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特許7151151天然ゴム組成物、タイヤ用ゴム組成物およびタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】天然ゴム組成物、タイヤ用ゴム組成物およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08C 2/02 20060101AFI20221004BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08C2/02
C08L7/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018083473
(22)【出願日】2018-04-24
(65)【公開番号】P2019189745
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 大樹
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 悠子
(72)【発明者】
【氏名】宮瀬 晴子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寛太
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C1/00-4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムとクエン酸水溶液とを接触させる第1工程と、
第1工程の後に天然ゴムとヒドラジド化合物とを混合する第2工程と
を含み、天然ゴム100質量部に対する前記ヒドラジド化合物の添加量が0.1~3質量部である天然ゴム組成物の製造方法であって、
天然ゴムとクエン酸水溶液との接触が、天然ゴムの切断物をクエン酸水溶液中に浸漬することにより実施するものであり、
ヒドラジド化合物が、一般式(2):
NH2NHCO-Rb-CONHNH2 (2)
(式中、Rbは、二価の炭素数1~30のアルキレン基、二価の炭素数~30の不飽和炭化水素基、二価の炭素数3~30のシクロアルキレン基、二価の炭素数~30のアリーレン基のいずれかを示す。)
で表される化合物である、天然ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
天然ゴム組成物製造工程中の乾燥温度が140℃以下である請求項1記載の天然ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
天然ゴムを塩基性物質の水溶液に浸漬する工程を含む請求項1または2記載の天然ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記塩基性物質の水溶液が界面活性剤を含有する請求項3記載の天然ゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
クエン酸水溶液の濃度が、10質量%以上30質量%以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の天然ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法で製造される天然ゴム組成物を含む混練用原料を混練りする工程を含むタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法により製造されたタイヤ用ゴム組成物をタイヤ用部材に加工する工程と、
前記タイヤ用部材を用いてタイヤを製造する工程と
を含むタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴム組成物の製造方法およびそれを用いたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム業界で使用されている天然ゴム(NR)は熱帯地方で栽培されるヘベア・ブラジリエンシスと呼ばれるゴムノキから採取された樹液(ラテックス)を固形化したものである。固形化方法としてはギ酸等の酸で凝固、シート化、乾燥して製造する方法や、ゴム農園でラテックス採取用のカップの中で自然に凝固させる、もしくはカップに酸を添加して凝固させるような方法で得られたカップランプを粉砕、洗浄を繰り返し、乾燥後プレスして製造する方法がある。
【0003】
上記のように製造されることから天然ゴムはポリイソプレン成分以外にタンパク質、脂質、糖等の非ゴム成分を多く含有している。そのため、乾燥の前段階での貯蔵期間中にこれらの成分が腐敗し、悪臭の原因となっている。特にカップランプに関しては農園での貯蔵、加工工場での貯蔵や輸送期間などから貯蔵期間が長く、臭気の問題が生じ易い。しかし、製造のし易さ、コストの面からタイヤ用途では近年カップランプを原材料とする天然ゴムが非常に多く使用されている。天然ゴムの腐敗臭は天然ゴムの加工工場はもちろんタイヤ等のゴム製品の製造工場でも工場の作業環境の悪化、工場周辺の環境への影響など問題になっている。
【0004】
さらに天然ゴムは製造後、加工されるまでの間貯蔵期間があり、この期間中に粘度が上昇し硬化してしまうといった課題があり、硬化によって加工時には練り落ちが悪くなり、時間をかけないと練れない等といった影響があり、加工後のタイヤ物性にも悪影響を与える事もある。
【0005】
特許文献1には天然ゴムラテックスにタンパク分解酵素と界面活性剤を添加し反応させ、腐敗の原因の1つであるタンパク質を除去する事で臭気を低減させる手法が開示されている。
【0006】
特許文献2には天然ゴムラテックスに酸化防止剤を添加しさらに乾燥温度を低下させることで臭気を低減させる手法が開示されている。
【0007】
特許文献3には天然ゴムに、恒粘度化剤および臭気抑制剤としてアミノグアニジン化合物を配合することにより長期間に亘る恒粘度化を達成するとともに、臭気が著しく低減された天然ゴムを含有するゴム組成物を提供することができると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-81505号公報
【文献】特開2011-74392号公報
【文献】特開2015-117323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載の方法はラテックスを原料とした場合にしか適用できず、カップランプを原材料とする天然ゴムに関しては臭気低減出来ないという問題がある。また、特許文献3に記載の方法では、アミノグアニジン化合物の多くは強酸であるため、配合物のpHが酸性に近くなり、スタッドレス配合等のシリカ配合タイヤ用組成物の場合には、シリカとカップリング剤の反応が悪くなってしまうといった課題がある。
【0010】
そこで、本発明は、ラテックスであるか、カップランプであるかを問わず使用可能な、臭気低減および恒粘度化された天然ゴム組成物の製造方法、その製造方法により得られる天然ゴム組成物およびその天然ゴム組成物を含むタイヤ用ゴム組成物、ならびにそのタイヤ用ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を備えるタイヤを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明者らは、天然ゴムをクエン酸水溶液に接触させ、その後、所定量のヒドラジド化合物と混合することにより、得られる天然ゴムの臭気低減と恒粘度化を両立させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本開示は、
[1]天然ゴムとクエン酸水溶液とを接触させる第1工程と、
第1工程の後に天然ゴムとヒドラジド化合物とを混合する第2工程と
を含み、天然ゴム100質量部に対する前記ヒドラジド化合物の添加量が0.1~3質量部、好ましくは1.5~2.5質量部である天然ゴム組成物の製造方法、
[2]天然ゴム組成物製造工程中の乾燥温度が140℃以下、好ましくは125℃以下、より好ましくは120℃以下である上記[1]記載の天然ゴム組成物の製造方法、
[3]天然ゴムを塩基性物質の水溶液に浸漬する工程を含む上記[1]または[2]記試の天然ゴム組成物の製造方法、
[4]前記塩基性物質の水溶液が界面活性剤を含有する上記[3]記載の天然ゴム組成物の製造方法、
[5]上記[1]~[4]記載の製造方法で製造される天然ゴム組成物、
[6]上記[5]記載の天然ゴム組成物を含むタイヤ用ゴム組成物、ならびに
[7]上記[6]記載のタイヤ用ゴム組成物により構成されたタイヤ部材を備えるタイヤに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、天然ゴムとクエン酸水溶液とを接触させる第1工程と、第1工程の後に天然ゴムと所定量のヒドラジド化合物とを混合する第2工程とを含む天然ゴム組成物の製造方法によれば、天然ゴム特有の臭気が低減され、恒粘度化された天然ゴム組成物を提供することができ、またその天然ゴム組成物を含むタイヤ用組成物、およびそのタイヤ用ゴム組成物で構成されたタイヤ部材を備えるタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<天然ゴム組成物の製造方法>
本発明の天然ゴム組成物の製造方法は、天然ゴムとクエン酸水溶液とを接触させる第1工程と、第1工程の後に天然ゴムと所定量のヒドラジド化合物とを混合する第2工程とを含む製造方法であり、クエン酸水溶液との接触後に所定量のヒドラジド化合物と混合することにより、得られる天然ゴム組成物は、臭気が低減され、経時的な粘度の上昇が抑えられた恒粘度化天然ゴムとなる。
【0015】
天然ゴムの臭気は天然ゴムの非ゴム成分であるタンパク質、脂質、糖などが貯蔵中に腐敗する事および乾燥中に分解する事で臭気の原因物質である低級脂肪酸および付随するアルデヒド類が発生することが原因と考えられる。また腐敗したタンパク質や糖は天然ゴム中の含まれる水分やゴム成分の間隙に含まれていると考えられる。貯蔵期間中の硬化はアルデヒドによる架橋によって起こるとされている。
【0016】
上述の本発明の効果は、ヒドラジド化合物が有するヒドラジノ基(-NHNH2)にアルデヒド類が有するカルボニル基(C=O部分)が反応し、アルデヒド類をトラップするため臭気が低減されると共にアルデヒド架橋を防ぎ、貯蔵時の硬化も防ぐことが出来ると考えられる。さらにヒドラジド化合物を混合する前工程でクエン酸水溶液を天然ゴムに接触させることによって、金属イオンを取り除き、PO(劣化指標)、PRI(酸化指標)が向上し、恒粘度化に寄与すると考えられる。このようなクエン酸水溶液との接触とヒドラジド化合物との混合との組合せによって、さらにアルデヒド類とヒドラジド化合物の反応が促進され、大幅な臭気低減効果と早期のアルデヒド架橋防止による恒粘度効果が得られると考えられる。また、ヒドラジド基は低級脂肪酸についているカルボン酸が有するカルボニル基にも反応するため、天然ゴムの臭気成分の多くをトラップする事ができると考えられる。
【0017】
また、本発明は、ラテックスではなくカップランプを用いた製造工程でも適応することができ、原料に依らず安定的に天然ゴムの臭気を低減する事が可能である。
【0018】
さらに、上記製造方法でも少量発生してしまった低級脂肪酸はシートを塩基性物質の水溶液に浸漬することで臭気成分を中和、除去する事で臭気をさらに低減することができる。さらに少量の界面活性剤を添加する事で内部の臭気原因成分を抽出しやすくする効果や、塩基性物質を浸透させやすくすることでより効率的に臭気成分を中和、除去する事でさらに臭気を低減することができる。
【0019】
原料とする天然ゴムは、ゴムノキをタッピングして採取した生ラテックス(フィールドラテックス)や、生ラテックスを遠心分離法やクリーミング法によって濃縮した濃縮ラテックス(精製ラテックス、常法によりアンモニアを添加したハイアンモニアラテックス、亜鉛華とTMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)とアンモニアとによって安定化させたLATZラテックスなど)などの天然ゴムラテックス、ならびに、ゴム農園でラテックス採取用のカップの中で自然に凝固させる方法もしくはカップに酸を添加して凝固させる方法で得られたカップランプなどが挙げられ、加工性やコスト面、原料の入手のしやすさの点からカップランプが好ましい。
【0020】
クエン酸水溶液は、市販のクエン酸を水に溶解して使用することができ、クエン酸の濃度は、通常0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、クエン酸の濃度は、通常30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。クエン酸水溶液中のクエン酸濃度が上記範囲内であると、PRIの改良効果がより向上する傾向がある。
【0021】
ヒドラジド化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、一般式(1):
a-CONHNH2 (1)
(式中、Raは、炭素数1~30のアルキル基、炭素数~30の不飽和炭化水素基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数~30のアリール基のいずれかを示す。)
で表される化合物、または一般式(2):
NH2NHCO-Rb-CONHNH2 (2)
(式中、Rbは、二価の炭素数1~30のアルキレン基、二価の炭素数~30の不飽和炭化水素基、二価の炭素数3~30のシクロアルキレン基、二価の炭素数~30のアリールのいずれかを示す。)
で表される化合物が挙げられる。
【0022】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、ブチルヒドラジド、ラウリン酸ヒドラジド、パルミチン酸ヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、シクロプロピルヒドラジド、シクロヘキシルヒドラジド、シクロヘプチルヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、o-、m-またはp-トリルヒドラジド、p-メトキシフェニルヒドラジド、3,5-キシリルヒドラジド、1-ナフチルヒドラジドなどが挙げられ、上記一般式(2)で表される化合物の具体例としては、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、サリチル酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジドなどが挙げられる。
【0023】
天然ゴムの製造では、凝固後、破砕、洗浄を繰り返した後、成型、乾燥されるのが一般的であり、破砕の前工程にクレーパー、ロールに通して、ラテックス凝固固形物の水分を低減したうえで使用することでより臭気改善を確認することができる。
【0024】
天然ゴムラテックスの凝固物としては、特に限定されるものではなく、例えばアンスモークドシート(ラテックスを酸で凝固、シート化して乾燥したもの)、スモークドシート(アンスモークドシートを燻製にしたもの)、カップランプ(カップの中でラテックスが自然凝固したもの)、スラブまたはそれらの混合品等がある。
【0025】
これらの凝固物は、続いて切断、洗浄、シート化を繰り返し、最終的に小粒形の切断物(クラム)となる。クラムの粒径は、熱風乾燥のしやすさの点から、10mm以下が好ましく、2~5mmがより好ましい。
【0026】
(第1工程)
クエン酸水溶液と天然ゴムとを接触させる第1工程は、ヒドラジド化合物を加える前であれば、特に限定されるものではないが、クレーパー処理によるシート化の段階でクエン酸水溶液を振り掛けることにより行うことが好ましい。この工程により、シート化が容易になると同時に、天然ゴムの劣化を促進する金属イオンを取り除き、PO(劣化指標)、PRI(酸化指標)の向上、経時での粘度上昇の抑制という効果を奏する。その他、切断、洗浄工程で、切断物をクエン酸水溶液中に浸漬させることにより天然ゴムとクエン酸水溶液とを接触させることもできる。クエン酸水溶液と接触する際の切断物の粒径は、例えば200mm以下であり、本発明の効果が向上するという観点から100mm~1mmであるのが好ましい。切断物の粒径の調整は、公知のスラブカッター、ロータリーカッター、クレーパー処理によるシート化、およびシュレッダー処理による切断を複数回組み合わせて行うことにより可能となる。
【0027】
天然ゴムとクエン酸水溶液との接触時間は、例えば20分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましい。接触時間を20分間以上とすることにより、金属イオンとクエン酸の反応がほぼ平行に達し効果がほぼ最大となる傾向、つまり、恒粘度化の効果が大きくなる傾向がある。言い換えると天然ゴムの切断物中にクエン酸水溶液が十分に浸漬し、金属イオンを取り除くことができるため、PO、PRIが向上する傾向がある。また、天然ゴムとクエン酸水溶液との接触時間は、例えば60分間以下が好ましく、50分間以下がより好ましい。接触時間を60分間より長くしても、恒粘度化への影響に変化はなく、恒粘度化の効果に特に変化もない。接触時間を60分間以下とすることにより、非ゴム成分の変性量が少なく、不必要な金属元素のみを取り除くことができる傾向、および酸性水溶液への長時間の接触による、天然ゴム分子自体の劣化を防ぐことができる傾向がある。
【0028】
クエン酸水溶液との接触が完了した切断物は、さらにクレーパー処理によるシート化、洗浄、シュレッダー処理による粉砕(クラム化)の各工程を経て、乾燥工程に供されることが好ましい。
【0029】
(第2工程)
クエン酸水溶液で処理した天然ゴムにヒドラジド化合物を混合させる第2工程は、クエン酸水溶液での処理の後であれば、特に限定されるものではないが、乾燥前の天然ゴムに浸漬または噴霧して加えるか、または乾燥後のゴムに混練りして加えることができる。そのような場合、ヒドラジド化合物は、溶媒などに溶解して配合することが好ましい。あるいは、最終の水洗工程中の水に溶かして処理することが望ましい。
【0030】
天然ゴム100質量部に対するヒドラジド化合物の添加量は、0.1質量部以上であり、1質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましい。ヒドラジド化合物の添加量が0.1質量部未満となると、アルデヒドトラップ量が足りず、臭気低減および恒粘度化効果が得られ難い。また、ヒドラジド化合物の添加量は、3質量部以下であり、2.5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましい。ヒドラジド化合物の添加量が3質量部を超えても、コストに見合った効果が得られにくい傾向がある。
【0031】
乾燥工程では、乾燥温度が140℃以下が好ましく、125℃以下がより好ましく、120℃以下がさらに好ましい。乾燥温度を140℃以下とすることにより、天然ゴムの物性劣化を招くおそれが減少する傾向がある。乾燥工程における乾燥温度の下限は、ゴムが乾燥可能な温度であれば特に限定されるものではないが、乾燥温度は、水洗で用いた水分の蒸発のしやすさの点から75℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。
【0032】
天然ゴムは、塩基性物質の水溶液に浸漬することでさらに臭気成分を低減することができる。具体的には、凝固したゴムを塩基性物質に接触させる方法であれば特に限定されず、例えば、シートを塩基性物質の水溶液に浸漬する方法、シートに塩基性物質の水溶液を噴霧する方法などが挙げられる。塩基性物質の水溶液は、各塩基性物質を水で希釈、溶解することで調製できる。塩基性物質の水溶液による処理は天然ゴムのシートを小さく切断した状態のもので行っても構わない。塩基性物質の水溶液に浸漬する工程は、特に限定されるものではないが、クエン酸水溶液と天然ゴムとを接触させる第1工程の後、クエン酸水溶液で処理した天然ゴムにヒドラジド化合物を混合させる第2工程の前に行うことが好ましい。塩基性物質の水溶液への天然ゴムの浸漬は、クエン酸水溶液での処理後であれば、特に制限されることなく、クラム化、すなわち切断、水洗、シート化の途中で行うことができ、1回目の切断、水洗、シート化においてクエン酸水溶液での処理が行われる場合は、それ以降の切断、水洗、シート化において実施でき、クラムが小さくなっている点から、最終の水洗工程において行うことが好ましく、乾燥工程の前に行うことがより好ましい。
【0033】
前記塩基性物質としては特に限定されないが、タンパク質などの除去性能の点から、塩基性無機化合物が好適である。塩基性無機化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などの金属水酸化物;アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩などの金属炭酸塩;アルカリ金属炭酸水素塩などの金属炭酸水素塩;アルカリ金属リン酸塩などの金属リン酸塩;アルカリ金属酢酸塩などの金属酢酸塩;アルカリ金属水素化物などの金属水素化物;アンモニアなどが挙げられる。
【0034】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどが挙げられる。アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ金属酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどが挙げられる。なかでも、ケン化効率と処理の容易さの観点から、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、金属リン酸塩、アンモニアが好ましく、アルカリ金属水酸化物である水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがさらに好ましい。これらの塩基性物質は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
塩基性物質の水溶液100質量%中の塩基性物質の含有量は、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。塩基性物質の濃度を0.1質量%以上とすることにより、臭気成分を十分に除去できる傾向がある。塩基性物質の水溶液100質量%中の塩基性物質の含有量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。塩基性物質の濃度を10質量%以下とすることにより、コストに見合った効率が得られる傾向がある。
【0036】
塩基性物質の水溶液を天然ゴムに浸漬させる処理における処理温度は、特に規程は無いが、10~50℃が好ましく、15~35℃がより好ましい。また、処理時間は、通常、5分以上であり、10分以上が好ましく、30分以上がより好ましい。処理時間を5分以上とすることにより、臭気低減効果が良好に得られないおそれがある。上限に制限はないが、生産性の点から、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましく、さらに16時間以下が特に好ましい。
【0037】
上記塩基性物質の水溶液には、界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤を加えることにより、臭気成分の除去効率が向上し、臭気低減効果が高くなる傾向がある。また、疎水性であるゴム表面と塩基性物質の水溶液のなじみが良くなることによって、反応率が向上することにより、処理時間を短くできる傾向がある。
【0038】
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤のうちの少なくとも1種が使用可能である。このうち陰イオン性界面活性剤としては、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系等の陰イオン性界面活性剤があげられる。非イオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンエステル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂質エステル系、アルキルポリグリコシド系等の非イオン性界面活性剤があげられる。両性界面活性剤としては、例えばアミノ酸型、ベタイン型、アミンオキサイド型等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0039】
上記塩基性物質の水溶液100質量%中の界面活性剤の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。上記塩基性物質の水溶液における界面活性剤の含有量を0.01質量%以上とすることにより、臭気成分の除去効率を改善できる傾向がある。上記塩基性物質の水溶液における界面活性剤の含有量は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。上記塩基性物質の水溶液における界面活性剤の含有量を、5質量%以下とすることにより、コストに見合った効果が得られる傾向がある。
【0040】
塩基性物質の処理に使用した該物質を除去した後、必要に応じて洗浄処理が行われる。洗浄方法としては、例えば、ゴム分を水で希釈して洗浄後、遠心分離する方法、静置してゴムを浮かせ、水相のみを排出してゴム分を取り出す方法が挙げられる。
【0041】
上記処理温度は適宜選択すればよいが、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~35℃である。また、処理時間は、通常、好ましくは3秒以上であり、より好ましくは10秒以上、さらに好ましくは30秒以上である。3秒未満であると、十分に臭気成分を中和、除去できず、本発明の効果が良好に得られないおそれがある。上限に制限はないが、生産性の点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは10時間以下、さらに好ましくは5時間以下である。
【0042】
本発明の製造方法により得られる天然ゴム組成物は、長期間に亘る恒粘度化を達成するとともに、臭気が著しく低減される。これにより、例えばタイヤ用ゴム組成物に使用する際、使用前に天然ゴムを素練りする必要がなく、製造工程全般における悪臭の発生も抑制される。したがって、本発明の製造方法により得られる天然ゴム組成物はタイヤ用ゴム組成物のゴム成分として使用することが好ましい。
【0043】
<タイヤ用ゴム組成物>
本発明の製造方法により得られた天然ゴム組成物を含むタイヤ用ゴム組成物は、上記した天然ゴム組成物に加え、タイヤ用ゴム組成物の製造に一般に使用される他の成分が任意で配合され得る。一例を挙げると、このような任意成分は、その他のゴム成分、フィラー、シランカップリング剤、液状SBR、オイル、粘着付与樹脂、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等である。
【0044】
(ゴム成分)
ゴムとしては、特に限定されるものではないが、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。ジエン系ゴムは、併用されてもよい。これらの中でも、より優れたグリップ性能が得られる点から、SBRを含むことがより好ましい。
【0045】
SBRとしては特に限定されるものではなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)、水素添加されたSBR(SBR)等が挙げられる。また、SBRは、油展されていてもよい。
【0046】
BRとしては特に限定されるものではなく、ハイシス1,4-ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)、希土類系BR等が挙げられる。BRは併用されてもよい。
【0047】
(フィラー)
特に限定されるものではないが、一例を挙げると、フィラーは、カーボンブラック、シリカ、珪藻土、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、タルク等である。
【0048】
カーボンブラックは特に限定されない。一例を挙げると、カーボンブラックは、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト(黒鉛)等である。これらのカーボンブラックは、併用されてもよい。
【0049】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、耐久性を向上させる点から、40m2/g以上であることが好ましく、60m2/g以上であることがより好ましい。また、N2SAは、カーボンブラックの分散性を良好に確保し、熱伝導率を良好に確保する点から、300m2/g以下であることが好ましく、140m2/g以下であることがより好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、ASTM D3037-81に準拠してBET法で測定される値である。
【0050】
カーボンブラックの含有量は、得られるゴム組成物に十分な紫外線クラック性、補強性が得られ、かつ、熱伝導率が優れる点から、ゴム成分100質量部に対し、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、カーボンブラックの含有量は、破断伸び、亀裂成長性が優れる点から、90質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましい。
【0051】
シリカは特に限定されない。一例を挙げると、シリカは、タイヤ工業において一般的に用いられるものが用いられ得る。シリカは、ローディア社、エボニックデグサ社等によって製造販売されるものが例示される。
【0052】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、十分な補強性を得る点から、20m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましい。また、シリカのN2SAは、250m2/g以下であることが好ましく、240m2/g以下であることがより好ましい。なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-81に準拠してBET法で測定される値である。
【0053】
フィラーとしてシリカを用いる場合、シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されるものではないが、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を併用することができ、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィドなどのスルフィド系;3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系;ビニルトリエトキシシランなどのビニル系;3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系;3-ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系;3-クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系;などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シリカとの反応性が良好であるという点から、スルフィド系が好ましく、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが特に好ましい。
【0054】
シランカップリング剤が用いられる場合の、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、4質量部以上であることがより好ましい。また、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。シランカップリング剤の含有量が2質量部以上であることにより、ゴム組成物におけるフィラーの分散性が良好となり得る。また、シランカップリング剤の含有量が20質量部以下であることにより、ゴム組成物中にフィラーが良好に分散され、得られるタイヤの補強性が向上しやすい。
【0055】
(液状ジエン系重合体)
液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)等が挙げられる。なかでも、耐摩耗性と走行中の安定した操縦安定性能がバランスよく得られるという理由から、液状SBRが好ましい。なお、本明細書における液状ジエン系重合体は、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体である。
【0056】
液状ジエン系重合体のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性、破壊特性、耐久性の観点から、1.0×103以上が好ましく、3.0×103以上がより好ましい。また、生産性の観点から2.0×105以下が好ましく、1.5×104以下がより好ましい。なお、本明細書における液状ジエン系重合体のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。
【0057】
液状ジエン系重合体を含有する場合のゴム成分100質量部に対する液状ジエン系重合体の含有量は、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。また、液状ジエン系重合体の含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。液状ジエン系重合体の含有量が上記範囲内である場合は、良好なウェットグリップ性能や、初期ウェットグリップ性能の向上効果が得られやすい傾向がある。
【0058】
(粘着付与樹脂)
粘着付与樹脂としては、芳香族系石油樹脂等の従来タイヤ用ゴム組成物で慣用される樹脂が挙げられる。芳香族石油樹脂としては例えば、フェノール系樹脂、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ロジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)等が挙げられる。フェノール系樹脂としては例えばコレシン(BASF社製)、タッキロール(田岡化学工業(株)製)等が挙げられる。クマロンインデン樹脂としては例えばクマロン(日塗化学(株)製)、エスクロン(新日鐡化学(株)製)、ネオポリマー(新日本石油化学(株)製)等が挙げられる。スチレン樹脂としては例えばSylvatraxx(登録商標)4401(アリゾナケミカル社製)等が挙げられる。テルペン樹脂としては例えばTR7125(アリゾナケミカル社製)、TO125(ヤスハラケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0059】
粘着付与樹脂の軟化点は、40℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。軟化点を40℃以上とすることにより、十分なグリップ性能が得られる傾向がある。また、該軟化点は120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。軟化点を120℃以下とすることにより、十分なグリップ性能が得られる傾向がある。なお、樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0060】
粘着付与樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、3質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。粘着付与樹脂の含有量を3質量部以上とすることにより、十分なグリップ性能が得られる傾向がある。また、粘着付与樹脂の含有量は、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。粘着付与樹脂の含有量を30質量部以下とすることにより、十分な耐摩耗性能が得られる傾向、良好な低燃費性能が得られる傾向がある。
【0061】
(オイル)
オイルは特に限定されない。一例を挙げると、オイルは、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、ひまし油(加硫ブラダー用)等である。プロセスオイルは、併用されてもよい。
【0062】
オイルが含有される場合、オイルの含有量は特に限定されない。一例を挙げると、プロセスオイルは、金型離型性に影響が小さく、かつ、ゴムの可塑化、フィラー分散向上の点から、ゴム成分100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましい。また、オイルは、グリップ向上レジンを多く配合できる点から、ゴム成分100質量部に対し、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。ただし、レース用の高粘度、高グリップ配合では、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対し、30~100質量部となる場合もあり得る。
【0063】
(老化防止剤)
老化防止剤は特に限定されない。老化防止剤は、従来、ゴム組成物において汎用されている各種老化防止剤から任意に選択して用いられ得る。一例を挙げると、老化防止剤は、キノリン系老化防止剤、キノン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、フェニレンジアミン系老化防止剤等である。老化防止剤は、併用されてもよい。
【0064】
老化防止剤が含有される場合、老化防止剤の含有量は特に限定されない。一例を挙げると、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。また、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることがより好ましい。老化防止剤の含有量が上記範囲内である場合、フィラーは、酸化劣化耐性が向上し、良好な引張り性を示しやすい。また、得られるゴム組成物は、混練されやすい。老化防止剤(例えばフェニレンジアミン系老化防止剤)は、上記した分岐アルカン等を含むワックスよりも、ブリードする速度が遅い。しかしながら、例えばフェニレンジアミン系老化防止剤は、ゴム成分100質量部に対し、4質量部以上含有されることにより、ブリード速度が増し、製造直後であっても静的オゾン性を向上し得る。
【0065】
その他、ステアリン酸、酸化亜鉛等は、従来ゴム工業で使用されるものを用いることができる。
【0066】
(加硫剤)
加硫剤は特に限定されるものではなく、ゴム工業において一般的なものを使用することができるが、硫黄原子を含むものが好ましく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等が挙げられる。
【0067】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、初期ウェットグリップ性能の向上効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0068】
<タイヤ用ゴム組成物の製造方法>
タイヤ用ゴム組成物の製造方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。例えば、混練工程では、80℃~170℃で1分間~30分間混練りし、加硫工程では、130℃~190℃で3分間~20分間加硫する。
【0069】
<タイヤの製造方法>
前記タイヤ用ゴム組成物から構成されるタイヤ用部材を備えたタイヤは、前記タイヤ用ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ジエン系ゴム成分に対して前記の配合剤を必要に応じて配合した前記タイヤ組成物を、特定のタイヤ用部材の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0070】
タイヤは、乗用車用タイヤ、乗用車用高性能タイヤ、トラックやバス等の重荷重用タイヤ、競技用タイヤ等タイヤ全般に用いることができる。
【実施例
【0071】
実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。本発明は、これら実施例に限定されない。
【0072】
実施例(包括して言及する場合は参考例を含む。以下同様。)および比較例で使用する各種薬品を以下に示す。
・原料ゴム1:カップランプ
・原料ゴム2:天然ゴムラテックス
・ヒドラジド化合物1:大塚化学(株)製のプロピオン酸ヒドラジド
・ヒドラジド化合物2:大塚化学(株)製のイソフタル酸ジヒドラジド
・ヒドラジド化合物3:東京化成工業(株)製のステアリン酸ヒドラジド
・クエン酸:和光純薬工業(株)製
・塩基性物質1:シグマ・アルドリッチ社製の炭酸ナトリウム(Na2CO3
・塩基性物質2:シグマ・アルドリッチ社製の炭酸水素ナトリウム(NaHCO3
・界面活性剤1:花王(株)製のエマールE-27C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分27質量%)
・界面活性剤2:花王(株)製のエマール20C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分25%)
【0073】
(実施例および比較例)
表1または2に記載された処方にしたがい、原料ゴム(参考例5については、事前に通常のゴム農園で採取された天然ゴムラテックスにギ酸を添加して固めたシートを用いる。)を切断し、水洗し、クレーパーでのシート化を繰り返し、直径約10mm程度に切断する。切断、水洗、シート化の途中で、切断物を10質量%クエン酸水溶液に表1または2に記載された時間浸漬する。最終的には5mm以下のクラムを得る。得られたクラムをドライヤーで表1または2に記載された温度で4時間乾燥した後、表1または2に示す各ヒドラジド化合物の水溶液を、天然ゴム100質量部に対して加え、二軸ロールで練り、各試験用天然ゴム組成物を得る。比較例5のみクエン酸水溶液に浸漬させる前にヒドラジド化合物を初期水洗工程のタイミングで加える。なお、塩基性物質は表1または2に記載した濃度の水溶液とし、表1または2に記載した濃度で界面活性剤を含有したものを使用し、クエン酸水溶液との接触が完了した後、乾燥工程の前にその溶液に天然ゴムシートを浸漬する。
【0074】
上記のようにして得られる試験用天然ゴム組成物について以下の評価を行うことで、表1または2に示す各指数またはそれに近い値が得られる。
【0075】
<臭気成分指数>
天然ゴムの臭気の主な原因物質としては、酢酸、吉草酸、イソ吉草酸、イソ吉草酸アルデヒドおよび酪酸などのような低級脂肪酸およびそのアルデヒド類が挙げられる。そこで、Head-Space GCMSを用いて検出される天然ゴムに含有される上記成分のピーク面積比を各成分の嗅覚閾値で補正し、全てを足したものを臭気成分量とする。評価としては、
臭気成分指数=1/(各実施例の臭気成分量/比較例1の臭気成分量)×100
で表される。指数が大きいほど臭気成分が少ないことを示す。
【0076】
<恒粘度化指数(ムーニー粘度上昇値)>
製造後すぐのムーニー粘度(ML1+4/130℃)と製造後1ヵ月後(30℃で保存)のムーニー粘度(ML1+4/130℃)を測定し、製造後1ヵ月後のムーニー粘度を、製造後すぐのムーニー粘度を100として指数化する。ムーニー粘度の測定は、JIS K 6300-1の「未加硫ゴム-物理特性-第1部:ムーニー粘度計による粘度およびスコーチタイムの求め方」に準じたムーニー粘度の測定方法に従い、130℃の温度条件にておこなう。なお、値が100に近いほど恒粘度化が良好であることを示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
本実施形態において、臭気成分指数の目標値は125以上、恒粘度化指数の目標値は90~110である。