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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】車両用電源固定構造
(51)【国際特許分類】
   B60K 1/04 20190101AFI20221004BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60K1/04 Z
B62D25/20 G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018135027
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020011607
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】濱本 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】三島 惇
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-024359(JP,A)
【文献】特開2013-193634(JP,A)
【文献】米国特許第10005350(US,B1)
【文献】特開2008-280036(JP,A)
【文献】特開2013-103582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0016580(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 1/04
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロアパネル上の右側または左側に電源装置を固定する車両用電源固定構造において、
前記電源装置車幅方向内側から延びる所定のケーブル
前記電源装置の車両前側に沿って前記フロアパネルに設置され該電源装置よりも車幅方向外側に延びている前側プロテクタと、
前記電源装置の車両後側に沿って前記フロアパネルに設置され該電源装置よりも車幅方向外側に延びている後側プロテクタとを備え、
前記前側プロテクタおよび前記後側プロテクタのうち一方は、他方よりも車幅方向外側からの荷重に対する剛性が低いことを特徴とする車両用電源固定構造。
【請求項2】
前記一方は前記後側プロテクタであり、該後側プロテクタは、前記電源装置および前側プロテクタよりも車幅方向内側に延びていて該前側プロテクタよりも剛性の低い脆弱部を有することを特徴とする請求項に記載の車両用電源固定構造。
【請求項3】
前記前側プロテクタおよび前記後側プロテクタの一部は、座席用の左右一対のスライドレールのうち車幅方向外側のスライドレールと前記フロアパネルとの間の空間に挿入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用電源固定構造
【請求項4】
前記電源装置の内側下部から車幅方向内側に延びて前記フロアパネルに接続される脚部を備え、
前記後側プロテクタは、前記電源装置よりも車幅方向内側に延びて前記脚部に接続されていて、
前記後側プロテクタは、前記電源装置よりも車幅方向内側の箇所に脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用電源固定構造。
【請求項5】
前記フロアパネルには前記ケーブルを通す所定の貫通孔が設けられていて、
当該車両用電源装置固定構造は、前記電源装置を前記フロアパネルの前記貫通孔の車幅方向外側に固定するものであって、
前記貫通孔の前側および後側に到達するよう前記電源装置から車幅方向内側に延びる一対の脚部と、
前記一対の脚部それぞれから前記フロアパネルに向かって屈曲して該フロアパネルに接続される接続部とを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用電源固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電源固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車(HEV)には、モータのみで自走可能なタイプや、エンジンを主要動力としつつモータで補助を行うタイプのものが存在する。前者のタイプと比較して、後者のタイプでは、モータに求める駆動力がさほど大きくないため、モータの他、バッテリおよび整流器(DCDCコンバータ)など(以下、バッテリや整流器を総称して「電源装置」と称呼する)は比較的小型のものを採用することができる。電源装置の設置の例として、特許文献1の技術では、フロントシートの下方の空間に走行用バッテリを設置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-39483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、側面衝突が起こった場合の走行用バッテリの損傷抑制を目的として、走行用バッテリをフロントシートの左右一対のロアレールの間に設置している。しかしながら、現在では、電源装置自体の保護もさることながら、電源装置から延びているケーブルの損傷防止についても要請されている。ケーブルの損傷は、漏電をも招きかねないため、衝突時の車体変形までも想定にいれた十全な防止対策が求められている。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、衝突時に電源装置およびケーブルを損傷から効率よく保護可能な車両用電源固定構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用電源固定構造の代表的な構成は、車両のフロアパネル上の右側または左側に電源装置を固定する車両用電源固定構造において、電源装置は、車幅方向内側から所定のケーブルが延びていて、当該車両用電源固定構造は、電源装置をフロアパネルに取り付ける前側ブラケットと、前側ブラケットの車両後方に設けられて電源装置をフロアパネルに取り付ける後側ブラケットとを備え、前側ブラケットおよび後側ブラケットの各々は、電源装置の下側から電源装置よりも車幅方向内側に延びる脚部と、脚部からフロアパネルに向かって屈曲してフロアパネルに接続される接続部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、衝突時に電源装置およびケーブルを損傷から効率よく保護可能な車両用電源固定構造を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例にかかる車両用電源固定構造の実施場所を示す斜視図である。
図2図1の座席を取り外して上方から見た図である。
図3図2のコンバータ付近を各方向から見た斜視図である。
図4図2のコンバータ付近の拡大斜視図である。
図5】側面衝突時の車体変形に伴うコンバータの動きを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両用電源固定構造は、車両のフロアパネル上の右側または左側に電源装置を固定する車両用電源固定構造において、電源装置は、車幅方向内側から所定のケーブルが延びていて、当該車両用電源固定構造は、電源装置をフロアパネルに取り付ける前側ブラケットと、前側ブラケットの車両後方に設けられて電源装置をフロアパネルに取り付ける後側ブラケットとを備え、前側ブラケットおよび後側ブラケットの各々は、電源装置の下側から電源装置よりも車幅方向内側に延びる脚部と、脚部からフロアパネルに向かって屈曲してフロアパネルに接続される接続部とを有することを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、例えば側面衝突によって電源装置に車幅方向外側から衝突荷重がかかった場合、前側ブラケットおよび後側ブラケットが脚部と接続部との間の屈曲箇所で座屈し、電源装置は車幅方向内側のフロアパネルに向かって沈み込むように移動する。電源装置の車幅方向内側から延びるケーブルは、多くの場合、車内側のフロアパネルの上に配索されて他所へ向かっている。上記の電源装置を車幅方向内側のフロアパネルへ沈み込ませる移動であれば、フロアパネルから離れる方向への移動に比べて、ケーブルを引っ張ることが無く、ケーブルを損傷から保護しつつ、衝突荷重を受け流すことが可能になる。
【0011】
当該車両用電源固定構造はさらに、電源装置の車両前側に沿ってフロアパネルに設置され電源装置よりも車幅方向外側に延びている前側プロテクタと、電源装置の車両後側に沿ってフロアパネルに設置され電源装置よりも車幅方向外側に延びている後側プロテクタとを備え、前側プロテクタおよび後側プロテクタのうち一方は、他方よりも車幅方向外側からの荷重に対する剛性が低いとよい。
【0012】
上記構成によれば、側面衝突によって例えばサイドシル等の構造物が車幅方向内側に移動してきた場合、前側プロテクタおよび後側プロテクタが電源装置よりも車幅方向外側に延びていることで、仮に構造物が移動してきたとしても電源装置との接触を防ぐことができる。加えて、前側プロテクタおよび後側プロテクタに剛性差を設けることで、車幅方向外側から荷重がかかった場合に一方側のプロテクタを優先的に変形させ、電源装置への荷重を受け流すことができる。そして、車体変形に伴う電源装置の移動をあらかじめ設定した方向へと導くことで、電源装置のケーブルを引っ張る方向への移動を防ぎ、ケーブルを破損から保護することができる。
【0013】
本発明の他の一実施の形態に係る車両用電源固定構造は、車両のフロアパネル上の右側または左側に電源装置を固定する車両用電源固定構造において、電源装置は、車幅方向内側から所定のケーブルが延びていて、当該車両用電源固定構造は、電源装置の車両前側に沿ってフロアパネルに設置され電源装置よりも車幅方向外側に延びている前側プロテクタと、電源装置の車両後側に沿ってフロアパネルに設置され電源装置よりも車幅方向外側に延びている後側プロテクタとを備え、前側プロテクタおよび後側プロテクタのうち一方は、他方よりも車幅方向外側からの荷重に対する剛性が低いことを特徴とする車両用電源固定構造。
【0014】
上記構成においても、前側プロテクタおよび後側プロテクタが電源装置よりも車幅方向外側に延びていることで、車外側から移動してきた構造物と電源装置との接触を防ぐことができる。また、前側プロテクタおよび後側プロテクタに剛性差を設けることで、車幅方向外側から荷重がかかった場合に一方側のプロテクタを優先的に変形させ、電源装置への荷重を受け流すことができる。このようにして、車体変形に伴う電源装置の移動をあらかじめ設定した方向へと導くことで、電源装置のケーブルを引っ張る方向への移動を防ぎ、ケーブルを破損から保護することが可能となる。
【0015】
一方は後側プロテクタであり、後側プロテクタは、電源装置および前側プロテクタよりも車幅方向内側に延びていて前側プロテクタよりも剛性の低い脆弱部を有するとよい。
【0016】
上記構成によれば、後側プロテクタを優先的に変形させ、その脆弱部を中心とした回転する動作で、電源装置にかかる荷重を効率よく受け流すことができる。
【0017】
前側プロテクタおよび後側プロテクタの一部は、座席用の左右一対のスライドレールのうち車幅方向外側のスライドレールとフロアパネルとの間の空間に挿入されていてもよい。
【0018】
側面衝突時が起こると、スライドレールは車幅方向外側からの荷重によって車幅方向内側に傾くように移動する。このスライドレールが上方に存在していることによって、仮に電源装置がフロアパネルから浮き上がろうとしても、そのような移動は阻まれる。したがって、上記構成によっても、ケーブルを引っ張る方向への電源装置の移動を防ぎ、上述した沈み込ませる移動を促すことが可能になる。
【実施例
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施例にかかる車両用電源固定構造(以下、固定構造100)の実施場所を示す斜視図である。以下、図1その他の本願のすべての図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Backward)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Leftward)、R(Rightward)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(Upward)、D(Downward)で例示する。
【0021】
当該固定構造100は、車室内のうち、前列左側の座席102の下方にて、フロアパネル104に電源装置(図2のコンバータ106)を固定することを主な目的としている。加えて、当該固定構造100には、独自の機能として、車両衝突時、特に側面衝突が起こった場合に、コンバータ106とそのケーブル122の損傷を抑える機能が搭載されている。
【0022】
図2は、図1の座席を取り外して上方から見た図である。当該固定構造100は、フロアパネル104上の左側にDCDCコンバータ(コンバータ106)を固定している。
【0023】
フロアパネル104の上の構造物の概要を説明する。フロアパネル104のうち、車幅方向中央にはセンタトンネル110が設けられ、車幅方向の端部(例えば左端)にはサイドシル112が設けられている。また、フロアパネル104の上には、センタトンネル110とサイドシル112とに車幅方向にわたるよう、前側クロスメンバ114と後側クロスメンバ116とが設けられている。前側クロスメンバ114と後側クロスメンバ116とには、ブラケット118を介して、座席用の左右一対のスライドレール120a、120bが設けられている。コンバータ106は、フロアパネル104の左側にて、前側クロスメンバ114と後側クロスメンバ116、およびスライドレール120a、120bに囲われた範囲に配置されている。
【0024】
コンバータ106は、電源装置の一種であって、電圧を変換したり安定化させたりする装置である。コンバータ106の車幅方向内側(以下、車内側と略称する)からは複数のケーブル122が延びていて、ケーブル122はコンバータ106からフロアパネル104の貫通孔124を通って他所に向かっている。なお、フロアパネル104の右側には、他の電源装置として、バッテリ126が配置されている。当該固定構造100の持つ技術的思想は、コンバータ106の固定および保護を行うものであるが、バッテリ126の固定および保護に応用することも可能である。
【0025】
図3は、図2のコンバータ106付近を各方向から見た斜視図である。図3(a)は、図2のコンバータ106等を車両前側の右上方から見た図である。コンバータ106は矩形であって、前側プロテクタ132および後側プロテクタ128によって前後の側面が覆われている。コンバータ106の車内側の部位、すなわちケーブル122が接続する部位は、開放されているものの、後側プロテクタ128、後述する前側ブラケット133aおよび後側ブラケット133b(図4(a)参照)がコンバータ106よりも車内側に延びているため、他の構造物に接触することは防がれている。
【0026】
図3(b)は、コンバータ106等を車両後側の右上方から見た図である。コンバータ106のうち、上面の大部分とケーブル122が接続する車内側とは、開放されている。コンバータ106は、前側プロテクタ132および後側プロテクタ128に前後から把持され、前側ブラケット133aおよび後側ブラケット133b等によってフロアパネル104に取り付けられている。
【0027】
図4は、図2のコンバータ106付近の拡大斜視図である。図4(a)は、コンバータ106等を車両前側の右上方から見た図である。前側ブラケット133aおよび後側ブラケット133bは、共にコンバータ106の前後2箇所に平行に設けられていて、締結具138a、138bによってフロアパネル104(図3(b)等参照)に締結されている。
【0028】
前側ブラケット133aは、コンバータ106の前側であって、前側プロテクタ132に隣接した箇所に設けられている。後側ブラケット133bは、コンバータ106の後側であって前側ブラケット133aの後方にて、後側プロテクタ128に隣接した箇所に設けられている。前側ブラケット133aおよび後側ブラケット133bのうち、脚部134a、134bは、コンバータ106の下側からコンバータ106よりも車内側に延びている。脚部134a、134bの先端には、接続部136a、136bが設けられている。接続部136a、136bは、脚部134a、134bからフロアパネル104に向かって屈曲し、フロアパネル104に締結具138a、138bで接続されている。
【0029】
前側プロテクタ132は、コンバータ106の主に前側の側面を保護している。前側プロテクタ132は、コンバータ106の側面を覆う壁状の前側壁部132aと、前側壁部132aの上端から屈曲してコンバータ106の上面を把持する前側上部132bとを含んでいる。前側プロテクタ132は、コンバータ106よりも車幅方向外側(以下、車外側と略称する)に延び、車外側プロテクタ130につながっている。
【0030】
図4(b)は、コンバータ106等を車両後側の左上方から見た図である。後側プロテクタ128は、コンバータ106の主に後側の側面を保護している。後側プロテクタ128もまた、コンバータ106の側面を覆う壁状の後側壁部128aと、後側壁部128aの上端から屈曲してコンバータ106の上面を把持する後側上部128bとを含んでいる。後側壁部128aは、車幅方向にコンバータ106よりも長く、各所に肉抜が形成されている。特に、後側プロテクタ128は、コンバータ106よりも車外側に延び、車外側プロテクタと繋がっている。
【0031】
車外側プロテクタ130は、後側プロテクタ128と前側プロテクタ132それぞれの車外側の端からつながっていて、コンバータ106の車外側の側面を保護している。車外側プロテクタ130によって、側面衝突時等において車外側の構造物が車内側へ移動してきたとしても、その構造物とコンバータ106との接触が防止できる。
【0032】
当該固定構造100は、コンバータ106にかかり得る車両衝突時の荷重を吸収する構成が各所に設けられている。まず、図4(a)に示すように、前側ブラケット133aおよび後側ブラケット133bには、変形を誘発しやすい部位として、脚部134a、134bと接続部136a、136bとの間に、屈曲箇所として山折り部148a、148bおよび谷折り部150a、150bが形成されている。これら山折り部148a、148bおよび谷折り部150a、150bは、車外側からの荷重を受けて座屈し、荷重を受け流すことが可能になっている。
【0033】
図5は、側面衝突時の車体変形に伴うコンバータ106の動きを模式的に示した図である。図5(a)は、側面衝突時の車体変形に伴うコンバータ106の動きを車両後方から見て概略的に示した図である。車両衝突の例として、電信柱等のポールに横から衝突した状況、いわゆるポール側面衝突を想定する。
【0034】
車両に左側方から荷重P1がかかると、まずサイドシル112が車室内側に変形する。このとき、サイドシル112等の構造物とコンバータ106との直接的な接触は、車外側プロテクタ130(図4(b)参照)や前側プロテクタ132および後側プロテクタ128によって防止される。さらに、各プロテクタにかかり得る車外側からの荷重P1は、後側ブラケット133bの山折り部148bと谷折り部150bが矢印P2の方向へ蛇腹状に折り畳むように座屈することで受け流される。この座屈は、図4(a)に示した前側ブラケット133aにも同様に生じる。これらによって、締結具138bにかかる負荷は低減され、締結具138bの脱落等を防いでコンバータ106をフロアパネル104の上に保持することができる。
【0035】
上記の座屈は、矢印P2の方向へ、コンバータ106の全体を車内側のフロアパネル104に向かって沈み込ませるように移動させる。図2に示したように、コンバータ106の車内側からは、ケーブル122がフロアパネル104を貫通するように延びている。もし、コンバータ106がフロアパネル104から浮き上がったり、ケーブル122から遠ざかる方向へ移動したりすると、ケーブル122が引っ張られ、ケーブル122の破損および漏電を招くおそれがある。コンバータ106を車内側のフロアパネル104へ沈み込ませる移動であれば、フロアパネル104から離れる方向への移動に比べて、ケーブル122を引っ張ること無く荷重を吸収でき、ケーブル122を損傷から効率よく保護することが可能になる。
【0036】
図5(b)は、図2に対応してコンバータ106を上方から示した図である。荷重の吸収を行う部位として、後側プロテクタ128の車内側には、コンバータ106および前側プロテクタ132よりも車内側に延びた箇所に、脆弱部140が設けられている。図4(b)に示すように、脆弱部140では、後側上部128bから後側壁部128aにかけて、二つの切欠き142、144が形成され、また、後側壁部128aのうち切欠き144の下方に肉抜146が形成され、脆弱な構造になっている。この構造によって、脆弱部140は、前側プロテクタ132と比べて、また、後側プロテクタ128のうちコンバータ106に沿っている部位と比べて、車外側からの荷重に対する剛性が低くなっていて、車両衝突時にあえて変形を誘発しやすい構成となっている。
【0037】
図5(b)にも、上述した車外側からの荷重P1を示している。前側プロテクタ132および後側プロテクタ128に荷重P1がかかった場合、後側プロテクタ128の車内側に設けられた脆弱部140が優先的に変形する。詳しくは、後側プロテクタ128が、脆弱部140の切欠き142、144を閉じるようにして、上方から見て矢印P3の方向に“くの字”に変形する。また、前側プロテクタ132と後側プロテクタ128は、上方から見て互いの車内側が開くように全体的に“ハの字”に変形し、コンバータ106を車内側に逃がして荷重を受け流す。これら前側プロテクタ132および後側プロテクタ128の変形挙動は、図5(a)の後側ブラケット等の沈み込む方向への座屈を促すことにもつながる。
【0038】
上記のように、当該固定構造100では、前側プロテクタ132および後側プロテクタ128に剛性差を設けていることで、車幅方向外側から荷重がかかった場合に一方側の後側プロテクタ128を優先的に変形させて荷重を受け流すことが可能になっている。上述したように、コンバータ106がフロアパネル104から浮き上がったり、ケーブル122から遠ざかる方向へ移動したりすると、ケーブル122が引っ張られ、ケーブル122の破損および漏電を招くおそれがある。当該固定構造100であれば、側突時におけるコンバータ106の挙動は、後側プロテクタ128の優先的な変形によってP4方向にわずかに回転しつつケーブル122の配索された箇所へ向かって近づくような動きになる。この挙動であれば、ケーブル122を引っ張ることがなく、ケーブル122の損傷を防ぐことができる。この回転する動作(矢印P4)の大きさは、脆弱部140における前側プロテクタ132や後側プロテクタ128の他の部位に対する剛性差の程度によって、制御することが可能である。
【0039】
上記に加えて、図5(b)に示すように、当該固定構造100では、前側プロテクタ132および後側プロテクタ128の一部は、車外側のスライドレール120aとフロアパネル104との間の空間に挿入されている。側面衝突時にサイドシル112が車内側に移動してきた場合、スライドレール120aも荷重P1によって車内側に傾くことがある。したがって、仮に各プロテクタと共にコンバータ106がフロアパネル104から浮き上がろうとしても、スライドレール120aが前側上部132b(図4(a)等参照)および後側上部128bの車外側の箇所に干渉するため、コンバータ106の浮き上がりは阻まれる。したがって、ケーブル122を引っ張る方向へのコンバータ106の移動を防ぎ、上述した沈み込ませる移動(矢印P2)等を促すことができる。
【0040】
以上説明したように、当該固定構造100では、車体変形に伴うコンバータ106の移動を、車内側のフロアパネル104に沈み込ませる(図5(a)の矢印P2)など、あらかじめ設定した方向へと導いている。これらによって、当該固定構造100では、車両衝突時の車体変形の開始から終了までにわたって衝突荷重を吸収してコンバータ106を十全に保護するとともに、コンバータ106のケーブル122を引っ張る方向への移動を防いでケーブル122の破損を抑えることが可能になっている。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、車両用電源固定構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
100…固定構造、102…座席、104…フロアパネル、106…コンバータ、108…プロテクタ、110…センタトンネル、112…サイドシル、114…前側クロスメンバ、116…後側クロスメンバ、118…ブラケット、120a…車外側のスライドレール、120b…車内側のスライドレール、122…ケーブル、124…貫通孔、126…バッテリ、128…後側プロテクタ、128a…後側壁部、128b…後側上部、130…車外側プロテクタ、132…前側プロテクタ、132a…前側壁部、132b…前側上部、133a…前側ブラケット、133b…後側ブラケット、134a、134b…脚部、136a、136b…接続部、138a、138b…締結具、140…脆弱部、142、144…切欠き、146…肉抜、148…山折り部、150…谷折り部、P1…車外側からの荷重、P2…コンバータの沈み込む動きを示す矢印、P3…脆弱部の変形を示す矢印、P4…コンバータの回転を示す矢印
図1
図2
図3
図4
図5