(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】光触媒塗装体
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20221004BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20221004BHJP
B01J 23/20 20060101ALI20221004BHJP
B01J 23/34 20060101ALI20221004BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20221004BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221004BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20221004BHJP
C09D 7/48 20180101ALI20221004BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J23/10 M
B01J23/20 M
B01J23/34 M
B01J23/745 M
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/48
(21)【出願番号】P 2019010990
(22)【出願日】2019-01-25
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2018067528
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】志知 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽子
(72)【発明者】
【氏名】下村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】片岡 恭子
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-116461(JP,A)
【文献】特開2004-001400(JP,A)
【文献】特開2005-021825(JP,A)
【文献】特開2011-056449(JP,A)
【文献】特開2010-111574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に、有機樹脂を含む第1層と、当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層とを備えてなり、
前記第1層が、酸化セリウム(CeO
2)をさらに含んでなり、
前記第2層が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下を有するものである、光触媒塗装体。
【請求項2】
前記第2層が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として10nmol/L/min以上23nmol/L/min以下を有するものである、請求項1に記載の光触媒塗装体。
【請求項3】
前記有機樹脂が、Siを含まないか、または含む場合にはSi濃度が2wt%未満の樹脂である、請求項1または2に記載の光触媒塗装体。
【請求項4】
前記第1層における前記酸化セリウムの添加量が、前記有機樹脂の固形分に対し、0.3重量%~10重量%である、請求項1~3に記載の光触媒塗装体。
【請求項5】
前記第1層が、無機顔料または無機粒子をさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の光触媒塗装体。
【請求項6】
前記光触媒が、酸化チタンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の光触媒塗装体。
【請求項7】
有機樹脂と、酸化セリウムとを含んでなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の光触媒塗装体を製造するための、コーティング組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等の外装用途に適した光触媒塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒層を基材の上に設けるにあたり、基材との密着性や光触媒による劣化を防ぐために、中間層を設けることが行われている。例えば、特開2001-259432号公報(特許文献1)には、光触媒による分解され難い材質であるポリシロキサンやシリコーン樹脂を中間層に用いることが記載されている。
【0003】
一方で、上記のポリシロキサンやシリコーン樹脂は汎用性が低く高価であることや、製造工程を簡素化してコストを下げるために、中間層を省略する技術も提案されている。例えば、特開2008-264747号公報(特許文献2)には、光触媒層中の光触媒濃度を1~20%程度と比較的低くすることで、中間層を設けることなく有機基材に直接光触媒層を形成可能な光触媒コーティング液および塗装体が開示されている。光触媒濃度を下げれば光触媒活性は低くなるが、このような活性の低下を防ぐために特許文献2は、光触媒層を主として粒子成分とすることで、有害ガスの透過性を高め、光触媒粒子への接触機会を上げて、ガス分解性を確保している。
【0004】
さらに、塗料の技術分野にあっては、塗膜の耐候性を高める、すなわち劣化防止のために、紫外線吸収剤を添加することが広く行われている。紫外線吸収剤としては、有機系および無機系の材料があり、無機系の紫外線吸収剤としては、酸化セリウムが知られている。例えば、特許文献1の段落0052、0053に例示がされているが、当該特許文献において酸化セリウムを実際に用いた実施例の記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-259432号公報
【文献】特開2008-264747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、今般、従来紫外線吸収剤として知られていた酸化セリウムが、それが有する紫外線吸収作用では説明できない現象として、光触媒塗装体の耐候性を向上させるとの知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。
【0007】
したがって、本発明は、耐候性に優れた光触媒塗装体の提供をその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明による光触媒塗装体は、
基材と、前記基材の表面に、有機樹脂を含む第1層と、当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層とを備えてなり、
前記第1層が、酸化セリウム(CeO2)をさらに含んでなり、
前記第2層が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる光触媒活性値として5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明による光触媒塗装体
本発明による光触媒塗装体は、基材の表面に、有機樹脂を含む第1層と、当該第1層に接して設けられた光触媒を含む第2層とを備えてなる基本構成を有し、第1層が酸化セリウム(CeO2)をさらに含んでなり、かつ記第2層の光触媒活性が、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる値で5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下、好ましくは5nmol/L/min以上23nmol/L/min以下と比較的高い活性を備えるものである。本発明による光触媒塗装体は、このような構成を備えることで、長期間にわたり光触媒活性を維持しながら、優れた耐候性を示す。具体的には、本発明による光触媒塗装体は、長期間にわたり、光触媒層が安定に基材に密着し、剥離したりせず、また変退色する等の劣化も生じ難いとの効果を備える。したがって、例えば、建築物等の外装用途に好ましく用いられる。
【0010】
本発明にあっては、酸化セリウムの存在が主にこの優れた耐候性の発現を生じさせているものと考えられる。酸化セリウムは、紫外線吸収作用を有するものとして公知であるが、本発明による優れた耐候性は、酸化セリウムが有する紫外線吸収作用では説明できない現象である。それは、紫外線吸収剤として酸化セリウムと同程度である従来公知の紫外線吸収剤によっては、本発明によるような顕著な耐候性の改善が見られなかった事実により明らかにされる。このような酸化セリウムの作用効果は、当業者にとり意外なものであったと言える。
【0011】
基材
本発明に用いる基材は、その上に有機樹脂を含む第1層が形成可能な材料であれば無機材料、有機材料を問わず種々の材料であってよく、その形状も限定されない。材料の観点からみた基材の好ましい例としては、金属、セラミック、ガラス、プラスチック、ゴム、石、セメント、コンクリ-ト、繊維、布帛、木、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの表面に少なくとも一層の被膜を有するものが挙げられる。用途の観点からみた基材の好ましい例としては、建材、建物外装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用遮音壁、鉄道用遮音壁、橋梁、ガードレ-ルの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、屋外用照明器具、台及び上記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等といった外装材全般が挙げられる。
【0012】
有機樹脂を含む第1層
本発明において、有機樹脂を含む第1層は、基材と光触媒層である第2層との間に設けられ、光触媒による基材の劣化を防止する保護層としての機能を有するものである。また、付随的に、基材表面を意匠的に修飾するものであってもよい。
【0013】
本発明において、第1層を構成する有機樹脂は、基材との密着性が確保され、それに接して光触媒層を設けることができるものである限り特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂、シリコーン、アクリルシリコーン、酢酸ビニル、酢酸ビニルアクリル、アクリルウレタン、アクリル、エポキシ、塩化ビニル酢酸ビニル、塩化ビニリデン、SBR、アルキド、メラミン、ポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0014】
さらに、本発明の別の態様によれば、有機樹脂は、水分散体、エマルション、ディスパージョン等の組成物の形態で基材に適用されて第1層とされてもよい。したがって、本発明において、有機樹脂を含む第1層の形成方法は特に限定されないが、有機樹脂を含む塗料またはコーティング組成物を適宜基材に塗布することで形成されてよい。また、有機樹脂を溶媒に分散せた分散体を形成し、それを基材に適用してもよい。
【0015】
本発明の一つの態様によれば、第1層の有機樹脂を、必ずしも、分解され難い材質であるポリシロキサンやシリコーン樹脂などシリコーン系の樹脂で構成しなくともよいとの利点が得られる。本発明にあっては、シリコーン系の樹脂の利用を排除するものではないが、本発明の一つの態様によれば、Siを含まないか、含むとしても含有量が2重量%未満の樹脂を利用することができ、したがって、広範な樹脂の利用が可能であって汎用性の極めて高い技術である。
【0016】
本発明において、有機樹脂を含む第1層は、酸化セリウムを含んでなる。酸化セリウムは、有機樹脂を含む第1層に添加可能である限り、その形態は特に限定されないが、好ましくは、水に分散されたゾルの形態で上記した有機樹脂の組成物に添加される。
【0017】
酸化セリウムの第1層への添加量は、その添加の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、樹脂固形分に対して0.3重量%~10重量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましくは0.3重量%~3重量%の範囲で添加される。
【0018】
本発明の一つの態様によれば、第1層は無機顔料、無機粒子を含むことが出来る。無機顔料は体質顔料として、または着色顔料として添加される。また、無機粒子は、凹凸表面形成するため、あるいは光沢制御のため、あるいは充填剤として添加され、例えば珪砂を用いることができる。
【0019】
本発明において第1層の膜厚は特に限定されるものでは無いが、好ましくは1μm~200μm、より好ましくは5μm~100μmである。
【0020】
本発明において第1層の形成方法は、基材に安定した層を形成可能である限り特に限定されないが、例えば、有機樹脂と酸化セリウムを含むコーティング組成物を用意し、これを基材に適用して固化、乾燥させることにより形成されてよい。コーティング組成物の適用方法として、適宜選択されてよく、例えば、ローラー、スプレー、ロールコーター、フローコーター、ディップコート、流し塗り、スクリーン印刷、電着、蒸着等の方法を利用できる。
【0021】
光触媒を含む第2層
本発明において、第2層は光触媒層であって、既に公知の光触媒層であってよいが、その活性は、JIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる値で5nmol/L/min以上であると十分な活性を有し、実用的な防汚性を有し、10nmol/L/min以上であるとさらに高い防汚性を備えるものである。
【0022】
本発明において、第2層を構成する光触媒は、光触媒として使用可能なものであれば限定されないが、酸化チタンが好ましく用いられる。本発明において、酸化チタンは粉末状、ゾル状、溶液状など様々な形態で入手可能であるが、光触媒活性を示すものであれば、いずれの形態でも使用可能である。本発明の好ましい態様によれば、光触媒粒子が10nm以上100nm以下の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。この範囲内であると、耐候性、有害ガス分解性、および所望の各種被膜特性(紫外線吸収性、透明性、膜強度等)が効率良く発揮される。また、ゾル状で市販されている光触媒を用い、粒子径を30nm以下、好ましくは20nm以下にすることによって、透明性が良好な光触媒層を得ることが可能である。
【0023】
本発明において、光触媒の粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も好ましいが、略円形や楕円形でも好ましく、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。
【0024】
本発明において第2層は、安定かつJIS R 1703-2:2014に規定されたメチレンブルー分解活性測定法にて定められる値で5nmol/L/min以上30nmol/L/min以下の活性の光触媒層が形成可能である限り特に限定されないが、例えば、光触媒を含むコーティング組成物を用意し、第1層の上に適用して、固化、乾燥させることにより形成されてよい。コーティング組成物の適用方法として、適宜選択されてよく、例えば、ローラー、スプレー、ロールコーター、フローコーター、ディップコート、流し塗り、スクリーン印刷、電着、蒸着等の方法を利用できる。
【0025】
第2層の膜厚は特に限定されるものでは無いが好ましくは0.1μm~3μm、より好ましくは0.5μm~1.5μmである。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、第2層は無機粒子を含む。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、ボロニア、マグネシア、カルシア、フェライト、無定型チタニア、ハフニア等の単一酸化物に加え、チタン酸バリウム、ケイ酸カルシウム等の複合酸化物が使用可能であり、シリカ粒子が好適に利用できる。これら無機酸化物は、水を分散媒とした水性コロイド、またはエチルアルコール、イソプロピルアルコールまたはエチレングリコールなどの親水性溶媒にコロイド状に分散させたオルガノゾルの形態が好ましく、特に、コロイダルシリカの利用が好ましい。無機粒子の粒径は、水性コロイドまたはオルガノゾルの形態とされたときの平均粒径が10nm以上40nm未満であれば好ましく、より好ましくは10nm以上30nm以下である。
【0027】
ここで、平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も好ましいが、略円形や楕円形でも好ましく、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。
【0028】
また、水溶性無機非晶質物質を含むことができ、その例としては、アルカリ珪酸塩、アルカリホウ珪酸塩、アルカリジルコン酸塩、およびアルカリリン酸塩等のリン酸金属塩からなる群から選択される一種以上を含んでなるものが挙げられる。これらの物質は水の存在により容易に化学吸着水層を形成し、高度かつ長期的にわたって親水性を呈すことができる。これらの中でもアルカリ珪酸塩が好ましく、より好ましくは、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、珪酸アンモニウムの少なくとも1つ以上が挙げられる。一般に接着性は珪酸ナトリウム、珪酸カリウムの順に強く、耐水性は珪酸アンモニウム、珪酸リチウムの順に強いと考えられるが、被膜性、膜硬度、耐水性等を考慮すると珪酸リチウムを含むのがより好ましい。
【0029】
また、その他の無機バインダーを含んでもよく、例えば、加水分解性シリコーン等が挙げられる。加水分解性シリコーンとは、アルコキシ基を有するオルガノシロキサンおよび/またはその部分加水分解縮合物の総称である。加水分解性シリコーンとしては、4官能シリコーン化合物がよく使用され、例えば、エチルシリケート40(オリゴマー、Rがエチル基)、エチルシリケート48(オリゴマー、Rがエチル基)メチルシリケート51(オリゴマー、Rがメチル基)(いずれもコルコート社製)の形で市販されている。
【0030】
本発明において、第2層およびコーティング組成物における光触媒粒子の含有量は、光触媒粒子、無機酸化物粒子の合計量100質量部に対して、一般的に1質量部以上50質量部未満であるが、光触媒活性や外観、耐久性等の性能を考慮して適宜選択することができる。
【実施例】
【0031】
本発明をさらに以下の実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
材料
光触媒塗装体の調製のために、以下の材料を用意した。
第1層用コーティング組成物のための材料として以下のものを用意した。
(1)樹脂
樹脂1 ケイ素含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して2質量%未満のシリコーン変性アクリル樹脂
樹脂2 ケイ素含有量が、シリコーン変性樹脂の固形分に対して約30質量%のシリコーン変性アクリル樹脂
樹脂3 シリコーン成分を含まないアクリル樹脂
(2)金属酸化物
下記の種々の酸化物の水性ゾルまたは粉体を用いた。
1.酸化セリウムCeO2
2.酸化セリウム以外の金属酸化物
2-1.紫外線の中波長から長波長の波長域に吸収が見られる金属酸化物
酸化鉄Fe2O3
酸化マンガンMnO2
酸化ニオブNb2O5
2-2.ランタノイド系金属酸化物
酸化ランタンLa2O3
酸化ネオジムNd2O3
2-3.一般的な金属酸化物
酸化アルミニウムAl2O3
酸化ジルコニウムZrO2
(3)分散媒:イオン交換水
(4)顔料:
鉄・マンガン複合酸化物(大日精化社製、商品名:MF-5533 Black)(樹脂1、2に使用)
酸化チタン(大日精化社製、商品名:MF-5765 White)(樹脂3に使用)
(5)紫外線吸収剤:ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(UVA)
(6)造膜助剤:テキサノール(KHネオケム社製、商品名:キョーワノールM)
(7)増粘剤:
増粘剤1:ヘクトライト
増粘剤2:アルカリ膨潤型粘性調整剤
(8)硬化剤:加水分解性シリコーン化合物(樹脂2に使用)
(9)光安定剤:ヒンダートアミン系光安定剤
【0033】
第2層用コーティング組成物のための材料として以下のものを用意した。
(1)光触媒
酸化チタン水分散体(アナターゼ型、粒径:レーザ回折・散乱法(JIS Z 8825:2013)によりX90=72.5nm、塩基性)
(2)バインダー
水分散型コロイダルシリカ(日産化学工業社製、商品名:スノーテックスS、固形分含有率 30%)
(3)分散媒:イオン交換水
(4)添加剤:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤
【0034】
第1層用コーティング組成物の調製
表1に記載の組成となるよう、(1)樹脂と、(2)金属酸化物と、(3)分散媒と、(4)~(9)の種々添加剤とを適宜混合して、第1層用コーティング組成物を調製した。ここで、表1における金属酸化物の濃度は、樹脂固形分に対する固形分濃度の割合を意味する。その他の添加剤の濃度は、塗料中の有効成分の濃度を意味する。また、増粘剤2は最後に添加し、粘度が500~1000mPa・sになる量とした(約0.5~3.0質量%)。粘度は、塗料温度25℃、B型粘度計M3ローター60rpmにて測定した。
【表1】
【0035】
第2層用コーティング組成物の調製
表2に記載の組成となるよう、(1)酸化チタン水分散体と、(2)水分散型コロイダルシリカと、(3)分散媒:イオン交換水と、(4)添加剤:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤とを混合して、光触媒コーティング液を得た。光触媒コーティング液中の光触媒およびバインダーの合計の固形分濃度は5.5質量%とした。ここで、固形分濃度とは、コーティング液を105~110℃で乾燥し恒量となったときの質量%を意味する。
【表2】
【0036】
基材の作製
アルミ板にエポキシ系シーラーを塗装し、常温乾燥させシーラー塗装体を得た。さらに、シーラー塗装体にアクリル系白色エナメルを塗装し、十分に乾燥させ基材を得た。
【0037】
光触媒塗装体試験体の作製
上で得た基材を板温度60℃に加熱し、その表面に第1層用コーティング組成物を、150±50g/m2の塗布量でエアスプレーにて塗装し、80℃で5分間乾燥して、第1層を基材上に形成した。
【0038】
次に、第1層を塗装した基材を板温度60℃に加熱し、第2層用コーティング組成物を、10±2.5g/m2の塗布量でエアスプレーにて塗装し、自然乾燥させて、第2層を形成した。こうして得た光触媒塗装体を試験体とした。
【0039】
光触媒塗装体の評価試験
上で得た光触媒塗装体を、以下の方法により評価した。
(1)光触媒活性評価試験
メチレンブルー分解活性測定法(JIS R 1703-2:2014)に準拠して評価した。
(2)耐候性評価試験
(2-1)粘着テープ試験法(JIS Z 0237:2009を参考に次の1~6の手順で評価をした )
1.試験体作製:塗装後、23±1℃、50±5%RHで24時間以上放置し、メタリングウェザーメーター(東洋精機社製)にて照射と降雨のサイクルを繰り返し、積算エネルギー162MJ/m2前後の試験体を評価した。
2.試験雰囲気:23±1℃、50±5%RHで以下の3および4の工程を実施した。
3.テープの圧着:2kgゴムローラーを10±0.5mm/secの速度で合計2往復
4.剥離速度:テープを180°で折り返し5.0±0.2mm/secで運転
5.測定値:テープ変位量の初めの30mmを無視し、その後の20mmの応力測定値を平均する
6.テープ密着率維持率の計算:メタリングウェザーメーター試験後の測定値が、試験前の測定値の何%であるかを計算する。なお、本評価試験によるテープ密着率維持率80%以上が、実用上、好ましい値である。
(2-2)光沢保持率
JIS Z8741により、光沢度計(VG2000 日本電色工業製)にて60°の光沢値を測定し、メタリングウェザーメーター試験後の測定値が、試験前の測定値の何%であるかを計算した。
試験体作製:塗装後、23±1℃、50±5%RHで24時間以上放置し、メタリングウェザーメーター(東洋精機社製)にて照射と降雨のサイクルを繰り返し、積算エネルギー90MJ/m2前後の試験体を評価した。
【0040】
評価結果
試験1
下記表3の第1層および第2層の組み合わせの塗装体を調製し、これらを試験体として上記耐候性評価試験を行った。その結果は、表3に示されるとおりであった。
【表3】
【0041】
表3の結果は、Si含有量が小さな(2重量%未満)の樹脂であっても、酸化セリウムを含有させることにより、Si含有量が比較的大きな(約30重量%)樹脂と同等の耐候性を得ることが出来ることを示している。
【0042】
試験2
下記表4の第1層および第2層の組み合わせの塗装体を調製し、これらを試験体として上記光触媒活性評価試験および耐候性評価試験を行った。その結果は、表4に示されるとおりであった。
【表4】
【0043】
表4の結果は、酸化セリウムの添加が、それを添加していない塗装体との対比において、耐候性の低下を有効に防いでいることを明確に示している。
【0044】
試験3
下記表5の第1層および第2層の組み合わせの塗装体を調製し、これらを試験体として上記耐候性評価試験を行った。その結果は、表5に示されるとおりであった。
【表5】
【0045】
表5の結果は、種々の金属酸化物にあっても、酸化セリウムのみが耐候性を顕著に向上させるものであることを示している。
【0046】
試験4
下記表6の第1層および第2層の組み合わせの塗装体を調製し、これらを試験体として上記耐候性評価試験を行った。その結果は、表6に示されるとおりであった。
【表6】
【0047】
表6の結果は、紫外線吸収剤や光安定剤を添加した場合でも、耐候性を向上させる作用を備えるものは酸化セリウムのみであることを示している。本試験において紫外線吸収剤の添加量は、酸化セリウムの紫外線吸収能と同等以上になる量としている。よって、酸化セリウムの耐候性を向上させた作用は、それが有する紫外線吸収効果によるものではないことが示唆される。