(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20221004BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20221004BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221004BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20221004BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L7/00
C08K3/04
C08K5/3445
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2018203746
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 典大
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179269(JP,A)
【文献】特開2017-218524(JP,A)
【文献】特開2011-162654(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0161734(US,A1)
【文献】国際公開第2018/070147(WO,A1)
【文献】特開2018-062630(JP,A)
【文献】特開平05-255543(JP,A)
【文献】特開2013-241481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
C08L 7/00
C08K 3/04
C08K 5/3445
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックを8~110質量部配合し、該カーボンブラック100質量部に対して、式(1)で表される化合物を含有するカーボン表面改質剤を0.30質量部以上配合したことを特徴とするゴム組成物。
【化1】
(式中、環Q
1は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~3個の基で置換されていてもよいベンゼン環を表し;環Q
2は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環を表
し、イミダゾール環上のカルボニル基との結合手は、環を形成するいずれかの炭素原子である。)
【請求項2】
加硫後のゴム組成物を、アセトンを溶剤として用いて80℃で72時間ソックスレー抽出したときの式(2)で表される化合物の抽出量が、カーボンブラック100質量部に対して0.10質量部以上である、請求項1記載のゴム組成物。
【化2】
(環Q
2は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環を表
し、イミダゾール環上のカルボニル基との結合手は、環を形成するいずれかの炭素原子である。)
【請求項3】
請求項1または2記載のゴム組成物より構成されたトレッドを有する重荷重用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物および該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの耐摩耗性能を向上させる方法の1つとして、カーボンブラックを微粒子化させる技術が知られている。しかしながら、カーボンブラックの微粒子化は低燃費性能の悪化を招くため、耐摩耗性能と低燃費性能の両立は困難であった。
【0003】
この問題を解決するため、例えば、特許文献1~3に記載のカーボンカップリング剤を使用し、カーボンブラックとジエン系ゴムとを化学的に結合させることでカーボンブラックの分散を向上させ、低燃費性能を改善させる試みがなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-3236号公報
【文献】特開2016-216595号公報
【文献】特開2017-8230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボンカップリング剤を使用すると、カーボンとジエン系ゴムとの間で応力集中を発生させ、結果的に耐摩耗性能が悪化する為、耐摩耗性能と低燃費性能の両立には不十分であることがわかった。
【0006】
本発明は、耐摩耗性能および低燃費性能をバランス良く改善することができるゴム組成物、ならびに該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、カーボンブラックおよび式(1)で表される化合物を含有するカーボン表面改質剤を配合したゴム組成物が、耐摩耗性能および低燃費性能の総合性能を改善することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックを8~110質量部配合し、該カーボンブラック100質量部に対して、式(1)で表される化合物を含有するカーボン表面改質剤を0.30質量部以上配合したことを特徴とするゴム組成物。
【化1】
(式中、環Q
1は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~3個の基で置換されていてもよいベンゼン環を表し;環Q
2は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環を表す。)
〔2〕加硫後のゴム組成物を、アセトンを溶剤として用いて80℃で72時間ソックスレー抽出したときの式(2)で表される化合物の抽出量が、カーボンブラック100質量部に対して0.10質量部以上である、〔1〕記載のゴム組成物。
【化2】
(環Q
2は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環を表す。)
〔3〕〔1〕または〔2〕記載のゴム組成物より構成されたトレッドを有する重荷重用タイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐摩耗性能および低燃費性能をバランス良く改善することができるゴム組成物、ならびに該ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態であるゴム組成物は、カーボンブラックおよび式(1)で表される化合物を含有するカーボン表面改質剤を配合することを特徴とする。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0011】
本明細書において「置換基」の定義における炭素の数を、例えば、「C1-6」等と表記する場合もある。具体的には、「C1-6アルキル」なる表記は、炭素数1から6のアルキル基と同義である。
【0012】
「ハロゲン原子」の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子が挙げられる。好ましくは、フッ素原子および塩素原子である。
【0013】
「C1-6アルキル」は、炭素数1~6個を有する直鎖状もしくは分枝状の飽和炭化水素基を意味する。「C1-6アルキル」の具体例としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、1-エチルプロピル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、2-エチルブチル等が挙げられる。好ましくは「C1-4アルキル」であり、より好ましくは、メチルおよびエチルである。
【0014】
「C1-6アルコキシ」の「C1-6アルキル」部分は、前記「C1-6アルキル」と同義である。「C1-6アルコキシ」の具体例としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ等が挙げられる。好ましくは「C1-4アルコキシ」であり、より好ましくは、メトキシおよびエトキシである。
【0015】
「C1-6アルキル-カルボニル」の「C1-6アルキル」部分は、前記「C1-6アルキル」と同義である。「C1-6アルキル-カルボニル」の具体例としては、例えば、メチルカルボニル(アセチル)、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、イソプロピルカルボニル、ブチルカルボニル、ペンチルカルボニル、ヘキシルカルボニル等が挙げられる。好ましくは「C1-4アルキル-カルボニル」であり、より好ましくはアセチルである。
【0016】
<ゴム成分>
本実施形態において使用されるゴム成分としては、ジエン系ゴムであれば特に制限されないが、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴム(BR)が好適に用いられる。
【0017】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。なかでも、NRおよびIRが好ましく、IRがより好ましい。これらの他のイソプレン系ゴムは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0019】
イソプレン系ゴムのゴム成分100質量%中の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。また、該含有量の上限は特に制限されず、100質量%であってもよいが、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
【0020】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス1,4結合含有率が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRのなかでも、耐摩耗性能に優れるという理由から、ハイシスBRが好ましい。
【0021】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、BR150L、JSR(株)製のBR730等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のBUNA-CB25等が挙げられる。
【0022】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のVCR-303、VCR-412、VCR-617等が挙げられる。
【0023】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性)、住友化学工業(株)製のS変性ポリマー(シリカ用変性)等が挙げられる。
【0024】
BRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、該含有量は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
BRのシス1,4結合含有率(シス含量)は、耐久性や耐摩耗性能の観点から、90質量%以上が好ましく、93質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましい。シス含量が高い方が、ポリマー鎖が規則正しく配列されることから、ポリマー同士の相互作用が強くなりゴム強度が向上し、耐摩耗性能が向上すると考えられる。
【0026】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能およびグリップ性能等の観点から30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0027】
(その他のゴム成分)
本実施形態に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴムおよびBR以外のジエン系ゴムを含有してもよい。ジエン系ゴムとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)等が挙げられる。これらその他のゴム成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本実施形態に係るゴム組成物には、例えば、分子構造中に少なくとも1種の金属配位能を有する官能基を含む複合材料等を配合してもよい。ここで、金属配位能を有する官能基としては、金属配位能を持つものであれば特に限定されず、例えば、酸素、窒素、硫黄等の金属配位性の原子を含む官能基が挙げられる。具体的には、ジチオカルバミン酸基、リン酸基、カルボン酸基、カルバミン酸基、ジチオ酸基、アミノ燐酸基、チオール基等が例示される。上記官能基は1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。
【0029】
該官能基に対する配位金属としては、例えば、Fe、Cu、Ag、Co、Mn、Ni、Ti、V、Zn、Mo、W、Os、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Si等が挙げられる。例えば、このような金属原子(M1)を有する化合物が配合されかつ金属配位能を有する官能基(-COO等)を含む高分子材料では、各-COOM1が配位結合して多数の-COOM1が重なることにより、金属原子が凝集したクラスターが形成される。なお、上記金属原子(M1)の配合量としては、高分子材料中のポリマー成分100質量部に対して、0.01~200質量部が好ましい。
【0030】
<カーボンブラック>
カーボンブラックとしては、ゴム用として一般的なものを適宜利用することができる。具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から50m2/g以上が好ましく、60m2/g以上がより好ましく、70m2/g以上がさらに好ましく、80m2/g以上が特に好ましい。また、低燃費性能の観点からは、400m2/g以下が好ましく、350m2/g以下がより好ましく、300m2/g以下がさらに好ましい。なお、本実施形態において、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217のA法に準拠して測定される。
【0032】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能の観点から、8質量部以上であり、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、110質量部以下であり、105質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましく、80質量部以下が特に好ましい。
【0033】
<カーボン表面改質剤>
本実施形態に係るゴム組成物は、下記式(1)で表される化合物を1種または2種以上含有するカーボン表面改質剤が配合される。好ましくは、式(1)で表される化合物からなるカーボン表面改質剤である。
【化3】
(式中、環Q
1は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~3個の基で置換されていてもよいベンゼン環を表し;環Q
2は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環を表す。)
【0034】
式(1)で表される化合物は、既存のカーボンカップリング剤のようにカーボンブラックとジエン系ゴムとを結合させるのではなく、カーボンブラックの表面にのみ結合する。そして、カーボンブラックとジエン系ゴムとの相溶性を向上させることでカーボンブラック分散性を向上させ、低燃費性能を確保することができる。さらに、カーボンブラックとジエン系ゴムとの間の応力集中を防ぐことで、耐摩耗性能を向上させることができる。
【0035】
環Q1として好ましくは、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、およびアセチル基からなる群から選ばれる1~3個の基で置換されていてもよいベンゼン環であり;より好ましくは、ハロゲン原子、C1-4アルキル基、およびC1-4アルコキシ基からなる群から選ばれる1~3個の基で置換されていてもよいベンゼン環である。
【0036】
環Q2として好ましくは、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、およびアセチル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環であり;より好ましくは、ハロゲン原子、アミノ基、およびC1-4アルキル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環であり;さらに好ましくは、1~2個のC1-4アルキル基で置換されているイミダゾール環である。なお、イミダゾール環上のカルボニル基との結合手は、環を構成する炭素原子および窒素原子のいずれであってもよい。
【0037】
カーボン表面改質剤のカーボンブラック100質量部に対する配合量は、0.30質量部以上であり、0.40質量部以上が好ましく、0.50質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。カーボン表面改質剤の配合量が0.30質量部未満の場合は、カーボン表面改質の効果を十分に発揮することができず、耐摩耗性能および低燃費性能の改善効果が充分に得られない傾向がある。また、カーボン表面改質剤の配合量の上限は特に制限されないが、コストの観点、また耐摩耗性能および低燃費性能の改善効果が飽和する観点から、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
【0038】
カーボンブラックとカーボンブラック表面改質剤の結合に際しては、式(1)で表される化合物のアミド結合が、混練過程において加水分解反応を起こして開裂し、その結果生じたアミノ基を有する化合物とカーボンブラック表面の官能基とが結合する。一方、加水分解の結果生じた、下記式(2)で表されるカルボン酸は、加硫後のゴムをソックスレー抽出することにより回収することができる。
【化4】
(環Q
2は、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基、C
1-6アルキル基、C
1-6アルコキシ基、およびC
1-6アルキル-カルボニル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環を表す。)
【0039】
環Q2として好ましくは、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ基、およびアセチル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環であり;より好ましくは、ハロゲン原子、アミノ基、およびC1-4アルキル基からなる群から選ばれる1~2個の基で置換されていてもよいイミダゾール環であり;さらに好ましくは、1~2個のC1-4アルキル基で置換されているイミダゾール環である。なお、イミダゾール環上のカルボニル基との結合手は、環を構成する炭素原子および窒素原子のいずれであってもよい。
【0040】
加硫後のゴム組成物を、JIS K 6229:2015「ゴム-溶剤抽出物の求め方(定量)」記載のA法に準じ、アセトンを溶剤として用いて80℃で72時間ソックスレー抽出したときの式(2)で表される化合物の抽出量は、カーボンブラック100質量部に対して0.10質量部以上が好ましく、0.20質量部以上がより好ましく、0.30質量部以上がさらに好ましく、0.40質量部以上が特に好ましい。抽出量が0.10質量部未満の場合は、カーボン表面改質の効果を十分に発揮することができず、耐摩耗性能および低燃費性能の改善効果が充分に得られない傾向がある。また、式(2)で表される化合物の抽出量の上限は特に制限されないが、耐摩耗性能および低燃費性能の改善効果が飽和する観点から、40質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0041】
<その他の配合剤>
本実施形態で作製されるゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、シリカ等の補強用充填剤、シランカップリング剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加工助剤、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜配合することができる。
【0042】
充填剤としては、例えばmM2・xSiOy・zH2O(式中、M2はアルミニウム、カルシウム、マグネシウム、チタンおよびジルコニウムよりなる群より選択された少なくとも1種の金属、又は該金属の酸化物、水酸化物、水和物若しくは炭酸塩を示し;mは1~5、xは0~10、yは2~5、zは0~10の範囲の数値を示す。)で表される充填剤等が挙げられる。
【0043】
上記mM2・xSiOy・zH2Oで表される充填剤の具体例としては、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、アルミナ(Al2O3、Al2O3・3H2O)、クレー(Al2O3・2SiO2)、カオリン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、パイロフィライト(Al2O3・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al2O3・4SiO2・2H2O)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5、Al4(SiO2)3・5H2O等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al2O3・CaO・2SiO2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、酸化カルシウム(CaO)、ケイ酸カルシウム(Ca2SiO4)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、酸化マグネシウム(MgO)、タルク(MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al2O3)、チタン白(TiO2)、チタン黒(TinO2n-1)等が挙げられる。このような充填剤を含むゴム組成物では、充填剤が凝集したクラスターが形成される。なお、上記充填剤の配合量としては、ゴム成分100質量部に対して、10~200質量部が好ましい。
【0044】
シランカップリング剤としては、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン等のニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロ系等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系が好ましく、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドがより好ましい。
【0045】
前記老化防止剤としては特に限定されず、ゴム分野で使用されているものが使用可能であり、例えば、キノリン系、キノン系、フェノール系、フェニレンジアミン系老化防止剤等が挙げられる。
【0046】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤の含有量は、充填剤等の分散性、破断時伸び、混練効率の観点から、2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましく、1.2質量部以下がより好ましい。
【0047】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加工性の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0048】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加硫速度の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0049】
前記軟化剤としては、例えば、プロセスオイルや植物油脂等のオイル、液状ジエン系重合体等が挙げられる。これらの軟化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、オイルが好ましい。
【0050】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、その混合物等が挙げられる。プロセスオイルとしては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル(アロマオイル)等が挙げられる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。なかでも、アロマオイルが好ましい。
【0051】
軟化剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、軟化剤の含有量は、耐ブロック性能および耐摩耗性能の観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0052】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0053】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、劣化の観点からは、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましい。
【0054】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、又はキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤がより好ましい。
【0055】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、およびN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0056】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫速度を確保するという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上が好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、ブルーミングを抑制するという観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0057】
ゴム組成物の製造方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機等のゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0058】
<タイヤ>
本発明の一実施形態であるタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して前記の配合剤を必要に応じて配合した前記ゴム組成物を、ベーストレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0059】
タイヤは、乗用車用タイヤ、乗用車用高性能タイヤ、トラックやバス等の重荷重用タイヤ、競技用タイヤ等タイヤ全般に用いることができるが、耐摩耗性能に優れることから、重荷重用タイヤとして好適に使用される。
【実施例】
【0060】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0061】
実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
IR:日本ゼオン(株)製のニッポールIR2200
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR150B(Mw:44万、ハイシスBR、シス-1,4結合含量:96%)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN234(N
2SA:117m
2/g)
カーボン表面改質剤:下記式で表される化合物
【化5】
カーボンカップリング剤:下記式で表される化合物
【化6】
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
老化防止剤:大内新興化学(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン、6PPD)
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0062】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、3Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を150℃の条件下で4分間混練して、混練物を得た。次に、オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を140℃の条件下で50分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物(シート)を得た。
【0063】
得られた未加硫ゴム組成物および加硫ゴム組成物を用いて以下に示す方法により評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0064】
<粘弾性試験>
(株)上島製作所製のスペクトロメーターを用いて、動的歪振幅1%、周波数10Hz、温度60℃でtanδを測定した。得られたtanδの逆数の値について、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほどエネルギーロスが小さく、低燃費性能に優れることを示す。
【0065】
<摩耗試験>
ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、負荷荷重1.0kgf、スリップ率30%の条件で摩耗量を測定した。得られた摩耗量の逆数の値について、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性能が高いことを示す。
【0066】
【0067】
表1の結果より、カーボンブラックおよび式(1)で表される化合物を含有するカーボン表面改質剤を配合した本発明のゴム組成物は、耐摩耗性能および低燃費性能の平均指数が100を超えていることから、耐摩耗性能および低燃費性能の総合性能が改善されていることがわかる。
【0068】
<ソックスレー抽出>
各加硫ゴム組成物を、JIS K 6229:2015「ゴム-溶剤抽出物の求め方(定量)」記載のA法に準じ、アセトンを溶剤として用いて80℃で72時間ソックスレー抽出したときの、下記式で表される化合物の、ゴム成分100質量部に対する抽出量(質量部)を以下に示す。
【化7】
【0069】
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のゴム組成物は、良好な耐摩耗性能および低燃費性能を有するので、特に重荷重用タイヤのトレッドゴムとして好適に使用される。