IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-シート欠陥検査装置 図1
  • 特許-シート欠陥検査装置 図2
  • 特許-シート欠陥検査装置 図3
  • 特許-シート欠陥検査装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】シート欠陥検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
G01N21/892 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018242781
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020106295
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹本 恭也
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-160745(JP,A)
【文献】特開2015-114186(JP,A)
【文献】特表昭61-502009(JP,A)
【文献】特開平04-109153(JP,A)
【文献】特開2013-007589(JP,A)
【文献】特開平10-009838(JP,A)
【文献】特開2013-160531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに照明光を照射する照明手段と、
前記照明手段から照射された照明光が前記シートで反射または透過した光を撮像する撮像手段と、
前記シート、前記撮像手段に備えられた撮像装置、および前記照明手段に備えられた照射装置のいずれか1つ以上に接続され、前記撮像手段で撮像する撮像領域は同じままで、前記シートに対する前記照射装置および前記撮像装置の相対的な位置関係を切り替える可動手段と、
前記可動手段により切り替えられた複数の前記位置関係のそれぞれで前記撮像手段により撮像された画像データを処理して、複数の画像データのそれぞれに対応した輝度に関する特徴量である輝度特徴量データを得る画像処理手段と、
前記輝度特徴量データから、前記撮像領域に欠陥が含まれるか否かを判別する欠陥判定手段と、を備えた、シート欠陥検査装置。
【請求項2】
前記撮像領域が、別のシート欠陥検査装置によって得られた前記シート上に存在する欠陥の座標データを参照して決定される、請求項1のシート欠陥検査装置。
【請求項3】
前記可動手段が、前記各位置関係で停止せずに動作を続ける、請求項1または2のシート欠陥検査装置。
【請求項4】
前記可動手段が、前記撮像領域から前記シートの表面に垂直な方向に延びる回転軸を中心として、前記撮像手段と前記照明手段とを同じ回転方向に同じ回転角度だけ回転させる、請求項1~3のいずれかのシート欠陥検査装置。
【請求項5】
前記照明手段の照射方向と前記回転軸とのなす角度(鋭角)である入射角度と、前記撮像手段の撮像方向と前記回転軸とのなす角度(鋭角)である撮像角度とが等しい、請求項4のシート欠陥検査装置。
【請求項6】
前記可動手段が、4軸以上の自由度を有した垂直多関節ロボットである、請求項1~5のいずれかのシート欠陥検査装置。
【請求項7】
前記欠陥判定手段が、複数の前記輝度特徴量データL1・・・Ln(nは3以上の整数)の中に以下の条件(イ)および条件(ロ)を満たす輝度特徴量Lkが存在する場合に、その輝度特徴量Lkに対応する画像データIkに欠陥が含まれると判定する、請求項1~6のいずれかのシート欠陥検査装置。
条件(イ):前記輝度特徴量データL1・・・Lnの中に、輝度特徴量Lkとの大きさの差(絶対値)が所定の閾値よりも大きい他の輝度特徴量データが存在する。
条件(ロ):条件(イ)を満たす他の輝度特徴量データの数が所定の数よりも多い。
【請求項8】
前記可動手段が、前記複数の画像データのいずれかに欠陥が含まれていた場合に、その欠陥が含まれる画像データを撮像した時の前記位置関係を基準として、新たな複数の位置関係で動作をする、請求項1~7のいずれかのシート欠陥検査装置。
【請求項9】
前記可動手段が、前記複数の画像データのいずれにも欠陥が含まれていない場合に、前記複数の位置関係とは異なる新たな複数の位置関係で動作をする、請求項1~8のいずれかのシート欠陥検査装置。
【請求項10】
検査対象であるシートが透明あるいは半透明物であり、線状の凹または凸が一定長さでシート表面に露出した欠陥が存在するか否かを検査する、請求項1~9のいずれかのシート欠陥検査装置。
【請求項11】
検査対象であるシートが、短繊維から構成された不織布、または短繊維と樹脂から構成された不織布であり、凝集した短繊維がその繊維配向を一方向に揃えて束状となりシート表面に露出している欠陥が存在するか否かを検査する、請求項1~9のいずれかのシート欠陥検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製フィルムや短繊維の集合からなる不織布等のシート状物等の外観欠陥を光学的手法で自動的に検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ・磁気記録材料等に用いられるフィルムや、フィルタ・電極用基材等に用いられる不織布などのシート状製品では、最終製品の性能・特性を保証するための品質要求の一つとして、シート表面に存在する欠陥や異物の管理が挙げられる。これらは適用される最終製品の高性能化・精密化に伴いより高精度な管理を求められており、現在では数~数十ミクロンの微小な欠陥・異物の検出が必要となっている。
【0003】
シート状製品の製造ラインにおいては、上記のような品質維持・向上および生産工程管理のために、シート表面に存在する欠陥や異物の検査が行われおり、各工程で欠陥や異物が発生していないかを確認して製品品質を維持・向上することは重要である。
このような状況のもとで、次のようなシート状製品の製造工程中における微細な欠陥の検査技術が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、連続的に走行するシート状物の外観欠陥を光学的手法で自動的に検査し、特徴が異なる複数種類の欠陥を定量的かつ精度よく検出する技術が開示されている。
【0005】
通常のシート状製品の欠陥検査には、特許文献1のように、欠陥部を含む被検査物に光を照射する照明と、照射した光を受けた被検査物が反射または透過する光を受光する撮像装置を、被検査物に対し固定配置して、欠陥部における光の反射または透過の特性の変化を検知することで欠陥の有無を判定する光学的手法が用いられる。
【0006】
しかしながら、フィルムや不織布などのシート状製品の欠陥の中には、欠陥の形状に対し特定の光学条件でしか可視化できないものが存在する。例えば、樹脂製のフィルムにおける線状の凹凸を持つキズや、不織布における凝集した短繊維がその繊維配向を一方向に揃えて束状となりシート表面に露出している欠陥(以降、便宜的に束欠陥と称する)などは、欠陥部から反射または透過する光の指向性が欠陥に対する光の照射方向によって大きく異なる(異方性がある)ため、欠陥の形状に対して特定の方向から光を照射して特定の方向から反射または透過光を撮像する光学条件でしか欠陥検出が可能な(正常部と欠陥部とでコントラストが得られる)画像が取得できない。
【0007】
このような光の反射・透過光の指向性が欠陥に対する照明光の入射方向によって異なる欠陥(以降、便宜的に異方性欠陥と称する)の検査技術として、いくつかの技術が開示されている。
【0008】
例えば、特許文献2には、試料に光を供給する照明光学系と、第1の仰角で配置される第1の検出光学系と、上記第1の仰角よりも高い第2の仰角で配置される第2の検出光学系と、を複数個備え、指向性欠陥によって散乱した光を効率よく捕捉する技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、被検査試料表面に集束したレーザビームを照射し、該被検査試料表面で発生する散乱光を多方向で集光し、集光された該散乱光を光電変換して該被検査試料表面に存在する欠陥を検査する装置において、多方向で検出した検出信号を加算処理して微小欠陥を検出するとともに、多方向で検出した検出信号を個別処理して異方性欠陥を検出する技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献4には、物体に対して異方性の照明と等方性の照明とを行って複数の画像を撮像し、異方性の照明で得られた第1画像と、等方性の照明で得られた第2画像から検査画像を生成し、当該検査画像に基づいて物体の検査のための処理を行うことで、多様な欠陥の検査ができる検査装置が開示されている。
【0011】
また、特許文献5には、検査対象面の検査区域に対して、検査対象面の方向を固定した上で、異なる方向から照射した光の反射光を受光して表面画像を撮影し、照光方向に応じた画素情報から欠陥を検出する技術が開示されている。
【0012】
また、特許文献6には、画像センサ、照明光源、ならびに画像センサ、照明光源、および機械部品を互いに対して移動させるための手段を含む機器を用いて、機械部品を非破壊的に検査する自動的方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第6183875号公報
【文献】特開2017-133830号公報
【文献】特許第4394707号公報
【文献】特開2017-67633号公報
【文献】特開2013-7589号公報
【文献】特表2012-514193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
異方性欠陥を可視化するためには、1つの検査領域に対してあらゆる方向から光を照射し、かつあらゆる方向から撮像をするような多数の光学条件での撮像を行い、光学条件の異なる複数の取得画像から欠陥の有無を判定する必要があり、特許文献1に記載のような照射装置や撮像装置が固定配置されている検査技術では、上記のような異方性欠陥を見逃す可能性がある。
【0015】
特許文献2、3に記載の技術では、複数の条件で検出光学系を固定配置し、多方向で検出した散乱光の検出信号を加算して微小欠陥の検出を行うとともに、各検出信号を個別に処理することによって、異方性欠陥の見逃しを回避することが可能となる。しかしながら、照明光の照射方向は一方向であり、複数の角度条件で設置した検出光学系も固定配置であるため、光学条件には一定の制限が生じてしまい、異方性欠陥の発生方向と照明・検出光学系の位置関係によっては、正常部と欠陥部とでコントラストが得られる画像を取得できない場合がある。
【0016】
特許文献4、5に記載の技術によれば、1台の照明装置の発光点を制御し、1つの検査領域に対する光の照射方向を切り替えて得られる複数の撮像画像について、照射方向に応じた画像の情報から欠陥を検出することが可能である。しかしながら、撮像方向は被検査物に対して固定であり、前述の公知技術と同様に、光学条件には一定の制限が生じてしまうので、異方性欠陥の発生方向と照明・撮像装置の位置関係によっては、正常部と欠陥部とでコントラストが得られる画像を取得できない場合がある。
【0017】
特許文献6に記載の技術によれば、3次元計測手段によって得られた被検査物の形状に基づき、画像センサ、照明光源、および被検査物を互いに対して移動させて、被検査物の表面形状の変化に追従して画像を取得するための動作経路を決定することができるが、異方性欠陥の検出に対して光学条件を変化させて欠陥検出に最適な画像を得るものではない。
【0018】
そこで、本発明は、シート状製品の欠陥検査において、従来技術では検出が困難であった異方性欠陥も検出可能とするために、被検査物の検査領域に対する照射装置および撮像装置の相対的な位置関係を切り替えながら多数の光学条件で撮像を行い、光学条件の異なる複数の撮像画像から画像処理を利用して、検査領域に欠陥が含まれるか否かを自動検査できる検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するため、本発明のシート欠陥検査装置は、
シートに照明光を照射する照明手段と、上記照明手段から照射された照明光が上記シートで反射または透過した光を撮像する撮像手段と、
上記シート、上記撮像手段に備えられた撮像装置、および上記照明手段に備えられた照射装置のいずれか1つ以上に接続され、上記撮像手段で撮像する領域は同じままで、上記シートに対する上記照射装置および上記撮像装置の相対的な位置関係を切り替える可動手段と、
上記可動手段により切り替えられた複数の上記位置関係のそれぞれで上記撮像手段により撮像された画像データを処理して、複数の画像データのそれぞれに対応した輝度に関する特徴量である輝度特徴量データを得る画像処理手段と、
上記輝度特徴量データから、上記撮像領域に欠陥が含まれるか否かを判別する欠陥判定手段と、を備えている。
【0020】
なお、ここで記載している「輝度」とは画像上の画素階調値のことであり、明細書や請求項において特に断りのない限り同様の意味合いで「輝度」と記載する。
【0021】
本発明のシート欠陥検査装置は、下記の(1)から(8)のいずれかの構成を有すると好適である。
(1)上記撮像領域が、別のシート欠陥検査装置によって得られた上記シート上に存在する欠陥の座標データを参照して決定される。
(2)上記可動手段が、上記各位置関係で停止せずに動作を続ける。
(3)上記可動手段が、上記撮像領域から上記シートの表面に垂直な方向に延びる回転軸を中心として、上記撮像手段と上記照明手段とを同じ回転方向に同じ回転角度だけ回転させる。
(4)上記(3)に加えて、上記照明手段の照射方向と上記回転軸とのなす角度(鋭角)である入射角度と、上記撮像手段の撮像方向と上記回転軸とのなす角度(鋭角)である撮像角度とが等しい。
(5)上記可動手段が、4軸以上の自由度を有した垂直多関節ロボットである。
(6)上記欠陥判定手段が、複数の上記輝度特徴量データL1・・・Ln(nは3以上の整数)の中に以下の条件(イ)および条件(ロ)を満たす輝度特徴量Lkが存在する場合に、その輝度特徴量Lkに対応する画像データIkに欠陥が含まれると判定する。
条件(イ):上記輝度特徴量データL1・・・Lnの中に、輝度特徴量Lkとの大きさの差(絶対値)が所定の閾値よりも大きい他の輝度特徴量データが存在する。
条件(ロ):条件(イ)を満たす他の輝度特徴量データの数が所定の数よりも多い。
(7)上記可動手段が、上記複数の画像データのいずれかに欠陥が含まれていた場合に、その欠陥が含まれる画像データを撮像した時の上記位置関係を基準として、新たな複数の位置関係で動作をする。
(8)上記可動手段が、上記複数の画像データのいずれにも欠陥が含まれていない場合に、上記複数の位置関係とは異なる新たな複数の位置関係で動作をする。
【0022】
本発明のシート欠陥検査装置は、検査対象であるシートが透明あるいは半透明物であり、線状の凹または凸が一定長さでシート表面に露出した欠陥が存在するか否かを検査する場合に好適である。
【0023】
また、本発明のシート欠陥検査装置は、検査対象であるシートが短繊維から構成された不織布、または短繊維と樹脂から構成された不織布であり、凝集した短繊維がその繊維配向を一方向に揃えて束状となりシート表面に露出している欠陥が存在するか否かを検査する場合にも好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のシート欠陥検査装置によれば、撮像装置および照射装置のいずれか1つ以上に接続された可動部によって、検査対象であるシートに対する照射装置および撮像装置の相対的な位置関係を切り替えながらシートに照明光を照射し、シートで反射または透過した光を撮像することで得られる複数の画像データを処理して、各画像データに対応した輝度に関する特徴量データをもとに撮像領域に欠陥が含まれるか否かを判別することで、異方性欠陥を含むシート状製品の表面に露出した欠陥の検査を精度よく行うことが可能となる。これにより、シート状製品の品質や生産工程の管理実現や欠陥品見逃しを防止できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明のシート欠陥検査装置の一例を示す概略図である。
図2図2は、本発明のシート欠陥検査装置の可動部の動作経路の一例を示す概略図である。
図3図3は、本発明のシート欠陥検査装置の可動部の動作経路パラメータの一例を示す概略図である。
図4図4は、本発明のシート欠陥検査装置の画像処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の好ましい実施の形態について、以下のとおり図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかるシート欠陥検査装置の一例を模式的に示した概略図である。本発明のシート欠陥検査装置1は、被検査物であるシート2に照明光3aを照射する照明装置3と、シート2からの反射光・散乱光・透過光2aを撮像する撮像装置4と、撮像装置4が撮像した撮像画像を画像処理して得られる画像の輝度特徴量データからシート2に欠陥(図示しない)が存在するか否かを判定する画像処理装置5と、照明装置3および撮像装置4のそれぞれに接続される可動部6(6’、6’’)と、可動部6の動作制御を行う可動制御部6aと、で構成されている。
【0027】
一般的に、製品上の欠陥として扱われるキズや異物・繊維の束欠陥(図示しない)がシート2の表面に存在している場合、その欠陥部に照明光3aを照射すると、欠陥からの反射光・散乱光・透過光2aは、シート2の表面に欠陥が存在しない場合の反射光・散乱光・透過光2aとは異なる挙動となる。具体的には、欠陥が存在する領域と欠陥が存在しない領域とでは、反射光・散乱光・透過光2aの強度や指向性(拡散具合)、反射方向等が異なり、これら反射光・散乱光・透過光2aの変化を撮像装置4で撮像し画像化することでシート2に欠陥が存在するか否かを検査することができる。ここで、照明装置3や撮像装置4は必ずしもシート2に対して片側だけに配置する必要はない。例えば、照明装置3と撮像装置4とをシート2を挟んで対向するように配置することで、シート2を透過してきた光を撮像可能となり、シート2に存在するピンホール欠陥なども検出可能となる。また、使用する照明装置3や撮像装置4はそれぞれ1台ずつとは限らない。例えば、シート2の表裏に照明装置3を設置することで、表面に存在するキズや束欠陥とピンホール欠陥を同時に検査可能となる。
【0028】
検査対象であるシート2は、例えば、シート2の巻出し部と巻取り部を備えた搬送装置7により連続的あるいは間欠的に順次搬送され、搬送装置7のいずれかに設置される可動部6に接続された照明装置3から照明光3aが照射される。シート2からの反射光・散乱光・透過光2aは、搬送装置6のいずれかに設置される可動部6に接続されるラインセンサやエリアセンサのような撮像装置4により撮像される。このとき、ある撮像領域8における照明装置3と撮像装置4のシート2に対する相対的な位置関係Pは、可動制御部6aで制御される可動部6により決定する。この位置関係Pは可動制御部6aにて任意に設定可能であり、可動部6を制御して照明装置3と撮像装置4のそれぞれの位置を切り替えていくことで、一つの撮像領域8に対して複数の位置関係P1・・・Pnを構築できる。また、構築した位置関係P1・・・Pnでそれぞれ撮像領域8の画像データI1・・・Inを取得することにより、一つの撮像領域8に対して複数の光学条件による画像の取得が実現できる。画像処理装置5は、撮像装置4で得られた複数の画像データI1・・・Inを処理して輝度特徴量データを取得し、得られた結果からシート2の撮像領域8に欠陥が存在するか否かを判別する。
【0029】
シート2は、必ずしも搬送状態である必要はなく、一定サイズに切り出されたシートを静止した状態で配置してもよい。またシート2を可動部6に接続し、シート2の位置や角度、照明装置3や撮像装置4との距離などを切り替えることで、撮像領域8における照明装置3と撮像装置4のシート2に対する相対的な位置関係Pを構築してもよい。シート2と可動部との接続には、例えばクリッパーや吸着ハンドなどのほかシート2のサイズに合わせた型を可動部6にジョイントする方法などが用いられる。一方、シート2が搬送装置7で連続的に搬送している場合、一つの撮像領域8に対して複数の位置関係P1・・・Pnで画像データI1・・・Inを取得するには、シート2における撮像領域8が変化しないようするため、シート2の搬送速度に追従して可動部6を制御する必要がある。この場合、可動制御部6aでは可動部6の位置関係Pにシート2自体の搬送に伴う移動量分を加算せねばならず、制御プログラムの構築が複雑になる。また、可動部の移動速度に対してシート2の搬送速度が速すぎる場合に、可動部6で位置関係P1・・・Pnを構築する以前にシート2が可動部の可動範囲を通過してしまう場合がある。そのため、シート2の搬送と停止を繰り返し行う間欠運転を適用して、搬送停止中に可動部6の可動範囲で撮像可能なシート2の検査エリア9を検査した後、シート2を次の検査エリア9aまで一定量搬送して停止するのが好適である。
【0030】
使用する照明装置3、撮像装置4はそのすべてを可動部6に接続する必要はない。例えば、撮像装置4のみを可動部6に接続し、照明装置3は照明光3aをあらゆる方向から照射できるように複数台配置する、あるいは、照明装置3の発光点を任意に制御できるようなものを用いる、などすれば、可動部6に接続した撮像装置4に位置を切り替えるだけで、一つの撮像領域8に対して複数の光学条件による画像の取得が実現できる。
【0031】
本発明における検査対象物のシート2および検出対象の欠陥の好適な例としては、(a)樹脂製フィルムなどの透明あるいは半透明物であり、線状の凹または凸が一定長さでシート表面に露出した欠陥、(b)短繊維から構成された不織布、または短繊維と樹脂から構成された不織布であり、凝集した短繊維がその繊維配向を一方向に揃えて束状となりシート表面に露出している欠陥(束欠陥)などが挙げられる。(a)、(b)に示したような欠陥は、欠陥部から反射または透過する光の指向性が欠陥に対する光の照射方向によって大きく異なる(異方性がある)。
【0032】
例として樹脂製の透明フィルムに存在するキズ欠陥(線状の凸)について説明する。フィルムはその表面が平滑であるため、欠陥が存在しない正常部の場合には照射した光はフィルム表面で正反射する。この正反射光を撮像可能な位置に撮像装置を配置した状態で、キズ欠陥が存在するフィルムを撮像すると、光を照射する方向に対してキズ欠陥の線方向が直交していればキズ欠陥の凸部分で光が散乱するため、撮像装置で受光できるキズ欠陥部分からの反射光は正常部からの反射光に比べて暗くなり、暗欠陥として画像化できる。しかしながら光を照射する方向に対してキズ欠陥の線方向が平行であればキズ欠陥部分での光の散乱が少なくほぼ正反射するため、正常部分と欠陥部分とで画像上の差は見えなくなる。
【0033】
このような光の反射・透過光の指向性が欠陥に対する照明光の入射方向によって異なる欠陥(以降、便宜的に異方性欠陥と称する)は、欠陥の形状に対して特定の方向から光を照射して特定の方向から反射または透過光を撮像する光学条件でしか欠陥検出が可能な画像が取得できない。この異方性欠陥を可視化するためには、1つの検査領域に対してあらゆる方向から光を照射し、かつあらゆる方向から撮像をするような多数の光学条件での撮像を行い、光学条件の異なる複数の取得画像から欠陥の有無を判定する必要がある。これに対し、本発明のように照射装置3や撮像装置4を可動部と接続し、照明装置3と撮像装置4のシート2に対する相対的な位置関係Pを切り替えて、一つの撮像領域8に対して複数の位置関係P1・・・Pnで画像データI1・・・Inを取得することにより、複数の光学条件による画像取得を実現する方法は好適である。
【0034】
照射装置3は、シート2の欠陥部を画像上で可視化できるようにするため、シート2に照明光3aを照射する。照射装置3の種類・形態はシート2表面を照射可能であれば限定しないが、より広範囲にかつ均一に照明光3aを照射できることものが好適である。照射する照明光3aの波長についても特に限定しないが、一般的な撮像装置4のセンサの受光波長の領域が可視光である場合が多いことから、照明光3aの波長も可視光域を含んでいることが好適である。また、各撮像毎の再現性を得るために、照明光3aの照度は一定の値にしておくことが好ましい。撮像装置4は、受光素子群を備えており、シート2からの反射光・散乱光・透過光2aを受光し、シート2の撮像を行う。撮像装置4が備える受光素子群は、例えば、モノクロカメラのように単一の受光感度を有する受光素子からなるものを用いてもよいし、カラーカメラのように受光感度の異なる複数の受光素子からなるものを用いてもよい。
【0035】
撮像領域8は検査エリア9に含まれる撮像装置4で撮像する領域であり、検査エリア9のすべてを撮像するように撮像領域8を少しずつずらしながら、それぞれの撮像領域8で複数の位置関係P1・・・Pnで画像データを取得してもよいが、本発明に係るシート欠陥検査装置とは別のシート検査装置Bを設置している場合、このシート検査装置Bで検出した欠陥候補の位置を撮像領域8として、本発明のシート検査装置で検査することもできる。例えば上流に設置したシート検査装置Bが検出すべき欠陥部に加えて、欠陥が存在しない正常な領域も欠陥として検出(いわゆる過検出)しているような場合に、通常は人がシート検査装置Bで欠陥が存在すると判定されたシート上の領域をもう一度目視で確認し、本当に検出すべき欠陥が存在するか再判定するが、本発明のシート欠陥検査装置を用いて、シート検査装置Bで検出した欠陥候補の位置を撮像領域8としてより鮮明に画像化し詳細に検査することで、人による目視再判定をなくすことができる。
【0036】
可動部6は、撮像領域8および撮像領域8における照明装置3と撮像装置4のシート2に対する相対的な位置関係P、すなわち撮像領域8を撮像するときの光学条件を決定する。この位置関係Pは、可動部6に接続される可動制御部6aにて任意に決定することができる。可動部6は各位置関係P1・・・PNにおいて必ずしも停止する必要はない。例えば、検査領域8の撮像を継続しながら、図2の破線で示す動作経路10に沿ってシート2に対する照明装置3と撮像装置4との位置関係P1、P2、・・・Pnを、停止を伴わず連続的に切り替えてもよい。このように可動部が位置関係Pを順次変えながら、動画的に画像を撮像することで、より多数の光学条件における撮像領域Pの画像が取得できる。
【0037】
撮像領域8に対しての照明装置3と撮像装置4との位置関係P1、P2、・・・Pnを構築するための可動部6の動作経路9は、そのすべてを可動制御部6aであらかじめ設定(ティーチング)しておいてもよいし、位置関係P1、P2、・・・Pnを構築するためのパラメータとして、例えば次の(A)、(B)、(C)などを検査対象のシート2の種類や品種、あるいは毎回の検査ごとに設定して動作経路9を決定してもよい(図3参照)。
(A)撮像領域8と照明装置3や撮像装置4との距離L1、L2
(B)シート2の表面に垂直な方向に延びる回転軸11を中心とする回転方向12に照明装置3と撮像装置4とを何度ずつ回転させるか。
(C)照明装置3の照射方向と回転軸11とのなす角度(鋭角)である入射角度θ1と、撮像装置4の撮像方向と回転軸11とのなす角度(鋭角)である撮像角度θ2を何度ずつ変えるか。
【0038】
特に異方性欠点の検出に対する位置関係P1・・・Pnの決定の好ましい例としては、前述(B)の角度を照明装置3と撮像装置4とで同じ回転方向12に同じ回転角度だけ回転させながら、撮像領域8の画像を取得することであり、より好ましくは前述(B)の角度を照明装置3と撮像装置4とで同じ回転方向12に同じ回転角度だけ10~15°ずつ変えていきながら撮像領域8の画像を取得することである。また、検査対象であるシート2の代表的な製品であるフィルムの表面キズ欠陥や不織布シートの束欠陥の検出に対する位置関係P1・・・Pnの決定の好ましい例としては、前述した異方性欠点の検出に対する位置関係P1・・・Pnの決定の好ましい例における(B)動作に加え、前述した(C)のθ1とθ2を等しくすることが好適である。
【0039】
可動部6には例えばロボットを用いることができ、直交座標型、極座標型、円筒座標型垂直多関節型など適用可能であるが、動きの自由度が高く広い可動範囲を確保できる4軸以上の垂直多関節ロボットを用いることが好適である。また、複数のロボットやアクチュエータなどを組み合わせで1つの可動部6を構成してもよい。
【0040】
可動部6は、定められた位置関係P1・・・Pnとなるように照明装置3や撮像装置4を動かすが、必ずしも位置関係P1・・・Pnの動作経路での撮像のみだけを行うのではない。例えば、位置関係P1・・・Pnのそれぞれで撮像した撮像領域8の画像データ群I1・・・Inの画像処理装置5での判定結果(後述)により位置関係P1・・・Pnとは異なる新たな位置関係P+を構築する動作経路を設定してもよい。この時、位置関係P1・・・Pnのそれぞれで撮像した撮像領域8の画像データ群I1・・・Inに欠陥が含まれる画像データIzが存在した場合、欠陥をより鮮明に画像化し欠陥のサイズや形状・濃度などの特徴をより正確に計測できるようにするための例として、画像データIzを撮像した位置関係Pzを新たな位置関係P+を構築するときの基準位置とするのが好適である。また、位置関係P1・・・Pnのそれぞれで撮像した撮像領域8の画像データ群I1・・・Inに欠陥が含まれていなかった場合でも、撮像領域8に本当に欠陥がないかを再チェックするなどの目的で、位置関係P1・・・Pnとは異なる新たな位置関係P++を構築して同じ撮像領域8を別の光学条件で画像を取得してもよい。
【0041】
画像処理装置5は、撮像領域8に対して可動部6で構築した複数の位置関係P1・・・Pnのそれぞれで取得した画像データ群I1・・・Inを処理して輝度特徴量データを取得し、得られた結果からシート2の撮像領域8に欠陥が存在するか否かを判別する。画像処理装置5は、専用の画像処理ソフトウェアを備えたPC、あるいは画像処理用のハードウェアなどを用いてもよいし、代わって撮像装置4にCPUが備わり撮像と画像処理が一体化して行えるものを用いてもよい。図4に画像処理装置5で行う欠陥検出および判別の画像処理フローの一例を示す。まず、U1の輝度特徴量算出処理では複数の位置関係P1・・・Pnのそれぞれで撮像領域8を撮像し取得した画像データ群I1・・・Inの対し、画像の輝度データL1・・・Lnを算出する処理を実行する。ここで算出する輝度データLには、例えば画像の平均輝度、最大・最小輝度、輝度の標準偏差などを用いられるほか、画像データに対するフィルタ処理、膨張・収縮処理、減算処理などの組み合わせて得られる前処理画像を2値化処理した際の白画素の残留面積や個数なども用いることができる。特に後者の手法は、画像データ群I1・・・Inの各画像で画像全体の明るさにばらつきが生じるなどの場合に好適である。また、輝度データLは必ずしも1つである必要はなく、前述した画像処理などで得られるデータを複数用いてもよい。
【0042】
撮像領域8に欠陥が含まれており、取得した画像データ群I1・・・Inのいずれか1つ以上で欠陥が写っている場合、画像データ群I1・・・Inで輝度変化は大きくなる。一方、撮像領域8に欠陥が含まれておらず、取得した画像データ群I1・・・Inのいずれにも欠陥が写っていない場合、画像データ群I1・・・Inで輝度変化は少ない。
【0043】
これらを判断するための一例として、U2の輝度特徴量差分処理では撮像領域8を位置関係P1・・・Pnで撮像し得られた画像データ群I1・・・Inのうち注目する画像データIkの輝度データLkとLkを除くそのほかの画像データI1・・・Ik(Ikは除く)の各輝度データL1・・・Lk(Lkは除く)とでそれぞれ大きさの差(絶対値)を求め、Lkに対する差分データS1・・・Snを算出する。U3の輝度特徴量差分データ判定処理は、U2で算出した差分データS1・・・Snをあらかじめ定めた第1の閾値th1と比較し、th1より大きい差分データSを欠陥候補データとしてカウントする。U4ではS1・・・Snのうち欠陥候補データと判定された個数Gをあらかじめ定めた第2の閾値th2と比較して欠陥候補データの個数Gがth2よりも大きい場合に、画像データIkに欠陥が含まれていると判定し、シート2における画像データIkの撮像領域8に欠陥が存在していると判別する。
【0044】
画像化された欠陥についてはその形状や面積・濃度などに関する特徴量を画像処理などで算出し、算出した特徴量に関する規格や閾値を定めてシート2の製品品質に影響する欠陥か否かを判定することもできる。その他、例えば製品品質に影響する欠陥が含まれる画像の欠陥部がラベリングした画像や欠陥部が存在しない正常画像を教師とした機械学習等を用いて判別し、シート2の製品品質に影響する欠陥か否かを判定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、シート状物の外観検査に、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 シート欠陥検査装置
2 シート
3 照射装置
4 撮像装置
5 画像処理装置
6(6’、6’’) 可動部
7 搬送装置
8 撮像領域
9 検査エリア
10 動作経路
11 回転軸
12 回転方向
図1
図2
図3
図4