(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】液体吐出装置、プリントヘッド及び液体吐出方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20221004BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/01 451
B41J2/01 301
B41J2/01 401
B41J2/165 203
B41J2/165 207
B41J2/165 301
(21)【出願番号】P 2018219357
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】上柳 雅史
(72)【発明者】
【氏名】松山 徹
【審査官】井出 元晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-039886(JP,A)
【文献】特開2013-028183(JP,A)
【文献】特開2017-148982(JP,A)
【文献】特開2015-058540(JP,A)
【文献】特開2013-233704(JP,A)
【文献】米国特許第05929875(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記ノズルから吐出される液体の吐出状態を示す情報を取得する取得部と、
前記残留振動信号と前記吐出状態との関係を機械学習する学習部と、
を含
み、
前記学習部は、前記機械学習した前記残留振動信号と前記吐出状態との関係に基づいて、前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を示す学習閾値信号を生成し、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記ノズルが正常であるか否か境界を示す第1閾値と第2閾値とを含み、
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記学習閾値信号に基づいて更新される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記残留振動信号と前記ノズルから吐出される液体の吐出状態との関係を機械学習させた学習モデルを記憶する記憶部と、
前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を判定する判定部と、
を含
み、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び前記判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記ノズルが正常であるか否か境界を示す第1閾値と第2閾値とを含み、
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて更新される、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記キャビティの内部に気泡が混入する気泡混入、前記ノズルの付近の液体が乾燥により増粘する乾燥増粘、及び前記ノズルの出口付近に紙粉が付着する紙粉付着の少なくとも1つを前記吐出異常の原因として特定する、
ことを特徴とする請求項
1又は
2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記所定の閾値として
前記第1閾値と、前記第1閾値よりも長い周期に設けられた
前記第2閾値と、前記第2閾値よりも長い周期に設けられた第3閾値とを有し、
前記残留振動信号の周期が、前記第1閾値未満の場合、前記判定部は、前記吐出異常の原因を前記気泡混入と判定し、
前記残留振動信号の周期が、前記第2閾値を超えて、且つ前記第3閾値以下の場合、前記判定部は、前記吐出異常の原因を前記紙粉付着と判定し、
前記残留振動信号の周期が、前記第3閾値を超える場合、前記判定部は、前記吐出異常の原因を前記乾燥増粘と判定する、
ことを特徴とする請求項
3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記駆動素子と電気的に接続され、前記駆動波形信号を前記駆動素子に供給するか否かを選択する吐出選択回路と、
前記液体吐出ヘッドと、前記吐出選択回路と、前記吐出異常検出回路とに電気的に接続される切替回路と、
前記吐出異常から回復させる為の回復処理を実行する回復機構と、
を備え、
前記切替回路は、前記液体吐出ヘッドと前記吐出選択回路とを電気的に接続するか、又は前記液体吐出ヘッドと前記吐出異常検出回路とを電気的に接続するかを切替える、
ことを特徴とする請求項
3又は
4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記回復機構は、前記回復処理として、
前記吐出異常の原因が前記気泡混入の場合、前記液体吐出ヘッドの前記ノズルが設けられるノズル面を覆うキャップにポンプを接続し吸引するポンプ吸引処理を実行し、
前記吐出異常の原因が前記乾燥増粘の場合、前記液体吐出ヘッドのクリーニングのために前記駆動素子を駆動させ前記ノズルから液体を吐出させるフラッシング処理、又は前記ポンプ吸引処理を実行し、
前記吐出異常の原因が前記紙粉付着の場合、前記液体吐出ヘッドの前記ノズル面を拭き取るワイピング処理を実行する、
ことを特徴とする請求項
5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記回復機構は、前記吐出異常検出回路において前記吐出異常が検出された異常ノズルに対して、前記回復処理を実行し、
前記回復処理の実行後、前記異常ノズルに対応する前記振動板が変位され、
前記吐出異常検出回路は、前記異常ノズルに対応する前記振動板の変位により生じる前記残留振動信号に基づいて、前記異常ノズルの前記吐出異常の有無を再検出する、
ことを特徴とする請求項
6に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記回復機構は、前記吐出異常検出回路において前記吐出異常が検出された異常ノズルに対して、前記フラッシング処理を実行し、
前記フラッシング処理の実行後、前記異常ノズルに対応する前記振動板が変位され、
前記吐出異常検出回路は、前記異常ノズルに対応する前記振動板の変位により生じる前記残留振動信号に基づいて、前記異常ノズルの前記吐出異常の有無を再検出するとともに、前記吐出異常の原因を特定し、
前記回復機構は、前記再検出において前記吐出異常検出回路が特定した前記吐出異常の原因に応じた前記回復処理を実行させる、
ことを特徴とする請求項
6に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
複数の前記液体吐出ヘッドと、複数の前記吐出異常検出回路と、複数の前記切替回路とを備え、
複数の前記吐出異常検出回路のうちの第1吐出異常検出回路は、複数の前記液体吐出ヘッドのうちの第1液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
複数の前記切替回路のうちの第1切替回路は、前記第1液体吐出ヘッドと前記吐出選択回路とを電気的に接続するか、又は前記第1液体吐出ヘッドと前記第1吐出異常検出回路とを電気的に接続するかを切替え、
複数の前記吐出異常検出回路のうちの第2吐出異常検出回路は、複数の前記液体吐出ヘッドのうちの第2液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
複数の前記切替回路のうちの第2切替回路は、前記第2液体吐出ヘッドと前記吐出選択回路とを電気的に接続するか、又は前記第2液体吐出ヘッドと前記第2吐出異常検出回路とを電気的に接続するかを切替え、
前記吐出選択回路は、前記第1液体吐出ヘッドが有する前記駆動素子と、前記第2液体吐出ヘッドが有する前記駆動素子とのそれぞれに対して、前記駆動波形信号を供給するか否かを選択し、
前記第1吐出異常検出回路における、前記第1液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前
記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因の特定と、前記第2吐出異常検出回路における、前記第2液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因の特定とは並行して行われる、
ことを特徴とする請求項
5乃至
8のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記回復機構は、前記第1吐出異常検出回路が検出する前記吐出異常の原因に応じて、前記第1液体吐出ヘッドに対して、前記回復処理を実行し、前記第2吐出異常検出回路が検出する前記吐出異常の原因に応じて、前記第2液体吐出ヘッドに対して、前記回復処理を実行する、
ことを特徴とする請求項
9に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記吐出異常検出回路は、前記ノズルから液体が吐出されている吐出動作中に、前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する、
ことを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
振動板と、駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記ノズルから吐出される液体の吐出状態を示す情報を取得する取得部と、
前記残留振動信号と前記吐出状態との関係を機械学習する学習部と、
を含
み、
前記学習部は、前記機械学習した前記残留振動信号と前記吐出状態との関係に基づいて、前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を示す学習閾値信号を生成し、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記ノズルが正常であるか否か境界を示す第1閾値と第2閾値とを含み、
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記学習閾値信号に基づいて更新される、
ことを特徴とするプリントヘッド。
【請求項13】
振動板と、駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記残留振動信号と前記ノズルから吐出される液体の吐出状態との関係を機械学習させた学習モデルを記憶する記憶部と、
前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を判定する判定部と、
を含
み、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び前記判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記ノズルが正常であるか否か境界を示す第1閾値と第2閾値とを含み、
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて更新される、
ことを特徴とするプリントヘッド。
【請求項14】
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備える液体吐出装置の液体吐出方法であって、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出するステップと、
前記ノズルから吐出される液体の吐出状態を示す情報を取得するステップと、
前記残留振動信号と前記吐出状態との関係を機械学習するステップと、
を含
み、
前記機械学習した前記残留振動信号と前記吐出状態との関係に基づいて、前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を示す学習閾値信号を生成し、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記ノズルが正常であるか否か境界を示す第1閾値と第2閾値とを含み、
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記学習閾値信号に基づいて更新される、
ことを特徴とする液体吐出方法。
【請求項15】
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、
内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備える液体吐出装置の液体吐出方法であって、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出するステップと、
前記残留振動信号と前記ノズルから吐出される液体の吐出状態との関係を機械学習させた学習モデルを記憶するステップと、
前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を判定するステップと、
を含
み、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記ノズルが正常であるか否か境界を示す第1閾値と第2閾値とを含み、
前記第1閾値及び前記第2閾値は、前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて更新される、
ことを特徴とする液体吐出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、プリントヘッド及び液体吐出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンター等の液体吐出装置は、吐出部に設けられる圧電素子等の駆動素子を駆動信号により駆動させることで、プリントヘッドの内部に充填されたインクをノズルから吐出させて、記録媒体上に画像を形成する。
【0003】
しかし、プリントヘッドの内部に充填されたインクが増粘すると、吐出異常が発生し、印刷される画像の画質が低下することがある。さらに、プリントヘッド内部への気泡の混入、ノズル近傍への紙粉の付着等に場合にも、ノズルから吐出されるインクの吐出異常が生じるおそれがあり、その結果、インクの吐出精度が低下し、媒体に印刷される画像の画質が低下するおそれがある。このため、高品位な印刷を実現するためには、プリントヘッドにおいて、インクの吐出状態を検査することが望ましい。
【0004】
特許文献1には、駆動信号により圧電素子を駆動させることで生じる残留振動を検出し、検出結果に基づいて吐出部におけるインクの吐出状態を検査する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明では、検出された残留振動の周期が、予め定められた検出範囲内であるか否かに基づいて、インクが正常に吐出されたか否かの判断を行っている為、当該検出閾値を定めるにあたり、例えば、(1)液体吐出装置1の設計誤差(2)液体吐出装置が使用される温度、湿度などの環境(3)液体吐出装置を構成する各種構成の経年変化に伴う特性の変化(4)使用されるインクの粘度等の物性を考慮する必要があり、そのため、個々の液体吐出装置に対して最適な検出閾値を定めることが困難であり、そのため、インクの吐出状態の検査精度が低下するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液体吐出装置の一態様は、
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記ノズルから吐出される液体の吐出状態を示す情報を取得する取得部と、
前記残留振動信号と前記吐出状態との関係を機械学習する学習部と、
を含む。
【0008】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記学習部は、前記機械学習した前記残留振動信号と前記吐出状態との関係に基づいて、前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を示す学習閾値信号を生成してもよい。
【0009】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記学習閾値信号に基づいて更新されてもよい。
【0010】
本発明に係る液体吐出装置の一態様は、
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記残留振動信号と前記ノズルから吐出される液体の吐出状態との関係を機械学習させた学習モデルを記憶する記憶部と、
前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を判定する判定部と、
を含む。
【0011】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記吐出異常検出回路は、波形整形部、計測部及び判定部を有し、
前記波形整形部は、前記残留振動信号からノイズ成分を除去した整形波形信号を生成し、
前記計測部は、前記整形波形信号に基づき、前記残留振動信号の周期を計測し、
前記判定部は、前記整形波形信号の周期と所定の閾値とに基づいて前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
前記所定の閾値は、前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて更新されてもよい。
【0012】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記判定部は、前記キャビティの内部に気泡が混入する気泡混入、前記ノズルの付近の液体が乾燥により増粘する乾燥増粘、及び前記ノズルの出口付近に紙粉が付着する紙粉付着の少なくとも1つを前記吐出異常の原因として特定してもよい。
【0013】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記判定部は、前記所定の閾値として第1閾値と、前記第1閾値よりも長い周期に設けられた第2閾値と、前記第2閾値よりも長い周期に設けられた第3閾値とを有し、
前記残留振動信号の周期が、前記第1閾値未満の場合、前記判定部は、前記吐出異常の原因を前記気泡混入と判定し、
前記残留振動信号の周期が、前記第2閾値を超えて、且つ前記第3閾値以下の場合、前記判定部は、前記吐出異常の原因を前記紙粉付着と判定し、
前記残留振動信号の周期が、前記第3閾値を超える場合、前記判定部は、前記吐出異常の原因を前記乾燥増粘と判定してもよい。
【0014】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記駆動素子と電気的に接続され、前記駆動波形信号を前記駆動素子に供給するか否かを選択する吐出選択回路と、
前記液体吐出ヘッドと、前記吐出選択回路と、前記吐出異常検出回路とに電気的に接続される切替回路と、
前記吐出異常から回復させる為の回復処理を実行する回復機構と、
を備え、
前記切替回路は、前記液体吐出ヘッドと前記吐出選択回路とを電気的に接続するか、又は前記液体吐出ヘッドと前記吐出異常検出回路とを電気的に接続するかを切替えてもよい。
【0015】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記回復機構は、前記回復処理として、
前記吐出異常の原因が前記気泡混入の場合、前記液体吐出ヘッドの前記ノズルが設けられるノズル面を覆うキャップにポンプを接続し吸引するポンプ吸引処理を実行し、
前記吐出異常の原因が前記乾燥増粘の場合、前記液体吐出ヘッドのクリーニングのために前記駆動素子を駆動させ前記ノズルから液体を吐出させるフラッシング処理、又は前記ポンプ吸引処理を実行し、
前記吐出異常の原因が前記紙粉付着の場合、前記液体吐出ヘッドの前記ノズル面を拭き取るワイピング処理を実行してもよい。
【0016】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記回復機構は、前記吐出異常検出回路において前記吐出異常が検出された異常ノズルに対して、前記回復処理を実行し、
前記回復処理の実行後、前記異常ノズルに対応する前記振動板が変位され、
前記吐出異常検出回路は、前記異常ノズルに対応する前記振動板の変位により生じる前記残留振動信号に基づいて、前記異常ノズルの前記吐出異常の有無を再検出してもよい。
【0017】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記回復機構は、前記吐出異常検出回路において前記吐出異常が検出された異常ノズルに対して、前記フラッシング処理を実行し、
前記フラッシング処理の実行後、前記異常ノズルに対応する前記振動板が変位され、
前記吐出異常検出回路は、前記異常ノズルに対応する前記振動板の変位により生じる前記残留振動信号に基づいて、前記異常ノズルの前記吐出異常の有無を再検出するとともに、前記吐出異常の原因を特定し、
前記回復機構は、前記再検出において前記吐出異常検出回路が特定した前記吐出異常の原因に応じた前記回復処理を実行させてもよい。
【0018】
前記液体吐出装置の一態様において、
複数の前記液体吐出ヘッドと、複数の前記吐出異常検出回路と、複数の前記切替回路とを備え、
複数の前記吐出異常検出回路のうちの第1吐出異常検出回路は、複数の前記液体吐出ヘッドのうちの第1液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
複数の前記切替回路のうちの第1切替回路は、前記第1液体吐出ヘッドと前記吐出選択回路とを電気的に接続するか、又は前記第1液体吐出ヘッドと前記第1吐出異常検出回路とを電気的に接続するかを切替え、
複数の前記吐出異常検出回路のうちの第2吐出異常検出回路は、複数の前記液体吐出ヘッドのうちの第2液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定し、
複数の前記切替回路のうちの第2切替回路は、前記第2液体吐出ヘッドと前記吐出選択回路とを電気的に接続するか、又は前記第2液体吐出ヘッドと前記第2吐出異常検出回路とを電気的に接続するかを切替え、
前記吐出選択回路は、前記第1液体吐出ヘッドが有する前記駆動素子と、前記第2液体吐出ヘッドが有する前記駆動素子とのそれぞれに対して、前記駆動波形信号を供給するか否かを選択し、
前記第1吐出異常検出回路における、前記第1液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因の特定と、前記第2吐出異常検出回路における、前記第2液体吐出ヘッドが有する前記ノズルの前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因の特定とは並行して行われてもよい。
【0019】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記回復機構は、前記第1吐出異常検出回路が検出する前記吐出異常の原因に応じて、前記第1液体吐出ヘッドに対して、前記回復処理を実行し、前記第2吐出異常検出回路が検出する前記吐出異常の原因に応じて、前記第2液体吐出ヘッドに対して、前記回復処理を実行してもよい。
【0020】
前記液体吐出装置の一態様において、
前記吐出異常検出回路は、前記ノズルから液体が吐出されている吐出動作中に、前記吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定してもよい。
【0021】
本発明に係るプリントヘッドの一態様は、
振動板と、駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記ノズルから吐出される液体の吐出状態を示す情報を取得する取得部と、
前記残留振動信号と前記吐出状態との関係を機械学習する学習部と、
を含む。
【0022】
本発明に係るプリントヘッドの一態様は、
振動板と、駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部
に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備え、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出する検出部と、
前記残留振動信号と前記ノズルから吐出される液体の吐出状態との関係を機械学習させた学習モデルを記憶する記憶部と、
前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を判定する判定部と、
を含む。
【0023】
本発明に係る液体吐出方法の一態様は、
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備える液体吐出装置の液体吐出方法であって、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出するステップと、
前記ノズルから吐出される液体の吐出状態を示す情報を取得するステップと、
前記残留振動信号と前記吐出状態との関係を機械学習するステップと、
を含む。
【0024】
本発明に係る液体吐出方法の一態様は、
駆動波形信号を生成する駆動信号生成回路と、
振動板と、前記駆動波形信号が供給されることで前記振動板を変位させる駆動素子と、内部に液体が充填され、前記振動板の変位により、内部の圧力が変化するキャビティと、前記キャビティと連通し、前記キャビティの内部の圧力の変化により液体を吐出するノズルと、を有する液体吐出ヘッドと、
前記駆動波形信号が前記駆動素子に供給された後の前記キャビティの圧力の変化に基づいて生じる前記振動板の変化を残留振動信号として検出し、前記残留振動信号に基づいて前記ノズルの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する吐出異常検出回路と、
を備える液体吐出装置の液体吐出方法であって、
前記吐出異常検出回路は、
前記残留振動信号を検出するステップと、
前記残留振動信号と前記ノズルから吐出される液体の吐出状態との関係を機械学習させた学習モデルを記憶するステップと、
前記残留振動信号と前記学習モデルとに基づいて前記液体吐出ヘッドの前記吐出異常の有無を判定するステップと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】液体吐出装置の構成の概略を示す斜視図である。
【
図3】ヘッド部が備える液体吐出ヘッドの一例の概略的な断面図である。
【
図4】ノズルの配列パターンの一例を示す図である。
【
図5】ヘッド部が備える液体吐出ヘッドの他の一例の概略的な断面図である。
【
図6】インクの吐出動作を説明するための図である。
【
図7】振動板の残留振動を想定した単振動の計算モデルを示す回路図である。
【
図8】振動板の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。
【
図9】気泡混入が生じた場合のノズル付近の概念図である。
【
図10】気泡混入時の振動板の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。
【
図12】乾燥増粘時の振動板の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。
【
図14】紙粉付着時の振動板の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。
【
図15】吐出選択回路の構成を示すブロック図である。
【
図16】デコーダーが行うデコードの内容を示す図である。
【
図17】単位動作期間における吐出選択回路の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図18】駆動信号Vinの波形の一例を示す図である。
【
図19】切替回路の構成、並びに、切替回路と吐出異常検出回路、ヘッド部、及び吐出選択回路との電気的な接続関係を示すブロック図である。
【
図20】吐出異常検出回路の構成を示すブロック図である。
【
図21】計測部の動作を示すタイミングチャートである。
【
図22】判定部における判定の内容を説明するための図である。
【
図23】吐出異常検出回路における吐出異常検出処理の方法を示すフローチャート図である。
【
図24】機械学習部における機械学習の方法を示すフローチャート図である。
【
図27】第2実施形態における吐出異常検出回路の構成を示す図である。
【
図28】第2実施形態における液体吐出方法を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて説明する。用いる図面は説明の便宜上のものである。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。本実施形態では、液体吐出装置として、液体の一例としてのインクを吐出して媒体Pに画像を形成するインクジェットプリンターを例示して説明する。
【0027】
1.第1実施形態
1.1 液体吐出装置の構成
まず、液体吐出装置1の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る液体吐出装置1の構成の概略を示す斜視図である。なお、以下の説明では、
図1中、上側(+Z方向)を「
上部」、下側(-Z方向)を「下部」と称する場合がある。
【0028】
図1に示すように、液体吐出装置1は、上部後方に媒体Pを設置するトレイ81と、下部前方に媒体Pを排出する排紙口82と、上部面に操作パネル83とが設けられている。
【0029】
操作パネル83は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する不図示の表示部と、各種スイッチ等で構成される不図示の操作部とを備えている。この操作パネル83の表示部は、報知手段として機能する。
【0030】
また、
図1に示すように、液体吐出装置1は、往復動する移動体3を有する印刷手段4を備える。
【0031】
移動体3は、後述する液体吐出ヘッド35を複数備えるヘッド部30と、4個のインクカートリッジ31と、ヘッド部30及び4個のインクカートリッジ31を搭載したキャリッジ32と、を備える。各液体吐出ヘッド35は、インクカートリッジ31から供給されたインクを内部に充填し、充填したインクを吐出することができる。また、4個のインクカートリッジ31は、イエロー、シアン、マゼンタ、及び、ブラックの4つの色と1対1に対応して設けられたものであり、各インクカートリッジ31には、当該インクカートリッジ31に対応する色のインクが充填されている。複数の液体吐出ヘッド35の各々は、4個のインクカートリッジ31のいずれか1つからインクの供給を受ける。これにより、複数の液体吐出ヘッド35から全体として4色のインクを吐出することが可能となり、フルカラー印刷が実現される。
【0032】
なお、本実施形態に係る液体吐出装置1は、当該4色のインクに対応する4個のインクカートリッジ31を備えるが、本発明はこのような態様に限定されるものではなく、当該4色とは異なる色のインクを充填したインクカートリッジ31をさらに備えるものであってもよいし、当該4色のうちの一部の色に対応するインクカートリッジ31のみを備えるものであってもよい。また、各インクカートリッジ31は、キャリッジ32に搭載される代わりに、液体吐出装置1の別の場所に設けられるものであってもよい。
【0033】
図1に示すように、印刷手段4は、移動体3を主走査方向に往復移動させる駆動源となるキャリッジモーター41と、キャリッジモーター41の回転を受けて、移動体3を往復移動させる往復動機構42とを備える。なお、主走査方向とは、
図1においてY軸が延在する方向である。往復動機構42は、その両端を不図示のフレームに支持されたキャリッジガイド軸422と、キャリッジガイド軸422と平行に延在するタイミングベルト421とを有している。移動体3のキャリッジ32は、往復動機構42のキャリッジガイド軸422に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト421の一部に固定されている。そのため、キャリッジモーター41の作動により、プーリを介してタイミングベルト421を正逆走行させると、キャリッジガイド軸422に案内されて、移動体3が往復動する。
【0034】
また、
図1に示すように、液体吐出装置1は、媒体Pを印刷手段4に対し供給・排出する給紙装置7を備える。
【0035】
給紙装置7は、その駆動源となる給紙モーター71と、給紙モーター71の作動により回転する給紙ローラー72とを有している。給紙ローラー72は、媒体Pの搬送経路において媒体Pを挟んで上下に対向する従動ローラー72aと駆動ローラー72bとで構成され、駆動ローラー72bは給紙モーター71に連結されている。これにより、給紙ローラー72は、トレイ81に設置した複数枚の媒体Pを、印刷手段4に向かって1枚ずつ送り
込んだり、印刷手段4から1枚ずつ排出したりするようになっている。なお、トレイ81に代えて、媒体Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0036】
また、
図1に示すように、液体吐出装置1は、印刷手段4及び給紙装置7を制御する制御部6を備える。
【0037】
制御部6は、後述するパーソナルコンピューターやデジタルカメラ等のホストコンピューター9から入力された画像データImgに基づいて、印刷手段4や給紙装置7等を制御することにより媒体Pへの印刷処理を行う。
【0038】
具体的には、制御部6は、給紙装置7を制御することで、媒体Pを一枚ずつX軸方向である副走査方向に間欠送りする。また、制御部6は、移動体3を副走査方向と交差するY軸方向である主走査方向に往復動させるように制御する。つまり、制御部6は、移動体3を主走査方向に往復動させるように制御するとともに、媒体Pを副走査方向に間欠送りするように給紙装置7を制御しつつ、画像データImgに基づいて、各液体吐出ヘッド35からインクを吐出、又は非吐出とするようにヘッド部30の駆動を制御することにより、媒体Pへの印刷処理を実行する。
【0039】
なお、制御部6は、操作パネル83の表示部にエラーメッセージ等を表示させ、あるいはLEDランプ等を点灯/点滅させるとともに、操作パネル83の操作部から入力された各種スイッチの押下信号に基づいて、対応する処理を各部に実行させる。さらに、制御部6は、必要に応じてエラーメッセージや吐出異常等の情報をホストコンピューター9に転送する処理を実行するものであってもよい。
【0040】
図2は、本実施形態に係る液体吐出装置1の電気構成を示す図である。
図2に示すように、液体吐出装置1は、制御部6、プリントヘッド50、駆動信号生成回路54、操作パネル83、回復機構84、キャリッジモーター41、キャリッジモータードライバー43、給紙モーター71、及び給紙モータードライバー73を備える。
【0041】
制御部6は、液体吐出装置1の各部の動作を制御する。
図2に示すように、制御部6は、CPU61と、記憶部62とを備える。
【0042】
記憶部62は、ホストコンピューター9から不図示のインターフェース部を介して供給される画像データImgをデータ格納領域に格納する不揮発性半導体メモリーの一種であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)を備える。また、記憶部62は、印刷処理等の各種処理を実行する際に必要なデータを一時的に格納し、あるいは印刷処理等の各種処理を実行するための制御プログラムを一時的に展開する不図示のRAM(Random Access Memory)を備える。また、記憶部62は、液体吐出装置1の各部を制御する制御プログラム等を格納する不揮発性半導体メモリーの一種である不図示のPROMを備える。
【0043】
CPU61は、ホストコンピューター9から供給される画像データImgを、記憶部62に格納する。また、CPU61は、画像データImg等の記憶部62に格納されている各種データに基づいて、キャリッジモータードライバー43の動作を制御するためのドライバー制御信号Ctr1と、給紙モータードライバー73の動作を制御するためのドライバー制御信号Ctr2と、駆動信号生成回路54を制御する為の基駆動信号dAと、プリントヘッド50を制御する為のクロック信号CL、印刷信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び切替制御信号Sw等の各種信号と、回復機構84の動作を制御するための信号と、操作パネル83の動作を制御するための信号と、を生成し出力する。
【0044】
キャリッジモータードライバー43は、ドライバー制御信号Ctr1に基づいてキャリッジモーター41を駆動する。これにより、キャリッジモーター41は、ヘッド部30を往復動させる。また、給紙モータードライバー73は、ドライバー制御信号Ctr2に基づいて給紙モーター71を駆動する。これにより、給紙モーター71は、媒体Pを搬送する。
【0045】
駆動信号生成回路54は、制御部6が供給される基駆動信号dAに基づいて駆動波形信号Comを生成する。基駆動信号dAは、駆動波形信号Comの信号波形を規定するデジタルの信号であり、駆動信号生成回路54は、基駆動信号dAをデジタル/アナログ変換した後、当該信号を増幅することで、駆動波形信号Comを生成し、吐出選択回路51に出力する。なお、詳細は後述するが、本実施形態において駆動信号生成回路54は、駆動波形信号Comとして、3つの駆動波形信号Com-A、Com-B、及びCom―Cを生成する。
【0046】
プリントヘッド50は、吐出選択回路51、吐出異常検出回路52、切替回路53及びヘッド部30を有する。
【0047】
吐出選択回路51は、後述する圧電素子200と電気的に接続され、駆動波形信号Comを圧電素子200に供給するか否かを選択する。吐出選択回路51は、制御部6から供給されるクロック信号CL、印刷信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH及び駆動信号生成回路54から供給される駆動波形信号Comに基づいて、ヘッド部30が備える液体吐出ヘッド35を駆動するための駆動信号Vinを生成する。
【0048】
吐出異常検出回路52は、液体吐出ヘッド35が駆動信号Vinにより駆動された後に生じる、液体吐出ヘッド35の内部のインクの振動等に起因する内部の圧力の変化を残留振動信号Voutとして検出する。また、吐出異常検出回路52は、残留振動信号Voutに基づいて、当該液体吐出ヘッド35に吐出異常があるか否か等、当該液体吐出ヘッド35におけるインクの吐出状態を判定し、当該判定結果を表す判定結果信号Rsを出力する。
【0049】
切替回路53は、液体吐出ヘッド35と、吐出選択回路51と、吐出異常検出回路52とに電気的に接続される。切替回路53は、制御部6から供給される切替制御信号Swに基づいて、各液体吐出ヘッド35を、吐出選択回路51又は吐出異常検出回路52のいずれか一方に電気的に接続させる。換言すれば、切替回路53は、切替制御信号Swに基づいて、液体吐出ヘッド35と吐出選択回路51とを電気的に接続するか、又は液体吐出ヘッド35と吐出異常検出回路52とを電気的に接続するかを切替える。
【0050】
回復機構84は、吐出異常検出回路52から出力されるインクの吐出状態の判定結果を示す判定結果信号Rsに基づいて、液体吐出ヘッド35における吐出異常から回復させるための回復処理を実行する。ここで、回復処理とは、液体吐出ヘッド35のノズルNが設けられるノズル面を覆うキャップにポンプを接続し吸引するポンプ吸引処理、液体吐出ヘッド35のクリーニングのために、液体吐出ヘッドに含まれる後述する圧電素子200を駆動して、ノズルNからインクを吐出させるフラッシング処理、液体吐出ヘッド35においてノズルNが設けられるノズル面を拭き取るワイピング処理等、インクの吐出異常が発見された液体吐出ヘッド35のインクの吐出状態を正常に戻すための処理の総称である。制御部6は、吐出異常検出回路52から入力される判定結果信号Rsに基づいて、ポンプ吸引処理、フラッシング処理、ワイピング処理等から、液体吐出ヘッド35の吐出状態を回復させるのに適した1又は2以上の回復処理を選択し、選択した回復処理を回復機構84に実行させる。なお、回復機構84の詳細については後述する。
【0051】
1.2 ヘッド部の構成
次に、
図3及び
図4を用いて、ヘッド部30、及びヘッド部30が備える液体吐出ヘッド35の構成について説明する。
図3は、ヘッド部30が備える各液体吐出ヘッド35の概略的な断面図である。
図3に示す液体吐出ヘッド35は、圧電素子200の駆動によりキャビティ245の内部のインクがノズルNから吐出するものである。この液体吐出ヘッド35は、振動板243と、駆動波形信号Comが供給されることで振動板243を変位させる駆動素子の一例としての圧電素子200と、内部にインクが充填され、振動板243の変位により、内部の圧力が変化するキャビティ245と、キャビティ245と連通し、キャビティ245の内部の圧力の変化によりインクを吐出するノズルNと、複数の圧電素子200を積層してなる積層圧電素子201とを有する。
【0052】
キャビティプレート242は、例えば、凹部が形成されるような所定の形状に成形され、これにより、キャビティ245及びリザーバ246が形成される。キャビティ245とリザーバ246とは、インク供給口247を介して連通している。また、リザーバ246は、インク供給チューブ311を介してインクカートリッジ31と連通している。
【0053】
図3において積層圧電素子201の下端は、中間層244を介して振動板243と接合されている。積層圧電素子201には、複数の外部電極248及び内部電極249が接合されている。即ち、積層圧電素子201の外表面には、外部電極248が接合され、積層圧電素子201を構成する各圧電素子200同士の間、又は各圧電素子の内部には、内部電極249が設置されている。この場合、外部電極248と内部電極249の一部が、交互に、圧電素子200の厚さ方向に重なるように配置される。
【0054】
そして、外部電極248と内部電極249との間に、吐出選択回路51より駆動信号Vinを供給することにより、積層圧電素子201が
図3の矢印で示すように上下方向に伸縮して振動し、この振動により振動板243が振動する。この振動板243の振動によりキャビティ245の容積が変化し、キャビティ245の容積の変化に伴いキャビティ245の内部の圧力が変化し、キャビティ245の内部に充填されたインクがノズルNより吐出される。インクの吐出によりキャビティ245内のインクが減少した場合、リザーバ246からインクが供給される。また、リザーバ246へは、インクカートリッジ31からインク供給チューブ311を介してインクが供給される。
【0055】
図4は、ノズルプレート240に形成されたノズルNの配列パターンの一例を示す図である。
図3に示すノズルプレート240に形成されたノズルNは、
図4に示すように、段をずらして配置される。ここで、ノズルN間のピッチは、印刷解像度(dpi:dot per inch)に応じて適宜設定され得るものである。なお、
図4では、4色のインク(インクカートリッジ)を適用した場合におけるノズルNの配置パターンを示している。
【0056】
次に、液体吐出ヘッド35の他の例として、液体吐出ヘッド35Aの構成について説明する。
図5に示す液体吐出ヘッド35Aでは、圧電素子200が駆動することで、振動板262が振動し、キャビティ258の内部のインクがノズルNから吐出される。ノズルNが形成されたステンレス鋼製のノズルプレート252には、ステンレス鋼製の金属プレート254が接着フィルム255を介して接合されており、さらにその上に同様のステンレス鋼製の金属プレート254が接着フィルム255を介して接合されている。そして、その上には、連通口形成プレート256及びキャビティプレート257が順次接合されている。
【0057】
ノズルプレート252、金属プレート254、接着フィルム255、連通口形成プレート256、及び、キャビティプレート257は、それぞれ凹部が形成されるような所定の
形状に成形され、これらを重ねることにより、キャビティ258及びリザーバ259が形成される。キャビティ258とリザーバ259とは、インク供給口260を介して連通している。また、リザーバ259は、インク供給口261に連通している。
【0058】
キャビティプレート257の上面開口部には、振動板262が設置され、この振動板262には、下部電極263を介して圧電素子200が接合されている。また、圧電素子200の下部電極263と反対側には、上部電極264が接合されている。吐出選択回路51は、上部電極264と下部電極263との間に駆動信号Vinを供給することにより、圧電素子200が振動し、それに接合された振動板262が振動する。この振動板262の振動によりキャビティ258の容積が変化し、キャビティ258の容積変化に伴いキャビティ258の内部の圧力が変化し、キャビティ258の内部に充填されたインクがノズルNより吐出される。
【0059】
インクが吐出されてキャビティ258の内部のインク量が減少した場合、リザーバ259からインクが供給される。また、リザーバ259へは、インク供給口261からインクが供給される。
【0060】
次に、インクの吐出について、
図6を参照しながら説明する。
図6はインクの吐出動作を説明するための図である。吐出選択回路51から
図3に示す圧電素子200に駆動信号Vinが供給されると、電極間に印加された電界に比例した歪が発生し、振動板243は、
図6の(a)に示す初期状態に対して、
図3中の上方向へ撓み、
図6の(b)に示すようにキャビティ245の容積が拡大する。この状態において、吐出選択回路51の制御により、駆動信号Vinの示す電圧を変化させると、振動板243は、その弾性復元力によって復元し、初期状態における振動板243の位置を越えて下方向に移動し、
図6の(c)に示すようにキャビティ245の容積が急激に収縮する。このときキャビティ245内に発生する圧縮圧力により、キャビティ245を満たすインクの一部が、このキャビティ245に連通しているノズルNからインクが吐出される。
【0061】
各キャビティ245の振動板243は、この一連のインク吐出動作が終了した後、次のインク吐出動作を開始するまでの間、減衰振動をしている。以下、この減衰振動を残留振動とも称する。振動板243の残留振動は、ノズルNやインク供給口247の形状、あるいはインク粘度等による音響抵抗rと、流路内のインク重量によるイナータンスmと、振動板243のコンプライアンスCmと、によって決定される固有振動周波数を有するものと想定される。
【0062】
同様に、
図5に示す液体吐出ヘッド35Aにおいて、吐出選択回路51から
図5に示す圧電素子200に駆動信号Vinが供給されると、電極間に印加された電界に比例した歪が発生し、振動板262は、
図6の(a)に示す初期状態に対して、
図5中の上方向へ撓み、
図6の(b)に示すようにキャビティ258の容積が拡大する。この状態において、吐出選択回路51の制御により、駆動信号Vinの示す電圧を変化させると、振動板262は、その弾性復元力によって復元し、初期状態における振動板262の位置を越えて下方向に移動し、
図6の(c)に示すようにキャビティ258の容積が急激に収縮する。このときキャビティ258内に発生する圧縮圧力により、キャビティ258を満たすインクの一部が、このキャビティ258に連通しているノズルNからインクが吐出される。
【0063】
各キャビティ258の振動板262は、この一連のインク吐出動作が終了した後、次のインク吐出動作を開始するまでの間、減衰振動をしている。以下、この減衰振動を残留振動とも称する。振動板262の残留振動は、ノズルNやインク供給口261の形状、あるいはインク粘度等による音響抵抗rと、流路内のインク重量によるイナータンスmと、振動板262のコンプライアンスCmと、によって決定される固有振動周波数を有するもの
と想定される。
【0064】
なお、
図3に示す液体吐出ヘッド35と、
図5に示す液体吐出ヘッド35Aとは、同様の原理により、インクを吐出し、また圧電素子200の駆動後に残留振動が生じる。したがって、以下の説明においては、
図3に示す液体吐出ヘッド35を例に説明を行う。
【0065】
1.3 残留振動について
ここで、振動板243の残留振動の計算モデルについて説明する。
図7は、振動板243の残留振動を想定した単振動の計算モデルを示す回路図である。このように、振動板243の残留振動の計算モデルは、音圧pと、上述のイナータンスm、コンプライアンスCm及び音響抵抗rとで表せる。そして、
図7の回路に音圧pを与えた時のステップ応答を体積速度uについて計算すると、次式が得られる。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
この式から得られた計算結果と別途行ったインクの吐出後の振動板243の残留振動の実験における実験結果とを比較する。
図8は、振動板243の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。この
図8に示す結果からも分かるように、実験値と計算値の2つの波形は、概ね一致している。
【0070】
さて、液体吐出ヘッド35において、前述したような吐出動作を行ったにもかかわらずノズルNからインクが正常に吐出されない現象、即ちインクの吐出異常が発生する場合がある。この吐出異常が発生する原因としては、(1)キャビティ245の内部に気泡が混入する気泡混入、(2)ノズルN付近のインクが乾燥により増粘する乾燥増粘、(3)ノズルNの出口付近に紙粉が付着する紙粉付着、等が挙げられる。
【0071】
この吐出異常が発生すると、その結果としては、典型的にはノズルNからインクが吐出されないこと、即ちインクの不吐出現象が現れ、その場合、媒体Pに印刷した画像における画素のドット抜けを生じる。また、吐出異常の場合には、ノズルNからインクが吐出されたとしても、吐出されたインクの量が過少であったり、インクの飛行方向がずれたりして適正に着弾しないので、やはり画素のドット抜けとなって現れる。このようなことから、以下の説明では、インクの吐出異常のことを単に「ドット抜け」と称する場合がある。
【0072】
以下においては、
図8に示す比較結果に基づいて、液体吐出ヘッド35に発生する印刷処理時の吐出異常であるドット抜け現象を原因別に検討する。具体的には、振動板243の残留振動の計算値と実験値が概ね一致するように、音響抵抗r及びイナータンスmのうち少なくとも一方の値を調整し、実験値と比較する。
【0073】
まず、ドット抜けの1つの原因である、気泡混入について検討する。
図9は、気泡混入が生じた場合のノズルN付近の概念図である。
図9に示すように、混入した気泡Aは、キ
ャビティ245の壁面に発生付着しているものと想定される。
【0074】
このように、キャビティ245内に気泡Aが混入した場合には、キャビティ245内を満たすインクの総重量が減り、イナータンスmが低下するものと考えられる。また、
図9に例示するように、気泡AがノズルN付近に付着している場合には、その径の大きさだけノズルNの径が大きくなったような状態となり、音響抵抗rが低下するものと考えられる。したがって、インクが正常に吐出された
図8の場合に対して、音響抵抗r、イナータンスmを共に小さく設定して、気泡混入時の残留振動の実験値と概ね一致することにより、
図10のような結果が得られた。
図10は、気泡混入時の振動板243の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。
図8及び
図10の結果から分かるように、キャビティ245内に気泡Aが混入した場合、正常吐出時に比べて周波数が高くなる特徴的な残留振動波形が得られる。なお、音響抵抗rの低下などにより、残留振動の振幅の減衰率も小さくなり、残留振動は、その振幅をゆっくりと下げていることも確認することができる。
【0075】
次に、ドット抜けのもう1つの原因である、乾燥増粘について検討する。
図11は、乾燥増粘時のノズルN付近の概念図である。
図11に示すように、ノズルN付近のインクが乾燥して固着した場合、キャビティ245内のインクは、キャビティ245内に閉じこめられたような状況となる。このように、ノズルN付近のインクが乾燥、増粘した場合には、音響抵抗rが増加するものと考えられる。
【0076】
したがって、インクが正常に吐出された
図8の場合に対して、音響抵抗rを大きく設定して、ノズルN付近のインク乾燥増粘時の残留振動の実験値と概ね一致することにより、
図12のような結果が得られた。
図12は、乾燥増粘時の振動板243の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。なお、
図12に示す実験値は、数日間図示しないキャップを装着しない状態で液体吐出ヘッド35を放置し、ノズルN付近のインクが乾燥、増粘したことによりインクが固着し、インクの吐出をすることができなくなった状態における振動板243の残留振動を測定したものである。
図8及び
図12の結果から分かるように、ノズルN付近のインクが乾燥により固着した場合には、正常吐出時に比べて周波数が極めて低くなるとともに、残留振動が過減衰となる特徴的な残留振動波形が得られる。これは、インクを吐出するために振動板243が
図3中上方に引き寄せられることによって、キャビティ245内にリザーバ246からインクが流入した後に、振動板243が
図3中下方に移動するときに、キャビティ245内のインクの逃げ道がないために、振動板243が急激に振動できなくなるためである。
【0077】
次に、ドット抜けのさらにもう1つの原因である、紙粉付着について検討する。
図13は、紙粉付着時のノズルN付近の概念図である。
図13に示すように、ノズルNの出口付近に紙粉Bが付着した場合、キャビティ245内から紙粉Bを介してインクが染み出してしまうとともに、ノズルNからインクを吐出することができなくなる。このように、ノズルNの出口付近に紙粉Bが付着し、ノズルNからインクが染み出している場合には、振動板243から見てキャビティ245内及び染み出し分のインクが正常時よりも増えることにより、イナータンスmが増加するものと考えられる。また、ノズルNの出口付近に付着した紙粉Bの繊維によって音響抵抗rが増大するものと考えられる。
【0078】
したがって、インクが正常に吐出された
図8の場合に対して、イナータンスm、音響抵抗rを共に大きく設定して、ノズルNの出口付近への紙粉付着時の残留振動の実験値と概ね一致することにより、
図14のような結果が得られた。
図14は、紙粉付着時の振動板243の残留振動の実験値と計算値との関係を示す結果である。
図8及び
図14の結果から分かるように、ノズルNの出口付近に紙粉Bが付着した場合には、正常吐出時に比べて周波数が低くなる特徴的な残留振動波形が得られる。
【0079】
なお、
図12及び
図14に示す結果から、紙粉付着の場合は、インクの乾燥増粘の場合と比較して、残留振動の周波数が高いことが分かる。
【0080】
ここで、ノズルN付近のインクが乾燥増粘した場合と、ノズルNの出口付近に紙粉が付着した場合とでは、いずれも正常にインク滴が吐出された場合に比べて減衰振動の周波数が低くなっている。これら2つのドット抜けの原因を振動板243の残留振動の波形から特定するために、例えば、減衰振動の周波数や周期、位相において所定の閾値を持って比較するか、あるいは、残留振動の周期変化や振幅変化の減衰率から特定することができる。このようにして、各液体吐出ヘッド35におけるノズルNからのインク滴が吐出されたときの振動板243の残留振動の変化、特に、その周波数の変化によって、各液体吐出ヘッド35の吐出異常を検出することができる。また、その場合の残留振動の周波数を正常吐出時の残留振動の周波数と比較することにより、吐出異常の原因を特定することもできる。
【0081】
本実施形態に係る液体吐出装置1は、吐出異常検出回路52において、残留振動を解析して吐出異常を検知する吐出異常検出処理を実行する。
【0082】
1.4 吐出選択回路の構成及び動作
次に、
図15から
図18を用いて吐出選択回路51の構成及び動作について説明する。
図15は、吐出選択回路51の構成を示すブロック図である。
図15に示すように、吐出選択回路51は、シフトレジスタSR、ラッチ回路LT、デコーダーDC、並びにトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcからなる組を、M個の液体吐出ヘッド35に1対1で対応するようにM個有する。以下では、これらM個の組を構成する各要素を、図において上から順番に、1段、2段、…、M段と称する場合がある。なお、
図15には、1段、2段、…、M段に対応するシフトレジスタSRをSR[1],SR[2],…,SR[M]と示し、ラッチ回路LTをLT[1],LT[2],…,LT[M]と示し、デコーダーDCをDC[1],DC[2],…,DC[M]と示している。
【0083】
吐出選択回路51には、クロック信号CL、印刷信号SI、ラッチ信号LAT、チェンジ信号CH、及び駆動波形信号Com(Com-A,Com-B,Com-C)が供給される。
【0084】
ここで、印刷信号SIとは、画像の1ドットを形成するにあたって、各液体吐出ヘッド35が有するノズルNから吐出させるインク量を規定するデジタルの信号である。より詳細には、本実施形態に係る印刷信号SIは、各液体吐出ヘッド35に対応するノズルNから吐出させるインク量を、上位ビットb1、中位ビットb2、及び下位ビットb3の3ビットで規定するものであり、制御部6からクロック信号CLに同期して吐出選択回路51にシリアルで供給される。この印刷信号SIにより、各液体吐出ヘッド35から吐出されるインク量を制御することで、媒体Pの各ドットにおいて、非記録、小ドット、中ドット、及び、大ドットの4階調を表現することが可能となり、さらに残留振動を発生させてインクの吐出状態を検査するための検査用の駆動信号Vinを生成することが可能となる。
【0085】
シフトレジスタSRのそれぞれは、印刷信号SIを、各液体吐出ヘッド35に対応する3ビット毎に、一旦保持する。詳細には、M個の液体吐出ヘッド35に1対1に対応する、1段、2段、…、M段のM個のシフトレジスタSRが互いに縦続接続されるとともに、シリアルで供給された印刷信号SIが、クロック信号CLにしたがって順次後段に転送される。そして、M個のシフトレジスタSRの全てに印刷信号SIが転送された時点で、クロック信号CLの供給が停止し、M個のシフトレジスタSRのそれぞれが印刷信号SIのうち自身に対応する3ビット分のデータを保持した状態を維持する。
【0086】
M個のラッチ回路LTのそれぞれは、ラッチ信号LATが立ち上がるタイミングで、M個のシフトレジスタSRのそれぞれに保持された、各段に対応する3ビット分の印刷信号SIを一斉にラッチする。
図15において、SI[1]、SI[2]、…、SI[M]のそれぞれは、1段、2段、…、M段のシフトレジスタSRに対応するラッチ回路LT[1],LT[2],…,LT[M]によってそれぞれラッチされた、3ビット分の印刷信号SIを示している。
【0087】
ところで、液体吐出装置1が印刷を実行する期間である動作期間は、複数の単位動作期間Tuからなる。各単位動作期間Tuは、制御期間Ts1とこれに後続する制御期間Ts2とからなる。本実施形態では、制御期間Ts1,Ts2は、互いに等しい時間長を有する。
【0088】
なお、動作期間を構成する複数の単位動作期間Tuには、印刷処理が実行される単位動作期間Tu、吐出異常検出処理が実行される単位動作期間Tu、及び印刷処理及び吐出異常検出処理の両方の処理が実行される単位動作期間Tuが含まれる。
【0089】
制御部6は、吐出選択回路51に対して単位動作期間Tu毎に印刷信号SIを供給するとともに、ラッチ回路LTが単位動作期間Tu毎に印刷信号SI[1]、SI[2]、…、SI[M]をラッチするように吐出選択回路51を制御する。すなわち、制御部6は、M個の液体吐出ヘッド35に対して単位動作期間Tu毎に駆動信号Vinが供給されるように、吐出選択回路51を制御する。
【0090】
より具体的には、制御部6は、単位動作期間Tuにおいて印刷処理のみを実行する場合、M個の液体吐出ヘッド35に対して印刷用の駆動信号Vinが供給されるように吐出選択回路51を制御する。これにより、M個の液体吐出ヘッド35が画像データImgに応じた量のインクを媒体Pに吐出し、媒体P上に画像データImgに対応する画像が形成される。
【0091】
一方、制御部6は、単位動作期間Tuにおいて吐出異常検出処理のみを実行する場合、M個の液体吐出ヘッド35に対して検査用の駆動信号Vinが供給されるように吐出選択回路51を制御する。
【0092】
また、制御部6は、単位動作期間Tuにおいて印刷処理及び吐出異常検出処理の両方を実行する場合、M個の液体吐出ヘッド35の一部に対して印刷用の駆動信号Vinが供給されるとともに、残りの液体吐出ヘッド35に対して検査用の駆動信号Vinが供給されるように吐出選択回路51を制御する。
【0093】
デコーダーDCは、ラッチ回路LTによってラッチされた3ビット分の印刷信号SIをデコードし、制御期間Ts1,Ts2のそれぞれにおいて、選択信号Sa,Sb,Scを出力する。
【0094】
図16は、デコーダーDCが行うデコードの内容を示す図である。
図16に示すように、m段(mは、1≦m≦Mを満たす自然数)に対応する印刷信号SI[m]が示す内容が、例えば(b1、b2、b3)=(1、0、0)である場合、m段のデコーダーDCは、制御期間Ts1において、選択信号SaをハイレベルHに設定するとともに、選択信号Sb及びScをローレベルLに設定し、また、制御期間Ts2において、選択信号Sa及びScをローレベルLに設定するとともに、選択信号SbをハイレベルHに設定する。
【0095】
また、下位ビットb3が「1」の場合、つまり、(b1、b2、b3)=(0、0、1
)である場合、m段のデコーダーDCは、制御期間Ts1,Ts2において、選択信号Sa及びSbをローレベルLに設定するとともに、選択信号ScをハイレベルHに設定する。
【0096】
説明を
図15に戻す。
図15に示すように、吐出選択回路51は、トランスミッションゲートTGa,TGb,TGcの組をM個備える。これら、M個のトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcの組は、M個の液体吐出ヘッド35に1対1に対応するように設けられる。
【0097】
トランスミッションゲートTGaは、選択信号SaがHレベルのときにオンし、Lレベルのときにオフする。トランスミッションゲートTGbは、選択信号SbがHレベルのときにオンし、Lレベルのときにオフする。トランスミッションゲートTGcは、選択信号ScがHレベルのときにオンし、Lレベルのときにオフする。
【0098】
例えば、m段において、印刷信号SI[m]の示す内容が、(b1、b2、b3)=(1、0、0)である場合には、制御期間Ts1においてトランスミッションゲートTGaがオンするとともにトランスミッションゲートTGb及びTGcがオフし、また、制御期間Ts2においてトランスミッションゲートTGbがオンするとともにトランスミッションゲートTGb及びTGcがオフする。
【0099】
トランスミッションゲートTGaの一端には駆動波形信号Com-Aが供給され、トランスミッションゲートTGbの一端には駆動波形信号Com-Bが供給され、トランスミッションゲートTGcの一端には駆動波形信号Com―Cが供給される。また、トランスミッションゲートTGa,TGb,TGcの他端は、切替回路53への出力端OTNに共通接続されている。
【0100】
トランスミッションゲートTGa,TGb,TGcは排他的にオンとなり、制御期間Ts1,Ts2毎に選択された駆動波形信号Com-A,Com-B,Com―Cが、駆動信号Vin[m]として出力端OTNに出力される。そして、駆動信号Vin[m]が、切替回路53を介してm段の液体吐出ヘッド35に供給される。
【0101】
図17は、単位動作期間Tuにおける吐出選択回路51の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図17に示すように、単位動作期間Tuは、制御部6が出力するラッチ信号LATにより規定される。また、単位動作期間Tuに含まれる制御期間Ts1,Ts2は、制御部6が出力するラッチ信号LAT及びチェンジ信号CHにより規定される。
【0102】
単位動作期間Tuにおいて駆動信号生成回路54から供給される駆動波形信号Com-Aは、印刷用の駆動信号Vinを生成するための信号であり、
図17に示されるように、単位動作期間Tuのうち制御期間Ts1に配置された単位波形PA1と、制御期間Ts2に配置された単位波形PA2と、を連続させた波形を有する。単位波形PA1、及び単位波形PA2の開始及び終了のタイミングにおける電位は、いずれも基準電位V0である。また、単位波形PA1の電位Va11と電位Va12との電位差は、単位波形PA2の電位Va21と電位Va22との電位差よりも大きい。このため、各液体吐出ヘッド35が備える圧電素子200が単位波形PA1により駆動された場合に当該液体吐出ヘッド35が備えるノズルNから吐出されるインクの量は、単位波形PA2により駆動された場合に吐出されるインクの量よりも多い。
【0103】
単位動作期間Tuにおいて駆動信号生成回路54から供給される駆動波形信号Com-Bは、印刷用の駆動信号Vinを生成するための信号であり、制御期間Ts1に配置され
た単位波形PB1と、制御期間Ts2に配置された単位波形PB2とを連続させた波形を有する。単位波形PB1の開始及び終了のタイミングにおける電位は、いずれも基準電位V0であり、単位波形PB2は制御期間Ts2に亘って基準電位V0に保たれる。また、単位波形PB1の電位Vb11と基準電位V0との電位差は、単位波形PA2の電位Va21と電位Va22との電位差よりも小さい。そして、各液体吐出ヘッド35が備える圧電素子200が単位波形PB1により駆動された場合であっても当該液体吐出ヘッド35が備えるノズルNからはインクは吐出されない。同様に、圧電素子200に単位波形PB2が供給された場合にも、ノズルNからインクが吐出されることはない。
【0104】
単位動作期間Tuにおいて駆動信号生成回路54から供給される駆動波形信号Com―Cは、検査用の駆動信号Vinを生成するための信号であり、制御期間Ts1に配置された単位波形PC1と、制御期間Ts2に配置された単位波形PC2とを連続させた波形を有する。単位波形PC1の開始のタイミングにおける電位及び単位波形PC2の終了のタイミングにおける電位は、いずれも基準電位V0である。単位波形PC1は基準電位V0から電位Vc11に遷移した後に、電位Vc11から電位Vc12に遷移し、その後、制御期間Ts1の終了まで電位Vc12に保たれる。また、単位波形PC2は、電位Vc12を維持した後に、制御期間Ts2が終了する前に電位Vc12から基準電位V0に遷移する。電位Vc11及び電位Vc12の電位差である駆動電圧Dは、後述する検査波形決定処理により、液体吐出ヘッド35が備える圧電素子200が単位波形PC1,PC2により駆動された場合であっても当該液体吐出ヘッド35が備えるノズルNからはインクが吐出されないような電圧に設定される。
【0105】
図17に示すように、M個のラッチ回路LTは、ラッチ信号LATの立ち上がりのタイミング、すなわち、単位動作期間Tuが開始されるタイミングにおいて、印刷信号SI[1]、SI[2]、…、SI[M]を出力する。
【0106】
また、m段のデコーダーDCは、上述のとおり、印刷信号SI[m]に応じて、制御期間Ts1,Ts2のそれぞれにおいて、
図16に示すテーブルの内容に基づいて選択信号Sa,Sb,Scを出力する。
【0107】
また、m段のトランスミッションゲートTGa,TGb,TGcは、上述のとおり、選択信号Sa,Sb,Scに基づいて、駆動波形信号Com-A,Com-B,Com-Cのいずれか1つを選択し、駆動信号Vin[m]として出力する。
【0108】
なお、
図17に示す切替期間指定信号RTは、切替期間Tdを規定する信号である。切替期間指定信号RT及び切替期間Tdについては、後述する。
【0109】
図15から
図17に加え、
図18を参照しつつ、単位動作期間Tuにおいて吐出選択回路51が出力する駆動信号Vinの波形について説明する。
【0110】
図18は、駆動信号Vinの波形の一例を示す図である。単位動作期間Tuにおいて供給される印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(1、1、0)である場合、制御期間Ts1において、選択信号Sa,Sb,ScがそれぞれH,L,Lレベルとなるため、トランスミッションゲートTGaにより駆動波形信号Com-Aが選択され、単位波形PA1が駆動信号Vin[m]として出力される。また、制御期間Ts2においても制御期間Ts1と同様に、トランスミッションゲートTGaにより駆動波形信号Com-Aが選択され、単位波形PA2が駆動信号Vin[m]として出力される。すなわち、印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(1、1、0)である場合、単位動作期間Tuにおいてm段の液体吐出ヘッド35に供給される駆動信号Vin[m]は印刷用の駆動信号Vinであり、その波形は、
図18に示すように、単位波形PA1及び単位
波形PA2を含む波形DpAAとなる。この結果、m段の液体吐出ヘッド35は、単位動作期間Tuにおいて、単位波形PA1に基づく中程度の量のインクと、単位波形PA2に基づく小程度の量のインクとが吐出され、これら2度にわたり吐出されたインクが媒体P上で合体するため、媒体P上には、大ドットが形成される。
【0111】
単位動作期間Tuにおいて供給される印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(1、0、0)である場合、制御期間Ts1において、選択信号Sa,Sb,ScがそれぞれH,L,Lレベルとなるため、トランスミッションゲートTGaにより駆動波形信号Com-Aが選択され、単位波形PA1が駆動信号Vin[m]として出力される。また、制御期間Ts2において、選択信号Sa,Sb,ScがそれぞれL,H,Lレベルとなるため、トランスミッションゲートTGbにより駆動波形信号Com-Bが選択され、単位波形PB2が駆動信号Vin[m]として出力される。すなわち、印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(1、0、0)である場合、単位動作期間Tuにおいてm段の液体吐出ヘッド35に供給される駆動信号Vin[m]は印刷用の駆動信号Vinであり、その波形は、
図18に示すように、単位波形PA1及び単位波形PB2を含む波形DpABとなる。この結果、m段の液体吐出ヘッド35は、単位動作期間Tuにおいて、単位波形PA1に基づく中程度の量のインクが吐出され、媒体P上には、中ドットが形成される。
【0112】
単位動作期間Tuにおいて供給される印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(0、1、0)である場合、制御期間Ts1において、選択信号Sa,Sb,ScがそれぞれL,H,Lレベルとなるため、トランスミッションゲートTGbにより駆動波形信号Com-Bが選択され、単位波形PB1が駆動信号Vin[m]として出力される。また、制御期間Ts2において、選択信号Sa,Sb,ScがそれぞれH,L,Lレベルとなるため、トランスミッションゲートTGaにより駆動波形信号Com-Aが選択され、単位波形PA2が駆動信号Vin[m]として出力される。すなわち、印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(0、1、0)である場合、単位動作期間Tuにおいてm段の液体吐出ヘッド35に供給される駆動信号Vin[m]は印刷用の駆動信号Vinであり、その波形は、
図18に示すように、単位波形PB1及び単位波形PA2を含む波形DpBAとなる。この結果、m段の液体吐出ヘッド35は、単位動作期間Tuにおいて、単位波形PA2に基づく小程度の量のインクの吐出がなされ、媒体P上には、小ドットが形成される。
【0113】
単位動作期間Tuにおいて供給される印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(0、0、0)である場合、制御期間Ts1において、選択信号Sa,Sb,ScがそれぞれL,H,Lレベルとなるため、トランスミッションゲートTGbにより駆動波形信号Com-Bが選択され、単位波形PB1が駆動信号Vin[m]として出力される。また、制御期間Ts2においても制御期間Ts1と同様に、トランスミッションゲートTGbにより駆動波形信号Com-Bが選択され、単位波形PB2が駆動信号Vin[m]として出力される。すなわち、印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(0、0、0)である場合、単位動作期間Tuにおいてm段の液体吐出ヘッド35に供給される駆動信号Vin[m]は印刷用の駆動信号Vinであり、その波形は、
図18に示すように、単位波形PB1及び単位波形PB2を含む波形DpBBとなる。この結果、m段の液体吐出ヘッド35からは、単位動作期間Tuにおいて、インクの吐出がなされず、媒体P上には、ドットが形成されない。
【0114】
単位動作期間Tuにおいて供給される印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(0、0、1)である場合、制御期間Ts1において、選択信号Sa,Sb,ScがそれぞれL,L,Hレベルとなるため、トランスミッションゲートTGcにより駆動波形信号Com―Cが選択され、単位波形PC1が駆動信号Vin[m]として出力される。
また、制御期間Ts2においても制御期間Ts1と同様に、トランスミッションゲートTGcにより駆動波形信号Com―Cが選択され、単位波形PC2が駆動信号Vin[m]として出力される。すなわち、印刷信号SI[m]の内容が(b1、b2、b3)=(0、0、1)である場合、単位動作期間Tuにおいてm段の液体吐出ヘッド35に供給される駆動信号Vin[m]は検査用の駆動信号Vinであり、その波形は、
図18に示すように、単位波形PC1及び単位波形PC2を含む波形DpTとなる。なお、波形DpTは、検査波形決定処理において、波形DpTを有する駆動信号Vinが液体吐出ヘッド35に供給されても、液体吐出ヘッド35からはインクが吐出されないような波形に定められる。
【0115】
1.5 切替回路の動作
図19は、切替回路53の構成、並びに、切替回路53と吐出異常検出回路52、ヘッド部30、及び吐出選択回路51との電気的な接続関係を示すブロック図である。
【0116】
図19に示すように、切替回路53は、M個の液体吐出ヘッド35に1対1に対応する1段~M段のM個の切替回路Uを備える。また、吐出異常検出回路52は、M個の液体吐出ヘッド35に1対1に対応する1段~M段のM個の吐出異常検出回路DTを備える。なお、
図19には、1段、2段、…、M段に対応する切替回路UをU[1],U[2],…,U[M]と示し、吐出異常検出回路52をDT[1],DT[2],…,DT[M]と示し、液体吐出ヘッド35をTH[1],TH[2],…,TH[M]と示している。そして、m段の切替回路U[m]は、m段の液体吐出ヘッドTH[m]の圧電素子200を、吐出選択回路51が備えるm段の出力端OTN、又は吐出異常検出回路52が備えるm段の吐出異常検出回路DT[m]のいずれか一方に、電気的に接続する。
【0117】
すなわち、本実施形態における液体吐出装置1は、吐出異常検出回路DT[p](pは1~Mのいずれかである)は、液体吐出ヘッドTH[p]が有するノズルNの吐出異常の有無の検出、及び吐出異常の原因を特定し、切替回路U[p]は、液体吐出ヘッドTH[p]と吐出選択回路51とを電気的に接続するのか、又は、液体吐出ヘッドTH[p]と吐出異常検出回路DT[p]とを電気的に接続するかを切替える。また、吐出異常検出回路DT[q](qは1~Mのいずれかであり、且つp≠qである)は、液体吐出ヘッドTH[q]が有するノズルNの吐出異常の有無の検出、及び吐出異常の原因を特定し、切替回路U[q]は、液体吐出ヘッドTH[q]と吐出選択回路51とを電気的に接続するのか、又は、液体吐出ヘッドTH[q]と吐出異常検出回路DT[q]とを電気的に接続するかを切替える。
【0118】
この場合において、吐出選択回路51は、液体吐出ヘッドTH[p]が有する圧電素子200と、液体吐出ヘッドTH[q]が有する圧電素子200とのそれぞれに対して、駆動波形信号Comを供給するか否かを選択する。
【0119】
そして、切替回路U[p]と切替回路U[q]との双方が、吐出異常検出処理を実行する場合、吐出異常検出回路DT[p]における、液体吐出ヘッドTH[p]が有するノズルNの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因の特定と、吐出異常検出回路DT[q]における、液体吐出ヘッドTH[q]が有するノズルNの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因の特定とが並行して実行される。これにより、複数の液体吐出ヘッド35を有する場合であっても、対応するノズルNの吐出異常の有無の検出、及び吐出異常の原因の特定を短時間で実行することが可能となる。
【0120】
そして、吐出異常検出回路DT[p]及び吐出異常検出回路DT[q]のそれぞれが有するノズルNに吐出異常が生じた場合、吐出異常検出回路DT[p]及び吐出異常検出回路DT[q]のそれぞれに吐出異常が生じていることが制御部6を介して回復機構84に
伝達される。そして、回復機構84は、吐出異常検出回路DT[p]が検出する吐出異常の原因に応じて、液体吐出ヘッドTH[p]に対して、回復処理を実行し、吐出異常検出回路DT[q]が検出する前記吐出異常の原因に応じて、液体吐出ヘッドTH[q]に対して、前記回復処理を実行する。
【0121】
ここで、吐出異常検出回路DT[p]が第1吐出異常検出回路の一例であり、液体吐出ヘッドTH[p]が第1液体吐出ヘッドの一例であり、切替回路U[p]が第1切替回路の一例である。また、吐出異常検出回路DT[q]が第2吐出異常検出回路の一例であり、液体吐出ヘッドTH[q]が第2液体吐出ヘッドの一例であり、切替回路U[q]が第2切替回路の一例である。また、各切替回路Uにおいて、液体吐出ヘッド35と吐出選択回路51の出力端OTNとが電気的に接続させている状態を第1接続状態と称する。また、液体吐出ヘッド35と吐出異常検出回路52の吐出異常検出回路DTとが電気的に接続させている状態を第2接続状態と称する。
【0122】
制御部6は、各切替回路Uの接続状態を制御するための切替制御信号Swを、各切替回路Uに対して出力する。
【0123】
具体的には、制御部6は、m段の液体吐出ヘッド35が単位動作期間Tuにおいて印刷処理に使用される場合、当該m段の液体吐出ヘッド35に対応する切替回路U[m]が当該単位動作期間Tuの全期間に亘って第1接続状態を維持するような切替制御信号Sw[m]を、切替回路U[m]に供給する。
【0124】
他方、制御部6は、m段の液体吐出ヘッド35が単位動作期間Tuにおいて吐出異常検出処理の対象となる場合、又は、検査波形決定処理の対象となる場合、当該m段の液体吐出ヘッド35に対応する切替回路U[m]が、当該単位動作期間Tuのうち切替期間Td以外の期間において第1接続状態となり、当該単位動作期間Tuのうち切替期間Tdにおいて第2接続状態となるような切替制御信号Sw[m]を、切替回路U[m]に供給する。このため、単位動作期間Tuのうち切替期間Td以外の期間において、吐出異常検出処理の対象となる液体吐出ヘッド35に対して吐出選択回路51から駆動信号Vinが供給されるとともに、単位動作期間Tuのうち切替期間Tdにおいて、吐出異常検出回路DTに対して、液体吐出ヘッド35から残留振動信号Voutが供給されることになる。
【0125】
なお、切替期間Tdとは、
図17に示すように、制御部6が生成する切替期間指定信号RTが電位VLに設定される期間である。具体的には、切替期間Tdは、単位動作期間Tuの中で、駆動波形信号Com―Cが、電位Vc12を維持している期間の一部又は全部となるように定められる期間である。
【0126】
吐出異常検出回路DTは、切替期間Tdにおいて検査用の駆動信号Vinが供給された液体吐出ヘッド35の圧電素子200の起電力の変化を残留振動信号Voutとして検出する。
【0127】
以上のように構成することで、印刷処理を行うi段目の切替回路U[i]を第1接続状態とし、吐出異常検出処理を行うj番目の切替回路U[j]を第2接続状態とすることが可能となる。すなわち、吐出異常検出回路52は、印刷処理であるノズルNから液体が吐出されている吐出動作中に、吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定することが可能となる。これにより、例えば、インクを吐出しないノズルNに対して吐出異常処理を行うことで、媒体Pに形成される画像の印刷速度を低下することなく、ノズルNに吐出異常が生じているか否かの検出が可能となる。
【0128】
1.6 吐出異常検出回路の構成及び動作
ここで、ノズルNに生じた吐出異常を検出する吐出異常検出回路52の構成について説明する。
図20は、吐出異常検出回路52の構成を示すブロック図である。吐出異常検出回路52は、駆動波形信号Comが圧電素子200に供給された後のキャビティ245の圧力の変化に基づいて生じる振動板243の変化を残留振動信号Voutとして検出し、残留振動信号Voutに基づいてノズルNの吐出異常の有無の検出、及び前記吐出異常の原因を特定する。なお、
図20では、1つの吐出異常検出回路52を例示し説明を行う。また、
図20に示す各種構成は、それぞれが、1又は複数の集積回路装置、プロセッサー等で構成される。
【0129】
図20に示すように、吐出異常検出回路52は、周期計測部510、判定部520及び機械学習部530を含む。周期計測部510は、残留振動信号Voutに基づいて、液体吐出ヘッド35の残留振動の1周期分の時間長を表す検出信号NTcを出力する。周期計測部510は、波形整形部511と、計測部512とを含む。波形整形部511は、残留振動信号Voutからノイズ成分を除去した整形波形信号Vdを生成する。計測部512は、整形波形信号Vdに基づき、残留振動信号Voutの周期を計測し、検出信号NTcを生成する。
【0130】
波形整形部511は、例えば、残留振動信号Voutの周波数帯域よりも低域の周波数成分を減衰させた信号を出力するためのハイパスフィルターや、残留振動信号Voutの周波数帯域よりも高域の周波数成分を減衰させた信号を出力するためのローパスフィルター等を備え、残留振動信号Voutの周波数範囲を限定しノイズ成分を除去した整形波形信号Vdを出力可能な構成を含む。また、波形整形部511は、残留振動信号Voutの振幅を調整するための負帰還型のアンプや、残留振動信号Voutのインピーダンスを変換してローインピーダンスの整形波形信号Vdを出力するためのボルテージフォロアなどを含む構成であってもよい。
【0131】
計測部512には、波形整形部511において残留振動信号Voutを整形した整形波形信号Vdと、制御部6が生成するマスク信号Mskと、閾値電位Vth_c,Vth_o,Vth_uとが入力される。閾値電位Vth_cは、整形波形信号Vdの振幅中心レベルの電位に定められた閾値であり、閾値電位Vth_oは、閾値電位Vth_cよりも高電位側に定められた閾値であり、閾値電位Vth_uは、閾値電位Vth_cよりも低電位側に定められた閾値である。そして、計測部512は、入力されるこれらの信号に基づいて、検出信号NTcと、当該検出信号NTcが有効な値であるか否かを示す有効性フラグFlagとを出力する。
【0132】
図21は、計測部512の動作を示すタイミングチャートである。
図21に示すように、計測部512は、整形波形信号Vdの電位と閾値電位Vth_cとを比較する。そして、計測部512は、整形波形信号Vdの電位が、閾値電位Vth_c以上の場合にハイレベルとなり、整形波形信号Vdの電位が、閾値電位Vth_c未満の場合にローレベルとなる比較信号Cmp1を生成する。
【0133】
また、計測部512は、整形波形信号Vdの電位と閾値電位Vth_oとを比較する。そして、計測部512は、整形波形信号Vdの電位が、閾値電位Vth_o以上の場合にハイレベルとなり、整形波形信号Vdの電位が、閾値電位Vth_o未満の場合にローレベルとなる比較信号Cmp2を生成する。
【0134】
また、計測部512は、整形波形信号Vdの電位と閾値電位Vth_uとを比較する。そして、計測部512は、整形波形信号Vdの電位が、閾値電位Vth_u未満の場合にハイレベルとなり、整形波形信号Vdの電位が、閾値電位Vth_u以上の場合にハイレベルとなる比較信号Cmp3を生成する。
【0135】
マスク信号Mskは、整形波形信号Vdの供給が開始される時刻t0から所定の期間Tmskの間だけハイレベルとなる信号である。計測部512は、整形波形信号Vdのうち、期間Tmskの経過後の整形波形信号Vdのみを対象として検出信号NTcを生成することで、残留振動の開始直後に重畳するノイズ成分を除去した精度の高い検出信号NTcを得ることができる。
【0136】
計測部512は、不図示のカウンタを備える。当該カウンタは、マスク信号Mskがローレベルに立ち下がった後、整形波形信号Vdの示す電位が最初に閾値電位Vth_cと等しくなるタイミングである時刻t1において、不図示のクロック信号のカウントを開始する。すなわち、当該カウンタは、マスク信号Mskがローレベルに立ち下がった後、比較信号Cmp1が最初にハイレベルに立ち上がるタイミング、又は比較信号Cmp1が最初にローレベルに立ち下がるタイミングのうち、早い方のタイミングである時刻t1において、カウントを開始する。
【0137】
そして、当該カウンタは、カウントを開始した後において、整形波形信号Vdの示す電位が、2度目に閾値電位Vth_cとなるタイミングである時刻t2においてクロック信号のカウントを終了させる。すなわち、当該カウンタは、マスク信号Mskがローレベルに立ち下がった後、比較信号Cmp1が2度目にハイレベルに立ち上がるタイミング、又は比較信号Cmp1が2度目にローレベルに立ち下がるタイミングのうち、早い方のタイミングである時刻t2において、カウントを終了する。
【0138】
そして、計測部512は、当該カウンタにより得られたカウント値を検出信号NTcとして出力する。すなわち、計測部512は、時刻t1から時刻t2までの時間長を、整形波形信号Vdの1周期分の時間長として計測することで検出信号NTcを生成する。
【0139】
ここで、
図21において鎖線で示すように整形波形信号Vdの振幅が小さい場合、検出信号NTcを正確に計測できないおそれがある。また、整形波形信号Vdの振幅が小さい場合、仮に検出信号NTcの結果のみに基づいて液体吐出ヘッド35の吐出状態が正常であると判断される場合であっても、例えば、キャビティ245にインクが注入されていないことによりインクを吐出できない状態である等、実際には吐出異常が生じている可能性が存在する。そこで、計測部512は、整形波形信号Vdの振幅が、検出信号NTcの計測のために十分な大きさを有しているか否かを判定し、当該判定の結果を有効性フラグFlagとして出力する。
【0140】
具体的には、計測部512は、カウンタによりカウントが実行されている期間、つまり、時刻t1から時刻t2までの期間において、整形波形信号Vdの示す電位が、閾値電位Vth_oを超え、且つ、閾値電位Vth_uを下回る場合、有効性フラグFlagの値を、検出信号NTcが有効であることを示す値「1」に設定し、それ以外の場合には「0」に設定したうえで、有効性フラグFlagを出力する。より詳細には、計測部512は、時刻t1から時刻t2までの期間において、比較信号Cmp2がローレベルからハイレベルに立ち上がった後再びローレベルに立下り、且つ、比較信号Cmp3がローレベルからハイレベルに立ち上がった後再びローレベルに立下る場合に、有効性フラグFlagの値を「1」に設定し、それ以外の場合に、有効性フラグFlagの値を「0」に設定する。
【0141】
以上のように計測部512は、整形波形信号Vdの1周期分の時間長を示す検出信号NTcを生成するのに加え、整形波形信号Vdが検出信号NTcの計測のために十分な大きさの振幅を有しているか否かを判定する。これにより、吐出異常検出回路52は、より正確に吐出異常の有無を検出することが可能となる。
【0142】
図20に戻り、判定部520は、整形波形信号Vdの周期と所定の閾値とに基づいて吐出異常の有無の検出、及び吐出異常の原因を特定する。そして、判定部520は、吐出異常の有無、及び吐出異常の原因の判定結果を示す判定結果信号Rsを出力する。
【0143】
図22は、判定部520における判定の内容を説明するための図である。
図22に示すように、判定部520は、検出信号NTcが示す時間長を、第1閾値NTx1、第1閾値NTx1よりも長い時間長を表す第2閾値NTx2、及び第2閾値NTx2よりもさらに長い時間長を表す第3閾値NTx3のそれぞれと比較する。
【0144】
ここで、第1閾値NTx1は、吐出異常の原因として気泡混入が発生して残留振動の周波数が高くなる場合における残留振動の1周期分の時間長と、吐出状態が正常である場合における残留振動の1周期分の時間長との境界を示すための値である。また、第2閾値NTx2は、吐出異常の原因として紙片付着が発生して残留振動の周波数が低くなる場合における残留振動の1周期分の時間長と、吐出状態が正常である場合における残留振動の1周期分の時間長との境界を示すための値である。また、第3閾値NTx3は、吐出異常の原因として乾燥増粘が発生して、紙粉付着の場合よりもさらに残留振動の周波数が低くなる場合における残留振動の1周期分の時間長と、ノズルN出口付近に紙粉が付着した場合における残留振動の1周期分の時間長との境界を示すための値である。
【0145】
図22に示すように、判定部520は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx1≦NTc≦NTx2」の関係を満たす場合、液体吐出ヘッド35におけるインクの吐出状態が正常であると判定する。そして、判定部520は、判定結果信号Rsに対して、吐出状態が正常であることを示す値「1」を設定する。
【0146】
また、判定部520は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTc<NTx1」の関係を満たす場合、キャビティ245に混入した気泡により吐出異常が発生していると判定する。そして、判定部520は、判定結果信号Rsに対して、気泡混入の吐出異常が発生していることを示す値「2」を設定する。
【0147】
また、判定部520は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx2<NTc≦NTx3」の関係を満たす場合、ノズルNの出口付近に付着した紙粉により吐出異常が発生していると判定する。そして、判定部520は、判定結果信号Rsに対して、紙片付着の吐出異常が発生していることを示す値「3」を設定する。
【0148】
また、判定部520は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx3<NTc」の関係を満たす場合、ノズルNの付近におけるインクの増粘により吐出異常が発生していると判定する。そして、判定部520は、判定結果信号Rsに対して、乾燥増粘の吐出異常が発生していることを示す値「4」を設定する。
【0149】
また、判定部520は、有効性フラグFlagの値が「0」である場合、インクが注入されていない等、なんらかの原因により吐出異常が発生していることを示す値「5」を設定する。
【0150】
以上のように、判定部520は、所定の閾値として第1閾値NTx1と、第1閾値NTx1よりも長い周期に設けられた第2閾値NTx2と、第2閾値NTx2よりも長い周期に設けられた第3閾値NTx3とを有する。そして、残留振動信号Voutの周期が、第1閾値NTx1未満の場合、判定部520は、吐出異常の原因を気泡混入と判定する。また、残留振動信号Voutの周期が、第2閾値NTx2を超えて、且つ第3閾値NTx3以下の場合、判定部520は、吐出異常の原因を紙粉付着と判定する。また、残留振動信
号Voutの周期が、第3閾値NTx3を超える場合、判定部520は、吐出異常の原因を乾燥増粘と判定する。すなわち、判定部520は、液体吐出ヘッド35において吐出異常が生じているか否かを判定し、吐出異常が生じている場合においては当該吐出異常の原因として、気泡混入、乾燥増粘及び紙片付着の少なくとも1つを特定し、判定結果信号Rsとして制御部6に出力する。そして、制御部6は、吐出異常が生じている場合、回復機構84において回復処理を実行させる。なお、回復機構84における回復処理の詳細については後述する。
【0151】
以上に説明したように、吐出異常検出回路52は、残留振動信号Voutに基づいてノズルNの吐出異常の有無の検出、及び原因を特定する。しかしながら、駆動信号Vinの波形のばらつき、液体吐出ヘッド35に供給されるインクの物性、液体吐出装置1の使用環境、及び、液体吐出装置1を構成する各種部品の特性の変化等に起因して、残留振動信号Voutの周期にばらつきが生じるおそれがある。そのため、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2、第3閾値NTx3をあらかじめ定めた固定の閾値とした場合、吐出異常検出回路52におけるインクの吐出状態を正確に判定できないおそれがある。
【0152】
そこで、本実施形態における吐出異常検出回路52は、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2、第3閾値NTx3の更新を行うための信号を生成する機械学習部530を有する。
図20に示すように機械学習部530は、残留振動信号Voutを検出する検出部531と、ノズルNから吐出されるインクの吐出状態を示す情報を取得する取得部532と、残留振動信号とインクの吐出状態との関係を機械学習する学習部533と、を含む。そして、学習部533は、機械学習した残留振動信号Voutと吐出状態との関係に基づいて、液体吐出ヘッド35の吐出異常の有無を示す学習閾値信号NT_thを生成する。そして、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2、第3閾値NTx3は、学習閾値信号NT_thに基づいて更新される。
【0153】
機械学習部530は、検出部531、取得部532、学習部533及び閾値更新判定部534を含む。
【0154】
検出部531には、残留振動信号Voutが入力される。検出部531は入力される残留振動信号Voutの波形から、残留振動の最大電圧、最小電圧、振幅、振動周期、振動継続時間、振動振幅の減衰率などの残留振動信号Voutに含まれる残留振動の波形データを検出し、状態変数SVとして出力する。
【0155】
取得部532は、液体吐出ヘッド35からの実際にインクが吐出されたか否かを検出する。取得部532は、例えば、光学的な手法を用いて媒体Pにインクが吐出されているか否かを検出してもよい。また、取得部532は、例えば、カメラ等を用いて媒体Pのインクが吐出されているか否かを検出してもよい。また、取得部532は、例えば、残留振動の波形の振幅や周期、並びに当該残留振動の継続時間や減衰率などに基づいて、媒体Pにインクが吐出されているか否かを検出してもよい。そして、取得部532は、取得したインクの吐出状態を示す情報を、吐出情報信号DPとして学習部533に出力する。
【0156】
学習部533は、検出部531によって検出された状態変数SVと、実際にインクが吐出されたか否かを示す吐出情報信号DPとの組み合わせによって作成される学習モデルに従って、残留振動信号Voutと吐出状態との関係を学習する。学習部533は、検出部531によって検出された状態変数SVと、実際にインクが吐出されたか否かを示す吐出情報信号DPとの組み合わせによって作成される学習モデルに従って、第1閾値NTx1に対応する学習閾値NTx1a、第2閾値NTx2に対応する学習閾値NTx2a、第3閾値NTx3に対応する学習閾値NTx3aを生成する。そして、学習部533は、学習閾値NTx1a,NTx2a,NTx3aを示す学習閾値信号NT_thを生成し、閾値
更新判定部534に出力する。
【0157】
閾値更新判定部534には、学習閾値信号NT_th、検出信号NTc、有効性フラグFlag及び判定結果信号Rsが入力される。そして、閾値更新判定部534は、学習閾値信号NT_th、検出信号NTc、有効性フラグFlag及び判定結果信号Rsに基づいて、現在の第1閾値NTx1、第2閾値NTx2及び第3閾値NTx3を更新すべきか否かを判定する。そして、当該判定結果に基づく閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0158】
具体的には、閾値更新判定部534は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx1a≦NTc≦NTx2a」の関係を満たす場合、気泡による吐出異常が発生していることを示す値「2」に設定された判定結果信号Rsが入力されると、第1閾値NTx1を小さくする必要があると判定する。したがって、閾値更新判定部534は、第1閾値NTx1が第2閾値NTx2から離れるように第1閾値NTx1を更新するための閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0159】
また、閾値更新判定部534は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx1a≦NTc≦NTx2a」の関係を満たす場合に、紙粉による吐出異常が発生していることを示す値「3」に設定された判定結果信号Rsが入力されると、第2閾値NTx2を大きくする必要があると判定する。したがって、閾値更新判定部534は、第2閾値NTx2が第1閾値NTx1から離れるように第2閾値NTx2を更新するための閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0160】
また、閾値更新判定部534は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTc<NTx1a」の関係を満たす場合に、吐出状態が正常であることを示す値「1」に設定された判定結果信号Rsが入力されると、第1閾値NTx1を大きくする必要があると判定する。したがって、閾値更新判定部534は、第1閾値NTx1が第2閾値NTx2に近づくように第1閾値NTx1を更新するための閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0161】
また、閾値更新判定部534は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx2a<NTc≦NTxa」の関係を満たす場合に、吐出状態が正常であることを示す値「1」に設定された判定結果信号Rsが入力されると、第2閾値NTx2を小さくする必要があると判定する。したがって、閾値更新判定部534は、第2閾値NTx2が第1閾値NTx1に近づくように第2閾値NTx2を更新するための閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0162】
また、閾値更新判定部534は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx2a<NTc≦NTxa」の関係を満たす場合に、インク増粘による吐出異常が発生していることを示す値「4」に設定された判定結果信号Rsが入力されると、第3閾値NTx3を大きくする必要があると判定する。したがって、閾値更新判定部534は、第3閾値NTx3が第2閾値NTx2から離れるように第3閾値NTx3を更新するための閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0163】
また、閾値更新判定部534は、有効性フラグFlagの値が「1」であり、且つ、検出信号NTcが「NTx3a<NTc」の関係を満たす場合に、紙粉による吐出異常が発生していることを示す値「3」に設定された判定結果信号Rsが入力されると、第3閾値NTx3を小さくする必要があると判定する。したがって、閾値更新判定部534は、第3閾値NTx3が第2閾値NTx2に近づくように第3閾値NTx3を更新するための閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0164】
ここで、液体吐出装置1の液体吐出方法として吐出以上検出方法及び機械学習の方法について、
図23及び
図24を用いて説明する。上述した吐出異常検出回路52における吐出異常検出方法について説明する。
図23は吐出異常検出回路52における吐出異常検出処理の方法を示すフローチャート図である。
【0165】
吐出異常検出回路52の吐出異常検出処理として、周期計測部510に含まれる波形整形部511は、入力される残留振動信号Voutのノイズ成分を除去し、整形波形信号Vdを生成する(ステップS110)。
【0166】
整形波形信号Vdは、計測部512に入力される。そして、計測部512は、整形波形信号Vdの1周期分の時間長を計測し、検出信号NTcを生成する(ステップS120)。
【0167】
また、計測部512は、整形波形信号Vdの振幅は十分な大きさを判定する(ステップS130)。整形波形信号Vdの振幅が十分な大きさである場合、計測部512は、有効性フラグFlagを「1」に設定する(ステップS140)。一方、整形波形信号Vdの振幅の大きさが十分な大きさでない場合、計測部512は、有効性フラグFlagを「0」に設定する(ステップS150)。
【0168】
検出信号NTc及び有効性フラグFlagは、判定部520に入力される。判定部520は、入力される検出信号NTc及び有効性フラグFlagと、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2及び第3閾値NTx3に基づいて、ノズルNにおけるインクの吐出異常の有無、及び吐出異常の原因を特定し、判定結果信号Rsを出力する(ステップS160)。
【0169】
機械学習部530は、残留振動信号Voutと、ノズルNの実際の吐出状態とに基づいて残留振動信号Voutと吐出状態との関係を学習する。そして、機械学習部530は、学習結果と判定結果信号Rsとに基づき、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2、第3閾値NTx3を更新する(ステップS170)。
【0170】
ここで、
図23のステップS170の機械学習部530における機械学習の方法について説明する。
図24は機械学習部530における機械学習の方法を示すフローチャート図である。
【0171】
機械学習部530に含まれる検出部531には、残留振動信号Voutが入力される。
【0172】
検出部531は、残留振動信号Voutを検出する(ステップS171)。そして、検出部531は、残留振動信号Voutの信号波形に基づく状態変数SVを生成する(ステップS172)。また、取得部532は、ノズルNから吐出されるインクの実際の吐出状態を示す信号を取得する(ステップS173)。そして、取得部532は、取得したインクの徒手状態を示す吐出情報信号DPを生成する(ステップS174)。
【0173】
学習部533には、状態変数SV及び吐出情報信号DPが入力される。そして、学習部533は、状態変数SVと吐出情報信号DPとの関係を機械学習する(ステップS175)。そして、学習部533は、機械学習による学習結果に基づく、学習閾値NTx1a,NTx2a,NTx3aを含む学習閾値信号NT_thを生成する。
【0174】
閾値更新判定部534は、学習閾値信号NT_thとして入力される学習閾値NTx1a,NTx2a,NTx3aと、判定結果信号Rsとに基づき、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2及び第3閾値NTx3を更新する(ステップS176)。
【0175】
図23及び
図24に示す方法により、吐出異常検出回路52は、ノズルNに対して、吐出異常の有無、及び当該吐出異常の原因を特定する。さらに、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2及び第3閾値NTx3は、残留振動信号Voutと、ノズルNの実際の吐出状態との関係を学習させた学習モデルに基づいて更新される。これにより、残留振動信号Voutの波形のばらつき、液体吐出ヘッド35に供給されるインクの物性、液体吐出装置1の使用環境、及び、液体吐出装置1を構成する各種部品の特性の変化等に起因して、残留振動信号Voutの周期にばらつきが生じた場合であっても、最適な閾値により吐出異常の有無、及び当該吐出異常の原因を特定することが可能となる。したがって、吐出異常検出回路52におけるインクの吐出状態の検出精度を高めることができる。
【0176】
ここで、上述した吐出異常検出回路52において、残留振動信号Voutに基づく状態変数SVと、ノズルNから実際に吐出されるインクの吐出状態を示す吐出情報信号DPとの関係を機械学習し、学習閾値NTx1a,NTx2a,NTx3aを示す学習閾値信号NT_thを生成する学習部533が狭義には学習部の一例であるが、学習部は、状態変数SVと吐出情報信号DPとに関係を機械学習し、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2及び第3閾値NTx3を更新すべきか否かを示す閾値更新信号NT_udを出力する構成であるとすれば、学習部533と閾値更新判定部534とを含む構成も学習部の一例であり、また、学習部が、状態変数SVと吐出情報信号DPとに関係を機械学習し、液体吐出ヘッド35におけるインクの吐出状態を表す判定結果信号Rsを出力すれ構成であるとすれば、学習部533、閾値更新判定部534及び判定部520を含む構成も学習部の一例であるといえる。
【0177】
1.7 回復処理動作
ここで、吐出異常検出回路52により吐出異常が検出され場合において、当該吐出異常が検出されたノズルNの状態を回復させる回復機構84の回復処理について説明する。回復機構84は、回復処理として、ポンプ吸引処理、フラッシング処理及びワイピング処理を含む。
【0178】
図25は、ポンプ吸引処理の一例を示す図である。
図25に示すチューブ321は、ポンプ吸引処理におけるインクの排出系を示すものである。チューブ321の一端は、キャップ310の底部に接続され、チューブ321の他端は、ポンプ320を介して排インクカートリッジ340に接続される。
【0179】
また、キャップ310の内部底面には、インク吸収体330が設けられている。インク吸収体330は、ポンプ吸収処理において、ノズルNから吐出されるインクを吸収し、一時的に貯蔵する。これにより、ポンプ吸引処理の実行時において、吸引されたインクが跳ね返り、ノズルプレート240に付着するおそれを低減することができる。
【0180】
図26は、ワイピング処理の一例を示す図である。
図26の(a)に示すようにワイパー300は、ノズルプレート240と当接可能なように、上下移動可能に設けられる。そして、ワイピング処理が実行されると、ワイパー300の先端に設けられたワイピング部材301が、ノズルプレート240よりも上側に位置するように移動する。そして、キャリッジモーター41を駆動することで、液体吐出ヘッド35を移動させる。これにより、
図26の(b)に示すようにワイピング部材301がノズルプレート240に当接する。ここで、ワイピング部材301は可塑性のゴム等で構成される。したがって、ワイピング部材301がノズルプレート240に当接した場合、ワイピング部材の先端部にワタミが生じる。これにより、ワイピング部材301によりノズルプレート240の表面をふき取ることが可能となり、当該ノズルプレート240に付着した紙片等を除去することが可能となる。
【0181】
フラッシング処理は、例えば、
図25に示すキャップ310が装着された状態で、対象となる液体吐出ヘッド35含む1又は複数の液体吐出ヘッド35を駆動し、対応するノズルNからインクを吐出させる。フラッシング処理を行うことで、液体吐出ヘッド35に貯留されるインクの粘度を適正範囲に保持、あるいは、インクの粘度を回復すること可能となる。
【0182】
上述した回復処理は、吐出異常検出回路52により特定された吐出異常に応じて実行される。具体的には、吐出異常検出回路52が特定した吐出異常の原因が気泡混入の場合、回復機構84は、ポンプ吸引処理を実行する。また、吐出異常検出回路52が特定した吐出異常の原因が乾燥増粘の場合、回復機構84は、フラッシング処理、又はポンプ吸引処理を実行する。また、吐出異常検出回路52が特定した吐出異常の原因が紙片付着の場合、回復機構84は、ワイピング処理を実行する。
【0183】
そして、回復機構84は、上述した回復処理を実行した後において、当該吐出異常が生じた異常ノズルの一例であるノズルNを含む1又は複数のノズルNからインクを吐出させる。そして吐出異常検出回路52は、当該吐出異常が生じたノズルNに対して吐出異常の有無を再検出する。これにより、吐出異常が生じたノズルNに対して実行した回復処理が正常に機能したか否かを判断することが可能となる。
【0184】
また、回復機構84は、吐出異常検出回路52において吐出異常が検出された場合、当該吐出異常が検出されたノズルNに対して、フラッシング処理を実行してもよい。そして、フラッシング処理の実行後に、当該吐出異常が生じた異常ノズルの一例であるノズルNを含む1又は複数のノズルNからインクを吐出させる。吐出異常検出回路52は、当該吐出異常が生じたノズルNに対して吐出異常の有無を再検出する。そして、吐出異常検出回路52は、当該再検出において、再度吐出異常が生じたノズルNに対して、吐出異常の有無、及び吐出異常の原因を特定する。回復機構84は、吐出異常検出回路52の再検出により特定された原因に対応する回復処理を実行する。
【0185】
このように、吐出異常を検出したノズルNに対してフラッシング処理を実行することで、当該吐出異常が軽微なものである場合、吐出異常を回復することが可能となる。ここで、フラッシング処理を実行するノズルNは、当該吐出異常が生じたノズルのみであることが好ましい。これにより、インクの消費量を低減することが可能となる。
【0186】
1.8 作用効果
以上のように、本実施形態における液体吐出装置1では、吐出異常検出回路52に含まれる検出部531は、キャビティ245の圧力の変化に基づいて生じる振動板243の変化を残留振動信号Voutとして検出する。また、吐出異常検出回路52に含まれる取得部532は、当該残留振動信号Voutが取得された場合におけるノズルNからのインクの吐出状態を取得する。学習部533は、検出部531が検出した残留振動信号Voutの信号波形から得られる、電圧振幅、振動周期、減衰率、時間等の検出データと、取得部532が取得したノズルNからのインクの吐出状態との関係を機械学習する。そして、吐出異常検出回路52は、当該機械学習の結果に基づき得られた学習結果に基づいてノズルNの吐出異常の有無の検出、及び吐出異常の原因を特定する。これにより、吐出異常検出回路52は、液体吐出装置1において個別に生じるおそれがある(1)液体吐出装置1の設計誤差(2)液体吐出装置が使用される温度、湿度などの環境(3)液体吐出装置を構成する各種構成の経年変化に伴う特性の変化(4)使用されるインクの粘度等の物性を加味した最適な検出閾値を得ることが可能となり、従って、インクの吐出状態の検査精度が低下するおそれが低減する。
【0187】
2.第2実施形態
第2実施形態における液体吐出装置1について説明する。第2実施形態における液体吐出装置1を説明するにあたり、第1実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、その説明を省略、又は簡略化する。第1実施形態における液体吐出装置1では、吐出異常検出回路52が有する機械学習部530は、残留振動信号Voutに基づく状態変数SVとノズルNから吐出される実際のインクの吐出状態とを示す吐出情報信号DPとに基づいて、学習部533が残留振動信号VoutとノズルNから吐出されるインクの吐出状態との関係を学習したが、第2実施形態における吐出異常検出回路52は、吐出異常検出回路52の外部において残留振動信号VoutとノズルNから吐出されるインクの吐出状態との関係を学習し、当該学習により得られた学習モデルを吐出異常検出回路52に入力し、保持される点で、第1実施形態の液体吐出装置1とは異なる。
【0188】
図27は、第2実施形態における吐出異常検出回路52の構成を示す図である。
図27に示すように第2実施形態における吐出異常検出回路52は、周期計測部510、判定部520、検出部531、学習閾値信号生成部537、インターフェース回路(IF回路)535、記憶部536及び閾値更新判定部534を有する。なお、周期計測部510は、第1実施形態と同様の構成であり、その説明を省略する。
【0189】
検出部531には、残留振動信号Voutが入力される。検出部531は入力される残留振動信号Voutの波形から、残留振動の最大電圧、最小電圧、振動周期、振動継続時間及び振動振幅の減衰率の少なくとも1つを含む残留振動波形の波形データを検出し、状態変数SVとして出力する。換言すれば検出部は、残留振動信号Voutを検出する。
【0190】
インターフェース回路535は、液体吐出装置1の外部に設けられた不図示のホストコンピューター、サーバー等の外部機器と通信可能に設けられる。なお、インターフェース回路535は、例えば、制御部6を介して当該外部機器と接続されてもよい。インターフェース回路535には、外部機器により残留振動データとノズルNからインクの吐出状態との関係が学習された学習モデルIMが入力される。
【0191】
インターフェース回路535に入力された学習モデルIMは、記憶部536に記憶される。換言すれば、記憶部536は、残留振動信号VoutとノズルNから吐出されるインクの吐出状態との関係を機械学習させた学習モデルIMを記憶する。そして、記憶部536に記憶された学習モデルIMは、学習閾値信号生成部537に出力される。
【0192】
学習閾値信号生成部537には、検出部531から出力される状態変数SVと記憶部536に記憶される額数モデルとが入力される。そして学習閾値信号生成部537は、残留振動信号Voutと学習モデルIMとに基づいて学習閾値NTx1a,NTx2a,NTx3aを含む学習閾値信号NT_thを生成し、閾値更新判定部534に出力する。
【0193】
閾値更新判定部534には、第1実施形態と同様に学習閾値信号NT_th、検出信号NTc、有効性フラグFlag及び判定結果信号Rsが入力される。そして、閾値更新判定部534は、学習閾値信号NT_th、検出信号NTc、有効性フラグFlag及び判定結果信号Rsに基づいて、現在の第1閾値NTx1、第2閾値NTx2、第3閾値NTx3を更新すべきか否かを判定する。そして、当該判定結果に基づく閾値更新信号NT_udを生成し出力する。
【0194】
判定部520には、検出信号NTcと有効性フラグFlagとが入力される。そして、第1実施形態と同様に、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2、第3閾値NTx3を用いて検出信号NTcの時間長を判定することで、判定結果信号Rsを出力する。すなわち、判定部520は、残留振動信号Voutに基づく状態変数SVと、学習モデルIMとに基
づいて生成された第1閾値NTx1、第2閾値NTx2、第3閾値NTx3により液体吐出ヘッド35の吐出異常の有無を判定する。
【0195】
ここで、第2実施形態における機械学習部530における閾値更新信号NT_udの生成方法について説明する。
図28は第2実施形態における液体吐出方法を説明するフローチャート図である。
【0196】
検出部531は、残留振動信号Voutを検出する(ステップS271)。そして、検出部531は、残留振動信号Voutの信号波形に基づく状態変数SVを生成する(ステップS272)。また、記憶部536は、インターフェース回路535を介して入力される残留振動データとノズルNからのインクの吐出状態とを学習した学習モデルIMを記憶する(ステップS273)。
【0197】
学習閾値信号生成部537には、状態変数SVと学習モデルIMとが入力される。そして、学習閾値信号生成部537は、状態変数SVと学習モデルとに基づいて、学習閾値NTx1a,NTx2a,NTx3aを含む学習閾値信号NT_thを生成する(ステップS274)。
【0198】
閾値更新判定部534は、学習閾値信号NT_thとして入力される学習閾値NTx1a,NTx2a,NTx3aと、判定結果信号Rsとに基づいて、判定部520で保持される第1閾値NTx1、第2閾値NTx2及び第3閾値NTx3を更新する(ステップS275)。
【0199】
判定部520は、検出信号NTcの時間長と、第1閾値NTx1、第2閾値NTx2及び第3閾値NTx3とにより、液体吐出ヘッド35の吐出異常の有無、及び吐出異常原因を特定する(ステップS276)。
【0200】
以上のように構成された第2実施形態の吐出異常検出回路52を含む液体吐出装置1であっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0201】
以上、実施形態及び変形例について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、上記の実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0202】
本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0203】
1…液体吐出装置、3…移動体、4…印刷手段、6…制御部、7…給紙装置、9…ホストコンピューター、30…ヘッド部、31…インクカートリッジ、32…キャリッジ、35,35A…液体吐出ヘッド、41…キャリッジモーター、42…往復動機構、43…キャリッジモータードライバー、50…プリントヘッド、51…吐出選択回路、52…吐出異常検出回路、53…切替回路、54…駆動信号生成回路、61…CPU、62…記憶部、71…給紙モーター、72…給紙ローラー、72a…従動ローラー、72b…駆動ローラー、73…給紙モータードライバー、81…トレイ、82…排紙口、83…操作パネル、84…回復機構、200…圧電素子、201…積層圧電素子、240…ノズルプレート、
242…キャビティプレート、243…振動板、244…中間層、245…キャビティ、246…リザーバ、247…インク供給口、248…外部電極、249…内部電極、252…ノズルプレート、254…金属プレート、255…接着フィルム、256…連通口形成プレート、257…キャビティプレート、258…キャビティ、259…リザーバ、260,261…インク供給口、262…振動板、263…下部電極、264…上部電極、300…ワイパー、301…ワイピング部材、310…キャップ、311…インク供給チューブ、320…ポンプ、321…チューブ、330…インク吸収体、340…排インクカートリッジ、421…タイミングベルト、422…キャリッジガイド軸、510…周期計測部、511…波形整形部、512…計測部、520…判定部、530…機械学習部、531…検出部、532…取得部、533…学習部、534…閾値更新判定部、535…インターフェース回路、536…記憶部、537…学習閾値信号生成部、TGa…トランスミッションゲート、TGb…トランスミッションゲート、TGc…トランスミッションゲート