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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ、及びスタッドタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/16 20060101AFI20221004BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60C11/16 Z
B60C11/03 C
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018172322
(22)【出願日】2018-09-14
(65)【公開番号】P2020044863
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】本間 健太
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-071339(JP,A)
【文献】国際公開第2015/108081(WO,A1)
【文献】特開2014-151740(JP,A)
【文献】特表2011-521844(JP,A)
【文献】特開2013-180584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
タイヤ周方向に環状をなしたトレッド部を備え、
前記トレッド部は、
スタッドピンが取り付けられる複数のスタッドピン取付用孔と、
前記スタッドピン取付用孔のうち少なくとも1つのスタッドピン取付用孔の周りの前記トレッド部の表面の孔周辺領域においてタイヤ径方向内側に凹む一対の凹部と、を有し、
前記凹部は、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔のタイヤ周方向の両側に配置され、線状に延在し、
前記トレッド部の表面を当該表面と垂直な方向に見たときの前記凹部の形状は、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に近づく側に突出した形状、あるいは、タイヤ周方向と平行な直線を横切る直線形状であり、
前記トレッド部は、さらに、前記孔周辺領域においてタイヤ径方向外側に突出する一対の凸部を有し、
前記凸部は、前記凹部よりも当該スタッドピン取付用孔から離れて配置され、前記凹部に沿って線状に延在している、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記突出した形状は円弧形状である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記凹部の凹み深さは、前記凸部の突出高さよりも長い、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記凸部の突出高さは、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に取り付けられたスタッドピンが当該スタッドピン取付用孔から突出する高さよりも低い、請求項1から3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記凸部は、前記延在方向に沿って突出高さの分布を有し、
前記突出高さは、前記凸部の延在方向の両端の間の中央で最も高い、請求項1から4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記凸部は、前記延在方向に沿って幅の分布を有し、
前記凸部の前記幅は、前記凸部の延在方向の両端の間の中央で最も広い、請求項1から5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記凹部は、前記延在方向に沿って凹み深さの分布を有し、
前記凹み深さは、前記凹部の延在方向の両端の間の中央で最も深い、請求項1から6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記凹部は、前記延在方向に沿って幅の分布を有し、
前記凹部の前記幅は、前記凹部の延在方向の両端の間の中央で最も広い、請求項1から7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に対しタイヤ周方向の同じ側に位置する前記凹部と前記凸部との最大間隔は、当該凹部の幅の2倍の長さ以下である、請求項1から8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記空気入りタイヤは回転方向が指定されており、
前記凹部のうち、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に対し前記回転方向と反対側に位置する第1の凹部は、前記回転方向の側に位置する第2の凹部と比べ、前記第1の凹部の最大幅が広いあるいは最大凹み深さが深い、請求項1からのいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔と前記凹部との最小間隔は1mmを超えている、請求項1から10のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
求項1から11のいずれか1項に記載の空気入りタイヤと、
前記空気入りタイヤのスタッドピン取付用孔に取り付けられたスタッドピンと、を備えることを特徴とするスタッドタイヤ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドピンが装着される空気入りタイヤ、及びスタッドタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面での走行性能を向上させたタイヤとして、トレッド部に設けたスタッドピン取付用孔にスタッドピンを装着したスタッドタイヤ(スパイクタイヤ)が知られている。
【0003】
近年、スタッドピン取付用孔の周りのトレッド表面の領域(孔周辺領域)に、タイヤ径方向内側に凹んだ凹部を設け、スタッドピンが削った氷粉を凹部に収容させることで、氷粉が、スタッドピンが路面を引っ掻くことを阻害しないようにし、スタッドピンの引っ掻き効果を持続させることがトレンド化している。
【0004】
例えば、特許文献1に記載のタイヤでは、トレッド部の踏面において、スパイクピンを埋設するためのスタッド孔が形成されており、スタッド孔の周囲に凹部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-180584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、氷上路面上に雪や氷の屑があると、制動時に、この雪等が凹部に入り込んでしまい、スタッドピンが削った氷粉が凹部に収容されないことが起こりうる。このため、凹部に収容されなかった氷粉が、スタッドピンが路面を引っ掻くのを阻害し、氷上路面での制駆動性能が低下してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、スタッドピンが装着される空気入りタイヤ及びスタッドタイヤにおいて、氷上路面での制駆動性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、空気入りタイヤであって、
タイヤ周方向に環状をなしたトレッド部を備え、
前記トレッド部は、
スタッドピンが取り付けられる複数のスタッドピン取付用孔と、
前記スタッドピン取付用孔のうち少なくとも1つのスタッドピン取付用孔の周りの前記トレッド部の表面の孔周辺領域においてタイヤ径方向内側に凹む一対の凹部と、を有し、
前記凹部は、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔のタイヤ周方向の両側に配置され、線状に延在し、
前記トレッド部の表面を当該表面と垂直な方向に見たときの前記凹部の形状は、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に近づく側に突出した形状、あるいは、タイヤ周方向と平行な直線を横切る直線形状であり、
前記トレッド部は、さらに、前記孔周辺領域においてタイヤ径方向外側に突出する一対の凸部を有し、
前記凸部は、前記凹部よりも当該スタッドピン取付用孔から離れて配置され、前記凹部に沿って線状に延在している、ことを特徴とする。
タイヤ幅方向に沿った前記凹部の配置範囲は、タイヤ幅方向に沿った前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔の配置範囲を包含していることが好ましい。また、タイヤ幅方向に沿った前記凸部の配置範囲は、タイヤ幅方向に沿った前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔の配置範囲を包含していることが好ましい。
前記直線形状は、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔を通るタイヤ周方向と平行な直線を横切る形状であることが好ましい。
【0009】
前記突出した形状は円弧形状であることが好ましい。
【0010】
前記凹部の凹み深さは、前記凸部の突出高さよりも長いことが好ましい。
【0011】
前記凸部の突出高さは、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に取り付けられた前記スタッドピンが当該スタッドピン取付用孔から突出する高さよりも低いことが好ましい。
【0012】
前記凸部は、前記延在方向に沿って突出高さの分布を有し、
前記突出高さは、前記凸部の延在方向の両端の間の中央で最も高いことが好ましい。
【0013】
前記凸部は、前記延在方向に沿って幅の分布を有し、
前記凸部の前記幅は、前記凸部の延在方向の両端の間の中央で最も広いことが好ましい。
【0014】
前記凹部は、前記延在方向に沿って凹み深さの分布を有し、
前記凹み深さは、前記凹部の延在方向の両端の間の中央で最も深いことが好ましい。
【0015】
前記凹部は、前記延在方向に沿って幅の分布を有し、
前記凹部の前記幅は、前記凹部の延在方向の両端の間の中央で最も広いことが好ましい。
【0018】
前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に対しタイヤ周方向の同じ側に位置する前記凹部と前記凸部との最大間隔は、当該凹部の幅の2倍の長さ以下であることが好ましい。
【0019】
前記空気入りタイヤは回転方向が指定されており、
前記凹部のうち、前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔に対し前記回転方向と反対側に位置する第1の凹部は、前記回転方向の側に位置する第2の凹部と比べ、前記第1の凹部の最大幅が広いあるいは最大凹み深さが深いことが好ましい。
【0020】
前記少なくとも1つのスタッドピン取付用孔と前記凹部との最小間隔は1mmを超えていることが好ましい。
【0021】
本発明の別の一態様は、スタッドタイヤであり、
前記空気入りタイヤと、
前記空気入りタイヤのスタッドピン取付用孔に取り付けられたスタッドピンと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上述の態様によれば、スタッドピンが装着される空気入りタイヤ及びスタッドタイヤにおいて、氷上路面での制駆動性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の空気入りタイヤの断面を示すタイヤ断面図である。
図2図1の空気入りタイヤに適用されたトレッドパターンの一例を示す図である。
図3】空気入りタイヤに装着されるスタッドピンの一例を示す図である。
図4】凹部及び凸部を示す平面図である。
図5図4のV-V線矢視図である。
図6】(a)は、比較例の空気入りタイヤの作用を説明する図であり、(b)は、本実施形態の空気入りタイヤの作用を説明する図である。
図7】本実施形態の空気入りタイヤの作用を説明する図である。
図8】凹部及び凸部の変形例を示す平面図である。
図9】凸部の突出高さの分布の一例を示す図である。
図10】凸部の幅の分布の一例を示す図である。
図11】凹部の凹み深さの分布の一例を示す図である。
図12】凹部の幅の分布の一例を示す図である。
図13】凹部及び凸部の見込み角を説明する平面図である。
図14】凹部及び凸部の間隔を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施形態の空気入りタイヤ及びスタッドタイヤを詳細に説明する。本実施形態には、後述する種々の実施形態含まれる。
(タイヤの全体説明)
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以降、タイヤという)10の、タイヤ径方向に沿って切断した断面を示すタイヤ断面図である。タイヤ10は、トレッド部にスタッドピンが埋め込まれたスタッドタイヤである。
タイヤ10は、例えば、乗用車用タイヤである。乗用車用タイヤは、JATMA YEAR BOOK 2015(日本自動車タイヤ協会規格)のA章に定められるタイヤをいう。この他、B章に定められる小型トラック用タイヤおよびC章に定められるトラック及びバス用タイヤに適用することもできる。
【0025】
以降で説明するタイヤ周方向とは、タイヤ回転軸線を中心にタイヤ10を回転させたとき、トレッド面の回転する方向(両回転方向)をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸線に対して直交して延びる放射方向をいう。タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸線からタイヤ径方向に離れる側をいい、タイヤ径方向内側とは、タイヤ回転軸線に向かってタイヤ径方向に近づく側をいう。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸線の方向に平行な方向をいい、タイヤ幅方向外側とは、タイヤ10のタイヤセンターラインCLから離れる両側をいう。タイヤ幅方向内側とは、タイヤ10のタイヤセンターラインCLに向かってタイヤ幅方向に近づく側をいう。
【0026】
(タイヤ構造)
タイヤ10は、骨格材あるいは骨格材の層として、カーカスプライ層12と、ベルト層14と、ビードコア16とを有し、これらの骨格材の周りに、トレッドゴム部材18と、サイドゴム部材20と、ビードフィラーゴム部材22と、リムクッションゴム部材24と、インナーライナゴム部材26と、を主に有する。
【0027】
カーカスプライ層12は、一対の円環状のビードコア16の間を巻きまわしてトロイダル形状を成した、有機繊維をゴムで被覆したカーカスプライ材12a,12bを含む。図1に示すタイヤ10では、カーカスプライ層12は、カーカスプライ材12a,12bで構成されているが、1つのカーカスプライ材で構成されてもよい。カーカスプライ層12のタイヤ径方向外側に2枚のベルト材14a,14bで構成されるベルト層14が設けられている。ベルト層14は、タイヤ周方向に対して、所定の角度、例えば20~30度傾斜して配されたスチールコードにゴムを被覆した部材であり、下層のベルト材14aが上層のベルト材14bに比べてタイヤ幅方向の幅が広い。2層のベルト材14a,14bのスチールコードの傾斜方向は互いに逆方向である。このため、ベルト材14a,14bは、交錯層となっており、充填された空気圧によるカーカスプライ層12の膨張を抑制する。
【0028】
ベルト層14のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム部材18が設けられ、トレッドゴム部材18の両端部には、サイドゴム部材20が接続されてサイドウォール部を形成している。トレッドゴム部材18は2層のゴム部材で構成され、タイヤ径方向外側に設けられる上層トレッドゴム部材18aとタイヤ径方向内側に設けられる下層トレッドゴム部材18bとを有する。サイドゴム部材20のタイヤ径方向内側の端には、リムクッションゴム部材24が設けられ、タイヤ10を装着するリムと接触する。ビードコア16のタイヤ径方向外側には、ビードコア16の周りに巻きまわす前のカーカスプライ層12の部分と、ビードコア16の周りに巻きまわしたカーカスプライ層12の部分との間に挟まれるようにビードフィラーゴム部材22が設けられている。タイヤ10とリムとで囲まれる空気を充填するタイヤ空洞領域に面するタイヤ10の内表面には、インナーライナゴム部材26が設けられている。
この他に、タイヤ10は、ベルト層14のタイヤ径方向外側からベルト層14を覆う、有機繊維をゴムで被覆したベルトカバー層28を備える。
【0029】
タイヤ10は、このようなタイヤ構造を有するが、タイヤ構造は、図1に示すタイヤ構造に限定されない。
【0030】
(トレッドパターン)
図2は、タイヤ10のトレッドパターン30の一例を平面上に展開したトレッドパターンの一部の平面展開図である。タイヤ10は図2に示されるように、タイヤ周方向の一方の向きを示す回転方向Rが指定されている。回転方向Rの向きは、タイヤ10のサイドウォール表面に設けられた数字、記号等によって表示され指定されている。
【0031】
図2に示されるように、トレッドパターン30は、傾斜溝32と横断溝34を主に有する。
傾斜溝32は、タイヤセンターラインCLの両側においてそれぞれ回転方向Rとは反対側に進むにつれて(図2中、上方向に進むにつれて)タイヤ幅方向外側に延びるように、タイヤ周方向に対して傾斜した溝である。傾斜溝32は、パターンエンドEに到達することなく、途中で閉塞している。傾斜溝32は、タイヤ周方向に所定の間隔で複数設けられている。
横断溝34は、タイヤセンターラインCLの両側においてそれぞれ回転方向Rとは反対側へ進むにつれて、タイヤ幅方向外側に向かい、さらに、両側のパターンエンドEまで延びるようにタイヤ周方向に対して傾斜した溝である。横断溝34は、タイヤ周方向に所定の間隔で複数設けられている。
傾斜溝32のタイヤ周方向に対する傾斜角度は、タイヤ幅方向の同じ位置において、横断溝34のタイヤ周方向に対する傾斜角度に比べて小さい。このため、横断溝34は、傾斜溝32と交差する。
また、トレッド表面には、波形状のサイプ42,44が複数設けられている。なお、図2中、複数の孔46(スタッドピン取付用孔)が設けられ、この孔46に後述するスタッドピン48(図3参照)が装着される。孔46の周りの孔周辺領域には、後述する凹部50A,50B及び凸部60A,60Bが設けられている。図2には、このうち、代表して凸部50A,50Bを示す。
タイヤ10のトレッドパターンは、図2に示すトレッドパターン30に限定されない。
【0032】
(スタッドピン及びスタッドピン取付用孔)
図3は、スタッドピン48と孔46の一例を説明する図である。
スタッドピン48は、タイヤ10に装着された時、トレッド表面から突出して、路面と接する先端部48aと、先端部48aを固定し、トレッドゴム部材18に設けられた孔46に埋設される埋設部48bと、を有する。埋設部48bは、先端部48aの側から順番に胴体部48c、シャンク部48d、及びフランジ部48eを有する。胴体部48cは、先端部48aを固定する部分で、孔46の開口部から胴体部48cの上面が露出する。フランジ部48eは、先端部48aと反対側の端に設けられた鍔状に突出した部分で、胴体部48cに比べて外径が大きい。シャンク部48dは、胴体部48cとフランジ部48eの間に設けられ、シャンク部48dの外径は、胴体部48c及びフランジ部48eの外径に比べて小さい。
【0033】
孔46は、図1に示すように、フランジ部48eに対応した拡径部46aを孔底に有し、拡径部46aの孔開口側には、拡径部46aよりも孔断面が狭く、一定の孔断面及び孔径を有する孔本体部46bを備える。孔開口部は、一定の孔断面及び孔径を有する孔本体部46bに属するが、孔本体部46bに対して孔開口部に向けて孔径が広がった図示されない面取り部が設けられてもよい。
【0034】
(孔周辺領域の構成)
次に、スタッドピン取付用孔45の孔周辺領域の構成について説明する。
タイヤ10のトレッド部は、図4及び図5に示すように、一対の凹部50A,50Bと、一対の凸部60A,60Bと、を有している。図4は、凹部50A,50B及び凸部60A,60Bを示す平面図である。なお、以降の図面において、凸部60A,60Bの輪郭形状は、突出高さが変化している場合、タイヤ径方向の最も外側の先端面の形状を表す。図5は、図4のV-V線矢視図である。なお、図5図6(b)、図7に示すスタッドピン48、凹部50A,50B、凸部60A,60Bの互いの間隔は、図4と異って示される。
一実施形態によれば、孔周辺領域は、凹部50A,50B及び凸部60A,60Bを除いて凹凸を有しない平滑面からなることが好ましい。
【0035】
凹部50A,50Bは、孔46の周りのトレッド表面の孔周辺領域においてタイヤ径方向内側に凹んだ部分である。凹部50A,50Bは、孔46に対しタイヤ周方向の両側に配置され、線状に延在している。トレッド表面をトレッド表面と垂直な方向に見た(平面視した)ときの凹部50A,50Bの形状は、孔46に近づく側に突出した形状(以降、凸形状ともいう)、あるいは、タイヤ周方向と平行な直線を横切る直線形状である。タイヤ周方向と平行な直線は、タイヤセンターラインCLと平行な直線である。一実施形態によれば、直線形状は、タイヤ周方向と直交する方向(タイヤ幅方向)に延びる形状であることが好ましい。一方で、直線形状は、タイヤ周方向と直交する方向に対して傾斜していてもよく、その場合、傾斜角は、0度より大きく、45度以下であることが好ましい。
【0036】
凸部60A,60Bは、孔周辺領域においてタイヤ径方向外側に突出した部分である。凸部60A,60Bは、凹部50A,50Bよりも孔46から離れて配置され、凹部50A,50Bに沿って線状に延在している。
【0037】
ここで、図6(a),(b)を参照して、制動時の凹部50A,50B及び凸部60A,60Bの作用を説明する。図6(a)は、後述する比較例のスタッドタイヤの作用を説明する図であり、図6(b)は、本実施形態のタイヤ10の作用を説明する図である。比較例のスタッドタイヤは、凸部60A,60Bが設けられていない点で本実施形態のタイヤ10と異なっている。図6(a),(b)において、左右方向はタイヤ周方向と一致し、車両の進行方向は、右方から左方に向かう矢印で示される。
【0038】
従来のタイヤでは、制動時に、氷上路面上に雪や氷の屑(以降、まとめて雪Sという)があると、図6(a)に示すように、雪Sは、タイヤ110が前方(車両の進行方向)に移動したときに、凹部150A内に入り込んでしまう。このため、スタッドピン148が路面を削ることで前方に飛び出した氷粉Iは凹部150Aに入り込むことができない。凹部150Aに収容されなかった氷粉Iが、スタッドピン148の先端部148aと路面との間に入り込むと、スタッドピン148が路面を引っ掻く効果は低減する。
【0039】
一方、本実施形態のタイヤ10では、制動時に、氷上路面上の雪Sは、図6(b)に示すように、凸部60Aにぶつかるので、凸部60Aの後方(進行方向と反対側)に進入することがない。このため、スタッドピン48が路面を削ることで前方に飛び出した氷粉Iは凹部50A内に入り込むことができ、これにより、氷粉Iによってスタッドピン48が路面を引っ掻く効果が低減することを抑制できる。このとき、氷粉Iの初速度が大きくても、氷粉Iは、凸部60Aにぶつかり、跳ね返ることで、凹部50A内に入り込むことができる。このようにして、スタッドピン48が路面を引っ掻く効果の低減が抑制されることで、氷上路面での制動性能(氷上制動性能)が向上する。
【0040】
また、本実施形態のタイヤ10において、凸部50Aは、トレッド表面を平面視したとき、凹部50Aに沿って延びる形状、すなわち、凸形状、あるいは、タイヤ周方向を横切る直線形状を有しているため、凸部が孔46から離れる側に凹んだ形状(凹形状)である場合と比べて、前方から凸部50Aにぶつかった雪Sが凸部50Aにより保持されやすく、また、凸部50Aからタイヤ幅方向の両側に排出された雪Sが凸部50Aとスタッドピン48との間に進入し難い。これによって、氷上制動性能を向上させる上記効果が増す。
【0041】
なお、スタッドピン48によって削られる量が多いと、前方に飛び出した氷粉Iは、凹部50Aに収容されずに、スタッドピン48よりも後方に相対的に移動する場合がある。この場合、氷粉Iは凹部50B内に入り込むことができる。このとき、氷粉Iは、凸部60Bにぶつかり、跳ね返ることで、凹部50B内に入り込むことができる。さらに、削られる雪Sの量が多い場合は、雪Sは、凸部60Bにぶつかり、タイヤ幅方向の両側に排出される。このため、スタッドピン48の後方で接地する別のスタッドピン48の前方に氷粉Iあるいは雪Sが進入することを抑制でき、当該別のスタッドピン48が路面を引っ掻く効果が低減することを抑制できる。
【0042】
次に、図7を参照して、駆動時の凹部50A,50B及び凸部60A,60Bの作用を説明する。図7は、本実施形態のタイヤ10の作用を説明する図である。図7において、左右方向はタイヤ周方向と一致し、車両の進行方向は、右方から左方に向かう矢印で示される。矢印Rは、タイヤ10の回転方向を表す。
【0043】
駆動時に、タイヤ10が回転して、スタッドピン48が路面を削ることで発生した氷粉Iは後方に飛び出し、凹部50Bに入り込む。このとき、氷粉Iは、凸部60Bにぶつかって凹部50Bに入り込む場合がある。そして、タイヤ10がさらに回転し、孔周辺領域を含むトレッド表面が路面から離れると、凹部50Bに収容された氷粉Iは落下し、凹部50B内の空間があくため、スタッドピン48が次に接地したときに、氷粉を収容することができる。また、制動時に前方の凹部50A内に入り込んだ氷粉Iも、トレッド表面が路面から離れると落下し、スタッドピン48が次に接地したときに、氷粉を収容することができる。これにより、スタッドピン48が路面を引っ掻く効果を持続させることができ、氷上路面での駆動性能(氷上駆動性能)が向上する。
【0044】
なお、凹部50A,50Bから落下した氷粉Iは、前方の凸部60Aが前方から当たることで、凸部60Aのタイヤ幅方向の両側に除去されることが可能である。このため、スタッドピン48の前方で接地する別のスタッドピン48に対して、後方に氷粉Iが残ることを抑制でき、当該別のスタッドピン48が路面を引っ掻く効果が低減することを抑制できる。
【0045】
一実施形態によれば、凹部50A,50Bと凸部60A,60Bとは、平面視したときの輪郭形状が同一であることが好ましい。また、一実施形態によれば、凹部50A,50Bと、凸部60A,60Bとは、どの延在方向位置においても、タイヤ周方向の同じ側の端同士が等距離離れていることが好ましい。言い換えると、平面視したときの凸部60A,60Bの輪郭形状は、凹部50A,50Bの輪郭形状をタイヤ周方向にオフセットさせた形状であることが好ましい。
【0046】
一実施形態によれば、上記凸形状は円弧形状であることが好ましい。これにより、凹部50A,50B内に収容された雪Sが、凹部50A,50Bの延在方向の特定の位置で局所的に詰まるのを抑制できる。一方で、上記凸形状は、図8に示す例のように、屈曲した形状であってもよい。図8は、凹部50A,50B及び凸部60A,60Bの変形例を示す平面図である。また、一実施形態によれば、トレッド部を平面視したときの凸部60A,60Bの凸形状も円弧形状であることが好ましい。この場合、一実施形態によれば、凹部50A,50Bと、凸部60A,60Bとは、同心円をなす円それぞれの一部に沿った円弧形状であることも好ましい。
また、一実施形態によれば、凹部50A及び凸部60Aと、凹部50B及び凸部60Bとは、孔46の断面中心を通るタイヤ幅方向と平行な直線を基準として線対称であることが好ましい。また、一実施形態によれば、孔46の孔断面の中心を基準として点対称であることが好ましい。
【0047】
一実施形態によれば、孔46と、凹部50A,50Bとの最小間隔は1mmを超えていることが好ましい。最小間隔が1mm以下であると、スタッドピン48に対する孔46の締付け力が弱くなり、スタッドピン48が孔46から抜け落ちやすくなる。また、最小間隔が1mm以下であると、凹部50A,50Bと隣接する凸部60A,60Bが、スタッドピン48に近い位置にあるために、路面に接触し難くなる。最小間隔は、好ましくは2mm以上である。一方、最小間隔は、凹部50A,50Bとスタッドピン48との間の領域に氷粉等を進入し難くするために、10mm以下であることが好ましい。
【0048】
一実施形態によれば、凹部50A,50Bの凹み深さは、凸部60A,60Bの突出高さよりも長いことが好ましい。このような形態によって、氷粉を収容する凹部50A,50B内のスペースが確保され、凹部50A,50Bの収容性能が高くなる。
【0049】
一実施形態によれば、凹部50A,50Bの凹み深さは2~10mmであることが好ましい。凹み深さとは、凹部50A,50Bと平滑面との接続位置(基部)からの凹み深さをいう。凹み深さが2mm未満であると、氷粉の収容スペースが小さいため、収容されなかった氷粉によってスタッドピン48による引っ掻き効果が低減される場合がある。凹み深さが10mmを超えると、スタッドピン48の周りのゴムの剛性が低下し、スタッドピン48に対するゴムの締付け力が弱くなる。このため、スタッドピン48が孔46から抜け落ちやすくなる場合がある。凹み深さは、好ましくは5~7mmである。
【0050】
一実施形態によれば、凹部50A,50Bの幅(延在方向と直交する方向の長さ)は、0.5~2.0mmであることが好ましい。凹部50A,50Bの幅は、深さ方向に幅が変化している場合、凹部50A,50Bと平滑面との接続位置(基部)における幅をいう。凹部50A,50Bの幅が0.5mm未満であると、氷粉の収容スペースが小さいため、収容されなかった氷粉によってスタッドピン48による引っ掻き効果が低減する場合がある。凹部50A,50Bの幅が2.0mmを超えると、スタッドピン48の周りのゴムの剛性が低下し、スタッドピン48に対するゴムの締付け力が弱くなる。このため、スタッドピン48が孔46から抜け落ちやすくなる場合がある。凹部50A,50Bの幅は、好ましくは1.0~1.5mmである。
【0051】
一実施形態によれば、凸部60A,60Bの突出高さは、孔46に取り付けられたスタッドピン48が孔46から突出する高さよりも低いことが好ましい。このような形態によって、スタッドピン48が路面を引っ掻く効果が確保される。
一実施形態によれば、スタッドピン48が突出する高さは、例えば0.8~1.5mmであり、例えば1.2mmである。
【0052】
一実施形態によれば、凸部60A,60Bの突出高さは0.2~1.5mmであることが好ましい。突出高さとは、凸部60A,60Bと平滑面との接続位置(基部)からの突出高さをいう。突出高さが0.2mm未満では、接地したときの路面との間の隙間が大きく、雪等をタイヤ幅方向の両側に排出する効果(排雪効果)が得られ難い。突出高さが1.5mmを超えると、スタッドピン48の孔46からの突出高さを超えて、スタッドピン48による引っ掻き効果が小さくなる場合がある。凸部60A,60Bの突出高さは、好ましくは0.5~1.0mmである。
【0053】
一実施形態によれば、凸部60A,60Bの幅(延在方向と直交する方向の長さ)は、0.5~2.0mmであることが好ましい。凸部60A,60Bの幅は、高さ方向に幅が変化している場合、凸部60A,60Bと平滑面との接続位置(基部)における幅をいう。
【0054】
図9は、凸部60A,60Bの突出高さの分布の一例を示す図である。図9において、タイヤ周方向は紙面奥行方向と一致する。
一実施形態によれば、凸部60A,60Bは、図9に示すように、延在方向に沿って突出高さの分布を有し、突出高さは、凸部60A,60Bの延在方向の両端の間の中央で最も高いことが好ましい。その際、突出高さは、最も高い位置から延在方向の両端に近づくに連れ低くなっていることが好ましい。例えば、凸部60Aが上記凸形状を有している場合、制動時に凸部60Aの前方に位置する雪Sは、凸部60Aの延在方向の中央に集まりやすい。このため、凸部60Aの延在方向の中央において突出高さを最も高くすることで、集められた雪Sが凸部60Aの後方に漏れ出るのを抑えるとともに、延在方向の両端側では、突出高さを低くすることで、集められた雪Sをタイヤ幅方向の両側に速やかに排出できる。
【0055】
図10は、凸部60A,60Bの幅の分布の一例を示す図である。なお、図10,12~14において、タイヤ周方向は左右方向と一致し、スタッドピン48のタイヤ周方向の一方の側にのみ凸部及び凹部を示す。
一実施形態によれば、凸部60A,60Bは、図10に示すように、延在方向に沿って幅の分布を有し、凸部60A,60Bの幅は、凸部60A,60Bの延在方向の両端の間の中央で最も広いことが好ましい。その際、凸部60A,60Bの幅は、最も広い位置から延在方向の両端に近づくに連れ狭くなっていることが好ましい。上述したように、凸部60Aが上記凸形状を有している場合、制動時に凸部60Aの前方に位置する雪Sは、凸部60Aの延在方向の中央に集まりやすい。このため、延在方向の中央において凸部60Aの幅を最も広くすることで、凸部60Aが変形することで集められた雪Sが凸部60Aの後方に漏れ出るのを抑えられる。また、延在方向の両端側では、凸部60Aの幅を狭くすることで、凸部60Aが変形しやすくなり、集められた雪Sはタイヤ幅方向の両側に速やかに排出されやすい。
【0056】
図11は、凹部50A,50Bの凹み深さの分布の一例を示す図である。図11において、タイヤ周方向は紙面奥行方向と一致している。
一実施形態によれば、凹部50A,50Bは、図11に示すように、延在方向に沿って凹み深さの分布を有し、凹み深さは、凹部50A,50Bの延在方向の両端の間の中央で最も深いことが好ましい。その際、凹み深さは、最も深い位置から延在方向の両端に近づくに連れ浅くなっていることが好ましい。スタッドピン48が削った氷粉は凹部50A,50Bの中央で最も溜まりやすいため、凹み深さを延在方向の中央で最も深くすることで、凹部50A,50Bの収容性能を高めることができる。
【0057】
図12は、凹部50A,50Bの幅の分布の一例を示す図である。
一実施形態によれば、凹部50A,50Bは、図12に示すように、延在方向に沿って幅の分布を有し、凹部50A,50Bの幅は、凹部50A,50Bの延在方向の両端の間の中央で最も広いことが好ましい。その際、凹部50A,50Bの幅は、最も広い位置から延在方向の両端に近づくに連れ狭くなっていることが好ましい。スタッドピン48が削った氷粉は凹部50A,50Bの中央で最も溜まりやすいため、凹部50A,50Bの幅を延在方向の中央で最も広くすることで、凹部50A,50Bの収容性能を高めることができる。
【0058】
図13は、凹部50A,50B及び凸部60A,60Bの見込み角を説明する平面図である。
一実施形態によれば、トレッド部の表面に沿って孔46の孔断面の中心から見た凹部50A,50B及び凸部60A,60Bの見込み角θは、図13に示すように、60度以上であることが好ましい。見込み角θが60度未満であると、旋回時に、回転方向Rに対して横方向から雪Sが孔周辺領域に進入しやすくなり、スタッドピン48が路面を引っ掻く効果が低減する場合がある。なお、上記見込み角θは、90度以下であることが好ましい。一実施形態によれば、上記見込み角θは、孔46を通るタイヤ周方向と平行な直線を境としてタイヤ幅方向の両側に等角度であることが好ましい。
【0059】
ここで、トレッド部の接地領域は、図2に示すように、センター領域Ceと、ショルダー領域Shと、を有している。
センター領域Ceは、タイヤセンターラインCLからタイヤ幅方向の両側にそれぞれ接地幅の25%以下の長さの範囲に位置する領域である。この範囲は、接地幅の例えば5%以上である。ショルダー領域Shは、センター領域Ceのタイヤ幅方向外側に位置する領域である。
接地領域は、タイヤ10を正規リムに組み付け、正規内圧を充填し、正規荷重の88%を負荷荷重とした条件において水平面に接地させたときに接地面となるトレッド表面の領域である。接地幅は、接地面のタイヤ幅方向の両端(接地端)の間のタイヤ幅方向長さである。正規リムとは、JATMAに規定される「測定リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。正規内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。正規荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。
一実施形態によれば、複数の孔46は、センター領域Ce及びショルダー領域Shに設けられ、凹部50A,50B及び凸部60A,60Bの見込み角は、ショルダー領域において、センター領域よりも広いことが好ましい。このような形態によれば、制動性能の向上に寄与するセンター領域Ceでは、タイヤ周方向に沿った雪、氷粉の排出を効果的に行い、旋回性能の向上に寄与するショルダーShでは、タイヤ周方向に対し傾斜した横方向に沿った雪、氷粉の排出を効果的に行える。上記見込み角θは、ショルダー領域において、例えば、90~120度である。
【0060】
図14は、凹部50A,50B及び凸部60A,60Bの最大間隔Gを説明する平面図である。
一実施形態によれば、孔46に対しタイヤ周方向の同じ側に位置する凹部50Aと凸部60Aとの最大間隔G、あるいは、凹部50Bと凸部60Bとの最大間隔Gは、当該凹部50Aあるいは当該凹部50Bの幅の2倍の長さ以下であることが好ましい。最大間隔Gは、タイヤ周方向に沿った方向の間隔を意味する。当該凹部の幅とは、当該間隔と同じタイヤ幅方向位置における幅を意味する。最大間隔Gが上記2倍の長さを超えると、氷粉が凸部60A,60Bにぶつかり、跳ね返って凹部50A,50B内に収容される効果が小さくなる場合がある。一方、凹部50Aと凸部60A、あるいは、凹部50Bと凸部60Bは、互いに接していてもよい。すなわち、上記最大間隔Gは0mmであってもよい。
一実施形態によれば、上記最大間隔Gは1~4mmであることが好ましい。
【0061】
一実施形態によれば、凹部50A,50Bのうち、孔46に対し回転方向Rと反対側に位置する第1の凹部50Aは、回転方向Rの側に位置する第2の凹部50Bと比べ、第1の凹部50Aの最大幅が広い、あるいは、最大凹み深さが深いことが好ましい。第1の凹部50Aは、制動時に、氷粉が飛び出す側に位置するため、氷粉の収容性能を大きくする観点から、上記形態は効果的である。第1の凹部50Aの最大幅、最大凹み深さは、第2の凹部50Bの最大幅、最大凹み深さの好ましくは1.2~2倍である。
【0062】
また、一実施形態によれば、凸部60A,60Bのうち、孔46に対し回転方向Rと反対側に位置する第1の凸部60Aは、回転方向Rの側に位置する第2の凸部60Bと比べ、第1の凸部60Aの最大幅が広い、あるいは、最大突出高さが高いことが好ましい。第1の凸部60Aは、制動時に、前方の雪Sがぶつかる側に位置するため、排雪性能を大きくする観点から、上記形態は効果的である。第1の凸部60Aの最大幅、最大突出高さは、第2の凸部60Bの最大幅、最大突出高さの好ましくは1.2~2倍である。
【0063】
一実施形態によれば、凹部50A,50Bは、延在方向の両端の間を途中で途切れることなく延びていることが好ましい。凹部50A,50Bが延在方向の途中で途切れていると、氷粉Iの収容性能が大きく低下する。
一実施形態によれば、凸部60A,60Bは、延在方向の両端の間を途中で途切れることなく延びていることが好ましい。凸部60A,60Bが延在方向の途中で途切れていると、排雪性能が大きく低下する。
【0064】
一実施形態によれば、凹部50A,50Bは、上記傾斜溝32及び上記横断溝34のいずれにも接続されていないことが好ましい。孔46が傾斜溝32あるいは横断溝34に近い位置に設けられている場合、凹部50A,50Bがこれらの溝32,34に接続されていると、孔周辺領域のゴムの剛性が低下する。このため、スタッドピン48に対するゴムの締付け力が弱くなり、スタッドピン48が孔46から抜け落ちやすくなる場合がある。
【0065】
本実施形態において、凹部50A,50B及び凸部60A,60Bは、複数の孔46のうち少なくとも1つの孔46の孔周辺領域に設けられていればよく、すべての孔46の孔周辺領域に設けられていることが好ましい。
【0066】
(実施例、比較例、従来例)
本発明の効果を確認するために、タイヤサイズ205/55R16のタイヤを、以下の実施例、比較例、従来例ごとに4本ずつ作製し、排気量2Lの前輪駆動の乗用車に装着して、氷上制動性能及び氷上駆動性能を調べた。車両のリムサイズは16×6.5Jであり、空気圧は210kPaとした。
実施例1~8のタイヤには、表1に示す点を除いて、図2に示すトレッドパターン30を基調とし、図4及び図5に示す形態の凹部及び凸部を設けた。
いずれも、スタッドピンのスタッドピン取付用孔から突出する高さは1.1mmとした。
【0067】
従来例は、一対の凸部を設けず、凹部を、スタッドピン取付用孔と間隔をあけた位置から、スタッドピン取付用孔から3方向にそれぞれ直線状に遠ざかるように設けた。具体的に、1本の凹部を、回転方向と反対側に遠ざかるように設け、他の2本の凹部を、スタッドピン取付用孔から遠ざかるに連れ互いに離れるよう、回転方向に対してそれぞれ傾斜した方向に遠ざかるように設けた。
比較例は、実施例1から、凸部を省略した形態とした。
比較例及び実施例1~8において、スタッドピン取付用孔と凹部との最小間隔は、3mmとした。
比較例及び実施例1~8において、見込み角θは、センター領域、ショルダー領域ともに同じ角度とした。
【0068】
実施例1~8は、表1に示す点を除いて、タイヤ周方向の同じ側にある凹部及び凸部に関して、延在方向長さを等しく、円弧形状の曲率半径を等しくした。
実施例1~8において、凹部と凸部の最大間隔は1.5mmとした。
実施例3,4の凹み深さは、延在方向の中点で最大1.3mmとし、最小1.0mmとした延在方向の両端に近づくに連れ浅くした。
実施例4の凹部幅は、延在方向の中点で最大1.0mmとし、最小0.5mmとした延在方向の両端に近づくに連れ狭くした。
実施例5,6の突出高さは、延在方向の中点で最大0.7mmとし、最小0.4mmとした延在方向の両端に近づくに連れ低くした。
実施例6の凸部幅は、延在方向の中点で最大1.0mmとし、最小0.5mmとした延在方向の両端に近づくに連れ狭くした。
実施例8は、凹部及び凸部を、スタッドピン取付用孔を通るタイヤ周方向と直交する方向に延びる直線形状とした。
【0069】
表1において、「凹部、凸部の形態」は、凹部、凸部の形態を最もよく表す図面番号等を意味する。「直線」は、直線形状を意味する。
「凹み深さ」、「凹部幅」、「突出高さ」、「凸部幅」の欄に関して、「変化」は、延在方向の中点から両端にかけて変化させたことを意味する。
「見込み角」は、凸部の見込み角を表す。凸部及び凹部は、いずれも、タイヤ周方向に対してタイヤ幅方向の両側に等角度の範囲に延在させた。
【0070】
〔氷上制動性能〕
氷路上を、50km/時で走行した状態から、ブレーキペダルを最深位置まで踏み込んで停止するまでの距離(制動距離)を5回計測し、その平均値の逆数を用いて、比較例を100として指数化した。指数が大きいほど距離が短く、氷上性能に優れることを示す。指数が101以上である場合を、氷上制動性能に優れると評価した。
〔氷上駆動性能〕
氷路上を、5km/時で走行した状態から、走行速度が20km/時になるまで要した加速時間を5回計測し、その平均値の逆数を用いて、比較例を100として指数化した。指数が大きいほど加速時間が短く、氷上駆動性能に優れることを示す。指数が101以上である場合を、氷上駆動性能に優れると評価した。
【0071】
【表1】
【0072】
比較例と実施例1~8との比較から、凹部に沿って線状に延在する一対の凸部を有していることで、氷上制動性能及び氷上駆動性能が向上することがわかる。
実施例1と実施例2との比較から、凹部及び凸部が円弧形状であることで、氷上制動性能が向上することがわかる。
【0073】
実施例1と実施例3との比較から、凹部の凹み深さが延在方向の中央から両端にかけて浅くなっていることで、氷上制動性能及び氷上駆動性能が向上することがわかる。
実施例3と実施例4との比較から、凹部幅が延在方向の中央から両端にかけて狭くなっていることで、氷上制動性能及び氷上駆動性能が向上することがわかる。
【0074】
実施例1と実施例5との比較から、凸部の突出高さが延在方向の中央から両端にかけて低くなっていることで、氷上制動性能及び氷上駆動性能が向上することがわかる。
実施例5と実施例6との比較から、凸部幅が延在方向の中央から両端にかけて狭くなっていることで、氷上制動性能及び氷上駆動性能が向上することがわかる。
【0075】
実施例1と実施例7との比較から、凹部及び凸部の見込み角が60度以上であることで、氷上制動性能及び氷上駆動性能が向上することがわかる。
実施例1と実施例8との比較から、平面視したときの凹部及び凸部の形状が凸形状であることで、氷上制動性能及び氷上駆動性能が向上することがわかる。
【0076】
以上、本発明の空気入りタイヤ及びスタッドタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0077】
10 空気入りタイヤ
18 トレッドゴム部材
30 トレッドパターン
46 孔(スタッドピン取付用孔)
48 スタッドピン
50A,50B 凹部
60A,60B 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14