(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロール、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備および溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/00 20060101AFI20221003BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20221003BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20221003BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C23C2/00
C23C2/06
C23C2/40
F16C13/00 A
(21)【出願番号】P 2020521102
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2019016634
(87)【国際公開番号】W WO2019225236
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-09-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2018098931
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】大橋 徹
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】宮部 裕一
【審判官】土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-64014(JP,A)
【文献】実開昭55-139164(JP,U)
【文献】実開平2-87061(JP,U)
【文献】実開平4-38422(JP,U)
【文献】実開平6-25349(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00
C23C 2/06
C23C 2/40
F16C13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロールであって、
ロール本体と、
前記ロール本体を覆う耐熱フェルト層とを有し、
前記耐熱フェルト層は、前記ロール本体の表面に接し、熱分解温度が420℃以上であり、400℃における表面硬度評価指標が0.11μm/N超、100μm/N以下である
、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロール。
【請求項2】
前記耐熱フェルト層が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維からなる
、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロール。
【請求項3】
前記耐熱フェルト層の厚みが1~20mmである
、請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロール。
【請求項4】
溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備であって、
請求項1~3のいずれか一項に記載のパスロール
を備え、
前記パスロールは、亜鉛めっき浴で溶融亜鉛めっきを施した鋼帯を通板するロールである
、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備。
【請求項5】
鋼板製造ラインの亜鉛めっき浴に鋼帯を浸漬させて溶融亜鉛めっき鋼板を製造する、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、
前記亜鉛めっき浴で溶融亜鉛めっきを施した鋼帯を通板するパスロールとして、耐熱フェルト層でロール本体が覆われたパスロールを用いて前記溶融亜鉛めっき鋼板を製造し、
前記耐熱フェルト層は、前記ロール本体の表面に接し、熱分解温度が420℃以上であり、400℃における表面硬度評価指標が0.11μm/N超、100μm/N以下である
、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記耐熱フェルト層が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維からなる
、請求項5に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記耐熱フェルト層の厚みが1~20mmである
、請求項5または6に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備においては、鋼帯を亜鉛めっき浴に浸漬させることで鋼帯に対して亜鉛めっき処理が施される。溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備には、設備の小型化と鋼帯に施す各処理の処理時間を確保することを両立させるために、鋼板製造ラインに沿って複数のロール(以下、“パスロール”)が設けられている。コイルから払い出された鋼帯はパスロールを介し、鋼板製造ライン上で何度も折り返されるようにして下流側に送られる。
【0003】
鋼帯がパスロールに接触する際には鋼帯とパスロールとの間にミクロスリップが生じることがある。このミクロスリップは鋼帯表面から亜鉛めっき層が剥がれる原因になるものであり、剥がれた亜鉛はパスロールに付着する。パスロールに付着した亜鉛は後続の鋼帯表面に付着したり、圧痕を発生させたりするおそれがあり、品質不良の原因となる。なお、本明細書では、このような鋼帯表面から剥がれた亜鉛がパスロールの周面に付着する現象を亜鉛巻きと称する。
【0004】
亜鉛巻きの発生を抑える方法として、特許文献1には鉱物性繊維を基材としたフェノール樹脂からなるロールを使用することが開示されている。また、特許文献2には耐熱性および耐化学薬品性を有する繊維にゴムバインダおよび無機充填材を混合した素材を、ロール表面に用いることが開示されている。特許文献3にはロール表面に、耐熱繊維よりなる基布と、パラ系アラミド繊維よりなる不織布と、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維よりなる不織布で構成された不織布層を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭54-117333号公報
【文献】特公昭63-030974号公報
【文献】特開2000-064014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
亜鉛めっき浴を通過する鋼帯は溶融した亜鉛中に浸漬することになるため、亜鉛めっき浴の出側では鋼帯表面が高温になっている。このため、亜鉛めっき浴の出側近傍に設置されたパスロールには、表面が高温となった鋼帯が接することになり、パスロールの表面温度が上昇する。この場合、特許文献1に開示されたパスロールではフェノール樹脂が熱分解してしまい、パスロールの亜鉛巻きの発生を抑える機能が徐々に失われる。同様に、特許文献2に開示されたパスロールではゴムバインダが熱分解し、パスロールの亜鉛巻きの発生を抑える機能が失われる。したがって、特許文献1および2のパスロールにおいては、亜鉛巻きの発生を抑える効果を維持するためにパスロールのメンテナンスを頻繁に行う必要があり、生産性が低下する。また、特許文献3に開示されたパスロールは、表面層がPBO繊維で構成されているが、パスロール製造条件や操業条件によっては亜鉛巻きの発生を抑える効果が得られない場合があり、品質の良い溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造するといった観点では改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロールによる亜鉛巻きの発生を抑える効果をより長く、かつ、安定的に得られるようにして溶融亜鉛めっき鋼板の生産性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の一態様は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロールであって、ロール本体と、前記ロール本体を覆う耐熱フェルト層とを有し、前記耐熱フェルト層は、前記ロール本体の表面に接し、熱分解温度が420℃以上であり、400℃における表面硬度評価指標が0.11μm/N超、100μm/N以下であることを特徴としている。
【0009】
また、別の観点による本発明の一態様は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備であって、上記パスロールは、亜鉛めっき浴で溶融亜鉛めっきを施した鋼帯を通板するロールであることを特徴としている。
【0010】
さらに別の観点による本発明の一態様は、鋼板製造ラインの亜鉛めっき浴に鋼帯を浸漬させて溶融亜鉛めっき鋼板を製造する、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、前記亜鉛めっき浴で溶融亜鉛めっきを施した鋼帯を通板するパスロールとして、耐熱フェルト層でロール本体が覆われたパスロールを用いて前記溶融亜鉛めっき鋼板を製造し、前記耐熱フェルト層は、前記ロール本体の表面に接し、熱分解温度が420℃以上であり、400℃における表面硬度評価指標が0.11μm/N超、100μm/N以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備用パスロールによる亜鉛巻きの発生を抑える効果をより長く、かつ、安定的に得られるようにして溶融亜鉛めっき鋼板の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備の一部構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るパスロールの概略構成を示す断面図である。
【
図3】表面硬度評価指標の測定方法を説明するための図である。
【
図4】本発明の別の実施形態に係る溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備の一部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
図1に示すように本実施形態の溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備1は、鋼帯Sの亜鉛めっき処理を行う溶融亜鉛めっき装置2を備えている。溶融亜鉛めっき装置2は、溶融した亜鉛が貯留する亜鉛めっき浴3と、鋼板製造ラインの亜鉛めっき浴3の上流側に配置されたパスロール4(以下、“入側パスロール”)と、亜鉛めっき浴3中に配置された浴中ロール5と、鋼板製造ラインの亜鉛めっき浴3の下流側に配置されたパスロール6(以下、“出側パスロール”)を備えている。鋼帯Sは、鋼板製造ラインに沿って入側パスロール4、浴中ロール5、出側パスロール6を介して進行方向を変えながら
図1中の矢印方向に沿って走行する。なお、
図1では溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備1の一部の構成について示しているが、亜鉛めっき浴3の上流側の構成は従前と同様である。
【0015】
亜鉛めっき浴3の下流側に設置された出側パスロール6は、
図2に示すようにロール本体6aと、そのロール本体6aを覆う耐熱フェルト層6bで構成されている。本明細書における“耐熱フェルト層”とは、ロール本体6aの表面部全周にわたって存在している、ロール本体6aの半径方向に厚みを有した耐熱繊維からなるフェルトのことをいう。フェルトとは、JIS L 0222で定義される不織布であって、繊維が一方向又はランダムに配向された、交絡、及び/又は融着、及び/又は接着によって繊維間が結合されたものである。耐熱フェルト層6bはロール本体6aの周面全体を覆うように設けられており、鋼帯Sが出側パスロール6に接触する際にはこの耐熱フェルト層6bに接触する。
【0016】
なお、ロール本体6aの表面に耐熱フェルト層6bを設ける方法は特に限定されず、例えばチューブ状の耐熱繊維からなるフェルトをロール本体6aに被せて固定する方法や、ライニングによりロール本体6aの表面に耐熱繊維からなるフェルトを貼り付ける方法、ロール本体6aの全幅と同等の幅を有する耐熱繊維からなるフェルトをロール本体6aに巻き付けたり、ロール本体6aの全幅よりも短い耐熱繊維からなるフェルトをロール本体6aに螺旋状に巻き付ける方法がある。また、耐熱フェルト層6bは、層自体が単層で構成されていてもよいし、複層で構成されていてもよい。複層構造の耐熱フェルト層は、例えばチューブ状のフェルトが被せられたロール本体6aにさらに別のチューブ状のフェルトを被せたり、ロール本体6aの全幅と同等の幅を有するフェルトをロール本体6aに重ねて巻き付けたりすることで得られる。
【0017】
耐熱フェルト層6bは、熱分解温度が亜鉛の融点(419.5℃)よりも高い420℃以上の繊維で製造される。本実施形態の耐熱フェルト層6bはこのような熱分解温度を有していることにより、亜鉛めっき処理後の鋼帯Sが出側パスロール6に接触しても耐熱フェルト層6bが熱分解しないようになっている。なお、熱分解温度の上限は特に限定されない。耐熱フェルト層6bを構成する繊維は、熱分解温度が420℃以上の耐熱繊維であれば特に限定されないが、例えばポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維であることが好ましい。
【0018】
出側パスロール6は、ロール本体6aと耐熱フェルト層6bの間に、他の層が設けられることで複層構造となっていてもよい。出側パスロール6が複層構造の場合、耐熱フェルト層6bは最表層に設けられる。出側パスロール6は、摩耗劣化が進んだ状態でも、より長期にわたって亜鉛巻き抑制効果を発揮させるために耐熱フェルト層6bがロール本体6aの表面に接した構造であることが好ましい。
【0019】
耐熱フェルト層6bの厚みは設備構成や操業条件等に応じて1~20mmの範囲内で適宜変更されることが好ましい。耐熱フェルト層6bの熱収縮性に鑑みると、温度変化によるロール径の変化が小さくなるように耐熱フェルト層6bの厚みは薄い方が好ましい。この観点から、耐熱フェルト層6bの厚みは20mm以下であることが好ましい。一方、耐熱フェルト層6bの耐久性を向上させる観点においては、耐熱フェルト層6bの厚みは、ある程度厚い方が好ましく、1mm以上であることが好ましい。したがって、耐熱フェルト層6bの厚みは1~20mmであることが好ましい。また、耐久性向上の観点から、耐熱フェルト層6bの厚みは5mm超であることがより好ましい。
【0020】
以上のように本実施形態の出側パスロール6は、ロール本体6aの表面に耐熱フェルト層6bが設けられていることで、亜鉛めっき処理後の鋼帯Sが出側パスロール6のロール本体6aに直接接触しなくなり、これにより亜鉛巻きが生じにくくなっている。また、本実施形態の出側パスロール6の耐熱フェルト層6bは熱分解温度が420℃以上であるため、亜鉛めっき処理後の鋼帯Sが出側パスロール6に接触しても、耐熱フェルト層6bが熱分解せず、亜鉛巻きの発生を抑える効果を維持することができる。このため、出側パスロール6のメンテンナンスを行う頻度を少なくすることができ、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備1の稼働時間を長くすることができる。これにより溶融亜鉛めっき鋼板の生産性を向上させることができる。
【0021】
ところで、本発明者らが、耐熱フェルト層6bが設けられてない従前のパスロールにおいて、亜鉛巻きが生じたパスロールの表面について分析したところ、亜鉛がパスロール表面の凹み部に単に噛み込んだ状態であることが判明した。そして、この知見から、亜鉛巻きはパスロールの表面硬度が鋼帯表面に固着した亜鉛の硬度よりも大きいことにより、鋼帯表面の亜鉛がパスロールにより削り取られていることで起こる現象であることを突き止めた。すなわち、耐熱フェルト層6bの硬度を鋼帯S表面の亜鉛めっき層の硬度よりも小さくすることで、出側パスロール6による亜鉛巻きを抑制する効果を安定して得られるようにすることが可能となる。特に、フェルトは同一の繊維を用いた場合であっても、製造条件(例えばフェルトの空隙率や固め方)によって硬度が異なるため、亜鉛巻きの発生を抑える効果を安定して得られるようにするためには耐熱フェルト層6bの硬度を規定することが重要である。
【0022】
フェルトのような弾性体の場合、高温状態における硬度評価手法が存在しない。そこで、耐熱フェルト層6bと鋼帯S表面の亜鉛めっき層との好ましい硬度の関係を導くため、耐熱フェルト層6bの硬度に関する新たな指標として表面硬度評価指標を定義する。表面硬度評価指標の測定には、例えば有機物の高温軟化点を測定する装置であるTMA(熱機械分析装置)を用いる。TMAでは、試料に対してプローブを押し当て、ある温度における非振動的荷重(一定荷重)をかけた際の変形量を計測することができる。
図3に示すように本明細書では、プローブの先端が試料の表面に接触した点を基準点として、プローブの基準点からの押し込み荷重の変化量をΔFとし、押し込み荷重の変化量がΔF[N]となったときのプローブの押し込み位置における試料の変形量をΔd[μm]とする。そして、このときのΔd/ΔF[μm/N]の値を表面硬度評価指標と定義する。表面硬度評価指標は、数値が大きいほど試料の表面硬度が低いことを意味する。なお、プローブは先端径500μmのものを使用し、評価に用いる最大荷重は18gとする。
【0023】
本発明者らは400℃における亜鉛めっき鋼板の表面硬度評価指標を測定した。ここで測定した亜鉛めっき鋼板は、合金化される前の溶融亜鉛めっき鋼板(GI)であり、溶融亜鉛めっき鋼板の中でもめっき層が最も軟らかい種類の鋼板である。測定結果を下記表1に示す。なお、表1には、耐熱フェルト層6bとしてPBO繊維を用いた場合の400℃における表面硬度評価指標も併せて示している。
【表1】
【0024】
上記表1に示されるように鋼帯S表面の亜鉛めっき層の表面硬度評価指標は0.11μm/Nである。前述の通り、表1の亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板の中でもめっき層が最も軟らかい種類の鋼板であることから、例えば合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)などの他の種類の溶融亜鉛めっき鋼板においては、400℃における表面硬度評価指標の値が0.11μm/N未満となる。したがって、表面硬度評価指標が0.11μm/Nを超えるように製造された耐熱フェルト層6bは、どのような種類の溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層に対しても相対的に軟らかくなる。このため、耐熱フェルト層6bと鋼帯Sが接触したとしても、鋼帯S表面に固着した亜鉛が削り取られるといった現象は極めて起こりにくくなる。これにより亜鉛巻きの発生を抑える効果を安定して得られるようになり、品質の良い溶融亜鉛めっき鋼板の生産性を向上させることができる。
【0025】
溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層に対する硬度差を大きくして亜鉛巻きの発生をより効果的に抑える観点からは、耐熱フェルト層6bの表面硬度評価指標は3μm/N以上であることがより好ましく、5μm/N以上であることがさらに好ましい。耐熱フェルト層6bの表面硬度評価指標の上限は特に限定されない。なお、耐熱フェルト層6bの摩耗が進行してフェルト層としての機能が失われると、亜鉛巻きの抑制効果が失われることから、これを回避するためには、摩耗がある程度進行した段階でロール本体6aを覆う耐熱フェルトを交換する必要がある。すなわち、耐熱フェルト層6bの摩耗の進行速度が速いほど、耐熱フェルトの交換頻度が増加する。したがって、耐熱フェルト層6bの摩耗の進行速度を遅くして耐熱フェルトの交換頻度を少なくすることで生産性を向上させる観点からは、耐熱フェルト層6bが溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層に対して軟らかくなりすぎないように耐熱フェルト層6bの表面硬度評価指標は100μm/N以下であることが好ましい。また、耐熱フェルト層6bの摩耗に伴って亜鉛巻きの抑制効果の大きさが変動しないように耐熱フェルト層6bは、厚さ方向の硬度が均一であることが好ましい。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0027】
また、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備1の構成は上記実施形態で説明したものに限定されず、例えば
図4に示すように、亜鉛めっき浴3の下流側に亜鉛めっきの合金化処理を行う合金化炉7が設けられていても良い。この場合、合金化炉7の出側では鋼帯S表面が高温状態にあるため、亜鉛巻きの抑制効果が熱分解によって失われないように合金化炉7の下流側に設置される出側パスロール6の耐熱フェルト層6bの熱分解温度が420℃以上であると良い。
【0028】
以上の実施形態では、溶融亜鉛めっき処理設備を有する溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備1の出側パスロール6にのみ耐熱フェルト層6bが設けられていたが、耐熱フェルト層6bを有するパスロールは、上記実施形態に限定されず、亜鉛めっき浴で溶融亜鉛めっきを施した鋼帯Sを通板するパスロールとして適用され得る。そして、耐熱フェルト層6bを有するパスロールが、亜鉛めっき浴で溶融亜鉛めっきを施した鋼帯Sを通板するロールとして使用された際には、亜鉛巻きを抑える効果を安定して得ることができる。
【実施例】
【0029】
本発明に係るパスロールを、亜鉛めっき浴の下流側に設置されるトップロールとして適用し、溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備において一ヶ月間通板試験を実施した。通板試験における最高板温は416℃であったが、鋼板表面の品質不良や製造トラブルは発生せずに溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができた。なお、耐熱フェルト層としてPBO繊維を使用しており、耐熱フェルト層の400℃における表面硬度評価指標は7.45μm/Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 溶融亜鉛めっき鋼板の製造設備
2 溶融亜鉛めっき装置
3 亜鉛めっき浴
4 入側パスロール
5 浴中ロール
6 出側パスロール
6a ロール本体
6b 耐熱フェルト層
7 合金化炉
Δd 試料の変形量
ΔF プローブの押し込み荷重の変化量
S 鋼帯