IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ株式会社の特許一覧

特許7151472オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法
<>
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図1
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図2
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図3
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図4
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図5
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図6
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図7
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図8
  • 特許-オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】オーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
H04R3/00 101Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018244328
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2020107988
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五藤 三貴
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116861(WO,A1)
【文献】特開2017-059877(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164380(WO,A1)
【文献】特表2015-506157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカに出力するオーディオ信号の電圧と電流とから、前記スピーカのインピーダンスを算出するインピーダンス算出部と、
前記インピーダンスを用いて、前記オーディオ信号の抑圧値を設定する抑圧値設定部と、
前記インピーダンスが切り替え用閾値以上であれば前記電圧を用いたレベル検出を行い、前記インピーダンスが前記切り替え用閾値未満であれば前記電流を用いたレベル検出を行うレベル検出部と、
前記レベル検出部で検出した検出信号のレベルと前記抑圧値とを用いて、前記オーディオ信号のレベル制御を行うレベル制御部と、
を備える、オーディオ信号制御回路。
【請求項2】
前記抑圧値設定部は、
前記スピーカの定格で定義されているインピーダンスよりも高い特定インピーダンス未満の場合に、前記インピーダンスが大きくなるほど前記抑圧値が小さくなるように設定する、
請求項1に記載のオーディオ信号制御回路。
【請求項3】
前記レベル検出部は、
前記電圧を電流に変換する変換部を備え、
前記変換部にて前記電圧から変換された電流を用いて、前記電圧を用いたレベル検出を実行する、
請求項1または請求項2に記載のオーディオ信号制御回路。
【請求項4】
前記電流の平均値を算出する電流平均値算出部と、
前記電圧の平均値を算出する電圧平均値算出部と、を備え、
前記インピーダンス算出部は、前記電流の平均値と前記電圧の平均値とを用いて、前記インピーダンスを算出し、
前記レベル検出部は、前記電圧の平均値を用いて、前記電圧を用いたレベル検出を行い、前記電流の平均値を用いて、前記電流を用いたレベル検出を行う、
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のオーディオ信号制御回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のオーディオ信号制御回路の各構成と、
前記レベル制御部の後段に接続されたアンプと、
前記アンプの後段に接続された前記スピーカと、を備え、
前記スピーカは、ハイインピーダンススピーカである、
音響システム。
【請求項6】
スピーカに出力するオーディオ信号の電圧と電流とから、前記スピーカのインピーダンスを算出し、
前記インピーダンスを用いて、前記オーディオ信号の抑圧値を設定し、
前記インピーダンスが切り替え用閾値以上であれば前記電圧を用いたレベル検出を行い、
前記インピーダンスが前記切り替え用閾値未満であれば前記電流を用いたレベル検出を行い、
前記レベル検出した信号のレベルと前記抑圧値とを用いて、前記オーディオ信号のレベル制御を行う、
オーディオ信号制御方法。
【請求項7】
前記スピーカの定格で定義されているインピーダンスよりも高い特定インピーダンス未満の場合に、前記インピーダンスが大きくなるほど前記抑圧値が小さくなるように設定する、
請求項6に記載のオーディオ信号制御方法。
【請求項8】
前記電圧を電流に変換し、
前記電圧から変換された電流を用いて、前記電圧を用いたレベル検出を実行する、
請求項6または請求項7に記載のオーディオ信号制御方法。
【請求項9】
前記電流の平均値を算出し、
前記電圧の平均値を算出し、
前記電流の平均値と前記電圧の平均値とを用いて、前記インピーダンスを算出し、
前記電圧の平均値を用いて、前記電圧を用いたレベル検出を行い、前記電流の平均値を用いて、前記電流を用いたレベル検出を行う、
請求項6乃至請求項8のいずれかに記載のオーディオ信号制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、アンプに出力するオーディオ信号の抑圧処理を行うオーディオ信号制御回路、音響システム、および、オーディオ信号制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に記載の音響パワー管理システムは、リミッタを備える。音響パワー管理システムは、リミッタの後段に接続されるDACの出力を検出する。
【0003】
音響パワー管理システムは、出力と閾値とを比較する。音響パワー管理システムは、出力と閾値との比較結果をリミッタにフィードバックする。リミッタは、この比較結果を用いて、オーディオ信号のパワーを制御して、増幅器に出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-199866号公報
【文献】特開2013-055676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の従来技術のようなシステムは、一般的に、電流によって出力を計測する。
【0006】
しかしながら、スピーカのインピーダンスが高い場合、検出される電流値は小さくなり、電流の検出精度は低下する。この場合、リミッタは、オーディオ信号を適正に抑圧できないことがあり、後段の増幅器(アンプ)を確実に保護することが難しくなる。
【0007】
そこで、この発明の一実施形態は、スピーカのインピーダンスに応じて、オーディオ信号を適正に抑圧できるオーディオ信号制御回路およびオーディオ信号制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
オーディオ信号制御回路は、スピーカに出力するオーディオ信号の電圧と電流とから、スピーカのインピーダンスを算出するインピーダンス算出部と、インピーダンスを用いて、オーディオ信号の抑圧値を設定する抑圧値設定部と、インピーダンスが切り替え用閾値以上であれば電圧を用いたレベル検出を行い、インピーダンスが切り替え用閾値未満であれば電流を用いたレベル検出を行うレベル検出部と、検出した検出信号のレベルと抑圧値とを用いてオーディオ信号のレベル制御を行うレベル制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
この発明の一実施形態は、スピーカのインピーダンスに応じて、オーディオ信号を適正に抑圧できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】音響システム1のハードウェア構成を示す図である。
図2】音響システム1の構成を示すブロック図である。
図3】オーディオ信号制御回路10の構成を示すブロック図である。
図4】インピーダンスZと抑圧値GRとの関係を示すグラフである。
図5】レベル検出部14の構成を示すブロック図である。
図6】オーディオ信号制御方法の第1の処理フローを示すフローチャートである。
図7】音響システム1Aの構成を示すブロック図である
図8】オーディオ信号制御回路10Aの構成を示すブロック図である。
図9】オーディオ信号制御方法の第2の処理フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(音響システム1のハードウェア構成)
図1は、音響システム1のハードウェア構成を示す図である。図1に示すように、音響システム1は、プロセッサ90、アンプ20、電流センサ30、電圧センサ40、および、スピーカSPを備える。プロセッサ90は、バス900、CPU91、DSP92、メモリ93、および、I/O94を備える。バス900は、CPU91、DSP92、メモリ93、および、I/O94を相互に接続する。
【0012】
メモリ93は、オーディオ信号制御回路10の各部の動作を行うためのプログラムを含む各種プログラムを記憶する。CPU91は、メモリ93に記憶された各種プログラムを実行することで、オーディオ信号制御回路10を実現する。また、メモリ93は、抑圧値設定部13で使われるインピーダンスに応じた抑圧値(リミッタテーブル)等を記憶する。メモリ93が、各種のプログラムやデータを予め記憶することに限らず、外部記憶装置やネットワークにつながれているサーバ等が、各種のプログラムやデータを記憶してもよい。この場合、CPU91は、サーバ等から各種のプログラムやデータを読み出す。
【0013】
アンプ20の入力端は、プロセッサ90に接続する。アンプ20は、スピーカSPの入力端にオーディオ信号を出力する。また、電流センサ30および電圧センサ40は、アンプ20からの出力信号を入力し、各センサは、検出した信号を、プロセッサ90のI/O94に出力する。
【0014】
(音響システム1の構成)
図2は、音響システム1の全体構成を示すブロック図である。図2に示すように、音響システム1は、音響機器2、および、スピーカSPを備える。音響機器2は、後段のスピーカSPに接続する。音響機器2は、オーディオ信号をスピーカSPに出力する。
【0015】
スピーカSPは、例えば、ハイインピーダンススピーカである。ハイインピーダンススピーカは、例えば、オーディオ信号の入力段にトランスを備える。ハイインピーダンススピーカのインピーダンスは、このトランスを制御することによって調整する。そして、ハイインピーダンススピーカのインピーダンスは、単体で、数十Ωから数百Ω程度である。このように、ハイインピーダンススピーカは、インピーダンスが高いことから、音響機器2との間の伝送ケーブルの長さに影響なく、所望の音質の音を再生できる。なお、ハイインピーダンススピーカの定格インピーダンス(定格の抵抗値)は、8Ω、および、8Ωよりも大きな特定の抵抗値であって動作を保証するインピーダンスである。
【0016】
また、音響システム1は、用途に応じて、1台のアンプに複数のスピーカを並列に接続することがある。この場合、接続するスピーカの合計電力量とアンプの定格出力との関係から、アンプに対するスピーカのインピーダンス値は、変動する。例えば、ハイインピーダンススピーカ単体を接続した場合のインピーダンス値に比べて、複数のスピーカを接続した場合のインピーダンス値は、低くなる。
【0017】
音響機器2は、オーディオ信号制御回路10、アンプ20、電流センサ30、および、電圧センサ40を備える。
【0018】
オーディオ信号制御回路10は、アンプ20に接続する。アンプ20は、スピーカSPに接続する。電流センサ30および電圧センサ40は、アンプ20の出力端、言い換えれば、スピーカSPの入力端に接続する。電流センサ30および電圧センサ40は、オーディオ信号制御回路10に接続する。
【0019】
概略的には、音響機器2の各部は、次の動作を行う。電流センサ30は、アンプ20が出力したオーディオ信号の電流を計測する。電流センサ30は、計測した電流isを、オーディオ信号制御回路10に出力(フィードバック)する。電圧センサ40は、アンプ20が出力したオーディオ信号の電圧を計測する。電圧センサ40は、計測した電圧vsを、オーディオ信号制御回路10に出力(フィードバック)する。
【0020】
オーディオ信号制御回路10は、電流isと電圧vsとから、スピーカSPのインピーダンスZを算出する。オーディオ信号制御回路10は、スピーカSPのインピーダンスZに基づいて、電流isを用いたレベル検出と、電圧vsを用いたレベル検出とを切り替える。
【0021】
これは、次の理由による。例えば、供給電力が一定の場合、スピーカSPへの出力負荷(電圧)を100Vに保証する。この場合、スピーカSPのインピーダンスZが大きくなるほど、電流isは、小さくなる。そして、電流センサ30の計測精度の問題から、例えば、電流isが1A未満になると、電流isの計測精度は、低くなる。一方、スピーカSPのインピーダンスZが大きくても、電圧vsの計測精度は、低くならない。また、インピーダンスが小さい場合には、電流isの計測精度は、低くならない。このため、インピーダンスが小さい場合には、電流isを用いることが好ましい。一方、インピーダンスが大きい場合には、電圧vsを用いることが好ましい。
【0022】
オーディオ信号制御回路10は、電流isを用いたレベル検出と、電圧vsを用いたレベル検出とを切り替えるための切り替え用閾値Zrを、予め記憶する。オーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZが切り替え用閾値Zr以上であれば、電圧vsを用いたレベル検出を行う。オーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZが切り替え用閾値Zr未満であれば、電流isを用いたレベル検出を行う。これにより、オーディオ信号制御回路10は、スピーカSPのインピーダンスZに依らず、アンプ20から出力されるオーディオ信号のレベルを精度良く検出できる。
【0023】
また、オーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZの大きさに応じた抑圧値GRを設定する。
【0024】
オーディオ信号制御回路10は、オーディオ信号のレベルと抑圧値GRとを用いて、オーディオ信号Saのレベルを調整して、アンプ20に出力する。オーディオ信号のレベルは、上述のように精度良く検出する。抑圧値GRは、インピーダンスZによって設定する。これにより、オーディオ信号制御回路10は、スピーカSPのインピーダンスZに応じて、オーディオ信号のレベルを適正に抑圧できる。したがって、過剰なレベルのオーディオ信号がアンプ20に入力されることは、抑制される。この結果、オーディオ信号制御回路10は、アンプ20の電気回路の各構成素子をより確実に保護できる。
【0025】
アンプ20は、オーディオ信号制御回路10でレベルを抑圧したオーディオ信号Sacを増幅して、スピーカSPに出力する。
【0026】
(オーディオ信号制御回路10の構成)
図3は、オーディオ信号制御回路10の構成を示すブロック図である。図3に示すように、オーディオ信号制御回路10は、レベル制御部11、インピーダンス算出部12、抑圧値設定部13、および、レベル検出部14を備える。
【0027】
インピーダンス算出部12は、電圧センサ40で計測した電圧vsを、電流センサ30で計測した電流isで除算することで、スピーカSPのインピーダンスZを算出する。インピーダンス算出部12は、算出されたインピーダンスZを、抑圧値設定部13に出力する。
【0028】
抑圧値設定部13は、インピーダンスZに基づいて、抑圧値GRを設定する。図4は、インピーダンスZと抑圧値GRとの関係を示すグラフである。図4において、縦軸は、抑圧値GRであり、横軸は、スピーカSPのインピーダンスZである。
【0029】
図4の実線に示すように、抑圧値GRは、インピーダンスZに応じて設定する。より具体的には、インピーダンスZが特定インピーダンスZth未満の範囲では、図4の実線に示すように、インピーダンスZが特定インピーダンスZthに近づくほど(インピーダンスZが大きくなるほど)、抑圧値GRは0[dB]に近づく。一方、図4の実線に示すように、インピーダンスZが特定インピーダンスZthから遠ざかるほど(インピーダンスZが小さくなるほど)、抑圧値GRは、絶対値の大きな負値となる。すなわち、インピーダンスZが特定インピーダンスZth未満の範囲では、インピーダンスZが大きくなるほど、抑圧値GRは小さくなる。例えば、図4に示すように、インピーダンスZが8Ω(=Zr)の場合の抑圧値GRは、インピーダンスZが2Ωの場合の抑圧値GRと比較して、0[dB]に近く、絶対値は小さい。したがって、インピーダンスZが8Ω(=Zr)の場合の抑圧値GRは、インピーダンスZが2Ωの場合の抑圧値GRと比較して小さくなる。
【0030】
スピーカSPのインピーダンスZが小さい場合、スピーカSPのインピーダンスZが大きい場合と比較して、スピーカSPに入力される電流値は、大きくなる。このため、スピーカSPのインピーダンスZが小さい場合、スピーカSPのインピーダンスZが大きい場合と比較して、抑圧値GRは、大きく設定することが好ましい。したがって、図4に示すように、インピーダンスZが大きくなるほど、抑圧値GRが小さくなることによって、抑圧値設定部13は、適正な抑圧値GRを設定できる。抑圧値設定部13は、設定した抑圧値GRを、レベル制御部11に出力する。
【0031】
なお、抑圧値設定部13は、インピーダンスZが特定インピーダンスZth以上の場合、抑圧値GRを一定(例えば、0dB)に設定する。インピーダンスZが特定インピーダンスZth以上の場合、スピーカSPに入力される電流値は、極小さくなる。このため、オーディオ信号の抑圧を殆ど行わなくても、アンプ20に過剰なレベルのオーディオ信号が入力されることは無い。
【0032】
逆に、インピーダンスZが特定インピーダンスZth以上の場合にオーディオ信号の抑圧を行うと、オーディオ信号のレベルは、低くなりすぎる。このようなオーディオ信号のレベルの過剰な低下は、音質の低下の要因になる。したがって、インピーダンスZが特定インピーダンスZth以上の場合には、オーディオ信号の抑圧は、行わないことが好ましい。
【0033】
なお、特定インピーダンスZthは、定格インピーダンスの最低値である8Ω(=Zr)よりも大きな特定値であり、例えば、80Ω等である。特定インピーダンスZthは、8Ωよりも大きければ、80Ωに限るものではなく、例えば、アンプ20やスピーカSPの仕様等に応じて設定する。
【0034】
図5は、レベル検出部14の構成を示すブロック図である。図5に示すように、レベル検出部14は、変換部141、選択部142、および、積算検波部143を備える。
【0035】
変換部141は、電圧vsを、電流値への変換用の抵抗値で除算することによって、電流ivsを算出する。変換部141は、電圧vsから変換された電流ivsを、選択部142に出力する。なお、変換用の抵抗値は、例えば、定格インピーダンスの最低値の8Ωである。
【0036】
選択部142は、インピーダンスZが切り替え用閾値Zr(抵抗値)未満であれば、電流isを選択して、積算検波部143に出力する。選択部142は、例えば、インピーダンスZを、インピーダンス算出部12の算出結果から得ることができる。インピーダンスZが切り替え用閾値Zr以上であれば、選択部142は、電圧vsから変換された電流ivsを選択して、積算検波部143に出力する。
【0037】
切り替え用閾値Zrは、例えば、ハイインピーダンススピーカの定格インピーダンスの最低値の8Ωである。インピーダンスZが8Ω以上の場合、仕様上、スピーカSPは、ハイインピーダンススピーカとしてみなせる。
【0038】
上述のように、供給電力が一定の場合、スピーカSPへの出力負荷(電圧)を100Vに保証すると、スピーカSPのインピーダンスZが大きくなるほど、電流isは、小さくなる。そして、電流センサ30の計測精度の問題から、例えば、電流isが1A未満になると、電流isの計測精度は、低くなる。一方、スピーカSPのインピーダンスZが大きくても、電圧vsの計測精度は、低くならない。
【0039】
具体的には、例えば、インピーダンスZが8Ω以上では、電流isは小さくなる。そして、電流isは、インピーダンスZが大きくなるほど、より小さくなる。このため、インピーダンスZが8Ω以上では、電流isを用いたレベル検出の精度は、低くなり、電圧vsを用いたレベル検出の方が、高精度になる。
【0040】
このため、ハイインピーダンススピーカの定格インピーダンスの最低値の8Ωは、切り替え用閾値Zrである。そして、レベル検出部14は、インピーダンスZが切り替え用の閾値Zr以上であれば、電流isを用いたレベル検出から、電圧vsを用いたレベル検出に切り替える。これにより、レベル検出部14は、オーディオ信号のレベルを高精度に検出できる。
【0041】
そして、インピーダンスZが8Ω以上の場合において、このようにレベルが高精度に検出されたオーディオ信号に対して、レベル制御部11は、上述のようにインピーダンスZに応じた抑圧値GRを用いる。これにより、インピーダンスZが8Ω以上の場合であっても、レベル制御部11は、オーディオ信号を適正に抑圧できる。
【0042】
積算検波部143は、電流isが入力されれば、電流isを積算検波することによってレベル検出を行う。積算検波部143は、レベル検出された検出信号idを出力する。積算検波部143は、電圧vsから変換された電流ivsが入力されれば、この電流ivsを積算検波することによってレベル検出を行う。積算検波部143は、レベル検出された検出信号idを出力する。検出信号idのレベルは、電流is、または、電圧vsから変換された電流ivsの強度(振幅)に比例して大きくなる。積算検波部143は、検出信号idを、レベル制御部11に出力する。
【0043】
なお、変換部141は、インピーダンス算出部12で算出されたインピーダンスZを、変換用の抵抗値に用いることも可能である。しかしながら、変換用の抵抗値は、定格インピーダンスの最低値の8Ωであるとよい。
【0044】
上述のように、スピーカSPの定格インピーダンス(定格として定義されているインピーダンス)の最低値は8Ωである。このため、スピーカSPのインピーダンスは、通常、8Ωよりも大きなことが多い。この場合、インピーダンス算出部12で算出されたインピーダンスZを変換用の抵抗値に用いると、電流ivsの値は、定格インピーダンスの最低値の8Ωを変換用の抵抗値に用いる場合よりも、小さくなる。したがって、インピーダンス算出部12で算出されたインピーダンスZを変換用の抵抗値に用いると、レベル検出の感度は低くなってしまう。逆に、定格インピーダンスの最低値の8Ωを変換用の抵抗値に用いると、レベル検出の感度は向上する。よって、変換用の抵抗値は、定格インピーダンスの最低値の8Ωであるとよい。
【0045】
レベル制御部11は、オーディオ信号Sa、検出信号id、および、抑圧値GRを入力する。レベル制御部11は、所謂、コンプレッサやリミッタである。レベル制御部11は、検出信号idのレベルが抑圧用の閾値以上であるか否かを検出する。レベル制御部11は、検出信号idのレベルが抑圧用の閾値以上であれば、抑圧値GRを用いてオーディオ信号Saのレベルを抑圧する。レベル制御部11は、抑圧後のオーディオ信号Sacを、アンプ20に出力する。
【0046】
そして、上述のように、インピーダンスZが8Ω以上であって特定インピーダンスZth未満の場合に、抑圧値GRは、インピーダンスZの大きさに応じて設定される。これにより、オーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZに応じた抑圧値GRを用いて、オーディオ信号を抑圧できる。したがって、オーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZに応じて、アンプ20をより確実に保護できる。
【0047】
また、上述のように、オーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZが大きくても、オーディオ信号のレベルを高精度に検出できる。したがって、オーディオ信号制御回路10は、オーディオ信号Saのレベルを高精度に抑圧できる。これにより、オーディオ信号制御回路10は、アンプ20をより確実に保護できる。
【0048】
また、インピーダンスZが特定インピーダンスZth以上の場合には、電流は特に小さくなる。したがって、オーディオ信号を抑圧しなくても、アンプ20の破損は、生じ難い。一方、電流が小さいため、抑圧値GRが小さくても、オーディオ信号のレベルは、過剰に低下する。したがって、特定インピーダンスZth以上の場合に抑圧値GRを”0”に設定することで、オーディオ信号制御回路10は、オーディオ信号の過剰な抑圧を抑制できる。
【0049】
また、インピーダンスZが8Ω未満の場合には、抑圧値GRは、インピーダンスZが小さくなるほど大きくなる。これにより、過剰なレベルのオーディオ信号がアンプ20に出力されることは、抑制でき、オーディオ信号制御回路10は、アンプ20をより確実に保護できる。
【0050】
(オーディオ信号制御方法の第1の処理)
図6は、オーディオ信号制御方法の第1の処理フローを示すフローチャートである。なお、図6の各処理の具体的な説明は、上述の構成の説明と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0051】
図6に示すように、演算装置は、スピーカSPに入力されるオーディオ信号の電流isおよび電圧vsから、スピーカSPのインピーダンスZを算出する(S11)。
【0052】
演算装置は、インピーダンスZが切り替え用閾値Zr以上であれば(S12:YES)、電圧vsを用いたレベル検出(電圧vsから変換された電流ivsを用いたレベル検出)を行う(S13)。演算装置は、インピーダンスZが切り替え用閾値Zr未満であれば(S12:NO)、電流isを用いたレベル検出を行う(S14)。
【0053】
また、演算装置は、レベル検出とは別の処理として、インピーダンスZに応じた抑圧値GRを設定する(S15)。例えば、演算装置は、レベル検出と抑圧値GRの設定とを並行に行う。
【0054】
演算装置は、ステップS13またはステップS14で行った検出信号idのレベルと、ステップS15で行った抑圧値GRとの2つの結果を用いて、オーディオ信号の抑圧処理を行う(S16)。
【0055】
(音響システム1Aの構成)
図7は、音響システム1Aの構成を示すブロック図である。音響システム1Aは、上述の音響システム1に対して、複数のスピーカ、例えば、m(mは2以上の整数)個のスピーカSP1、スピーカSP2、・・・、スピーカSPmを備える点で異なる。音響システム1Aの他の構成は、音響システム1と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0056】
図7に示すように、スピーカSP1、スピーカSP2、・・・、スピーカSPmは、アンプ20の出力端に対して、並列に接続する。電流センサ30は、アンプ20の出力端の電流isを計測する。電圧センサ40は、アンプ20の出力端の電圧vsを計測する。アンプ20の出力端は、言い換えれば、並列接続されるスピーカSP1、スピーカSP2、・・・、スピーカSPmからなるスピーカシステムの入力端である。
【0057】
このような構成では、並列接続されるスピーカの個数によって、スピーカシステムのインピーダンスZは、変化する。しかしながら、上述の構成を用いることによって、インピーダンスZが変化しても、音響機器2のオーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZに応じて、オーディオ信号のレベルを高精度に検出できる。また、オーディオ信号制御回路10は、インピーダンスZに応じた抑圧値GRを設定できる。これにより、スピーカシステムの態様に応じて、オーディオ信号を適正なレベルに抑圧でき、アンプ20をより確実に保護できる。
【0058】
(オーディオ信号制御回路10Aの構成)
図8は、オーディオ信号制御回路10Aの構成を示すブロック図である。図8に示すように、オーディオ信号制御回路10Aは、オーディオ信号制御回路10に対して、電流平均値算出部151、および、電圧平均値算出部152を備える点で異なる。オーディオ信号制御回路10Aの他の構成は、オーディオ信号制御回路10と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0059】
電流平均値算出部151は、入力された電流isの二乗平均値を算出する。この際、二乗平均値は、移動平均値である。電流平均値算出部151は、電流isの二乗平均値を、インピーダンス算出部12およびレベル検出部14に出力する。
【0060】
電圧平均値算出部152は、入力された電圧vsの二乗平均値を算出する。この際、二乗平均値は、移動平均値である。電圧平均値算出部152は、電圧vsの二乗平均値を、インピーダンス算出部12およびレベル検出部14に出力する。
【0061】
このような構成によって、電流平均値算出部151は、電流isに重畳するノイズの影響を抑圧できる。また、電圧平均値算出部152は、電圧vsに重畳するノイズの影響を抑圧できる。
【0062】
インピーダンス算出部12は、電圧vsの二乗平均値を、電流isの二乗平均値で除算することによって、インピーダンスZを算出する。これにより、インピーダンス算出部12は、インピーダンスZを高精度に算出できる。
【0063】
レベル検出部14は、電圧vsの二乗平均値または電流isの二乗平均値を用いることで、オーディオ信号のレベルを高精度に検出できる。
【0064】
オーディオ信号は、レベルがクリップする等によって、正弦波の波形でなく、略方形波等になることもある。しかしながら、このような構成によって、インピーダンス算出部12は、このような波形のオーディオ信号のインピーダンスZを高精度に算出できる。同様に、レベル検出部14は、オーディオ信号のレベルを高精度に検出できる。
【0065】
(オーディオ信号制御方法の第2の処理)
図8の構成に対して、オーディオ信号制御方法は、図9に示すようなフローとなる。図9は、オーディオ信号制御方法の第2の処理フローを示すフローチャートである。
【0066】
図9に示すように、オーディオ信号制御方法の第2の処理は、図6に示した第1の処理に対して、電流平均値の算出処理および電圧平均値の算出処理を追加したものである。図9に示す第2の処理における他の処理は、図6に示す第1の処理と同様であり、同様の箇所の説明は省略する。
【0067】
演算装置は、電流isの二乗平均値を算出する(S111)。演算装置は、電圧vsの二乗平均値を算出する(S121)。演算装置は、電圧vsの二乗平均値を電流isの二乗平均値で除算することによって、インピーダンスZを算出する(S11)。以下、演算装置は、ステップS12からステップS16の処理を実行することによって、オーディオ信号を適正なレベルに抑圧する。
【0068】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1、1A:音響システム
2:音響機器
10、10A:オーディオ信号制御回路
11:レベル制御部
12:インピーダンス算出部
13:抑圧値設定部
14:レベル検出部
20:アンプ
30:電流センサ
40:電圧センサ
90:プロセッサ
91:CPU
92:DSP
93:メモリ
95:I/O
141:変換部
142:選択部
143:積算検波部
151:電流平均値算出部
152:電圧平均値算出部
900:バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9