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特許7150818Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質
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  • 特許-Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質 図1A
  • 特許-Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質 図1B
  • 特許-Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質 図1C
  • 特許-Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質 図2A
  • 特許-Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質 図2B
  • 特許-Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】Li2B12H12およびLiBH4を含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20221003BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020503458
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2019006673
(87)【国際公開番号】W WO2019167813
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018034929
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】野上 玄器
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】外山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】金 相侖
(72)【発明者】
【氏名】折茂 慎一
【審査官】和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】TEPROVICH, J.A. et al.,Bi-functional Li2B12H12 for energy storage and conversion applications: solid-state electrolyte and luminescent down-conversion dye,Journal of Materials Chemistry A,2015年,3,22853-22859
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li1212およびLiBHを含むイオン伝導体の製造方法であって、
LiBHとB1014とを、LiBH/B1014=2.1~4.3のモル比で混合して混合物を得る工程、及び
前記混合物を加熱処理する工程を含む、前記イオン伝導体の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理の温度が100~300℃である、請求項1に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理する工程の前に、前記混合物にメカニカルミリング処理を施す工程を含む、請求項1または2に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項4】
前記メカニカルミリング処理を施す時間が0.5~7時間である、請求項3に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理する工程の後に、2回目のメカニカルミリング処理を施す工程を含む、請求項3または4に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項6】
前記2回目のメカニカルミリング処理を施す時間が10~30時間である、請求項5に記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項7】
得られたイオン伝導体が、B11MAS NMR測定において、少なくとも-15.6ppm(±1ppm)、-17.6ppm(±1ppm)、-1.7ppmおよび-29.4ppm(±1.5ppm)、並びに-42.0ppm(±2ppm)にピークを有し、-15.6ppm(±1ppm)をピークA、-42.0ppm(±2ppm)をピークBとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.1~2.0の範囲である、請求項1から6のいずれかに記載のイオン伝導体の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のイオン伝導体の製造方法によって得られたイオン伝導体を用い、露点-30℃~-80℃の雰囲気下で成形する工程を含む、全固体電池の製造方法。
【請求項9】
Li1212およびLiBHを含むイオン伝導体であって、B11MAS NMR測定において、少なくとも-15.6ppm(±1ppm)、-17.6ppm(±1ppm)、-1.7ppmおよび-29.4ppm(±1.5ppm)、並びに-42.0ppm(±2ppm)にピークを有し、-15.6ppm(±1ppm)をピークA、-42.0ppm(±2ppm)をピークBとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.1~2.0の範囲である、前記イオン伝導体。
【請求項10】
少なくとも2θ=16.1±0.5deg、18.6±0.5deg、24.0±0.5deg、24.9±0.8deg、27.0±0.8deg、31.0±0.8degおよび32.5±0.8degにX線回折ピークを有する、請求項9に記載のイオン伝導体。
【請求項11】
請求項9または10に記載のイオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Li1212およびLiBHを含むイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶媒を使用しており、有機溶媒が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶媒等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物、錯体水素化物等を使用することが検討されている。
【0004】
全固体電池は大きくわけて薄膜型とバルク型に分類される。薄膜型については、気相成膜を利用することで界面接合が理想的に形成されるものの、電極層が数μmと薄く、電極面積も小さなものであり、1セルあたりの蓄えられるエネルギーが小さく、コストも高くなる。よって、多くのエネルギーを蓄える必要のある、大型蓄電装置や電気自動車向けの電池としては不適である。一方、バルク型の電極層の厚みは数十μm~100μmにすることができ、高いエネルギー密度を有する全固体電池が作製可能である。
【0005】
固体電解質の中で、硫化物や錯体水素化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかいことから固体-固体間の界面を形成しやすい特徴があり、バルク型全固体電池への適用検討が進んでいる(特許文献1および2)。
【0006】
しかしながら、従来の硫化物固体電解質や錯体水素化物固体電解質は水と反応する性質を有しており、硫化物は硫化水素を発生し、錯体水素化物は水素を発生すると共にいずれの固体電解質も水分と反応した後はイオン伝導度が低下する課題を有している。また、錯体水素化物固体電解質は硫化物固体電解質と比較すると、イオン伝導度がやや低い傾向にあり、イオン伝導度の向上も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許6246816
【文献】WO2017-126416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐水性およびイオン伝導性等の種々の特性に優れたイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、LiBHとB1014とを特定のモル比で混合して得られたイオン伝導体によって、上記課題を解決することができることを見出した。即ち、本発明は、以下の通りである。
<1> Li1212およびLiBHを含むイオン伝導体の製造方法であって、
LiBHとB1014とを、LiBH/B1014=2.1~4.3のモル比で混合して混合物を得る工程、及び
前記混合物を加熱処理する工程を含む、前記イオン伝導体の製造方法である。
<2> 前記加熱処理の温度が100~300℃である、上記<1>に記載のイオン伝導体の製造方法である。
<3> 前記加熱処理する工程の前に、前記混合物にメカニカルミリング処理を施す工程を含む、上記<1>または<2>に記載のイオン伝導体の製造方法である。
<4> 前記メカニカルミリング処理を施す時間が0.5~7時間である、上記<3>に記載のイオン伝導体の製造方法である。
<5> 前記加熱処理する工程の後に、2回目のメカニカルミリング処理を施す工程を含む、上記<3>または<4>に記載のイオン伝導体の製造方法である。
<6> 前記2回目のメカニカルミリング処理を施す時間が10~30時間である、上記<5>に記載のイオン伝導体の製造方法である。
<7> 得られたイオン伝導体が、B11MAS NMR測定において、少なくとも-15.6ppm(±1ppm)、-17.6ppm(±1ppm)、-1.7ppmおよび-29.4ppm(±1.5ppm)、並びに-42.0ppm(±2ppm)にピークを有し、-15.6ppm(±1ppm)をピークA、-42.0ppm(±2ppm)をピークBとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.1~2.0の範囲である、上記<1>から<6>のいずれかに記載のイオン伝導体の製造方法である。
<8> 上記<1>から<7>のいずれかに記載のイオン伝導体の製造方法によって得られたイオン伝導体を用い、露点-30℃~-80℃の雰囲気下で成形する工程を含む、全固体電池の製造方法である。
<9> Li1212およびLiBHを含むイオン伝導体であって、B11MAS NMR測定において、少なくとも-15.6ppm(±1ppm)、-17.6ppm(±1ppm)、-1.7ppmおよび-29.4ppm(±1.5ppm)、並びに-42.0ppm(±2ppm)にピークを有し、-15.6ppm(±1ppm)をピークA、-42.0ppm(±2ppm)をピークBとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.1~2.0の範囲である、前記イオン伝導体である。
<10> 少なくとも2θ=16.1±0.5deg、18.6±0.5deg、24.0±0.5deg、24.9±0.8deg、27.0±0.8deg、31.0±0.8degおよび32.5±0.8degにX線回折ピークを有する、上記<9>に記載のイオン伝導体である。
<11> 上記<9>または<10>に記載のイオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐水性およびイオン伝導性等の種々の特性に優れたイオン伝導体およびその製造方法、並びに該イオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、実施例1~2及び比較例1~4で得られたイオン伝導体の粉末におけるX線回折ピークを示す。
図1B図1Bは、図1Aの一部(実施例1~2及び比較例1~2)の回折ピークを拡大したものである。
図1C図1Cは、実施例2及び3で得られたイオン伝導体の粉末におけるX線回折ピークを示す。
図2A図2Aは、実施例1~2及び比較例2で得られたイオン伝導体の粉末におけるB11MAS NMR測定の結果を示す。
図2B図2Aは、実施例2及び比較例1で得られたイオン伝導体の粉末におけるB11MAS NMR測定の結果を示す。
図3図3は、実施例1~3及び比較例1~6で得られたイオン伝導体におけるイオン伝導度測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する材料、構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0013】
1.イオン伝導体
本発明の1つの実施形態によると、Li1212およびLiBHを含み、アニオンとして[B12122-と[B11112-と[B10102-と[BHとを含むイオン伝導体が提供される。これらのアニオンはB11MAS NMR測定において、[B12122-は-15.6ppm(±1ppm)、[B11112-は-17.6ppm(±1ppm)、[B10102―は-1.7ppmおよび-29.4ppm(±1.5ppm)、[BHは-42.0ppm(±2ppm)にそれぞれピークを有する。
【0014】
本発明のイオン伝導体は、ボロハイドライド(BH )を含んでいることを特徴とする。BH の含有量が多いとイオン伝導度は高くなるが、耐水性が低下することから、所望する物性となるように含有量を調整することで物性を所望のものにすることができる。本発明のイオン伝導体は、[B12122-に基づく-15.6ppm(±1ppm)のピークをA、[BHに基づく-42.0ppm(±2ppm)のピークをBとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.1~2.0の範囲であり、0.2~1.5の範囲が好ましく、0.3~1.2の範囲がより好ましい。強度比(B/A)を0.1~2.0の範囲とすることにより、耐水性およびイオン伝導性に優れたイオン伝導体とすることができる。
また、本発明のイオン伝導体は、リチウム(Li)とホウ素(B)と水素(H)以外の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、リン(P)、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。
【0015】
本発明のイオン伝導体は、好ましくは、少なくとも2θ=16.1±0.5deg、18.6±0.5deg、24.0±0.5deg、24.9±0.8deg、27.0±0.8deg、31.0±0.8degおよび32.5±0.8degにX線回折ピークを有し、より好ましくは、少なくとも2θ=16.1±0.5deg、18.6±0.5deg、24.0±0.5deg、24.9±0.8deg、27.0±0.8deg、31.0±0.8deg、32.5±0.8deg、37.7±1.0deg、38.9±1.0deg、41.2±1.2degおよび43.5±1.2degにX線回折ピークを有する。なお、本発明のイオン伝導体は、上記以外のX線回折ピークを含んでいたとしても、所望の効果が得られる。
【0016】
上記のイオン伝導体は、優れたイオン伝導性を有する。上記のようなX線回折ピークはLi1212およびLiBHの結晶構造に由来する回折ピークに相当する。Li1212のピーク強度が強いことから、複数のアニオン種が存在するが、Li1212結晶に固溶しているものが多いと考えられる。[B12122-はBH と異なり、水による分解速度は非常に遅いことから、水に対する安定性が極めて高く、水分が存在すると水和物を形成して安定な結晶として存在する。このため、[B12122-中にBH のような不安定なアニオンを混在させても、耐水性を大幅に向上させることができる。
【0017】
上記のイオン伝導体は、LiBH固体電解質のように柔らかく、コールドプレスにて電極層および固体電解質層へと成形することができる。そして、このように成形された電極層および固体電解質層は、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質を多く含む場合と比較して強度に優れる。従って、本発明のイオン伝導体を使用することにより、成形性がよく、割れにくい(クラックが生じにくい)電極層および固体電解質層を作製することができる。また、本発明のイオン伝導体は密度が低いため、比較的軽い電極層および固体電解質層を作製することができる。それにより電池全体の重量を軽くすることができるため、好ましい。さらに、本発明のイオン伝導体を固体電解質層において使用した場合、電極層との間の界面抵抗を低くすることができる。
【0018】
2.イオン伝導体の製造方法
上述した本発明のイオン伝導体は、LiBHとB1014とを、LiBH/B1014=2.1~4.3のモル比で混合して混合物を得る工程、及び前記混合物を加熱処理する工程を含む方法によって製造することができる。
【0019】
原料であるLiBHとしては、通常に市販されているものを使用することができる。また、その純度は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。純度が上記範囲である化合物を使用することにより、所望の結晶が得られやすい。もう一方の原料であるB1014としては、通常に市販されているものを使用することができる。B1014の純度は、95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましい。
【0020】
LiBHとB1014との混合比は、モル比で、LiBH/B1014=2.1~4.3である。上述したように、原料としてLiBHを多く含むことにより、イオン伝導度を高くすることができる。逆に、LiBHを少なくすると耐水性を向上させることができる。イオン伝導度の低下を抑えつつ、水分に暴露した場合のイオン伝導度の低下を抑制する観点からは、LiBH/B1014のモル比は2.3~4.1の範囲が好ましく、より好ましくは2.5~4.0である。
【0021】
LiBHとB1014との混合は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えばヘリウム、窒素、アルゴンなどを挙げることができるが、より好ましくはアルゴンである。不活性ガス中の水分および酸素の濃度は低く管理されることが好ましく、より好ましくは、不活性ガス中の水分および酸素の濃度は1ppm未満である。
【0022】
混合の方法としては、特に限定されるものではないが、溶媒中での撹拌混合を用いることができる。機械混合も使用することができ、例えば、ライカイ機、ボールミル、遊星型ボールミル、ビーズミル、自公転ミキサー、高速攪拌型の混合装置、タンブラーミキサー等を使用した方法が挙げられる。これらの中でも、粉砕力および混合力に優れる遊星ボールミルが、より好ましい。機械混合は乾式で行うことが好ましいが、耐還元性を有する溶媒下で実施することもできる。上記手法に問わず、溶媒を用いる場合には非プロトン性の非水溶媒が好ましく、より具体的には、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。
【0023】
混合時間は、混合する方法によって異なるが、溶媒中による撹拌混合の場合には、例えば、0.1~48時間であり、1~24時間が好ましい。なお、一方の原料を溶かすことが可能な溶媒、例えばLiBHを溶かすことのできる、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等を用いた場合には混合時間を短縮することができる。機械混合における混合時間としては、例えば遊星ボールミルを用いた場合には、0.5~24時間であり、2~20時間が好ましい。
【0024】
上記の混合においては、原料を均一に分散させることが目的であり、反応を生じさせる必要はない。よって、得られた混合物をX線回折測定すると、原料であるLiBHおよびB1014のピークを確認することができる。
【0025】
上記のように混合したものを加熱処理することによって反応が進行し、本発明のイオン伝導体を得ることができる。加熱温度は、通常100~300℃の範囲が好ましく、より好ましくは150~250℃の範囲であり、特に好ましくは170~230℃である。上記範囲よりも温度が低いと所望の結晶が生じにくく、一方、上記範囲よりも温度が高いと、イオン伝導体が変質することが懸念される。
【0026】
加熱時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は3~40時間の範囲で十分に結晶化される。加熱時間は、好ましくは5~30時間であり、より好ましくは10~20時間である。高い温度で長時間加熱することは、イオン伝導体の変質が懸念されることから、好ましくない。
【0027】
加熱処理は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、例えばヘリウム、窒素、アルゴンなどを挙げることができるが、より好ましくはアルゴンである。不活性ガス中の水分および酸素の濃度は低く管理されることが好ましく、より好ましくは、不活性ガス中の水分および酸素の濃度は1ppm未満である。
【0028】
反応圧力としては、通常は絶対圧として0.1Pa~3MPaの範囲である。常圧よりやや加圧にした方が水素の脱離によるイオン伝導体の分解を抑制する傾向があり、より好ましくは101kPa~1MPaであり、特に好ましくは0.11MPa~0.5MPaの範囲である。
【0029】
本発明のイオン伝導体の製造方法では、更に、前記加熱処理する工程の前に、前記混合物にメカニカルミリング処理を施すことで、イオン伝導度を向上させることもできる。この場合(1回目)のメカニカルミリング処理を施す時間は、0.5~7時間が好ましく、1~6時間がより好ましく、3~5時間が特に好ましい。更に、上記のように得られたイオン伝導体に2回目のメカニカルミリング処理を施すことによってイオン伝導体をより向上させることができる。この場合(2回目)のメカニカルミリング処理を施す時間は、10~30時間が好ましく、15~25時間がより好ましく、18~22時間が特に好ましい。1回目及び2回目のメカニカルミリング処理の手法としては、特に制限されるわけではないが、例えば振動ミルや遊星ボールミルを挙げることができる。
【0030】
本発明の上記製造方法によって得られたイオン伝導体は、B11MAS NMR測定において、少なくとも-15.6ppm(±1ppm)、-17.6ppm(±1ppm)、-29.4ppm(±1.5ppm)、および-42.0ppm(±2ppm)にピークを有し、-15.6ppm(±1ppm)をピークA、-42.0ppm(±2ppm)をピークBとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)が0.1~2.0の範囲であることが好ましい。
【0031】
3.全固体電池
本発明のイオン伝導体は、全固体電池用の固体電解質として使用され得る。よって、本発明の一実施形態によると、上述したイオン伝導体を含む全固体電池用固体電解質が提供される。また、本発明のさらなる実施形態によると、上述した全固体電池用固体電解質を使用した全固体電池が提供される。
【0032】
本明細書において、全固体電池とは、リチウムイオンが電気伝導を担う全固体電池であり、特に全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池は、正極層と負極層との間に固体電解質層が配置された構造を有する。本発明のイオン伝導体は、正極層、負極層および固体電解質層のいずれか1層以上に、固体電解質として含まれてよい。電極層に使用する場合には、負極層よりも正極層に使用することが好ましい。正極層の方が、副反応が生じにくいためである。正極層または負極層に本発明のイオン伝導体が含まれる場合、イオン伝導体と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層としては、活物質と固体電解質が混じり合ったバルク型を用いると、単セルあたりの容量が大きくなることから好ましい。
【0033】
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に限定されるものではない。例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶媒に分散させてスラリー状としたものをドクターブレード、スピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて成膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していくプレス法等がある。本発明のイオン伝導体は比較的柔らかいことから、プレスによって成形および積層して電池を作製することが特に好ましい。また、正極層は、ゾルゲル法を用いて成膜することもできる。また、予め活物質、導電助剤、バインダー類が入った電極層を形成させておき、そこに固体電解質を溶媒に溶かした溶液や、溶媒に固体電解質を分散させたスラリーを流し込むこみ、その後溶媒を除去させることによって電極層内に固体電解質を入れこむこともできる。
【0034】
全固体電池を作製する雰囲気としては、水分が管理された不活性ガスもしくはドライルーム内にて実施することが好ましい。水分管理としては、露点-20℃~-100℃の範囲であり、より好ましくは露点-30℃~-80℃の範囲であり、特に好ましくは-40℃~-75℃の範囲である。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
【0036】
<イオン伝導体の調製>
(実施例1)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiBH(シグマ・アルドリッチ社製、純度≧95%)とB1014(和光純薬工業株式会社製、純度≧99.0%)とを、LiBH:B1014=4:1のモル比になるように100mg量り取り、メノウ乳鉢にて予備混合した。次に、予備混合した原料を45mLのSUJ-2製ポットに投入し、さらにSUJ-2製ボール(φ7mm、20個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数400rpmで5時間、メカニカルミリングにより原料を混合した。その後、アルゴン密閉雰囲気下、200℃にて15時間加熱処理を施すことにより、Li1212およびLiBHを含むイオン伝導体を得た。
【0037】
(実施例2)
LiBHとB1014との混合モル比をLiBH:B1014=3:1へと変更したことを除き、実施例1と同様にイオン伝導体を製造した。
【0038】
(実施例3)
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、実施例2で得られたイオン伝導体を100mg量り取り、45mLのSUJ-2製ポットに投入し、さらにSUJ-2製ボール(φ7mm、20個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチェ製P7)に取り付け、回転数400rpmで20時間、2回目のメカニカルミリング処理を施すことにより、Li1212およびLiBHを含むイオン伝導体を得た。
【0039】
(比較例1)
Li1212・4HO(Katchem社製)を、真空雰囲気下、225℃にて20時間加熱処理を施すことにより、Li1212を含むイオン伝導体を得た。
【0040】
(比較例2~4)
LiBHとB1014との混合モル比を以下のように変更したことを除き、実施例1と同様にイオン伝導体を製造した。モル比をLiBH:B1014=2:1(比較例2)、1.5:1(比較例3)、1:1(比較例4)とした。
【0041】
(比較例5~6)
イオン伝導体を比較例2で得られたもの(比較例5)および比較例4で得られたもの(比較例6)へと変更したことを除き、実施例3と同様に2回目のメカニカルミリング処理を施すことにより、イオン伝導体を製造した。
【0042】
<X線回折測定>
実施例1~3および比較例1~4で得られたイオン伝導体の粉末について、アルゴン雰囲気下、室温にて、X線回折測定(PANalytical社製X‘pert Pro、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。得られたX線回折ピークを図1A図1Cに示す。図1Aには比較のため、原料であるLiBHおよびB1014のX線回折ピークも示す。図1Cには、実施例2および3で得られたイオン伝導体の粉末のX線回折ピークを示した。
実施例1~2では、少なくとも、2θ=16.1±0.5deg、18.6±0.5deg、24.0±0.5deg、24.9±0.8deg、27.0±0.8deg、31.0±0.8degおよび32.5±0.8degにX線回折ピークが観測された。実施例3においては、X線回折ピークの強度が小さくなっているが、わずかながら上述したX線回折ピークを確認できる。メカニカルミリング処理を施したことにより、結晶粒子が小さくなったため、ピーク強度が小さくなったと考えられる。
【0043】
<B11MAS NMR測定>
実施例1~2および比較例1~2で得られたイオン伝導体の粉末について、大気非暴露試料管(日本電子社製3.2mmシーリング試料管)を用いて、B11MAS NMR測定(日本電子社製ECA500)を実施した。なお、測定条件は、MAS回転10kHz、リファレンス (COBF、待ち時間 Saturation recovery法により求めたT1×4~5倍(秒)にて行った。結果を図2Aおよび図2Bに示す。実施例1~2および比較例1~2においては、いずれも[B12122-は-15.6ppm(±1ppm)、[B11112-は-17.6ppm(±1ppm)、[B10102―は-1.7ppmおよび-29.4ppm(±1.5ppm)、にそれぞれピークが観測された。実施例1および2においては上記のピークの他に、[BHに基づく-42.0ppm[±2ppm]のピークが明確に観測された。-15.6ppm(±1ppm)をピークA、-42.0ppm(±2ppm)をピークBとしたとき、ピークAに対するピークBの強度比(B/A)は、実施例1では1.17であり、実施例2では0.48であり、比較例2では0.05であった。
【0044】
<イオン伝導度測定>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、実施例1~3および比較例1~6で得られたイオン伝導体を一軸成型(240MPa)に供し、厚さ約1mm、φ8mmのディスクを製造した。室温から150℃もしくは80℃の温度範囲において10℃間隔で昇温・降温させ、リチウム電極を利用した二端子法による交流インピーダンス測定(HIOKI 3532-80、chemical impedance meter)を行い、イオン伝導度を算出した。測定周波数範囲は4Hz~1MHz、振幅は100mVとした。
【0045】
それぞれのイオン伝導度の測定結果を図3に示す。なお、実施例1~3および比較例1~5は150℃もしくは80℃まで昇温測定した後の、降温時のイオン伝導度をプロットした。比較例6についてのみ、昇温・降温測定の2サイクル目の昇温時のイオン伝導度をプロットした。LiBHが増えるにつれてイオン伝導度が向上することがわかった。2回目のメカニカルミリング処理の効果について、LiBH:B1014のモル比が1:1の場合はイオン伝導度が低下するが、2:1の場合はほぼ同等であり、3:1においては明確にイオン伝導度が上昇しており、イオン伝導度への影響に統一性はなかった。なお、3:1において良好なイオン伝導度を示す理由は、2回目のメカニカルミリング処理することによって、結晶中のLiと水素のサイトに欠陥が生じたためと考えられる。
【0046】
<ドライルーム内における暴露試験>
露点-40℃~-75℃のドライルーム内で、実施例3で得られたイオン伝導体、比較例1で得られたLi1212、および3LiBH-LiIを6時間大気暴露させた。この時のドライルームの露点の推移を表1に記載した。大気暴露の後、イオン伝導度測定を行い、各サンプルの暴露前後におけるイオン伝導度(25℃)の比較を行った結果を表2に示す。同じ錯体水素化物系固体電解質でも3LiBH-LiIは1/20にイオン伝導度が低下したが、実施例3で得られたイオン伝導体および比較例1で得られたLi1212については、イオン伝導度の劣化が生じなかった。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3