(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗装部材、および被覆缶
(51)【国際特許分類】
C09D 167/00 20060101AFI20221004BHJP
C09D 161/20 20060101ALI20221004BHJP
C09D 161/26 20060101ALI20221004BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20221004BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20221004BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20221004BHJP
B32B 1/02 20060101ALI20221004BHJP
B65D 25/14 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D161/20
C09D161/26
C09D163/00
B32B15/09 A
B32B15/08 E
B32B1/02
B65D25/14 A
(21)【出願番号】P 2018233618
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2018005166
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三木 健生
(72)【発明者】
【氏名】尾田 勝幸
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-129163(JP,A)
【文献】特開2015-209463(JP,A)
【文献】特開2005-290304(JP,A)
【文献】特開2015-168759(JP,A)
【文献】特開2015-168760(JP,A)
【文献】特開2004-175845(JP,A)
【文献】特開2003-147263(JP,A)
【文献】特開2002-307604(JP,A)
【文献】特開2006-088515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量10,000~20,000かつガラス転移温度70~120℃のポリエステル樹脂(A)、数平均分子量5,000~10,000かつガラス転移温度10~50℃のポリエステル樹脂(B)、アミノ樹脂、およびエポキシ樹脂を含む、塗料組成物
であって、前記エポキシ樹脂を前記ポリエステル樹脂(A)、前記ポリエステル樹脂(B)、および前記アミノ樹脂の合計100質量部に対して0.1~15質量部含む、塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(A)および前記ポリエステル樹脂(B)の質量比が(A):(B)=1:99~60:40である、請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記アミノ樹脂を前記ポリエステル樹脂(A)および前記ポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対して20~100質量部含む、請求項1または2記載の塗料組成物。
【請求項4】
アミノ樹脂が、ベンゾグアナミン樹脂である、請求項1~
3いずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
金属部材、および請求項1~
4いずれか1項に記載の塗料組成物の硬化物である塗膜を備える、塗装部材。
【請求項6】
缶体、および請求項1~
4いずれか1項に記載の塗料組成物の硬化物である塗膜を備える、被覆缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆缶等の塗膜形成に使用する塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆缶は、飲料、食品等の包装容器として広く用いられている。被覆缶の内面および外面には、塗料を使用した塗膜が形成されており、内面の塗膜は、内容物から金属を保護し、外面の塗膜は、美観向上や傷付き防止等に使用されている。
例えば、キャップ、およびリキャップ可能なスクリュー部(ネジ切部)を有する、いわゆるボトル缶のような高度な加工が施される被覆缶の場合、加工時の金属と塗膜の密着性を向上させるため、金属上に下塗り層をサイズコーティング(ホワイトコーティング、アンカーコーティングともいう)で形成した上で塗膜を形成する場合がある。
【0003】
特許文献1には、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂を含む絞り加工缶の外面用塗料組成物が開示されている。しかし、サイズコーティングを省略した場合の加工性等について記載されておらず、その物性は満足できるものではなかった。
【0004】
そこで、特許文献2には、ガラス転移温度が相互に異なる2種類のポリエステル樹脂、および硬化剤を含む塗料組成物が開示されている。また、特許文献3には、ガラス転移温度が相互に異なる2種類のポリエステル樹脂、およびレゾール型フェノール樹脂を含む塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-161841号公報
【文献】特開2013-249376号公報
【文献】特開2015―168760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の塗料組成物から形成した塗膜は、下塗り層なしに高度な加工を行うと、金属に対する塗膜の密着性が低下する問題があった。また、飲料を充填した金属容器(例えば、飲料缶)のレトルト処理を行うと前記被覆缶がボトル缶の場合、塗膜の硬度が不足し、キャップを開封(ないし開栓)し難い問題(以下、開栓性という)があった。
【0007】
本発明は、下塗り層が無い場合であっても金属に対する密着性が低下し難く、開栓性が良好な塗膜を形成可能な塗料組成物、塗装部材、および被覆缶の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の塗料組成物は、数平均分子量10,000~20,000かつガラス転移温度70~120℃のポリエステル樹脂(A)、数平均分子量5,000~10,000かつガラス転移温度10~50℃のポリエステル樹脂(B)、アミノ樹脂、およびエポキシ樹脂を含む。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明によれば下塗り層が無い場合であっても金属に対する密着性が低下し難く、開栓性が良好な塗膜を形成可能な塗料組成物、塗装部材、および被覆缶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、被覆缶上部の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本明細書での用語を定義する。ポリエステル樹脂は、多塩基酸とポリオールとのエステル化物である。(無水)トリメリット酸は、トリメリット酸と無水トリメリット酸を含む。ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)(「DSC6220」 SII社製)を用いて、10℃/分の昇温速度で測定した数値である。
【0012】
本明細書の塗料組成物は、数平均分子量10,000~20,000かつガラス転移温度(以下、Tgともいう)70~120℃のポリエステル樹脂(A)、数平均分子量5,000~10,000かつガラス転移温度10~50℃のポリエステル樹脂(B)、アミノ樹脂、およびエポキシ樹脂を含む。
【0013】
塗料組成物は、例えば金属部材に塗装し、塗膜を形成して使用することが好ましい。前記金属部材は、例えば、板状、板材をコップ状に成形した立体形状が挙げられる。前記金属部材は、そのままの形状、または缶のような金属容器に成形して使用することが好ましい。塗料組成物は、比較的Tgが高いポリエステル樹脂(A)と比較的Tgが低いポリエステル樹脂(B)を含むことで塗膜の硬度と柔軟性を両立しつつ、硬化剤のアミノ樹脂に加え、エポキシ樹脂を含むことで、下塗り層無しに高度な加工を行う際の金属部材と塗膜の密着性を低下させず(以下、単に密着性という)、開栓性が良好である。
【0014】
<ポリエステル樹脂(A)>
本明細書でポリエステル樹脂(A)は、数平均分子量10,000~20,000かつガラス転移温度70~120℃である。Tgは、80~120℃がより好ましく、90~110℃がより好ましい。Tgが所定の範囲内にあると塗膜の硬度および開栓性が向上する。数平均分子量が所定の範囲内にあると密着性が向上する。
また、ポリエステル樹脂(A)は、酸価0~50mgKOH/gが好ましく、0~10mgKOH/gがより好ましい。酸価の下限値は、0mgKOH/gを超えることがさらに好ましい。酸価が所定の範囲内にあると耐レトルト性がより向上する。
【0015】
ポリエステル樹脂(A)の原料である多塩基酸は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式二塩基酸、3官能以上の多価カルボン酸が好ましい。
芳香族ジカルボン酸は、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ビフェニルジカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸は、例えば、(無水)コハク酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ハイミック酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等が挙げられる。
脂環式二塩基酸は、例えば、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、および1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
3官能以上の多価カルボン酸は、例えば、(無水)ピロメリット酸、エチレングリコールビストリメリテート二無水物等が挙げられる。
多塩基酸は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0016】
ポリエステル樹脂(A)の原料であるポリオールは、二価アルコール、3官能以上の多価アルコールが好ましい。
二価アルコールは、例えば、1,2-ブチレングリコール(別名、1,2-ブタンジオール)、1,3-ブチレングリコール(別名、1,3-ブタンジオール)、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(別名、オクタンジオール)、1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-ヒドロキシシクロヘキシル-メタノール、3-ヒドロキシシクロヘキシル-メタノール、4-ヒドロキシシクロヘキシル-メタノール、水素化ビスフェノールA、水素化ビスフェノールAP、水素化ビスフェノールF、水素化ビスフェノールS、水素化ビフェノール、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物(2~8モル付加)、ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加物(2~8モル付加)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール(別名、1,2-プロピレングリコール)、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ビスフェノールAもしくはビスフェノールFにエチレンオキサイドを付加したもの、キシレングリコール、又バーサチック酸グリシジルエステル、εカプロラクトン等が挙げられる。
3官能以上の多価アルコールは、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、マンニトール、ソルビトール、α―メチルグルコシド等が挙げられる。
ポリオールは、単独または2種類以上を使用できる。
【0017】
ポリエステル樹脂(A)は、市販品でいうと、例えば、東洋紡社製:バイロンGK640(Mn:18000、Tg:79℃)、バイロン296(Mn:14000、Tg:71℃)、バイロンGK880(Mn:18000、Tg:84℃)、バイロンGK888(Mn:15000、Tg:89℃)。ユニチカ社製:エリーテルUE3600(Mn:20000、Tg:75℃)、エリーテルUE9600(Mn:18000、Tg:71℃)、エリーテルUE9800(Mn:13000、Tg:85℃)、エリーテルUE3690(Mn:14000、Tg:90℃)、エリーテルUE9900(Mn:15000、Tg:101℃)等が挙げられる。
【0018】
<ポリエステル樹脂(B)>
本明細書でポリエステル樹脂(B)は、数平均分子量5,000~10,000かつガラス転移温度10~50℃である。Tgは、25~50℃がより好ましい。Tgが所定の範囲内にあると密着性および加工性が向上する。数平均分子量が所定の範囲内にあると密着性および加工性が向上する。
また、ポリエステル樹脂(B)は、酸価0~50mgKOH/gが好ましく、0~10mgKOH/gがより好ましい。酸価の下限値は、0mgKOH/gを超えることがさらに好ましい。酸価が所定の範囲内にあると耐レトルト性がより向上する。
【0019】
ポリエステル樹脂(B)の原料である多塩基酸およびポリオールは、ポリエステル樹脂(A)で説明した化合物を使用することが好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(B)は、市販品でいうと、例えば、東洋紡社製:バイロンGK130(Mn:7000、Tg:15℃)、バイロンGK590(Mn:7000、Tg:15℃)、バイロンGK680(Mn:6000、Tg:10℃)、バイロンGK810(Mn:6000、Tg:46℃)。ユニチカ社製:エリーテルUE3300(Mn:8000、Tg:45℃)。SKケミカル社製:スカイボンES403(Mn:9000、Tg:40℃)、スカイボンES460M(Mn:7000、Tg:37℃)、スカイボンES601(Mn:6000、Tg:18℃)、スカイボンES710(Mn:10000、Tg:37℃)、スカイボンES750(Mn:8000、Tg:35℃)、スカイボンES812(Mn:8000、Tg:22℃)、スカイボンES850(Mn:7000、Tg:30℃)、スカイボンES900(Mn:8000、Tg:22℃)、スカイボンES960(Mn:7500、Tg:18℃)等が挙げられる。
【0021】
ポリエステル樹脂(A)およびポリエステル樹脂(B)は、質量比が(A):(B)=1:99~60:40になるように使用することが好ましく、20:80~40:60がより好ましい。両ポリエステル樹脂を適切な範囲で併用すると耐レトルト性、開栓性、加工性がより向上する。
【0022】
<アミノ樹脂>
本明細書でアミノ樹脂は、ポリエステル樹脂と反応可能な化合物であり、硬化剤として作用する。
アミノ樹脂は、アミノ成分のアミノ基の一部または全部にホルムアルデヒド等を付加してN-メチロール基が生成する。次いで、得られたN-メチロール基の一部または全部にアルコールを脱水反応させてエーテル化を行い、N-アルコキシメチル基が生成する樹脂である。
アミノ成分は、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン(2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン)樹脂、アセトグアナミン樹脂、ステログアナミン樹脂、スピログアナミン樹脂、ジシアンジアミド樹脂等が挙げられる。また、メラミンとベンゾグアナミンを反応させたメラミン・ベンゾグアナミン共縮合樹脂も挙げられる。これらの中で加工性が向上する面で、メラミン・ベンゾグアナミン共縮合樹脂、ベンゾグアナミン樹脂が好ましい。
【0023】
アルデヒドは、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンツアルデヒド等が挙げられる。
N-メチロール基のエーテル化に使用するアルコールは、例えば、炭素数1~6のモノアルコールが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコールがより好ましい。アルコールは、単独、または2種類以上を併用して使用できる。
【0024】
アミノ樹脂は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0025】
アミノ樹脂は、ポリエステル樹脂(A)およびポリエステル樹脂(B)の合計100質量部に対して、20~100質量部を使用することが好ましく、20~80質量部がより好ましく、さらに30~50質量部がより好ましい。アミノ樹脂を所定の範囲内で使用すると塗膜の硬化性を適度に調整できるため、硬度と加工性がより向上する。
【0026】
アミノ樹脂は、市販品でいうと、例えば、ALLNEX社製:サイメル303、サイメル235、マイコート506、サイメル1123。DIC社製:アミディアL-105-60、アミディアL-109-65、アミディアL-110-60、スーパーベッカミンTD-126、スーパーベッカミン15-594等が挙げられる。
【0027】
<エポキシ樹脂>
本明細書でエポキシ樹脂は、エポキシ基を有する化合物であり、金属部材と塗膜の密着性を向上する密着付与剤として作用する。
エポキシ樹脂は、数平均分子量300~1300が好ましく、350~950がより好ましい。数平均分子量が所定の範囲内にあると加工性および密着性がより向上する。
また、エポキシ樹脂は、エポキシ当量は150~800g/eqが好ましく、180~550g/eqがより好ましい。エポキシ当量が所定の範囲内にあると加工性および密着性がより向上する。
【0028】
エポキシ樹脂は、市販品でいうと、例えば、三菱ケミカル社製:JER828(184~194g/eq)、JER1001(450~500g/eq)。新日鉄住金化学社製:エポトートYD011(440~510g/eq)、エポトートYD013(800~900g/eq)。DIC社製:EPICLON850(183~193g/eq)、EPICLON1050(450~500g/eq)、EPICLON2050(610~660g/eq)等が挙げられる。
エポキシ樹脂は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0029】
エポキシ樹脂は、ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、およびアミノ樹脂の合計100質量部に対して、0.1~15質量部を含むことが好ましく、1~10質量部がより好ましい。エポキシ樹脂を所定の範囲で含むと加工性および密着性がより向上する。
【0030】
<硬化触媒>
塗料組成物は、必要に応じて硬化触媒を含むことができる。これにより硬化速度を適宜調整できる
硬化触媒は、例えば、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、リン酸等の酸触媒が挙げられる。酸触媒は、アミンでブロックした化合物も使用できる。
硬化触媒は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0031】
硬化触媒は、ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、アミノ樹脂およびエポキシ樹脂の合計100質量部に対して、0.1~4質量部を使用することが好ましい。
【0032】
<潤滑性付与剤>
塗料組成物は、必要に応じて潤滑性付与剤を含むことができる。
潤滑性付与剤は、塗膜の滑り性を向上させ、例えば、被覆缶同士が接触する際の塗膜の傷つきを抑制できる。
潤滑性付与剤は、例えば、ワックス、シリコーン系潤滑性付与剤が好ましい。
ワックスは、天然ワックス、合成ワックスが挙げられる。
天然ワックスは、例えば、ラノリン、ミツロウ、鯨ロウ等の動物系ワックス;カルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス等の植物系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックスが挙げられる。
合成ワックスは、例えば、ポリオレフィンワックス、フッ素ワックス、脂肪酸エステルワックスが挙げられる。
シリコーン系潤滑性付与剤は、例えば、ジメチルポリシロキサン、およびその変性物が挙げられる。
潤滑性付与剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0033】
潤滑性付与剤は、塗料組成物の不揮発分100質量部中に0.1~10質量部を含むことができる。
【0034】
<有機溶剤>
塗料組成物は、有機溶剤を含むことができる。有機溶剤は、塗装性や相溶性を考慮して適宜選択できる。
有機溶剤は、例えば、トルエン、キシレン、ソルベッソ等の芳香族系炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジカルボン酸メチルエステル混合物等の脂肪族エステル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン;ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールなどエーテルアルコール;ダイアセトンアルコール等のアルコールケトン;イソプロピルアルコール、n-ブタノール、アミルアルコール、n-ヘキサノール等のアルコールが挙げられる。
有機溶剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0035】
<塗料組成物>
塗料組成物は、ポリエステル樹脂(A)、ポリエステル樹脂(B)、アミノ樹脂、およびエポキシ樹脂を撹拌混合することで作製できる。
【0036】
塗料組成物は、顔料や染料の着色剤を配合して着色塗料として使用する他、着色剤を配合しないクリア塗料としても使用できる。また、着色塗料から形成した着色塗膜に光沢等を付与するニス塗料としても使用できる。
【0037】
<塗装部材>
本明細書で塗装部材は、金属部材、および塗料組成物の硬化物である塗膜を備える。通常の塗装部材は、高度な加工を行う場合、加工による変形に塗膜が追従できず下塗り層が必須であった。しかし、本発明の塗装部材は、下塗り層が無い場合に高度な加工を行っても金属部材から剥がれにくい、密着性が良好な塗膜を形成できる。なお、塗装部材は、下塗り層を有する実施態様を含むことはいうまでもない。同様に本発明の塗料組成物は、下塗り層上に塗膜を形成してもよい。
【0038】
塗料組成物は、塗装を行い塗膜を形成する。塗装方法は、例えば、ロールコーター塗装、スプレー塗装等が挙げられる。
【0039】
塗装の際、自然乾燥してもよいが、加熱を行い(乾燥工程、焼付けともいう)熱硬化を行うとより硬度が高い塗膜を形成できる。焼付けは、例えば、電気オーブン、遠赤外線オーブン、ガスオーブン、コイルオーブン等で行えば良い。焼付け条件は、150℃~240℃の温度雰囲気中で、20秒~15分程度加熱すれば良い。
【0040】
塗膜の重量は、30mg/100cm2~100mg/100cm2程度が好ましい。
【0041】
金属部材は、金属板、金属成形物が好ましい。
金属板は、例えば、熱延伸鋼板、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、合金メッキ鋼板、アルミニウム亜鉛合金メッキ鋼板、アルミニウム板、スズメッキ鋼板、ステンレス鋼板、銅板、銅メッキ鋼板、ティンフリースチール、ニッケルメッキ鋼板、極薄スズメッキ鋼板、クロム処理鋼板などが挙げられる。金属板は、例えば、防錆処理等の処理物であっても良い。
【0042】
金属成形物は、金属板を、例えば、コップ状に立体成形した成形物等の立体成形物が挙げられる。
【0043】
金属部材の厚みは、50~500μm程度である。金属成形物に塗膜を形成するタイミングは、成形前後を問わないところ、成形後が好ましい。
【0044】
<被覆缶>
本明細書で被覆缶は、缶体、および塗料組成物の硬化物である塗膜を備える。被覆缶は、機能面では、例えば、コーヒー、清涼飲料水等を収納する飲料缶、魚肉や果物を収納する食缶等に使用する缶である。なお、被覆缶は、化粧水、エンジンオイル等の非飲食物用途の収納にも使用できることはいうまでもない。
被覆缶は、形態面では、例えば、2ピース缶、3ピース缶、いわゆるボトル缶が好ましい。2ピース缶は、缶体として缶蓋および缶胴部材を備える。3ピース缶は、缶体として上下2つの缶蓋および1つの缶胴部材を備える。ボトル缶は、取り外し可能なキャップ、ならびに缶体として、
図1に示す前記キャップを装着できるスクリュー付飲み口部11を有するボトル部材を備える。
【0045】
被覆缶は、前記金属部材を加工して作成することが好ましい。
【0046】
被覆缶の中で、例えば、ボトル缶を作製する場合、コップ状のアルミニウム製立体成形物からスクリュー付飲み口部を成形するための絞り成形加工、および取り外し可能なキャップのスクリュー形成加工は、高度な加工が必要である。そのため、従来の被覆缶では、塗膜の密着性を保持するため下塗り層が必須であった。しかし、本明細書の被覆缶は、下塗り層が無い場合であっても、塗膜は金属との密着性が低下し難い。なお、被覆缶は、下塗り層を有する実施態様を含む。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例中、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ示す。なお、表中の配合量は、質量部である。
【0048】
<ポリエステル樹脂>
使用したポリエステル樹脂を表1に示す。
【0049】
【0050】
<実施例1>
冷却器および撹拌羽根付フラスコにポリエステル樹脂(A)-aを5部、ポリエステル樹脂(B)-aを60部、エポキシ樹脂のエポトートYD011を5部、ソルベッソ#150/ブチルセロソルブ=1/1の混合溶剤を20部仕込み攪拌しながら加熱を開始した。内温が100℃を超えないように必要に応じて冷却しながら材料を溶解した。材料の溶解を確認した後、溶液を室温まで冷却した。室温で良く攪拌しながらアミノ樹脂のスーパーベッカミンTD-126を50部(不揮発分質量部として30部)、触媒のドデシルベンゼンスルホン酸0.8部(ドデシルベンゼンスルホン酸量として0.2部)、カルナウバワックス1.0部を添加した。最後にソルベッソ#150/ブチルセロソルブ=1/1の混合溶剤で希釈して不揮発分50%の塗料組成物を得た。
【0051】
<塗装部材1の作製>
得られた塗料組成物を、厚さ0.28mmの#5182アルミニウム板上にバーコーターを使用して乾燥重量が50mg/100cm2になるように塗装し、内温220℃のガスオーブンで1分間加熱乾燥した。次いで、内温200℃のガスオーブンで3分間加熱乾燥を行い、塗装部材1を作製した。
【0052】
<25℃または120℃における鉛筆硬度>
得られた塗装部材1を130℃で30分間レトルト処理を行った。次いで25℃まで冷却後、JIS K-5600に準拠し、三菱鉛筆社製「ユニ」を使用して25℃における塗膜の鉛筆硬度を測定した。評価基準は下記の通りである。
◎:4H以上。良好。
○:2H~3H。実用上問題なし。
△:F~H。実用不可。
×:HB以下。実用不可。
次に別途、前記同様にレトルト処理を行った塗装部材を120℃に設定したホットプレート上で塗膜の鉛筆硬度を測定した。
◎:H以上。良好。
○:HB~F。実用上問題ない。
△:B。実用不可
×:2B以下。実用不可。
【0053】
<絞り加工密着性>
ボトル缶の飲み口部を形成する加工を行い塗膜と金属部材との密着性を評価する代用試験として、キャップを作製し、次の試験を行った。
即ち、得られた塗装部材1を円形に打ち抜き直径55mmの円盤を作製した。得られた円盤を塗膜が外側になるように絞り加工を行い、直径25mm、深さ18mmのキャップを作製した。得られたキャップを130℃で30分間レトルト処理を行い、処理後の塗膜と金属部材との密着性を以下の基準で評価した。
◎:塗膜に剥離、割れが全くない。良好
○:塗膜に若干の剥離、割れがあった。実用上問題ない。
△:塗膜に剥離、割れがやや多い。実用不可
×:塗膜に剥離、割れが著しい。実用不可
【0054】
<スクリュー加工性>
ボトル缶の飲み口部にスクリューを形成する加工性を評価するため次の代用試験を行った。まず、上記絞り加工密着性試験と同様にキャップを作製した後、さらにスクリュー加工を行った。得られたスクリュー付飲み口部を130℃で30分間レトルト処理を行い、処理後のスクリュー部の塗膜と金属板の密着性を以下の基準で評価した。
◎:塗膜に剥離、割れが全くない。良好
○:塗膜に若干の剥離、割れがあった。実用上問題ない
△:塗膜に剥離、割れがやや多い。実用不可
×:塗膜に剥離、割れが著しい。実用不可
【0055】
<開栓性>
ボトル缶のキャップの開栓性を評価するため次の代用試験を行った。キャップの内面塗膜と、スクリュー付飲み口部の外面塗膜との剥離抵抗値を測定し開栓性を評価した。
まず、キャップ用内面塗料を以下の手順に従い作製した。冷却器および撹拌羽根付フラスコにJER1009(エポキシ樹脂、三菱ケミカル社製)を80部、TD-141-40(フェノール樹脂、DIC社製)を50部(不揮発分質量部として20部)、ブチルセロルブ/アノン/スワゾール1000=1/1/1の混合溶剤を50部仕込み攪拌しながら加熱を開始した。内温が100℃を超えないように必要に応じて冷却しながら材料を溶解した。材料の溶解を確認した後、溶液を室温まで冷却した。室温で良く攪拌しながらカルナウバワックス2.0部を添加した。最後にブチルセロルブ/アノン/スワゾール1000=1/1/1の混合溶剤で希釈して不揮発分30%のキャップ用内面塗料を得た。
次に得られたキャップ用内面塗料を厚さ0.28mmの#5182アルミニウム板にバーコーターで乾燥重量が50mg/100cm2になるように塗装し内温200℃のガスオーブンで10分間加熱乾燥を行い、キャップ内面塗膜板を作製した。なお、キャップ内面塗膜板の塗膜のTgを熱機械分析装置(製品名:TMA リガク社製)を用いて測定したところ、Tg=100℃であった。
外面塗膜板として前述の塗装部材1を使用した。
前記外面塗膜板および前記キャップ内面塗膜板をそれぞれ130℃で30分間レトルト処理を行った。次いで、両塗膜板からそれぞれ縦100mm・幅100mmの大きさの内面用および外面用のテストピースを準備した。両テストピースの塗膜同士が接するように重ね、100℃に設定したホットプレス機に載せて両塗装版の温度が100℃になるまで放置した。100℃を維持したまま5kg/cm2の荷重をかけて30分放置した。その後、重ね合わせたテストピースを取り出し、25℃まで冷却した。
次いで、両面粘着テープを貼った台に重ね合わせたテストピースの一方の面を固定し、他方の面の端部付近にセロハンテープを貼りつけ、前記セロハンテープにクリップを引掻け、前記クリップを滑り試験機(テスター産業社製)にて引っ張り、クリップ側のテストピースを捲るように台側のテストピースから引き剥がす際の抵抗値を測定した。測定結果を以下の基準で評価した。
◎:剥離抵抗値が0g~10g未満。良好
○:剥離抵抗値が10g以上30g未満。実用上問題ない
△:剥離抵抗値が30g以上~100g未満。実用不可
×:剥離抵抗値が100g以上。実用不可
【0056】
<実施例2~18、比較例1~11>
実施例1の材料および使用量を表に材料および使用量に変更した以外は、実施例と同様に行い実施例2~18、比較例1~11の塗装部材をそれぞれ作製した。次いで実施例1と同様に物性評価を行った。
【0057】
表2および表3で使用した材料を以下に示す。
スーパーベッカミンTD-126:ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂(DIC社製)
マイコート506:ブトキシメチルエーテル化メラミン樹脂(日本サイテックインダストリーズ社製)
PR-53893A:スミライトレジンPR-53893A メタクレゾール樹脂(住友デュレズ社製)
エポトートYD011:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(新日鉄住金化学社製)
【0058】
【0059】
【符号の説明】
【0060】
10 被覆缶
11 スクリュー付飲み口部