(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】キャパシタ、キャパシタ用固体電解質粒子の製造方法、及び、キャパシタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 11/56 20130101AFI20221004BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20221004BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20221004BHJP
【FI】
H01G11/56
H01G4/30 201L
H01G11/84
(21)【出願番号】P 2018144604
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 正義
(72)【発明者】
【氏名】畠 宏太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺西 貴志
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/056558(WO,A1)
【文献】特開2018-041902(JP,A)
【文献】特開昭63-245871(JP,A)
【文献】特開2008-130844(JP,A)
【文献】特開2015-130481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、
前記固体電解質層を少なくとも一部分で挟むように配置された少なくとも一対の電極と、
を備えるキャパシタであって、
前記固体電解質層は、リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分の少なくとも一部が誘電体成分で被覆された固体電解質粒子を含
み、
前記固体電解質粒子は、
前記固体電解質成分と前記誘電体成分との間に、前記固体電解質成分及び前記誘電体成分の少なくとも一部が反応した反応層を有する、
キャパシタ。
【請求項2】
固体電解質層と、
前記固体電解質層を少なくとも一部分で挟むように配置された少なくとも一対の電極と、
を備えるキャパシタであって、
前記固体電解質層は、リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分の少なくとも一部が誘電体成分で被覆された固体電解質粒子を含み、
前記誘電体成分は、(A)チタン酸バリウム、(B)チタン酸ストロンチウム、又は、(C)これらを組成に含む三元型又は四元型以上の酸化物を含む、
キャパシタ。
【請求項3】
前記固体電解質層において、前記誘電体成分の含有量は、前記固体電解質成分に対して、3体積%以上30体積%以下である、
請求項1
または2に記載のキャパシタ。
【請求項4】
前記固体電解質層において、前記誘電体成分の含有量は、前記固体電解質成分に対して、10体積%以上25体積%以下である、
請求項
3に記載のキャパシタ。
【請求項5】
前記固体電解質層において、前記誘電体成分の含有量は、前記固体電解質成分に対して、2.3モル%以上22.8モル%以下である、
請求項1
または2に記載のキャパシタ。
【請求項6】
前記固体電解質層において、前記誘電体成分の含有量は、前記固体電解質成分に対して、7.5モル%以上19.0モル%以下である、
請求項
5に記載のキャパシタ。
【請求項7】
前記固体電解質成分は、リチウム含有酸化物である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項8】
前記固体電解質成分は、La
xLi
yTiO
3である(ただし、xは0.54以上0.59以下、yは0.24以上0.39以下)、
請求項7に記載のキャパシタ。
【請求項9】
前記誘電体成分は、ペロブスカイト形構造を有する、
請求項1から8のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項10】
前記固体電解質層と前記電極が少なくとも一部が重なるように交互に積層された構造を有する、
請求項1から
9のいずれか1項に記載のキャパシタ。
【請求項11】
リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分を、誘電体成分源を有する有機金属化合物含有溶液で浸漬し、その後、乾燥する仮被覆段階と、
乾燥された前記固体電解質成分を仮焼成し、粒子状の固体電解質成分の少なくとも一部分が誘電体成分で被覆された固体電解質粒子を生成する仮焼成段階と、
を備えるキャパシタ用固体電解質粒子の製造方法。
【請求項12】
リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分を、誘電体成分源を有する有機金属化合物含有溶液で浸漬し、その後、乾燥する仮被覆段階と、
乾燥された前記固体電解質成分を仮焼成し、粒子状の固体電解質成分の少なくとも一部分が誘電体成分で被覆された固体電解質粒子を生成する仮焼成段階と、
少なくとも前記固体電解質粒子、バインダー樹脂、及び、溶媒を混合して、スラリーを生成するスラリー生成段階と、
前記スラリーをフィルムに塗布して固体電解質シートを作製する固体電解質シート作製段階と、
前記固体電解質シートに電極パターンを形成し、電極形成シートを作製する電極形成シート作製段階と、
前記電極形成シートから前記フィルムを剥離したものを積層して半積層体を形成する半積層体形成段階と、
を備えるキャパシタの製造方法。
【請求項13】
前記固体電解質シートから前記フィルムを剥離して固体電解質層を作製する段階と、
前記半積層体の上面及び下面の少なくとも一方に、前記固体電解質層又は前記固体電解質層を積層したものを張り付けて、積層体を形成する段階と、
を更に備える請求項
12に記載のキャパシタの製造方法。
【請求項14】
前記積層体を焼成する焼成段階を更に備える、
請求項
13に記載のキャパシタの製造方法。
【請求項15】
焼成した前記積層体に外部電極を取り付ける外部電極取付段階を更に備える、
請求項
14に記載のキャパシタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ、キャパシタ用固体電解質粒子の製造方法、及び、キャパシタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解質を電極で挟む構造を有する固体電解質キャパシタが知られている(例えば、特許文献1)。固体電解質キャパシタは、比誘電率が高いが、絶縁抵抗が低かった。また、固体電解質キャパシタは、誘電損失が大きい問題も有していた。誘電体のみを用いたキャパシタは、絶縁抵抗が高いが、室温で十分な比誘電率を有していなかった。
特許文献1:特開2018-41917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高比誘電率、高絶縁抵抗、及び、低誘電損失の少なくとも1つを実現する、キャパシタと、キャパシタ用固体電解質粒子の製造方法と、キャパシタの製造方法とを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、固体電解質層と、固体電解質層を少なくとも一部分で挟むように配置された少なくとも一対の電極と、を備えるキャパシタを提供する。固体電解質層は、固体電解質粒子を含む。固体電解質粒子は、リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分を有する。更に、固体電解質成分の少なくとも一部は、誘電体成分で被覆される。
【0005】
本発明の第2の態様においては、キャパシタ用固体電解質粒子の製造方法を提供する。当該製造方法は、仮被覆段階と、仮焼成段階とを備える。仮被覆段階は、粒子状の固体電解質成分を、誘電体成分源を有する有機金属化合物含有溶液で浸漬することを含む。粒子状の固体電解質成分は、リチウムイオン伝導性を有する。また、仮被覆段階は、更に、その後、乾燥することを含む。仮焼成段階は、乾燥された固体電解質成分を仮焼成する段階を含む。これにより、仮焼成段階は、固体電解質成分の少なくとも一部が誘電体成分で被覆された固体電解質粒子を生成する。
【0006】
本発明の第3の態様においては、キャパシタの製造方法を提供する。当該製造方法は、仮被覆段階と、仮焼成段階と、スラリー生成段階と、固体電解質シート作製段階と、電極形成シート作製段階と、積層体形成段階とを備える。仮被覆段階は、粒子状の固体電解質成分を、誘電体成分源を有する有機金属化合物含有溶液で浸漬することを含む。粒子状の固体電解質成分は、リチウムイオン伝導性を有する。また、仮被覆段階は、更に、その後、乾燥することを含む。仮焼成段階は、乾燥された固体電解質成分を仮焼成する段階を含む。これにより、仮焼成段階は、固体電解質成分の少なくとも一部が誘電体成分で被覆された固体電解質粒子を生成する。
【0007】
スラリー生成段階は、少なくとも固体電解質粒子、バインダー樹脂、及び、溶媒を混合することを含む。これにより、スラリー生成段階は、スラリーを生成することを含む。固体電解質シート作製段階は、スラリーをフィルムに塗布して固体電解質シートを作製することを含む。電極形成シート作製段階は、固体電解質シートに電極パターンを形成し、電極形成シートを作製することを含む。積層体形成段階は、電極形成シートからフィルムを剥離したものを積層して積層体を形成することを含む。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態におけるキャパシタ10の一例を示す。
【
図2】本実施形態における固体電解質層110の構造の一例である。
【
図3】本実施形態の変形例におけるキャパシタ11の一例を示す。
【
図4】本実施形態におけるキャパシタ10の製造方法の一例である。
【
図5】本実施形態における固体電解質シート20の一例である。
【
図6】本実施形態における電極形成シート22の一例である。
【
図7】本実施形態における半積層体24の一例である。
【
図8】本実施形態における積層体28の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが、発明の解決手段に必須であるとは限らない。以下の実施形態において、特に記載しない限り、操作及び測定等は、室温、相対湿度40%RH以上60%RH以下かつ常圧の条件で行われてよい。室温は、例えば、25℃であってよい。常圧は、例えば、1気圧であってよい。
【0011】
[1]キャパシタ:
本実施形態に係るキャパシタの構造について説明する。
【0012】
図1は、本実施形態におけるキャパシタ10の一例を示す。キャパシタ10は、回路基板等の受動素子として用いられる。キャパシタ10は、固体電解質層110、電極対120、外部層130、及び、外部電極対140を備える。キャパシタ10は、例えば、直方体形状であってよい。
【0013】
固体電解質層110は、固体電解質成分、及び、誘電体成分を含む。固体電解質成分は、リチウムイオン伝導性を有する。例えば、固体電解質成分は、リチウム含有酸化物であってよい。一例として、固体電解質成分は、LaxLiyTiO3であってよい。ここで、xは0.54以上0.59以下である。また、yは0.24以上0.39以下である。
【0014】
誘電体成分は、ペロブスカイト形構造を有する金属酸化物であってよい。一例として、誘電体成分は、(A)チタン酸バリウム、(B)チタン酸ストロンチウム、又は、(C)これらを組成に含む三元型若しくは四元型以上の酸化物を含んでよい。(C)三元型若しくは四元型以上の酸化物の場合、誘電体成分は、チタンと、バリウム又はストロンチウムとに加え、様々な元素を含んでよい。例えば、誘電体成分は、カルシウム、及び/又は、ジルコニウムを含んでよい。
【0015】
固体電解質層110の厚みは特に制限されない。固体電解質層110は、例えば1μm以上500μm以下の厚みを有してよい。
【0016】
電極対120は、固体電解質層110を少なくとも一部分で挟むように配置される。電極対120は、電極121及び電極122を有する。電極121及び電極122は板状又は膜状であってよい。電極121は、固体電解質層110の一方の面に配置される。電極122は、固体電解質層110の他方の面に配置される。例えば、電極121は陽極であり、電極122は陰極であってよい。
【0017】
電極121及び電極122の厚みは特に制限されない。電極121及び電極122の厚みは、例えば0.3μm以上3.0μm以下の厚みを有してよい。
【0018】
キャパシタ10は、少なくとも一対の電極対120を備える。
図1には、一対の電極対120が記載される。しかし、後述するように、キャパシタ10は、複数対の電極対120を備えてよい。電極対120は、金属ペーストを印刷することにより製造されたものであってよい。また、電極対120は、板状金属を加工することにより製造されたものであってもよい。
【0019】
外部層130は、固体電解質層110及び電極対120を少なくとも一部分で挟むように配置される。ここで、外部層130は、固体電解質層110及び電極対120の上面及び下面の露出部分を覆う。これにより、外部層130は、固体電解質層110及び電極対120は外部から電気的に隔離する。
【0020】
例えば、外部層130は、電極121の固体電解質層110と接する面の反対側に設けられる。また、外部層130は、電極122の固体電解質層110と接する面の反対側にも設けられてよい。これにより、固体電解質層110、電極対120及び外部層130は直方体構造を形成してよい。
【0021】
一実施形態において、外部層130は、固体電解質層110と同一の成分から構成されてよい。これに代えて、外部層130は、固体電解質層110とは別の成分から構成されてよい。例えば、外部層130は、誘電体成分を含まず固体電解質成分から構成されてよい。また、例えば、外部層130は、固体電解質成分を含まず誘電体成分から構成されてよい。
【0022】
外部層130の厚みは特に制限されない。外部層130は、例えば100μm以上20000μm以下の厚みを有してよい。
【0023】
外部電極対140は、電極対120を外部に電気的に接続する。外部電極対140は、外部電極141及び外部電極142を有する。外部電極対140は、固体電解質層110、電極対120及び外部層130を、側面から少なくとも一部分で挟むように配置される。外部電極141は、電極121の端部に接続される。外部電極142は、電極122の端部に接続される。外部電極対140は、金属ペーストを印刷したものであってよい。又は、外部電極対140は板状金属を加工したものであってよい。
【0024】
図2は、本実施形態における固体電解質層110の構造の一例である。図示するように、固体電解質層110は、固体電解質粒子112を有する。固体電解質粒子112は、リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分116を含む。固体電解質成分116の少なくとも一部は、誘電体成分118で被覆される。これにより、固体電解質粒子112は、固体電解質と誘電体とのコア-シェル構造を形成する。
【0025】
ここで、固体電解質粒子112は、固体電解質成分116と誘電体成分118との間に、反応層(図示せず)を有してよい。反応層は、固体電解質成分116及び誘電体成分118の少なくとも一部が反応したものであってよい。本実施形態によれば、反応層を有することにより、比誘電率、絶縁抵抗、及び、誘電損失の優れたキャパシタを提供することができる。
【0026】
誘電体成分と固体電解質成分では、結晶の格子定数が異なる。この格子定数の違いにより、誘電体成分と固体電解質成分間の界面付近ではひずみが生じる。ひずみを緩和するように、コート層となる誘電体成分では、格子欠陥が生じやすい状態となる。誘電体成分内で格子欠陥が生じると、絶縁抵抗の低下につながるため、界面付近のひずみはできるだけ小さい方が望ましい。固体電解質成分と誘電体成分との界面に反応層が生じることにより、粒界付近のひずみを小さくすることが可能である。例えば、X線解析において、当初の組成と異なるBa、La、Li系化合物のピークが検出されれば、反応層と認められる。一例として、後述する実施例においてBa0.998、La2.235、Ti4.5、O13.5等の組成が検出された場合が挙げられる。
【0027】
固体電解質粒子112の直径は、例えば100nm以上50μm以下であってよい。このうち、粒子状の固体電解質成分116の直径は、50nm以上50μm以下であってよい。また、誘電体成分118の厚みは、10nm以上1μm以下であってよい。また、反応層の厚みは、5nm以上100nm以下であってよい。
【0028】
固体電解質層110全体において、誘電体成分118の含有量は、固体電解質成分116に対して、1体積%以上30体積%以下であってよい。好ましくは、固体電解質成分116に対して、3体積%以上30体積%以下であってよい。好ましくは、誘電体成分118の含有量は、固体電解質成分116に対して、10体積%以上25体積%以下であってよい。
【0029】
また、固体電解質層110全体において、誘電体成分118の含有量は、固体電解質成分116に対して、2.3モル%以上22.8モル%以下であってよい。好ましくは、誘電体成分118の含有量は、固体電解質成分116に対して、7.5モル%以上19.0モル%以下であってよい。
【0030】
誘電体成分の量が上記によりも少ないと、誘電損失を十分に低減できない。また、誘電体成分の量が上記によりも多いと、比誘電率が低くなりすぎる問題が生じる。また、誘電体成分が多くなると、仮焼成が困難になる問題も生じる。
【0031】
本実施形態によれば、上記組成を満たすことにより、比誘電率、絶縁抵抗、及び、誘電損失の優れたキャパシタを提供することができる。固体電解質層110は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、他の添加物等を含んでよい。
【0032】
図3は、本実施形態の変形例におけるキャパシタ11の一例を示す。
図3に示すように、キャパシタ11は、複数の固体電解質層110A、Bと、複数の電極対120A、Bとを備える。電極対120A、Bのそれぞれは、固体電解質層110A、Bのそれぞれを挟むように配置される。これにより、キャパシタ11は、固体電解質と電極が、少なくとも一部が重なるように交互に積層された構造を有する。このようなキャパシタ11は、優れた容量を有する積層セラミックキャパシタ(MLCC)として使用できる。
【0033】
[2]キャパシタの製造方法:
本実施形態のキャパシタの製造方法については特に限定されない。ここで、キャパシタの製造方法の一例を説明する。
【0034】
図4は、本実施形態におけるキャパシタ10の製造方法の一例である。例えば、
図4に示す方法を用いて、
図1から
図3で示したキャパシタ10を製造してよい。当該製造方法は、S110からS170に示す複数の段階を含む。
【0035】
[2.1 仮被覆段階]
まず、S110に示す仮被覆段階を実行する。ここでまず、リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分を、誘電体成分源を有する有機金属化合物含有溶液で浸漬する。有機金属化合物含有溶液は、有機金属化合物を有機溶媒等に溶解させた溶液であってよい。例えば、有機溶媒として、オクチル酸や1-メトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。固体電解質成分は、リチウム含有酸化物であってよい。一例として、固体電解質成分は、LaxLiyTiO3であってよい。ここで、xは0.54以上0.59以下である。また、yは0.24以上0.39以下である。
【0036】
有機金属化合物は、有機酸金属塩又は金属アルコキシドであってよい。例えば、有機金属化合物は、Ba源及び/又はTi源を有する有機酸又はアルコキシドであってよい。その後、浸漬処理された固体電解質成分を乾燥する。
【0037】
次に、S120で示す仮焼成段階を実行する。ここでは、浸漬処理後に乾燥された固体電解質成分を仮焼成する。仮焼成は、例えば、500℃以上1000℃以下の温度で、10分から2時間行ってよい。また、仮焼成の昇温条件は、50℃/時間以上600℃/時間以下であってよい。これにより、粒子状の固体電解質成分が誘電体成分の少なくとも一部で被覆された固体電解質粒子を生成する。固体電解質成分は表面全体が誘電体成分に被覆されてよい。また、固体電解質成分は表面の一部が誘電体成分に被覆されていてよい。この場合、誘電体成分に被覆された部分は、固体電解質成分の表面上で海島状に存在してよい。生成される粒子の直径は、例えば100nm以上50μm以下であってよい。
【0038】
次に、S130で示すスラリー生成段階を実行する。ここでは、固体電解質粒子を含むスラリーを生成する。例えば、少なくともS120で焼成された固体電解質粒子、バインダー樹脂、及び、溶媒を混合する。また、これらに加え、可塑剤を更に添加して混合してもよい。
【0039】
バインダー樹脂は、例えば、ブチラール樹脂であってよい。一例として、バインダー樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂であってよい。
【0040】
溶媒は、特に制限されない。溶媒として、例えば、水、アルコール系溶媒、グリコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族系溶媒、又は、これらの2以上の組み合わせを用いることができる。アルコール系溶媒として、エタノール、メタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール等が挙げられる。グリコール系溶媒として、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が挙げられる。ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。エステル系溶媒として、酢酸ブチル、酢酸エチル、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等が挙げられる。エーテル系溶媒として、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等が挙げられる。芳香族系溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。一例として、エタノール/トルエン混合溶媒を好適に用いることができる。
【0041】
可塑剤は、特に制限されない。例えば、可塑剤としてフタル酸ジオクチルを用いてよい。
【0042】
ここで、材料の混合に湿式ボールミルまたは攪拌ミルを用いてよい。湿式ボールミルを用いる場合、直径0.1mm以上10mm以下の多数のジルコニアボールを用いてよい。混合の混合時間は、例えば8時間以上48時間以下、好ましくは10時間以上24時間以下であってよい。
【0043】
次に、S140で示す固体電解質シート作製段階を実行する。ここでは、S130で生成したスラリーをフィルムに塗布して固体電解質シートを作製する。
【0044】
フィルムは、後の製造過程において、固体電解質層110及び電極対120を担持する。フィルムは、例えば、樹脂フィルムであってよい。フィルムの表面は、離形処理がなされていてよい。一例として、フィルムは、片面に離形処理がなされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであってよい。
【0045】
種々の塗工方法により塗布を行ってよい。例えば、ドクターブレード法、カレンダーロール法、スピンコート法、ダイコート法、又は、コンマコート法等により、スラリーの塗布を実行してよい。スラリーの塗布後に、スラリーを乾燥してよい。塗布後の固体電解質シートを、必要に応じて、所望の大きさに裁断してよい。
【0046】
図5は、本実施形態における固体電解質シート20の一例である。S140において、フィルム210の一面上に、乾燥スラリー層220を形成する。
【0047】
次に、S150で示す電極形成シート作製段階を実行する。ここでは、S140で作製した固体電解質シートに電極パターンを形成し、電極形成シートを作製する。例えば、固体電解質シートに内部電極用導電性ペーストを印刷する。印刷の方法として、例えば、スクリーン印刷を用いてよい。また、内部電極用導電性ペーストとして、Cu、Ni、W、Mo、Ag及び/又はPd等を含むペーストを用いることができる。一例として、内部電極用導電性ペーストはAg-Pd電極材料を含んでよい。
【0048】
図6は、本実施形態における電極形成シート22の一例である。S150において、乾燥スラリー層220の一面上に、電極パターン230を形成する。
【0049】
次に、S160で示す電極形成シート作製段階を実行する。ここでは、S150で作製した電極形成シートからフィルムを剥離したものを積層して積層体を形成する。例えば、電極形成シートからフィルムを剥離したものを用意する。このようにして得られたシートを「積層用シート」とする。次に、電極形成シートの電極パターン側の面に、積層用シートの固体電解質層側の面を対向させて、積層する。
【0050】
電極形成シートには、任意の枚数の積層用シートを積層してよい。例えば、電極形成シートに1枚以上10枚以下の積層用シートを積層してよい。その後、基材として機能したフィルムを剥離してよい。このようにして得られた積層体を「半積層体」ともいう。
【0051】
図7は、本実施形態における半積層体24の一例である。積層用シート240が、電極形成シート22の一面上に積層される。積層用シート240は、乾燥スラリー層220及び電極パターン230を有する。電極形成シート22及び積層用シート240の積層構造から、フィルム210を剥離すると、半積層体24が得られる。
【0052】
なお、半積層体24を、積層用シート240のみを積層することにより製造してもよい。また、積層用シート240は2枚以上、任意の枚数を積層してよい。
【0053】
更に、S160において、半積層体を用いて積層体を形成する。例えば、固体電解質シートからフィルムを剥離して未硬化の固体電解質層(すなわち、スラリー層)のみを作製する。ここで、固体電解質層を積層したものを「固体電解質積層」として用意する。半積層体の上面及び/又は下面に、固体電解質層又は固体電解質積層を張り付ける。これにより、電極対の内側および外側に固体電解質層が設けられた積層体を形成する。
【0054】
図8は、本実施形態における積層体28の一例である。半積層体24の上面及び下面に固体電解質積層26が配置される。固体電解質積層26は、固体電解質シート20からフィルム210を剥離し、これを積層して得られる。
【0055】
更に、S165において、積層体に対し、焼成段階を実行する。焼成段階は、脱バインダー段階及び本焼成段階を含んでよい。
【0056】
例えば、脱バインダー段階は、積層体を低温で焼成することを含む。これにより、積層体に含まれるバインダー樹脂を除去する。例えば、脱バインダー段階の焼成温度は、180℃以上450℃以下であってよい。脱バインダー処理の時間は、例えば、0.5時間以上48時間以下であってよい。脱バインダー処理は、空気中、又は、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン等)雰囲気で行ってよい。
【0057】
本焼成段階は、脱バインダー段階の後に、積層体を高温で焼成することを含む。これにより、積層体中の固体電解質粒子を焼結する。焼成温度は、例えば1100℃以上1300℃以下、好ましくは1150℃以上1250℃以下であってよい。焼成時間は、特に制限されないが、1時間以上5時間以下、好ましくは1時間以上3時間以下であってよい。昇温条件は、50℃/h以上600℃/h以下、好ましくは100℃/h以上300℃/h以下であってよい。焼成雰囲気は、特に制限されないが、大気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、又は、還元雰囲気下で行ってよい。還元雰囲気は、大気又は不活性ガスに水素及び/又は水蒸気等が混合されたものであってよい。
【0058】
更に、S170において、焼成した積層体に外部電極を取り付ける。例えば、積層体の両側面に外部電極用導電性ペーストを塗布して、外部電極を形成してよい。外部電極用導電性ペーストとして、例えば、内部電極用導電性ペースト材料で挙げたものを用いてよい。又は同ペーストとして、Cu、In-Ga、Ag-10Pd等の合金、及び/又は、グラファイト等のカーボン材料を用いてもよい。さらに必要に応じて、積層体にメッキ処理で被覆層を形成してもよい。これにより、
図1に示すような直方体形状のキャパシタが製造される。
【0059】
このように、S110からS170を経ることにより、高比誘電率、高絶縁抵抗、及び、低誘電損失を実現するキャパシタを製造することができる。
【0060】
[3]実施例
以下、表を用いて本願発明の実施例及び比較例について説明する。
【0061】
[実施例1]
まず、固体電解質粒子を製造する。リチウムイオン伝導性を有する粒子状の固体電解質成分として、La0.57Li0.29TiO3(以下、「LLT」ともいう)を用意した。LLTは、東邦チタニウム株式会社の市販品を使用した。
【0062】
次にLLTの表面を、市販のBa源及びTi源をもつ有機酸塩(2‐エチルヘキサン酸バリウム(Ba(C8H15O2)2)、2‐エチルヘキサン酸チタン(Ti(C8H15O2)4))を溶解した溶液で浸漬した。なお、2‐エチルヘキサン酸バリウム(Ba(C8H15O2)2)、2‐エチルヘキサン酸チタン(Ti(C8H15O2)4))のモル比は1:1である。ここで、誘電体成分の含有量が、固体電解質成分対して3モル%(体積含有率換算で3.3vol%)となるように使用する有機酸塩の量を決定し、浸漬を実行した。
【0063】
次にこれを乾燥した。更に乾燥したLLTを800℃で仮焼成した。これにより、LLTの表面にチタン酸バリウムの被覆を形成した。ここで、仮焼成された粉末をX線回折法(XRD)で測定したところ、LLTの表面とチタン酸バリウムの層との間に、両者が反応した層が確認された。
【0064】
次に、チタン酸バリウムで被覆されたLLTの粉末と、ブチラール樹脂と、フタル酸ジオクチルと、エタノール/トルエン混合溶媒(混合比60/40重量%)とを混合したこれにより、LLTのスラリーを生成した。
【0065】
次に、片面が離形処理されたPETフィルムにLLTのスラリーを塗布した。塗布は、ドクターブレード法で行った。塗布厚さは、30μmとした。これにより、固体電解質シートを作製した。
【0066】
次に、固体電解質シートを、所定の大きさの矩形形状に打ち抜いた。その後、Ag-Pd電極材料を含む電極ペーストを、固体電解質シートにスクリーン印刷した。これにより、電極形成シートを作製した。次に、電極形成シートからPETフィルムを剥離して積層用シートを得た。電極形成シートに積層用シートを積層し、電極形成シートからPETフィルムを剥離した。これにより、一対の電極対を含む半積層体が得られた。
【0067】
固体電解質シートからPETフィルムを剥離したものを5枚積層して、固体電解質積層を得た。半積層体の上面及び下面の両方に、固体電解質積層を積層し、積層体を得た。
【0068】
得られた積層体をWIP(Warm Isostatic Press)により80℃に加熱しながら、48MPaで300秒保持した。これにより、積層体に高圧プレスを行った。高圧プレスされた積層体を、カット機を用いて所定の大きさに個片化した。
【0069】
カットされた積層体を大気雰囲気下で300℃に加熱し、脱バインダーを行った。その後、大気雰囲気下で最高温度1200℃に2時間保持して本焼成を行った。これにより、
図1に示す直方体形状のキャパシタを製造した。
【0070】
[実施例2]
固体電解質粒子の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを製造した。実施例2では、誘電体成分の含有量が、固体電解質成分に対して10モル%(体積含有率換算で11.1vol%)となるように有機酸塩の使用量を決定し、浸漬を実行した。
【0071】
[実施例3]
固体電解質粒子の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを製造した。実施例3では、誘電体成分の含有量が、固体電解質成分に対して20モル%(体積含有率換算で22.2vol%)となるように有機酸塩の使用量を決定し、浸漬を実行した。
【0072】
[実施例4]
固体電解質粒子の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを製造した。実施例4では、誘電体成分の含有量が、固体電解質成分に対して25モル%(体積含有率換算で27.7vol%)となるように有機酸塩の使用量を決定し、浸漬を実行した。
【0073】
[実施例5]
固体電解質粒子の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを製造した。実施例5では、誘電体成分の含有量が、固体電解質成分に対して1モル%(体積含有率換算で1.1vol%)となるように有機酸塩の使用量を決定し、浸漬を実行した。
【0074】
[実施例6]
固体電解質粒子の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを製造した。実施例6では、誘電体成分の含有量が、固体電解質成分に対して30モル%(体積含有率換算で33.3vol%)となるように有機酸塩の使用量を決定し、浸漬を実行した。
【0075】
[実施例7]
固体電解質粒子の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを製造した。実施例7では、誘電体成分の含有量が、固体電解質成分に対して50モル%(体積含有率換算で55.5vol%)となるように有機酸塩の使用量を決定し、浸漬を実行した。
【0076】
[比較例1]
固体電解質粒子の組成を変更したこと以外は、実施例1と同様にキャパシタを製造した。比較例1では、Ba源及びTi源を有する溶液による浸漬を行わなかった。固体電解質粒子の誘電体成分の含有量は、固体電解質成分に対して、0vol%(0モル%)であった。
【0077】
実施例1~7及び比較例1において製造したキャパシタの性能を測定した。比誘電率と誘電損失の測定には、Agilent製4294Aを用いた。測定電圧1V/μm、測定周波数1kHzで、比誘電率と誘電損失を測定した。絶縁抵抗の測定には、Agilent製4339Bを用いた。測定電圧50V/mmで、絶縁抵抗値を測定した。測定結果を表1に示す。なお、誘電損失及び絶縁抵抗は、比較例1における値を1とした場合の、割合を表す。
【表1】
【0078】
表1に示す通り、実施例1~7において、誘電損失の大きな改善が見られた。また、実施例1~4では、2000以上の比誘電率、及び、比較例1に対し1/3程度以下の誘電損失を実現できた。更に実施例2~4によると、比較例1に対し、2倍以上優れた絶縁抵抗を有することが認められた。これは実施例2~4によると、誘電体成分が固体電解質成分による電子漏洩を効果的に防止できたためと思われる。一方で、実施例6~7によると、高い絶縁抵抗と低い誘電損失を有する一方で、比誘電率が1300以下となった。従って、絶縁抵抗、比誘電率、及び誘電損失の総合的な観点から、特に実施例2~4は、他の実施例よりも実用的である。
【0079】
以上の結果から、固体電解質成分が誘電体成分で被覆された固体電解質粒子を含む場合に、有用なキャパシタを提供できた。特に、誘電体成分の含有量が、概ね3体積%以上30体積%以下の場合、比誘電率、及び、誘電損失を改善できた。また、誘電体成分の含有量が、概ね10体積%以上28体積%以下の場合、これに加え、絶縁抵抗を更に改善できた。
【0080】
本実施形態に係るキャパシタは、様々な用途(特にデカップリングコンデンサとしての用途)に好適に使用できる。
【0081】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明した。本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0082】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示したプロセスおよび方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0083】
10 キャパシタ
20 固体電解質シート
22 電極形成シート
24 半積層体
26 固体電解質積層
28 積層体
110 固体電解質層
112 固体電解質粒子
116 固体電解質成分
118 誘電体成分
120 電極対
121 電極
122 電極
130 外部層
140 外部電極対
141 外部電極
142 外部電極
210 フィルム
220 乾燥スラリー層
230 電極パターン
240 積層用シート