(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】電動車両の前部ユニット搭載構造
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20221004BHJP
B60K 1/00 20060101ALI20221004BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60K11/04 Z
B60K1/00
H02K9/19 Z
(21)【出願番号】P 2018054930
(22)【出願日】2018-03-22
【審査請求日】2021-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】清見原 辰典
(72)【発明者】
【氏名】平田 宏喜
(72)【発明者】
【氏名】橋野 浩
(72)【発明者】
【氏名】廣田 和起
(72)【発明者】
【氏名】阿部 忠輔
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-072386(JP,A)
【文献】特開2004-243892(JP,A)
【文献】特開2012-101569(JP,A)
【文献】特開2016-060324(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128855(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0031308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/04
B60K 1/00
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に設けられた前下がりのボンネットの下方に形成されたモータルームに、車幅方向に延びるクロスメンバと、前記クロスメンバの上に取り付けられた電気ユニットと、前記クロスメンバの下側に取り付けられて前記電気ユニットから給電される走行用のモータとを備えた、電動車両の車体前部のユニット搭載構造であって、
前記電気ユニットと前記モータとの間を接続すると共に冷却水が循環する冷却経路と、
前記冷却経路に設けられ前記冷却水から気体を分離するデガスタンクと
を備え、
前記デガスタンクは、
前記電気ユニットに設けられた冷却経路の出口より高く、且つ、前記モータルームの後端上部を構成するカウルトップパネルと上下方向に重複する位置に配置され、
上面視で少なくとも一部が前記電気ユニットとオーバーラップすると共に後端部が前記電気ユニットよりも後側に突出するように、前記電気ユニットの上方後側よりに配置されて
おり、
前記デガスタンクは、前記電気ユニットにブラケットを介して支持されている、電動車両の前部ユニット搭載構造。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記電気ユニットに接続されたハーネスを保護するガード体である、
請求項
1に記載の電動車両の前部ユニット搭載構造。
【請求項3】
前記デガスタンクは、前記ブラケットに支持される支持部を有し、
前記支持部は、上下方向に貫通すると共に後方に向けて開口した切り欠き部として構成されており、
前記デガスタンクは、前記切り欠き部を上下に貫通する締結部材により前記ブラケットに締結固定されている、
請求項
1又は2に記載の電動車両の前部ユニット搭載構造。
【請求項4】
前記冷却経路は、
前記デガスタンクの入口に接続されたタンク入口配管と、
前記デガスタンクの出口に接続されたタンク出口配管と
を有している、
請求項
1~3のいずれか1つに記載の電動車両の前部ユニット搭載構造。
【請求項5】
前記タンク入口配管及び前記タンク出口配管は、前記デガスタンクを挟んで、車幅方向に一対に位置している、
請求項
4に記載の電動車両の前部ユニット搭載構造。
【請求項6】
前記タンク入口配管及び前記タンク出口配管は、可撓性を有する環状部材である、
請求項
4又は5に記載の電動車両の前部ユニット搭載構造。
【請求項7】
車両前部に設けられた前下がりのボンネットの下方に形成されたモータルームに、車幅方向に延びるクロスメンバと、前記クロスメンバの上に取り付けられた電気ユニットと、前記クロスメンバの下側に取り付けられて前記電気ユニットから給電される走行用のモータとを備えた、電動車両の車体前部のユニット搭載構造であって、
前記電気ユニットと前記モータとの間を接続すると共に冷却水が循環する冷却経路と、
前記冷却経路に設けられ前記冷却水から気体を分離するデガスタンクと
を備え、
前記デガスタンクは、
前記電気ユニットに設けられた冷却経路の出口より高く、且つ、前記モータルームの後端上部を構成するカウルトップパネルと上下方向に重複する位置に配置され、
上面視で少なくとも一部が前記電気ユニットとオーバーラップすると共に後端部が前記電気ユニットよりも後側に突出するように、前記電気ユニットの上方後側よりに配置されており、
前記電気ユニットは、複数の電装部品を含み、このうち少なくとも1つが冷却されない非冷却電装部品であり、
前記複数の電装部品は、前記非冷却電装部品が最上段に位置するように車幅方向に2列で積層されており、
前記デガスタンクは、前記非冷却電装部品が積層されていない列の上方であって、前記非冷却電装部品と高さ方向にオーバーラップするように配置されている
、電動車両の前部ユニット搭載構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の前部ユニット搭載構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部に形成されたモータルームに、走行用の電気モータ(以下、単にモータと称する)を備えた電動車両として、例えば電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池車が知られている。例えば特許文献1には、車両前部に設けられたモータルームに、走行用のモータとモータ駆動用の電気ユニットとを含む前部ユニットが搭載された電動車両が開示されている。一般に、電動車両の電気ユニットには、高電圧バッテリからの直流電圧を交流に変換するインバータ、高電圧バッテリ用の充電器、DC-DCコンバータ、高電圧ハーネスが接続されるジャンクションボックス等の複数の機器が含まれる。
【0003】
電気ユニット及びモータ等の高電圧電装部品には、過熱防止のために、これらに冷却水を循環させる冷却装置が備えられる場合がある。冷却装置には、冷却水中の気体を分離するデガスタンクが設けられている。デガスタンクは、上方に溜まり易い気体を効率的に分離すべく、冷却経路中においてより高い位置に配置することを要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータルームにおいて、複数の高電圧電装部品を上下に積層することにより、これらの間を接続する高電圧ハーネスをコンパクトに配索できる。しかしながら、この場合、高電圧電装部品が上下方向に高く積層されてしまう。一方、モータルームの高さはボンネットにより制約されている。このため、上下に積層された複数の高電圧電装部品よりも高く、ボンネットよりも低い位置にデガスタンクをレイアウトするのは容易ではない。
【0006】
本発明は、車両前部に設けられたモータルームに複数の電装部品を備えた電動車両において、複数の電装部品を上下に積層しつつも、電装部品を冷却するための冷却水から気体を効率的に分離できる前部ユニット構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本願発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0008】
本願の請求項1に記載の発明は、車両前部に設けられた前下がりのボンネットの下方に形成されたモータルームに、車幅方向に延びるクロスメンバと、前記クロスメンバの上に取り付けられた電気ユニットと、前記クロスメンバの下側に取り付けられて前記電気ユニットから給電される走行用のモータとを備えた、電動車両の車体前部のユニット搭載構造であって、前記電気ユニットと前記モータとの間を接続すると共に冷却水が循環する冷却経路と、前記冷却経路に設けられ前記冷却水から気体を分離するデガスタンクとを備え、前記デガスタンクは、前記電気ユニットに設けられた冷却経路の出口より高く、且つ、前記モータルームの後端上部を構成するカウルトップパネルと上下方向に重複する位置に配置され、上面視で少なくとも一部が前記電気ユニットとオーバーラップすると共に後端部が前記電気ユニットよりも後側に突出するように、前記電気ユニットの上方後側よりに配置されており、前記デガスタンクは、前記電気ユニットにブラケットを介して支持されていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記ブラケットは、前記電気ユニットに接続されたハーネスを保護するガード体であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、前記デガスタンクは、前記ブラケットに支持される支持部を有し、前記支持部は、上下方向に貫通すると共に後方に向けて開口した切り欠き部として構成されており、前記デガスタンクは、前記切り欠き部を上下に貫通する締結部材により前記ブラケットに締結固定されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記冷却経路は、前記デガスタンクの入口に接続されたタンク入口配管と、前記デガスタンクの出口に接続されたタンク出口配管とを有していることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、前記タンク入口配管及び前記タンク出口配管は、前記デガスタンクを挟んで、車幅方向に一対に位置していることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、前記タンク入口配管及び前記タンク出口配管は、可撓性を有する環状部材であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に記載の発明は、車両前部に設けられた前下がりのボンネットの下方に形成されたモータルームに、車幅方向に延びるクロスメンバと、前記クロスメンバの上に取り付けられた電気ユニットと、前記クロスメンバの下側に取り付けられて前記電気ユニットから給電される走行用のモータとを備えた、電動車両の車体前部のユニット搭載構造であって、前記電気ユニットと前記モータとの間を接続すると共に冷却水が循環する冷却経路と、前記冷却経路に設けられ前記冷却水から気体を分離するデガスタンクとを備え、前記デガスタンクは、前記電気ユニットに設けられた冷却経路の出口より高く、且つ、前記モータルームの後端上部を構成するカウルトップパネルと上下方向に重複する位置に配置され、上面視で少なくとも一部が前記電気ユニットとオーバーラップすると共に後端部が前記電気ユニットよりも後側に突出するように、前記電気ユニットの上方後側よりに配置されており、前記電気ユニットは、複数の電装部品を含み、このうち少なくとも1つが冷却されない非冷却電装部品であり、前記複数の電装部品は、前記非冷却電装部品が最上段に位置するように車幅方向に2列で積層されており、前記デガスタンクは、前記非冷却電装部品が積層されていない列の上方であって、前記非冷却電装部品と高さ方向にオーバーラップするように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
前記の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0017】
まず、請求項1に記載の発明によれば、モータルームは、前下がりのボンネットにより後方に向かって上方に拡大するように形成されるので、電気ユニットの上方後側よりにデガスタンクを配置するための空間を確保しやすい。該空間を利用して、デガスタンクを、カウルトップ、ボンネットとの干渉を抑制しつつ、モータルーム内の出来るだけ高い位置に配置しやすく、冷却経路内の気液分離を実施しやすい。
【0018】
さらに、デガスタンクは、上面視で少なくとも一部が電気ユニットとオーバーラップするように配置されているので、前突時等にデガスタンクが脱落したとしても、電気ユニット上に支持されやすく、デガスタンクの損傷が抑制される。この結果、前突時においてデガスタンクからの冷却水の漏出を抑制しやすい。
【0019】
また、デガスタンクは、電気ユニットと相対変位不能に構成されているので、前突時に電気ユニットの変位と共にデガスタンクも変位する。これにより、前突時に、電気ユニットとデガスタンクとの接触が抑制される。この結果、デガスタンクを電気ユニットとの接触による損傷から保護できる。
【0020】
また、請求項2に記載の発明によれば、デガスタンクを、電気ユニットに接続されたハーネスを保護するガード体を利用して、支持できる。これにより、デガスタンクを支持するための専用部材を設けること要しないので、部品点数の増大が抑制される。
【0021】
また、請求項3に記載の発明によれば、例えば前突時にデガスタンクが、電気ユニットと共に後方に移動して、この後方に位置する車体部品(例えばカウルトップ)に接触したとしても、締結部材は、後方に向けて開口した切り欠き部から後方に外れやすい。この結果、デガスタンクを車体部品との強接触から抑制しやすく、デガスタンクの損傷を防止できる。
【0022】
また、請求項4に記載の発明によれば、例えば前突時に、デガスタンクは、ブラケットによる支持から脱落したとしても、一対のタンク入口配管及びタンク出口配管により支持されるので、デガスタンクの損傷を抑制してデガスタンクからの冷却水の漏出を抑制しやすい。
【0023】
また、請求項5に記載の発明によれば、例えば前突時において、タンク入口配管及びタンク出口配管は、デガスタンクとカウルトップ又は電気ユニットとの前後方向間に挟まれ難い。これにより、例えば前突時において、タンク入口配管及び出口配管の損傷が抑制されやすく、デガスタンクがより好適に支持される。
【0024】
また、請求項6に記載の発明によれば、例えば前突時に、デガスタンクは、ブラケットによる支持から脱落したとしても、一対のタンク入口配管及びタンク出口配管により弾性的に支持されるので、デガスタンクの損傷を抑制してデガスタンクからの冷却水の漏出を抑制しやすい。
【0025】
また、請求項7に記載の発明によれば、電気ユニットが高さ方向にコンパクトに積層されるので、デガスタンクの高さ位置を抑制しつつも冷却経路中の気液分離を実施しやすい。したがって、前部ユニット搭載構造を高さ方向にコンパクトに構成できる。
【0026】
すなわち、本発明に係る電動車両の前部ユニット搭載構造によれば、車両前部に設けられたモータルームに複数の電装部品を備えた電動車両において、複数の電装部品を上下に積層しつつも、電装部品を冷却するための冷却水から気体を効率的に分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動車両の前部ユニット搭載構造を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各距離の比率等は現実のものとは相違している。
【0029】
本発明の一実施形態に係る電動車両は、車室フロア床下に配置された高電圧バッテリから、車両前部に形成されたモータルーム内の電気ユニットを介して給電される走行用の電気モータ(以下、モータと称する)を駆動源として走行可能に構成された電気自動車である。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動車両の前部ユニット搭載構造を示す斜視図である。
図2はモータルーム1の上面図であり、
図3は前部ユニット搭載構造の後方斜視図であり
図4,5はそれぞれ前部ユニット搭載構造の右側面図及び左側面図である。なお各図において、ボンネット、フェンダー、バンパー等の外装部品が省略されている。
【0031】
(全体構成)
図1に示されるように、モータルーム1は、上下方向に延びるダッシュパネル2によりこの前側に区画された空間として設定されている。ダッシュパネル2の上端部には、車幅方向に延びるカウルトップパネル3が設けられており、カウルトップパネル3によりモータルーム1の後端上部が構成されている。また、
図2及び
図4に示されるように、ダッシュパネル2の下端部には、車幅方向の中央において、後方に延びており車室フロアよりも上方に凸状に形成されたトンネル部13が接続されている。
【0032】
また、
図4及び
図5に示されるように、モータルーム1は、前方に向かって下方に傾斜して延びるボンネット12の下方の空間として形成されている。
【0033】
図1に示されるように、モータルーム1の車幅方向の両側部には、左右一対のサイドフレーム4がダッシュパネル2から前方に延びている。サイドフレーム4は、矩形状の閉断面に形成されている。左右一対のサイドフレーム4の前端部はそれぞれ、前後方向に延びるクラッシュカン5を介して、車幅方向に延びるバンパレイン6の両側部に連結されている。
【0034】
左右一対のサイドフレーム4の上面部にはそれぞれ、マウントブラケット7がボルト締結されている。マウントブラケット7は、サイドフレーム4の上面部から車幅方向の内側に延びている。左右一対のマウントブラケット7の下面には、車幅方向に延びるクロスメンバ8の両側部が取り付けられている。したがって、左右一対のサイドフレーム4の間に、マウントブラケット7を介してクロスメンバ8が車幅方向に架け渡されている。
【0035】
クロスメンバ8の上側には電気ユニット30が取り付けられており、クロスメンバ8の下側には電気ユニット30から給電されるモータユニット20が取り付けられている。本明細書では、モータルーム1に配設された、電気ユニット30、モータユニット20、及びこれらに関連する構成部品(冷却装置、ハーネス等)を含めて前部ユニットと称する。
【0036】
モータユニット20は、左右一対の懸下ブラケット9、10(
図3を併せて参照)を介して、クロスメンバ8に吊り下げられている。モータユニット20は、車両右側に位置する車両駆動用の3相交流モータ21(以下、モータ21と称する)と、この車両左側に連結されたギヤボックス22とを有している。モータ21は出力軸(不図示)を車幅方向に向けて配置されている。
【0037】
図3に示されるように、ギヤボックス22は、モータ21の出力軸に動力伝達可能に連結されており、モータ21から入力された駆動力を所定の減速比で減速する減速機構と、左右の駆動輪へのトルク配分を行う差動機構とを有し、後方の出力部23から駆動力を出力する。ギヤボックス22の出力部23には、左右一対のドライブシャフト(不図示)が組み付けられており、ドライブシャフトを介して左右一対の前輪(不図示)が回転駆動される。
【0038】
電気ユニット30は、複数の高電圧電装部品、具体的にはインバータ40、ジャンクションボックス50、車載充電器31、及びDC-Cコンバータ35を含んでいる。インバータ40は、クロスメンバ8の車両左側に位置しており、この上部にジャンクションボックス50が積層されている。また、車載充電器31は、クロスメンバ8の車両右側に位置しており、この上部にDC-DCコンバータ35が積層されている。
【0039】
したがって、電気ユニット30は、複数の電装部品が車幅方向に2列に分けてそれぞれ2段に積層された構造とすることにより前後及び上下方向にコンパクトに構成されている。
【0040】
ここで、本明細書では、高電圧電装部品とは、一般的な車載電装部品の定格電圧(乗用車だ12V、トラック、バス等の商用車では24V)を超える電圧(例えば、100V以上)により印加される電装部品を意味する。
【0041】
なお、下段に積層されたインバータ40及び車載充電器31は上下方向寸法が概ね同じであるが、上段に積層されたDC-DCコンバータ35はジャンクションボックス50よりも上下方向寸法が小さい。すなわち、車両左側に積層されたインバータ40及びジャンクションボックス50からなる左側電気ユニット30Lは、車両右側に積層された車載充電器31及びDC-DCコンバータ35からなる右側電気ユニット30Rよりも上下方向に高い。
【0042】
インバータ40は、車室フロア床下に配設されたメインバッテリ11(
図2)からの高電圧(例えば、300V)の直流電力を3相交流電力に変換してモータ21に供給するための高電圧電装部品であって、インバータ回路を有している。
【0043】
ジャンクションボックス50は、ハーネス同士を接続、分岐、中継する際に用いる端子や端子を保護するための所謂接続箱であって、リレー回路を有している。
図2及び
図3に示されるように、本実施形態では、ジャンクションボックス50は、2本のバッテリハーネス70を介してメインバッテリ11に接続されている。また、ジャンクションボックス50は、3相交流電力に対応した3本のモータハーネス75を介してモータ21に接続されている。インバータ40及びジャンクションボックス50はこれらの内部にわたって上下に挿通されたバスバー(不図示)を介して接続されている。
【0044】
図5に示されるように、ジャンクションボックス50の後部には、側面視逆L字状のガード体65が締結ボルトにより固定されている。ガード体65は、ジャンクションボックス50の上面から後方に延びるガード体水平面部66と、この後端部から下方に延びるガード体後面部67と、これらの両側部から下方又は前方に延びるガード体側部フランジ68とを有している。
【0045】
ガード体後面部67は、バッテリハーネス70及びモータハーネス75それぞれの上部とカウルトップパネル3との間に位置しており、これらのハーネス70,75のジャンクションボックス50への接続部分に対して後側から対向している。
【0046】
図3に示されるように、車載充電器31は、充電回路を有しており、充電ケーブルを介して接続された外部電源(例えば、100V又は200V)からの電力をメインバッテリ11に充電するもので、車載充電器31とメインバッテリ11とは電力ケーブル(不図示)によって接続されている。DC-DCコンバータ35は、高電圧を車載機器駆動用の低電圧(例えば、12V)に変換する変換器である。
【0047】
ここで、高電圧電装部品を含むモータユニット20及び電気ユニット30の走行時及び充電時における過熱を防止するため、モータルーム1には冷却装置がさらに配設されている。具体的には、モータユニット20のモータ21と、電気ユニット30のインバータ40、車載充電器31、及びDC-DCコンバータ35が、走行時及び充電時に冷却装置により冷却されるようになっている。一方、ジャンクションボックス50は、冷却されない非冷却電装部品として構成されている。
【0048】
(冷却装置)
図3に示されるように、冷却装置は、モータルーム1の前側に配設された放熱用のラジエータ91と、クロスメンバ8の後方に配設された冷却水循環用の電動ウォータポンプ92と、冷却水から気体を分離するデガスタンク93と、これらの冷却装置とモータユニット20及び電気ユニット30とを接続し、冷却水が循環する冷却経路とを有している。
【0049】
冷却経路は、モータ冷却配管101と、ラジエータ入口配管102(
図2参照)と、充電器冷却配管103と、インバータ冷却配管104と、DC-DCコンバータ冷却配管105と、デガスタンク入口配管106と、ウォータポンプ入口配管107とを有している。各冷却配管及び入口配管101~107は、ゴムホースと金属製又は樹脂製のパイプを適宜組み合わせて構成されている。また、冷却経路は、モータ21、車載充電器31、インバータ40、及びDC-DCコンバータ35それぞれの内部に形成されたウォータジャケット(不図示)を有している。
【0050】
図1及び
図3を参照して、モータ冷却配管101は、電動ウォータポンプ92の側方後部に設けられた吐出口に接続された上流側端部から、モータユニット20の後方を車両右側へ延びると共にUターンして車両左側へ延びている。さらに、モータ冷却配管101は、モータユニット20の車両左側を前方に延びると共にモータユニット20の前方を車両右側へ延びており、下流側端部がモータ21の前部に設けられた冷却水入口に接続されている。
【0051】
図1及び
図4を参照して、ラジエータ入口配管102は、モータ21の前部に設けられた、冷却水出口、に接続された上流側端部から、車両右側へ延びると共に前方に延びて、下流側他端部がラジエータ91の右端部の下よりに設けられたラジエータ入口に接続されている。
【0052】
図1、
図3及び
図4を参照して、充電器冷却配管103は、ラジエータ91の右端上部に設けられた、ラジエータ出口、に接続された上流側端部から、右側電気ユニット20Rの上方右側を通って後方に延びると共に、右側電気ユニット20Rの後方を下方に延びており、下流側端部が車載充電器31の後端面に設けられた冷却水入口に接続されている。
【0053】
図1及び
図3を参照して、インバータ冷却配管104は、車載充電器31の後端面に設けられた、冷却水出口、に接続された上流側端部から、DC-DCコンバータ35とジャンクションボックス50との間を前方に延びると共にジャンクションボックス50の前方を車両左側へ延びており、下流側端部がインバータ40の左端面に設けられた冷却水入口に接続されている。
【0054】
図1及び
図3を参照して、DC-DCコンバータ冷却配管105は、インバータ40の左端面に設けられた、冷却水出口、に接続された上流側端部から、ジャンクションボックス50の前方を車両右側へ延びており、下流側端部がDC-DCコンバータ35の前部に設けられた冷却水入口に接続されている。
【0055】
図1及び
図2を参照して、デガスタンク入口配管106は、DC-DCコンバータ35の前部に設けられた、冷却水出口、に接続された上流側端部から、充電器冷却配管103の上方を後方に延びると共に車両左側へ延びており、下流側端部がデガスタンク93の右端面前端下部に設けられたタンク入口に接続されている。
【0056】
図3を参照して、ウォータポンプ入口配管(デガスタンク出口配管)107は、デガスタンク93の左端面後端下部に設けられたタンク出口に接続された上流側端部から、左側電気ユニット20Lの後方を車両左側へ延びると共に、左側電気ユニット20Lの左端部近傍にて下方に延びており、下流側端部が電動ウォータポンプ92の上部に設けられたポンプ入口に接続されている。
【0057】
また、デガスタンク入口配管106及びウォータポンプ入口配管107は、可撓性を有する環状部材、例えばゴムホースにより構成されている。したがって、デガスタンク93には、デガスタンク93を挟んで車幅方向に一対のデガスタンク入口配管106とウォータポンプ入口配管107とが接続されている。
【0058】
なお、DC-DCコンバータ35に形成された冷却水出入口は、車載充電器31及びインバータ40それぞれに形成された冷却水出入口よりも上下方向に高い位置に設けられている。
【0059】
上述したように、モータ21、車載充電器31、インバータ40、DC-DCコンバータ35の内部には冷却水が流れるウォータジャケットを有している。すなわち、冷却経路は、電動ウォータポンプ92、モータ21、ラジエータ91、車載充電器31、インバータ40、DC-DCコンバータ35、デガスタンク93は、これらに形成されたウォータジャケットと共に冷却配管及び入口配管101~107により、この順で直列接続する経路として構成されている。
【0060】
図2を参照して、デガスタンク93について詳述する。デガスタンク93は、右側電気ユニット30Rの上方に配置されている。より具体的には、デガスタンク93は、上面視で少なくとも一部が右側電気ユニット30Rとオーバーラップすると共に、後端部が右側電気ユニット30Rよりも後側に突出するように、右側電気ユニット30Rの上方後側よりに配置されている。
【0061】
また、デガスタンク93は、DC-DCコンバータ35に形成された冷却水出入口よりも上下方向に高い位置に配置されている。
【0062】
図4に示されるように、ボンネット12は、前方に向かって下方に傾斜して延びている。すなわち、ボンネット12の下方に画定されるモータルーム1は、後方に向かって上下方向の寸法が拡大する。この拡大した空間を利用して、デガスタンク93は、電気ユニット30Rの上方後側よりに配置されている。具体的には、デガスタンク93は、左側電気ユニット30Lにおいて上方に積層されており、冷却経路に含まれていないジャンクションボックス50と高さ方向にオーバーラップすると共に、カウルトップパネル3とも高さ方向にオーバーラップするように配置されている。
【0063】
次に、デガスタンク93の固定について説明する。
図2に示されるように、デガスタンク93は、左端部に車両左側に略水平に延びるフランジ部94を有している。フランジ部94には、上下方向に貫通すると共に後方に向けて開口した、前後一対の切り欠き部95(支持部)を有している。より具体的には、切り欠き部95は、後方に向かって車両左側に傾斜した方向に延びている。
【0064】
デガスタンク93は、ガード体65(ブラケット)にフランジ部94を介して支持されている。具体的には、デガスタンク93は、ガード体水平面部66に設けたスタッドボルトの軸部を前後一対の切り欠き部95に下方から挿通させると共に、該スタッドボルトの雄ねじに締結ナット96をガード体65の上面部に締結することにより固定されている。すなわち、締結ナット96の座面が切り欠き部95の周縁部をガード体65に向けて押し付けることにより、デガスタンク93がガード体65に締結により固定されている。
【0065】
上記実施形態に係る電動車両の前部ユニット搭載構造によれば、以下の効果を奏する。
【0066】
(1)モータルーム1は、前下がりのボンネット12により後方に向かって上方に拡大するように形成されるので、電気ユニット30の上方後側よりにデガスタンク93を配置するための空間を確保しやすい。該空間を利用して、デガスタンク93を、カウルトップパネル3、ボンネット12との干渉を抑制しつつ、モータルーム1内の出来るだけ高い位置に配置しやすく、冷却経路内の気液分離を実施しやすい。
【0067】
(2)さらに、デガスタンク93は、上面視で少なくとも一部が電気ユニット30とオーバーラップするように配置されているので、衝突時等に後方に位置する車体部品に接触してデガスタンク93が脱落したとしても、電気ユニット30の上部に支持されやすく、デガスタンク93の損傷が抑制される。この結果、前突時においてデガスタンク93からの冷却水の漏出を抑制しやすい。
【0068】
(3)デガスタンク93は、電気ユニット30と相対変位不能に構成されているので、前突時に電気ユニット30の変位と共にデガスタンク93も変位する。これにより、前突時に、電気ユニット30とデガスタンク93との接触が抑制される。この結果、デガスタンク93を電気ユニット30との接触による損傷から保護できる。
【0069】
(4)デガスタンク93を、電気ユニット30に接続されたバッテリハーネス70及びモータハーネス75を保護するガード体65を利用して、支持できる。これにより、デガスタンク93を支持するための専用部材を設けること要しないので、部品点数の増大が抑制される。
【0070】
(5)例えば前突時に、デガスタンク93が、電気ユニット30と共に後方に移動して、この後方に位置する車体部品(例えばカウルトップパネル3)に接触したとしても、デガスタンク93をガード体65に締結するスタッドボルトは、フランジ部94に形成された後方に向けて開口した切り欠き部95から後方に外れやすい。この結果、デガスタンク93を車体部品との強接触から抑制しやすく、デガスタンク93の損傷を防止できる。
【0071】
(6)デガスタンク93には、一対のデガスタンク入口配管106とウォータポンプ入口配管107が接続されているので、例えば前突時において、デガスタンク93は、ガード体65による支持から脱落したとしても、一対のデガスタンク入口配管106及びウォータポンプ入口配管107により支持されるので、デガスタンク93の損傷を抑制してデガスタンク93からの冷却水の漏出を抑制しやすい。
【0072】
(7)デガスタンク入口配管106及びウォータポンプ入口配管107は、デガスタンク93を挟んで車幅方向に一対に位置しているので、例えば前突時において、デガスタンク93とカウルトップパネル3又は電気ユニット30との前後方向間に挟まれ難い。これにより、例えば前突時において、デガスタンク入口配管106及びウォータポンプ入口配管107の損傷が抑制されやすく、デガスタンク93がより好適に支持される。
【0073】
(8)デガスタンク入口配管106及びウォータポンプ入口配管107は、可撓性を有する環状部材であるので、例えば前突時に、デガスタンク93は、ガード体65による支持から脱落したとしても、一対のデガスタンク入口配管106及びウォータポンプ入口配管107により弾性的に支持されるので、デガスタンク93の損傷を抑制してデガスタンク93からの冷却水の漏出を抑制しやすい。
【0074】
(9)電気ユニット30は、複数の電装部品を、車幅方向に2列にわけてそれぞれ2段に積層されており、冷却を要しないジャンクションボックス50を上側に積層すると共に、ジャンクションボックス50が積層されていない右側電気ユニット30Rの上方に、ジャンクションボックス50と上下方向にオーバーラップするように、デガスタンク93が配置されている。これにより、電気ユニット30が高さ方向にコンパクトに積層されるので、デガスタンク93の高さ位置を抑制しつつも冷却経路中の気液分離を実施しやすい。したがって、前部ユニット搭載構造を高さ方向にコンパクトに構成できる。
【0075】
上記実施形態は、電気自動車を例にとって説明したがこれに限らず、電気モータを駆動源とする電動車両であればよく、例えばハイブリッド車、燃料電池車にも好適に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上のように、本発明に係る電動車両の前部ユニット搭載構造によれば、車両前部に設けられたモータルームに複数の電装部品を備えた電動車両において、複数の電装部品を上下に積層しつつも、電装部品を冷却するための冷却水から気体を効率的に分離できるので、電動車両の製造技術分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0077】
1 モータルーム
2 ダッシュパネル
3 カウルトップパネル
8 クロスメンバ
11 メインバッテリ
12 ボンネット
13 トンネル部
20 モータユニット
21 モータ
30 電気ユニット
31 車載充電器
35 DC-DCコンバータ
40 インバータ
50 ジャンクションボックス
70 バッテリハーネス
80 モータハーネス
91 ラジエータ
92 電動ウォータポンプ
93 デガスタンク
94 フランジ部
95 切り欠き部
96 締結ナット
101 モータ冷却配管
102 ラジエータ入口配管
103 充電器冷却配管
104 インバータ冷却配管
105 DC-DCコンバータ冷却配管
106 デガスタンク入口配管
107 ウォータポンプ入口配管