(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】セラミックス材
(51)【国際特許分類】
C04B 41/87 20060101AFI20221003BHJP
F27D 3/12 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C04B41/87 R
F27D3/12 S
(21)【出願番号】P 2021556306
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014380
(87)【国際公開番号】W WO2022044414
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2020144920
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古宮山 常夫
(72)【発明者】
【氏名】松葉 浩臣
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-159950(JP,A)
【文献】特開平10-267562(JP,A)
【文献】特開2007-176734(JP,A)
【文献】特開平09-286678(JP,A)
【文献】特開平06-144966(JP,A)
【文献】特開2008-121073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/87
F27D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス製の基材と、前記基材の表面に設けられているセラミックス製の被覆層と、を有するセラミックス材であって、
前記基材の表面に、前記被覆層に向けて突出している複数の凸部が設けられており、
隣り合う凸部間の間隔が、100μm以上2000μm以下であり、
前記凸部の幅が10μm以上200μm以下であ
り、
前記被覆層は、厚み方向に伸びる複数の亀裂を有し、
前記亀裂は、被覆層の裏面から表面に向けて厚み方向の中間部分まで伸びているセラミックス材。
【請求項2】
前記基材と前記凸部との熱膨張率差が10%以下である請求項1に記載のセラミックス材。
【請求項3】
前記基材と前記凸部とが、同質の材料である請求項1または2に記載のセラミックス材。
【請求項4】
前記凸部の突出高さが1μm以上200μm以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のセラミックス材。
【請求項5】
前記凸部の突出高さが10μm以上200μm以下である請求項1から3のいずれか一項に記載のセラミックス材。
【請求項6】
セラミックス製の基材と、前記基材の表面に設けられているセラミックス製の被覆層と、を有するセラミックス材であって、
前記基材の表面に、複数の凹部が設けられており、
隣り合う凹部間の間隔が、100μm以上2000μm以下であ
り、
前記被覆層は、厚み方向に伸びる複数の亀裂を有し、
前記亀裂は、被覆層の裏面から表面に向けて厚み方向の中間部分まで伸びているセラミックス材。
【請求項7】
前記基材の表面に、第1方向に沿って伸びる複数の第1凸部と、第1方向に交差する第2方向に沿って伸びる複数の第2凸部と、によって形成されている格子状の連続部が設けられており、
前記複数の凹部が、前記連続部によって区画された凹部である請求項6に記載のセラミックス材。
【請求項8】
前記基材と前記連続部との熱膨張率差が10%以下である請求項7に記載のセラミックス材。
【請求項9】
前記基材と前記連続部が同質の材料である請求項7に記載のセラミックス材。
【請求項10】
隣り合う亀裂間の間隔が、10μm以上2000μm以下である請求項1から9のいずれか一項に記載のセラミックス材。
【請求項11】
前記基材がSiC質である請求項1から10のいずれか一項に記載のセラミックス材。
【請求項12】
前記被覆層が、Al、Si、Zr、YまたはMgの酸化物の単体もしくは、混合物から構成されている請求項1から11のいずれか一項に記載のセラミックス材。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のセラミックス材によって構成されている焼成用セッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年8月28日に出願された日本国特許出願第2020-144920号に基づく優先権を主張する。その出願の全ての内容は、この明細書中に参照により援用されている。本明細書は、セラミックス材に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特開2001-278685号公報(以下、特許文献1と称する)に、セラミックス(炭化珪素)製の基材の表面に、セラミックス(ムライト、ジルコニア等)製の被覆層を設けたセラミックス材が開示されている。特許文献1では、基材表面をサンドブラスト処理し、基材の表面粗さ(Rz)を20μm以上に調整することによって被覆層が基材から剥離することを抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1のセラミックス材は、基材表面を粗面化することにより、ある程度、基材から被覆層が剥離することを抑制する効果を得ることができる。しかしながら、本発明者らの検討の結果、基材表面を粗面化しただけでは、セラミックス材を繰り返し加熱するうちに、基材と被覆層の熱膨張係数差に起因し、基材から被覆層が剥離してしまうことが分かった。すなわち、基材表面を粗面化しただけでは、耐久性の高い(長寿命の)セラミックス材を得ることが困難であることが判明した。本明細書は、耐久性の高いセラミックス材を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で開示するセラミックス材は、セラミックス製の基材と、基材の表面に設けられているセラミックス製の被覆層を有していてよい。このセラミックス材は、基材の表面に被覆層に向けて突出している複数の凸部が設けられており、隣り合う凸部間の間隔が100μm以上2000μm以下であってよい。
【0005】
本明細書で開示する他のセラミックス材は、セラミックス製の基材と、基材の表面に設けられているセラミックス製の被覆層を有していてよい。このセラミックス材は、基材の表面に複数の凹部が設けられており、隣り合う凹部間の間隔が100μm以上2000μm以下であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施例のセラミックス材の断面図を示す。
【
図2】第2実施例のセラミックス材の断面図を示す。
【
図3】第1及び2実施例のセラミックス材の基材表面の拡大図を示す。
【
図4】第3実施例のセラミックス材の基材表面の拡大図を示す。
【
図5】第4実施例のセラミックス材の基材表面の拡大図を示す。
【
図6】第5実施例のセラミックス材の基材表面の拡大図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書で開示するセラミックス材は、セラミックス製の基材と、基材表面に設けられているセラミックス製の被覆層を備えていてよい。特に限定されないが、セラミックス材の形状は、板状、箱状、筒状、柱状であってよい。例えばセラミックス材が板状又は箱状の場合、セラミックス材は、加熱炉内で電子部品等の被焼成物を焼成する際、被焼成物を載置するための焼成用セッターであってよい。セラミックス材を焼成用セッターとして利用する場合、被覆層の材料は、被焼成物と反応しない材料を利用することが必要である。換言すると、被覆層は、基材と被焼成物が反応することを抑制する材料であることが必要であり、基材とは異なる材料で形成される。セラミックス材を焼成用セッターとして利用する場合、基材の材料はSiC質であってよい。SiC質の基材を用いることにより、高耐熱性、高強度のセラミックス材を得ることができる。また、基材がSiC質の場合、被覆層の材料は、Al、Si、Zr、YまたはMgの酸化物の単体、あるいは、これらの酸化物の混合物であってよい。被覆層としてこれらの酸化物(単体または混合物)を用いることにより、基材と被焼成物の反応を抑制することができる。
【0008】
本明細書で開示するセラミックス材では、基材の表面に、被覆層に向けて突出している複数の凸部、あるいは、複数の凹部が設けられていてよい。また、隣り合う凸部、および、隣り合う凹部の間隔は、100μm以上2000μm以下であってよい。基材の表面にこのような凸部が設けられている場合、基材の表面に被覆層を形成すると、凸部が被覆層内に食い込んだ格好となり、基材に被覆層を強固に固定する効果(アンカー効果)が得られる。また、基材の表面に上記した凹部が設けられている場合、基材の表面に被覆層を形成すると、被覆層が凹部内に食い込んだ格好となり、強固なアンカー効果が得られる。本明細書で開示するセラミックス材は、基材の表面に上記した凸部または凹部を設けることにより、従来のセラミックス材よりも基材から被覆層が剥離することが抑制され、耐久性を高くする(寿命を長くする)ことができる。
【0009】
基材表面を平面視したときの凸部及び凹部の形状は、特に限定されないが、円形、多角形(三角形、四角形等)または十字形等であってよい。なお、隣り合う凸部(凹部)の間隔とは、凸部(凹部)間の隙間(すなわち、凸部(凹部)が設けられていない部分の長さ)を意味するのではなく、隣り合う凸部(凹部)の中心同士を結んだ長さのことを意味する。また、凸部及び凹部は、ストライプ状に形成されていてもよい。この場合、隣り合う凸部(凹部)の間隔とは、特定の凸部(凹部)の任意の位置から隣の凸部(凹部)までの最短距離のことを意味する。なお、隣り合う凸部(凹部)の間隔は、走査型顕微鏡(SEM)等で得られた画像から、隣り合う凸部(凹部)の間隔を10箇所測定し、平均値を算出することによって得られる。
【0010】
なお、凸部(凹部)がストライプ状の場合、基材表面に、第1方向に伸びるストライプ状の第1凸部(第1凹部)に加え、第1方向に交差する第2方向に伸びるストライプ状の第2凸部(第2凹部)が設けられ、第1凸部(第1凹部)と第2凸部(第2凹部)によって基材表面に格子状の凸部(凹部)が形成される。この場合、全ての凸部(凹部)が繋がって、基材表面に格子状の連続部が設けられ、連続部の間に凹部(凸部)が独立して存在することになる。そのため、基材表面に格子状の連続部が設けられている形態の場合、基材表面に複数の凹部(複数の凸部)が設けられていると称する。
【0011】
基材表面に凸部が設けられている場合、基材と凸部の材料は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。なお、基材と凸部の材料が異なる場合であっても、基材と凸部は、熱膨張率差が10%以下であってよい。すなわち、{(基材の熱膨張率)-(凸部の熱膨張率)}/(基材の熱膨張率)の絶対値の値が0.1以下であってよい。これにより、基材と凸部が分離することが抑制され、結果として、基材から被覆層が剥離することが抑制される。また、基材と凸部は、同質の材料であってもよい。基材と凸部が同質の材料であれば、両者の熱膨張率差を10%以下に調整しやすい。なお、「基材と凸部が同質」とは、基材の主材料(基材に最も多く含まれる材料)と凸部の主材料が同一であることを意味する。
【0012】
基材表面に凸部が設けられている場合、凸部の突出高さが1μm以上200μm以下であってよい。凸部の突出高さが1μm以上であれば、凸部が被覆層に十分食い込み、強固なアンカー効果を得られる。凸部の突出高さが200μm以下であれば、被覆層の厚みが部分的に薄くなったり、被覆層の表面(セラミックス材の表面)に凹凸が生じたりすることを抑制することができる。また、凸部の突出高さは、10μm以上200μm以下であればより確実に強固なアンカー効果を得られるので、特に好ましい。なお、単に基材表面に突出高さが1μm以上200μm以下の凸部を設けるだけでは、強固なアンカー効果は得られない。強固なアンカー効果を得るためには、突出高さが1μm以上200μm以下の凸部を、隣り合う凸部の間隔が100μm以上2000μm以下となるように設けることが必要である。凸部の突出高さは、走査型顕微鏡等で得られたセラミックス材の断面画像から、10個の凸部の突出高さを測定し、平均値を算出することによって得られる。
【0013】
基材表面に凸部が設けられている場合、凸部の幅は、隣り合う凸部間の間隔にも依るが、10μm以上200μm以下であってよい。凸部の幅が10μm以上であれば、基材(または凸部)と被覆層の熱膨張率差に起因して被覆層から凸部に力が加わっても、凸部が破損することを抑制することができ、基材から被覆層が剥離することが抑制される。凸部の幅が200μm以下であれば、被覆層の凹部(凸部が被覆層に食い込むことにより結果的に被覆層に形成される凹部)の幅も200μm以下となる。被覆層が熱膨張したときに、被覆層の凹部のサイズが増大することが抑制され、基材から被覆層が剥離する(基材の凸部と被覆層の凹部が外れる)ことが抑制される。凸部の幅は、走査型顕微鏡等で得られたセラミックス材の断面画像から、10個の凸部の幅を測定し、平均値を算出することによって得られる。
【0014】
なお、基材表面に凹部が設けられている場合、被覆層が凹部内に充填されることにより、強固なアンカー効果が得られる。基材表面に凹部が設けられている形態は、別の見方をすると、被覆層に設けられている凸部が基材内に食い込んでいると捉えることができる。そのため、基材表面に凹部が設けられている場合も、基材表面に凸部が設けられている場合と同様に、凹部の深さは1μm以上200μm以下であってよく、凹部の深さは10μm以上200μm以下であることが特に好ましく、凹部の幅は10μm以上200μm以下であってよい。また、凹部の深さ及び幅は、走査型顕微鏡等で得られたセラミックス材の断面画像から、10個の凹部の深さ及び幅を測定し、平均値を算出することによって得られる。
【0015】
被覆層は、厚み方向に伸びる複数の亀裂を有していてよい。亀裂は、被覆層の厚み方向の一端から他端まで伸びていてもよいし、一端から厚み方向の中間部分まで伸びていてもよい。被覆層が厚み方向に伸びる亀裂を有することにより、基材と被覆層の熱膨張率差に起因して基材から被覆層に加わる力を緩和することができる。被覆層の破損が抑制され、セラミックス材の耐久性(寿命)が向上する。なお、隣り合う亀裂間の間隔は、10μm以上2000μm以下であってよい。隣り合う亀裂間の間隔が10μm以上であれば、被覆層の強度を確保することができる。また、隣り合う亀裂間の間隔が2000μm以下であれば、基材から被覆層に加わる力を緩和する効果が十分に発揮される。
【実施例】
【0016】
(第1実施例)
図1を参照し、セラミックス材10について説明する。セラミックス材10は、平板状であり、SiC製の基材2と、基材2の表面2Sに設けられているZrO
2製の被覆層8を備えている。基材2の表面2Sには凸部4が設けられており、凸部4は被覆層8に向けて突出している。なお、凸部4は、被覆層8の表面(基材2側と反対側の面)には露出していない。基材2の表面2Sには、X方向に伸びる複数の凸部4がストライプ状に設けられている。なお、凸部4は、基材2の表面に開口を有するマスク層を形成し、開口部分の基材2をエッチングした残部である。そのため、凸部4と基材2の材料は同一である(SiCである)。
【0017】
セラミックス材10は、凸部4が設けられている基材2にZrO2を溶射し、基材2の表面2Sに被覆層(ZrO2膜)8を形成することにより製造されている。被覆層8には、裏面(基材2側)から表面に向けて伸びる複数の亀裂12が設けられている。亀裂12は、凸部4,4間に設けられており、被覆層8の表面には露出していない。基材2の厚みT2は500μmであり、被覆層8の厚みT8は300μmであり、凸部4の厚み(突出高さ)T4は100μmである。そのため、凸部4上の被覆層8の厚みは200μmである。
【0018】
(第2実施例)
図2を参照し、セラミックス材10aについて説明する。セラミックス材10aはセラミックス材10の変形例であり、セラミックス材10と共通する特徴については、セラミックス材10に付した参照番号と同じ参照番号を付すことにより説明を省略することがある。
【0019】
セラミックス材10aでは、基材2aの表面2Sに凹部40が設けられている。被覆層8は、凹部40に食い込んでいる。複数の凹部40が、X方向にストライプ状に伸びている。凹部40は、基材2の表面に開口を有するマスク層を形成し、開口部分の基材2aをエッチングすることにより形成されている。
【0020】
セラミックス材10aは、凹部40が設けられている基材2aにZrO2を溶射し、基材2aの表面2Sに被覆層(ZrO2膜)8を形成することにより製造されている。被覆層8には複数の亀裂12が設けられており、亀裂12は、凹部40,40間に設けられている。基材2aの厚みT2aは500μmであり、被覆層8の厚みT8は300μmであり、凹部40の深さT40は100μmである。セラミックス材10aでは、基材2aの表面2Sの全面に、300μm以上(凹部40に対応する部分の厚みは400μm)の被覆層8が確保されている。
【0021】
(凸部4及び凹部40の特徴)
図3を参照し、セラミックス材10の凸部4、及び、セラミックス材10aの凹部40の特徴を説明する。
図3は、基材2及び基材2aを平面視した図である。基材2(2a)の表面2Sには、X方向に沿って伸びる複数の凸部4(凹部40)が設けられている。すなわち、凸部4(凹部40)は、基材2(2a)の表面2Sにストライプ状に形成されている。凸部4(凹部40)の幅4W(40W)は、100μmである。また、隣り合う凸部4(凹部40)間の間隔4L(40L)は、400μmである。なお、間隔4L(40L)は、特定の凸部4(凹部40)の幅方向中心の任意位置3から、隣の凸部4(凹部40)幅方向中心までの距離が最短となる位置5までの距離である。また、上記したように、凸部4,4間、凹部40,40間には亀裂12が設けられている。隣り合う亀裂12間の間隔は、300~500μmになるように調整されている。
【0022】
上記したように、凸部4及び凹部40は、開口を有するマスク層を形成し、開口部分をエッチングすることにより形成されている。具体的には、凸部4は、凸部4を形成する位置のみにマスク層を形成し、それ以外の部分(
図3の表面2S)をエッチングすることにより形成されている。一方、凹部40は、凹部40を形成しない位置(
図3の表面2S)のみにマスク層を形成し、それ以外の部分(凹部40を形成する部分)をエッチングすることにより形成されている。
【0023】
(セラミックス材10,10aの利点)
セラミックス材10は凸部4が被覆層8に食い込み、また、セラミックス材10aは被覆層8が凹部40に食い込むことにより、基材2(2a)と被覆層8の間に強固なアンカー効果が得られる。そのため、被覆層8が基材2から剥離し難く、セラミックス材10(10a)の耐久性が向上する。
【0024】
また、従来のセラミックス材の場合、基材と被覆層の熱膨張率差が大きい場合(例えば、基材がSiC,被覆層がZrO2)、両者の熱膨張率差を緩和するため、基材と被覆層の間に中間層を設けることが必要であった。しかしながら、セラミックス材10,10aの場合、基材2(2a)と被覆層8の間に強固なアンカー効果が得られるので、基材と被覆層の熱膨張率差が大きい場合でも中間層を省略することができる。なお、中間層を省略することにより、セラミックス材の低コスト化、および、軽量化を実現することができる。また、セラミックス材10,10aでは、被覆層8に亀裂12が設けられているので、基材2(2a)と被覆層8の熱膨張率差に起因して基材2(2a)から被覆層8に力が加わっても、被覆層8に加わる力を亀裂12が緩和し、被覆層8が破損することを抑制することもできる。
【0025】
(第3実施例)
図4を参照し、セラミックス材10bについて説明する。セラミックス材10bは、セラミックス材10及びセラミックス材10aの変形例であり、基材32(32a)の表面32Sの形状がセラミックス材10,10aと異なる。セラミックス材10bの他の特徴(被覆層の特徴)は、セラミックス材10,10aと同様のため、以下では説明を省略する。なお、
図4は、基材32の表面32Sに形成された凸部4が格子状の連続部42を形成している形態と、基材32aの表面32Sに形成された凹部40が格子状の連続部42を形成している形態をまとめて示したものであり、第1実施例及び第2実施例(セラミックス材10,10a)における
図3に相当する。
【0026】
基材32(32a)の表面32Sには、X方向に沿って伸びる複数の凸部4a(凹部40a)と、X方向に直交するY方向に沿って伸びる複数の凸部4b(凹部40b)が設けられている。凸部4aと凸部4b、及び、凹部40aと凹部40bは、一体となって格子状の連続部42を形成している。
【0027】
基材32について具体的に説明すると、基材32の表面32Sは、凸部4aと凸部4bによって形成された連続部42によって複数に区画されており、連続部42に対して凹んでいる。すなわち、基材32の表面32Sが凹部を形成している。基材32では、凸部4a及び凸部4bは、同一の幅4Wを有しており、幅4Wは100μmである。また、基材32では、連続部42によって区画された隣り合う表面32S(すなわち凹部)の中心7,7の間隔4L(隣り合う凹部間の間隔)は、400μmである。基材32の場合、連続部42(凸部4a,4b)は、連続部42を形成する位置にマスク層を形成し、マスク層で囲まれた部分(
図3の表面2S)をエッチングすることにより形成される。
【0028】
同様に、基材32aの表面32Sは、凹部40aと凹部40bによって形成された連続部42によって複数に区画されており、連続部42に対して凸である。すなわち、基材32の表面32Sが凸部を形成している。基材32aでは、凹部40a及び凹部40bは、同一の幅4Wを有しており、幅4Wは100μmである。また、基材32では、連続部42によって区画された隣り合う表面32S(すなわち凸部)の中心7,7の間隔4L(隣り合う凸部間の間隔)は、400μmである。基材32aの場合、連続部42を形成する以外の部分(
図3の表面2S)にマスク層を形成し、連続部42を形成する部分をエッチングすることにより形成される。
【0029】
(第4実施例)
図5を参照し、セラミックス材10cについて説明する。セラミックス材10cは、セラミックス材10,10a及び10bの変形例であり、基材52(52a)の表面52Sの形状がセラミックス材10,10a及び10bと異なる。セラミックス材10cについて、セラミックス材10,10a及び10bと共通する特徴(被覆層の特徴)は、説明を省略する。
図5は、基材52の表面52Sに、互いに独立した複数の凸部4が形成されている形態と、基材52aの表面52Sに、互いに独立した複数の凹部40が形成されている形態をまとめて示したものであり、第1実施例及び第2実施例における
図3、第3実施例における
図4に相当する。
【0030】
凸部4(凹部40)は円形であり、凸部4(凹部40)の幅4W(40W)は、円の直径である。隣り合う凸部4(凹部40)間の間隔4L(40L)は、円の中心同士の距離である。基材52(52a)では、凸部4(凹部40)の幅4W(40W)は100μmであり、隣り合う凸部4(凹部40)間の間隔4L(40L)は400μmである。基材52(52a)も、基材52(52a)の表面52Sに開口を有するマスク層を形成し、エッチング技術を利用して形成することができる。
【0031】
(第5実施例)
図6を参照し、セラミックス材10dについて説明する。セラミックス材10dは、セラミックス材10cの変形例であり、基材62(62a)の表面62Sに設けられている凸部4(凹部40)の形状が、基材52(52a)の表面52Sに設けられている凸部4(凹部40)の形状と異なる。
図6は、基材62の表面62Sに、互いに独立した複数の凸部4が形成されている形態と、基材62aの表面62Sに、互いに独立した複数の凹部40が形成されている形態をまとめて示したものである。
【0032】
凸部4(凹部40)は十字形である。十字形の凸部4(凹部40)の場合、凸部4(凹部40)の幅4W(40W)は、十字形を形成する矩形の長辺の長さであり、凸部4(凹部40)に外接する円の直径である。また、隣り合う凸部4(凹部40)間の間隔4L(40L)は、十字の中心同士(外接円の中心同士)の距離である。基材62(62a)では、凸部4(凹部40)の幅4W(40W)は100μmであり、隣り合う凸部4(凹部40)間の間隔4L(40L)は400μmである。基材62(62a)も、基材62(62a)の表面62Sに開口を有するマスク層を形成し、エッチング技術を利用して形成することができる。
【0033】
上記実施例では、凸部(凹部)をエッチング技術を用いて形成する例について説明した。しかしながら、凸部(凹部)は、ブラスト、プレス等によって形成してもよい。また、基材と凸部(凹部)が異なる材料で形成されていてもよい。例えば、構成材料の異なる複数層の基材を用意し、複数層のうちの一部の層をエッチング等し、凸部(凹部)を形成してもよい。
【0034】
また、凸部(凹部)の形状は、上記実施例の形状に限定されない。例えば、基材を平面視したとき、凸部(凹部)は、複数の凸部(凹部)が異なる3方向に伸びるストライプ状であってもよい。この場合も、全ての凸部(凹部)が繋がって、基材表面に格子状の連続部が設けられ、連続部の間に凹部(凸部)が独立して存在することになる。重要なことは、基材の表面に凸部(凹部)が設けられており、隣り合う凸部(凹部)間の間隔が100μm以上2000μm以下に調整されており、凸部が被覆層に食い込む、あるいは、被覆層が凹部に食い込むように、基材の表面に被覆層が設けられていることである。
【0035】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0036】
2,2a:基材
4:凸部
8:被覆層
10,10a:セラミックス材
40:凹部