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特許7151444ポリエステルフィルム、およびそれを用いた曲面ガラス複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム、およびそれを用いた曲面ガラス複合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20221004BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20221004BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221004BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20221004BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20221004BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
B32B27/36
B32B27/00 M
B32B17/10
C09J7/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018231442
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2019108533
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2017242609
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光隆
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅佑美
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 功
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-030563(JP,A)
【文献】特開2010-138261(JP,A)
【文献】特開2010-189579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09J 7/00-7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率半径0.5mm以上200mm以下の曲面を有するガラスに貼付するための二軸配向ポリエステルフィルムであって、150℃における50%伸長応力をP1(MPa)、150℃で50%伸長直後から、50%伸長状態を保持して60秒経過した後の応力をP2(MPa)とした際に、主配向軸方向、および主配向軸方向と直行する方向において式(i)、(ii)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。ただし、伸長応力は、試長50mm、測定幅30mm、伸長速度300mm/分の伸長条件で求めた値とする。
5≦P1≦80・・・(i)
5≦{(P1-P2)/P1×100}≦25・・・(ii)
【請求項2】
主配向軸方向と、主配向軸方向と直行する方向における{(P1-P2)/P1×100}の差が0以上5以下である、請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
主配向軸方向、および主配向軸方向と直行する方向において150℃で50%伸長した後の試長部分のカール度が、0.5mm以上1,200mm以下である、請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。ここでカール度とは、伸長測定後に50mmの長さの試長部分を切り出した試料の端面から求めた曲率半径を指す。
【請求項4】
面内位相差が50nm以上750nm以下である、請求項1~3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
少なくとも片面にさらに塗布層を有する、請求項1~4のいずれかに記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のフィルムと粘着層が積層された、粘着層/フィルム積層体。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載のフィルムと硬化性樹脂層が積層された、硬化性樹脂層/フィルム積層体。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載のフィルムの片方の面に粘着層が積層され、もう片方の面に硬化性樹脂層が積層された、粘着層/フィルム/硬化性樹脂層積層体。
【請求項9】
少なくとも片方の面にさらにポリエステルフィルムが積層された、請求項5~8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1~に記載のフィルム、もしくはフィルム積層体と曲面ガラスを貼り合わせた曲面ガラス複合体であって、フィルムは最も薄い部分の厚みtminと最も厚い部分の厚みtmaxの比tmax/tminが1.05以上5以下であり、曲面ガラスは、フィルムが被覆している曲面のうち最も曲率半径の小さい曲面の曲率半径が0.5mm以上200mm以下であることを特徴とする、曲面ガラス複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面ガラスに貼付するための二軸配向ポリエステルフィルムに関するものであり、貼付後のフィルムの反りや剥がれを抑制できることから、曲面ガラスの保護機能に優れた二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルム、中でも二軸配向ポリエステルフィルムは、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、透明性、耐薬品性などに優れた性質を有することから、磁気記録材料、包装材料などの多くの用途において基材フィルムとして広く使用されている。また、例えば、ガラスの破損防止を目的として、ガラスと積層するフィルム(例えば、特許文献1)や、成型性や延伸性を高めて加飾や樹脂材料の製造工程基材として使用するフィルム(例えば、特許文献2~4)についても提案されている。
【0003】
特許文献1に見られるフィルムの場合、平面ガラスと積層した際にガラス複合体としての反り抑制を考慮した設計となっているが、曲面ガラスのようにすでに曲面形状を有するガラス部材に後からフィルムを沿わせて積層させる場合は、フィルムが変形した際の残存応力によりフィルム側の反りや剥がれが発生してしまい、曲面ガラスの保護機能が不十分な場合があった。
【0004】
また、特許文献2~4のポリエステルフィルムは、従来のポリエステルフィルムより高温時の成型性や延伸性を高めた設計となっているが、ガラスのような熱寸法変化の少ない材料に長時間密着できるような低残存応力化に関する設計は十分にされておらず、特に曲面ガラスに沿わせて積層させる場合はフィルムが変形した際の残存応力によりフィルム側の反りや剥がれなどが発生してしまい、曲面ガラスの保護機能が不十分な場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-039227号公報
【文献】WO2012-005097号公報
【文献】特開2009-029074号公報
【文献】特開2014-235311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では上記の欠点を解消し、曲面ガラスに貼付した際に、貼付後のフィルムの反りや剥がれが抑制可能なポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の構成を有する。
(1) 曲率半径0.5mm以上200mm以下の曲面を有するガラスに貼付するための二軸配向ポリエステルフィルムであって、150℃における50%伸長応力をP1(MPa)、150℃で50%伸長直後から、50%伸長状態を保持して60秒経過した後の応力をP2(MPa)とした際に、主配向軸方向、および主配向軸方向と直行する方向において式(i)、(ii)を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。ただし、伸長応力は、試長50mm、測定幅30mm、伸長速度300mm/分の伸長条件で求めた値とする。
5≦P1≦80・・・(i)
5≦{(P1-P2)/P1×100}≦25・・・(ii)
(2) 主配向軸方向と、主配向軸方向と直行する方向における{(P1-P2)/P1×100}の差が0以上5以下である、(1)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(3) 主配向軸方向、および主配向軸方向と直行する方向において150℃で50%伸長した後の試長部分のカール度が、0.5mm以上1,200mm以下である、(1)または(2)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。ここでカール度とは、伸長測定後に50mmの長さの試長部分を切り出した試料の端面から求めた曲率半径を指す。
(4) 面内位相差が50nm以上750nm以下である(1)~(3)のいずれかに記載のフィルム。
(5) 少なくとも片面にさらに塗布層を有する、(1)~(4)のいずれかに記載のフィルム。
(6) (1)~(5)のいずれかに記載のフィルムと粘着層が積層された、粘着層/フィルム積層体。
(7) (1)~(5)のいずれかに記載のフィルムと硬化性樹脂層が積層された、硬化性樹脂層/フィルム積層体。
(8) (1)~(5)のいずれかに記載のフィルムの片方の面に粘着層が積層され、もう片方の面に硬化性樹脂層が積層された、粘着層/フィルム/硬化性樹脂層積層体。
(9) 少なくとも片方の面にさらにポリエステルフィルムが積層された、(4)~(8)に記載の積層体。
(10) (1)から()に記載のフィルム、もしくはフィルム積層体と曲面ガラスを貼り合わせた曲面ガラス複合体であって、フィルムは最も薄い部分の厚みtminと最も厚い部分の厚みtmaxの比tmax/tminが1.05以上5以下であり、曲面ガラスは、フィルムが被覆している曲面のうち最も曲率半径の小さい曲面の曲率半径が0.5mm以上200mm以下であることを特徴とする、曲面ガラス複合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステルフィルムは、曲面ガラスに貼付するフィルムとして適用した場合に、曲面ガラスに貼付後のフィルムの反りや剥がれが抑制できることから、曲面ガラスの保護機能を向上させる効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムについて詳細に説明する。
【0010】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、150℃における50%伸長応力をP1(MPa)、150℃で50%伸長直後から、50%伸長状態を保持して60秒経過した後の応力をP2(MPa)とした際に、主配向軸方向、および主配向軸方向と直行する方向において式(i)、(ii)を満たすことが重要である。
5≦P1≦80・・・(i)
5≦{(P1-P2)/P1×100}≦25・・・(ii)
ここで、P1は150℃における成形性を示しており、P1が低いほど変形時の応力が低いことを示す。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、P1が80MPa以下であると、変形時の応力が低くなり、フィルムが皺にならずにガラスの曲面部分にきれいに追従させることができる。また、P1が5MPa以上となると、後述する粘着層、硬化性樹脂層などを塗工、乾燥して形成する際に加工張力での過度な変形が起こらず高温での加工性を良好とすることができたり、後述する硬化性樹脂層を積層した後の耐傷付き性を良好とすることができる。
【0011】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、加工性や耐傷付き性の観点から、P1が6MPa以上であるとより好ましく、18MPa以上であるとより好ましい。また、曲面ガラスへの追従性の観点から、65MPa以下であると好ましく、45MPa以下であるとより好ましい。
【0012】
P1を式(i)の範囲とする方法としては、二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステル系樹脂がジオール成分もしくはジカルボン酸成分を2種類以上含む構成としたり、二軸配向ポリエステルフィルムの製造時に用いられる一般的な製造条件より延伸倍率を低くして、フィルムの配向を低減する方法などが挙げられる。
また、本発明において、{(P1-P2)/P1×100}は150℃において伸長状態を一定時間保った前後での応力減少率を示しており、{(P1-P2)/P1×100}が小さいほど伸張直後にかかっていた応力の減少率が小さいことを示す。フィルムが短時間で変形する際には、変形時に加えられた力学的エネルギーがフィルムの形状変化に使用され、残りの一部は分子鎖の緊張などといったマクロな観点からは見えない形で蓄えられる。分子鎖の緊張を緩和させて元の方向に戻ろうとフィルム面内に生じる応力は残留応力と呼ばれることがあり、この残留応力が大きいとガラスの曲面に追従させた後も追従前の状態に戻ろうとする力が大きくなることから、フィルムに反りが起こりやすくなる。この残留応力は、伸長状態を一定時間保っておくと徐々に分子鎖の配置が緩和されて小さくなっていくことから、本発明における{(P1-P2)/P1×100}が小さいことは、伸長直後の応力が減少しにくい、すなわちフィルムを変形した直後の残留応力が小さいことを示している。また、本発明における{(P1-P2)/P1×100}が大きいことは、伸長直後の応力が減少しやすい、すなわちフィルムを変形した直後の残留応力が大きいことを示している。
【0013】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、{(P1-P2)/P1×100}が25以下であると、フィルムが変形した際の残留応力が小さくなり、曲面ガラスのような立体構造物に粘着層を介して追従させた際に、フィルムの反り(曲面ガラスと粘着層の間、もしくは粘着層とフィルムの間)を抑制することができる。また、{(P1-P2)/P1×100}が5以上であると、後述する粘着層、硬化性樹脂層などを塗工、乾燥して形成する際に加工張力での過度な変形が起こらず高温での加工性を良好とすることができたり、後述する硬化性樹脂層を積層した後の耐傷付き性を良好とすることができる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、曲面ガラスへ追従させた際のフィルムの尾反りをより起こりづらくする観点から、{(P1-P2)/P1×100}は23以下が好ましく、18以下がより好ましい。
【0014】
{(P1-P2)/P1×100}を式(ii)の範囲とする方法としては、キャストドラムを複数本設置し、昇温、降温を繰り返させることで未延伸シートに微結晶を形成した後に、縦延伸、もしくは横延伸の倍率を3倍未満とする方法などが挙げられる。このような方法を適用することで、未延伸シートに形成された微結晶が延伸による結晶の面内方向の配列を抑制し、かつ二軸配向ポリエステルフィルムの製造時に用いられる一般的な製造条件より低い延伸倍率と組み合わせることで、フィルム変形時の残留応力を抑制することが可能である。また、未延伸シートに形成された微結晶をきっかけとして延伸による結晶成長も生じるため、単純な低延伸倍率のみでの製造プロセスと比較して二軸配向ポリエステルフィルムの特長(機械特性、透明性などの各種特性)を維持しながらフィルム変形時の残留応力を抑制することが可能となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおけるP1、P2は、フィルムを貼り付ける際の向きによらず反りを抑制する観点から、主配向軸方向、および主配向軸方向と直行する方向のそれぞれについて、式(i)、(ii)を満たす必要がある。ここで、二軸配向ポリエステルフィルムの主配向軸方向とは、フィルムを構成するポリエステルの分子鎖が最も配向している方向であり、光が透過する際の屈折率の最大値(延伸方向に屈折率が増加する、正の複屈折の特性を有する樹脂が主成分の場合)、もしくは最小値(延伸方向に屈折率が減少する、負の複屈折の特性を有する樹脂が主成分の場合)となる方向として求めることができる。具体的には、王子計測機器製「KOBRA」シリーズなど位相差測定装置を用いて任意の方向にサンプリングしたフィルムの配向角(主配向方向の角度)を測定し、主配向方向を求めることができる。また、フィルムの透明性が低く、位相差測定装置などを用いた屈折率の測定が困難な場合は、超音波パルスの縦波をフィルムに伝播させて、伝播速度が最も早くなる方向、もしくは遅くなる方向として求めることができる。
【0015】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、P1、P2は、試長50mm、測定幅30mm、伸長速度300mm/分の伸長条件で求めた値とする。
【0016】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、曲率半径0.5mm以上200mm以下の曲面を有するガラスに貼付するためのフィルムである。フィルムを貼り付けるガラスの曲率半径を0.5mm以上200mm以下とすることで、スマートフォンなどの電子機器の構成部材とした際に、当該電子機器を手で握りやすい形状にしたり、三次元形状での複雑な画面表示を可能としたりすることができる。電子機器の取り扱い性をより良好としたり、より複雑な画面表示を可能としたりする観点からは、ガラスの曲率半径は1mm以上100mm以下が好ましく、2mm以上50mm以下がより好ましく、3mm以上30mm以下が特に好ましい。なお、ガラスの曲率半径を求める方法としては、例えば、キャノン製「Zygo」シリーズなどのレーザー干渉計を用いて入射光と反射光の重ね合わせによる干渉現象を利用して求めることができる。
【0017】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、曲率半径0.5mm以上200mm以下の曲面を有するガラスに貼付を行うことで、ガラスの曲面形状に追従してガラスが衝撃を受けた際の割れや飛散を防止することができる。
【0018】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステル系樹脂を50質量%を超えて含有するフィルムである。ここで、ポリエステル系樹脂とは、ジオール由来の構造単位であるジオール成分と、ジカルボン酸由来の構造単位であるジカルボン酸成分を重合させて得られる樹脂である。本発明で用いられるポリエステル系樹脂のうち、ジオール成分の例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルビド、スピログリコールなどが挙げられる。中でも、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド、スピログリコールが好ましく用いられる。これらのジオール成分は1種類のみでもよく、2種類以上を併用してもよい。
また、ジカルボン酸成分の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、および、各種芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸とのエステル誘導体などが挙げられる。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく用いられる。これらのジカルボン酸成分は1種類のみでもよく、2種類以上を併用してもよい。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、曲面ガラスへフィルムを被覆させた際の反りや剥がれを含め、後述する各種特性をバランスよく良好とする観点から、融点の異なる層を2層以上含む積層構成とすることが好ましい。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、融点の異なる層を2層以上含む積層構成の場合、融点の高い層は全てのジカルボン酸成分100質量%に対してテレフタル酸が90質量%を超えて100質量%以下、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸の合計量が0質量%以上10質量%以下の構成、もしくは、全てのジオール成分100質量%に対してエチレングリコールが90質量%を超えて100質量%以下、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド、スピログリコールの合計量が0質量%以上10質量%以下の構成であることが好ましい。また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、融点の異なる層を2層以上含む積層構成の場合、融点の低い層は全てのジカルボン酸成分100質量%に対してテレフタル酸が75質量%を超えて94質量%以下、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸の合計量が6質量%以上25質量%以下の構成、もしくは、全てのジオール成分100質量%に対してエチレングリコールが75質量%を超えて94質量%以下、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド、スピログリコールの合計量が6質量%以上25質量%以下の構成であることが好ましい。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、二方向への延伸などを行うことで、フィルムを構成するポリマーの分子鎖を面内の二方向に配向させておくことが、加熱を伴う各種工程において過度に変形せず、搬送性を良好とする観点で重要である。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、二軸配向がなされている状態を確認する方法としては、例えば、アッベ屈折計や王子計測機器製「KOBRA」シリーズなどの位相差測定装置を用いて、面内の主配向軸の屈折率、および主配向軸と直交する方向の屈折率が両方とも、厚み方向の屈折率より0.01以上異なる状態を確認する方法などが挙げられる。二軸配向ポリエステルフィルムの主成分が、正の複屈折性を有する樹脂である場合は、面内の主配向軸の屈折率、および主配向軸と直交する方向の屈折率が両方とも、厚み方向の屈折率より0.01以上大きくなる状態を確認することで、フィルムの二軸配向性を確認することができる。
【0019】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、主配向軸方向と、主配向軸方向と直行する方向における{(P1-P2)/P1×100}の差が0以上5以下であることが、曲面ガラスとフィルムの剥がれを抑制できることから好ましい。主配向軸方向と、主配向軸方向と直行する方向のそれぞれが式(ii)の範囲を満たしていたとしても、各方向それぞれの差が5を超える範囲になると、成型後の残留応力の方向に対する差を縮めようとして長時間経過後に捻り方向の微小応力が発生し、フィルムが曲面ガラスから剥がれてしまう場合がある。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、曲面ガラスに対するフィルムの剥がれを抑制する観点から、主配向軸方向と、主配向軸方向と直行する方向における{(P1-P2)/P1×100}の差が0以上3以下であるとより好ましく、0以上2以下であると特に好ましい。
【0020】
主配向軸方向と、主配向軸方向と直行する方向における{(P1-P2)/P1×100}の差が0以上5以下とするための方法としては、横延伸倍率を縦延伸倍率より高く設定しつつ、横延伸後の熱処理でのリラックス率を8%以上20%以下とする方法などが挙げられる。
【0021】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ガラスの曲面形状部分を被覆した際にフィルムの反りや剥がれを起こりにくくする観点から、主配向軸方向、および主配向軸方向と直行する方向において、150℃で50%伸長した後の試長部分のカール度が0.5mm以上1,200mm以下であることが好ましい。ここで、カール度とは、伸長測定後のフィルムから試長部分の50mmの長さの部分を切り出した試料の端面の曲率半径を指し、数値が小さいほど曲率半径が小さくなることからカールの度合いが高いことを示す。試料の端面の曲率半径の求め方としては、試料をカールによる浮き上がりが上側となるような向きに水平面上に置いた後、水平な面が直線に写る方向からデジタルカメラ等による写真撮影を行う。その後、画像解析ソフトにより撮影画像の試料端面の円弧形状を座標データとして抽出し、最小二乗法を用いて円の方程式へのフィッティングを行うことで、試料の曲率半径を求めることができる。カールによる浮き上がりが上側となる向きが判別できない場合は、試料両面の曲率半径を算出し、より小さい値(カールが強い面)を採用するものとする。
【0022】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、延伸後にカールがわずかに生じるような設計とし、かつカールの内面側に曲面ガラスを配置させる構成とすることで、ガラスの曲面形状を無理な応力を加えることなく包み込むことが可能となり、ガラスの曲面形状部分を被覆した際のフィルムの反りや、剥がれをより生じにくくすることが可能となる。反りや剥がれをより抑制する観点から、カール度は650mm以下がより好ましい。一方で、製造工程中の取り扱い性の観点からは、カール度は90mm以上がより好ましい。カール度を0.5mm以上1,200mm以下にするための方法としては、ポリエステルA層/ポリエステルB層の2層構成にして各層の配向状態を変えたり、ポリエステルB1層/ポリエステルA層/ポリエステルB2層の3層構成としてB1層とB2層の厚みに差をつけたりすることで、厚み方向の組成、構成を非対称にする方法などが挙げられる。
【0023】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、面内位相差が50nm以上750nm以下であることが、曲面ガラスに貼付した後に電子機器へ搭載した際に各種センサーの認証性を良好とする観点で好ましい。スマートフォンなどの電子機器は近年高性能化、高機能化が進んでおり、顔認証機能や指紋認証機能の搭載が増加してきている。これらの認証においては各種光学式センサーが用いられる場合があるが、光学式センサーの作動原理の一例としては、スマートフォンなどの電子機器内部に搭載されているセンサーの光源から特定波長の光が発せられ、スマートフォンの内部からディスプレイを構成する偏光板やガラス部材を通過後、ディスプレイ保護フィルムの順に透過していく。透過した光は顔や指で反射した後に再びディスプレイ保護フィルム、ガラス部材や偏光板を通過し、最後にセンサー受光部に到達し、受光部に届いた情報から顔や指の画像を判断する。ディスプレイ保護フィルムとして二軸配向ポリエステルフィルムを用いる場合、面内位相差が750nmを超える値の場合は、複屈折により受光部に到達する光の強度が弱くなり、センサーの認証性が低下する場合がある。センサーの認証性を高くする観点からは、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの面内位相差は400nm以下がより好ましく、250nm以下が特に好ましい。また、フィルムの取扱い性等の観点からは、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの面内位相差は50nm以上が好ましい。なお、本発明における面内位相差とは、複屈折(面内の主配向軸方向の屈折率と、主配向軸方向と直交する方向の屈折率の差)と厚みの積を指し、アッベ屈折計を用いて各方向の屈折率を測定し、下記式(iii)から算出することができる。
面内位相差=|nx-ny|×フィルム厚み(nm)・・・(iii)
ただし、式(iii)において、nxは主配軸方向の屈折率、nyは主配向軸方向と直交する方向の屈折率とする。また、面内位相差については、王子計測機器(株)製「KOBRA」シリーズなどの位相差測定装置を用いて測定することも可能である。本発明において、面内位相差を50nm以上750nm以下とする方法としては、縦延伸と横延伸の倍率、延伸温度、熱処理温度を調整して複屈折を特定範囲とする方法や厚みを調整する方法が挙げられる。 本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、後述する粘着層や硬化性樹脂層などとの密着性を良好とする観点から、少なくとも片面に塗布層を有することが好ましい。ここで塗布層とは、易接着性など各種機能を有する樹脂を溶媒に分散させて塗布液を作製し、塗布液をフィルムに塗布後、乾燥して得られた層を指す。塗布液に使用される樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、塩素系樹脂、スチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、およびこれらを共重合させた樹脂や、これら樹脂の混合物を使用することができる。また、塗布液の溶媒を水系の液とする場合は、水溶性あるいは水分散性のポリエステル系樹脂が好ましく、水分散性のポリエステル系樹脂としては、スルホン酸塩部分を含む化合物や、カルボン酸塩部分を含む化合物が好ましく用いられる。また、塗布層には、さらに塗布層の機能を向上させるために、各種架橋剤を含んでもよい。架橋剤としては、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、オキサゾリン系樹脂などが一般的に用いられる。塗布層には、易滑性や耐ブロッキング性を向上させる観点から、各種無機系粒子、有機系粒子を含んでもよい。無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、酸化チタンなど挙げられる。また、無機系粒子、有機系粒子は塗布液への分散性を向上させる観点から表面処理されていてもよく、表面処理剤としては、たとえば、各種界面活性剤、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0024】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ガラスとの密着性を良好とする観点から、さらに粘着層が積層されていることが好ましい。すなわち、粘着層/フィルム積層体の構成が好ましく用いられる。ここで粘着層とは、粘着特性を有する樹脂からなる層であり、コーティング、押出ラミネート、転写など各種方法により作製することができる。粘着層に用いられる樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0025】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、耐傷付き性を付与する観点から、さらに硬化性樹脂層を有することが好ましい。すなわち、硬化性樹脂層/フィルム積層体の構成が好ましく用いられる。ここで、硬化性樹脂層とは、熱や紫外線などのエネルギーにより架橋点を形成し、硬度が高くなる樹脂からなる層である。硬化性樹脂層を構成する樹脂は、透明性があれば特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂共重合体などの各種樹脂が好ましく使用される。
【0026】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、ガラスとの密着性を良好としてガラスを外部の衝撃から保護し、かつフィルム自身を傷付きにくくする観点から、一方の面に粘着層、他方の面に硬化性樹脂層を積層した構成、すなわち粘着層/フィルム/硬化性樹脂層の積層体構成であることが好ましい。
【0027】
本発明は、曲面ガラス複合体の製造工程中に粘着層や硬化性樹脂層を保護する観点から、粘着層/フィルム積層体、硬化性樹脂層/フィルム積層体、粘着層/フィルム/硬化性樹脂層積層体など各積層体の少なくとも片面にさらにポリエステルフィルムを積層することが好ましい。ポリエステルフィルムを積層する面は、粘着層や硬化性樹脂層を保護する目的から、各積層体の粘着層側、および/または硬化性樹脂層側に積層することが好ましい。粘着層側、硬化性樹脂層側に積層するポリエステルフィルムは、ガラスとの粘着や成型後に剥離することから、粘着層や硬化性樹脂層と積層する側の面に離型層を有する構成が好ましい。離型層としては、コーティングなどのウェット加工による形成、化学気相成長法などのドライ加工による形成のいずれでもよいが、コストの点からはコーティングなどのウェット加工による形成が好ましい。また、コーティングは、二軸配向ポリエステルフィルムの製造工程内でコーティングを行うインラインコート法、一度製品化が完了した二軸配向ポリエステルフィルムにコーターでコーティングを行うオフコート法のどちらでも用いることができる。離型層に用いられる材料としては、各種シリコーン系樹脂、フロロシリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アミドアルキド系樹脂、オレフィン系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、ウレタン系樹脂、およびこれらの組み合わせが挙げられ、二軸配向ポリエステルフィルムと離型層の密着性の観点から、離型層を2層以上の構成としたり、二軸配向ポリエステルフィルムに各種表面処理を行ったりしてもよい。
【0028】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルム、もしくはフィルムとの積層体(粘着層/フィルム/硬化性樹脂層など)は、特定の曲面ガラスを貼り合わせた曲面ガラス複合体とすることで、スマートフォンやカーナビゲーションシステム、家電等の電子機器の構成部材、もしくはスマートウィンドウなどの建築部品の構成部材として好ましく用いることができる。具体的には、電子機器を手で握りやすい形状にしたり、三次元形状での複雑な画面表示を可能としたりすることができる。曲面ガラス複合体を構成するフィルムは、フィルムの最も薄い部分の厚みtminと最も厚い部分の厚みtmaxの比tmax/tminが1.05以上5以下であることが好ましい。tmax/tminを1.05以上とすることで、曲面へシワを発生させずにフィルムを追従させることが可能となり、ガラス複合体のフィルム側の表面外観が良好となる。また、tmax/tminを5以下とすることで、フィルムのガラス保護機能が均一になり、ガラス複合体を割れにくくすることができる。
【0029】
本発明の曲面ガラス複合体を構成する曲面ガラスは、曲率半径を0.5mm以上200mm以下とすることで、スマートフォンなどの電子機器の構成部材とした際に、当該電子機器を手で握りやすい形状にしたり、三次元形状での複雑な画面表示を可能としたりすることができる。電子機器の取り扱い性をより良好としたり、より複雑な画面表示を可能としたりする観点からは、ガラスの曲率半径は1mm以上100mm以下が好ましく、2mm以上50mm以下がより好ましく、3mm以上30mm以下が特に好ましい。なお、ガラスの曲率半径を求める方法としては、例えば、キャノン製「Zygo」シリーズなどのレーザー干渉計を用いて入射光と反射光の重ね合わせによる干渉現象を利用して求めることができる。
次に、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの好ましい製造方法を以下に説明する。本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0030】
はじめに、ポリエステル系樹脂などの原料をベント式二軸押出機に供給して溶融押出する。ポリエステルA層とポリエステルB層を積層させる場合は、ポリエステルA層に用いるポリエステルAと、ポリエステルB層に用いるポリエステルBとをそれぞれ別々のベント式二軸押出機に供給し溶融押出する。以下においては、ポリエステルA層と、ポリエステルB層を積層した構成として説明する。溶融押出を行う際は、押出機内を流通窒素雰囲気下で、酸素濃度を0.7体積%以下とし、結晶性樹脂の押出温度は、各層のうち最も融点が高い樹脂の融点より5℃~40℃高く設定することが好ましく、融点が観測されない非晶性樹脂のみの場合は、押出機内の樹脂圧力の挙動を見ながら例えば180℃~270℃の範囲内で調整することが好ましい。ついで、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を各々行い、ポリエステルA層とポリエステルB層を合流させた後、Tダイよりキャストドラム上にシート状に吐出する。その際、高電圧を掛けた電極を使用して静電気でキャストドラムと樹脂を密着させる静電印加法、キャストドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けるキャスト法、キャストドラム温度をポリエステル樹脂のガラス転移点以下にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャストドラムに密着させ冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から静電印加する方法が好ましく使用される。また、キャストドラムを複数本設置し、各キャストドラムの温度を上下させることで、昇温、降温を繰り返させて未延伸シートに微結晶を形成でき、その後の延伸倍率を二軸配向ポリエステルフィルムの製造時に用いられる一般的な製造条件より低くしても二軸配向ポリエステルフィルムの特長(機械特性、透明性などの各種特性)を維持することが可能となる。
【0031】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、粘着層や硬化性樹脂層などを積層させる際の耐熱性、寸法安定性の観点から二軸配向させることが重要であり、未延伸フィルムを長手方向に延伸した後に幅方向に延伸する、あるいは幅方向に延伸した後に長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法や、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。
【0032】
かかる延伸方法における延伸倍率としては、長手方向に、好ましくは、1.4倍以上3.5倍以下、さらに好ましくは1.6倍以上2.9倍以下が採用される。また、延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。また長手方向の延伸温度は、80℃以上130℃以下が好ましい。また、幅方向の延伸倍率としては、好ましくは1.6倍以上4倍以下、より好ましくは、1.8倍以上3.2倍以下が好ましい。幅方向の延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが好ましい。
【0033】
さらに、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。この熱処理は、二軸配向後の配向結晶を成長させて熱寸法性を向上させることが目的であるため、最も融点の高いポリエステル層の融点以下の範囲内で、なるべく高い熱処理温度に設定する場合が一般的である。また、フィルムの幅方向のクリップ間隙を狭めて弛緩した状態で熱処理を行うことで、加熱時に起こる収縮を予め進行させておくことができる。なお、主配向方向と、主配向方向と直行する方向における残留応力のバランスを良好とする観点からは、横延伸倍率を縦延伸倍率より高く設定して横延伸方向の配向をやや強い状態にした後、一般的な二軸延伸ポリエステルフィルムの製造条件より弛緩の割合(リラックス率)を8%以上20%として熱処理を行い、残存応力の熱処理工程中での開放と配向のバランス化を行うことが好ましい。
【0034】
また、粘着層や硬化性樹脂層との密着性を向上させるため、二軸配向ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、コロナ処理をはじめとした表面処理を行ったり、塗布層を二軸配向ポリエステルフィルムの製造工程中にコーティングしたりしてもよい。製造工程中のコーティング方法としては、少なくとも一軸延伸を行ったフィルム上に、樹脂を水や有機溶剤に分散させた塗布液をメタリングバーやグラビヤロールなどを用いて均一に塗布し、延伸を施しながら塗布液を乾燥させる方法などが好ましく用いられる。その際、塗布の厚みとしては、0.01μm以上1μm以下とすることが好ましい。また、塗布層中には目的の機能を損なわない範囲で、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機粒子、帯電防止剤、核剤などを添加してもよい。
【0035】
次に、二軸配向ポリエステルフィルムを用いた、粘着層/フィルム/硬化性樹脂層の積層体の製造方法を以下に説明する。
【0036】
二軸配向ポリエステルフィルムに粘着層組成物を水や有機溶剤に分散させた塗剤をオフコート法などで塗布し、乾燥させて粘着層を形成する。粘着層を形成後に、必要に応じて粘着層を保護するための離型フィルムを粘着層の上に貼り合わせることで、最終的にガラスと粘着させるまでの、搬送や打抜きなど各種工程中の粘着を抑制することができる。次に、得られた粘着層/フィルム積層体において、粘着層が積層されていない面に、硬化性樹脂層を構成する組成物を水や有機溶剤に分散させた塗剤をオフコート法などで塗布し、乾燥させて硬化性樹脂層を形成する。硬化性樹脂層を形成後に、必要に応じて硬化性樹脂層を保護するための離型フィルムを硬化性樹脂層の上に貼り合わせることで、硬化前でやわらかい硬化性樹脂層の工程中の傷付きやへこみを抑制することができる。粘着層、硬化性樹脂層の加工を行う順序は上記と入れ替えても問題ないが、硬化性樹脂層が熱硬化性樹脂からなる場合は、粘着層乾燥時の熱による硬化進行を抑制して曲面ガラス形状に成型する際の成型性を良好とする観点から、粘着層を先に加工するほうが好ましい。オフコート法としては、具体的には樹脂を水や有機溶剤に分散させた塗剤をディップコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やダイコート法などによりフィルムに塗布する方法などが挙げられる。また、塗布された液膜を乾燥することで完全に溶媒を除去するため、乾燥工程では液膜の加熱を伴うことが好ましく、乾燥方法としては、伝熱乾燥(高熱物体への密着)、対流伝熱(熱風)、輻射伝熱(赤外線)、その他(マイクロ波、誘導加熱)などが挙げられる。この中でも、精密に幅方向でも乾燥速度を均一にする必要から、対流伝熱、または輻射伝熱を使用した方式が好ましい。粘着層や硬化性樹脂層を保護する離型フィルムとしては、離型性の高い樹脂をコーティングして離型層を付与した二軸配向ポリエステルフィルムなどが用いられ、離型性の高い樹脂としては、各種シリコーン系樹脂、フルオロシリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、アミドアルキド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、およびこれらの組み合わせが挙げられる。また、二軸配向ポリエステルフィルムと粘着層や硬化性樹脂層の密着性を向上させる観点から、易接着性などの機能を有する塗布層を二軸配向ポリエステルフィルムに積層させ、塗布層の上に粘着層や硬化性樹脂層が積層される構成が好ましい。
【0037】
続いて、曲面ガラス複合体の製造方法を以下に説明する。上記のようにして得られた粘着層/フィルム/硬化性樹脂層の積層体の両面に離型フィルムをそれぞれ貼り合わせた構造物を、離型フィルムが貼り合わせられた状態のままで曲面ガラスと同形状の金型を用いて熱プレスを行うことで、予備成型物を得る。熱プレス温度は、動的粘弾性から求めた二軸延伸ポリエステルフィルムのガラス転移温度を超えた温度より高い温度が成型性の観点から好ましく、二軸配向ポリエステルの融点以下がフィルムの平面性の点から好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムがポリエチレンテレフタレートを主成分とする場合は、例えば120℃以上200℃以下の範囲が好ましく用いられる。得られた予備成型物について、粘着層側の離型フィルムを剥離した後、手作業、もしくは真空ラミネーターを用いて曲面ガラスと予備成型物の粘着層を密着させる、その後、必要に応じて加熱処理や紫外線照射処理などにより硬化性樹脂層の硬化を進行させたのち、硬化性樹脂層側の離型フィルムを剥離して曲面ガラス複合体が得られる。なお、硬化性樹脂層側の離型フィルムについては、硬化性樹脂層を硬化させる前に剥離しても、硬化性樹脂層を硬化させた後に剥離してもいずれでも構わない。また、必要に応じて予備成型物を成型後、もしくは曲面ガラスと予備成型物の粘着層を密着させた後などのタイミングで予備成型物の端部をトリミングしてもよい。
【0038】
本発明で用いる曲面ガラスとしては、素板ガラスを軟化温度近傍でプレス成型して所定形状に成型する方法、ダウンドロー法(溶融状態のガラスを炉の底に空けたスリットを通して下に引き出す方法)において、ガラス膜を徐冷する際にガラス膜両面に配置されているロールの周速差をつけることでガラスに曲面を形成する方法など、各種方法により得ることができる。
【実施例
【0039】
本発明における特性の測定方法、および効果の評価方法は次の通りである。
【0040】
(1)ポリエステルの組成
ポリエステル系樹脂もしくはフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H-NMRおよび13C-NMRを用いて各モノマー残基成分や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量した。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取して評価した。なお、本発明のフィルムについては、フィルム製造時の混合比率から計算により、組成を算出した。
【0041】
(2)ポリエステルの固有粘度
ポリエステル樹脂もしくはフィルムの極限粘度は、ポリエステル樹脂もしくはフィルムをオルトクロロフェノールに溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃にて測定した。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体の固有粘度を評価した。
【0042】
(3)フィルム厚み、層厚み
フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、フィルム断面をミクロトームで切り出した。該断面を透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)で5000倍の倍率で観察し、フィルム厚みおよびポリエステル層の厚みを求めた。
【0043】
(4)融点
示差走査熱量計(セイコー電子工業製、RDC220)を用い、JIS K-7121-1987、JIS K-7122-1987に準拠して測定および、解析を行った。ポリエステルフィルムを5mg、サンプルに用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際のDSC曲線より得られた吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。なお、積層フィルムの場合は、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体の融点を測定し、複数の融点が観測された場合は、最も面積が大きな吸熱ピークを層の融点として採用した。
【0044】
(5)主配向軸方向、主配向軸方向と直交する方向
フィルムの任意の点において100mm×100mmの寸法でサンプルを切り出し、KSシステムズ製(現王子計測機器)のマイクロ波分子配向計MOA-2001A(周波数4GHz)を用い、ポリエステルフィルムの面内の主配向軸方向を求めた。また、得られた主配向軸方向を元に、主配向軸方向と直交する方向についても求めた。
(6)P1、P2
(5)の方法で主配向軸方向、および主配向軸方向と直交する方向を求めた後、150mm×30mm(主配向軸方向×主配向軸方向と直交する方向)の矩形に切り出してサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)に試長(初期引張チャック間距離)が50mmとなるようにサンプルをセットし、引張速度300mm/分でチャック間距離が75mm(初期の試長を100%とした場合に50%伸長した状態)になるまで引張試験を行った。その後、チャック間距離が75mmに到達した段階で引張試験を停止し、サンプルを60秒間保持した。なお、測定は予め150℃に設定した恒温槽の中で行い、60秒間の予熱の後で引張試験を行った。上記条件にて引張り試験を行った際に、75mmまで伸長した直後の応力について、10回の測定の平均値を主配向軸方向のP1(MPa)として求めた。また、75mmまでの伸長が完了して150℃で60秒間保持した後の応力について、10回の測定の平均値を主配向軸方向のP2(MPa)として求めた。150mm×30mm(主配向軸方向と直交する方向×主配向軸方向)の矩形に切り出してサンプルを作製し、主配向軸方向と直交する方向についてのP1(MPa)、P2(MPa)も同様に求めた。
【0045】
(7){(P1-P2)/P1×100}
(6)の方法でP1、P2を求めた後、式に従って計算して求めた。
【0046】
(8)カール度
(6)と同様の方法にして引張試験機に矩形のサンプル(150mm×30mm(主配向軸方向×主配向軸方向と直交する方向))を試長50mmになるようにセットした後、チャックで挟まれた境界の位置に油性ペンで主配向軸方向に印を記入した。その後、引張速度300mm/分でチャック間距離が75mm(初期の試長を100%とした場合に50%伸長した状態)になるまで引張試験を行い、75mmに到達した段階で引張試験を停止してサンプルを取り出した。なお、測定は予め150℃に設定した恒温槽の中で行い、60秒間の予熱の後で引張試験を行った。取り出したサンプルから油性ペンで記入した印に沿ってサンプルの両端部を切り取り、カール度を測定するための試料を作製した。得られた試料について、カールによる浮き上がりが上側になるような向きに水平面上に置いた後、水平な面が直線に写る方向からデジタルカメラ等による写真撮影を行った。得られた撮影画像について、画像解析ソフトにより試料端面の円弧形状を座標データとして抽出し、最小二乗法を用いて円の方程式へのフィッティングを行うことで、試料の曲率半径を求め、10回の測定の平均値を主配向方向のカール度とした。なお、カールによる浮き上がりの向きが目視で判別できない場合は、試料両面の曲率半径の10回の平均値を算出し、より小さい値(カールが強い側の面)を採用した。150mm×30mm(主配向軸方向と直交する方向×主配向軸方向)の矩形に切り出してサンプルを作製し、主配向軸方向と直交する方向についてのカール度についても同様に求めた。
【0047】
(9)ガラスの曲率半径
キャノン製の非接触式走査型干渉計(Zygo、New View7300)を用いて、ガラス部材の形状について三次元光学プロファイルを行い、最も曲率半径の低い箇所を求め、ガラス部材の曲率半径とした。
【0048】
(10)フィルムの反り
二軸配向ポリエステルフィルムをA4の大きさに切り出した後、フィルム表面にアプリケーターを用いて後述する粘着層組成物を塗工し、130℃5分間の乾燥により10μmの粘着層を形成した。次に、離型処理を行った二軸配向ポリエステルフィルム(東レフィルム加工製“セラピールHP2”(厚み50μm))を粘着層の上に重ね、ハンドローラーで圧力を加えて密着させた。続いて、二軸配向ポリエステルフィルムの粘着層が形成されていない面に、後述する硬化性樹脂層組成物を塗工し、80℃5分間の乾燥により、10μmの硬化性樹脂層を形成した。その後、離型処理を行った二軸配向ポリエステルフィルム(東レフィルム加工製“セラピールHP2”(厚み50μm))を硬化性樹脂層の上に重ね、ハンドローラーで圧力を加えて密着させ、「粘着層/フィルム/硬化性樹脂層」の積層体の両面を離型フィルムで挟み込んだ構造物を作製した。得られた構造物を、離型フィルムが貼り合わせられた状態のままで、曲面ガラス(大きさ100mm×50mm、厚み20mm、片面側の四隅の曲率半径が7mm、もう一方の面が平面状)の曲率半径7mmの四隅を有する面と同形状の金型を用いて熱プレスを行い、予備成型物を得た。なお、金型温度は170℃、熱プレス時間10秒の条件で熱プレス処理を実施した。得られた予備成型物について、粘着層側の離型フィルムを剥離した後、手作業で曲面ガラスと予備成型物の粘着層を密着させ、その後、硬化性樹脂層側の離型フィルムを剥離し、最後に、予備成型物のうち、ガラスと密着していない部分をトリミングして、曲面ガラス複合体を得た。得られた曲面ガラス複合体について、フィルムが被覆されていない平面側を水平面に設置し、四隅の曲面の最下部部分におけるフィルムの端面の浮きの四隅(4箇所)の平均高さを測定して以下の基準で評価した。
S:1mm未満。
A:1mm以上1.5mm未満。
B:1.5mm以上2mm未満。
C:2mm以上3mm未満。
D:3mm以上4mm未満。
E:4mm以上。
【0049】
(11)フィルムの剥がれ
(10)と同様にして作製した曲面ガラス複合体について、85℃-85%RHの恒温恒湿槽で24時間保管して環境試験を行い、試験後の曲面ガラス複合体について四隅(4箇所)のフィルムの密着状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
A:いずれも剥離が見られない。
B:1箇所にわずかな剥離(長径3mm未満)が見られるが、大きな剥離(長径3mm以上)はいずれの箇所にも見られない。
C:2箇所以上にわずかな剥離(長径3mm未満)が見られるが、大きな剥離(長径3mm以上)はいずれの箇所にも見られない。
D:1箇所以上に大きな剥離(長径3mm以上)が見られる。
【0050】
(12)硬化性樹脂層の耐傷付き性
(10)と同様にして作製した曲面ガラス複合体について、スチールウールによる耐摩耗性評価を行った。評価にあたっては、スチールウール#0000(日本スチールウール(株)製)を使用し、荷重250g/cm、速度60mm/秒、往復移動距離120mmで1000往復させた。試験環境は、温度23℃、相対湿度55%である。 摩耗試験装置は、学振型摩擦堅牢度試験器(テスター産業(株)製の「AB-301」)を用いた。 その後、曲面ガラス複合体の平面側(フィルムが積層されていない側)に黒テープを貼り付け、蛍光灯下(照度600ルクス)で目視により紫外線硬化性樹脂層表面の傷の発生状況を観察し、以下の基準で評価した。尚、傷の観察は、視力1.2~1.5(矯正視力を含む)の20代男性3人で行い、3人の平均値を採用し、以下の基準で評価した。
A:傷の本数が10本以下。
B:傷の本数が11本以上19本以下。
C:傷の本数が20本以上29本以下。
D:傷の本数が30本以上39本以下。
E:傷の本数が40本以上。
【0051】
(13)取扱い性
(10)と同様にして、粘着層/フィルム/硬化性樹脂層積層体の両面を離型フィルムで挟み込んだ構造物を作製した。得られた構造物について(8)と同様にして曲率半径を求め、以下の基準で評価した。なお、当該構造物の曲率半径が大きいほど、構造物のカールが弱く、(10)のような熱プレス成型を行う際に、構造物のセッティングが容易となり、加工工程中の取扱い性が良好なことを示す。
A:曲率半径が2500mm以上。
B:曲率半径が1800mm以上2500mm未満。
C:曲率半径が1300mm以上1800mm未満。
D:曲率半径が1300mm未満。
【0052】
(14)視認性
曲面ガラス(大きさ100mm×50mm、厚み20mm、片面側の四隅のみ曲面状になっており、もう一方の面が平面状)の、四隅の曲率半径を変更した以外は、(10)と同様にして曲面ガラス複合体を作製した。LEDバックライトパネル(共同照明製、GT-GG-W)の上に、8ptのサイズの文字を黒インキで印刷した透明フィルムを置き、その上に更に曲面ガラス複合体を置いて、曲面ガラス複合体の四隅から文字の見え具合を確認し、以下の基準にて評価した。尚、文字の観察は、視力1.2~1.5(矯正視力を含む)の20代男性10人で行い、最も多い評価基準を採用した。なお、同一人数で評価が並んだ場合は、よりよい評価を採用した。
A:文字がきれいに視認できた。
B:文字がやや歪んで見えるが、判別はできた。
C:文字が大きく歪んで見えるが、辛うじて判別できた。
D:文字が判別できなかった。
(15)tmax/tmin
(14)と同様にして作製した曲面ガラス複合体のうち、フィルムが最も厚い部分(曲面ガラス複合体の面内中心位置)、およびフィルムが最も薄い部分(曲面形状の四隅)についてカッターを用いて切れ目を入れ、10mm角程度のサンプル片を剥離して採取した。ガラスと粘着層の密着力が強い場合は、アセトンなどの有機溶剤をカッターの切れ目から含浸させて粘着層の密着力を低下させた後に剥離した。得られたサンプル片について(4)と同様の方法にてフィルム厚みを求め、最も厚い部分をtmax(μm)、四隅のうち最も薄い部分をtmin(μm)として求めたのち、tmaxをtminで除して求めた。
【0053】
(16)面内位相差
(5)の方法で主配向軸方向、および主配向軸方向と直交する方向を求めた後、150mm×30mm(主配向軸方向×主配向軸方向と直交する方向)の矩形に切り出してサンプルとした。その後、ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計を用いて主配向軸方向(X方向)、および主配向軸方向と直交する方向(Y方向)の屈折率(nx、ny)を求め、下記(iii)式より面内位相差を算出した。
面内位相差=|nx-ny|×フィルム厚み(nm)・・・(iii)
(17)認証性
(14)と同様にして作製した曲面ガラス複合体について、曲面ガラス複合体の平面側(フィルムが積層されていない側)を市販の偏光板(偏光度99.9%)に乗せて、さらに、偏光板側から反射型フォトセンサを設置し、電子部材を模した配置とした。すなわち、反射型フォトセンサ、偏光板、曲面ガラス複合体がこの順に並んだ状態とした。このような配置にした後、フォトセンサの光線上に指を置いて、反射光がセンサの受光部に認識されるか否かについて確認を行った。なお、反射型フォトセンサは「UR1616」(ユニテク製、発光波長624nm)を用い、偏光板の向きをランダムに換えて100回確認を行い、認証率を基にして下記の通り評価した。
A:認証率が100%であった。
B:認証率が95%以上99%以下であった。
C:認証率が90%以上94%以下であった。
D:認証率が89%以下であった。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造には下記の樹脂を使用した。
【0054】
(PET)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.63)。
【0055】
(PET-I)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が94モル%、イソフタル酸成分が6モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるイソフタル酸共重合
ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.7、融点240℃)。
【0056】
(PBT-I)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が90モル%、イソフタル酸成分が10モル%、グリコール成分として1,4-ブタンジオール成分が100モル%であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度1.0、融点205℃)。
(PET-G)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が75モル%、シクロヘキサンジメタノールが25モル%であるシクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.8、融点200℃)。
(PET-N)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が90モル%、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分が10モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%である共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.75、融点230℃)。
(塗布層用組成物AD-1)
下記材料を混合し、塗布層用組成物を得た。
塗剤A:水分散アクリル樹脂
塗剤B:メチロール化メラミン(希釈剤:イソプロパノール/水)
塗剤C:コロイダルシリカ(平均粒径:80nm)
塗剤D:フッ素系界面活性剤(希釈剤:水)。
(粘着層用組成物)
下記材料を混合し、粘着層用組成物を得た。
「EG654」(トーヨーケム製、アクリル系粘着剤) 84.7質量部
「BXX6460」(トーヨーケム製、イソシアネート系硬化剤) 10.1質量部
「BXX4805」(トーヨーケム製、アルミニウムキレート剤) 5.1質量部
「BXX6342」(トーヨーケム製、シランカップリング剤) 0.1質量部
(硬化性樹脂層用組成物)
下記材料を混合し、硬化性樹脂用組成物を得た。
「KRM8655」(ダイセルオルネクス製、多官能ウレタンアクリレート) 20質量部
「PET30」(日本化薬製、ペンタエリスリトールトリアクリレート混合物) 20質量部
「EBECRYL1360」(ダイセルオルネクス製、多官能シリコーンアクリレート) 1質量部
「イルガキュア184」(チバスペシャリティーケミカルズ製、光重合開始剤) 2質量部
トルエン 30質量部
メチルエチルケトン 27質量部
(実施例1)
組成を表の通りとして、原料を別々のベント同方向二軸押出機(酸素濃度0.2体積%)に供給し、A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を280℃で溶融し、フィードブロック内でB1層/A層/B2層(B1層、B2層はいずれもB層押出機から押し出された同一原料)の3層構成になるよう合流させ、合流後の短管温度を275℃、口金温度を280℃で、Tダイより25℃に温度制御した1本目のキャストドラム(25℃)上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ、ドラムとの接触時間は10秒であった。次に、冷却したシートを2本目のキャストドラム(67℃)に10秒間接触させて通過し、3本目のキャストドラム(25℃)に5秒間接触させて、未延伸シートを得た。次いで、長手方向へ延伸温度85℃で長手方向に2.85倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。次に、塗布層用樹脂組成物AD-1を固形分厚みが300nmになるように一軸延伸フィルムの両面にワイヤーバーで塗布を行った。次いでテンター式横延伸機にて予熱温度85℃で1.5秒予熱を行い、延伸温度110℃で幅方向に3.1倍延伸し、そのままテンター内にて、235℃で熱処理を行った。最後に、235℃での熱処理条件下にて、幅方向に10%弛緩させながら熱処理を行い、フィルム厚み100μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。なお、視認性評価については、曲率半径7mmの曲面ガラスを用いて実施した。
【0057】
(実施例2)
A層押出機シリンダー温度を230℃とし、B層押出機シリンダーを270℃とし、組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0058】
(実施例3)
組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0059】
(実施例4)
A層押出機シリンダー温度を280℃とし、組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0060】
(実施例5)
A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を260℃とし、組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0061】
(実施例6)
A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を260℃とし、組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0062】
(実施例7)
積層比を表の通りとした以外は、実施例6と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0063】
(実施例8)
積層比を表の通りとした以外は、実施例6と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0064】
(実施例9)
製造条件を表の通りとした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0065】
(実施例10)
層構成を、B1層/A層の2層構成とした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0066】
(実施例11)
製造条件を表の通りとした以外は、実施例10と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0067】
(実施例12)
視認性評価に用いる曲面ガラスの曲率半径を表の通りとした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
(実施例13)
視認性評価に用いる曲面ガラスの曲率半径を表の通りとした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0068】
(実施例14)
視認性評価に用いる曲面ガラスの曲率半径を表の通りとした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0069】
(実施例15)
視認性評価に用いる曲面ガラスの曲率半径を表の通りとした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0070】
(実施例16)
製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0071】
(実施例17)
各層の厚みを表の通りとした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0072】
(実施例18)
各層の厚みを表の通りとした以外は、実施例8と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0073】
(比較例1)
A層押出機シリンダー温度を280℃とし、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0074】
(比較例2)
製造条件を表の通りとした以外は、比較例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0075】
(比較例3)
A層押出機シリンダー温度を270℃、B層押出機シリンダー温度を260℃とし、組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
(比較例4)
A層押出機シリンダー温度を270℃とし、組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
(比較例5)
A層押出機シリンダー、B層押出機シリンダーをそれぞれ270℃とし、組成、製造条件を表の通りとした以外は、実施例1と同様にして二軸配向ポリエステルフィルムを得て各種評価を実施した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のポリエステルフィルムは、曲面ガラスに貼付後のフィルムの反りや剥がれが抑制できることから、曲面ガラスに貼付するフィルムとして好ましく用いられる。