(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20221004BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20221004BHJP
C08K 5/54 20060101ALI20221004BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221004BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K7/14
C08K5/54
C08L101/00
C08L27/12
(21)【出願番号】P 2018014436
(22)【出願日】2018-01-31
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井砂 宏之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智哉
(72)【発明者】
【氏名】東原 武志
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046324(WO,A1)
【文献】特開2014-148636(JP,A)
【文献】特開2004-346244(JP,A)
【文献】特開平08-333137(JP,A)
【文献】特開2011-153242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0306309(US,A1)
【文献】特開昭63-002831(JP,A)
【文献】特開平01-051345(JP,A)
【文献】国際公開第98/016482(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C03C 13/00-13/06
C08J 3/00-3/28
C08G 75/00-75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)比誘電率が5.5以下のガラスからなるガラス繊維
25~100重量部、(c)シランカップリング剤0.1~10重量部、ならびに(d)熱可塑性エラストマーおよびフッ素樹脂から選択されるいずれかの樹脂
5~80重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記樹脂組成物からなる成形品の電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造が、(a)成分が連続相(海相)を形成し、(d)成分が数平均分散径1μm以下の1次分散相(島相)を形成することを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂のカルボキシル基量が25~400μmol/gであるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性と機械的強度に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下、「PPS」と略す)樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、電気絶縁性、耐湿熱性および機械的強度や寸法安定性などに優れたエンジニアリングプラスチックである。PPS樹脂は、射出成形や押出成形などの各種成形法により、各種成形品や繊維、フィルムなどに成形可能であるため、電気・電子部品、機械部品および自動車部品など広範な分野において実用に供されている。更にPPS樹脂にガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填材や、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等の無機充填材を配合することにより、機械的強度や寸法安定性を向上させることができる。
【0003】
近年、通信時にメガヘルツ帯やギガヘルツ帯の電波を利用するパソコン、タブレット、携帯電話などの電子機器の筐体の用途では、誘電損失や導体損失からなる伝送損失の抑制が求められており、伝送損失の抑制を目的に低い誘電率を有する高強度の樹脂材料が要求されている。
【0004】
しかしながら、樹脂強化用のガラス繊維として最も汎用的に使用されるEガラスは、高い誘電率を有することから、Eガラスのガラス繊維を配合してなるPPS樹脂組成物も高い誘電率となるため、上記用途への適用が困難であった。
【0005】
本課題の解決を目的に、特許文献1は、ポリアリーレンスルフィド樹脂に対し、エチレン系共重合体、ガラス繊維、白色着色剤、青着色剤および紫着色剤を、特定の組成で配合することで、低誘電率の組成物を得る提案がなされている。
【0006】
特許文献2には、汎用的に使用されるEガラスに比較して、CaOを低減し、かつB2O3を増加した組成を有する誘電率の低いガラス組成が開示されており、特許文献3には誘電率の低いガラスからなるガラス繊維を用いた強化樹脂成形品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-88690号公報
【文献】特開昭63-2831号公報
【文献】特開2017-52974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で使用しているガラス繊維は、汎用的に使用されるEガラス組成のガラス繊維であり、十分な低誘電率を得られていない。
【0009】
また、特許文献2には誘電率の低いガラス繊維を用いた強化樹脂の記載は無い。
【0010】
一方、特許文献3には強化樹脂成形品の記載はあるものの、ガラス繊維を用いて樹脂を高強度化する際の樹脂の改質について何ら記載はなく、強度向上効果は限定的である。
【0011】
そこで、本発明は、PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性、耐薬品性等の諸物性を損なうことなく、優れた誘電特性(低い比誘電率)と機械的強度を兼ね備えたPPS樹脂組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、PPS樹脂と比誘電率が5.5以下のガラスからなるガラス繊維およびシランカップリング剤を特定の組成で配合することにより、優れた誘電特性と機械的強度を兼ね備えたPPS樹脂組成物を得る。
【0013】
すなわち、本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実施可能である。
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)比誘電率が5.5以下のガラスからなるガラス繊維25~100重量部、(c)シランカップリング剤0.1~10重量部、ならびに(d)熱可塑性エラストマーおよびフッ素樹脂から選択されるいずれかの樹脂5~80重量部を配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記樹脂組成物からなる成形品の電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造が、(a)成分が連続相(海相)を形成し、(d)成分が数平均分散径1μm以下の1次分散相(島相)を形成することを特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
(2)(1)に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂のカルボキシル基量が25~400μmol/gであるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PPS樹脂と比誘電率が5.5以下のガラスからなるガラス繊維およびシランカップリング剤を特定の組成で配合することにより、優れた誘電特性と機械的強度を兼ね備えたPPS樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(1)(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で用いられる(a)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0016】
【0017】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(a)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0018】
【0019】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
【0020】
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の重量平均分子量に特に制限はないが、より優れた機械物性を得る意味から重量平均分子量は20000~150000が好ましく、25000~130000がさらに好ましく、30000~90000がより好ましい。重量平均分子量が小さい場合は、PPS樹脂自体の機械物性が低下するため、20000以上が好ましい。一方、重量平均分子量が150000を超える場合には、溶融粘度が著しく大きくなるため、成形加工において好ましくない傾向である。
【0021】
なお、本発明における重量平均分子量は、センシュー科学製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0022】
本発明の(a)PPS樹脂は、(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維との密着性向上、および(c)シランカップリング剤による樹脂の靱性改質効果の観点から、カルボキシル基を25~400μmol/g含むことも好ましい態様として挙げられる。カルボキシル基含有量の下限値は、30μmol/g以上であることがさらに好ましい。カルボキシル基含有量の上限値は250μmol/g以下がより好ましく、150μmol/g以下がさらに好ましく、80μmol/g以下がさらに好ましく、60μmol/g以下が最も好ましい。PPS樹脂のカルボキシル基量が25μmol/gを下回る場合は、シランカップリング剤および比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維との相互作用が低下する傾向にあるため好ましくない。一方、PPS樹脂のカルボキシル基含有量が400μmol/gを超える場合は、加工工程における揮発性分量が増加するため好ましくない。
【0023】
(a)PPS樹脂中に、カルボキシル基を導入する方法としては、カルボキシル基を含むポリハロゲン化芳香族化合物を共重合する方法や、カルボキシル基を含む化合物、例えば無水マレイン酸、ソルビン酸などを添加して、(a)PPS樹脂と溶融混練しながら反応せしめることにより導入する方法などを例示できる。
【0024】
以下に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造の(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0025】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0026】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、カルボキシル基の導入を目的に、2,4-ジクロロ安息香酸、2,5-ジクロロ安息香酸、2,6-ジクロロ安息香酸、3,5-ジクロロ安息香酸などのカルボキシル基含有ジハロゲン化芳香族化合物、およびそれらの混合物を共重合モノマーとして用いることも好ましい態様の1つである、また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0027】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0028】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0029】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0030】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0031】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0032】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0033】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0034】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0035】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0036】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0037】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
【0038】
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0039】
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(a)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0040】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1~20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1~3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0041】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0042】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル~2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1~0.6モルの範囲が好ましく、0.2~0.5モルの範囲がより好ましい。
【0043】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル~15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6~10モルの範囲が好ましく、1~5モルの範囲がより好ましい。
【0044】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0045】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0046】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0047】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02~0.2モル、好ましくは0.03~0.1モル、より好ましくは0.04~0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0048】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0049】
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
【0050】
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0051】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180~260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0052】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3~10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0053】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
【0054】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温~240℃、好ましくは100~230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0055】
かかる混合物を通常200℃~290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01~5℃/分の速度が選択され、0.1~3℃/分の範囲がより好ましい。
【0056】
一般に、最終的には250~290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25~50時間、好ましくは0.5~20時間反応させる。
【0057】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃~260℃で一定時間反応させた後、270~290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃~260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25~10時間の範囲が選ばれる。
【0058】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0059】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)-PHA過剰量(モル)〕
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕。
【0060】
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用してもよい。
【0061】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いてもよい。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分~3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1~1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0062】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃~250℃の範囲が選ばれる。
【0063】
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0064】
酸処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(a)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(a)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0065】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80~200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のpHは4以上例えばpH4~8程度となってもよい。酸処理を施された(a)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0066】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0067】
熱水洗浄による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(a)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(a)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(a)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0068】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(a)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0069】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(a)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0070】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(a)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温~300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温~150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0071】
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合工程前、重合工程中、重合工程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でももっとも容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
【0072】
本発明においては、滞留安定性の優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が更に好ましい。
【0073】
その他、(a)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0074】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160~260℃が好ましく、170~250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましく、2~25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0075】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130~250℃が好ましく、160~250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5~50時間が好ましく、1~20時間がより好ましく、1~10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0076】
但し、本発明の(a)PPS樹脂は、優れた靱性を発現する観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であるか、軽度に酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂であることが好ましい。また、本発明では、溶融粘度の異なる複数の(a)PPS樹脂を混合して使用してもよい。
【0077】
(2)(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物に比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維を添加することは、PPS樹脂組成物の比誘電率を低く制御し、かつ、機械的強度を向上させるために必須である。ガラス繊維を構成するガラスの比誘電率は、3.7~5.5が好ましい範囲として示すことができる。比誘電率の下限は低いほど好ましいが、SiO2より構成されるガラスにおいて、実質的にSiO2単体の比誘電率である3.7が下限値となる。
【0078】
本発明で用いられるガラス繊維は、比誘電率が5.5以下のガラスからなるガラス繊維であり、特に限定されるものでは無いが、SiO2、Al2O3、B2O3、CaO、MgO、LiO2、Na2O、K2O、TiO2を含むガラスであり、各成分の組成はSiO2が50~70重量%、Al2O3が1~20重量%、B2O3が15~30重量%、CaOが0.1~5重量%、MgOが0.1~5重量%、LiO2が0~1重量%、NaO2が0~1.5重量%、K2Oが0~1.5重量%、TiO2が0~5重量%の範囲を有することが好ましい。
【0079】
比誘電率が5.5以下のガラスは、汎用的に使用されるEガラスの組成に比較して、B2O3が多く、CaOが少ないことが特徴として示すことができる。
【0080】
なお、ガラスの比誘電率は、ガラスを白金坩堝に入れて、電気炉中にて約1580℃で4~15時間熔融し、次に、この熔融ガラスをカーボン板上に流し出し、板状に成形した後、アニールすることにより歪みを除去し、LCRメータ等を用い、板状のガラス成形品の静電容量を評価することにより求めることができる。
【0081】
本発明の実施形態における(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して、(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維が0.1~150重量部の範囲が選択され、1~135重量部がより好ましく、5~120重量部がより好ましく、10~100重量部がさらに好ましい。(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維が150重量部を超えると、PPS樹脂組成物の溶融粘度が著しく増加し、成形性の低下を招き、好ましくない。また(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維が0.1重量部未満では、所望する機械的特性と誘電特性を両立することは困難である。
【0082】
(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維の表面をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理することも、ガラス繊維の集束性や樹脂配合時の分散性およびガラス繊維と樹脂間の密着性向上の観点から好ましい。
【0083】
本発明で用いられるガラス繊維の形状は、特に限定されるものでは無いが、繊維径が1~50μmが好ましく、3~30μmが更に好ましく、5~20μmがより好ましい。
【0084】
一方、ガラス繊維の長さは30μm~10mmが好ましく、50μm~5mmがより好ましい。繊維径と繊維長さが上記範囲外の場合、樹脂組成物の機械的強度の向上効果が得られず、好ましくない。
【0085】
(3)(c)シランカップリング剤
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物にシランカップリング剤を添加することはPPS樹脂と(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維との界面の密着性の向上に加え、PPS樹脂自体の靱性および機械的強度の向上という改質効果を発現させるために必須である。
【0086】
かかるシランカップリング剤の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ-ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ-(2-ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤を挙げることができ、中でもアミノ基およびイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物がPPS樹脂との反応性の観点から特に好ましい。
【0087】
かかるシランカップリング剤の添加量は、PPS樹脂100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.2~7重量部が更に好ましく、特に0.2~5重量部が好ましい。シランカップリング剤の添加量が0.1重量部未満の場合、PPS樹脂の改質効果が乏しく、機械的物性の向上効果が発現しない。一方、シランカップリング剤の添加量が10重量部を超える場合、組成物製造時に揮発ガスが多量に発生し、生産性の観点から好ましくない。
【0088】
(4)(d)アロイ成分
本発明の実施形態において、必須成分ではないが、PPS樹脂組成物にPPS樹脂以外の樹脂として(d)アロイ成分を添加することはPPS樹脂組成物の機械的特性と誘電特性を高めることに効果的である。
【0089】
本発明で用いられる(d)アロイ成分とは、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性エラストマー(オレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系)、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、およびエポキシ樹脂から選択されるいずれかの樹脂であり、いずれも機械的特性の向上に効果的である。一方、誘電特性向上の観点からはポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂が好ましい。これらは複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
本発明の実施形態における(d)アロイ成分の配合量は、PPS樹脂100重量部に対して、(d)アロイ成分が0.1~150重量部の範囲が好ましく選択され、1~125重量部がより好ましく、3~100重量部がより好ましく、5~80重量部がさらに好ましい。(d)アロイ成分が150重量部を超えると、PPS樹脂組成物中での(d)アロイ成分の分散状態が粗大化し、機械的特性の低下を招く傾向がある。また、(d)アロイ成分が0.1重量部未満では、所望する機械的特性や誘電特性の発現効果が減退する傾向がある。アロイ成分を2種類以上併用することも、優れた機械的特性と誘電特性の両立に効果的である。
【0091】
本発明で用いられる(d)アロイ成分は、PPS樹脂あるいはシランカップリング剤との分子間の結合を形成する観点から反応性官能基を含有することも好ましい態様として挙げられる。
【0092】
反応性官能基は特に限定されるものではなく、具体的にはビニル基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、アルデヒド基、カルボニルジオキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、水酸基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、加水分解性シリル基などを例示できるが、中でもエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、水酸基が好ましく、これら反応性官能基が2種以上含まれていてもよい。
【0093】
該アロイ成分に反応性官能基を導入する方法としては、該アロイ成分に相溶し、前記官能基を含有する化合物または樹脂を配合する方法や、該アロイ成分を重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーと重合する方法、該アロイ成分を重合する際に、前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する開始剤を用いる方法、該アロイ成分と前記官能基を含有するか前記官能基に変換可能な官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法、該アロイ成分を酸化、熱分解などの手法により変性する方法などが挙げられるが、中でも重合により該アロイ成分の主鎖または側鎖に官能基を導入する方法、該アロイ成分と官能基を含有する重合性モノマーとをラジカル発生剤の存在下に反応させる方法が、品質、コスト、および導入量制御の観点から好ましい。
【0094】
前記官能基を含有する重合性モノマーは、特に限定されるものではないが、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ハイミック酸、これらの酸無水物、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エチルアクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0095】
(d)アロイ成分中に含まれる官能基の量は、(a)PPS樹脂や(c)シランカップリング剤との反応が十分に進行する観点から、(d)アロイ成分1gに対して、0.01wt%以上が好ましく、0.05wt%以上がより好ましく、0.1wt%以上であることが更に好ましい。官能基量の上限については、(d)アロイ成分本来の特性が損なわれなければ特に限定されることはなく、流動性の悪化なども考慮すると、15wt%以下が好ましい範囲として例示できる。
【0096】
(5)(e)無機フィラー
本発明のPPS樹脂組成物には必須成分ではないが、本発明の効果を損なわない範囲で(e)無機フィラーを配合して使用することも可能である。かかる(e)無機フィラーの具体例としては、本発明の(b)成分に該当しない比誘電率が5.5を超えるガラスからなるガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでも比誘電率5.5を超えるガラスからなるガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウムが好ましく、さらに炭酸カルシウムやシリカが、防食材、滑材の効果の点から特に好ましい。またこれらの(e)無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの(e)無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。
【0097】
かかる無機フィラーの配合量は、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、40重量部以下の範囲が選択され、10重量部未満の範囲が好ましく、1重量部未満の範囲がより好ましく、0.8重量部以下の範囲が更に好ましい。下限は特に無いが0.0001重量部以上が好ましい。無機フィラーの配合は材料の機械的強度向上に有効である反面、40重量部を越えるような多量の配合は機械的強度と誘電特性のバランスの低下をもたらすため、好ましくない。無機フィラーの含有量は、機械的強度と誘電特性のバランスから用途により適宜変えることが可能である。
【0098】
(6)(f)その他の添加物
さらに、本発明のPPS樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、(d)アロイ成分以外の樹脂を添加配合してもよい。その具体例としては、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。
【0099】
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を超えると本発明のPPS樹脂組成物本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
【0100】
(7)樹脂組成物の製造方法
本発明のPPS樹脂組成物を製造する方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が使用できるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく用いられる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく用いられる。
【0101】
押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を1台以上で使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
【0102】
溶融混練する更に具体的な方法としては、必ずしもこれに限定されるものではないが、L/D(L:スクリュー長さ、D:スクリュー直径)が10以上、好ましくは20以上であり、ニーディング部を2箇所以上、好ましくは3箇所以上有する二軸押出機を使用することが好ましい。L/Dの上限については特に制限しないが、60以下が経済性の観点から好ましい。また、ニーディング部箇所の上限についても特に制限しないが、生産性の観点から10箇所以下であることが好ましい。
【0103】
スクリュー回転数については150~1000回転/分、好ましくは300~1000回転/分とし、(a)PPS樹脂及び(d)アロイ成分の融点+5~100℃の加工温度で混練する方法を代表例として挙げることができる。
【0104】
溶融混練する際の原料の混合順序については特に制限されるものではないが、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。
【0105】
なお、(f)その他の添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
【0106】
(8)PPS樹脂組成物
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物は、材料強度を示す物性値の一つである引張強度(ISO(1A)ダンベル試験片、引張速度5mm/min、23℃、ISO527に準拠して測定する)が、115MPa以上が好ましく、140MPa以上がより好ましく、155MPa以上がより好ましく、170MPa以上がさらに好ましい。115MPa未満の場合は、例えば、電子機器の筐体の実用強度に劣り、適用することができない。引張強度の上限については特に制限はない。
【0107】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物の比誘電率は、3.50以下が好ましく、3.40以下がより好ましい。
【0108】
なお、「比誘電率」とは、PPS樹脂組成物からなる3mm厚の角板について、ASTM D-150の変成器ブリッジ法に準拠して、測定周波数1MHzの条件で測定した値をいう。比誘電率が3.50を超える場合は、電気特性に劣り、本発明が所望する機械的強度と誘電特性のバランスに優れるPPS樹脂組成物を得ることができない。比誘電率は低いほど好ましいが、下限については真空の比誘電率1以上が例示できる。
【0109】
本発明の実施形態のPPS樹脂組成物における(d)アロイ成分の相構造としては、PPS樹脂が海相(連続相あるいはマトリックス)を形成し、(d)アロイ成分が島相(分散相)を形成することが望ましい。さらに(d)アロイ成分の1次分散相の数平均分散径が1μm以下であることが好ましく、より好ましくは800nm以下、更には500nm以下が好ましい。下限としては、生産性の点から1nm以上であることが好ましい。PPS樹脂相が連続相を形成し、(d)アロイ成分が分散性よく存在することで、PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性、耐薬品性、低吸水性等とともに、優れた機械的特性や誘電特性を発現することができる。
【0110】
なお、「(d)成分の1次分散相の数平均分散径」とは、PPS樹脂および(d)アロイ成分の各融解ピーク温度のうち、より高温の融解ピーク温度+20~40℃の成形温度でISO(1A)ダンベル試験片を成形し、その中心部から0.1μm以下の薄片をダンベル片の断面積方向に切削し、透過型電子顕微鏡で1000~10000倍程度の倍率で観察した任意の100個の(d)アロイ成分の島相について、まずそれぞれの島相の最大径と最小径を測定して平均値を求め、その後にそれらから求めた数平均値をいう。
【0111】
(9)用途
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも射出成形、押出成形用途として有用である。
【0112】
また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、耐薬品性、耐熱性に優れると共に、機械的強度と誘電特性に優れることから、電気電子部品、通信機器部品、自動車部品、家電部品、OA機器部品などに利用するのが好適である。
【0113】
押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
【0114】
射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
【0115】
中でも、通信時にメガヘルツ帯やギガヘルツ帯を利用するパソコン、タブレット、携帯電話などの電子機器の筐体の用途、ガソリン自動車やハイブリッド自動車、電気自動車の内外装部材として有用である。
【実施例】
【0116】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。なお、実施例1~4は参考例である。
【0117】
実施例および比較例において、(a)PPS樹脂、(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維、(c)シランカップリング剤、(d)アロイ成分、(e)無機フィラーとして以下のものを用いた。
[(a)PPS樹脂(a-1~3)]
a-1:リニア型PPS樹脂 重量平均分子量:50000、カルボキシル基量:42μmol/g
a-2:リニア型PPS樹脂 重量平均分子量:70000、カルボキシル基量:26μmol/g
a-3:架橋型PPS樹脂 重量平均分子量:40000、カルボキシル基量:17μmol/g
[(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維(b-1)]
b-1:ガラス繊維(CPIC社製チョップドストランド CS(HL)-E303N-3)繊維径:13μm、比誘電率4.8
[(c)シランカップリング剤(c-1)]
c-1:γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE-9007)
[(d)アロイ成分(d-1~2)]
d-1:オレフィン系熱可塑性エラストマー(住友化学社製ボンドファーストE)、エチレン-グリシジルジメタクリレート共重合体、グリシジルメタクリレート:12wt%
d-2:オレフィン系熱可塑性エラストマー(三井化学社製TX-650)、エチレン-ブテン共重合体
d-3:フッ素樹脂(旭硝子社製AH2000)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体
[(e)無機フィラー(e-1)]
e-1:ガラス繊維(日本電気硝子社製チョップドストランド ECS-T747)繊維径13μm、比誘電率6.2
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
【0118】
[引張試験]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ-C250)を用い、樹脂温度:310℃、金型温度140℃にて、ISO(1A)ダンベル試験片を成形した。得られた試験片について、支点間距離114mm、引張速度5mm/min、温度23℃×相対湿度50%条件下で、ISO527に従って引張強度を測定した。
【0119】
[比誘電率]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ-C250)を用い、樹脂温度:310℃、金型温度150℃にて、80mm×80mm×3mm厚の角板を成形した。得られた角板について、ASTM D-150(2011)の変成器ブリッジ法に準拠して安藤電気製誘電体損測定装置TR-10Cにて測定した。測定周波数は1MHz、主電極径は50mmφ、電極は導電性ペーストを塗布した。
【0120】
[1次分散相の数平均分散径]
住友重機械工業製射出成形機(SE75DUZ-C250)を用い、樹脂温度:310℃、金型温度140℃にて、ISO(1A)ダンベル試験片を成形し、その中心部から-80℃雰囲気下で0.1μm以下の薄片を試験片の断面積方向に切削し、日立製作所製H-7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50~60万倍)にて、1万倍に拡大して写真撮影した。該写真から、(a)PPS樹脂中に分散する(d)アロイ成分の分散部分について、任意の100個の1次分散相について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値を求め、その後にそれらから求めた数平均値を1次分散相の数平均分散径とした。
【0121】
[PPS樹脂の重量平均分子量]
PPS樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:SSC-7110(センシュー科学)
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示唆屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL(スラリー状:約0.2重量%)。
【0122】
[PPS樹脂のカルボキシル基量]
PPS樹脂のカルボキシル基含有量は、フーリエ変換赤外分光装置(以下、FT-IRと略す)を用いて算出した。
【0123】
まず、標準物質として安息香酸をFT-IRにて測定し、ベンゼン環のC-H結合の吸収である3066cm-1のピークの吸収強度(b1)とカルボキシル基の吸収である1704cm-1のピークの吸収強度(c1)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U1)、(U1)=(c1)/[(b1)/5]を求めた。次に、PPS樹脂を320℃にて1分間溶融プレスした後、急冷して得られた非晶フィルムのFT-IR測定を行った。3066cm-1の吸収強度(b2)と1704cm-1の吸収強度(c2)を読み取り、ベンゼン環1単位に対するカルボキシル基量(U2)、(U2)=(c2)/[(b2)/4]を求めた。PPS樹脂1gに対するカルボキシル基含有量を以下の式から算出した。
PPS樹脂のカルボキシル基量(μmol/g)=(U2)/(U1)/108.161×1000000。
【0124】
[実施例1~6、比較例1~4]
表1に示すPPS樹脂、シランカップリング剤、アロイ成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、サイドフィーダと真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45)を用い、スクリューアレンジをニーディング部3箇所、スクリュー全長に対するニーディング部の割合を25%とし、シリンダー温度は320℃に設定して溶融混練した。ガラス繊維はサイドフィーダを用いて二軸押出機内に投入した。その後、ストランドカッターによりペレット化した。得られたペレットを130℃で8時間乾燥してから、射出成形に供し、得られた成形品について、モルフォロジー観察、引張試験、比誘電率測定を行った。
【0125】
【0126】
上記実施例と比較例の結果を説明する。
【0127】
実施例1~4は、(a)PPS樹脂、(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維、(c)シランカップリング剤を特定の組成とすることで、優れた引張強度と低誘電率を発現している。
【0128】
一方、(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維の組成が150重量部を超える比較例1は、ガラス繊維による補強効果が十分に発現せず、脆く、破断しやすいため、十分な引張強度のPPS樹脂組成物が得られない。また、得られたPPS樹脂組成物の比誘電率も3.8を超えており、十分な誘電特性が得られない。
【0129】
(c)シランカップリング剤を配合しなかった比較例2は、シランカップリング剤を使用した実施例2に比較して大幅に引張強度が劣る結果となった。実施例2に比較して、比較例2では、シランカップリング剤によるPPS樹脂の改質効果(高靱性化)が得られず、強度低下を招いたと考えられる。
【0130】
(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維を配合せず、比誘電率5.5を超えるガラスからなるガラス繊維を配合した比較例3は、引張強度には優れるものの、同量のガラス繊維を使用した実施例2に比較して、大幅に誘電率が高い結果となり、機械的強度と低誘電率を兼ね備えたPPS樹脂組成物を得ることができない。
【0131】
実施例5~6は、(a)PPS樹脂、(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維、(c)シランカップリング剤に加えて、(d)アロイ成分として、オレフィン系熱可塑性エラストマーあるいはフッ素樹脂を配合することで、高い引張強度を保持したまま、低誘電率を発現している。
【0132】
一方、(b)比誘電率5.5以下のガラスからなるガラス繊維を配合しなかった比較例4は、引張強度が大幅に劣る結果となり、実用強度を満足できていない。