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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】分散液体の脱泡方法及び塗液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
B01D19/00 Z
B01D19/00 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018111694
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019150809
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018034874
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三宅 徹
(72)【発明者】
【氏名】民宮 尚美
(72)【発明者】
【氏名】的場 由恵
(72)【発明者】
【氏名】加藤 頌
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-90790(JP,A)
【文献】特開2003-100305(JP,A)
【文献】特開2005-169170(JP,A)
【文献】特開2004-73965(JP,A)
【文献】実開昭56-80203(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00
H04M 4/86-4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗液の原料である顔料が分散された液体の脱泡工程を含む、塗液の製造方法であって、
前記塗液の常温・常圧での粘度は1Pa・s以上であり、
前記脱泡工程における圧力を、塗液の温度における溶媒の蒸気圧より高く、かつ5kPa(絶対圧)以下にして行う、塗液の製造方法。
【請求項2】
塗液の原料である顔料が分散された液体の脱泡工程を含む、塗液の製造方法であって、
前記塗液の常温・常圧での粘度は1Pa・s以上であり、
前記塗液の脱泡工程における圧力を、塗液の温度における溶媒の蒸気圧-0.4kPa以上、塗液の温度における溶媒の蒸気圧以下にして行う、塗液の製造方法。
【請求項3】
前記顔料は導電性粒子であり、前記塗液は撥水性樹脂を含む、請求項1または2のいずれ
かに記載の塗液の製造方法。
【請求項4】
前記塗液はガス拡散電極基材に塗布されるために用いられる、請求項1~3のいずれかに
記載の塗液の製造方法。
【請求項5】
前記脱泡工程における塗液の温度を17℃以上、30℃未満に保つ、請求項1~4のいず
れかに記載の塗液の製造方法。
【請求項6】
前記脱泡工程中に、攪拌翼による前記分散液体の攪拌を行う、請求項1~5のいずれかに
記載の塗液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散された粒子を有する粘性液体(分散液体)の脱泡方法に関する。より具体的には、化学、医薬、製紙、印刷、電子材料、油製品などの工業分野や、化粧品、食品、樹脂、塗料、接着剤、光学材料などの製品の製造過程において、分散液体に混入した気泡を除去するための脱泡方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙、フィルム、その他シート状の物の表面に塗料や塗液を塗布する塗工機ラインにおいて、塗布する塗料や塗液に気泡が混入していると欠陥の原因となる。
【0003】
例えば、燃料電池の一種である高分子電解質型燃料電池に用いるガス拡散電極の作成において、導電性の多孔質基材上に、カーボンブラックなどの導電性粒子を分散させた塗液を塗布、乾燥焼結することにより、微多孔層と呼ばれる層(マイクロポーラスレイヤーとも言う)を設ける場合がある。このほか微多孔層の役割としては、導電性多孔質基材の粗さを電解質膜に転写させないための化粧直し効果、また、導電性多孔質基材の空隙を適度に埋めて、触媒層とガス拡散層の接触抵抗(電気抵抗)を低下させることなどがある。導電性多孔質基材の粗さ(算術平均粗さ)は通常10~30μmであるため化粧直し効果を得るためには、基材上の微多孔層厚みは10~80μmとウェットコーティングとしては大きな厚みを要する。このような厚みを確保するため、また、多孔質基材にしみこまないようにするため、前記微多孔層を形成するための塗液は、高粘度であることが求められる。また、塗液は環境負荷低減の観点、およびコスト低減の観点から、上記塗液は水系であることが望ましい。溶媒としての水に疎水性の導電性粒子を分散させる場合、分散剤として界面活性剤を添加することがある。また、塗液の粘度を高くするために、増粘剤とし界面活性剤を加える場合がある。このように水系で界面活性剤を添加した塗液は気泡が発生しやすく、また高粘度であるため、一度発生した塗液は抜けにくい。気泡が塗液に含まれたまま塗布を行うと、塗布厚みの不均一化や、塗面にピンホールや未塗工箇所といった欠点を生じることになり、不良品の原因となる。
【0004】
また、例えば、化学、医薬、食品関連の材料では、気泡中のガス成分が品質上問題となることもある。
【0005】
また、例えば、液体に気泡が存在すると、輸送ポンプや配管の腐食や異常振動の原因となる場合がある。さらに、みかけ密度が変化するため、梱包工程での不具合を生じさせることがある。
【0006】
したがって、これらの液体の気泡を除去する必要がある。液体の脱泡処理の一般的な方法としては、例えば減圧法が挙げられる。具体的には、減圧したタンク内に液体を静置する方法、または、減圧したタンク内にある液体を撹拌する方法がある。しかし、この方法では、特に粘性の高い液体の場合、いったん気泡が混入すると非常に抜けにくいため、バッチ処理では長時間の処理が必要になることがある。また、減圧状態で長時間保持すると、液体の成分によっては揮発によりその成分比が変化してしまう。液体の成分比が変化すると、それを使用する製品の性能が低下することにもなる。
【0007】
そこで、従来の減圧法を改良すべく、粘性液体の効率的な脱泡方法が検討されている。特許文献1では、粘度が30Pa・s以上の高粘度溶液の脱泡について検討されている。より具体的には、減圧状態で泡が膨張して液面が排気管に到達した場合は、減圧の排気バルブを閉止して容器内の圧力を上昇させる。そして、液面が再び低下したら、減圧を再開する。これを繰り返し、減圧しても液面が排気管に到達しなくなったら、撹拌回転数を単位体積当たりの所要動力が1/2になるような回転数に設定し、脱泡が完了するまで減圧下で撹拌する、という脱泡方法である。
特許文献2には、セラミック粒子を分散させた液体を容器内で真空引きすると共に、容器を水平面内で振盪させることで液体にせん断応力を作用させ、脱泡する方法が記載されている。
特許文献3には、導電材粒子および樹脂を含むペーストを電極基材等の表面に塗布して塗膜層を形成する工程を有する燃料電池用電極の製造方法が記載されており、ペーストを調製後、塗膜層を形成する工程の前に、ペーストを脱泡処理する工程があり、60torr以下の減圧下に保持することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-113303号公報
【文献】特開平4-256404号公報
【文献】特許第5148036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の脱泡方法は、溶液を充填したタンクの内部を減圧して、塗液の液面が上昇する際、真空ポンプに溶液が吸引されないようにポンプへの排気バルブを閉じるもので、攪拌翼と液面との位置関係についての記載はなく、減圧により膨張する泡を消滅させるには不十分であった。
【0010】
また、分散液体の中には、せん断応力を過大に加えると液中の分散構造が変化し、粘度が著しく低下するものも存在する。ところが、特許文献2に記載の脱泡方法は、大量の粘性液体を処理する場合には、液体に過大なせん断応力をかける必要があり、液体の分散構造に変化が生じる恐れがあるものであり、特許文献1と同様、攪拌翼と液面との位置関係に着目されていなかった。
また、特許文献3では真空脱泡の圧力が60torr以下とあるが、その実施例においてもせいぜい40torrに設定して運転しており、実のところはその液温における水蒸気圧よりも高い圧力である。実際、水蒸気圧よりも低い圧力とすれば、水が蒸発してしまうことを懸念して上記のとおり設定していると考えられるが、これでは、脱泡効率が十分ではなかった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、分散液体に含まれる気泡の除去について、分散構造を変化させることなく、短時間で効率よく行うことができる脱泡方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するため、本発明は以下の特徴を有する。
【0013】
(1)分散液体を撹拌翼を有する容器に入れ、前記撹拌翼を撹拌して運転し、前記液体中に上下方向の対流を発生させて行う分散液体の脱泡方法であって、
前記液面は、静置時及び前記運転時のいずれにおいても前記撹拌翼の上端よりも上部に位置し、
静置時の前記液面から前記撹拌翼の上端までの距離Aが20mm以上50mm以下であり、
前記撹拌翼の翼先端速度は0.87m/s以下である、
分散液体の脱泡方法。
【0014】
(2)塗液の原料である顔料が分散された液体の脱泡工程を含む、塗液の製造方法であって、
前記塗液の常温・常圧での粘度は1Pa・s以上であり、
前記脱泡工程における圧力を、塗液の温度における溶媒の蒸気圧より高く、かつ5kPa(絶対圧)以下にして行う、塗液の製造方法。
【0015】
(3)塗液の原料である顔料が分散された液体の脱泡工程を含む、塗液の製造方法であって、
前記塗液の常温・常圧での粘度は1Pa・s以上であり、
前記塗液の脱泡工程における圧力を、塗液の温度における溶媒の蒸気圧以下にして行う、塗液の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、分散液体に含まれる気泡について、分散構造を変化させることなく、短時間で効率良く脱泡を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の一形態である脱泡装置の構成例を示す概略図。
図2】本発明の分散液体の好ましい対流の一例を示す模式図。
図3】本発明の実施例で用いた脱泡装置の概略構成を示す模式図。
図4】本発明の実施例10で用いた脱泡装置の概略構成を示す模式図。
図5】本発明の比較例1で用いた脱泡装置の概略構成を示す模式図。
図6】燃料電池のガス拡散電極の構造を示す略図
図7】本発明における塗液の塗布に用いた装置の略図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る第一の発明について、その実施の一形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明において、分散液体とは、分散された粒子を有する粘性液体である。ここで、このような粘性液体のうちには、対象物にせん断応力を加えた際に粘度が一時的に低下する(せん断応力を取り除くと粘度は回復する)性質を有するものが存在し、このような性質は「シェアシニング性」、また、シェアシニング性を有する分散液体は「擬塑性流体」と表すこともある。本書において、「分散液体」とは、擬塑性流体のことを表すこととする。
【0020】
分散液体中の粒子の濃度は、用途によって様々であるが、一例として、燃料電池向けのガス拡散電極に用いる塗液の場合、導電性粒子の濃度は好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上が一般的である。粘度、導電性粒子の分散安定性、塗液の塗布性などが適正であれば濃度に上限はない。導電性粒子としてアセチレンブラックを用いた場合には、水系塗液の場合、塗液中のアセチレンブラックの濃度は25質量%またはその周辺を上限とするのが好ましく、この好ましい範囲であると、アセチレンブラック同士が再凝集して、いわゆるパーコレーションが発生することはなく、急激な粘度増加で塗液の塗布性が損なわれる可能性が低い。また、塗液は通常、前記した導電性粒子と水やアルコールなどの分散媒を含むが、環境負荷低減、塗布乾燥工程の簡略化の観点から水を溶媒として用いることが好ましい。導電性粒子を分散するための分散剤として、界面活性剤などが配合されることが多い。
【0021】
また、第一の発明では、気泡を含んだ粘性液体を入れる容器と、容器内の圧力を制御する手段と、粘性液体を撹拌する撹拌翼と、を少なくとも備える脱泡装置を用いる。
【0022】
図1に示すように、内圧が減圧される容器1に分散液体4が配置される。そして、粘性液体4は撹拌機構2の撹拌翼21により撹拌される。容器1は減圧手段(不図示)と減圧手段接続口3で接続されており、容器1の内圧は真空ポンプ等の減圧手段により制御される。容器1内には、分散液体の撹拌状態を調整する邪魔板が設けられていても良い。
【0023】
容器は密閉可能に構成されており、その内圧は減圧手段により制御される。また、脱泡処理の対象となる分散液体はこの容器内に配置される。容器の大きさや形状は特に制限されるものでは無い。例えば、円筒形の直胴部と鏡型の底面とを有する槽などを用いることができる。容器の天面の形状にも制限はなく、平板状や鏡板状の天面を採用することができる。天面は蓋状の構造として、開閉が可能、あるいは取り外しが可能とする事もなんら制限はない。容器の材質も特に制限はなく、分散液体の性状に応じて自由に選定できる。
【0024】
容器は、減圧手段と接続するための減圧手段接続口を有することが望ましい。減圧手段接続口と減圧手段(例えば真空ポンプ)とを接続することにより、容器内を大気圧以下の圧力に減圧することができる。減圧手段接続口の大きさや形状に制限は無い。また、減圧手段としては、真空ポンプに限らず、容器内の圧力を制御できる公知の機器を使用することができる。
【0025】
容器には、前記減圧手段接続口のほかに、分散液体の供給部や排出部を設けても良い。また、減圧状態から大気圧状態に戻す際にガスを供給するためのガス供給接続口を別途設けてもよい。分散液体の温度管理が必要な場合は、分散液体中にコイル状の熱媒配管を浸して温調することも可能である。または、容器をジャケット構造にし、このジャケット部に熱媒を流して温度調整を行うこともできる。または、容器の側面などにヒーターを取り付け、温度制御可能に構成することも可能である。
【0026】
容器中の分散液体は、前記撹拌機構により撹拌される。したがって、容器中には、撹拌機構の構成部である撹拌翼が少なくとも収納される。撹拌機構は、容器内の分散液体を撹拌するものであれば、特に制限はなく、公知の撹拌装置を使用することができる。例えば、パドル翼やタービン翼といった撹拌翼を撹拌軸に固定したタイプの撹拌機構を使用することができる。撹拌翼は撹拌軸に1段で設けられていても良いし、2段以上で設けられていてもよいが、いずれの場合も、分散液体に接触させて使用する。また、撹拌翼とは別に、分散液体上の気泡を掻き取る機構を設けていてもよい。撹拌翼の中でも、分散液体の場合は、ヘリカルリボン翼と呼ばれる撹拌翼を使用することが好ましい。また、構造が単純であるため品種切り替え時の洗浄作業が容易に行えるという観点から、“マックスブレンド”(登録商標)翼(住友重機械プロセス機器社)や“フルゾーン”(登録商標)翼(神鋼環境ソリューション社)など、一般的に大型翼と呼ばれる撹拌翼を使用しても良い。詳細は後述する。
【0027】
また、容器内に撹拌機構を設置する位置は、分散液体を撹拌できれば、特に制限はない。撹拌機構の材質も特に制限は無く、分散液体の性状に応じて適宜選択できる。
【0028】
また、本発明において、撹拌機構の構成部として、容器内に邪魔板を設けることもできる。邪魔板の形状には特に制限はなく、平板状や円柱状などの公知形状を使用することができる。邪魔板の数にも特に制限は無いが、2本または4本設置することが好ましく、それらは、容器の鉛直方向の中心線を軸として軸対象に設置することがより好ましい。邪魔板の材質に制限は無く、分散液体の性状に応じて自由に選定できる。
【0029】
邪魔板は、容器の内壁面と前記邪魔板との間に実質的に液体の流れが発生する隙間を有するように設置されていることがより好ましい。内壁面と邪魔板との間に実質的に液体の流れが発生する隙間を有することで、液体中に浮遊する気泡の滞留・停滞を防ぐことができるため、より効率よく脱泡することができる。
【0030】
次に、第一の発明における脱泡方法について、詳細に説明する。
【0031】
本発明では、容器内の分散液体の液面は、静置時・運転時のいずれも、撹拌翼の上端よりも上部に位置させる。すなわち、撹拌翼を分散液体に完全に液没させた状態とする。理由は後述する。
【0032】
静置時の分散液体の液面から撹拌翼の上端までの距離Aは、20mm以上であり、50mm以下である。なお、攪拌翼の上端面がフラットではない場合は、液面からの翼上端までの最短距離を距離Aとする。距離Aが40mm以下であると好ましい。分散液体中の気泡の脱泡は、減圧・撹拌を行うことで、以下の2点が並行して起こり進行することがわかっている。
【0033】
1)気泡の液面への浮上および液面近傍での滞在
2)液面からの気泡の消滅
本発明者らによる鋭意検討の結果、距離Aがこの範囲内であるとき、減圧・撹拌により1)および2)が滞りなく起こり、脱泡が進行することがわかった。距離Aが20mm以上の場合、液面近傍に滞在させた気泡の一部が再び底部に戻される前に液面にて消滅し、脱泡に要する時間が短くなる。なお、距離Aがマイナスの値、すなわち、撹拌翼上端が分散液体の液面よりも高い位置にある場合、液面近傍の気泡が撹拌で底部に戻されることや、さらには撹拌によって液が波立ち、気相部の気体が分散液体中に混入しやすくなることから、脱泡時間が長くなる。一方、距離Aが50mmを超えると、気泡が液面近傍まで到達するのに時間を要するようになり、脱泡時間が長くなる。
【0034】
本発明では、撹拌を行い、分散液体中に上下方向の対流を発生させることがよい。ここで、「上下方向の対流」とは、液が容器の下部から上部に向かい、再び下部に戻る流れのことを表し、一例としては、図2に示すものがある。液の流れは、図2(a)(b)のように一方向でも良く、図2(c)のように螺旋を描いていても良い。分散液体に上下方向の対流を発生させることで、容器内の気泡を下部から上部に効率良く送ることができ、脱泡を促進することができる。上下方向の対流の発生の確認は、例えば、分散液体と同等の密度を有するビーズを液体中に入れておき、撹拌させたときにビーズの動きを目視することで確認可能である。例えば、ポリプロピレン(PP)製のビーズを用いることも可能である。分散液体中に上下方向の対流を発生させるために好ましい撹拌翼としては、ヘリカルリボン翼が挙げられる。分散液体を撹拌翼で撹拌する場合、翼の近傍にはせん断力が加わるものの、液体の大部分にはせん断応力が作用しないため、撹拌によって液体の粘度に差異が生じ、液組成や性状が変わる恐れがあるが、ヘリカルリボン翼であれば、分散液体全体を上下方向に動かすことができるため、粘度に差異が生じることなく撹拌・脱泡が可能となる。また、ヘリカルリボン翼を用いる場合、撹拌は、翼の送り方向が下向きになる方向、すなわち、液を掻き下げる方向に行うことが好ましい。この方向に撹拌することで、分散液体は、図2(a)のように、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れとなり、中心部にボルテックス(渦)が生じることなく、気体の混入を防ぐことができる。
【0035】
さらに、上述した撹拌翼を用いて分散液体を撹拌させる際は、翼先端速度を0.87m/s以下とする。本発明者らの鋭意検討により、翼先端速度を0.87m/s以下とすることで、気相部の気体を液体に混入することなく撹拌が可能となることを見出した。翼先端速度は、上述の範囲であれば、分散液体の性状に応じて自由に設定できる。また、翼先端速度は、撹拌翼に動きが生じる大きさであれば特に限定されないが、撹拌機構を安定に稼働させるという観点から、0.10m/s以上に設定すると好ましい。ここで、翼先端速度は、図1に示す撹拌翼の直径d(m)と、撹拌の回転数(rpm)を用いて、次の式から算出できる。ここで、撹拌翼の直径dは、翼の液面に平行な面が円形の場合はその直径であり、円形ではない場合は、回転時の翼の軌跡により描かれる円の直径である。
【0036】
翼先端速度(m/s)=回転数(rpm)/60×撹拌翼の直径d(m)×円周率
第一の発明において、脱泡工程における真空度は、脱泡する分散液体の成分によって自由に設定できるが、分散液体の溶媒が水の場合、ゲージ圧で制御する場合には減圧による溶媒の蒸発を防ぐため、-0.098MPa(ゲージ圧)以下の真空度で運転することが好ましい。また、上述の1)および2)を連続的に行い、効率良く脱泡できるよう、-0.090MPa(ゲージ圧)以上の真空度で運転することが好ましい。絶対圧力で真空度を制御する場合については後述する。
【0037】
上記の操作により脱泡された分散液体は、せん断速度を17(1/s)としてせん断を加えた際の粘度aが4Pa・s以上であると好ましく、かつ、前記粘度aと、せん断速度を125(1/s)としてせん断を加えた際の粘度b(Pa・s)との比a/bが1.0より大きいと好ましい。上記の条件における粘度aが4Pa・s以上であると、例えば、ガス拡散電極作成の過程で多孔質基材上に塗液として本分散液体を塗布させる際、塗液が多孔質基材の細孔に流入して裏側まで浸透する「裏抜け」を起こすことなく塗布可能である。また、上記の条件における粘度の比a/bが1.0より大きいことで、良好な塗布性が得られる。液体の粘度a、bは、例えば、動的粘弾性測定装置(レオメーター)を用いて、せん断速度を徐々に大きくさせていくことで、17(1/s)と125(1/s)のせん断速度における測定が可能である。
【0038】
本発明の脱泡方法によって、水、油、溶剤、高分子単量体、高分子重合体、又はこれらの混合物などに対し、分散された粒子を含有した適宜の種類の液体を脱泡処理することができる。
次に、第二の発明について説明する。この発明に係る製造方法は、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極の微多孔層を形成するための塗液に好適に用いることができるが、対象とするガス拡散電極は、導電性多孔質基材の少なくとも片面に微多孔層を有する。 このようなガス拡散電極に関し、初めに導電性多孔質基材について説明する。
固体高分子型燃料電池において、ガス拡散電極は、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高いガス拡散性、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、発生した電流を取り出すため、高い導電性が要求される。このためガス拡散電極には、導電性を有し、通常10μm以上100μm以下の領域に細孔径のピークを有する多孔体からなる導電性多孔質基材が用いられる。
導電性多孔質基材としては、具体的には、例えば、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体、炭素繊維不織布、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素繊維を含む多孔質基材、発泡焼結金属、金属メッシュ、エキスパンドメタルなどの金属多孔質基材を用いることが好ましい。中でも、耐腐食性が優れることから、炭素繊維を含むカーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロスなどの多孔質基材を用いることが好ましく、中でも、電解質膜の厚み方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、炭素繊維抄紙体を炭化物で結着してなる基材、すなわちカーボンペーパーを用いることが好適である。
ガス拡散電極のガス拡散性を高めて燃料電池の発電性能を極力高めるため、導電性多孔質基材には高い空隙率が求められる。空隙率は好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。空隙率の上限としては、 通常、導電性多孔質基材がその構造を保ちうる限界として95%である。
また、カーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みを薄くすることによっても、ガス拡散電極のガス拡散性を高めることができるので、カーボンペーパーなどの導電性多孔質基材の厚みは220μm以下が好ましく、150μm以下がさらに好ましく、さらに好ましくは120μm以下である。導電性多孔質基材の厚み下限を50μmとすると、機械的強度を保ち、製造工程でのハンドリングを容易とできるので好ましい。導電性基材の厚みを薄くすることは、燃料電池としたときの厚み方向の電気抵抗を低減する意味でも有効である。
導電性多孔質基材は、排水性を高めるため撥水処理が施されていても良い。撥水処理は、フッ素樹脂などの撥水性樹脂を用いて行うことが好ましい。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)(たとえば“テフロン”(登録商標))、FEP(四フッ化エチレン六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ化樹脂)、ETFA(エチレン四フッ化エチレン共重合体)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PVF(ポリフッ化ビニル)等が挙げられるが、強い撥水性を発現するPTFE、あるいはFEPが好ましい。
撥水性樹脂の量は特に限定されないが、導電性多孔質基材の全体100質量%中に0.1質量%以上20質量%以下が好ましい。この範囲であると、撥水性が十分に発揮され、一方、撥水性樹脂がガスの拡散経路あるいは排水経路となる細孔を塞いでしまったり、電気抵抗が上がったりする可能性が低い。
導電性多孔質基材を撥水処理する方法は、一般的に知られている撥水性樹脂を含むディスパージョンに導電性多孔質基材を浸漬する処理技術のほか、ダイコート、スプレーコートなどによって導電性多孔質基材に撥水性樹脂を塗布する塗布技術も適用可能である。また、フッ素樹脂のスパッタリングなどのドライプロセスによる加工も適用できる。なお、撥水処理の後、必要に応じて乾燥工程、さらには焼結工程を加えても良い。
次いで、微多孔層について説明する。 微多孔層は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のチョップドファイバー、グラフェン、黒鉛などの導電性粒子を含んだ層である。導電性微粒子としては、コストが低く、安全性や製品の品質の安定性の点から、カーボンブラックが好適に用いられる。微多孔層中に含まれるカーボンブラックとしては、不純物が少なく触媒の活性を低下させにくいという点でアセチレンブラックが好適に用いられる。
また、微多孔層には、導電性、ガス拡散性、水の排水性、あるいは保湿性、熱伝導性といった特性、さらには燃料電池内部のアノード側での耐強酸性、カソード側での耐酸化性が求められるため、微多孔層は、導電性粒子に加えて、フッ素樹脂をはじめとする撥水性樹脂を含むことが好ましい。微多孔層に含まれるフッ素樹脂としては、導電性多孔質基材を撥水する際に好適に用いられるフッ素樹脂と同様、PTFE、FEP、PFA、ETFA等が上げられる。撥水性が特に高いという点でPTFE、あるいはFEPが好ましい。
ガス拡散電極が微多孔層を有するためには、導電性多孔質基材に、微多孔層を形成するための塗液、すなわち微多孔層形成用塗液(以下、塗液という)を塗布することが一般的である。塗液はその原料として顔料を含むものであり、顔料の代表例として、上記した導電性粒子からなるものが挙げられる。塗液は通常、前記した導電性粒子と水やアルコールなどの分散媒を含むが、環境負荷低減、塗布乾燥工程の簡略化の観点から水を溶媒として用いることが好ましい。導電性粒子を分散するための分散剤として、界面活性剤などが配合されることが多い。また、微多孔層に撥水性樹脂を含ませる場合には、塗液には予め撥水性樹脂を含ませておくことが好ましい。
導電性多孔質基材上に微多孔層を形成する方法としては、導電性多孔質基材に塗液を塗布する方法が好ましい。
微多孔層の役割としては、(1)触媒の保護、(2)目の粗い導電性多孔質基材の表面が電解質膜に転写しないようにする化粧直し効果、(3)カソードで発生する水蒸気の凝縮防止の効果などである。上記のうち、化粧直し効果を発現するためには、微多孔層がある程度の厚みを有することが好ましい。
微多孔層の厚みは、現状の導電性多孔質基材の粗さを考慮すれば、乾燥膜厚で10μmより大きく60μm以下であることが好ましい。微多孔層の厚みが10μm以下であると、前記した化粧直し効果が不足することがあり、60μmを超えるとガス拡散電極自体のガス拡散性(透過性)が低下したり、電気抵抗が高くなったりすることがある。ガス拡散性を高める、あるいは電気抵抗を下げるという観点からは、微多孔層の厚みは、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
塗液は、前記したように分散剤を用いて顔料を分散して調製する。以下、顔料を導電性粒子として説明する。導電性粒子を分散させるためには、導電性粒子と分散剤に対して、分散剤として界面活性剤を用いて分散させることが好ましい。この分散を長時間安定させて塗液粘度の上昇を防ぎ、液が分離したりしないようにするために、分散剤の添加量は、塗液中の導電性粒子の10質量%以上添加することが好ましい。10質量%未満では、塗液の分散安定が確保できず、粘度の低下などの変化を起こしやすい。
また、前記したように微多孔層の厚みを乾燥後の塗膜として10μmより大きくする場合、塗液の粘度を1Pa・s以上に保つことが好ましい。塗液の粘度がこれより低いと、塗液が導電性多孔質基材の表面上で流れて所望の厚みを確保できないことがあったり、導電性多孔質基材の細孔に塗液が流入して裏抜けを起こしてしまったりすることがある。上記より、塗液の常温・常圧における粘度は1Pa・s以上であることがよい。逆に、塗液を高粘度にしすぎると、塗布性が低下することがあるため、上限は25Pa・sまたはその周辺である。塗液の好ましい粘度は、3Pa・s以上20Pa・s以下、より好ましくは5Pa・s以上15Pa・s以下である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
上記のように塗液の粘度を高粘度に保つためには、増粘剤を添加することが有効である。ここで用いる増粘剤は、一般的に良く知られたもので良い。例えば、メチルセルロース系、ポリエチレングリコール系、ポリビニルアルコール系などが好適に用いられる。
これらの分散剤や増粘剤は、同じ物質に二つ以上の機能を持たせても良く、またそれぞれの機能に適した素材を選んでも良い。ただし、増粘剤と分散剤を別個に選定する場合には、導電性粒子の分散系および撥水性樹脂であるフッ素樹脂の分散系を壊さないものを選ぶことが好ましい。上記分散剤と増粘剤は、ここでは界面活性剤と総称する。塗液の高粘度、分散安定を保つために、界面活性剤の総量が、導電性粒子の添加質量の10質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは100質量%以上である。界面活性剤の添加量の好ましい上限としては、通常導電性粒子の添加質量の500質量%以下であり、この好ましい範囲であると後の焼結工程において蒸気や分解ガスが発生しにくく、安全性、生産性を確保できる。
これらの成分を含んだ塗液は、各種の分散装置で分散することができるが、上記のような成分を含む塗液は、分散を進めすぎると粘度が低下する場合が多く、固形分で粘度を調整しても多孔質基材に塗液が滲みこむ傾向がある。このため、分散を低いレベルで留めておき、これを保つことが必要となる場合がある。従い、塗液調製後、基材へ塗布するまで、導電性粒子の分散状態を変化させるようなせん断力を極力かけないことが好ましい。
上記のように、調製された塗液は、水系で界面活性剤が添加されているため、攪拌などの操作により気泡が発生しやすい。気泡が塗液に含まれたまま基材に塗布されると、気泡の存在する部分に塗膜が形成されずに、いわゆる塗布抜けと言う現象が置き、その部分は微多孔層の機能が低下してしまう恐れがある。そこで、塗液は塗布前に十分脱泡しておく必要がある。
第二の発明では、塗液の製造方法において、脱泡工程では、脱泡装置に設けられた減圧装置を用いて、減圧脱泡を行うが、本発明者らは、このときの容器内圧力について、目的に応じて設定することで、状況に応じた最適な塗液の製造方法を提供できることを見出した。すなわち、顔料を構成する粒子の分散系が脆い場合は、溶媒の沸騰を防ぎ、粒子の分散系を維持する目的で、脱泡工程における圧力を、塗液の温度における溶媒の蒸気圧より高く、かつ5kPa(絶対圧)以下とすることがよい。一方、脱泡にかける時間を短縮する目的で、効率を重視する観点からは、塗液の温度における溶媒の蒸気圧以下とすることがよい。なお、溶媒の蒸気圧とは、溶媒が水の場合は、水蒸気圧である。
従来、このような低い圧力では、溶媒の蒸気圧を下回ることにより、溶媒が沸騰してしまい、粒子の分散系が壊れて、微粒子が再凝集してしまう、微粒子に分散剤を介して吸着している水が遊離してしまうなどの弊害が発生すると考えられてきた。
しかし、本発明者らの鋭意検討では、溶媒の蒸気圧をわずかに下回る圧力で保持することにより塗液の物性が損なわれること無く、むしろ効率的に脱泡できることが分かった。
容器内部の圧力は、容器内部に水分が存在する限り塗液の温度に対する水蒸気圧の計算値(Telensの式による)に対して、あまり低下させることはできず、せいぜい0.4kPa下回るのが限界である。
蒸気圧は温度により変わる。その温度における理論蒸気圧はTelensの式等により求めることができるので、その温度での蒸気圧力以下のレベルの圧力にすることにより、短時間に効率的に脱泡することができる。この場合、蒸気圧は絶対圧力で決められるため、脱泡における真空度は絶対圧力にて制御することが望ましい。
水分散系の塗液、特に燃料電池のガス拡散電極の微多孔層用塗液の場合、液の調製は、室温付近で行うことが製造コスト低減の面から好ましく、また燃料電池用ガス拡散電極の微多孔層用塗液の場合、温度が上がると粘度が上昇してしまい、塗布性が悪くなる場合があるので、17℃ないし30℃未満の範囲において脱泡することが望ましい。
【0039】
上記のとおり、塗液の温度における水蒸気圧以下の圧力で脱泡を行うが、脱泡中に攪拌を行うことも好ましい。塗液がシェアシニング性を有する場合、攪拌により塗液の粘度が下がり、その分気泡が上昇しやすくなるため、脱泡に要する時間が短縮できる。しかし、攪拌を強くしすぎると塗液に大きな剪断がかかり、塗液の分散状態が変動して、粘度が低下したり、また新たに気泡を巻き込んだりする可能性があるため好ましくない。攪拌の条件は、上記した第一の発明を適用することができる。
上記のようにして調製、脱泡した塗液は、各種基材に塗布されるが、ここでは導電性多孔質基材に塗布され、ガス拡散電極が製造される場合について述べる。
塗液の導電性多孔質基材への塗布は、市販されている各種の塗布装置を用いて行うことができる。塗布方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗布、バー塗布、ブレード塗布、ロールナイフコーター塗布などが使用できるが、導電性多孔質基材の表面粗さによらず塗布量の定量化を図ることができるため、ダイコーターによる塗布が好ましい。また、燃料電池にガス拡散電極を組み込んだ場合に触媒層との密着を高めるため塗布面の平滑性を求める場合には、ブレードコーターやロールナイフコーターによる塗布が好適に用いられる。以上のとおり示した塗布方法はあくまでも例示のためであり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
塗液を塗布した後、必要に応じ、塗液の分散媒(水系の場合は水)を乾燥除去する。塗布後の乾燥の温度は、分散媒が水の場合、室温(20℃前後)から150℃以下が望ましく、さらに好ましくは60℃以上120℃以下が好ましい。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。この分散媒(たとえば水)の乾燥は後の焼結工程において一括して行なっても良い。
塗液を塗布した後、塗液に用いた界面活性剤を除去する目的および撥水性樹脂を一度溶解して導電性粒子を結着させる目的で、焼結を行なうことが一般的である。
焼結の温度は、添加されている界面活性剤の沸点あるいは分解温度にもよるが、250℃以上、400℃以下で行なうことが好ましい。さらに好ましくは、300℃以上、380℃以下である。焼結の温度がこの好ましい範囲であると、界面活性剤の除去が十分に達成でき、一方、撥水性樹脂の分解が起こる可能性も低い。
【0040】
微多孔層に関して図6を用いてより詳細に説明する。微多孔層の厚みについては、導電性多孔質基材の粗さの化粧直し効果を発現させるために、前述の通り微多孔層の合計の厚みが10μmより大きいことが好ましい。ただし、ガス拡散性を確保する必要性から、微多孔層の厚みの上限は60μmであることが好ましい。
なお、塗液を導電性多孔質基材の表面に塗布して微多孔層を形成することから、導電性多孔質基材の空孔に該塗液が浸み込んでしまい、導電性多孔質基材中に微多孔層の染み込み部分203が形成される場合があるが、各微多孔層の厚みは、この浸み込み部分は除いて、導電性多孔質基材の外側に存在する部分の厚みのみで評価する。
上記の微多孔層の塗布においては、ダイコーター、各種のロールコーター、各種のバーコーター、各種ナイフコーターなどを用いて行う。 上記の各種塗布方法については、「コンバーティングのすべて」((株)加工技術研究会編)など、既存の多数の文献に記載されている。
【実施例
【0041】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例1~10は参考実施例である。
【0042】
(a)粘度測定
スペクトリス社製ボーリン回転型レオメーターの粘度測定モードにおいて、直径40mm、傾き2°の円形コーンプレートを用いプレートの回転数を増加させながら(せん断速度を上昇させながら)応力を測定していく。このとき、せん断速度17(1/s)における粘度の値aを読み取り、分散液体の粘度とした。さらに、125(1/s)における粘度の値bを読み取り、両者の比a/bからシェアシニング性を確認した。
【0043】
(b)分散液体中の泡数測定
一辺15cm、厚み0.5cmのガラス板を2枚用意し、1枚の四隅にフッ素テープ(中興化成工業社製 ASF-110FR)を貼付し、液体サンプル0.2gを上下から挟んで30分間静置した。その後、オーツカ光学社製 ILLMINATED MAGNIFIERS OSL-1を用いて観察したサンプルについて、デジタルカメラ等で撮影し、画像中の泡数を目視でカウントした。この作業を20回行い、得られた数の算術平均値を、分散液体中の泡数とした。
(c)実際の塗布における気泡の確認
準備された微多孔層塗液を図3のようなタンクに仕込み、図4のような配管系を組み、ダイコータ(口金の開口部巾240mm)を用いて、巾300mmのPETフィルム(厚み50μm 0.15MPaで加圧時)に、塗布量を120g/mとして10分間塗布を行い、目視にて、気泡による欠点が塗膜上に発生しないかどうかを確認した。塗布に当たっては、配管内の空気を排除するために、容器底部からダイコータまでを真空引きして塗液を送り、塗布開始後十分に液を吐出してから、気泡の評価を行った。また、液温は、23℃±1℃以内で管理した。
【0044】
10分間の塗布(3.6m)において、目視確認できる泡の数が1個までは実用的に問題ないものと判断した。
(d)タンク内部の絶対圧力測定
COPALELECTRONICS社製圧力ゲージPG200-102AP―Sを用いて測定した。
【0045】
(実施例1)
電気化学工業(株)製“デンカブラック”(登録商標)15質量部、FEPディスパージョン(ダイキン工業(株)製 “ポリフロン”(登録商標)ND-110)9質量部、界面活性剤(ナカライテスク(株)製、“TRITON”(登録商標) X-100)10質量部、イオン交換水66質量部をプラネタリーミキサーで混練した。
【0046】
作成した分散液体15Lを、図3に示す脱泡専用容器に移液し、容器を減圧装置に取り付けた。減圧装置の撹拌翼にはヘリカルリボン翼(撹拌翼の直径d=300mm)を使用した。その後、減圧は行わずに、翼先端速度1.5m/sで30分間撹拌し、気泡を含んだ分散液体とした。この分散液体の泡数を測定したところ、25個/0.2gであった。
【0047】
分散液体の液面から撹拌翼上端までの距離Aが20mmとなるように液量を調整し、減圧手段(真空ポンプ)により、容器内の真空度を-0.090MPa(ゲージ圧、このときの絶対圧は10.5kPa)とし、その減圧状態を維持しながら、回転数23rpmで、液を掻き下げる方向に撹拌した。撹拌後、5分毎に、液面の分散液体のサンプリングを行った。泡数が2個/0.2g以下となったときの時間を脱泡完了時間とした。
【0048】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0049】
(実施例2)
容器内の真空度を-0.050MPa(ゲージ圧、このときの絶対圧力は50.5kPa)とした以外は、全て実施例1と同じ方法で分散液体を撹拌した。
【0050】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0051】
(実施例3)
回転数を55rpmとした以外は、全て実施例1と同じ方法で分散液体を撹拌した。
【0052】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0053】
(実施例4)
距離Aが50mmとなるように液量を調整した以外は、全て実施例1と同じ方法で分散液体を撹拌した。
【0054】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0055】
(実施例5~7)
距離Aが表1に示す値となるように液量を調整した以外は、全て実施例3と同じ方法で分散液体を撹拌した。
【0056】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0057】
(実施例8)
脱泡後の分散液体の粘度が25.3Pa・sとなるように原料を調製して混練した以外は、全て実施例3と同じ方法で分散液体を撹拌した。ここで、脱泡処理を行う前の分散液体中の泡数は28個/0.2gであった。
【0058】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0059】
(実施例9)
分散後の分散液体の粘度が2Pa・sとなるように原料を調製して混練した以外は、全て実施例3と同じ方法で分散液体を撹拌した。ここで、脱泡処理を行う前の分散液体中の泡数は15個/0.2gであった。
【0060】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0061】
(実施例10)
撹拌翼として、図4に示すようなマックスブレンド翼(撹拌翼の直径d=240mm)を使用した。ここで、脱泡処理を行う前の分散液体中の泡数は25個/0.2gであった。脱泡処理時の回転数を69rpmに設定し、その他の条件は全て実施例1と同じ方法で、分散液体を撹拌した。
【0062】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られたと同時に、一部は撹拌翼と液との供回りも見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0063】
(比較例1)
撹拌翼として、図5に示すようなアンカー翼(撹拌翼の直径d=260mm)を使用した。ここで、脱泡処理を行う前の分散液体中の泡数は20個/0.2gであった。脱泡処理時の回転数を64rpmに設定し、その他の条件は全て実施例1と同じ方法で、分散液体を撹拌した。
【0064】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、主に周方向の流れが見られ、実施例3のような上昇・下降の液流れは見られなかった。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0065】
(比較例2~7)
距離Aが表1に示す値となるように液量を調整した以外は、全て実施例3と同じ方法で分散液体を撹拌した。
【0066】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られたと同時に、液面の波立ちも見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0067】
(比較例8,9)
距離Aが表1に示す値となるように液量を調整した以外は、全て実施例3と同じ方法で分散液体を撹拌した。
【0068】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したが、液面はほぼ動いておらず、また投入したビーズは液面に浮上してこず、液流れを確認することはできなかった。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0069】
(比較例10)
回転数を64rpmとした以外は、全て実施例1と同じ方法で分散液体を撹拌した。
【0070】
分散液体中に、マーカーとして長さ5~6mmのPP製ビーズを投入し、容器蓋に備えられた覗き穴から液流れを観察したところ、容器の中心部から液が上昇し、壁面部から液が下降する、という方向の流れが見られたと同時に、液面の波立ちも見られた。脱泡完了時間、脱泡完了後の分散液体の粘度は、それぞれ表1に示すようになった。
【0071】
表1の結果から明らかなように、実施例1~10では、分散液体が短時間で脱泡できることがわかった。
【0072】
比較例1では、撹拌翼としてアンカー翼を使用したことで、分散液体に対する液流れは周方向が支配的となり、容器内の気泡の液面への浮上に時間を要したため、実施例3と比較して脱泡時間が大幅に長くなった。
【0073】
比較例2~7では、分散液体の液面から撹拌翼上端までの距離Aが20mmより小さくなるにつれて、気相中の気体が分散液体に混入させながら撹拌を進めたため、実施例3と比較して脱泡時間が大幅に長くなった。特に、比較例6,7のように、分散液体の液面が撹拌翼上端よりも著しく低くなると、気体の混入量が増加する傾向が見られた。
【0074】
比較例8,9では、分散液体の液面から撹拌翼上端までの距離Aが50mmを超えていたことで、液面付近の撹拌ができておらず、容器内の気泡の液面への浮上に時間を要したため、実施例3と比較して脱泡時間が大幅に長くなった。
【0075】
比較例10では、翼先端速度が0.87m/sを超える速度で撹拌したことで、気相中の気体を分散液体に混入させながら撹拌を進めたため、実施例1と比較して脱泡時間が長くなったと考えられる。
以下、特に断らない限り、圧力は絶対圧を示す。
(実施例11)
図3に示す容器に塗液を12L仕込み、撹拌翼にはヘリカルリボン翼を用いて、回転数15rpmで回転させて攪拌を行った。液面から撹拌翼上端までの距離Aは20mmとした。液温を21.9℃の状態(このときの溶媒(水)の蒸気圧(以下、水蒸気圧)は2.6kPa)で、所定の回転数および周速において、減圧手段(真空ポンプ)により、容器内の圧力を大気圧の状態から2.5分かけて圧力を2.4kPaで一定になるまで落とし、この状態を保ちながら脱泡し、減圧開始から7分後に大気開放して、気泡数測定を行った。さらに容器底部から図7の模式図に示すような配管系にてPETフィルム上に長さ10m塗布を行い、気泡の発生の有無について目視確認を行った。
脱泡完了時間、脱泡完了後の塗液の物性および気泡の数は、それぞれ表1に示すようになった。
(実施例12)
容器内の液温を20.5℃(水蒸気圧2.4kPa)として、これを容器内の圧力を大気圧の状態から2.75分かけて圧力を2.3kPaで一定するまで落とし、この状態を保ちながら脱泡した以外はすべて実施例11と同様にテストを行った。
【0076】
(実施例13)
容器内の液温を17.3℃の状態(水蒸気圧2.0kPa)として、これを大気圧の状態から3.0分かけて容器内の圧力を1.9kPaまで落とした以外は実施例11と同様にテストを行った。
(実施例14)
容器内の液温を26.0℃の状態(水蒸気圧3.4kPa)で、これを大気圧の状態から2.75分かけて、3.1kPaまで落として一定とした以外は実施例11と同様にテストを行った。
(実施例15)
容器内の液温を29.0℃の状態(水蒸気圧4.0kPa)とし、これを大気圧の状態から2.0分かけて3.8kPaまで落として一定とした以外は実施例11と同様にテストを行った。
(実施例16)
攪拌を停止した状態で脱泡した以外はすべて実施例11と同様にテストを行った。
(実施例17)
容器内の液温を26.0℃(水蒸気圧3.4kPa)の状態として、これを大気圧の状態から0.5分かけて圧力を5.0kPaまで落とし、保持した以外はすべて実施例11と同様にテストを行った。
(比較例11)
容器内の圧力を6.0kPaまで落とし、保持した以外はすべて実施例17と同様にテストを行った。7.0分の脱泡を行った後の塗液評価でまだ気泡が残っている結果であったため、圧力を5.2kPaまで下げ、脱泡を行い、最初の脱泡開始から、30分後及び40分後の液評価を行い、40分後の液にてようやく気泡のレベルが実用上問題のないレベルに到達した。
(比較例12)
容器内の圧力を8.0kPaに保持した以外はすべて実施例17と同様にテストを行った。7.0分の脱泡を行った後の塗液評価でまだ気泡が残っている結果であったため、再び圧力を5.2kPaまで下げ、脱泡を行い、最初の脱泡開始から、30分後,40分後及び50分後の液評価を行ったところ、50分後の液にてようやく気泡のレベルが実用上問題のないレベルに到達した。
実施例11~17および比較例11,12の脱泡前後の溶存酸素指数、粘度、シェアシニング性、塗液の温度、その温度における水蒸気圧(Telensの式より)、塗液中の気泡数測定、塗布時の気泡起因の欠点の発生の有無の判定結果を表2にまとめる。この表より、5kPaを境目に、塗液中の気泡数、塗布テスト時の同一脱泡時間での気泡の数が少なくなることが分かる。攪拌の有無については、実施例16では若干泡が残っていたことから、攪拌しながら脱泡することが好ましい。
また比較例11、12の追加脱泡の評価結果から、比較例11、12の条件では脱泡完了(泡のレベルが実用上問題のないレベルになる)までの時間は30分を越えており、第二の発明に係る脱泡方法はその1/4以下の時間で脱泡することができる。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の脱泡方法は、化学、医薬、製紙、印刷、電子材料、油製品などの工業分野や、化粧品、食品、樹脂、塗料、接着剤、光学材料などの製品に対し好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 容器
2 撹拌機構
21 撹拌翼
22 撹拌軸
3 減圧手段接続口
4 分散液体
A 静置時の液面から撹拌翼の上端までの距離
d 撹拌翼の直径
101 導電性多孔質基材(カーボンペーパー)
102 巻き出し機
103 ガイドロール(非駆動)
104 ダイコーターA
106 バックロール(駆動)
107 乾燥機
108 焼結炉
109 巻き取り機
110 合い紙
111 合い紙巻き出し機
112 塗液タンク(容器)
113 送液ポンプ
114 フィルター
115 浸漬槽
202 微多孔層
203 導電性多孔質基材への微多孔層の浸み込み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7