IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シュアー アクイジッション ホールディングス インコーポレイテッドの特許一覧

特許7150813二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器
<>
  • 特許-二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器 図1
  • 特許-二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器 図2
  • 特許-二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器 図3
  • 特許-二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器 図4
  • 特許-二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器 図5
  • 特許-二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器 図6
  • 特許-二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】二次ポート付きのムービングコイル型マイクロホン変換器
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/08 20060101AFI20221003BHJP
   H04R 9/02 20060101ALI20221003BHJP
   H04R 1/22 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H04R9/08
H04R9/02
H04R1/22 320
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2020502275
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 US2018042727
(87)【国際公開番号】W WO2019018549
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】15/653,217
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504189151
【氏名又は名称】シュアー アクイジッション ホールディングス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SHURE ACQUISITION HOLDINGS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】グリニップ ザ サード ロジャー スティーブン
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-012349(JP,A)
【文献】実開昭61-050398(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/08
H04R 9/02
H04R 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロホン変換器であって、
ハウジングを有し、
前記ハウジング内に支持されていて内部音響空間を備えた第1の変換器組立体を有し、前記第1の変換器組立体は、磁石組立体、前記磁石組立体に隣接して設けられていて前面および後面を備えた第1のダイヤフラム、および前記第1のダイヤフラムの前記後面に取り付けられていて前記前面に当たる音響波に応答して前記磁石組立体に対して動くことができるコイルを含み、
前記内部音響空間と前記ハウジング内に少なくとも部分的に設けられた外部空所との音響連絡関係を確立する一次ポートを有し、
前記第1のダイヤフラムの前記前面のところに配置された二次ポートを有し、
前記第1の変換器組立体と音響連絡関係をなしている第2の変換器組立体を有する、マイクロホン変換器。
【請求項2】
前記二次ポートは、前記二次ポートと関連した外部音響遅延が実質的にゼロに等しいよう前記第1のダイヤフラムの前面の中央のところに配置されている、請求項1記載のマイクロホン変換器。
【請求項3】
前記二次ポートは、前記第1のダイヤフラムを貫通した少なくとも1つの孔で作られている、請求項1記載のマイクロホン変換器。
【請求項4】
前記二次ポートは、前記第1のダイヤフラム材料中にパターン付けされた複数の孔で作られている、請求項1記載のマイクロホン変換器。
【請求項5】
前記二次ポートは、前記第1のダイヤフラムの前記少なくとも1つの孔を覆う有孔材料で作られている、請求項3記載のマイクロホン変換器。
【請求項6】
前記二次ポートは、実質的に前記一次ポートに平行に配置されている、請求項1記載のマイクロホン変換器。
【請求項7】
前記一次ポートは、前記第1のダイヤフラムの弾性ブリムの下に配置されている、請求項6記載のマイクロホン変換器。
【請求項8】
前記一次ポートは、前記磁石組立体の頂部分に設けられた孔である、請求項7記載のマイクロホン変換器。
【請求項9】
前記一次ポートと関連した音響抵抗は、前記第1のダイヤフラムの臨界減衰抵抗よりも大きい、請求項1記載のマイクロホン変換器。
【請求項10】
前記第2の変換器組立体は、前記第1の変換器組立体の前記内部音響空間内に配置されている、請求項1記載のマイクロホン変換器。
【請求項11】
前記第2の変換器組立体は、第2の磁石組立体、前記第2の磁石組立体に隣接して設けられた第2のダイヤフラム、前記第2のダイヤフラムの後面に取り付けられていて前記第2のダイヤフラムの前面に当たった音響波に応答して前記第2の磁石組立体に対して動くことができる第2のコイル、および前記第2のダイヤフラムの前記前面のところに配置された第2の二次ポートを含む、請求項10記載のマイクロホン変換器。
【請求項12】
マイクロホンのためのムービングコイル型変換器組立体であって、前記変換器組立体は、
磁石組立体を含み、
前記磁石組立体に隣接して設けられたダイヤフラムを含み、前記ダイヤフラムは、前面および後面を有し、
前記後面に取り付けられていて前記前面に当たった音響波に応答して前記磁石組立体の磁界と相互作用することができるコイルを含み、
前記ダイヤフラムの前記後面に隣接して設けられた第1の音響経路を含み、
前記ダイヤフラムの前記前面を貫通した第2の音響経路を含み、
前記第1の音響経路と関連した音響抵抗は、前記ダイヤフラムの臨界減衰抵抗よりも大きい、ムービングコイル型変換器組立体。
【請求項13】
前記第2の音響経路は、前記第2の音響経路と関連した外部音響遅延が実質的にゼロに等しいよう前記ダイヤフラムの中心軸線に沿って配置されている、請求項12記載のムービングコイル型変換器組立体。
【請求項14】
前記第2の音響経路は、前記ダイヤフラムの前記前面および前記後面を貫通した少なくとも1つの孔によって形成されている、請求項12記載のムービングコイル型変換器組立体。
【請求項15】
前記少なくとも1つの孔は、前記第2の音響経路のための音響流れ抵抗を生じさせるよう前記ダイヤフラムの材料中にパターン付けされた複数の孔を含む、請求項14記載のムービングコイル型変換器組立体。
【請求項16】
有孔材料が前記第2の音響経路のための音響流れ抵抗を生じさせるよう前記ダイヤフラムの前記少なくとも1つの孔を覆って設けられている、請求項14記載のムービングコイル型変換器組立体。
【請求項17】
前記第2の音響経路は、実質的に前記第1の音響経路に平行に設けられている、請求項12記載のムービングコイル型変換器組立体。
【請求項18】
前記第1の音響経路は、前記ダイヤフラムの弾性ブリムの下に配置されている、請求項17記載のムービングコイル型変換器組立体。
【請求項19】
マイクロホンであって、
マイクロホン本体を有し、
前記マイクロホン本体内に設けられていて内部音響容積部を備えた第1の変換器組立体を有し、前記第1の変換器組立体は、第1のダイヤフラムを含み、
前記第1の変換器組立体の外部に配置された外部音響容積部を有し、前記外部音響容積部は、前記内部音響容積部と音響連絡関係をなしており、
前記第1の変換器組立体の前記内部音響容積部内に配置された第2の変換器組立体をさらに有し、前記第2の変換器組立体は、第2のダイヤフラムであって、前記第2のダイヤフラムの前面を貫通して設けられた1つまたは2つ以上の第2の孔を有する第2のダイヤフラムを含む、マイクロホン。
【請求項20】
前記第1の変換器組立体は、前記外部音響容積部と前記内部音響容積部との音響連絡関係を確立するための一次チューニングポートをさらに含む、請求項19記載のマイクロホン。
【請求項21】
前記第1の変換器組立体は、前記第1のダイアフラムの前面を貫通して設けられた少なくとも1つの孔をさらに含む、請求項20記載のマイクロホン。
【請求項22】
前記一次チューニングポートと関連して音響抵抗は、前記第1のダイヤフラムの臨界減衰抵抗よりも大きい、請求項21記載のマイクロホン。
【請求項23】
前記一次チューニングポートによって形成された第1の音響経路および前記1つまたはそれ以上の第2の孔によって形成された第2の音響経路は、実質的に前記第1のダイヤフラムの中心軸線に平行に設けられている、請求項21記載のマイクロホン。
【請求項24】
前記1つまたはそれ以上の第2の孔は、前記1つまたはそれ以上の第2の孔と関連した外部音響遅延が実質的にゼロに等しいよう前記第2のダイヤフラムの中央を貫通して設けられている、請求項20記載のマイクロホン。
【請求項25】
前記1つまたはそれ以上の第2の孔は、前記第2のダイヤフラムの前記中央を通る音響流れ抵抗を生じさせるよう構成された複数の孔を含む、請求項24記載のマイクロホン。
【請求項26】
前記1つまたはそれ以上の第2の孔は、前記第2のダイヤフラムの前記中央を通る音響流れ抵抗を生じさせるよう構成された有孔材料によって覆われている、請求項24記載のマイクロホン。
【請求項27】
前記一次チューニングポートと関連した音響抵抗は、前記第1のダイヤフラムの臨界減衰抵抗よりも小さい、請求項20記載のマイクロホン。
【請求項28】
前記少なくとも1つの孔は、前記少なくとも1つの孔と関連した外部音響遅延が実質的にゼロに等しいよう前記第1のダイヤフラムの中央を貫通して設けられている、請求項21記載のマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、一般に、ダイナミックマイクロホンに関する。特に、本願は、ムービングコイル型マイクロホン変換器の内部音響容積部を最小限に抑えることに関する。
【0002】
〔関連出願の参照〕
本願は、2017年7月18日に出願された米国特許出願第15/653,217号の権益主張出願であり、この米国特許出願を参照により引用し、その記載内容全体を本明細書の一部とする。
【背景技術】
【0003】
幾つかの形式のマイクロホンおよび関連変換器、例えば、ダイナミック、クリスタル、コンデンサ/キャパシタ(外部付勢型およびエレクトレット型)などが存在し、これらは、種々の極性応答パターン(カージオイド、スーパーカージオイド、無指向性など)を備えた状態で設計される場合がある。各形式のマイクロホンは、用途に応じてその利点および欠点を有する。
【0004】
ダイナミックマイクロホン(ムービングコイル型マイクロホンを含む)の一利点は、これらダイナミックマイクロホンが受動型装置デバイスであり、従って作動するのに能動型回路、外部電力、またはバッテリを必要としないということにある。また、ダイナミックマイクロホンは、一般に、堅牢でありまたは頑丈であり、比較的安価であり、しかも水分/湿度の問題の受けやすさが小さく、しかもかかるダイナミックマイクロホンは、音声フィードバック問題を引き起こす前に潜在的に高い利得を示す。これら属性により、ダイナミックマイクロホンは、オンステージユース(舞台上での使用)にとって理想的でありしかも例えば、クローズアップボーカル、ある特定の楽器(例えば、キックドラムおよび他のパーカッション楽器)、および増幅器(例えば、ギター増幅器)からの高い音圧を取り扱うのに好適である。
【0005】
しかしながら、ダイナミックマイクロホンカプセルは、典型的には、例えば、コンデンサマイクロホンよりも大型である。これは、ダイナミックマイクロホンが典型的には、大きな音響コンプライアンスを採用しまたはダイヤフラムの後ろに広い内部空洞C1を採用しているからである。空洞が広いと、ダイナミック変換器の全体的軸方向長さが増大する傾向があり、それにより全体的カプセルサイズが増大するとともにマイクロホンの有効フォームファクタおよび実用的用途が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、とりわけプロフェッショナルレベルのダイナミックマイクロホン性能を犠牲にしないで向上したフォームファクタを提供するダイナミック型マイクロホン変換器が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、とりわけ、能動ダイヤフラムポートおよび能動ダイヤフラムポートと並列に位置決めされかつ能動ダイヤフラムポートに対してゼロの音響遅延をもたらすよう構成された二次ポートを有するムービングコイル型マイクロホン変換器を提供することによって上述の問題および他の問題を解決するようになっている。この構成は、内部音響コンプライアンス要件を満たすよう外部音響容積部を効果的に用い、それにより変換器の内部空洞容積の最小限化を可能にする。
【0008】
例えば、一実施形態は、ハウジングと、ハウジング内に支持されていて内部音響空間を備えた変換器組立体とを有するマイクロホン変換器を含む。変換器組立体は、磁石組立体と、磁石組立体に隣接して設けられていて前面および後面を備えたダイヤフラムと、ダイヤフラムの後面に取り付けられていて前面に当たる音響波に応答して磁石組立体に対して動くことができるコイルとを含む。変換器組立体は、内部音響空間とハウジング内に少なくとも部分的に設けられた外部空所との音響連絡関係を確立する一次ポートと、ダイヤフラムの前面のところに配置された二次ポートとをさらに含む。
【0009】
別の例示の実施形態は、マイクロホンのためのムービングコイル型変換器組立体を含む。変換器組立体は、磁石組立体と、磁石組立体に連結して設けられたダイヤフラムとを含み、ダイヤフラムは、前面および後面を有する。変換器組立体は、後面に取り付けられていて前面に当たった音響波に応答して磁石組立体の磁界と相互作用することができるコイルをさらに含む。変換器組立体は、ダイヤフラムの後面に隣接して設けられた第1の音響経路と、ダイヤフラムの前面を貫通した第2の音響経路とをさらに含む。
【0010】
別の例示の実施形態は、マイクロホン本体と、マイクロホン本体内に設けられていて内部音響容積部を備えた変換器組立体とを有するマイクロホンを含む。変換器組立体は、ダイヤフラムを含み、ダイヤフラムは、ダイヤフラムの前面を貫通して設けられた少なくとも1つの孔を有する。マイクロホンは、第1の変換器組立体の外部に配置された外部音響容積部をさらに有し、外部音響容積部は、内部音響容積部と音響連絡関係をなしている。
【0011】
これらの実施形態および他の実施形態、ならびに種々の交換および観点は、明らかであり、以下の詳細な説明および添付の図面から十分に理解され、添付の図面は、本発明の原理を採用することができる種々の仕方を表す例示の実施形態を記載している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来のムービング型コイルマイクロホン変換器組立体の全体的トポロジーを示す略図である。
図2】1つまたは2つ以上の実施形態に係る例示のムービングコイル型マイクロホン変換器組立体の全体的トポロジーを示す略図である。
図3】1つまたは2つ以上の実施形態に係る例示のムービングコイル型マイクロホン変換器の断面立面図である。
図4図3に示されたムービングコイル型マイクロホン変換器の断面斜視図である。
図5】1つまたは2つ以上の実施形態に従ってマイクロホン本体の一部分内に設けられた図3および図4に示されているムービングコイル型マイクロホン変換器の断面斜視図である。
図6】1つまたは2つ以上の実施形態に係る例示のダイヤフラムの斜視図である。
図7】1つまたは2つ以上の実施形態に係るムービングコイル型マイクロホン変換器の断面立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の明細書は、本発明の原理に従って本発明の1つまたは2つ以上の特定の実施形態を説明し、図示し、そして例示している。本明細書は、本発明を本明細書に記載した実施形態に限定するために設けられているのではなく、これとは異なり、当業者が本発明の原理を理解し、そしてその理解によりこれら原理を本明細書において説明した実施形態を実施するだけでなく、これら原理に従って想到できる他の実施形態にも利用することができるような仕方で原理を説明するとともに教示するために設けられている。本発明の範囲は、文言上または均等論に基づいて添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲に属することができるかかる全ての実施形態を含むものである。
【0014】
注目されるべきこととして、本明細書および図面において、同一または実質的にほぼ同じ要素は、同一の参照符号で示される場合がある。しかしながら、場合によっては、これら要素は、例えば、ラベル表示がより明確な説明を容易にする場合には異なる符号でラベル表示される場合がある。加うるに、本明細書において説明する図面は、必ずしも縮尺通りにはなっておらず、幾つかの場合、比率はある特定の特徴を明確に示すために誇張されている場合がある。かかるラベル表示および図面に関する実務は、必ずしも、根源的な実体的目的を意味しているわけではない。上述したように、明細書は、本明細書において教示されるとともに当業者に理解されるように本発明の原理に従って全体として受け取られて解釈されることが意図されている。
【0015】
図1は、典型的なまたは従来のムービングコイル型マイクロホン変換器10のトポロジーを示しており、このトポロジーは、本明細書において説明するとともに図2に示された技術に従って設計されているムービングコイル型マイクロホン変換器20のトポロジーとの比較のために示されている。図1に示されているように、従来型変換器10は、長さl1を備えた空洞14の形態をしたダイヤフラム12の後ろに定められた音響コンプライアンスC1を有する。変換器の外部音響遅延d1は、ダイヤフラム12の前面とダイヤフラム12の後ろにまたは後部に位置決めされた抵抗R1で表された一次チューニングポート16との間の距離によって規定される。ポート16(「能動ダイヤフラムポート」または「リヤポート」とも呼ばれている)は、内部空洞容積部C1と変換器10のハウジング18を包囲している外部容積部との音響連絡関係を確立する。変換器10の後部からの音波の捕捉を表す音響流れ(または経路)は、一次ポート16を経て音響空洞14に入る点線19によって図1に示されている。
【0016】
空洞コンプライアンスC1に関する値、または内部空洞14のサイズは、一次ポート抵抗R1(「ダイヤフラムチューニング抵抗」または「リヤポート抵抗」とも呼ばれている)および外部音響遅延d1で決まる。典型的な方向性ムービングコイル変換器は、比較的大きなダイヤフラムを有しているので、ダイヤフラムの前面の端から端までの距離もまた大きく、かくして大きな外部音響遅延d1が生じる。大きな外部音響遅延d1は、対応の内部音響遅延によって無効とされ、この対応の内部音響遅延は、外部遅延d1を期待する方向から近づく音波を打ち消すための位相シフトを生じさせるよう設計されている。内部音響遅延は、変換器の内部空洞容積と関連して働くダイヤフラムチューニング抵抗R1によって作られる。特に、内部音響遅延を大きく作るには、内部空洞容積または空洞コンプライアンスC1を高い値に設定するとともにチューニング抵抗R1を低い値に設定するのが良い。ダイヤフラムチューニング抵抗R1は、変換器の以下の2つの特性のために低い値に設定される。第1に、ダイヤフラムチューニング抵抗R1がダイヤフラム容積部速度と直列であると仮定すると、抵抗R1は、代表的には、ダイヤフラム運動を臨界的に減衰させるためにはダイヤフラム/コイルシステムの臨界減衰抵抗Rdに等しい値に設定される。第2に、この臨界減衰抵抗Rdは、ムービングコイル型マイクロホン変換器が音声帯域幅全体(例えば、20ヘルツ(Hz)≦f≦20キロヘルツ(kHz))を再現するためには非常に低い値に設定されなければならない。
【0017】
かくして、従来のムービングコイル型マイクロホン変換器では、変換器の帯域幅を向上させる(例えば、低いカットオフ周波数をシフトダウンさせる)ためには、ダイヤフラムチューニング抵抗R1をRdまで減少させなければならず、しかも空洞コンプライアンスC1をそれに従って増大させなければならない。その結果、典型的な方向性ムービングコイル型マイクロホン変換器10の内部空洞容積は、比較的大きく、それにより、図1に示されているように変換器10の全体的軸方向長さl1が増大する傾向がある。この形態は、従来のムービングコイル型マイクロホン変換器にとっては有効フォームファクタおよび用途を制限する。
【0018】
比較上、図2は、ムービングコイル型マイクロホン変換器20(本明細書では「変換器組立体」ともいう)を示し、このムービングコイル型マイクロホン変換器20は、図1に示されたダイヤフラム12およびリヤポート16に加えて、諸実施形態に従ってダイヤフラム12の前面のところに配置された二次チューニングポート22を含む。抵抗Rfで表された二次ポート22は、図2の第2の点線24によって示されているようにダイアやフラム12の前部を貫通しかつ中心軸線に沿う第2の音響流れ(または経路)を導入しまたは提供する。加うるに、二次ポート22は、一次ポート16に実質的に平行に位置決めされる。かくして、ポート22,16は、変換器20内の2つの平行な音響分岐部または経路(すなわち、各ポートを貫通した1つの経路)を形成し、変換器20のダイヤフラム12で分かるように全直列抵抗は、R1∥Rf、または2つの音響分岐部を通る並列等価抵抗(すなわち、Rf・R1/(Rf+R1))に等しい。
【0019】
諸実施形態では、変換器20に対する全直列抵抗は、図1の変換器10と同様に、ダイヤフラム運動を臨界的に減衰させるためにダイヤフラム/コイルシステムの臨界減衰抵抗Rd(すなわち、Rd=R1∥Rf)に等しく設定される。しかしながら、方向性条件が抵抗Rfの値によって影響を受けないと仮定すると、変換器10のダイヤフラムチューニング抵抗R1は、変換器10とは異なり、臨界減衰抵抗Rdから切り離されるのが良い(例えば、これと等しい必要はない)。例えば、方程式Rd=R1∥Rfが満たされる限り、変換器20は、たとえR1をRd超に増大させた場合であっても、内部音響コンプライアンス要件を依然として満たすことになる。かくして、並列ポート抵抗について適当な値を選択することによって、抵抗R1の値を低く設定した臨界減衰抵抗Rdよりも大きな値まで増大させることができる。
【0020】
諸実施形態では、変換器20のダイヤフラムチューニング抵抗R1を大きい値に増大させ、それによりダイヤフラムチューニング抵抗と内部空洞容積との上述の反比例関係に起因して、空洞コンプライアンスC2の減少を可能にしまたは内部空洞26のサイズを小さくすることができる。図2に示されているように、小さな内部空洞容積C2を達成するには、ダイヤフラム12の後ろに形成された空洞26に関して小さな長さl2(例えば、図1の長さl1と比較して)を選択するのが良い。このように、ポート22の追加により、内部空洞26を最小限に抑えることができ、かくしてマイクロホン変換器20の全体的フォームファクタが減少する。加うるに、二次ポート22の存在により、マイクロホン変換器20に関するカットオフ周波数を低くするのを助けることができ、と言うのは、ダイヤフラムチューニング抵抗R1を臨界減衰抵抗R1のレベルまで下降させる必要がないからである。
【0021】
諸実施形態では、減少したコンプライアンスC2が変換器20の帯域幅および方向性(例えば、極性パターン)に悪影響を及ぼすのを阻止するため、マイクロホン変換器20は、外部音響遅延d1が不変のままであるように構成される。これを達成するには、音響波の追加の外部遅延を導入させない二次ポート22に関する位置をダイヤフラム22に対して(すなわち、d1に加えて)選択するのが良い。例えば、図2では、二次ポート22またはこれにより形成された並列音響分岐部は、ダイヤフラム12の前面の中央と同一場所に配置されまたはこれを貫通して同一場所に配置され(例えば、ダイヤフラム12の中心軸線上に)、その結果、ダイヤフラム12の前面と二次ポート22との間の距離によって定められる第2の外部音響遅延d2は、ゼロである(すなわち、d2=0)。作動中、並列音響経路の配置場所に起因して、変換器20は、小さな空洞26にもかかわらず、内部音響コンプライアンス要件を満たすようハウジング18の外部の容積を有効利用することができる。すなわち、変換器20は、マイクロホン動作を実施するため、内部音響容積部26と関連して外部音響容積部を使用する。
【0022】
かくして、本明細書において説明する技術は、基本的なマイクロホン動作(すなわち、帯域幅および方向性に悪影響を及ぼさないで)ダイヤフラムチューニング抵抗R1および内部空洞コンプライアンスC2を調節することができるムービングコイル型マイクロホン変換器20を提供する。幾つかの場合、内部空洞26が最小限に抑えられ、その結果、マイクロホンカプセルは、高い音圧レベル(SPL)用途(例えば、ギター増幅器、パーカッションなど)について低プロフィールおよび全体的質量を有することができる。他の場合、内部空洞容積部C2を調節すると、所望の極性パターン(例えば、一方向性、無指向性、カージオイドなど)を得ることができる。いずれの場合においても、空洞コンプライアンスC2パラメータの調節は、マイクロホン変換器20に関してチューニングイナータンスL1および/または外部遅延d1を調節することによって少なくとも部分的に達成できる。
【0023】
諸実施形態では、二次ポート22をマイクロホン変換器20に追加することにより、内部空洞容積C2を増大させずに低カットオフ周波数(例えば、fL=110Hz)を減少させて却下域を回復させることによって、従来設計の変換器よりも性能を著しく向上させることができる。しかしながら、マイクロホン変換器20の音響感度(例えば、f=1kHz)は、二次ポート22の存在および/または減少した内部空洞容積C2によって影響を受ける場合がある。特に、マイクロホン感度は、予想される利得係数Gだけ減少する場合があり、この場合、G=Rd/R1である。例示の一実施形態では、二次ポート22は、低いかつ高い周波数応答を維持しながら中帯域周波数応答の減少を引き起こす。低い中帯域感度にもかかわらず、マイクロホン変換器20の全体出力のバランスを一層取ることができ、ある特定の用途については、適当なレベルを優に超える。適当なレベル以上である。例えば、減少した感度は、高音圧レベル(SPL)用途(例えば、ギター増幅器、パーカッションなど)または近接状況(例えば、ボーカルなど)あるいは増幅を使用することができる場合、問題にならないと言える。幾つかの場合、低いマイクロホン感度を外部手段、例えば、アクティブ増幅器、最適化磁石回路によって補償することができる。
【0024】
諸実施形態では、二次ポート22をダイヤフラム12に追加することによっては、少なくとも分岐抵抗RfがダイヤフラムインピーダンスZmと並列に配置されるので、変換器20の低インピーダンス特性は、変化しない。その結果、ダイヤフラム12によって分かる全等価インピーダンスは、Rf∥Zmに等しく(すなわち、Rf・Zm/(Rf+Zm))、これは、この方程式が並列分岐抵抗Rfによって支配されるので低い値のままである。上述したように、並列分岐抵抗Rfは、変換器20に関する全直列抵抗を臨界減衰抵抗Rdに等しくまたはこれよりも低く依然として保ちながら(すなわち、Rd=R1∥Rf)、ダイヤフラムチューニング抵抗R1を臨界減衰抵抗Rdよりも大きく増大させることができるよう選択されるのが良い。幾つかの実施形態では、並列分岐抵抗Rfは、臨界減衰抵抗Rdよりも大きい(すなわち、過剰減衰効果を生じさせる)よう選択され、その結果、ダイヤフラム12への二次ポート22の追加により、一方向性ムービングコイル型マイクロホン変換器の音響設計が一方向性コンデンサ型変換器の音響設計に合わせて効果的に単純化される。他の実施形態では、並列分岐抵抗Rfは、例えば、減衰不足効果が望まれるマイクロホン用途では(例えば、キックドラム型マイクロホンの場合)臨界減衰抵抗Rdよりも小さいように選択される。さらに他の実施形態では、並列分岐抵抗Rfは、非隔離型アクティブ変換器に本来的にマッチングされるアクティブ振動打ち消しが得られるよう(例えば、加速度計を用いて)隔離型変換器をもたらすために臨界減衰抵抗Rdに等しく選択される。
【0025】
次に図3図5を参照すると、幾つかの実施形態に係る例示のムービングコイル型マイクロホン変換器30の断面図が示されている。図示のように、変換器30は、ハウジング32および音響波を受け入れるようハウジング32内に支持された変換器組立体40を有する。図3および図4では、ハウジング32およびダイヤフラム42を含むマイクロホン変換器30の諸部分が例示目的で透けて見える状態で示されている。諸実施形態では、ハウジング32は、マイクロホン変換器30を包囲するとともに図5に部分的に示されている大きなマイクロホン本体34に結合したマイクロホンカプセルの全てまたは一部をなすのが良い。また、諸実施形態では、変換器組立体40は、図2に示されたマイクロホン変換器20と少なくともトポロジー的にほぼ同じであり、この変換器組立体は、上述のマイクロホン変換器20と同一のまたはほぼ同じ機能性および利点を有する。ある特定の実施形態では、マイクロホン変換器30は、一方向性マイクロホン動作向きに構成されている。他の実施形態では、マイクロホン変換器30は、他の動作モード(カージオイド、無指向性など)向きに構成可能である。
【0026】
変換器組立体40は、磁石組立体41および磁石組立体41に隣接して設けられたダイヤフラム42を含む。ダイヤフラム42は、ハウジング32の前側内面に隣接して設けられた前面43および磁石組立体41に隣接して設けられた反対側の後面44を有する。ダイヤフラム42の前面43は、音響波をこれに当てさせるよう構成されている。ダイヤフラム42の後面44は、取り付け箇所46のところでコイル45に連結されまたは取り付けられている。図示のように、コイル45は、ダイヤフラム取り付け箇所46から吊り下げられ、そして磁石組立体41の側部に触れることなく磁石組立体41中に延びている。コイル45は、ダイヤフラム42の前面43に当たった音響波に応答して磁石組立体41の磁界と相互作用することができるようにするためにこのように変換器組立体40内に位置している。
【0027】
変換器組立体40は、内部音響空間47を備え、この変換器組立体は、内部音響空間47と変換器組立体40の外部に配置された外部空洞50との音響連絡関係を確立しまたは容易にするための少なくとも1つの空気通路またはポート48を含む。図示のように、外部空洞50は、ハウジング32と変換器組立体40との間に作られた音響空間または容積部を有する。外部空洞50は、ハウジング32の外部に配置された音響空間またはマイクロホン変換器30を包囲した空間をさらに有するのが良い。図示のように、音響ポート48は、ダイヤフラム42の外側ブリム(つば)部分51の下にまたはダイヤフラム42の後面44に隣接して形成されている。ダイヤフラムブリム51の外縁は、磁石組立体41および/またはハウジング32の頂部に取り付けられ、他方、ダイヤフラムブリム51の内縁は、コイル45に取り付けられ、かくしてダイヤフラム42のブリム部分51の下に容積部が作られている。諸実施形態では、音響ポート48(本明細書では「一次チューニングポート」とも呼ばれる)は、マイクロホン変換器30の方向性をチューニングするための位相遅延ネットワークの全てまたは一部をなすことができる。図示の実施形態では、2つのポート48が変換器組立体40の各側に実現されている。他の実施形態では、変換器組立体40は、変換器組立体40の一方の側にのみ単一のポート48を含むことができる。
【0028】
磁石組立体41は、中央に配置された磁石52を含み、この磁石の極は、ハウジング32の中央垂直軸線に沿って全体的に垂直に配置されている。磁石組立体41は、磁石52から同心状に外方に位置決めされるとともに磁石52の上方部分の磁極と同一である磁極を有する環状底部磁極片54をさらに含む。磁石組立体41は、底部磁極片54の上方アームに隣接して中央磁石52の上方に配置された頂部磁極片56をさらに含む。頂部磁極片56は、中央磁石52の上方部分の磁極と逆の磁極を有する。音響波が前側ダイヤフラム42に当たると、コイル45は、磁石組立体42およびその関連の磁界に対して動いて音響波に対応した電気信号を発生させる。電気信号をコイル連結および関連端子リード、例えば、図4に示された電気リード60または図5に示された電気リード61により送信することができる。
【0029】
内部音響空間47(例えば、上述するとともに図2に示す内部空洞26とほぼ同じである)は、図3図5に示されているように、ダイヤフラム42の後ろにまたは後面44に隣接して位置した空間、磁石組立体41と全体として関連した中央空間、および磁石組立体41の下に配置された後側または裏側空間によって画定されている。内部音響空間47は、コイル45の周りに形成された隙間57またはコイル45と磁石52との間の空間およびコイル45と頂部磁極片56との間の空間をさらに含む。一次チューニングポート48(例えば、上述するとともに図2に示すダイヤフラムチューニングポート16とほぼ同じである)は、内部音響空間47と外部空洞50との音響連絡を容易にする。図示の実施形態では、各一次ポート48は、ダイヤフラム42の後面44に隣接して音響流れまたは経路を作るよう磁石組立体41の頂部磁極片56(本明細書で「頂部分」ともいう)に設けられた孔である。音響抵抗62(例えば、上述するとともに図2に示す抵抗R1にほぼ同じである)が頂部磁極片56の2つの部品相互間に設けられており、その結果、ポート48を通過した音響波が音響抵抗62に出会うようになっている。音響抵抗62は、ポート48のところに音響流れ抵抗を生じさせるための織物(ファブリック)、スクリーン、または他の適当な物質であるのが良い。
【0030】
諸実施形態では、変換器組立体40は、ダイヤフラム42の前面43のところに配置されていて前面43を通る音響流れまたは経路を作る二次ポート64をさらに含む。図示のように、二次ポート64(例えば、上述するとともに図2に示す二次ポート22とほぼ同じである)は、ダイヤフラム42の外側ブリム51の下に又はその後ろに配置された一次ポート48と実質的に平行に位置決めされている。二次ポート64は、図6に示すとともに以下に詳細に説明するようにダイヤフラム42の前面43内にまたはこれを貫通して設けられた1つまたは2つ以上の孔で形成されまたはかかる孔を含むのが良い。図示の実施形態では、二次ポート64は、ダイヤフラム42によって形成されたドーム65の中央および/または頂部のところに配置された単一のポートであり、その結果、一次ポート48と二次ポート64との間の音響遅延は、ゼロである(例えば、d2=0)。ダイヤフラム42の中央への二次ポート64の配置により、マイクロホン変換器30に関する最適のまたは好ましい周波数応答性能を提供することができる。しかしながら、他の場合、二次ポート64は、他の周波数応答が望ましい場合または許容できる場合、ダイヤフラム42上のどこか他の場所に配置されても良い。例えば、かかる場合、二次ポート64は、ダイヤフラム42を横切って一様に配列されまたはダイヤフラム42を横切って広げられた同心アレイの状態で配列された複数のポートを含むことができる。
【0031】
図6は、諸実施形態に従って例示の二次ポート72(例えば、図3図5に示された二次ポート64とほぼ同じである)を有する例示のダイヤフラム70(例えば、図3図5に示されたダイヤフラム42とほぼ同じである)を示している。二次ポート72は、ダイヤフラム70を通りかつダイヤフラム70の下に形成された音響抵抗(例えば、図3図5に示された音響抵抗62とほぼ同じである)に実質的に平行な二次音響流れ抵抗(例えば、上述するとともに図2に示す並列ポート抵抗Rfとほぼ同じである)を生じさせるよう構成されている。
【0032】
図示の実施形態では、二次ポート72は、ダイヤフラム70に対する外部音響遅延を最小限に抑えまたはなくすようダイヤフラム70のドーム部分74(例えば、図3図5に示された中央ドーム65とほぼ同じである)中央に配置されている。ドーム部分74は、弾性ブリム76(例えば、図3図5に示された外側ブリム51とほぼ同じである)によって包囲されている。諸実施形態では、ダイヤフラム70は、ドーム部分74および弾性ブリム76が連続材料片で作られるよう一体成形構造体である。ブリム76の外縁78は、ダイヤフラム70を含む変換器組立体、例えば、図3図5に示されている変換器組立体40の頂面に取り付けられるのが良い。弾性ブリム76は、内縁79のところでドーム部分74に出会いまたは取り付けられる。内縁79の後面(例えば、図3図5に示されている取り付け箇所46)が変換器組立体のコイル(例えば、図3図5に示されているコイル45とほぼ同じである)に取り付けられている。諸実施形態では、1つまたは2つ以上の音響経路が外縁78と内縁79との間で弾性ブリム76の下に配置されたチューニングポート(例えば、図3図5に示されている一次ポート48とほぼ同じである)によって形成されている。これら音響経路は、ダイヤフラム42を貫通して二次ポート72によって形成された音響経路に実質的に平行である。
【0033】
図示のように、二次ポート72は、複数の孔80で形成されるのが良い。幾つかの実施形態では、孔80は、例えば、レーザ切断、ダイカットまたは穴をダイヤフラム72に穴あけしまたは作ることができる他の製造技術を用いてダイヤフラム材料それ自体中に直接パターン付けされまたはこれを貫通して形成される。かかる場合、ダイヤフラム70のパターン付け部分は、二次ポート72を通過する任意の音響波に関して二次音響抵抗(例えば、Rf)として役立つ。他の実施形態では、二次ポート72は、ダイヤフラム72を貫通して孔または穴82を形成し、そして複数の孔80を含むまたは違ったやり方で第2の音響抵抗(例えば、Rf)を提供するよう構成された別個の材料片で穴82を覆うことによって作られる。かかる場合、ダイヤフラム穴82は、ダイヤフラム70の一部分を切り出しまたは違ったやり方で除去することによって形成されるのが良い。音響抵抗材料は、グルーまたは他の適当な接着剤を用いて穴82を包囲しているダイヤフラム材料に取り付けられるのが良い。一例として、音響抵抗材料は、複数の孔82があらかじめ開けられたスクリーンまたは織物片であるのが良い。かかる実施形態では、音響抵抗材料(本明細書では「有孔材料」ともいう)は、ダイヤフラム70の質量負荷または音響抵抗材料の追加の質量に起因したマイクロホン変換器の動作の変更を回避するよう軽量かつ低イナータンス材料である。
【0034】
幾つかの変形実施形態では、第2のマイクロホン変換器組立体が二次ポート60の追加に起因したマイクロホン変換器30中の振動を打ち消しまたは振動感度効果を違ったやり方で軽減するようマイクロホン変換器30に追加されても良い。例えば、マイクロホン変換器30の音響感度が予想利得Gの因子としてスケール変更が行われる(この場合、G=Rd/R1)一方で、マイクロホンの振動感度はそうではない。これは、変換器の構造的励振がマイクロホンハンドルの変位、マイクロホンカプセルとの直接的接触、またはマイクロホンベースの他のハンドリングによって引き起こされる「基礎励振(base excitation)」だからである。結果として生じる振動応答またはマイクロホンハンドリングノイズは、二次ポート64の追加によっては不変のままであることが可能な全体的システム減衰(すなわち、マイクロホン変換器30の予想ポート48,64の並列組み合わせ)で決まる。これとは対照的に、音響励振は、マイクロホン変換器30の予想ポート48,64を通ってまたはこれらを介して起こり、かくして、個々の音響ネットワーク経路を通る減衰で決まる。その結果、二次ポート64の追加により、二次ポートのない従来型変換器(例えば、図1のマイクロホン変換器10)と比較して、マイクロホン変換器30の音響応答を低下させることができる。しかしながら、マイクロホン変換器30の音響応答が従来型マイクロホン変換器の音響応答に等しいようスケール変更される場合(例えば、マイクロホン利得を調節することによって)、マイクロホン変換器30の振動変動は、従来型変換器の振動応答よりも高いように見える場合がある。例えば、諸実施形態では、二次ポート64を備えたマイクロホン変換器30の振動感度は、同一の音響感度を備えた従来型マイクロホン変換器に対してG-1倍になる場合がある。さらに、ムービングコイル型マイクロホン変換器は、変換器30と同様、コイル45の存在に起因した構造的励振の影響をすでに非常に受けやすい。かくして、マイクロホン変換器30は、二次ポート64の追加の効果を打ち消すのに振動軽減対策または方式を必要とする場合がある。
【0035】
次に図7を参照すると、一次変換器によって発生した振動を打ち消すための第2の変換器を用いる1つの振動軽減対策または方式が示されている。具体的に説明すると、図7は、第1のマイクロホン変換器組立体140(「一次変換器」ともいう)および第2のマイクロホン変換器組立体250(「打ち消し変換器」ともいう)を有する例示のマイクロホン変換器130を示している。第1のマイクロホン変換器組立体140は、図3図5に示すとともに上述したマイクロホン変換器組立体40と実質的に同一であるのが良い。例えば、第1の変換器140は、マイクロホン変換器30の磁石組立体41、ダイヤフラム42、およびコイル45と実質的に同一の磁石組立体141、ダイヤフラム142、およびコイル145を有するのが良い。第1の変換器140は、マイクロホン変換器30の一次ポート48とほぼ同じ一次音響ポート148およびダイヤフラム142の中央ドーム部分165を貫通していてマイクロホン変換器30の二次ポート64とほぼ同一の二次音響ポート164をさらに有するのが良い。
【0036】
応答マッチングおよび他のマイクロホンの設計上の検討事項を単純化するため、第2の変換器組立体240は、第1の変換器組立体140と実質的に同一であるのが良い。例えば、第2の変換器組立体240は、第1の変換器140と同一の構造的周波数応答を有するのが良く、この第2の変換器組立体は、第1の変換器140と同一の励振軸線に沿って方向づけられるのが良いが、これとは逆の極性を有する。幾つかの場合、第2の変換器240は、第1の変換器140と同一のムービングコイル型変換器構成を有するのが良い。例えば、第2の変換器組立体240は、第1のマイクロホン変換器組立体140の磁石組立体141、ダイヤフラム142、およびコイル145と実質的に同一の磁石組立体241、ダイヤフラム242、およびコイル245を含むのが良い。
【0037】
図示のように、マイクロホン変換器140,240は、同一のハウジング132中に組み込まれるのが良く、その結果、変換器140,240は、組み込み式振動打ち消し方式を有する単一のマイクロホンカプセルとして協働するようになっている。一次変換器140からの振動信号を除去するため、二次変換器240の出力は、一次変換器140の出力から電気的に「差し引かれ」なければならず、適当な検討事項が全マイクロホン電気出力インピーダンスについてなされる。諸実施形態では、これは2つの変換器を用いたマイクロホンを構成するための2つの機械的/音響的具体化例のうちの一方を用いて達成できる。
【0038】
2つの変換器を1つのマイクロホンカプセル内に配置するための第1の例示の具体化例では、第1の変換器140の内部音響ドメインC2を第2の変換器240の内部音響ドメインC3から完全に隔離すること必要があり、その結果、2つの変換器140,240は、互いに完全に独立する。この具体化例は、ある特定の方向づけ上の制約下において最適である場合があるが、マイクロホンカプセルサイズの最小限化を可能にしない。かくして、第1の具体化例は、小さいフォームファクタを達成しようとする場合には好ましいとは言えない場合がある。
【0039】
図7は、第2のマイクロホン変換器組立体240が第1のマイクロホン変換器組立体140の内部音響空洞147(または音響ドメインC2)内に配置される第2の例示の具体化例を示している。図示のように、第2の変換器組立体240は、少なくともC3=Cf+Cbの音響ドメインまたは容積を必要とし、この場合、Cfは、ダイヤフラム242の前の容積であり、Cbは、ダイヤフラム242の後ろの容積である。第2の具体化例では、第2の変換器240の音響ドメインC3は、第1の変換器140の音響ドメインと共有される。空洞C2,C3は、音響抵抗R3を有するポート290を通って互いに結合されるのが良く、その結果、第2の変換器140は、第1の変換器240の一次チューニング容積部C2内で動作することができるようになっている。幾つかの実施形態では、打ち消し変換器240は、一次変換器140内に完全に収納されるのが良く、その結果、第2の変換器組立体240を受け入れるのに必要な余分の空間が存在しない。かかる場合、ハウジング132は、寸法および形状がマイクロホン変換器30のハウジング32と実質的に同一であるのが良い。
【0040】
図示の形態では、第2の変換器240は、第1の変換器140の構造的外乱および内部音響外乱に結合されているが、第1の変換器140の受ける外部音響外乱からは隔離されるのが良い。これは、一次変換器140の内部音響ドメインC2が第1の変換器140の一次ポート148を通る音響抵抗R1に起因して外部音響外乱から部分的に隔離されているからである。それと同時に、意図した帯域幅にわたる空洞インピーダンスは、音圧が空洞C2内で一様に変化するようなものである。その結果、C2の空洞圧力変動は、打ち消し変換器240のダイヤフラム242を励振させない(または、もし空洞圧力変動が励振された場合でも、既知の技術を用いて結果として生じる周波数応答においてかかる空洞圧力変動を計算に入れることができる)。さらに、音響抵抗を貫通してポートが設けられた空洞セグメンテーションを追加の角度が必要な場合には使用することができるが、ゼロ遅延ポート164を通る抵抗に応じて、一次ポート148を通る抵抗R1は、隔離可能であるほど大きいのが良い。
【0041】
諸実施形態では、少なくとも図2を参照して上述したのと同じ理由で、第1の変換器140に関する全直列抵抗は、臨界減衰抵抗Rdに等しくまたはこれよりも低く設定されるのが良く(すなわち、Rd=R1∥Rf1)、この場合、Rf1は、第1の変換器140の二次ポート164を通る音響抵抗である。振動周波数抵抗のマッチングを提供するため、第2の変換器240は、第1の変換器140と同一のRdパラメータを有するよう構成されるのが良い。これは、第1の変換器140の二次ポート164とほぼ同じ第2の変換器240のダイヤフラム242を通る二次ポート264を作るよう上述した技術を用いることによって少なくとも部分的に達成できる。例えば、二次ポート264は、複数の穴をダイヤフラム242の中央ドーム部分265の中央内に作るかまたは別個のスクリーンまたは布を中央ドーム部分265を通って設けられた穴を覆って配置する(例えば、図6参照)かのいずれかによって形成されるのが良い。加うるに、第2の変換器240は、二次ポート164がダイヤフラム242の前部からダイヤフラム242の背部までの唯一の音響経路を表すよう構成されるのが良くかくして第2の変換器240のための全直列抵抗を二次ポート264を通る音響抵抗Rf2に等しくする。その結果、抵抗Rf2を単に臨界抵抗減衰Rdに等しく設定することによって(すなわち、Rf2=Rd)、第2の変換器240の振動応答を第1の変換器140の振動応答にマッチングさせることができる。
【0042】
諸実施形態では、第1の変換器組立体140内部空洞147は、第1の変換器140の二次ポート164を通って抵抗Rf1を臨界減衰抵抗Rd以上に増大させ(すなわち、Rf1>Rd)、そして第2の変換器240の二次ポート246を通る抵抗Rf2を上述したように臨界減衰抵抗に等しく設定する(すなわち、Rf2=Rd)ことによって、サイズが最小限のままの状態でいることができる(例えば、図3に示された変換器30の空洞47のように)。かくして、第1の変換器140の既存の内部空洞147を用いて第2の変換器240を作動的に収容することによって、図示の具体化例は、マイクロホン変換器130の小さなマイクロホンカプセルサイズを犠牲にしないで振動打ち消しをもたらすことができる。
【0043】
幾つかの実施形態では、マイクロホン変換器130は、第一次方向性を得る一方で、さらにマイクロホン変換器130によって出力された組み合わせ電気信号内の二次変換器240からの圧力応答を計算に入れるよう構成されるのが良い。第2の変換器240は、二次ポート264を通る抵抗Rf2により効果的にバイパスされるが、二次変換器240は、もし計算に入れられなければ、第1の変換器140の周波数応答に悪影響を及ぼす場合がありまたは少なくともマイクロホンの曲線パターンに関して最小拒否レベルとして作用する「ノイズフロア」を生じさせる低レベル圧力応答を出力する場合がある。この問題に取り組むための一技術は、一次変換器140の極性応答を意図的に「離調」して二次変換器240の圧力応答に適合させることによって、一次変換器140の極性応答を改変させることであり、その結果、応答信号を差し引いたとき、結果として生じる出力信号は、所望の極性応答である。例えば、デュアル変換器を共有容積部具体化例で用いる一方向性マイクロホンを得るため、一次変換器140の個々の応答を所望の極性応答と比較して、無指向性の方へ押しやるのが良く、二次変換器240は、低周波数でダイヤフラムの前の空洞内の空洞圧力またはCfに比例する圧力応答を有するのが良い。高い周波数では、音響応答は、第2の変換器240によっては悪影響が及ぼされない場合があり、と言うのは、圧力応答の振幅のロールオフが生じるからである。
【0044】
かくして、本明細書において説明した技術は、従来のムービングコイル型マイクロホン変換器と比較して、低周波帯域幅(例えば、f=100Hz)を犠牲にせずまたはマイクロホンの方向性特性に悪影響を及ぼさないで、ムービングコイル型マイクロホン変換器の内部音響容積を最小限に抑えることをもたらす。
【0045】
本開示内容は、本技術の真の意図したかつ公平な範囲および精神を限定するのではなく本技術にかかる種々の実施形態をどのように構成して使用するかを説明することを意図している。上記説明は、網羅的であることを意図しておらず、あるいは開示した形態そのものに限定されるわけではない。上記教示に照らして改造または変形が可能である。実施形態は、説明した技術の原理およびその実用的用途の最適な例示を提供するとともに当業者が本技術を種々の実施形態でかつ想定する特定の用途に合わせて種々の改造を施した状態で利用することができるようにするために選択されて説明した。かかる全ての改造および変形は、これらが公平に、法的にかつ均等的に受ける範囲に従って解釈されたときにこの特許出願の係属中に変更可能な特許請求の範囲の記載により定められた実施形態の範囲およびその全ての均等例の範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7