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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 13/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
B60C13/00 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018130911
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2020006863
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】荻原 佐和
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189087(JP,A)
【文献】特表2016-523763(JP,A)
【文献】特開2014-061820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォール部の表面に装飾模様が形成されたタイヤであって、
前記装飾模様は、タイヤ半径方向に沿って延びる複数のリッジが、隙間を空けて、タイヤ周方向に並べられており、
前記リッジの横断面は、前記表面から離れるにしたがって前記表面に沿った長さが漸減するテーパ状であり、
前記装飾模様が、下式(1)及び(2)を満たすように構成されている、
タイヤ。
20≦A≦40 …(1)
0.15≦C≦0.25 …(2)
ただし、Aは、前記リッジのテーパ角(度)、Cは、前記表面に沿って測定された前記隙間の最小長さ(mm)である。
【請求項2】
前記リッジの横断面は、前記表面から最も離れた位置で前記表面に沿って延びる上底を有し、
前記装飾模様は、さらに、下式(3)及び(4)を満たすように構成されている、請求項1に記載のタイヤ。
0.2≦C/D≦0.4 …(3)
1≦B/C≦3 …(4)
ただし、Bは、前記表面に沿って測定された前記上底の長さ(mm)、Dは、前記リッジのタイヤ周方向の配設ピッチ(mm)である。
【請求項3】
サイドウォール部の表面に装飾模様が形成されたタイヤであって、
前記装飾模様は、タイヤ半径方向に延びる複数のリッジが、隙間を空けて、タイヤ周方向に並べられており、
前記リッジの横断面は、前記表面から離れるにしたがって前記表面に沿った長さが漸減するテーパ状であり、かつ、前記表面から最も離れた位置に頂点を有する三角形状であり、
前記装飾模様は、下式(1)、(2)及び(5)を満たすように構成されている、
タイヤ。
20≦A≦40 …(1)
0.15≦C≦0.25 …(2)
0.2≦C/D≦0.4 …(5)
ただし、Aは、前記リッジのテーパ角(度)、Cは、前記表面に沿って測定された前記隙間の最小長さ(mm)、Dは、前記リッジのタイヤ周方向の配設ピッチである。
【請求項4】
前記頂点から前記表面にのびる一対の側面のうち、一方の側面が前記表面に対して直交する、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記リッジは、前記表面からの高さが、0.1~0.5mmである、請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部の表面に装飾模様が形成されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤのサイドウォール部は、ゴムの厚さが薄いため、内部構造材であるカーカスの継ぎ目や残留空気等によって、バルジやデントと呼ばれる凹凸が目立ちやすい。このような凹凸は、タイヤの外観を悪化させる。
【0003】
下記特許文献1は、凹凸を目立ち難くするために、サイドウォールの表面に、多数のリッジを所定のピッチで配列した帯状デザインを有するタイヤを提案している。このような帯状デザインは、タイヤの加硫金型の成形面に形成された溝部(リッジの反転模様)によって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平07-164831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、凹凸を目立ち難くするためには、隣り合うリッジ間の隙間を小さくし、その部分を暗く(黒く)視認させて、帯状デザインの光のコントラストを明瞭にすることが重要である。
【0006】
しかしながら、隣り合うリッジ間の隙間を小さくすると、タイヤ周方向に多くのリッジが形成されるため、それに伴って、加硫金型側の成形面に形成される溝部の割合も大きくなる。溝部は、成形面のクリーニングに用いられるレーザや粒体等が当たり難いため、加硫金型のクリーニング作業の効率が低下するという問題があった。したがって、タイヤの外観の向上と、加硫金型のクリーニング作業の効率向上との両立には、さらなる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤの外観の向上、及び、加硫金型のクリーニングの作業効率の向上を両立することができるタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、サイドウォール部の表面に装飾模様が形成されたタイヤであって、前記装飾模様は、タイヤ半径方向に延びる複数のリッジが、隙間を空けて、タイヤ周方向に並べられており、前記リッジの横断面は、前記表面から離れるにしたがって前記表面に沿った長さが漸減するテーパ状であり、前記装飾模様が、下式(1)及び(2)を満たすように構成されていることを特徴とする。
20≦A≦40 …(1)
0.15≦C≦0.25 …(2)
ただし、Aは、前記リッジのテーパ角(度)、Cは、前記表面に沿って測定された前記隙間の最小長さ(mm)である。
【0009】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記リッジの横断面は、前記表面から最も離れた位置で前記表面に沿って延びる上底を有し、前記装飾模様は、さらに、下式(3)及び(4)を満たすように構成されていてもよい。
0.2≦C/D≦0.4 …(3)
1≦B/C≦3 …(4)
ただし、Bは、前記表面に沿って測定された前記上底の長さ(mm)、Dは、前記リッジのタイヤ周方向の配設ピッチ(mm)である。
【0010】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記リッジの配設ピッチDは、0.13~2.1mmであってもよい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記上底の長さBは、0.05~0.4mmであってもよい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記リッジの横断面は、前記表面から最も離れた位置に頂点を有する三角形状であり、前記装飾模様は、さらに、下式(5)を満たすように構成されていてもよい。
0.2≦C/D≦0.4 …(5)
ただし、Dは、前記リッジのタイヤ周方向の配設ピッチである。
【0013】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記頂点から前記表面にのびる一対の側面のうち、一方の側面が前記表面に対して直交してもよい。
【0014】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記リッジは、前記表面からの高さが、0.1~0.5mmであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタイヤは、サイドウォール部の表面に装飾模様が形成されている。前記装飾模様は、タイヤ半径方向に延びる複数のリッジが、隙間を空けて、タイヤ周方向に並べられている。このような前記装飾模様は、前記サイドウォール部に現れる凹凸を目立たなくすることができ、前記タイヤの外観を向上させることができる。
【0016】
前記リッジの横断面は、前記表面から離れるにしたがって前記表面に沿った長さが漸減するテーパ状であり、前記装飾模様が、下式(1)及び(2)を満たすように構成されている。
20≦A≦40 …(1)
0.15≦C≦0.25 …(2)
ただし、Aは、前記リッジのテーパ角(度)、Cは、前記表面に沿って測定された前記隙間の最小長さ(mm)である。
【0017】
前記装飾模様は、前記リッジのテーパ角Aが40度以下とされているため、前記表面に垂直に入射する光について、前記リッジの側面での入射角及び反射角を小さくする。これにより、前記装飾模様は、前記側面から前記タイヤの外方へ向かう反射を弱める。また、前記装飾模様は、前記隙間の最小長さCが0.25mm以下とされているため、前記表面から前記タイヤの外方へ向かう反射を弱めることができる。これにより、前記装飾模様は、前記隙間をより暗く(黒く)視認させて、前記リッジと前記隙間との光のコントラストを明瞭にすることができるため、前記凹凸をより一層目立たなくすることができる。
【0018】
一方、前記装飾模様は、前記テーパ角Aが20度以上とされているため、前記リッジを形成するための加硫金型の溝部(前記リッジの反転模様)の壁面を適度に広げることができる。したがって、金型クリーニング時、レーザや粒体等を、前記溝部内に容易に照射することができる。また、前記装飾模様は、前記隙間の最小長さCが0.15mm以上とされているため、タイヤ周方向において、前記リッジの個数が過度に増加するのを防ぐ。これにより、本発明では、前記溝部の割合を小さくし、凹凸を目立たなくしながら、加硫金型のクリーニング作業の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】タイヤの一例を示す部分側面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3】加硫工程での加硫金型及び生タイヤの一例を示す部分断面図である。
図4】本発明の他の実施形態の装飾模様の一例を示す断面図である。
図5】本発明の他の実施形態の加硫工程での加硫金型及び生タイヤの一例を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、タイヤの一例を示す部分側面図である。本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2と、トレッド部2の両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3と、サイドウォール部3のタイヤ半径方向の内方に連なるビード部4とを有している。本実施形態では、乗用車用のタイヤ1が例示されるが、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、自動二輪車用や重荷重用等のタイヤであってもよい。
【0021】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法等は、タイヤ1を正規リム(図示省略)にリム組し、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態(正規状態)で測定される値とする。
【0022】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim" を意味する。
【0023】
前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には180kPaとする。
【0024】
本実施形態のタイヤ1は、サイドウォール部3の表面5に、装飾模様7が形成されている。本実施形態の装飾模様7は、タイヤ1の側面視において、円環状に形成されているが、このような態様に限定されない。装飾模様7は、例えば、タイヤ周方向の両端が途切れる帯状に形成されてもよいし、タイヤ周方向に隔設されてもよい。また、装飾模様7の上には、タイヤ1のロゴマークやブランド名等を表す文字(図示省略)等が、例えば浮き彫り状に形成されても良い。装飾模様7のタイヤ半径方向の長さL1については、特に限定はされない。本実施形態の長さL1は、好ましくはタイヤ断面高さの5~30%程度が望ましい。
【0025】
図2は、図1のA-A断面図である。図3は、加硫金型21に形成された模様形成部24の一例を示す部分断面図である。図2に示されるように、装飾模様7は、タイヤ半径方向に延びる複数のリッジ11が隙間12を空けて、タイヤ周方向に並べられることで形成されている。このような装飾模様7は、従来と同様に、図3に示したタイヤの加硫金型21の成形面23に設けられた模様形成部24の溝部(リッジ11の反転模様)25によって形成される。
【0026】
図1及び図2に示されるように、リッジ11は、サイドウォール部3の表面5から突出し、タイヤ半径方向に延びる畝状の突起として形成されている。図2に示されるように、リッジ11の横断面は、サイドウォール部3の表面5から離れるにしたがって、表面5に沿った長さL2が漸減するテーパ状に形成されている。
【0027】
本実施形態のリッジ11の横断面は、表面5から最も離れた位置で、表面5に沿って延びる上底15を有している。これにより、リッジ11の横断面は、上底15と、上底15から表面5にのびる一対の側面16、16とを有する台形状に形成されている。なお、図面では、リッジ11の各コーナ部17が鋭いエッジで描かれているが、「台形状」には、リッジ11の大きさとゴムの成形技術を考慮して、コーナ部17に小さい曲率半径の面取りが形成された態様が含まれる。
【0028】
このような装飾模様7は、隣り合うリッジ11、11間の隙間12を暗く(黒く)視認させて、リッジ11と隙間12との光のコントラストを明瞭にすることができる。これにより、装飾模様7は、タイヤ1の内部構造材であるカーカス(図示省略)の継ぎ目や残留空気等に起因する凹凸(バルジ及びデント)を、目立ち難くする目隠し効果を発揮させることができるため、タイヤ1の外観の向上に役立つ。
【0029】
そして、本実施形態の装飾模様7(図2に示す)が、下式(1)及び(2)を満たすように構成されている。
20≦A≦40 …(1)
0.15≦C≦0.25 …(2)
ただし、Aは、リッジ11のテーパ角(度)、Cは、表面5に沿って測定された隙間12の最小長さ(mm)である。
【0030】
上式(1)より、リッジ11のテーパ角Aが40度以下に設定される。一般に、タイヤ1のサイドウォール部3の外観向上には、その正面視での外観が特に重要である。本実施径形態の装飾模様では、リッジ11のテーパ角Aが40度以下とされることにより、サイドウォール部3の表面5に垂直に(タイヤ軸方向に沿って)入射する光30(図2において2点鎖線で示す)について、リッジ11の側面16での入射角θ1及び反射角θ2を小さくすることができる。したがって、装飾模様7は、リッジ11の側面16からタイヤ1の外方へ向かう反射を弱めることができる。
【0031】
さらに、図3に示したリッジ11を形成するための加硫金型21の溝部25の壁面(即ち、リッジ11の側面16を形成するための側面形成部)28、28において、加硫金型21のクリーニングに用いられるレーザや粒体の入射角及び反射角を小さくすることができる。これにより、レーザや粒体を溝部25内で乱反射させることができるため、溝25に付着した汚れを効率良く除去することができる。
【0032】
上式(2)より、隙間12の最小長さCが0.25mm以下に設定される。これにより、本実施形態の装飾模様7は、サイドウォール部3の表面5からタイヤ1の外方へ向かう反射を弱めることができる。これにより、本実施形態の装飾模様7は、隙間12をより暗く(黒く)視認させて、リッジ11と隙間12との光のコントラストを明瞭にすることができる。したがって、装飾模様7は、サイドウォール部3に形成される凹凸(図示省略)を、より一層目立たなくできるため、タイヤ1の外観の向上させることができる。
【0033】
一方、リッジ11のテーパ角A、及び、隙間12の最小長さCを小さくすると、タイヤ周方向に多くのリッジ11が形成されるため、それに伴って、図3に示した加硫金型21の成形面23に形成される溝部25の割合(個数)も大きくなる。溝部25は、成形面23のクリーニングに用いられるレーザや粒体等が当たり難いため、加硫金型のクリーニング作業の効率が低下する。
【0034】
本実施形態では、上式(1)より、テーパ角Aが20度以上に設定される。これにより、図3に示されるように、本実施形態では、リッジ11を形成するための加硫金型21の溝部25の壁面28、28の少なくとも一方(本実施形態では、双方)を、タイヤ周方向に適度に広げることができる。したがって、本実施形態では、金型クリーニング時において、レーザや粒体等を加硫金型21の溝部25内に容易に照射することができる。
【0035】
さらに、上式(2)より、隙間12の最小長さCが0.15mm以上に設定される。これにより、本実施形態の装飾模様7は、タイヤ周方向において、リッジ11の個数が過度に増加するのを防ぐことができる。これにより、本実施形態では、加硫金型21の溝部25の割合を小さくし、クリーニング作業の効率を向上させることができる。
【0036】
このように、本実施形態のタイヤ1は、装飾模様7が上式(1)及び(2)を満たすことで、タイヤ1の外観の向上、及び、加硫金型21のクリーニングの作業効率の向上を両立させることができる。
【0037】
なお、テーパ角Aが40度を超えると、上述の光30について、リッジ11の側面16での入射角θ1及び反射角θ2が大きくなる。このため、側面16からタイヤ1の外方へ向かう反射を弱めることができないおそれがある。また、図3に示したリッジ11を形成するための加硫金型21の溝部25の壁面28、28において、加硫金型21のクリーニングに用いられるレーザや粒体の入射角及び反射角も大きくなり、溝25に付着した汚れを効率良く除去できないおそれがある。
【0038】
逆に、テーパ角Aが20度未満であると、溝部25の壁面28、28を広げることができず、金型クリーニング時において、クリーニング作業の効率が低下するおそれがある。さらに、リッジ11の上底15を形成するための底面27に対して、溝部25の壁面28、28が大きな角度で交わるため、溝部25の加工性が低下し、模様形成部24の加工コストが増加する恐れがある。このような観点より、テーパ角Aは、好ましくは25度以上であり、また、好ましくは35度以下である。
【0039】
また、隙間12の最小長さCが0.25mmを超えると、サイドウォール部3の表面5からタイヤ1の外方へ向かう反射が増加する。このため、リッジ11と隙間12との光のコントラストを明瞭にすることができず、タイヤ1の外観が低下するおそれがある。逆に、隙間12の最小長さCが0.15mm未満であると、図3に示した加硫金型21の溝部25の割合が大きくなり、金型クリーニング時において、クリーニング作業の効率が低下するおそれがある。さらに、隣接する溝部25、25間の成形面23の幅が小さくなり、模様形成部24の加工コストの増大や、クリーニングによる成形面23の早期磨減を招くおそれもある。このような観点より、隙間12の最小長さCは、好ましくは0.18mm以上であり、また、好ましくは0.22mm以下である。
【0040】
リッジ11と隙間12との光のコントラストをより強くしつつ、溝部25内へのレーザや粒体等の照射を一層容易にするために、本実施形態の装飾模様7は、上式(1)及び(2)を満たすとともに、下式(3)及び(4)をさらに満たすように構成されるのが望ましい。
0.2≦C/D≦0.4 …(3)
1≦B/C≦3 …(4)
ただし、Bは、表面5に沿って測定された上底15の長さ、Dは、リッジ11のタイヤ周方向の配設ピッチである。
【0041】
上式(3)より、図2に示した隙間12の最小長さCとリッジ11の配設ピッチDとの比C/Dが0.4以下に設定される。これにより、リッジ11の配設ピッチDに対して、隙間12の最小長さCが十分に小さく形成され、サイドウォール部3の表面5からタイヤ1の外方へ向かう反射をさらに弱めることができる。
【0042】
上式(4)より、上底15の長さBと隙間12の最小長さCとの比B/Cが3以下に設定される。これにより、隙間12(表面5)に対して上底15が過度に大きく形成されるのを防ぐことができる。したがって、装飾模様7は、明るく(白く)視認させる上底15と、暗く(黒く)視認させる隙間12とがバランスよく形成されるため、リッジ11と隙間12との光のコントラストをより強くすることができ、タイヤ1の外観をさらに向上させることができる。
【0043】
また、上式(3)より、隙間12の最小長さCとリッジ11の配設ピッチDとの比C/Dが0.2以上に設定される。これにより、隣接する溝部25、25間の成形面23の幅を大きくでき、模様形成部24の加工コストの増大や、クリーニングによる成形面23の早期磨減を効果的に防ぐことができる。
【0044】
上式(4)より、上底15の長さBと隙間12の最小長さCとの比B/Cが1以上に設定される。これにより、本実施形態では、タイヤ周方向において、加硫金型21の溝部25の底面27の長さを大きくすることができる。したがって、本実施形態では、金型クリーニング時において、溝部25内へのレーザや粒体等の照射を、より一層容易にすることができる。
【0045】
このように、本実施形態の装飾模様7は、上式(1)及び(2)とともに、上式(3)及び(4)をさらに満たすことにより、タイヤ1の外観の向上、及び、加硫金型21のクリーニングの作業効率の向上を、より高い次元で両立させることができる。
【0046】
なお、隙間12の最小長さCとリッジ11の配設ピッチDとの比C/Dが0.4を超えると、リッジ11の配設ピッチDに対して、隙間12の最小長さCが大きく形成される。このため、サイドウォール部3の表面5からタイヤ1の外方へ向かう反射を十分に弱めれないおそれがある。逆に、比C/Dが0.2未満であると、隣接する溝部25、25間の成形面23の幅が小さくなり、模様形成部24の加工コストの増大や、クリーニングによる成形面23の早期磨減を十分に防げないおそれもある。このような観点より、比C/Dは、好ましくは0.25以上であり、また、好ましくは0.35以下である。
【0047】
また、上底15の長さBと隙間12の最小長さCとの比B/Cが3を超えると、タイヤ周方向において、図2に示した隙間12に対して上底15が大きくなり、リッジ11と隙間12との光のコントラストを十分に強くできないおそれがある。逆に、比B/Cが1未満であると、図3に示した加硫金型21の溝部25の底面27が小さくなり、レーザや粒体等を溝部25内に容易に照射できないおそれがある。さらに、模様形成部24の加工コストが増加するおそれもある。このような観点より、比B/Cは、好ましくは1.5以上であり、また、好ましくは、2.5以下である。
【0048】
リッジ11の配設ピッチDについては、上式(3)を満たせば、適宜設定することができるが、0.13~2.1mmに設定されるのが望ましい。配設ピッチDが0.13mm以上に設定されることで、リッジ11の個数が増加するのを防ぐことができ、加硫金型21の溝部25の割合を小さくすることができる。このため、金型クリーニング時において、クリーニングの作業効率をより一層向上させることができる。
【0049】
また、配設ピッチDは、2.1mm以下に設定されることで、図2に示した上底15及び隙間12の少なくとも一方が大きくなるのを防ぐことができるため、リッジ11と隙間12とのコントラストをより強くすることができる。このような観点より、配設ピッチDは、さらに好ましくは0.3mm以上であり、また、さらに好ましくは1.9mm以下である。
【0050】
上底15の長さBについては、上式(4)を満たせば、適宜設定することができるが、0.05~0.40mmに設定されるのが望ましい。上底15の長さBが0.05mm以上とされることで、図3に示した加硫金型21の溝部25の底面27を大きく形成でき、金型クリーニング時において、クリーニングの作業効率をより一層向上させることができる。
【0051】
また、上底15の長さBが0.40mm以下とされることで、図2に示した上底15と隙間12とがバランスよく形成されるため、リッジ11と隙間12との光のコントラストをより強くすることができる。このような観点より、上底15の長さBは、さらに好ましくは0.10mm以上であり、また、さらに好ましくは0.35mm以下である。
【0052】
サイドウォール部3の表面5からのリッジ11の高さEについては、適宜設定することができるが、0.1~0.5mmに設定されるのが望ましい。リッジ11の高さEが0.1mm以上とされることで、隙間12をより暗く(黒く)視認させることができる。また、リッジ11の高さEが0.5mm以下とされることで、図3に示した加硫金型21の溝部25が深く形成されるのを防ぐことができるため、クリーニングの作業効率をより一層向上させることができる。このような観点より、高さEは、さらに好ましくは0.15mm以上であり、また、さらに好ましくは0.45mm以下である。
【0053】
本実施形態のリッジ11の横断面が、上底15を有する台形状である場合が例示されたが、このような態様に限定されない。図4は、本発明の他の実施形態の装飾模様7の一例を示す断面図である。図5は、本発明の他の実施形態の模様形成部24の一例を示す部分断面図である。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0054】
この実施形態のリッジ11の横断面は、サイドウォール部3の表面5から最も離れた位置に頂点35を有する三角形状に形成されている。さらに、リッジ11の横断面は、頂点35から表面5にのびる一対の側面16、16を有している。なお、三角形状には、リッジ11の大きさとゴムの成形技術を考慮して、三角形の頂点35の一部に、微小な面取りが形成される場合が含まれるものとする。
【0055】
この実施形態の装飾模様7は、前実施形態の装飾模様7と同様に、サイドウォール部3に形成される凹凸(図示省略)を、目立ち難くする目隠し効果を発揮させることができる。さらに、この実施形態の装飾模様7は、リッジ11の横断面が三角形状に形成されるため、各リッジ11の頂点35を、シャープに見映え良く形成できる。したがって、装飾模様7は、タイヤ1の外観の向上に役立つ。
【0056】
この実施形態の装飾模様7は、リッジ11のテーパ角A、及び、隙間12の最小長さCが、上式(1)及び(2)を満たすように構成されている。これにより、この実施形態の装飾模様7は、前実施形態の装飾模様7と同様に、タイヤ1の外観の向上、及び、図5に示した加硫金型21のクリーニングの作業効率の向上を、両立させることができる。テーパ角A及び最小長さCの好ましい範囲については、前実施形態のテーパ角A及び最小長さCの好ましい範囲と同一である。
【0057】
さらに、この実施形態の装飾模様7は、上式(1)及び(2)を満たすとともに、下式(5)を満たすように構成されるのが望ましい。
0.2≦C/D≦0.4 …(5)
ただし、Dは、リッジ11のタイヤ周方向の配設ピッチである。
【0058】
上式(5)は、前実施形態の上式(3)と同様に、隙間12の最小長さCとリッジ11の配設ピッチDと比C/Dの範囲を規定するものである。これにより、リッジ11と隙間12との光のコントラストをより強くしつつ、溝部25内へのレーザや粒体等の照射を一層容易にすることができる。
【0059】
このように、本実施形態の装飾模様7は、上式(1)及び(2)とともに、上式(5)をさらに満たすことにより、タイヤ1の外観の向上、及び、加硫金型21のクリーニングの作業効率の向上を、より高い次元で両立させることができる。なお、隙間12の最小長さCとリッジ11の配設ピッチDとの比C/D、及び、リッジ11の配設ピッチDの好ましい範囲については、前実施形態の比C/D及び配設ピッチDの好ましい範囲とそれぞれ同一である。
【0060】
図4に示されるように、リッジ11は、一対の側面16a、16bのうち、一方の側面16aが、サイドウォール部3の表面5に対して直交してもよい。これにより、この実施形態のリッジ11の横断面は、直角三角形状に形成される。
【0061】
このようなリッジ11は、上述の光30(図4において2点鎖線で示す)について、一方の側面16aでの入射角(図示省略)及び反射角(図示省略)を略ゼロにすることができる。これにより、装飾模様7は、一方の側面16aからタイヤ1の外方へ向かう反射を効果的に弱めることができる。一方、表面5に対して直交しない他方の側面16bでは、光30の入射角θ1及び反射角θ2を、前実施形態に比べてやや大きくできる。これにより、装飾模様7は、他方の側面16bからタイヤ1の外方へ向かう反射をやや強めることができる。したがって、この実施形態の装飾模様7は、側面16a、16b、及び、表面5において、反射の強さを異ならせて、光のコントラストに多様性を持たせることができるため、タイヤの外観を向上させることができる。
【0062】
これまでの実施形態の装飾模様7は、リッジ11の横断面が台形状のもの(図2に示す)及び三角形状のもの(図4に示す)がそれぞれ例示されたが、このような態様に限定されない。装飾模様7は、例えば、リッジ11の横断面が台形状のもの、及び、三角形状のものが組み合わされてもよい。これにより、装飾模様7は、光のコントラストの多様性をさらに向上させることができるため、タイヤ1の外観をさらに向上させることができる。
【0063】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0064】
表1に示される各仕様に基づいて、サイドウォール部の表面に装飾模様が形成されたタイヤ(サイズ195/65R15)が試作された(実施例1~10及び比較例1~12)。そして、実施例及び比較例のタイヤについて、加硫金型の模様形成部(溝)の加工性、加硫金型の模様形成部の加工コスト、タイヤの外観、凹凸の目隠し性能、加硫金型のクリーニングの作業効率、及び、加硫金型の模様形成部の磨減後のタイヤの外観が評価された。各評価方法は、次のとおりである。
【0065】
<加硫金型の模様形成部(溝)の加工性・加工コスト>
加硫金型の成形面に、加硫金型の模様形成部(溝)を加工するのに要した時間、及び、加工に要したコストが取得された。評価は、実施例2を100とする指数で示している。数値が大きいほど良好である。
【0066】
<タイヤの外観>
各タイヤに内圧200kPaを充填した状態で、タイヤを側面から見たときの装飾模様の光のコントラストの明瞭性が、テスターの目視によって評価された。評価は、比較例10を100とする指数で示している。数値が大きいほど良好である。
【0067】
<凹凸の目隠し性能>
各タイヤに上記内圧を充填した状態で、サイドウォール部に形成される凹凸の目立ち難さが、テスターの目視によって評価された。評価は、比較例10を100とする指数で示している。数値が大きいほど良好である。
【0068】
<加硫金型のクリーニングの作業効率(レーザ、ショットブラスト)>
各タイヤを加硫成形した後に、レーザークリーニング装置、及び、ショットブラスト装置1、2を用いて、加硫金型の模様形成部(溝)のクリーニングの容易性が評価された。評価は、クリーニングが可能なものを「OK」とし、クリーニングが困難なものを「NG」として示している。なお、ショットブラスト装置1、2の粒子、及び、粒子径については次のとおりである。
ショットブラスト装置1:粒子:スチール、粒子径:0.044~0.1mm
ショットブラスト装置2:粒子:プラスチック、粒子径:0.17~0.5mm
【0069】
<加硫金型の模様形成部の磨減後のタイヤの外観>
上記ショットブラスト装置1を用いて、加硫金型の模様形成部(溝)に3年分の粒子を照射した後に、その加硫金型を用いて各タイヤが製造された。そして、各タイヤに上記内圧を充填した状態で、タイヤを側面から見たときの装飾模様の光のコントラストの明瞭性が、テスターの目視によって評価された。評価は、磨減前後で略変化がないものを「OK」とし、磨減前後で大きく変化したものを「NG」として示している。
テストの結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
テストの結果、実施例は、比較例に比べて、凹凸の目隠し性能に優れ、タイヤの外観の向上、及び、加硫金型のクリーニングの作業効率の向上を両立させることができた。さらに、実施例は、比較例に比べて、加硫金型の模様形成部の磨減後のタイヤの外観を維持することができた。また、実施例は、加硫金型の模様形成部(溝)の加工性に優れるとともに、加工コストを低減させることができた。
【符号の説明】
【0072】
3 サイドウォール部
7 装飾模様
11 リッジ
12 隙間
図1
図2
図3
図4
図5