IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特許7151371画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物
<>
  • 特許-画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物 図1
  • 特許-画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物 図2
  • 特許-画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物 図3
  • 特許-画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物 図4
  • 特許-画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/26 20060101AFI20221004BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20221004BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20221004BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221004BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05C5/00 101
B05D1/36 Z
B05D5/06 101D
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41M5/00 116
B41M5/00 120
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018198730
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020065960
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英一
(72)【発明者】
【氏名】奥窪 宏太
(72)【発明者】
【氏名】荒木田 芽
(72)【発明者】
【氏名】小室 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】立木 令央
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 志津子
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-076303(JP,A)
【文献】特開2009-196106(JP,A)
【文献】特開2007-021833(JP,A)
【文献】特開2005-007878(JP,A)
【文献】国際公開第2016/039354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B41M 1/00-9/04
B41J 2/01-2/215
B44B 1/00-11/04
B44C 1/00-7/08
B44D 2/00-7/00
G06T 1/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属光沢を有する第1の領域と、前記第1の領域以外の第2の領域とを有する複製対象の画像をインクジェット方式で形成する画像形成方法であって、
基材の上に設けられた金属光沢を有する下地層の上の、前記第2の領域に対応する領域に、金属光沢を隠蔽する隠蔽層を形成するステップと、
前記隠蔽層の上に、紫外線硬化インクにより前記複製対象の質感を表現した質感パターンを形成するステップと、
前記質感パターンの上に、前記複製対象の絵柄が印刷された絵柄層を形成するステップと
前記下地層の上の、前記第1の領域に対応する領域に、前記複製対象の色を再現した古色再現層を追加した部分と、前記下地層が露出した部分とを形成するステップと
を含む、画像形成方法。
【請求項2】
前記複製対象の表面形状のデータを取得するステップをさらに備え、
前記質感パターンを形成するステップは、前記表面形状のデータに基づいて前記質感パターンを形成する、請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記下地層は箔の層である、請求項1または2に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記質感パターンを形成するステップは、白色またはクリアの紫外線硬化インクにより前記質感パターンを形成する、請求項1ないしのいずれか一項に記載の画像形成方法。
【請求項5】
コンピュータに請求項1ないしのいずれか一項に記載の画像形成方法を実行させる、プログラム。
【請求項6】
金属光沢を有する第1の領域と、前記第1の領域以外の第2の領域とを有する複製対象の画像をインクジェット方式で形成する画像形成装置であって、
基材の上に設けられた金属光沢を有する下地層の上の、前記第2の領域に対応する領域に、金属光沢を隠蔽する隠蔽層を形成する隠蔽層形成手段と、
前記隠蔽層の上に、紫外線硬化インクにより前記複製対象の質感を表現した質感パターンを形成する質感パターン形成手段と、
前記質感パターンの上に、前記複製対象の絵柄が印刷された絵柄層を形成する絵柄層形成手段と
前記下地層の上の、前記第1の領域に対応する領域に、前記複製対象の色を再現した古色再現層を追加した部分と、前記下地層が露出した部分とを形成する古色再現層形成手段と
を含む、画像形成装置。
【請求項7】
金属光沢を有する第1の領域と、前記第1の領域以外の第2の領域とを有する複製対象の複製物であって、基材の上に金属光沢を有する下地層が形成され、前記下地層の上の、前記第2の領域に対応する領域に、金属光沢を隠蔽する隠蔽層が形成され、前記隠蔽層の上に、紫外線硬化インクにより複製対象の質感を表現した質感のパターン、および前記複製対象の絵柄層が積層される一方、前記第1の領域に対応する領域に、前記複製対象の色を再現した古色再現層が設けられた部分と、前記下地層が露出した部分とが形成された、複製物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物に関し、特に、金屏風等の金属光沢を有する複製対象を複製する画像形成方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、文化財、美術品、および工芸品等の装飾品の高品位な複製を、手書きによらずインクジェットプリンタを用いた印刷により行う技術が開発されている。
【0003】
インクジェットプリンタを用いた装飾品の複製では通常水性インクを用いるが、金箔等の金属光沢を有する箔の上に絵柄が施された金屏風等の場合、水性インクでは浸透せず乾燥しにくいため、絵柄の再現が困難である。このため、箔が施された装飾品の複製にはUV(Ultra-Violet)硬化インクが用いられる。このような技術として、紙等の基材に貼り付けられた金箔にUV硬化インクで下地層を設けて金属光沢を遮蔽し、その上に絵柄を印刷する技術が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-196106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにUV硬化インクの下地層により金箔の光沢を遮蔽した場合、下地層によって光沢が抑えられ、さらに基材および金箔の質感が消えてしまい、絵柄がビニールのように平坦な質感になる。結果として、装飾品が本来持っている微妙な質感が複製物において著しく損なわれてしまう。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、文化財等の装飾品の持つ質感を再現することができる画像形成方法、画像形成装置、プログラムおよび複製物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様によれば、金属光沢を有する第1の領域と、前記第1の領域以外の第2の領域とを有する複製対象の画像をインクジェット方式で形成する画像形成方法であって、
【0008】
基材の上に設けられた金属光沢を有する下地層の上の、前記第2の領域に対応する領域に、金属光沢を隠蔽する隠蔽層を形成するステップと、前記隠蔽層の上に、紫外線硬化インクにより前記複製対象の質感を表現した質感パターンを形成するステップと、前記質感パターンの上に、前記複製対象の絵柄が印刷された絵柄層を形成するステップとを含む、画像形成方法を提供する。
【0009】
ここで、前記下地層の上の、前記第1の領域に対応する領域に、前記複製対象の色を再現した古色再現層を設けるステップをさらに含むものとすることができる。
【0010】
また、前記複製対象の表面形状のデータを取得するステップをさらに備え、前記質感パターンを形成するステップは、前記表面形状のデータに基づいて前記質感パターンを形成するものとすることができる。
【0011】
また、前記下地層は箔の層とすることができる。
【0012】
さらに、前記質感パターンを形成するステップは、白色またはクリアの紫外線硬化インクにより前記質感パターンを形成するものとすることができる。
【0013】
本開示の他の態様によれば、コンピュータに上記本開示の態様のいずれかに記載の画像形成方法を実行させる、プログラムを提供する。
【0014】
本開示の他の態様によれば、金属光沢を有する第1の領域と、前記第1の領域以外の第2の領域とを有する複製対象の画像をインクジェット方式で形成する画像形成装置であって、基材の上に設けられた金属光沢を有する下地層の上の、前記第2の領域に対応する領域に、金属光沢を隠蔽する隠蔽層を形成する隠蔽層形成手段と、前記隠蔽層の上に、紫外線硬化インクにより前記複製対象の質感を表現した質感パターンを形成する質感パターン形成手段と、前記質感パターンの上に、前記複製対象の絵柄が印刷された絵柄層を形成する絵柄層形成手段とを含む、画像形成装置を提供する。
【0015】
本開示の他の態様によれば、金属光沢を有する第1の領域と、前記第1の領域以外の第2の領域とを有する複製対象の複製物であって、基材の上に金属光沢を有する下地層が形成され、前記下地層の上の、前記第2の領域に対応する領域に、金属光沢を隠蔽する隠蔽層が形成され、前記隠蔽層の上に、紫外線硬化インクにより複製対象の質感を表現した質感のパターン、および前記複製対象の絵柄層が積層された、複製物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、複製対象が本来有する質感を複製物に付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】複製物を製造するためのシステムの構成を示すブロック図である。
図2】画像形成装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態により製造される複製物の構造を示す図である。
図4】画像形成装置により実行される方法の手順を示すフローチャートである。
図5】一実施形態に係る複製物の製造工程を段階的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
コンピュータグラフィクスや計測技術の進歩により、歴史的文化財をデジタル化して活用するデジタルアーカイブの作成が本格化している。このような状況において、三次元形状計測技術や色彩計測技術を用い、歴史的文化財の有する形状や、色の情報を正しくデジタルアーカイブ化する取り組みが盛んになっている。歴史的文化財の多くに、煌びやかな装飾が施された屏風や襖など、金箔が用いられている。金箔は薄いため、金箔が貼られた部分では、下地の凹凸が浮き出て見える。例えば、下地に和紙が用いられている場合、和紙表面のざらざらとした模様が浮き出て見えることがある。また、歴史的文化財の場合、経年変化による下地の変化や金箔のよれなどが生じていることがあり、その表面が平坦ではなく、表面に所謂表情が出ていること多い。このような表情が独特の風合いを醸しだし、歴史的な重みや美術品としての良さを引き出している部分がある。また、金箔を用いた装飾品の絵柄の部分に、胡粉による盛り上げ彩色等の表面に変化を与える技法が凝らされていることがあり、その質感を表現するために高品位の複製が必要となる。以下では、このような歴史的文化財としての金屏風の高品位な複製物を製造する技術を例に挙げて説明する。なお、本発明は、襖や屏風に押された金箔や銀箔に描かれた絵、金箔や銀箔が押された工芸品、具足類などの、金属光沢を有する種々の装飾品に適用することが可能である。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る複製物を製造するためのシステムの構成を示すブロック図である。システム1は、ステレオカメラ2と、端末装置3と、画像形成装置100とを含んでおり、互いに通信を行うことができるように構成されている。
【0021】
ステレオカメラ2は、撮像装置4、5、カメラコントローラ6、および記憶装置7を含む。ステレオカメラ2は複製対象の撮像データを取得するためのものであり、複数台の撮像装置4、5で物体を同時に撮影し、各撮像装置で得られた複製対象の画像上での映る位置の違い(視差)から、その複製対象の位置や立体的な形状を認識する。撮像装置4、5は、カメラコントローラ6からの指示を受けて移動し、多方向から複製対象の画像を撮像する。撮像装置4、5から出力される画像信号は、デジタルの画像データに変換される。これにより、ステレオカメラ2には、複数枚分のデジタル画像データが記憶装置7に記憶される。画像データは、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)からなるRGB規格に準拠したデータである。また、ステレオカメラ2は、上記のように変換された画像データから対応点を抽出し、各画像上の対応点の位置の違いを求め、予め把握されている各撮像装置の位置関係の情報に基づいて三角測量の原理により複製対象の表面形状データを求めて、求められた表面形状データを記憶装置7に記憶する。記憶された形状データは、例えば、抽出された対応点の三次元座標値から構成される。
【0022】
なお、複製対象を撮像する装置として、ステレオカメラ2に代えて、デジタルカメラ、3Dレーザースキャナ、CTスキャナ等の種々の装置を用いてもよい。
【0023】
端末装置3は、画像形成装置100の設定や制御を行うためのものであり、パーソナルコンピュータ等により構成される。端末装置3は、ステレオカメラ2により生成された複製対象の画像データおよび表面形状データを受け取り、内部の記憶装置に記憶する他、このデータに基づく印刷処理を画像形成装置100に指示する。
【0024】
画像形成装置100は、被印刷媒体にインクを付着させて画像を形成するものであり、インクジェット方式のプリンタとして構成される。
【0025】
図2は、本実施形態に係る画像形成装置100の機能構成を示すブロック図である。画像形成装置100は、取得部102、入力部103、記憶部104、表示部105および印刷部110を含んで構成される。
【0026】
取得部102は、端末装置3から画像データおよび表面形状データ等のデータ、画像形成装置100が動作するために必要な設定値、および印刷の指示等の命令を受信するように構成される。
【0027】
入力部103は、オペレータから画像形成装置100を操作するための指示や設定値等を受け取るためのものであり、タッチパネルやボタン等により構成される。
【0028】
記憶部104は、表面形状データ108および画像データ106を記憶する。また、記憶部104は、本実施形態に係る処理を実行するためのプログラムや演算処理に用いられる他のデータまたは演算結果のデータを記憶するように構成される。具体的には、記憶部104は、コンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory))、USBフラッシュドライブ、リムーバブルハードディスク、ROM(Read Only Memory)、磁気ディスクまたは光ディスク等として構成することができる。
【0029】
表示部105は画像形成装置100の設定値やステータスの情報、オペレータからコマンドの入力を受けるためのメッセージやボタンを表示させるためのものであり、液晶ディスプレイ等により構成される。
【0030】
印刷部110は、インクジェット方式で画像を形成するものである。印刷部110は、ノズルからインクを吐出して画像を形成する記録ヘッド111と、この記録ヘッド111を制御するための制御部115とを有し、当該制御部115により記録ヘッド111のノズルからインクを高速に吐出するように制御する。インクは、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)を使用し、これらを重ねることにより、種々の色を表現する。また、印刷部110は、隠蔽層306を形成するために不透明の白色(例えば樹脂に酸化チタンを混合したホワイトインク)、またはクリアのインクを使用する。
【0031】
なお、これらのインクの組み合わせで再現できない色を再現するために調合された特色のインクを使用してもよい。
【0032】
印刷部110は、被印刷媒体に付着させるインクとして紫外線(UV)硬化インクを用いる。UV硬化インクは、紫外線を照射させることにより光化学反応を発生させ、被印刷媒体に硬化皮膜を形成して定着させるインクである。UV硬化インクは、溶剤として有機溶剤を使用し、着色剤として有機および無機顔料を使用しており、重合性物質(モノマーまたはオリゴマー)および光重合開始剤を含んでいる。このような組成により、UV硬化インクは、UV光の照射を受けると光重合開始剤がUV光を吸収してラジカルを生成する。すると、光重合開始剤のラジカルが重合性物質の反応基に反応して、重合性物質の光重合反応が開始する。この光重合反応は連鎖的に進行し、極めて短時間でインクが液体から固体に変化するので、UV硬化インクは乾燥のための待ち時間を要しないという特徴がある。また、非吸収性の樹脂やガラス、金属等の、オフセット印刷では通常印刷が困難な種々の媒体の印刷に、UV硬化インクを適用することが可能である。
【0033】
次に、制御部115の機能構成について説明する。制御部115は、基材の上に設けられた金属光沢を有する下地層の上に、金属光沢を隠蔽する隠蔽層を形成する隠蔽層形成部112と、下地層の上に古色再現層を形成する古色再現層形成部113と、隠蔽層の上に複製対象の絵柄の質感を表現した質感パターンを形成する質感パターン形成部114と、質感パターンの上に、複製対象の絵柄が印刷された絵柄層を形成する絵柄層形成部116とを含む。
【0034】
本実施形態に係る取得部102および印刷部110の動作は、具体的にはインクジェットプリンタに備えられたCPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置により統括的に制御される。この演算処理装置は記憶部104に記憶されたプログラムを読み取って実行することにより上記の制御を行う。
【0035】
次に、図3を参照し、本実施形態により製造される複製物の構成について説明する。ここで、複製対象は金屏風であり、金属光沢を有する金箔の領域と、絵柄の領域とを有する。図3(a)は複製物の一部分を、図3(b)は図3(a)に示す一部分のAA断面図を示す。複製物300において、紙により構成される基材302の上には、金箔または金紙からなる金属光沢を有する層(金属光沢層)304が金箔用接着剤により貼り付けられている。この金属光沢層304が、金屏風の画像を形成するための下地層となる。金属光沢層304の上には、金屏風の絵柄の領域に対応する領域に隠蔽層306が形成されており、金屏風の金箔の領域に対応する領域に古色再現層308が形成されている。
【0036】
隠蔽層306は、金属光沢層304の光沢を隠蔽し、その上に金屏風の絵柄が記録される層であり、白色のUV硬化インクにより凹凸のない状態で形成される。
【0037】
古色再現層308は、複製対象の金屏風において絵柄が描かれていない金箔の領域に対応し、経年変化による下地の変化(汚れ、シミなど)や金箔のよれなどにより生じた色合いを表現する層である。古色再現層308は、透過性のUV硬化インクにより形成されており、これにより下地の金属光沢層304の有する光沢が透過して見えるようになっている。
【0038】
なお、古色再現層308を形成する位置は、複製対象の金箔の部分の色合いに応じて決定し得る。このため、隠蔽層306と古色再現層308とは、図3(a)および(b)の左側に示すように水平方向に連続して形成されてもよく、同図の右側に示すように連続していなくてもよい。左側に示す部分では、金箔領域と他の領域との連続的な質感表現が実現される。他方、右側に示す部分では、金属光沢層304の上に追加の層の形成されない領域において金属光沢層304の一部が露出している。
【0039】
隠蔽層306の上には、白色またはクリアのUV硬化インクによる質感パターン310、およびフルカラーのUV硬化インクによる絵柄層312が積層されている。質感パターン310は、複製対象の金屏風の絵柄部分の凹凸を表現したパターンである。UV硬化インクは瞬時に硬化させることができるため、印刷を繰り返してインクの層を重ねていくことで厚みを表現することができる。さらに、重ね塗りの回数を位置に応じて変化させることにより、凹凸を表現することができる。
【0040】
絵柄層312は、重ね塗りの回数を制御することなく通常の印刷を行うことで、質感パターン310の表面に表現された凹凸の影響を受け、表面に質感パターン310と同様の凹凸が形成されている。
【0041】
このような層構造により、複製対象の歴史的文化財が持つ質感を複製物に付与することが可能となる。
【0042】
なお、上述した複製物300において基材302として紙を用いているが、木や樹脂等の他の基材を用いてもよい。
【0043】
また、図3(b)に示された複製物300では隠蔽層306の方が古色再現層308より僅かに厚みがあるが、古色再現層308の厚さは隠蔽層306の厚さ以上であってもよい。
【0044】
さらに、上述した複製物300の表面に露出している絵柄層312、金属光沢層304および古色再現層308の上を、耐水性を有するウレタン樹脂等でコーティングしてもよい。
【0045】
図4は、本実施形態に係る画像形成装置により実行される方法の手順のフローチャートである。図5は、複製物の製造を段階的に示す図である。以下、図4および図5を参照し、本実施形態に係る画像形成装置により実行される方法の手順について説明する。
【0046】
まず、ステップS202において、画像形成装置100の取得部102が、複製対象の文化財デジタル画像のデータを取得する。本実施形態において、取得されるデータは画像データ106および表面形状データ108を含む。これらのデータは記憶部104に記憶される。
【0047】
次いで、取得部102は、表面形状データを、印刷部110で処理可能な三次元形式の表面形状を表現する三次元形状データに変換する。
【0048】
本実施形態では、このような三次元形状のデータ形式として、STL(Standard Triangulated Language)形式が用いられる。STL形式のデータは三次元形状を小さな三角形の集合体で表現し、具体的には以下のような形式で構成される。1つの三角形は「三角形の法線ベクトルのX,Y,Z成分値」から「未使用データ」までの1組のデータにより定義され、1つの三次元形状に対し三角形枚数分の組のデータが繰り返される。
【0049】
【表1】
【0050】
以降の処理で、紙等の基材302の上に金属光沢層304が設けられた部材を使用して、複製物の製造を行う(図5の(a))。
【0051】
画像形成装置100の取得部102は、端末装置3から画像データおよび表面形状データおよびこれらのデータに基づく印刷の指示を受ける。画像形成装置100は、受信したデータを記憶部104の画像データ106および表面形状データ108に記憶する。
【0052】
次いで、処理はステップS204に進み、画像形成装置100の隠蔽層形成部112は、記憶部104に記憶されたRGB規格に準拠した画像データ106を読み出す。隠蔽層形成部112は、金属光沢層304上の各位置、例えば記録ヘッド111がUV硬化インクを吐出する各インクドットの位置について、金箔の領域であるか、絵柄の領域であるかを判定する。この判定は、目視等により複製対象を観察して金箔の領域を判定し、判定結果に応じて画定された領域のデータに基づいて行われる。この金箔の領域の判定は、有識者の監修に基づくものとすることができる。
【0053】
そして、絵柄の部分と判定した場合には、金属光沢層304の上の、絵柄の部分に対応する領域に、凹凸のない隠蔽層306を形成する(図5の(b))。
【0054】
ここで、隠蔽層306が形成された領域を画定する位置情報を、記憶部104に記憶する。
【0055】
次いで、ステップS206において、質感パターン形成部114は、記憶部104に記憶された位置情報と表面形状データ108とを読み出す。
【0056】
次いで、読み出された位置情報と表面形状データ108とに基づいて表現される質感を0~100%の濃度差で再現したパターンを、白のUV硬化インクで印刷し、質感パターン310を形成する(図5(c))。このとき、0%~100%の濃度差がそのまま0~100%の厚みに対応した質感が形成される。このようにして、白のUV硬化インクを1層印刷するだけで質感パターン310を形成することができる。
【0057】
なお、基本的には一度の出力で質感を形成することができるが、画像形成装置100が複数回重ね印刷できる機種であれば、複数回の印刷を行うことで、より質感パターン310に高低差を付けることができる。
【0058】
次いで、ステップS208において、絵柄層形成部116は、画像形成装置100に対応したCMYKプロファイルに基づき、RGBに準拠した画像データをCMYKのデータに変換する。次いで、CMYKに変換された画像データ106に基づき、質感パターン310が形成された領域の上に絵柄層312を形成する(図5(d))。
【0059】
そして、ステップS210において、古色再現層形成部113は、複製対象の金箔の部分に対応する領域(すなわち、金属光沢層304が露出している領域)の上に、古色再現層308を形成する(図5(e))。ここで、古色再現層の形成は、記憶部101に記憶された複製対象の文化財デジタル画像の画像データ106に基づき行うこととしてもよい。この場合、文化財デジタル画像の箔部分に存在する、柄(墨を薄く引いているようなものなど)、箔足、汚れ、シミ、キズ、剥落、シワの跡、砂子、等の画像を箔色からマスク等で分離する。そして、複製の際にこの分離された画像を絵柄として金属光沢層304の上に印刷する。
【0060】
あるいは、汚れやシミを表現するための汎用的なパターン画像を予め1つ以上記憶しておき、このパターン画像に基づき汚れやシミの部分に対応する色を着色することにより行うこととしてもよい。また、パターン画像を使用することなく、汚れに対応して所定の色を用意しておき、この色を金属光沢層304の露出部分に着色することとしてもよい。
【0061】
このようにして、基材の上に設けられた金属光沢を有する下地層上の、金屏風の絵柄の部分に対応する領域に、金属光沢を隠蔽する凹凸のない隠蔽層を形成し、この隠蔽層の上に、紫外線硬化インクにより複製対象の質感を表現した質感パターンを形成し、質感パターンの上に、複製対象の絵柄が印刷された絵柄層を形成することで、金屏風の表面形状を再現することができる。
【0062】
また、金屏風の金箔に対応する下地層上の領域に、金屏風の色を再現した古色再現層を設けることで、金箔の領域と絵柄の領域との連続的な質感表現を実現することができる。
【0063】
さらに、金屏風の表面形状のデータを取得し、表面形状のデータに基づいて質感パターンを形成することで、表面形状の正確な再現が可能となる。
【0064】
なお、上述の実施形態では、質感パターン310を形成するために複製対象の表面形状データを用いたが、金屏風の表面の質感を表現した汎用的な表面形状データを予め1つ以上記憶しておき、このパターン画像に基づき質感パターン310を形成することとしてもよい。このような処理によっても、装飾品が本来持っている微妙な質感を複製物に付与することができる。
【0065】
また、上述の実施形態では金屏風を例に挙げてオリジナルの文化財を複製する方法を説明したが、本発明は金箔に限らず、銀箔その他の箔を使用した複製対象に適用することができる。したがって、複製対象に押されている箔に対応して、金属光沢層304に銀箔その他の箔を使用することとしてもよい。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本実施形態において説明される方法および装置は例示にすぎず、他の方式でも実施可能である。例えば、上述した構成要素は機能を論理的に分割したものであり、実装において他の方式で構成要素を分割してもよい。また、上述した構成要素のうちの2つ以上が1つに統合されてもよく、構成要素の各々が物理的に単独で存在してもよい。
【0067】
また、上述した方法の順序は一例であり、上記ステップを異なる順序で実行してもよく、一部のステップを同時に実行してもよい。例えば、古色再現層308の形成は、質感パターン310または絵柄層312を形成する前に実行してもよい。あるいは、隠蔽層306、質感パターン310または絵柄層312と並行して古色再現層308を形成してもよい。
【0068】
本実施形態で説明される機能がソフトウェアの形態で実施されるとき、その機能を実現するためのコンピュータプログラムはコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶することができる。コンピュータプログラムは、コンピュータを本実施形態において説明される構成要素の全てまたは一部として機能させるように指示するためのいくつかの命令を含む。
【符号の説明】
【0069】
1 システム
2 ステレオカメラ
3 端末装置
100 画像形成装置
102 取得部
103 入力部
104 記憶部
105 表示部
106 画像データ
108 表面形状データ
110 印刷部
111 記録ヘッド
112 隠蔽層形成部
113 古色再現層形成部
114 質感パターン形成部
115 制御部
116 絵柄層形成部
図1
図2
図3
図4
図5