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特許7151171凍結状態にある常温時に液体状の内容物の昇温装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】凍結状態にある常温時に液体状の内容物の昇温装置
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/365 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
A23L3/365 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018101206
(22)【出願日】2018-05-28
(65)【公開番号】P2019205359
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】赤路 康一
(72)【発明者】
【氏名】新宮 充久
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154453(JP,A)
【文献】特開2019-207038(JP,A)
【文献】特開2006-280279(JP,A)
【文献】特開平09-094082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/36-3/375
F25D 1/00-3/14
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するための昇温装置であって、
前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納され、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を前記流動性媒体中に浸漬する外側容器と、該外側容器内に備えられた前記流動性媒体を撹拌し、流動性媒体の温度を均一化するための撹拌装置と、を備え
前記流動性媒体が、塩水から成るシャーベット氷であり、
前記外側容器が、メッシュ状の壁で複数の室に区切られており、一つの室のシャーベット氷の充填率を他の室の何れよりも高くした状態でシャーベット氷が分けて収納されており、前記複数の室のうち、シャーベット氷の充填率が低い室に、撹拌装置が設置されていると共に、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を収納させることを特徴とする昇温装置。
【請求項2】
容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するための昇温装置であって、
前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納され、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を前記流動性媒体中に浸漬する外側容器と、該外側容器内に備えられた前記流動性媒体を撹拌し、流動性媒体の温度を均一化するための撹拌装置と、を備え
前記流動性媒体が、塩水から成るシャーベット氷であり、
前記外側容器内に液体を循環させるための循環装置を更に備え、前記外側容器が、メッシュ状の壁で複数の室に区切られており、一つの室にはシャーベット氷の充填率を他の室の何れよりも高くした状態でシャーベット氷が分けて収納されており、前記複数の室のうち、シャーベット氷の充填率が低い室に前記循環装置が設置されており、前記一つの室に、前記撹拌装置が設置されていると共に、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を収納させることを特徴とする昇温装置。
【請求項3】
前記凍結状態の内容物が収納された容器が金属製容器であり、該金属製容器と、流動性媒体の間に、熱伝導率が水以上の緩衝部材が配置されている請求項1又は2記載の昇温装置。
【請求項4】
前記緩衝部材が、水及び/又は銅である請求項記載の昇温装置。
【請求項5】
前記緩衝部材の少なくとも一部が、水が充填された銅製容器であり、該銅製容器が前記外側容器内に設置され、前記凍結状態の内容物が収納された金属製容器が前記銅製容器内に設置される請求項又は記載の昇温装置。
【請求項6】
前記金属製容器の上部には開口部が形成されており、該開口部が前記流動性媒体の界面よりも上方に位置し、
前記緩衝部材の少なくとも一部が、前記金属製容器の天面及び該天面の少なくとも一部を覆い、且つ前記側壁の下部が、前記外側容器内の流動性媒体に浸漬されている請求項の何れかに記載の昇温装置。
【請求項7】
前記金属製容器が、スチール製である請求項6の何れかに記載の昇温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結状態にある常温時に液体状の内容物の昇温装置に関するものであり、より詳細には、凍結状態にある常温時に液体状の内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いて効率よく昇温させる昇温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で液体状の食品や薬品等の品質を長期に亘って保持するために、所定の容器に入れ、凍結した状態で保存や輸送等に供されることが広く行われている。
例えば、果物や野菜のジュース等の場合には、果物等の生産地に近い場所で果汁を絞り、これを凍結することにより、新鮮な果物等から風味や栄養価に優れた果汁をその品質を損なうことなく凍結状態として保管又は輸送することができる。
このような凍結状態にある物質の解凍方法として、従来は、自然解凍や多段階冷凍冷蔵解凍の他、熱風を当てる解凍方法、マイクロ波を照射して解凍する方法等が提案されている。
【0003】
また食品の解凍方法として、シャーベット氷を解凍媒体として使用した凍結食品解凍法も提案されている(特許文献1)。この方法は、表面積が大きく且つ水よりも熱伝導率の高い微細氷によって、凍結品の冷熱を奪い、短時間での高品質解凍を可能にするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-154453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述したような常温で液体状の果汁等の凍結品を自然解凍等の従来の解凍方法を利用すると、凍結品はその表面から溶け始めることから、凍結品の表面に液状の境界膜が形成される。この液状の境界膜が形成されると、熱伝達率が極端に低下するため、結果として中心部分まで完全に昇温することなく硬い芯が残った状態になる。また果汁等の凍結品は、凍結状態によっては、中心部分及び下部に果汁濃度が高い部分が形成される、凍結濃縮が生じる場合があり、果汁濃度の相違により凍結点が異なることから、やはり均一に解凍することが困難である。更に自然解凍等では凍結品全体を完全に解凍するには長時間を必要とし、その間に、腐敗、酸化、内容成分の分解、色の変化等の品質劣化が生じるおそれがあると共に、品質が劣化した物質の廃棄のためのコスト増の問題もある。また熱風やマイクロ波を用いた解凍方法では、時間は短縮できるとしてもエネルギーコストがかかると共に、熱風では凍結品表面の境界膜による問題があり、マイクロ波加熱では部分的な過加熱が生じやすく均一な昇温が困難である。
【0006】
また上述したシャーベット氷を利用した解凍方法は、解凍媒体であるシャーベット氷の温度を凍結食品の氷結温度に近い温度に調整して、これらの間で熱交換することにより、解凍するものであることから、経時と共に、凍結品との界面付近では解凍媒体の温度は低下し、界面から遠ざかるにつれて温度が高くなる温度勾配を生じるようになり、解凍効率が低下する。
従って本発明の目的は、上記のような問題を生じることなく、シャーベット氷のような内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いて、凍結状態にある常温時に液体状の内容物全体を経過時間にかかわらず均一に且つ効率よく昇温可能な昇温装置温方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するための昇温装置であって、前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納され、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を前記流動性媒体中に浸漬する外側容器と、該外側容器内に備えられた前記流動性媒体を撹拌し、流動性媒体の温度を均一化するための撹拌装置と、を備え、前記流動性媒体が、塩水から成るシャーベット氷であり、前記外側容器が、メッシュ状の壁で複数の室に区切られており、一つの室のシャーベット氷の充填率を他の室の何れよりも高くした状態でシャーベット氷が分けて収納されており、前記複数の室のうち、シャーベット氷の充填率が低い室に、撹拌装置が設置されていると共に、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を収納させることを特徴とする昇温装置が提供される。
本発明によればまた、容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を、昇温するための昇温装置であって、前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納され、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を前記流動性媒体中に浸漬する外側容器と、該外側容器内に備えられた前記流動性媒体を撹拌し、流動性媒体の温度を均一化するための撹拌装置と、を備え、前記流動性媒体が、塩水から成るシャーベット氷であり、前記外側容器内に液体を循環させるための循環装置を更に備え、前記外側容器が、メッシュ状の壁で複数の室に区切られており、一つの室にはシャーベット氷の充填率を他の室の何れよりも高くした状態でシャーベット氷が分けて収納されており、前記複数の室のうち、シャーベット氷の充填率が低い室に前記循環装置が設置されており、前記一つの室に、前記撹拌装置が設置されていると共に、前記凍結状態にある内容物を収納する容器を収納させることを特徴とする昇温装置が提供される。
【0008】
本発明の昇温装置においては、
.前記凍結状態の内容物が収納された容器が金属製容器であり、該金属製容器と、流動性媒体の間に、熱伝導率が水以上の緩衝部材が配置されていること、
.前記緩衝部材が、水及び/又は銅であること、
.前記緩衝部材の少なくとも一部が、水が充填された銅製容器であり、該銅製容器が前記外側容器内に設置され、前記凍結状態の内容物が収納された金属製容器が前記銅製容器内に設置されること、
.前記金属製容器の上部には開口部が形成されており、該開口部が前記流動性媒体の界面よりも上方に位置し、前記緩衝部材の少なくとも一部が、前記金属製容器の天面及び該天面の少なくとも一部を覆い、且つ前記側壁の下部が、前記外側容器内の流動性媒体に浸漬されていること、
.前記金属製容器が、スチール製であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の昇温装置においては、凍結状態にある常温時に液体状の内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いることにより、従来の解凍方法のように界面に熱伝導率を低下させる境界膜を形成することがないため、凍結状態にある常温で液体状の内容物の冷熱を流動性媒体が効率よく奪って昇温させることができる。
しかも本発明の昇温装置においては、流動性媒体を収納する外側容器に、流動性媒体を撹拌する撹拌装置又は循環装置が備えられていることにより、流動性媒体の温度を均一化し、凍結状態にある常温時に液体状の内容物を収納する容器と流動性媒体の界面付近の温度低下が防止されている。これにより経過時間にかかわらず、凍結状態にある内容物を効率よく昇温させることが可能にある。
また流動性媒体としてシャーベット氷を使用した場合に、外側容器を複数の室に区切り、シャーベット氷の氷充填率に差を設け、シャーベットの温度の高い氷充填率の低い室に、凍結状態にある内容物を収納した容器を設置すると共に、撹拌装置を設けることにより、シャーベット氷に温度勾配が生じることを抑制し、内容物を効率よく昇温することが可能になる。
更に、凍結状態にある常温で液体状の内容物は、内容物の凍結点未満の所望温度まで昇温されることにより、固体の状態を保ったまま内部まで均一に昇温するため、品質劣化のおそれもない。
また凍結濃縮により、凍結品に濃度勾配があった場合でも、内部まで均一に昇温できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の昇温装置の一例を示す概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。
図2】本発明の昇温装置の他の一例を示す概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。
図3】本発明の昇温装置の他の一例を示す概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。
図4】本発明の昇温装置の他の一例を示す概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の昇温装置は、凍結状態にある常温で液体状の内容物(以下、単に「内容物」ということがある)を、内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用い、該流動性媒体と前記凍結状態の内容物との間で熱交換を行うことにより、前記凍結状態にある内容物の温度を効率よく昇温させるという知見に基づくものであり、本発明の昇温装置によれば更に効率よく内容物を昇温することができる。
すなわち、凍結状態にある常温で液体状の内容物を昇温させる際に、内容物の界面に熱伝導率の低い境界膜が形成されると、内容物から効率よく冷熱を奪うことが困難であるが、本発明では、内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体を用いることにより、このような境界膜の形成を抑制することが可能になる。本発明で使用する流動性媒体は、内容物との温度差が小さいことから境界膜を形成することなく、しかも内容物の凍結点未満の温度で流動性を有していることから、大きな接触面積で熱交換が可能であり、内容物を過剰に昇温することがなく、内容物を固体の状態のまま均一に昇温できるため、品質を劣化させるおそれもない。
尚、本明細書において、「凍結点」とは、「凝固点」及び「融点」と同じ概念であり、常温で液状の物質の凍結点とは、物質が均一に溶けた状態で、氷結状態から溶け始める温度を意味する。尚、凍結点は、JIS K 0065に準拠して測定することができる。
また、「冷熱」とは、相対的に温度の高い流動性媒体から温度の低い凍結品へエネルギーが移動する際に、一方で、凍結品から流動性媒体へ移動すると観念できるマイナスのエネルギーのことをいう。
【0012】
(常温で液体状の物質)
本発明の昇温装置で昇温される対象は、凍結状態にある常温で液体状の物質であり、前述したとおり、かかる凍結品は、自然解凍等の従来公知の方法で昇温させると、界面に液状膜を形成してしまうため、効率よく熱交換することが困難であるが、本発明の昇温装置によれば、液状膜の形成が抑制されるため効率よく昇温することができる。
常温で液体状とは、液状,ゲル状,エマルジョン等であり、少なくとも液体を有し、流動性を有していればよく、この液体中に固形分が存在していてもよい。
本発明の昇温装置は、常温で液体状の物質であって、品質保持等の目的で、凍結状態で保存や輸送することが必要な物質に好適に使用することができ、これに限定されないが、果汁等の飲料、ゼリー、液卵、母乳、薬品、血液等に特に好適に使用できる。
また、凍結品は、内容物が缶等の金属製容器や、ボトル、パウチ等の樹脂製容器などの容器に充填された後、凍結されたものをいう。
尚、本発明の昇温装置では、昇温対象である内容物の比表面積が小さいほど容器表面での熱伝達効率が高くなるため、内容物は体積が大きいほど効率よく昇温することができる。凍結品の種類、およびその形状にもよるが、2L以上の容量で昇温操作に賦することが望ましい。
【0013】
(流動性媒体)
本発明の昇温装置において、凍結品との間で熱交換する流動性媒体としては、被昇温対象である常温で液体状の物質の凍結点未満の温度で流動性を有することが重要である。すなわち、被昇温対象物である物質の凍結点未満で流動性を有することにより、被昇温対象物と大きな接触面積で接触して効率よく凍結品と熱交換することができる。
このような流動性媒体は、微細な氷と液体(水溶液)の固液二相混合物であるシャーベット氷(アイススラリー)から成る。シャーベット氷は、凍結品から奪った冷熱を氷として蓄えることができると共に、氷は蓄熱能力及び融解潜熱が大きいことから、シャーベット氷の温度を一定に維持することができ、安定して凍結品を昇温させることが可能である。
流動性媒体の水溶液の溶質としては、塩(塩化ナトリウム)、砂糖、尿素、エチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール等を例示することができる。また微細氷は、数百μm程度の粒子径を有していることが好ましい。
本発明においては、このようなシャーベット氷の氷充填率、溶質の種類及び濃度を調整することによって、シャーベット氷の凍結開始温度を調整することができ、凍結品の凍結点未満で流動性を有する流動性媒体とすることができる。
【0014】
本発明においては流動性媒体として、食品用途にも安全に使用できることから、塩水から成るシャーベット氷を好適に使用することができる。塩水から成るシャーベット氷は、塩分濃度及び氷充填率を適宜変更することによって、シャーベット氷の凍結開始温度を調整することができる。すなわち、塩分濃度及び氷充填率を高くすることにより、シャーベット氷の凍結開始温度を下げることができる。
流動性媒体の好適な流動性を確保するためには、氷充填率は5~30%の範囲にあることが望ましい。5%未満だと、温度の保持機能が乏しく、30%を超えると、流動性が不十分となり、凍結品の表面に氷が形成され易くなり凍結品表面での熱伝達が低下する虞がある。
【0015】
ここで、所望の温度及び氷充填率の塩水からなるシャーベット氷を製造する方法について説明する。一般的に、塩分濃度d(%)と凍結点(融点/凝固点)Te(℃)との関係は、下記式(1)
Te=-0.559d+0.000118d―0.000568d・・・(1)
で近似される。
まず流動性を確保するための所望の氷充填率を決め、凍結品を解凍するための所望の温度を決定する。そして、その温度を塩水の凍結点(融点/凝固点)とする塩分濃度を上記式(1)から求め、求めた塩分濃度の塩水を生成する。
例えば、シャーベット氷の温度を-1.5℃にするためには、氷充填率を30%とした場合、上記式(1)より、塩分濃度は、2.6%となる。予め製造しておいたシャーベット氷を、この塩水の塩分濃度を保ちながら、塩水に少しずつ投入し、塩水の温度が所望の温度に下がるまで塩分の追加と、シャーベット氷の投入を行う。そして、塩水の温度が所望の温度まで下がったら、所望の氷充填率となるようにシャーベット氷の投入量を調整すればよい。
【0016】
あるいは、上記式(1)から塩分濃度を求めて、所望の氷充填率の氷分が全て水である場合の初期塩分濃度を計算し、その塩分濃度の塩水を生成する。例えば、シャーベット氷の温度を-1.5℃にするためには、氷充填率を30%とした場合、上式より、最終的な塩分濃度が2.6%となり、氷が生成する前の初期塩分濃度は1.8%となる。生成した塩水を、当該塩水の凍結点まで温度を下げて所望の氷充填率となるまで氷を生成すればよい。
尚、上記式(1)は、塩水以外では、dを溶質の濃度(%)として、エタノールの場合、
Te=-0.358d-0.00814d-0.0000788d
で近似され、エチレングリコールの場合、
Te=-0.302d-0.00226d-0.000125d
で近似され、プロピレングリコールの場合、
Te=-0.267d-0.00253d-0.000138d
で近似されることが知られている。
【0017】
尚、内容物の昇温目標温度は、内容物の凍結状態に応じて決定され、内容物が均一に凍結されている場合には、凍結点未満であり、特に凍結点よりも-0.5℃程度低い温度を目標にすることが望ましい。一方、内容物が凍結濃縮している場合には、内容物の外側部分は水分が多い氷であるので、このような場合には、溶けきった内容物の凍結点ではなく、水の凍結点(0℃)未満の所望の温度となるまで昇温させる。その場合、凍結点(0℃)よりも-0.5℃程度低い温度を目標にすることが望ましい。
【0018】
(昇温装置)
本発明の昇温装置は、容器内に収納された、凍結状態にある常温時に液体状の内容物(凍結品)を、昇温するため昇温装置であって、前記内容物の凍結点未満の温度で流動性を有する流動性媒体が収納される外側容器と、この外側容器内に設置された撹拌装置とを備え、前記容器が外側容器内に浸漬され、撹拌装置により撹拌され温度が均一化された流動性媒体と凍結状態の内容物との間で熱交換を行うことにより、凍結状態にある内容物の昇温を行うことを特徴とする。
前述したとおり、流動性媒体としてシャーベット氷等を用いる場合、経時により、内容物を収納する容器と接する側の流動性媒体の温度は低下し、内容物を収納する容器から離れるに従いその温度が高くなる温度勾配を生じるようになるが、本発明においては、外側容器に流動性媒体を撹拌する撹拌装置が備えられていることにより、流動性媒体の温度を均一化して、容器に接する側の流動性媒体の温度が低下することによる昇温効率の低下が有効に防止できる。
【0019】
図1は、本発明の昇温装置の一例を示す概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。全体を1で表す昇温装置は、凍結状態にある内容物を収納するための容器2、及びこの容器2及び流動性媒体(塩水から成るシャーベット氷)5を収納する外側容器3から成っている。
外側容器3は、メッシュ状内壁4a,4bで、容器2を収納可能な中央の大室3aと、外側容器3の両端に大室3aよりも容積の小さい2つの小室3b、3bの3室に区切られている。シャーベット氷5を2つの小室3b,3bに供給することにより、大室3aにはメッシュ状内壁のメッシュよりも小さな氷のみが存在し、氷充填率が低い、氷の少ないシャーベット氷か、或いは氷の存在しない(氷充填率がゼロ)の塩水が存在するようになる。また大室3aには、撹拌装置6が2か所に設置され、氷充填率が低いシャーベット氷を撹拌して温度勾配が生じることを抑制することができる。メッシュ状の内壁のメッシュの大きさ(目開き)は、シャーベット氷の集合を拘束でき、且つ液体の移動が阻害されない大きさが良い。数百μの粒状のシャーベット氷であれば、メッシュの大きさを2.1mm程度とすればよい。
【0020】
前述したとおり、氷充填率が高いほどシャーベット氷の温度が低下するため、この態様においては、昇温対象である、凍結状態にある内容物が収納された容器2が、シャーベット氷の温度が比較的高温の氷充填率の低いシャーベット氷中に浸漬されているため、凍結状態にある内容物を効率よく昇温することが可能になる。また凍結状態にある内容物との熱交換により、容器2付近のシャーベット氷は冷却されて、容器2の表面に氷が付着するおそれがあるが、この態様によれば、シャーベット氷は撹拌されて温度勾配を生じることが有効に防止され、容器2の表面への氷の付着も有効に防止される。尚、メッシュ状内壁のメッシュの目をできる限り小さくして、前述したように大室3aには氷をほとんど含まない水溶液(塩水)のみを存在させても勿論よく、これにより、撹拌装置による撹拌が更に容易になると共に、撹拌によるシャーベット氷の適度な昇温も望めることから、効率よく容器2内の凍結品を昇温させることができる。
また図に示す具体例においては、容器2の底部2aに足2bが形成され、底部側からも容器2内の内容物の昇温のための熱交換を行うことができると共に、撹拌された流動性媒体5が大室3a内を容易に循環できるようになっている。
【0021】
図に示した具体例では、外側容器は3つの室に分割されていたが、勿論これに限定されるものではなく、外側容器を複数の室に分割し、氷充填率が最も低い室に凍結品を収納する容器及び撹拌装置が設置されている限り、種々の変更が可能である。例えば、外側容器が円筒形状の場合には、同心円状のメッシュ状内壁により2分割して、外周側の室に氷充填率の高いシャーベット氷を収納し、中心側の室に氷充填率の低いシャーベット氷を収納し、凍結品を収納する容器と攪拌機を設置してもよい。また外側容器は縦方向に延びるメッシュ状内壁で分割するのみならず、水平方向に延びるメッシュ状内壁で分割してもよく、下方の室に氷充填率の高いシャーベット氷を収納し、上方の室に氷充填率の低いシャーベット氷及び撹拌装置を収納する等、種々の変更を行うことができる。
【0022】
図2は、本発明の昇温装置の他の一例を示す概略図であり、(A)は上面図、(B)は側断面図である。全体を1で表す昇温装置は、凍結状態にある内容物を収納するための底部2aに足部2bを有する容器2、及びこの容器2及び流動性媒体(塩水から成るシャーベット氷)5を収納する外側容器3から成っている。
外側容器3は、メッシュ状内壁4で、容器を収納可能な大室3aと大室3aよりも容積の小さい小室3bの2つに分割されており、シャーベット氷5を大室3aに供給することにより、小室3bにはメッシュ状内壁4のメッシュの目よりも小さい氷のみが存在する氷充填率の低いシャーベット氷が存在するようになる。また大室3aには、撹拌装置6が2か所に設置され、シャーベット氷5を撹拌して温度勾配が生じることを抑制している。
【0023】
図2に示す態様においては、外側容器4に、流動性媒体の水溶液を循環させるための循環ポンプ7が備えられていることが重要な特徴であり、このため、小室3bには氷充填率が低い、ほぼ氷がない水溶液(塩水)のみを存在させて、循環ポンプに氷が詰まってしまうことがなく、水溶液の循環を容易にしている。すなわち、大室3a中のシャーベット氷は、容器2との熱交換により冷却され、経時により温度勾配を生じるようになると共に、容器2の表面には氷が付着するなどして大室3aのシャーベット氷の温度が低下するようになるが、大室3a内のシャーベット氷を撹拌することによって温度勾配を抑制すると共に、流動性媒体の水溶液を排水ポンプ7aにより取り除き、この水溶液の温度を調整した後、大室3aに備えらえた給水ポンプ7bから供給することにより、経時により低下傾向にある大室3a内のシャーベット氷の温度を調整することが可能になる。
【0024】
本発明の昇温装置においては、上述した具体例に限定されず、種々の変更が可能である。
例えば、凍結品を収納する容器として、熱伝導率の高い金属製の容器を使用し、流動性媒体として塩水から成るシャーベット氷を使用した場合には、金属製容器をシャーベット氷中に直接浸漬すると、金属製容器がシャーベット氷中の塩分により発錆し、劣化するおそれがある。従って金属製容器を使用する場合には、金属製容器と流動性媒体の間に緩衝部材を配置することが好ましい。
具体的には、図3に示すように、内容物を収納するための円筒状の金属製容器2を入れ子として収納可能な円筒状容器8aを備えた緩衝部材を外側容器3の大室3aに収納することが望ましい。この緩衝部材8は、水以上の熱伝導性を有する材料から成る円筒状容器8a内に金属製容器2を収納した際に形成される、金属製容器2の外面と円筒状容器8a内面により形成される空間8bを満たす水又は氷水から成っている。緩衝部材8は、内容物を収納する金属製容器2と外側容器3内に収納された流動性媒体との間の熱交換を行うが、緩衝部材8は、水以上の熱伝導性を有する容器8a及び水又は氷水から形成されているので、効率よく熱交換を行って内容物を昇温することができる。
【0025】
図3に示す具体例では、緩衝部材を構成する円筒状容器8aは、外側容器3に収納される流動性媒体5の液面よりも高く形成されており、流動性媒体が円筒状容器8a内に流入することがない。また内容物を収納する金属製容器2は、流動性媒体は勿論、緩衝部材を構成する水又は氷水8bの流入を防止するために、緩衝部材を構成する円筒状容器8aよりもその高さが高く形成されている。
緩衝部材を構成する容器は流動性媒体に直接浸漬されるため、流動性媒体として塩水から成るシャーベット氷を使用する場合には、金属製容器は発錆しにくい金属から成ることが望ましく、特に熱伝導性の点から銅から成ることが望ましい。
【0026】
また緩衝部材は、図3に示した態様に限定されず、図4に示すように、凍結状態にある内容物を収納する容器2の上部を覆う、天面8a及び該天面から垂下する側壁8bから成る蓋状の緩衝部材8とすることもできる。
この態様においては、容器2の上面には開口(図示せず)が形成されていてもよく、かかる開口から外側容器内に収納された流動性媒体5が侵入することを防止するために、容器2は流動性媒体5の液面5aよりもその高さが高くなるように構成されている。このため容器2の流動性媒体と接触してない上部は流動性媒体と熱交換を行うことができないが、この蓋状緩衝部材によれば、容器2の上部を覆う蓋状の緩衝部材8の側壁8bの下部が流動性媒体5に浸漬されていることにより、容器の上部に位置する内容物の熱交換を、流動性媒体と接触して熱交換した場合と同程度に行うことができる。
この態様においては、緩衝部材の雰囲気温度による温度上昇を防ぐために、緩衝部材の天面8aの外面及び側壁8bの上部外面(流動性媒体に浸漬されない部分)に断熱材を装着することが望ましい。
この態様においては、蓋状の緩衝部材を、上述した図3に示した円筒状容器8aと組み合わせて用いることもできる。
【0027】
(実施例1)
果汁濃度100%のオレンジ果汁飲料が、容積25L(直径285mmの円筒で高さ約370mmのペール缶)のスチール製容器に充填され、-40℃で冷凍された凍結品を入手した。このスチール製容器入り凍結品のおおよそ中心位置(直径方向の中心位置で上端から160mm位置)及び、高さ方向中心位置で外側部分(容器辺から25mm離れた位置)に温度計測のための熱電対を設置し、このスチール製容器入り凍結品を、図1に示す昇温装置を用いて、流動性媒体を撹拌しながら昇温させた。尚、外側容器を区画するメッシュ状内壁のメッシュの大きさ(目開き)は一辺2.1mmであり、凍結品を収納した大室にはほぼ氷が存在せず塩水のみが収納されていた。流動性媒体として、塩分濃度2.6%、氷充填率30%の塩水から成るシャーベット氷(目標温度-1.5℃)を用いた。
凍結品の内部の温度が-20℃から-10℃まで昇温する時間を計測したところ、約2時間であった。また、そのときの凍結品の外部の温度は-9℃であり、凍結品の内部の温度との温度差も小さく、均一に昇温することができた。
【0028】
(実施例2)
実施例1と同じ条件のスチール製容器入り凍結品を入手し、実施例1と同様に熱電対を設置し、このスチール製容器入り凍結品を、図2に示す昇温装置を用いて、流動性媒体を撹拌及び循環しながら昇温させた。尚、外側容器を区画するメッシュ状内壁のメッシュは一辺2.1mmであり、小室にはほぼ氷が存在せず塩水のみが収納されていた。流動性媒体として、塩分濃度2.6%、氷充填率30%の塩水から成るシャーベット氷(目標温度-1.5℃)を用いた。
凍結品の内部の温度が-20℃から-10℃まで昇温する時間を計測したところ、約2時間であった。また、そのときの凍結品の外部の温度は-9℃であり、凍結品の内部の温度との温度差も小さく、均一に昇温することができた。
【0029】
(比較例1)
実施例1と同じ条件のスチール製容器入り凍結品を入手し、室温15℃で自然解凍を行った。実施例1の昇温時間である2時間経過後の状態は、中心温度-25℃、外側温度-20℃であり、全く解凍できていない状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の昇温装置は、容器内に収納された凍結状態にある常温で液体状の内容物を、流動性媒体を用いて内容物の凍結温度未満の所望の温度に短時間で昇温することができ、しかも経時に伴い生じる流動性媒体の温度勾配が生じることを有効に抑制して、効率よく凍結状態にある内容物を昇温させることができ、内容物の品質低下のおそれもないことから、果汁、液卵、薬品、血液等の凍結品の解凍に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 昇温装置、2 金属製容器、3 外側容器、4 メッシュ状内壁、5 流動性媒体、6 撹拌装置、7 循環ポンプ、8 緩衝部材。
図1
図2
図3
図4