポリアミド薄膜複合中空糸膜を示す。
図2B図2Aの膜の断面図である。
【0017】
図3図1Aの膜を用いた渦巻形モジュールの構成を示す。
【0018】
図4図2Aの膜を用いた中空糸モジュールの構成を示す。
【0019】
図5】芳香族ポリアミド複合膜上にガラス状ポリマコーティングを形成する工程のフローチャートである。
【0020】
図6A】市販の薄膜複合芳香族ポリアミドRO膜のガス透過率と理想的選択性を示す。
図6B】市販の薄膜複合芳香族ポリアミドNF膜のガス透過率と理想的選択性を示す。
【0021】
図7A】ガス分離業界で一般的に使われているポリマ材料を通るヘリウムの透過性と、He/COの理想的選択性とを、Robeson上限(1991及び2008)と共に示す。
図7B】本明細書に記載の、コーキングを施した薄膜複合(TFC、thin‐film composite)ポリアミド膜について入手した実験結果を、比較のためのRobeson上限と共にプロットして示す。
【0022】
図8】純ガスでの膜透過特性と、混合ガスでの分離特性とを特徴付けるために用いた実験の配置(セットアップ)を示す。
【0023】
図9A】コーキングを施したTFCポリアミド膜と基準の複合膜とについてのヘリウムリッチな性能を比較して示す。
図9B】コーキングを施したTFCポリアミド膜と基準の複合膜とについての分離係数を示す。
【0024】
図10】様々な膜材料でヘリウムリッチ性を実証する膜シミュレーションの工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1Aは、多層芳香族ポリアミド薄膜複合膜100を示す。図示のように、膜100は、供給側102と透過側104とを有するフラットシートの形態をしている。膜100の厚さは、典型的には、50μmから300μmの範囲である。有利なことに、膜100はヘリウム選択性及び水素選択性であるため、膜の供給側102に提供されるヘリウム及び/又は水素並びに二酸化炭素を含有するガス供給流により、ヘリウムリッチ及び/又は水素リッチな透過物が得られる。図1Bは、膜100の断面を示す。膜100は、ガラス状ポリマコーティング106と、芳香族ポリアミド層108と、多孔質支持体110とを含む。実施の形態によっては、多孔質支持体110は基体112を含む。
【0026】
図2Aは、多層芳香族ポリアミド複合薄膜による中空糸膜200を示す。図示のように、膜200は供給側202と透過側204とを有する中空糸の形態をしている。中空糸の外径(OD、outer diameter)は、典型的には、80μmから500μmの範囲であり、OD/内径(ID、inner diameter)比は、作動圧に基づいて適宜に1.5から3.5の範囲である。図2Bは、膜200の断面を示す。膜200は、ガラス状ポリマコーティング206と、芳香族ポリアミド層208と、多孔質支持体210とを含む。中空糸型の膜200は自立型であるので、基体を含まなくてよい。
【0027】
多孔質支持体110及び210は、精密濾過又は限外濾過に適するメソ多孔質のポリマ膜支持体である。多孔質支持体110及び210は次のようなポリマ、すなわち、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ニトロセルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリプロピレン、ポリエチレン、フッ化ポリビニリデン、ポリ(フェニレンスルフィド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルトリメチルシラン、ポリトリメチルシリルプロピン(polytrimethylsilylpropyne)、ポリ(エーテルイミド)、ポリ(エーテルスルホン)、ポリオキサジアゾール、ポリ(フェニレンオキシド)、又は、これらの組み合わせ若しくは共重合体から製造してよい。多孔質支持体110の厚さは、典型的には、50μmから200μmの範囲である。多孔質支持層210の厚さは、典型的には、30μmから100μmの範囲である。多孔質支持体110及び210の表面細孔は不均一であり、その寸法は20nmから100nmの範囲である。実施の形態によっては、多孔質支持体110は多孔質基体112のような基体層を設けて、透過物が多孔質支持体110又は多孔質基体112を通って膜100から出られるようになっている。多孔質基体112は布地のような可撓性材料から製造される。多孔質基体112の厚さは、典型的には、50μmから100μmの範囲であり、細孔サイズは、典型的には、5μmから10μmの範囲である。
【0028】
芳香族ポリアミド層108及び208は、界面重合によって多孔質支持体110及び210上にそれぞれ形成された架橋結合芳香族ポリアミド層である。界面重合では、2つの非混和性溶媒の界面における反応性成分間に反応が生じる。一の実施例では、多孔質支持体110又は210に、m‐フェニレンジアミンのような単量体アリレンポリアミン(monomeric arylene polyamine)を含有する水性溶液を、浸漬若しくは噴霧によって浸潤させた。浸潤後に、多孔質支持層110又は210を、トリメソイルクロリドのような単量体のハロゲン化アシルが溶解した水非混和性溶媒中に浸漬させた。界面重合を原位置にて開始し、芳香族ポリアミド層108又は208を多孔質支持体110又は210上にそれぞれ形成した。ポリアミド層及び多孔質支持層を乾燥させて複合膜を得た。上で説明した手順に従って芳香族ポリアミド層208を形成した。ポリアミド層108及び208の厚さは、典型的には、20nmから200nmの範囲である。
【0029】
ガラス状ポリマコーティング106及び206を、芳香族ポリアミド層108及び208上にそれぞれ形成した。実施の形態によっては、ガラス状ポリマを含有する溶液を、芳香族ポリアミド層上へスロットダイコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、又はスプレーコーティングすることにより、ガラス状ポリマコーティング106及び206を芳香族ポリアミド層108及び208上にそれぞれ形成し、芳香族ポリアミド層108及び208のそれぞれの細孔又は欠陥を効率的に塞いで、ガス分離に適する多層芳香族ポリアミド薄膜複合膜を得る。ガラス状ポリマコーティング106及び208の厚さは、10nmから1μmの範囲である。芳香族ポリアミド層108及び208上にそれぞれガラス状ポリマコーティング106及び206を形成することを「コーキング」と言い、その結果得る多層芳香族ポリアミド薄膜複合膜を「コーキングされた」膜(“caulked” membrane)と言う。
【0030】
ガラス状ポリマコーティング106及び206は、ガラス転移温度が50℃より高いガラス状ポリマを含む。実施の形態によっては、ガラス状ポリマコーティング106及び206は、ガラス転移温度が100℃より高い又は150℃より高いガラス状ポリマを含む。適切なガラス状ポリマとしては、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニルスルホン、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ニトロセルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フェニレンサルファイド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリビニルトリメチルシラン、ポリトリメチルシリルプロピン(polytrimethylsilylpropyne)、ポリ(エーテルイミド)、ポリ(エーテルスルホン)、ポリオキサジアゾール、ポリ(フェニレンオキシド)、又は、これらの組み合わせ若しくは共重合体が挙げられる。実施の形態によっては、ガラス状ポリマは官能基化される。官能基化されたガラス状ポリマとしては、スルホン化されたガラス状ポリマ及びハロゲン化されたガラス状ポリマ(例えば、臭素化ガラス状ポリマ)がある。適切なガラス状ポリマの例として、臭素化ポリイミド、臭素化ポリスルホン、臭素化ポリ(フェニレンオキシド)がある。
【0031】
実施の形態によっては、膜100は渦巻形モジュールで実施される。図3は、渦巻形モジュール300の分解図である。渦巻形モジュール300は、膜100と、膜100間のスペーサ302とを含む。供給混合物が渦巻形モジュール300の第1の端部304へ供給され、未透過物は、渦巻形モジュールの第2の端部306から出る。透過物は、中央開口308を通って渦巻形モジュール300から出る。
【0032】
実施の形態によっては、膜200は中空糸膜モジュールで実施される。図4は、ハウジング402を有する中空糸膜モジュール400の断面図である。中空糸膜404は、ハウジング402に収容されている。実施の形態によっては、供給ガスが、入口406を介して、中空糸膜404の外側の中空糸膜モジュール400へ供給される(「アウトサイドイン」)。透過物及び未透過物は、それぞれ、出口408及び410を介してハウジング402から出る。特定の実施の形態では、供給ガスが出口408を介して中空糸膜404の内部に導入され(「インサイドアウト」)、透過物は、入口406、出口410、又は両方を介してハウジング402から出る。スイープガス又は透過物を、入口412を介して中空糸膜モジュール400へ供給してもよい。
【0033】
図5は、複合膜の芳香族ポリアミド層の上にガラス状ポリマコーティングを形成する工程500のフローチャートである。ステップ502では、ここで述べる適切なガラス状ポリマを含有する溶液を、複合膜の芳香族ポリアミド層と接触させる。この溶液は、適切な溶媒に溶解させたガラス状ポリマを含有する。ガラス状ポリマの濃度は0.2wt%から5wt%の範囲である。溶媒は有機質であっても無機質であってもよい。適切な有機溶媒としては、ガラス状ポリマの溶解度に基づいて、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン、ベンゼン、ジクロロメタン、n‐ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、及びトルエンが挙げられる。適切な無機溶媒としては塩化スルフリル及びフッ化水素が挙げられる。溶媒の粘度は、典型的には、温度25℃にて0.2センチポアズ(cP)から500センチポアズ(cP)の範囲である。ステップ504では、溶液を乾燥させて複合膜の芳香族ポリアミド層の上にガラス状ポリマのコーティング/コーキング層を形成する。コーティング後に、溶媒の沸点よりも5℃から10℃高い温度に予熱した真空オーブン内で膜を乾燥させてから、真空下のオーブン内に1時間放置する。
【0034】
ここで述べる多層芳香族ポリアミド薄膜複合膜の透過特性と分離特性は、純ガスと、ヘリウム、メタン、二酸化炭素、及び窒素を含有する混合ガスとによって特徴付けられる。膜はヘリウム選択性及び水素選択性であるので、二酸化炭素と、水素、ヘリウム、又は両方とを含有するガス供給流を膜の供給側へ供給することにより、それぞれ、水素リッチな、ヘリウムリッチな、又は、水素及びヘリウムの両方がリッチな透過物が得られる。1種のガスの、別の1種のガスに対する「理想的選択性」は、両ガスの純ガス透過性の比として定義される。実験的に特定される「透過性」は、単位膜の厚さ(unit membrane thickness)あたりの単位駆動力(unit driving force)あたりの、膜を通る物質の輸送フラックスとして定義されている。ガス分離一般に用いられる単位(「barrer(バーラー)」)は、1barrer=10-10(cm@STP・cm)/(cm・s・cm‐HG)として定義され、ここで、cm@STP/cm・sは、0℃、1気圧という標準条件における拡散種の膜貫通フラックス容量であり;cmは、膜厚さであり;cm‐Hgは、拡散腫の膜貫通分圧駆動力であり、ここで駆動力とは、膜を横切る圧力差である。ガスの透過性は、吸収(又は分配)係数と透過物拡散係数との積である。吸収係数は、流体相中の透過成分の濃度をその膜ポリマ相中の濃度とリンクさせる平衡項(equilibrium term)である。この平衡項は膜中における成分の溶解性を示す。拡散係数は、透過成分の分子運動への周囲環境の影響を反映する運動項(kinetic term)である。この拡散係数は、膜を通る成分の拡散を示す。透過率は、膜厚さに対する透過性の比として定義される。透過率(「ガス透過率単位」)の一般的な単位は次式;1GPU=10-6cm(STP)/cm・s・cm‐Hg)=3.3×10-1mol/(m・s・Pa)で表される。
【0035】
ここで述べる膜は、二酸化炭素に勝る20から70の範囲のヘリウムの理想的選択性(ヘリウム/二酸化炭素)を実証するものである。膜のヘリウム/窒素の理想的選択性とヘリウム/メタンの理想的選択性は、両方とも70を超える。実施の形態によっては、ヘリウム/窒素の理想的選択性とヘリウム/メタンの理想的選択性は、最大2000又はそれを超える。膜のヘリウム透過率は、作動供給圧50psiaにて5GPUから150GPUの範囲である。
【実施例
【0036】
ガス透過の実験で確認されたように、市販の芳香族ポリアミド複合薄膜は多孔質である(すなわち欠陥がある)。例えば、図6A及び図6Bに示すように、4つの市販のRO膜と、2つの市販のNF膜とにかけての、He/COの平均理想的選択性は2.3から3.8の範囲(黒三角)であり、クヌーセン流特徴(白三角)と一致した。4つの市販の膜は、RE8040‐SHN(Woongjin Chemical(現Toray Advanced Materials Korea Inc.))、SWC4(Hydranautics、現Nittoグループ)、LG SW 400 SR及びLG SW 400 ES(LG Chemical,Ltd)であった。2つの市販のNF膜は、NE8040‐90(Woogjin Chemical)、NF4(Sepro Membranes Inc.)であった。つまり、これらの膜の芳香族ポリアミド薄膜層は完全に密ではなく、クヌーセン拡散によってガス流の通過が主に又は専ら生じる欠陥を持っている。したがって、これらの膜は、ヘリウム又は水素を、窒素、メタン、二酸化炭素などの他のガスを含む混合物から分離するのには適さない。
【0037】
表1は、ポリピロール及びポリイミド膜材料と、選択された市販の膜材料との、ヘリウム透過性及びHe/CO選択性のリストである。表1で見て取れるように、NAFION‐117膜を除き、これらの材料はHe/COの理想的選択性が一般的に低い。NAFION‐117膜は、He透過性が比較的低く、He/COの選択性に優れることで知られているため、表1中の他の膜材料の性能に対するベンチマークを提供する比較例として選択した。しかし、当業者が理解するように、NAFIONは費用がかかり過ぎ、そして水蒸気にさらされると安定性が限定されてしまう。
表1. 様々な膜材料のヘリウム透過性及びHe/CO選択性
【0038】
図7Aに示すように、ガス分離業界で普通に用いられているポリマ材料(Xは、図示のPPO(ポリフェノール酸化酵素)と、Br‐PPO(臭素化ポリフェニレンオキサイド)とを含有する一般的なガラス状ポリマ)のHe透過性及びHe/COの理想的選択性は、He/CO選択性が低い(0.2から5の範囲内)ものの、透過性は1Barrerから700Barrerの範囲である。HYFLON及びCYTOP、並びにNAFION 117(黒星印)のような少数の材料は、1991 Bobeson上限(黒星印)に沿って低下する。そのため、これらの材料でできている逆透過膜及びナノ濾過膜はHe/CO選択性に劣る。図7Bは、ポリマ材料にゴム状ポリマ及びガラス状ポリマでコーキングを施した図7Aのポリマ材料のHe/COの理想的選択性を示す。基準(Robenson 1991:黒丸、Robeson 2008:白丸)についてRobeson上限をプロットした。ゴム状ポリマでコーキングした膜を黒三角で示す。ガラス状ポリマでコーキングした膜を白星印で示す。図7Bに関して見て取れるように、膜材料の欠陥(又は細孔)をここで述べるようにガラス状ポリマでコーキングすると、これらの膜のガス選択性が大幅に増加した。
【0039】
実施例1
クロロホルム(≧99.8%、Sigma‐Aldrich)に3wt%のポリフェニレンオキシド(PPO、Sabic 6130)を溶解して溶液を作り、コーキングを施した芳香族ポリアミド複合薄膜を作成した。溶液を市販の芳香族ポリアミド薄膜複合膜(LG ChemicalのLG SW 400 SR)上にスピンコートして(3000rpm、10秒間、1mL注入)、各膜上にガラス状ポリマコーティングを形成した。このコーティングの後に、膜を溶媒の沸点よりも5℃から10℃高い温度に設定された真空オーブン内に置き、1時間乾燥させた。コーキング層の厚さは1μm未満であった。
【0040】
実施例2
実施例1で述べた方法で、クロロホルムに3wt%の臭素化ポリフェニレンオキサイド(Br‐PPO、インハウスで臭素化したPPO、臭素化度60%)を溶解し、市販の芳香族ポリアミド複合薄膜(LG ChemicalのLG SW 400 SR)上にコーティングして、コーキングを施した芳香族ポリアミド複合薄膜を調製した。
【0041】
実施例3
実施例1で述べた方法で、クロロホルムに3wt%のポリイミド(インハウス)を溶解し、市販の芳香族ポリアミド複合薄膜(LG ChemicalのLG SW 400 SR)上にコーティングして、コーキングを施した芳香族ポリアミド複合薄膜を調製した。
【0042】
実施例4
実施例1で述べた方法で、NAFION 117(低級脂肪族アルコールと水との混合物に~5wt%のSigma‐Aldrichを溶解)を市販の芳香族ポリアミド複合薄膜(LG ChemicalのLG SW 400 SR)上にコーティングして、コーキングを施した芳香族ポリアミド複合薄膜を調製した。
【0043】
実施例5
実施例1で述べた方法で、クロロホルムに3wt%のPPOを溶解し、市販の芳香族ポリアミド複合薄膜(Woongjin Chemical(現Toray Advanced Materials Korea Inc.)のRE8040‐SHN)上にコーティングして、コーキングを施した芳香族ポリアミド複合薄膜を調製した。
【0044】
実施例6
実施例1で述べた方法で、クロロホルムに3wt%のポリスルホン(PSF、UDEL P‐3500 LCD MB7、MW=77,000‐83,000g/mol、Solvay)を溶解し、市販の芳香族ポリアミド複合薄膜(LG ChemicalのLG SW 400 SR)上にコーティングして、コーキングを施した芳香族ポリアミド複合薄膜を調製した。
【0045】
実施例7
実施例1で述べた方法で、クロロホルムに3wt%のポリスルホン(PSF)を溶解し、市販の芳香族ポリアミド複合薄膜(LG ChemicalのLG SW 400 SR)上にコーティングして、コーキングを施した芳香族ポリアミド複合薄膜を調製した。
【0046】
比較例1
実施例1で述べた方法で、NAFION 117(Sigma‐Aldrich、低級脂肪族アルコールと水との混合物に~5wt%を溶解)を市販のポリアクリロニトリル限外濾過膜(Sepro MembranesのPAN 350 UF支持層)にコーティングして、比較用の膜を調製した。
【0047】
比較例2
実施例1で述べた方法で、n‐ヘキサン(97%、Sigma Aldrich)に5wt%のPDMS(Dow CorningのSYLGARD 184)を溶解し、市販の芳香族ポリアミド複合薄膜(LG ChemicalのLG SW 400 SR)上にコーティングして、比較用の膜を調製した。
【0048】
表2に示すように、NAFION複合膜(比較例1)は、33.4GPUのヘリウム透過率と、15のHe/CO選択性を示す一方、ガラス状ポリマでコーキングした薄膜複合膜は、図7Bに示す優れたH/CO選択性を示した。図8に示すシステム800を、純ガスと、0.12vol%のHe、4.4vol%のCO、28.1vol%のN、及び残余(バランス)CHを含有するガス混合物と共に用いて、膜の透過特性及び分離特性を分析した。システム800では、調圧弁804から送られた試験ガス802が、試験対象の膜を収めた膜モジュール806へ供給される。膜モジュールからの未透過物と透過物は質量流量計808及び810のそれぞれを通過した後に組み合わされて混合物となり、評価のためにガスクロマトグラフ812に提供される。純ガス透過率測定のために、作動供給圧を50psiaに維持した。ヘリウムについて理想的選択性を計算した。膜の透過率と理想的選択性を表2に示す。コーキングされた多層薄膜複合膜と比較膜との実際の分離特性を、最大400psigの作動圧において混合ガス透過試験(0.12vol%のHe、4.4vol%のCO、28.1vol%のN、及び残余CHを含有)を行って比較した。
表2. 膜の透過率及び理想的選択性
Nafion(登録商標)‐117はPAN350支持体上にコーティングされている;
CSM(RE8040‐SHN):Woongjin Chemical海水淡水化TFC RO;
LG1:LG Chemical 海水淡水化TFC RO(製品番号:LG SW 400SR)
【0049】
表2に示すように、PPOコーティングしたCSM(WoongjinのRE8040‐SHN)膜(実施例5)のヘリウム透過率は8.25GPU、He/CO理想的選択性は40.2であった。NAFION‐117、PPO、Br‐PPO(それぞれ実施例4、1、2)でコーティングされたLG SW 400 SR膜は、それぞれ32.0GPU、21.6GPU、27.6GPUのヘリウム透過率と、それぞれ23.5、45、54.1のHe/CO理想的選択性を実証した。図9Aは、透過物中ヘリウム濃度(vol%)対供給圧(psig)を示す。図9Bは、ヘリウム/二酸化炭素の分離係数(2種類のガスの透過性比)対供給圧(psig)を示す。黒星印は、PPOコーティングされたCSM Woongjin膜(実施例5)からの結果を示し、白丸は、NAFION‐117/PAN複合膜(比較例1)の結果を示す。図9A及び図9Bから見て取れるように、PPOコーティングされたCSM膜(実施例5)は、透過物中のヘリウム濃度と、二酸化炭素に対する選択性とが、NAFION‐117/PAN複合膜(比較例1)よりも高かった。
【0050】
市販の膜(CYTOP、HYFLON、ポリイミド、NAFION‐117/PAN)、並びに、ここでの実施例で述べたように調製されたコーキングを施した膜(NAFION‐117/LG1、PPO/CSM、Br‐PPO/LG1)の性能を評価するべく、Saudi Aramco Research & Development Centerが開発した「工業用膜プロセスシミュレータ(Industrial Membrane Process Simulator)」を用いて、Aspen HYSYSシミュレーション用のHYSYSプラットフォーム下でシミュレーションを実施した。
【0051】
図10は、シミュレーションのための工程フローシステム1000を示す。図10に示すように、供給ガス1002が混合器1004に提供され、続いて第1の段階の膜ユニット1006に提供される。第1の段階の膜ユニット1006における膜領域は、供給ガス中のヘリウムを90%回収するように選択されている。第1の段階の膜ユニット1006からの透過物流1008が混合器1010に提供される。透過物1012は混合器1010から加圧システム1014に提供され、その後、第2の段階の膜ユニット1016に提供される。第2の段階の膜ユニット1016における膜領域は、透過物流1018中のヘリウムの純度を最大化するように選択されている。第2の段階の膜ユニット1016からの透過物は、生成物流1018と再利用流1020に分岐される。分岐比は、生成物流1018中のヘリウム品質要件を満たすように設定される。再利用流1020は混合器1010内で透過物流1008と組み合わされ、第2の段階の膜ユニット1016からの廃棄流(reject stream)1022は、混合器1004内で供給ガス1002と組み合わされる。表3は工程シミュレーションの結果を示す。
表3. 工程シミュレーション比較
【0052】
He/CO選択性が低い市販の膜材料(CYTOP、HYFLON、ポリイミド)では、ヘリウム及び二酸化炭素の両方とも、ヘリウム及びCOがN及びCHと比べて透過性が高いために、共に膜を透過する。つまり、第1の膜ユニットからの透過物中のCO及びHeの濃度は、供給ガス中のCO及びHeの濃度よりも高い。加えて、供給ガス中のCO(4.4vol%)の分圧(又は濃度)はHe(0.12vol%)の分圧よりはるかに高いため、第1の段階における透過物流がCOリッチとなる。やがて、高いCO濃度が、少なくとも一部が可塑化効果によって、He/COの選択性をさらに低下させる。最終的に、ヘリウム純度は低下し、ヘリウムリッチ流のサイズが増大することで、第1の段階からの透過物流を第2の段階の膜ユニットへ供給するための圧縮に、より大きなエネルギーが必要となる。例えば、CYTOP膜、HYFLON膜、及びポリイミド膜の透過物流サイズは,それぞれ、6.1MMSCFD、5.9MMSCFD、及び5.7MMSCFDである。加えて、CYTOP膜、HYFLON膜、ポリイミド膜に高い圧縮動力(25MW超)が必要であった。ここに述べるように製造されたPPO‐CSM複合膜及びBr‐PPO LG1複合膜は、窒素、メタン、及びCOに対するよりも、ヘリウムに対して高い選択性を実証している。ヘリウムがこれらの膜を選択的に透過し、その結果、低圧縮動力(それぞれ9.9MW及び8.5MW)で、小さいヘリウムリッチ流サイズ(0.7MMSCFD)と高濃度のヘリウム(それぞれ85vol%及び86vol%)をもたらす。
【0053】
[定義]
範囲形式で表した値は、その範囲の限度として明記された数値を含むだけでなく、さらにその範囲に包含されている全ての個々の数値、又は下位範囲を、あたかも各々の数値及び下位範囲が明示されているかのように含まれるように柔軟に解釈するものとする。例えば、「約0.1%から約5%」の範囲又は「約0.1%から5%」の範囲は、まさしく約0.1%から約5%を含むだけさけではなく、表示された範囲内の個々の値(例えば、1%、2%、3%、4%)及び下位範囲(例えば、0.1%から0.5%、1.1%から2.2%、3.3%から4.4%)も含むものと解釈するものとする。「約XからY」との記載は、特に指示のない限り、「約Xから約Y」と同じ意味を持つ。同様に、「約X、Y、又は約Z」との記載は、特に指示のない限り、「約X、約Y、又は約Z」と同じ意味を持つ。
【0054】
本明細書中で、用語「a」、「an」、又は「the」は、文中に明確な指示がない限り、1つ又は1つ以上を含むように用いられる。用語「or」は、特に指示がない限り、非排他的な「or」を意味するように用いられる。「A及びBのうちの少なくとも1つ(一方)」との記載は、「A、B、又は、A及びB」と同じ意味を持つ。加えて、言うまでもなく、特別に定義されていない語法又は専門用語は専ら説明を目的とし、限定を目的としてはいない。いかなる項目見出しの使用も本明細書の読解を補助することを意図しており、限定として解釈されるべきでなく、その特定の項目の内外に項目見出しに関連した情報が含まれてよい。カンマを、小数点の左又は右に、区切り記号又は桁グループセパレータとして用いることができ、例えば、「0.000,1」は「0.0001」と同等である。本明細書中で参照する全ての刊行物、特許、特許文書は、あたかもそれぞれが参照によって援用されているかのように、その全体が本明細書中に援用される。本明細書と上記のように参照により援用された文書との間の使用が一致しない場合には、援用された参照での使用法は、本明細書の使用法の補助とみなすこととし、調和しない不一致については、本明細書中の使用法が優先する。
【0055】
記載の方法において、時間的又は操作順序が明記されている場合を除き、操作はあらゆる順序で実施できる。さらに、明記された操作はそれらの操作を個別に実施するよう特許請求の範囲の言語で明示されている場合を除き、同時に実施できる。例えば、Xを行う請求操作とYを行う請求操作を1つの操作で同時に実施する場合、それによる工程は文字通りの請求された工程の範囲に収まる。
【0056】
用語「約」は、値又は範囲における或る度合の変動を許容でき、例えば、記載された値の、又は記載された範囲限度の10%以内、5%以内、又は1%以内の変動を許容できる。
[第1の局面]
ガス分離膜であって:
多孔質支持層と;
界面重合を介して前記多孔質支持層上に形成される芳香族ポリアミド層と;
前記芳香族ポリアミド層上に形成されるガラス状ポリマを備えるコーティングであって 、前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は50℃を超える、前記コーティングと;を備え る、
ガス分離膜。
[第2の局面]
前記ガラス状ポリマは、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニルスルホン 、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ニトロセルロース、セルロースジ アセテート、セルローストリアセテート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フェニレン サルファイド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、 ポリアクリルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポ リカーボネート、ポリビニルトリメチルシラン、ポリトリメチルシリルプロピン(pol ytrimethylsilylpropyne)、ポリ(エーテルイミド)、ポリ(エ ーテルスルホン)、ポリオキサジアゾール、ポリ(フェニレンオキシド)、又は、これら の組み合わせ若しくは共重合体、を備える、
第1の局面に記載の膜。
[第3の局面]
前記ガラス状ポリマは、官能基化されている、
第2の局面に記載の膜。
[第4の局面]
前記ガラス状ポリマは、スルホン化又はハロゲン化されている、
第3の局面に記載の膜。
[第5の局面]
前記ガラス状ポリマは、臭素化されている、
第4の局面に記載の膜。
[第6の局面]
前記ガラス状ポリマは、臭素化ポリイミド、臭素化ポリスルホン、及び臭素化ポリ(フ ェニレンオキシド)のうちの少なくとも1つを備える、
第5の局面に記載の膜。
[第7の局面]
前記膜のヘリウム/二酸化炭素の理想的選択性は、20から70である、
第1の局面に記載の膜。
[第8の局面]
前記膜のヘリウム/窒素の理想的選択性は、70よりも高い、
第1の局面に記載の膜。
[第9の局面]
前記膜のヘリウム/メタンの理想的選択性は、70よりも高い、
第1の局面に記載の膜。
[第10の局面]
前記膜のヘリウム透過率は、作動供給圧50psiaにて、5と150GPU(10 cm (STP)/cm /sec/cmHg)との間である、
第1の局面に記載の膜。
[第11の局面]
ガス分離膜の形成方法であって:
ガラス状ポリマを備える溶液を、複合膜の芳香族ポリアミド層と接触させるステップと
前記複合膜の前記芳香族ポリアミド層上に前記ガラス状ポリマのコーティングを形成す るために、前記溶液を乾燥させるステップと;を備え、
前記芳香族ポリアミド層は、界面重合によって形成され、
前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は、50℃よりも高い、
ガス分離膜の形成方法。
[第12の局面]
前記溶液を得るために、前記ガラス状ポリマを溶媒中に溶解させるステップ;を備える
第11の局面に記載の方法。
[第13の局面]
前記溶媒は、クロロホルムを備える、
第12の局面に記載の方法。
[第14の局面]
前記ガラス状ポリマは、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニルスルホン 、ポリアミド、ポリスルホン、ポリフェニルエーテル、ニトロセルロース、セルロースジ アセテート、セルローストリアセテート、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(フェニレン サルファイド)、ポリ(塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、 ポリアクリルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポ リカーボネート、ポリビニルトリメチルシラン、ポリトリメチルシリルプロピン(pol ytrimethylsilylpropyne)、ポリ(エーテルイミド)、ポリ(エ ーテルスルホン)、ポリオキサジアゾール、ポリ(フェニレンオキシド)、又は、これら の共重合体、を備える、
第11の局面に記載の方法。
[第15の局面]
前記溶液を、前記芳香族ポリアミド層と接触させる前記ステップは:
前記芳香族ポリアミド層上に前記溶液をスロットダイコーティング、スピンコーティン グ、ディップコーティング、又はスプレーコーティングするステップ;を備える、
第11の局面に記載の方法。
[第16の局面]
ガス分離方法であって:
透過物流及び廃棄流を得るために、二酸化炭素と、ヘリウム及び水素のうちの少なくと も一方とを備えるガス供給流を、ガス分離膜と接触させるステップ;を備え、
前記透過物流中のヘリウム又は水素の濃度は、前記ガス供給流中のヘリウム又は水素の 濃度のそれぞれよりも高く、
前記ガス分離膜は:
多孔質支持層と;
界面重合によって前記多孔質支持層上に形成される芳香族ポリアミド層と;
前記芳香族ポリアミド層上に形成されるガラス状ポリマを備えるコーティングであって 、前記ガラス状ポリマのガラス転移温度は50℃よりも高い、前記コーティングと;を備 える、
ガス分離方法。
[第17の局面]
前記ガス供給流は、少なくとも100vol ppmのヘリウム、水素、又は、これら の組み合わせを備える、
第16の局面に記載の方法。
[第18の局面]
前記ガス供給流は、最大で90vol%のヘリウム、水素、又はこれらの組み合わせを 備える、
第16の局面に記載の方法。
[第19の局面]
前記透過物流は、ガス混合物中の少なくとも90vol%のヘリウム、前記ガス混合物 中の少なくとも90vol%のヘリウム、又は、その両方を備える、
第16の局面に記載の方法。
[第20の局面]
生成物流は、少なくとも85vol%のヘリウム、少なくとも85vol%の水素、又 は少なくとも85vol%のヘリウムと水素の組み合わせを備える、
第16の局面に記載の方法。
【符号の説明】
【0057】
100 多層芳香族ポリアミド薄膜複合膜
102、202 供給側
104、204 透過側
106、206 ガラス状ポリマコーティング
108、208 芳香族ポリアミド層
110、210 多孔質支持体
112 多孔質基体
200 中空糸膜
300 渦巻形モジュール
302 スペーサ
304 第1の端部
306 第2の端部
308 中央開口
400 中空糸膜モジュール
402 ハウジング
404 中空糸膜
406 入口
408 出口
410 出口
800 システム
802 試験ガス
804 調圧弁
806 膜モジュール
808、810 質量流量計
812 ガスクロマトグラフ
1000 工程フローシステム
1002 供給ガス
1004 混合器
1006 膜ユニット
1008 透過物流
1010 混合器
1012 透過物
1014 加圧システム
1016 膜ユニット
1018 生成物流
1020 再利用流
1022 廃棄流
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10