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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20221004BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20221004BHJP
   B41J 2/145 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 607
B41J2/14 605
B41J2/14 603
B41J2/18
B41J2/145
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018199058
(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公開番号】P2019155905
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2018045071
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-077643(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002778(WO,A1)
【文献】特開2017-132211(JP,A)
【文献】特開2012-143948(JP,A)
【文献】特開2017-165051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室側に液体を供給する第1共通流路と、
複数の前記圧力室側からの液体を導出する第2共通流路と、
前記第1共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第1コンプライアンス部と、
前記第2共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第2コンプライアンス部と、
を備え、
前記第1コンプライアンス部と前記第2コンプライアンス部とが、少なくともいずれか一方のコンプライアンス部の厚さ方向で見て互いに重なっており、
前記第2コンプライアンス部のコンプライアンスが、前記第1コンプライアンス部のコンプライアンスよりも大きい、ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
液体を噴射する複数のノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室側に液体を供給する第1共通流路と、
複数の前記圧力室側からの液体を導出する第2共通流路と、
前記第1共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第1コンプライアンス部と、
前記第2共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第2コンプライアンス部と、
を備え、
前記第1コンプライアンス部と前記第2コンプライアンス部とが、前記ノズルが設けられたノズルプレートの厚さ方向において重なっており、
前記第2コンプライアンス部のコンプライアンスが、前記第1コンプライアンス部のコンプライアンスよりも大きい、ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
液体を噴射する複数のノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室側に液体を供給する第1共通流路と、
複数の前記圧力室側からの液体を導出する第2共通流路と、
前記第1共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第1コンプライアンス部と、
前記第2共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第2コンプライアンス部と、
を備え、
前記第1コンプライアンス部と前記第2コンプライアンス部とが、少なくともいずれか一方のコンプライアンス部の厚さ方向で見て互いに重なっており、
前記第1コンプライアンス部又は前記第2コンプライアンス部のうち、前記ノズルにより近い方のコンプライアンスが、前記ノズルからより遠い方のコンプライアンスよりも大きい、ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
液体を噴射する複数のノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室側に液体を供給する第1共通流路と、
複数の前記圧力室側からの液体を導出する第2共通流路と、
前記第1共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第1コンプライアンス部と、
前記第2共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第2コンプライアンス部と、
を備え、
前記第1コンプライアンス部と前記第2コンプライアンス部とが、前記ノズルが設けられたノズルプレートの厚さ方向において重なっており、
前記第1コンプライアンス部又は前記第2コンプライアンス部のうち、前記ノズルにより近い方のコンプライアンスが、前記ノズルからより遠い方のコンプライアンスよりも大きい、ことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記第2コンプライアンス部の可撓領域の面積は、前記第1コンプライアンス部の可撓領域の面積よりも広いことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記第1コンプライアンス部と前記第2コンプライアンス部とは、共通のコンプライアンス空間を共有することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記圧力室から前記第2共通流路に個別に連通する複数の個別導出流路を有し、
前記第2コンプライアンス部は、当該第2コンプライアンス部の厚さ方向で見て複数の前記個別導出流路と重ならないことを特徴とする請求項1から請求項の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記第1共通流路から複数の前記圧力室に個別に連通する複数の個別供給流路を有し、
前記第1コンプライアンス部は、当該第1コンプライアンス部の厚さ方向で見て複数の前記個別供給流路と重ならないことを特徴とする請求項1から請求項の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
複数の前記個別導出流路の流路並設方向において、より端側に位置する前記個別導出流路の流路延在方向における前記第2共通流路側の出口の位置と、前記流路並設方向においてより中央側に位置する前記個別導出流路の前記第2共通流路側の出口の位置と、が異なることを特徴とする請求項7に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項10】
前記ノズルが並設されてなるノズル群が、前記ノズルの並設方向に直交する方向に2つ並設され、
前記ノズル群の並設方向において、対を成す2つの前記第2共通流路の間に、対を成す2つの前記第1共通流路が配置され、
2つの前記第1共通流路の間に、前記ノズル群が配置されたことを特徴とする請求項1から請求項9の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項11】
請求項1から請求項10の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドに供給する液体を貯留した液体貯留部と、
前記液体貯留部と前記液体噴射ヘッドとの間で液体を循環させるための循環機構と、
を備えることを特徴とする液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インクジェット式記録ヘッドなどの液体噴射ヘッド、これを備えた液体噴射装置に関し、特に、液体流路内の液体の圧力振動を抑制するコンプライアンス部を有する液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射(吐出)する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記の液体噴射ヘッドとしては、ノズルが複数開設されたノズルプレート、各ノズルに連通する圧力室(又は圧力発生室とも呼ばれる)が複数形成された基板、液体貯留部からの液体が導入される各圧力室に共通な共通液体室(若しくはリザーバー又はマニホールドとも呼ばれる)が形成された基板、圧力室内の液体に圧力振動を生じさせる圧電素子等の圧力発生手段を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に開示されている液体噴射ヘッドは、各圧力室と各ノズルとの間に連通する循環流路が設けられ、液体貯留部との間で液体が循環される構成が採用されている。
【0004】
このような構成の液体噴射ヘッドにおいては、流路の一部に当該流路内の液体の圧力変化に応じて変形する可撓部材を備えるコンプライアンス部が設けられている。このコンプライアンス部が液体室内の圧力振動に応じて変形することで、液体室内の液体に生じた圧力振動を吸収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-143948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の液体が循環する構成においては、液体貯留部側から圧力室側へ向かう往路と、圧力室側から液体貯留部側へ戻る復路のそれぞれにコンプライアンス部を配置することが望ましい。ところが、これらのコンプライアンス部の配置レイアウトによっては、液体噴射ヘッドのサイズが大きくなってしまい、延いては液体噴射装置の大型化を招くという問題があった。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体貯留部との間で液体が循環する構成において大型化を抑制することが可能な液体噴射ヘッド、及び、液体噴射装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の液体噴射ヘッドは、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射する複数のノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室側に液体を供給する第1共通流路と、
複数の前記圧力室側からの液体を導出する第2共通流路と、
前記第1共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第1コンプライアンス部と、
前記第2共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第2コンプライアンス部と、
を備え、
前記第1コンプライアンス部と前記第2コンプライアンス部とが、少なくともいずれか一方のコンプライアンス部の厚さ方向で見て互いに重なっていることを特徴とする。
【0009】
本開示の液体噴射ヘッドによれば、第1コンプライアンス部と第2コンプライアンス部とが、少なくともいずれか一方のコンプライアンス部の厚さ方向で見て互いに重なっているので、圧力室側へ向かう往路を構成する第1共通流路と、圧力室側から液体が導出される第2共通流路とのそれぞれにコンプライアンス部を設けた構成においても液体噴射ヘッドの大型化を抑制することが可能となる。
【0010】
本開示の液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズルに連通する複数の圧力室と、
複数の前記圧力室側に液体を供給する第1共通流路と、
複数の前記圧力室側からの液体を導出する第2共通流路と、
前記第1共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第1コンプライアンス部と、
前記第2共通流路内の液体の圧力変化に応じて変形する第2コンプライアンス部と、
を備え、
前記第1コンプライアンス部と前記第2コンプライアンス部とが、前記ノズルが設けられたノズルプレートの厚さ方向において重なっていることを特徴としてもよい。
【0011】
この構成によれば、第1コンプライアンス部と第2コンプライアンス部とが、ノズルが設けられたノズルプレートの厚さ方向において重なっているので、圧力室側へ向かう往路を構成する第1共通流路と、圧力室側から液体が導出される第2共通流路とのそれぞれにコンプライアンス部を設けた構成においても液体噴射ヘッドの大型化を抑制することが可能となる。
【0012】
また、複数の圧力室、換言すると、複数のノズルに共通の第1共通流路及び第2共通流路にそれぞれコンプライアンス部が設けられているので、複数の圧力室に対応して個別に設けられた個別流路のそれぞれにコンプライアンス部を設ける構成と比較して、各圧力室における液体噴射動作に伴って生じた圧力振動をより効率よく抑制することが可能となる。このため、各ノズルからより高い駆動周波数で液体を噴射させた場合においても、当該噴射動作に伴って生じた圧力振動をより確実に抑制することができるので、より高い駆動周波数での液体の噴射に対応することが可能となる。
【0013】
上記構成において、前記第2コンプライアンス部のコンプライアンスが、前記第1コンプライアンス部のコンプライアンスよりも大きい構成を採用することが望ましい。
【0014】
この構成によれば、第2コンプライアンス部のコンプライアンスが第1コンプライアンス部のコンプライアンスよりも大きいことで、例えば、液体を貯留した液体貯留部と液体噴射ヘッドのとの間で液体を循環させる循環機構の駆動時の圧力振動が、ノズルから液体を噴射する際の圧力振動に重畳した場合においても、第2コンプライアンス部によって当該圧力振動を低減することが可能となり、このような圧力振動に起因してノズルからの液体の噴射特性、即ち、噴射される液体の量や飛翔速度が目標値から変動することが抑制される。
【0015】
また、上記構成において、前記第1コンプライアンス部又は前記第2コンプライアンス部のうち、前記ノズルにより近い方のコンプライアンスが、前記ノズルからより遠い方のコンプライアンスよりも大きい構成を採用することが望ましい。
【0016】
この構成によれば、第1コンプライアンス部又は第2コンプライアンス部のうち、ノズルにより近い方のコンプライアンスが、ノズルからより遠い方のコンプライアンスよりも大きいことで、ノズルからの液体の噴射により生じた圧力振動を当該ノズルにより近い位置でより確実に低減することが可能となる。ノズルからの液体の噴射特性、即ち、噴射される液体の量や飛翔速度が目標値から変動することがより抑制される。
【0017】
さらに、上記構成において、前記圧力室から前記第2共通流路に個別に連通する複数の個別導出流路を有し、
前記第2コンプライアンス部は、当該第2コンプライアンス部の厚さ方向で見て複数の前記個別導出流路と重ならない構成を採用することが望ましい。
【0018】
この構成によれば、第2コンプライアンス部は、当該第2コンプライアンス部の厚さ方向で見て個別導出流路と重ならないので、即ち、第2コンプライアンス部と個別導出流路を区画している隔壁とが互いに干渉しないので、第2コンプライアンス部が変形する際に個別導出流路を区画している隔壁と接触している部分に応力が集中して当該部分を起点として第2コンプライアンス部が損傷したり、各個別導出流路における流路抵抗がばらついたりすることが防止される。
【0019】
また、上記構成において、複数の前記個別導出流路の流路並設方向における前記個別導出流路の内寸をWとしたとき、
前記個別導出流路の流路延在方向において、前記第2共通流路における前記第2コンプライアンス部のうち変位可能な可撓領域の、前記個別導出流路に最も近接する縁が、前記個別導出流路の前記第2共通流路側の出口から前記W以内に配置された構成を採用することが望ましい。
【0020】
この構成によれば、第2コンプライアンス部の可撓領域の個別導出流路に最も近接する縁が、個別導出流路の第2共通流路側の出口から個別導出流路の内寸に相当する距離以内に配置されることにより、個別導出流路の内部を伝ってきた圧力振動がより速やかに緩和される。これにより、各ノズルの噴射特性がばらつくことがより効果的に抑制される。
【0021】
また、上記構成において、前記第1共通流路から複数の前記圧力室に個別に連通する複数の個別供給流路を有し、
前記第1コンプライアンス部は、当該第1コンプライアンス部の厚さ方向で見て複数の前記個別供給流路と重ならない構成を採用することが望ましい。
【0022】
この構成によれば、第1コンプライアンス部は、当該第1コンプライアンス部の厚さ方向で見て個別供給流路と重ならないので、即ち、第1コンプライアンス部と個別供給流路を区画している隔壁とが互いに干渉しないので、第1コンプライアンス部が変形する際に個別供給流路を区画している隔壁と接触している部分に応力が集中して当該部分を起点として第1コンプライアンス部が損傷したり、各個別供給流路における流路抵抗がばらついたりすることが防止される。
【0023】
また、上記構成において、複数の前記個別供給流路の間を隔てている第1の隔壁又は複数の前記個別導出流路の間を隔てている第2の隔壁のうちの一方の流路並設方向における厚さが他方の厚さよりも厚く、且つ、前記一方の流路延在方向における長さが他方の長さよりも長い構成を採用することが望ましい。
【0024】
この構成によれば、液体噴射ヘッドの構成部材同士が互いに積層された状態で接合される際に、各構成部材の相対位置が多少ずれたとしても、構成部材の積層方向で見て第1の隔壁又は第2の隔壁のうちの一方の範囲内に他方が納まるため、これらの隔壁で接合時の荷重を受け止めることができ、各構成部材、特に個別供給流路が形成された部材と個別導出流路が形成された部材とをより確実に接合することが可能となる。
【0025】
さらに、上記構成において、複数の前記個別導出流路の流路並設方向において、より端側に位置する前記個別導出流路の流路延在方向における前記第2共通流路側の出口の位置と、前記流路並設方向においてより中央側に位置する前記個別導出流路の前記第2共通流路側の出口の位置と、が異なる構成を採用することが望ましい。
【0026】
この構成によれば、流路並設方向において端部側に位置する個別導出流路とこれよりも中央側に位置する個別導出流路とでそれぞれを区画している壁の構造に違いがある場合においても、流路並設方向のより端側に位置する個別導出流路の出口の位置と、流路並設方向のより中央側に位置する個別導出流路の出口の位置とが異なることで、各個別導出流路の流路抵抗が揃えられる。その結果、各個別導出流路に対応する各ノズルの噴射インクの量や飛翔速度等の噴射特性が可及的に揃えられる。
【0027】
また、上記構成において、前記ノズルが並設されてなるノズル群が、前記ノズルの並設方向に直交する方向に2つ並設され、
前記ノズル群の並設方向において、対を成す2つの前記第2共通流路の間に、対を成す2つの前記第1共通流路が配置され、
2つの前記第1共通流路の間に、前記ノズル群が配置された構成を採用することが望ましい。
【0028】
この構成によれば、ノズル群の並設方向において、対を成す第2共通流路の間に対を成す第1共通流路が配置され、これらの第1共通流路の間にノズル群が配置されたので、ノズル群をより高密度に配置することができ、また、各ノズル群に対応する共通流路や圧力室を含む液体流路等を、液体噴射ヘッドの内部においてより効率よくレイアウトすることが可能となる。
【0029】
そして、本開示に係る液体噴射装置は、上記何れか一つの構成の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドに供給する液体を貯留した液体貯留部と、
前記液体貯留部と前記液体噴射ヘッドとの間で液体を循環させるための循環機構と、
を備えることを特徴とする。
【0030】
本開示によれば、液体貯留部と液体噴射ヘッドとの間で液体を循環させる構成において、液体噴射ヘッド小型化が可能であるため、装置全体の小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】液体噴射装置の一形態の構成を説明する正面図である。
図2】液体噴射ヘッドの一形態の構成を説明する断面図である。
図3】液体噴射ヘッドの一部を拡大した断面図である。
図4】共通液室の構成を説明する平面図である。
図5】共通導出液室の構成を説明する平面図である。
図6】供給口隔壁及び導出流路隔壁の位置及び寸法を比較した模式図である。
図7】個別供給流路から第1共通流路側へ向かうインクの流れについて説明する模式図である。
図8】個別供給流路から第1共通流路側へ向かうインクの流れについて説明する模式図である。
図9】第2の実施形態に係る液体噴射ヘッドの構成を説明する断面図である。
図10】第2の実施形態に係る液体噴射ヘッドの構成の変形例を説明する断面図である。
図11】第3の実施形態に係る液体噴射ヘッドの構成を説明する断面図である。
図12】第4の実施形態に係る液体噴射ヘッドの構成を説明する断面図である。
図13】第5の実施形態に係る液体噴射ヘッドの構成を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本開示を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施形態では、本開示の好適な具体例として種々の限定がされているが、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本開示の液体噴射装置として、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)10を搭載したインクジェット式記録装置(以下、プリンター)1を例に挙げて行う。
【0033】
図1は、プリンター1の構成を示す平面図である。本実施形態におけるプリンター1は、記録用紙、布、あるいは樹脂フィルム等の記録媒体Sの表面に記録ヘッド10から液体状のインク(本開示における液体の一種)を噴射させて画像やテキスト等の記録を行う装置である。このプリンター1は、フレーム2と、このフレーム2内に配設されたプラテン3と、を備えており、図示しない搬送機構によってプラテン3上に記録媒体Sが搬送される。また、フレーム2内には、プラテン3と平行にガイドロッド4が架設されており、このガイドロッド4には、記録ヘッド10及び当該記録ヘッド10とインクカートリッジ13との間でインクの授受を行う流路部材6を収容したキャリッジ5が摺動可能に支持されている。このキャリッジ5はガイドロッド4に沿って記録媒体Sの搬送方向と直交する主走査方向に往復移動するように構成されている。本実施形態におけるプリンター1は、記録媒体Sに対してキャリッジ5を相対的に往復移動させながら記録ヘッド10のノズル28(図2等参照)からインクを噴射させて記録動作を行う。
【0034】
フレーム2の一側には、液体貯留部の一種であるインクカートリッジ13が搭載されている。インクカートリッジ13に貯留されているインクは、ポンプ14による圧力によりインク供給チューブ15を通じて流路部材6に導入された後、記録ヘッド10に供給される。また、記録ヘッド10からのインクが、流路部材6及びインク回収チューブ16を通じてインクカートリッジ13に回収されるように構成されている。即ち、ポンプ14は、インクカートリッジ13と記録ヘッド10との間でインクを循環させる循環機構として機能する。流路部材6は、図示しないがインク供給チューブ15から導入されたインクを記録ヘッド10側に供給する流路や、記録ヘッド10から排出されたインクをインク回収チューブ16に送り出す流路を内部に備える。また、流路部材6の内部には、記録ヘッド10へのインクの供給圧を調整する調整部やインクに含まれる気泡や異物を捕捉するフィルター等(図示せず)が設けられている。なお、インクの循環を、上述のようにインクカートリッジ13と記録ヘッド10との間で行う構成に代えて、インクカートリッジ13と記録ヘッド10との間に図示しないサブタンク(即ち、液体貯留部の一種)を設けたうえで、このサブタンクと記録ヘッド10との間でインクの循環を行う構成を採用してもよい。
【0035】
フレーム2の内側において、記録ヘッド10の移動範囲における一側に設けられたホームポジションには、記録ヘッド10のノズル面を封止するキャップ22を有するキャッピング機構21が配設されている。キャッピング機構21は、ホームポジションで待機状態にある記録ヘッド10のノズル面をキャップ22により封止してノズル28からインクの溶媒が蒸発することを抑制する。また、キャッピング機構21は、記録ヘッド10のノズル面を封止した状態で封止空部内を負圧化し、ノズル28からインクや気泡を強制的に吸引するクリーニング動作を行うことができる。
【0036】
次に、本実施形態における記録ヘッド10の構成について説明する。
図2は、記録ヘッド10の断面図であり、図3は、図2における記録ヘッド10の一部を拡大して示した断面図である。本実施形態における記録ヘッド10は、固定板23、ノズルプレート20、第1連通板24、第2連通板25、アクチュエーター基板26、ケース27等の複数の構成部材が積層されて接着剤等によって接合されてユニット化されている。なお、以下においては、記録ヘッド10の各構成部材の積層方向を、適宜、上下方向、又は後述すように第3方向Zとして説明する。
【0037】
本実施形態におけるアクチュエーター基板26は、ノズルプレート20に形成されたノズル28と連通する圧力室30が形成された圧力室形成基板29と、各圧力室30内のインクに圧力振動を生じさせる駆動素子としての圧電素子31と、圧力室形成基板29と圧電素子31との間に設けられた振動板33と、圧電素子31を保護する保護基板32とを備えている。保護基板32の平面視における略中央部には、圧電素子31と電気的に接続される配線部材が挿通される配線空部32aが開設されている。この配線空部32a内に、圧電素子31のリード電極が配置され、このリード電極に配線部材の配線端子が電気的に接続される。プリンター1の制御部から送られてくる駆動信号等は、配線部材を通じて圧電素子31に供給される。
【0038】
アクチュエーター基板26の圧力室形成基板29は、シリコン単結晶基板から作製されている。この圧力室形成基板29には、複数のノズル28に対応して各ノズル28が並設された第1方向X(換言すると、ノズル列方向)に沿って複数の圧力室30が並設されている。この圧力室30は、第1方向Xに直交する第2方向Yに長尺な空部である。この圧力室30の第2方向Yの一側の端部には、第1連通板24の第1ノズル連通口34が連通し、他側の端部には、供給口44を介して個別供給流路39が連通する。本実施形態における圧力室形成基板29には、ノズルプレート20に形成された2条のノズル列に対応して圧力室30の列である圧力室群が第2方向Yに合計2列並設されている。なお、圧力室形成基板29をステンレス鋼等の金属から作製してもよい。
【0039】
圧力室形成基板29の上面(換言すると、第1連通板24側とは反対側の面)には、振動板33が積層され、この振動板33によって圧力室30の上部開口が封止されている。即ち、振動板33により、圧力室30の一部が区画されている。この振動板33は、例えば、圧力室形成基板29の上面に形成された二酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜と、から成る。そして、この振動板33上における圧力室30に対応する領域に圧電素子31がそれぞれ積層されている。振動板33をニッケル等の金属から作製してもよい。
【0040】
本実施形態の圧電素子31は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子31は、例えば、振動板33上に、下電極層、圧電体層、及び上電極層(何れも図示せず)が順次積層されてなる。このように構成された圧電素子31は、下電極層と上電極層との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、上下方向に撓み変形する。本実施形態では、複数の圧力室30にそれぞれ対応させて複数の圧電素子31が振動板33の上に形成され、さらに、この圧電素子31の列が、各圧力室30の列に対応して合計2列設けられている。
【0041】
保護基板32は、複数の圧電素子31の列を覆うように振動板33上に積層されている。保護基板32の内部には、圧電素子31の列を収容可能な長尺な収容空間32bが形成されている。この収容空間32bは、保護基板32の下面側(即ち、振動板33側)から上面側(即ち、ケース27側)に向けて保護基板32の高さ方向途中まで形成された窪みである。本実施形態における保護基板32には、配線空部32aの両側に収容空間32bがそれぞれ形成されている。
【0042】
アクチュエーター基板26の下面には、このアクチュエーター基板26よりも広い面積を有する第1連通板24が接合されている。さらにこの第1連通板24の下面には後述する第1可撓部36を間に介在させて第2連通板25が接合されている。これらの連通板24,25は、圧力室形成基板29と同様にシリコン単結晶基板から作製されている。本実施形態における第1連通板24には、圧力室30と第2連通板25の第2ノズル連通口35とを連通させる第1ノズル連通口34と、各圧力室30に共通に設けられた第1共通流路40の一部を構成する共通液室37と、この共通液室37と圧力室30とを連通する個別供給流路39と、第2連通板25の共通導出液室48とケース27の導出流路46とを連通する連通液室49と、が形成されている。連通液室49は、ケース27の導出流路46の下面側の開口形状に倣った形状及び寸法の開口を有する液室であり、第1連通板24の板厚方向を貫通している。共通液室37は、複数の圧力室30、換言すると複数のノズル28に共通に設けられた液室であり、ノズル列方向に沿って一連に延在する。本実施形態において、ノズルプレート20のノズル列毎に対応して2つ形成されている。この共通液室37の底部に対応する位置には、第1コンプライアンス部42が設けられている。この第1コンプライアンス部42の詳細については後述する。なお、これらの連通板24,25をステンレス鋼等の金属から作製してもよい。
【0043】
図4は、共通液室37の構成を説明する平面図である。なお、ハッチングで示される部分は、後述する第1コンプライアンス部42の範囲を示している。本実施形態における共通液室37は、ケース27の導入流路45と連通する第1液室37aと、当該第1液室37aと供給口44とを連通する第2液室37bと、から構成される。第1液室37aは、ケース27の導入流路45の下面側の開口形状に倣った形状及び寸法に設定された開口を有する液室であり、第1連通板24の板厚方向を貫通した部分である。第2液室37bは、第1連通板24の上面側に薄肉部47を残して下面側から板厚方向の途中まで窪んだ部分である。この第2液室37bは、第1液室37aに対して第2方向Yにおいて隣接して形成されている。この第2液室37bは、第1液室37aよりもノズル28側に位置している。上記の薄肉部47は、当該第2液室37bの天井面を構成する。第2液室37bの第2方向Yにおける一端部は、第1液室37aと連通する一方、第2方向Yの他端部は、記録ヘッド10の各構成部材の積層方向である第3方向Zで見て圧力室30の一部と重なる位置に形成されている。この第2液室37bの他端部には、薄肉部47を貫通した供給口44が、圧力室形成基板29の複数の圧力室30にそれぞれ対応して第1方向Xに沿って複数形成されている。この供給口44の下端は第2液室37bと連通し、供給口44の上端は圧力室形成基板29の圧力室30と連通する。
【0044】
本実施形態における第2液室37bにおける薄肉部47には、隣り合う供給口44同士を仕切る供給口隔壁38(本開示における第1の隔壁に相当)が複数形成されている。この供給口隔壁38は、第2液室37bの第2方向Yにおける他端の側面から一端の第1液室37a側に向けて第2方向Yに沿って延在する壁であり、薄肉部47の下面から第2連通板25側に向けて突出している。本実施形態における供給口隔壁38の第3方向Zにおける高さは第2液室37bの第3方向Zにおける深さに揃えられている。そして、これらの供給口隔壁38の第2連通板24側の面に、第1可撓部36を介して第2連通板24が接合されることによって、第1液室37a側から供給口44に向かう第2方向Yに沿って延在する個別供給流路39が画成されている。この個別供給流路39は、圧力室形成基板29の複数の圧力室30にそれぞれ対応して第1方向Xに沿って複数形成されている。なお、上記の供給口44は、個別供給流路39と比較して流路断面積が小さく設定された部分であり、共通液室37から圧力室30に流入するインクに流路抵抗を付与する狭窄部として機能する。
【0045】
ここで、個別供給流路39のうち、第2液室37bの第2方向Y(即ち、流路並設方向)における両端に位置する個別供給流路39a,39bについては、当該流路を区画する壁のうちの一方の壁が供給口隔壁38であるのに対して他方の壁は共通液室37を区画している側壁となっている。この共通液室37の側壁の流路延在方向、即ち、第2方向Yにおける寸法は、供給口隔壁38の第2方向Yにおける長さに対して十分に長くなっているため、全ての個別供給流路39について供給口隔壁38の長さを一律に揃えた場合、両端の個別供給流路39a,39bの流路抵抗が、他の個別供給流路39の流路抵抗と比べて高くなってしまう。つまり、流路並設方向において端部側に位置する個別供給流路39a,39bとこれよりも中央側に位置する個別供給流路39とでそれぞれを区画している壁の構造上の違いにより流路抵抗が変わってしまう。
【0046】
このため、本実施形態においては、両端の個別供給流路39a,39bを画成している供給口隔壁38a,38bの長さL1′が、これよりも第1方向Xにおける中央側に位置する他の個別供給流路39を画成している供給口隔壁38の長さL1よりも短く設定されている。すなわち、第2方向Yにおいて、個別供給流路39a,39bの第1共通流路40側の出口が、他の個別供給流路39の第1共通流路40側の出口よりも供給口44側に位置している。なお、各個別供給流路39の第1共通流路40側の出口とは、個別供給流路39を区画している供給口隔壁38の第1共通流路40側の端で規定される個別供給流路39の開口である。このように、第1方向Xにおいて端部側に位置する個別供給流路39とこれよりも中央側に位置する個別供給流路39とでそれぞれを区画している壁の構造に違いがある場合においても、より端側に位置する個別供給流路39a,39bの出口の位置と、より中央側に位置する個別供給流路39の出口の位置とが異なることで、各個別供給流路39の流路抵抗が可及的に揃えられている。その結果、ノズル列における各ノズル28から噴射されるインクの量や飛翔速度(より詳しくは噴射時の初速)等の噴射特性が可及的に揃えられる。なお、本実施形態においては、第1方向Xにおける両端の個別供給流路39a,39bを画成している供給口隔壁38a,38bの長さが他の個別供給流路39の供給口隔壁38の長さよりも短く設定された構成を例示したが、これには限られない。例えば、第1方向Xにおける両端部の複数の個別供給流路39に対応する供給口隔壁38の長さについて、第1方向Xにおける中央側から端側に向かって段階的に短くなる構成を採用することもできる。これにより、各個別供給流路39の流路抵抗がより効果的に揃えられる。
【0047】
本実施形態における第2連通板25には、第1ノズル連通口34とノズル28とを連通させる第2ノズル連通口35と、各圧力室30に共通に設けられた第2共通流路41の一部を構成する共通導出液室48と、この共通導出液室48と第2ノズル連通口35とを連通させる個別導出流路50と、第1コンプライアンス部42を構成する第1コンプライアンス空間51と、が形成されている。共通導出液室48は、複数の圧力室30、換言すると複数のノズル28に共通に設けられた液室であり、第1方向Xに沿って一連に延在する。本実施形態において、ノズルプレート20のノズル列毎に対応して2つ形成されている。この共通液室37の底部、即ち、ノズルプレート20側には、第2コンプライアンス部43が設けられている。この第2コンプライアンス部43の詳細については後述する。
【0048】
図5は、共通導出液室48の構成を説明する平面図である。なお、ハッチングで示される部分は、後述する第2コンプライアンス部43の範囲を示している。本実施形態における共通導出液室48は、第1連通板24の連通液室49と連通する第1導出液室48aと、当該第1導出液室48aと第2ノズル連通口35とを連通する第2導出液室48bと、から構成される。第1導出液室48aは、第1連通板24の連通液室49の下面側の開口形状に倣った形状及び寸法の開口を有する液室であり、第2連通板25の板厚方向を貫通した部分である。第2導出液室48bは、第2連通板25の上面側に薄肉部52を残して下面側から板厚方向の途中まで窪んだ部分である。この第2導出液室48bは、第1導出液室48aに対して第2方向Yにおいて隣接して形成されている。この第2導出液室48bは、第1導出液室48aよりもノズル28側に位置している。上記の薄肉部52は、当該第2導出液室48bの天井面を構成する。第2導出液室48bの第2方向Yにおける一端部は、第1導出液室48aと連通する一方、第2方向Yの他端部は、第1連通板24の第1ノズル連通口34に対応する位置に形成されている。この第2導出液室48bの他端部には、第2連通板25の厚さ方向を貫通した第2ノズル連通口35が、圧力室形成基板29の複数の圧力室30にそれぞれ対応して第1方向Xに沿って複数形成されている。この第2ノズル連通口35の下端はノズル28連通し、第2ノズル連通口35の上端は第1連通板24の第1ノズル連通口34と連通する。
【0049】
第2導出液室48bの薄肉部52には、隣り合う第2ノズル連通口35同士を仕切る導出流路隔壁53(本開示における第2の隔壁に相当)が複数形成されている。この導出流路隔壁53は、第2導出液室48bの第2方向Yにおける他端の側面から一端の第1導出液室48a側に向けて第2方向Yに沿って延在する壁であり、薄肉部52の下面から第2連通板25の下面側、換言するとノズルプレート20側に向けて突出している。本実施形態における導出流路隔壁53の第3方向Zにおける高さは第2導出液室48bの第3方向Zにおける深さに揃えられている。そして、これらの導出流路隔壁53のノズルプレート20側の面に第2可撓部54を介してノズルプレート20が接合されることによって、第2ノズル連通口35側から第1導出液室48a側に向かう第2方向Yに沿って延在する個別導出流路50が画成されている。この個別導出流路50は、圧力室形成基板29の複数の圧力室30にそれぞれ対応して第1方向Xに沿って複数形成されている。
【0050】
個別導出流路50のうち、第2導出液室48bの第2方向Yにおける両端に位置する個別導出流路50a,50bについては、上記個別供給流路39a,39bと同様の理由から流路抵抗が他の個別導出流路50の流路抵抗と比べて高くなってしまう。このため、本実施形態においては、両端の個別導出流路50a,50bを画成している導出流路隔壁53a,53bの長さL2′が、これよりも第1方向Xにおける中央側に位置する他の個別導出流路50を画成している導出流路隔壁53の長さL2よりも短く設定されている。これにより、両端の個別導出流路50a,50bにおける流路抵抗と他の個別導出流路50の流路抵抗が可及的に揃えられている。その結果、ノズル列における各ノズル28の噴射インクの量や飛翔速度等の噴射特性が可及的に揃えられる。なお、本実施形態においては、第1方向Xにおける両端の個別導出流路50a,50bを画成している導出流路隔壁53a,53bの長さが他の個別導出流路50の導出流路隔壁53の長さよりも短く設定された構成を例示したが、これには限られない。例えば、第1方向Xにおける両端部の複数の個別導出流路50に対応する導出流路隔壁53の長さについて、第1方向Xにおける中央側から端側に向かって段階的に短くなる構成を採用することもできる。これにより、各個別導出流路50の流路抵抗がより効果的に揃えられる。
【0051】
また、各個別導出流路50と第2ノズル連通口35との境界部分には、個別導出流路50と比較して流路断面積が小さく設定された狭窄部56がそれぞれ設けられている。本実施形態において、薄肉部52の下面から第2連通板25の下面側、換言するとノズルプレート20側に向けて突出した部分が形成されており、その突出端面は、第2連通板25の下面より少し薄肉部52側に位置している。そして、第2連通板25の下面に第2可撓部54を介してノズルプレート20が接合されることによってこの突出した部分とノズルプレート20との間に狭窄部56が形成されている。この狭窄部56は、個別導出流路50と第2ノズル連通口35とそれぞれ連通させる流路であり、第2ノズル連通口35から個別導出流路50に流入するインクに流路抵抗を付与する。なお、狭窄部56は、薄肉部52から突出した部分により形成されるもの、即ち、流路を第3方向Zに狭窄するものには限られず、例えば、導出流路隔壁53の壁の厚さを部分的に厚くして個別導出流路50の流路幅を部分的に狭くすることで、個別導出流路50の流路断面積を他の部分よりも第1方向Xに狭窄する構成、或は、これらの組み合わせを採用することも可能である。
【0052】
上記の第2連通板25の下面には、複数のノズル28が形成されたノズルプレート20が接合される。本実施形態におけるノズルプレート20は、例えばシリコン単結晶基板から構成されている。このノズルプレート20は、第1連通板24の下面において複数の第2ノズル連通口35と複数のノズル28とがそれぞれ個別に連通する状態で接着剤等により接合される。本実施形態におけるノズルプレート20には、複数のノズル28が列設されてなるノズル群(即ちノズル列)が第2方向Yに並べて合計2条形成されている。また、ノズルプレート20において、ノズル群よりも第2方向Yにおける外側に位置する共通導出液室48に対応する領域には、当該ノズルプレート20の厚さ方向を貫通した貫通口が設けられている。そして、この貫通口の第2連通板25側の面が第2可撓部54によって封止され、また、貫通口の第2連通板25側とは反対側の面が固定板23で封止されることで、第2コンプライアンス空間55が画成されている。この第2コンプライアンス空間55を画成している第2可撓部54の可撓領域が、第2共通流路41内の圧力振動に応じて第2共通流路41側または第2コンプライアンス空間55側に変位する第2コンプライアンス部43として機能する。第2コンプライアンス部43の詳細については後述する。なお、ノズルプレート20をステンレス鋼等の金属から作製してもよい。
【0053】
図6は、第1連通板24及び第2連通板25が位置決めされた状態で接合された状態において第3方向Zから見たときの供給口隔壁38及び導出流路隔壁53の位置及び寸法を比較した模式図である。上記のノズルプレート20、第2連通板25、第1連通板24、及びアクチュエーター基板26の各構成部材は、互いに積層されて接合される際に、積層方向、即ち第3方向Zに荷重が掛けられる。この点に関し、本実施形態においては、供給口隔壁38の第1方向Xの厚さT1よりも導出流路隔壁53の第1方向Xの厚さT2が大きく設定されている。また、供給口隔壁38の第2方向Y(換言すると流路延在方向)の長さL1よりも導出流路隔壁53の第1方向Xの長さL2が大きく設定されている。このため、各構成部材の積層方向である第3方向Zで見て互いに重なる位置に配置された供給口隔壁38と導出流路隔壁53とにおいて、一方の導出流路隔壁53の範囲内に他方の供給口隔壁38が位置するように構成されている。供給口隔壁38及び導出流路隔壁53の寸法関係がこのように設定されていることにより、ノズルプレート20、第2連通板25、第1連通板24、及びアクチュエーター基板26が互いに接合される際に、各構成部材の相対位置が公差の範囲内でずれたとしても導出流路隔壁53の範囲内に供給口隔壁38が納まるため、これらの隔壁38,53で接合時の荷重を受け止めることができ、各構成部材、特に第1連通板24と第2連通板25とをより確実に接合することが可能となる。なお、導出流路隔壁53と供給口隔壁38との間における寸法の大小関係については逆となる構成であっても良い。また、これらの隔壁の第2方向における基端、即ち、供給口隔壁38については供給口44側の端、導出流路隔壁53については第2ノズル連通口35側の端、の位置関係によっては、厚さがより厚い方の隔壁の長さが、他方の隔壁の長さよりも短い構成も考えられる。つまり、第2方向Yにおいて、厚さが薄い方の隔壁の基端の位置が、厚さがより厚い方の隔壁の基端の位置よりもノズル28側に近い位置に配置された場合などが想定される。この場合、当該厚い方の隔壁の第2方向Yにおける共通流路側の端が、薄い方の隔壁の第2方向Yにおける共通流路側の端よりも、より共通流路側に位置する構成であれば、同様にこれらの隔壁で接合時の荷重を受け止めることができ、各構成部材、特に第1連通板24と第2連通板25とをより確実に接合することが可能となる。
【0054】
ノズルプレート20、第2連通板25、第1連通板24、及びアクチュエーター基板26の各構成部材は、ケース27に接合される。図2に示されるように、本実施形態におけるケース27の下面側にはアクチュエーター基板26を収容する収容空部58が形成されている。そして、収容空部58にアクチュエーター基板26が収容された状態でケース27の下面に第1連通板24が接合される。このケース27の平面視における略中央部分には、収容空部58と連通する挿通空部59が開設されている。この挿通空部59は、アクチュエーター基板26の配線空部32aとも連通する。配線部材は、挿通空部59を通じて配線空部32aに挿入されるように構成されている。また、ケース27の内部において、第2方向Yにおける挿通空部59及び収容空部58の両側には、第1連通板24の共通液室37と連通する導入流路45が形成されている。さらに、これらの導入流路45よりも第2方向Yにおける外側には、第1連通板24の連通液室49と連通する導出流路46がそれぞれ形成されている。また、ケース27の上面には、各導入流路45と連通する導入口62、導出流路46と連通する導出口63がそれぞれ開設されている。導入口62は、インクカートリッジ13側からインク供給チューブ15を通じて送られてきたインクが流路部材6を介して導入される部分である。また、導出口63は、第2共通流路41からのインクが流路部材6を介してインクカートリッジ13側へ送られる部分である。本実施形態において、ポンプ14の駆動によりインクカートリッジ13側から送られてきたインクは、導入口62から第1共通流路40へ導入される。第1共通流路40に導入されたインクは、各個別供給流路39から各圧力室30へと供給され、第1ノズル連通口34及び第2ノズル連通口35を通じてノズル28へ供給される。また、第2ノズル連通口35から狭窄部56及び個別導出流路50を通じて第2共通流路41へ向かうインクは導出口63から流路部材6を介してインク回収チューブ16を通じてインクカートリッジ13側へ回収される。即ち、インクカートリッジ13と記録ヘッド10内のインク流路との間でインクが循環される。記録ヘッド10内のインク流路(即ち、液体流路)は、本実施形態においては、導入口62から第1共通流路40、個別供給流路39、圧力室30、ノズル連通口34,35、ノズル28、個別導出流路50、第2共通流路41、及び導出口63に至る一連の流路である。なお、インクの循環経路は、逆でも良い。即ち、インクカートリッジ13からのインクが、第2共通流路41に導入され、ノズル連通口34,35及び圧力室30を通り、第1共通流路40からインクカートリッジ13へ向かう構成を採用することもできる。
【0055】
固定板23は、例えば、ステンレス鋼等の金属製の板材である。本実施形態における固定板23には、ノズルプレート20におけるノズル28が形成された領域に対応する位置に、これらのノズル28を露出させるため、開口部23aが厚さ方向を貫通する状態で形成されている。本実施形態において、この固定板23は、ノズルプレート20に形成された貫通口の下面側の開口部を塞いで第2コンプライアンス空間55の一部を区画している。
【0056】
次に、第1コンプライアンス部42について説明する。第2連通板25における第1連通板24側、即ち、第2導出液室48b側とは反対の上面側には、第1コンプライアンス空間51が設けられている。この第1コンプライアンス空間51は、第2連通板25の上面から薄肉部52の厚さ方向(即ち、第3方向Z)の途中まで窪んだ凹部からなる。そして、この第1コンプライアンス空間51の開口面が第1可撓部36によって封止された部分が、第1コンプライアンス部42として機能する。また、この第1可撓部36において圧力を受けた際に実質的に変形可能な領域が可撓領域である。本実施形態における第1コンプライアンス空間51は、図示しない大気開放路を通じて大気開放されている。第1可撓部36は、例えばポリフェニレンサルファイド、シリコン窒化膜、或はタンタル酸化膜等の可撓性を有する薄手の材料により作製されている。なお、後述する第2可撓部54も第1可撓部36と同様な構成となっている。この第1可撓部36は、共通液室37の一部、即ち、第1共通流路40の一部を区画している。なお、以下においては、記録ヘッド10のインク流路内にノズル28からのインクの噴射に伴う圧力振動が生じていない状態における第1可撓部36の可撓領域の状態を初期状態と称する。第1可撓部36の可撓領域は、初期状態において第1コンプライアンス空間51の開口面と概ね平行となっていると想定するが、自重及び第1共通流路40内のインクの重量や温度等の要因により初期状態の可撓領域が第1コンプライアンス空間51側又は第1共通流路40側に多少撓んでいても良い。なお、第1可撓部36または第2可撓部54を、ステンレス鋼等の金属から作製してもよい。
【0057】
第1コンプライアンス部42の第1可撓部36における可撓領域は、第1共通流路40内のインクの圧力振動(換言すると、圧力変化)に応じて初期状態から変位する(換言すると撓む)。より具体的には、第1共通流路40内のインクの圧力が第1コンプライアンス空間51の内圧よりも高まった場合、第1可撓部36の可撓領域が、初期状態から第1コンプライアンス空間51側に変位する。また、第1共通流路40内のインクの圧力が第1コンプライアンス空間51の内圧よりも低くなった場合、第1可撓部36の可撓領域が、初期状態から第1共通流路40側に変位する。これにより、記録ヘッド10の記録動作、即ち、インクの噴射動作に伴ってインク流路内、特に第1共通流路40内のインクに生じた圧力振動、換言すると、インク噴射後の残留振動が緩和される。ここで、第1可撓部36が撓んでいない平坦な状態、換言すると、第1コンプライアンス部42が設けられた基板(即ち、本実施形態においては第1連通板24)の上下面と平行な状態における第1可撓部36の厚さ方向が、第1コンプライアンス部42の厚さ方向である。本実施形態において、第1コンプライアンス部42の厚さ方向は、第3方向Zとなっている。なお、同様に、後述する第2コンプライアンス部43の厚さ方向は、第3方向Zとなっている。
【0058】
図4に示されるように、第1コンプライアンス部42は、第1方向Xにおいて第1共通流路40の一端から他端に亘って形成され、また、第2方向Yにおいて供給口44とは反対側の端から供給口隔壁38の少し手前に亘って形成されている。ここで、薄肉部47における各個別供給流路39の並設方向、即ち第1方向Xにおける個別供給流路39の内寸、即ち、幅をW(なお、以下においては個別供給流路39の幅をW1、個別導出流路50の幅をW2とする)としたとき、個別供給流路39の延在方向、即ち第2方向Yにおいて第1可撓部36の可撓領域のうち個別供給流路39に最も近接する縁、換言すると第2方向Yにおける個別供給流路39側の端が、個別供給流路39の第1共通流路40側の出口からW1以内に配置されている。本実施形態においては、第2液室37bの第1方向Xにおける両端に位置する個別供給流路39a,39b以外の個別供給流路39の第1共通流路40側の出口からW1以内に第1コンプライアンス部42の可撓領域の端が配置されている。このように、第1コンプライアンス部42を個別供給流路39の出口にできるだけ近接させて配置することにより、個別供給流路39の内部を伝ってきた圧力振動がより速やかに緩和される。本実施形態においては、第1コンプライアンス部42は、個別供給流路39の第1共通流路40側の出口からW1以内であって、第3方向Zで見て各個別供給流路39と重ならない位置に配置されている。これにより、第1コンプライアンス部42の可撓領域と、個別供給流路39を区画している供給口隔壁38とが互いに干渉しないので、第1コンプライアンス部42の可撓領域が変形する際に供給口隔壁38と接触している部分に応力が集中して当該部分を起点として第1コンプライアンス部42の第1可撓部36が損傷したり、各個別供給流路39における流路抵抗がばらついたりすることが防止される。
【0059】
図7及び図8は、個別供給流路39から第1共通流路40側へ向かうインクの流れ、即ち、インクの噴射動作に伴って圧力室30の内部のインクの圧力が高まったときのインクの流れについて説明する模式図である。ここで、所定のノズル28から単独でインクを噴射させた場合、当該ノズル28に対応する個別供給流路39の出口から第1共通流路40側へ流れ出たインクは、図7に示されるように、第1共通流路40における比較的広い範囲に拡散することができる。これに対して、複数のノズル28から同時にインクを噴射させた場合、図8に示されるように、互いに隣り合う個別供給流路39の出口からインクが第1共通流路40側へ向けて一斉に流れ出るため、図8において破線で示される領域において、恰も供給口隔壁38が延長されたかのように各個別導出流路50の出口の近傍の圧力が高まる。このため、個別供給流路39の出口から第1共通流路40側へ流れ出たインクは横方向、すなわち、隣接する個別供給流路39側へは向かうことができず、その分、流路抵抗が高まってしまう。その結果、同時に噴射が行われるノズル28の数の多寡に応じて、噴射されるインクの量や飛翔速度等の噴射特性がばらついてしまう虞がある。このような問題に対し、本実施形態では、個別供給流路39の第1共通流路40側の出口からW1以内に第1コンプライアンス部42が配置されているので、同時に噴射が行われるノズル28の数に拠らず、噴射特性のばらつきを低減することが可能となる。
【0060】
次に、第2コンプライアンス部43について説明する。上記のように、ノズルプレート20には、第2コンプライアンス部43が設けられている。この第2コンプライアンス部43の第2コンプライアンス空間55も、第1コンプライアンス空間51と同様に、図示しない大気開放路を通じて大気開放されている。第2コンプライアンス部43の第2可撓部54は、第2共通流路41の一部を区画している。第1コンプライアンス部42と同様に、第2コンプライアンス部43の第2可撓部54における可撓領域は、第2共通流路41内のインクの圧力振動に応じて初期状態から第2コンプライアンス空間55又は第2共通流路41側に変位する。これにより、記録ヘッド10の記録動作、即ち、インクの噴射動作に伴ってインク流路内、特に第2共通流路41内のインクに生じた圧力振動、換言すると、インク噴射後の残留振動が緩和される。
【0061】
図5に示されるように、第2コンプライアンス部43は、第1方向Xにおいて第2共通流路41の一端から他端に亘って形成され、また、第2方向Yにおいて供給口44とは反対側の端から導出流路隔壁53の少し手前に亘って形成されている。より具体的には、個別導出流路50の幅をW2として、第2方向Yにおいて第2可撓部54の可撓領域のうち個別導出流路50に最も近接する縁、換言すると第2方向Yにおける個別導出流路50側の端が、個別導出流路50の第2共通流路41側の出口からW2以内に配置されている。本実施形態においては、第2液室37bの第1方向Xにおける両端に位置する個別導出流路50a,50b以外の個別導出流路50の第2共通流路41側の出口からW2以内に第2コンプライアンス部43の可撓領域の端が配置されている。第2共通流路41側の出口とは、個別導出流路50を区画している導出流路隔壁53の第2共通流路41側の端で規定される個別導出流路50の開口である。このように、第2コンプライアンス部43を個別導出流路50の出口にできるだけ近接させて配置することにより、個別導出流路50の内部を伝ってきた圧力振動がより速やかに緩和される。本実施形態においては、第2コンプライアンス部43は、個別導出流路50の第2共通流路41側の出口からW2以内であって、第3方向Zで見て各個別導出流路50と重ならない位置に配置されている。これにより、第2コンプライアンス部43の可撓領域と、個別導出流路50を区画している供給口隔壁38とが互いに干渉しないので、第1コンプライアンス部42の可撓領域が変形する際に導出流路隔壁53と接触している部分に応力が集中して当該部分を起点として第1コンプライアンス部42の第2可撓部54が損傷したり、各個別導出流路50における流路抵抗がばらついたりすることが防止される。
【0062】
上記構成の記録ヘッド10では、制御部からの駆動信号に従い圧電素子31が駆動されることにより、圧力室30内のインクに圧力振動が生じ、この圧力振動によって所定のノズル28からインクが噴射される。また、記録ヘッド10の液体噴射動作に伴ってインク流路内で生じた圧力振動に伴ってインク流路における往路側の第1コンプライアンス部42の第1可撓部36及びインク流路における復路側の第2コンプライアンス部43の第2可撓部54がそれぞれ変位することで、圧力振動が吸収される。これにより、インク噴射後の残留振動である圧力振動に起因して噴射特性がばらつくことが抑制される。
【0063】
そして、本開示に係る記録ヘッド10では、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが、これらのコンプライアンス部42,43の厚さ方向、即ち、本実施形態においては第3方向Zで見て互いに重なるように、換言するとオーバーラップするように配置されている。本実施形態では、第3方向Zとノズルプレート20の厚さ方向とが平行である。つまり、本実施形態では、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが、ノズルプレート20の厚さ方向において重なるように配置されている。尚、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが、ノズルプレート20の厚さ方向において「重なる」とは、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが、ノズルプレート20の厚さ方向において対向することを意味する。第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが「対向する」とは、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43との間に、他の物が存在しない場合と存在する場合との両方を含む意味である。また、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが、ノズルプレート20の厚さ方向において「重なる」とは、ノズルプレート20の厚さ方向に垂直な投影面に、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とを投影した場合に、投影面において、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが重なる領域が存在することをも意味する。ここで、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが互いに重なった状態には、両者が部分的に重なった状態も含むが、それぞれのコンプライアンス部42,43の面積の半分以上が重なった状態がより望ましい。また、第1コンプライアンス部42の面積と第2コンプライアンス部43の面積とが同一である場合、両者の全体が互いに重なった状態がさらに望ましい。或は、第1コンプライアンス部42の面積と第2コンプライアンス部43の面積のうち、いずれか一方の面積が他方の面積よりも小さい場合、小さい方の可撓領域が、大きい方の可撓領域の範囲内に含まれる状態、即ち、一方が他方に包含された状態がさらに望ましい。
【0064】
本実施形態においては、第2コンプライアンス部43の面積が、第1コンプライアンス部42の面積よりも広く設定されており、第3方向Zから見て、この第2コンプライアンス部43の可撓領域の範囲内に第1コンプライアンス部42の可撓領域が包含されるように各コンプライアンス部42,43が配置されている。このように、これらのコンプライアンス部42,43のうち、復路側の第2コンプライアンス部43の可撓領域の面積がより大きく設定されることにより、第2コンプライアンス部43のコンプライアンスが、第1コンプライアンス部42のコンプライアンスよりも大きくなっている。コンプライアンス〔m/N〕とは、単位圧力当たりの変形量のことを意味する。ここで、インクカートリッジ13と記録ヘッド10との間でインクが循環する構成において、循環機構であるポンプ14の駆動時の圧力振動、即ち、脈動が、インク噴射時の圧力振動に重畳して第2共通流路41におけるインクの圧力振動が大きくなる場合があり、このような場合、第2共通流路41のインクが個別導出流路50を通じて圧力室30側に逆流し、これにより噴射特性が目標値から変動してしまう虞がある。
【0065】
本実施形態においては、復路側の第2コンプライアンス部43のコンプライアンスをより大きく設定することで、ポンプ14の駆動時の圧力振動がインク噴射時の圧力振動に重畳した場合においても、当該第2コンプライアンス部43によって当該振動を充分に低減することが可能となり、インクの噴射特性に悪影響を及ぼすことがより確実に抑制される。なお、コンプライアンス部におけるコンプライアンスの大きさについては、可撓領域の面積に限られず、例えば、可撓部の材質や厚さを変更することで調整しても良い。また、第1コンプライアンス部42又は第2コンプライアンス部43のうち、ノズル28により近い方のコンプライアンスが、ノズル28からより遠い方のコンプライアンスよりも大きい構成を採用することもできる。本実施形態においては、この観点からも、ノズル28により近い位置に配置された第2コンプライアンス部43のコンプライアンスが、第1コンプライアンス部42のコンプライアンスよりも大きくなっている。この構成によれば、ノズル28におけるインクの噴射により生じた圧力振動を当該ノズル28により近い位置でより確実に低減することが可能となる。これにより、ノズル28からのインクの噴射特性が目標値から変動することがより確実に抑制される。
【0066】
以上のように、本開示によれば、インクカートリッジ13と記録ヘッド10との間でインクが循環される構成において、インクカートリッジ13側から圧力室30側へ向かう往路を構成する第1共通流路40と、圧力室30側からインクカートリッジ13側へ戻る復路を構成する第2共通流路41とのそれぞれにコンプライアンス部42,43を設けたとしても、記録ヘッド10の大型化を抑制することが可能となる。これにより、当該記録ヘッド10を搭載するプリンター1の小型化にも寄与する。また、複数の圧力室30、換言すると、複数のノズル28に共通の第1共通流路40及び第2共通流路41にそれぞれコンプライアンス部42,43が設けられているので、個別流路、即ち、個別供給流路39や個別導出流路50のそれぞれに個別にコンプライアンス部を設ける構成と比較して、各圧力室30におけるインク噴射動作に伴って生じた圧力振動をより効率よく抑制することが可能となる。このため、各ノズル28からより高い駆動周波数でインクを噴射させた場合においても、当該噴射動作に伴って生じた圧力振動をより確実に抑制することができるので、より高い駆動周波数でのインクの噴射に対応することが可能となる。
【0067】
なお、本実施形態においては、図2に示されるように、ノズル群の並設方向である第2方向Yにおいて、対を成す第2共通流路41の間に対を成す第1共通流路40が配置され、これらの第1共通流路40の間にノズル群が配置されたので、ノズル群をより高密度に配置することができる。また、記録ヘッド10の内部において、各ノズル群に対応する共通流路40,41や圧力室30を含むインク流路、或は、圧電素子31等をより効率よくレイアウトすることが可能となり、記録ヘッド10の小型化に寄与する。また、第2方向Yにおいて、第1共通流路40よりも外側に第2共通流路41が配置されるので、当該第2共通流路41に対応する第2コンプライアンス部43の面積をより大きく確保することが可能となる。
【0068】
図9は、第2の実施形態に係る記録ヘッド10を示す断面図、図10は、第2の実施形態に係る記録ヘッド10の変形例を示す断面図である。本実施形態においては、第2連通板25に第1コンプライアンス部42及び第2コンプライアンス部43が設けられている。第1共通流路40に対応する第1コンプライアンス部42は、第1の実施形態と同様に、第2連通板25の上面側、より具体的には、薄肉部52の上面側における第1共通流路40に対応する領域に設けられている。本実施形態における第1コンプライアンス部42は、第1可撓部36と、当該第1可撓部36を支持する第1支持板65と、第1コンプライアンス空間51と、から構成されている。第1支持板65は、例えば、ステンレス鋼等の第1可撓部36を支持可能な硬質の材料で形成されている。この第1支持板65は、第3方向Zにおける平面視で中央部分が貫通した枠状を呈し、この枠状部分に第1可撓部36が固定されている。そして、この第1支持板65は、第1コンプライアンス空間51の開口部に設けられた段差に嵌合して接合されている。即ち、本実施形態における第1可撓部36は、第1コンプライアンス部42に対応する部分にのみ設けられている。
【0069】
また、本実施形態における第2コンプライアンス部43は、第2連通板25の薄肉部52の下面側における第2共通流路41に対応する領域に設けられている。第2コンプライアンス部43の第2コンプライアンス空間55は、薄肉部52において第1コンプライアンス部42の第1コンプライアンス空間51との間に仕切壁67を挟んで下面側に形成されている。そして、本実施形態における第2コンプライアンス部43は、第2可撓部54と、当該第2可撓部54を支持する第2支持板66と、第2コンプライアンス空間55と、から構成されている。第2支持板66は、第1支持板65と同様に、ステンレス鋼等の硬質の材料から枠状に形成され、この枠状部分に第2可撓部54が固定されている。そして、この第2支持板66は、第2コンプライアンス空間55の開口部に設けられた段差に嵌合して接合されている。なお、本実施形態においては、第1コンプライアンス空間51と第2コンプライアンス空間55とが仕切壁67によって互いに個別の空間とされた構成を例示したが、例えば、図10に示されるように、仕切壁67が無く、両者が一連に繋がった構成を採用することも可能である。即ち、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが一つの共通コンプライアンス空間68を共有しても良い。他の構成については、第1の実施形態と同様である。
【0070】
図11は、第3の実施形態に係る記録ヘッド10の断面図である。上記各実施形態においては、各コンプライアンス部42,43の厚さ方向が記録ヘッド10の構成部材の積層方向、即ち、第3方向Zである構成を例示したが、これには限られない。本実施形態においては、ケース27における第1共通流路40を構成する導入流路45の第3方向Zに沿った壁面に第1コンプライアンス部42が設けられている。より具体的には、導入流路45とアクチュエーター基板26を収容する収容空部58とを区画する区画壁72に開口部が設けられ、当該開口部を塞ぐ形で第1コンプライアンス部42が設けられている。この第1コンプライアンス部42は、収容空部58を第1コンプライアンス空間51として用いる構成とされている。このため、第1コンプライアンス空間51を別途設ける必要がなく、記録ヘッド10の小型化に寄与する。また、第2コンプライアンス部43は、ケース27における第2共通流路41を構成する導出流路46の第3方向Zに沿った壁面に設けられている。より具体的には、ケース27の第2方向Yにおける両側の外壁面73に導出流路46と連通する開口部が開設され、当該開口部を塞ぐ形で第2コンプライアンス部43が設けられている。また、ケース27の外壁面73の第2コンプライアンス部43に対応する部分には、第2コンプライアンス部43の第2可撓部54を保護するための保護板70が接合されている。この保護板70と第2可撓部54との間の空間が第2コンプライアンス空間55として機能する。本実施形態では、これらのコンプライアンス部42,43の厚さ方向が、ノズル列方向である第1方向Xに交差する第2方向Yとなっている。本実施形態においても、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが、これらのコンプライアンス部42,43の厚さ方向、即ち、本実施形態においては第2方向Yで見て互いにオーバーラップするように配置されている。このため、記録ヘッド10の小型化が可能となる。
【0071】
なお、本実施形態においては、第3方向Zに延在する第1共通流路40と第2方向Yに延在する個別供給流路39との境界部分に、流路断面積が個別供給流路39の流路断面積よりも小さく設定された狭窄部としての供給口44が設けられている。これにより、インクカートリッジ13側から第1共通流路40に送られてくるインクに気泡が混入していたとしても、ノズル28からのインクの噴射に影響を及ぼすほどの大きさの気泡は、当該供給口44を通過できずトラップされる。そして、当該供給口44を通過できなかった気泡は、浮力によって第1共通流路40の上流側に浮上する。このため、このような気泡によるインクの噴射への悪影響をより効果的に抑制することが可能となる。なお、他の構成については第1の実施形態と同様である。
【0072】
図12は、第4の実施形態に係る記録ヘッド10の断面図である。本実施形態においては、第1コンプライアンス部42については第3の実施形態と同様にケース27における導入流路45とアクチュエーター基板26を収容する収容空部58とを区画する区画壁72に設けられている。これに対し、第2コンプライアンス部43は、ノズルプレート20における共通導出液室48に対応する領域に設けられている。本実施形態においては、第1コンプライアンス部42の厚さ方向が第2方向Yであるのに対し、第2コンプライアンス部43の厚さ方向が第3方向Zとなっている。この構成では、第2コンプライアンス部43の厚さ方向、即ち、第3方向Zで見て第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とがオーバーラップするように配置されている。このように、第1コンプライアンス部42又は第2コンプライアンス部43のうちのいずれか一方の厚さ方向で見て、これらのコンプライアンス部42,43が互いにオーバーラップする構成においても、記録ヘッド10の小型化に寄与することができる。また、本実施形態における第2コンプライアンス部43に関し、ノズルプレート20の下面側から上面側に向けて第2可撓部54として機能する肉薄部分を残して凹部が形成され、当該凹部の下面側開口が固定板23で塞がれることで第2コンプライアンス空間55が画成されている。このように記録ヘッド10の構成部材の厚さを部分的に薄くし、当該部分を可撓部として機能させることにより、可撓部を別途設けなくても済む。なお、他の構成については第1の実施形態と同様である。
【0073】
図13は、第5の実施形態に係る記録ヘッド10の断面図である。本実施形態においては、第2コンプライアンス部43については第1の実施形態と同様にノズルプレート20における共通導出液室48に対応する領域に設けられている。これに対し、第1コンプライアンス部42は、ケース27の第3方向Zにおける上面側に設けられている。本実施形態における第1共通流路40の導入流路45は、ケース27の上下面に平行な方向に延在する第1導入流路45aと、この第1導入流路45aと連通してケース27の上面側から下面側に向けて第3方向Zに沿って延在する第2導入流路45bとから構成されている。第1導入流路45aは、ケース27の上面において開口しており、この開口面が第1コンプライアンス部42の第1支持板65によって封止されている。そして、この第1支持板65に設けられた貫通口の一方の面、即ち、第1共通流路40側の面が第1可撓部36によって封止され、他方の面、即ち、ケース27の上面側の面が保護板70によって封止されることで第1コンプライアンス空間51が画成されている。また、第1コンプライアンス空間51から外れた位置には、第1支持板65及び第1可撓部36を貫通して導入口62が形成されている。本実施形態においても、第1コンプライアンス部42と第2コンプライアンス部43とが、これらのコンプライアンス部42,43の厚さ方向、即ち、本実施形態においては第3方向Zで見て互いにオーバーラップするように配置されている。このため、記録ヘッド10の小型化が可能となる。他の構成については第1の実施形態と同様である。
【0074】
この他、本開示は、往路に相当する流路と、復路に相当する流路を有し、液体貯留部との間で液体の循環が可能な構成であって、往路と復路のそれぞれにコンプライアンス部を有する種々の構成の液体噴射ヘッド及びこれを備える液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を複数備える液体噴射ヘッド、及び、これを備える液体噴射装置にも本開示を適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…プリンター,2…フレーム,3…プラテン,4…ガイドロッド,5…キャリッジ,6…流路部材,10…記録ヘッド,13…インクカートリッジ,14…ポンプ,15…インク供給チューブ,16…インク回収チューブ,20…ノズルプレート,21…キャッピング機構,22…キャップ,23…固定板,24…第1連通板,25…第2連通板,26…アクチュエーター基板,27…ケース,28…ノズル,29…圧力室形成基板,30…圧力室,31…圧電素子,32…保護基板,33…振動板,34…第1ノズル連通口,35…第2ノズル連通口,36…第1可撓部,37…共通液室,38…供給口隔壁,39…個別供給流路,40…第1共通流路,41…第2共通流路,42…第1コンプライアンス部,43…第2コンプライアンス部,44…供給口,45…導入流路,46…導出流路,47…薄肉部,48…共通導出液室,49…連通液室,50…個別導出流路,51…第1コンプライアンス空間,52…薄肉部,53…導出流路隔壁,54…第2可撓部,55…第2コンプライアンス空間,56…狭窄部,58…収容空部,59…挿通空部,62…導入口,63…導出口,65…第1支持板,66…第2支持板,67…仕切壁,68…共通コンプライアンス空間,70…保護板,72…区画壁,73…外壁面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13