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特許7151069水性ポリウレタン樹脂分散体、その製造方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】水性ポリウレタン樹脂分散体、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20221004BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20221004BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20221004BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C09D11/102
C08G18/00 C
C08G18/08 019
C08G18/44
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017183592
(22)【出願日】2017-09-25
(65)【公開番号】P2019059809
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 健史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 学
(72)【発明者】
【氏名】溝川 有紀
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189886(JP,A)
【文献】特表2009-523867(JP,A)
【文献】特開2007-270362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、インク組成物であって、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体は、(a)ポリオール由来の構造と、(b)ポリイソシアネート由来の構造と、(c)酸性基含有ポリオール由来の構造とを有し、
前記(a)ポリオール由来の構造は、(a1)下記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオール由来の構造を有し、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体の製造において(B)鎖延長剤及び末端停止剤を使用してもよく、(a)ポリオール、(b)ポリイソシアネート、(c)酸性基含有ポリオール、(B)鎖延長剤及び末端停止剤の全量を100質量部とした場合に、前記(a)ポリオールの割合が30~80質量部である、インク組成物。
【化1】
(m、nは、1より大きい数を示す。)
【請求項2】
前記水性ポリウレタン樹脂分散体の製造において、(A)ポリウレタンプレポリマーは、少なくとも、前記(a)ポリオールと、前記(b)ポリイソシアネートと、前記(c)酸性基含有ポリオールとを反応させて得られるものであり、
当該(A)ポリウレタンプレポリマーの酸価(AV)は、4~40mgKOH/gであり、
前記水性ポリウレタン樹脂分散体は、前記(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する工程、前記(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程、及び前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させる工程により得られる、請求項1に記載のインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系媒体中にポリウレタン樹脂を分散させた水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。また、本発明は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法、並びに前記水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する塗料組成物、コーティング用組成物、インク用組成物、及び前記ポリウレタン樹脂分散体を含む組成物を乾燥させて得られるポリウレタン樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン樹脂分散体は、基材への密着性、耐摩耗性、耐衝撃性、耐溶剤性等に優れていることから塗料、インク、接着剤、各種コーティング剤として紙、プラスチックス、フィルム、金属、ゴム、エラストマー、繊維製品等に幅広く使用される。
【0003】
種々の水性ポリウレタン樹脂分散体の中でも、特にポリカーボネートポリオールを原料とした水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得られる塗膜は、耐光性、耐候性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性に優れることが知られている。
【0004】
例えば、ポリオールモノマーとして、1,6-ヘキサンジオールを有するポリカーボネートポリオールとポリエーテルポリオールとを原料とした水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得られる塗膜は、柔軟性、耐加水分解性、耐薬品性、強靭性(即ち、可撓性及び機械的耐久性)に優れることが知られている(特許文献1,2参照)。
【0005】
また、ポリエーテルポリオールを原料とした水性ポリウレタン樹脂を塗布して得られる塗膜は柔軟性、耐加水分解性、耐湿熱性に優れていることが知られている(特許文献3)。
【0006】
さらに、ポリエーテル・ポリカーボネートポリオール組成物を使用することによって、光学成形体、光学シート、光学フィルム、及び発光素子封止材として最適な光学部材用熱可塑性ポリウレタン樹脂が得られることが知られている(特許文献4)。
【0007】
その他、顔料捺染物の摩擦堅牢度、耐洗濯性、耐ドライクリーニング性、ストレッチバック性に優れる捺染インクを得るために、水性ポリウレタン樹脂分散体を使用する方法が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-8888号公報
【文献】特許第4528132号公報
【文献】WO2015-194672
【文献】特開2015-17183号公報
【文献】特開平2-91280号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】接着ハンドブック 第4版 編者:日本接着学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、触感(柔軟性)とタックフリー性は相反する課題であり(非特許文献1)、これら両方の特性に優れた塗膜を与える水性ポリウレタン樹脂分散体は提案されていなかった。さらに、下地追従性、ストレッチバック性(低ヒステリシスロス)を同時に満足する水性ポリウレタン樹脂分散体は提案されていなかった。また、特許文献4に記載されたポリエーテル・ポリカーボネートポリオール組成物を水性ポリウレタン樹脂分散体への適用や水性ポリウレタン樹脂分散体に適用した際の特異な性質について報告されていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、触感が良く、且つ、タックフリー性、下地追従性、ストレッチバック性(低ヒステリシスロス)を有する塗膜を与える水性ポリウレタン樹脂分散体を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、(a)ポリオール由来の構造と、(b)ポリイソシアネート由来の構造と、(c)酸性基含有ポリオール由来の構造とを有する水性ポリウレタン樹脂分散体において、
前記(a)ポリオール由来の構造が、(a1)下記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオール由来の構造を有する、水性ポリウレタン樹脂分散体により、上記課題が解決することを見出し、本発明に至った。
【化1】
(m、nは、1より大きい数を示す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、触感が良く、且つ、タックフリー性、下地追従性、ストレッチバック性(低ヒステリシスロス)を有する塗膜を与える水性ポリウレタン樹脂分散体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施態様を詳細に説明する。なお、本発明のような高分子化合物は、複数種類の原料化合物の反応により多数の構造を有する生成物が得られるものである。そのため、高分子化合物は、包含される多数の構造を一般式で記載することができてもその構造により一義的に示されない。また、その物性について、機器分析等により直接的に測定し、特定することや既存の化合物と区別することは困難である。よって、本発明においては「水性ポリウレタン樹脂分散体」をはじめとした高分子化合物を、必要に応じ製造方法により特定することがある。
【0015】
本発明は、(a)ポリオール由来の構造と、(b)ポリイソシアネート由来の構造と、(c)酸性基含有ポリオール由来の構造とを有する水性ポリウレタン樹脂分散体において、
前記(a)ポリオール由来の構造が、(a1)下記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオール由来の構造を有する、水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。
【化2】
(m、nは、1より大きい数を示す。)
【0016】
<<(a)ポリオール>>
本発明において、水性ポリウレタン樹脂分散体におけるポリオール由来の構造とは、ポリオールの分子構造のうち、ポリウレタン化反応に寄与する基以外の部分構造のことを示す。
また、本発明において、(a)ポリオール由来の構造は、(a1)下記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオール由来の構造を有する。
さらに、(a)ポリオール由来の構造は、(a1)下記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオール由来の構造と(c)酸性基含有ポリオール由来の構造とを除く(a2)その他のポリオール由来の構造を含んでも良い。
【化3】
(m、nは、1より大きい数を示す。)
【0017】
<<(a1)前記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオール>>
(a1)前記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオール由来の構造を有するポリカーボネートポリオールとしては、前記式(1)で示される繰り返し単位と、末端水酸基を有していればよく、その種類は、特に制限されず、複数種の構造を有してもよい。
(a1)前記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオールは、(a1)、あるいは、(a1)カーボネートポリオールとも記載されることがある。
【0018】
(繰り返し単位)
ポリカーボネートポリオール中の繰り返し単位の構造は、ポリカーボネートポリオールを構成するモノマー由来の構造であり、全繰り返し単位数(前記式(1)中のmに該当)は、ポリカーボネートポリオールを構成するモノマーの数に相当する。
従って、ポリカーボネートポリオールに含まれるモノマーの数を測定することにより、全繰り返し単位数(全モノマーの合計モル数)、及び各々の繰り返し単位数(各々のモノマーのモル数)を算出することができる。
【0019】
前記モノマーの測定方法としては、例えば、ポリカーボネートポリオール、エタノール及び塩基を混合し、混合液を加熱して加アルコール分解させることによってモノマーを得た後に、得られたモノマーをガスクロマトグラフィーで分析するなどの方法がある。また、その他のモノマーの測定方法として、ポリカーボネートポリオールを直接プロトン核磁気共鳴スペクトル(H-NMR)により測定する方法もある。
【0020】
式(1)の繰り返し単位を構成するモノマー由来の構造を有するモノマーとしては、例えば、ポリテトラメチレングリコールが挙げられるが、これに限定されない。
【0021】
(式(1)の繰り返し単位)
式(1)で示される繰り返し単位は、具体的には、例えば、ポリテトラメチレングリコールと炭酸エステルとの反応などにより構成される繰り返し単位である。
ポリカーボネートポリオール中の全繰り返し単位に対する式(1)で示される繰り返し単位の割合は、好ましくは10~100モル%、さらに好ましくは50~99.9モル%、特に好ましくは80~99.8モル%である。
この範囲とすることで、ポリカーボネートポリオールから誘導されたポリウレタンは、高い柔軟性(触感)を発現し、さらに良好なタックフリー性が得られる。
【0022】
(その他の繰り返し単位)
本発明の(a1)ポリカーボネートポリオールには、前記繰り返し単位の含有割合を満たしている限り、式(1)の繰り返し単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と称することもある)が含まれていてもよい。その他の繰り返し単位を構成するモノマー(その他のモノマー)としては、例えば、2-メチルー1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール(プロピレン基を主鎖とした場合、1-エチル-2-メチルプロパンジオールとも表記される)、1,4-ブタンジオール、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、3-オキサ-1,5-ペンタンジオール(ジエチレングリコール)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの炭素原子数2~12のジオール;γ-ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトンなどの、炭素原子数5~12のラクトン;ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸などの、炭素原子数5~12のヒドロキシカルボン酸;ヒドロキシブタン酸エステルが挙げられるが、これらに限定されない。
その他の繰り返し単位は、モノマーの種類に応じて、前記式(1)の繰り返し単位において示した方法により、それらの繰り返し単位を形成させることができる。
ポリカーボネートポリオール中のその他の繰り返し単位の割合は、全繰り返し単位から、式(1)の繰り返し単位の合計割合を引いた割合であり、好ましくは0.1~50モル%である。
この範囲内にあることで、本発明の(a1)ポリカーボネートポリオールの機能を損なうことがない。
【0023】
(ポリカーボネートポリオールの数平均分子量)
本発明の(a1)ポリカーボネートポリオールの数平均分子量は、目的に応じて適宜調整することができるが、好ましくは100~5000、更に好ましくは200~4000、より好ましくは300~3000である。
この範囲とすることで、ポリカーボネートポリオールが取り扱い容易となるとともに、ポリカーボネートポリオールから誘導されたポリウレタンの低温特性がより良好となる。
【0024】
(ポリカーボネートポリオールの製造)
本発明の(a1)ポリカーボネートポリオールの製造方法は、特に限定されないが、例えば、ポリテトラメチレングリコール(式(1)の構成成分)、並びにその他のモノマー(その他の繰り返し単位の構成成分)、炭酸エステル及び触媒を混合して、低沸点成分(例えば、副生するアルコールなど)を留去しながら、反応させるなどの方法によって好適に行われる。
なお、本発明の反応は、一旦、ポリカーボネートポリオールのプレポリマー(目的とするポリカーボネートポリオールより低分子量)を得た後、更に分子量を上げるためにプレポリマーを反応させるなど、反応を複数回に分けて行うこともできる。
前記その他のモノマーは、主原料となるポリテトラメチレングリコールに予め含有されていてもよい。
【0025】
原料として、ポリテトラメチレングリコールを使用する場合、その数平均分子量は、好ましくは50~3000、更に好ましくは100~2000、より好ましくは150~1000である。
なお、(a1)ポリカーボネートポリオールは、複数種を併用してもよい。
【0026】
(炭酸エステル)
本発明の反応において使用する炭酸エステルは、例えば、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチルなどの炭酸ジアルキル;炭酸ジフェニルなどの炭酸ジアリール;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート(4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、トリメチレンカーボネート)、ブチレンカーボネート(4-エチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、テトラメチレンカーボネート)、5-メチル-1,3-ジオキサン-2-オンなどの環状カーボネートが挙げられるが、好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネートが使用される。
なお、これらの炭酸エステルは、複数種を併用してもよい。
【0027】
前記炭酸エステルの使用量は、ポリテトラメチレングリコール1モルに対して、好ましくは0.4~2.0モル、更に好ましくは0.5~1.5モルである。
この範囲とすることで、十分な反応速度で、効率良く目的とするポリカーボネートポリオールを得ることができる。
【0028】
(反応温度、及び反応圧力)
本発明の反応における反応温度は、炭酸エステルの種類に応じて適宜調整することができるが、好ましくは50~250℃、更に好ましくは70~230℃である。
また、本発明の反応における反応圧力は、低沸点成分を除去しながら反応させる態様となるような圧力ならば特に制限されず、好ましくは常圧又は減圧下で行われる。
この範囲とすることで、逐次反応や副反応が起こることなく、効率良く目的とするポリカーボネートポリオールを得ることができる。
【0029】
(触媒)
本発明の反応で使用する触媒として、公知のエステル交換触媒を使用することができ、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、コバルト、ゲルマニウム、スズ、セリウムなどの金属、及びそれらの水酸化物、アルコキシド、カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、有機金属などが挙げられるが、好ましくは水素化ナトリウム、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、オキシ酢酸ジルコニウム、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズオキサイドが使用される。
なお、これらの触媒は、複数種を併用してもよい。
【0030】
前記触媒の使用量は、ポリテトラメチレングリコール1モルに対して、好ましくは0.001~0.1ミリモル、更に好ましくは0.005~0.05ミリモル、より好ましくは0.01~0.03ミリモルである。
この範囲とすることで、後処理を煩雑とすることなく、効率良く目的とするポリカーボネートポリオールを得ることができる。
なお、当該触媒は、反応開始時に一括で使用しても、反応開始時、及び反応開始後に2回以上分割して使用(添加)してもよい。
【0031】
<<(a2)その他のポリオール>>
(a)ポリオール由来の構造は、(a1)と(c)酸性基含有ポリオール以外の(a2)その他のポリオール由来の構造を含んでも良い。(a2)その他のポリオール由来の構造を有するポリオールとしては、例えば、高分子量ポリオール又は低分子量ポリオールを用いることができる。(a2)その他のポリオールは、1分子中に2つ以上の水酸基を有していれば、その種類は、特に制限されない。
【0032】
高分子量ポリオールは、特に制限されないが、数平均分子量が400~8,000であることが好ましい。数平均分子量がこの範囲であれば、適切な粘度及び良好な取り扱い性が得られる。また、ソフトセグメントとしての性能の確保が容易であり、得られたポリウレタン樹脂を含む水性樹脂分散体を用いて塗膜を形成した場合に、割れの発生を抑制し易い。更に、(a)ポリオールと(b)ポリイソシアネートとの反応性が充分なものとなり、(A)ポリウレタンプレポリマーの製造を効率的に行うこともできる。高分子量ポリオールは、数平均分子量が400~4,000であることがより好ましい。
【0033】
本明細書において、数平均分子量は、JIS K 1577に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量とする。具体的には、水酸基価を測定し、末端基定量法により、(56.1×1,000×価数)/水酸基価 [mgKOH/g]で算出する。前記式中において、価数は1分子中の水酸基の数である。
【0034】
高分子量ポリオールとしては、特に制限されないが、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。ポリウレタン樹脂を含む水性樹脂分散体、及び該水性樹脂分散体から得られる塗膜の耐光性、耐候性、耐熱性、耐加水分解性、耐油性の点から、ポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0035】
ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得られる。製造が容易な点及び末端塩素化物の副生成がない点から、1種以上のポリオールモノマーと、炭酸エステルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが好ましい。
本発明でいうポリカーボネートポリオールは、その分子中に、1分子中の平均のカーボネート結合の数と同じ又はそれ以下の数のエーテル結合やエステル結合を含有していてもよい。
【0036】
ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、脂肪族ポリオールモノマー、脂環構造を有するポリオールモノマー、芳香族ポリオールモノマー、ポリエステルポリオールモノマー、ポリエーテルポリオールモノマーが挙げられる。
【0037】
脂肪族ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の直鎖状脂肪族ジオール;2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,9-ノナンジオール等の分岐鎖状脂肪族ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコールが挙げられる。
【0038】
脂環構造を有するポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘプタンジオール、2,7-ノルボルナンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等の主鎖に脂環式構造を有するジオールが挙げられる。
【0039】
芳香族ポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,2-ベンゼンジメタノール、4,4’-ナフタレンジメタノール、3,4’-ナフタレンジメタノールが挙げられる。
【0040】
ポリエステルポリオールモノマーとしては、特に制限されないが、例えば、6-ヒドロキシカプロン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のヒドロキシカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール、アジピン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のジカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオールが挙げられる。
【0041】
炭酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルが挙げられる。その他に、ポリカーボネートポリオールを生成することができるホスゲン等も使用できる。中でも、ポリカーボネートポリオールの製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0042】
ポリオールモノマー及び炭酸エステルからポリカーボネートポリオールを製造する方法としては、例えば、反応器中に炭酸エステルと、この炭酸エステルのモル数に対して過剰のモル数のポリオールモノマーとを加え、温度160~200℃、圧力50mmHg程度で5~6時間反応させた後、更に数mmHg以下の圧力において200~220℃で数時間反応させる方法が挙げられる。上記反応においては副生するアルコールを系外に抜き出しながら反応させることが好ましい。その際、炭酸エステルが副生するアルコールと共沸することにより系外へ抜け出る場合には、過剰量の炭酸エステルを加えてもよい。また、上記反応において、チタニウムテトラブトキシド等の触媒を使用してもよい。
【0043】
ポリカーボネートポリオールとしては、特に制限されないが、例えば、1,6-ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6-ヘキサンジオール及び1,5-ペンタンジオールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6-ヘキサンジオール及び1,4-ブタンジオールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6-ヘキサンジオール及び1,4-シクロヘキサンジメタノールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1,6-ヘキサンジオール及び2-メチル-1,5-ペンタンジオールの混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0044】
ポリエステルポリオールとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリへキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、ポリエチレンサクシネートジオール、ポリブチレンサクシネートジオール、ポリエチレンセバケートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリ-ε-カプロラクトンジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレンアジペート)ジオール、1,6-へキサンジオールとダイマー酸の重縮合物等が挙げられる。
【0045】
ポリエーテルポリオールは、分子中にエーテル結合を有するポリオールであれば特に限定されず、1分子中のエーテル結合の平均数未満の数のカーボネート結合及び/又はエステル結合を含有していてもよい。ポリエーテルポリオールは、例えば、環状エーテルの開環重合やエポキシ化合物の開環重合により得られる、アルキレン基がエーテル結合したものであることが好ましい。
【0046】
ポリエーテルポリオールの主鎖の炭素数は、特に限定されないが、入手容易性の観点から主鎖の炭素数は2~4であることが好ましい。ポリウレタンの吸水による耐水性低下を抑制する観点から酸素原子の含有量は少ない方が望ましく、主鎖の炭素数は3~4であることが好ましく、主鎖の炭素数は4であることが特に好ましい。
【0047】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、アルキル側鎖を有するポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリピロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びこれら2種以上の共重合体;エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのランダム共重合体やブロック共重合体又はエチレンオキシドとブチレンオキシドとのランダム共重合体やブロック共重合体等が挙げられ、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、アルキル側鎖を有するポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリピロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びこれら2種以上の共重合体等が好ましい。
【0048】
低分子量ポリオールとしては、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造の容易さから、低分子量ジオールを用いることもできる。低分子量ジオールとしては、特に制限されないが、例えば、数平均分子量が60以上400未満のものが挙げられる。低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の炭素数2~9の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-ビス(ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン等の炭素数6~12の環式構造を有するジオールを挙げることができる。また、前記低分子量ポリオールとして、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコールを用いることもできる。
【0049】
(a)ポリオール中の(a1)前記式(1)で示される繰り返し単位を有するポリカーボネートポリオールの割合は、好ましくは、10-100質量%であり、より好ましくは、30-100質量%であり、更に好ましくは、60-100質量%である。10質量%より多くすることで、より高いストレスバック性を傾向がある。
【0050】
<<(b)ポリイソシアネート>>
本発明において、ポリイソシアネート由来の構造とは、ポリイソシアネートの分子構造のうち、ポリウレタン化反応に関与する基以外の部分構造のことを示す。
(b)ポリイソシアネート由来の構造を有するポリイソシアネートとしては、特に制限されないが、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネートが挙げられる。
【0051】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’-トリフェニルメタントリイソシアネート、m-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
ポリイソシアネートとしては、1分子当たりイソシアナト基を2個有するものを使用することができるが、(A)ポリウレタンプレポリマーがゲル化をしない範囲で、トリフェニルメタントリイソシアネートのような、1分子当たりイソシアナト基を3個以上有するポリイソシアネートも使用することができる。
【0055】
ポリイソシアネートの中でも、塗膜の耐久性、タックフリー性が上がる点から、脂環式ポリイソシアネートが好ましく、反応の制御が行いやすいという点から、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)が特に好ましい。
【0056】
なお、ポリイソシアネートは、複数種を併用してもよい。
【0057】
<<(c)酸性基含有ポリオール>>
本発明において、酸性基含有ポリオール由来の構造とは、酸性基含有ポリオールの分子構造のうち、ポリウレタン化反応に寄与する基以外の部分構造のことを示す。
(c)酸性基含有ポリオール由来の構造を有する酸性基含有ポリオールとしては、1分子中に2個以上の水酸基(フェノール性水酸基は除く)と、1個以上の酸性基を含有するものである。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等が挙げられる。(c)酸性基含有ポリオールとして、1分子中に2個の水酸基と1個のカルボキシ基を有する化合物を含有するものが好ましい。(c)酸性基含有ポリオールは、複数種を併用してもよい。
【0058】
(c)酸性基含有ポリオールとしては、特に制限されないが、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸、N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸が挙げられる。中でも入手の容易さの観点から、2個のメチロール基を含む炭素数4~12のジメチルロールアルカン酸が好ましい。ジメチロールアルカン酸の中でも、2,2-ジメチロールプロピオン酸がより好ましい。
【0059】
本発明において、(a)ポリオールと、(c)酸性基含有ポリオールとの合計の水酸基当量数は、120~1,000であることが好ましい。水酸基当量数が、この範囲であれば、乾燥性、増粘性が上がりやすく、得られたポリウレタン樹脂を含む水性樹脂分散体の製造が容易であり、硬度の点で優れた塗膜が得られやすい。得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性、乾燥性と塗布して得られる塗膜の硬度の観点から、水酸基当量数は、好ましくは150~800、より好ましくは200~700、特に好ましくは300~600である。
【0060】
水酸基当量数は、以下の式(1)及び(2)で算出することができる。
各ポリオールの水酸基当量数=各ポリオールの分子量/各ポリオールの水酸基の数(フェノール性水酸基は除く)・・・(1)
ポリオールの合計の水酸基当量数=M/ポリオールの合計モル数・・・(2)
ポリウレタン樹脂(A)の場合、式(2)において、Mは、[〔(a)ポリオールの水酸基当量数×(a)ポリオールのモル数〕+〔(c)酸性基含有ポリオールの水酸基当量数×(c)酸性基含有ポリオールのモル数〕]を示す。
【0061】
(水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法)
次に、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法について説明する。水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、
前記(a)ポリオールと、前記(c)酸性基含有ポリオールを、前記(b)ポリイソシアネートと反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る工程(α)、
(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する工程(β)、
(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程(γ)、
(A)ポリウレタンプレポリマーと、(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させる工程(δ)を含む。
【0062】
(A)ポリウレタンプレポリマーを得る工程(α)は、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいし、大気雰囲気下で行ってもよい。(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程(γ)において、水系媒体中にポリウレタンプレポリマーを分散させる方法としては、特に制限されないが、例えば、ホモミキサーやホモジナイザー等によって攪拌されている水系媒体中に、(A)ポリウレタンプレポリマーを添加する方法、ホモミキサーやホモジナイザー等によって攪拌されている(A)ポリウレタンプレポリマーに水系媒体を添加する方法等がある。
【0063】
(A)ポリウレタンプレポリマーと、(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させる工程(δ)において、前記工程(δ)は冷却下でゆっくりと行ってもよく、また場合によっては60℃以下の加熱条件下で反応を促進して行ってもよい。冷却下における反応時間は、例えば0.5~24時間とすることができ、60℃以下の加熱条件下における反応時間は、例えば0.1~6時間とすることができる。
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造において、前記工程(β)と、前記工程(γ)とは、どちらを先に行ってもよいし、同時に行うこともできる。前記工程(γ)と、前記工程(δ)は、同時に行ってもよい。更に、前記工程(β)と、前記工程(γ)と、前記工程(δ)は、同時に行ってもよい。
<<(A)ポリウレタンプレポリマー>>
(A)ポリウレタンプレポリマーは、少なくとも、前記(a)ポリオールと、前記(b)ポリイソシアネートと、前記(c)酸性基含有ポリオールとを反応させて得られる。前記(A)ポリウレタンプレポリマーは、末端停止剤を含んでもよい。
【0064】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリオール、(b)ポリイソシアネート、(c)酸性基含有ポリオール、後述する(B)鎖延長剤及び場合により末端停止剤の全量を100質量部とした場合に、前記(a)ポリオールの割合は好ましくは30~90質量部、より好ましくは40~85質量部、特に好ましくは50~80質量部である。前記(c)酸性基含有ポリオールの割合は好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは3~7質量部である。前記末端停止剤の割合は、所望する(A)ポリウレタンプレポリマーの分子量等に応じて適宜決定することができる。
前記(a)ポリオールの割合を30質量部以上とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体から得られる塗膜の触感を良くすることができる傾向があり、90質量部以下とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体から得られる塗膜のタックフリー性がより向上する傾向がある。
前記(c)酸性基含有ポリオールの割合を0.5質量部以上とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂の水系媒体中への分散性が良好になる傾向があり、10質量部以下とすることで、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性が高くなる傾向がある。また、水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得た塗膜の耐水性を高くすることができ、得られる塗膜の触感も良好にすることができる傾向がある。
【0065】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリオール及び(c)酸性基含有ポリオールの全水酸基のモル数に対する、(b)ポリイソシアネート化合物のイソシアナト基のモル数の比は、1.05~2.5が好ましい。前記(a)ポリオール及び前記(c)酸性基含有ポリオールの全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネートのイソシアナト基のモル数の比を1.05以上とすることで、分子末端にイソシアナト基を有しない(A)ポリウレタンプレポリマーの量が少なくなり、(B)鎖延長剤と反応しない分子が少なくなるため、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥した後に、フィルムを形成しやすくなる。また、前記(a)ポリオール及び前記(c)酸性基含有ポリオールの全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネートのイソシアナト基のモル数の比を2.5以下とすることで、反応系内に残る未反応の前記(b)ポリイソシアネートの量が少なくなり、前記(b)ポリイソシアネートと前記(B)鎖延長剤が効率的に反応し、水と反応による望まない分子伸長を起こしにくくなるため、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体の調製を適切に行うことができ、貯蔵安定性がより向上する。また、得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性が高くなり、ポリウレタンフィルムの弾性率が低くなる傾向がある。前記(a)ポリオール及び前記(c)酸性基含有ポリオールの全水酸基のモル数に対する、前記(b)ポリイソシアネートのイソシアナト基のモル数の比は、好ましくは1.1~2.0、特に好ましくは1.3~1.8である。
【0066】
前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合において、(a)ポリオール、(b)ポリイソシアネート、(c)酸性基含有ポリオール、後述する(B)鎖延長剤及び、場合により末端停止剤との全量を100質量部とした場合に、(b)ポリイソシアネートの量は、上記モル比の条件を満たす範囲で、(a)及び(c)の種類又は量に合わせて適宜設定することができる。
【0067】
前記(a)ポリオールと、前記(c)酸性基含有ポリオールと、(b)ポリイソシアネートとから、前記(A)ポリウレタンプレポリマーを得る場合には、(a)、(c)を順不同で(b)と反応させることができる。(a)と(c)を同時に(b)に反応させても良い。
【0068】
前記ポリウレタンプレポリマーを得る反応の際には、触媒を用いることもできる。前記触媒としては、特に制限はされないが、例えば、スズ(錫)系触媒(トリメチル錫ラウリレート、ジブチル錫ジラウリレート等)や鉛系触媒(オクチル酸鉛等)等の金属と有機又は無機酸の塩、並びに有機金属誘導体、アミン系触媒(トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミン等)、ジアザビシクロウンデセン系触媒が挙げられる。中でも、反応性の観点から、ジブチル錫ジラウリレートが好ましい。
【0069】
前記(a)ポリオール及び前記(c)酸性基含有ポリオールと前記(b)ポリイソシアネートとを反応させる際の反応温度としては、特に制限はされないが、40~150℃が好ましい。反応温度を40℃以上とすることで、原料が十分に溶解し又は原料が十分な流動性を得て、得られた(A)ポリウレタンプレポリマーの粘度を低くして充分な撹拌を行うことができる。反応温度を150℃以下とすることで、副反応が起こる等の不具合を起こさずに、反応を進行させることができる。反応温度として更に好ましくは60~120℃である。
【0070】
前記(a1)ポリカーボネートポリオールと、前記(c)酸性基含有ポリオールと、前記(b)ポリイソシアネートとの反応は、無溶媒でも有機溶媒を加えて行ってもよい。無溶媒で反応を行う場合には、前記(a1)ポリカーボネートポリオールと、前記(c)酸性基含有ポリオールと、前記(b)ポリイソシアネートの混合物が、液状であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、β-アルコキシプロピオンアミド(出光興産製エクアミド(登録商標);例えばエクアミドM-100、エクアミドB-100)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、酢酸エチルが挙げられる。中でも、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルが、ポリウレタンプレポリマーを水に分散し、鎖延長反応を行った後に加熱又は減圧により除去できるので好ましい。また、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、β-アルコキシプロピオンアミドは、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体から塗膜を作製する際に造膜助剤として働くため好ましい。有機溶媒の添加量は、前記(a)ポリオールと、前記(c)酸性基含有ポリオールと、前記(b)ポリイソシアネートとの全量に対して質量基準で、好ましくは0.1~2.0倍であり、より好ましくは0.15~0.8倍である。
【0071】
前記(a)ポリオールと、前記(c)酸性基含有ポリオールと、前記(b)ポリイソシアネートとの反応に用いられる有機溶剤は、後述する、ポリウレタン樹脂が分散されている水系媒体中に含まれる有機溶剤を兼ねる事ができる。
【0072】
本発明において、(A)ポリウレタンプレポリマーの酸価(AV)は、4~40mgKOH/gが好ましく、より好ましくは、6~32mgKOH/gであり、特に好ましくは8~29mgKOH/gである。ポリウレタンプレポリマーの酸価を4mgKOH/g以上とすることで、水系媒体への分散性、貯蔵安定性を良くすることができる傾向がある。また、ポリウレタンプレポリマーの酸価を40mgKOH/g以下とすることで、得られるポリウレタン樹脂の塗膜の耐水性を高め、得られるフィルムの柔軟性を高くすることができる傾向がある。また、塗膜作製時の乾燥性を上げることができる傾向がある。
なお、本発明において、「(A)ポリウレタンプレポリマーの酸価」とは、(A)ポリウレタンプレポリマーを製造するにあたって用いられる溶媒及び前記(A)ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させるための中和剤を除いたいわゆる固形分中の酸価である。
具体的には、(A)ポリウレタンプレポリマーの酸価は、下記式(3)によって導き出すことができる。
〔(A)ポリウレタンプレポリマーの酸価〕=〔((c)酸性基含有ポリオールのミリモル数)×((c)酸性基含有ポリオール1分子中の酸性基の数)〕×56.11/〔(a)ポリオール、(c)酸性基含有ポリオール及び(b)ポリイソシアネートの合計の質量〕・・・(3)
<中和剤>
(A)ポリウレタンプレポリマーを水中に分散するために、塩基性成分を(A)ポリウレタンプレポリマー溶液に添加し、(A)ポリウレタンポリプレマーに含まれる酸性基含有ポリオールを中和することができる。
前記(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する工程(β)において使用できる中和剤には、当業者に公知の塩基を、特に制限されず使用することができる。中和剤としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ塩類、アンモニアが挙げられる。中でも、好ましくは有機アミン類を用いることができ、より好ましくは3級アミンを用いることができる。分散安定性が向上する点で、トリエチルアミンがより好ましい。ここで、(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基とは、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等をいう。
<水系媒体>
水性ポリウレタン樹脂分散体においては、ポリウレタン樹脂は水系媒体中に分散されている。前記水系媒体には、水と有機溶剤が含まれる。
前記水としては、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。中でも入手の容易さや塩の影響で粒子が不安定になること等を考慮して、イオン交換水を用いることが好ましい。
また前記有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等のアルコール溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;ポリアルキレングリコールのアルキルエーテル溶剤;N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等のラクタム溶剤などが挙げられる。
【0073】
<<(B)鎖延長剤>>
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造では、分子量を増大させることを目的として、鎖延長剤を用いることができる。
(B)鎖延長剤の例としては、イソシアナト基と反応性を有する化合物が挙げられる。例えば、エチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-ヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、アジポイルヒドラジド、ヒドラジン、2,5-ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール、ポリエチレングリコールに代表されるポリアルキレングリコール類、水が挙げられ、中でも好ましくは1級ジアミンが挙げられる。これらは、複数種を併用してもよい。
【0074】
(B)鎖延長剤の添加量は、得られるポリウレタンプレポリマー中の鎖延長起点となるイソシアナト基の当量以下であることが好ましく、より好ましくはイソシアナト基の0.7~0.99当量である。イソシアナト基の当量以下の量で(B)鎖延長剤を添加することで、鎖延長されたウレタンポリマーの分子量を低下させず、得られた水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布して得た塗膜の強度を高くすることができる傾向がある。(B)鎖延長剤は、ポリウレタンプレポリマーの水への分散後に添加してもよく、分散中に添加してもよい。鎖延長は水によっても行うことができる。この場合は分散媒としての水が鎖延長剤を兼ねることになる。
【0075】
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法の具体的な例としては、以下の方法が挙げられる。
前記(a)ポリオールと、前記(c)酸性基含有ポリオールを、(b)ポリイソシアネートと反応させて(A)ポリウレタンプレポリマーを得る(工程(α));
次いで、前記(A)ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和する(工程(β))、
前記工程(β)で得られた溶液を水系媒体中に分散させる(工程(γ))、
分散媒中に分散した前記(A)ポリウレタンプレポリマーと、前記(A)ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する(B)鎖延長剤とを反応させること(工程(δ))により、水性ポリウレタン樹脂分散体を得る。
【0076】
水性ポリウレタン樹脂分散体中のポリウレタン樹脂の割合は、5~60質量%が好ましく、より好ましくは15~50質量%である。
【0077】
本発明のポリウレタン樹脂の重量平均分子量は、通常25,000~10,000,000程度である。より好ましくは、50,000~5,000,000であり、更に好ましくは、100,000~1,000,000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値を使用することができる。重量平均分子量を25,000以上とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥により、良好なフィルムを得ることができる傾向がある。重量平均分子量を1,000,000以下とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性をより高くすることができる傾向がある。
【0078】
また、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体には、必要に応じて、増粘剤、光増感剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤等の添加剤を添加することもできる。前記添加剤は、複数種を併用してもよい。また、これらの添加剤の種類は当業者に公知であり、一般に用いられる範囲の量で使用することができる。
【0079】
<塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物>
本発明は、上記水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物にも関する。
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、上記水性ポリウレタン樹脂分散体以外にも、他の樹脂を添加することもできる。他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらは、複数種を併用してもよい。他の樹脂は、1種以上の親水性基を有することが好ましい。親水性基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基等が挙げられる。
【0080】
他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0081】
ポリエステル樹脂は、通常、酸成分とアルコ-ル成分とのエステル化反応又はエステル交換反応によって製造することができる。酸成分としては、ポリエステル樹脂の製造に際して酸成分として通常使用される化合物を使用することができる。酸成分としては、例えば、脂肪族多塩基酸、脂環族多塩基酸、芳香族多塩基酸等を使用することができる。
ポリエステル樹脂の水酸基価は、10~300mgKOH/g程度が好ましく、50~250mgKOH/g程度がより好ましく、80~180mgKOH/g程度が更に好ましい。前記ポリエステル樹脂の酸価は、1~200mgKOH/g程度が好ましく、15~100mgKOH/g程度がより好ましく、25~60mgKOH/g程度が更に好ましい。
ポリエステル樹脂の重量平均分子量は、500~500,000が好ましく、1,000~300,000がより好ましく、1,500~200,000が更に好ましい。
【0082】
アクリル樹脂としては、水酸基含有アクリル樹脂が好ましい。水酸基含有アクリル樹脂は、水酸基含有重合性不飽和モノマー及び該水酸基含有重合性不飽和モノマーと共重合可能な他の重合性不飽和モノマーとを、例えば、有機溶媒中での溶液重合法、水中でのエマルション重合法等の既知の方法によって共重合させることにより製造できる。
水酸基含有重合性不飽和モノマーは、1分子中に水酸基及び重合性不飽和結合をそれぞれ1個以上有する化合物である。例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物;これらのモノエステル化物のε-カプロラクトン変性体;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド;アリルアルコール;分子末端が水酸基であるポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0083】
水酸基含有アクリル樹脂は、アニオン性官能基を有することが好ましい。アニオン性官能基を有する水酸基含有アクリル樹脂については、例えば、重合性不飽和モノマーの1種として、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性官能基を有する重合性不飽和モノマーを用いることにより製造できる。
水酸基含有アクリル樹脂の水酸基価は、組成物の貯蔵安定性や得られる塗膜の耐水性等の観点から、1~200mgKOH/g程度が好ましく、2~100mgKOH/g程度がより好ましく、3~60mgKOH/g程度が更に好ましい。
また、水酸基含有アクリル樹脂がカルボキシル基等の酸基を有する場合、該水酸基含有アクリル樹脂の酸価は、得られる塗膜の耐水性等の観点から、1~200mgKOH/g程度が好ましく、2~150mgKOH/g程度がより好ましく、5~100mgKOH/g程度が更に好ましい。
水酸基含有アクリル樹脂の重量平均分子量は、1,000~200,000が好ましく、2,000~100,000がより好ましく、更に好ましくは3,000~50,000の範囲内であることが好適である。
【0084】
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体又は共重合体が挙げられ、例えばポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテル、ビスフェノールA又はビスフェノールF等の芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等が挙げられる。
【0085】
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノール化合物から製造された重合体が挙げられ、例えばビスフェノールA・ポリカーボネート等が挙げられる。
【0086】
ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等の各種ポリオール成分とポリイソシアネートとの反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂が挙げられる。
【0087】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等が挙げられる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられる。
【0088】
アルキド樹脂としては、フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等の多塩基酸と多価アルコールに、更に油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂が挙げられる。
【0089】
ポリオレフィン樹脂としては、オレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと通常の重合法に従って重合又は共重合することにより得られるポリオレフィン樹脂を、乳化剤を用いて水分散するか、あるいはオレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと共に乳化重合することにより得られる樹脂が挙げられる。また、場合により、前記のポリオレフィン樹脂が塩素化されたいわゆる塩素化ポリオレフィン変性樹脂を用いてもよい。
オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン等のα-オレフィン;ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、スチレン類等の共役ジエン又は非共役ジエンが挙げられ、これらのモノマーは、複数種を併用してもよい。
オレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸が挙げられ、これらのモノマーは、複数種を併用してもよい。
【0090】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物は、硬化剤を含むことができ、これにより、塗料組成物又はコーティング剤組成物を用いて得られる塗膜又は複層塗膜、コーティング膜や印刷物の耐水性等を向上させることができる。
【0091】
硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート、ブロック化ポリイソシアネート、メラミン樹脂、カルボジイミド等を用いることできる。硬化剤は、複数種を併用してもよい。
【0092】
アミノ樹脂としては、例えば、アミノ成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分もしくは完全メチロール化アミノ樹脂が挙げられる。前記アミノ成分としては、例えば、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等が挙げられる。アルデヒド成分としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等が挙げられる。
【0093】
ポリイソシアネートとしては、例えば、1分子中に2個以上のイソシアナト基を有する化合物が挙げられ、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0094】
ブロック化ポリイソシアネートとしては、前述のポリイソシアネートのイソシアナト基にブロック剤を付加することによって得られるものが挙げられ、ブロック化剤としては、フェノール、クレゾール等のフェノール系、メタノール、エタノール等の脂肪族アルコール系、マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系、アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム等のラクタム系、コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム系、ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン等のアミン系等のブロック化剤が挙げられる。
【0095】
メラミン樹脂としては、例えば、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン等のメチロールメラミン;これらのメチロールメラミンのアルキルエーテル化物又は縮合物;メチロールメラミンのアルキルエーテル化物の縮合物が挙げられる。
【0096】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、着色顔料や体質顔料、光輝性顔料を添加することができる。
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、モリブデンレッド、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料等が挙げられる。これらは、複数種を併用してもよい。特に、着色顔料として、酸化チタン及び/又はカーボンブラックを使用することが好ましい。
体質顔料としては、例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイトが挙げられる。これらは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。特に、体質顔料として、硫酸バリウム及び/又はタルクを使用することが好ましく、硫酸バリウムを使用することがより好ましい。
光輝性顔料は、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母を使用することができる。
【0097】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物には、必要に応じて、増粘剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、表面調整剤、沈降防止剤等の通常の添加剤を含有することができる。これらは、複数種を併用してもよい。
【0098】
本発明の塗料組成物、コーティング剤組成物及びインク組成物の製造方法は、特に制限されないが、公知の製造方法を用いることができる。一般的には、塗料組成物及びコーティング剤組成物は、上記水性ポリウレタン樹脂分散体と上述した各種添加剤を混合し、更に水系媒体を添加し、適用方法に応じた粘度に調整することにより製造される。
【0099】
塗料組成物の被塗装材質、コーティング剤組成物の被コーティング材質又はインク組成物の被適用材質としては、金属、プラスチック、無機物、木材等が挙げられる。
【0100】
塗料組成物の塗装方法又はコーティング剤組成物のコーティング方法としては、例えば、ベル塗装、スプレー塗装、ロール塗装、シャワー塗装、浸漬塗装が挙げられる。インク組成物の適用方法としては、例えば、インクジェット印刷方法、フレキソ印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法が挙げられる。
【0101】
硬化後の塗膜の厚さは、特に制限されないが、1~100μmの厚さが好ましい。より好ましくは、3~50μmの厚さの塗膜を形成することが好ましい。
【0102】
<ポリウレタン樹脂フィルム>
本発明は、更に、上記水性ポリウレタン樹脂分散体から得られるポリウレタン樹脂フィルムにも関する。
【0103】
水性ポリウレタン樹脂分散体を用いて、ポリウレタン樹脂フィルムを得ることもできる。水性ポリウレタン樹脂分散体を離形性基材に適用し、加熱等の手段により乾燥、硬化させ、続いてポリウレタン樹脂の硬化物を離形性基材から剥離させることで、ポリウレタン樹脂フィルムが得られる。
【0104】
前記加熱方法としては、自己の反応熱による加熱方法と、前記反応熱と型の積極加熱とを併用する加熱方法等が挙げられる。型の積極加熱は、型ごと熱風オーブンや電気炉、赤外線誘導加熱炉に入れて加熱する方法が挙げられる。
【0105】
前記加熱温度は、40~200℃であることが好ましく、より好ましくは60~160℃である。このような温度で加熱することにより、より効率的に乾燥を行うことができる。前記加熱時間は、0.0001~20時間が好ましく、より好ましくは1~10時間である。このような加熱時間とすることにより、より硬度の高いポリウレタン樹脂フィルムを得ることができる。ポリウレタン樹脂フィルムを得るための乾燥条件は、例えば、120℃で3~10秒での加熱が挙げられる。
【実施例
【0106】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「%」は、特に言及がない限り、重量基準である。
【0107】
[実施例1]
攪拌機及び加熱器を備えた反応装置で、ポリカーボネートポリオール(宇部興産製エタナコール(登録商標)UT200;数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g;ポリオールモノマーがポリテトラメチレングリコール(数平均分子量250)と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、300.4g)と、酸性基含有ポリオールとして、2,2-ジメチロールプロピオン酸(15.77g)と、イソシアネートとして、イソホロンジイソシアネート(83.39g)とを、有機溶媒として、N―メチルピロリドン(134.25g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~90℃で6時間加熱した。ウレタン化反応終了時のNCO基含量は、1.67質量%であった。反応混合物を80℃にした後、トリエチルアミン(11.9g)を加え、30分攪拌した。反応混合物のうち、517.2gを抜き出し、強攪拌しながら水(746.4g)に入れた後、鎖延長剤として、35%2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(29.6g)を加え、水性ポリウレタン樹脂分散体を得た。
得られた水性ポリウレタン樹脂分散体50重量部、チタンペースト(酸化チタン粉末含量60%の水性ペースト)40重量部、顔料水分散体(トーヨーカラー株式会社製:EMF PINK 2B-1)5重量部、25%アンモニア水(和光純薬工業株式会社製)1重量部、及びアルカリ増粘剤(パラケムジャパン株式会社製:パラボンド10-N)3.5重量部を混合して、捺染用インクを得た。続いて、150メッシュのスクリーン及びウレタンゴムスキージを用いて、捺染用インクを白色の天竺綿ニット生地に2度印刷した。印刷物を150℃で2分間の条件で乾燥し、捺染物を得た。
【0108】
[比較例1]
実施例1のポリカーボネートポリール(宇部興産製エタナコール(登録商標)UT200;数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g;ポリオールモノマーがポリテトラメチレングリコール(数平均分子量250)と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)の代わりに、ポリカーボネートポリール(宇部興産製エタナコール(登録商標)UH200;数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g;ポリオールモノマーがヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)を使用した。
【0109】
[比較例2]
実施例1のポリカーボネートポリール(宇部興産製エタナコール(登録商標)UT200;数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g;ポリオールモノマーがポリテトラメチレングリコール(数平均分子量250)と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)の代わりに、ポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製;PTMG:数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g)を使用した。
【0110】
[比較例3]
実施例1のポリカーボネートポリール(宇部興産製エタナコール(登録商標)UT200;数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g;ポリオールモノマーがポリテトラメチレングリコール(数平均分子量250)と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)の代わりに、ポリカーボネートポリール(宇部興産製エタナコール(登録商標)UH200;数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g;ポリオールモノマーがヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール)と、ポリテトラメチレングリコール(三菱化学株式会社製;PTMG:数平均分子量2000;水酸基価56.1mgKOH/g)を表に示す質量%で使用した。
【0111】
(触感の評価)
捺染物を指先でつまみながら柔軟性を評価した。良好な柔軟性のものを○、柔軟性に乏しく硬いものを×とした。
【0112】
(追従性の評価)
捺染インクの印刷物を引っ張った際に、印刷膜が割れないものと○、割れるものを×とした。
【0113】
(タックフリー性の評価)
捺染物の端を捺染面同士が内側になる様に折り返し、指先で荷重をかけ、3秒間押付けた。荷重を取り除いた後、全く張り付かないものを◎、ほとんど張り付かないものを○、若干張り付くものを×とした。
【0114】
(ストレスバック性(ヒステリシスロス)の評価)
[フィルムの作成方法]
前記実施例1、比較例1~3の各水性ポリウレタン樹脂分散体をガラス板上に乾燥後の膜厚が約0.08mmになるように均一に塗布した。次いで、80℃にて2時間、更に120℃にて2時間乾燥した後、得られたポリウレタン樹脂フィルムをガラス板より剥離して以下の評価に供した。
[ヒステリシスロスの測定]
JIS K 7113に準じた方法で引張伸度が200%となるまで前記ポリウレタン樹脂フィルムを伸長させた。その後、その後、同試験片を元の伸度まで戻そうとしたときの伸度の変化と引張応力を測定した。ヒステリシスロスは、特開2016-204595号記載の方法で算出した。数字が小さいほど、ヒステリシスロスが小さく、高いストレッチバック性を有することを示す。
【0115】
実施例1、及び、比較例1~3の結果を、以下の表1に示した。
【表1】
【0116】
実施例1と比較例1~3の比較から、本発明の水性ポリウレタン樹脂は、触感、追従性、タックフリー性、ストレスバック性(低ヒステリシスロス)の面で優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、塗料、コーティング剤、プライマー、接着剤、インク、フィルム、繊維処理剤等の原料として広く利用できる。