(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-30
(45)【発行日】2022-10-11
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂マスターバッチ、樹脂組成物、繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20221003BHJP
C08L 101/06 20060101ALI20221003BHJP
【FI】
C08J3/22 CES
C08L101/06
(21)【出願番号】P 2022547243
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2022014807
【審査請求日】2022-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2021071586
(32)【優先日】2021-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】角田 惟緒
(72)【発明者】
【氏名】福田 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健一郎
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105983(JP,A)
【文献】国際公開第2020/203147(WO,A1)
【文献】特開2019-131792(JP,A)
【文献】特開2015-59206(JP,A)
【文献】特開2017-171713(JP,A)
【文献】特開2019-14811(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133093(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103788503(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00- 3/28;99/00
C08J 5/00- 5/24
B29B 11/16
B29B 15/08- 15/14
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(M)用の繊維強化樹脂マスターバッチであって、
カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下のパルプ繊維(A)と、
親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B1)と、
親水性官能基で変性されておらず、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B2)と、
尿素またはその誘導体(C)と、を含み、かつ、下記式(a)及び式(b)を同時に満たす繊維強化樹脂マスターバッチ。
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
【請求項2】
さらに、下記式(c)を満たす、請求項1記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
式(c):(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}<0.8
【請求項3】
前記パルプ繊維(A)が、更に含水率1%以上90%以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(B1)の前記変性が酸変性である請求項1~3に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B1)及び前記熱可塑性樹脂(B2)の内、少なくとも1種類がブロック共重合体である、請求項1~4に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(B1)及び前記熱可塑性樹脂(B2)の内、少なくとも1種類がポリオレフィンである請求項1~5に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(B1)が酸変性ポリオレフィンであり、前記熱可塑性樹脂(B2)がポリエチレンである請求項1~6に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(M)がポリオレフィンである請求項1~7に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
【請求項9】
請求項1~8に記載の繊維強化樹脂マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(M)とが混練されてなる樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂(M)用の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法であって、以下の工程(i)及び工程(ii)を含み、得られる繊維強化樹脂マスターバッチは下記式(a)及び式(b)を同時に満たす、繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法。
工程(i):
カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下のパルプ繊維(A)と、
親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B1)と、
尿素またはその誘導体(C)とを、
前記尿素またはその誘導体(C)の分解温度以下の設定温度で乾燥及び撹拌し、混合物を得る工程
工程(ii):
親水性官能基で変性されておらず、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B2)と、
前記工程(i)で得られた前記混合物とを、
前記パルプ繊維(A)の分解温度以下の設定温度で混練する工程
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
【請求項11】
前記パルプ繊維(A)が、更に含水率1%以上90%以下であることを特徴とする、請求項10記載の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の製造方法により製造される繊維強化樹脂マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(M)とを混練する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂マスターバッチ、樹脂組成物、繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース及びセルロースナノファイバーを包含するものであり、約1nm~数10μm程度の繊維径の微細繊維である。微細繊維状セルロースは、軽量で、且つ、高い強度および高い弾性率を有し、低い線熱膨張係数を有することから、樹脂組成物の補強材料として好適に使用されている。
【0003】
しかし、微細繊維状セルロースが親水性であるのに対し、樹脂は疎水性であるため、微細繊維状セルロースを樹脂の補強材料として使用するには、当該微細繊維状セルロースの分散性に問題があった。
【0004】
特許文献1では、セルロース原料と尿素とを加熱処理することにより、セルロースのヒドロキシ基の一部をカルバメート基で置換したセルロース原料を得て、これを機械的処理により微細化し、微細繊維状セルロースを得ている。この方法で得られた微細繊維状セルロースは濾水度が100mL以下であり、従来の微細繊維状セルロースと比較して親水性が低く、極性の低い樹脂等との親和性が高いため、樹脂に均一性高く分散し、高い引張強度を有する樹脂組成物を与える。
【0005】
しかし、特許文献1の方法で得られた樹脂組成物は、希釈混練時の分散が十分でなく、引張強度および引張弾性率について改善の余地があった。また、特許文献1の方法で得られた樹脂組成物は、セルロース由来の凝集塊による黒点の発生が問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い引張弾性率を有し、さらに、セルロース由来の凝集塊による黒点の発生が抑制された樹脂組成物を得ることができる繊維強化樹脂マスターバッチ、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することを目的とする。また本発明は、この繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下を提供する。
(1) 熱可塑性樹脂(M)用の繊維強化樹脂マスターバッチであって、カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下のパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B1)と、親水性官能基で変性されておらず、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B2)と、尿素またはその誘導体(C)と、を含み、かつ、下記式(a)及び式(b)を同時に満たす繊維強化樹脂マスターバッチ。
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
(2) さらに、下記式(c)を満たす、(1)記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
式(c):(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}<0.8
(3) 前記パルプ繊維(A)が、更に含水率1%以上90%以下であることを特徴とする、(1)または(2)記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
(4) 前記熱可塑性樹脂(B1)の前記変性が酸変性である(1)~(3)に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
(5) 前記熱可塑性樹脂(B1)及び前記熱可塑性樹脂(B2)の内、少なくとも1種類がブロック共重合体である、(1)~(4)に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
(6) 前記熱可塑性樹脂(B1)及び前記熱可塑性樹脂(B2)の内、少なくとも1種類がポリオレフィンである(1)~(5)に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
(7) 前記熱可塑性樹脂(B1)が酸変性ポリオレフィンであり、前記熱可塑性樹脂(B2)がポリエチレンである(1)~(6)に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
(8) 前記熱可塑性樹脂(M)がポリオレフィンである(1)~(7)に記載の繊維強化樹脂マスターバッチ。
(9) (1)~(8)に記載の繊維強化樹脂マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(M)とが混練されてなる樹脂組成物。
(10) 熱可塑性樹脂(M)用の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法であって、以下の工程(i)及び工程(ii)を含み、得られる繊維強化樹脂マスターバッチは下記式(a)及び式(b)を同時に満たす、繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法。
工程(i):カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下のパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B1)と、尿素またはその誘導体(C)とを、前記尿素またはその誘導体(C)の分解温度以下の設定温度で乾燥及び撹拌し、混合物を得る工程
工程(ii):親水性官能基で変性されておらず、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B2)と、前記工程(i)で得られた前記混合物とを、前記パルプ繊維(A)の分解温度以下の設定温度で混練する工程
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
(11) 前記パルプ繊維(A)が、更に含水率1%以上90%以下であることを特徴とする、(10)記載の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法。
(12) (10)または(11)に記載の製造方法により製造される繊維強化樹脂マスターバッチと、前記熱可塑性樹脂(M)とを混練する工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い引張弾性率を有し、さらに、セルロース由来の凝集塊による黒点の発生が抑制された樹脂組成物を得ることができる繊維強化樹脂マスターバッチ、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することができる。また、この繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の繊維強化樹脂マスターバッチについて説明する。本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0011】
(繊維強化樹脂マスターバッチ)
本発明の繊維強化樹脂マスターバッチ(単に「マスターバッチ」と略記することがある。)は、熱可塑性樹脂(M)用の繊維強化樹脂マスターバッチであって、カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下のパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B1)と、親水性官能基で変性されておらず、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B2)と、尿素またはその誘導体(C)と、を含み、かつ、下記式(a)及び式(b)を同時に満たす。
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
【0012】
(パルプ繊維(A))
本発明で用いるパルプ繊維(A)は、パルプ原料をパルプ化することにより得ることができる。パルプ原料としては、木材及び非木材のいずれであってもよい。木材パルプを製造するために用いられる木材原料としては、針葉樹、広葉樹等が挙げられる。非木材パルプを製造するために用いられる非木材原料としては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ等が挙げられる。パルプ原料(木材原料、非木材原料)は、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0013】
木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ(TMP);薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。
【0014】
本発明のマスターバッチに含まれるパルプ繊維(A)は、カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、好ましくは30mL以上300mL以下、より好ましくは50mL以上250mL以下である。600mLを超える濾水度では、その効果を発揮することが出来ない。なお、パルプ繊維(A)のカナダ標準濾水度は、JIS P 8121-2:2012に従い測定することができる。
【0015】
パルプ繊維(A)は、尿素がパルプ繊維中のセルロースに対して均一に浸透し接触することが、最終的な繊維強化樹脂としての強度向上に繋がる観点から、機械的処理を行ったものであることが好ましい。機械的処理を行うことによりパルプの比表面積が増加し尿素反応量が増加することが期待できる。
【0016】
本発明において機械的処理とは、一般には水に代表される分散媒中の繊維を混合しさらに微細化またはフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散等を含む。微細化は繊維長、繊維径等が小さくなることいい、フィブリル化は繊維の毛羽立ちが多くなることをいう。機械的処理に用いる装置は限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機、トップファイナーなど回転軸を中心として、含水するパルプを金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。本発明においては、繊維のフィブリル化を効率的に進めることができるため、機械的処理はリファイナーやニーダーを用いた叩解であることが好ましく、高濃度処理が可能なディスクリファイナーやコニカルリファイナーを用いた叩解処理であることがさらに好ましい。
【0017】
機械的処理は上記パルプと分散媒を含む混合物を用いて実施されるが、その際の固形分濃度は1質量%以上であってもよいが、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、18質量%以上であるとさらに好ましい。(当該濃度での機械的処理を「高濃度機械的処理」ともいう。)分散媒は限定されず、有機溶媒や水を用いることができるが、好ましくは水である。固形分濃度とは、機械的処理に供される前記混合物における固形分の濃度である。固形分濃度が10質量%以上と高い条件にてパルプに対して叩解等の機械的処理を行うことで、処理効率の向上、ハンドリング性の向上などのメリットが得られる。ハンドリング性としては、例えば、高濃度機械的処理を行った後に希釈処理せずに高濃度のまま輸送することができる点や、高濃度機械的処理を経たパルプ分散液の粘度が高くなくポンプでの輸送効率が良好であること、さらには当該分散液の保存容器内への張り付きなどが少ない等の点が挙げられる。さらに、高濃度機械的処理の後に乾燥工程を実施する場合、揮発する分散媒量が少なく乾燥効率が良好である点も挙げられる。さらに本発明のパルプにおいて化学変性を施したパルプを高濃度機械的処理すると分散液の粘度が上昇しにくいため好ましい。
【0018】
機械的処理時の固形分濃度が50質量%を超えると、処理に伴い装置内で乾燥が進み、材料の焦げ付きが発生しやすくなるため、50質量%以下の条件で処理することが好ましく、40質量%以下の条件がさらに好ましい。
【0019】
また、パルプ繊維(A)は、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下であり、3質量%以上25質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。リグニン含有量が上記上限値よりも多すぎると、相対的に強化繊維の割合が低下するため補強効果が低下し、上記下限値よりも少なすぎると繊維の凝集が起こりやすくなったり、樹脂との親和性が低下し繊維と樹脂間の界面強度が低下する。リグニンの含有量は、パルプ繊維(A)の原料となるパルプ原料に対して、脱リグニン、又は漂白を行うことにより、調整することができる。また、リグニン含有量の測定は、例えばクラーソン法を用いて行うことができる。
【0020】
また、本発明に用いるパルプ繊維(A)は、凝集防止およびハンドリングの観点から、含水率が好ましくは1~90%であり、より好ましくは10~85%であり、さらに好ましくは20~80%である。含水率の測定は、例えば加熱減量を測定する水分計等を用いて行うことができる。
【0021】
本発明に用いるパルプ繊維(A)の分解温度は、パルプ繊維を窒素雰囲気下10℃/分で昇温したときの1%重量減少温度から算出することができる。
【0022】
なお、本発明で用いるパルプ繊維(A)は、未変性の状態で使用してもよいが、アセチル化、酸化、エステル化、エーテル化等の化学変性がされていても良い。
【0023】
(アセチル化変性)
本発明に用いることができるアセチル化変性されたパルプ(単に「アセチル化パルプ」ということがある。)は、パルプ原料のセルロース表面に存在する水酸基の水素原子がアセチル基(CH3-CO-)で置換されているものである。アセチル基で置換されることにより疎水性が高まり、乾燥時の凝集が減少するため作業性が高まり、混練後の樹脂中で分散や解繊しやすくなる。また反応性の高い水酸基がアセチル基で置換されるためセルロースの熱分解が抑制され、混練時の耐熱性が向上する。アセチル化パルプのアセチル基置換度(DS)は、作業性およびセルロース繊維の結晶性維持の観点から、好ましくは0.4~1.3、より好ましくは0.6~1.1となるように調整する。
【0024】
(アセチル化反応)
アセチル化反応は、セルロース原料を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒、例えばN-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中に原料を懸濁し、無水酢酸、アセチルクロリド等のハロゲン化アセチル等を使用して、塩基の存在下で行うと短時間で反応を行うことが可能となる。このアセチル化反応で用いる塩基としては、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が好ましく、炭酸カリウムがより好ましい。また、無水酢酸などのアセチル化試薬を過剰に使用することで無水非プロトン性極性溶媒や塩基を使用しない条件で反応を行うことも可能である。
【0025】
アセチル化反応は、例えば、室温~100℃で撹拌しながら行うことが好ましい。反応処理後はアセチル化試薬の除去のため減圧乾燥を行ってもよい。また目標のアセチル基置換度に到達していない場合、アセチル化反応とそれに続く減圧乾燥を任意の回数繰り返し行ってもよい。
【0026】
(洗浄)
アセチル化反応により得られたアセチル化パルプは、アセチル化処理後に水置換などの洗浄処理を行うことが好ましい。
【0027】
(脱水)
洗浄処理においては必要に応じて脱水を行ってもよい。脱水法としてはスクリュープレスを用いた加圧脱水法、揮発などによる減圧脱水法などで実施も可能だが、効率の点から遠心脱水法が好ましい。脱水は、溶媒中の固形分が10~60%程度になるまで行うことが好ましい。
【0028】
(乾燥)
本発明に用いることができるアセチル化パルプは、上記脱水工程の後、乾燥処理が施される。乾燥処理は、例えば、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機を用いて行うことができるが、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、攪拌羽根のついた回分乾燥機など、攪拌しながら乾燥することができる乾燥機が好ましい。乾燥は、アセチル化パルプの含水率が1~40%程度になるまで行うことが好ましく、1~10%まで乾燥するがより好ましく、1~5%まで乾燥することがさらに好ましい。乾燥を施したパルプを使用することで、後述する混練工程において水によるパルプへの加水分解の影響を小さくすることが可能となる。
【0029】
(酸化変性)
酸化は公知のとおりに実施できる。酸化処理により、機械的処理を行う際のパルプ高濃度化の際のハンドリングが良好となる。例えばN-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中で原料パルプを酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0030】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース質量〔g〕
【0031】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾質量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.3mmol/g以上、さらに好ましくは0.5mmol/g以上、よりさらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1~3.0mmol/gが好ましく、0.3~2.5mmol/gがより好ましく、0.5~2.5mmol/gがさらに好ましく、0.8~2.0mmol/gがよりさらに好ましい。
【0032】
(エーテル化及びエステル化)
エーテル化及びエステル化としては、カルボキシメチル化や、リン酸エステル化、亜リン酸エステル、硫酸エステル化等、公知の方法で変性を行うことができる。
【0033】
(カルボキシメチル化変性)
カルボキシメチル化は公知のとおりに実施できる。カルボキシメチル化処理により、機械的処理を行う際のパルプ高濃度化の際のハンドリングが良好となる。カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5g以上2.0g以下程度精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0034】
カルボキシメチル化セルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.35がさらに好ましい。
【0035】
(熱可塑性樹脂(B1))
本発明で用いる熱可塑性樹脂(B1)は、親水性官能基で変性、好ましくは酸変性されていることが必要である。ここでいう親水性とは、水やセルロース表面との親和性が良好であることを意味する。親水性官能基としては、水酸基,カルボキシ基,カルボニル基,アミノ基,アミド基,スルホ基等が挙げられる。このような熱可塑性樹脂(B1)として、例えば、塩基変性ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が挙げられ、中でも、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)や無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)が挙げられる。
【0036】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(B1)の融点は、易分散性の観点から、後述する熱可塑性樹脂(M)の融点以下である。ここで、例えば、無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)の融点は、150℃であり、無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)の融点は、120℃である。また、熱可塑性樹脂(B1)の融点は、工程(i)において溶融することによる乾燥効率およびパルプの解繊効率の低下の観点から、後述する尿素またはその誘導体(C)の熱分解温度(単に「分解温度」と略記することがある。)以上であることが好ましい。なお、(C)として尿素を用いる場合、尿素の熱分解温度は、135℃である。
【0037】
熱可塑性樹脂(B1)は、相溶化樹脂としての機能を有する。相溶化樹脂とは、疎水性の異なるセルロース繊維と、後述する熱可塑性樹脂(M)との均一混合や密着性を高める働きをするものである。相溶化樹脂としての特徴を決める要素として、例えば、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの場合は、ジカルボン酸の付加量と母材となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量があげられる。ジカルボン酸の付加量が多いポリオレフィン樹脂はセルロースのような親水性高分子との相溶性を高めるが、付加の過程で樹脂としての分子量が小さくなってしまい成形物の強度が低下する。最適なバランスとしてジカルボン酸の付加量は、20~100mgKOH/gであり、さらに好ましくは45~65mgKOH/gである。付加量が少ない場合、樹脂中でセルロースの水酸基や変性セルロースに含まれる水酸基や変性官能基との相互作用をする点が少なくなる。また付加量が多い場合、樹脂中のカルボキシル基同士の水素結合などによる自己凝集や、過大な付加反応による母材となるオレフィン樹脂の分子量の減少により強化樹脂としての強度が未達となる。ポリオレフィン樹脂の分子量としては35,000~250,000が好ましく、50,000~100,000がさらに好ましい。分子量がこの範囲から小さい場合は樹脂として強度が低下し、この範囲から大きい場合は溶融時の粘度上昇が大きく、混練時の作業性が低下するとともに成形不良の原因となる。
【0038】
熱可塑性樹脂(B1)の配合量は、リグニンを除いたパルプ繊維(A)の質量(100質量%)に対して、10~70質量%が好ましく、20~50質量%がさらに好ましい。添加量が70質量%を超えると、セルロースと樹脂の界面形成に必要な量を超えるため、複合体とした際に強度が低下すると考えられる。
【0039】
また熱可塑性樹脂(B1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。また1種または2種以上のポリマーとポリオレフィンとのグラフト体として使用の場合、グラフト体を構成するポリオレフィン樹脂は特に限定されないが、グラフト体を製造しやすいという観点で、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等を使用することができる。
【0040】
(熱可塑性樹脂(B2))
本発明で用いる熱可塑性樹脂(B2)は、親水性官能基で変性されておらず、その融点は、易分散性の観点から、後述する熱可塑性樹脂(M)の融点以下である。下限は特に限定されないが、自動車や家電等の部材に使用することを考慮すると、60℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0041】
熱可塑性樹脂(B2)としては、例えば、ホモポリプロピレン(hPP、融点:165℃)、高密度ポリエチレン(HDPE、融点:132℃)、低密度ポリエチレン(LDPE、融点:95~135℃)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE、融点:124℃)等のポリオレフィン、ブロックポリプロピレン(bPP、融点:160~165℃)等のブロック共重合体が挙げられる。
【0042】
熱可塑性樹脂(B2)の配合量は、凝集抑制を行いつつも成形体の強度低下に寄与しないために、リグニンを除いたパルプ繊維(A)の質量(100質量%)に対して、1~50質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましい。また、熱可塑性樹脂(B2)の配合量は、界面形成を阻害しないために、熱可塑性樹脂(B1)の配合量以下である。また、熱可塑性樹脂(B2)の配合量は、セルロースの変性を阻害しないために、後述する尿素またはその誘導体(C)の配合量以下である。
【0043】
(尿素またはその誘導体(C))
本発明においては、得られる樹脂組成物の強度が向上する観点から、一級アミンを付与する低分子量の助剤として、尿素またはその誘導体(C)(以下、「尿素等」と略記することがある。)を用いる。尿素の誘導体としては、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、テトラメチル尿素、尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物等を使用することができる。これらは、それぞれ単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
【0044】
尿素は、熱分解温度が135℃であり、この135℃を超える状態でアンモニアとイソシアン酸に分解されるが、尿素をセルロース繊維と同時に混練することにより、混練によって新たにセルロース繊維内部から現れた未変性水酸基と発生したイソシアン酸とが反応しウレタン結合の生成を促すと考えられ、尿素処理を行わないセルロース繊維と比較して疎水性が高まることが推測される。さらに酸無水物を有する熱可塑性樹脂(B1)と同時に溶融混練することで、セルロース繊維の表面に尿素処理によって新たに導入されたアミノ基と熱可塑性樹脂(B1)が有するカルボン酸が親水性相互作用することで、より強固にセルロース繊維と熱可塑性樹脂(B1)との複合体を形成することが可能となっていると考えられる。
【0045】
尿素およびその誘導体(C)の配合量は、(C)の配合量が多すぎるために繊維が凝集し、強度が低下することを抑制する観点から、リグニンを除いたパルプ繊維(A)の質量に対する尿素およびその誘導体(C)の質量の割合が、0.8未満であることが好ましく、0.05以上0.75未満がより好ましく、0.1以上0.7未満がさらに好ましい。なお、リグニンを除いたパルプ繊維(A)の固形分質量に対する尿素およびその誘導体(C)の質量の割合は、下記式(c)で表すことができる。
式(c):(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
ここで、上記式中のリグニン量は、パルプ繊維(A)中のリグニンの質量%から求められるものであり、例えば、リグニンが10質量%含まれるパルプ繊維(A)のリグニン量は10とする(以下も同様とする)。
【0046】
(繊維強化樹脂マスターバッチ)
本発明の繊維強化樹脂マスターバッチは、パルプ繊維(A)、熱可塑性樹脂(B1)、熱可塑性樹脂(B2)、尿素またはその誘導体(C)を含み、かつ、下記式(a)及び式(b)を同時に満足する。なお、下記式(a)、(b)中のA質量は、パルプ繊維(A)の固形分質量を示す。
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
上記式(a)は、マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂(B2)の質量は0より多く、熱可塑性樹脂(B1)の質量以下であることを示す。
上記式(b)は、マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂(B2)の質量は0より多く、尿素またはその誘導体(C)の質量以下であることを示す。
【0047】
(繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法)
本発明の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法は、特に限定されないが、例えば、下記工程(i)及び工程(ii)を行うことにより製造することができる。
【0048】
(工程(i))
工程(i)では、パルプ繊維(A)と、熱可塑性樹脂(B1)と、尿素またはその誘導体(C)とを、尿素またはその誘導体(C)の分解温度以下の温度で乾燥及び撹拌し、混合物を得る。
【0049】
工程(i)において、パルプ繊維(A)と、熱可塑性樹脂(B1)と、尿素またはその誘導体(C)とを乾燥及び撹拌する装置としては、乾燥機としては、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機を用いて行うことができるが、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサーといった回転軸が垂直に立ち撹拌翼で分散させながら乾燥が可能なミキサー、レーディゲミキサーなどの回転軸が水平の撹拌翼で分散させながら乾燥が可能なミキサー、一軸または多軸混練機(押出機)、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、回分式乾燥機等の撹拌と乾燥を同時に実施できるミキサーを挙げることができる。
【0050】
(工程(ii))
工程(ii)では、熱可塑性樹脂(B2)と、工程(i)で得られた混合物とを、パルプ繊維(A)の分解温度以下の設定温度で混練することにより、マスターバッチを製造する。
【0051】
本発明の工程(ii)で混練を行う装置としては、一軸または多軸混練機(押出機)を用いることが好ましい。パルプ繊維(A)と熱可塑性樹脂(B1)及び熱可塑性樹脂(B2)とを溶融混練可能であることに加え、パルプのナノ化を促す強い混練力を有する観点から、二軸混練機(押出機)、四軸混練機(押出機)等の多軸混練機(押出機)を、スクリューを構成するパーツにニーディングやローターなどを複数含む構成であることが望ましい。
【0052】
なお、本発明の繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法は、上記工程(ii)の後に、マスターバッチを水で洗浄する工程を設けてもよい。洗浄に用いる水の温度は、好ましくは室温~100℃、より好ましくは50~100℃である。洗浄後は、母材として用いる熱可塑性樹脂(M)の分解防止、および混練時の乾燥負荷軽減の観点から、含水率が0.1~5%程度になるまで乾燥することが好ましい。
【0053】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、上記の繊維強化樹脂マスターバッチと、母材としての熱可塑性樹脂(M)とが混練されてなるものである。本明細書において、熱可塑性樹脂(M)は、希釈用樹脂と呼ぶこともある。
【0054】
(熱可塑性樹脂(M))
本発明に用いる熱可塑性樹脂(M)としては、溶融温度が250℃以下の、以下の一般的な熱可塑性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂(M)は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上の樹脂を混合して使用してもよい。
【0055】
一般的な熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリ乳酸、乳酸とエステルとの共重合樹脂、ポリグリコール酸、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリアセタール、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロースなど)等を使用することができる。
【0056】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン(以下「PP」とも記す)、エチレン-プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどを使用することが可能である。
【0057】
またポリアミド樹脂(PA)は、尿素の作用を受けていないセルロースの水酸基との相互作用も期待され、好適に使用することができる。PAとしては、ポリアミド6(ナイロン6、PA6)、ポリアミド11(ナイロン11、PA11)、ポリアミド12(ナイロン12、PA12)、ポリアミド66(ナイロン66、PA66)、ポリアミド46(ナイロン46、PA46)、ポリアミド610(ナイロン610、PA610)、ポリアミド612(ナイロン612、PA612))等の脂肪族PA、フェニレンジアミン等の芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイル等の芳香族ジカルボン酸又はその誘導体からなる芳香族PA等を挙げることができる。セルロース繊維、セルロースナノファイバーとの親和性が高い観点から、脂肪族PAを用いることが好ましく、PA6、PA11、PA12を用いることがより好ましく、PA6を用いることが特に好ましい。また、ポリアミド樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上のポリアミド樹脂を混合して使用してもよい。
【0058】
上記で例示した樹脂は、ホモポリマーとしての使用の他に、各種公知の機能を有する樹脂を半量以下含むコポリマーとしたブロック共重合体として使用することも可能である。
【0059】
(樹脂組成物の製造方法)
上記の繊維強化樹脂マスターバッチと、母材としての熱可塑性樹脂(M)とを混練することにより、樹脂組成物を得る。
【0060】
熱可塑性樹脂(M)を加えて溶融混練する際には、マスターバッチと熱可塑性樹脂(M)とを室温下で加熱せずに混合してから溶融混練しても、加熱しながら混合して溶融混練しても良い。
【0061】
熱可塑性樹脂(M)を加えて溶融混練を行う場合の装置としては、上記のマスターバッチの製造方法の工程(ii)で用いる装置と同様のものを使用することができる。また、溶融混練時の加熱設定温度は、熱可塑性樹脂(M)について熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度±10℃程度が好ましい。温度をこの温度範囲に設定することにより、パルプと樹脂を均一に混合することができる。
【0062】
本発明の製造方法により製造される樹脂組成物は、更に、例えば、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0063】
本発明によれば、高い引張弾性率を有し、さらに、セルロース由来の凝集塊による黒点の発生が抑制された樹脂組成物を得ることができる繊維強化樹脂マスターバッチ、及びこれを用いた樹脂組成物を提供することができる。また、この繊維強化樹脂マスターバッチの製造方法、及び樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0064】
(用途)
本発明の樹脂組成物を用いて、成形材料及び成形体(成型材料及び成型体)を製造することができる。成形体の形状としては、フィルム状、シート状、板状、ペレット状、粉末状、立体構造など各種形状等の各種形状の成形体が挙げられる。成形方法として、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等を用いることができる。
【0065】
成形体(成型体)は、セルロース繊維を含むマトリックス成形物(成型物)が使用される繊維強化プラスチック分野に加え、熱可塑性及び機械強度(引張強度等)が要求される分野にも使用できる。
【0066】
自動車、電車、船舶、飛行機等の輸送機器の内装材、外装材、構造材等;パソコン、テレビ、電話、時計等の電化製品等の筺体、構造材、内部部品等;携帯電話等の移動通信機器等の筺体、構造材、内部部品等;携帯音楽再生機器、映像再生機器、印刷機器、複写機器、スポーツ用品等の筺体、構造材、内部部品等;建築材;文具等の事務機器等、容器、コンテナー等として有効に使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0068】
(カナダ標準濾水度(CSF)の測定)
実施例および比較例で用いたパルプ繊維のカナダ標準濾水度は、JIS P 8121-2:2012に従い測定した。
【0069】
(リグニン含有量の測定)実施例および比較例で用いたパルプ繊維のリグニン含有量は、定量法として通常用いられるクラーソン法に基づき測定した(クラーソンリグニン)。また、リグニン含有量は、JIS P 8211:2011に従い測定したカッパー価をもとに導出することもできる。一般的にパルプの種類ごとにリグニン含有量とカッパー価の関係は変化するため、上記クラーソンリグニンとの相関を導出する必要があり、例えば針葉樹クラフトパルプの場合はリグニン含有量=カッパー価×0.15で導出することもできる。なお、本明細書においては、リグニン含有量が10質量%の場合は、リグニン量10とした。
【0070】
(引張弾性率の測定)
実施例および比較例で得られたペレット状の樹脂成形体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度200℃、金型温度40℃の条件で、ダンベル型試験片(タイプA12、JIS K 7139)を成形した。得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG-Xplus」)を用いて、試験速度1mm/分、初期標線間距離30mmで引張弾性率を測定した。希釈用樹脂(hPP)のみを用いて上記と同様にダンベル型試験片を成形し、得られた試験片について上記と同様に引張弾性率を測定し、hPPニート樹脂の引張弾性率を100としたときの、各サンプルの測定値の比率を補強率とし、その結果を表1に示す。
【0071】
(樹脂組成物の凝集塊の有無の評価)
実施例および比較例で得られたペレット状の樹脂成形体60mgを株式会社神藤金属工業所製の圧縮成型機を用いて200℃で2.5MPaとなるまでプレスすることにより、およそ直径35mm×厚さ0.1mmのフィルムを作製した。このフィルムを目視で確認し、黒点が見える場合を凝集塊「有り」、黒点が見えない場合を凝集塊「なし」とした。結果を表1に示す。
【0072】
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した材料)
(A)パルプ繊維(分解温度:299℃)
(B1)熱可塑性樹脂
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP):(東洋紡(株)製 トーヨータックPMA-H1000P:ジカルボン酸の付加量 57mgKOH/g、融点:150℃)
(B2)熱可塑性樹脂
・ホモポリプロピレン(hPP):(日本ポリプロ(株)製PP MA04A、融点:165℃)
・ブロックポリプロピレン(bPP):((株)プライムポリマー製 J-466HP、融点:160~165℃)
・高密度ポリエチレン(HDPE):(日本ポリエチレン(株)製 HJ360、融点:132℃)
・低密度ポリエチレン(LDPE):((株)プライムポリマー製 ULT-ZEX 20200J、融点:95~135℃)
・線状低密度ポリエチレン(LLDPE):(旭化成(株)製 サンテックLD M6520、融点:124℃)
(C)尿素:(粉末状:和光純薬工業製)
(M)希釈用樹脂
・ホモポリプロピレン(hPP):(日本ポリプロ(株)製PP MA04A、融点:165℃)
【0073】
(製造例1)
(パルプ繊維1の製造)
固形分濃度18質量%の針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)をカナダ標準濾水度(CSF)が222mLになるまでシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業社製、プレートの刃幅:4mm、溝幅:5mm)を用い、クリアランス:0.25mmの条件で3回叩解処理を行い、含水率20%のパルプ繊維1を得た。パルプ繊維1のリグニン含有量は、7.9質量%であった。
【0074】
(製造例2)
(パルプ繊維2の製造)
固形分濃度18質量%の針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)をカナダ標準濾水度(CSF)が128mLになるまでシングルディスクリファイナー(熊谷理機工業社製、プレートの刃幅:4mm、溝幅:5mm)を用い、クリアランス:0.25mmの条件で4回叩解処理を行い、含水率20%のパルプ繊維2を得た。パルプ繊維2のリグニン含有量は、9.1質量%であった。
【0075】
(実施例1)
(マスターバッチの製造)
製造例1で製造したパルプ繊維1を固形分で391gと、MAPP108gと、尿素36gを、二軸押出機を用いて130℃以下の条件で乾燥及び撹拌し、混合物を得た。この混合物の全量とHDPE36gを、二軸押出機を用いて180℃以下の条件で混練し、マスターバッチを得た。
【0076】
(樹脂組成物の製造)
得られたマスターバッチ32gと希釈用樹脂(hPP)168gとを混合し、二軸押出機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、パルプ繊維1、MAPP、尿素由来化合物、HDPE、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0077】
(実施例2)
マスターバッチの製造において、用いた尿素の量を108gとしたこと以外は実施例1と同様にしてマスターバッチを製造した。得られたマスターバッチ36gと希釈用樹脂(hPP)164gとを混合し、二軸押出機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、パルプ繊維1、MAPP、尿素由来化合物、HDPE、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0078】
(実施例3)
マスターバッチの製造において、用いた尿素の量を108gとしたこと、及び、用いたHDPEの量を108gとしたこと以外は実施例1と同様にしてマスターバッチを製造した。得られたマスターバッチ40gと希釈用樹脂(hPP)160gとを混合し、二軸押出機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、パルプ繊維1、MAPP、尿素由来化合物、HDPE、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0079】
(実施例4)
(マスターバッチの製造)
製造例2で製造したパルプ繊維2を固形分で396gと、MAPP108gと、尿素252gを、二軸押出機を用いて130℃以下の条件で乾燥及び撹拌し、混合物を得た。この混合物の全量とHDPE108gを、二軸押出機を用いて180℃以下の条件で混練し、マスターバッチを得た。
【0080】
(樹脂組成物の製造)
得られたマスターバッチ48gと希釈用樹脂(hPP)152gとを混合し、二軸押出機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、パルプ繊維2、MAPP、尿素由来化合物、HDPE、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0081】
(実施例5)
HDPEに代えてLDPEを用いたこと以外は実施例1と同様にして、マスターバッチおよび樹脂組成物(成形体)を製造した。
【0082】
(実施例6)
HDPEに代えてLDPEを用いたこと以外は実施例2と同様にして、マスターバッチおよび樹脂組成物(成形体)を製造した。
【0083】
(実施例7)
HDPEに代えてLLDPEを用いたこと以外は実施例1と同様にして、マスターバッチおよび樹脂組成物(成形体)を製造した。
【0084】
(実施例8)
HDPEに代えてLLDPEを用いたこと以外は実施例2と同様にして、マスターバッチおよび樹脂組成物(成形体)を製造した。
【0085】
(実施例9)
HDPEに代えてhPPを用いたこと以外は実施例4と同様にして、マスターバッチおよび樹脂組成物(成形体)を製造した。
【0086】
(実施例10)
HDPEに代えてbPPを用いたこと以外は実施例4と同様にして、マスターバッチおよび樹脂組成物(成形体)を製造した。
【0087】
(比較例1)
マスターバッチの製造において、用いたHDPEの量を108gとしたこと以外は実施例1と同様にしてマスターバッチを製造した。得られたマスターバッチ36gと希釈用樹脂(hPP)164gとを混合し、二軸押出機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、パルプ繊維1、MAPP、尿素由来化合物、HDPE、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0088】
(比較例2)
HDPEを用いなかったこと以外は実施例4と同様にしてマスターバッチを製造した。得られたマスターバッチ42gと希釈用樹脂(hPP)158gとを混合し、二軸押出機を用いて180℃以下の加熱条件下で混練した。次いで溶融混練物を、ペレタイザーを用いてペレット化し、パルプ繊維2、MAPP、尿素由来化合物、希釈用樹脂(hPP)を含むペレット状の樹脂組成物(成形体)を得た。
【0089】
【0090】
表1の実施例1~10からわかるように、カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下のパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B1)と、親水性官能基で変性されておらず、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B2)と、尿素またはその誘導体(C)と、を含み、かつ、下記式(a)及び式(b)を同時に満たす繊維強化樹脂マスターバッチを用いると、これを熱可塑性樹脂(M)で希釈混練して得られた樹脂組成物は、引張弾性率に優れるものであり、この樹脂組成物から作成したフィルムは、黒点が確認されず、セルロース由来の凝集塊が無かった。
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
一方、比較例1は、尿素の添加量が熱可塑性樹脂(B2)の添加量より少なく、式(b)を満たさず、実施例1~10のマスターバッチを用いた樹脂組成物と比較すると、引張弾性率に劣るものであった。
また、比較例2は、熱可塑性樹脂(B2)を含まないものであり、このマスターバッチを用いた樹脂組成物から作成したフィルムは、黒点が確認された。すなわち、セルロース由来の凝集塊が存在することがわかった。
【要約】
カナダ標準濾水度が0mL以上600mL以下、リグニン含有量が1質量%以上30質量%以下のパルプ繊維(A)と、親水性官能基で変性されており、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B1)と、親水性官能基で変性されておらず、融点が、母材となる熱可塑性樹脂(M)の融点以下である熱可塑性樹脂(B2)と、尿素またはその誘導体(C)と、を含み、かつ、下記式(a)及び式(b)を同時に満たす。
式(a):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(B1質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}
式(b):0<(B2質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}≦(C質量)/{(A質量)×(100-リグニン量)/100}